(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133375
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】圧電素子、圧電装置
(51)【国際特許分類】
H10N 30/30 20230101AFI20240920BHJP
H10N 30/082 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/02 20230101ALI20240920BHJP
H04R 17/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H10N30/30
H10N30/082
H10N30/853
H10N30/88
H10N30/02
H04R17/02
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024117752
(22)【出願日】2024-07-23
(62)【分割の表示】P 2021016148の分割
【原出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 和明
(72)【発明者】
【氏名】酒井 峰一
(72)【発明者】
【氏名】小山 友二
(72)【発明者】
【氏名】田中 昌明
(72)【発明者】
【氏名】城森 知也
(72)【発明者】
【氏名】清水 悠平
(57)【要約】
【課題】検出精度の向上を図る。
【解決手段】支持体10と、支持体10上に配置され、圧電膜50と、圧電膜50と接続されて圧電膜50が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜60とを含む構成とされ、支持体に支持される支持領域21aと、支持領域21aと繋がっており、支持体10から浮遊している振動領域22とを有し、電荷に基づいた圧力検出信号を出力する振動部20と、を備える。そして、振動領域22は、支持領域21a側から、振動領域22における中心部Cに向かって複数のスリットが形成されていると共に、支持領域21aに対して両持ち支持された状態となるようにし、支持体10と圧電膜50との間に、下地膜70を備えるようにする。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子であって、
支持体(10)と、
前記支持体上に配置され、圧電膜(50)と、前記圧電膜と接続されて前記圧電膜が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜(60)とを含む構成とされ、前記支持体に支持される支持領域(21a)と、前記支持領域と繋がっており、前記支持体から浮遊している振動領域(22)とを有し、前記電荷に基づいた前記圧力検出信号を出力する前記振動部と、を備え、
前記振動領域は、前記支持領域側から、前記振動領域における中心部(C)に向かって複数のスリット(40~44)が形成されていると共に、前記支持領域に対して両持ち支持された状態となっており、
前記支持体と前記圧電膜との間には、下地膜(70)が備えられている圧電素子。
【請求項2】
前記下地膜は、前記圧電膜よりも厚さが薄くされている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子を備えた圧電装置であって、
請求項1または2に記載の圧電素子と、
前記圧電素子を搭載する被実装部材(101)と、前記圧電素子を収容する状態で前記被実装部材に固定される蓋部(102)と、を有し、外部と連通して前記圧力が導入される貫通孔(101b)が形成されたケーシング(100)と、を備え、
前記スリットは、前記振動領域のうちの前記貫通孔と対向する部分と異なる部分に形成されている圧電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動領域を有する圧電素子、圧電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動領域を有する圧電素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、この圧電素子の振動領域は、圧電膜と、圧電膜と接続された電極膜とを有する構成とされており、片持ち支持されている。そして、このような圧電素子は、音響圧力(以下では、単に音圧ともいう)等によって振動領域が振動することにより、圧電膜が変形して圧電膜に電荷が発生する。このため、電極膜を介して圧電膜に発生した電荷を取り出すことにより、振動領域に印加された音圧が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような圧電素子では、検出精度を向上させたいという要望がある。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、検出精度の向上を図ることができる圧電素子、圧電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1は、圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子であって、支持体(10)と、支持体上に配置され、圧電膜(50)と、圧電膜と接続されて圧電膜が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜(60)とを含む構成とされ、支持体に支持される支持領域(21a)と、支持領域と繋がっており、支持体から浮遊している振動領域(22)とを有し、電荷に基づいた圧力検出信号を出力する振動部と、を備え、振動領域は、支持領域側から、振動領域における中心部(C)に向かって複数のスリット(40~44)が形成されていると共に、支持領域に対して両持ち支持された状態となっており、支持体と圧電膜との間には、下地膜(70)が備えられている。
【0007】
これによれば、振動領域が片持ち支持されている場合と比較すると、共振周波数を大きくできる。したがって、検出感度を維持できる周波数を広域化でき、検出精度の向上を図ることができる。
【0008】
また、請求項3は、圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子を備えた圧電装置であって、請求項1または2に記載の圧電素子と、圧電素子を搭載する被実装部材(101)と、圧電素子を収容する状態で被実装部材に固定される蓋部(102)と、を有し、外部と連通して圧力が導入される貫通孔(101b)が形成されたケーシング(100)と、を備え、スリットは、振動領域のうちの貫通孔と対向する部分と異なる部分に形成されている。
【0009】
これによれば、共振周波数を大きくできる圧電素子を備えているため、検出感度を維持できる周波数を広域化でき、検出精度の向上を図ることができる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】第1実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図1B】第1実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図1C】第1実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図2A】第1実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図2B】第1実施形態における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図3】第1実施形態における圧電素子の回路模式図である。
【
図5】第1実施形態における圧電装置の断面図である。
【
図6】連結長さと圧電素子の共振周波数との関係を示す図である。
【
図7】振動領域に印加される周波数と出力信号との関係を示す図である。
【
図8】連結長さと発生応力比との関係を示す図である。
【
図10A】第1実施形態の変形例における圧電素子の平面図である。
【
図10B】第1実施形態の変形例における圧電素子の平面図である。
【
図11A】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図11B】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図11C】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図11D】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図11E】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図11F】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図11G】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図12】第1実施形態の変形例における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図13】
図12に示す電極膜を有する圧電素子の回路模式図である。
【
図14】第2実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図15】第3実施形態にて説明する振動領域の模式図である。
【
図16】振動領域における曲げモーメントの大きさを示す模式図である。
【
図17】振動領域における応力分布を示す図である。
【
図18】第3実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図20】第4実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図22】第5実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図24A】第6実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図24B】第6実施形態における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図25】第6実施形態における圧電素子の回路模式図である。
【
図26】第6実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図27】第6実施形態の変形例における圧電素子の平面図である。
【
図28】第6実施形態の変形例における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図29】第6実施形態の変形例における圧電素子の回路模式図である。
【
図30】第7実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図31】第7実施形態における圧電装置の断面図である。
【
図32】第8実施形態における圧電装置の断面模式図である。
【
図33】振動領域の厚さを一定とした場合の、スリット幅、スリット長さ、および音響抵抗との関係を示す図である。
【
図34】スリット幅を一定とした場合の、振動領域の厚さ、スリット長さ、および音響抵抗との関係を示す図である。
【
図35】スリット長さと音響抵抗比率との関係を示す図である。
【
図36】第9実施形態における圧電素子のスリットの断面図である。
【
図37】一面側のスリット幅と音響抵抗との関係を示す図である。
【
図38A】第9実施形態の変形例における圧電素子のスリットの断面図である。
【
図38B】第9実施形態の変形例における圧電素子のスリットの断面図である。
【
図38C】第9実施形態の変形例における圧電素子のスリットの断面図である。
【
図39】第10実施形態における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図40A】第10実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図40B】第10実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図41A】第10実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図41B】第10実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図41C】第10実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図42】第11実施形態における圧電装置の断面図である。
【
図43】第12実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図45】
図44Cの製造工程におけるスリットが形成される部分の模式図である。
【
図46】周波数、感度、実効幅の関係を示す図である。
【
図47】圧電膜の膜厚に対するエッチングマスク材の膜厚と、成す角度との関係を示す図である。
【
図48】他の実施形態における圧電装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の圧電素子1について、
図1A、
図1B、
図1C、
図2A、および
図2Bを参照しつつ説明する。なお、本実施形態の圧電素子1は、例えば、マイクロフォンとして利用されると好適である。また、
図1Aは、
図2A中のIA-IA線に沿った断面図に相当し、
図1Bは、
図2A中のIB-IB線に沿った断面図に相当し、
図1Cは、
図2A中のIC-IC線に沿った断面図に相当している。なお、
図2Aでは、後述する第1電極部81および第2電極部82等を省略して示している。また、後述の
図2Aに対応する各図においても、第1電極部81および第2電極部82等を適宜省略して示している。
【0014】
本実施形態の圧電素子1は、支持体10と、振動部20とを備え、平面形状が矩形状とされている。支持体10は、一面11aおよび他面11bを有する支持基板11と、支持基板11の一面11a上に形成された絶縁膜12とを有している。なお、支持基板11は、例えば、シリコン基板等で構成され、絶縁膜12は、酸化膜等で構成されている。
【0015】
振動部20は、圧力としての音圧等に応じた圧力検出信号を出力するセンシング部30を構成するものであり、支持体10上に配置されている。そして、支持体10には、振動部20における内縁側を浮遊させるための凹部10aが形成されている。このため、振動部20は、支持体10上に配置された支持領域21aと、支持領域21aと繋がっていると共に凹部10a上で浮遊する浮遊領域21bとを有する構成となっている。なお、本実施形態の凹部10aは、振動部20側の開口端(以下では、単に凹部10aの開口端ともいう)の形状が平面矩形状とされている。したがって、浮遊領域21bの全体は、平面矩形状とされている。
【0016】
そして、浮遊領域21bには、当該浮遊領域21bを厚さ方向に貫通するスリット40が形成されている。本実施形態では、浮遊領域21bに第1~第4スリット41~44が形成されている。第1~第4スリット41~44は、平面矩形状とされた浮遊領域21bの各角部から浮遊領域21bの中心部Cに向かって延設されている。但し、第1~第4スリット41~44は、中心部Cに達しないように形成されている。言い換えると、第1~第4スリット41~44は、中心部Cよりも支持領域21a側で終端するように形成されている。つまり、第1~第4スリット41~44は、浮遊領域21bを分割しないように形成されている。
【0017】
また、本実施形態では、第1~第4スリット41~44は、延設方向に沿ったスリット長さLがそれぞれ等しくなるように形成されている。さらに、本実施形態の第1~第4スリット41~44は、振動領域22の厚さ方向に沿ってスリット幅gが一定とされている。そして、このような浮遊領域21bによって振動領域22が構成され、振動領域22は、支持領域21aに両持ち支持された状態となっている。
【0018】
なお、第1~第4スリット41~44のスリット幅gとは、第1~第4スリット41~44の延設方向と直交する方向であって、振動領域22の面方向に沿った方向の長さである。言い換えると、第1~第4スリット41~44のスリット幅gとは、第1スリット41~44によって露出する振動領域22の側面22c同士の間隔のことである。
【0019】
以下、振動領域22における支持体10と反対側の面を振動領域22の一面22aとし、振動領域22における支持体10側の面を振動領域22の他面22bとする。同様に、振動領域22における第1~第4スリット41~44から露出する面を振動領域22の側面22cとする。また、以下では、振動領域22の一面22aに対する法線方向において、振動領域22の外形を形作る1辺と、各スリット41~44に沿って延びる仮想線K1、K2で囲まれる領域を第1~第4振動領域221~224とする。なお、以下では、振動領域22の一面22aに対する法線方向を単に法線方向ともいう。また、振動領域22の一面22aに対する法線方向においてとは、言い換えると、振動領域22の一面22aに対する法線方向から視たときということもできる。
【0020】
本実施形態では、第1スリット41および第3スリット43に沿って延びる仮想線を仮想線K1とし、第2スリット42および第4スリット44に沿って延びる仮想線を仮想線K2とする。そして、法線方向において、振動領域22のうちの、第1スリット41と第2スリット42との間を含み、仮想線K1と仮想線K2とで囲まれる領域を第1振動領域221とする。法線方向において、振動領域22のうちの、第2スリット42と第2スリット43との間を含み、仮想線K1と仮想線K2とで囲まれる領域を第2振動領域222とする。法線方向において、振動領域22のうちの、第3スリット43と第4スリット44との間を含み、仮想線K1と仮想線K2とで囲まれる領域を第3振動領域223とする。法線方向において、振動領域22のうちの、第4スリット44と第1スリット41との間を含み、仮想線K1と仮想線K2とで囲まれる領域を第4振動領域224とする。そして、本実施形態の振動領域22は、第1~第4振動領域221~224が一体化されて形成されている。
【0021】
振動部20は、圧電膜50、および圧電膜50と接続される電極膜60を有する構成とされている。具体的には、圧電膜50は、下層圧電膜51と、下層圧電膜51上に積層される上層圧電膜52とを有している。電極膜60は、下層圧電膜51の下方に配置された下層電極膜61、下層圧電膜51と上層圧電膜52との間に配置された中間電極膜62、および上層圧電膜52上に配置された上層電極膜63を有している。つまり、振動部20は、下層圧電膜51が下層電極膜61と中間電極膜62とで挟み込まれており、上層圧電膜52が中間電極膜62と上層電極膜63とで挟み込まれたバイモルフ構造とされている。
【0022】
なお、下層圧電膜51および上層圧電膜52は、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)や、窒化アルミニウム(AlN)等の鉛フリーの圧電セラミックス等を用いて構成されている。下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、モリブデン、銅、プラチナ、白金、チタン等を用いて構成されている。
【0023】
さらに、本実施形態の振動部20は、下層圧電膜51および下層電極膜61が配置される下地膜70を有している。つまり、支持体10上には、下地膜70を介して圧電膜50および電極膜60が配置されている。下地膜70は、必ずしも必要なものではないが、下層圧電膜51等を成膜する際の結晶成長をし易くするために備えられている。なお、本実施形態では、下地膜70は窒化アルミニウム等で構成される。また、圧電膜50は、厚さが1μm程度とされており、下地膜70は、厚さが数十nm程度とされている。つまり、下地膜70は、圧電膜50に対して極めて薄くされている。
【0024】
また、本実施形態の各振動領域22は、振動領域22が振動した際に固定端となる支持領域21a側の部分が第1領域R1とされ、中心部C側が第2領域R2とされている。そして、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、それぞれ第1領域R1および第2領域R2に形成されている。但し、第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63と、第2領域R2に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63とは、分離されており、絶縁された状態となっている。また、第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、支持領域21aまで適宜延設されている。
【0025】
本実施形態では、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、第1~第4スリット41~44に達しないように形成されている。つまり、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、振動領域22のうちの第1~第4スリット41~44から露出する側面22cよりも内側で終端するように形成されている。言い換えると、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、法線方向において、第1~第4スリット41~44よりも内側に配置されている。このため、振動領域22の側面22cは、下層圧電膜51、上層圧電膜52、および下地膜70で構成されている。
【0026】
振動部20の支持領域21aには、第1領域R1に形成された下層電極膜61および上層電極膜63と電気的に接続される第1電極部81と、第1領域R1に形成された中間電極膜62と電気的に接続される第2電極部82とが形成されている。なお、上記のように、
図2Aでは、第1電極部81および第2電極部82を省略して示している。
【0027】
第1電極部81は、上層電極膜63、上層圧電膜52、下層圧電膜51を貫通した孔部81aに形成され、下層電極膜61および上層電極膜63と電気的に接続される貫通電極81bを有している。本実施形態では、貫通電極81bは、第1振動領域221に形成された下層電極膜61および上層電極膜63と電気的に接続されている。また、第1電極部81は、貫通電極81b上に形成されて貫通電極81bと電気的に接続されるパッド部81cを有している。
【0028】
第2電極部82は、上層圧電膜52を貫通して中間電極膜62を露出させる孔部82aに形成され、中間電極膜62と電気的に接続される貫通電極82bを有している。本実施形態では、貫通電極82bは、第4振動領域224に形成された中間電極膜62と電気的に接続されている。また、第2電極部82は、貫通電極82b上に形成されて貫通電極82bと電気的に接続されるパッド部82cを有している。
【0029】
なお、第1電極部81および第2電極部82は、電極膜60と同様に、モリブデン、銅、白金、チタン、アルミニウム等を用いて構成されている。また、第2領域R2に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、各電極部81、82と電気的に接続されておらず、フローティング状態となっている。このため、第2領域R2に形成される下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、必ずしも必要ではないが、本実施形態では、下層圧電膜51および上層圧電膜52のうちの第2領域R2に位置する部分を保護するために設けてある。
【0030】
また、第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、第1~第4振動領域221~224で分割されている。つまり、第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、第1~第4振動領域221~224を跨ぐようには形成されていない。そして、各振動領域221~224の第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、図示しない配線膜等を介して接続されている。
【0031】
なお、本実施形態の下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、
図2Bに示されるように、第1領域R1に形成されている部分の外形が振動領域22の外形と略等しくなるように形成されており、本実施形態では平面矩形状とされている。但し、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、上記のように第1~第4振動領域221~224で分割されている。このため、ここでの下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63の第1領域R1に形成されている部分の外形とは、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63における第1領域R1に位置する部分の外形線および当該外形線の延長線で構成される形状のことである。また、
図2Bは、断面図ではないが、理解をし易くするため、第1領域R1に形成されている電極膜60にハッチングを施してある。さらに、
図2Bでは電極膜60を示しているが、電極膜60となる下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、第1領域R1において、それぞれ
図2Bの電極膜60と同様の形状とされている。
【0032】
そして、本実施形態の圧電素子1は、第1~第4振動領域221~224における電荷の変化を1つの圧力検出信号として出力するように構成されている。具体的には、各振動領域221~224は、バイモルフ構造とされており、
図3に示されるように、各振動領域22に形成される各下層電極膜61、各中間電極膜62、各上層電極膜63がそれぞれ並列に接続されつつ、各振動領域22間が直列に接続されている。そして、圧電素子1は、第1電極部81と第2電極部82との電位差を圧力検出信号として出力する。この場合、例えば、第2電極部82がグランドと接続され、圧電素子1は、グランドと第1電極部81との電位差を圧力検出信号として出力する。
【0033】
【0034】
まず、
図4Aに示されるように、支持基板11および絶縁膜12を有する支持体10上に、下地膜70、圧電膜50、電極膜60、第1電極部81、第2電極部82等が形成されたものを用意する。つまり、
図1Cに示す圧電素子1における凹部10aおよび第1~第4スリット41~44が形成されていないものを用意する。なお、
図Aの工程で構成される圧電膜50および電極膜60等は、振動部20を構成する部分である。このため、
図4A中では、振動領域22の一面22aおよび他面22bと同じ符号を付してある。また、第1電極部81および第2電極部82は、
図4Aとは別断面に形成されている。
【0035】
ここで、下地膜70、圧電膜50、および電極膜60等は、一般的なスパッタやエッチング等を適宜行うことによって構成される。この場合、支持体10上に下地膜70や電極膜60としての下層電極膜61を形成する際、下地膜70および下層電極膜61は、下地膜70および下層電極膜61の線膨張係数が支持体10の線膨張係数より大きいため、引張応力が残存する状態で形成される。このため、そのまま圧電膜50を形成した場合、圧電膜50は、下地膜70および下層電極膜61の引張応力に起因する引張応力が残存した状態で形成され易い。そして、圧電膜50に引張応力が残存していると、圧電素子1の特性変動が発生し易い。したがって、圧電膜50を成膜する際には、例えば、次のようにすることが好ましい。
【0036】
例えば、上層圧電膜52を成膜する際には、下層圧電膜51を成膜する際よりも、スパッタ時に印加する電圧を大きくすることにより、上層圧電膜52に圧縮応力が発生するようにすることが好ましい。これにより、下層圧電膜51の引張応力と上層圧電膜52の圧縮応力とが相殺され、圧電膜50の全体として内部に残存する応力を低減できる。この場合、上層圧電膜52を複数回のスパッタによって成膜するようにしてもよい。そして、上層圧電膜52のうちの、下層圧電膜51側の部分では引張応力が発生するようにすると共に下層圧電膜51と反対側となる最上層側の部分に圧縮応力が発生するようにすることにより、圧電膜50として内部に残存する応力を低減するようにしてもよい。
【0037】
次に、
図4Bに示されるように、図示しないマスクを用いて異方性ドライエッチングを行い、圧電膜50を貫通して支持体10に達する第1~第4スリット41~44を形成する。これにより、後述する凹部10aを形成することで振動領域22となる振動領域構成部分220が構成される。なお、第2、第3スリット43、44は、
図4Bとは別断面に形成される。また、振動領域構成部分220は、凹部10aを形成することで振動領域22となる部分である。このため、図中では、振動領域構成部分220の一面、他面、および側面に対して振動領域22の一面22a、他面22b、および側面22cと同じ符号を付してある。
【0038】
続いて、
図4Cに示されるように、図示しないマスクを用い、支持基板11の他面11bから絶縁膜12を貫通して下地膜70に達するようにエッチングを行って凹部10aを形成する。本実施形態では、支持基板11を異方性ドライエッチングで除去した後、絶縁膜12を等方性ウェットエッチングで除去して凹部10aを形成する。これにより、振動領域構成部分220が支持体10から浮遊して振動領域22が構成され、
図1に示す圧電素子1が製造される。
【0039】
なお、この工程では、特に図示しないが、上層圧電膜52や上層電極膜63を覆う保護レジスト等を配置して凹部10aを形成するようにしてもよい。これにより、凹部10aを形成する際に振動領域22が破壊されることを抑制できる。但し、保護レジストは、凹部10aが形成された後に除去される。
【0040】
以上が本実施形態における圧電素子1の構成である。次に、このような圧電素子1を用いた圧電装置S10について説明する。
【0041】
本実施形態の圧電装置は、
図5に示されるように、圧電素子1がケーシング100に収容されて構成されている。ケーシング100は、圧電素子1および所定の信号処理等を行う回路基板110が搭載されるプリント基板101と、圧電素子1および回路基板110を収容するようにプリント基板101に固定される蓋部102とを有している。なお、本実施形態では、プリント基板101が被実装部材に相当する。
【0042】
プリント基板101は、特に図示しないが、配線部やスルーホール電極等が適宜形成された構成とされており、必要に応じて図示しないコンデンサ等の電子部品等も搭載されている。そして、圧電素子1は、支持基板11の他面11bが接着剤等の接合部材2を介してプリント基板101の一面101aに搭載されている。回路基板110は、導電性部材で構成される接合部材111を介してプリント基板101の一面101aに搭載されている。そして、圧電素子1のパッド部81cと回路基板110とは、ボンディングワイヤ120を介して電気的に接続されている。なお、圧電素子1のパッド部82cは、
図5とは別断面において、ボンディングワイヤ120を介して回路基板110と電気的に接続されている。蓋部102は、金属、プラスチック、または樹脂等で構成されており、圧電素子1および回路基板110を収容するように、図示しない接着剤等の接合部材を介してプリント基板101に固定されている。
【0043】
そして、本実施形態では、プリント基板101のうちのセンシング部30と対向する部分に、外部空間と連通した貫通孔101bが形成されている。具体的には、貫通孔101bは、略円筒状とされており、法線方向において、中心軸が振動領域22のうちの中心部Cと一致するように形成されている。
【0044】
以上が本実施形態における圧電装置S10の構成である。以下、ケーシング100内において、貫通孔101bが形成される部分と振動領域22との間の空間を受圧面空間S1とする。また、振動領域22を挟んで受圧面空間S1と反対側に位置する空間を含み、当該空間とスリット40を介さずに連続した空間をバック空間S2とする。なお、バック空間S2は、ケーシング100内の空間において、受圧面空間S1と異なる空間であるともいうことができ、受圧面空間S1を除いた空間ということもできる。さらに言い換えると、受圧面空間S1は、振動領域22におけるケーシング100に形成された貫通孔101b側の面(すなわち、本実施形態では他面22b)を押圧するのに影響する空間ともいえる。バック空間S2は、振動領域22におけるケーシング100に形成された貫通孔101b側と反対側の面(すなわち、本実施形態では一面22a)を押圧するのに影響する空間ともいえる。
【0045】
次に、上記圧電装置S10における作動および効果について説明する。
【0046】
本実施形態の圧電装置S10では、受圧面空間S1に圧力としての音圧が導入されて振動領域22(すなわち、センシング部30)に音圧が印加されると、振動領域22が振動する。そして、下層圧電膜51および上層圧電膜52には、振動領域22の変位に応じた応力に基づく電荷が発生する。したがって、このような圧電装置S10では、第1電極部81および第2電極部82から当該電荷を取り出すことにより、音圧が検出される。
【0047】
この際、振動領域22(すなわち、圧電膜50)に発生する応力は、振動領域22が支持されている固定端側が中心部Cより大きくなり易い。このため、本実施形態の圧電素子1では、上記のように、振動領域22が、応力が大きくなり易い第1領域R1と、応力が小さくなり易い第2領域R2とに分けられている。そして、圧電素子1では、第1領域R1に配置されている下層電極膜61、上層電極膜63、中間電極膜62が第1、第2電極部81、82と接続され、第1領域R1に位置する下層圧電膜51および上層圧電膜52に発生する電荷が取り出されるようにしている。これにより、ノイズの影響が大きくなることを抑制できる。
【0048】
ここで、圧電素子1における振動領域22の共振周波数f(以下では、単に圧電素子1の共振周波数fともいう)は、梁となる振動領域22のバネ定数kと、振動領域22の質量mに依存し、下記数式1で示される。
【0049】
【数1】
この場合、上記のような圧電素子1では、圧電膜50が1μm程度の薄膜とされているため、質量mを軽量化することが困難である。このため、本実施形態では、振動領域22を両持ち支持構造とし、バネ定数kを大きくするようにしている。これにより、共振周波数fを大きくできる。
【0050】
例えば、
図2Aに示されるように、第1スリット41と振動領域22の中心部Cとの間の長さを第1長さXとし、第2スリット42と振動領域22の中心部Cとの間の長さを第2長さYとする。本実施形態では、上記のように第1~第4スリット41~44のスリット長さLが等しくされているため、第1長さXと第2長さYとが等しくなる。そして、第1長さXと第2長さYとの和を連結長さ(すなわち、X+Y)とすると、連結長さと共振周波数fとの関係は、
図6のように示される。
【0051】
具体的には、振動領域22が両持ち支持されている場合、連結長さを長くするほどバネ定数(すなわち、剛性)が大きくなるため、振動領域22が片持ち支持されている場合と比較すると、共振周波数fが大きくなることが確認される。このため、
図7に示されるように、連結長さを調整することにより、共振周波数fを可聴域である20000Hz(すなわち、20kHz)より大きくできる。言い換えると、連結長さを調整することにより、周波数が1000Hz(すなわち、1kHz)である場合の出力信号を基準(すなわち、0dB)とすると、出力信号が+3dBとなる周波数より大きい周波数に共振周波数fを存在させることができるようになる。これにより、検出感度を維持できる周波数を広域化できる。但し、本実施形態の振動領域22は、圧電膜50の厚さが1μm程度とされるため、連結長さが300μm程度となると、共振周波数fが22.5kHz程度で飽和する。なお、出力信号が-3dBより小さい周波数に低周波ロールオフ周波数が存在できるようにすることにより、さらに検出感度を維持できる周波数を広域化できる。この低周波ロールオフ周波数については、後述の第8実施形態にて具体的に説明する。
【0052】
一方、
図8に示されるように、連結長さを長くするほどバネ定数が大きくなって振動領域22が変形し難くなるため、発生応力比が小さくなる。つまり、連結長さを長くするほど感度が低くなる。この場合、
図9に示されるように、入力される音圧の周波数が一定であるとすると、感度を低くすることにより、AOP(Acoustic Over Pointの略)を大きくできる。したがって、連結長さは、使用される用途に応じて調整されることが好ましい。なお、
図8中の発生応力比は、振動領域22が片持ち支持されている場合の振動領域22と支持領域21aとの境界に発生する応力を基準としている。そして、発生応力比は、当該基準の応力に対する、振動領域22が両持ち支持されている場合の振動領域22と支持領域21aとの境界に発生する応力の比を示している。
【0053】
以上説明した本実施形態によれば、圧電素子1は、振動領域22が両持ち支持されている。このため、振動領域22が片持ち支持されている場合と比較すると、共振周波数fを大きくできる。したがって、検出感度を維持できる周波数を広域化でき、検出精度の向上を図ることができる。
【0054】
(1)本実施形態では、圧電素子1の共振周波数fを20kHz以上とすることもできる。このため、このような圧電素子1では、共振周波数fを可聴域外にすることができ、可聴域での検出感度を維持できる周波数を広域化できる。
【0055】
(第1実施形態の変形例)
上記第1実施形態の変形例について説明する。上記のように、連結長さは、用途および検出感度との関係に応じて適宜調整されることが好ましい。この場合、
図10Aに示されるように、第1スリット41および第3スリット43と、第2スリット42および第4スリット44とのスリット長さLが異なるように形成されていてもよい。そして、第1長さXおよび第2長さYは、同じ距離とされていなくてもよく、第1長さXが第2長さYより短くされていてもよい。また、特に図示しないが、第1長さXおよび第2長さYは、第1長さXが第2長さYより長くされていてもよい。
【0056】
さらに、第1~第4スリット41~44は、
図10Bに示されるように、振動領域22における第1領域R1のみに形成されていてもよい。また、特に図示しないが、第1~第4スリット41~44のスリット長さLがそれぞれ異なるように形成されていてもよい。
【0057】
このように、本実施形態の圧電素子1は、第1~第4スリット41~44のスリット長さLが適宜変更可能であり、搭載される製品に応じて変更可能である。したがって、本実施形態の圧電素子1では、搭載される製品の選択性の向上を図ることもできる。
【0058】
また、振動領域22における平面形状は、適宜変更可能である。例えば、振動領域22は、
図11A~
図11Gに示されるように、平面形状が、六角形状、八角形上、十角形状、十二角形状、十四角形状、十六角形状、または円形状とされていてもよい。また、特に図示しないが、振動領域22は、その他の多角形状とされていてもよい。なお、
図11A~
図11Gでは、振動領域22に形成されるスリット40を省略しているが、振動領域22には、それぞれスリット40が形成される。例えば、
図11Aのように振動領域22の平面形状が六角形状である場合、スリット40は、振動領域22の外形の各角部から中心部Cに向かって6本形成される。また、
図11Gのように振動領域22の平面形状が円形状である場合、スリット40は、所望する複数本が周方向に均等に形成される。
【0059】
さらに、
図12に示されるように、電極膜60は、第1領域R1において複数の電荷領域60aに分割されていてもよい。例えば、電極膜60は、各振動領域221~224の第1領域R1において、3つの電荷領域60aに分割されていてもよい。なお、電極膜60となる下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、第1領域R1において、それぞれ
図12のように電荷領域60aに分割される。この場合、
図13に示されるように、圧電素子1は、分割された各電荷領域60aによって構成される容量がそれぞれ直列に接続された状態となる。これによれば、各振動領域221~224内の容量を低減することができ、出力の向上を図ることができる。つまり、検出感度の向上を図ることができる。
【0060】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、第1~第4スリット41~44の形状を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0061】
本実施形態の圧電素子1では、
図14に示されるように、第1~第4スリット41~44は、法線方向において、中心部Cに向かってスリット幅gが狭くされたテーパ状とされている。
【0062】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0063】
(1)本実施形態では、第1~第4スリット41~44が振動領域22の中心部Cに向かってスリット幅gが狭くなるテーパ状とされている。このため、振動領域22に音圧が印加されて振動領域22が撓んだ際、撓んだ状態での第1~第4スリット41~44のスリット幅gが均一化し易くなる。言い換えると、振動領域22が撓んだ際、第1~第4スリット41~44は、法線方向において、支持領域21a側の部分と中心部C側の部分とでスリット幅gが均一化し易くなる。したがって、第1~第4スリット41~44内で局所的な音圧の抜け易さに差が発生し難くなり、ノイズを小さくできる。このため、さらに検出精度の向上を図ることができる。
【0064】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、第1領域R1と第2領域R2との区画の仕方を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0065】
本実施形態の圧電素子1は、上記第1実施形態と同様の構成とされてあり、振動領域22が両持ち支持されている。ここで、
図15に示されるように、振動領域22の他面22b側から音圧が印加されたとする。この場合、
図16に示されるように、振動領域22には、支持領域21a側に最大曲げモーメントMmaxが発生し、中心部Cにも大きな曲げモーメントが発生する。なお、圧電膜50には、
図17に示されるように、下層圧電膜51と上層圧電膜52とに反対の応力が発生している。また、圧電膜50には、支持領域21側の外縁部分と、中心部C側の内縁部分とにおいて、反対の応力が発生している。つまり、圧電膜50には、第1領域R1に位置する部分と、中心部C側に位置する部分とにおいて、反対の応力が発生している。
【0066】
したがって、本実施形態では、
図18に示されるように、振動領域22の中心部C、およびその周辺部を含む中心領域225も第1領域R1とし、この中心領域225の電荷も取り出すようにしている。なお、中心領域225は、第1~第4振動領域221~224における中心部C側の領域にて構成される領域ともいえる。
【0067】
具体的には、本実施形態では、
図19に示されるように、中心領域225の電荷が第1~第4振動領域221~224の電荷と合算して出力されるようにしている。詳しくは、本実施形態の圧電素子1には、第1電極部81および第2電極部82に加え、第3電極部83および第4電極部84が形成されている。中心領域225では、下層電極膜61および上層電極膜63が第3電極部83と電気的に接続され、中間電極膜62が第4電極部84と接続されている。なお、中間電極膜62と接続される第4電極部82は、第2電極部82と同様に、例えば、グランドに接続される。また、圧電膜50には、第1領域R1に位置する部分と、中心領域225に位置する部分とにおいて、反対の応力が発生している。このため、圧電素子1は、第1電極部81と第2電極部82との電位差に基づく出力と、第3電極部83と第4電極部84との電位差に基づく出力との差分を全体の圧力検出信号として出力する。
【0068】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
(1)本実施形態では、振動領域22における中心領域225の電荷も取り出すようにしている。このため、検出感度の向上を図ることができる。
【0070】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、振動領域22の構成を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0071】
本実施形態の圧電素子1では、
図20および
図21に示されるように、第1~第4スリット41~44が振動領域22の中心部Cまで延設されている。すなわち、第1~第4スリット41~44は、中心部Cで交差するように形成されている。このため、第1~第4振動領域221~224は、第1~第4スリット41~44によって区画された状態となっている。なお、
図20は、
図21中のXX-XX線に沿った断面図に相当している。また、
図21は、断面図ではないが、理解をし易くするため、後述する連結部材90にハッチングを施してある。
【0072】
そして、本実施形態では、第1~第4スリット41~44のうちの中心部Cおよびその近傍に連結部材90が埋め込まれている。本実施形態では、この連結部材90によって第1~第4振動領域221~224が一体化され、振動領域22が支持領域21aに両持ち支持された状態となっている。本実施形態の連結部材90は、圧電膜50よりも剛性の低い材料で構成され、例えば、イオン液体にポリイミド成分を混ぜた材料が150℃程度の熱処理で硬化されたもので構成される。なお、イオン液体とは、イオンのみ(すなわち、アニオンおよびカチオン)から構成される塩の液体化合物のことである。
【0073】
このような圧電素子1は、例えば、次のように製造される。すなわち、上記
図4Bの工程で第1~第4スリット41~44を形成する際、第1~第4スリット41~44が振動領域22の中心部Cで交差するようにする。その後、上層電極膜63等を覆うようにフォトレジスト等を配置し、連結部材90が配置される部分に開口部が形成されるようにフォトレジストをパターニングする。次に、スピンコート法等により、第1~第4スリット41~44に連結部材90を埋め込み、加熱処理を行って硬化する。続いて、フォトレジストを除去するリフトオフを行うことにより、第1~第4スリット41~44に連結部材90が配置された状態とする。その後、上記
図4Cの工程を行うことにより、
図20および
図21に示す圧電素子1が製造される。
【0074】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
(1)本実施形態のように、連結部材90によって振動領域22を両持ち支持するようにしてもよい。
【0076】
(2)本実施形態では、連結部材90は、圧電膜50よりも剛性の低い材料で構成されている。このため、連結部材90が圧電素子1の検出感度に影響することを抑制できる。
【0077】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第4実施形態に対し、振動領域22の構成を変更したものである。その他に関しては、第4実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0078】
本実施形態の圧電素子1では、
図22および
図23に示されるように、第1~第4スリット41~44に連結部材90が配置されておらず、振動領域22の一面22a上に連結部材91が配置されている。なお、
図22は、
図23中のXXII-XXII線に沿った断面図に相当している。また、
図23は、断面図ではないが、理解をし易くするため、後述する連結部材91にハッチングを施してある。
【0079】
具体的には、連結部材91は、振動領域22の一面22a上において、第1~第4スリット41~44のうちの中心部Cおよびその近傍の部分を被覆する(すなわち、跨ぐ)ように配置されている。本実施形態では、このようにして第1~第4振動領域221~224が一体化され、振動領域22が支持領域21aに両持ち支持された状態となっている。なお、連結部材91は、圧電膜50よりも剛性の低い材料で構成され、例えば、ポリイミド等によって構成される。より詳しくは、連結部材90は、ポリジメチルシロキサン(すなわち、PDMS)等によって構成される。
【0080】
このような圧電素子1は、例えば、次のように製造される。すなわち、第1~第4スリット41~44を振動領域22の中心部Cで交差するように形成した後、スピンコート法等によって連結部材91を配置する。なお、本実施形態では、スピンコート法を行った際に第1~第4スリット41~44内に連結部材91が入り込まないように、連結部材91の粘性が調整されている。続いて、フォトレジストを用いて連結部材91をパターニングする。その後、上記
図4Cの工程を行うことにより、上記
図22および
図23に示す圧電素子1が製造される。
【0081】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
(1)本実施形態のように、連結部材91によって振動領域22を両持ち支持するようにしてもよい。
【0083】
(2)本実施形態では、連結部材91が圧電膜50よりも剛性の低い材料で構成されているため、上記第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0084】
(第6実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対し、振動領域22および中間電極膜62の形状を調整したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0085】
本実施形態の圧電素子1について、
図24Aおよび
図24Bを参照しつつ説明する。なお、
図22では、スリット40を省略して示している。但し、スリット40は、実際には、上記第1実施形態と同様に、振動領域22の平面形状における各角部から中心部Cに向かって延設されている。
【0086】
振動領域22は、
図24Aに示されるように、法線方向において、外形が正八角形状とされている。つまり、支持体10の凹部10aは、開口部の形状が正八角形状とされている。以下、振動領域22が正八角形状とされている理由について説明する。上記のように、本実施形態では、支持基板11がシリコンで構成されている。このため、凹部10aの開口部の形状(すなわち、振動領域22の外形)を正八角形状とすることにより、支持基板11における凹部10aの開口端(すなわち、振動領域22の外側端部)の局所箇所に歪が集中することを抑制できる。このため、振動領域22における支持領域21aとの境界部の局所箇所に歪が集中することを抑制できる。
【0087】
また、本実施形態の電極膜60は、
図24Bに示されるように、法線方向において、第1領域R1に形成される部分の外形が正八角形状とされている。つまり、電極膜60は、第1領域において、外縁部が凹部10aの開口端と略一致するように形成されている。そして、電極膜60は、第1領域R1に形成される部分がスリット40とは異なる電極膜用スリット60bによって分離されている。具体的には、電極膜用スリット60bは、6本形成されており、各電極膜用スリット60b内の所定箇所を結んで構成される仮想形状(以下では、単に仮想形状ともいう)KSが六角形状となるように形成されている。より詳しくは、電極膜用スリット60bは、各電極膜用スリット60bと電極膜60の外形とが交差する部分を結んで構成される仮想形状KSが六角形状となるように形成されている。
【0088】
なお、ここでの電極膜60の第1領域R1に位置する部分の外形とは、上記のように、電極膜60における第1領域R1に位置する部分の外形線および当該外形線の延長線で構成される形状のことである。
【0089】
以下、電極膜60の仮想形状KSが六角形状とされている理由について説明する。上記のように、電極膜60および圧電膜50は、下層電極膜61、下層圧電膜51、中間電極膜62、上層圧電膜52、上層電極膜63の順に積層されて配置されている。そして、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63を形成する際には、金属膜を成膜した後、マスクを用いたドライエッチング等で金属膜を所望の形状にパターニングする。この際、マスクを用いているものの、下地となる下層圧電膜51や上層圧電膜52がエッチングされる可能性がある。この場合、圧電膜50をScAlNやAlN等で構成した場合には六方晶構造となるため、電極膜60の仮想形状KSを六角形状とすることにより、圧電膜50の表面がエッチングされた際に圧電膜50の結晶性が崩れることを抑制できる。つまり、電極膜用スリット60bが形成される部分を圧電膜50の結晶構成に合わせることにより、圧電膜50の特性が変動することを抑制できる。
【0090】
そして、本実施形態の圧電素子1は、
図25に示されるように、各電極膜61~63の間の容量が接続される。本実施形態では、上記のように、電極膜60がスリット40とは別の電極膜用スリット60bによって6個に分割されている。このため、本実施形態の圧電素子1は、6個に分割された領域226を有し、各領域226の容量に基づいた圧力検出信号を出力する。
【0091】
なお、本実施形態の電極膜60は、上記のように電極膜用スリット60bによって分離されており、スリット40によって分離されていない。このため、
図26に示されるように、電極膜60は、スリット40が形成される部分において、繋がった状態となっている。このような圧電素子1は、例えば、
図4Aおよび
図4Bの工程を行う際、各膜を形成する毎にスリット40または電極膜用スリット60bを形成することによって製造される。例えば、下地膜70を形成した後、下地膜70上に金属膜を形成する。そして、金属膜をパターニングして下層電極膜61を形成する際に電極膜用スリット60bを形成する。その後、下層電極膜61上に下層圧電膜51を形成し、中間電極膜62を形成する前に、下層圧電膜51に、下層圧電膜51のみを貫通するスリット40を形成すればよい。その後、中間電極膜62、上層圧電膜52、および上層電極膜63も同様に形成することにより、本実施形態の圧電素子1が製造される。
【0092】
また、本実施形態の電極膜60は、実際には、中心部Cと反対側の外縁端部が第1領域R1の外側まで形成されていると共に、内縁端部が第2領域R2内まで形成されている。このため、金属膜を成膜した後に当該金属膜を所望の形状にパターニングして中間電極膜62や上層電極膜63を形成する際、電極膜用スリット60bと異なる部分では、圧電膜50が除去されたとしても、第1領域R1外の圧電膜50が除去される。したがって、仮想形状KSを六角形状とすることにより、検出精度が低下することを抑制できる。
【0093】
また、振動領域22および電極膜60の仮想形状KSは、中心部Cを基準として点対称となるように配置されている。本実施形態では、法線方向において、電極膜60の仮想形状KSが六角形状とされ、振動領域22の外形が正八角形状とされている。そして、振動領域22および電極膜60は、電極膜60の仮想形状KSにおける相対する2つの頂点と、振動領域22の外形における相対する2つの頂点とが一致するように配置されている。言い換えると、振動領域22における相対する2つの頂点を結ぶ仮想線K3上に、電極膜60の仮想形状KSにおける相対する2つの頂点が配置されている。
【0094】
さらに、本実施形態の圧電素子1(すなわち、振動部20)は、上記のように平面矩形状とされている。そして、振動領域22および電極膜60の仮想形状KSは、圧電素子1の外形における相対する角部を結ぶ仮想線K4上と異なる部分に各角部が位置するように形成されている。
【0095】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(1)本実施形態では、法線方向において、振動領域22および電極膜60は、中心部Cを基準として点対称となるように配置されている。このため、振動領域22に音圧が印加された際、電極膜60から均等に電荷を取り出し易くできる。したがって、検出感度が低下することを抑制でき、検出精度が低下することを抑制できる。
【0097】
(2)本実施形態では、振動領域22および電極膜60の仮想形状KSは、圧電素子1の外形における相対する角部を結ぶ仮想線K4上と異なる部分に各角部が位置するように形成されている。このため、検出精度が低下することを抑制できる。すなわち、圧電素子1では、相対する角部を結ぶ仮想線K4上となる部分が熱応力等によって歪易い。この場合、振動領域22の角部または電極膜60の仮想形状KSの角部が仮想線K4上に位置していると、変形し易い角部に大きな熱応力が印加され易くなり、ノイズが大きくなり易い。したがって、本実施形態のように、振動領域22および電極膜60の角部が仮想線K4上と異なる部分に位置するようにすることにより、検出精度が低下することを抑制できる。
【0098】
(3)本実施形態では、電極膜60の仮想形状KSが六角形状とされている。このため、電極膜60をパターニングして構成する際に圧電膜50の結晶性が崩れることを抑制できる。したがって、圧電素子1の特性が変動することを抑制できる。
【0099】
(4)本実施形態では、振動領域22の外形が正八角形状とされている。このため、振動領域22の局所箇所に歪が集中することを抑制できる
【0100】
(第6実施形態の変形例)
上記第6実施形態の変形例について説明する。上記第6実施形態において、振動領域22および電極膜60が中心部Cを基準として点対称となるように配置されていれば、上記第6実施形態と同様に、電極膜60から均等に電荷を取り出し易くできる。このため、例えば、
図27に示されるように、振動領域22および電極膜60は、振動領域22における相対する一対の辺の中心と中心部Cとを結ぶ仮想線K3上に、電極膜60における仮想形状KSにおける一対の頂点が位置するように配置されていてもよい。なお、このような構成とする場合においても、振動領域22および電極膜60は、各角部が仮想線K4上と異なる部分に位置するように形成されることが好ましい。また、
図27では、
図24Aと同様に、スリット40の図示を省略している。
【0101】
さらに、上記第6実施形態において、第1実施形態の変形例と同様に、電極膜60は、
図28に示されるように、第1領域R1において、複数の電荷領域60aに分割されていてもよい。そして、
図29に示されるように、分割された各電荷領域60aがそれぞれ直列に接続されるようにしてもよい。なお、電極膜60をこのように構成する場合、圧電膜50に形成されるスリット40によって電極膜60を形成するようにしてもよい。
【0102】
(第7実施形態)
第7実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、圧電装置S10の貫通孔101bの形成場所を特定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0103】
本実施形態の圧電装置S10では、
図30および
図31に示されるように、第1~第4スリット41~44は、プリント基板101に形成された貫通孔101bと対向する部分と異なる部分に形成されている。言い換えると、貫通孔101bは、プリント基板101のうちの第1~第4スリット41~44と対向する部分と異なる部分に形成されている。なお、
図30では、貫通孔101bと対向する部分を破線で示している。
【0104】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0105】
(1)本実施形態では、第1~第4スリット41~44がプリント基板101に形成された貫通孔101bと対向する部分と異なる部分に形成されている。このため、音圧が第1~第4スリット41~44を通じてバック空間S2にそのまま流れ込むことを抑制できる。これにより、第1~第4スリット41~44のブラウン運動に起因するノイズを低減できる。また、第1~第4スリット41~44にダスト等の異物が堆積することを抑制できる。
【0106】
(第8実施形態)
第8実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、スリット長さL等を規定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0107】
本実施形態の圧電装置S10は、基本的には第1実施形態と同様であり、
図32に示すように構成とされている。なお、
図32中の圧電素子1は、
図1Cの圧電素子1に相当している。また、
図32は、後述する音響抵抗Rg等を模式的に示している。この場合、圧電装置S10における感度は、圧電素子1の音響コンプライアンスをCmとし、バック空間S2の音響コンプライアンスをCbとすると、1/{(1/Cm)+(1/Cb)}で示される。なお、音響コンプライアンスCbは、下記数式2で示される。
【0108】
【数2】
上記数式2において、Vbはバック空間S2の容積であり、ρ0は空気密度であり、cは音速である。そして、音響コンプライアンスCbは、バック空間S2の容積Vbに比例する。このため、音響コンプライアンスCbの感度に対する影響は、バック空間S2が小さくなるほど小さくなる。そして、現状では、圧電装置S10の小型化が望まれており、圧電装置S10の小型化を図ることでバック空間S2も小さくなる。したがって、圧電装置S10の感度は、圧電素子1の音響コンプライアンスCmの影響が大きくなる。
【0109】
ここで、上記第1実施形態では、圧電素子1の共振周波数を大きくすることによって感度を維持できる周波数を広域化している。この場合、低周波ロールオフ周波数を小さくすることによっても、感度を維持できる的周波数を広域化できる。このため、本実施形態では、低周波ロールオフ周波数を小さくするようにしている。
【0110】
まず、低周波ロールオフ周波数frは、スリット40(すなわち、第1~第4スリット41~44)による音響抵抗(すなわち、空気抵抗)をRgとすると、下記数式3で示される。
【0111】
【数3】
このため、低周波ロールオフ周波数frを小さくするためには、音響抵抗Rgまたはバック空間S2の音響コンプライアンスCbを大きくすればよい。但し、音響コンプライアンスCbは、上記数式2のように、バック空間S2の容積Vbに比例する。そして、現状では、圧電装置S10の小型化が望まれている。このため、低周波ロールオフ周波数frを小さくするためには、音響抵抗Rgを大きくすることが好ましい。そして、音響抵抗Rgは、下記数式4で示される。
【0112】
【数4】
上記数式4において、μは、空気の摩擦抵抗であり、hは振動領域22の厚さであり、gはスリット40のスリット幅gであり、Lは各振動領域22におけるスリット40のスリット長さLである。なお、本実施形態では、第1~第4スリット41~44のスリット幅gが互いに等しいと共に、第1~第4スリット41~44のスリット長さLが互いに等しいとしている。
【0113】
そして、低周波ロールオフ周波数frを可聴域外となる20Hz以下とするには、下記数式5を満たすようにすればよい。
【0114】
【数5】
この場合、数式5を変更すると下記数式6となる。そして、数式6を数式4に基づいて変更すると下記数式7となる。
【0115】
【0116】
【数7】
このため、低周波ロールオフ周波数frを20Hz以下にするためには、スリット長さL、スリット幅g、振動領域22の厚さh、バック空間S2の音響コンプライアンスCbが上記数式7を満たすように形成されていればよい。そして、本実施形態では、上記数式7を満たすように、スリット長さLが調整されている。
【0117】
ここで、例えば、振動領域22の厚さhを1μmにした場合、
図33に示されるように、音響抵抗Rgは、スリット幅gが長くなるにつれて小さくなると共に、スリット長さLが長くなるにつれて小さくなることが確認される。また、スリット幅gを1μmとした場合、
図34に示されるように、音響抵抗Rgは、振動領域22の厚さhを厚くするにつれて小さくなると共に、スリット長さLが長くなるにつれて小さくなることが確認される。そして、
図35に示されるように、例えば、音響抵抗が100Hz程度となるスリット長さLが700μmである場合を基準とすると、スリット長さLは、150μm程度であれば、20Hz以下とできることが確認される。
【0118】
なお、
図35では、スリット長さLが700μmである場合を基準としているため、スリット長さLが700μmである場合の音響抵抗比率が1となる。また、
図35は、バック空間S2の音響コンプライアンスCbに影響するバック空間S2の容積を4×10
-9m
3としている。
【0119】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0120】
(1)本実施形態では、スリット長さL、スリット幅g、振動領域22の厚さh、バック空間S2の音響コンプライアンスCbは、上記数式7を満たすように形成されている。このため、低周波ロールオフ周波数frを20Hz以下にでき、感度を維持できる範囲を広くできる。
【0121】
(第9実施形態)
第9実施形態について説明する。本実施形態は、第8実施形態に対し、スリット40の形状を変更したものである。その他に関しては、第8実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0122】
上記第8実施形態では、スリット幅gが振動領域22の厚さ方向に沿って一定である構成について説明した。しかしながら、スリット40は、スリット幅gが振動領域22の厚さ方向に沿って変化するようにしてもよく、例えば、
図36に示されるように、スリット幅gが3段階で変化する形状とされていてもよい。具体的には、本実施形態では、スリット40(すなわち、第1~第4スリット41~44)は、振動領域22の他面22b側から一面22a側に向かって、スリット幅gがg1、g2、g3の順に広くなるように形成されている。
【0123】
この場合、スリット長さLは、下記数式8で示される。なお、下記数式8では、振動領域22において、スリット幅がg1となる部分の厚さを振動領域22の厚さh1とし、スリット幅がg2となる部分の厚さを振動領域22の厚さh2とし、スリット幅がg3となる部分の厚さを振動領域22の厚さh3としている。
【0124】
【数8】
また、スリット40は、他面22b側の幅をg1とすると共に一面22a側の幅をg3とした場合、他面22bと一面22aとの間の変化する段数を変化させると、音響抵抗Rgが
図37に示されるようになる。具体的には、他面22b側のスリット幅g1と一面22a側のスリット幅g3とが同じである場合、変化する段数が少ない方が音響抵抗Rgが大きくなり易いことが確認される。そして、低周波ロールオフ周波数frは、上記数式3より、音響抵抗Rgが大きい方が小さくなる。このため、スリット40のスリット幅gを振動領域22の厚さ方向に沿って変化させる場合には、バック空間S2の音響コンプライアンスCbを考慮して段数を調整することが好ましい。なお、
図37は、他面22b側のスリット幅g1を0.8μmとすると共に振動領域22の全体の厚さhを1μmとし、一面22a側のスリット幅g3を変化させた場合の図である。
【0125】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0126】
(1)本実施形態のように、スリット40は、振動領域22の厚さ方向に沿ってスリット幅gが一定とされていなくてもよい。
【0127】
(第10実施形態の変形例)
上記第10実施形態の変形例について説明する。上記第10実施形態において、スリット40(すなわち、第1~第4スリット41~44)の形状は、適宜変更可能である。例えば、
図38Aに示されるように、第1~第4スリット41~44は、他面22b側のスリット幅gが一定とされ、一面22a側のスリット幅gが徐々に広くなるテーパ状とされていてもよい。また、
図38Bに示されるように、第1~第4スリット41~44は、振動領域22の厚さ方向における中央部でのスリット幅gが最も狭くなる構成とされていてもよい。そして、
図38Cに示されるように、第1~第4スリット41~44は、振動領域22の厚さ方向において、振動領域22のスリット幅gが狭い部分と広い部分とが交互に形成されるようにしてもよい。
【0128】
(第10実施形態)
第10実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、接合部材2の形状を規定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0129】
本実施形態の圧電装置S10では、
図39に示されるように、接合部材2は、法線方向において、外形が角部を有する矩形状とされている。そして、接合部材2は、圧電素子1における支持基板11の他面11bにおいて、圧電素子1の角部となる部分と異なる部分に接合されている。本実施形態では、接合部材2は、法線方向において、圧電素子1における相対するそれぞれの辺部から、接合部材2の各角部が突出するように配置されている。また、接合部材2は、接合部材2の角部が、圧電素子1の外形における相対する角部を結ぶ仮想線K4上と異なる部分に位置するように配置されている。なお、本実施形態の接合部材2は、外形が予め規定された接合シートを用いて構成されている。
【0130】
また、本実施形態の電極膜60および振動領域22は、上記第6実施形態と同様に、電極膜60が六角形状とされ、振動領域22が正八角形状とされている。そして、電極膜60および振動領域22は、中心部Cを基準として点対称となるように配置されている。なお、
図39では、スリット40を省略して示してある。
【0131】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0132】
(1)本実施形態では、接合部材2は、圧電素子1における外形の角部と異なる部分に配置されている。このため、プリント基板101から圧電素子1のうちの変形が大きくなり易い角部に熱応力が伝搬されることを抑制できる。したがって、伝搬された熱応力によって圧電素子1が変形し難くなり、振動領域22が変形し難くなる。これにより、検出感度が低下することを抑制でき、検出精度の向上を図ることができる。
【0133】
(2)本実施形態では、接合部材2は、外形が角部を有する矩形状とされている。そして、接合部材2は、法線方向において、角部が仮想線K4上と異なる部分に位置するように配置されている。このため、圧電素子1の変形によって接合部材2の角部に応力が集中することを抑制でき、接合部材2が剥離する等の不具合が発生することを抑制できる。
【0134】
(第10実施形態の変形例)
上記第10実施形態の変形例について説明する。接合部材2は、
図40Aに示されるように、法線方向において正三角形状とされていてもよいし、
図40Bに示されるように、法線方向において正八角形状とされていてもよい。また、特に図示しないが、接合部材2は、法線方向において、正六角形状や正十角形状等とされていてもよい。そして、接合部材2は、法線方向において、圧電素子1から突出するように配置されていてもよいし、圧電素子1の内側のみに配置されていてもよい。
【0135】
また、接合部材2は、プリント基板101に形成される貫通孔101bを基準として、
図41A~
図41Cに示されるように配置されていてもよい。なお、
図41A~
図41Cは、圧電素子1および接合部材2を支持基板11の他面11b側から視た平面図である。また、
図41A~
図41Cでは、振動領域22を省略して示し、貫通孔101bと対向する部分を破線で示している。そして、
図41A~
図41Cでは、支持基板11に形成される凹部10aは、法線方向において、貫通孔101bと一致する形状とされている。
【0136】
例えば、
図41Aに示されるように、接合部材2は、法線方向において貫通孔101bを囲む環状とされていてもよい。また、
図41Bに示されるように、接合部材2は、法線方向において、一方向に延設された部分と、当該一方向と直交する部分に延設された+字状とされていてもよい。そして、接合部材2は、
図41Cに示されるように、法線方向において、ひし形とされていてもよい。なお、
図41Bでは、接合部材2の角部が仮想線K4上に位置する構成となる。しかしながら、このような構成としても、接合部材2が圧電素子1の角部と異なる部分にのみ接合されることにより、熱応力が圧電素子1の角部に伝搬され難くなり、上記第10実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0137】
(第11実施形態)
第11実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、プリント基板101に突起部を形成したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0138】
本実施形態の圧電装置S10では、
図42に示されるように、プリント基板101に突起部101cが形成されている。具体的には、突起部101cは、接合部材2の外形に合わせた形状とされ、プリント基板101の一部で構成されている。例えば、本実施形態の突起部101cは、プリント基板101のうちの圧電素子1と対向する部分であって、圧電素子1の角部と対向する部分と異なる部分に形成されている。
【0139】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0140】
(1)本実施形態では、プリント基板101に突起部101cが形成されている。このため、液状の接合部材2を塗布して配置する際、突起部101c上に接合部材2を塗布することにより、圧電素子1と接合される接合部材2の外形を容易に調整できる。したがって、接合部材2として液状のものも用いることができ、接合部材2の選択性を向上できる。特に、上記第10実施形態のように接合部材2の形状を調整する場合においては、容易に接合部材2の外形を調整できる。
【0141】
(第11実施形態の変形例)
上記第11実施形態の変形例について説明する。上記第11実施形態において、突起部101cは、プリント基板101と別部材で構成されていてもよい。
【0142】
(第12実施形態)
第12実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、スリット40の形状を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0143】
本実施形態の圧電素子1では、圧電膜50がScAlNで構成されている。そして、
図43に示されるように、第1スリット41および第4スリット44は、一面22a側から他面22b側に向かって幅が狭くなるテーパ部45が構成されるように形成されている。言い換えると、第1スリット41および第4スリット44は、側面22cがテーパ部45となるように形成されている。また、本実施形態の第1スリット41および第4スリット44は、一面22a側から他面22b側に向かって連続的に幅が狭くなる形状とされている。つまり、第1スリット41は、振動領域22の側面22cが略平面状となるように形成されている。
【0144】
また、第1スリット41および第4スリット44は、振動領域22における他面22bと側面22cとの成す角度(以下では、単に振動領域22の成す角度ともいう)θ1が39~81°となるように形成されている。
【0145】
なお、成す角度θ1は、スリット40のテーパ角度ともいえる。また、第2スリット42および第3スリット43は、
図43とは別断面において、第1スリット41および第4スリット44と同様の形状とされている。
図43は、
図1中のIC-IC線に沿った断面図に相当している。そして、振動領域22は、一面22aと他面22bとが平行とされている。本実施形態では、他面22bが一面22aと平行な面に相当する。
【0146】
次に、上記圧電素子1の製造方法について、
図44A~
図44C、
図45、
図46を参照しつつ説明する。なお、
図44A~
図44Cは、
図1中のIC-IC線に沿った断面図に相当している。また、
図44A~
図44Cでは、第1スリット41および第4スリット44に関する断面図を示しているが、第2、第3スリット42、43についても同様である。
【0147】
まず、上記
図4Aと同様の工程を行い、第1~第4スリット41~44が形成されていないものを用意する。
【0148】
続いて、
図44Aに示されるように、上層電極膜63等を覆うようにフォトレジスト等で構成されるエッチングマスク材200を配置し、エッチングマスク材200に、第1~第4スリット41~44が形成される部分が開口する開口部201を形成する。なお、第2、第3スリット42、43は、
図44Aとは別断面に形成される。以下では、エッチングマスク材200のうちの上層電極膜63や上層圧電膜52を覆う側の面を他面200bとし、エッチングマスク材200のうちの他面200bと反対側の面を一面200aとし、開口部201の側面を側面200cとする。
【0149】
次に、
図44Bに示されるように、加熱処理を行うことにより、エッチングマスク材200の開口部201の形状を調整する。具体的には、エッチングマスク材200は、上層電極膜63や上層圧電膜52を覆うように配置されており、これらに固定される他面200b側の部分と、一面200a側の部分とで熱収縮の仕方が異なる。より詳しくは、加熱処理を行った際、エッチングマスク材200は、他面200b側の部分が熱収縮し難くなり、一面200a側の部分が熱収縮し易くなる。このため、加熱処理を行うことにより、エッチングマスク材200の他面200bと側面200cとの成す角度θ2(以下では、単にエッチングマスク材200の成す角度θ2ともいう)を所望する振動領域22の成す角度θ1に合わせて調整する。この場合、圧電膜50とエッチングマスク材200とは、別材料で構成されるため、通常は後述する異方性ドライエッチングを行った際のエッチングレートが異なる。したがって、エッチングレート等に基づき、振動領域22の成す角度θ1が所望の値となるようにエッチングマスク材200の成す角度θ2を調整する。なお、ここでのエッチングマスク材200の成す角度θ2は、上記のように調整されるため、振動領域22の成す角度θ1と一致する場合もあるが、振動領域22の成す角度θ1と一致しない場合もある。
【0150】
次に、
図44Cに示されるように、エッチングマスク材200をマスクとして異方性ドライエッチングを行い、圧電膜50を貫通して支持体10に達する第1~第4スリット41~44を形成する。本実施形態では、テーパ部45となる側面22cを有する振動領域構成部分220が構成されるように第1~第4スリット41~44を形成する。
【0151】
この際、上記のように、エッチングマスク材200の成す角度θ2が振動領域22の成す角度θ1に応じて調整されており、振動領域構成部分220の成す角度θ1は、39~81°とされる。なお、振動領域構成部分220は、凹部10aを形成することで振動領域22となる部分である。このため、振動領域構成部分220の成す角度θ1と振動領域22の成す角度θ1とは同じである。そして、図中では、振動領域構成部分220の一面、他面、および側面に対して振動領域22の一面22a、他面22b、および側面22cと同じ符号を付してある。また、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、第1~第4スリット41~44に達しないように形状が調整されている。このため、この工程では、圧電膜50および下地膜70が異方性ドライエッチングされる。
【0152】
その後、上記
図4Cと同様の工程を行い、支持基板11の他面11bから絶縁膜12を貫通して下地膜70に達するようにエッチングを行って凹部10aを形成する。これにより、振動領域構成部分220が支持体10から浮遊して振動領域22が構成され、
図1に示す圧電素子1が製造される。
【0153】
次に、本実施形態の製造工程における振動領域構成部分220(すなわち、振動領域22)の成す角度θ1について説明する。
【0154】
まず、本発明者らの検討によれば、ScAlN等の圧電膜50を異方性ドライエッチングする場合、成す角度θ1が81°以上になると、以下の現象が確認された。すなわち、成す角度θ1が81°以上になると、エッチングされた原子が第1~第4スリット41~44の側面22cに再堆積するリデポの影響により、加工性が低下する傾向にあることが確認された。さらに、本発明者らの検討によれば、ScAlN等の圧電膜50を異方性ドライエッチングする場合、成す角度θ1が63°以上になると、以下の現象が確認された。すなわち、成す角度θ1が63°以上になると、エッチングされた原子が第1~第4スリット41~44における一面22a側の開口部の近傍に再堆積して構成されるフェンスの影響により、加工性が低下する傾向にあることが確認された。このため、第1~第4スリット41~44を形成する場合、成す角度θ1が63°以下とされることが好ましい。これにより、フェンス等によって加工性が低下することを抑制できる。
【0155】
また、圧電膜50を構成するScAlNは、難エッチング材である。そして、本発明者らの検討によれば、圧電膜50を貫通する第1~第4スリット41~44を形成する場合、圧電膜50上にエッチングマスク材200が残存するようにするためには、エッチングマスク材200の膜厚を圧電膜50の膜厚の1~5倍にすることが好ましいことが確認された。言い換えると、圧電膜50を貫通する第1~第4スリット41~44を形成する場合、エッチングマスク材200で覆われる圧電膜50が異方性ドライエッチングで除去されないようにするためには、エッチングマスク材200の膜厚を圧電膜50の膜厚の1~5倍にすることが好ましいことが確認された。つまり、
図45に示されるように、圧電膜50の膜厚をA1とすると、エッチングマスク材200の膜厚A2は、A1~5A1とされることが好ましい。なお、本実施形態の下地膜70は、上記のように、圧電膜50に対して極めて薄く形成されている。このため、下地膜70の影響を無視している。また、圧電膜50の膜厚A1は、言い換えると、上記の振動領域22の厚さhに相当する。
【0156】
また、第1~第4スリット41~44を形成する場合には、加工装置の露光制約の影響も受ける。本発明者らの検討によれば、現状の一般的な加工装置では、
図45に示されるように、第1~第4スリット41~44における一面22a側の幅をスリット幅gとした場合、エッチングマスク材200の膜厚A2に対するスリット幅gの解像度は、エッチングマスク材200の膜厚A2の1/2~1/3が限界となることが確認された。したがって、エッチングマスク材200の膜厚A2がA1~5A1で示されるため、スリット幅gは、A1/3~5A1/2の範囲が限界となる。
【0157】
そして、上記のような圧電素子1では、第1~第4スリット41~44から音圧が抜け出る。この場合、
図46に示されるように、第1~第4スリット41~44の実効幅が長くなるほど低周波数での感度が低下する。このため、第1~第4スリット41~44は、実効幅が狭くなるように形成されることが好ましい。なお、第1~第4スリット41~44の実効幅とは、第1~第4スリット41~44の平均幅のことである。例えば、本実施形態のように第1~第4スリット41~44が一面22aから他面22bに向かってスリット幅gが連続的に狭くなるテーパ状とされている場合には、一面22a側の幅と他面22b側の幅との平均となる。
【0158】
そして、本実施形態の第1~第4スリット41~44は、異方性ドライエッチングで形成されるため、側面22cが略平面状となる。このため、感度が低下することを抑制できるように第1~第4スリット41~44における他面22b側の幅を略0と仮定し、圧電膜50の膜圧をA1とし、一面22a側のスリット幅をgとすると、tanθ1=A1/(g/2)となる。なお、g/2は、スリット実効幅ともいえる。したがって、上記のようにスリット幅gがA1/3~5A1/2であるため、tanθ1=6~0.8となり、θ1=39~81°が好適となる。つまり、第1~第4スリット41~44を形成する際、振動領域構成部分220の成す角度θ1が39~81°となるようにすることが好ましい。これにより、これにより、エッチングマスク材200の膜厚A2に起因して第1~第4スリット41~44の加工性が低下することを抑制できる。
【0159】
なお、圧電膜50の膜厚A1に対するエッチングマスク材200の膜厚A2の比(以下では、膜厚比ともいう)と、成す角度との関係をまとめると、
図47に示されるようになる。そして、上記のように、エッチングマスク材200の膜厚A2に対するスリット幅gの解像度は、エッチングマスク材200の膜厚A2の1/2~1/3が限界となる。このため、成す角度θ1の下限となる39°は、解像度がエッチングマスク材200の1/2倍である場合となり、上限は、解像度がエッチングマスク材の1/3倍である場合となる。
【0160】
ここで、比較例の圧電素子1として、圧電膜50をAlN等のエッチングし易い材料を用い、振動領域22の側面22cが他面22bに対して略垂直とされているものを挙げる。そして、比較例の圧電素子1におけるスリット40の実効幅をgとする。この場合、本実施形態の圧電素子1における実効幅がg以上となると、第1~第4スリット41~44のスリット幅gが広がり過ぎ、比較例の圧電素子1よりも感度が低下する可能性がある。
【0161】
したがって、スリット40は、実効幅が比較例の圧電素子1におけるスリット40の実行幅以下となるように形成されることが好ましい。つまり、tanθ1が1以上となるように構成されることが好ましい。このため、θ1は、45°以上とされることが好ましい。これにより、感度が低下することも抑制できる。この場合、θ1を63°以下とすることにより、フェンス等によってスリット40の加工性が低下することも抑制できる。
【0162】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22が両持ち支持されている。このため、圧電素子1の共振周波数fを大きくでき、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0163】
(1)本実施形態では、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされている。このため、エッチングマスク材200の膜厚A2に起因してスリット40の加工性が低下することを抑制でき、スリット40を好適に形成できる。また、成す角度θ1が81°以下であるため、リデポの影響を低減でき、加工性が低下することを抑制できる。
【0164】
(2)本実施形態では、振動領域22の成す角度θが63°以下とされることにより、フェンスの影響によって加工性が低下することも抑制できる。
【0165】
(3)本実施形態では、振動領域22の成す角度θ1が45°以上とされることにより、検出感度が低下することをさらに抑制できる。
【0166】
なお、上記第9実施形態のように、振動領域22の厚さ方向に沿って段階的にスリット40を形成する場合にも本実施形態を適用できる。この場合は、
図36に示されるように、他面22b側のスリット40の開口端部と、一面22a側のスリット40の開口端部とを結ぶ線と、他面22bとの間の角度を成す角度θ1とすればよい。
【0167】
また、第6実施形態のように電極膜60に電極膜用スリット60bを形成する場合には、各圧電膜51、52を成膜する毎にスリット40を形成する。このため、この構成とする場合には、各圧電膜51、52における他面20b側の部分と側面20cとの間の角度を成す角度θ1とすればよい。
【0168】
(上記第12実施形態の変形例)
上記第12実施形態の変形例について説明する。上記第12実施形態において、第1スリット41~44を形成する場合には、ウェットエッチングを行った後にドライエッチングを行うようにしてもよい。これによれば、ウェットエッチングを行った際にエッチングマスク材200が除去されないため、圧電膜50の膜厚A1に基づいて規定されるエッチングマスク材200の膜厚A2を薄くでき、エッチングマスク材200の膜厚A2で規定されるスリット幅gを狭くできる。したがって、実効幅g/2を狭くでき、感度の向上を図ることができる。
【0169】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0170】
例えば、上記各実施形態において、振動部20は、少なくとも1層の圧電膜50と、1層の電極膜60とを有する構成とされていればよい。また、圧電素子1は、平面形状が矩形状ではなく、五角形状や六角形状等の多角形状とされていてもよい。
【0171】
また、上記各実施形態において、圧電装置S10は、
図48に示されるように、蓋部102に貫通孔102aが形成された構成とされていてもよい。この場合、
図48に示されるように、受圧面空間S1は、ケーシング100のうちの振動領域22における一面22a側の空間となり、バック空間S2は、ケーシング100のうちの振動領域22における他面22b側の空間となる。
【0172】
また、上記各実施形態では、振動領域22を両持ち支持とすることによって検出精度を向上させた圧電素子1について説明した。しかしながら、例えば、上記第2実施形態では、スリット40をテーパ形状とすることによって検出精度の向上を図ることができる。上記第6実施形態では、圧電膜50および電極膜60の形状によって検出精度の向上を図ることができる。上記第7実施形態では、スリット40と貫通孔101bとの位置関係によって検出精度の向上を図ることができる。上記第8実施形態では、低周波ロールオフ周波数を小さくすることにより、圧電素子1の検出精度を向上できる。第10実施形態では、圧電素子1と接合部材2との位置関係によって検出精度の向上を図ることができる。したがって、これらの圧電素子1または圧電装置S10においては、振動領域22が片持ち支持されていてもよい。つまり、例えば、振動領域22の外形が平面矩形状であって、振動領域22に第1~第4スリット41~44が形成されている場合には、第1~第4スリット41~44が振動領域22の中心部Cで交差するように形成されていてもよい。そして、上記第12実施形態における製造方法は、スリット40の形状に関するものであるため、振動領域22が片持ち支持される圧電素子1の製造方法にも適用できる。
【0173】
上記各実施形態を適宜組み合わせることもできる。例えば、上記第2実施形態を上記第3~第12実施形態に組み合わせ、スリット40を中心部Cに向かって幅が狭くなるテーパ状としてもよい。上記第3実施形態を上記第4~第12実施形態に組み合わせ、振動領域22の中心領域225からも電荷を取り出すようにしてもよい。上記第4実施形態または上記第5実施形態を上記第6~第12実施形態に組み合わせ、連結部材90または連結部材91によって振動領域22を両持ち支持するようにしてもよい。上記第6実施形態を上記第7~第12実施形態に組み合わせ、振動領域22および電極膜60の形状、配置を規定するようにしてもよい。上記第7実施形態を上記第8~第12実施形態に組み合わせ、貫通孔101bと対向する部分と異なる部分にスリット40を形成するようにしてもよい。上記第8実施形態を上記第9~第12実施形態に組み合わせ、スリット長さLを規定するようにしてもよい。上記第9実施形態を上記第10~第12実施形態に組み合わせ、スリット40のスリット幅gが振動領域22の厚さ方向に沿って変化するようにされていてもよい。上記第10実施形態を上記第11、第12実施形態に組み合わせ、接合部材2の配置箇所を規定するようにしてもよい。上記第11実施形態を上記第12実施形態に組み合わせ、プリント基板101に突起部101cを形成するようにしてもよい。そして、上記各実施形態を組み合わせたもの同士をさらに組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0174】
10 支持体
20 振動部
21a 支持領域
22 振動領域
50 圧電膜
60 電極膜
C 中心部