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特開2024-133589炭素材料分散体の製造方法および炭素材料分散体並びにこれに用いる装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133589
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】炭素材料分散体の製造方法および炭素材料分散体並びにこれに用いる装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20240925BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20240925BHJP
   B03C 1/247 20060101ALI20240925BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240925BHJP
   C09C 1/52 20060101ALI20240925BHJP
   C09C 3/04 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C01B32/00
B03C1/00 B
B03C1/247
C09D17/00
C09C1/52
C09C3/04
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024107806
(22)【出願日】2024-07-03
(62)【分割の表示】P 2020102342の分割
【原出願日】2020-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】593053335
【氏名又は名称】リファインホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196276
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】中條 勝
(72)【発明者】
【氏名】岩船 光紘
(72)【発明者】
【氏名】深澤 健佑
(72)【発明者】
【氏名】竹山 友潔
(57)【要約】
【課題】 炭素材料中における金属成分を効率良くかつ確実に除去し、製品品質が極めて高く、安定した電気的特性を発揮し得る炭素材料分散体を製造する。
【解決手段】 炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体である。炭素材料Cが粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール130表面上に適用し炭素材料より金属成分Mを除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体Dを調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体310を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有することを特徴とする炭素材料分散体の製造方法により得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体。
【請求項2】
炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体を調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有する炭素材料分散体の製造方法により得られたものである請求項1に記載の炭素材料分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料分散体の製造方法および炭素材料分散体並びにこれに用いる装置に関する。詳しく述べると本発明は、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等の炭素材料が分散媒中に分散された分散体を得るにおいて、不純物としての金属成分を効率良く除去し、特性に優れた炭素材料分散体を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、及びフラ一レン等の炭素材料は、黒色顔料、黒色充填剤、遮光材料、導電材料等として、トナー、印刷インキ、インクジェットインキ、筆記具用インキ、塗料、ゴム組成物、プラスチック組成物、あるいは電池分野、半導体分野等における電極形成材料、導電層形成材料等の幅広い分野で使用されている。
【0003】
上記した炭素材料のうちカーボンブラックを例にとると、カーボンブラックには、(a)油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させてカーボンブラックを得るファーネス法により得られるファーネスブラック、(b)天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めて得るチャンネル法により得られるチャンネルブラック、(c)アセチレンガスを熱分解してカーボンブラックを得るアセチレン法によるアセチレンブラック、(d)蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返してカーボンブラックを製造するサーマル法によるサーマルブラックなどが知られている。これらのカーボンブラックの原料にはFe、Cuなどの金属成分が含まれている。これらの金属成分はカーボンブラックの製造工程で濃縮され、さらに冷却水や製造設備などからの金属成分の混入もあるため、カーボンブラックは種々の金属成分を含有するものとなる。
【0004】
そのため、例えば電池分野、半導体分野の如く金属成分の混入を極端に嫌う用途では、それらの金属成分を除去し炭素材料を高純度とすることが求められる。
【0005】
ところで、近年、高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質が開発されている。固体電解質を用いたリチウム二次電池では、有機電解液を用いたリチウム二次電池と比較して、固体電解質と金属リチウムの電荷移動抵抗が非常に小さいため、電池の内部抵抗を小さくすることができる。このような全固体電解質リチウム二次電池を製造する上で、炭素材料は、例えば、電極形成用の導電助剤として分散媒に分散させた炭素材料分散体の形態にて用いられる。全固体電解質リチウム二次電池用途においては、特に、金属成分の存在が電池特性に大きな影響を及ぼすため、できる限り金属成分を除去することが望まれる。
【0006】
なお、このような全固体電解質リチウムイオン二次電池に限られず、リチウムイオン二次電池の電極形成用の導電助剤である炭素材料中における金属異物の存在は、デンドライト状態のリチウム金属析出の発生要因であり、内部短絡の原因となるため、その除去はリチウムイオン二次電池全般に望まれることである。
【0007】
炭素材料分散体からの金属成分の除去方法としては、従来、例えば、特許文献1に示されるようにカーボンブラックの水性分散液を各種水溶性キレート剤と接触させ、カーボンブラックに含まれる金属成分を溶出させると共にキレート剤に捕捉して液相へ移行させた後、固液分離する方法(特許文献1)、カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程を設ける方法(特許文献2)が提案されている。また、炭素物質を対象とするものではないが、非導電性粒子を含むスラリー中より磁性物質を除去する上で、当該スラリーの流束中にマグネットフィルター等の磁石を配して磁性物質を除去する方法(特許文献3)が提案されており、さらに、所定粒度のカーボン粒子、粒子状結着剤及び分散媒を含む二次電池用スラリー組成物の粘度を分散処理によって所定粘度とする分散工程、および前記分散工程により分散処理が行われた前記二次電池用スラリー組成物中の、Fe、NiおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む粒子状金属成分を、ビッカース硬度が10GPa以上25GPa未満のマグネットカバーを有するマグネットにより除去する方法(特許文献4)が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1~4に示されるような従来知られる金属成分の除去方法では、いずれも十分な効果が得られるところまでには至っていない。
【0009】
さらに、特許文献1に示されるようにキレート剤を用いる化学的除去法では、添加したキレート剤をカーボンブラックから分離するような処理工程がさらに必要となって、処理が煩雑となり、製造コストがかかるものであった。また、キレート剤を添加できる分散系としては実質的に水系のみに限られ、水分の存在を嫌うような固体電解質リチウム二次電池用途の非水系分散体の処理としては不適であった。
【0010】
また特許文献2に示されるようなイオン交換樹脂を用いる場合でも、添加したイオン交換樹脂とカーボンブラックから分離するような処理工程がさらに必要となって、処理が煩雑となり、またイオン交換樹脂が粒子形状であるためその除去の際これに同伴して系外へ取り除かれてしまうカーボンブラックの量が多くなり、歩留まりが悪いものとなる虞れがあった。
【0011】
また特許文献3および4に示されるような方法では、所定粘度の炭素材料スラリーを調製の後、その流路に、格子状、スリット状等に配された磁石で構成されるマグネットフィルターを配してスラリーを通過させるなどして、金属成分を除去することが提案されているが、炭素材料を含有するスラリー中に含まれる金属成分(磁性体)は、磁界に置かれてもスラリーの流れに抗して磁石に近接できず付着できなかったり、あるいは磁石に付着したとしても後からくるスラリー中の炭素材料の粒子との衝突によって磁石より再び離れてしまったりするため、効率的に金属成分を除去することが困難であった。炭素材料中に混入する金属成分としては、炭素材料の粉粒子とは独立した金属粒子として存在するものもあるが、炭素材料の粉粒子中に含まれているものも多くある。特に後者の炭素材料の粉粒子中に含まれている金属成分は、当該金属成分を含む炭素材料の粉粒子自体の分散媒中での動きが制限されることによって、このように湿式条件下で磁気吸引を行っても、磁石に捕捉されずにスラリー中に残留するものが生じ、高効率で金属成分を除去し得ない虞れが残るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005-113091号公報
【特許文献2】特開2009-138054号公報
【特許文献3】特開2015-065097号公報
【特許文献4】特開2015-191756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明は、炭素材料中における金属成分を効率良くかつ確実に除去し、製品品質が極めて高く、安定した電気的特性を発揮し得る炭素材料分散体の製造方法、およびこれにより得られる炭素材料分散体並びにこれに用いる装置を提供することを課題とする。本発明はまた、複雑な工程や廃液処理などを必要とせずに低コストで炭素材料中から金属成分を効率良く分離し、高品質な炭素材料分散体を得ることのできる炭素材料分散体の製造方法、およびこれにより得られる炭素材料分散体並びにこれに用いる装置を提供することを課題とする。本発明はさらに、リチウムイオン二次電池製造用の導電助剤分散液として好適な炭素材料分散体の製造方法、およびこれにより得られる炭素材料分散体並びにこれに用いる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討および研究を進めた結果、炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去し、さらに金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させて炭素材料分散体を調製した後に、当該炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を湿式にて除去する工程を設けることで、簡単な操作で、効率よくかつ歩留まり良く、金属成分を除去し精製された炭素材料分散体を得ることができることを見出し本発明に至ったものである。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体を調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有することを特徴とする炭素材料分散体の製造方法である。
【0016】
本発明に係る炭素材料分散体の製造方法の一実施形態においては、前記第1磁気選別工程では、炭素材料の粉粒体の搬送方向と順方向に回転する磁気ロールを用いるものが示される。
【0017】
本発明に係る炭素材料分散体の製造方法の一実施形態においては、第1磁気選別工程で用いる前記磁気ロールとして径方向着磁とされた5000~20000ガウスの磁石体を有するものを用い、また前記第2磁気選別工程で用いる磁石体としては炭素材料分散体の流路内に流路の軸方向に概略沿って配置された5000~20000ガウスの磁石体を用いるものが示される。
【0018】
本発明に係る炭素材料分散体の製造方法の一実施形態においては、前記第2磁気選別工程にかけられる炭素材料分散体の粘度が10~1000mPa・sであるものが示される。
【0019】
本発明に係る炭素材料分散体の製造方法の一実施形態においては、前記分散媒体が有機溶媒であるものが示される。
【0020】
上記課題を解決する本発明はまた、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体により達成される。
【0021】
本発明に係る炭素材料分散体は、前記した第1磁気選別工程および前記第2磁気選別工程を経て得られたものであるものが示される。
【0022】
上記課題を解決する本発明はさらに、表面が炭素材料との接触面となる回転する中空円筒部および、前記中空円筒部の内部空間内において、前記中空円筒部の内周面に対し近接して配置された円弧状の磁化対向面を有する磁石体部から構成される磁気ロールと、
前記磁気ロールの回転する中空円筒部に対して、粉粒状の炭素材料を供給する上流側に位置する供給経路と、
前記磁気ロールの回転する中空円筒部に対して下流側において、前記中空円筒部の表面に付着せずに落下する炭素材料の粉粒群を回収する回収部とを少なくとも有することを特徴とする、炭素材料の乾式精製装置により達成される。
【0023】
本発明に係る上記炭素材料の乾式精製装置の一実施形態においては、前記供給経路が、前記磁気ロールの最頂部位置近傍に終端部を有し、磁気ロールに対し略接線方向から粉粒状の炭素材料を搬送するベルトコンベア部を有するものが示される。
【0024】
本発明に係る上記炭素材料の乾式精製装置の一実施形態においては、前記ベルトコンベア部の上を搬送される炭素材料の粉粒体を所定厚み以下の層として、前記磁気ロールの中空円筒部へと供給するために、粉粒体の供給量を規制する規制子が設けられているものが示される。
【0025】
本発明に係る上記炭素材料の乾式精製装置の一実施形態においては、前記磁石体の円弧状の磁化対向面が90°~270°の角度範囲を有するものであるものが示される。
【0026】
本発明に係る上記炭素材料の乾式精製装置の一実施形態においては、前記磁気ロールの最頂部位置を0°としたとき、前記磁石体の円弧状の磁化対向面が、前記中空円筒部の回転方向に順方向で、-20°~30°の位置より開始され、かつ少なくとも275°~315°の位置には存在しないものであるものが示される。
【0027】
本発明に係る上記炭素材料の乾式精製装置の一実施形態においては、前記磁石体が、径方向着磁とされた5000~20000ガウスのものであることが示される。
【0028】
上記課題を解決する本発明はさらに、炭素材料の精製システムであって、上流側の乾式精製装置と下流側の湿式精製装置とを有し、
前記乾式精製装置は、表面が炭素材料との接触面となる回転する中空円筒部および、前記中空円筒部の内部空間内において、前記中空円筒部の内周面に対し近接して配置された円弧状の磁化対向面を有する磁石体部から構成される磁気ロールと、
前記磁気ロールの回転する中空円筒部に対して、粉粒状の炭素材料を供給する上流側に位置する供給経路と、
前記磁気ロールの回転する中空円筒部に対して下流側において、前記中空円筒部の表面に付着せずに落下する炭素材料の粉粒群を回収する回収部とを少なくとも有して構成され、
また、前記湿式精製装置は、前記乾式精製装置の回収部に回収された乾式磁選された炭素材料の粉粒群に分散媒を添加して調製される炭素材料分散液を流通させる流路内に、この流路の軸方向に概略沿って磁石体を配し、当該磁石体の表面ないしは当該磁石体の磁場により印加された表面と接する通液路が形成された磁気フィルターを有して構成されるものである炭素材料の精製システムによっても達成される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、金属成分を極限的に除去し精製された高品質の炭素材料分散体が得られるため、例えば、当該炭素材料分散体を、例えば、二次電池の電極形成用の導電助剤材料として用いることにより、高品質の安定した二次電池を製造することが可能となる。
【0030】
また、粒子状金属成分が電池内に存在すると、内部短絡や充電時の溶解・析出による自己放電増大の問題等が生じるが、本発明に係る炭素材料分散体を用いることでこのような問題が解消され、電池のサイクル特性や安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る炭素材料の精製システムの一実施形態の全体構成を模式的に示すブロック図である。
図2】は、本発明に係る炭素材料の乾式精製装置の別の実施形態における構造を模式的に示す断面図である。
図3】(a)、(b)は、本発明に係る炭素材料の乾式精製装置のそれぞれ別の実施形態における構造を模式的に示す断面図である。
図4】(a)、(b)は、本発明に係る炭素材料の乾式精製装置のそれぞれさらに別の実施形態における構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
<炭素材料分散体の製造方法>
本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法は、炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体を調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体とを配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有することを特徴とする。
【0033】
図1は、本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法を実施する上で用いられる炭素材料の精製システムの一実施形態の全体構成を模式的に示すブロック図である。また、図2図3(a)、(b)および図4(a)、(b)はそれぞれ、同精製システムにおける乾式精製装置のそれぞれ別の実施形態における構造を模式的に示す断面図である。なお、図1~4においては、視覚的な理解を容易とするために、炭素材料、金属粒子等の各材料や部材の大きさ、寸法等は誇張して描かれており、この点に関して図面に示される内容に制限されるものではないことは理解されるべきである。
【0034】
まず、本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法の概要を、この精製システムの一実施形態を用いて実施する場合を例にとり簡単に説明する。
【0035】
図1に示す精製システムの一実施形態は、上流側の乾式精製装置100と下流側の湿式精製装置300を有してなり、炭素材料Cが粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール130の表面上に適用され、炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程が行われ、第1選別工程において選別された炭素材料Cは、次いで、分散体調製装置200において分散媒体と混合されて炭素材料分散体Dが調製され、調製された炭素材料分散体Dを湿式精製装置300に導入し、当該炭素材料分散体Dの流れの中に磁石体310とを配して当該炭素材料分散体D中より金属成分Mを除去する第2磁気選別工程が実施される。
【0036】
本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法において、処理対象となる炭素材料Cとしては、導電性を有する炭素材料であり、粉粒状の形態を呈し得るものであれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック(CB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンファイバー(CF)、フラーレン、天然黒鉛等が挙げられ、これらを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。炭素材料としては、特にCBが好ましい。さらにCBとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられ、そのいずれを用いることが可能である。このうち例えば、アセチレンブラックは、その製法上で金属成分含有量が本来的に低いものとなるが、本発明に係る炭素材料分散体の製造方法を経ることによって、得られるアセチレンブラック分散体は、さらに大きく金属成分含有量を低減したものとし得る。
【0037】
ここで本明細書において炭素材料の「粉粒状」の形態とは、少なくとも、混在する金属成分の除去する際に、第1磁気選別工程の磁気ロールに対して適用可能な大きさのものであれば特に限定されない。例えば、平均粒子径10~60nm程度の粒子径を呈している一次粒子、このような一次粒子が凝集等して平均粒子径1~1000μm程度の二次粒子を呈しているもの、あるいはさらに圧縮処理や造粒処理により平均粒子径0.5~5mm程度の加工された粒子とされたものなどが含まれ得る。さらに、その形状としても、特に限定されるものではなく、概略球状のものに限られず、楕円状、薄片状、針状ないし短ファイバー状、不定形等が含まれ得る。後述する第1磁気選別工程において、より効率的な金属成分の除去を行い得る上では、炭素材料の平均粒子径としては、0.5mm以上~5mm以下程度がより好ましい。なお、第2磁気選別工程においては、炭素材料分散体中において炭素材料の平均粒子径が10μm以下程度となっているものであることが望ましい。
【0038】
なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定された、体積基準の平均粒子径d50(いわゆるメジアン径)を意味する。
【0039】
(第1磁気選別工程)
本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法においては、まず第1磁気選別工程として、炭素材料Cが粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料Cの粉粒体を回転する磁気ロール表面130上に適用する。
【0040】
炭素材料が「乾式状態」にあるとは、気相中にあって炭素材料の個々の粉粒体が自由な流動性を発揮し得る状態であれば構わない。特に限定されるものではないが、当該炭素材料が基本的に水分ないしは溶媒等の揮発性成分をまったく含有していないか、またはごくわずかな量、具体的には例えば、総質量の0.05%未満しか含有していない状態である。
【0041】
炭素材料Cが粉粒状の乾式状態において、回転する磁気ロール130表面上に適用されると、炭素材料の粉粒群は、少なくとも一時的に面状ないし薄層状で磁気ロールの表面上ないしその近傍空間を通過するため、炭素材料Cの粉粒中に混入していた鉄、ステンレス鋼等の磁性金属成分の粉粒ないしはこのような磁性金属成分を内包する炭素材料の粉粒は、非常に効率よく磁気ロール表面に磁力により吸引捕捉され、一方、炭素材料の粒粉(金属成分を含まないもの)は、反磁性を示すものであるため磁気ロールより離反した軌跡をもって落下することで選別される。また回転する磁気ロールを用いるため、第1磁気選別工程は連続処理とすることができる。
【0042】
なお、図1に示す精製システムの一実施形態においては、磁気ロール130の下方位置には、炭素材料回収部140と金属成分回収部150とが区画されて配置されている。前記磁気ロール130の回転する中空円筒部132の表面に付着せずに、磁気ロール130の磁場に反発して磁気ロールより離れて前方側に落下する炭素材料の粉粒群は、炭素材料回収部140へと集められ、一方、中空円筒部132の表面に磁石体134の磁力によって一旦吸引捕捉され、中空円筒部132の回転によって磁石体134の磁力の及ばない角度まで運ばれた後、中空円筒部132より脱離して落下する金属成分Mは、金属成分回収部150へと回収される。
【0043】
なお、例えば、このような乾式状態での磁気選別工程において、本発明に係る磁気ロールに変えて格子状の磁石体等を用いて、炭素材料の粒粉の流路上にこのような磁気体を配して金属成分を捕捉しようとすると、炭素材料の粒粉は当該磁石体に対して三次元的な広がりをもって通過していくため、本発明に係るように磁気ロールを用いた場合のような効率的な金属成分の捕捉ができない。
【0044】
ここで、磁気ロールの回転方向に関しては、図1図3(a)、図4(a)に示すように炭素材料の搬送方向と順方向に回転する磁気ロール130を用いるものであっても、また図2図3(b)、図4(d)に示すように、搬送方向と逆方向に回転する磁気ロールを用いるものであっても良いが、磁気ロールより離反した軌跡をもって流れていく選別された炭素材料の回収効率を考慮すると、搬送方向と順方向に回転する磁気ロールを用いることが望ましい。
【0045】
さらにこの第1磁気選別工程において、磁気ロール130に対して、粉粒状の炭素材料Cを供給する供給位置としても、磁気ロールの回転方向によってもある程度左右されるものの、特に限定される訳ではなく、例えば、図1図2に示すように磁気ロール130の最頂部位置近傍とすることも、また図3(a)、(b)に示すように磁気ロールの最下部位置近傍とすることも、あるいは図4(a)、(b)に示すように磁気ロールの最頂部位置と最下部位置との任意の中間位置とすることもできる。このうち、炭素材料Cの供給方向と、磁気ロールによって選別された炭素材料Cと、分離された金属成分Mとのそれぞれの流れをお互い干渉することなくより良好なものとする上では、図1に示すように磁気ロール130の最頂部位置近傍とすることが望ましい。
【0046】
また第1磁気選別工程における磁選効率を向上させる上からは、上流側より供給される炭素材料の粉粒がそれぞれ満遍なく磁気ロールの形成する磁場中におかれることが望ましく、この観点から、炭素材料の供給は、炭素材料の粉粒群が極力薄い流動層状として均一に磁気ロールに向かって流れるように、図1に示す実施形態におけるように磁気ロール130に対して略接線方向から行うことが望ましい。
【0047】
また、磁選効率を向上させる上からは、炭素材料の粉粒群が上流側の供給経路より磁気ロールの表面上ないしその近傍領域に供給された際に、磁気ロールにより形成される磁場に十分に影響を及ぼされる時間をもって移動することが望ましい。この観点から、例えば、当該粉粒群は全体として、回転する磁気ロールの表面と、一時的ではあるがほぼ併進するような流動をする。すなわち、相対的にほぼ静止した位置関係を保つように流動させる態様が示され得る。なお、供給経路としては、このようなベルトコンベア等の駆動搬送手段に特に限定されるものではなく、磁気ロールに対して定量的な供給が可能なものであれば、これ以外の形態であってもよく、例えば、傾斜面を利用したスライダー状のものであったり、あるいは振動コンベアなどの態様を用い得る。
【0048】
また磁気ロールとしては、回転しながらその表面に金属成分を確実に捕捉できるものである限り、特に限定されるものではなく、例えば、永久磁石体を用いたものであっても、電磁石を用いたものであってもよい。さらに、磁気ロールとしては例えば磁石棒のようにその全周方向に着磁された無垢の磁石体であっても良いが、磁気ロールに付着した金属成分を、炭素材料と分離後に、再び磁気ロールより除去する作業を考慮すると、磁気ロールの円周方向の一定範囲のみが着磁された形態のものが操作性の面から望ましい。具体的には、図1に示すように、表面が炭素材料との接触面となる回転する中空円筒部132と、前記中空円筒部の内部空間内において、前記中空円筒部の内周面に対し近接して配置された円弧状の磁化対向面を有する磁石体部134とを有して磁気ロール130を構成する実施形態が挙げられる。この実施形態の磁気ロール134では、磁石体部134が存在する領域では、その上部の中空円筒部132の表面に金属成分Mが磁石体部134の磁力によって付着し、中空円筒部132の回転と共に中空円筒部132の表面に付着したまま円周方向に移動する。そして、中空円筒部132の回転が進み、内部に磁石体部134が存在しない領域に至ると磁力がなくなるため、金属成分Mが中空円筒部132の表面より自然と離れ、金属成分を分別回収可能となる。
【0049】
前記第1磁気選別工程で用いる前記磁気ロール130を構成する磁石体の着磁態様としても、複数の磁石を周方向に間隔を置いて異磁極が交互に並ぶ列状に配置して周方向着磁としたものを用いることもできるが、中心側と外周側とを異磁極として径方向着磁としたものが構成的にも単純で良好な特性を得られる。
【0050】
また、前記第1磁気選別工程で用いる前記磁気ロールの磁力としては、対象となる炭素材料の種類、磁気ロールの構造等によっても左右されるので、特に限定されるものではないが、永久磁石の場合、例えば、5000~20000ガウス、より好ましくは8000~20000ガウス、さらに好ましくは10000~20000ガウス程度の永久磁石を有するものを用いることができる。なお、例えばより高い磁力を使用しようとする場合等には、安全性を考慮した上で、永久磁石に代えて電磁石を使用することも可能である。
【0051】
このように本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法において、第1磁気選別工程では炭素材料が乾式で磁気ロールに適用されるが、この乾式の第1磁気選別工程として、磁気ロール加えて、当該磁気ロールの前および/または後にその他の形式の磁選機を配することも可能である。例えば、上記したような格子状の磁石体や、搬送路の上部よりつり下げた磁石体、搬送路の左右などに配置された磁石体を有する形式のもの、さらに「多段弱磁力磁選機」と呼ばれる、複数の異なる均一磁場を発生させることより磁性体同士を磁化率の違いにより多成分同時に選別可能な、コンベアと弱磁選ユニットの組み合わせにより、一段から任意の段数に拡張が可能な装置形式のものなどを、用いることができる。
【0052】
なお、乾式の第1磁気選別工程として、本発明に係る磁気ロールに代えて、上記したようなその他の形式の磁選機、例えば多段弱磁力磁選機を用い、後述するような湿式の第2磁気選別工程と組み合わせることは、本発明を前提として考察できることではある。
【0053】
(分散体調製工程)
本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法において、上記のように第1磁気選別工程において金属成分を除去して選別された炭素材料は、次いで、分散媒中へ分散され、炭素材料分散体が調製される。この炭素材料分散体の調製工程は、前記した第1磁気選別工程で得られる選別された炭素材料および添加する分散媒体を順次供給して連続的な処理工程としても良いが、第1磁気選別工程で得られる選別された炭素材料が所定量となったところで分散媒体と混合する回分式の処理工程としても良い。
【0054】
例えば、図1に示す実施形態は、この分散体調製工程を行う分散体調製装置200は、回分式の構成とした例である。図1において、乾式精製装置100における磁気選別によって炭素材料回収部140に回収された磁気選別された炭素材料Cは、この回収部140から所定量ごとに分散体調製装置200の攪拌槽220内に移送され、所定量の分散媒体、および必要に応じてその他の添加剤が添加され、攪拌機210を用いて所定条件下で攪拌して炭素材料分散体Dを調製し、分散体Dが調製されたら、攪拌槽220の底部に設けられた開閉バルブ230を開放して、分散体Dを第2磁気選別工程を行う湿式精製装置300の流路320へと導入するものとされている。
【0055】
これに対して、乾式精製装置100の炭素材料回収部140に回収した炭素材料Cと分散媒体とをそれぞれ分散体調製装置に一定量ずつ連続的に供給する一方、分散体調製装置内の流路を通過する時間内で分散処理を完了して、供給量に応じて連続的に調製した分散体Dを一定量ずつ第2磁気選別工程を行う湿式精製装置へと導出する構成とすれば、連続式の処理工程とすることができる。
【0056】
使用される分散媒体としては、特に限定されるものではなく、本発明の製造方法によって得られる炭素材料分散体の使用目的等に応じて適宜選択され得、各種の水もしくは有機溶媒のいずれとすることもできる。
【0057】
例えば、本発明の製造方法によって得られる炭素材料分散体をリチウムイオン二次電池用途に用いる場合においては、有機溶媒を用いることが望ましい。
【0058】
特に限定されるわけではないが、具体的には例えば、有機溶媒としては、乾燥によって除去できる媒体であれば特に限定されないが、例えば、ジブチルエーテル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸ヘキシル、プロピオン酸ヘプチル、プロピオン酸オクチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸ヘキシル、酪酸ヘプチル、酪酸オクチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸ブチル、吉草酸アミル、吉草酸ヘキシル、吉草酸ヘプチル、吉草酸オクチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプロン酸ブチル、カプロン酸ペンチル、カプロン酸ヘキシル、カプロン酸ヘプチル、カプロン酸オクチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸ブチル、ヘプタン酸ペンチル、ヘプタン酸ヘキシル、ヘプタン酸ヘプチル、ヘプタン酸オクチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン(アノン)等のケトン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナン、デカン等のアルカン系溶媒;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート;トルエン、キシレン、ベンゼン、メシチレン、パラフィン、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独であるいは複数種組み合わせて用いることができる。
【0059】
また調製しようとする炭素材料分散体中には、後述する第2磁気選別工程における処理を阻害しないものである限り、例えば、炭素材料の粉粒体の上記分散媒体中での分散性を向上させるための分散剤、バインダー成分、その他の添加剤を含み得る。なお、これらの成分は、後述する第2磁気選別工程における処理後において、炭素材料分散体中に配合されることも当然可能である。例えば、全固体リチウムイオン二次電池用途に用いる場合には、これらの成分あるいは固体電解質、正極活物質又は負極活物質等は、後述する第2磁気選別工程における処理後において、炭素材料分散体中に配合され得る。
【0060】
炭素材料分散体を調製する上での攪拌処理等は特に限定されるものではなく、図1に模式的に示すような機械的な攪拌機構を有する攪拌機210以外に、ビーズミル等のメディアミル、ディスパライザー、ホモジナイザーなどのメディアレスミル、ディスパ―翼やせん断翼を備えた分散用ホモミキサー、超音波攪拌機、流路構造による静的攪拌機等のいずれを用いて行うことも可能である。
【0061】
このようにして調製される炭素材料分散体の粘度としては、特に限定されるものではないが、後述する第2磁気選別工程において、分散媒体中に存在する金属成分の分散媒体中での移動を良好なものとする上で、例えば、25℃条件下で粘度が10~1000mPa・s、好ましくは10~500mPa・s、より好ましくは10~200mPa・s程度であることが望ましい。
【0062】
また、炭素材料分散体における炭素材料の含有量としては、分散媒体として使用する溶媒の種類によっても左右されるが、当該炭素材料分散体の総質量に対し、例えば、炭素材料は10~25質量%程度であることが望ましい。
【0063】
(第2磁気選別工程)
本発明に係る炭素材料分散体の製造方法においては、上記したような分散体調製工程の後に、得られた炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有する。
【0064】
本発明に係る炭素材料分散体の製造方法においては、前述したように乾式状態で炭素材料を第1磁気選別工程にかけて金属成分を除去しているために、炭素材料分散体中に金属成分は存在しない場合もあり得るが、例えば、炭素材料の粉粒の内部にごく微量含まれていたり、あるいは乾式状態では炭素材料と共に凝集し、乾式状態においては磁石につきにくく捕捉しきれていないものがある可能性があり、湿式状態で再度、磁石体を適用することにより、金属成分の除去率をより高いものとする。
【0065】
この第2磁気選別工程は、炭素材料分散体中に磁石体を配することで実施することが可能であるので、例えば、炭素材料分散体の流路中に磁石体を配置して連続的な処理とすることも、あるいは例えば、炭素材料分散体を収納した液槽中に磁石体を配置して回分式の処理とすることも可能である。
【0066】
また前記第2磁気選別工程で用いる磁石体としては、炭素材料分散体中においてその表面に金属成分を確実に捕捉できるものである限り、特に限定されるものではなく、例えば、永久磁石体を用いたものであっても、電気磁石を用いたものであってもよいが、湿式条件であるため、電気磁石の場合には少なくとも防水ないし防滴構造が必要となるため、永久磁石体を用いることが望ましい。
【0067】
さらに炭素材料分散体を連続的に処理する形態においては、この磁石体は、図1に示す実施形態におけるように、炭素材料分散体の流路320の軸垂直断面の一部を占有しかつ流路の軸方向に概略沿って配置された磁石体310により構成することができ、これによって磁石体310の表面と接する格子状またはスリット状等の通液路が形成される(以下、このような形状の磁石体を「磁気フィルター」とも称する。)。この磁気フィルターの格子状またはスリット状等の通液路の断面積、形状等は特に限定されず、磁石体の磁力強度、炭素材料分散体の濃度等に応じて適宜選択され得る。例えば、図1に示す例においては、通液路は流路320の外周縁側、中央部側といくつかに別れたかたちで形成されているが、略円筒状の流路320の一部区間の内部に略円柱状の磁石体310を同軸的に配することで、当該流路320の周縁部沿って連続したスリット状、すなわち、断面略円環状のスリット状の通液路を形成することもできる。さらに、磁気フィルターとしては、例えば着磁ヨークをさらに有し、磁石体自体は炭素材料分散体と直接接することなく、当該磁石体の磁場により印加された着磁ヨーク等の磁性体表面を炭素材料分散体と接触させて、この磁場印加された磁性体表面に炭素材料分散体中の磁性金属を捕捉する形態のものとすることも可能である。
【0068】
またこの第2磁気選別工程で用いる磁石体の磁力としては、対象となる炭素材料の種類、炭素材料分散体の濃度等によっても左右されるので、特に限定されるものではないが、例えば、永久磁石で5000~20000ガウス相当、より好ましくは10000~20000ガウス相当、さらに好ましくは15000~20000ガウス相当程度が望ましい。なお、第1磁気選別工程と同様に、例えばより高い磁力を設定するには安全性を考慮した上で電磁石を用いることもできる。この場合は、適当な保護管等を使用して上述したように電磁石に対して、防水ないし防滴構造を設ける必要がある。
【0069】
このように、本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法においては、乾式条件での第1磁気選別工程および湿式条件での第2磁気選別工程を経るため、最終的に得られる炭素材料分散体は、金属成分の含有量の非常に少ない高品質のものとすることができる。なお、本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法においては、得られる炭素材料分散体を使用用途に応じた組成とするために、第2磁気選別工程に続いて、例えば、再分散工程、希釈工程、添加物添加工程等の工程を任意で設けることは可能である。
【0070】
<炭素材料分散体>
本発明の第2の観点に係る炭素材料分散体は、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体である。
【0071】
上記したように本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法を実施することで、金属成分の含有量の非常に少ない高品質の炭素材料分散体を製造することができる。分散体中の炭素材料含有率を10~25質量%程度とすると、金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下、より好ましくは5×10-8以下、さらに好ましくは3×10-8以下とした炭素材料分散体を製造可能である。なお、本発明の第2の観点に係る炭素材料分散体において、「炭素材料」とは、上記した本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法において規定したものと同様のものである。また、「有機溶媒」としても特に限定されず、上述したものと同様のものが例示できる。さらに、炭素材料分散体中は、例えば、炭素材料の粉粒体の上記分散媒体中での分散性を向上させるための分散剤、バインダー成分、その他の添加剤を含み得る。
【0072】
<炭素材料の精製装置>
本発明の第3の観点に係る炭素材料の精製装置は、上述したような第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法において、前記した第1磁気選別工程、すなわち乾式条件での磁気選別を実施する上で、好適に用いられる装置である。
【0073】
すなわち、本発明の第3の観点に係る炭素材料の精製装置(乾式精製装置100)は、図1において模式的に示すように、表面が炭素材料Cとの接触面となる回転する中空円筒部132および、前記中空円筒部の内部空間内において、前記中空円筒部の内周面に対し近接して配置された円弧状の磁化対向面を有する磁石体部134から構成される磁気ロール130と、前記磁気ロールの回転する中空円筒部に対して粉粒状の炭素材料を供給する上流側に位置する供給経路120と、前記磁気ロールの回転する中空円筒部に対して下流側において、前記中空円筒部の表面に付着せずに落下する炭素材料Cの粉粒群を回収する炭素材料回収部140とを少なくとも有することを特徴とするものである。
【0074】
図1に示す実施形態においては、磁石体部134自体が断面略半円状の形状を有し全体が着磁された構造のものであるが、例えば、磁石体部自体としては円筒状もの(すなわち、断面は全円形)とし、この円筒体の特定の角度の範囲のみを着磁させ、残りの角度の範囲は非磁化のものとして構成させたものとしても、同様の作用をもたらし得る。
【0075】
磁石体部134は、回転する中空円筒部132の内部にあって、一定の角度範囲内、すなわち、円弧状の磁化対向面を有する角度範囲内において金属成分を中空円筒部132表面に磁気吸引保持し、その角度範囲を超えたところでは磁力をなくして、中空円筒部132表面にから保持していた金属成分を脱離するものである。この金属成分を磁気吸引保持している工程長(角度範囲)は、距離は磁気ロール130に適用された際に、磁気ロール130に付着することなく磁気ロールより離れていく炭素材料Cの粉粒体群(金属成分を含まない選別された炭素材料)の落下軌道と、分離した金属成分を十分に離間できるものであれば、特に限定されるものではないが、着磁された磁化対向面の角度範囲としては、例えば、90°~270°程度とされることが望ましい。
【0076】
さらに、図1に示す実施形態におけるように、磁気ロール130に対して、粉粒状の炭素材料Cを供給する供給位置を、磁気ロール130の最頂部位置近傍とし、また磁気ロールの回転方向を炭素材料の搬送方向と順方向とする場合、前記磁気ロール130の最頂部位置を0°としたとき、前記磁石体134の円弧状の磁化対向面は、前記中空円筒部の回転方向に順方向で、-20°~30°の位置より開始され、かつ少なくとも275°~315°の範囲内には存在しないものとすることが、炭素材料Cと金属成分Mとを分離回収する上で好ましい。
【0077】
本発明に係る乾式精製装置100において、前記磁気ロール130を構成する磁石体部134の着磁態様としては、上述したように、複数の磁石を周方向に間隔を置いて異磁極が交互に並ぶ列状に配置して周方向着磁としたものを用いることもできるが、中心側と外周側とを異磁極として径方向着磁としたものが構成的にも単純で良好な特性を得られるため好ましい。
【0078】
また磁気ロール130を構成する磁石体部134の磁力としては、上記したように、特に限定されるものではないが、例えば、5000~20000ガウス、より好ましくは8000~20000ガウス、さらに好ましくは10000~20000ガウス程度の永久磁石を用いることができる。
【0079】
なお、磁気ロール130における回転部分である中空円筒部132と、静止固定部分である磁石体部134とは、通常同軸的に配されるが、例えば、前者の回転軸と後者の支持軸との間に、公知の転がり軸受や滑り軸受機構を設けることで、容易に回転部分と固定部分を同軸的に支持して構成することができる。
【0080】
本発明に係る乾式精製装置100において、磁気ロールの回転方向に関しては、前述した通り、図1図3(a)、図4(a)に示すように上流側の供給経路120の炭素材料の搬送方向と順方向に回転する磁気ロール130を有するものとしても、また図2図3(b)、図4(b)に示すように、搬送方向と逆方向に回転する磁気ロールを用いるものであっても良いが、搬送方向と順方向に回転する磁気ロール130を有するものが好ましい。
【0081】
さらに本発明に係る乾式精製装置100において、磁気ロール130に対して、粉粒状の炭素材料Cを供給する供給位置としても、前記したように特に限定される訳ではなく、例えば、図1図2に示すように磁気ロール130の最頂部位置近傍とすることも、また図3(a)、(b)に示すように磁気ロールの最下部位置近傍とすることも、あるいは図4(a)、(b)に示すように磁気ロールの最頂部位置と最下部位置との任意の中間位置とすることもできる。このうち、炭素材料Cの供給方向と、磁気ロールによって選別された炭素材料Cと、分離された金属成分Mとのそれぞれの流れをお互い干渉することなくより良好なものとする上では、図1図2に示すように磁気ロール130の最頂部位置近傍とすることが望ましい。
【0082】
また前記したように、炭素材料の供給経路120は、炭素材料の粉粒群が極力薄い流動層状として均一に磁気ロールに向かって流れるように、図1に示す実施形態におけるように磁気ロール130に対して略接線方向に位置する経路を有することが望ましい。
【0083】
供給経路120としては、図1に示す実施形態に示すようなベルトコンベア等の駆動搬送手段に特に限定されるものではなく、磁気ロールに対して定量的な供給が可能なものであれば、これ以外の形態であってもよく、例えば、傾斜面を利用したスライダー状のものであったり、あるいは振動コンベアなどによって構成することも可能である。
【0084】
また、図1に示す実施形態においては、炭素材料の供給経路120の上流側端部の上部位置は、炭素材料を供給する供給ホッパー等の供給装置110が設けられており、磁気ロール130に対する炭素材料の供給をより均一かつ安定なものとする。
【0085】
また、このような供給ホッパーに限られず、磁気ロール130の表面上へ対して、炭素材料Cの粉粒体群を所定厚み以下の層として、面状ないし薄層状で均一に供給する上で、例えば、スリット状のノズル、堰構造体等の粉粒体の供給量を規制する規制子を任意に設けることが可能である。
【0086】
さらに図1に示す実施形態においては、前記磁気ロール130の回転する中空円筒部132に対して下流側に、上記した炭素材料Cの粉粒群を回収する炭素材料回収部140と区画して、金属成分Mを回収する金属成分回収部150が設けられている。この金属成分回収部150は、中空円筒部132に一旦付着して炭素材料と分離された金属成分Mが、中空円筒部132の回転によって、磁石体134の磁力の及ばない角度に到達し、中空円筒部132表面より再び離れて落下する際に、これを回収できる位置に配置されていれば良い。
【0087】
また、図1に示す実施形態においては、前記磁気ロール130の回転する中空円筒部132に対して下流側において、中空円筒部132に対して概略接線方向で、かつ前記炭素材料回収部140と金属成分回収部150との境界付近の上部位置に、傾斜角度を変更可能な分離調整板160が設けられている。この分離調整板160の傾斜角度を調整することで炭素材料回収部140と金属成分回収部150とに落下する粉粒群の割合をある程度調整することが可能とされており、これによって金属成分の除去率と回収される炭素材料の歩留りとの間の微調整を可能としている。
【0088】
<炭素材料の精製システム>
本発明の第4の観点に係る炭素材料の精製システムは、上述したような第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法を実施する上で用いられ得るシステムである。
【0089】
図1は、上述したように、本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法を実施する上で用いられる炭素材料の精製システムの一実施形態の全体構成を模式的に示すブロック図である。
【0090】
本発明の第4の観点に係る炭素材料の精製システムは、図1に示すように、上流側の乾式精製装置100と下流側の湿式精製装置300とを有し、乾式精製装置100は、表面が炭素材料との接触面となる回転する中空円筒部132および、前記中空円筒部の内部空間内において、前記中空円筒部の内周面に対し近接して配置された円弧状の磁化対向面を有する磁石体部134から構成される磁気ロール130と、前記磁気ロール130の回転する中空円筒部132に対して下流側において、前記中空円筒部の表面に付着せずに落下する炭素材料の粉粒群を回収する回収部140とを有して構成され、また、前記湿式精製装置300は、前記乾式精製装置100の回収部140に回収された乾式磁選された炭素材料Cの粉粒群に分散媒を添加して調製される炭素材料分散液Dを流通させる流路320内に、この流路の軸方向に概略沿って磁石体310を配し、当該磁石体の表面ないしは当該磁石体の磁場により印加された磁性体表面と接する格子状またはスリット状等の通液路を形成する磁気フィルターを有して構成されるものである炭素材料の精製システムである。
【0091】
本発明の第4の観点に係る炭素材料の精製システムにおいて、上流側の乾式精製装置100と下流側の湿式精製装置300とは、その途中に設けられる分散体調製装置200を含んで、連続処理する構成とすることも可能であるが、回分処理する構成のものとすることもできる。
【0092】
なお、上流側の乾式精製装置100およびと下流側の湿式精製装置300の構成については、上記に詳述した通りのものであるため、重複を避けるためにここでの説明を省略する。
【実施例0093】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0094】
実施例1
図1に示すような構成を有する炭素材料の精製システムを用いて炭素材料分散体の製造を行った。
まず、被処理物となる炭素材料として、アセチレンブラック(デンカブラック(商標名) 粒状品、デンカ株式会社製)10kgを、図1のシステムの乾式精製装置100において、ホッパー110より供給し、ベルトコンベア120にて搬送し、約100kg/時間の供給量で、40rpmの周速にて回転する幅300mm×直径300mmの磁気ロール130に対して、幅方向に均一に薄層状で供給した。なお磁気ロール130は内部に径方向着磁された半円状(180度の円弧)の8000ガウスの永久磁石134を配したものとした。
【0095】
磁気ロールによって乾式選別され回収されたアセチレンブラックを次いで、分散媒体としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、アセチレンブラック分散体を調製した。なお、この分散体の総質量に対してアセチレンブラックの含有量は20質量%であり、分散体の粘度は25℃にて200mPa・sであった。
【0096】
このようにして調製されたアセチレンブラック分散体を、図1のシステムの湿式精製装置300の流路320に、約10L/分の供給量で供給し、円筒状の流路内に円柱状の18000ガウスの永久磁石320を配して円環スリット状の通液路を形成したマグネットフィルター(スリット幅1.3cm)の間を通過させて、湿式選別処理を行った。
【0097】
最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を調べるため、まず、アセチレンブラック分散液を秤量し、分散媒であるNMPを蒸発乾固した後、硝酸を加え加熱分解した。次いで、アセチレンブラックと酸分解液を濾紙で分離し、分離した酸分解液を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)(装置名:SPECTRO ACROS MV130 FHM22、スペクトロ社製)により測定した。その結果、得られたアセチレンブラック分散体中におけるFe濃度は、炭素材料に対して質量分率で4×10-8であり、非常に金属成分含有量が低減された精製度の高いアセチレンブラック分散体が得られた。また、得られたアセチレンブラック分散体におけるアセチレンブラックの収率は99.3%であり、精製処理におけるアセチレンブラックの減失量も小さいことが判った。
【0098】
比較例1
実施例1において用いた被処理物となるアセチレンブラックを、そのまま分散媒体としてのNMPに対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、20質量%のアセチレンブラック分散体を調製した。このアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率で8.3×10-7であった。
【0099】
比較例2
実施例1において、乾式磁気選別工程を省略した以外は実施例1と同様にしてアセチレンブラック分散体を得た。すなわち、市販のアセチレンブラックをそのまま分散媒体としてのNMPに対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、20質量%濃度のアセチレンブラック分散体を調製し、これを図1のシステムの湿式精製装置300の流路320に、約10L/分の供給量で供給し、18000ガウスの永久磁石134より構成されるマグネットフィルター(スリット幅1.3cm)の間を通過させて、湿式選別処理を行った。このアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率で2.5×10-7であった。
【0100】
参考例1
実施例1において、湿式磁気選別工程を省略した以外は実施例1と同様にしてアセチレンブラック分散体を得た。磁気ロールによって乾式選別され回収されたアセチレンブラックを次いで、分散媒体としてのNMPに対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、20質量%濃度のアセチレンブラック分散体を調製した。このアセチレンブラック分散体をついて、そのまま実施例1と同様にしてFe濃度を測定したところ、炭素材料に対して質量分率で1.3×10-7であった。
【0101】
参考例2
実施例1において、乾式精製装置100に代えて、8000ガウスの永久磁石より構成される格子状のマグネットフィルター(2段式、幅32cm、長さ30cm、1段目マグネット6本、2段目マグネット5本)を用い、実施例1において用いたものと同じ市販のアセチレンブラック10kgを、実施例1と同じ供給量でこの格子状マグネットフィルターに乾式にて適用した。この処理によってマグネットフィルター表面にはある程度の量のアセチレンブラックの粉粒群の付着が見られた。
このように乾式で格子状マグネットフィルターで処理された後のアセチレンブラックを、その後は実施例1におけると同様に、NMPに対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、20質量%濃度のアセチレンブラック分散体を調製し、これを図1のシステムの湿式精製装置300の流路320に、10L/分の供給量で供給し、18000ガウスの永久磁石134より構成されるマグネットフィルター(スリット幅1.3cm)の間を通過させて、湿式選別処理を行った。このアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率で1.2×10-7であった。
【0102】
実施例2~5
実施例1において、乾式精製装置100における磁気ロール130の8000ガウスの永久磁石134に代えて、それぞれ3000、5000、10000、15000ガウスの永久磁石134を用いた以外は、実施例1と同様にして処理を行った。
【0103】
最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率でそれぞれ1×10-7、8×10-8、3×10-8、2×10-8であり、いずれも金属成分含有量が低減されたアセチレンブラック分散体が得られた。特に、実施例4および5については、実施例1と同等以上に精製度が良好なアセチレンブラック分散体が得られた。また、得られたアセチレンブラック分散体におけるアセチレンブラックの収率はそれぞれ99.8%、99.5%、99.2%、99.1%であり、精製処理におけるアセチレンブラックの減失量も小さいことが判った。
【0104】
実施例6~9
実施例1において、湿式精製装置300における18000ガウスの永久磁石134からなるマグネットフィルターに代えて、それぞれ5000、10000、13000ガウスの永久磁石134からなるマグネットフィルターを用いた以外は、実施例1と同様にして処理を行った。
【0105】
最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率でそれぞれ9×10-8、6×10-8、5×10-8であり、いずれも金属成分含有量が低減された精製度の高いアセチレンブラック分散体が得られた。また、得られたアセチレンブラック分散体におけるアセチレンブラックの収率はそれぞれ99.4%、99.4%、99.3%であり、精製処理におけるアセチレンブラックの減失量も小さいことが判った。
【0106】
なお上記実施例、比較例および参考例において示した平均粒径、分散体の粘度、分散体における金属成分含有量、分散体におけるアセチレンブラック(カーボンブラック)収率は、以下の基準により測定したものである。
【0107】
(平均粒径)
レーザー回折散乱式粒度分布装置((株)堀場製作所製、LA-960)を用いて、粒度分布を測定して得られた、平均粒子径D50(レーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における積算値50%での粒子径を意味するメジアン径)である。
【0108】
(分散体の粘度)
B型粘度計(TVB-15、東機産業社製)によって、温度25℃、(ローターNo.21、60rpm)の条件下に測定して得られた値である。
【0109】
(分散体における金属成分(Fe)含有量)
アセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を調べるため、まず、アセチレンブラック分散液を秤量し、分散媒であるNMPを蒸発乾固した後、硝酸を加え加熱分解する前処理を施す。次いで、アセチレンブラックと酸分解液を濾紙で分離し、分離した酸分解液を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)(装置名:SPECTRO ACROS MV130 FHM22、スペクトロ社製)により測定した。
【0110】
(収率)
分散体におけるアセチレンブラック(カーボンブラック)収率は、被処理物となるアセチレンブラックを磁気選別処理にかけずに、そのまま分散媒体に分散させた場合(比較例1)における分散体中のアセチレンブラックの質量を収率100%の質量として、これとの質量の比較により算出した。
【符号の説明】
【0111】
100 乾式精製装置
120 供給経路
130 磁気ロール
132 中空円筒部
134 磁石体
140 炭素材料回収部
150 金属成分回収部
160 分離調整板
200 分散体調製装置
210 攪拌機
220 攪拌槽
230 開閉バルブ
300 湿式処理装置
310 磁石体(磁気フィルター)
320 流路
C 炭素材料
M 金属成分
D 炭素材料分散体
図1
図2
図3
図4