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特開2024-133450車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133450
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/54 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
H04B3/54
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024040132
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】112109611
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】112117025
(32)【優先日】2023-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】112121140
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】524099382
【氏名又は名称】香港龍雲科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】HK Oceancomm Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】RM A 12F ZJ300, 300 LOCKHART ROAD, WAN CHAI HONG KONG
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】李信賢
(57)【要約】      (修正有)
【課題】車載CAN(コントローラエリアネットワーク)/LIN(ローカル相互接続ネットワーク)バスに代わる有線通信システムを提供する。
【解決手段】有線通信システムは、複数の通信ユニットに接続された電力線または伝送線を有し、マスター通信ユニットを備える。第1の時間領域において、複数の通信ユニットのそれぞれは、専用の送信周波数帯域を有し、複数の通信ユニットの送信周波数帯域は互いに重複せず、かつ、マスター通信ユニットの送信周波数帯域または送信時間と重複しない。すべての送信周波数帯域は完全なOFDM周波数帯域に結合することができ、送信周波数帯域の間にガードバンド(Guardband)はない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載CAN/LINバスに代わる有線通信システムであって、
前記有線通信システムは、複数の通信ユニットに接続された電力線または伝送線を有し、
前記有線通信システムは、前記複数の通信ユニットのクロック補正を実行して同期を完了したり、時間遅延または減衰値を補正したりするマスター通信ユニットを含み、
第1の時間領域では、前記複数の通信ユニットのそれぞれは専用の送信周波数帯域を有し、前記複数の通信ユニットの前記送信周波数帯域は互いに重複せず、かつ、前記マスター通信ユニットの送信周波数帯域または送信時間と重複せず、すべての前記送信周波数帯域は完全なOFDM周波数帯域に結合することができ、複数の送信周波数帯域の間にガードバンド(Guard band)はない、
有線通信システム。
【請求項2】
前記マスター通信ユニットは、前記複数の通信ユニットとの時刻同期を行うことで、前記複数の通信ユニットと前記マスター通信ユニットから同時に送信されたパケットは完全なOFDM信号に結合し、前記複数の通信ユニットと前記マスター通信ユニットは同時に受信および復調することができ、
前記マスター通信ユニットはすべての前記複数の通信ユニットの継続的なクロック同期を維持する必要があり、前記マスター通信ユニットと前記複数の通信ユニットは同じ長さのパケットを同時に送信することで、すべての信号が前記複数の通信ユニットのそれぞれおよび前記マスター通信ユニットで復調可能な状態に維持される、
請求項1に記載の有線通信システム。
【請求項3】
前記マスター通信ユニットは、前記複数の通信ユニットが対応する専用の送信周波数帯域を有するように、前記複数の通信ユニットを割り当て、
前記マスター通信ユニットは、すべての前記複数の通信ユニットが使用する送信周波数帯域を使用でき、
前記マスター通信ユニットは、パケットを送信するために前記複数の通信ユニットにアップリンク時間を割り当て、パケットを前記複数の通信ユニットに送信するためにダウンリンク時間を割り当て、
前記マスター通信ユニットは、前記有線通信システム内のすべての前記複数の通信ユニットの送信側を調整して時間遅延補正を行うことで、前記複数の通信ユニットのそれぞれから送信されたパケットが前記マスター通信ユニットに到達したときに、すべてのパケットは完全なOFDM信号に結合することができる、
請求項1に記載の有線通信システム。
【請求項4】
前記マスター通信ユニットは、前記送信周波数帯域に対応する前記複数の通信ユニットの前記アップリンク時間を割り当てた後、前記複数の通信ユニットは前記アップリンク時間中にそれぞれのパケットを前記マスター通信ユニットに同時に送信し、前記マスター通信ユニットにより、前記複数の通信ユニットから送信されたすべてのパケットを復調して前記完全なOFDM信号に結合し、
前記マスター通信ユニットは、前記ダウンリンク時間中に前記複数の通信ユニットにパケットを送信する、
請求項3に記載の有線通信システム。
【請求項5】
前記マスター通信ユニットがパケットを送信する場合、前記複数の通信ユニットは受信状態となり、前記複数の通信ユニットがパケットを送信する場合、前記マスター通信ユニットは受信状態となる、請求項4に記載の有線通信システム。
【請求項6】
前記マスター通信ユニットは、複数のOFDM信号を送受信できるトランシーバを備え、前記有線通信システムは、異なる前記複数の送信周波数帯域に対応するバンドパスフィルタを介して前記マスター通信ユニットに接続され、
前記有線通信システム内の前記複数の通信ユニットは、相互に直接通信することはできないが、前記マスター通信ユニットと同時に通信することができる、
請求項1に記載の有線通信システム。
【請求項7】
前記複数の通信ユニットのそれぞれは、
2つのコンデンサと、
インピーダンス整合として前記2つのコンデンサにそれぞれ直列に接続された2つの整合抵抗と、
を含み、
前記通信ユニットの送信側と前記2つの整合抵抗との間に、ラインドライバが設けられ、前記通信ユニットの受信側、前記2つのコンデンサ、及び前記2つの整合抵抗の間に、ローノイズ増幅器(LNA)が設けられている、
請求項2に記載の有線通信システム。
【請求項8】
前記複数の通信ユニットのそれぞれは、
2つのコンデンサと、
インピーダンス整合として前記2つのコンデンサにそれぞれ直列に接続された2つの整合抵抗と、
を含み、
前記通信ユニットの送信側と前記2つの整合抵抗との間に、ラインドライバが設けられ、前記通信ユニットの受信側、前記2つのコンデンサ、及び前記2つの整合抵抗の間に、ローノイズ増幅器(LNA)が設けられている、
請求項5に記載の有線通信システム。
【請求項9】
前記有線通信システムには、前記電力線上で電気エネルギー波およびネットワーク信号が伝送され、
前記有線通信システムは、第1のローパスフィルタと第1のカプラとを含み、
前記第1のローパスフィルタは、前記有線通信システムの各電力消費端または一部の電力消費端の入口に設置され、前記第1のローパスフィルタにより、前記電力線を前記電力消費端と送信端に分離し、前記ネットワーク信号を除去することで、前記電気エネルギー波は前記電力消費端に入り、
前記第1のカプラは、第1の結合経路を生成するために使用され、前記第1の結合経路により、前記ネットワーク信号が前記第1のローパスフィルタを通過せず、前記第1の結合経路を経由して前記第1のカプラを介して前記送信端に入り、
前記送信端の電力線インピーダンスは、前記電力消費端の影響を受けない、
請求項2に記載の有線通信システム。
【請求項10】
前記有線通信システムには、前記電力線上で電気エネルギー波およびネットワーク信号が伝送され、
前記有線通信システムは、第1のローパスフィルタと第1のカプラとを含み、
前記第1のローパスフィルタは、前記有線通信システムの各電力消費端または一部の電力消費端の入口に設置され、前記第1のローパスフィルタにより、前記電力線を前記電力消費端と送信端に分離し、前記ネットワーク信号を除去することで、前記電気エネルギー波は前記電力消費端に入り、
前記第1のカプラは、第1の結合経路を生成するために使用され、前記第1の結合経路により、前記ネットワーク信号が前記第1のローパスフィルタを通過せず、前記第1の結合経路を経由して前記第1のカプラを介して前記送信端に入り、
前記送信端の電力線インピーダンスは、前記電力消費端の影響を受けない、
請求項5に記載の有線通信システム。
【請求項11】
前記マスター通信ユニットは、前記複数の送信周波数帯域内のすべて信号エネルギーがほぼ同じになるように、前記複数の通信ユニットの送信エネルギーを調整する、請求項3に記載の有線通信システム。
【請求項12】
前記複数の通信ユニットは同じ前記送信周波数帯域を使用するが、前記複数の通信ユニットは同じ前記送信周波数帯域を時分割で使用する必要がある、請求項1に記載の有線通信システム。
【請求項13】
前記電力線上の前記複数の通信ユニットは同じ前記送信周波数帯域を使用するが、同じ前記送信周波数帯域を使用する異なる前記複数の通信ユニットは特定の時間にのみ信号を送信できる、請求項1に記載の有線通信システム。
【請求項14】
第2の時間領域では、前記マスター通信ユニットに加えて、同じ前記電力線上の前記複数の通信ユニットのうちの少なくとも1つがすべての前記送信周波数帯域を使用する、請求項1に記載の有線通信システム。
【請求項15】
前記有線通信システムには、複数の高速通信ユニット及び複数の低速通信ユニットが接続されており、前記複数の低速通信ユニットのOFDM変調よび復調能力は低下する、請求項14に記載の有線通信システム。
【請求項16】
各信号周期では、前記マスター通信ユニットと前記複数の高速通信ユニットが順番に使用するパケット時間には、前記複数の低速通信ユニットのパケット時間が散在している、請求項15に記載の有線通信システム。
【請求項17】
各低速通信ユニットは、連続する非重複サブキャリアを使用するように指定される、請求項16に記載の有線通信システム。
【請求項18】
前記有線通信システムには、前記電力線上で電気エネルギー波およびネットワーク信号が伝送され、
前記有線通信システムは、アクティブアイソレータと第1のカプラとを含み、
前記アクティブアイソレータは、前記有線通信システムの各電力消費端または一部の電力消費端の入口に設置され、前記アクティブアイソレータにより、前記電力線を前記電力消費端と送信端に分離し、前記ネットワーク信号を除去することで、前記電気エネルギー波は前記電力消費端に入り、
前記第1のカプラは、第1の結合経路を生成するために使用され、前記第1の結合経路により、前記ネットワーク信号が前記アクティブアイソレータを通過せず、前記第1の結合経路を経由して前記第1のカプラを介して前記送信端に入り、
前記送信端の電力線インピーダンスは、前記電力消費端の影響を受けない、
請求項2に記載の有線通信システム。
【請求項19】
前記アクティブアイソレータは、
それぞれ前記電力線に直列に接続された2つの変圧器と、
それぞれ前記2つの変圧器のうちの第1の変圧器の一次側コイルの始端および二次側コイルの始端に接続された2つの増幅器と、
それぞれ前記第1の変圧器の一次側コイルの始端および二次側コイルの始端、前記2つの増幅器の非反転入力端子および前記電力線の間、及び前記第1の変圧器の一次側コイルの終端および二次側コイルの終端、前記2つの増幅器の反転入力端子、出力端子および前記電力線の間に並列に接続された複数のコンデンサと、
を含み、
前記2つの増幅器の出力端子は、それぞれ前記2つの増幅器の反転入力端子、及び前記2つの変圧器の間に接続され、前記2つの増幅器の非反転入力端子は、それぞれ前記第1の変圧器の一次側コイルの始端および二次側コイルの始端に接続され、
高電圧側の前記電力線には、別のコンデンサが並列に接続されている、
請求項18に記載の有線通信システム。
【請求項20】
前記有線通信システムには、前記電力線上で電気エネルギー波およびネットワーク信号が伝送され、
前記有線通信システムは、アクティブアイソレータと第1のカプラとを含み、
前記アクティブアイソレータは、前記有線通信システムの各電力消費端または一部の電力消費端の入口に設置され、前記アクティブアイソレータにより、前記電力線を前記電力消費端と送信端に分離し、前記ネットワーク信号を除去することで、前記電気エネルギー波は前記電力消費端に入り、
前記第1のカプラは、第1の結合経路を生成するために使用され、前記第1の結合経路により、前記ネットワーク信号が前記アクティブアイソレータを通過せず、前記第1の結合経路を経由して前記第1のカプラを介して前記送信端に入り、
前記送信端の電力線インピーダンスは、前記電力消費端の影響を受けない、
請求項5に記載の有線通信システム。
【請求項21】
前記アクティブアイソレータは、
それぞれ前記電力線に直列に接続された2つの変圧器と、
それぞれ前記2つの変圧器のうちの第1の変圧器の一次側コイルの始端および二次側コイルの始端に接続された2つの増幅器と、
それぞれ前記第1の変圧器の一次側コイルの始端および二次側コイルの始端、前記2つの増幅器の非反転入力端子および前記電力線の間、及び前記第1の変圧器の一次側コイルの終端および二次側コイルの終端、前記2つの増幅器の反転入力端子、出力端子および前記電力線の間に並列に接続された複数のコンデンサと、
を含み、
前記2つの増幅器の出力端子は、それぞれ前記2つの増幅器の反転入力端子、及び前記2つの変圧器の間に接続され、前記2つの増幅器の非反転入力端子は、それぞれ前記第1の変圧器の一次側コイルの始端および二次側コイルの始端に接続され、
高電圧側の前記電力線には、別のコンデンサが並列に接続されている、
請求項20に記載の有線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内のCAN/LINバス(bus)ベースのアーキテクチャを置き換えて、コストを削減し、自動生産の実現可能性を向上させる新たな有線通信システムに関するものである。関連する方法は、車載電力線、ツイストペア、同軸ケーブルなどの有線通信アプリケーションにも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
現在、車両内部のモノのインターネット回路は、ほとんどが「コントローラエリアネットワーク」(CAN)および「ローカル相互接続ネットワーク」(LIN)などによって配線され、他の端末制御線と連携して車両の監視および通信を完成する。これらのワイヤリングハーネスは、材料が高価であり、車両の重量を増加させ、車両内の有効スペースを減少させ、自動組み立てやオンラインアップグレードが困難になる。そこで、車内通信用の車載伝送線として、車載電力線や少ないワイヤリングハーネスを使用すれば、コストの削減、システム全体の重量の軽減、車両の有効スペースの拡大、車用ソフトウェアのアップグレードおよび生産の自動化が容易になるという利点が得られる。
【0003】
既存のPLC(Power Line Communication)プロトコル、例えば、G3-PLC(Generation 3rd PLC)、HPLC(High speed PLC)またはHomplug AV/GreenPhyの通信モードでは、いずれも送信に固定周波数帯域を使用しており、同じ伝送線上の多くの通信ユニットのうち、一度に伝送線に信号を送信できるのは1つの通信ユニットだけである。そうでなければ、いわゆる信号の「衝突」が発生し、信号エラーが発生し、再送信が必要になる。言い換えると、既存のPLC通信モードでは、信号伝送が必ず1回成功することが保証できず、エラーが発生する確率があり、送信が正常に完了するまでの時間が保証できない。車内通信は通常、即時性と信頼性を必要とするため、既存のPLC通信プロトコルは、信頼性の高いCAN/LINに代わって送信を完成するにはあまり適していない。
【0004】
衝突を避けるために、従来は周波数分割多重化(FDM、Frequency Division Multiplexing)を使用して、使用可能な周波数帯域をいくつかの周波数帯域に分割することが多い。異なる周波数帯域の信号が互いに干渉しないようにするには、隣接する周波数帯域間の干渉を回避し、周波数帯域間の分離を確保するために、周波数帯域間に一定のガードバンド(Guard band)を置く必要がある。ただし、この方法では、一部の周波数帯域を廃棄し、ガードバンドとして使用する必要がある。さらに周波数帯域を細分化しようとすると、廃棄される周波数帯域の割合が無視できず、限られた貴重な通信周波数帯域を十分に活用できなくなる。また、より良好な受信効果を達成するために、各周波数帯域の通信ユニットのハードウェア設計に様々なアナログおよびデジタルフィルターが追加されるため、システムコストと消費電力が増加する。
【発明の概要】
【0005】
車内の各通信ユニットに十分な周波数帯域幅を確保するために、各通信ユニットに対して固定の使用周波数帯域を設けることができる。一般的なFDM装置と比較すると、本発明は、周波数帯域分割を完了するためにガードバンドや追加のフィルタを必要とせず、復調時においても、独自の専用周波数帯域のみを復調する一般的なFDM装置とは異なり、すべての通信ユニットが使用する周波数帯域を復調し、すべての通信ユニットによって送信されるパケットは同じ長さである。本発明は、車載CAN/LINバスに代わる有線通信システムを開示する。有線通信システムは、複数の通信ユニットに接続された電力線または伝送線(一実施形態では、通信品質を向上させるために、電力線の代わりにツイストペアまたは同軸ケーブルなどのワイヤを使用することもできる)を有する。前記有線通信システムは、前記複数の通信ユニットの時間遅延または減衰値を補正し、クロック補正を完了するマスター通信ユニットを含む。前記マスター通信ユニットは、前記複数の通信ユニットとの時刻同期を行い、前記複数の通信ユニットが使用する複数の送信周波数帯域を割り当て、前記複数の通信ユニットの送信エネルギーが前記複数の送信周波数帯域の減衰に対して適切に、またはそれに対応して補償されるように、前記複数の通信ユニットの送信エネルギーを調整する。場合によっては、減衰量の補償は受信側の補償によっても実現できる。
【0006】
本発明の一実施形態では、前記マスター通信ユニットは、前記複数の通信ユニットが前記複数の送信周波数帯域に対応するアップリンク時間またはダウンリンク時間を有するように、前記複数の通信ユニットを割り当てる。
【0007】
本発明の一実施形態では、前記時間遅延と前記減衰値が臨界値より大きい場合、前記マスター通信ユニットが前記送信周波数帯域に対応する前記複数の通信ユニットの前記アップリンク時間を割り当てた後、前記複数の通信ユニットは同時にパケットを前記マスター通信ユニットに送信し、前記マスター通信ユニットにより前記パケットをターゲットの前記複数の通信ユニットに転送する。このとき、マスター通信ユニットは各通信ユニットの送信時刻を調整し、クロックを補正することで、各通信ユニットのパケットがマスター通信ユニットに送信される際のパケット同期を向上させ、またはシステム内の受信側で個々の周波数帯域の角度を補正することで、より良い復調効果が得られる。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記マスター通信ユニットは、前記電力線上の前記複数の通信ユニットの位置または信号の減衰値に基づいて、前記複数の通信ユニットが前記パケットを送信する前にその信号エネルギーを事前補償できるようにする。これにより、ターゲットの前記複数の通信ユニットが前記パケットを受信するときに、すべての前記複数の送信周波数帯域内の信号エネルギーがほぼ同じである。さらに、システム内の受信側で補償の一部またはすべてを完了して、正しい信号内容を復調することもできる。
【0009】
本発明の一実施形態では、コストを削減するために、一部の通信ユニットでは、送受信できる直交周波数分割多重化(Orthogonal frequency-division multiplexing、以下、OFDMと略す)のサブキャリアの数が少なくなり、または各周波数ポイントで搬送できるビット数(bits)が少なくなる。マスター通信ユニットの配置により、システム全体に異なる通信ユニットを混在させることができ、システム全体のコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の伝送線(非電力線)の実施形態の概略図を示す。
図2】本発明の有線通信システム100の起動初期の概略図を示す。
図3】64個のサブキャリアのOFDM実施形態における全通信帯域内で通信ユニット201~2016に割り当てられる周波数帯域を示す。各周波数帯域は4つのサブキャリアを有する。
図4A】本発明の車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム400Aを示す。
図4B】本発明の車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム400Bを示す。
図4C】アクティブアイソレータ403の概略図を示す。
図5】通信ユニット20Nのトランシーバ回路の一実施形態を示す。
図6】本発明の一実施形態を示す。
図7】本発明の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、車内の有線(ツイストペアや同軸ケーブルなどのワイヤも適用可能である。このとき、ワイヤは電源の役割を果たさず、バッテリーにも接続されず、純粋に通信に使用される。)通信に使用できるいくつかのアーキテクチャを開示する。このアーキテクチャは、距離が短く、ノイズが低く、ラインインピーダンスの変化が少ない伝送線アプリケーションに適している。
【0012】
図1を参照する。図1は、本発明の一実施形態の概略図を示す。本発明は、車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム100を開示する。有線通信システム100は、マスター通信ユニット1と複数のアプリケーションモジュール101~10Nを含み、各アプリケーションモジュール101~10Nは、対応する通信ユニット201~20Nを有する。有線通信システム100は、通信ユニット201~20Nに接続された伝送線を有する。有線通信システム100は、非電力線通信システムである。
【0013】
本発明では、信号の「衝突」を防止するために、通信ユニット201~20Nは、異なる周波数帯域を送信することができる。一実施形態では、通信ユニット201~20Nに異なる送信周波数帯域B1~BNが割り当てられるため、本発明には信号衝突の問題がない。
【0014】
一実施形態では、この時点で有線通信システム100が第1の時間領域にあると仮定すると、電力線または伝送線の長さが送信信号周波数帯域の波長より短い場合、電力線または伝送線上の任意の位置で受信される信号の減衰と遅延が非常に近い場合、例えば臨界値未満の場合、このシステムは同じOFDMシステムとみなすことができる。しかし、各通信ユニットが送信できる周波数帯域は、特定の非重複サブキャリア(Sub-Carrier)で構成されており、システムは各通信ユニットが信号を送信する時間とパケット長を同期するだけで、各通信ユニットが同時に自身の専用周波数帯域に信号を送信し、同時にすべての通信ユニットから信号を受信してパケットを復調することができる。つまり、これらの通信ユニットの送信周波数帯域は互いに重複せず、かつ、マスター通信ユニットの送信周波数帯域または送信時間と重複せず、すべての前記送信周波数帯域は完全なOFDM周波数帯域に結合することができ、前記送信周波数帯域の間にガードバンドはない。このようなシステムでは、各通信モジュールが他の通信ユニットの送信内容を復調できるため、通信モードは「多対多」であり、送信内容にメッセージの送信対象が指定されていれば、受信側はメッセージが自分宛てであることを認識し、対応する処理を行うことができる。すべてのメッセージが復調されるため、どの通信ユニットも他の通信ユニット間で交換されるメッセージの内容を知ることができ、この特徴は、高度知能化自動運転システムにとって非常に効率的なメッセージ伝達方法であり、あらゆる操作ユニットが他のセンサーからのメッセージを瞬時に把握したり、他の操作ユニットの進行中の対応を知ったりすることができる。簡単な例で説明するために、64個のサブキャリアを有するOFDMシステムを例にとると、図3に示すように、同じ電力線上に互いに通信できる16個の通信ユニット201~2016があり、各通信ユニットには、信号を送信するために4つのサブキャリアの専用周波数帯域が割り当てられるため、各通信ユニットは同時に自身の専用周波数帯域を使用して、他の通信ユニットに信号を送信することができる。例えば、特定のパケット時間内に、通信ユニット201、205、2010、2016はすべてパケットを送信し、通信ユニット201および205は通信ユニット208にパケットを送信し、通信ユニット2010は通信ユニット2016にパケットを送信し、通信ユニット2016は他のすべての通信ユニットにブロードキャストする。すべての通信ユニットがパケットを受信して復調した後、通信ユニット208は通信ユニット201および205からパケットを受信し、通信ユニット2016は通信ユニット2010からメッセージを受信する。また、通信ユニット201~2015はすべて、通信ユニット2016からパケットを受信する。各通信ユニットが電力線に出力されるすべてのパケットを復調するため、各通信ユニットは相互間のすべてのパケットを知ることができる。この場合、マスター通信ユニットは、通信ユニット201~2016のいずれか1つであり得、当該通信ユニットは通信の開始を調整する役割を担い、通信中に各通信ユニット201~2016は同期して信号を送受信することができる。
【0015】
電力線上の全体的な高い伝送速度を維持するために、各通信ユニット201~20Nは同時に信号を送受信することができるが、異なる通信ユニット201~20Nによって送信された信号が他の通信ユニット201~20Nにとってノイズにならないようにするために、各通信ユニット201~20Nによって送信されるパケットの開始時間と終了時間は、正しいパケットを復調できるように、受信側での復調中に同期する必要がある。すなわち、本発明のシステムは起動後の同期プロセスが必要であり、通常動作中はこの同期を維持し、温度や湿度などの外部要因の影響を補償するために適切な微調整を継続する必要がある。つまり、マスター通信ユニットはすべての通信ユニットを自身のクロックと同期させておく必要があり、マスター通信ユニットと通信ユニットは同じ長さのパケットを同時に送信することで、すべての信号が各通信ユニット及びマスター通信ユニットで復調可能な状態に維持される。
【0016】
通信周波数帯域の波長に対して伝送線の長さがそれほど短くない場合、異なる通信ユニット間で送信された信号が相互に到達するまでの時間遅延が無視できない可能性があり、その結果、各通信ユニットはすべてのOFDM信号を正しく復号できなくなる。これは、信号の到達時間の違いによって信号が歪んだり干渉したりして、復調結果に影響を与える可能性があるためである。この場合、第2の伝送モードしか採用できない。つまり、すべての通信ユニットはマスター通信ユニットに対してのみ遅延と減衰の補正を実行し、各通信ユニットは依然として専用の送信周波数帯域を持ち、補正された時間差で同期して信号を送信するが、すべての通信ユニットはマスター通信ユニットにメッセージを送信し、つまり、「1対多」の通信モードである。この場合、マスター通信ユニットから遠い通信ユニットはパケットの送信を早めに開始し、近い通信ユニットはパケットの送信を遅く開始する。補正後、マスター通信ユニットが受信したOFDM信号は、あたかも各送信周波数帯域がすべて特定の通信ユニットから同時に送信されているかのようになり、スムーズに復調できる。言い換えると、マスター通信ユニットは、システム内のすべての通信ユニットの送信側を調整して時間遅延補正を実行することで、各通信ユニットから送信されたパケットがマスター通信ユニットに到着すると、すべてのパケットを完全なOFDM信号に結合することができる。メッセージの伝達は、通信ユニットからマスター通信ユニットに信号を送信する期間と、マスター通信ユニットからすべての通信ユニットにメッセージを送信する期間となる。すなわち、通信ユニットはFDM方式で信号を互いに分離し、時分割多重(TDM、Time-division multiplexing)方式で各通信ユニットとマスター通信ユニット間の信号を分離して、衝突を回避する。通信ユニット201が通信ユニット202にメッセージを送信しようとする場合、まず通信ユニット201からマスター通信ユニット1にメッセージを送信し、その後、マスター通信ユニット1は、次のメッセージ送信期間において、通信ユニット202にメッセージを送信する。さらに説明すると、マスター通信ユニット1は、通信ユニット201~20Nの時間遅延または減衰値を補正して、すべての通信ユニット201~20Nの時刻を同期させるために使用される。また、マスター通信ユニット1は、通信ユニット201~20Nが使用する送信周波数帯域を割り当てる。マスター通信ユニット1は、送信周波数帯域B1~BNに対応する通信ユニット201~20Nの送信エネルギーがマスター通信ユニット1に到達した時点で補正されているように、これらの通信ユニット201~20Nの送信エネルギーを調整する。あるいは、システムの受信側で自己補償することで、すべての通信ユニット201~20Nのメッセージをスムーズに復調することもできる。マスター通信ユニット1が信号を送信するとき、すべての通信ユニット201~20Nは受信モードであり、このとき、通信ユニット201~20Nは信号を送信しないため、マスター通信ユニット1は全周波数帯域で信号を送信することができ、すべての通信ユニット201~20Nはマスター通信ユニット1から送信されたすべてのメッセージを復調することができる。そのため、車両全体のメッセージ共有に有利であり、早期の対応が可能となる。
【0017】
一実施形態では、マスター通信ユニット1は、通信ユニット201~20Nがパケットを送信するために送信周波数帯域B1~BNに対応するアップリンク時間を有するように、通信ユニット201~20Nを割り当てる。
【0018】
マスター通信ユニット1が送信周波数帯域B1~BNに対応する通信ユニット201~20Nのアップリンク時間を割り当てた後、通信ユニット201~20Nはマスター通信ユニット1にパケットを同時に送信し、マスター通信ユニット1によりダウンリンク時間を割り当て、マスター通信ユニット1は、ダウンリンク時間内に通信ユニット201~20Nにパケットを送信する。すなわち、マスター通信ユニットが送信周波数帯域に対応するこれらの通信ユニットのアップリンク時間を割り当てた後、通信ユニット201~20Nはアップリンク時間内にそれぞれのパケットをマスター通信ユニット1に同時に送信し、マスター通信ユニット1によりすべての通信ユニット201~20Nによって送信されたパケットを復調し、それらを完全なOFDM信号に結合する。マスター通信ユニット1は、ダウンリンク時間内に通信ユニット201~20Nにパケットを送信する。また、マスター通信ユニット1が前記パケットを送信する場合、通信ユニット201~20Nは受信状態となり、通信ユニット201~20Nがパケットを送信する場合、マスター通信ユニット1は受信状態となる。
【0019】
また、有線通信システム100の初期起動後、マスター通信ユニット1は、送信周波数帯域B1~BN内のすべての信号が同時にマスター通信ユニットに到着し、単位エネルギーがほぼ同じになるように、各通信ユニットの時間遅延と減衰補正を調整する。図2を参照する。図2は、本発明の有線通信システム100の起動初期の概略図を示す。このとき、通信ユニット201~20Nは、周波数帯域が異なり、送信電力も異なり、通信ユニット201~20Nの位置が異なるため、減衰も異なる。そこで、マスター通信ユニット1は、システムの受信側が信号を受信するときに、通信周波数帯域全体のエネルギーが一致するように、各通信ユニット201~20Nに事前エネルギー補償を実行させる。図3を参照する。同じ電力線上に互いに通信できる16個の通信ユニット201~2016があり、各通信ユニットには信号を送信するために4つのサブキャリアの専用周波数帯域が割り当てられると仮定すると、図3は、通信ユニット20Nのエネルギーが通信周波数帯域全体にわたって一致していることを示す。一実施形態では、減衰補正は、マスター通信ユニット1の受信側によって自己補償することもできる。
【0020】
実際の応用において、例えば、通信チャネルをより効果的に使用するために、上記の概念は他の複雑なモードまたは混合モードに拡張することができる。時間遅延の影響を受けにくいいくつかのアプリケーションモジュール(照明の調光や車窓の昇降制御など)では、複数の通信ユニットは同じ周波数帯域を使用できるが、時分割で使用する必要がある。これにより、大量のデータまたは高いリアルタイム要件を持つ通信ユニットのために、より大きな帯域幅を予約できる。また、特定の高速及び低速アプリケーションをより低コストで動作させるために、有線通信システム100が第2の時間領域にあると仮定すると、このとき、マスター通信ユニットに加えて、システム内にフルバンド通信(またはすべての送信周波数帯域)を使用する他の通信ユニットも存在する可能性がある。例えば、各カメラの画像送信では、TDM方式で時間を割り当ててマスター通信ユニットにデータを送り返す。ライト制御や車窓制御などの低帯域幅通信ユニットのOFDM変調および復調能力を低下させることができ、つまり、低帯域幅通信ユニットのOFDM信号処理の精度と効率を低下させて、システム全体のコストを削減することができる。一実施形態では、マスター通信ユニットによって変調および復調されるOFDMサブキャリアの数は256個であり、各サブキャリアは1024直交振幅変調(Quadrature Amplitude Modulation、単にQAMと略する)をサポートする。つまり、各信号周期で1024個の異なる離散状態を送信でき、システムには4個の全周波数帯域の高速通信ユニット及び128個の低速通信ユニットが接続されている。各低速通信ユニットは、連続する16個のサブキャリアのみを変調および復調でき、各サブキャリアは64QAMのみを復調でき、マスター通信ユニットは、マスター通信ユニットが送信する第1のパケット時間と、4個の高速通信ユニットが順番に送信する第2~第5のパケット時間(256個のサブキャリアを生成でき、各サブキャリアは1024QAMを復調できる)とを設定できる。第6のパケット時間は、16個の低速通信ユニットに割り当てられ、各低速通信ユニットは、16個の連続する非重複サブキャリアを使用するように指定され、以下同様に、第7~第13のパケット時間は16個の非重複低速通信ユニットに割り当てられ、つまり、128個の低速通信ユニットは、8個のパケット時間内で交代で1回のメッセージを送信するように割り当てられている。その後、またマスター通信ユニットによってメッセージを送信し、このように繰り返す。つまり、各信号周期では、マスター通信ユニットと高速通信ユニットが使用するパケット時間に、低速通信ユニットのパケット時間が散在しており、各通信ユニットは独自の専用かつ固定の送信周波数帯域とメッセージ量を持つ。このようなシステムでは、低速通信ユニットのサブキャリア変調能力が64QAMしかないため、送信信号の信号対雑音比(Signal-to-noise ratio、SNR)に対する要件が低くなり、つまり、信頼性が高くなる。ただし、その復調能力は16個のサブキャリアのみであるため、マスター通信ユニットが低速通信ユニットにメッセージを送信する場合は、設定されたサブキャリアと最上位ビット(Most Significant Bit、MSB)の8ビット内にメッセージを配置する必要がある。マスター通信ユニットが高速通信ユニットに送信するメッセージに制限はない。
【0021】
本発明を車内通信に適用すると、その通信用ワイヤにツイストペアや同軸ケーブルなどのより優れた専用ワイヤを使用して、通信品質を向上させることができる。しかし、コストを削減するために、バッテリーに接続され、各車載アプリケーションモジュール41Nに電力を供給する電力線を使用する場合、通信品質を確保するために、各通信ユニット201~20Nに、ローパスフィルタ401と、ローパスフィルタ401をバイパスして信号を電力線幹線に送信するカプラ402とを設ける必要がある。図4Aを参照する。図4Aは、本発明の車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム400Aの一実施形態の概略図を示す。また、バッテリーBAと電力線との間に、ローパスフィルタFを直列に接続する必要があり、その主な目的は、バッテリーBAや電力消費ユニットの低インピーダンスにより通信周波数帯域の信号が大きく減衰しないようにすることと、電力消費ユニットから発生するノイズが電力線幹線に侵入するのを防ぐことである。有線通信システム400Aは、電力線を用いた通信システムである。
【0022】
また、車両のアース線は一般的に車両シェルに置き換えられるため、直流電力は通常、電源線(活線)から各アプリケーションモジュールに供給され、その後、直流電力は、車両シェルのアース線からバッテリーに逆流する。ネットワーク信号も同じ回路を通ると、信号が放射されやすくなり、かつ外部からの干渉ノイズも伝送線に吸収されやすくなる。従って、差動信号伝送には、ツイストペアのような線を使用することがより適切である。つまり、直流電流回路は元の車両シェルの回路を踏襲するが、ネットワーク信号はツイストペア回路を介して返される。このとき、差動信号伝送線は、同一組の直流電源線または2組の電源線(例えば、一方は3.3V、もう一方は24V)として使用でき、各アプリケーションモジュールの電源チップの需要を適度に削減することもできる。
【0023】
本発明の電力線の実施形態では、カプラは通常、コンデンサまたは変圧器と直列の抵抗を使用して電力線の電圧を分離し、全チャネルメッセージを送受信することができる(図5に示すように)。
【0024】
前述したように、有線通信システム(電力線)400Aは、各アプリケーションモジュール411~41Nにおいて、各アプリケーションモジュール411~41Nは、電力消費ユニット301~30Nと、それに対応する通信ユニット201~20Nとを含む。すなわち、車両のマスター通信ユニット1は、車両電力線を介して電気エネルギー波およびネットワーク信号を伝送する。ローパスフィルタ401は、装置400Aの各アプリケーションモジュール411~41Nまたは一部のアプリケーションモジュール411~41Nの電力消費端Eの入口に配置され、ネットワーク信号を除去することで、電気エネルギー波は、アプリケーションモジュール411~41Nの電力消費ユニット301~30Nに入る。カプラ402は、結合経路P1を生成するために使用され、結合経路P1により、ネットワーク信号がローパスフィルタ401を通過せず、結合経路P1を経由して第1のカプラ402を介して送信端Tに入る。すなわち、ネットワークは、カプラ402によって生成された結合経路P1を経由して、アプリケーションモジュール411~41N内の通信ユニット201~20Nに入る。電力消費ユニット301~30Nは、対応する通信ユニットの電力供給ユニットである。
【0025】
なお、ローパスフィルタ401は、有線通信システム400Aの各電力消費端Eまたは一部の電力消費端Eの入口に配置され、ローパスフィルタ401によって、電力線を電力消費端Eと送信端Tに分離し、送信端T側の電力線インピーダンスは、電力消費端E側の影響を受けない。
【0026】
図4Bを参照する。図4Bは、本発明の車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム400Bの一実施形態の概略図を示す。車載CAN/LINバスに代わる有線通信システム400Bと400Aとの違いは、本実施形態では、ローパスフィルタの代わりにアクティブアイソレータ403を使用して、変圧器またはインダクタ値に対する要件を低減できることである。言い換えると、アクティブアイソレータ403は、有線通信システムの各電力消費端Eまたは一部の電力消費端Eの入口に設置され、アクティブアイソレータ403によって、電力線を電力消費端Eと送信端Tに分離し、ネットワーク信号を除去することで、電気エネルギー波は電力消費端Eに入る。その他の原理は前述と同様である。
【0027】
図4Cを参照する。図4Cは、アクティブアイソレータ403の一実施形態の概略図を示す。本実施形態のアイソレータは、それぞれ電力線に直列に接続された2つの変圧器K1およびK2と、それぞれ変圧器K1の一次側コイルの始端及び二次側コイルの始端に接続された2つの増幅器A1およびA2と、を備える。増幅器A1の出力端子は、増幅器A1の反転入力端子に接続され、増幅器A2の出力端子は、増幅器A2の反転入力端子に接続され、増幅器A1およびA2の出力端子は、2つの変圧器K1とK2との間に接続される。増幅器A1およびA2の非反転入力端子は、それぞれ変圧器K1の一次側コイルの始端および二次側コイルの始端に接続されている。高電圧側の電力線に、高圧コンデンサCが並列に接続され、すなわち、高圧コンデンサCは、変圧器K2の一次側コイルの終端、二次側コイルの終端、及び前記電力線の間に並列に接続されている。変圧器K1の一次側コイルの始端および二次側コイル始端、増幅器A1およびA2の非反転入力端子、および前記電力線の間、及び変圧器K1の一次側コイルの終端および二次側コイル終端、増幅器A1およびA2の反転入力端子、出力端子、および前記電力線の間に、コンデンサCが並列に接続されている。
【0028】
さらに、車内伝送線として電力線を使用する場合でも、より優れた独立した伝送線を使用する場合でも、トランシーバのインピーダンスを一致させるためには、特定のアーキテクチャが必要であり、図5に示す通信ユニット201~20Nのトランシーバ回路は一例である。本実施形態では、通信ユニット201~20Nは、2つのコンデンサCと、インピーダンス整合として前記複数のコンデンサCにそれぞれ直列に接続された2つの整合抵抗Rsとを、備える。通信ユニットの送信側Txと整合抵抗Rsの間には、ラインドライバLD(line driver)が設けられ、通信ユニットの受信側Rx、コンデンサC、及び整合抵抗Rsの間に、ローノイズ増幅器LNAが設けられる。整合抵抗RSは、インピーダンス整合としてコンデンサCにそれぞれ直列に接続され、送信側TxにスイッチSが並列に接続されている。送信側Txが信号を送信する場合、このスイッチSは開路となり、送信側Txが信号を送信しない場合、このスイッチSは短絡される。電力線にN個の通信ユニットが接続され、伝送線の低周波インピーダンスが整合抵抗よりもはるかに小さく、送信周波数帯域の波長が伝送線の長さよりはるかに長い場合、各通信ユニットのラインドライバLDから出力された信号は、伝送線に到達した後、元の1/(N+1)に減衰する。電力線に99個の通信ユニットが設置されている場合、受信側Rxが受信する信号は、すべての通信ユニットから出力された信号が重畳したものの1/100であり、つまり、40dB減衰する。
【0029】
また、車両のアース線は一般的に車両シェルに置き換えられるため、直流電力は通常、電源線(活線)から各アプリケーションモジュールに供給され、その後、直流電力は、車両シェルのアース線からバッテリーに逆流する。ネットワーク信号も同じ回路を通ると、信号が放射されやすくなり、かつ外部からの干渉ノイズも伝送線に吸収されやすくなる。従って、差動信号伝送には、ツイストペアのような線を使用することがより適切である。つまり、直流電流回路は元の車両シェルの回路を踏襲するが、ネットワーク信号はツイストペア回路を介して返される。このとき、差動信号伝送線は、同一組の直流電源線または2組の電源線(例えば、一方は3.3V、もう一方は24V)として使用でき、各アプリケーションモジュールの電源チップの需要を適度に削減することもできる。
【0030】
一部の通信ユニットの即時性および速度の要件が低い場合、複数の通信ユニットを同じ電力線に接続し、同じ周波数帯域を使用することができる。この場合、同じ周波数帯域を使用する異なる通信ユニットが特定の時間にのみ信号を送信するように制限するなど、より複雑な衝突防止メカニズムが必要になる。
【0031】
同じ大きな周波数帯域内のグループの場合、通信ユニットは特定のプロトコルを介して相互に直接通信することができるが、異なる大きな周波数帯域のグループの場合、通信ユニットは、異なる周波数帯域のトランシーバを備えたユニットを介して相互に通信する必要があり、例えば、車内のマスター通信ユニットや他の地域アダプターボードを介して通信を中継する(図6)。図6は、図4Aと同様の方法を示しており、前述の「1対多」または「多対多」の通信モードに適用可能であり、有線通信システムは、異なる送信周波数帯域に対応する異なるバンドパスフィルタを介してマスター通信ユニットに接続され、バンドパスフィルタは、通信ユニット群内の通信ユニットへの異なる周波数帯域の信号をフィルタリングすることができる。有線通信システムは、異なる送信周波数帯域B1~BNに対応する複数の伝送モジュール群を有し、同じ伝送モジュール群に属さない通信ユニット同士は直接通信することができず、送信周波数帯域も異なる。一実施形態では、低周波周波数帯域(例えば、100KHz~2MHz)を大きな周波数帯域(結合周波数帯域)として、この周波数帯域を使用する通信ユニット201~203は、それぞれ専用の送信周波数帯域を有しており、マスター通信ユニットを経由することなく、直接相互に信号を送信し、リアルタイムに復調することができる。この大きな周波数帯域を使用するすべての通信ユニット201~203の信号は、100KHz~2MHzのバンドパスフィルタを介して伝送線に結合される。もう1つの大きな周波数帯域(結合周波数帯域)は10MHz~100MHzであり、この大きな周波数帯域を使用する通信ユニット204~20Nは、マスター通信ユニットを介して相互に通信する必要がある。その入口カプラは、10MHz~100MHzのバンドパスフィルタまたは10MHzのハイパスフィルタである。相互干渉を避けるために、2つの大きな周波数帯域の間にガードバンドを確保する必要があり、マスター通信ユニットは、複数のOFDM信号を送受信できるトランシーバ(図示せず)を備えている。
【0032】
図7を参照する。車内通信などの一部の特殊な用途では、帯域幅を増やすために、電力線の異なるセクション間にローパスフィルタを設置し、さらにマスター通信ユニットを追加して接続することができる。電力線の異なるセクションの通信は、このマスター通信ユニットを介して転送する必要がある。最も簡単な方法としては、マスター通信ユニットを左右上下の4つのラインに分割するものである。その原理は前述の図4Aと同じであり、相違点としては、ローパスフィルタを介して電源Vsに接続されていることと、マスター通信ユニットが電力線の各セクションに接続された4組の通信ユニット20N_1~20N_4を有することである。
【符号の説明】
【0033】
100:有線通信システム(非電力線)
400A:有線通信システム(電力線)
400B:有線通信システム(電力線)
401、F:フィルタ
402:カプラ
403:アクティブアイソレータ
P1:結合経路
201~20N、20N_1~20N_4:通信ユニット
101~10N、411~41N:アプリケーションモジュール
301~30N:電力消費ユニット
1:マスター通信ユニット
RS:整合抵抗
C:コンデンサ
LNA:増幅器
LD:ラインドライバ
K1~K2:変圧器
A1~A2:増幅器
S:スイッチ
TX:送信側
RX:受信側
Vs:電源
BA:バッテリー
E:電力消費端
T:送信端
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
【外国語明細書】