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  • 特開-加熱発泡シートおよび接着方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133305
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】加熱発泡シートおよび接着方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/29 20180101AFI20240920BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20240920BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09J7/29
C09J7/35
C09J163/00
C09J11/08
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114923
(22)【出願日】2024-07-18
(62)【分割の表示】P 2020138810の分割
【原出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】591225545
【氏名又は名称】ニッカン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】白岩 寛之
(57)【要約】
【課題】被着体間の隙間を適切に接着することが可能な加熱発泡シートの提供を目的とする。また、その加熱発泡シートを利用した接着方法の提供を目的とする。
【解決手段】加熱発泡シートは、シート状基材と、このシート状基材の片面または両面に設けられた発泡性接着層とを含む。さらに、発泡性接着層が、加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、発泡性接着層の最外表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材と、該シート状基材の片面または両面に設けられた発泡性接着層とを含む加熱発泡シートであって、
前記発泡性接着層が、前記加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、
前記発泡性接着層が、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、
前記発泡性接着層の最外表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上である、加熱発泡シート。
【請求項2】
前記シート状基材の表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上である、請求項1に記載の加熱発泡シート。
【請求項3】
前記シート状基材が、フィルム基材と、該フィルム基材の片面または両面に接着剤層を介して設けられた不織布層とを含む、請求項1または2に記載の加熱発泡シート。
【請求項4】
前記発泡性接着層の最外表面における静摩擦係数が、0.5以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項5】
前記硬化剤が、アミド系硬化剤を含み、
前記エポキシ樹脂の当量に対する前記硬化剤の当量の当量比が、0.8~1.2である、請求項1~4のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、エラストマーを含み、
前記エラストマーの含有量が、前記発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~30質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、Tgが100~120℃の範囲にある高軟化点エラストマーを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項8】
前記発泡剤が、有機系または無機系である、請求項1~7のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項9】
前記発泡剤が、熱膨張性マイクロカプセルを含み、
前記熱膨張性マイクロカプセルが、エポキシ樹脂、硬化剤および熱可塑性樹脂の中に分散している、請求項1~8のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項10】
前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が、前記発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~19質量%である、請求項9に記載の加熱発泡シート。
【請求項11】
前記発泡性接着層の発泡開始温度が、前記発泡性接着層の硬化反応における硬化活性温度以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項12】
前記発泡性接着層の硬化過程において、前記発泡性接着層の発泡開始温度から前記発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度までの温度範囲に、前記エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度がある、請求項1~11のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項13】
絶縁シート用である、請求項1~12のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項14】
第1の被着体および第2の被着体の間に配置され、両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、前記第1の被着体および第2の被着体を接着するために使用される、請求項1~13のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項15】
第1の被着体および第2の被着体の間に請求項1~13のいずれか1項に記載の加熱発泡シートを配置し、
両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、前記第1の被着体および第2の被着体を接着する接着方法。
【請求項16】
第1の被着体が、第2の被着体を収容する構造を有する、請求項15に記載の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱発泡シートに関する。また、本発明は、この加熱発泡シートを利用した接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着剤は、複数の被着体の間で硬化してそれらの被着体を接着することができ、種々の箇所に使用されている。
【0003】
被着体には、歪みを持つ物、表面が平滑でなく深い凹凸を有している物および多孔質な物が存在するが、液状の接着剤を使用することで、被着体間を充填して接着することが可能である。接着箇所によっては、接着剤を充填する隙間が非常に狭く、接着剤が入りにくいため、その隙間を接着剤で完全に充填することが困難な場合がある。このような場合、例えば、本来の必要量よりも大量の接着剤を使用して隙間を充填することができるが、不必要に使用した接着剤を取り除く作業が必要となり作業負荷が増える他、被着体や周辺の作業場を汚染するおそれがある。また、液状の接着剤が硬化前に流動してしまい、接着部分以外に流れ出てしまったりはみ出してしまったりする等の不具合もある。
【0004】
このように、液状の接着剤においては、塗布量および塗布箇所の正確な制御が困難であることにより、隙間への充填が不十分になりやすく、その結果、接着面積が減少し接着強度が低下する等、使用時の作業性に問題が多い。
【0005】
上述の問題を解決するため、常温において固体であるシート状接着剤を使用することが知られている(特許文献1~4)。シート状接着剤であれば、被着体の規定箇所へ規定量の接着剤を貼付することが可能であり、被着体や周辺の作業場の汚染をなくすこともできる。シート状接着剤では凹凸を有する物や歪みを持つ物への追従性が低いという問題があるが、プレス等で圧力をかけることで追従性を付与し確保することができる。この場合、加熱により溶融する接着剤を用いて追従性を高めることが知られている。熱硬化系樹脂を使用する場合、特にエポキシ接着剤が、加熱による溶融粘度の低下が大きくかつ耐熱性が高い点で優れており、一般に広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5695937号公報
【特許文献2】特許第6067967号公報
【特許文献3】特許第6220100号公報
【特許文献4】特開2019-203062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、パイプやダボ等、嵌合によって複数の部品が接続する被着体の場合には、シート状接着剤を使用して被着体間の隙間を完全に充填することは難しい。
【0008】
例えば、その隙間よりもシート状接着剤の厚さが厚い場合には、窮屈でシート状接着剤をその隙間に挿入できない。無理にシート状接着剤を挿入した場合には、接着剤に剥がれやシワが発生し、接着面の不均一が生じる可能性や、接着強度の低下およびバラツキが生じる可能性がある。一方、シート状接着剤を挿入しやすくするために、シート状接着剤を隙間より薄くした場合には、隙間を充填することができず、接着できないもしくは接着力が極めて小さいといった問題が生じやすい。
【0009】
また、上記のような問題は、嵌合によって複数の部品が接続する被着体の場合に限らず、被着体間の隙間を接着する場合に同様に起こり得る。
【0010】
よって、被着体間の隙間を適切に接着する方法が望まれる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、被着体間の隙間を適切に接着することが可能な加熱発泡シートの提供を目的とする。また、本発明は、上記加熱発泡シートを利用した接着方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、シート状接着剤に、加熱によって膨張(発泡)する接着層を持たせることにより、解決できた。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
<1>
シート状基材と、該シート状基材の片面または両面に設けられた発泡性接着層とを含む加熱発泡シートであって、
発泡性接着層が、加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、
発泡性接着層が、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、
発泡性接着層の最外表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上である、加熱発泡シート。
<2>
シート状基材の表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上である、<1>に記載の加熱発泡シート。
<3>
シート状基材が、フィルム基材と、該フィルム基材の片面または両面に接着剤層を介して設けられた不織布層とを含む、<1>または<2>に記載の加熱発泡シート。
<4>
発泡性接着層の最外表面における静摩擦係数が、0.5以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<5>
硬化剤が、アミド系硬化剤を含み、
エポキシ樹脂の当量に対する硬化剤の当量の当量比が、0.8~1.2である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<6>
熱可塑性樹脂が、エラストマーを含み、
エラストマーの含有量が、発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~30質量%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<7>
熱可塑性樹脂が、Tgが100~120℃の範囲にある高軟化点エラストマーを含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<8>
発泡剤が、有機系または無機系である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<9>
発泡剤が、熱膨張性マイクロカプセルを含み、
熱膨張性マイクロカプセルが、エポキシ樹脂、硬化剤および熱可塑性樹脂の中に分散している、<1>~<8>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<10>
熱膨張性マイクロカプセルの含有量が、発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~19質量%である、<9>に記載の加熱発泡シート。
<11>
発泡性接着層の発泡開始温度が、発泡性接着層の硬化反応における硬化活性温度以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<12>
発泡性接着層の硬化過程において、発泡性接着層の発泡開始温度から発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度までの温度範囲に、エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度がある、<1>~<11>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<13>
絶縁シート用である、<1>~<12>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<14>
第1の被着体および第2の被着体の間に配置され、両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、第1の被着体および第2の被着体を接着するために使用される、<1>~<13>のいずれか1つに記載の加熱発泡シート。
<15>
第1の被着体および第2の被着体の間に<1>~<13>のいずれか1つに記載の加熱発泡シートを配置し、
両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、第1の被着体および第2の被着体を接着する接着方法。
<16>
第1の被着体が、第2の被着体を収容する構造を有する、<15>に記載の接着方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の加熱発泡シートにより、被着体間の隙間を適切に接着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の加熱発泡シートの構成を示す概略断面図である。
図2】所定の発泡性接着層について、発泡開始温度、最低粘度温度および硬化活性温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<加熱発泡シート>
図1は、本発明の加熱発泡シート1の構成を示す概略断面図である。本発明の加熱発泡シート1は、シート状基材10と、この基材の片面または両面に設けられた発泡性接着層20とを含む。さらに、発泡性接着層20は、加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、発泡性接着層20の最外表面における算術平均粗さRa(以下、単に「表面粗さ」とも称する。)は、0.4μm以上である。
【0016】
本発明は、上記構成を有することにより、被着体間の隙間を適切に接着することが可能となる。
【0017】
本発明の加熱発泡シートは、加熱によって膨張(発泡)する発泡性接着層20を有するため、初期設計において被着体間の隙間よりも発泡性接着層の厚さを薄くすることが可能である。また、本発明の加熱発泡シートは、最外表面の表面粗さRaが0.4μm以上であることにより、当該表面と物体との接触が点接触となり、摩擦抵抗が減少する。したがって、加熱発泡シートが被着体間の隙間に挿入される等、加熱発泡シートを用いた接着作業中に加熱発泡シートが被着体表面に沿って滑り移動を伴う場合に、加熱発泡シートが被着体と接触する機会が減少し、かつ接触が生じても加熱発泡シートが受ける外力(摩擦抵抗)が減少するため、加熱発泡シート(特に、発泡性接着層)のシワやバラツキの発生を抑制することができ、作業性が向上する。そして、被着体の接着時には、加熱による膨張により、被着体間の隙間を充填する。このとき、発泡の開始とともに接着層の嵩体積が増加するが、発泡がピークを越えると、その嵩体積は減少に転じてしまい、充分な接着力が得られない場合がある。本発明では、硬化剤を使用して、発泡後、嵩体積が増大した適切なタイミングで樹脂を硬化させることにより、高い充填性を確保している。
【0018】
例えば、大小の2本のパイプを嵌合によって接続する場合には、大きい方のパイプの内表面あるいは小さい方のパイプの外表面に本発明の加熱発泡シートを貼り付け、これらのパイプを嵌合し、加熱して発泡性接着層を発泡させてパイプ間の隙間を充填するといった接着方法が可能である。本明細書において、「嵌合」は、一方の被着体が他方の被着体に収容されて接続される形態を広く含む。
【0019】
さらに、本発明の加熱発泡シートは、熱可塑性樹脂を含むことにより、柔軟性に富み、発泡性と相まって、プレス等で圧力をかけることができない場所にある表面や複雑な形状を有する表面に対しても、高い充填性を確保することが可能となる。また、エポキシ樹脂を使用しているため、耐熱性にも優れており、高温下でも接着力が低下しにくい。
【0020】
このように、本発明の加熱発泡シートは、作業性、充填性、速硬化性、柔軟性、耐熱性をバランスよく調整することで、発泡と接着強度の相反する課題を克服し、充分な接着強度と充填性を両立することができる。これにより、被着体間の接着信頼性および固定支持の安定性の高い接着が可能となり、熱伝導性や振動応力等の諸現象にも優れる接着シートを提供することが可能となる。
【0021】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂フィルムと不織布を組み合わせた構成の積層体が耐熱性・電気特性に優れた絶縁材であること、および、表面処理を施したフィルム/不織布間を熱ラミネートすることで上記積層体を製造する方法が記載されている(段落0012)。しかしながら、積層フィルムや積層体を部材として使用する際に、フィルム/フィルム界面やフィルム/不織布界面で剥離が生じたり、積層する際の加工に伴う熱によって積層フィルムや積層体の耐熱性が損なわれたりといった課題がある。また、積層フィルムの構成体には絶縁機能しかなく、他被着体との接着機能はない。
【0022】
特許文献2では、接着性や作業性の向上を主な目的としており、結晶性樹脂を使用することで、加熱時の流動性を高めることができ(溶融粘度を下げる事ができ)、熱膨張に有利になることが記載されている(段落0029)。また低タック性を保持する為に結晶性エポキシを使用する必要があるが、非粘着性(低タック性)を付与する場合、樹脂内での結晶エポキシの体積を増やさねばならないため柔軟性の点では欠点がある。さらに、耐熱性・反応性へのアプローチの自由度が低くなりやすい。
【0023】
特許文献3には、基材の表面に熱膨張性の接着剤層を形成し、接着剤層の上にさらに、離型剤層を形成した接着シートが記載されている(請求項1等)。当該接着シートは、タックフリーであり、かつ作業性の高い熱膨張性の接着シートであり、使用時に接着シートを所定位置に配置し、加熱することで離型剤層が破壊されて接着剤内に取り込まれ、接着剤が表面に出現するようになっている。しかしながら、離型剤分散により接着力が低下しやすいという問題がある。また、離型層塗布工程を経る必要があり、費用面で不利となる。
【0024】
特許文献4にも、タックフリーであり、かつ作業性の高い熱膨張性の接着シートが記載されている(要約)。外層に、接着剤透過層が設けられ、この接着剤透過層のガラス転移温度は、接着剤層を構成する接着剤の硬化開始温度よりも高く設定されており、接着剤透過層は好ましくは不織布であるとされている。ただし、速硬化性や耐熱性(高温下での接着強度の低下抑制)については検討されていない。また、不織布を使用している為、透過する膨張接着剤量を調整する事が困難であり、接着安定性の面で不利である。
【0025】
以下、本発明の加熱発泡シートの構成について詳細に説明する。
<<シート状基材>>
シート状基材10は、加熱発泡シート1の骨格となる部材である。シート状基材10の層構造は、単層構造であっても、積層構造であってもよい。シート状基材10全体の厚さは、例えば1~300μmであり、5~200μmであることが好ましく、25~120μmであることがより好ましい。
【0026】
シート状基材の材質は、特に限定されないが、無機材料でも有機材料でもよい。例えば、加熱発泡シートに電気伝導性が求められる場合に金属フィルムを使用することができ、加熱発泡シートに電気絶縁性が求められる場合に樹脂フィルムを使用することができる。
【0027】
金属フィルムとしては、特に限定されないが、例えば銅箔およびアルミ箔を使用できる。金属フィルムの厚さは、例えば1~100μmであり、10~70μmであることが好ましく、15~50μmであることがより好ましい。
【0028】
樹脂フィルムは、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート;ポリアリレート;ポリウレタン;ポリアミド、ポリエーテルアミド等のポリアミド系樹脂;ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテルケトン系樹脂;ポリフェニレンスルフィド(PPS);変性ポリフェニレンオキシドを含むことができる。樹脂フィルムは、これらの単独の樹脂からなってもよく、或いは2種以上の混合樹脂からなってもよい。樹脂フィルムは、耐熱性および電気絶縁性等の観点から、PENフィルム、PETフィルムまたはPIフィルムであることが好ましく、PENフィルムおよびPETフィルムであることがより好ましく、PENフィルムであることがさらに好ましい。樹脂フィルムの厚さは、例えば1~100μmであり、10~70μmであることが好ましく、15~50μmであることがより好ましい。
【0029】
シート状基材において、外表面の表面粗さRaは0.4μm以上であることが好ましい。シート状基材が上記表面粗さRaを有することにより、液状の接着剤組成物を塗工してシート状基材上に形成した発泡性接着層が同程度の表面粗さを有するようになる。シート状基材における表面粗さRaは、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましく、1.8μm以上であることが特に好ましい。また、シート状基材における表面粗さRaは、50μm以下であることが好ましい。一般に、一度に塗工できる接着層の厚さが50μm程度である為、シート状基材上の粗さがその厚さより厚くなる事は好ましくない。さらに、シート状基材における表面粗さRaは、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。
【0030】
特に、図1に示すように、シート状基材10は、フィルム基材11と、このフィルム基材11の片面または両面に接着剤層12を介して設けられた不織布層13とを含むことが好ましい。図1では、フィルム基材11の両面に、接着剤層12および不織布層13が形成されているが、接着剤層12および不織布層13は、フィルム基材11の片面のみに形成されていてもよい。不織布層を使用することにより、表面粗さRaが大きい表面を作製しやすくなる。
【0031】
フィルム基材11は、上述した金属フィルムあるいは樹脂フィルムから構成されることが好ましい。各フィルムの好ましい材料は、上述の材料と同様である。
【0032】
不織布層13は、例えば、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、液晶ポリマー繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボン繊維等の繊維を含む不織布から形成される。また、不織布層は、2種以上の繊維を含んでもよい。これらの中でも、不織布層は、アラミド繊維不織布、ガラス繊維不織布、ポリフェニレンスルフィド繊維不織布、耐熱ナイロン繊維不織布、耐熱ポリエステル繊維不織布を含むことが好ましい。不織布層の厚さは、例えば1~50μmであり、5~40μmであることが好ましく、8~25μmであることがより好ましい。
【0033】
フィルム基材11に不織布層13を接着するための接着剤層12の材料は、特に限定されず、熱可塑性樹脂系、熱硬化性樹脂系、またはエラストマー系の接着剤でもよい。特に、接着剤層12は、耐熱性、絶縁性が優れる樹脂(エポキシ、アクリル、好ましくはエポキシ)からなることが好ましい。
【0034】
<<発泡性接着層>>
加熱発泡シート1中の発泡性接着層20は、上記のとおり、加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、発泡性接着層20の最外表面における表面粗さRaは、0.4μm以上である。また、発泡性接着層20は、必要に応じて、硬化促進剤およびフィラー等の他の添加剤を含むこともできる。発泡性接着層20は、加熱発泡シートの最外層である。図1では、シート状基材10の両面に、発泡性接着層20が形成されているが、発泡性接着層20は、シート状基材10の片面のみに形成されていてもよい。発泡性接着層20の外側表面には、さらなる層を形成しない。また、不織布層13が形成されている場合であっても、不織布層13の上に発泡性接着層20が形成されない場合もある。例えば、不織布層13はフィルム基材11の両面に形成されているが、発泡性接着層20は片面のみに形成される場合もある。発泡性接着層の厚さは、例えば10~100μmであり、15~70μmであることが好ましく、20~50μmであることがより好ましい。
【0035】
エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂およびこれらに各種変性を行ったエポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂は、これらの単独の化合物からなってもよく、或いは2種以上の混合物からなってもよい。耐熱性および電気絶縁性等の観点から、エポキシ樹脂は、ノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0036】
エポキシ樹脂の含有量は、発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し30~65質量%であることが好ましい。当該含有量が30質量%以上であることにより、耐熱性や絶縁性において優位となる。また、当該含有量が65質量%以下であることにより、柔軟性において優位となる。当該含有量は、40~62質量%であることがより好ましく、50~60質量%であることがさらに好ましい。「発泡性接着層を構成する樹脂組成物」は、発泡性接着層に含まれる全材料からなる組成物をいい、液状の接着剤組成物から揮発分を除いた成分を含む。
【0037】
硬化剤は、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等のアミン系硬化剤;ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p-キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;酸無水物系硬化剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。硬化剤は、これらの単独の化合物からなってもよく、或いは2種以上の混合物からなってもよい。また、保存安定性(ポットライフ)を長くすることができることから、潜在性硬化剤を使用する事が好ましい。潜在性硬化剤は、一般に、熱や光といった外部からの刺激により硬化が促進される硬化剤である。本発明において、潜在性硬化剤を使用することにより、発泡したエポキシ樹脂を所望のタイミングで速やかに硬化させることができる。潜在性硬化剤の中でも特に、硬化反応速度の観点から、硬化剤は、アミド系硬化剤およびアミン系硬化剤の少なくとも1種を含むことがより好ましく、ジシアンジアミドを含むことがさらに好ましい。
【0038】
硬化剤において、適正な硬化反応を起こし、充分な接着強度を確保するために、エポキシ樹脂の当量に対する硬化剤の当量の当量比(硬化剤の当量/エポキシ樹脂の当量)は0.8~1.2であることが好ましく、0.85~1.15であることがより好ましく、0.9~1.1であることがさらに好ましい。特に、硬化剤がアミド系硬化剤を含み、上記当量比が0.8~1.2であることが好ましい。
【0039】
本明細書においてエポキシ当量とは、エポキシ化合物の分子量を1分子中のエポキシ基の数で除した値である。エポキシ当量は、JIS K7236に準じて、0.1mol/Lの過塩素酸酢酸標準液によって電位差測定することにより求めることができる。硬化剤当量とは、硬化剤の分子量を1分子中の活性水素(エポキシ基と反応する部位)の数で除した値である。硬化剤当量は、塩化アセチル-水酸化カリウム滴定法により求める事ができる。さらに核磁気共鳴装置(NMR)、ガスクロマトグラフィー(GC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で成分分析を行い、この分析結果から計算で求めることができる。
【0040】
熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム(CTBN)およびエポキシ変性ブタジエンの少なくとも1種を含むことが好ましい。特に、熱可塑性樹脂は、エラストマー系樹脂であることがより好ましく、アクリル系熱可塑性エラストマーおよびウレタン系熱可塑性エラストマーの少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。熱可塑性樹脂は、これらの単独の化合物からなってもよく、或いは2種以上の混合物からなってもよい。エラストマーのガラス転移温度Tgは、100~120℃であることが好ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂の含有量は、発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~30質量%であることが好ましい。当該含有量が3質量%以上であることにより、発泡性接着層が柔軟性を獲得し、発泡性が向上する。また、当該含有量が30質量%以下であることにより、発泡性接着層の柔軟性を適度な範囲に保ち、充分な接着強度が確保できる。当該含有量は、4~25質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。特に、熱可塑性樹脂がエラストマーであり、かつ、当該含有量が3~30質量%であることが好ましい。
【0042】
発泡剤は、特に限定されず、無機系および有機系のいずれの発泡剤を使用してもよい。具体的には、発泡剤は、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド類などの無機系発泡剤;トリクロロモノフルオロメタンなどのフッ化アルカン;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系化合物;パラトルエンスルホニルヒドラジドなどのヒドラジン系化合物;p-トルエンスルホニルセミカルバジドなどのセミカルバジド系化合物;5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物;N,N’-ジニトロソテレフタルアミドなどのN-ニトロソ化合物、および、炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。発泡剤は、これらの単独の化合物からなってもよく、或いは2種以上の混合物からなってもよい。これらの中でも、発泡性接着層の硬化を阻害せず、エポキシ樹脂の物性に与える悪影響を少なくする点から、発泡剤は熱膨張性マイクロカプセルであることが好ましい。
【0043】
熱膨張性マイクロカプセルは、ガスバリアー性を有する熱可塑性樹脂をシェルとし、シェルの内部に熱膨張剤を内包させたマイクロカプセルである。熱膨張性マイクロカプセルを加熱すると、シェルの熱可塑性樹脂が軟化し、熱膨張剤の体積が増大することにより、カプセルが膨張する。例えば、低沸点の炭化水素系化合物の気化をカプセルの膨張に利用できる。
【0044】
熱膨張性マイクロカプセルを含む発泡性接着層の発泡開始温度は、エポキシ樹脂の軟化点以上であることが好ましい。発泡性接着層の発泡開始温度は、例えば、熱機械分析(TMA)装置により測定した温度と試料の膨張量との関係から、熱膨張性マイクロカプセルの発泡に伴って発泡性接着層の膨張が始まった温度として求めることができる。この発泡開始温度がエポキシ樹脂の軟化点以上であれば、柔らかくなったエポキシ樹脂の中で熱膨張剤を十分に膨張でき、発泡後の発泡性接着層の厚さを均一にすることができる。また、発泡性接着層の発泡開始温度は、発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度以下であることが好ましい。発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)装置により測定した温度と硬化反応の発熱エネルギーとの関係から、発熱ピークを示す温度として求めることができる。この発泡開始温度が硬化活性温度以下であれば、発泡前にエポキシ樹脂が硬化することを防止できる。さらに、エポキシ樹脂の軟化点を硬化活性温度以下とすることにより、加熱発泡シートの製造工程に溶融または溶液の塗布工程が含まれる場合に、これらの塗布工程およびそれに伴う乾燥工程中にエポキシ樹脂がゲル化することを防止できる。
【0045】
エポキシ樹脂の軟化点は、JIS K 2207に規定される環球式軟化点試験法を用いて測定できる。発泡性接着層の発泡開始温度は、例えば70~200℃、好ましくは100℃~180℃の範囲であることが好ましい。
【0046】
さらに、発泡性接着層の硬化過程において、発泡性接着層の発泡開始温度から発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度までの温度範囲に、エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度があることが好ましい。エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度は、例えば、粘弾性測定装置により測定した温度と樹脂試料の溶融粘度(複素粘度)との関係から、複素粘度曲線のオフピークを示す温度として求めることができる。例えば、図2は、所定の発泡性接着層について、発泡開始温度、最低粘度温度および硬化活性温度の関係を示すグラフである。図2において、温度aは、試料(発泡性接着層)のTMA曲線から求めた発泡開始温度(135℃)であり、温度bは、試料(発泡性接着層中のエポキシ樹脂)の複素粘度曲線から求めた最低粘度温度(192℃)であり、温度cは、同様に用意した試料(発泡性接着層)のDSC曲線から求めた硬化活性温度(210℃)である。最低粘度温度が上記発泡開始温度から上記硬化活性温度までの温度範囲にあることにより、発泡性接着層の発泡開始後、発泡性接着層の硬化が活性化する前の段階で、エポキシ樹脂の粘度が充分に低下しているため、エポキシ樹脂が発泡性接着層の発泡を阻害せず、良好な発泡倍率が得られる。
【0047】
発泡剤の含有量は、発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~19質量%であることが好ましい。当該含有量が3質量%以上であることにより、充分な発泡性を確保でき、接着強度が向上する。また、当該含有量が19質量%以下であることにより、過剰な発泡に起因する接着強度の低下を抑制できる。当該含有量は、4~17質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましく、7~12質量%であることが特に好ましい。特に、発泡剤が熱膨張性マイクロカプセルを含み、かつ、当該含有量が3~19質量%であることが好ましい。
【0048】
発泡性接着層において、上記のとおり、最外表面における表面粗さRaは、0.4μm以上である。当該表面粗さRaが0.4μm以上であることにより、被着体との接触が点接触となり、接触が生じても加熱発泡シートが受ける外力(摩擦抵抗)が減少するため、加熱発泡シート(特に、発泡性接着層)のシワやバラツキの発生を抑制することができ、作業性が向上する。発泡性接着層における表面粗さRaは、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましく、1.8μm以上であることが特に好ましい。また、発泡性接着層における表面粗さRaは、50μm以下であることが好ましい。これにより、発泡性接着層をバラツキなく発泡させて、発泡性接着層に対抗する被着体への充分な接着を確保することができる。さらに、発泡性接着層における表面粗さRaは、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。なお、液状の接着剤組成物をシート状基材に塗布した場合には、発泡接着剤層の表面粗さは、シート状基材の表面粗さと同程度の値となり得る。
【0049】
発泡性接着層の最外表面における静摩擦係数は0.5以下であることが好ましい。これにより、被着体に対する摩擦抵抗が減少するため、加熱発泡シート(特に、発泡性接着層)のシワやバラツキの発生を抑制することができ、作業性が向上する。静摩擦係数は、0.24~0.5であることが好ましい。
【0050】
発泡性接着層の表面粗さの形成手段は、特に制限されない。例えば、所望の表面粗さを有するシート状基材の上に、液状の接着剤組成物を塗布し、乾燥させることで、シート状基材の表面粗さを発泡性接着層の表面に反映することができる。また、発泡性接着層をシート状基材に形成した後、物理的あるいは化学的処理によって発泡性接着層の表面に表面粗さ(凹凸)を形成する方法でもよい。物理的あるいは化学的処理によって予め表面粗さ(凹凸)を形成した発泡性接着層を、シート状基材に張り付ける方法でもよい。本発明では、作業性の観点からは、所望の表面粗さを有するシート状基材の上に、液状の接着剤組成物を塗布する方法が好ましい。シート状基材に所望の表面粗さを形成する際には、上述した不織布を利用することが好ましい。
【0051】
<<他の添加剤>>
加熱発泡シート中の発泡性接着層は、硬化促進剤を含むことができる。硬化促進剤は、2-メチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;トリブチルポスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類の少なくとも1種を含むことが好ましい。硬化促進剤は、これらの単独の化合物からなってもよく、或いは2種以上の混合物からなってもよい。硬化促進剤の含有量は、発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し0.1~5質量%であることが好ましく、0.5~4質量%であることがより好ましく、1~3質量%でもよい。
【0052】
加熱発泡シート中の発泡性接着層は、フィラーを含むことができる。フィラーは、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化ケイ素、タルク(珪酸マグネシウム)等の無機フィラーの少なくとも1種を含むことが好ましい。フィラーは、これらの単独の化合物からなってもよく、或いは2種以上の混合物からなってもよい。フィラーの含有量は、発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~20質量%であることが好ましく、5~17質量%であることがより好ましく、7~15質量%でもよい。
【0053】
本発明の加熱発泡シートは、その物性に応じて、種々の用途に使用できる。例えば、加熱発泡シートが電気伝導性を有する場合には電子機器或いは電子デバイス用の導材シートとして使用でき、加熱発泡シートが電気絶縁性を有する場合には電子機器或いは電子デバイス用の絶縁シートとして使用できる。
【0054】
<加熱発泡シートを使用した接着方法>
本発明の接着方法は、第1の被着体および第2の被着体の間に上述した加熱発泡シートを配置し、両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、第1の被着体および第2の被着体を接着する。
【0055】
第1の被着体および第2の被着体の間に上述した加熱発泡シートを配置する方法は、特に制限されない。例えば、第1の被着体および第2の被着体の隙間に、加熱発泡シート挿入する方法や、第2の被着体に加熱発泡シートを張り付け、当該シートが張り付けられた部分を、第1の被着体に嵌合する方法などがある。
【0056】
本発明の接着方法により、被着体間の隙間を適切に接着することが可能となる。特に、本発明は、被着体間の隙間が狭い場合の接着や、第1の被着体が、第2の被着体を収容する構造を有する等、被着体同士の接着に際し、相対的な滑り移動を伴う場合の接着に有用である。
【0057】
加熱発泡シートを発泡させる加熱条件は、適宜調整され、例えば最大温度が150~200℃の範囲で、35~70℃/minである。
【実施例0058】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0059】
<サンプルの作製>
次のとおり作製した加熱発泡シートおよび単体評価用の接着シートを用いて下記の評価を行った。
【0060】
<<加熱発泡シートの作製>>
PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム(帝人フィルムソリューション社製、25μm)の片面に、アクリル樹脂接着剤を用いて不織布(デュポン帝人アドバンスドペイパー社製、製品名Nomex464、1.5mil)を積層し、これにより、積層構造を有するシート状基材を作製した。以下、このシート状基材を「NPNシート」あるいは単に「NPN」とも称する。次に、下記の各表に示した配合で作製した接着剤組成物を、ベーカー式アプリケーターを使用して、乾燥後の厚さが35μmになるようにNPNシートの不織布面に塗布した。これを110℃で90秒乾燥して溶媒を除去することで、発泡性接着層を形成した。以上の工程により、NPNシートの片面に発泡性接着層を有する加熱発泡シートが得られる。
【0061】
<<単体評価用の接着シートの作製>>
下記の各表に示した配合で作製した接着剤組成物を、ベーカー式アプリケーターを使用して、乾燥後の厚さが50μmになるように離形フィルム(38μm)の離形処理面上に塗布した。これを110℃で90秒乾燥して溶媒を除去することで、発泡性接着層を形成した。以上の工程により、離形フィルムの片面に発泡性接着層を有する単体評価用の接着シートが得られる。離形フィルムとして、東山フィルム社製の製品名HY-NS70を使用した。
【0062】
<原材料>
下記の例において使用した各原材料の構造および種類は下記のとおりである。
【表1】
【表2】
【0063】
なお、各原材料として、下記の商品を使用した。
A1:「EPICLON N-690」エポキシ当量225g/eq(DIC社製)
A2:「EPICLON N-890」エポキシ当量210g/eq(DIC社製)
B1:「Dicy7」 アミン当量21g/eq(三菱ケミカル社製)
B2:「フェノライトLF-7911」水酸化当量118g/eq(DIC社製)
C1:エスレックKS-6Z(積水化学工業社製)
C2:Vamac GLS(デュポン社製)
C3:バイロンUR-3500(東洋紡社製)
E:EH-5046S(ADEKA社製)
F:CT-76(浅田製粉社製)
D1~D3:市販されている熱膨張性マイクロカプセルである。
【0064】
<評価方法>
表中に示す各評価項目の評価方法は、次のとおりである。
【0065】
<<表面粗さ>>
発泡および硬化前の加熱発泡シートから15×40mmのシートを切り出し、表面粗さ測定機(小坂研究所社製、サーフコーダSD-40D)により算術平均表面粗さRaを測定した。
【0066】
<<静摩擦係数(摩擦抵抗)>>
JIS K7125を参考にして、発泡および硬化前の加熱発泡シートの発泡性接着層表面における静摩擦係数を測定した。加熱発泡シートと擦り合わせる相手材として、平滑なSUS板を使用した。測定速度は100mm/minであり、移動距離は130mmである。
【0067】
<<発泡倍率>>
加熱発泡シートを50×50mmに切り出し、これを200℃に設定された加熱炉に10分間投入して発泡および硬化させた。発泡倍率は、[硬化後の膜厚-シート状基材の膜厚]/[加熱炉投入前の膜厚-シート状基材の膜厚]により算出した。評価項目中の「浮き」の表示は、硬化後に、発泡性接着層が基材から浮いてしまい、不良であったことを意味する。
【0068】
<<柔軟性>>
発泡および硬化前の単体評価用の接着シートから10×100mmのシートを切り出し、離形フィルムを剥がして発泡性接着層を単体の状態にした。これを180度方向へ折り曲げ、折り曲げ部に2kg分銅で5秒間荷重を与え、荷重を解放した後、発泡性接着層の表面状態を観察して、下記の基準で柔軟性を評価した。
×:シート形状を保持できなかった。
△:クラックが入るがシート形状を保持した。
〇:シート形状を保持した。
【0069】
<<タック性(ラミネート性)>>
発泡および硬化前の単体評価用の接着シートから10×25mmのシートを切り出し、100℃のゴムロールにてSPCC板(日本テストパネル社製、製品名SPCC-SB、1.6mm厚)へ転写させる事ができる回数で、タック性(ラミネート性)を評価した。
×:1回
△:2~3回
〇:4回以上
【0070】
<<ピール強度>>
IPC-TM-650を参考にしてピール強度を測定した。測定における導体幅は5mmである。測定用サンプルは、単体評価用の接着シートから取り出した発泡性接着層を用いて、PI(ポリイミド)フィルム(厚さ50μm)/発泡性接着層/銅箔(GTS-MP 1oz、S面側に接着)の構成を有する積層体を作製し、プレス機を使用して160℃、4MPaおよび20分の条件で上記積層体を成形および硬化させることにより、作製した。
【0071】
<<せん断接着力>>
発泡および硬化前の加熱発泡シートから12.5×25mmのシートを切り出し、これを用いて以下の手順で測定した。
・110℃のゴムロールを使用して加熱発泡シートをSPCC板に固定し、厚さ0.4mmのスペーサを加熱発泡シートの両側に配置し、その上に更に別のSPCC板を重ね、固定治具(クランプ等)を使用してSPCC板間の隙間を固定することにより、サンプルを作製した。
・上記サンプルを昇温速度50℃/minで200℃まで昇温し、200℃で7分間加熱して、サンプル中のシートを発泡(4倍発泡)および硬化させた。このとき、2枚のSPCC板間の隙間は0.4mmで固定される。
・その後、万能試験機を使用して試験速度5mm/分の条件で上記サンプルのせん断接着力測定を行った。
【0072】
<<発泡開始温度T1_TMA>>
熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、TMA7100)を使用し、接着シートから取り出した発泡性接着層をアルミセルに入れて、昇温速度50℃/min、温度範囲30℃~300℃および荷重-49mNの条件にて測定し、得られたTMA曲線において膨張挙動が開始した温度を発泡性接着層の発泡開始温度T1とした。
【0073】
<<硬化活性温度T2_DSC>>
示差走査熱量測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、DSC7000X)を使用し、接着シートから取り出した発泡性接着層をサンプルとして、昇温速度50℃/minおよび温度範囲0℃~300℃の条件にて測定し、得られたDSC曲線において発熱ピークのトップ温度を硬化活性温度T2とした。
【0074】
<<最低粘度温度Tα_レオメータ>>
サンプルを次のとおり準備した。発泡剤を含むサンプルでは、測定時に膨張するため正確な測定が困難である。そこで、<<単体評価用の接着シートの作製>>において説明した方法において、接着剤組成物から発泡剤を除き、それ以外は同様にして接着シートを作製した。その後、110℃に加熱されたゴムロールを用いて接着層をラミネートして厚さ600μm前後のサンプルを作製した。粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、ARES-G2)を使用し、昇温速度50℃/min、温度範囲25℃~220℃(220℃到達後10min保持)、変形モード「ずり」、および周波数1Hzの条件にて測定を実施し、得られた複素粘度η*の値が最も小さくなった温度を最低粘度温度Tαとした。
【0075】
<評価1>
本項では、接着シートの表面の算術平均粗さRaによるシート特性への影響を評価した。比較例1では、NPNシートの片面に発泡性接着層を形成した後、発泡性接着層に下記の鏡面仕上げ処理を施した。比較例2では、上記NPNシートに替えて、基材としてPETフィルムを使用し、PETフィルムの片面に接着剤組成物を塗布して発泡性接着層を形成した。
【0076】
<<鏡面仕上げ処理>>
離形フィルムの離形処理側の面が発泡性接着層に接するように、離形フィルムを発泡性接着層に配置し、その状態で、110℃に加熱した2本のゴムロールの間を速度0.5m/minにて挿通し、その後、離形フィルムを剥がす事により、発泡性接着層の最外表面を鏡面仕上げ処理した。離形フィルムとして、東山フィルム社製の製品名HY-NS70を使用した。
【0077】
評価1の結果を下記表に示す。表中の「A1」および「A2」は、エポキシ樹脂中での質量部を表す。表中の「α」は、エポキシ樹脂の当量に対する硬化剤の当量の当量比を表す。表中の「硬化促進剤」、「エラストマー」、「発泡剤」および「フィラー」は、発泡性接着層を構成する樹脂組成物(エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂(エラストマー)、硬化剤、硬化促進剤、発泡剤およびフィラー)の全質量に対する含有量(質量%)を表す。他の表についても同様である。
【0078】
評価1の結果、接着シート表面の粗さRaが大きいことにより、接着シートの静摩擦係数が低下することが分かる。したがって、表面粗さRaが大きい本発明の接着シートを用いることにより、被着体間の隙間に少ない抵抗で接着シートを挿入することができ、発泡性接着層の剥れやシワの発生を抑制することができる。なお、本評価に際し使用したNPNシート自体(鏡面仕上げなし)の表面粗さRaは3.0であり、静摩擦係数は0.24であった。
【表3】
【0079】
<評価2>
本項では、硬化剤としてフェノール樹脂を使用した際の特性への影響を評価した。参考例3では、硬化剤として、フェノール樹脂を使用した。
【0080】
【表4】
【0081】
<評価3>
本項では、エラストマーの含有量によるシート特性への影響を評価した。なお、比較例5では、NPNシートに塗布した接着剤組成物の乾燥時に、発泡が生じ、加熱発泡シートを作製することができなかった。
【表5】
【0082】
<評価4>
本項では、エラストマーの種類によるシート特性への影響を評価した。ここで、C1のTgは100~110℃、C2のTgは-24℃、C3のTgは10℃である(それぞれ製造者の提示値)。
【表6】
【0083】
<評価5>
本項では、発泡剤の含有量によるシート特性への影響を評価した。
【表7】
【0084】
<評価6>
本項では、発泡剤の種類(発泡開始温度の違い)によるシート特性への影響を評価した。発泡開始温度T1と最低粘度温度Tαの差が小さいと、せん断接着力が低下することが分かった。なお、昇温速度が低下した際に、T1、T2、Tαの関係性が変わることを確認している。
【表8】
【符号の説明】
【0085】
1 加熱発泡シート
10 シート状基材
11 フィルム基材
12 接着剤層
13 不織布層
20 発泡性接着層
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材と、該シート状基材の片面または両面に設けられた発泡性接着層とを含む加熱発泡シートであって、
前記発泡性接着層が、前記加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、
前記発泡性接着層が、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、
前記発泡性接着層の発泡開始温度が、前記発泡性接着層の硬化反応における硬化活性温度以下であり、
前記発泡性接着層の硬化過程において、前記発泡性接着層の発泡開始温度から前記発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度までの温度範囲に、前記エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度があり、
前記発泡性接着層の最外表面におけるSUS板に対する静摩擦係数が、0.5以下である、加熱発泡シート。
【請求項2】
前記シート状基材の表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上である、請求項1に記載の加熱発泡シート。
【請求項3】
前記シート状基材が、フィルム基材と、該フィルム基材の片面または両面に接着剤層を介して設けられた不織布層とを含む、請求項1または2に記載の加熱発泡シート。
【請求項4】
前記硬化剤が、アミド系硬化剤を含み、
前記エポキシ樹脂の当量に対する前記硬化剤の当量の当量比が、0.8~1.2である、請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、エラストマーを含み、
前記エラストマーの含有量が、前記発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~30質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、Tgが100~120℃の範囲にある高軟化点エラストマーを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項7】
前記発泡剤が、有機系または無機系である、請求項1~6のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項8】
前記発泡剤が、熱膨張性マイクロカプセルを含み、
前記熱膨張性マイクロカプセルが、エポキシ樹脂、硬化剤および熱可塑性樹脂の中に分散している、請求項1~7のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項9】
前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が、前記発泡性接着層を構成する樹脂組成物の全質量に対し3~19質量%である、請求項8に記載の加熱発泡シート。
【請求項10】
絶縁シート用である、請求項1~9のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項11】
第1の被着体および第2の被着体の間に配置され、両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、前記第1の被着体および第2の被着体を接着するために使用される、請求項1~10のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項12】
第1の被着体および第2の被着体の間に請求項1~10のいずれか1項に記載の加熱発泡シートを配置し、
両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、前記第1の被着体および第2の被着体を接着する接着方法。
【請求項13】
第1の被着体が、第2の被着体を収容する構造を有する、請求項12に記載の接着方法。