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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133336
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】散気体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 25/30 20220101AFI20240920BHJP
   C02F 3/20 20230101ALI20240920BHJP
   B01F 23/231 20220101ALI20240920BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240920BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20240920BHJP
   C04B 35/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B01F25/30
C02F3/20 D
B01F23/231
C04B38/00 303Z
C04B35/622
C04B35/14
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024116691
(22)【出願日】2024-07-22
(62)【分割の表示】P 2022166021の分割
【原出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】辻野 二朗
(72)【発明者】
【氏名】橋田 修吉
(72)【発明者】
【氏名】奥田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有香
(57)【要約】
【課題】安価な原料を用いて簡単に製造することが可能な散気体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】散気体2は、燃焼灰及びバインダーを含む多孔質体で構成され、受け取ったガスを通過させることで微細気泡に変化させて液中に放出する。散気体2は、0.2MPa以上の耐圧強度を備え、外部から加圧されたガスを受け取ると、散気体2の表面から単位面積1mあたり200L/min以上の流量で液中に微細気泡を放出できるように構成されている。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼灰及びバインダーを含む多孔質体で構成され、受け取ったガスを通過させることで微細気泡に変化させて液中に放出する散気体であって、
0.2MPa以上の耐圧強度を備え、外部から加圧されたガスを受け取ると、前記散気体の表面から単位面積1mあたり200L/min以上の流量で液中に微細気泡を放出できるように構成されている、
散気体。
【請求項2】
前記燃焼灰に含まれるカルシウム及び鉄は、それぞれ5%wt以下である、
請求項1に記載の散気体。
【請求項3】
前記バインダーは、粘土である、
請求項1又は2に記載の散気体。
【請求項4】
前記散気体の原料における前記燃焼灰の比率は、50wt%以上であり、前記バインダーの比率は、50wt%以下である、
請求項1又は2に記載の散気体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の散気体の製造方法であって、
前記燃焼灰、前記バインダー及び水を混合する混合工程と、
前記混合工程により混合された混合物を成型する成型工程と、
前記成型工程により成型された成型体を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させた前記成型体を焼成する焼成工程と、
を含む散気体の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程では、乾燥させた前記成型体を1000℃~1200℃の範囲内で設定された一定温度で焼成する、
請求項5に記載の散気体の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程では、前記燃焼灰、前記バインダー及び前記水を含むスラリーを生成し、
前記成型工程では、生成された前記スラリーを型枠に流し込む、
請求項5に記載の散気体の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程では、前記燃焼灰、前記バインダー及び前記水を含む混練物を生成し、
前記成型工程では、生成された前記混練物を型枠に押し込めて加圧する、
請求項5に記載の散気体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散気体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部から気体を受け取って液体中に微細気泡を放出する散気板が知られている。散気板は、例えば、コンクリート排水の中和処理、養殖場でのエアレーションといった様々な分野で使用されている。散気板としては、セラミック製の散気板が広く用いられている。また、特許文献1には、金属の薄板に複数の散気孔が形成された散気板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-158631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の散気板は、金属の薄板を加工して製造されるため、製造に手間を要すると共に製造コストが高いという問題があり、セラミック製の散気板についても同様の問題が存在している。散気板は消耗品であり、その性能を維持するには一定期間毎に交換する必要があるため、できるだけ低コストで入手可能であることが要望されている。そして、このような問題は、散気板に限られず、散気筒のような他の形状の散気体においても存在している。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、安価な原料を用いて簡単に製造することが可能な散気体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る散気体は、
燃焼灰及びバインダーを含む多孔質体で構成され、受け取ったガスを通過させることで微細気泡に変化させて液中に放出する散気体であって、
0.2MPa以上の耐圧強度を備え、外部から加圧されたガスを受け取ると、前記散気体の表面から単位面積1mあたり200L/min以上の流量で液中に微細気泡を放出できるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安価な原料を用いて簡単に製造することが可能な散気体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る散気板の構成を示す正面図である。
図2図1の散気板をA-A線で切断した断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る散気板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態に係る散気装置の組立方法の流れを示すフローチャートである。
図5】実施例1における焼成温度1000℃で焼成した試験体の外観を撮影した図である。
図6】実施例1における焼成温度1100℃で焼成した試験体の外観を撮影した図である。
図7】実施例1における焼成温度1200℃で焼成した試験体の外観を撮影した図である。
図8】実施例2における試験体の原料の配合量を示す図である。
図9】実施例2における焼成後の試験体の外観を撮影した図である。
図10】実施例3における粘土、燃焼灰A、Bの成分比を示す図である。
図11】実施例3における焼成後の試験体の外観を撮影した図である。
図12】実施例4におけるスラリー成型法により試験体を作成する様子を撮影した図である。
図13】実施例5におけるスライス成型法により試験体を作成する様子を撮影した図である。
図14】実施例6における散気板の性能試験の結果を示す図である。
図15】実施例6におけるpH測定の試験装置の構成を示す概略図である。
図16】実施例7におけるpH値の経時的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る散気体及びその製造方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。実施の形態では、散気体の一例として散気板を用いる場合を例に説明する。
【0010】
散気装置1は、液体中に設置され、圧縮ガスを受け取って液体中に微細気泡を発生させる装置である。散気装置1が放出する微細気泡は、例えば、気泡径が2.5mm以下の微細な気泡であり、用途に応じて任意のガス、例えば、空気、酸素、二酸化炭素で形成されている。散気装置1が設置される液体は、任意の液体であり、例えば、水である。散気装置1は、例えば、コンクリート排水などのアルカリ性排液の中和処理、藻類などの水生植物の生育のための炭酸ガスの供給、並びに陸上養殖及び下水処理のための酸素又は空気の供給のために用いることができる。以下、ガスとして空気を、液体として水を用いる場合を例に説明する。
【0011】
図1に示すように、散気装置1は、圧縮空気を受け取って水中に放出する微細気泡を発生させる散気板2と、散気板2の一部を覆うように装着され、散気板2に圧縮空気を供給するケース3と、を備える。散気板2は、互いに対向する一対の面を備え、一方の面(裏面)で空気を受け取って他方の面(表面)から空気を含む微細気泡を放出する。散気板2は、内部に多数の空孔を備える多孔質体で形成され、一方の面から流入した圧縮空気を多数の空孔に通過させることで微細気泡に変化させ、他方の面から微細気泡を排出させる。
【0012】
散気板2は、例えば、円盤状である。円盤状の散気板は、他の形状、例えば、矩形状の散気板と比較すると、角部がないため破損の可能性が小さく、高圧の空気が局所的に集中しないため表面全体から均一な微細気泡を発生させやすい。散気板2は、任意の寸法で形成され得るが、設備への設置個数などの効率を考慮すると、散気板2の面積は、100cm以上であることが好ましい。一例として円盤状である散気板2の寸法は、直径165mm、厚さ15mmである。
【0013】
ケース3は、散気板2の側面側及び裏面側を封止し、表面側を露出するように散気板2に装着されている。ケース3は、散気板2の裏面に向かって空気を供給する本体3aと、本体3aに空気を供給するホースが接続される接続部材3bと、を備える。本体3aは、散気板2に対応する形状に形成され、散気板2を取り付ける開口を備える凹状の部材である。
【0014】
図2に示すように、本体3aは、接続部材3bから供給された空気を空間3cで受け入れ、空間3cの上側に設置された散気板2に向かって供給する。本体3aは、空間3cの上側に散気板2を設置するためのリング形状の段差3dを備える。散気板2は、ケース3の間の隙間から空気が漏れないようにケース3に封着されている。具体的に説明すると、散気板2は、接着剤を用いて段差3dに接着され、散気板2とケース3との間に生じる隙間は封止材を用いて封止されている。
【0015】
散気板2は、燃焼灰を含む混合物を焼成して得られた焼成体(セラミックス)である。具体的には、散気板2は、燃焼灰とバインダーとを混合し、これらの混合物に水を加えて所望の形状に成型した後に、得られた成型体を焼成することで得られる。発明者が鋭意検討した結果、原料の組成及び配合比率、燃焼灰の成分、並びに焼成条件を最適化することで、燃焼灰を含む原料であっても簡単な製造工程により気泡を表面全体から均一に噴出させることが可能な散気板2を製造できることが判明した。
【0016】
散気板2の原料には、燃焼灰及びバインダーが含まれる。散気板2の原料には、その他の添加物を添加してもよい。燃焼灰は、散気板2の原料の主成分であり、例えば、石炭灰、バイオマス燃焼灰である。石炭灰は、石炭を燃焼させて得られた灰であり、好ましくは、フライアッシュである。フライアッシュは、微粉炭を燃焼した際に発生する石炭灰のうち集塵器で採取されたものである。バイオマス燃焼灰は、動植物由来の生物資源、例えば、木質、家畜糞、下水汚泥、農業残渣を燃焼させて得られた灰である。燃焼灰は、火力発電所から継続的に排出されるため、安定的かつ安価に入手することができる。水分を除く散気板2の原料には、少なくとも燃焼灰を50wt%以上含むことが好ましい。
【0017】
燃焼灰としては、カルシウム及び鉄の含有量ができるだけ少ないものを選択することが好ましい。カルシウム及び鉄は、焼成体の収縮及び割れの要因となるためである。燃焼灰に含まれるカルシウム及び鉄の含有量は、できれば一緒に混合する粘土よりも少ないことが好ましい。具体的には、例えば、燃焼灰に含まれるカルシウム及び鉄の含有量がいずれも5wt%以下であることが好ましい。
【0018】
バインダーは、結合材とも呼ばれ、燃焼灰の粒子同士を結合させる。バインダーは、例えば、粘土、セルロース系水溶性高分子である。このうち粘土は靭性に優れているため、バインダーとして特に好適である。セルロース系水溶性高分子は、例えば、カルボキシメチルセルロース(Carboxymethyl Cellulose:CMC)である。バインダーは、複数種類を燃焼灰に混合してもよい。水分を除く散気板2の原料に含まれるバインダーの重量比は、50wt%以下であるが、乾燥及び焼成時の割れ及び変形を防ぐためには、30wt%以上かつ50wt%以下であることが好ましい。
以上が、散気装置1及び散気板2の構成である。
【0019】
(製造方法)
次に、図3を参照して、実施の形態に係る散気板2の製造方法を説明する。散気板2の製造方法としては、鋳込み成型法及びプレス成型法のいずれかを用いればよい。鋳込み成型法及びプレス成型法のいずれも、型枠を変更することで散気板2を任意の形状に製造できる。以下、散気板2の原料として石炭灰及び粘土を用いる場合を例に説明する。
【0020】
まず、原料に水を加えて混合し、混合物を作成する(ステップS11)。鋳込み成型法では、石炭灰及び粘土を混合し、水を加えて攪拌することで、スラリーを作成する。他方、プレス成型法では、石炭灰及び粘土を混合し、水を加えて練り上げることで、粘土状の混練物を作成する。
【0021】
次に、ステップS11の工程で作成した混合物を成型する(ステップS12)。鋳込み成型法では、スラリーを型枠に流し込み、スクレーパーを用いてスラリーの表面形状を整えればよい。鋳込み成型法で用いる型枠は、強度が不要であり、例えば、プラスチック製である。他方、プレス成型法では、粘土状の混練物を型枠に押し込め、型枠内の混練物をプレス機により加圧する。プレス成型法で用いる型枠は、強度が必要であるため、金型であることが好ましい。プレス成型法では、プレス機による加圧後に成型体から型枠を取り外せばよい。
【0022】
次に、ステップS12の工程で作成した成型体を乾燥させる(ステップS13)。成型体の乾燥は、自然乾燥であってもよく、乾燥機を用いた加熱乾燥又は送風乾燥であってもよい。加熱乾燥では、例えば、50℃~150℃の範囲内、好ましくは100℃~110℃の範囲内で乾燥機内の空気を加熱すればよい。なお、鋳込み成型法では、型枠を取り付けたまま成型体を乾燥させ、乾燥した時点で成型体を型枠から取り外せばよい。乾燥した成型体は、型枠の内面に対して僅かに収縮しているため、簡単に取り外すことができる。
【0023】
次に、ステップS13の工程で乾燥させた成型体を焼成させる(ステップS14)。具体的には、乾燥させた成型体を加熱炉内にセットし、一定時間(焼成時間)加熱炉内の温度を一定温度(焼成温度)に維持することで、成型体を焼成体に変化させる。焼成温度は、例えば、1000℃~1200℃の範囲内であり、1050℃~1150℃の範囲であることが好ましく、一例として1100℃である。焼成時間は、成型体のサイズに応じて設定すればよく、例えば、1時間~3時間の範囲内であり、一例として2時間である。
以上が、散気板2の製造方法である。
【0024】
上記の条件で製造された散気板2は、水中で気体を噴出した際の平均気泡径が1mm以下であり、内圧0.2MPa以上の耐圧強度を備え、単位面積1m当たり200L/min以上の流量で水中に微細気泡を噴出できる。また、焼成時の収縮率が乾燥前の成型体を基準にして5%以下に抑制されるため、散気板2における割れ及び変形の発生を防止できる。
【0025】
なお、散気板2の製造方法として鋳込み成型法及びプレス成型法のいずれを用いるかは、作業者の技量、要求される品質、及び大量生産の要否を考慮して総合的に判断すればよい。鋳込み成型法では、微細気泡を均一に放出させる散気板2が得られるが、プレス成型法と比較して製造に手間が掛かり、大量生産に不向きである。他方、プレス成型法では、鋳込み成型法と比較すると、微細気泡を均一に放出させる散気板2を得ることが難しく、成型用の金型も高価であるが、混練体はスラリーと比較して取り扱いが容易であり、どちらかと言えば大量生産に向いている。
【0026】
(組立方法)
以下、図4を参照して、実施の形態に係る散気装置1の組立方法を説明する。まず、接着剤を用いてケース3に対して散気板2を接着させる(ステップS21)。具体的には、ケース3の段差3dに接着剤を塗布し、この段差3dに散気板2の底面部を押し付ける。接着剤としては、粘性が高い接着剤を用いることが好ましく、例えば、エポキシ系接着剤を用いる。
【0027】
次に、封止剤を用いて散気板2とケース3との隙間を封止する(ステップS22)。具体的には、シリンジを用いて散気板2とケース3との隙間を封止剤で充填するように流し込む。封止剤としては、接着剤よりも粘性が低く流動性が高い硬化剤を用いることが好ましく、例えば、エポキシ樹脂を用いる。
以上が、散気装置1の組立方法である。
【0028】
以上説明したように、実施の形態に係る散気板2は、燃焼灰及びバインダーを含む多孔質体で構成され、互いに対向する一対の面を備え、液中において一方の面で空気を受け取って他方の面から微細気泡を放出する。このため、燃焼灰という安価に入手できる原料を用いて簡単な工程で製造できる。その結果、散気板2を低コストで製造できると共に、火力発電所、製鉄所といった燃焼設備を備える施設から大量に排出される燃焼灰を有効利用でき、燃焼灰の処分に要する費用や環境に対する負荷を低減できる。
【0029】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0030】
(変形例)
上記実施の形態では、散気板2が円盤状に形成されていたが、本発明はこれに限られない。散気板2は任意の形状で形成でき、例えば、矩形状の板として形成されてもよい。また、散気板2は、互いに異なる位置にある一対の面を備え、液中において一方の面で空気を受け取って他方の面から微細気泡を放出する散気体の一例に過ぎず、散気体は、例えば、内面で空気を受け取って外面から微細気泡を放出する円筒状の散気筒として形成されてもよい。
【0031】
上記実施の形態では、焼成時の割れを防ぐため、水分を除く原料に含まれるバインダーの比率を50wt%以下とし、燃焼灰に含まれるカルシウム及び鉄の成分比をそれぞれ5wt%以下としていたが、本発明はこれに限られない。焼成時の収縮の要因としては、原料の組成及び配合比率、燃焼灰の成分以外に、例えば、原料の粒子径など他の要因も考えられるため、焼成時の収縮率が5%以下の原料を使用するという条件設定を行ってもよい。
【0032】
上記実施の形態では、燃焼灰及び粘土を含む原料を混合し、水を加えた混合物を、枠体を用いて成型した後、成型体を乾燥させ、焼成することで散気板2を製造していたが、本発明はこれに限られない。例えば、レンガを作成する要領で成型から焼成までを行い、得られたブロック状の焼成体にスライス加工に施すスライス成型法を用いてもよい。
【0033】
スライス成型法の手順について具体的に説明すると、原料の混練、押し出し、カットを順次行うことで、ブロック状の成型体を作成し、続いて乾燥、焼成を行うことで、レンガと同等の形状を備えるブロック状の焼成体を作成する。押し出しが行われた混合物については、例えば、ピアノ線で個々のブロックにカットすることで、ブロック状の成型体を作成すればよい。次に、得られたブロック状の焼成体を、例えば、ダイヤモンドカッターのような切断手段を用いて所望の厚みにスライスする。スライス成型法は、散気板2を任意の形状に作成することが困難であるが、大量生産に好適であり、品質管理も容易である。
【0034】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
実施例1では、石炭灰及び粘土を原料とし、石炭灰の元となる石炭の種別(炭種)、原料の混合比率、焼成条件を変化させて各種の試験体を作成した。試験体の作成では、プレス成型法を用いた。その後、水中においてケースにセットした状態で気泡を発生させ、試験体が散気板として機能するかどうかを検証した。
【0037】
石炭灰は、石炭火力発電所の排出物から分離されたフライアッシュ(FA)である。原料として用いたFAは、石炭灰A100%、石炭灰B70%石炭灰C30%、石炭灰D80%石炭灰E20%の3パターンとした。石炭灰A~Eは、それぞれ互いに成分比が異なる炭種であり、例えば、石炭灰B70%石炭灰C30%は、重量比で石炭灰Bを70%、石炭灰Cを30%混合していることを意味する。原料の混合比率は、重量比でFA:粘土=80%:20%、FA:粘土=70%:30%、FA:粘土=50%:50%の3パターンである。作成した試験体の大きさは、いずれも100mm角、厚さ10mmである。焼成温度は、1000℃、1100℃、1200℃の3パターンであり、いずれも焼成時間を2時間とした。
【0038】
その結果、図5~7に示すように、焼成温度1000℃、1100℃、1200℃で成型体を焼成させた場合のいずれにおいても焼成体が得られ、水中において散気板として機能することも確認できた。具体的に説明すると、焼成温度1100℃の場合には、試験体の強度、形状、機能のいずれの点でも良好な試験体が得られたが、焼成温度が1200℃になると、試験体が歪みやすく、炭種によっては一部が溶融して剥離していた。また、焼成温度が1000℃未満になると、試験体の強度が不足するため、気泡発生時のガス圧に耐えられず、割れや剥離が発生した。以上から、焼成時の焼成温度は1100℃であることが好ましいと理解できる。また、炭種及び原料の配合比率は、散気板の強度や性能にほとんど影響を与えないことも理解できる。
【0039】
(実施例2)
実施例2では、原料の組成及び配合比率と焼成体の割れとの関係について検証を行った。まず、原料を図8の試料1~4に示す条件で混合し、プレス成型法を用いて成型を行い、乾燥させ、焼成処理を施すことで条件毎に8枚の試験体を作成した。図8の燃焼灰Aはフライアッシュである。水を除く原料の重量は、いずれの試験体でも500gである。焼成前の試験体の直径は165mmであり、厚さは約15mmである。焼成前の試験体に加えたプレス圧力は5トンである。乾燥条件は、自然乾燥又は温度105℃での加熱乾燥である。実施例1の結果を踏まえて、焼成温度を1100℃、焼成時間を2時間とした。
【0040】
その結果、図9に示すように、試料1~4のいずれにおいても焼成体が得られた。試料1では、粘土を水で混練しただけであるため、収縮が大きく、細かなき裂が多数発生していた。試料2、3では、それぞれ8枚中7枚で割れが存在せず、残りの1枚も端部に小さな割れが存在するのみであった。試料4では、粘土を含まず、靱性が低いためと思われるが、焼成時に大きな割れが発生した。以上から、焼成時の収縮が大きいと、焼成体に割れや変形が発生し易いこと、散気板の原料としては石炭灰及び粘土の組み合わせが好適であることが理解できる。
【0041】
(実施例3)
実施例3では、石炭灰の成分比と焼成時の収縮率との関係について検証した。具体的には、図10に示す成分比を有する燃焼灰A、BのそれぞれにCMC1%を添加した後、水を加えて混練し、プレス成型法により試験体を作成し、焼成時の収縮率を測定した。図10の燃焼灰A、Bは、互いに異なる炭種に由来するフライアッシュである。その他の条件は実施例2と同一である。比較のため、図10に示す成分比を有する粘土についても同様の実験を行った。粘土については水のみを加えて混練し、プレス成型法により試験体を作成した。
【0042】
その結果、燃焼灰Aを用いた試験体の収縮率は1.8%であったのに対し、粘土及び燃焼灰Bをそれぞれ用いた試験体の収縮率は、6.1%、7.3%であった。燃焼灰Aを用いた試験体では、ほとんど変形していなかったのに対し、粘土及び燃焼灰Bを用いた試験体では、収縮率が大きいため、図11に示すように割れや反りが存在していた。以上から、散気板の原料としてはカルシウム及び鉄の成分比の小さな燃焼灰を用いることが好ましいと理解できる。
【0043】
(実施例4)
実施例4では、散気板の製造方法として鋳込み成型法を用いることができるかどうかを検証した。具体的には、まず、燃焼灰及び粘土を混合し、水を加えてスラリーを作成した。燃焼灰は、フライアッシュである。原料の配合比率は、実施例2の結果を考慮して燃焼灰80%、粘土20%とし、全体重量を1000gとした。加水量は、外割で40%とした。次に、図12に示すようにスラリーを型枠に流し込み、表面形状を整えた後、乾燥機を用いて105℃で24時間加熱乾燥を行った。型枠の形状は、直径165mm、厚さ約15mm~34mmであった。次に、乾燥終了後に型枠を取り外し、実施例2と同様に焼成温度を1100℃、焼成時間を2時間として焼成を行った。その結果、図12に示すように鋳込み成型法を用いて燃焼灰及び粘土の焼成体が得られることが確認できた。
【0044】
(実施例5)
実施例5では、散気板の製造方法としてスライス加工法を用いることができるかどうかを検証した。具体的には、燃焼灰及び粘土を混合し、水を加えて混練物を作成し、レンガ工場の製造ラインを用いてレンガの場合と同様の手法で混練から焼成までを実施した。燃焼灰は、フライアッシュである。原料の配合比率は、燃焼灰50%、粘土50%である。その結果、図13に示すように焼成体のブロックを得ることができた。このブロックの断面は、矩形状であり、その寸法は100mm×100mmである。ダイヤモンドカッターを用いると、散気板の厚さとして好適な厚さ15mmの薄さにスライスできた。このスライスされた散気板についても水中で微細気泡を放出可能であることを確認できた。
【0045】
(実施例6)
実施例6では、散気板により発生した気泡の平均気泡径の測定を実施した。具体的には、ケースが取り付けられた散気板に空気を送り込んで気泡を発生させ、水中における気泡をバックライト法で可視化、高速度カメラで撮影し、撮影した画像に対して画像解析を施すことで、気泡径を算出した。算出した気泡径からザウター平均値を計算し、平均気泡径とした。試験体は、プレス成型法で作成された厚さ15mmの散気板、鋳込み成型法で作成された厚さ27mm、34mmの散気板の3パターンである。いずれの散気板も円盤状である。
【0046】
その結果、図14に示すように、いずれの試験体でも平均気泡径が1mm以下の微細気泡を発生させることができた。鋳込み成型法で作成された散気板は、プレス成型法で作成された散気板よりも平均気泡径が小さかった。また、鋳込み成型法で作成された散気板では、微細気泡が均一に発生していたのに対し、プレス成型法で作成された散気板では、中心部からの気泡が少ない面が存在するなど、気泡の発生にバラツキが見られた。これは、プレス成型法では、型枠内への原料の充填時やプレス圧力を印加する際にムラが生じやすいためであると考えられる。
【0047】
(実施例7)
実施例7では、コンクリート工場排液に対して散気板を用いて中和処理を行うことができるかどうかを検証した。実験装置では、図15に示すようにpH12.42のコンクリート工場排液20Lを水槽に貯め、このコンクリート工場廃液に対して炭酸ガスを供給し、PH値の経時的な変化を測定した。炭酸ガスは、液化ガスボンベ(CO99.5%)から供給され、そのガス流量は1.0L/minである。試験体は、鋳込み成型法で作成された厚さ34mmの散気板、市販散気板A、Bである。いずれも面積を60cmに統一した。なお、市販散気板Aは、実際に中和処理装置で用いられている散気板であり、市販散気板Bは、魚類飼育用のエアストーンとして市販されている散気板である。
【0048】
その結果、図16に示すように、鋳込み成型法で作成された散気板は、市販散気板Aと同等程度の中和処理の効率を有しており、市販散気板Bよりも中和処理の効率が良好であった。なお、CO99.5%の炭酸ガスを火力発電所で採取した排ガス(成分比:CO10%、O10%、N80%)に置き換えて中和処理を行うことができるか検証したところ、同様にコンクリート廃液のpHを7まで下げることに成功した。
【符号の説明】
【0049】
1 散気装置
2 散気板
3 ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図15
図16