(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133480
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】シリコン-炭素複合材料および方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240925BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240925BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B32/05
H01M4/36 C
H01M4/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】37
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024091986
(22)【出願日】2024-06-06
(62)【分割の表示】P 2022512749の分割
【原出願日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】1913073.1
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】509040226
【氏名又は名称】ネグゼオン・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nexeon Ltd
【住所又は居所原語表記】136 Eastern Avenue, Milton Park, Abingdon, Oxfordshire OX14 4SB, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】メイソン,チャールズ エー.
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,リチャード グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】イルマズ,セファ
(72)【発明者】
【氏名】カトック,クセニア
(72)【発明者】
【氏名】ウィッタム,ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】メオト,リムンガ シロ
(72)【発明者】
【氏名】キアッキア、マウロ
(57)【要約】
【課題】導電性炭素コーティングを有する電気活性材料の提供。
【解決手段】本発明では、炭素コーティングを有する複合材料粒子を提供する方法、およびこれにより得られるコア-シェル粒子状材料が提供される。当該方法は、熱分解性炭素前駆体と接触させて、複数の前駆体複合材料粒子を熱処理するステップを有し、熱分解性導電性炭素材料の外側シェルは、前記前駆体複合材料粒子上に形成され、前記熱処理は、700℃以下の温度で行われる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア-シェル複合材料粒子を調製する方法であって、
(a)以下:
i.ミクロポアおよび/またはメソポアを有する多孔質炭素骨格であって、ガス吸着法により測定されるミクロポアおよびメソポアの全ポア容積は、少なくとも0.6cm3/gであり、1.2cm3/g以下であり、前記多孔質炭素骨格のPD50ポア直径は、2.5nm以下であり、前記多孔質炭素骨格のPD90ポア直径は、少なくとも3nmであり、10nm以下である、多孔質炭素骨格、ならびに
ii.前記多孔質炭素骨格内に配置された複数のナノスケールの電気活性材料ドメインであって、前記電気活性材料は、シリコンである、電気活性材料ドメイン
を含む複数の前駆体複合材料粒子を提供するステップと、
(b)熱分解性炭素前駆体と接触させて、前記複数の前駆体複合材料粒子を熱処理するステップであって、熱分解性導電性炭素材料の外側シェルは、前記前駆体複合材料粒子上に形成され、前記熱処理は、680℃以下の温度で行われるステップと、
を有する、方法。
【請求項2】
前記熱処理は、660℃以下、または650℃以下、または640℃以下、または620℃以下、または600℃以下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理は、少なくとも500℃、または少なくとも520℃、または少なくとも540℃、または少なくとも560℃、または少なくとも580℃で実施される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱分解性炭素前駆体は、蒸気として、前記複合材料粒子と接触される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸気は、炭化水素蒸気である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記炭化水素は、10から25個の炭素原子と、任意の1から3個のヘテロ原子とを有する多環式炭化水素から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記多環式炭化水素は、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フルオレン、アセナフテン、フェナントレン、フルオラントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、フルオレノン、アントラキノン、アントロン、およびそれらのアルキル置換誘導体から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記炭化水素は、二環式モノテルペノイドから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記二環式モノテルペノイドは、カンファー、ボルネオール、ユーカリプトール、カンフェン、カレン(careen)、サビネン、ツジェン、およびピネンから選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記炭化水素は、C2からC10の炭化水素から選択され、
前記炭化水素は、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、シクロアルケン、およびアレーンから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記炭化水素は、メタン、エチレン、プロピレン、およびアセチレンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記熱分解性炭素前駆体蒸気は、前記複合材料粒子と接触する前に、少なくとも500℃の温度で遷移金属触媒と接触される、請求項4乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記遷移金属触媒は、ニッケル、鉄、コバルト、銅およびそれらの混合物を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記遷移金属触媒は、メッシュの形態であり、
前記メッシュは、前記複合材料粒子と接触する前に、前記炭化水素蒸気の流路に配置される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記遷移金属触媒は、前記複合材料粒子の表面に配置される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)の前に、気体状ニッケルカルボニルが熱分解され、前記複合材料粒子の表面にニッケルが成膜される、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(b)の後、前記炭素被覆粒子状材料は、一酸化炭素ガスと接触され、気体状のニッケルカルボニルが形成され、これにより、前記炭素被覆複合材料粒子からニッケルが除去される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)は、
前記複合材料粒子を、溶媒中の熱分解性炭素前駆体の分散体または溶液と接触させるステップと、
前記熱処理の前に、前記溶媒を除去し、前記熱分解性炭素前駆体で被覆された複合材料粒子を提供するステップと、
を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記熱分解性炭素前駆体は、炭素含有骨格を含むポリマーまたはオリゴマーである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記熱分解性炭素前駆体は、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはビニルピロリドンと、1または2以上の他のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーである、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
熱分解性導電性炭素材料の前記外側シェルは、10nm以下、または5nm以下、または4nm以下、または2nm以下、または1nm以下の厚さを有する、請求項1乃至20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
ガス吸着法により測定されるミクロポアおよびメソポアの全ポア容積は、少なくとも0.65cm3/gであり、または少なくとも0.7cm3/gであり、少なくとも0.75cm3/gであり、または少なくとも0.8cm3/gであり、または少なくとも0.85cm3/gであり、または少なくとも0.9cm3/gであり、または少なくとも0.95cm3/gであり、または少なくとも1cm3/gであり、または少なくとも1.05cm3/gであり、または少なくとも1.1cm3/gである、請求項1乃至21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記多孔質炭素骨格のPD50ポア直径は、2nm以下であり、または1.5nm以下であり、または1nm以下である、請求項1乃至22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の前駆体複合材料粒子を提供するステップ(a)は、400℃から650℃の間の温度で、複数の多孔質炭素粒子をシリコン前駆体ガスに接触させ、これにより、前記炭素粒子のポアにシリコンが成膜されるステップを有する、請求項1乃至23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記温度は、400℃から500℃の間である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記シリコン前駆体ガスは、シラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、トリシラン(Si3H8)テトラシラン(Si4H10)、クロロシラン、メチルクロロシランから選択され、好ましくはシランから選択される、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記前駆体複合材料粒子は、少なくとも1μm、または少なくとも2μm、または少なくとも3μm、または少なくとも4μm、または少なくとも5μmのD50粒子直径を有する、請求項1乃至26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記前駆体複合材料粒子は、50μm以下、または40μm以下、または30μm以下、または25μm以下、または20μm以下、または15μm以下、または12μm以下、または10μm以下のD50粒子直径を有する、請求項1乃至27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ミクロポアおよび/またはメソポアの体積に基づく、前記多孔質炭素骨格内の前記電気活性材料の容積充填率(fill factor)は、85%以下、または75%以下、または65%以下、または55%以下、または45%以下である、請求項1乃至28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記ミクロポアおよび/またはメソポアの体積に基づく、前記多孔質炭素骨格内の前記電気活性材料の前記容積充填率は、少なくとも20%、または少なくとも25%である、請求項1乃至29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記多孔質炭素骨格は、少なくとも80質量%の炭素、または少なくとも85質量%の炭素、または少なくとも90質量%の炭素、または少なくとも95質量%の炭素を含む、請求項1乃至30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記電気活性材料は、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、およびそれらの混合物から選択される、請求項1乃至31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記電気活性材料は、シリコンである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ステップ(b)における前記熱処理の期間は、1から3時間である、請求項1乃至33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記ステップ(a)は、さらに、
前記成膜されたシリコンの表面に不動態化剤を接触させるステップ(a2)
を有し、
前記シリコンは、前記不動態化剤と接触する前には酸素に暴露されない、請求項1乃至34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記不動態化剤は、一般式が
(i)R-CH=CH-R、
(ii)R-CH≡CH-R、
(iii)O=CH-R
の1または2以上の化合物から選択され、
ここでRは、H、または1~20個の炭素原子、好ましくは2から10個の炭素原子を有する未置換のもしくは置換された脂肪族もしくは芳香族のヒドロカルビル基を表し、または
式(i)における2つのR基は、3から8個の炭素原子を有する、未置換のもしくは置換されたヒドロカルビル環構造を形成する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ステップ(b)は、ステップ(a2)と同じ温度またはステップ(a2)よりも高い温度で実施される、請求項35または36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素およびシリコンのような電気活性材料を含むコア-シェル複合材粒子を調製する方法に関する。また、本発明は、シリコンおよび炭素を含み、コア-シェル構造を有する粒子状材料に関する。
【背景技術】
【0002】
充電式金属イオン電池は、携帯電話およびノートパソコンのような携帯電子機器に広く使用されている。また、電気自動車およびハイブリッド自動車技術の急速な発展は、高性能二次電池の大きな新市場をもたらしている。通常、金属イオン電池のアノードは、電気活性材料の層(ここでは、電池の充電および放電の間に金属イオンを挿入および放出できる材料として定義される)が提供された金属集電体を有する。金属イオン電池が充電されると、金属イオンは、金属イオン含有カソード層から電解質を介して輸送され、アノード材料に挿入される。
【0003】
従来のリチウムイオン電池は、アノードの電気活性材料としてグラファイトを使用する。グラファイト含有アノードが充電されると、リチウムは、グラファイト層の間にインターカレーションされ、経験式LixC6(ここで、xは、0より大きく、1以下である)を有する材料が形成される。これは、リチウムイオン電池において、グラファイトは、372 mAh/gの最大理論容量を有するが、実際の容量は、幾分低い(約340から360mAh/g)ことを意味する。高いエネルギー需要を有する携帯式電子機器および電気自動車の開発は、グラファイトの重量容量および体積容量の改善が提供される電気活性材料に対し、ニーズがあることを意味する。
【0004】
シリコン、スズ、およびゲルマニウムのような材料は、グラファイトに比べて、顕著に高い挿入リチウム原子の容量を有する。特に、シリコンは、極めて高いリチウムの容量のため、高い重量容量および体積容量を有する再充電可能な金属イオン電池の製造用の、グラファイトに対する有望な代替材として認定されている(例えば、Winter,M.ら,「再充電式リチウム電池用の挿入電極材料」,Adv.Mater.1998,10,No.10参照)。シリコンは、リチウムイオン電池において、室温で約3,600mAh/gの理論最大比容量を有する(Li15Si4に基づく)。
【0005】
シリコンの高い比容量は、充電および放電の際に大きな体積変化を伴う。バルクシリコンへのリチウムのインターカレーションにより、シリコン材料の容積は、元の容積の最大400%まで増加する。従って、充放電サイクルの繰り返しにより、シリコン材料に大きな機械的応力が生じ、その結果、シリコンアノード材料の破損および剥離、ならびに他の電池部材の変形が生じる。脱リチウム化の際のシリコン粒子の収縮は、アノード材料と集電体との間の電気的コンタクトの喪失につながり得る。別の問題は、電解質成膜の結果として、初期充電サイクルの間に、新生シリコン表面上に固体電解質境界(SEI)層が形成されることである。このSEI層は、シリコンの膨張および収縮に適応するための十分な機械的耐久性を有さず、シリコン表面から剥離する。その後、新たに露出したシリコン表面は、さらなる電解質分解につながり、SEI層の厚さが上昇し、リチウムの不可逆的な消費が生じる。これらの不具合メカニズムの全体により、連続的な充電および放電サイクルにわたって、電気化学的容量の許容できない損失が生じる。
【0006】
シリコン含有アノードを充電する際に観察される体積変化に関連する問題を克服するため、多くのアプローチが提案されてきた。一つのアプローチは、電気活性材料として、ある形態の微細構造化されたシリコンを使用することである。シリコン膜およびシリコンナノ粒子のような、断面が約150nm未満の微細シリコン構造は、ミクロンサイズの範囲のシリコン粒子と比べて、充電および放電時の体積変化に対してより耐性がある。しかしながら、これらの未変質形態では、これらはいずれも、商業スケールの用途には特に適していない。ナノスケール粒子は、調製および取扱いが難しく、シリコン膜では、十分なバルク容量が提供されない。また、微細構造化されたシリコンの比較的高い表面積により、最初の充電サイクルにおいて、過剰なSEI形成による許容できない容量損失が生じる。
【0007】
利用可能なシリコン含有電気活性材料の欠如に対処するため、本願発明者らは、多孔質導電性材料(例えば、活性炭素材料のような炭素含有多孔質材料)のポア内にシリコンが成膜された複合材料粒子の種類を開発した。ポア直径のメジアン値は、約5から10nm以下である。全ポア容積、導電性材料のポアサイズ分布、および導電性材料に対するシリコンの重量比を注意深く制御することにより、制御された膨張特性、限定されたSEI形成、および高い可逆的容量保持を有する材料を得ることが可能であることが確認されている。しかしながら、これらの材料の特性のさらなる改良は、表面積を抑制することにより得られ得る。表面積の抑制は、SEI形成のさらなる低減、および電極活性層の形成に必要なバインダの量の低減を含む、いくつかの利点を有する。過剰なバインダは、速度特性の低下に寄与する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、前述の種類の複合材料粒子を有すると同時に、粒子の表面積を低減し、複合材料の速度特性を改善し、コア-シェル粒子を有する電極活性層の改善された導電性を提供する上で役立つ、導電性炭素コーティングを有する電気活性材料に対するニーズがある。しかしながら、前述の複合材料粒子の特徴は、シリコンの微細なドメインおよび微細なポア壁を有する、極めて微細なミクロ構造である。複合材料粒子の微細ミクロ構造は、アノードにおける電気活性材料としての機能に極めて重要であるが、導電性炭素コーティングを適用する従来の技術とは互換性がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様では、コア-シェル複合材料粒子を調製する方法であって、
(a)以下:
(i)ミクロポアおよび/またはメソポアを有する多孔質炭素骨格であって、ガス吸着法により測定されるミクロポアおよびメソポアの全ポア容積は、少なくとも0.4cm3/gであり、前記多孔質炭素骨格のPD50ポア直径は、10nm以下である、多孔質炭素骨格、ならびに
(ii)前記多孔質炭素骨格とともに配置された複数のナノスケールの電気活性材料ドメイン、
を含む複数の前駆体複合材料粒子を提供するステップと、
(b)熱分解性炭素前駆体と接触させて、前記複数の前駆体複合材料粒子を熱処理するステップであって、熱分解性導電性炭素材料の外側シェルは、前記前駆体複合材料粒子上に形成され、前記熱処理は、700℃以下の温度で行われるステップと、
を有する、方法が提供される。
【0010】
本発明の方法にとって重要なことは、熱分解性炭素前駆体の熱分解が、700℃以下の温度で実施されることである。一般に、熱分解炭素コーティングを形成する従来のプロセスは、700℃を超える温度、例えば、800℃から1200℃の範囲の温度が要求される。しかしながら、前述の前駆体複合材料粒子の微細なミクロ構造は、そのような高温には適合せず、熱処理および結晶化プロセスを含む、各種熱誘起変化を受けることがわかった。粒子のミクロ構造の熱処理は、例えばシリコンのような、電気活性材料の膨張を収容するボイド空間の除去につながり得る。また、アモルファスシリコンが電気活性材料として良好な特性を示すため、シリコンの結晶化は、問題である。また、熱分解性炭素コーティングの形成中の過剰な温度は、炭化ケイ素および窒化ケイ素のような、電気化学的活性のない、またはこれが低い、好ましくない化合物の形成につながり得る。これらが合わさると、これらのプロセスは、リチウムイオン電池のアノードにおける電気活性材料としての炭素コーティング粒子の特性に害を及ぼす。
【0011】
驚くべきことに、低温の炭素コーティング処理は、十分なグラファイト特性を有する炭素コーティングを提供し、コーティングに必要な導電性が提供される点で有効であるが、前駆体複合材料粒子コアの下側の構造には、悪影響を及ぼさないことが見出された。従って、本発明の方法では、電気活性材料として高い特性を有するコア-シェル複合材料粒子を調製するための効果的な方法が提供される。
【0012】
本発明の方法の別の利点は、表面積およびポア容積が、それぞれ100m2/gおよび0.1mL/gを超える材料に適用できることである。開放ボイド系では、炭素が部分的にポア構造内に浸透し、導電性テンドリル(tendril)が、熱分解炭素コーティングから粒子の内部に延在することが可能となる。これらの導電性テンドリルと組み合わされたコーティングは、コア-シェル複合材料粒子において平均電子輸送長さを短くする効果を有する。代わりに、電子は、リチウムの挿入および放出の間、高導電性炭素マトリックスを介して、集電体にまたは集電体から輸送され得る。
【0013】
ステップ(b)における熱処理温度は、700℃未満であることが好ましい。熱処理は、例えば、680℃以下、660℃以下、650℃以下、640℃以下、620℃以下、または600℃以下の温度で実施されてもよい。
【0014】
ステップ(b)における熱処理温度の下限は、限定されない。しかしながら、一般に、炭素コーティングの成膜は、温度の上昇とともに高まる。要求される最小温度は、成膜ステップで使用される炭素前駆体の種類にも依存する。ステップ(b)における熱処理温度は、少なくとも300℃以上が好ましく、例えば、少なくとも500℃以上、少なくとも520℃以上、少なくとも540℃以上、少なくとも560℃以上、または少なくとも580℃以上である。
【0015】
炭素前駆体は、2つの方法のうちの1つで、前駆体複合材料粒子と接触されてもよい:
1 蒸気系の接触、
2 液体または溶液からの接触。
【0016】
ある炭素前駆体は、これらの2つの接触方法の一方のみに適する。
【0017】
ある別の炭素前駆体は、接触が生じる温度に依存し、両方の接触方法に適する。これらの炭素前駆体は、低温で液体の形態であってもよく、高温で熱分解する前に、設定温度を超えると、昇華して蒸気前駆体になる。これらは、必要な場合、液体として、前駆体複合材料粒子に設置されてもよい。そのような化合物の例には、カンファー、アントラセン、ペンタセン、および金属フタロセン錯体が含まれる。
【0018】
熱分解炭素前駆体は、熱処理工程の間、蒸気として、好ましくは炭化水素蒸気として、前駆体複合材料粒子と接触してもよい。好適な炭化水素には、10から25個の炭素原子と、任意の1から3個のヘテロ原子を含む、多環式炭化水素が含まれ、必要な場合、多環式炭化水素は、ナフタレン、ジ-ヒドロキシナフタレンのような置換ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フルオレン、アセナフテン、フェナントレン、フルオレン、ピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、フルオレノン、アントラキノン、アントロン、およびそれらのアルキル置換誘導体から選択される。また、好適な熱分解炭素前駆体には、二環式モノテルペノイドが含まれ、必要な場合、二環式モノテルペノイドは、カンファー、ボルネオール、ユーカリプトール、カンフェン、カレン、サビネン、ツジェン、およびピネンから選択される。また、好適な熱分解炭素前駆体には、C1~C10またはC2~C10の炭化水素が含まれ、必要な場合、炭化水素は、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、シクロアルケン、およびアレーン、例えば、メタン、エチレン、プロピレン、アセチレン、およびシクロヘキサンから選択される。他の好適な熱分解炭素前駆体には、フタロシアニン、スクロース、デンプン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、ピレン、ペルヒドロピレン、トリフェニレン、テトラセン、ベンゾピレン、ペリレン、コロネン、およびクリセンが含まれる。好ましくは、炭素前駆体は、アセチレンを有し、より好ましくは、炭素前駆体は、アセチレンである。
【0019】
炭化水素蒸気は、前駆体複合材料粒子と接触する前に、少なくとも500℃の温度で遷移金属触媒と接触されてもよい。遷移金属触媒は、ニッケル、鉄、コバルト、銅およびそれらの混合物から選択されてもよく、最も好ましくはニッケルである。遷移金属触媒は、メッシュの形態であってもよく、該メッシュは、前駆体複合材料粒子と接触する前に、蒸気の流路に配置される。
【0020】
あるいは、遷移金属触媒は、前駆体複合材料粒子の表面に配置されてもよい。例えば、ステップ(b)の前に、気体状ニッケルカルボニルが熱分解され、前駆体複合材料粒子の表面にニッケルが成膜されてもよい。必要な場合、ニッケルの成膜は、前述の熱処理の場合と同じ反応器内で実施されてもよい。ニッケルカルボニルの分解に適した温度は、約220から250℃である。必要な場合、炭素コーティングの成膜の後に、例えば、50℃から60℃の温度で、コーティング粒子を一酸化炭素ガスと接触させることにより、ニッケルがニッケルカルボニル蒸気に戻されてもよい。従って、ニッケルカルボニルガスは、リサイクルされてもよい。
【0021】
遷移金属触媒化処理では、低温での熱分解性炭素コーティングの形成に、さらなる改善が提供される。また、ニッケルカルボニルガスの形態でのニッケルの回収およびリサイクルは、プロセスの費用対効果を高める。
【0022】
あるいは、熱分解炭素前駆体は、液体形態において、前駆体複合材料粒子と接触されてもよい。特に、前駆体複合材料粒子は、溶媒中の熱分解性炭素前駆体の分散体または溶液と接触され、その後、溶媒が除去され、熱処理の前に、熱分解性炭素前駆体で被覆された前駆体複合材料粒子が提供されてもよい。液体形態で前駆体複合材料粒子と接触する好適な熱分解性炭素前駆体は、ポリマーおよび炭素含有骨格を含むオリゴマーを含み、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはビニルピロリドンと、1または2以上の他のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーを有する。
【0023】
溶液から成膜され得る炭素前駆体化合物には、ポリドーパミン、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA)、クエン酸、クエン酸とエタノールを含む混合物、ポリアクリロニトリル(PAN)、PAN誘導体、重合ポリピロール(PPy)複合体、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂のようなメラミン樹脂、ピッチ、グルコース、スクロース、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、カンファー、アントラセン、ペンタセン、および金属フタロセン錯体が含まれる。
【0024】
必要な場合、炭素コーティングにドーパント材料が導入されてもよい。ドーパント材料は、ドーパント前駆体を組み込むことにより、コーティングに導入されてもよい。好ましくは、ドーパントはホウ素またはリンである。熱分解性炭素コーティングのドーピングは、コーティングの導電性をさらに高める。また、ドーパント材料を炭素コーティングに組み込むことにより、電気活性材料ドメインがドープされることが好ましく、それらの導電性がさらに高められる。
【0025】
熱分解炭素前駆体が蒸気として提供される場合、これは、ドーパント材料の気体状前駆体とともに使用されてもよい。ドーパントがホウ素である場合、好適な気体状ドーパント前駆体には、ボラン(BH3)、ジボラン(B2H6)、ホウ酸トリイソプロピル([(CH3)2CHO]3B)、トリフェニルボラン((C6H5)3B)、およびトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(C6F5)3Bが含まれ、好ましくはジボランである。ドーパントがリンである場合、好適な気体状ドーパント前駆体は、ホスフィン(PH3)である。
【0026】
また、熱分解炭素前駆体が揮発性液体である場合、ドーパントは、揮発性液体として導入されてもよい。ホウ素の場合、好適なドーパント前駆体は、トリエチルボランである。リンの場合、好適なドーパント前駆体は、トリエチルホスフィンである。
【0027】
熱分解炭素前駆体が溶液または懸濁液として供給される場合、好適なホウ素ドーパント前駆体には、ホウ酸(H3BO3)、四ホウ酸ナトリウム(Na2[B4O5(OH)4].8H2O、ボラジン(B3H6N3)、およびアンモニアボラン(BH6N)が含まれ、好ましい供給源は、ホウ酸である。ドーパントがリンである場合、好適な前駆体には、リン酸(H3PO4)、またはホスホン酸塩およびホスホン酸が含まれる。
【0028】
液体、溶液相、または懸濁された熱分解性炭素前駆体を使用する場合の別の選択肢は、
例えば、反応器のヘッドスペースに供給される不活性ガス流において、ガスとして、ドーパントを反応器に導入することである。好適な気体状ドーパント前駆体には、前述のものが含まれる。
【0029】
本発明の方法で成膜される導電性炭素材料の外側シェルは、熱分解後の厚さが10nm以下、5nm以下、4nm以下、2nm以下、または1nm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の方法で成膜される導電性炭素材料の外側シェルは、アモルファス、結晶質、またはアモルファスと結晶質ドメインの両方を有してもよい。好ましくは、炭素コーティングは、アモルファス炭素である。結晶質炭素コーティングの好ましい種類は、グラファイトおよびグラフェンである。
【0031】
多孔質炭素骨格は、三次元的に相互接続されたオープンポアネットワークを有し、これは、ミクロポアおよび/またはメソポアを有し、任意で、少量のマクロポアを含む。従来のIUPAC用語に従うと、本願では、「マクロポア」と言う用語は、直径が2nm未満のポアを表す際に使用され、「メソポア」と言う用語は、直径が2から50nmのポアを表す際に使用され、「マクロポア」と言う用語は、直径が50nmを超えるポアを表す際に使用される。
【0032】
多孔質炭素骨格におけるミクロポア、メソポア、およびマクロポアの体積に関する言及、ならびに多孔質炭素骨格におけるポア容積の分布に関する言及は、分離を考慮した際の多孔質炭素骨格のポア構造を定めることを意図するものである。ナノスケールの電気活性材料ドメインによるポアの占有の結果、測定可能なポア容積の減少が生じる。しかしながら、これは、多孔質炭素骨格のポア構造を規定する目的においては考慮されない。
【0033】
ISO15901-2およびISO15901-3に規定された標準方法による急冷固体密度関数理論(QSDFT)を用い、77K、10-6の相対圧力p/p0(またはそれ未満)での窒素ガス吸着法を用いて、ミクロポアおよびメソポアの全体積およびミクロポアおよびメソポアのポアサイズ分布を決定した。窒素ガス吸着法は、固体のポアにガスを凝縮させることにより、材料のポロシティおよびポア直径分布を特徴づける技術である。圧力が増加すると、最初に最も小さい直径のポアで気体が凝縮し、全てのポアが液体で満たされる飽和点に達するまで、圧力が増加する。次に、窒素ガス圧力が徐々に低下され、液体がシステムから蒸発されるようになる。吸着と脱着の等温線の解析、およびそれらの間のヒステリシスにより、ポア容積およびポア直径分布が決定される。窒素ガス吸着法によるポア容積およびポア直径分布の測定に好適な装置には、米国のMicromeritics Instrument社から入手可能なTriStar IIおよびTriStar II Plusポロシティ解析器、ならびにQuantachrome Instruments社から入手可能なAutosorb IQポロシティ解析器が含まれる。
【0034】
窒素ガス吸着法は、直径が50nmまでのポアのポア容積およびポアサイズ分布の測定に有効であるが、より大きな直径のポアに対しては信頼性が低い。従って、本発明の目的の窒素吸着法は、最大50nmの直径を有するポアのみ(すなわち、ミクロポアおよびメソポアのみ)の、ポア容積およびポアサイズ分布の測定に使用される。同様に、PD50は、ミクロポアおよびメソポアの全体積に対してのみ定められる。
【0035】
ガス吸着法により測定した場合、多孔質導電性粒子は、少なくとも0.4cm3/gのミクロポアおよびメソポアの全体積(すなわち、0から50nmの範囲の全ポア体積)により、特徴付けられる。通常、多孔質炭素骨格は、ミクロポアおよびメソポアの両方を含む。しかしながら、ミクロポアを含むが、メソポアを含まない多孔質炭素骨格、またはメソポアを含むがマイクロポアを含まない多孔質炭素骨格を使用することは排除されない。
【0036】
より好ましくは、多孔質導電性粒子中のミクロポアおよびメソポアの全体積は、少なくとも0.45cm3/g、少なくとも0.5cm3/g、少なくとも0.55cm3/g、少なくとも0.6cm3/g、少なくとも0.65cm3/g、少なくとも0.7cm3/g、少なくとも0.75cm3/g、少なくとも0.8cm3/g、少なくとも0.85cm3/g、少なくとも0.9cm3/g、少なくとも0.95cm3/g、または少なくとも1cm3/gである。高いポロシティの導電性粒子の使用は、より多くの量のシリコンをポア構造内に収容できるようになるため、有意である。
【0037】
多孔質導電性粒子の内部ポア容積は、多孔質導電性粒子の脆化の上昇が、より多くの量のシリコンを収容するポア容積の増加の利点を上回る値で、適切にキャップされる。好ましくは、多孔質導電性粒子中のミクロポアおよびメソポアの全体積は、2.2cm3/g以下、2cm3/g以下、1.8cm3/g以下、1.6cm3/g以下、1.5cm3/g以下、1.45cm3/g以下、1.4cm3/g以下、1.35cm3/g以下、1.3cm3/g以下、1.25cm3/g以下、または1.2cm3/g以下である。
【0038】
ある例では、多孔質導電性粒子中のミクロポアおよびメソポアの全体積は、0.7から2.2cm3/gの範囲、0.7から2cm3/gの範囲、0.8から2cm3/gの範囲、0.8から1.8cm3/gの範囲、0.9から1.8cm3/gの範囲、0.9から1.6cm3/gの範囲、1から1.6cm3/gの範囲、または1.1から1.6cm3/gの範囲であってもよい。
【0039】
他の例では、多孔質導電性粒子中のミクロポアおよびメソポアの全体積は、0.4から0.75cm3/g、0.4から0.7cm3/g、0.4から0.65cm3/g、0.45から0.75cm3/g、0.45から0.7cm3/g、0.45から0.65cm3/g、または0.45から0.6cm3/gの範囲であってもよい。
【0040】
他の例では、多孔質導電性粒子中のミクロポアおよびメソポアの全体積は、0.6から2cm3/g、0.6から1.8cm3/g、0.7から1.8cm3/g、0.7から1.6cm3/g、0.8から1.6cm3/g、0.8から1.5cm3/g、0.8から1.4cm3/g、0.9から1.5cm3/g、0.9から1.4cm3/g、または1から1.4cm3/gの範囲であってもよい。
【0041】
多孔質導電性粒子のポアサイズ分布は、モノモーダル、バイモーダルまたはマルチモーダルであってもよい。本願で使用される「ポアサイズ分布」と言う用語は、多孔質導電性粒子の累積全内部ポア容積に対するポアサイズの分布に関する。バイモーダルまたはマルチモーダルなポアサイズ分布が好ましい。ミクロポアとより大きな直径のポアとの間の近い接近性は、多孔質ネットワークを介して、ナノスケールの電気活性材料ドメインへの効率的なイオン輸送の利点を提供するためである。
【0042】
利用可能な解析技術の限度を考慮すると、単一の技術を用いて、ミクロポア、メソポアおよびマクロポアの全範囲にわたってポア容積およびポアサイズ分布を測定することは難しい。多孔質炭素骨格がマクロポアを有する場合、50nm超、100nm以下の範囲の直径を有するポアの容積は、水銀ポロシメトリー法により測定することができ、これは、好ましくは、0.3cm3/g以下、または0.20cm3/g以下、または0.1cm3/g以下、または0.05cm3/g以下であることが好ましい。マクロポアの割合が少ないことは、ポアネットワークへの電解質のアクセスを容易にするため有益であるが、本発明の利点は、実質的に、シリコンをミクロポア、およびより小さなメソポアに収容することにより得られる。
【0043】
50nm以下のポアサイズで水銀ポロシメトリー法により測定されたポア容積は、無視される(前述のように、窒素吸着法を用いた場合、メソポアおよびミクロポアが特徴化される)。100nmを超える水銀ポロシメトリー法により測定されたポア容積は、本発明の目的のため、粒子間ポロシティであると仮定され、無視される。
【0044】
水銀ポロシメトリー法は、水銀に浸漬された材料のサンプルに、各種レベルの圧力を加えることにより、材料のポロシティおよびポア直径分布を特徴化する技術である。サンプルのポアに水銀を侵入させるのに必要な圧力は、ポアの大きさに反比例する。本願に記載の水銀ポロシメトリー法により得られた値は、ASTM UOP578-11に準拠して得られたものであり、表面張力γは、480 mN/mであり、接触角φは、室温の水銀に対して140°である。水銀の密度は、室温で13.5462g/cm3が採用される。米国のMicromerics Instrument社から市販されている自動水銀ポロシメータのAutoPore IVシリーズのような、多くの高精度水銀ポロシメータが市販されている。水銀ポロシメトリー法の完全なレビューについては、P.A.WebbおよびC.Orrによる“Analytical Methods in Fine Particle Technology,1997,Micromeritics Instrument Corporation,ISBN 0-9656783-0”を参照。
【0045】
ガス吸着法および水銀ポロシメトリー法のような侵入技術は、窒素または水銀が多孔質導電性粒子の外側から接近可能なポアのポア容積を決定する際にのみ有効であることが理解される。本願に規定のポロシティの値は、オープンポアの容積、すなわち、多孔質炭素骨格の外側から流体にアクセス可能なポアを表すことが理解される。ポロシティ値を決定する際に、完全に取り囲まれ、窒素吸着法または水銀ポロシメトリー法で同定できないポアは、考慮されない。同様に、窒素吸着法による検出限界を下回るほど小さなポアに配置された任意のポア容積は、考慮されない。
【0046】
本願で使用される一般的な用語「PDnポア直径」は、ミクロポアおよびメソポアの全容積に基づいた、体積に基づくnパーセントのポア直径を表す。例えば、本願で使用される用語「PD90ポア直径」は、それ未満において、P1によって表される、全ミクロポアおよびメソポアの体積の90%が認められるポア直径を表し、PD50ポア直径は、それ未満において、全ミクロポアおよびメソポア体積の50%が認められるメジアンポア直径である。
【0047】
多孔質炭素骨格のPD90ポア直径は、20nm以下、または15nm以下であってもよい。好ましくは、PD90のポア直径は、12nm以下、10nm以下、8nm以下、または6nm以下である。好ましくは、多孔質炭素骨格のPD90ポア直径は、少なくとも3nm、少なくとも3.2nm、少なくとも3.5nm、少なくとも3.8nm、または少なくとも4nmである。
【0048】
多孔質炭素骨格のPD30ポア直径は、好ましくは、1.6nm以下、1.5nm以下、1.4nm以下、1.3nm以下、1.2nm以下、1.1nm以下、または1nm以下である。好ましくは、多孔質炭素骨格のPD30ポア直径は、好ましくは、少なくとも0.45nm、少なくとも0.5nm、少なくとも0.6nm、または少なくとも0.7nmである。
【0049】
導電性多ポア質粒子骨格のPD50ポア直径は、好ましくは、8nm以下、6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下である。好ましくは、多孔質炭素骨格のPD50ポア直径は、少なくとも1nm、少なくとも1.1nm、または少なくとも1.2nmである。従って、本発明では、導電性多孔質粒子骨格内のミクロポアおよびメソポアの全体積の少なくとも50%は、直径が8nm未満のポアの形態であることが好ましい。
【0050】
疑義を避けるため、マクロポア容積(50nmより大きいポア直径)は、PD50値を決定する目的では考慮されない。
【0051】
一般に、前駆体複合材料粒子は、1から50μmの範囲のD50粒子直径を有してもよい。任意で、前駆体複合材料粒子のD50粒子直径は、少なくとも1.5μm、少なくとも2μm、少なくとも3μm、少なくとも4μm、または少なくとも5μmであってもよい。必要な場合、前駆体複合材料粒子のD50粒子直径は、40μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、18μm以下、15μm以下、12μm以下、10μm以下であってもよい。
【0052】
例えば、前駆体複合材料粒子は、1から25μm、1から20μm、2から25μm、2から20μm、2から18μm、3から20μm、3から18μm、3から15μm、4から18μm、4から15μm、4から12μm、5から15μm、5から12μm、または5から10μmの範囲のD50粒子直径を有してもよい。これらのサイズ範囲内にあり、本願に記載のポロシティおよびポア直径分布を有する前駆体複合材料粒子は、理想的に、金属イオン電池のアノードに使用される複合材料粒子の調製に適する。これらの粒子は、スラリー中の良好な分散性、構造ロバスト性、繰り返し充放電サイクルにわたる高い容量保持率、および従来の20から50μmの厚さ範囲の均一な厚さの緻密な電極層を形成する適合性を有する、コア-シェル複合材料粒子を提供する。
【0053】
疑義を避けるため、本願で使用の用語「粒子直径」は、等価な球形直径(esd)、すなわち、所与の粒子と同じ体積を有する球の直径を表し、粒子体積は、任意の粒子内ポアの体積を含むことが理解される。本願で使用の用語「D50」および「D50粒子直径」は、容積ベースのメジアン粒子直径、すなわち、それ以下で、粒子集団の50体積%未満が認められる直径を表す。本願で使用の用語「D10」および「D10粒子直径」は、10パーセントの体積基準のメジアン粒子直径、すなわち、それ以下で、粒子集団の10体積%未満が認められる直径を表す。本願で使用の用語「D90」および「D90粒子直径」は、90パーセントの体積基準のメジアン粒子直径、すなわち、それ以下で、粒子集団の90体積%未満が見認められる直径を表す。
【0054】
粒子直径および粒子サイズ分布は、ISO 13320:2009に準拠した標準的なレーザー回折法により測定することができる。レーザー回折法は、粒子が、粒子のサイズに応じて変化する角度で光を散乱し、粒子の集合が、粒子サイズ分布に相関する強度および角度により定められる散乱光のパターンを形成するという原理に依存する。迅速かつ信頼性のある粒子径分布測定用の、多くのレーザー回折装置が市販されている。特に記載のない限り、本願に記載または報告されている粒度分布測定値は、従来のMalvern Instruments製のMalvern Mastersizer(商標)3000粒子サイズ解析器により測定されたものである。Malvern Mastersizer(商標)3000粒子サイズ解析器は、水溶液中に懸濁した関心粒子を含む透明セルを介して、ヘリウム-ネオンガスレーザービームを照射することにより作動する。粒子に照射される光線は、粒子サイズに反比例する角度で散乱され、光検出器アレイがいくつかの所定の角度で光の強度を測定し、異なる角度で測定された強度は、標準的な理論原理を使用してコンピューターにより処理され、粒子サイズ分布が決定される。本願に記載のレーザー回折値は、蒸留水中の粒子の湿式分散を用いて得られる。粒子屈折率は3.50であり、分散剤指数には1.330が採用される。粒子サイズ分布は、ミー散乱モデルを用いて計算される。
【0055】
前駆体複合材料粒子のD10粒子直径は、好ましくは、少なくとも0.2μm、少なくとも0.5μm、少なくとも0.8μm、少なくとも1μm、少なくとも1.5μm、または少なくとも2μmである。D10粒子の直径を0.2μm以上に維持することにより、サブミクロンサイズの粒子の望ましくない凝集の可能性が低減され、その結果、流動挙動が改善され、形成された複合材料粒子の分散性が改善される。
【0056】
前駆体複合材料粒子のD90粒子直径は、好ましくは40μm以下、または30μm以下、または25μm以下、または20μm以下である。より大きな前駆体複合材料粒子の使用では、電極活性層におけるコア-シェル複合材料粒子生成物の不均一な形成パッキングが生じ、従って、緻密な電極層の形成、特に20から50μmの範囲の厚さを有する電極層の形成を妨げる。
【0057】
前駆体複合材料粒子は、狭小のサイズ分布スパンを有することが好ましい。例えば、粒子サイズ分布スパン((D90-D10)/D50として定義される)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。狭小のサイズ分布スパンを維持することにより、緻密な電極層に対し、コア‐シェル複合材料粒子生成物の効率的な充填を容易に達成することが可能となる。
【0058】
多孔質炭素骨格は、好ましくは、少なくとも80質量%の炭素、より好ましくは少なくとも90質量%の炭素、より好ましくは少なくとも95質量%の炭素、および必要な場合、少なくとも98質量%または少なくとも99質量%の炭素を含む。炭素は、結晶質炭素、またはアモルファス炭素、またはアモルファスと結晶質炭素の混合物であってもよい。多孔質炭素粒子は、硬質炭素粒子または軟質炭素粒子のいずれであってもよく、ポリマーの熱分解を含む既知の手順により、好適に得られてもよい。各種異なる仕様の多孔質炭素粒子は、商業的供給業者から入手可能である。
【0059】
前駆体複合材料粒子は、異なる電気活性材料負荷の範囲を有してもよい。例えば、前駆体複合材料粒子中の電気活性材料の量は、多孔質炭素骨格の内部ポア容積の少なくとも25%および最大80%以上が電気活性材料によって占められるように選択されてもよい。例えば、電気活性材料は、多孔質炭素骨格の内部ポア容積の25%から60%、25%から55%、25%から50%、25%から45%、25%から40%を占めてもよい。これらの好ましい範囲内では、多孔質炭素骨格のポア容積は、充電および放電の間の電気活性材料の膨張を有効に収容し、コア-シェル複合材料粒子の体積容量に寄与しない過剰なポア容積を回避する。しかしながら、電気活性材料の量は、不適切な金属イオン拡散速度により有効なリチウム化が妨げられ、または不適切な膨張体積によりリチウム化に対する機械的抵抗が生じるほど、高くはない。
【0060】
前駆体複合材料粒子中の電気活性材料は、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウムおよびそれらの混合物から選択されることが好ましい。好ましい電気活性材料は、シリコンである。
【0061】
電気活性材料がシリコンである場合、多孔質炭素骨格に対するシリコンの好ましい質量比は、[0.5×P1から1.3×P1]:1の範囲であり、ここで、P1は、多孔質導電性粒子中のミクロポアおよびメソポアの全ポア体積の大きさを有する無次元量であり、cm3/g単位(例えば、多孔質炭素粒子が1.2cm3/gのミクロポアおよびメソポアの全体積を有する場合、P1=1.2)で表される。この式では、シリコンの密度および多孔質導電性粒子のポア容積が考慮され、シリコンが内部ポア容積内に完全に配置されると仮定して、ポア容積が約20%から55%占有されるシリコンの重量比が定められる。
【0062】
実際には、前駆体複合材料粒子中の電気活性材料の少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、さらに好ましくは少なくとも98重量%が、多孔質炭素骨格の内部ポア容積内に配置され、前駆体複合材料粒子の外表面に配置されたシリコンが極めて少なく、または全くないようにすることが好ましい。化学気相浸透(CVI)法による前駆体複合材料粒子の調製は、電気活性材料の極めて少量のみが外部表面に配置されることを確実にできる有効な方法である。これは、CVIプロセスの反応速度が、小さなポアへのシリコンの成膜に有利であり、従って、多孔質導電性粒子の内部表面でシリコンの優先的成膜が生じるためである。
【0063】
ステップ(b)における熱処理は、1から3時間の間、好適に実施されてもよい。
【0064】
複数の前駆体複合材料粒子を提供するステップ(a)は、200から800℃の温度で電気活性材料前駆体を複数の多孔質炭素粒子と接触させ、これにより炭素粒子のポア内に電気活性材料を成膜するステップを有してもよい。電気活性材料は、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウムおよびそれらの混合物から選択されてもよい。好適な電気活性材料は、シリコンである。
【0065】
シリコンの成膜に好適な気体前駆体には、シラン(SiH4)およびトリクロロシラン(SiHCl3)が含まれる。CVI法は、多孔質基板の幾何学的形状に対する損傷が極めて少ないため、本願に開示の電気活性材料を調製する上で特に有用である。
【0066】
好適なシリコン含有前駆体には、シラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、トリシラン(Si3H8)、テトラシラン(Si4H10)、またはトリクロロシラン(HSiCl3)のようなクロロシラン、またはメチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)もしくはジメチルジクロロシラン((CH3)2SiCl2)のようなメチルクロロシランが含まれる。好ましくは、シリコン含有前駆体は、シランである。好適なスズ含有前駆体には、ビス[ビス(トリメチルシリル)アミノ]スズ(II)([(CH3)3Si]2N)2 Sn)、テトラアリルチン(((H2C=CHCH2)4 Sn)、テトラキス(ジエチルアミド)スズ(IV)([(C2H5)2N]4 Sn)、テトラキス(ジメチルアミド)スズ(IV)([(CH3)2N]4Sn)、テトラメチルスズ(Sn(CH3)4)、テトラビニルスズ(Sn(CH=CH2)4)、スズ(II)アセチルアセトネート(C10H14O4Sn)、トリメチル(フェニレチニル)スズ(C6H5C≡CSn(CH3)3)、およびトリメチル(フェニル)スズ(C6H5Sn(CH3)3)が含まれる。好ましくは、スズ含有前駆体は、テトラメチルスズである。
【0067】
好適なアルミニウム含有前駆体には、アルミニウムトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)(Al(OCC(CH3)3CHCOC(CH3)3)3)、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)、およびトリス(ジメチルアミド)アルミニウム(III)(Al(N(CH3)2)3)が含まれる。好ましくは、アルミニウム含有前駆体は、トリメチルアルミニウムである。
【0068】
好適なゲルマニウム含有前駆体には、ゲルマン(GeH4)、ヘキサメチルジゲルマニウム((CH3)3GeGe(CH3)3)、テトラメチルゲルマニウム((CH3)4Ge)、水素化トリブチルゲルマニウム([CH3(CH2)3]3 GeH)、水素化トリエチルゲルマニウム((C2H5)3GeH)、および水素化トリフェニルゲルマニウム((C6H5)3GeH)が含まれる。好ましくは、ゲルマニウム含有前駆体は、ゲルマンである。
【0069】
また、CVIプロセスは、ドーパント材料の気体状前駆体を利用して、ドープされた電気活性材料を多孔質炭素骨格のミクロポアおよび/またはメソポアに成膜してもよい。ドーパントがホウ素である場合、好適な前駆体には、ボラン(BH3)、ジボラン(B2H6)、ホウ酸トリイソプロピル([(CH3)2CHO]3B)、トリフェニルボラン((C6H5)3B)、およびトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(C6F5)3B、好ましくはボランが含まれる。ドーパントがリンである場合、好適な前駆体は、ホスフィン(PH3)である。
【0070】
前駆体は、純粋な形態、またはより一般的には、窒素またはアルゴンのような不活性キャリアガスにより希釈された混合物として用いられてもよい。例えば、前駆体は、前駆体と不活性キャリアガスの全体積に対して、0.5から20vol%、または1から10vol%、または1から5vol%の範囲の量で使用されてもよい。CVIプロセスは、気体状前駆体の低分圧で、好適に実施され、全圧力は、101.3kPa(すなわち、大気圧、1atm)またはそれに近く、残りの分圧は、水素、窒素またはアルゴンのような不活性パッディングガスを用いて、大気圧にされる。酸素の存在は、成膜された電気活性材料の望ましくない酸化を防止するため、不活性雰囲気で作動される従来の手順に従って、最小化される必要がある。好ましくは、酸素含有量は、ステップ(b)で使用されるガスの全体積に対して、0.01vol%未満、より好ましくは0.001vol%未満である。
【0071】
CVIプロセスの温度は、好適に選択され前駆体が電気活性材料に熱分解される。CVIプロセスは、200から800℃、400から700℃、400から600℃、400から550℃、450から550℃、450から500℃の範囲の温度で好適に実施される。好ましくは、CVIプロセスは、400から500℃、好ましくは450から500℃の範囲の温度で実施される。
【0072】
CVI法により成膜された電気活性材料の表面は、酸素に対して反応性であり、大気中の酸素に曝されると、自然酸化物層が形成される。シリコンの場合、シリコン表面が酸素に曝されると、アモルファス二酸化シリコン膜が速やかに形成される。天然酸化物層の形成は、発反応であり、従って、製造中の粒子状材料の過熱または燃焼を防止するため、注意深いプロセス制御が要求される。自然酸化物層の存在は、不可逆的な容量損失およびサイクル寿命の短縮につながり、従って、リチウムイオン電池における電気活性材料の特性に有害となり得る。従って、電気活性材料は、リチウムイオン透過性フィラー材料の成膜の前に、酸素に曝されないことが好ましい。
【0073】
より好ましくは、本発明の方法のステップ(b)は、さらに、成膜された電気活性材料の表面を不動態化剤と接触させるステップ(b2)を有し、電気活性材料は、不動態化剤と接触する前に酸素に曝されない。ここで、不動態化剤は、表面酸化物の形成を阻害または防止するような方法で、電気活性材料の表面を改質できる化合物として定義される。
【0074】
好適な不動態化剤には、アルケン、アルキンまたはカルボニル官能基を含む化合物、より好ましくは末端アルケン、末端アルキン、またはアルデヒド基を含む化合物が含まれる。
【0075】
好適な不動態化剤には、以下の化学式の1または2以上が含まれる:
(i)R-CH=CH-R;
(ii)R-C≡C-R;
(iii)O=CH-R;
ここで、Rは、Hまたは1から20個の炭素原子、好ましくは2から10個の炭素原子を有する、非置換もしくは置換された脂肪族もしくは芳香族のヒドロカルビル基を表し、あるいは式(i)における2つのR基は、3から8個の炭素原子を含む非置換もしくは置換されたヒドロカルビル環構造を形成する。特に好ましい不動態化剤は、以下の式の1または2以上の化合物を含む:
(i)CH2=CH-R;
(ii)HC≡C-R;
ここで、Rは、前述のように定められる。好ましくは、Rは、未置換である。
【0076】
好適な化合物の例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ブタジエン、1-ペンテン、1,4-ペンタジエン、1-ヘキセン、1-オクテン、スチレン、ジビニルベンゼン、アセチレン、フェニルアセチレン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、およびビシクロ[2.2.2]オクト-2-エンが含まれる。また、異なる不動態化剤の混合物も、使用され得る。
【0077】
不動態化剤のアルケン、アルキン、またはカルボニル基は、電気活性材料の表面において、M-H基による挿入反応を行い(ここで、Mは、電気活性材料の原子を表す)、空気による酸化に耐性のある共有結合性不動態化表面を形成することが理解される。シリコンが電気活性材料である場合、シリコン表面と不動態化剤との間の不動態化反応は、以下に概略的に示すように、ヒドロシリル化の一形態として理解されてもよい。
【0078】
【化1】
他の好適な不動態化剤には、酸素、窒素、硫黄またはリンと結合された活性水素原子を含む化合物が含まれる。例えば、不動態化剤は、アルコール、アミン、チオール、またはホスフィンであってもよい。電気活性材料の表面での-XH基と水酸基との反応の結果、H
2の除去、およびXと電気活性材料の表面との間で直接的な結合が形成されることが理解される。
【0079】
このカテゴリーにおける好適な不動態化剤は、式HX-Rの化合物を含む。ここで、Xは、O、S、NRまたはPRを表し、各Rは、独立して、上記のように定義される。式(iv)における2つのR基は、3から8個の炭素原子を含む、非置換のまたは置換されたヒドロカルビル環構造を形成してもよい。好ましくは、Xは、OまたはNHを表し、任意で、Rは、2から10個の炭素原子を有する、置換された脂肪族または芳香族基を表す。また、アミン基は、ピロリジン、ピロール、イミダゾール、ピペラジン、インドール、またはプリンのような、4から10員の脂肪族または芳香族環構造に組み込まれてもよい。ステップ(b2)における電気活性材料と不動態化剤との接触ステップは、25から700℃の範囲の温度で実施されてもよい。例えば、ステップ(b2)は、本願に記載のステップ(b)および/またはステップ(c)の好適な温度範囲内で適切に実施されてもよい。好ましくは、ステップ(c)は、ステップ(b2)と同じ温度、またはステップ(b2)よりも高い温度で実施される。例えば、ステップ(b2)は、25℃から500℃未満の範囲の温度で実施され、ステップ(c)は、500℃から700℃の範囲の温度で実施されてもよい。
【0080】
電気活性材料表面の不動態化後に、前述のように、ステップ(c)において、リチウムイオン透過性フィラー材料が成膜されてもよい。前述の不動態化剤のR基は、不動態化剤を介して、リチウムイオン透過性フィラーと電気活性材料の表面との間に共有結合が形成されるように、リチウムイオン透過性フィラーに組み込まれてもよい。
【0081】
リチウムイオン透過性フィラー材料が導電性熱分解性炭素材料である場合、同じ化合物が、不動態化剤と熱分解性炭素前駆体の両方として機能してもよい。例えば、熱分解炭素前駆体としてスチレンが選択された場合、これは、電気活性材料がスチレンと接触する前に酸素に曝されなければ、さらに不動態化剤としても機能する。従って、ステップ(c)は、CVIプロセスにより導電性熱分解炭素材料を成膜するステップを有してもよい。熱分解炭素前駆体は、ステップ(b2)で使用される不動態化剤と同じである。この場合、ステップ(b2)での不動態化と、ステップ(c)での導電性炭素材料の成膜は、例えば500から700℃の範囲の温度で、同時に実施されてもよい。あるいは、ステップ(b2)における不動態化およびステップ(c)における導電性炭素材料の成膜は、不動態化剤および熱分解性炭素前駆体として同じ材料を用いて、連続的に実施されてもよい。ただし、ステップ(c)は、ステップ(b2)よりも高い温度で実施される。例えば、ステップ(b2)は、25℃から500℃未満の範囲の温度で実施され、ステップ(c)は、500℃から700℃の範囲の温度で実施されてもよい。
【0082】
あるいは、ステップ(b2)における不動態化剤、およびステップ(c)における熱分解炭素前駆体として、異なる化合物を使用してもよい。例えば、電気活性材料は、まず、ステップ(b2)において不動態化剤と接触され、その後、ステップ(c)において導電性熱分解炭素材料の成膜が実施されてもよく、ステップ(c)において使用される熱分解炭素前駆体は、ステップ(b2)において使用される不動態化剤とは異なる。例えば、ステップ(b2)の不動態化剤は、スチレンであり、ステップ(c)の熱分解炭素前駆体は、シクロヘキサンのような化合物であってもよい。シクロヘキサンは、熱分解炭素材料を形成することができるが、電気活性材料表面を不動態化することはできない化合物である。不動態化剤および熱分解炭素前駆体が異なる材料である場合、ステップ(b2)および(c)は、同じ温度、例えば、500から700℃の範囲で実施されてもよい。あるいは、ステップ(c)は、ステップ(b2)よりも高い温度で実施されてもよい。例えば、ステップ(b2)は、25℃から500℃未満の範囲の温度で実施され、ステップ(c)は、500℃から700℃の範囲の温度で実施されてもよい。
【0083】
別の好適な不動態化剤は、アンモニアである。従って、ステップ(b2)は、200から800℃の範囲、好ましくは400から700℃の範囲の温度で、成膜された電気活性材料の表面をアンモニアと接触させるステップを有してもよい。例えば、不動態化剤がアンモニアである場合、ステップ(b2)は、ステップ(b)において電気活性材料を成膜する際に使用される温度と同じ温度で実施されてもよい。その後必要な場合、温度が500から1,000℃の範囲に上昇され、結晶質の窒化物表面(例えば、式SiNxの窒化ケイ素表面、ここでx≦4/3)が形成される。従って、アンモニアによる不動態化は、電気活性材料の酸化を抑制する別の手段を提供する。サブ化学量論の窒化ケイ素は、導電性であるため、このステップは、さらに、電気活性材料のより迅速な充電および放電を可能にする導電性ネットワークの形成をもたらす。
【0084】
電気活性材料がシリコンである場合、シリコンは、アモルファスであることが好ましい。シリコンのアモルファス性は、X線回折(XRD)により測定することができ、
図3には、実施例4の場合が示されている。
【0085】
本発明の利点の1つは、炭素コーティングプロセスの温度が、複合材料粒子のミクロ組織がアニールされることを抑制し、または実質的に回避できることである。複合材料粒子のミクロ組織は、TGA分析により評価することができる。この分析法は、空気中、高温下で、元素のケイ素が酸化され二酸化ケイ素(SiO2)になると、重量増加が観察されるという原理に基づく。Siが酸化される機構は、温度に依存する。シリコンナノ構造の表面におけるシリコン原子は、シリコンナノ構造のバルク中のシリコン原子よりも低い温度で酸化される(参考文献:Bardetら、Phys.Chem.Chem.Phys.(2016)、18,18201)。TGA分析では、空気中、高温でシリコンが酸化され二酸化ケイ素(SiO2)になる際に観察される重量増加に基づいて、表面シリコンの相対量を定量化することができる。重量増加を温度に対してプロットすることにより、サンプル中の微細なケイ素と粗大なケイ素を区別し、定量化することができる。
【0086】
図1に示すように、未酸化の表面ケイ素の量の決定は、これらの材料の特性TGAトレースから得られる。約300℃まで、初期質量の減少が続いた後(
図1には、(a)から(b)への質量減少として示されている)、約400℃で大きな質量増加が観測され始め、550℃から650℃の間でピークが得られる(
図1では、(b)から(c)への質量増加として示されている)。その後、多孔質炭素骨格が酸化されてCO
2ガスになると、質量減少が観測され((c)からの質量減少)、その後、約800℃以上になると、ケイ素のSiO
2への継続的な変化に対応して、再び質量増加が観測される。これは、ケイ素の酸化が完了に近づくとともに、1000℃を超える漸近値に向かって増加する((d)から(e)への質量増加)。重量増加が生じる温度は、ケイ素の構造に関係し、ケイ素構造の表面では、ケイ素は、低温で酸化され、バルクのケイ素は、より高温で酸化される。従って、より高温では、ケイ素ドメインは、より粗大となり、より多くの酸化が観測される。
【0087】
本願において粗大なケイ素とは、TGAにより測定された800℃を超えて酸化されるケイ素として定められる。ここで、TGAは、空気下、10℃/分の昇温温度で実施される。これは、
図1では、(d)から(e)に質量が増加するように示されている。従って、粗大なバルクケイ素の含有量は、以下の式に従って定められる:
Z=1.875×[(M
f-M
800)/M
f]×100%
ここでZは、800℃での未酸化ケイ素の百分率であり、M
800は、800℃での試料の質量であり(
図1における質量(d))、M
fは、1400℃での酸化の完了時のアッシュの質量(
図1における質量(e))である。本分析では、800℃を超える温度での任意の質量増加は、ケイ素のSiO
2への酸化に対応し、酸化完了時の全質量は、SiO
2であると仮定される。完全のため、1.875は、O
2に対するSiO
2のモル質量比(すなわち、酸素の添加による質量増加に対する、形成されたSiO
2の質量比)であることが理解される。
【0088】
本発明の第2の態様では、前述の方法により得られる複数のコア-シェル複合材料粒子からなる粒子状材料が提供される。
【0089】
本発明の第3の態様では、
複数のコア-シェル複合材料粒子で構成された粒子状材料であって、
前記コア-シェル複合材料粒子は、
(a)コアであって、
(i) ミクロポアおよび/またはメソポアを有する多孔質炭素骨格であって、前記ミクロポアおよび/またはメソポアは、ガス吸着法により測定された少なくとも0.4cm3/gの全ポア容積を有し、前記多孔質炭素骨格のPD50ポア直径は、10nm以下、好ましくは5nm以下である、多孔質炭素骨格と、
(ii) 前記多孔質炭素骨格の前記ミクロポアおよび/またはメソポア内に配置された、複数の電気活性材料ドメインと、
を有する、コアと、
(b)前記コアの少なくとも一部を取り囲む、熱分解性導電性炭素材料の外側シェルと、
を有する、粒子状材料が提供される。
【0090】
また必要な場合、熱分解性導電性炭素コーティングは、多孔質炭素骨格のポア内に浸透してもよい。
【0091】
コア-シェル複合材料粒子は、異なる電気活性材料充填物の範囲を有してもよい。例えば、前駆体複合材料粒子中の電気活性材料の量は、多孔質炭素骨格の内部ポア容積の少なくとも25%および最大80%以上が電気活性材料によって占められるように選択されてもよい。例えば、電気活性材料は、多孔質炭素骨格の内部ポア容積の25%から60%、25%から55%、25%から50%、25%から45%、または25%から40%を占めてもよい。これらの好ましい範囲内では、多孔質炭素骨格のポア容積は、充電および放電の間、電気活性材料の膨張を有効に収容し、コア-シェル複合材料粒子の体積容量に寄与しない過剰なポア容積が回避される。しかしながら、電気活性材料の量は、不適切な金属イオン拡散速度または不適切な膨張体積により、リチウム化に対する機械的な抵抗が生じ、効果的なリチウム化が妨げられるほどは、高くない。
【0092】
前駆体複合材料粒子中の電気活性材料は、好ましくは、ケイ素、スズ、ゲルマニウム、アルミニウムおよびそれらの混合物から選択される。好ましい電気活性材料は、ケイ素である。
【0093】
コア-シェル複合材料粒子は、炭化ケイ素を実質的に含まないことが好ましい。コア-シェル複合材料粒子は、窒化ケイ素を実質的に含まないことが好ましい。炭化ケイ素および窒化ケイ素の有無は、X線回折(XRD)解析により決定することができる。そのための好適な装置および方法は、当業者によく知られている。
【0094】
コア-シェル複合材料粒子は、1.5から60μmの範囲のD50粒子直径を有することが好ましい。
【0095】
必要な場合、コア-シェル複合材料粒子のD50粒子直径は、少なくとも2μm、少なくとも3μm、少なくとも4μm、または少なくとも5μmであってもよい。必要な場合、コア-シェル複合材料粒子のD50粒子直径は、50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、18μm以下、または15μm以下であってもよい。
【0096】
例えば、コア-シェル複合材料粒子は、2から50μm、2から40μm、2から30μm、3から30μm、3から25μm、3から20μm、4から25μm、4から20μm、4から18μm、5から20μm、5から18μm、5から15μmの範囲のD50粒子直径を有してもよい。これらのサイズの範囲内にあり、本願に記載のポロシティおよびポア直径分布を有するコア-シェル複合材料粒子は、金属イオン電池用アノードに使用される複合材料粒子の調製に理想的に適している。これは、スラリー中の良好な分散性、構造的ロバスト性、繰り返し充放電サイクルにわたる高い容量保持性、および20から50μmの従来の厚さ範囲における均一な厚さの緻密な電極層を形成する上での適合性によるものである。
【0097】
コア-シェル複合材料粒子は、50m2/g以下のBET表面積を有することが好ましく、好ましくは30m2/g以下、より好ましくは15m2/g以下、または12m2/g以下、または10m2/g以下、または8m2/g以下、または6m2/g以下、または5m2/g以下である。複合材料粒子は、少なくとも0.1m2/g、または少なくとも0.5m2/g、少なくとも1m2/g、または少なくとも2m2/g、または少なくとも3m2/gのBET表面積を有する。
【0098】
本発明の粒子状材料は、リチウム化の際に1200から2340mAh/gの比容量を有してもよい。これは、粒子状材料の単位グラム当たりで測定される。
【0099】
本発明の第4の態様では、本発明の第2または第3の態様の粒子状材料、および少なくとも1つの他の成分を含む組成物が提供される。少なくとも1つの他の成分は、(i)バインダ、(ii)導電性添加物、および(iii)追加微粒子電気活性材料、の1または2以上から好適に選択されてもよい。本発明の第4の態様の組成物は、特に、金属イオン電池のアノードにおける活性層として使用されてもよい。
【0100】
組成物は、組成物の全乾燥重量を基準にして、本発明の粒子状材料の1から95重量%、または2から90重量%、または5から85重量%、または10から80重量%を有してもよい。
【0101】
バインダは、電極組成物の全乾燥重量に基づいて、0.5から20重量%、または1から15重量%、または2から10重量%の量で存在してもよい。
【0102】
1または2以上の導電性添加剤は、電極組成物の全乾燥重量に基づいて、0.5から20重量%、または1から15重量%、または2から10重量%の総量で存在してもよい。
【0103】
任意の少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料は、グラファイト、硬質炭素、シリコン、スズ、ゲルマニウム、ガリウム、アルミニウムおよび鉛から選択されてもよい。
【0104】
第5の態様では、本発明により、集電体と電気的に接触された、本発明の第2または第3の態様による粒子状材料を有する電極が提供される。必要な場合、粒子状材料は、本発明の第4の態様による組成物の形態であってもよい。
【0105】
第6の態様では、本発明により、再充電可能な金属イオン電池であって、
(i)アノードであって、本発明の第5の態様による電極を含む、アノードと、
(ii)金属イオンを放出し再吸収できるカソード活性材料を有するカソードと、
(iii)前記アノードと前記カソードの間の電解質と、
を有する、再充電可能な金属イオン電池が提供される。
【0106】
第7の態様では、本発明により、本発明の第2または第3の態様による粒子状材料の、アノード活性材料としての使用が提供される。この使用において、粒子状材料は、本発明の組成物の形態であってもよい。
【0107】
以下、実施例および添付図面を参照して、本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【
図1】粗大シリコンのレベルが低い、本発明による粒子状材料の特徴的なTGAトレースを示した図である。
【
図2】実施例4の熱重量分析(TGA)データを示した図である。
【
図3】実施例4のX線回折(XRD)データを示した図である。
【
図5】実施例4の粗大シリコン含有量に対する温度の影響を示した図である。
【
図7】実施例7の粗大シリコンの量に対する温度の影響を示した図である。
【
図8】100サイクルでの容量保持に対する温度の影響を示した図である。各データ点に対する数字は、粗大シリコンのレベルを示す。
【
図9】200サイクルでの容量保持に対する温度の影響を示した図である。各データ点に対する数字は、粗大シリコンのレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0109】
(例)
以下の例で使用される多孔質炭素骨格C1からC3は、表1に示す特徴を有する。
【0110】
【表1】
(例1:流動床反応器における粒子状材料の調製)
83mmの内径を有するステンレス鋼円筒容器を有する垂直気泡流動層反応器内で、シリコン‐炭素複合材粒子を調製した。表1に記載の特性を有する炭素骨格粒子の粉末の量を反応器に設置する。反応器に低流速の不活性ガス(窒素)を注入し、酸素を除去する。次に、430から500℃の間の反応温度まで反応器を加熱し、シリコンの対象質量を成膜するための十分な長さにわたって、炭素骨格粒子を流動化するための十分な流速で、窒素で希釈した4体積%のモノシランガスを反応器の底部に供給する。窒素下で反応器を30分間パージした後、数時間かけて室温に冷却する。次に、ガス流を窒素から、圧縮空気供給からの空気に切り替えることにより、2時間にわたって、雰囲気を徐々に空気に切り替える。
【0111】
(例2:静止炉内での粒子状材料の調製)
全長に沿って1mmの一定の厚さで、表1に記載した特性を有する粒子状多孔質骨格1.8gをステンレス鋼板上に配置することにより、シリコン-炭素複合材粒子を調製した。次に、板を外径60mmのステンレス鋼管内に配置した。これは、レトルト炉の高温ゾーンに配置されたガス入口および出口ラインを有する。室温において、窒素ガスで30分間、炉管をパージした後、サンプル温度を450から475℃に上昇させた。炉管内で少なくとも90秒のガス滞留時間が確保され、30分間にわたってこの流速が維持されるように、窒素ガスの流速を調整した。次に、窒素から、窒素に1.25vol%の濃度のモノシランを含む混合ガスに、ガス供給を切り替える。モノシランの投与は、最大5時間の期間にわたって実施される。反応器圧力は、101.3kPa (1気圧)に維持される。投与完了後も、窒素を用いてシランが炉からパージされる間、ガス流速が一定に保持される。窒素下で炉が30分間パージされた後、数時間かけて室温に冷却される。次に、窒素から、圧縮空気供給からの空気にガス流を切り替えることにより、2時間にわたって、徐々に雰囲気が空気に切り替えられる。
【0112】
(例3:粗大シリコンの重量%の測定)
実施例の複合材料について、粗大シリコンを計算する際に使用した手順は、以下の通りであった。10~20mgの被試験サンプルを70μLのるつぼに充填した。Mettler Toledo TGA/DSC3+装置に、サンプルを装填した。100mL/分のArパージガス、N2パディングガスおよび空気反応ガスを用いた。TGA炉のチャンバを、10℃/分の速度で25℃から1400℃まで加熱した。1秒間隔でデータを収集した。
【0113】
粗大シリコンの量は、TGA試験の終了時のアッシュの最終質量と800℃での質量とを求めることにより決定した。前述の式を用いて、粗大シリコン(Z)値を計算する。
【0114】
(例4-未被覆粒子の熱処理)
125gの炭素C1および例1の方法を用いて、シリコン-炭素複合材粒子を調製した。シリコン‐炭素複合材粒子を、5つのサンプルに分離した。次に、細川アルパイン50 ASスパイラルジェットミルを用いて、8barの供給ガス圧力および8rpmの供給速度で、各サンプルを25分間、個々にジェットミル粉砕処理した。ジェットミル処理後、任意の熱処理工程の前に、前述のようにレーザー回折を用いて、得られた体積粒子サイズ分布を測定し、表2が得られた。
【0115】
最初のサンプルは、参照サンプルとして使用し、任意の別の処理には、供しなかった。残りの4つのサンプルは、1L/分の流速でアルゴン流において、30分間フラッシュした後、対応する600℃、700℃、800℃、または900℃の熱処理温度まで、5℃/分で昇温し、その後、熱処理温度で1時間保持した。熱処理後にシリコン‐炭素複合前駆体粒子の特性を測定し、参照サンプルと比較した。
【0116】
(結果)
参照サンプルおよび熱処理後サンプルを各種分析に供し、材料特性に及ぼす各温度の影響を比較した。
【0117】
空気中(
図2)の熱重量分析(TGA)により、800℃および900℃の熱処理に晒されたサンプルでは、微細なミクロポア構造の熱処理、およびポア構造内でのナノスケールのシリコンドメインの融合化を経て、より大きなシリコンドメインの形成に悩まされることが確認された。600℃で熱処理したサンプルは、参照サンプルとほぼ同様のTGAプロファイルを示し、これらのシリコン-炭素複合前駆体粒子に対する炭素コーティング工程が、微細なミクロポア構造を損傷する可能性が極めて低いことを示した。これは、アノードにおける粒子状材料の使用に極めて望ましい。
【0118】
図5には、各サンプルにおいて、実施例3の方法により測定された粗大シリコンの量を示す。参照サンプルは、430として表され、その他のサンプルは、それらが晒された熱処理工程の温度で表される。最終製品では、粗いシリコンよりも微細シリコンの方が望ましい。
図5では、700℃を超える温度で実施されたいずれの処理工程においても、700℃以下の温度で処理された(例えば炭素でコーティングされた)製品と比較して、粗いシリコンの割合が高い最終粒子状製品が得られる傾向にあることが示されている。
【0119】
前述の方法を用いて、全ポア容積およびBET表面積について評価した。
【0120】
【表2】
これらのデータは、処理温度が上昇すると、全ポア容積が減少することを示す。800℃および900℃のサンプルで得られた全ポア容積は、好ましくないレベルに低下しており、これは、これらの高温でのポアの熱処理により説明できる。
【0121】
全ポア容積およびBET表面積は、サンプルの粒子サイズに依存する。参照サンプルと比べて、600℃で熱処理されたサンプルのBET表面積および全ポア容積が増加していることは、600℃で熱処理されたサンプルが、サンプルが個々にジェットミル粉砕されたため、その他の全てのサンプルよりも大きな粒子サイズを有するという事実により、説明される。
【0122】
X線回折(XRD)を用いて、5つのサンプルの化学組成をさらに分析した。
図3には、結果を示す。
【0123】
最大700℃まで、特に広く600℃までは、アモルファスシリコンの特性、すなわちブロードなピークが認められる。700℃、800℃、900℃のサンプルでは、結晶質シリコンの変化する度合いが認められる。特に800℃、900℃のサンプルで顕著である。
【0124】
また、炭化ケイ素の証拠は、900℃のサンプルでも明確に認められる。炭化ケイ素の形成は、シリコン-炭素複合材粒子にとって望ましくない。なぜなら、炭化ケイ素は、電気化学的活性を示さず、導電性に乏しいためである。従って、この化合物の形成は、アノードとの関連で製品の全体の有効性を低下させる。
【0125】
さらに、電極の試験を行った。電極の各々には、粒子状材料の試験サンプルの1つが導入されている。
【0126】
(例5-電気化学試験)
例4の記載のように調製した複合材料を有する負極を用いて、試験用コインセルを作製した。CMCバインダにカーボンスーパーP(導電性炭素)を分散させ、Thinky(商標)ミキサー中で混合した。混合物にシリコン系材料を添加し、Thinky(商標)ミキサー中で30分間混合した。次に、1:1のCMC:SBR比となるようにSBRバインダを添加して、重量比で、シリコン系材料: CMC/SBR:導電性炭素が70%:16%:14%のスラリーを得た。さらに、スラリーをThinky(商標)ミキサー中で30分間混合した。次に厚さ10μmの銅基板(集電体)上にコーティングし、50℃で10分間乾燥させた。さらに、110℃で12時間乾燥して、銅基板上に活性層を有する電極を形成した。
【0127】
電極から切り出された半径0.8cmの環状電極を用いて、多孔質ポリエチレンセパレータ、対極としてのリチウム箔、および3重量%のビニレンカーボネートを含むEC/FEC(エチレンカーボネート/フルオロエチレンカーボネート)の7:3溶液に、1MのLiPF6を含む電解質を有する、コインハーフセルを作製した。
【0128】
これらのハーフセルを用いて、初期体積エネルギー密度(VED2、mAh/cm3)、第一サイクルロス(FCL)、および活性層の第1脱リチウム化容量(DC1)を測定した。C/25の定電流(ここで、「C」は、mAh単位での電極の比容量を表し、「25」は、25時間を表す)を印加することにより、ハーフセルを評価し、10mVのカットオフ電圧で、多孔質粒子を有する電極をリチウム化した。カットオフに達すると、10 mVの定電圧が印加される。カットオフ電流はC/100である。次に、リチウム化状態で10分間、セルが静止される。次に、電極が1Vのカットオフ電圧、C/25の定電流で脱リチウム化され、その後、セルは、10分間静止される。次に、C/25の定電流を印加され、10mVのカットオフ電圧で、セルが2回目のリチウム化に供される。次に、C/100のカットオフ電流で10 mVの定電圧が印加され、5分間静止される。
【0129】
図4には、セル特性に及ぼす炭化ケイ素の形成の影響を示す。前述のように測定される脱リチウム化容量は、900℃の熱処理サンプルでは、顕著に低下し、これは、炭化ケイ素の形成がアノード特性に及ぼす悪影響を示唆する。
【0130】
また、
図4には、前述のようにハーフセルを用いて調製し評価した電極の電極コーティング(集電体を除く)の厚さの変化を示す。リチウムイオンハーフセルにおいて、リチウム化、脱リチウム化、および第2のリチウム化サイクルの後にアノードを除去してから、ex situで、充電状態における厚さ変化を百分率で測定した。換言すれば、厚さの変化は、リチウム化状態のアノードについて測定した。
【0131】
900℃の熱処理に供された粒子状材料を組み込んだアノードは、厚さが最も増加し、同じ温度での炭素コーティング工程は、アノードにおける粒子状材料の有用性に好ましくない影響を及ぼすことが示唆された。通常、電極膨張の度合いは、活性シリコンの量と正の相関を有することが期待される。しかしながら、900℃のサンプルを含む電極では、反対のことが観察された。理論に拘束されることを望むものではないが、全てのサンプルの中でこの電極が最も高い程度の膨張を示したという事実は、粒子状材料内の構造的および化学的関係が極めて悪い方向に劣化し、粒子の膨張がもはや制御されないことを示していると考えられる。この過剰な膨張は、孤立粒子および低いサイクル保持につながると予想される。
【0132】
各々がサンプルの1つを組み込んだアノードのさらなる電極特性データを測定した。これらの試験の結果を表3および
図4に示す。
【0133】
これらのデータは、電極に組み込まれたサンプルの熱処理温度が増加すると、第1のリチウム化容量および第1の脱リチウム化容量がいずれも、低下することを示す。また、全粒子質量に対する活性シリコンの百分率は、熱処理温度の増加とともに減少した。複合材料粒子の活性シリコン含有量は、ハーフセルの最初の脱リチウム化容量(複合材料粒子の単位mAh当たり)をシリコンの理論容量(3579 mAh/g)で除算することにより計算され、その結果は、パーセントで表される。第1サイクルのロスは、熱処理温度が高くなるにつれて大きくなり、特に900℃の処理サンプルでは大きくなる。アノード厚さは、1.5サイクル後、全てのサンプルで増加した。ただし、参照サンプル、600℃処理サンプル、および700℃サンプルでは、厚さの増加量がほぼ一定であったのに対し、800℃処理サンプルおよび900℃処理サンプルでは、電極厚さが大きく上昇した。電池に関しては、電極の厚さは、できるだけ一定に維持することが望ましい。
【0134】
全体として、アノードの容積容量は、600℃で処理したサンプルおよび参照サンプルでは、ほぼ同様であった。700℃処理サンプルでは、僅かに低下し、800℃および900℃処理サンプルでは、大きく減少した。
【0135】
これらの試験は、炭素コーティングのない、シリコン‐炭素複合前駆体粒子を有するハーフセルで実施された。しかしながら、この結果は、炭素コーティングを有する場合も再現されることが予想され、高温炭素コーティングプロセスは、炭素コーティングされた粒子状シリコン-炭素複合材製品の特性に悪影響を及ぼすことが示唆される。
【0136】
【表3-1】
(例6-未コーティングサンプル)
評価手順
125gの炭素C1および例2の方法を用いて、シリコン-炭素複合材料粒子を調製した。熱処理ステップの前のジェットミル処理ステップがなく、アルゴン雰囲気の代わりに窒素雰囲気で、熱処理ステップが実施されること以外は、例4の熱処理試験手順が繰り返される。
【0137】
(結果)
XRDを用いて、熱処理サンプルおよび参照サンプルを分析した。結果を
図6に示す。各サンプルの熱処理温度は、XRDプロットの右側にあり、600℃のサンプルのXRDトレースは、前側に示され、900℃のサンプルのXRDトレースは、後ろ側に示されている。
【0138】
熱処理温度に依存することが観測された重要な効果は、化合物の形成であった。特に、800℃および900℃のサンプルにおいて、Si3N4およびSiCのような、非電気活性化合物が形成された。これは、好ましくない結果である。なぜなら、材料の全体的な容量が低下し、これにより、アノード材料としての価値が低下するためである。さらに、SiCは、電気伝導に乏しく、最終生成物におけるSiCの存在は、粒状材料内のシリコンのリチウム化を妨害する可能性があるため、さらに望ましくない。
【0139】
700℃以下の温度での熱処理後に窒化ケイ素形成が生じないことは、重要な利点である。これは、本発明の方法がアルゴン雰囲気の代わりに窒素雰囲気で実施可能であることを示すからである。
【0140】
同様に、800℃および900℃のサンプルでは、シリコンの結晶化が観察されたが、これは望ましくない。すなわち、これらの材料に好適なシリコンの形態は、アモルファスシリコンである。
【0141】
700℃のサンプルでは、XRDデータからアモルファスシリコンと結晶シリコンの混合物が観察された。この温度では、結晶質シリコンの小さなピークは、広い非晶質ピークの上に重なる。また、シリコンの結晶化が生じた場合、これは、熱処理によって生じる粒子状材料内のシリコンドメインの平均長さスケールが増加する兆候であると考えられる。
【0142】
本発明の方法における炭素コーティングの成膜には、これらの試験においてサンプルがそれぞれの温度に保持された時間とほぼ同じ時間を要する。未コーティング粒子を評価することにより、複合材料粒子の微細内部構造に及ぼす温度の影響を、それらがコーティングされている場合に比べて、より容易に観測することができる。同じ温度で炭素成膜を行う際も、同様の効果が観察されることが予想される。
【0143】
従って、炭素成膜が700℃以下の温度で実施される本発明の方法では、本実験において800℃および900℃で観測された有害な影響が回避または軽減されることが期待され、従って、導電性コーティングおよびポアキャップの利点が得られるとともに、発明者らが以前に開発した有意な微細構造が維持されることが期待される。600℃以下の温度では、粒子の材料特性は、アノードでの使用にさらに好適である。
【0144】
(例7:炭素コーティング)
例1の方法により、炭素骨格C2およびC3を用いて、一連の複合材料粒子サンプルを調製した。前駆体粒子は、表3に記載の特性を有した。粗大シリコンの量は、例3に記載のTGA法を用いて決定した。全ての複合材料粒子サンプルは、4wt%未満の粗大シリコンを含んでいた。
【0145】
【表3-2】
表3に記載の複合材料粒子状サンプルは、以下の方法により炭素コーティングした。回転炉の加熱ゾーンに充填(封止)されたステンレス鋼管(直径57mm、長さ500mm)に、混合粒子(60g)を配置した。反応器空間を0.2L/minの窒素で30分間パージした。窒素流の存在下、表4に記載の温度まで炉温を上昇させた。余剰量のスチレンをドレッシャー(Dreschel)瓶に入れ、水浴中で最大75℃に加熱した。10分間、炉温を安定化させた後、2L/minの窒素をドレッシャー瓶にバブリングすることにより、最大90分間、反応器管中にスチレンを流入した(表4に示すように)。次に、反応器を窒素でパージし、窒素下で周囲温度まで冷却し、炭素コーティング材料を得た。
【0146】
例3に記載のTGA法を再度用い、例7からの炭素コーティング粒子について、元素組成および粗大シリコン含有量を分析した。結果を表4および
図7に示す。
S1(58m
2/g)およびS10(22m
2/g)を除き、全ての炭素コーティング粒子において、6から12m
2/gの範囲のBET表面積が得られた。
【0147】
【表4】
*比較例
表4におけるデータは、700℃未満の温度で炭素コーティングを実施した場合、全てのケースで、粗大シリコンの相対的な増加率が190%未満であることを示す。ただし、温度が700℃を超えると、粗大シリコンの量は著しく増加する。これは、700℃を超える温度でコーティングされた粒子は、微細マイクロポア構造の熱処理およびポア構造内のナノスケールのシリコンドメインの熱処理により、大きなシリコンドメインが形成されることを示唆する。従って、これは、未コーティング粒子の加熱の際に観測されるシリコンドメインの変化は炭素コーティング処理中にも観測されるという、例4の仮説を支持する。
【0148】
(例8-コーティング粒子の電気化学評価)
表4のSi-C複合材料を用いて、負極コーティング(アノード)を調製し、フルコインセルで試験した。電極を作製するため、Thinky(商標)ミキサー中でCMCバインダにカーボンブラックの分散物を混合した。混合物にSi-C複合材料を添加し、Thinky(商標)ミキサー中で30分間混合した。次に、CMC:SBR比が1:1となるように、SBRバインダを添加して、Si-C複合材料:CMC/SBR:カーボンブラック7の重量比が70%:16%:14%のスラリーを形成した。Thinky(商標)ミキサー中でスラリーをさらに30分間混合し、次に、厚さ10μmの銅基板(集電体)上にコーティングし、50℃で10分間乾燥した。その後さらに110℃で12時間乾燥し、コーティング密度が0.7±0.5g/cm3の負極を形成した。
【0149】
負極から切り出された半径が0.8cmの環状負極を用いて、多孔質ポリエチレンセパレータおよびニッケルマンガン酸コバルト(NMC532)正極を有するフルコインセルを作製した。正極および負極は、負極に対する正極の容量比が0.9となるように、バランス組を形成するように設計された。次に、3重量%のビニレンカーボネートを含むフルオロエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、およびエチルメチルカーボネートの溶液中に、1MのLiPF6を有する電解質を、密封する前にセルに添加した。
【0150】
以下のようにコインセルをサイクルさせた:C/25の速度で定電流を印加し、アノードをリチウム化した。カットオフ電圧は、4.3Vであった。カットオフに達すると、C/100のカットオフ電流に達するまで、4.3Vの定電圧が印加される。次に、リチウム化状態でセルを10分間静置した。次に、2.75 Vのカットオフ電圧でC/25の定電流で、アノードを脱リチウム化する。次に、セルを10分間静置した。この最初のサイクルの後、C/2の定電流が印加され、4.3Vのカットオフ電圧でアノードがリチウム化され、その後、5分の静置時間でC/40のカットオフ電流で4.3Vの定電圧が印加された。次に、アノードは、C/2の定電流で2.75Vのカットオフで脱リチウム化された。その後、これが所望のサイクル数で繰り返された。100サイクル(CR100)および200サイクル(CR200)における容量保持が計算された。これは、第1回目のリチウム化容量、第1回目の脱リチウム化容量、および第1回目のサイクルロス(FCL)とともに、表5に示されている。
【0151】
各サイクルの充電(リチウム化)容量および放電(脱リチウム化)容量は、シリコン-炭素複合材料の単位質量当たりで計算され、容量保持値は、第2サイクルでの放電容量の百分率として、各放電容量に対して計算される。第1のサイクルロス(FCL)は、(1-(1回目の脱リチウム化容量/1回目のリチウム化容量))×100%である。表5の値は、各材料の3つのコインセルにわたり平均化されている。
【0152】
例5に記載のように、ハーフセル実験から活性シリコンレベルが決定される。
【0153】
表5のデータは、炭素コーティング温度の上昇に伴う粗大Si重量%の増加が、電気化学的特性の劣化に反映されていることを示す。粗大シリコンのレベルが増加するにつれ、材料中の活性シリコンの量(ハーフセルから決定される)が減少し、材料の初期のリチウム化および脱リチウム化容量が低下し、複数の充放電サイクルにわたって正規化された容量保持が低下する。
図8および
図9には、これらの材料の正規化された容量保持を示す。
【0154】
【表5】
*比較例
**異なる初期容量を有するサンプル間の比較を容易にするため、表5の容量保持値は、容量保持率百分率に活性Si値を乗じ、45で除算することにより、45重量%の活性シリコンに正規化されている
【外国語明細書】