IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人秋田大学の特許一覧 ▶ DOWAホールディングス株式会社の特許一覧

特開2024-13350材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システム
<>
  • 特開-材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システム 図1
  • 特開-材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システム 図2
  • 特開-材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システム 図3
  • 特開-材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システム 図4
  • 特開-材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013350
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20240125BHJP
   B07C 5/342 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01N21/27 A
B07C5/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115376
(22)【出願日】2022-07-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日:令和4年3月17日 集会名、開催場所:令和3年度日本知能情報ファジィ学会東北支部研究会、オンライン開催 〔刊行物等〕開催日:令和4年6月22日 集会名、開催場所:日本素材物性学会令和4年度(第32回)年会、オンライン開催
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】景山 陽一
(72)【発明者】
【氏名】川村 茂
(72)【発明者】
【氏名】白井 光
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智之
(72)【発明者】
【氏名】中川原 聡
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宏満
(72)【発明者】
【氏名】小川 啓太
【テーマコード(参考)】
2G059
3F079
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB15
2G059DD12
2G059EE02
2G059EE12
2G059FF01
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM05
2G059PP01
3F079AB00
3F079CA31
3F079CB25
3F079CB29
3F079CC03
3F079CC13
3F079DA12
(57)【要約】
【課題】廃プラスチックの材質識別を、良好な識別精度を維持しつつ、処理時間を短縮化して行うことを実現可能にする。
【解決手段】廃プラスチック片の撮像結果から複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データを得る撮像データ処理部33aと、複数種類の既知材料片のそれぞれについての複数の波長帯のスペクトルデータをサンプルデータとして用意するサンプルデータ処理部33bと、前記撮像データと前記サンプルデータの対比に際して着目すべき波長帯を選択する特徴量選択部33dと、前記特徴量選択部33dが選択した波長帯について、前記撮像データのスペクトルデータを前記サンプルデータのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて前記廃プラスチック片の材質識別を行う材質識別部33eと、を備えた材質識別装置30を構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチック片の撮像結果から複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データを得る撮像データ処理部と、
複数種類の既知材料片のそれぞれについての複数の波長帯のスペクトルデータをサンプルデータとして用意するサンプルデータ処理部と、
前記撮像データと前記サンプルデータの対比に際して着目すべき波長帯を選択する特徴量選択部と、
前記特徴量選択部が選択した波長帯について、前記撮像データのスペクトルデータを前記サンプルデータのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて前記廃プラスチック片の材質識別を行う材質識別部と、
を備える材質識別装置。
【請求項2】
前記特徴量選択部は、前記複数種類の既知材料片の識別に関する識別精度の情報に基づいて波長帯選択を行う
請求項1に記載の材質識別装置。
【請求項3】
前記特徴量選択部は、機械学習モデルを利用して波長帯選択を行う
請求項2に記載の材質識別装置。
【請求項4】
前記材料識別部は、二次判別分析を利用して材料識別を行う
請求項1に記載の材質識別装置。
【請求項5】
前記スペクトルデータを正規化するデータ正規化部
を備える請求項1に記載の材質識別装置。
【請求項6】
コンピュータを、
廃プラスチック片の撮像結果から複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データを得る撮像データ処理部と、
複数種類の既知材料片のそれぞれについての複数の波長帯のスペクトルデータをサンプルデータとして用意するサンプルデータ処理部と、
前記撮像データと前記サンプルデータの対比に際して着目すべき波長帯を選択する特徴量選択部と、
前記特徴量選択部が選択した波長帯について、前記撮像データのスペクトルデータを前記サンプルデータのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて前記廃プラスチック片の材質識別を行う材質識別部と、
として機能させる材質識別プログラム。
【請求項7】
廃プラスチック片の撮像結果から複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データを得る撮像データ処理工程と、
複数種類の既知材料片のそれぞれについての複数の波長帯のスペクトルデータをサンプルデータとして用意するサンプルデータ処理工程と、
前記撮像データと前記サンプルデータの対比に際して着目すべき波長帯を選択する特徴量選択工程と、
前記特徴量選択工程で選択した波長帯について、前記撮像データのスペクトルデータを前記サンプルデータのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて前記廃プラスチック片の材質識別を行う材質識別工程と、
を備える材質識別方法。
【請求項8】
請求項1に記載の材質識別装置と、
前記廃プラスチック片を搬送する搬送装置と、
前記材質識別装置による材質識別の結果に応じて前記搬送装置が搬送する前記廃プラスチック片の選別を行う選別装置と、
を備える廃プラスチック片選別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リサイクル意識の高まりに伴い、廃プラスチックの再利用が注目されている。ただし、プラスチックの種類によっては、例えば焼却によって有害ガスを発生させるといったように、再利用に適さないものがある。そのため、廃プラスチックの再利用に際しては、その再利用の対象となる廃プラスチックについて材質識別を行うことが提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-062633公報
【特許文献2】特開2022-032346公報
【特許文献3】特開2021-128062公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
廃プラスチックの材質識別は、再利用の対象となる廃プラスチックの搬送処理の過程で行われることがある。そのため、廃プラスチックの材質識別については、良好な識別精度を維持しつつ、極力処理時間を短縮化して、搬送処理等への支障が生じないようにすることが望ましい。
【0005】
本発明は、廃プラスチックの材質識別を、良好な識別精度を維持しつつ、処理時間を短縮化して行うことを実現可能にする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
廃プラスチック片の撮像結果から複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データを得る撮像データ処理部と、
複数種類の既知材料片のそれぞれについての複数の波長帯のスペクトルデータをサンプルデータとして用意するサンプルデータ処理部と、
前記撮像データと前記サンプルデータの対比に際して着目すべき波長帯を選択する特徴量選択部と、
前記特徴量選択部が選択した波長帯について、前記撮像データのスペクトルデータを前記サンプルデータのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて前記廃プラスチック片の材質識別を行う材質識別部と、
を備える材質識別装置である。
【0007】
本発明の第2の態様は、
前記特徴量選択部は、前記複数種類の既知材料片の識別に関する識別精度の情報に基づいて波長帯選択を行う
第1の態様に記載の材質識別装置である。
【0008】
本発明の第3の態様は、
前記特徴量選択部は、機械学習モデルを利用して波長帯選択を行う
第2の態様に記載の材質識別装置である。
【0009】
本発明の第4の態様は、
前記材料識別部は、二次判別分析を利用して材料識別を行う
第1の態様に記載の材質識別装置である。
【0010】
本発明の第5の態様は、
前記スペクトルデータを正規化するデータ正規化部
を備える第1の態様に記載の材質識別装置である。
【0011】
本発明の第6の態様は、
コンピュータを、
廃プラスチック片の撮像結果から複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データを得る撮像データ処理部と、
複数種類の既知材料片のそれぞれについての複数の波長帯のスペクトルデータをサンプルデータとして用意するサンプルデータ処理部と、
前記撮像データと前記サンプルデータの対比に際して着目すべき波長帯を選択する特徴量選択部と、
前記特徴量選択部が選択した波長帯について、前記撮像データのスペクトルデータを前記サンプルデータのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて前記廃プラスチック片の材質識別を行う材質識別部と、
として機能させる材質識別プログラムである。
【0012】
本発明の第7の態様は、
廃プラスチック片の撮像結果から複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データを得る撮像データ処理工程と、
複数種類の既知材料片のそれぞれについての複数の波長帯のスペクトルデータをサンプルデータとして用意するサンプルデータ処理工程と、
前記撮像データと前記サンプルデータの対比に際して着目すべき波長帯を選択する特徴量選択工程と、
前記特徴量選択工程で選択した波長帯について、前記撮像データのスペクトルデータを前記サンプルデータのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて前記廃プラスチック片の材質識別を行う材質識別工程と、
を備える材質識別方法である。
【0013】
本発明の第8の態様は、
第1の態様に記載の材質識別装置と、
前記廃プラスチック片を搬送する搬送装置と、
前記材質識別装置による材質識別の結果に応じて前記搬送装置が搬送する前記廃プラスチック片の選別を行う選別装置と、
を備える廃プラスチック片選別システムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃プラスチックの材質識別を、良好な識別精度を維持しつつ、処理時間を短縮化して行うことが実現可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る廃プラスチック片選別システムの構成例を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る材質識別装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る材質識別方法の手順の一例を示すフロー図である。
図4】本発明の一実施形態に係る材質識別方法で行う特徴量選択の手順の一例を示すフロー図(その1)である。
図5】本発明の一実施形態に係る材質識別方法で行う特徴量選択の手順の一例を示すフロー図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の一実施形態に係る材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システムについて説明する。
【0017】
<システム構成例>
まず、本実施形態に係る廃プラスチック片選別システムの構成例について説明する。
図1は、本実施形態に係る廃プラスチック片選別システムの構成例を示す説明図である。
【0018】
本実施形態で例に挙げる廃プラスチック片選別システム(以下、単に「システム」とも称する。)1は、廃プラスチックを再利用する際に用いられるもので、再利用の対象となる廃プラスチックについて材質種類に応じた選別を行うものである。そのために、システム1は、少なくとも、前処理装置10と、搬送装置20と、材質識別装置30と、選別装置40と、を備えて構成されている。
【0019】
前処理装置10は、再利用の対象となる廃プラスチック2に粉砕処理や分級処理等を行って、所定サイズの廃プラスチック片3とするものである。粉砕処理や分級処理等については、公知技術を利用したものであればよいため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0020】
搬送装置20は、前処理装置10から受け取った廃プラスチック片3の搬送を行うものである。廃プラスチック片3の搬送は、例えばベルトコンベアを利用して行うことが考えられるが、必ずしもこれに限定されることはなく、他の公知技術を利用して行うようにしても構わない。
【0021】
材質識別装置30は、搬送装置20が搬送する廃プラスチック片3について、各廃プラスチック片3を構成する形成材料(材質)の種類の識別を行うものである。つまり、材質識別装置30は、廃プラスチック片3の材質識別を行うものである。なお、廃プラスチック片3の材質識別については、詳細を後述する。
【0022】
選別装置40は、材質識別装置30による材質識別の結果に応じて、搬送装置20が搬送する廃プラスチック片3の選別を行うものである。廃プラスチック片3の選別は、例えば、材質種類毎に用意された複数の収納容器41と、搬送装置20から排出される廃プラスチック片3をどの収納容器41に収容するかの軌道を変えるエア噴射ノズル42と、を用いて行うことが考えられるが、必ずしもこれに限定されることはなく、他の公知技術を利用して行うようにしても構わない。
【0023】
以上のような構成により、本実施形態におけるシステム1では、前処理装置10で粉砕された廃プラスチック片3について、搬送装置20による搬送中に材質識別装置30が材質識別を行う。そして、材質識別装置30による材質識別の結果に応じて、選別装置40が廃プラスチック片3を材質種類毎に選別する。したがって、本実施形態におけるシステム1によれば、供給される廃プラスチック2に様々な種類のものが混在していても、材質識別の結果に応じた選別を経ることで、再利用に適さない材質種類の廃プラスチック片3を再利用の対象から除外することが可能となる。
【0024】
<材質識別装置の機能構成例>
次に、上述のシステム1における材質識別装置30の機能構成例について説明する。材質識別装置30は、本発明に係る「材質識別装置」の一具体例に相当するものである。
図2は、本実施形態に係る材質識別装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0025】
本実施形態で例に挙げる材質識別装置30は、撮像カメラ31と、データベース部32と、コンピュータ部33と、を備えて構成されている。ただし、撮像カメラ31およびデータベース部32については、材質識別装置30とは別装置のものを利用してもよい。つまり、材質識別装置30は、少なくともコンピュータ部33を備えて構成されていればよく、撮像カメラ31およびデータベース部32は材質識別装置30の構成要素として考えてもよいし、材質識別装置30には含まないものとして考えてもよい。
【0026】
撮像カメラ31は、例えばハイパースペクトルカメラによって構成されたもので、光を波長帯(以下、波長帯のことを「バンド」とも称する。)毎に分光して撮像することで、複数(具体的には100種類以上)の光の波長帯のスペクトルデータを取得できるものである。撮像カメラ31は、搬送装置20によって搬送される廃プラスチック片3を撮像し得るように配置されており、複数の波長帯のスペクトルデータの組み合わせである撮像データ(ハイパースペクトル画像データ)31aを、廃プラスチック片3の撮像結果として取得するようになっている。取得する撮像データ31aとしては、例えば、可視光または赤外光の波長帯域を169種類の波長帯に分光し、それぞれの波長帯のスペクトルデータによって構成されるものが挙げられる。ただし、スペクトルデータの波長帯数(分光数)は、特定の数に限定されるものではなく、識別しようとする材質に応じて適宜設定可能である。
【0027】
データベース部32は、例えば必要十分なメモリ容量を有する記憶装置によって構成されたもので、予め設定された複数種類の既知材料片のそれぞれについて、当該既知材料片を撮像カメラ31で撮像した場合に取得される複数の波長帯のスペクトルデータを、廃プラスチック片3の材質識別を行う際の判断基準(リファレンス)となるサンプルデータ32a,32b,32c,…として記憶し、これにより当該サンプルデータ32a,32b,32c,…を既知材料片の種類と対応付けて管理するものである。既知材料片の種類としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(プレス)、ポリ塩化ビニル(押し出し)、ポリ塩化ビニル(グレー)、ポリ塩化ビニル(軟質)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアセタール(POM)、ABS樹脂(ABS)、ナイロン6、ナイロン66、エポキシ樹脂、フェノール、ゴム、ウレタンフォームの19種類が挙げられる。ただし、既知材料片の種類および数は、特定のものに限定されるものではなく、識別しようとする材質に応じて適宜設定可能である。
【0028】
コンピュータ部33は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等といったハードウエア資源の組み合わせによって構成されたものである。そして、予めインストールされている所定プログラム(ソフトウエア)の実行により、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されるようになっている。これにより、コンピュータ部33は、廃プラスチック片3の材質識別を行うための機能が実現される。さらに詳しくは、コンピュータ部33は、廃プラスチック片3の材質識別を行うために、撮像データ処理部33a、サンプルデータ処理部33b、データ正規化部33c、特徴量選択部33dおよび材質識別部33eとして機能するようになっている。
【0029】
撮像データ処理部33aは、撮像カメラ31による撮像結果である撮像データ31aを当該撮像カメラ31から受け取る機能である。つまり、撮像データ処理部33aは、撮像カメラ31が廃プラスチック片3を撮像すると、その撮像結果としての撮像データ31aを、当該撮像カメラ31から得るようになっている。
【0030】
サンプルデータ処理部33bは、データベース部32が記憶するサンプルデータ32a,32b,32c,…を当該データベース部32から受け取ることで、廃プラスチック片3の材質識別に必要となるサンプルデータ32a,32b,32c,…を用意する機能である。
【0031】
データ正規化部33cは、撮像データ処理部33aが得る撮像データ31aを構成するスペクトルデータと、サンプルデータ処理部33bが用意するサンプルデータ32a,32b,32c,…を構成するスペクトルデータとについて、それぞれのスペクトルデータに対する正規化を行う機能である。なお、スペクトルデータの正規化の具体的な態様については、詳細を後述する。
【0032】
特徴量選択部33dは、廃プラスチック片3の材質識別を行う際に着目すべき特徴量を選択する機能である。ここでいう「特徴量」とは、波長帯毎のスペクトルデータのことをいう。また、特徴量の「選択」とは、複数の波長帯のスペクトルデータについて、当該複数の中からいずれか一つまたは二以上の波長帯を選び出すこと(すなわち選択的に抽出すること)をいう。つまり、特徴量選択部33dは、廃プラスチック片3の材質識別を行うために材質識別部33eが行う撮像データ31aとサンプルデータ32a,32b,32c,…の対比に際して、着目すべき波長帯の選択を特徴量選択として行うようになっている。なお、特徴量選択の具体的な態様については、詳細を後述する。
【0033】
材質識別部33eは、撮像カメラ31が撮像した廃プラスチック片3について、撮像データ処理部33aが得る撮像データ31aと、サンプルデータ処理部33bが用意するサンプルデータ32a,32b,32c,…とを基に、その廃プラスチック片3の材質識別を行う機能である。ただし、廃プラスチック片3の材質識別にあたり、材質識別部33eは、特徴量選択部33dが選択した波長帯について、撮像データ31aのスペクトルデータをサンプルデータ32a,32b,32c,…のスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて当該材質識別を行うようになっている。なお、材質識別の具体的な態様については、詳細を後述する。
【0034】
以上に説明した構成の材質識別装置30において、コンピュータ部33における各部33a~33eの機能は、当該コンピュータ部33が所定プログラムを実行することによって実現される。つまり、各部33a~33eとしての機能を実現する所定プログラムは、本発明に係る「材質識別プログラム」の一実施形態に相当する。
【0035】
その場合に、各機能を実現する所定プログラムは、コンピュータ部33にインストール可能なものであれば、当該コンピュータ部33で読み取り可能な記録媒体(例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等)に格納されて提供されるものであってもよいし、インターネットや専用回線等のネットワークを通じて外部から提供されるものであってもよい。
【0036】
<材質識別の処理手順>
次に、上述した構成の材質識別装置30における処理動作例について説明する。ここでは、主として、廃プラスチック片3の材質識別を行う手順を具体的に説明する。ここで例に挙げる手順は、本発明に係る「材質識別方法」の一具体例に相当する。
【0037】
廃プラスチック片3の材質識別を行う場合には、これに先立って、例えば19種類の既知材料片についてのサンプルデータ32a,32b,32c,…が、予めデータベース部32に記憶されているものとする。これにより、コンピュータ部33は、データベース部32におけるサンプルデータ32a,32b,32c,…を用いた情報処理を行うことが可能となる。
【0038】
また、廃プラスチック片3の材質識別を行う場合には、その材質識別の対象となる廃プラスチック片3が搬送装置20によって搬送されてくるので、その搬送中の廃プラスチック片3について撮像カメラ31が撮像データ(ハイパースペクトル画像データ)31aを取得する。このとき、複数の廃プラスチック片3が搬送中であれば、各廃プラスチック片3に個別に対応付けることが可能な態様で、それぞれの廃プラスチック片3毎に撮像データ31aの取得を行う。これにより、材質識別の対象となる廃プラスチック片3のそれぞれについて、例えば169種類の波長帯(バンド)の分光スペクトルデータが撮像データ31aとして取得される。そして、撮像カメラ31で取得された撮像データ31aは、コンピュータ部33が行う情報処理に供されることになる。
【0039】
このように、廃プラスチック片3の材質識別については、当該廃プラスチック片3の搬送過程で行われるため、良好な識別精度を維持しつつ、極力処理時間を短縮化して、搬送処理や選別処理等への支障が生じないようにすることが望ましい。そのため、本実施形態において、材質識別装置30のコンピュータ部33は、以下に説明する手順で、廃プラスチック片3の材質識別を行う。
【0040】
図3は、本実施形態に係る材質識別方法の手順の一例を示すフロー図である。
【0041】
コンピュータ部33では、廃プラスチック片3の材質識別にあたり、まず、特徴量選択部33dが特徴量選択を行う(ステップ101、以下ステップを「S」と略す。)。これにより、廃プラスチック片3の材質識別を行う際に着目すべき特徴量として、一つまたは二以上のスペクトルデータの波長帯が選択される。ここでは、例えば、撮像データ31aにおける169種類の波長帯(バンド)のうち、4種類の波長帯(バンドA~バンドD)を特徴量として選択する場合を例に挙げて、以下の説明を行う。
【0042】
なお、特徴量を選択する際の具体的な手順や特徴量の選択数等については、詳細な説明を後述する。
【0043】
特徴量選択の後は、次いで、材質識別の対象となる廃プラスチック片3について撮像カメラ31が取得した撮像データ31aを、撮像データ処理部33aが当該撮像カメラ31から受け取って読み込む(S102)。ただし、このとき、撮像データ処理部33aは、撮像データ31aの全波長帯ではなく、特徴量選択部33dが特徴量として選択した波長帯についてのみ、スペクトルデータの読み込みを行う。したがって、材質識別の対象となる廃プラスチック片3について、撮像カメラ31が取得した撮像データ31aを構成する全169バンドのスペクトルデータのうち、特徴量選択された4バンド(バンドA~バンドD)のスペクトルデータが抽出されることになる。
【0044】
さらに、特徴量選択の後は、廃プラスチック片3の材質識別に必要となるサンプルデータ32a,32b,32c,…を、サンプルデータ処理部33bがデータベース部32から受け取って読み込む(S103)。ただし、このときも、サンプルデータ処理部33bは、各サンプルデータ32a,32b,32c,…のそれぞれについて、全波長帯ではなく、特徴量選択部33dが特徴量として選択した波長帯についてのみ、スペクトルデータの読み込みを行う。したがって、各サンプルデータ32a,32b,32c,…のそれぞれについても、全169バンドのスペクトルデータのうち、特徴量選択された4バンド(バンドA~バンドD)のスペクトルデータが抽出されることになる。
【0045】
撮像データ処理部33aおよびサンプルデータ処理部33bでのスペクトルデータの読み込み後は、それぞれのスペクトルデータに対して、データ正規化部33cが正規化を行う(S104)。廃プラスチック片3は、その厚さや体積等によって光の反射強度が変わる。そのため、コンピュータ部33でスペクトルデータについて情報処理を行う場合には、そのスペクトルデータをノーマライズ(正規化)することが好ましい。このことから、コンピュータ部33は、スペクトルデータに対する正規化を行うデータ正規化部33cを備えているのである。
【0046】
正規化は、例えば、スペクトルデータの最小値を0、最大値を1にスケーリングすることで行う。具体的には、以下の(1)式を用いて正規化を行えばよい。なお、(1)式において、xiはスペクトルデータのデータ値(観測値)、max(x)は全観測値の最大値、min(x)は全観測値の最小値である。
【0047】
【数1】
【0048】
このような正規化を行うことで、コンピュータ部33では、スペクトルデータの誤差要因を排除することができる。したがって、そのスペクトルデータを利用して行う廃プラスチック片3の材質識別について、良好な識別精度を維持する上で非常に好適なものとなる。
【0049】
スペクトルデータの正規化後は、次いで、材質識別部33eが廃プラスチック片3の材質識別を行う(S105)。材質識別部33eは、撮像データ処理部33aが読み込んだ特徴量選択後の4バンドのスペクトルデータを、サンプルデータ処理部33bが読み込んだ特徴量選択後の4バンドのスペクトルデータと対比し、その対比結果に基づいて廃プラスチック片3の材質識別を行う。したがって、特徴量選択を経ていることから、全169バンドのスペクトルデータについて対比を行う場合に比べると、大幅に処理負荷を軽減させることが可能となる。
【0050】
このとき、材質識別部33eは、材質種類の分類がわかっているサンプルデータ32a,32b,32c,…に対して、撮像データ31aのスペクトルデータがどの分類に属するかを判別することで、その撮像データ31aを取得した廃プラスチック片3についての材質識別を行う。具体的には、例えば、特徴量の選択数(例えば4つ)に応じた次元空間に各サンプルデータ32a,32b,32c,…のスペクトルデータをプロットすると各材質種類(例えば19種類)のプロットデータがクラスタリングによって明確に分類できる(そのようにグループ分けできる特徴量の組み合わせを選択している)という状況下で、当該次元空間に撮像データ31aのスペクトルデータをプロットした場合に、そのスペクトルデータがどのグループに属するか判別することで、廃プラスチック片3の材質種類を識別する。
【0051】
このようなデータ分類を、材質識別部33eは、例えば、二次判別分析(QDA:Quadratic Discriminant Analysis)によって行う。つまり、材質識別部33eは、QDAを利用して廃プラスチック片3の材料識別を行う。
【0052】
QDAは、機械学習の教師あり学習に分類される手法であり、分類のわかっているデータ(サンプルデータ、教師データ)からグループ毎に分けられる最適な射影を求める手法である。QDAでは、各グループの分散共分散行列Σ,Σが正規分布に従うと仮定し、各グループの分散とグループ内の分散から判別境界を算出する。QDAの判別境界の例を(2)式に示す。なお、(2)式において、xはデータ値、μはデータ値の平均、Σは分散共分散行列である。
【0053】
【数2】
【0054】
このようなQDAを利用すれば、判別境界が二次関数となるため、複雑な分類が実現可能になる。このことは、多次元のデータに適用して有効であることを意味し、バンド数の多いハイパースペクトルイメージングの解析に有用なものとなる。したがって、QDAを利用して廃プラスチック片3の材質識別を行うことで、その材質識別について、良好な識別精度を維持する上で非常に好適なものとなる。
【0055】
なお、材質識別部33eは、上述のようにQDAを利用して廃プラスチック片3の材料識別を行うことが考えられるが、必ずしもこれに限定されることはなく、例えば、他の判別分析の手法である線形判別分析(LDA:Linear discriminant analysis)を利用して行うようにしても構わない。LDAを利用した場合は、QDA利用の場合に比べて、計算量削減による処理時間の短縮化が実現可能となる。
【0056】
廃プラスチック片3の材料識別を行うと、材質識別部33eは、その識別結果を選別装置40に対して出力する(S106)。この出力結果を受けて、選別装置40は、搬送装置20が搬送する廃プラスチック片3の選別を行う。つまり、選別装置40は、材質識別装置30による識別結果に応じて、搬送装置20から排出される廃プラスチック片3をどの収納容器41に収容するかを判断して、エア噴射ノズル42からのエア噴射を制御する。したがって、例えば最利用の適否に応じて廃プラスチック片3を物理的に選別する、といったことが実現可能となる。
【0057】
以上のような一連の手順(S102~S106)を、コンピュータ部33は、搬送装置20によって搬送される廃プラスチック片3のそれぞれについて個別に行う。したがって、複数の廃プラスチック片3が搬送される場合であれば、コンピュータ部33は、各廃プラスチック片3のそれぞれについて、上述した一連の手順(S102~S106)を繰り返し行うことになる。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態における材質識別方法によれば、特徴量選択を経ていることから、その特徴量選択された4バンド(バンドA~バンドD)のスペクトルデータを処理対象とすることができ、全169バンドのスペクトルデータを処理対象とする場合に比べると、大幅に処理負荷を軽減させることが可能となる。また、廃プラスチック片3の材質識別についてQDAを利用して行うことから、複雑な分類にも適切に対応可能となり、良好な識別精度を維持する上で非常に好適なものとなる。つまり、本実施形態における材質識別方法によれば、良好な識別精度を維持しつつ、極力処理時間を短縮化して、搬送処理や選別処理等への支障が生じないようにすることが可能となる。
【0059】
<特徴量選択の具体例>
次に、上述した材質識別方法における特徴量選択(S101)の具体的な手順について、さらに詳しく説明する。
【0060】
上述したように、本実施形態において、廃プラスチック片3の材料識別を行う際には、特徴量選択を経ることで処理対象とする特徴量の数(スペクトルデータのバンド数)を削減し、選択した特徴量についてのみデータ読み込みを行うことで、処理負荷軽減を図る。そのため、処理負荷軽減による処理時間短縮のためには、特徴量の選択数が少ないほうが有利と考えられる。その一方で、特徴量の選択数が少な過ぎると、廃プラスチック片3の材質識別を行う際の識別精度が損なわれることが懸念される。つまり、特徴量の選択数を絞り過ぎると、処理時間短縮には有利であっても識別精度が損なわれるおそれがある一方で、特徴量の選択数が多すぎると、識別精度の点では有利であっても処理時間短縮が困難になるおそれがある。以上のことから、特徴量の選択数は、互いに相反する事項を両立し得るものであることが望ましい。
【0061】
また、特徴量の選択数については、システム1や材質識別装置30等の仕様に柔軟に対応し得るものであることが望ましい。例えば、撮像カメラ31の仕様によっては、取得されるスペクトルデータの波長帯数(分光数)が異なり得る。さらには、データベース部32が記憶するサンプルデータ32a,32b,32c,…の種類数や、各サンプルデータ32a,32b,32c,…におけるスペクトルデータの波長帯数(分光数)についても同様である。したがって、特徴量の選択数が予め設定された固定的な値によるものであると、仕様の違いに柔軟に対応することができず、その結果として上述した互いに相反する事項の両立が困難になってしまうおそれがある。
【0062】
以上のことを踏まえつつ、本実施形態においては、以下に説明する手順で特徴量選択を行う。
図4および図5は、本実施形態に係る材質識別方法で行う特徴量選択の手順の一例を示すフロー図である。
【0063】
図4に示すように、特徴量選択(S101)にあたり、コンピュータ部33では、サンプルデータ処理部33bがデータベース部32にアクセスして、複数種類の既知材料片のそれぞれについてのサンプルデータ32a,32b,32c,…を用意する(S201)。そして、特徴量選択部33dは、用意した中から任意の一種類のサンプルデータに着目し、その着目サンプルデータについて、全バンド(例えば、169バンド)のスペクトルデータを用いた場合の識別精度を事前に把握しておく(S202)。具体的には、全169バンドのスペクトルデータを用いつつ、着目サンプルデータがどの種類のサンプルデータ32a,32b,32c,…に該当するかを、材質識別部33eに識別させる。このときの識別は、例えば、QDAを利用して行えばよい。また、識別精度は、例えば、識別結果に対する正答率を算出することによって求めればよい。これにより、特徴量選択部33dは、例えば、全169バンドのスペクトルデータを用いて識別した場合の識別精度が99.9%である、といった事前把握結果を得ることになる。なお、このときの識別精度が100%でないのは、判別誤差等が含まれるからである。
【0064】
全バンドの場合の識別精度について事前把握を行った後は、特徴量選択部33dが特徴量選択を開始する。
【0065】
特徴量選択部33dは、まず、1個目のバンド選択を行う(S203)。具体的には、着目サンプルデータについて、全169バンドのうちの1つのバンドのみを用いた場合の識別精度を求め、これを全169バンドのそれぞれについて行い、その中で最も識別精度が高かったバンドについて、これを1個目のバンドとして選択する。以下、1個目として選択したバンドを「バンドA」とも称する。バンドAのスペクトルデータを用いて識別した場合の識別精度は、例えば51.4%である。
【0066】
バンドAの選択後、特徴量選択部33dは、続いて、2個目のバンド選択を行う(S204)。具体的には、着目サンプルデータについて、全169バンドからバンドAを除いた168バンドのうちの1つのバンドをバンドAと組み合わせ、これら2つのバンドを用いた場合の識別精度を求め、これを168バンドのそれぞれとバンドAとの組み合わせについて行い、その中で最も識別精度が高かった組み合わせのバンドについて、これを2個目のバンドとして選択する。以下、2個目として選択したバンドを「バンドB」とも称する。バンドAとバンドBの組み合わせに係るスペクトルデータを用いて識別した場合の識別精度は、例えば89.9%である。
【0067】
このようなバンド選択を、特徴量選択部33dは、n(nは自然数)個目のバンドの選択を行うまで(S205)、繰り返し行う。具体的には、着目サンプルデータについて、バンドA+バンドB+・・・+n個目のバンドの組み合わせのうち、最も識別精度が高かった組み合わせのバンドについて、これをn個目のバンドとして選択する。なお、nは自然数なので、n=1の場合も含む。n=4の場合、バンドA~バンドDの組み合わせに係るスペクトルデータを用いて識別した場合の識別精度は、例えば99.3%である。また、n=10の場合、バンドA~バンドJの組み合わせに係るスペクトルデータを用いて識別した場合の識別精度は、例えば99.9%である。つまり、nの値が大きくなると、特徴量の選択数が多くなることを意味するので、これに伴って識別精度も良くなる。
【0068】
以上のようなバンド選択を、特徴量選択部33dは、機械学習モデルを利用して行う。つまり、特徴量選択部33dは、機械学習モデルを利用して変数間の関係を探し出し、それぞれのモデルに最適なバンドの組み合わせを探し出すことで、特徴量選択としてのバンド選択を行う。
【0069】
具体的には、特徴量選択部33dは、上述したように、例えばステップフォワード(Step Forward)の手法により、特徴量選択を行う。ステップフォワードは、機械学習モデルを使用して特徴量の組み合わせを評価するラッパー法(Wrapper Method)に分類される特徴量選択手法の一つである。さらに詳しくは、ステップフォワードは、すべての特徴量から1つずつ独立して学習し、最も評価指標が高くなったものを選択し、選択した特徴量に他の特徴量をどれか1つのみ追加して学習し、最も評価指標が高くなった組み合わせを選択し、このような手順を特徴量を1つずつ加えながら繰り返す、といった手法である。
【0070】
なお、特徴量選択手法としては、例えば相互情報量(Mutual Information)を利用することも考えられる。相互情報量による特徴量選択は、機械学習モデルを使用せずにデータセットのみで特徴量の評価を行うフィルター法に分類される特徴量選択手法である。具体的には、相互情報量による特徴量選択では、特徴量Xと特徴量Yの同時分布p(xi,yj)と個々の分布の積p(xi)p(yj)との類似度を求めることで、互いの特徴量が共通する情報量を求め、情報量の高い特徴量を選択する。
【0071】
このような相互情報量による特徴量選択と比べた場合、機械学習モデルを利用するステップフォワードの手法によって特徴量選択を行うと、特徴量選択数が同じ値であれば、ステップフォワードのほうが識別精度が高いことが分かっている。つまり、識別精度を高く維持するという観点では、ステップフォワードは、相互情報量を用いた特徴量選択に比べて有用である。したがって、本実施形態においては、上述したように、ステップフォワードによる機械学習モデルを利用して、n個のバンド選択を行うこととしている。
【0072】
n個目のバンドの選択を行うと(S205)、特徴量選択部33dは、図5に示すように、n個のバンドの組み合わせによる識別精度を全169バンドの場合の識別精度と比較して、これらが同じであるか否かを判断する(S206)。ここでいう「同じ」には、n個のバンドの場合の識別精度が全バンドの場合の識別精度より大きい場合を含む。
【0073】
この判断の結果、n個のバンドの場合の識別精度が全バンドの場合の識別精度と同じでなければ(S206:no)、特徴量選択部33dは、nの数をn+1にインクリメントした上で(S207)、再びn個目のバンド選択を行う(S205)。
【0074】
一方、n個のバンドの場合の識別精度が全バンドの場合の識別精度と同じであれば(S206:yes)、特徴量選択部33dは、その時点でバンド選択の処理を終了し、その時点でのバンド選択数をnの上限値として確定させる(S208)。具体的には、例えば、全169バンドのスペクトルデータを用いて識別した場合の識別精度が99.9%である場合に、n=10のときの識別精度が99.9%であれば、それ以上nの値が大きくなっても更なる識別精度の良化が見込めないので、特徴量選択部33dは、n=10を上限値とする。
【0075】
nの上限値を確定させた後、特徴量選択部33dは、n=1~上限値(例えば10)の間について、それぞれの場合の識別精度を認識する。そして、その認識結果に基づき、それぞれの場合の中で識別精度が所定閾値以上であり、かつ、nの数が最小であるバンド数を選択する(S209)。所定閾値は、実用に対応し得る識別精度の値として予め設定されたものであり、例えば識別精度95%、好ましくは識別精度98%、より好ましくは識別精度99%に設定されている。このような所定閾値以上の識別精度は、例えば、n=4~10の場合に得られる。そこで、本実施形態においては、n=4~10の中でnの数が最小であるn=4の場合を、特徴量選択部33dが選択することになる。
【0076】
このようにしてバンド数を決めると、特徴量選択部33dは、そのバンド数に応じたバンドを特徴量として選択することを決定する(S210)。具体的には、例えば、選択したバンド数がn=4の場合であれば、1個目に選択したバンドA、2個目に選択したバンドB、3個目に選択したバンドCおよび4個目に選択したバンドDについて、これらの組み合わせを、上述した廃プラスチック片3の材質識別を行う際の特徴量として用いることを決定する。
【0077】
以上のような手順の特徴量選択によれば、特徴量選択部33dは、複数種類の既知材料片の識別に関する識別精度の情報に基づいてバンド選択を行う。
例えば、サンプルデータ32a,32b,32c,…について全169バンドのスペクトルデータを用いて識別した場合の識別精度を基準にして、選択するバンド数の上限値を確定させる。そのため、特徴量選択の過程でn個目のバンド選択が必要であっても、上限値を確定させることで、必要以上にバンド選択を繰り返すことがない。
また、例えば、バンド数を決める際の識別精度が所定閾値以上であることを条件とする。そのため、廃プラスチック片3の材質識別を行う際の識別精度が損なわれてしまうことを抑制できる。
さらには、例えば、識別精度が所定閾値以上である中で、nの数が最小であるバンド数を選択する。そのため、識別精度を維持しつつ、バンド数を削減することで、処理時間の短縮化を図ることができる。
つまり、特徴量選択部33dは、識別精度の情報に基づいてバンド選択を行うことで、多くの処理時間を要することを抑制しつつ、良好な識別精度を維持することができる。
【0078】
したがって、特徴量選択部33dが行う特徴量選択によれば、処理負荷軽減による処理時間の短縮化と、良好な識別精度の維持とについて、これらの互いに相反する事項を両立させることを実現可能になる。
【0079】
しかも、特徴量選択部33dが行う特徴量選択は、データベース部32にサンプルデータ32a,32b,32c,…が記憶されている既知材料片の種類数や、撮像カメラ31で取得する撮像データ31aを構成するスペクトルデータのバンド数(分光数)等にかかわらず、いずれの場合にも適用することが可能である。したがって、システム1や材質識別装置30等の仕様に柔軟に対応することができる。そして、仕様の違いに柔軟に対応する場合であっても、処理時間短縮化と良好な識別精度維持という相反事項の両立を実現させることが可能になる。
【0080】
<本実施形態の効果>
本実施形態で説明した材質識別装置、材質識別プログラム、材質識別方法および廃プラスチック片選別システムによれば、以下のような効果が得られる。
【0081】
本実施形態では、廃プラスチック片3の材質識別にあたり、特徴量選択を行う。したがって、特徴量選択を経ていることから、全バンドのスペクトルデータについて対比を行う場合に比べると、大幅に処理負荷を軽減させることが可能となる。しかも、特徴量選択を経ていても、その特徴量選択を識別精度が損なわれないように行うことで、良好な識別精度を維持することが可能となる。つまり、本実施形態によれば、廃プラスチック片3の材質識別を、良好な識別精度を維持しつつ、極力処理時間を短縮化して、搬送処理や選別処理等への支障が生じないようにすることが可能となる。
【0082】
本実施形態では、特徴量選択にあたり、複数種類の既知材料片の識別に関する識別精度の情報に基づいてバンド選択を行うことで、多くの処理時間を要することを抑制しつつ、良好な識別精度を維持することができる。したがって、廃プラスチック片3の材質識別を、良好な識別精度を維持しつつ、極力処理時間を短縮化して行う上で、非常に好適なものとなる。
【0083】
本実施形態では、特徴量選択にあたり、機械学習モデルを利用してバンド選択を行うので、識別精度を高く維持するという観点で有用である。したがって、廃プラスチック片3の材質識別を、良好な識別精度を維持しつつ、極力処理時間を短縮化して行う上で、非常に好適なものとなる。
【0084】
本実施形態において、廃プラスチック片3の材質識別については、二次判別分析(QDA)を利用して行うことから、複雑な分類にも適切に対応可能となり、良好な識別精度を維持する上で非常に好適なものとなる。したがって、廃プラスチック片3の材質識別を、良好な識別精度を維持しつつ、極力処理時間を短縮化して行う上で、非常に好適なものとなる。
【0085】
本実施形態では、廃プラスチック片3の材質識別にあたり、スペクトルデータの正規化を行うことで、スペクトルデータの誤差要因を排除することができる。したがって、そのスペクトルデータを利用して行う廃プラスチック片3の材質識別について、良好な識別精度を維持する上で、非常に好適なものとなる。
【0086】
<変形例>
以上に本発明の実施形態を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではない。
【0087】
上述の実施形態では、撮像データ31aが全169バンドのハイパースペクトル画像データである場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはなく、他の態様のハイパースペクトル画像データであっても構わない。
【0088】
上述の実施形態では、19種類の既知材料片についてサンプルデータ32a,32b,32c,…を予め用意しておく場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、サンプルデータ32a,32b,32c,…は、予め複数種類のものが設定されていればよく、その種類や内容等が特定に態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0089】
1…廃プラスチック片選別システム、2…廃プラスチック、3…廃プラスチック片、10…前処理装置、20…搬送装置、30…材質識別装置、31…撮像カメラ、31a…撮像データ、32…データベース部、32a,32b,32c…サンプルデータ、33…コンピュータ部、33a…撮像データ処理部、33b…サンプルデータ処理部、33c…データ正規化部、33d…特徴量選択部、33e…材質識別部、40…選別装置
図1
図2
図3
図4
図5