(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133353
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】骨接合用ねじ
(51)【国際特許分類】
A61B 17/86 20060101AFI20240920BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240920BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61B17/86
A61L31/06
A61L31/14 500
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024116972
(22)【出願日】2024-07-22
(62)【分割の表示】P 2019177353の分割
【原出願日】2019-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】塚原 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】柘植 智仁
(72)【発明者】
【氏名】船岡 正幸
(57)【要約】
【課題】緩みが生じにくく、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できる骨接合用ねじを提供する。
【解決手段】生体吸収性材料からなる骨接合用ねじであって、前記骨接合用ねじは、頭部と、外周にねじ山が形成された脚部とを有し、前記ねじ山の頂部が平坦である骨接合用ねじ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料からなる骨接合用ねじであって、
前記骨接合用ねじは、頭部と、外周にねじ山が形成された脚部とを有し、
前記ねじ山の頂部が平坦である
ことを特徴とする骨接合用ねじ。
【請求項2】
更に前記ねじ山の谷底部が平坦であることを特徴とする請求項1記載の骨接合用ねじ。
【請求項3】
前記生体吸収性材料がラクチド-グリコール酸共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の骨接合用ねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩みが生じにくく、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できる骨接合用ねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、骨折が治癒するまで骨を固定する骨接合材料としてステンレス、セラミック等より成るワイヤー、プレート、ねじ、ピン、ビス、ステープル、クリップ、ロッド等が用いられている。しかし、金属やセラミックからなる骨接合材料は、人体に吸収されないことから治癒後も体内に残存し、また、これらの骨接合材料は、SUS-316のステンレス製のもので323N/mm2 程度、セラミック製のもので245~490N/mm2 程度と、実用上充分な曲げ強度を有する一方で、人骨に比べて剛性が高すぎることから、適用部の骨が削られたり、持続刺激によって局部の骨の融解、新生骨の強度低下、再生骨の成長遅延等を生じたりする恐れがあるという問題点があった。
【0003】
これに対して、ポリ-L-乳酸等の生体吸収性材料からなる骨接合材料が開発されている。例えば、特許文献1には、生体吸収性材料の成形物を、該ポリマーのガラス転移点以上であって融点以下の温度で静水圧押出しして、生体吸収性材料の分子が長軸方向に配向した高密度成形体であって、浮沈法で測定した密度が1.260g/cm3以上である骨接合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体吸収性材料からなる骨接合材料としては、ねじ状の材料も開発されている。ねじ状の材料は、骨同士の接合、腱等の生体組織と骨との接合、プレート状、ダンベル状等の他の骨接合材料と骨との接合等に用いられている。しかしながら、このようなねじ状の材料は骨が再生するまでの間に徐々に緩みが生じることがあり、骨の固定が不充分になるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、緩みが生じにくく、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できる骨接合用ねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体吸収性材料からなる骨接合用ねじであって、上記骨接合用ねじは、頭部と、外周にねじ山が形成された脚部とを有し、上記ねじ山の頂部が平坦である骨接合用ねじである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、生体吸収性材料からなり、頭部と、外周にねじ山が形成された脚部とを有する骨接合用ねじにおいて、上記ねじ山を頂部が平坦な構造とすることで、骨が再生するまでの間の緩みの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の骨接合用ねじは、生体吸収性材料からなる。
骨接合用ねじを生体吸収性材料によって構成することで、骨接合用ねじが時間の経過とともに体内へ徐々に吸収されることから、後に手術によって取り出す必要がない。
【0010】
上記生体吸収性材料としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子、マグネシウム等の生体吸収性無機物等が挙げられる。なかでも、体内での分解速度が骨接合用ねじとして用いるのに適していることからラクチド-グリコール酸共重合体であることが好ましい。なお、本明細書においてラクチドは、L-ラクチド、D-ラクチド、D,L-ラクチド(ラセミ体)のいずれをも含むが、好ましくはL-ラクチドである。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記生体吸収性材料がラクチド-グリコール酸共重合体である場合、ラクチドとグリコール酸のモル比が70:30~95:5であることが好ましい。このような比率でラクチドとグリコール酸を含むラクチド-グリコール酸共重合体を用いることで、骨の再生まで充分な強度を有する骨接合用ねじとすることができる。上記ラクチド-グリコール酸共重合体におけるラクチドとグリコール酸のモル比は、75:25~90:10であることがより好ましく、79:21~85:15であることが更に好ましい。
【0012】
上記生体吸収性材料が高分子である場合、重量平均分子量は14万以上32万以下であることが好ましい。上記重量平均分子量を14万以上とすることで、骨接合用ねじの強度をより高めることができる。上記重量平均分子量を32万以下とすることで、骨の再生後は骨接合用ねじが早期に体内へ吸収されるため、体内での異物反応を抑えることができる。骨接合用ねじの強度をより高めるとともに、骨の再生後にはより早く体内へ吸収させる観点から、上記生体吸収性材料の重量平均分子量は18万以上がより好ましく、20万以上が更に好ましく、30万以下がより好ましく、28万以下が更に好ましい。
なお、ここで重量平均分子量とは、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。具体的には、カラム温度40℃において溶出液としてクロロホルム、カラムとして細孔多分散型有機溶媒系カラム(例えば、SHODEX GPCカラム LF-80、昭和電工社製)、GPC装置として日立ハイテクノロジーズ社製LaChrom Eliteシステムを用いて、ポリスチレン標準により決定することができる。
【0013】
本発明の骨接合用ねじは、頭部と、外周にねじ山が形成された脚部とを有する。通常、上記頭部と上記脚部とは一体化している。
上記頭部の形状は特に限定されず、例えば、なべ、皿、丸皿、トラス、バインド、低頭等の従来公知の形状が挙げられる。上記頭部は、本発明の骨接合用ねじを使用する際に医療用ドライバー等の器具を接触させるための溝を表面に有していてもよい。上記器具を接触させるための溝の形状は特に限定されず、従来公知の形状が挙げられる。
【0014】
上記脚部は、外周にねじ山が形成されている。上記ねじ山は、通常、上記脚部の外周に沿って螺旋状に形成されており、上記脚部の全体にわたって形成されていてもよいし、一部のみに形成されていてもよい。上記ねじ山の螺旋の向きは特に限定されず、右巻きであってもよいし、左巻きであってもよい。
【0015】
上記ねじ山は、頂部が平坦である。
ここでねじ山の頂部とは、ねじ山の断面図において最も高い部分、言い換えれば最も外側となる部分を意味味する。また、平坦であるとは、画像寸法測定器を用いて1~50程度の倍率にて観察した際に平坦で尖っていないことが確認されることを意味する。
上記ねじ山を頂部が平坦な構造とすることで、骨接合用ねじと骨との密着性及び親和性を高め、骨が再生するまでの間の緩みの発生を抑制できる。
【0016】
上記ねじ山の形状や角度は、頂部が平坦である限りにおいて特に限定されず、従来公知の形状や角度であってよい。上記ねじ山の具体的な断面形状としては、例えば、台形、のこ歯形、長方形、正方形、半円の頂部が平坦になった形等が挙げられる。なかでも、素材が樹脂である骨接合用ねじを脆性材料(骨)に固定するため、軸力に対し最大の抵抗を得られる、のこ歯形が好ましい。上記ねじ山の間隔(リード、ピッチ等)も特に限定されず、従来公知の間隔(リード、ピッチ等)であってよい。
【0017】
上記ねじ山は、谷底部が平坦であることが好ましい。ここでねじ山の谷底部とは、ねじ山の断面図において最も低い部分、言い換えれば最も内側となる部分を意味する。上記ねじ山を頂部に加えて谷底部も平坦な構造とすることで、骨接合用ねじと骨との密着性及び親和性を更に高め、骨が再生するまでの間の緩みの発生をより抑制できる。
【0018】
本発明の骨接合用ねじにおけるねじ山の具体的な断面形状を模式的に示した図を、
図2に示す。
図2に示すように、ねじ山の具体的な断面形状としては、例えば、台形又はのこ歯形(
図2(a)~(d))、長方形(
図2(e))、正方形(
図2(f))、半円の頂部が平坦になった形(
図2(g))等が挙げられる。
図2(b)、(d)、(e)、(f)及び(g)においては、ねじ山の頂部のみならず谷底部も平坦になっている。
なお、ねじ山の断面形状は、画像寸法測定器を用いて1~50程度の倍率にて観察することができる。
【0019】
上記脚部の最大径は特に限定されず、通常、上記頭部の最大径よりも小さい。上記脚部の最大径の好ましい下限は1.0mm、好ましい上限は3.0mmである。上記脚部の最大径を上記範囲とすることで、骨接合用ねじは、緩みが生じにくく、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定することができる。また、骨の再生後は早期に体内へ吸収されるため、体内での異物反応を抑えることもできる。上記脚部の最大径のより好ましい下限は1.7mm、より好ましい上限は2.2mmである。
【0020】
上記脚部の長さは特に限定されないが、好ましい下限は2.5mm、好ましい上限は20.5mmである。上記脚部の長さを上記範囲とすることで、骨接合用ねじは、緩みが生じにくく、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定することができる。また、骨の再生後は早期に体内へ吸収されるため、体内での異物反応を抑えることもできる。上記脚部の長さのより好ましい下限は3.0mm、より好ましい上限は10.0mmである。
なお、骨接合用ねじの頭部の最大径、脚部の最大径及び脚部の長さは、画像寸法測定器を用いて測定することができる。
【0021】
本発明の骨接合用ねじを模式的に示した斜視図及び断面図を、
図1に示す。
図1(a)及び(b)に示すように、本発明の骨接合用ねじ1は、頭部1aと、外周にねじ山が形成された脚部1bとを有する。脚部1bにおいては、ねじ山の頂部A及び谷底部Bが平坦である。ねじ山をこのような構造とすることで、骨接合用ねじ1と骨との密着性及び親和性を高め、骨が再生するまでの間の緩みの発生を抑制できる。
【0022】
本発明の骨接合用ねじを製造する方法は特に限定されず、例えば、生体吸収性材料を用いてねじ山の頂部が平坦になるように射出成形や切削加工をする方法等が挙げられる。
【0023】
本発明の骨接合用ねじの用途は特に限定されず、例えば、骨同士の接合、腱等の生体組織と骨との接合、プレート状、ダンベル状等の他の骨接合材料と骨との接合等のために用いられることが好ましい。すなわち、本発明の骨接合用ねじは、一の塊体と他の塊体とに螺入又は貫通して両者を固定するために用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、緩みが生じにくく、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できる骨接合用ねじを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の骨接合用ねじを模式的に示した斜視図及び断面図である。
【
図2】本発明の骨接合用ねじにおけるねじ山の具体的な断面形状を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
ねじの原料としてラクチド(L体)-グリコール酸共重合体(ラクチドに由来する構成単位:グリコール酸に由来する構成単位のモル比=82:18、重量平均分子量:28万)を準備した。
上記原料を射出成形し、切削加工によりねじ山を形成することにより、骨接合用ねじ(頭部の最大径3.4mm、脚部の最大径2.2mm、脚部の長さ10.0mm)を得た。得られた骨接合用ねじについて画像寸法測定器を用いて5.0の倍率にて観察したところ、ねじ山の断面形状はのこ歯形であり、ねじ山の頂部及び谷底部が平坦であった。
【0028】
(比較例1)
ねじ山の断面形状が三角形であり、ねじ山の頂部及び谷底部が平坦ではなく尖っていた以外は実施例1と同様にして骨接合用ねじを得た。
【0029】
<評価>
実施例、比較例で得られた骨接合用ねじについて以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。
【0030】
(ねじの緩みの評価(引抜試験))
ASTM規格 F2502-17に準じて骨接合用ねじを引き抜くのに必要な力を測定することで、ねじの緩みを評価した。
【0031】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、緩みが生じにくく、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できる骨接合用ねじを提供することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 骨接合用ねじ
1a 頭部
1b 脚部
A 頂部
B 谷底部
【手続補正書】
【提出日】2024-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料からなる骨接合用ねじであって、
前記骨接合用ねじは、医療用ドライバーを接触させる溝が形成された一方側表面を有する頭部と、外周にねじ山が形成された脚部とを一体的に有し、
前記頭部の一方側表面と前記脚部の螺入側表面とは前記骨接合用ねじの断面形状において平行であり、
前記ねじ山の断面形状において最も高い部分である頂部が平坦である
骨接合用ねじ。
【請求項2】
前記頭部は、更に、他方側表面を有し、前記他方側表面と前記脚部の螺入側表面とは前記骨接合用ねじの断面形状において平行である
請求項1に記載の骨接合用ねじ。
【請求項3】
前記ねじ山の断面形状において最も低い部分である谷底部が平坦である
請求項1又は2に記載の骨接合用ねじ。
【請求項4】
前記ねじ山の断面形状が台形、のこ歯形、長方形、正方形、又は、半円の頂部が平坦になった形である
請求項1又は2に記載の骨接合用ねじ。
【請求項5】
前記生体吸収性材料がラクチド-グリコール酸共重合体である
請求項1又は2記載の骨接合用ねじ。
【請求項6】
前記ラクチド-グリコール酸共重合体は重量平均分子量が14万以上32万以下である
請求項5に記載の骨接合用ねじ。
【請求項7】
前記ラクチド-グリコール酸共重合体は、ラクチドとグリコール酸とのモル比が70:30~95:5である
請求項5に記載の骨接合用ねじ。
【請求項8】
前記ラクチド-グリコール酸共重合体を構成するラクチドはL-ラクチドである
請求項5に記載の骨接合用ねじ。