(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133400
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】包装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240920BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240920BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B27/32 C
B65D65/40 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024118533
(22)【出願日】2024-07-24
(62)【分割の表示】P 2023062368の分割
【原出願日】2019-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田中 歩実
(57)【要約】
【課題】優れたリサイクル性を実現するのに有用であり且つ優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体を備えた包装材を提供する。
【解決手段】本開示に係る包装材は、ガスバリア積層体と、ポリプロピレン系シーラント層と、ガスバリア積層体とポリプロピレン系シーラント層の間に設けられた接着剤層とを備える。上記ガスバリア積層体はポリプロピレン系基材層と、第1のポリビニルアルコール系樹脂層と、ガスバリア層と、第2のポリビニルアルコール系樹脂層とをこの順序で備える。第1のポリビニルアルコール系樹脂層の厚さは0.4~2.0μmであり、ガスバリア層は厚さ5~100nmの金属酸化物層であり、第2のポリビニルアルコール系樹脂層の厚さは0.1~1.0μmである。包装材の全質量を基準として、ポリプロピレン系基材層及びポリプロピレン系シーラント層の合計の質量比率が85質量%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア積層体と、
ポリプロピレン系シーラント層と、
前記ガスバリア積層体と前記ポリプロピレン系シーラント層の間に設けられており、前記ガスバリア積層体と前記ポリプロピレン系シーラント層を貼り合わせている接着剤層と、
を備える包装材であり、
前記ガスバリア積層体が、
ポリプロピレン系基材層と、
第1のポリビニルアルコール系樹脂層と、
ガスバリア層と、
第2のポリビニルアルコール系樹脂層と、
をこの順序で備え且つ前記ポリプロピレン系基材層、前記第1のポリビニルアルコール系樹脂層、前記ガスバリア層及び前記第2のポリビニルアルコール系樹脂層からなる積層構造を有し、
前記第1のポリビニルアルコール系樹脂層の厚さが0.4~2.0μmであり、
前記ガスバリア層が厚さ5~100nmの金属酸化物層であり、
前記第2のポリビニルアルコール系樹脂層の厚さが0.1~1.0μmであり、
当該包装材の全質量を基準として、前記ポリプロピレン系基材層及び前記ポリプロピレン系シーラント層の合計の質量比率が85質量%以上である、包装材。
【請求項2】
前記金属酸化物層が酸化ケイ素を含む、請求項1に記載の包装材。
【請求項3】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が10~65モル%である、請求項1又は2に記載の包装材。
【請求項4】
前記第1のポリビニルアルコール系樹脂層の前記ガスバリア層と接する側の面粗さSaが0.2μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の包装材。
【請求項5】
前記第1のポリビニルアルコール系樹脂層の前記ガスバリア層と接する側の面粗さSaが0.1μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の包装材。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系基材層がプロピレンのモノポリマー層である、請求項1~5のいずれか一項に記載の包装材。
【請求項7】
前記第2のポリビニルアルコール系樹脂層がシラン化合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の包装材。
【請求項8】
前記第2のポリビニルアルコール系樹脂層の質量に対する、前記シラン化合物の質量比が0.05~0.95である、請求項7に記載の包装材。
【請求項9】
前記ポリプロピレン系基材層の前記第1のポリビニルアルコール系樹脂層が設けられている側の反対側の表面上に、プロピレンと他のモノマーとの共重合体層を更に備え、
前記他のモノマーがエチレン及びブテンの少なくとも一方である、請求項1~8のいずれか一項に記載の包装材。
【請求項10】
印刷基材を更に備え、当該印刷基材と前記ポリプロピレン系シーラント層の間に前記ガスバリア積層体が配置されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスバリア積層体及びこれを用いた包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
ベースフィルムとして耐熱性及び強靭性に優れた二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムと、シーラント層としてポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムとを備える積層体(軟包材)が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、プラスチック材料の分別回収と再資源化の更なる高効率化が求められるようになってきている。すなわち、従来、様々な異種材料を組み合わせることで高性能化を図ってきた軟包材においても、モノマテリアル化が求められるようになってきた。
【0005】
本開示は、包装材の優れたリサイクル性を実現するのに有用であり且つ優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体を提供する。本開示は、このガスバリア積層体を用いた包装材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るガスバリア積層体は、ポリプロピレン系基材層と、第1のポリビニルアルコール系樹脂層と、金属酸化物層とをこの順序で備える積層構造を有し、第1のポリビニルアルコール系樹脂層の単位面積あたりの質量が0.5~2.5g/m2である。このガスバリア積層体によれば、ポリプロピレン系基材層と金属酸化物層との間に第1のポリビニルアルコール系樹脂層が介在することで、ポリプロピレン系基材層の表面が必ずしも高度に平滑でなくても、優れたガスバリア性を達成できる。より優れたガスバリア性を達成する観点から、第1のポリビニルアルコール系樹脂層の面粗さSaは好ましくは0.2μm以下であり、より好ましくは0.1μm以下である。
【0007】
本発明者らは、シーラント層と併用されて包装材を構成するガスバリア積層体であって、リサイクル性に優れるモノマテリアルの包装材を実現し得るガスバリア積層体について開発を進めた。シーラントフィルムとして広く使用されている無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)を含む包装材のモノマテリアルを実現するには、ガスバリア積層体の基材層として、ポリプロピレン系フィルム(PP系フィルム)を使用する必要があるところ、包装材の耐熱性を考慮すると、いかなる種類のPP系フィルムであってもよいという訳ではなく、他のPP系フィルムと比較して耐熱性に優れるプロピレンのモノポリマーフィルムを使用することが有用である。包装材は食品等を収容した状態でボイル処理やレトルト処理等の加熱殺菌処理が施されることがあり、耐熱性が求められる場合もある。
【0008】
しかし、本発明者らの評価試験によると、プロピレンのモノポリマーフィルムは、その表面が葉脈状となりやすいという欠点を有しており、プロピレンのモノポリマーフィルムの表面に金属酸化物層(ガスバリア層)を直接形成しても十分なバリア性を達成することができなかった。そこで、基材層としてのプロピレンのモノポリマーフィルムと金属酸化物層との間にポリビニルアルコール系樹脂層を介在させることにより、優れたガスバリア性を有し且つモノマテリアルな包装材を得るのに有用なガスバリア積層体を開発するに至った。
【0009】
ガスバリア積層体の優れた耐熱性を達成する観点から、上述のとおり、ポリプロピレン系基材層はプロピレンのモノポリマー層であることが好ましい。
【0010】
本開示に係る上記ガスバリア積層体は、第1のポリビニルアルコール系樹脂層とともに金属酸化物層を挟む第2のポリビニルアルコール系樹脂層を更に備えてもよい。第1及び第2のポリビニルアルコール系樹脂層によって金属酸化物層をサンドイッチした構成を採用することで、より一層優れたガスバリア性を達成できる。金属酸化物層との密着性及びガスバリア性維持の観点から、第2のポリビニルアルコール系樹脂層はシラン化合物を含んでもよい。第2のポリビニルアルコール系樹脂層の質量に対する、シラン化合物の質量比は、例えば、0.05~0.95である。
【0011】
本開示の一側面に係る包装材は、上記ガスバリア積層体と、ガスバリア積層体の表面上に設けられたポリプロピレン系シーラント層とを備え、当該包装材の全質量を基準として、ポリプロピレン系基材層及びポリプロピレン系シーラント層の合計の質量比率が85質量%以上であり、ポリプロピレン系シーラント層の厚さによっては90質量%以上又は95質量%以上であってもよい。この包装材によれば、上記ガスバリア積層体と、ポリプロピレン系シーラント層とを併用することで、包装材のモノマテリアル化を実現できる。なお、本開示において、モノマテリアルの包装材とは、特定の材料(ポリプロピレン系材料)の質量比率が85質量%以上(好ましくは90質量%以上又は95質量%以上)である包装材をいう。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、包装材の優れたリサイクル性を実現するのに有用であり且つ優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体が提供される。本開示によれば、このガスバリア積層体を用いた包装材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本開示に係るガスバリア積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は
図1に示すガスバリア積層体の変形例をそれぞれ模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は
図1に示すガスバリア積層体を用いた包装材を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は本開示に係るガスバリア積層体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は本開示に係る包装材の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
<ガスバリア積層体>
図1は、本実施形態に係るガスバリア積層体を示す模式断面図である。
図1に示すガスバリア積層体10は、基材層1と、第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aと、金属酸化物層5と、第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bとをこの順序で備える積層構造を有する。
【0016】
(基材層)
基材層1は、ポリプロピレン系樹脂からなる。ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンのホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーが挙げられる。基材層1に耐熱性が求められる場合、ポリプロピレン系樹脂はプロピレンのホモポリマーであることが好ましい。ただし、プロピレンのホモポリマーフィルムは、上述のとおり、その表面が葉脈状となりやすいという欠点を有している。葉脈状のフィルム表面の面粗さSaは、例えば、0.2μm超であり、0.21~0.5μmであってもよい。
【0017】
なお、本開示において、各層の面粗さSaは三次元非接触表面形状計測システム(Vertscan R3300h Lite、株式会社菱化システム製)を使用し、以下の条件で測定される値を意味する。
・測定モード:Phase
・スキャンスピード:4μm/sec
・スキャンレンジ:10/-20μm
・スキャン回数:1回
・補間:完全補間
・面補正:4次
・鏡筒レンズ:1倍
・対物レンズ:5倍
【0018】
基材層1として、プロピレンのホモポリマーフィルムを使用することで、ガスバリア積層体10をボイル処理やレトルト処理等の加熱殺菌処理に耐え得るものとすることができる。なお、ボイル処理の温度は60~100℃程度、レトルト処理の温度は105~140℃程度である。
【0019】
基材層1を構成するフィルムは、延伸フィルムであってよく、非延伸フィルムであってよい。ただし、耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点から、基材層1を構成するフィルムは延伸フィルムであってよい。延伸方法としては特に限定されず、インフレーションによる延伸、一軸延伸又は二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能であれば、どのような方法でもよい。
【0020】
基材層1の厚さは特に制限されないが、優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、10~100μmとすることができ、15~30μmであってよい。基材層1を構成するフィルムには、その積層面F1に、バリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、密着性を向上させるためのコート層1a(密着層)を設けても構わない(
図2(a)参照)。また、基材層1の外面F2に共重合体層1bを設けても構わない。ポリマー層1cを構成する樹脂の具体例として、プロピレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。他のモノマーは、例えば、エチレン及びブテンの少なくとも一方である。
【0021】
基材層1を構成ポリプロピレン系樹脂は、必要に応じて帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑り剤等の添加剤を含んでもよい。なお、ガスバリア積層体10及びこれを用いた包装材50のモノマテリアルを高度に実現する観点から、基材層1におけるポリプロピレン系樹脂の質量比率は好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0022】
(第1のポリビニルアルコール系樹脂層)
第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aを構成する樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。耐熱性やガスバリア性の観点から、EVOHを好適に用いることができる。
【0023】
PVAとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステルを、単独で重合し、次いでケン化した樹脂が挙げられる。
【0024】
PVAは、共重合変性又は後変性された変性PVAであってもよい。共重合変性PVAは、例えばビニルエステルと、ビニルエステルと共重合可能な不飽和モノマーを共重合させた後にケン化することで得られる。後変性されたPVAは、ビニルエステルをケン化して得られたPVAに、重合触媒の存在下で不飽和モノマーを共重合させることで得られる。変性PVAにおける変性量は、充分なガスバリア性を発現する観点から、50モル%未満とすることができ、また変性による効果を得る観点から10モル%以上とすることができる。
【0025】
上記の不飽和モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンチン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸;アルキルビニルエーテル、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキンラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。ガスバリア性の観点からは、不飽和モノマーとしてはオレフィンとすることができ、特にエチレンであってよい。
【0026】
重合触媒としては、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等のラジカル重合触媒が挙げられる。重合方法は特に制限されず、塊状重合、乳化重合、溶媒重合等を採用することができる。
【0027】
PVAの重合度は300~3000が好ましい。重合度が300より小さいとバリア性が低下し易く、また3000超であると粘度が高すぎて塗工適性が低下し易い。PVAのケン化度は80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、99モル%以上が更に好ましい。また、PVAのケン化度は100モル%以下であっても、99.9モル%以下であってもよい。PVAの重合度及びケン化度は、JIS K 6726(1994)に記載の方法に準拠して測定できる。
【0028】
EVOHは、一般にエチレンと、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の酸ビニルエステルとの共重合体をケン化して得られる。
【0029】
EVOHの重合度は300~3000が好ましい。重合度が300より小さいとバリア性が低下し易く、また3000超であると粘度が高すぎて塗工適性が低下し易い。EVOHのビニルエステル成分のケン化度は80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、99モル%以上が更に好ましい。また、EVOHのケン化度は100モル%以下であっても、99.9モル%以下であってもよい。EVOHのケン化度は、核磁気共鳴(1H-NMR)測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とから求められる。
【0030】
EVOHのエチレン単位含有量は、例えば、10モル%以上であり、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上が更に好ましく、25モル%以上が特に好ましい。また、EVOHのエチレン単位含有量は65モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。エチレン単位含有量が10モル%以上であると、高湿度下におけるガスバリア性あるいは寸法安定性を良好に保つことができる。一方、エチレン単位含有量が65モル%以下であると、ガスバリア性を高めることができる。EVOHのエチレン単位含有量は、NMR法により求めることができる。
【0031】
ケン化はアルカリ又は酸で行うことができるが、ケン化速度の観点からアルカリを用いることができる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属酸化物、ナトリウムエチラート、カリウムエチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。
【0032】
第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aの単位面積あたりの質量は、0.5~2.5g/m2であり、0.5~2.0g/m2又は0.5~1.5g/m2であってよい。この質量が0.5g/m2以上であると、基材層1の積層面F1の平滑性が不十分であっても第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aの表面F3を十分に平滑に形成することができ、ガスバリア性に優れる金属酸化物層5を表面F3上に形成できる。他方、この質量が2.5g/m2以下であることは、ポリプロピレン系樹脂のモノマテリアルの実現及び材料コストの低減の点において有利である。なお、第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aの厚さは、上記単位面積あたりの質量と同様の観点から、例えば、0.4~2.0μmであり、0.4~1.7μm又は0.4~1.3μmであってよい。樹脂層の厚さは、樹脂層の単位面積あたりの質量と樹脂の密度に基づいて算出することができる。
【0033】
第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aの表面F3の面粗さSaは、例えば、0.2μm以下であり、0.01~0.1μm又は0.02~0.1μmであってもよい。表面F3の面粗さSaが0.2μm以下であることでガスバリア性に優れる金属酸化物層5を表面F3上に形成できる。他方、表面F3の面粗さSaが0.01μm以上であることで、0.01μm未満の場合と比較してアンカー効果により第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aと金属酸化物層5の密着性を向上できる。
【0034】
(金属酸化物層)
金属酸化物層5はガスバリア性を有する。金属酸化物として、酸化ケイ素(SiOx)及び酸化アルミニウム(AlOx)等が挙げられる。これらの金属酸化物を採用することで、厚さを抑えつつ高いガスバリア性を得ることができる。加工時に引っ張り延伸性に優れる観点から、金属酸化物層5は酸化ケイ素で構成されていてよい。
【0035】
金属酸化物層5の厚さは、例えば、5~100nmであり、10~50nm又は20~40nmであってもよい。金属酸化物層5の厚さが5nm以上であると、充分なガスバリア性を得ることができ、他方、100nm以下であると、金属酸化物層5の内部応力による変形によりクラックが発生することが抑制され、優れたガスバリア性を維持できる。
【0036】
(第2のポリビニルアルコール系樹脂層)
第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bを構成するポリビニルアルコール系樹脂に関しては、第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aについて説明した内容を参照することができる。
【0037】
第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bはシラン化合物を含んでいてもよい。シラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の反応性基含有トリアルコキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザンなどが挙げられる。シラン化合物としては、一般的にシランカップリング剤として用いられる化合物や、シロキサン結合を有するポリシロキサン化合物を用いてもよい。
【0038】
第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bの質量に対する、上記シラン化合物の質量比は、金属酸化物層との密着性及びガスバリア性維持の観点から、例えば、0.05~0.95であり、0.1~0.8又は0.3~0.7であってよい。
【0039】
第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bの厚さは、例えば、0.1~1.0μmであり、0.1~0.8μm又は0.2~0.7μmであってよい。この厚さが0.1μm以上であることで優れたガスバリア性を達成できるとともに、このガスバリア性が十分に長期にわたって維持される。他方、この厚さが1.0μm以下であることは、ポリプロピレン系樹脂のモノマテリアルの実現及び材料コストの低減の点において有利である。
【0040】
<ガスバリア積層体の製造方法>
ガスバリア積層体10は、例えば、基材層1上に第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aを形成する工程と、第1のポリビニルアルコール系樹脂層3a上に金属酸化物層5を形成する工程と、金属酸化物層5上に第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bを形成する工程とを経て製造される。
【0041】
(第1のポリビニルアルコール系樹脂層を形成する工程)
本工程においては、ポリビニルアルコール系樹脂及び液状媒体を含む塗布液を用いることができる。当該塗布液は、例えば合成により得られたポリビニルアルコール系樹脂の粉末を、液状媒体に溶解させて得ることができる。液状媒体としては、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類などが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いてよい。環境負荷低減等の観点から、液状媒体として水を用いることができる。この場合、ポリビニルアルコール系樹脂の粉末を、高温(例えば80℃)の水に溶解させることで塗布液を得ることができる。
【0042】
塗布液中のポリビニルアルコール系樹脂(固形分)の含有量は、良好な塗布性を維持する観点から3~20質量%とすることができる。塗布液には、密着性向上のためにイソシアネートやポリエチレンイミン等の添加剤が含まれていてよい。また、塗布液には、防腐剤、可塑剤(アルコール等)、界面活性剤等の添加剤が含まれていてよい。
【0043】
基材層1への塗布液の塗布は、任意の適切な方法により行うことができる。塗布液の塗布は、例えばグラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター等のウェット成膜法により行うことができる。塗布液の塗布温度及び乾燥温度は特に制限されず、例えば、50℃以上とすることができる。
【0044】
第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aは、押出法により基材層1上に形成してもよい。この場合、Tダイを用いた多層押出を採用することができる。押出時に用いることができる接着剤としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等の主剤に、硬化剤として2官能以上の芳香族系又は脂肪族系イソシアネート化合物を作用させる、二液硬化型のポリウレタン系接着剤が挙げられる。上記の接着成分を基材層1上に塗工後、乾燥することで、基材層1上に接着層を予め形成しておいてよい。ポリウレタン系接着剤を用いる場合、塗工後、例えば40℃で4日以上のエージングを行うことで、主剤の水酸基と硬化剤のイソシアネート基の反応が進行して強固な接着が可能となる。接着層の厚さは、接着性、追随性、加工性等の観点から、1~50μmとすることができ、3~20μmであってよい。
【0045】
(金属酸化物層を形成する工程)
金属酸化物層5は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法又は化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
上記真空成膜では、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)等が特に好ましく用いられる。ただし、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましい。
【0047】
スパッタリング法の場合、陰極であるターゲットに負の電位勾配が生じ、Ar+イオンが電位エネルギーを受け、ターゲットに衝突する。ここで、プラズマが発生しても負の自己バイアス電位が生じないとスパッタリングを行うことができない。したがって、MW(Micro Wave)プラズマは自己バイアスが生じないため、スパッタリングには適していない。しかし、PECVD法では、プラズマ中の気相反応を利用して化学反応、堆積とプロセスが進み、自己バイアスが無くても膜の生成が可能であるため、MWプラズマを利用することができる。
【0048】
(第2のポリビニルアルコール系樹脂層を形成する工程)
本工程は、第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aを形成する工程と同様に、塗布液を用いることができる。塗布液に関しては、第1のポリビニルアルコール系樹脂層3aを形成する工程の項にて説明した内容を参照することができる。
【0049】
第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bを形成するための塗布液は、シラン化合物を含んでいてもよい。塗布液中のシラン化合物の含有量は、第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bに所望量のシラン化合物が含まれるよう調整すればよい。塗布液中にシラン化合物が含まれる場合、塗布液は更に酸触媒、アルカリ触媒、光重開始剤等を含んでいてよい。
【0050】
<包装材>
図3に示す包装材50は、ガスバリア積層体10と、ガスバリア積層体10の内面10F上に設けられたポリプロピレン系シーラント層20とを備える。包装材50の全質量を基準として、基材層1及びポリプロピレン系シーラント層20の合計の質量比率が85質量%以上(好ましくは90質量%以上又は95質量%以上)であり、包装材50はモノマテリアルを実現している。
【0051】
ガスバリア積層体10は、例えば、接着剤(不図示)を使用してポリプロピレン系シーラント層20と貼り合わせればよい。接着剤としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリウレタン、ポリプロピレン、エチレン-不飽和エステル共重合樹脂、又はポリエステル系共重合樹脂等を含むものを使用できる。接着剤の層の厚さは、例えば、1~5μm程度であればよい。ポリプロピレン系シーラント層20の具体例としては、例えば未延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)が挙げられる。ポリプロピレン系シーラント層20の厚さは、例えば、10~100μmである。
【0052】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明の上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bを備えるガスバリア積層体10を例示したが、ガスバリア積層体の用途によっては第2のポリビニルアルコール系樹脂層3bを備えていなくてもよい(
図4参照)。
【0053】
上記実施形態においては、ガスバリア積層体10のバリア側の表面にポリプロピレン系シーラント層20が貼り合わされた包装材50を例示したが、ガスバリア積層体10の基材層1側の表面にポリプロピレン系シーラント層20を貼り合わせてもよい(
図5参照)。
図5に示す包装材60は、ガスバリア積層体10のバリア側と一般OPPフィルム8(印刷基材等)が向き合い、ガスバリア積層体10の基材層1側にポリプロピレン系シーラント層20が貼り合わされた構成を有する。
【実施例0054】
以下、本開示を実施例により、更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例及び比較例において材料として以下のもの準備した。
(基材層)
・ポリプロピレン系樹脂:プロピレンのモノポリマー(モノPP)
(ポリビニルアルコール系樹脂層)
・EVOH:エバールL171B(株式会社クラレ製)
・PVA:ポバール60-98(株式会社クラレ製)
・TEOS:KBE04(信越化学工業株式会社製)
(シーラント層)
・ポリプロピレン系シーラントフィルム:トレファンZK207#60(CPP、厚さ60μm、東レ株式会社)
【0056】
(実施例1)
上記モノPPを使用してOPPフィルム(基材層)を製膜すると同時に、OPPフィルムの表面にEVOHの層(第1のポリビニルアルコール系樹脂層)を押出法によって形成した。EVOHの層の単位面積あたりの質量は0.97g/m2であった。EVOHの層の厚さは0.8μmであり、面粗さSaは0.08μmであった。EVOHの層を剥がしてOPPフィルムの面粗さSaを測定したところ、その値は0.23μmであった。面粗さSaは、三次元非接触表面形状計測システム(Vertscan R3300h Lite、株式会社菱化システム製)を使用し、上述の条件で測定した。
【0057】
電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を用いて、EVOHの層の表面上にSiOx膜(金属酸化物層)を形成した。すなわち、電子ビーム加熱によってSiO蒸着材料を蒸発させてSiOx膜(厚さ50nm)を形成した。次いで、SiOx膜の表面上に、PVA及びTEOSを含む層(第2のポリビニルアルコール系樹脂層)を形成した。すなわち、TEOSとメタノールと塩酸(0.1N)とを質量比18/10/72になるように混合し、加水分解した溶液(TEOS含有液)を得た。PVAの5%水溶液と、TEOS含有液とを、PVAとTEOSの質量比が50/50となるように混合することによって塗布液を調製した。SiOx膜の表面に、この塗布液を塗布した後、乾燥させることによってPVA及びTEOSを含む層(PVA/TEOS=50/50)を形成した。
【0058】
上記の工程を経て得たガスバリア積層体の内面に、ポリプロピレン系シーラントフィルムを接着剤(A-525、三井化学株式会社製)によって貼り合わせることによって包装材を作製した。包装材のポリプロピレン系樹脂の質量比率は94質量%であった。この包装材の酸素透過度を測定した。酸素透過度の測定は、OX-TRAN2/20(MOCON社製)を使用し、JIS K7126-2に準拠して温度30℃及び相対湿度70%の条件下で行った。また、包装材のボイル処理後の酸素透過度も同様にして測定した。すなわち、包装材を使用して三方パウチを作製した後、この中に市水を密封した。この密封体を90℃の温度条件下で30分にわたってボイル処理した後、包装材の酸素透過度を測定した。表1に結果を示す。
【0059】
(実施例2)
金属酸化物層として、SiOx膜(50nm)の代わりに、AlOx膜(50nm)を形成したことの他は、実施例1と同様にしてガスバリア積層体及び包装材を作製し、各評価を行った。AlOx膜は、電子ビーム加熱によってアルミニウムインゴットを蒸発させ、酸素を導入して形成した。表1に結果を示す。
【0060】
(実施例3)
PVAとTEOSの質量比が50/50の層を形成する代わりに、PVAとTEOSの質量比が97/3の層を形成したことの他は、実施例1と同様にしてガスバリア積層体及び包装材を作製し、各評価を行った。表1に結果を示す。
【0061】
(比較例1)
EVOHの層(第1のポリビニルアルコール系樹脂層)を形成せず、OPPフィルムの表面にSiOx膜(50nm)を直接形成したことの他は、実施例1と同様にしてガスバリア積層体及び包装材を作製し、各評価を行った。表2に結果を示す。
【0062】
(比較例2)
第1のポリビニルアルコール系樹脂層として、EVOHの層(単位面積あたりの質量0.97g/m2、厚さ0.8μm)を形成する代わりに、PVAの層(単位面積あたりの質量2.8g/m2、厚さ2.3μm)を形成したことの他は、実施例1と同様にしてガスバリア積層体及び包装材を作製し、各評価を行った。表2に結果を示す。
【0063】
(比較例3)
第1のポリビニルアルコール系樹脂層として、EVOHの層(単位面積あたりの質量0.97g/m2、厚さ0.8μm)を形成する代わりに、EVOHの層(単位面積あたりの質量0.40g/m2、厚さ0.33μm)を形成したことの他は、実施例1と同様にしてガスバリア積層体及び包装材を作製し、各評価を行った。表2に結果を示す。
【0064】
【0065】
1…基材層、1a…コート層(密着層)、1b…共重合体層、3a…第1のポリビニルアルコール系樹脂層、3b…第2のポリビニルアルコール系樹脂層、5…金属酸化物層、10…ガスバリア積層体、10F…内面、20…ポリプロピレン系シーラント層、50,60…包装材、F1…ポリプロピレン系基材層の積層面、F2…ポリプロピレン系基材層の外面、F3…第1のポリビニルアルコール系樹脂層の表面