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特開2024-133274糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物
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  • 特開-糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物 図1
  • 特開-糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物 図2
  • 特開-糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物 図3
  • 特開-糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133274
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7028 20060101AFI20240920BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K31/7028
A61P1/16
A61P3/04
A61P3/10
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114315
(22)【出願日】2024-07-17
(62)【分割の表示】P 2020125394の分割
【原出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀 孝慶
(72)【発明者】
【氏名】北村 忠弘
(57)【要約】
【課題】本発明は、糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物を提供することを課題する。
【解決手段】αMGを生体に投与することによって、生体内においても血中グルカゴン濃度が上昇することを見出し、このαMGによるグルカゴン分泌促進作用を利用して糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断や治療ができることを見出し、本発明に到達した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
αMG(Methyl α-D-Glucoside)を含む、体重減少、インスリン抵抗性改善、耐糖能改
善および/または基礎代謝亢進のための剤。
【請求項2】
請求項1に記載の剤を含む、糖尿病、肥満および/または脂肪肝を治療するための医薬組成物。
【請求項3】
持続的に投与する、請求項2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本を含めた先進諸国における糖尿病患者の増加が深刻な問題となっている。これまでに、糖尿病の原因は、膵β細胞から分泌される血糖降下ホルモンであるインスリンの分泌不全やインスリンに対する抵抗性だけでなく、膵α細胞からのグルカゴン分泌過剰による内因性糖産生増加も関与することがわかっていたが、これまでにグルカゴン分泌のメカニズムは十分に解明されておらず、糖尿病の診断指標としては血糖値とインスリンの2つしかなかった。さらに、従来の糖負荷試験や食事負荷試験では、グルカゴン分泌異常を感度よく診断することが困難であった。
【0003】
膵α細胞におけるグルコースの取り込みはグルコース輸送体であるGLUT-1(glucose transporter-1)のみが担っていると考えられていた。しかし最近、本発明者らは、膵α細胞にはNa+と一緒にグルコースを細胞内に共輸送するSGLT-1(sodium/glucose cotransporter-1)が発現していることを発見した(非特許文献1)。また培養した膵α細胞株を用いたin vitro実験において、SGLT特異的基質であって非代謝性グルコースアナログであるαMG(Methyl α-D-Glucoside)が細胞内Ca2+濃度上昇を伴ってグルカゴン分泌を制御していることも併せて発見した(非特許文献1)。これらのことから、膵α細胞にはSGLT-1を介したNa+と基質(グルコース)の共輸送によるグルコース代謝非依存性の新たなグルカゴン分泌制御機構が存在する可能性が示唆された。しかしながら、生体内(in vivo)において膵α細胞のSGLT-1が内因性グルカゴン分泌に影響しているかは不明であった。
【0004】
また、現在の糖尿病薬は効果が限定的であり、治療不十分例が多数存在する。また、肥満症や脂肪肝については有効で安全な治療薬は未だ開発されておらず、食事療法に頼っているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Suga et al. Mol Metab., 19:1-12, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物を提供することを課題する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、αMGを生体に投与することによって、生体内においても血中グルカゴン濃度が上昇することを見出し、このαMGによるグルカゴン分泌促進作用を利用して糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断や治療ができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]αMG(Methyl α-D-Glucoside)を投与された生体に由来する検体中のグルカゴン
の量を測定することを含む、糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断のためのデータ取
得方法。
[2]前記検体が、血漿または血清である、[1]に記載の方法。
[3]前記測定が、酵素免疫測定法(EIA法)による測定である、[1]または[2]に
記載の方法。
[4]前記診断が、αMGを投与された生体に由来する検体中のグルカゴンの量が基準値よりも多い、又はαMGを投与された生体に由来する検体中のグルカゴンの量が、αMGを投与された健常者に由来する検体中のグルカゴンの量よりも多い場合に、糖尿病、肥満および/または脂肪肝であるという基準に基づく、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断用キットであって、αMG(Methyl α-D-Glucoside)を投与された生体に由来する検体中のグルカゴンの量を測定する試薬を含む
、キット。
[6]前記試薬が、抗グルカゴン抗体を含む、[5]に記載のキット。
[7]αMG(Methyl α-D-Glucoside)を含む、体重減少、インスリン抵抗性改善、耐糖
能改善および/または基礎代謝亢進のための剤。
[8][7]に記載の剤を含む、糖尿病、肥満および/または脂肪肝を治療するための医薬組成物。
[9]持続的に投与する、[8]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SGLT特異的基質であるαMGによるグルカゴン分泌促進作用を利用して、糖尿病、肥満および/または脂肪肝に対する新規診断マーカーおよび新規治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】普通食飼育マウスにおける、αMG投与後の血中グルカゴン濃度を測定した結果を示す。陰性対照としてPBS投与後の結果を示し、またαMG及びSGLT阻害剤(Phlorizin)を投与した結果を示す。
図2】高脂肪高ショ糖食飼育マウスにおける、αMG投与後の血中グルカゴン濃度(左図)、血糖値(中図)、肝糖新生(右図)を測定した結果を示す。いずれも陰性対照としてPBSを投与した。また、血中グルカゴン濃度および血糖値の測定においては、αMGを低濃度または高濃度で投与した。
図3】高脂肪高ショ糖食飼育マウスにおける、αMGの持続投与による、体重および食餌量の測定結果(左上図)、随時血糖値の測定結果(左下図)、インスリン抵抗性および耐糖能の指標とするための空腹時血糖値および食後血糖値の測定結果(右上図)、および脂肪肝の指標とするための肝臓のH&E染色結果の写真図を示す。いずれも陰性対照としてPBSを投与した。
図4】高脂肪高ショ糖食飼育マウスにおける、αMGの持続投与による、呼吸商(上図)およびエネルギー消費量(下図)の測定結果図を示す。いずれも陰性対照としてPBSを投与した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施態様は、αMG(Methyl α-D-Glucoside)を投与された生体に由来する
検体中のグルカゴンの量を測定することを含む、糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断のためのデータ取得方法である。
【0012】
本実施態様のデータ取得方法は、糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断を補助するためのものである。
【0013】
糖尿病は特に限定されないが、例えば1型糖尿病または2型糖尿病などが挙げられ、好ましくは2型糖尿病である。
肥満は特に限定されないが、例えばBMI(Body Mass Index)を指標としてBMIが25.0以
上である状態を指してもよく、体脂肪率を指標として体脂肪率が男性で20%以上、女性で25%以上である状態を指してもよい。
脂肪肝は特に限定されないが、肝臓全体の30%以上を脂肪組織が占めている状態のこと
を指してもよく、アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝のいずれでもよい。
【0014】
検体の由来動物は、ヒトやマウスなどのほ乳動物が好ましく、ヒトがより好ましい。
検体としては、体液が好ましく、血液がより好ましく、血漿または血清が特に好ましい。体液の採取や調整、保存は常法に従うことができる。
【0015】
本実施態様において、αMGを投与された生体は特に限定されないが、ヒトの成人の場合、例えば0.55~1.1Mの濃度でαMGを含む剤を、66~132g/60kg体重の量で投与された生体である。αMGの生体への投与から検体の採取までの時間は、5~10分間であることが好ましい。
【0016】
グルカゴンの量の測定は特に限定されることはないが、例えば酵素免疫測定法(EIA法
)や酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)といった免疫学的測定法により行ってもよく、
非特許文献1に記載するサンドイッチELISA法が例示できる。
【0017】
本発明において、糖尿病、肥満および/または脂肪肝を有するかの診断基準は特に限定されないが、例えば、αMGを投与された生体に由来する検体中のグルカゴンの量が基準値よりも多い、又はαMGを投与された生体に由来する検体中のグルカゴンの量が、αMGを投与された健常者に由来する検体中のグルカゴンの量よりも多い場合に、糖尿病、肥満および/または脂肪肝であるという診断基準であってもよい。
なお、基準値とは、当業者に既知の方法によって、健常者の測定値に基づき予め定められたカットオフ値であってもよく、例えば、カットオフ値は、健常者の測定値の平均値(mean)+3×標準偏差(S.D.)としてもよい。
また、本発明において、健常者とは、糖尿病、肥満および/または脂肪肝を伴う疾患を有していない者を意味する。
【0018】
本発明の他の実施態様は、糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断用キットであって、αMG(Methyl α-D-Glucoside)を投与された生体に由来する検体中のグルカゴンの量を測定する試薬を含む、キットである。
【0019】
本実施態様において、グルカゴンの量を測定する試薬は特に限定されないが、例えば本キットがEIA法やELISA法といった免疫学的測定法を用いるキットであれば、グルカゴンの量を測定する試薬は抗グルカゴン抗体を含むものであることが好ましい。これらの免疫学的測定法は従来法により行うことができ、反応温度や反応時間のほか、抗体や標識試薬、緩衝液、ブロッキング液等の試薬の種類や、それらの試薬の濃度、蛍光や発色の検出方法等は、いずれも常法に従うことができる。
【0020】
該キットは、糖尿病、肥満および/または脂肪肝の診断用のキットであるが、糖尿病、肥満および/または脂肪肝を有するか否かの診断基準に関しては、前述の本発明に係るデータ取得方法に記載した基準を用いることができる。
該キットは、さらに、前述の本発明に係るデータ取得方法に含まれるグルカゴンの量の測定方法を記載した説明書等を含めることもできる。
【0021】
本発明の他の実施態様は、αMGを含む、体重減少、インスリン抵抗性改善、耐糖能改善および/または基礎代謝亢進のための剤である。
【0022】
体重減少は、本実施形態に係る剤を投与する前と比較して、本実施形態に係る剤の投与後に体重が減少することである。
インスリン抵抗性改善は、インスリンが効きにくい状態を改善することであり、例えば、本実施形態に係る剤を投与する前と比較して、本実施形態に係る剤の投与後に空腹時血糖値が低くなることによって、インスリン抵抗性が改善されたと判断できる。
耐糖能改善は、食事などにより高くなった血糖値を正常値まで下げる機能の低下を改善することであり、例えば、本実施形態に係る剤を投与する前と比較して、本実施形態に係る剤の投与後に食後血糖値が低くなることによって、耐糖能が改善されたと判断できる。
基礎代謝亢進は、例えば、本実施形態に係る剤を投与する前と比較して、本実施形態に係る剤の投与後に呼吸商が低下することやエネルギー消費量が増加することによって、基礎代謝が更新したと判断できる。
【0023】
本剤中のαMG含有量は、本剤が体重減少、インスリン抵抗性改善、耐糖能改善および/または基礎代謝亢進を行うことが出来る限り特に限定されないが、本剤が液剤の場合は0.10~1.50Mが好ましく、0.55~1.30Mがより好ましく、1.00~1.20Mがより好ましく、特に好ましくは1.1Mである。
【0024】
本剤の生体への投与量は、本剤が体重減少、インスリン抵抗性改善、耐糖能改善および/または基礎代謝亢進を行うことが出来る限り特に限定されず、患者の年齢、性別、体重、症状、がんの種類などにより適宜選択される。例えば、成人であれば、1日あたり10~200g/60kg体重としてもよく、50~150g/60kg体重としてもよく、特に好ましくは1日あたり132g/60kg体重である。
【0025】
本剤の投与方法は、本剤が体重減少、インスリン抵抗性改善、耐糖能改善および/または基礎代謝亢進を行うことが出来る限り特に限定されず、経口投与でもよく、非経口投与でもよい。
【0026】
本剤は、投与方法に応じて適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合は、注射剤、液剤、懸濁剤等に製剤化することができる。
【0027】
本剤は、さらに他の剤や医薬等と併用してもよく、また他の治療法と併用してもよい。
【0028】
本発明の他の実施態様は前述のαMGを含む、体重減少、インスリン抵抗性改善、耐糖能改善および/または基礎代謝亢進のための剤を含む、糖尿病、肥満および/または脂肪肝を治療するための医薬組成物である。
【0029】
本医薬組成物中のαMGの含有量、本医薬組成物の生体への投与量、投与方法、剤形などは前述の剤の項にて記載した事項を援用できる。本医薬組成物は、さらに他の剤や医薬等と併用してもよく、また他の治療法と併用してもよい。
【0030】
本医薬組成物は、持続的に投与するものであってもよく、長期にわたり持続的に投与し続けることで糖尿病、肥満および/または脂肪肝の治療効果を高めることができる。
【実施例0031】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
<実施例1>
[SGLT特異的基質であるαMGはSGLTを介してマウスの血中グルカゴン濃度を上昇させる]
普通食飼育の14~17週齢のC57BL/6Jマウス(Charles River Laboratories社)に、1.1MのαMG(富士フィルム和光純薬)溶液10μl/g体重を腹腔注射した(n=10~14)。なお、
普通食飼育マウスは、クレア社から購入したCE-2を食餌として摂取させた。5分後、マウ
スの血液を採取し、当業者に既知のELISA法によって、血中グルカゴン濃度を測定した(Glucagon ELISA kit, Mercodia社、スウェーデン)。その結果、αMG投与マウスは、PBSを腹腔注射した対照マウスと比較して、血中グルカゴン濃度が上昇することを確認した。加えて、SGLT阻害剤(Phlorizin, Cayman Chemical Company社)を当業者に既知の方法で投与して前処置を行うことによって、αMG誘導性の内因性グルカゴン分泌が阻害され、対照マウス(PBS投与マウス)と同等のグルカゴン濃度まで低下することも確認できた(図1)。つまり、αMGはSGLTを介してマウスの血中グルカゴン濃度を上昇させることが示された。
【0033】
<実施例2>
[糖尿病モデルマウスにおいてαMGによるグルカゴン分泌がより強く誘導される]
本発明者らはこれまでに、高脂肪高ショ糖食飼育の22週齢のC57BL/6Jマウス(Charles River Laboratories社)や16週齢のdb/dbマウス(Charles River Laboratories社)とい
った糖尿病モデルマウスでは、対照マウスと比較して、膵α細胞におけるSGLT-1発現量が増加していることを見出した(非特許文献1)。なお、高脂肪高ショ糖食飼育マウスは、20%スクロースを含む高脂肪高ショ糖食(HFHSD)を食事として摂取させた。ここで、HFHSDは、タンパク質(17.2%)、脂肪(54.5%)及び炭水化物(28.3%)が配合されているものである(オリエンタル酵母工業株式会社)。そこで本発明者らは、非特許文献1に記載の結果から、糖尿病モデルマウスにおいて、αMG誘導性のグルカゴン分泌がより強く惹起されるかを確認した。
高脂肪高ショ糖食飼育のC57BL/6Jマウス(n=8~12)に対して0.55M(Low)および1.1M
(High)のαMG溶液10μl/g体重を腹腔注射した。10分後、マウスの血液を採取し、実施
例1と同様に血中グルカゴン濃度を測定し、また当業者に既知の方法により血糖値測定器(株式会社三和化学研究所)を用いて、経時的に血糖値を測定した(0、15、30、60、90
、120分後)。その結果、αMG投与マウスは、PBSを腹腔注射した対照マウスと比較して、αMGの投与量依存的に血中グルカゴン濃度および血糖値が上昇することが示され、特にαMGの高投与量群(図中、High αMGまたはαMG(high)で示す)においては、血中グルカゴン濃度および血糖値が顕著に上昇することが示された(図2の左図および中図)。
さらに、対照マウスとαMG投与マウス(n=3~5)に対して1.1MのαMG溶液10μl/g体重
を腹腔注射した。60分後、マウスの肝臓検体を採取し、当業者に既知の方法によって肝糖新生酵素(G6pc)のmRNA発現測定を行った。その結果、αMG溶液を腹腔注射したマウス
の肝臓において、対照マウスの肝臓と比較して、肝糖新生酵素(G6pc)のmRNAの発現上
昇が認められた(図2の右図)。
従って、αMGを投与した生体における内因性グルカゴン分泌の評価が、糖尿病の病態を把握するための新しい診断法として応用できることが示された。
【0034】
<実施例3>
[SGLT特異的基質(αMG)は糖尿病、肥満および脂肪肝の治療薬になりうる]
グルカゴンには肝糖新生を促進して一過性の血糖上昇作用がある一方で、食欲抑制、代謝亢進、脂肪分解を介した体重減少効果があることが知られている。そこで本発明者等は、αMGの生体への慢性的な投与による内因性グルカゴン分泌促進が、糖尿病、肥満および脂肪肝に対する改善効果を有するかを確認した。
高脂肪高ショ糖食飼育のC57BL/6Jマウス(n=8~9)に、1日3回、1.1MのαMG溶液10μl/g体重の腹腔注射を連日行い、当業者に既知の方法によって、食餌摂取量、体重および随時血糖値を経時的に観察した。その結果、αMG投与マウスは、PBSを腹腔注射した対照マウスと比較して、著明な食欲抑制(食餌摂取量の低下)および体重の減少(図3の左上図)、随時血糖値の低下(図3の左下図)が確認できた。また、それぞれのマウスにおいて、当業者に既知の方法によって、空腹時血糖値および食後血糖値を測定したところ、αMG投与マウスは、PBSを腹腔注射した対照マウスと比較して、空腹時血糖値および食後血糖値が低下しており、αMG投与によるインスリン抵抗性の改善および耐糖能の改善が確認できた(図3の右上図)。さらに、それぞれのマウスの肝臓を採取し、当業者に既知の方法であるH&E染色(ヘマトキシリンエオジン染色)を行った。その結果、αMG投与マウスは、PBSを腹腔注射した対照マウスと比較して、脂肪組織が減少しており、組織学的な脂肪肝の改善効果が確認できた(図3の右下図)。
さらに、呼吸代謝モニタリングシステム(Oxymax, Columbus Instruments)を用いて、当業者に既知の方法により、αMGの投与がエネルギー消費量へ与える影響を評価した。その結果、αMG投与マウスは、PBSを腹腔注射した対照マウスと比較して、呼吸商低下、お
よびエネルギー消費量の増加を示す結果が得られた(図4)。つまりαMG投与によって基礎代謝量が亢進することが示された。
以上の結果より、αMGの生体への慢性的な投与による内因性グルカゴン分泌促進が、糖尿病、肥満および脂肪肝に対する改善効果を有することを確認できた。
図1
図2
図3
図4