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特開2024-133564イオン伝導性固体電解質及び全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133564
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】イオン伝導性固体電解質及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20240925BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240925BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240925BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240925BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01B1/08
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024107128
(22)【出願日】2024-07-03
(62)【分割の表示】P 2023551255の分割
【原出願日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2022039235
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591111112
【氏名又は名称】キヤノンオプトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 紗央莉
(72)【発明者】
【氏名】坂本 典子
(72)【発明者】
【氏名】小林 健志
(72)【発明者】
【氏名】柴 恵隆
(57)【要約】
【課題】低温での加熱処理によって作製可能で、かつイオン伝導性の高いイオン伝導性固体電解質。
【解決手段】一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表される酸化物を含むイオン伝導性固体電解質であって、
前記酸化物の体積平均粒径が、0.1μm以上10μm以下である、イオン伝導性固体電解質。
(式中、M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M3は、Zr、Hf、Sn及びTiからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M4は、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
a、b、c、dは、それぞれ特定の範囲であり、かつ、0.000≦a+b+c+d<0.900を満たす実数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表される酸化物を含むイオン伝導性固体電解質であって、
前記酸化物の体積平均粒径が、0.1μm以上10μm以下である、イオン伝導性固体電解質。
(式中、M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M3は、Zr、Hf、Sn及びTiからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M4は、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
aは、0.000≦a≦0.800、bは、0.000≦b≦0.900、cは、0.000≦c≦0.800、dは、0.000≦d≦0.800、a、b、c、dは、0.000≦a+b+c+d<0.900を満たす実数である。)
【請求項2】
前記1-a-b-c-dが、0.300≦1-a-b-c-dである請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項3】
前記1-a-b-c-dが、0.500≦1-a-b-c-dである請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項4】
前記aが、0.000≦a≦0.400である請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項5】
前記bが、0.000≦b≦0.500である請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項6】
前記cが、0.000≦c≦0.400である請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項7】
前記dが、0.000≦d≦0.400である請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項8】
正極と、
負極と、
電解質と、
を少なくとも有する全固体電池であって、
該正極、該負極及び該電解質からなる群から選択される少なくとも一が、請求項1~7のいずれか一項に記載のイオン伝導性固体電解質を含む、全固体電池。
【請求項9】
少なくとも前記電解質が、前記イオン伝導性固体電解質を含む、請求項8に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン伝導性固体及び全固体電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートフォンやノートパソコンのようなモバイル機器において、また、電気自動車やハイブリッド電気自動車のような輸送機器において、軽量かつ高容量なリチウムイオン二次電池が搭載されている。
しかし、従来のリチウムイオン二次電池は可燃性溶媒を含む液体が電解質として用いられるため、可燃性溶媒の液漏れ、電池短絡時の発火が危惧されている。そこで近年、安全性を確保するため、液体の電解質とは異なる、イオン伝導性固体を電解質として用いた二次電池が注目されており、かかる二次電池は全固体電池と呼ばれている。
【0003】
全固体電池に用いられる電解質としては、酸化物系固体電解質や硫化物系固体電解質などの固体電解質が広く知られている。その中でも酸化物系固体電解質は、大気中の水分と反応を起こして硫化水素を発生することがなく、硫化物系固体電解質と比較して安全性が高い。
【0004】
ところで、全固体電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、該正極及び該負極の間に配置されたイオン伝導性固体を含む電解質と、必要に応じて集電体と、を有する(正極活物質と負極活物質を総称して「電極活物質」ともいう。)。酸化物系固体電解質を用いて全固体電池を作製する場合、固体電解質に含まれる酸化物系材料の粒子間の接触抵抗を低減するために加熱処理が行われる。しかしながら、従来の酸化物系固体電解質では加熱処理で900℃以上の高温を必要とするため、固体電解質と電極活物質が反応して高抵抗相を形成するおそれがある。該高抵抗相はイオン伝導性固体のイオン伝導率の低下、ひいては全固体電池の出力低下に繋がるおそれがある。
900℃より低い温度での加熱処理によって作製可能な酸化物系固体電解質として、Li2+x1-xが挙げられる(非特許文献1)。
また、上記Li2+x1-xに対し、特定元素を特定の比で含有させることで特性向上を図ることが可能であることが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Solid State Ionic 288 (2016) 248-252
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6948676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、低温での加熱処理によって作製可能で、かつイオン伝導性の高いイオン伝導性固体、及びこれを有する全固体電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のイオン伝導性固体は、一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表される酸化物を含むことを特徴とするイオン伝導性固体である。
(式中、M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M3は、Zr、Ce、Hf、Sn及びTiからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M4は、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
aは、0.000≦a≦0.800、bは、0.000≦b≦0.900、cは、0.000≦c≦0.800、dは、0.000≦d≦0.800、a、b、c、dは、0.000≦a+b+c+d<1.000を満たす実数である。)
【0009】
また、本開示の全固体電池は、
正極と、
負極と、
電解質と、
を少なくとも有する全固体電池であって、
該正極、該負極及び該電解質からなる群から選択される少なくとも一が、本開示のイオン伝導性固体を含むことを特徴とする全固体電池である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、低温での加熱処理によって作製可能で、かつイオン伝導性の高いイオン伝導性固体、及びこれを有する全固体電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
また、本開示において「固体」とは、物質の3態のうち一定の形状と体積とを有するものをいい、粉末状態は「固体」に含まれる。
【0012】
本開示のイオン伝導性固体は、一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表される酸化物を含むイオン伝導性固体である。
式中、M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M3は、Zr、Ce、Hf、Sn及びTiからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
M4は、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、
aは、0.000≦a≦0.800、bは、0.000≦b≦0.900、cは、0.000≦c≦0.800、dは、0.000≦d≦0.800、a、b、c、dは、0.000≦a+b+c+d<1.000を満たす実数である。
【0013】
上述の一般式で表される酸化物を含むイオン伝導性固体において、イオン伝導率が向上する理由として、本発明者らは以下のように推察している。
特許文献1中の比較例1に挙げられるLiYBにおけるYをイオン半径が小さいYbに置換することで、格子定数及び格子体積が小さくなりLiが移動しやすくなるため、イオン伝導率が向上する。
加えて、特許文献1では、3価の金属元素であるYの一部を4~5価の金属元素で置換
することで、異なる価数同士の元素置換によって電荷のバランスが調整され、イオン伝導性を向上させている。このYに代えてYbを用いることで、格子定数及び格子体積が小さくなりLiがより移動しやすくなるため、さらにイオン伝導率が向上する。
【0014】
本開示のイオン伝導性固体は、単斜晶型の結晶構造を備えることが好ましい。
【0015】
本開示のイオン伝導性固体は、体積平均粒径が、0.1μm以上28.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上26.0μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上20.0μm以下であることがさらに好ましく、0.3μm以上15.0μm以下であることがさらにより好ましく、0.5μm以上10.0μm以下であることがより一層好ましい。上記範囲であることで、イオン伝導性固体内の粒界抵抗が低減し、イオン伝導率がより向上する。
イオン伝導性固体の体積平均粒径は、粉砕や分級により制御することができる。
【0016】
上記一般式中、aは、0.000≦a≦0.800を満たす実数である。
aは、0.000≦a≦0.800であり、好ましくは0.000≦a≦0.600、より好ましくは0.000≦a≦0.400、さらに好ましくは0.000≦a≦0.100、特に好ましくは0.000≦a≦0.050、極めて好ましくは0.000≦a≦0.030である。
【0017】
上記一般式中、bは、0.000≦b≦0.900を満たす実数である。
bは、0.000≦b≦0.900であり、好ましくは0.000≦b≦0.600、より好ましくは0.000≦b≦0.500、さらに好ましくは0.000≦b≦0.400、さらにより好ましくは0.000≦b≦0.100、特に好ましくは0.000≦b≦0.050、極めて好ましくは0.000≦b≦0.030である。
【0018】
上記一般式中、cは、0.000≦c≦0.800を満たす実数である。
cは、0.000≦c≦0.800であり、好ましくは0.000≦c≦0.600、より好ましくは0.000≦c≦0.400、さらに好ましくは0.000≦c≦0.150、さらにより好ましくは0.000≦c≦0.100、特に好ましくは0.000≦c≦0.050、極めて好ましくは0.000≦c≦0.030である。また、Cは、好ましくは0.050≦c≦0.200、より好ましくは0.080≦c≦0.150であってもよい。
【0019】
上記一般式中、dは、0.000≦d≦0.800を満たす実数である。
dは、0.000≦d≦0.800であり、好ましくは0.000≦d≦0.600、より好ましくは0.000≦d≦0.400、さらに好ましくは0.000≦d≦0.100、特に好ましくは0.000≦d≦0.050、極めて好ましくは0.010≦d≦0.030である。
【0020】
上記式中、a+b+c+dは、0.000≦a+b+c+d<1.000を満たす実数である。
a+b+c+dは、0.000≦a+b+c+d<1.000であり、好ましくは0.000≦a+b+c+d<0.900、より好ましくは0.000≦a+b+c+d<0.800、さらに好ましくは0.000≦a+b+c+d<0.700、さらにより好ましくは0.000≦a+b+c+d≦0.600、殊更好ましくは0.010≦a+b+c+d<0.500、特に好ましくは0.050≦a+b+c+d<0.300、極めて好ましくは0.080≦a+b+c+d<0.250である。
【0021】
Yb1-a-b-c-dにおける1-a-b-c-dは、0.300≦1-a-b-c
-dが好ましく、0.500≦1-a-b-c-dがより好ましく、0.700≦1-a-b-c-dがさらに好ましく、0.750≦1-a-b-c-dがさらにより好ましい。上限は特に制限されないが、好ましくは1.000未満、0.950以下、0.900以下である。
【0022】
本開示のイオン伝導性固体としては、例えば以下の実施形態とすることができるが、これらの実施形態に限定されない。
(1)
aは、0.010≦a≦0.100、bは、0.000≦b≦0.200、cは、0.000≦c≦0.200、dは、0.010≦d≦0.100、a、b、c、dは、0.010≦a+b+c+d<0.300を満たすとよい。
(2)
aは、0.010≦a≦0.030、bは、0.030≦b≦0.100、cは、0.010≦c≦0.030、dは、0.010≦d≦0.030、a、b、c、dは、0.050≦a+b+c+d<0.160を満たすとよい。
(3)
aは、0.000≦a≦0.010、bは、0.000≦b≦0.100、cは、0.050≦c≦0.150、dは、0.000≦d≦0.030、a、b、c、dは、0.050≦a+b+c+d<0.250を満たすとよい。
上記一般式中のM1、M2、M3、M4については、式中に含まれていても、含まれていなくてもよい。すなわち、a,b,c,及びdの少なくとも一つが0であってもよい。
【0023】
上記一般式中、M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素である。
M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一であり、好ましくはMg、Zn、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一であり、より好ましくはMg、Ca及びSrからなる群から選択される少なくとも一である。
【0024】
上記一般式中、M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一の金属元素である。
M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一であり、好ましくはLa、Eu、Gd、Tb、Dy、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一であり、より好ましくはGd、Dy、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一である。
【0025】
上記一般式中、M3は、Zr、Ce、Hf、Sn及びTiからなる群から選択される少なくとも一の金属元素である。
M3は、Zr、Ce、Hf、Sn及びTiからなる群から選択される少なくとも一であり、好ましくはZr、Ce、Hf及びSnからなる群から選択される少なくとも一であり、より好ましくはZr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも一である。
【0026】
上記一般式中、M4は、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素である。
M4は、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一であり、好ましくはNbである。
【0027】
さらに3価の金属元素であるYbの一部を、特定元素M1、M2、M3、M4を用い特
定比率の範囲で置換すると、異なる価数の元素置換によって電荷のバランスが調整される。そのため、結晶格子中のLiが欠損した状態になる。そのLiの欠損を埋めようと周囲のLiが移動するため、イオン伝導率が向上している。
【0028】
次に、本開示のイオン伝導性固体の製造方法について説明する。
本開示のイオン伝導性固体の製造方法は、以下のような態様とすることができるが、これに限定されない。
一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表される酸化物を含むイオン伝導性固体の製造方法であって、
該一般式で表される酸化物が得られるように混合した原材料を、該酸化物の融点未満の温度で加熱処理する一次焼成工程を有することができる。
式中、M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、In及びFeからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、M3は、Zr、Ce、Hf、Sn及びTiからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、M4は、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一の金属元素であり、aは、0.000≦a≦0.800、bは、0.000≦b≦0.900、cは、0.000≦c≦0.800、dは、0.000≦d≦0.800、a、b、c、dは、0.000≦a+b+c+d<1.000を満たす実数である。
【0029】
本開示のイオン伝導性固体の製造方法は、上記一般式で表される酸化物が得られるように原材料を秤量・混合し、該原材料を該酸化物の融点未満の温度で加熱処理することにより、該酸化物を含むイオン伝導性固体を作製する一次焼成工程を含むことができる。一次焼成工程により、イオン伝導性固体を得ることができる。
さらに、該製造方法は、必要に応じて、得られた酸化物を含むイオン伝導性固体を、該酸化物の融点未満の温度で加熱処理し、該酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製する二次焼成工程を含んでもよい。
以下、上記一次焼成工程及び上記二次焼成工程を含む本開示のイオン伝導性固体の製造方法について詳細に説明するが、本開示は下記製造方法に限定されるものではない。
【0030】
一次焼成工程
一次焼成工程では、一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4(ただし、M1は、Mg、Mn、Zn、Ni、Ca、SrまたはBaから選ばれるいずれか1以上の金属元素であり、M2は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、InまたはFeから選ばれるいずれか1以上の金属元素であり、M3は、Zr、Ce、Hf、SnまたはTiから選ばれるいずれか1以上の金属元素であり、M4は、NbまたはTaから選ばれるいずれか1以上の金属元素であり、aは、0.000≦a≦0.800、bは、0.000≦b≦0.900、cは、0.000≦c≦0.800、dは、0.000≦d≦0.800、a、b、c、dは、0.000≦a+b+c+d<1.000を満たす実数)となるように、化学試薬グレードのLiBO、HBO、Yb、ZrO、CeO、HfOなどの原材料を化学量論量で秤量して、混合する。
【0031】
混合に用いる装置は特に制限されないが、例えば遊星型ボールミルなどの粉砕型混合機を用いることができる。混合の際に用いる容器の材質及び容量、並びにボールの材質及び直径は特に制限されず、使用する原料の種類及び使用量に応じて適宜選択することができる。一例としては、ジルコニア製の45mL容器と、ジルコニア製の直径5mmボールを使用することができる。また、混合処理の条件は特に制限されないが、例えば回転数50rpm~2000rpm、時間10分~60分とすることができる。
該混合処理により上記各原材料の混合粉末を得た後、得られた混合粉末を加圧成型して
ペレットとする。加圧成型法としては、冷間一軸成型法、冷間静水圧加圧成型法など公知の加圧成型法を用いることができる。一次焼成工程での加圧成型の条件としては、特に制限されないが、例えば圧力100MPa~200MPaとすることができる。
得られたペレットについて、大気焼成装置のような焼成装置を用いて焼成を行う。一次焼成して固相合成を行う温度は、一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表されるイオン伝導性固体の融点未満であれば特に制限されない。一次焼成する際の温度は、例えば700℃未満、680℃以下、670℃以下、660℃以下または650℃以下とすることができ、例えば500℃以上とすることができる。該数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記範囲の温度であれば、十分に固相合成を行うことができる。一次焼成工程の時間は特に限定されないが、例えば700分~750分程度とすることができる。
上記一次焼成工程により、上記一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表される酸化物を含むイオン伝導性固体を作製することができる。該酸化物を含むイオン伝導性固体を、乳鉢・乳棒や遊星ミルを用いて粉砕することで該酸化物を含むイオン伝導性固体の粉末を得ることもできる。
【0032】
二次焼成工程
二次焼成工程では、一次焼成工程で得られた酸化物を含むイオン伝導性固体、及び酸化物を含むイオン伝導性固体の粉末からなる群から選択される少なくとも一を、必要に応じて加圧成型し、焼成して酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を得る。
加圧成型と二次焼成は、放電プラズマ焼結(以下、単に「SPS」とも称する。)やホットプレスなどを用いて同時に行ってもよく、冷間一軸成型でペレットを作製してから大気雰囲気、酸化雰囲気又は還元雰囲気などで二次焼成を行ってもよい。上述の条件であれば、加熱処理による溶融を起こすことなく、イオン伝導率が高いイオン伝導性固体を得ることができる。二次焼成工程での加圧成型の条件としては、特に制限されないが、例えば圧力10MPa~100MPaとすることができる。
二次焼成する温度は、一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4で表されるイオン伝導性固体の融点未満である。二次焼成する際の温度は、好ましくは700℃未満、より好ましくは680℃以下、さらに好ましくは670℃以下、特に好ましくは660℃以下である。該温度の下限は特に制限されず、低いほど好ましいが、例えば500℃以上である。該数値範囲は任意に組み合わせることができるが、例えば500℃以上700℃未満の範囲とすることができる。上述の範囲であれば、二次焼成工程において本開示の酸化物を含むイオン伝導性固体が溶融したり分解したりすることを抑制でき、十分に焼結した本開示の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を得ることができる。
二次焼成工程の時間は、二次焼成の温度や圧力等に応じて適宜変更することができるが、24時間以下が好ましく、14時間以下としてもよい。二次焼成工程の時間は、例えば5分以上、1時間以上、6時間以上としてもよい。
【0033】
二次焼成工程により得られた本開示の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を冷却する方法は特に限定されず、自然放冷(炉内放冷)してもよいし、急速に冷却してもよいし、自然放冷よりも徐々に冷却してもよいし、冷却中にある温度で維持してもよい。
【0034】
次に、本開示の全固体電池について説明する。
全固体電池は一般的に、正極と、負極と、該正極及び該負極の間に配置されたイオン伝導性固体を含む電解質と、必要に応じて集電体と、を有する。
【0035】
本開示の全固体電池は、
正極と、
負極と、
電解質と、
を少なくとも有する全固体電池であって、
該正極、該負極及び該電解質からなる群から選択される少なくとも一が、本開示のイオン伝導性固体を含む。
【0036】
本開示の全固体電池は、バルク型電池であってもよく、薄膜電池であってもよい。本開示の全固体電池の具体的な形状は特に限定されないが、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、積層型などが挙げられる。
【0037】
本開示の全固体電池は電解質を有する。また、本開示の全固体電池においては、少なくとも前記電解質が、本開示のイオン伝導性固体を含むことが好ましい。
本開示の全固体電池における固体電解質は、本開示のイオン伝導性固体からなってもよく、その他のイオン伝導性固体を含んでいてもよく、イオン液体やゲルポリマーを含んでいてもよい。その他のイオン伝導性固体としては、特に制限されず、全固体電池に通常使用されるイオン伝導性固体、例えばLiI、LiPO、LiLaZr12などが含まれていてもよい。本開示の全固体電池における電解質中の、本開示のイオン伝導性固体の含有量は、特に制限されず、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは75質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0038】
本開示の全固体電池は、正極を有する。該正極は、正極活物質を含んでいてもよく、該正極活物質と本開示のイオン伝導性固体とを含んでいてもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物やリチウムと遷移金属元素を含む酸化物などの公知の正極活物質を特に制限なく用いることができる。例えば、LiNiVO、LiCoPO、LiCoVO、LiMn1.6Ni0.4、LiMn、LiCoO、Fe(SO、LiFePO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiNiO、Li1+x(Fe,Mn,Co)1-x、LiNi0.8Co0.15Al0.05などが挙げられる。
さらに、正極は結着剤、導電剤などを含んでいてもよい。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛、アセチレンブラック、エチレンブラックなどが挙げられる。
【0039】
本開示の全固体電池は、負極を有する。該負極は、負極活物質を含んでいてもよく、該負極活物質と本開示のイオン伝導性固体とを含んでいてもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸収及び放出可能な炭素質材料、導電性ポリマーなどの公知の負極活物質を特に制限なく用いることができる。例えば、LiTi12などが挙げられる。
さらに、負極は結着剤、導電剤などを含んでいてもよい。該結着剤及び該導電剤としては、正極で挙げたものと同様のものを使用できる。
【0040】
ここで、電極が電極活物質を「含む」とは、電極が電極活物質を成分・要素・性質としてもつことをいう。例えば、電極内に電極活物質を含有する場合も、電極表面に電極活物質が塗布されている場合も、上記「含む」に該当する。
【0041】
該正極や該負極は、原料を混合、成型、加熱処理をするなど公知の方法で得ることができる。それによりイオン伝導性固体が電極活物質同士の隙間などに入り込んで、リチウムイオンの伝導経路を確保しやすくなると考えられる。本開示のイオン伝導性固体は、従来技術と比較して低温の加熱処理で作製できるため、イオン伝導性固体と電極活物質が反応して生じる高抵抗相の形成を抑制できると考えられる。
【0042】
上記正極及び上記負極は、集電体を有していてもよい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどの公知の集電体を用いることができる。このほか、接着性、導電性,耐酸化性などの向上を目的として、アルミニウム、銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀などで処理したものを集電体として用いることができる。
【0043】
本開示の全固体電池は、例えば、正極と固体電解質と負極を積層し、成型、加熱処理するなど、公知の方法により得ることができる。本開示のイオン伝導性固体は、従来技術と比較して低温の加熱処理で作製できるため、イオン伝導性固体と電極活物質が反応して生じる高抵抗相の形成を抑制できると考えられ、出力特性に優れた全固体電池を得ることができると考えられる。
【0044】
次に、本開示にかかる組成及び各物性の測定方法について説明する。
・含有金属の同定方法と分析方法
イオン伝導性固体の組成分析は、加圧成型法により固型化した試料を用いて、波長分散型蛍光X線分析(以下、XRFともいう)により行う。ただし、粒度効果などにより分析困難な場合は、ガラスビード法によりイオン伝導性固体をガラス化してXRFによる組成分析を行うとよい。また、XRFではイットリウムのピークと含有金属ピークが重なる場合は、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で組成分析を行うとよい。
XRFの場合、分析装置は(株)リガク製ZSX Primus IIを使用する。分析条件は、X線管球のアノードにはRhを用いて、真空雰囲気、分析径は10mm、分析範囲は17deg~81deg、ステップは0.01deg、スキャンスピードは5sec/ステップとする。また、軽元素を測定する場合にはプロポーショナルカウンタ、重元素を測定する場合にはシンチレーションカウンタで検出する。
XRFで得られたスペクトルのピーク位置をもとに元素を同定し、単位時間あたりのX線光子の数である計数率(単位:cps)からモル濃度比を算出し、a、b、c及びdを求める。
【実施例0045】
以下に、本開示のイオン伝導性固体を具体的に作製及び評価した例を実施例として説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
・一次焼成工程
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、及びNb(三井金属鉱業製、純度99.9%)を原料として用いて、dが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量し、フリッチュ社製遊星ミルP-7でディスク回転数300rpmにおいて30分間混合した。遊星ミルにはジルコニア製のφ5mmボールと45mL容器を用いた。
混合後、混合した粉末を、エヌピーエーシステム製100kN電動プレス装置P3052-10を用いて147MPaで冷間一軸成型し、大気雰囲気で焼成した。加熱温度は650℃、保持時間は720分間とした。
得られた酸化物を含むイオン伝導性固体をフリッチュ社製遊星ミルP-7でディスク回転数230rpmにおいて180分間粉砕して酸化物を含むイオン伝導性固体の粉末を作製した。
・二次焼成工程
上記で得られた酸化物を含むイオン伝導性固体の粉末を、成型、二次焼成して実施例1
の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。成型は、粉末を、エヌピーエーシステム製100kN電動プレス装置P3052-10を用いて147MPaで冷間一軸成型した。二次焼成は、大気雰囲気で実施し、加熱温度は650℃、保持時間は720分間とした。
【0047】
[実施例2]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、及びCeO(信越化学工業製、純度99.9%)を原料として用いて、cが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例2の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0048】
[実施例3]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、ZrO(新日本電工製、純度99.9%)、CeO(信越化学工業製、純度99.9%)及びNb(三井金属鉱業製、純度99.9%)を原料として用いて、cとdが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例3の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0049】
[実施例4]
表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例4の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0050】
[実施例5]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)及びHfO(ニューメタルス製、純度99.9%)を原料として用いて、cが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例5の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0051】
[実施例6]
cが表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例6の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0052】
[実施例7]
cとdが表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例7の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0053】
[実施例8]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、In(新興化学工業製、純度99質量%)、SnO(三津和化学薬品製、純度99.9%)及びCeO(信越化学工業製、純度99.9%)を原料として用いて、bとcが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例8の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0054】
[実施例9]
bとcが表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例9の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0055】
[実施例10]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Fe(和光純薬工業製、純度95.0質量%)及びTiO(東邦チタニウム製、純度99%)を原料として用いて、bとcが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例10の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0056】
[実施例11]
bとcが表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例11の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0057】
[実施例12]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)及びLu(高純度化学研究所製、純度99.9質量%)を原料として用いて、bが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例12の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0058】
[実施例13]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、MgO(宇部マテリアルズ製、純度99.0質量%)及びCeO(信越化学工業製、純度99.9%)を原料として用いて、aとcが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例13の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0059】
[実施例14]
aとbが表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例14の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0060】
[実施例15]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、La(和光純薬工業業製、純度99.9質量%)、MgO(宇部マテリアルズ製、純度99.0質量%)及びCaO(関東化学製、純度97.0質量%)を原料として用いて、aとbが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例15の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0061】
[実施例16]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、La(和光純薬工業製、純度99.9質量%)及びMnO(関東化学製、純度80.0質量%)を原
料として用いて、aとbが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例16の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0062】
[実施例17]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Tb(信越化学工業製、純度99.9質量%)及びMnO(関東化学製、純度80.0質量%)を原料として用いて、aとbが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例17の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0063】
[実施例18]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Tm(高純度化学研究所製、純度99.9質量%)及びCaO(関東化学製、純度97.0質量%)を原料として用いて、aとbが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例18の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0064】
[実施例19]
cとdが表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例19の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0065】
[実施例20]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、In(新興化学工業製、純度99質量%)、Nb(三井金属鉱業製、純度99.9%)及びTa(関東化学製、純度99質量%)を原料として用いて、bとdが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例20の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0066】
[実施例21]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)及びPr(信越化学工業製、純度99.9質量%)を原料として用いて、bが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例21の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0067】
[実施例22]
bとdが表1に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例22の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0068】
[実施例23]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Sm(和光純薬工業製、純度99.9質量%)、HfO(ニューメタルス製、純度99.9%)及びTa(関東化学製、純度99質量%)を原料として用いて、bとcとdが表2に
記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例23の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0069】
[実施例24]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Nd(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Sm(和光純薬工業製、純度99.9質量%)、HfO(ニューメタルス製、純度99.9%)及びZnO(和光純薬工業製、純度99質量%)を原料として用いて、aとbが表2に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例24の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0070】
[実施例25]
bとcが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例25の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0071】
[実施例26]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)及びEu(信越化学工業製、純度95質量%)を原料として用いて、bが表2に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例26の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0072】
[実施例27]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Eu(信越化学工業製、純度95質量%)及びNiO(和光純薬工業製、純度99.0質量%)を原料として用いて、aとbが表2に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例27の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0073】
[実施例28]
bとcが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例28の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0074】
[実施例29]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Gd(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Dy(信越化学工業製、純度95質量%)及びCaO(関東化学製、純度99.0質量%)を原料として用いて、aとbが表2に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例29の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0075】
[実施例30]
bとcが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例30の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0076】
[実施例31]
bとcが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例31の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0077】
[実施例32]
bが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例32の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0078】
[実施例33]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Tb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、NiO(和光純薬工業製、純度99.0質量%)及びBaO(和光純薬工業製、純度90.0質量%)を原料として用いて、aとbが表2に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例33の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0079】
[実施例34]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Tb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Ho(高純度化学研究所製、純度99.9質量%)及びBaO(和光純薬工業製、純度90.0質量%)を原料として用いて、aとbが表2に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例34の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0080】
[実施例35]
bとcとdが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例35の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0081】
[実施例36]
LiBO(豊島製作所製、純度99.9質量%)、HBO(関東化学製、純度99.5%)、Yb(信越化学工業製、純度99.9質量%)、Er(信越化学工業製、純度95質量%)、Tm(高純度化学研究所製、純度99.9質量%)及びSrO(高純度化学研究所製、純度98質量%)を原料として用いて、aとbが表2に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例36の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0082】
[実施例37]
bとcが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例37の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0083】
[実施例38]
aとbとcが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例38の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0084】
[実施例39]
bとdが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例39の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0085】
[実施例40]
bとcとdが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例40の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0086】
[実施例41]
aとbとcが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例41の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0087】
[実施例42]
bとdが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例42の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0088】
[実施例43]
bとdが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で実施例43の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0089】
[実施例44]
aとbが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量し、粉砕時のディスク回転数を300rpmに設定した以外は、実施例1と同じ工程で実施例44の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0090】
[実施例45]
aとbが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量し、粉砕時のディスク回転数を300rpmに設定した以外は、実施例1と同じ工程で実施例45の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0091】
[実施例46]
aとbが表2に記載された値となるように上記実施例で使用した各原料を化学量論量で秤量し、粉砕時のディスク回転数を300rpmに設定した以外は、実施例1と同じ工程で実施例46の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0092】
[比較例1]
実施例1における原料のYbをYに変更し、dが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例1と同じ工程で比較例1の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0093】
[比較例2]
実施例2における原料のYbをYに変更し、cが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例2と同じ工程で比較例2の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0094】
[比較例3]
実施例3における原料のYbをYに変更し、cとdが表1に記載された値となるように各原料を化学量論量で秤量した以外は、実施例3と同じ工程で比較例3の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体を作製した。
【0095】
実施例1~46の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体について、上記方法により組成分析を行った。また、実施例1~46、及び比較例1~3で得られたイオン伝導性固体の粉末の体積平均粒径、イオン伝導性固体の焼結体のイオン伝導率を、以下の方法により測定した。
イオン伝導率及び体積平均粒径の測定方法を以下に述べる。また、得られた評価結果を表1及び表2に示す。
【0096】
・イオン伝導率の測定
二次焼成で得られた平板形状の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体において、平行に向かい合い、面積が大きい2面をサンドペーパーで研磨した。該平板形状の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体の寸法は、例えば0.9cm×0.9cm×0.05cmとすることができるが、これに限定されるものではない。研磨は、始めに#500で15分~30分、次いで#1000で10分~20分、最後に#2000で5分~10分研磨して、目視で目立った凹凸や傷が研磨面になければ完了とした。
研磨後、サンユー電子製スパッタ装置SC―701MkII ADVANCEを用いて、酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体の研磨面に金を成膜した。成膜条件は、プロセスガスをAr、真空度を2Pa~5Pa、成膜時間を5分間としたものを測定試料とした。成膜後、測定試料の交流インピーダンス測定を行った。
インピーダンス測定にはインピーダンス/ゲイン相分析器SI1260及び誘電インターフェースシステム1296(いずれもソーラトロン社製)を使用し、測定条件は、温度27℃、振幅20mV、周波数0.1Hz~1MHzとした。
酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体の抵抗は、インピーダンス測定で得られたナイキストプロットと、Scribner社製交流解析ソフトウエアZVIEWを用いて算出した。ZVIEWで測定試料に相当する等価回路を設定し、等価回路とナイキストプロットをフィッティング、解析することで酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体の抵抗を算出した。算出した抵抗と酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体の厚み、電極面積を用いて、以下の式からイオン伝導率を算出した。
イオン伝導率(S/cm)=酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体の厚み(cm)/(酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体の抵抗(Ω)×電極面積(cm))
【0097】
イオン伝導性固体の焼結体のイオン伝導率(S/cm)は、例えば、好ましくは8.00×10-9以上であり、より好ましくは1.00×10-8以上であり、さらに好ましくは1.00×10-7以上であり、さらにより好ましくは1.00×10-6以上であり、特に好ましくは1.00×10-5以上である。伝導率は高いほど好ましく、上限は特に制限されないが、例えば、1.00×10-2以下、1.00×10-3以下、1.00×10-4以下である。
【0098】
・体積平均粒径の評価
一次焼成後のボールミル処理(フリッチュ社製遊星ミルP-7)で得られた酸化物を含むイオン伝導性固体の粉末を、堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA―960V2を用いて粒度分布測定を行った。屈折率は1.8とし、測定溶媒はエタノールを用いた。透過率が90~70%となるように試料の濃度を調整した。得られた頻度分布から体積平均粒径を算出した。
【0099】
・結果
表1に、実施例1~46及び比較例1~3の各酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体
を製造する際の原料の化学量論量(一般式Li6+a-c-2dYb1-a-b-c-dM1M2M3M4中のa、b、c及びdの値)、体積平均粒径及びイオン伝導率をまとめた。
上記組成分析の結果、実施例1~46及び比較例1~3の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体はいずれも、表1に記載された原料の化学量論量の通りの組成を有することが確認された。また、実施例1~46の酸化物を含むイオン伝導性固体の焼結体は、700℃未満の温度で焼成しても高いイオン伝導率を示すイオン伝導性固体であった。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1及び表2において、実施例1~3にて作製したイオン伝導性固体のイオン伝導率は、比較例1~3と比べて向上が図られている結果が得られ、YをYbに置換することで、より高いイオン伝導率が得られることが示されている。先行技術に開示されている組成中のYをイオン半径が小さいYbに置換することで、より高いイオン伝導率が得られることが分かる。
【0103】
表1及び表2において、実施例44~46で作製したイオン伝導性固体のイオン伝導率は、それぞれ実施例17、27及び33と比べて向上する結果が得られた。先行技術に開示されている組成と置換元素が異なるため、融点の差などにより焼成後の密度に影響が及ぶことで、粒径の適正範囲が異なっている可能性がある。