(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133431
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240925BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043667
(22)【出願日】2023-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】清水 建登
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寛斗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正己
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 憲宏
(72)【発明者】
【氏名】飯田 有人
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AD05
4F202CA11
4F202CB12
4F202CB22
4F202CP01
4F202CQ01
4F206AD05
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB22
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】成形基材の外面に液状コーティング剤をコーティングする際、エア溜りを防止できる金型内コーティング成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】成形基材2の外面に、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部4を、コーティングギャップG1の寸法よりも小さい高さに形成し、型締め時に凸部4の頂面と第二金型3の内面との間にコーティングギャップG1よりも狭いエア抜きギャップG2を形成することで、コーティングギャップG1に注入された塗料Tによって、コーティングギャップG1内における凸部4の近傍の空気を、エア抜きギャップG2を通じて押し流すようにした。これにより、凸部4の近傍に形成されるエア溜りAを防止でき、エア溜りAによるコーティングの欠落部Kを防止でき、製品(金型内コーティング成形品10)の外観が向上する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金型に成形基材を装着し、該成形基材が装着された前記第一金型を第二金型に前記成形基材を覆うように突き当て、該第二金型の内面と前記成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、該コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して前記成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、
前記成形基材の外面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部を、前記コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成しておき、該凸部が形成された前記成形基材を前記第一金型に装着し、該第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てて、前記凸部の頂面と前記第二金型の内面との間に前記コーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップを形成し、
その状態で前記コーティングギャップに前記液状コーティング剤を注入し、注入された前記液状コーティング剤が前記エア抜きギャップを通過する際に、前記コーティングギャップ内における前記凸部の近傍の空気を、前記エア抜きギャップを通じて押し流す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項2】
前記コーティングギャップ内における前記凸部の近傍の空気を、前記エア抜きギャップを通じて押し流すことで、
前記成形基材の外面に、前記液状コーティング剤によって、前記成形基材の前記凸部以外の部分に前記コーティングギャップに応じた基本コーティング膜を形成すると共に、前記成形基材の前記凸部の頂面に前記エア抜きギャップに応じて前記基本コーティング膜よりも薄い模様コーティング膜を形成し、
該模様コーティング膜を形成する前記エア抜きギャップの寸法を、外部から前記模様コーティング膜を透過して前記凸部の頂面を目視可能な寸法に設定した、ことを特徴とする請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項3】
前記凸部は、前記コーティングギャップに注入されて前記コーティングギャップ内を流れる前記液状コーティング剤の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部、前記液状コーティング剤の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部、前記液状コーティング剤の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部および前記液状コーティング剤の流れに対して内方が囲まれた囲み部の内、少なくとも一つを有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項4】
第一金型に成形基材を装着し、該成形基材が装着された前記第一金型を第二金型に前記成形基材を覆うように突き当て、該第二金型の内面と前記成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、該コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して前記成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、
前記第二金型の内面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部を、前記コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成しておき、該凸部が形成された前記第二金型に、前記成形基材が装着された前記第一金型を、前記成形基材を覆うように突き当てて、前記凸部の頂面と前記成形基材の外面との間に前記コーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップを形成し、
その状態で前記コーティングギャップに前記液状コーティング剤を注入し、注入された前記液状コーティング剤が前記エア抜きギャップを通過する際に、前記コーティングギャップ内における前記凸部の近傍の空気を、前記エア抜きギャップを通じて押し流す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項5】
前記コーティングギャップ内における前記凸部の近傍の空気を、前記エア抜きギャップを通じて押し流すことで、
前記成形基材の外面に、前記液状コーティング剤によって、前記凸部以外が対向する前記成形基材の部分に前記コーティングギャップに応じた基本コーティング膜を形成すると共に、前記凸部が対向する前記成形基材の部分に前記エア抜きギャップに応じて前記基本コーティング膜よりも薄い模様コーティング膜を形成し、
該模様コーティング膜を形成する前記エア抜きギャップの寸法を、外部から前記模様コーティング膜を透過して前記成形基材を目視可能な寸法に設定した、ことを特徴とする請求項4に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項6】
前記凸部は、前記コーティングギャップに注入されて前記コーティングギャップ内を流れる前記液状コーティング剤の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部、前記液状コーティング剤の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部、前記液状コーティング剤の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部および前記液状コーティング剤の流れに対して内方が囲まれた囲み部の内、少なくとも一つを有する、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる製造装置であって、
前記成形基材の外面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、前記コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成されており、該凸部が形成された前記成形基材が装着された前記第一金型を、前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記成形基材の外面に形成された前記凸部の頂面と前記第二金型の内面との間に前記コーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップが形成される、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造装置。
【請求項8】
請求項4に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる製造装置であって、
前記第二金型の内面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、前記コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成されており、該凸部が形成された前記第二金型に、前記成形基材が装着された前記第一金型を、前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記第二金型の内面に形成された前記凸部の頂面と前記成形基材の外面との間に前記コーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップが形成される、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造装置。
【請求項9】
前記凸部は、前記コーティングギャップに注入されて前記コーティングギャップ内を流れる前記液状コーティング剤の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部、前記液状コーティング剤の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部、前記液状コーティング剤の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部および前記液状コーティング剤の流れに対して内方が囲まれた囲み部の内、少なくとも一つを有する、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の金型内コーティング成形品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題への関心が高まる中、有機溶剤を使用せず且つCO2排出削減効果の高い塗装代替技術として、金型内コーティング方法(インモールドコーティング:IMC)が注目されている。IMCとは、成形に用いられた金型を利用して、成形基材の外面と金型の内面との隙間に機能性液状コーティング剤(例えば塗料)を注入し、加熱により成形基材の外面に被膜(例えば塗膜)を形成する技術である(特許文献1参照)。
【0003】
IMCの特徴としては、(1)一般的なスプレー塗装で用いられる有機溶剤を使用しないので環境及び人体に優しい、(2)塗装工程を行うための設備(スプレー吹付、オーブン熱処理)が不要、(3)塗料を有機溶剤で希釈しないので塗布前の材料(塗料)が成形基材の外面に塗膜として形成される割合(塗着効率)が非常に高く無駄が極めて少ない、等が挙げられる。
【0004】
樹脂成形品に塗装を行う目的は、材料素材本来の外表面に、練り込みでは得られない鮮明な色調や光沢、メタリック調を付与する、或いは、成形時に発生した外観不良を目隠しするなど、意匠性を高め、製品としての高級感を与えることにある。更に視認性を高め、かつ操作性を考慮した機能を持つ製品が、我々の日常生活において数多く見られる。この種の製品として、例えば、パソコン用キーボードのキーの表面に文字や記号等が表示されたものが挙げられる。
【0005】
パソコン用キーボードのキーの表面に、記号や文字を印刷及び塗装する場合、通常、キーの表面の印刷及び塗装面が平面であればシルクメッシュを使用したスクリーン印刷が用いられ、曲面であれば弾力性のあるシリコンゴムを利用したパッド印刷が用いられる。しかし、双方とも有機溶剤で希釈された塗料が使用され、オーブン処理が必要とする従来の方法であり、環境への影響が大きい。
【0006】
一方、室内や車内、夜間など照明の少ない環境に用いられる機能性の高いスイッチ部品として、例えば、
図5に示すものが知られている。
図5(a)はスイッチ部品の斜視図、
図5(b)は
図5(a)のb-b線断面図、
図5(c)は
図5(a)のc-c線断面図である。このスイッチ部品は、表面が全体的には黒色で、部分的に白色の模様(山型の絵柄)が表示されており、白色の模様(山型の絵柄)の部分に光を透過する材料が用いられている。照明が少なく暗い室内、車内、夜間などで使用される機器において、主電源が入るとスイッチ部品の裏側にあるライト(図示せず)が点灯し、白抜きの範囲(白色の模様(山型の絵柄)の部分)が発光し認識でき、周囲が暗い環境でも使用できる。
【0007】
この種のスイッチ部品は、通常、透明または半透明の樹脂によって成形基材を成形し、その成形基材の外面の全領域に一旦黒色等の光を透過しない塗装を施して塗膜を形成し、意匠領域である山型の絵柄の部分のみの塗膜を除去して製造される。この塗膜を部分的に除去する手法として、レーザー光線の照射により、意匠領域(山型の絵柄の部分)のみの黒色の塗膜を気化、蒸発させ、除去させるレーザー照射法が知られている(特許文献2、3参照)。
【0008】
しかしながら、レーザー照射法は高熱処理であるため、
図5(a)において、レーザー光線の照射により塗膜を除去することで露出した成形基材の意匠領域(山型の絵柄の部分:白色)と塗装された塗膜の部分(黒色)との境界の鮮明さを確保しつつ、成形基材そのものへの熱影響を最小限に抑えるためには、レーザー光線のスポット径を小さくする必要があり、照射エネルギーを大きく出来ないという制約がある。かかる制約により、生産性を上げるためには成形基材の外面に形成する塗膜を極力薄く(例えば50μm以下)する必要があり、きめ細かな塗膜厚さのコントロールが必要であり、コストアップを招く。
【0009】
加えてレーザー加工設備は装置導入のイニシャルコストが大きく、加工は小さなスポットの一筆書きであるので広い面積の加工では極めて長い加工時間を要し、製造コストを大きく押し上げる要因となっている。また、レーザー照射法においては、成形基材の外面に塗装する工程と、塗装された塗膜の一部をレーザー光線によって除去する工程との2工程が必要なため、工数が嵩んで製造時間が掛かってしまい、コストアップが避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3617807号公報
【特許文献2】特開2002-146558号公報
【特許文献3】特開2005-7403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明者等は、
図1(a)、
図1(b)に示すように、第一金型1に成形基材2を装着し、
図2(a)、
図2(b)に示すように、成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に成形基材2を覆うように突き当て、第二金型3の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップG1(例えば50~100μm程度)を形成し、コーティングギャップG1に液状コーティング剤(例えば塗料T)を注入して成形基材2の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法において、
図1(a)、
図1(b)に示すように、成形基材2の外面に、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部4Jを、
図2(b)に示すコーティングギャップG1に応じた高さHに形成しておき、その成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に成形基材2を覆うように突き当てることで、成形基材2の外面に形成された凸部4Jを第二金型3の内面に接しさせ、この状態でコーティングギャップG1に液状コーティング剤を注入し、成形基材2の外面の凸部4J以外の部分に液状コーティング剤(例えば塗料T)を付着させ、成形基材2の外面に液状コーティング剤(例えば塗料T)によって凸部4J(所望の模様の部分)を除いてコーティングを施すようにした金型内コーティング成形品の製造方法を開発し、特許出願(特願2022-152771号)した。
【0012】
この金型内コーティング成形品の製造方法によれば、
図1(b)に示すようにコーティングギャップにG1応じた高さの凸部4J(所望の模様の部分)が形成された成形基材2を、
図1(a)に示すように第一金型1に装着し、その第一金型1を
図2(b)に示すように第二金型3に突き当てて成形基材2の凸部4Jの頂面を第二金型3の内面に接触させ、この状態でコーティングギャップG1に液状コーティング剤を注入することで、成形基材2の外面に凸部4J(所望の模様の部分)を除いて液状コーティング剤を付着させているので、成形基材2の外面をコーティングする工程と成形基材2の外面に所望の模様を形成する工程とが同時に行われることになり、製造時間を短縮でき、コストダウンを推進できる。
【0013】
また、従来のように、成形基材2の外面の全領域をコーティングした後、所望の模様の部分のコーティングをレーザー光線で除去していないので、レーザー加工設備を導入するイニシャルコストが掛からない。加えて、レーザー光線で所望の模様の部分の塗膜を除去する場合、生産性を上げるためには塗膜を極力薄く(例えば50μm以下)する必要があるが、上述した金型内コーティング成形品の製造方法ではレーザー光線で塗膜を除去しないので塗膜を薄くする必要はなく、塗膜を薄く管理するためのコストが掛からない。更に、上記製造方法は塗膜を或る程度厚くしても成立するため、使用環境によっては塗膜を厚くすることで経年使用時の塗膜の耐久性が向上する可能性がある。
【0014】
ところで、上述した金型内コーティング成形品の製造方法においては、
図2(b)に示すように、成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に突き当てた状態で、第二金型3の一方の側面に形成された注入口5に液状コーティング剤(例えば塗料T)を注入し、その液状コーティング剤がコーティングギャップG1を通って第二金型3の他方の側面に形成された排出口8から排出される間に、成形基材2の外面には、凸部4Jの部分を除いて、液状コーティング剤によってコーティング膜(塗膜)が形成されることになる。
【0015】
しかしながら、
図2(b)において、注入口5からコーティングギャップG1を通って排出口8までに流れる液状コーティング剤(例えば塗料T)は、コーティングギャップG1内の空気(エア)を押し退けながら流れるため、凸部4Jの形状、液状コーティング剤(以下、塗料Tともいう)の粘性、注入時間、硬化時間等の条件によっては、押し退けられたエアが排出口8から排出されることなく凸部4Jの近傍に溜まって気泡(エア溜り)が形成される可能性がある。
【0016】
例えば、
図2(a)の部分a1、その断面である
図2(b)の部分a11に示すように、凸部4JがコーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部12を有する場合について、コーティングギャップG1内における塗料Tとエアの流れを考察してみる。部分a11の拡大図を
図3(a11)に示し、部分a1の拡大図を
図3(a1)に示す。
【0017】
図3(a11)、
図3(a1)に示すように、塗料Tが凸部4Jの堰き止め部12に近づくと、堰き止め部12の内方のエアが逃げられないため圧力が高まり、その圧力によって堰き止め部12の前方の塗料Tが押されて流れの先端Taが凹んだ形状となる。その後、塗料Tの流れが進行すると、
図3(a12)、
図3(a2)に示すように、堰き止め部12の内方のエアが、逃げ道がないため抜けずに取り残され、
図3(a13)、
図3(a3)に示すように、塗料Tの流れの圧力で堰き止め部12の内方のエアが圧縮されると共に、堰き止め部12の外方を迂回した塗料Tが堰き止め部12の背面に回り込み、最終的には、
図3(a14)、
図3(a4)に示すように、塗料Tの流れの圧力で堰き止め部12の内方のエアが更に圧縮されるものの、エアが抜けることはなく気泡(エア溜りA)が形成される可能性がある。
【0018】
また、
図2(a)の部分b1に示すように、凸部4JがコーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部13を有する場合には、
図4(b1)に示すように、塗料Tが凸部4Jの後方巻き込み部13の前部に流れ当たった後、
図4(b2)に示すように、後方巻き込み部13の左右の後端において後方巻き込み部13の内方に巻き込まれ、
図4(b3)に示すように、左右の後端から後方巻き込み部13の内方への巻き込みが進行し、最終的に、
図4(b4)に示すように、左右の巻き込みが繋がって後方巻き込み部13の内方にエア溜りAが形成される可能性がある。一旦エア溜りAが形成されると、その周囲は塗料Tおよび凸部4Jによって囲まれた状態となっているため、エア溜りAからエアが抜けることはない。
【0019】
また、
図2(a)の部分c1に示すように、凸部4JがコーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れ方向と交差する側(例えば直交する側)が開いている側方巻き込み部14を有する場合には、
図4(c1)に示すように、塗料Tが凸部4Jの側方巻き込み部14の上流側部の先端に流れ当たった後、
図4(c2)に示すように、側方巻き込み部14の外面と内面とに分流されて内面側の流れが側方巻き込み部14の内方に巻き込むように浸入し、
図4(c3)に示すように、側方巻き込み部14の内方に浸入した流れが、側方巻き込み部14の下流側部の内面に流れ当たって、側方巻き込み部14の内方にエアが閉じ込められ、側方巻き込み部14の外面の流れと内面の流れとが合流し、最終的に、
図4(c4)に示すように、側方巻き込み部14の内方にエア溜りAが形成される可能性がある。
【0020】
このように、
図2(b)の状態から注入口5に液状コーティング剤(塗料T)を注入して成形基材2の外面にコーティングを施す工程において、上述したエア溜りAが発生した場合、第一金型1を第二金型3から離間させてコーティング済みの成形基材(金型内コーティング成形品10J)を第一金型1から取り出すと、その金型内コーティング成形品10Jの斜視図である
図5(a)、
図5(a)のb-b線断面図である
図5(b)、
図5(a)のc-c線断面図である
図5(c)に示すように、取り出された金型内コーティング成形品10Jには、各凸部4Jに接して形成されたエア溜りAの部分が塗料の欠落部Kとなり、外観不良となる。加えて、
図2(b)に示すように、凸部4Jの頂面が第二金型3の内面に突き当てられてマスキングされた状態となるので、
図5(b)、
図5(c)に示すように、凸部4Jの頂面に塗膜が形成されず、経年使用すると凸部4Jの頂面と塗膜11Jとの境界や上述した塗料の欠落部Kを起点として塗膜11Jが剥離する可能性も考えられる。
【0021】
次に、
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)に示すように、成形基材2の外面に形成された凸部4Jが、コーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れに対して内方が囲まれた囲み部16を有する場合について、コーティングギャップG1内における塗料Tとエアの流れを考察してみる。囲み部16としては、リング状の模様の他、例えば英字の「A」、「O」等が挙げられる。
図6(b)の部分a21の拡大図を
図7(a21)に示し、
図7(a21)のI-I線断面図を
図7(a1)に示す。また、
図7(a21)についてのコーティング工程の時間経過を
図7(a22)、
図7(a23)、
図7(a24)に示し、
図7(a1)についてのコーティング工程の時間経過を
図7(a2)、
図7(a3)、
図7(a4)に示す。各図に示すように、囲み部16を有する凸部4Jの頂面が第二金型3の内面に突き当てられているので、コーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)が囲み部16の内方に導かれることはなく、囲み部16の内方の空気が排出されない。このため、最終的に、
図7(a24)、
図7(a4)囲み部16の内方にエア溜りAが形成される。
【0022】
図7(a24)、
図7(a4)に示すように、コーティング工程が完了した後に、第一金型1を第二金型3から離間させてコーティング済みの成形基材2(金型内コーティング成形品10J)が取り出される。取り出された金型内コーティング成形品10Jの斜視図を
図8(a)に、
図8(a)のb-b線断面図を
図8(b)に示す。図示するように、取り出された金型内コーティング成形品10Jは、凸部4Jの囲み部16の内方の部分が、塗料Tが導かれることなく空気が排出されない部分となって塗料Tの欠落部Kとなり、外観不良となる。この対策として、凸部4Jの囲み部16の一部に内外を連通する切り欠き部(図示省略)を設け、切り欠き部から囲み部16の内方に塗料Tを導くようにすることも考えられる。しかし、塗料Tが切り欠き部から囲み部16の内方に浸入しても、囲み部16の内方のエアが切り欠き部から完全には排出されないケースも考えられ、この場合、矢張り囲み部16の内方にエア溜りAが形成され、塗料の欠落部Kとなってしまう。また、切り欠き部によって囲み部16が不連続となるため、製品(金型内コーティング成形品10J)外観の印象が低下する可能性がある。
【0023】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、上述した各種の凸部の近傍に形成されるエア溜りを防止でき、エア溜りによるコーティングの欠落部を防止できる金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、第一金型に成形基材を装着し、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当て、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、成形基材の外面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部を、コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成しておき、凸部が形成された成形基材を第一金型に装着し、第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てて、凸部の頂面と第二金型の内面との間にコーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップを形成し、その状態でコーティングギャップに液状コーティング剤を注入し、注入された液状コーティング剤がエア抜きギャップを通過する際に、コーティングギャップ内における前記凸部の近傍の空気を、エア抜きギャップを通じて押し流す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項1)。
【0025】
また、このようにコーティングギャップ内における凸部の近傍の空気を、エア抜きギャップを通じて押し流すことで、成形基材の外面に、液状コーティング剤によって、成形基材の凸部以外の部分にコーティングギャップに応じた基本コーティング膜を形成すると共に、成形基材の凸部の頂面にエア抜きギャップに応じて基本コーティング膜よりも薄い模様コーティング膜を形成し、模様コーティング膜を形成するエア抜きギャップの寸法を、外部から模様コーティング膜を透過して凸部の頂面を目視可能な寸法に設定した、ことを特徴とする請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項2)。
【0026】
また、凸部は、コーティングギャップに注入されてコーティングギャップ内を流れる液状コーティング剤の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部、液状コーティング剤の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部、液状コーティング剤の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部および液状コーティング剤の流れに対して内方が囲まれた囲み部の内、少なくとも一つを有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項3)。
【0027】
本発明によれば、第一金型に成形基材を装着し、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当て、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、第二金型の内面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部を、コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成しておき、凸部が形成された第二金型に、成形基材が装着された第一金型を、成形基材を覆うように突き当てて、凸部の頂面と成形基材の外面との間にコーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップを形成し、その状態でコーティングギャップに液状コーティング剤を注入し、注入された液状コーティング剤がエア抜きギャップを通過する際に、コーティングギャップ内における凸部の近傍の空気を、エア抜きギャップを通じて押し流す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項4)。
【0028】
また、コーティングギャップ内における凸部の近傍の空気を、エア抜きギャップを通じて押し流すことで、成形基材の外面に、液状コーティング剤によって、第二金型の凸部以外が対向する成形基材の部分にコーティングギャップに応じた基本コーティング膜を形成すると共に、第二金型の凸部が対向する成形基材の部分にエア抜きギャップに応じて基本コーティング膜よりも薄い模様コーティング膜を形成し、模様コーティング膜を形成するエア抜きギャップの寸法を、外部から模様コーティング膜を透過して成形基材を目視可能な寸法に設定した、ことを特徴とする請求項4に記載の金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項5)。
【0029】
また第二金型の凸部は、コーティングギャップに注入されてコーティングギャップ内を流れる液状コーティング剤の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部、液状コーティング剤の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部、液状コーティング剤の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部および液状コーティング剤の流れに対して内方が囲まれた囲み部の内、少なくとも一つを有する、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項6)。
【0030】
本発明によれば、請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる製造装置であって、成形基材の外面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成されており、凸部が形成された成形基材が装着された第一金型を、第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、成形基材の外面に形成された凸部の頂面と第二金型の内面との間にコーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップが形成される、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造装置が提供される(請求項7)。
【0031】
本発明によれば、請求項4に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる製造装置であって、第二金型の内面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成されており、凸部が形成された第二金型に、成形基材が装着された第一金型を、成形基材を覆うように突き当てたとき、第二金型の内面に形成された凸部の頂面と成形基材の外面との間にコーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップが形成される、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造装置が提供される(請求項8)。
【0032】
また、凸部は、コーティングギャップに注入されてコーティングギャップ内を流れる液状コーティング剤の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部、液状コーティング剤の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部、液状コーティング剤の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部および液状コーティング剤の流れに対して内方が囲まれた囲み部の内、少なくとも一つを有する、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の金型内コーティング成形品の製造装置が提供される(請求項9)。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置によれば、次のような効果を発揮できる。
【0034】
(1)請求項1に係る発明によれば、成形基材の外面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部を、コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成し、凸部の頂面と第二金型の内面との間にコーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップを形成することで、コーティングギャップ内における凸部の近傍の空気を、エア抜きギャップを通じて押し流すようにしたので、凸部の近傍に形成されるエア溜りを防止でき、エア溜りによるコーティングの欠落を防止できる。よって、製品(金型内コーティング成形品)の外観が向上する。
【0035】
(2)また、請求項1に係る発明によれば、成形基材の凸部の頂面と第二金型の内面との間を液状コーティング剤が流れることで成形基材の凸部の頂面がエア抜きギャップに相当する厚さでコーティングされると共に、成形基材の凸部以外の部分と第二金型の内面との間を液状コーティング剤が流れることで成形基材の凸部以外の部分がコーティングギャップに相当する厚さでコーティングされる。この結果、成形基材は凸部とそれ以外の部分とが途切れることなく一体的にコーティングされることになり、コーティングの剥離強度が向上する。
【0036】
(3)請求項4に係る発明によれば、第二金型の内面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部を、コーティングギャップの寸法よりも小さい高さに形成し、凸部の頂面と成形基材の外面との間にコーティングギャップよりも狭いエア抜きギャップを形成することで、コーティングギャップ内における凸部の近傍の空気を、エア抜きギャップを通じて押し流すようにしたので、凸部の近傍に形成されるエア溜りを防止でき、エア溜りによるコーティングの欠落を防止できる。よって、製品(金型内コーティング成形品)の外観が向上する。
【0037】
(4)また、請求項4に係る発明によれば、第二金型の凸部の頂面と成形基材の外面との間を液状コーティング剤が流れることで第二金型の凸部が対向する成形基材の部分がエア抜きギャップに相当する厚さでコーティングされると共に、第二金型の凸部以外の部分と成形基材の外面との間を液状コーティング剤が流れることで第二金型の凸部以外が対向する成形基材の部分がコーティングギャップに相当する厚さでコーティングされる。この結果、成形基材は第二金型の凸部の頂面が対向する部分と第二金型の凸部以外の部分が対向する部分とが一体的に途切れることなくコーティングされることになり、コーティングの剥離強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明者が先に創案した本出願人の先願に係る発明の概要を示す金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置の説明図であり、(a)は第一金型、第二金型、成形基材の側断面図、(b)は成形基材の斜視図である。
【
図2】
図1(a)に示す第一金型と第二金型との間に成形基材を挟み込んだ状態を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の側断面図である
【
図3】
図3(a11)は
図2(b)の部分a11の拡大図、
図3(a1)は
図2(a)の部分a1の拡大図であって
図3(a11)のI-I線断面図、
図3(a12)、
図3(a13)、
図3(a14)は
図3(a11)に続くコーティング工程を示す説明図、
図3(a2)、
図3(a3)、
図3(a4)は
図3(a1)に続くコーティング工程を示す説明図である。
【
図4】
図4(b1)は
図2(a)の部分b1の拡大図、
図4(b2)、
図4(b3)、
図4(b4)は
図4(b1)に続くコーティング工程を示す説明図であり、
図4(c1)は
図2(a)の部分c1の拡大図、
図4(c2)、
図4(c3)、
図4(c4)は
図4(c1)に続くコーティング工程を示す説明図である。
【
図5】
図1~
図5を用いて説明した本出願人の先願に係る発明に関する金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置によって製造された金型内コーティング成形品の説明図であり、(a)は金型内コーティング成形品の斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図である。
【
図6】本出願人の先願に係る発明の応用例を示す金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置の説明図であり、(a)は第一金型と第二金型との間に成形基材を挟み込んだ状態を示す平面図、(b)はその側断面図、(c)は成形基材の斜視図である。
【
図7】
図7(a21)は
図6(b)の部分a21の拡大図、
図7(a1)は
図7(a21)のI-I線断面図、
図7(a22)、
図7(a23)、
図7(a24)は
図7(a21)に続くコーティング工程を示す説明図、
図7(a2)、
図7(a3)、
図7(a4)は
図7(a1)に続くコーティング工程を示す説明図である。
【
図8】
図6~
図7を用いて説明した本出願人の先願に係る発明の応用例である金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置によって製造された金型内コーティング成形品の説明図であり、(a)は金型内コーティング成形品の斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置の説明図であり、(a)は第一金型、第二金型、成形基材の側断面図、(b)は成形基材の斜視図である。
【
図10】
図9(a)に示す第一金型と第二金型との間に成形基材を挟み込んだ状態を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の側断面図である。
【
図13】
図9~
図12を用いて説明した第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置によって製造された金型内コーティング成形品の説明図であり、(a)は金型内コーティング成形品の斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図、(d)は(b)の部分dの拡大図である。
【
図14】本発明の第2実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置の説明図であり、(a)は第一金型と第二金型との間に成形基材を挟み込んだ状態を示す平面図、(b)はその側断面図、(c)は成形基材の斜視図である。
【
図16】
図14~
図15を用いて説明した本発明の第2実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置によって製造された金型内コーティング成形品の説明図であり、(a)は金型内コーティング成形品の斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
【
図17】本発明者が先に創案した本出願人の先願に係る発明の対比例(凸部を第二金型の内面に設けたもの)を示す金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置の説明図であり、
図17(a31)は凸部が第二金型の内面に設けられ凸部の頂面が成形基材の外面に当接された金型内コーティング成形品の製造装置の部分拡大図、
図17(a32)、
図17(a33)、
図17(a34)は
図17(a31)に続くコーティング工程を示す説明図、
図17(b)は
図17(a31)~
図17(a34)の工程を経て製造された金型内コーティング成形品の側断面図である。
【
図18】
図17に対応する本発明の第3実施形態(凸部を第二金型の内面に設けたもの)に係る金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置の説明図であり、
図18(A31)は凸部が第二金型の内面に設けられ凸部の頂面と成形基材の外面との間にエア抜きギャップが形成された金型内コーティング成形品の製造装置の部分拡大図、
図18(A32)、
図18(A33)、
図18(A34)は
図18(A31)に続くコーティング工程を示す説明図、
図18(B)は
図18(A31)~
図18(A34)の工程を経て製造された金型内コーティング成形品の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0040】
(金型内コーティング成形品の製造方法の概要)
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法は、
図9(a)、
図9(b)に示すように、第一金型1に成形基材2を装着し、
図10(a)、
図10(b)に示すように、成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に成形基材を覆うように突き当て、第二金型3の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップG1を形成し、コーティングギャップG1に液状コーティング剤を注入して成形基材2の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法が前提となる。この前提は、
図1~
図5を用いて説明した、本出願人の先願に係る発明の金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置と同様である。
【0041】
(第1実施形態の概要)
本発明の第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法の特徴は、
図10(a)、
図10(b)に示すように、成形基材2の外面に、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部4を、コーティングギャップG1の寸法よりも小さい高さH1に形成しておき、凸部4が形成された成形基材2を第一金型1に装着し、第一金型1を第二金型3に成形基材2を覆うように突き当てて、凸部4の頂面と第二金型3の内面との間にコーティングギャップG1よりも狭いエア抜きギャップG2(G2=G1-H1)を形成し、その状態で、
図11(A11)~
図11(A14)、
図11(A1)~
図11(A4)に示すように、コーティングギャップG1に液状コーティング剤を注入し、注入された液状コーティング剤がエア抜きギャップG2を通過する際に、コーティングギャップG1内における凸部4の近傍の空気(エア)を、エア抜きギャップG2を通じて押し流すようにした点にある。本発明の第1実施形態は、
図1~
図5を用いて説明した本出願人の先願に係る発明と比べると、凸部4の高さH1が異なる点を除き、同様の構成となっている。
【0042】
以下、第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置について説明する。
【0043】
(コーティングギャップG1)
図9(a)、
図9(b)、
図10(a)、
図10(b)に本発明の第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造装置を示す。この装置は、凸状のコア1aが形成された下側の第一金型1と、凹状のキャビティ3aが形成された上側の第二金型3とを備えており、第一金型1のコア1aに成形基材2が装着された状態で、その第一金型1が第二金型3に突き当てられて型締めされたとき、成形基材2の外面と第二金型3のキャビティ3aの内面との間にコーティングギャップG1(例えば10~100μm)が形成されるようになっている。なお、第一金型1と第二金型3とは、上下配置(竪型)に限られず、左右配置(横型)でもよく、第一金型1を第二金型3に突き当てて型締めし、離間させて型開きして成形品を取り出すアクチュエータには、油圧や電動など様々な機構が用いられる。
【0044】
図9(a)、
図10(a)、
図10(b)に示すように、第二金型3の一方の側面には、上述したコーティングギャップG1に液状コーティング剤(例えば熱硬化塗料T)を注入するための注入口5が形成されている。注入口5は、第二金型3の内部に形成された注入通路6およびゲート7を介して、キャビティ3aと連通している。また、第二金型3の他方の側面には、コーティングギャップG1に注入された液状コーティング剤(以下、塗料Tともいう)の内、コーティングに余剰な塗料Tを排出するための排出口8が形成されている。排出口8は、第二金型3のPL面(パーティングライン面:第一金型1との突き当て面)に第二金型3の側面からキャビティ3aの内面に架けて溝状に形成された排出通路9の一端であり、
図10(b)に示す型締め時に、排出通路9を介してキャビティ3aと連通する。この構成によれば、
図10(b)に示す型締め時に、第二金型3の一方の側面に設けられた注入口5に塗料Tを注入すると、注入された塗料TがコーティングギャップG1を通って第二金型の他方の側面に設けられた排出口8に向かって流れ、その塗料Tの流れによってコーティングギャップG1内の空気(エア)が排出口8から排出され、塗料Tが排出口8から排出されることで成形基材2の外面が塗料Tでコーティングされる。
【0045】
(エア抜きギャップG2)
図9(a)、
図9(b)、
図10(b)に示すように、成形基材2の外面には、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部4が、コーティングギャップG1の寸法(例えば10~100μm)よりも小さい高さH1(例えば5~80μm)に形成されている。凸部4が形成された成形基材2は、第一金型1のコア1aに装着される。その後、
図10(b)に示すように、第一金型1が第二金型3に突き当てられ、第一金型1に装着された成形基材2が第二金型3のキャビティ3aに挿入される。このとき、成形基材2の外面に形成された凸部4の頂面と第二金型3のキャビティ3aの内面との間には、コーティングギャップG1よりも狭いエア抜きギャップG2(G2=G1-H1:例えば5~50μm)が形成される。エア抜きギャップG2の寸法は、液状コーティング剤としての塗料Tに含まれる顔料やラメ粒の粒径よりも大きく、顔料やラメ粒の通過を妨げない。
【0046】
図10(b)に示すように、成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に突き当てて型締めした後、第二金型3の一方の側面に設けられた注入口5に液状コーティング剤(塗料T)を注入する。すると、注入された塗料TがコーティングギャップG1を通って第二金型3の他方の側面に設けられた排出口8に向かって流れ、塗料Tがエア抜きギャップG2を通過する際、コーティングギャップG1内における凸部4の近傍の空気がエア抜きギャップG2を通じて押し流される。これにより、凸部4の近傍に形成されるエア溜りAを防止でき、エア溜りAによるコーティングの欠落部Kの発生を防止できる。よって、コーティング工程が終了した後、
図10(b)に示す第一金型1を第二金型3から離間させて型開きし、第一金型1のコア1aから取り出された製品(金型内コーティング成形品10(
図13(a)参照))についてエア溜りAに起因する外観不良を防止でき、外観品質が向上する。
【0047】
また、第1実施形態においては、
図10(b)に示す型締め状態において、成形基材2の凸部4の頂面と第二金型3のキャビティ3aとの間を液状コーティング剤(塗料T)が流れることで、成形基材2の凸部4の頂面がエア抜きギャップG2に相当する厚さでコーティングされると共に、成形基材2の凸部4以外の部分と第二金型3のキャビティ3aとの間を液状コーティング剤が流れることで、成形基材2の凸部4以外の部分がコーティングギャップG1に相当する厚さでコーティングされる。この結果、型開き後に取り出された製品(金型内コーティング成形品10)は、
図13(b)及びその部分拡大図である
図13(d)に示すように、凸部4とそれ以外の部分とが途切れることなく一体的にコーティングされてコーティング膜11(塗膜:図中、ドットで表す)が形成されることになり、コーティング膜11(塗膜)の剥離強度が向上する。
【0048】
また、第1実施形態によれば、上述したようにコーティングギャップG1内における凸部4の近傍の空気を、エア抜きギャップG2を通じて押し流すことで
図13(b)、
図13(c)、
図13(d)に示すように、成形基材2の外面に、液状コーティング剤によって、成形基材2の凸部4以外の部分にコーティングギャップG1に応じた基本コーティング膜11aが形成されると共に、成形基材2の凸部4の頂面にエア抜きギャップG2に応じて基本コーティング膜11aよりも薄い模様コーティング膜11bが形成される。これらの基本コーティング膜11aおよび模様コーティング膜11bによって、上述した一体的なコーティング膜11が一体的に形成されることになる。ここで、模様コーティング膜11bを形成するエア抜きギャップG2の寸法を、外部から模様コーティング膜11bを透過して凸部4の頂面が目視可能な寸法に設定することで、製品(金型内コーティング成形品10)の外観を目視したとき凸部4の部分の模様を認識でき、一体的なコーティング膜11による塗膜の剥離強度の向上と凸部4による模様の認識とを両立できる。
【0049】
(凸部4)
図9(b)に示すように、本実施形態においては、成形基材2の外面に凸部4が四個設けられている。
図10(a)の部分A1に示す凸部4は、コーティングギャップG1内を流れるコーティング剤(塗料T)の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部12を有する。
図10(a)の部分B1に示す凸部4は、コーティングギャップG1内を流れるコーティング剤(塗料T)の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部13を有する。
図10(a)の部分C1に示す凸部4は、コーティングギャップG1内を流れるコーティング剤(塗料T)の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部14を有する。以下、堰き止め部12、後方巻き込み部13、側方巻き込み部14について説明する。
【0050】
(堰き止め部12)
図10(a)の部分A1に示す凸部4は、堰き止め部12を有する。堰き止め部12は、山型部材の開き側が塗料Tの流れの上流側に向けて配置されており、注入口5に注入された塗料TがコーティングギャップG1を通って排出口8から排出される際、コーティングギャップG1内を左方から右方に流れる塗料Tの流れ方向の上流側が開いた形状となっている。堰き止め部12は、山型部材の開き側の形状に限定されることはなく、U字形やコ字形等の開き側が塗料Tの流れの上流側に向けられた形状でもよい。また、これら山型、U字形、コ字形等の開き側は、コーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T:以下ドットで表す)の流れに対して本実施形態のように90度に正対して配置されるものに限られず、塗料Tの流れに対して斜め(例えば45~90度)に配置されたものも含まれる。また、堰き止め部12は、塗料Tの流れの上流側が上述のように開いている形状であればよく、塗料Tの流れの下流側はどのような形状であってもよい。
【0051】
(後方巻き込み部13)
図10(a)の部分B1に示す凸部4は、後方巻き込み部13を有する。後方巻き込み部13は、山型部材の開き側が塗料Tの流れの下流側に向けて配置されており、コーティングギャップG1内を左方から右方に流れる塗料Tの流れ方向の下流側が開いた形状となっている。後方巻き込み部13は、山型部材の開き側の形状に限定されることはなく、U字形やコ字形等の開き側が塗料Tの流れの下流側に向けられた形状でもよい。また、これら山型、U字形、コ字形等の開き側は、コーティングギャップを流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れに対して本実施形態にように90度に逆向きに配置されるものに限られず、塗料Tの流れに対して斜め(例えば45~90度)に逆向きに配置されたものも含まれる。また、後方巻き込み部13は、塗料Tの流れの下流側が上述のように開いている形状であればよく、塗料Tの流れの上流側はどのような形状であってもよい。
【0052】
(側方巻き込み部14)
図10(a)の部分C1に示す凸部4は、側方巻き込み部14を有する。側方巻き込み部14は、山型部材の開き側が塗料Tの流れと交差(本実施形態においては直交)するように向けて配置されており、コーティングギャップG1内を左方から右方に流れる塗料Tの流れ方向と交差(直交)する側が開いた形状となっている。側方巻き込み部14は、山型部材の開き側の形状に限定されることはなく、U字形やコ字形等の開き側が塗料Tの流れと交差するように向けられた形状でもよい。また、これら山型、U字形、コ字形等の開き側は、コーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れに対して直交するように即ち90度交差するように配置されるものに限られず、塗料Tの流れに対して斜め(例えば45~90度)に交差するように配置されたものも含まれる。また、側方巻き込み部14は、塗料Tの流れに対して交差する側が上述のように開いている形状であればよく、その反対側(本実施形態においては山形の頂点側)はどのような形状であってもよい。
【0053】
(堰き止め部12の近傍における塗料Tとエアの流れ)
図10(a)の部分A1、それに対応する断面である
図10(b)の部分A11に示すように、コーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れ方向の上流側が開いている堰き止め部12について、コーティングギャップG1内における塗料Tとエアの流れを説明する。
図10(b)の部分A11の拡大図を
図11(A11)に示し、
図10(a)の部分A1の拡大図を
図11(A1)に示す。
【0054】
図11(A11)、
図11(A1)に示すように、ドットで示す塗料Tが凸部4の堰き止め部12に近づくと、堰き止め部12の前方(図中左方)のエアがエア抜きギャップG2から図中右方に徐々に抜けるものの、エア抜きギャップG2がコーティングギャップG1よりも狭いため堰き止め部12の内方のエアの圧力が或る程度高まり、その圧力によって堰き止め部12の前方の塗料Tが押されて流れの先端Taが凹んだ形状となる。その後、塗料Tの流れが進行すると、
図11(A12)、
図11(A2)に示すように、堰き止め部12の内方のエアがエア抜きギャップを通じて逃げ、
図11(A13)、
図11(A3)に示すように、塗料Tがエア抜きギャップG2を乗り越えるように通過し、最終的には
図11(A14)、
図11(A4)に示すように、堰き止め部12を有する凸部4の近傍に気泡(エア溜り)が形成されることなくコーティングされる。
【0055】
(後方巻き込み部13の近傍における塗料Tとエアの流れ)
図10(a)の部分B1に示すように、コーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れ方向の下流側が開いている後方巻き込み部13について、コーティングギャップG1内における塗料Tとエアの流れを説明する。部分B1の拡大図を
図12(B1)に示す。
【0056】
図12(B1)に示すように、塗料Tが凸部4の後方巻き込み部13の前部に流れ当たる前に、後方巻き込み部13の前方(図中左方)のエアが、後方巻き込み部13を構成する山型部材の傾斜に沿って両側(図中上下)に押し退けられると共に、後方巻き込み部13(凸部4)の頂面と第二金型のキャビティ3aとの間のエア抜きギャップG2を通って後方巻き込み部13の内方に抜ける。その後、
図12(B2)に示すように、塗料Tがエア抜きギャップG2から後方巻き込み部13の内方に流れ、
図12(B3)に示すように、エア抜きギャップG2を通って後方巻き込み部13の内方に浸入した塗料Tと、後方巻き込み部13の左右の後端の塗料Tとが合流し、塗料Tがエア抜きギャップG2を通って小矢印で示すように後方巻き込み部13の内方に少しずつ供給される。よって、最終的には
図12(B4)に示すように、後方巻き込み部13を有する凸部4の近傍に気泡(エア溜り)が形成されることなくコーティングされる。
【0057】
(側方巻き込み部14の近傍における塗料Tとエアの流れ)
図10(a)の部分C1に示すように、コーティングギャップG1を流れる液状コーティング剤(塗料T)の流れ方向と交差する側が開いている側方巻き込み部14について、コーティングギャップG1における塗料Tとエアの流れを説明する。部分C1の拡大図を
図12(C1)に示す。
【0058】
図12(C1)に示すように、塗料Tが側方巻き込み部14の上流側部の先端に流れ当たった後、
図12(C2)に示すように、塗料Tが側方巻き込み部14の外面に沿った流れと側方巻き込み部14の内面に巻き込まれる流れとに分流される。このとき、側方巻き込み部14(凸部4)の前方(図中左方)のエアは、塗料Tと同様に分流されると共に、エア抜きギャップG2を通って側方巻き込み部14の内方に流れる。その後、
図12(C3)に示すように、側方巻き込み部14の内面に巻き込まれた塗料Tと、側方巻き込み部14の外面の後端の塗料Tとが合流し、塗料Tがエア抜きギャップG2を通じて小矢印で示すように側方巻き込み部14の内方に少しずつ供給されることで、最終的には
図12(C4)に示すように、側方巻き込み部14を有する凸部4の近傍に気泡(エア溜り)が形成されることなくコーティングされる。
【0059】
(堰き止め部12、後方巻き込み部13、側方巻き込み部14の夫々のエア抜きギャップG2の大小関係)
図11を用いて説明したように、堰き止め部12を有する凸部4においては、エア抜きギャップG2は主としてエアを排出するものなので比較的狭い間隔でよい。他方、
図12を用いて説明したように、後方巻き込み部13を有する凸部4および側方巻き込み部14を有する凸部4においては、エア抜きギャップG2はエアも流すが主として塗料Tを流すものなので、堰き止め部12を有する凸部4よりも広く設定することが好ましい。例えば、堰き止め部12を有する凸部4のエア抜きギャップG2を10μmとした場合、後方巻き込み部13、側方巻き込み部14を有する凸部4のエア抜きギャップG2を30μmとすることが考えられる。
【0060】
(製品としての金型内コーティング成形品10)
以上説明したように、
図10(b)に示す第一金型1を第二金型3に押し付けて型締めした状態で液状コーティング剤(塗料T)を注入口5から注入して排出口8から排出することで、成形基材2の外面には、堰き止め部12を有する凸部4、後方巻き込み部13を有する凸部4、側方巻き込み部14を有する凸部4の近傍に気泡(エア溜りA)が形成されることなく、適切にコーティング(塗装)が施される。この製品(金型内コーティング成形品10)は、第一金型1を第二金型3から離間させて型開きした後、第一金型1に備えられたイジェクト機構(押し出しピン等)によって第一金型1のコア1aから離型され、排出通路9において硬化した塗料Tが不要部分として除去される。
【0061】
この金型内コーティング成形品10を
図13(a)、
図13(b)、
図13(c)、
図13(d)に示す。
図13(d)は
図13(b)の部分dの拡大図である。金型内コーティング成形品10は、コーティング時に、堰き止め部12を有する凸部4、後方巻き込み部13を有する凸部4、側方巻き込み部14を有する凸部4の近傍に気泡(エア溜りA)が形成されないため、これら堰き止め部12、後方巻き込み部13、側方巻き込み部14の近傍にコーティング(塗装)の欠落部Kが生じることはなく、これに起因する外観不良が発生しない。
【0062】
これに対し、
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)に示す対比例(本出願人の先願に係る発明の金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置によって製造された金型内コーティング成形品10J)においては、既述のように、塗料Tの粘性、注入時間、塗料Tの硬化時間等の条件によっては、凸部4Jの近傍にエア溜りAによる塗料Tの欠落部Kが形成されることがあり、外観不良となる可能性がある。
【0063】
また、第1実施形態においては、
図13(b)、
図13(c)に示すように、成形基材2の凸部4の頂面がエア抜きギャップG2に相当する厚さでコーティングされると共に、成形基材2の凸部4以外の部分がコーティングギャップG1に相当する厚さでコーティングされるため、凸部4とそれ以外の部分とが途切れることなく一体的にコーティングされてコーティング膜11(塗膜)が形成されることになる。よって、コーティング膜11(塗膜)の剥離強度が向上する。
【0064】
これに対し、
図5(b)、
図5(c)に示す対比例(本出願人の先願に係る発明に関する金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置によって製造された金型内コーティング成形品10J)においては、既述のように、凸部4Jの頂面には塗膜が形成されないため、経年使用すると凸部4Jの頂面と塗膜11Jとの境界や上述した塗料Tの欠落部Kを起点として塗膜11Jが剥離する可能性も考えられる。
【0065】
また、第1実施形態においては、
図13(b)、
図13(c)、
図13(d)に示すように、成形基材2の外面には、成形基材2の凸部4以外の部分に
図10(b)に示すコーティングギャップG1に応じた基本コーティング膜11aが形成されると共に、成形基材2の凸部4の頂面に
図10(b)に示すエア抜きギャップG2に応じて基本コーティング膜11aよりも薄い模様コーティング膜11bが形成される。ここで、模様コーティング膜11bを形成するエア抜きギャップG2の寸法を、外部から模様コーティング膜11bを透過して凸部4の頂面を目視可能な寸法に設定することで、製品(金型内コーティング成形品10)の外観を目視したとき凸部4の部分の模様を認識でき、一体的なコーティング膜11による剥離強度の向上と凸部4による模様の認識とを両立できる。
【0066】
なお、
図13(b)、
図13(c)、
図13(d)において、模様コーティング膜11bの下方の凸部4と基本コーティング膜11aの下方の成形基材2とを外部から目視で明確に識別するためには、基本コーティング膜11aを形成する
図10(b)に示すコーティングギャップG1の寸法を、外部から目視で基本コーティング膜11aを透過して成形基材2が認識できない寸法に設定することが好ましい。但し、コーティングギャップG1をその寸法よりも多少小さく設定して、外部から基本コーティング膜11aを透過して成形基材2が僅かに認識できるようにしても、外部から模様コーティング膜11bを透過して認識される凸部4の模様の部分と識別できるトーン(濃淡の度合い)の差があれば構わない。
【0067】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法および製造装置を
図14~
図16を用いて説明する。第2実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法および製造装置は、基本的には
図9~
図13を用いて説明した第1実施形態と同様であり、凸部4が、液状コーティング剤(塗料T)の流れに対して内方が囲まれた囲み部16を有する点のみが相違する。よって、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、相違点である囲み部についてのみ説明する。なお、第2実施形態は、
図6~
図8を用いて説明した本出願人の先願に係る発明と比べると、凸部4の高さH1が異なる点を除き、同様の構成となっており、例えば、囲み部としてはリング状の模様の他、英字の「A」、「O」等が挙げられる。
【0068】
(囲み部16)
図14(a)、
図14(b)、
図14(c)に示すように、成形基材2の上面に形成された凸部4は、液状コーティング剤(塗料T)の流れに対して内方が囲まれた囲み部16を有している。囲み部16の頂面の成形基材2の上面からの高さは、コーティングギャップG1の寸法よりも小さい高さH1に設定されており、
図14(b)に示すように、成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に突き当てた型閉じ時に、囲み部16の頂面と第二金型3のキャビティ3aの内面との間に、コーティングギャップG1よりも狭いエア抜きギャップG2が形成される。
【0069】
図14(b)の部分A21の拡大図を
図15(A21)に示し、
図15(A21)のI-I線断面図を
図15(A1)に示す。
図15(A21)に続くコーティング工程を
図15(A22)、
図15(A23)、
図15(A24)に示し、
図15(A1)に続くコーティング工程を
図15(A2)、
図15(A3)、
図15(A4)に示す。これらのコーティング工程は基本的には上述した第1実施形態と同様なので詳しい説明を省略するが、
図15(A22)、
図15(A2)に示すように、塗料Tが流れ方向上流側のエア抜きギャップG2から囲み部16の内方に浸入すると共に、
図15(A23)、
図15(A3)に示すように、囲み部16の内方のエアが塗料Tの流れ方向の後方のエア抜きギャップG2から排出されることで、最終的に
図15(A24)、
図15(A4)に示すように、囲み部16の内方に塗料Tが隙間なく充填され、エア溜りAを回避できる。
【0070】
こうして囲み部16の内方にエア溜りAなくコーティングされた製品(金型内コーティング成形品10a)を
図16(a)、
図16(b)に示す。この金型内コーティング成形品10aにおいては、成形基材2の外面には、囲み部16を有する凸部4以外の部分に、囲み部16の内方も含めてコーティングギャップG1に応じた基本コーティング膜11aが形成されると共に、成形基材2の凸部4(囲み部16)の頂面に、エア抜きギャップG2に応じて基本コーティング膜11aよりも薄い模様コーティング膜11bが形成される。このように基本コーティング膜11aおよび模様コーティング膜11bが一体的に形成された第2実施形態に係る金型内コーティング成形品10aに関する効果は、上述した第1実施形態と同様であるので詳しい説明を省略する。
【0071】
(囲み部16のエア抜きギャップGの大小関係)
第2実施形態においては、
図15(A22)、
図15(A2)に示すように、塗料Tが流れ方向上流側のエア抜きギャップG2から囲み部16の内方に浸入すると共に、
図15(A23)、
図15(A3)に示すように、囲み部16の内方のエアが塗料Tの流れ方向の後方のエア抜きギャップG2から排出されることで、囲み部16の内方に塗料Tがエア溜りAなく充填されるので、塗料Tを積極的に囲み部16の内方に流したい。よって、第2実施形態の囲み部16の頂面と第二金型3のキャビティ3aの内面との間のエア抜きギャップG2は、第1実施形態において説明した後方巻き込み部13を有する凸部4のエア抜きギャップG2、側方巻き込み部14を有する凸部4のエア抜きギャップG2よりも広く設定することが好ましい。例えば、後方巻き込み部13、側方巻き込み部14を有する凸部4のエア抜きギャップG2を30μmとした場合、囲み部16を有する凸部4のエア抜きギャップG2は50μmとすることが考えられる。
【0072】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法および製造装置を
図17~
図18を用いて説明する。
図17(a31)~
図17(a34)は第3実施形態の対比例(本出願人の先願に係る発明)を示すコーティング工程図、
図17(b)はそれによって得られた対比例としての金型内コーティング成形品10Jであり、
図18(A31)~
図18(A34)は第3実施形態に係るコーティング工程図、
図18(B)はそれによって得られた第3実施形態に係る金型内コーティング成形品10bである。
【0073】
第3実施形態は、
図18(A31)に示すように、本発明のポイントとなるエア抜きギャップG2を形成するための凸部4を第二金型3の内面(キャビティ3aの内面)に設けたものであり、
図11(A11)、に示すように凸部4を成形基材2の外面に設けた第1実施形態、
図15(A21)に示すように凸部4を成形基材2の外面に設けた第2実施形態と比べると、凸部4を設ける対象を成形基材2の外面から第二金型3のキャビティ3aの内面に変更した点を除き、同様の構成となっている。よって、第1、第2実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、相違点である凸部4を第二金型3のキャビティ3aの内面に設けた点についてのみ説明する。
【0074】
第3実施形態は、
図18(A31)に示すように、第二金型3のキャビティ3aの内面に凸部4をコーティングギャップG1の寸法よりも小さい高さH1に形成し、成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に突き当てたとき、凸部4の頂面と成形基材2の外面との間にエア抜きギャップG2(G2=G1-H1)を形成するようにしたものである。すなわち、
図11(A11)に示す第1実施形態、
図15(A21)に示す第2実施形態のように成形基材2の外面に凸部4を設け、その成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に突き当てたとき、凸部4の頂面と第二金型3のキャビティ3aの内面との間にエア抜きギャップG2を形成するようにしたものと比べると、凸部4を設ける対象が成形基材2の外面から第二金型3の内面に変更されている。
【0075】
(対比例における塗料Tとエアの流れ)
第3実施形態のポイントを明確にするため、先ず、対比例のコーティング工程を、
図17を用いて説明する。対比例においては、
図17(a31)に示すように、第二金型3のキャビティ3aの内面に、凸部4JがコーティングギャップG1に応じた高さHに形成されており、その第二金型3に
図2(b)に示すように成形基材2が装着された第一金型1が突き当てられて型閉じされたとき、凸部4Jの頂面が成形基材2の外面に突き当たるようになっている。なお、
図2(b)の成形基材2の外面に形成されている凸部4Jは存在しないものとする。
【0076】
この状態で
図17(a31)に示すように、コーティングギャップG1に液状コーティング剤(例えば塗料T)を流すと、
図17(a32)、
図17(a33)に示すように、凸部4Jの形状、液状コーティング剤(塗料T)の粘性、注入時間、硬化時間等の条件によっては、凸部4Jの前方(塗料Tの流れ方向の前方)のエアが凸部4Jで仕切られて逃げ道が無いためエアが閉じ込められ、最終的に、
図17(a34)に示すように、エア溜りAが形成される可能性がある。この結果、
図17(b)に示すように、型開きして取り出された製品(金型内コーティング成形品10J)は、凸部4J以外が対向する成形基材2の外面にコーティングギャップG1に応じたコーティング膜(塗膜)11Jが形成されると共に、凸部4Jに接して形成されたエア溜りAの部分に塗料Tの欠落部Kが形成され、外観不良となる。
【0077】
加えて、
図17(a34)に示すように、凸部4Jの頂面が成形基材2の外面に突き当てられてマスキングされた状態となるので、
図17(b)に示すように、凸部4Jの頂面が突き当てられた成形基材2の部分には塗膜(コーティング膜11J)が形成されず成形基材2の外面が露出する。この結果、経年使用すると、成形基材2の露出部2Rと塗膜11Jとの境界や、上述した塗料Tの欠落部Kを起点として塗膜11Jが剥離する可能性も考えられる。
【0078】
(第3実施形態の塗料Tとエアの流れ)
他方、第3実施形態においては、
図18(A31)に示すように、第二金型3のキャビティ3aの内面に凸部4がコーティングギャップG1の寸法よりも小さい高さH1に形成されており、その凸部4が形成された第二金型3に
図10(b)に示すように成形基材2が装着された第一金型1が突き当てられて型閉じされたとき、凸部4の頂面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップG1よりも狭いエア抜きギャップG2(G2=G1-H1)が形成されるようになっている。なお、
図10(b)の成形基材2の外面に形成されている凸部4は存在しないものとする。
【0079】
この状態で
図18(A31)に示すように、コーティングギャップG1に液状コーティング剤(例えば塗料T)を流すと、
図18(A32)に示すように凸部4の前方のエアがエア抜きギャップG2を通って後方に排出され、凸部4の前方のエアの圧力が抜ける。この結果、
図18(A33)に示すように、塗料Tもスムーズにエア抜きギャップG2を通過して凸部4の背後に浸入する。よって、
図18(A34)に示すように、凸部4の近傍にエア溜りAが形成されることはなく、健全にコーティングできる。この結果、
図18(B)に示すように、型開きして取り出された製品(金型内コーティング成形品10b)は、エア溜りAに起因する塗料Tの欠落部Kが形成されることはない。
【0080】
すなわち、第3実施形態においては、第二金型3の内面に、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部4を、コーティングギャップG1の寸法よりも小さい高さH1に形成し、凸部4の頂面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップG1よりも狭いエア抜きギャップG2を形成することで、コーティングギャップG1内における凸部4の近傍の空気を、エア抜きギャップG2を通じて押し流すようにしたので、凸部4の近傍に形成されるエア溜りAを防止でき、エア溜りAによるコーティングの欠落を防止できる。よって、製品(金型内コーティング成形品10b)の外観不良を防止できる。
【0081】
加えて、
図18(A31)、
図18(A34)、
図18(B)に示すように、凸部4以外が対向する成形基材2の部分がコーティングギャップG1に相当する厚さの基本コーティング膜11aでコーティングされると共に、凸部4が対向する成形基材2の部分にはエア抜きギャップG2に相当する厚さの模様コーティング膜11bでコーティングされるため、成形基材2は基本コーティング膜11aおよび模様コーティング膜11bによって途切れることなく一体的にコーティングされてコーティング膜11(塗膜)が形成されることになる。よって、コーティング(塗膜)の剥離強度が向上する。
【0082】
(その他)
第3実施形態の基本的な作用効果は、第1実施形態、第2実施形態と同様なので説明を省略する。また、第3実施形態の変形例として、第1実施形態、第2実施形態において説明した構成要素を付加したものも考えられる。例えば、第3実施形態の変形例として、凸部4が、第1実施形態において説明した堰き止め部12、後方巻き込み部13、側方巻き込み部14、第2実施形態において説明した囲み部16の内、少なくとも一つを有している実施形態が挙げられる。また、第3実施形態の変形例として、模様コーティング膜11bを形成するエア抜きギャップG2の寸法、基本コーティング膜11aを形成するコーティングギャップG1の寸法が、第1実施形態、第2実施形態において説明した寸法に設定されている実施形態が挙げられる。
【0083】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。例えば、凸部4の頂面は、上述した各実施形態においては平面を示したが、曲面、斜面、凹凸面も含まれる。また、凸部4が、第1実施形態において説明した堰き止め部12、後方巻き込み部13、側方巻き込み部14、第2実施形態において説明した囲み部16の内、少なくとも一つを有する実施形態も本発明に含まれる。また、第3実施形態において説明した凸部4を第二金型3の内面に設けたタイプと、第1、第2実施形態において説明した凸部4を成形基材2の外面に設けたタイプとを混在させた実施形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及び製造装置に利用できる。
【符号の説明】
【0085】
1 第一金型
2 成形基材
3 第二金型
4 凸部
10 金型内コーティング成形品
11a 基本コーティング膜
11b 模様コーティング膜
12 堰き止め部
13 後方巻き込み部
14 側方巻き込み部
16 囲み部
T 液状コーティング剤としての塗料T
G1 コーティングギャップ
G2 エア抜きギャップ