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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013363
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】スマートテキスタイルを生産する方法
(51)【国際特許分類】
   D05C 7/00 20060101AFI20240125BHJP
   A41H 43/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
D05C7/00
A41H43/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115403
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000219749
【氏名又は名称】株式会社TISM
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伏見 明彦
(57)【要約】
【課題】生産されるスマートテキスタイルにおいて、接触端子における導電糸と他の導電部材との接触性の向上を図る。
【解決手段】絶縁性のシート材の一面側から縫われた非導電糸と、シート材の他面側から縫われた導電糸とを備え、導電糸によって他面上に接触端子と配線パターンとが形成されたスマートテキスタイルを、刺しゅうミシンを使用して生産する。刺しゅうミシンは、上糸と下糸とが絡み合わされた糸目を複数、間隔をあけて形成しながら縫い進めを行う。このとき、接触端子を形成する際の糸目間の間隔を、配線パターンを形成する際の糸目間の間隔よりも長くする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性のシート材の一面側から縫われた非導電糸と、前記シート材の他面側から縫われた導電糸と、を備え、当該導電糸によって前記他面上に接触端子と配線パターンとが形成されたスマートテキスタイルを、上糸と下糸とが絡み合わされた糸目を複数、間隔をあけて形成しながら縫い進めを行う刺しゅうミシンを使用して生産する、スマートテキスタイルを生産する方法であって、
前記接触端子を形成する際の前記糸目間の間隔を、前記配線パターンを形成する際の前記糸目間の間隔よりも長くする、
スマートテキスタイルを生産する方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたスマートテキスタイルを生産する方法であって、
前記刺しゅうミシンとして、
上糸と下糸とによる縫い進めを行うために使用される縫い針を前記シート材から引き抜かれた状態に維持しながら、当該シート材に対する前記縫い針の相対位置を移動させるジャンプステッチ処理、
および、
上糸と下糸とによる縫い進めにおいて前記糸目の間に設定されるステッチの長さを、部分的に変更するステッチ長変更処理、
のいずれかまたは両方を実行可能な装置を使用し、
前記接触端子を形成する際に、前記ジャンプステッチ処理または前記ステッチ長変更処理のいずれかを実行して、前記糸目間の間隔を長くする、
スマートテキスタイルを生産する方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたスマートテキスタイルを生産する方法であって、
それぞれが前記導電糸からなる複数本のラインを、当該ラインが延びる方向に対して交差する交差方向に並べた導電糸列を前記接触端子に備えさせる、
スマートテキスタイルを生産する方法。
【請求項4】
請求項3に記載されたスマートテキスタイルを生産する方法であって、
複数本の前記ラインを、前記シート材の面上における一方側から他方側に向かう前記縫い進めである往路縫い進めと、前記他方側から前記一方側に向かう前記縫い進めである復路縫い進めと、の切り替えを行いながら形成し、
前記切り替えを行う際に、形成されるべき前記接触端子の縁部に沿った前記縫い進めである縁部縫い進めを実行する、
スマートテキスタイルを生産する方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたスマートテキスタイルを生産する方法であって、
1回の前記切り替えを挟んで実行される前記往路縫い進めおよび前記復路縫い進めを往復縫い進めとし、
形成されるべき前記接触端子の縁部において、前記往復縫い進めにおける起点である往復起点に対向する点を起点対向点とし、同じく終点である往復終点に対向する点を終点対向点としたときに、
前記往復縫い進めにて実行される前記縁部縫い進めの起点である縁部起点を、前記起点対向点から見て前記終点対向点とは反対側に第1の距離だけ離れた位置に設定し、
前記往復縫い進めにて実行される前記縁部縫い進めの終点である縁部終点を、前記終点対向点から見て前記起点対向点とは反対側に第2の距離だけ離れた位置に設定する、
スマートテキスタイルを生産する方法。
【請求項6】
請求項5に記載されたスマートテキスタイルを生産する方法であって、
前記往復起点から前記縁部起点に向かう縫い進め方向、および、前記縁部終点から前記往復終点に向かう縫い進め方向は、その一方においてパーフェクトの態様の前記糸目が形成され、同じく他方においてヒッチの態様の前記糸目が形成されるものであり、
前記往復起点から前記縁部起点に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の前記糸目が形成される場合には、前記第1の距離を前記第2の距離よりも長く設定し、
前記縁部終点から前記往復終点に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の前記糸目が形成される場合には、前記第2の距離を前記第1の距離よりも長く設定する、
スマートテキスタイルを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁性のシート材の一面側から縫われた非導電糸と、同じく他面側から縫われた導電糸と、を備えるスマートテキスタイルを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本開示において、「スマートテキスタイル」とは、絶縁性のシート材の一部に導電糸からなる部分が設けられて、電子部品または電子回路としての機能を発揮するようにされた、布構造(textile)または該布構造を含むアッセンブリのことをいう。このようなスマートテキスタイルに関する技術としては、例えば下記の特許文献1に記載された技術が公知である。スマートテキスタイルには、絶縁性のシート材に縫われた導電糸(下糸)を、この導電糸(下糸)とは反対側から縫われた非導電糸(上糸)によって、間隔をあけて設定される複数箇所にて係止した構成のものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-094280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の開示においては、刺しゅう用のミシンが用いられ、導電糸(下糸)と非導電糸(上糸)とが一定の間隔をあけて絡み合って複数の糸目が形成されている。これらの糸目においては、導電糸(下糸)と非導電糸(上糸)とが絡み合う交絡点は、特許文献1の図3の写真に示されるように、シート材において導電糸(下糸)が表出される片側の面上に露出する。このため、導電糸(下糸)を他の導電部材との導通を図るための接触端子とした場合には、導電糸(下糸)と他の導電部材との間に交絡点が位置するため、導電糸(下糸)に絡んでいる非導電糸(上糸)がこれらの接触を妨げることになる。したがって、上記接触端子に対する他の導電部材の導通が不安定になるおそれがあった。
【0005】
本開示は、生産されるスマートテキスタイルにおいて、その接触端子における導電糸と他の導電部材との接触性の向上を図ることを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における1つの特徴によると、絶縁性のシート材の一面側から縫われた非導電糸と、シート材の他面側から縫われた導電糸と、を備えたスマートテキスタイルを、刺しゅうミシンを使用して生産する、スマートテキスタイルを生産する方法が提供される。ここで、スマートテキスタイルは、導電糸によって上記他面上に接触端子と配線パターンとが形成されたものである。また、刺しゅうミシンは、上糸と下糸とが絡み合わされた糸目を複数、間隔をあけて形成しながら縫い進めを行うものである。この方法においては、接触端子を形成する際の糸目間の間隔を、配線パターンを形成する際の糸目間の間隔よりも長くする。
【0007】
本開示の方法によれば、生産されるスマートテキスタイルの接触端子における糸目間の間隔を長くすることで、これら糸目にて導電糸と絡み合う非導電糸が導電糸と他の導電部材との間にはさまるおそれを低減させることができる。したがって、上記の方法によれば、生産されるスマートテキスタイルにおいて、その接触端子における導電糸と他の導電部材との接触性の向上を図ることができる。
【0008】
上記のスマートテキスタイルを生産する方法は、刺しゅうミシンとして、後述するジャンプステッチ処理およびステッチ長変更処理のいずれかまたは両方を実行可能な装置を使用するものであってもよい。ここで、ジャンプステッチ処理は、上糸と下糸とによる縫い進めを行うために使用される縫い針をシート材から引き抜かれた状態に維持しながら、このシート材に対する縫い針の相対位置を移動させる処理である。また、ステッチ長変更処理は、上糸と下糸とによる縫い進めにおいて糸目の間に設定されるステッチの長さを、部分的に変更する処理である。この場合においては、接触端子を形成する際に、ジャンプステッチ処理またはステッチ長変更処理のいずれかを実行して、糸目間の間隔を長くする。
【0009】
上記の方法によれば、接触端子および/または導通対象となる他の導電部材のサイズに応じて、接触端子を形成する際の糸目間の間隔を変更することが容易となる。
【0010】
上記のスマートテキスタイルを生産する方法は、それぞれが導電糸からなる複数本のラインを、これらのラインが延びる方向に対して交差する交差方向に並べた導電糸列を接触端子に備えさせるものであってもよい。
【0011】
上記の方法によれば、導電糸のラインを複数並べた導電糸列により接触端子の面積を大きくし、これによって他の導電部材との導通をより確実にすることができる。
【0012】
上記のスマートテキスタイルを生産する方法は、複数本のラインを、後述する往路縫い進めと、後述する復路縫い進めと、の切り替えを行いながら形成するものであってもよい。ここで、上記往路縫い進めは、シート材の片側の面上における一方側から他方側に向かう縫い進めである。また、上記復路縫い進めは、上記他方側から上記一方側に向かう縫い進めである。また、切り替えを行う際には、形成されるべき接触端子の縁部に沿った縫い進めである縁部縫い進めを実行する。
【0013】
上記の方法によれば、切り替えを挟んだ往路縫い進めおよび復路縫い進め(本開示においては「往復縫い進め」とも称する。)を実行することで、導電糸のラインを複数上記交差方向に並べた導電糸列を効率的に形成することができる。ここで、上記往復縫い進めによって導電糸列を形成する場合には、往路縫い進めと復路縫い進めとの切り替え位置(交絡点)が接触端子の縁部から位置ずれし、この接触端子において他の導電部材と導通する部分の面積が減少することがある。これに対し、上記の方法によれば、接触端子の縁部に沿って導電糸を縫い進めることで、刺しゅうミシンの縫い進め方向が所定角度以上変わることによって生じる交絡点の位置ずれを低減させることができる。そして、これにより、接触端子において他の導電部材と導通する部分の面積が減少するおそれを低減させることができる。
【0014】
上記のスマートテキスタイルを生産する方法の例の1つにおいては、1回の切り替えを挟んで実行される往路縫い進めおよび復路縫い進めを往復縫い進めとする。また、形成されるべき接触端子の縁部において、往復縫い進めにおける起点である往復起点に対向する点を起点対向点とし、同じく終点である往復終点に対向する点を終点対向点とする。また、往復縫い進めにて実行される縁部縫い進めの起点である縁部起点を、起点対向点から見て終点対向点とは反対側に第1の距離だけ離れた位置に設定する。また、往復縫い進めにて実行される縁部縫い進めの終点である縁部終点を、終点対向点から見て起点対向点とは反対側に第2の距離だけ離れた位置に設定する。
【0015】
上記の方法によれば、接触端子の縁部にて交絡点の位置ずれが生じた場合であっても、その影響の一部または全部を上記第1の距離および第2の距離の設定により相殺することができる。そして、接触端子において他の導電部材と導通する部分の面積が減少するおそれを低減させることができる。
【0016】
上記のスマートテキスタイルを生産する方法の例の1つにおいては、往復起点から縁部起点に向かう縫い進め方向、および、縁部終点から往復終点に向かう縫い進め方向は、その一方においてパーフェクトの態様の糸目が形成され、同じく他方においてヒッチの態様の糸目が形成されるものである。ここで、往復起点から縁部起点に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の糸目が形成される場合には、第1の距離を第2の距離よりも長く設定する。また、縁部終点から往復終点に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の糸目が形成される場合には、第2の距離を第1の距離よりも長く設定する。
【0017】
刺しゅうミシンには、その縫い進めの向きに応じて、形成される糸目の態様(パーフェクトまたはヒッチ)が変わるものがある。上記の方法は、刺しゅうミシンの縫い進めの向きに応じて形成される糸目の態様が変わっても、糸目の交絡点の位置ずれによる影響を緩和させることができる。すなわち、パーフェクトの態様の糸目は、ヒッチの態様の糸目と比して、その糸目の交絡点が位置ずれしやすいという性質を有する。これに対し、上記の方法によれば、パーフェクトの態様の糸目においてその交絡点が位置ずれしやすいという問題を、この位置ずれの影響を相殺する第1の距離または第2の距離の設定により緩和することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示にかかるスマートテキスタイルを生産する方法によれば、生産されるスマートテキスタイルにおいて、そのシート材の片側の面上に表出される接触端子における導電糸と他の導電部材との接触性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の第1の実施形態によって生産されるスマートテキスタイルを表した裏面図である。
図2図1のII部拡大図である。
図3図2のIII-III線断面矢視図である。
図4】本開示の第2の実施形態によって生産されるスマートテキスタイルを表した裏面図である。
図5図4のV部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本開示を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0021】
〈第1の実施形態〉
始めに、第1の実施形態にかかるスマートテキスタイルを生産する方法(本明細書においては単に「第1の実施形態」とも記載する。)について説明する。この説明は、第1の実施形態によって生産されるスマートテキスタイル10(図1ないし図3)を参照しながら行う。第1の実施形態では、絶縁性のシート材90における片側の面(図1では裏面90A)上に、接触端子20Aと配線パターン20Bとの組み合わせが2組形成されたスマートテキスタイル10を生産する。本実施形態においては、各組み合わせは、シート材90における裏面90Aの側(図3では下側)のみに表出される。
【0022】
上記各組み合わせにおいて、配線パターン20Bは、その先端部において接触端子20Aに繋がっている。これらの接触端子20Aは、図1に示すように、所定の間隔をあけて隣り合うように並び、これらの間にかけ渡される他の導電部材91と接触することで、この導電部材91と導通される。
【0023】
ここで、2つの配線パターン20Bは、その片方が電源側電線とされ、もう片方が接地側電線とされる。このため、導電部材91には、接触端子20Aから電流が流される。本実施形態においては、導電部材91は、例えば、電流が流されたときに発光するチップ型発光ダイオードである。
【0024】
また、上記組み合わせは、図2および図3に示すように、シート材90の一面側(表面の側。図3では上側)から縫われる1本の非導電糸10Aと、同じく他面側(裏面90Aの側。図3では下側)から縫われる1本の導電糸20とを縫い合わせた構成である。これにより、導電糸20は、裏面90A上に配設される。すなわち、スマートテキスタイル10は、絶縁性のシート材90の一面側から縫われた非導電糸10Aと、シート材90の他面側から縫われた導電糸20と、を備える。本実施形態においては、導電糸20は、その表面のめっきによって導電性が担保されている糸である。
【0025】
第1の実施形態では、上糸を非導電糸10Aとし、下糸を導電糸20として、これらが絡み合わされた糸目21を複数、間隔をあけて形成しながら縫い進めを行う本縫いを実行することが可能な刺しゅうミシンを使用する。この刺しゅうミシンにおいては、その機構上、シート材90に縫い進めると、下糸がシート材90の内部に入り込むことがなく、かつこの下糸の側に糸目21の交絡点21Cが露出された状態に形成される。
【0026】
本実施形態において使用される刺しゅうミシンは、以下のジャンプステッチ処理およびステッチ長変更処理のいずれをも自動で実行可能な装置である。ここで、ジャンプステッチ処理は、上糸(図3の非導電糸10A)と下糸(図3の導電糸20)とによる縫い進めを行うために使用される縫い針を生地(図3のシート材90)から引き抜かれた状態に維持しながら、この生地に対する縫い針の相対位置を移動させる処理である。また、ステッチ長変更処理は、上糸と下糸とによる縫い進めにおいて縫い糸の絡み合いが生じる糸目(図3の糸目21)の間に設定されるステッチの長さ(すなわち糸目21間の間隔)を、部分的に変更する処理である。
【0027】
上記の刺しゅうミシンは、上糸(図3の非導電糸10A)と下糸(図3の導電糸20)とによる縫い進めが終わった後に、生地に繋がる上糸および下糸を自動的に切断する自動糸切り機能を有している。自動糸切り機能により上糸および下糸が切断されると、周知のとおり、一定の長さ分の上糸および下糸がヒゲ状になって生地に残る。
【0028】
第1の実施形態においては、刺しゅうミシンにてシート材90に線状(図2では直線状)の縫い進めを行う。この際、シート材90は、その裏面90Aが刺しゅうミシンにおける下側(導電糸20の側)に向けられた状態で縫い進めが行われる。これにより、シート材90の裏面90Aには、この裏面90A上に導電糸20による接触端子20Aと配線パターン20Bとの組み合わせが1つ形成される。このステップ(以下においては「形成ステップ」とも称する。)は、スマートテキスタイル10に形成される接触端子20Aと配線パターン20Bとの組み合わせの数(2)だけ、繰り返し実行される。
【0029】
上記形成ステップにおいては、接触端子20Aを形成する際の糸目21間の間隔21Aを、配線パターン20Bを形成する際の糸目21間の間隔21Bよりも長くする。これは、刺しゅうミシンにおいて上記ジャンプステッチ処理またはステッチ長変更処理のいずれかを実行することによってなされる。本実施形態においては、接触端子20Aを形成する際の糸目21間の間隔21Aは、この接触端子20Aの導通対象(図3の導電部材91を参照。具体的には例えばチップ型発光ダイオードの電極)のサイズと比して、より長くされる。
【0030】
本実施形態の形成ステップにおいては、上記の措置に追加して、後述する「往路縫い進め」と「復路縫い進め」とを、縫い進めの方向の切り替えを挟んで実行する。ここで、「往路縫い進め」は、シート材90の裏面90A上にて一方側から他方側に向かう縫い進め(図2参照)である。また、「復路縫い進め」は、同じく裏面90A上にて他方側から一方側に向かう縫い進めである。これにより、シート材90の裏面90A上には、それぞれが導電糸20からなる2本のライン22Aが、これらライン22Aが延びる方向に対して交差する交差方向に並べられた状態に形成される(図2参照)。これは、2本のライン22Aが並列された構成を配線パターン20Bに備えさせ、かつ、2本のライン22Aが上記交差方向に並んだ導電糸列22を接触端子20Aに備えさせる。
【0031】
上記切り替えを行う際には、形成されるべき接触端子20Aの縁部(図2では右端となる縁部)に沿った縫い進めである縁部縫い進めを実行するものとする。この縁部縫い進めは、図2では一針分だけの縫い進めとなっているが、複数針分を縫い進めるものであってもよい。
【0032】
上述した第1の実施形態によれば、生産されるスマートテキスタイル10の接触端子20Aにおける糸目21間の間隔21Aを長くすることで、これら糸目21にて導電糸20と絡み合う非導電糸10Aが導電糸20と他の導電部材91との間にはさまるおそれを低減させることができる。したがって、第1の実施形態によれば、生産されるスマートテキスタイル10において、その接触端子20Aにおける導電糸20と他の導電部材91との接触性の向上を図ることができる。
【0033】
さらに、第1の実施形態によれば、接触端子20Aおよび/または導通対象となる他の導電部材91のサイズに応じて、接触端子20Aを形成する際の糸目21間の間隔21Aを変更することが容易となる。
【0034】
さらに、第1の実施形態によれば、導電糸20のライン22Aを複数(2本)並べた導電糸列22により接触端子20Aの面積を大きくし、これによって他の導電部材91との導通をより確実にすることができる。
【0035】
さらに、第1の実施形態によれば、切り替えを挟んだ往路縫い進めおよび復路縫い進め(以下、「往復縫い進め」とも称する。)を実行することで、導電糸のライン22Aを複数(2本)交差方向に並べた導電糸列22を効率的に形成することができる。ここで、上記往復縫い進めによって導電糸列22を形成する場合には、往路縫い進めと復路縫い進めとの切り替え位置(交絡点21C)が接触端子20Aの縁部から位置ずれし(図2の仮想線を参照)、この接触端子20Aにおいて他の導電部材91(図2参照)と導通する部分の面積が減少するおそれがある。これに対し、第1の実施形態によれば、接触端子20Aの縁部に沿って導電糸20を縫い進めることで、刺しゅうミシンの縫い進め方向が所定角度以上変わることによって生じる交絡点21Cの位置ずれ(図2の仮想線を参照)を低減させることができる。そして、これにより、接触端子20Aにおいて他の導電部材91と導通する部分の面積が減少するおそれを低減させることができる。
【0036】
〈第2の実施形態〉
続いて、第2の実施形態にかかるスマートテキスタイルを生産する方法(本明細書においては単に「第2の実施形態」とも記載する。)について説明する。この説明は、第2の実施形態によって生産されるスマートテキスタイル30(図4および図5)を参照しながら行う。第2の実施形態は、第1の実施形態を変形した実施形態である。したがって、上記第1の実施形態の説明に登場した構成と共通する構成のうち、シート材90に関する構成については同じ符号をつけることで対応させ、その他の構成についてはその構成に付した符号に「20」を加算した符号をつけることで対応させる。そして、これらの構成については、その詳細な説明を省略する。
【0037】
第2の実施形態では、絶縁性のシート材90における片側の面(図4では裏面90A)上に、複数の接触端子40Aが配線パターン40Bにより1列に繋がれた配列が2列形成されたスマートテキスタイル30を生産する。本実施形態においては、各配列は、シート材90における裏面90Aの側のみに表出される。
【0038】
複数の接触端子40Aは、図4に示すように、それぞれが面状の広がりを有するように形成される。また、1つの配列に含まれる接触端子40Aは、それぞれ、もう1つの配列に含まれる接触端子40Aと、所定の間隔をあけて互いに対向するように並んだ対をなす。これらの対における各接触端子40Aは、これらの間にかけ渡される他の導電部材92と接触することで、この導電部材92と導通される。したがって、導電部材92は、上記2列の配列に対して並列繋ぎされた状態で1列に並ぶことになる。
【0039】
ここで、上記2列の配列は、その片方が電源側とされ、もう片方が接地側とされる。このため、接触端子20Aの各対の間にかけ渡される導電部材92には、この対をなす接触端子20Aから電流が流される。本実施形態においては、導電部材92は、例えば、電流が流されたときに発光するチップ型発光ダイオードである。
【0040】
第2の実施形態は、刺しゅうミシンによる縫い進めの向きに応じて、形成される糸目の態様(パーフェクトまたはヒッチ)が変わることを考慮したものである。なお、図5では、パーフェクトの態様の糸目42Bを黒丸で描き、ヒッチの態様の糸目42Cを白丸で描いている。
【0041】
第2の実施形態の形成ステップにおいては、複数本(図5参照)のライン42Aを、往路縫い進めと復路縫い進めとの切り替えを行いながら形成する。すなわち、上記形成ステップにおいては、1回の切り替えを挟んで実行される往路縫い進めおよび復路縫い進め(以下、「往復縫い進め」とも称する。)が行われる。この往復縫い進めには、「往路縫い進め」「切り替え(縁部縫い進め)」「復路縫い進め」がこの順で実行されるもの(図5のVI部を参照。以下、「順往復縫い進め」とも称する。)が含まれる。また、往復縫い進めには、「復路縫い進め」「切り替え(縁部縫い進め)」「往路縫い進め」がこの順で実行されるもの(図5のVII部を参照。以下、「逆往復縫い進め」とも称する。)も含まれる。上記形成ステップにおいては、逆往復縫い進めは、順往復縫い進めにおける復路縫い進めの開始時から、その次に実行される順往復縫い進めにおける往路縫い進めの終了時までの間に実行される。
【0042】
上記往復縫い進めにより、スマートテキスタイル30の接触端子40Aには、それぞれが導電糸40からなる複数本(図5参照)のライン42Aを、これらのライン42Aが延びる方向に対して交差する交差方向に並べた導電糸列42が備えられる。この導電糸列42は、交差方向に延びる面状の広がりを接触端子40Aに持たせる。さらに、この接触端子40Aに対しては、それぞれが1本の導電糸40からなる2本の配線パターン40Bが繋がった状態に形成される。図5においては、2本の配線パターン40Bは、接触端子40Aにおける一方側および他方側の縁部に繋がっている。
【0043】
ここで、図5に付された符号について説明する。図5の「43」および「46」は、それぞれ、往復縫い進めの起点および終点である。これらは、本明細書においては「往復起点43」および「往復終点46」と記載する。具体的には、上記順往復縫い進めの場合(図5のVI部を参照)には、往復起点43は先に実行される往路縫い進めの起点であり、往復終点46は後に実行される復路縫い進めの終点である。また、上記逆往復縫い進めの場合(図5のVII部を参照)には、往復起点43は先に実行される復路縫い進めの起点であり、往復終点46は後に実行される往路縫い進めの終点である。
【0044】
図5の「44」および「45」は、それぞれ、往復縫い進めにて実行される縁部縫い進めの起点および終点である。これらは、本明細書においては「縁部起点44」および「縁部終点45」と記載する。また、図5の「43A」は、形成されるべき接触端子40Aの縁部において往復起点43に対向する点であり、本明細書においては「起点対向点43A」と記載する。また、図5の「46A」は、形成されるべき接触端子40Aの縁部において往復終点46に対向する点であり、本明細書においては「終点対向点46A」と記載する。
【0045】
第2の実施形態では、縁部起点44を、起点対向点43Aから見て終点対向点46Aとは反対側に第1の距離44Aだけ離れた位置に設定する。さらに、縁部終点45を、終点対向点46Aから見て起点対向点43Aとは反対側に第2の距離45Aだけ離れた位置に設定する。
【0046】
なお、第2の実施形態においては、往復起点43から縁部起点44に向かう縫い進め方向、および、縁部終点45から往復終点46に向かう縫い進め方向は、その一方においてパーフェクトの態様の糸目42Bが形成され、同じく他方においてヒッチの態様の糸目42Cが形成されるものである。これは、第2の実施形態において使用される刺しゅうミシンの機構上、必然的にそのようになるものである。
【0047】
図5のVI部に示すように、往復起点43から縁部起点44に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の糸目42Bが形成される場合には、第1の距離44Aを第2の距離45Aよりも長く設定する。また、図5のVII部において、仮に縁部終点45から往復終点46に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の糸目42Cが形成される場合であれば、第2の距離45Aを第1の距離44Aよりも長く設定する。
【0048】
上述した第2の実施形態によれば、接触端子40Aの縁部にて交絡点41Cの位置ずれが生じた場合(図5の仮想線を参照)であっても、その影響の一部または全部を第1の距離44Aおよび第2の距離45Aの設定により相殺することができる。そして、接触端子40Aにおいて他の導電部材92と導通する部分(図5にて仮想線で表した導電糸40を参照)の面積が減少するおそれを低減させることができる。
【0049】
さらに、第2の実施形態によれば、刺しゅうミシンの縫い進めの向きに応じて、形成される糸目の態様(パーフェクトまたはヒッチ)が変わっても、糸目41の交絡点41Cの位置ずれによる影響を緩和させることができる。
【0050】
すなわち、パーフェクトの態様の糸目42Bは、図5に示すように、ヒッチの態様の糸目42Cと比して、その糸目41の交絡点41C(図5の仮想線を参照)が位置ずれしやすいという性質を有する。これに対し、上述した第2の実施形態によれば、パーフェクトの態様の糸目42Bにおいてその交絡点41Cが位置ずれしやすいという問題を、この位置ずれの影響を相殺する第1の距離44Aまたは第2の距離45Aの設定により緩和することができる。
【0051】
本開示は、上述した第1および第2の実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本開示の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、以下のような各種の形態を実施することができる。
【0052】
(1)本開示において、刺しゅうミシンにおける上糸および下糸のいずれを非導電糸としいずれを導電糸とするか、ならびに、シート材の表面および裏面のいずれに接触端子および配線パターンを設けるかは、適宜変更することができる。
【0053】
(2)上述した形成ステップは、チップ型発光ダイオードを導通対象として電流を流す接触端子を形成するものに限定されない。すなわち、接触端子は、例えば抵抗器またはバスバーなど、任意の導電部材(素子)を導通対象として電流を流すものとして形成してもよい。また、接触端子は、導通対象に電流を流すための電線(の一部)ではなく、導通対象に電気信号を伝えるための信号線(の一部)として形成してもよい。この場合においては、接触端子は、(電源側と接地側の)2つを対にする必要はなく、シート材に1つだけ形成されるものとしてもよい。
【0054】
(3)上述した第1および第2の実施形態にかかる往路縫い進めおよび復路縫い進めは、刺しゅうミシンにおいてはX方向(左右方向)、Y方向(前後方向)のいずれの方向(図2および図5を参照)へも進めることができる。そのため、X方向(左右方向)、Y方向(前後方向)への往復縫い進めによって、どの位置の糸目がパーフェクトの態様となりどの位置の糸目がヒッチの態様となるかが変わる。しかし、このような場合であっても、往復起点から縁部起点に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の糸目が形成される場合に第1の距離を第2の距離よりも長く設定し、縁部終点から往復終点に向かう縫い進め方向においてパーフェクトの態様の糸目が形成される場合に第2の距離を第1の距離よりも長く設定することで、上述した作用効果を得ることができる。
【0055】
(4)本開示において使用される導電糸は、その表面のめっきによって導電性が担保されている糸に限定されない。すなわち、導電糸は、例えばその構成繊維そのものによって導電性が担保されている糸であってもよい。また、導電糸は、例えばその構成繊維に含浸された物質によって導電性が担保されている糸であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 スマートテキスタイル
10A 非導電糸(上糸)
20 導電糸(下糸)
20A 接触端子
20B 配線パターン
21 糸目
21A 間隔
21B 間隔
21C 交絡点
22 導電糸列
22A ライン
30 スマートテキスタイル
30A 非導電糸(上糸)
40 導電糸(下糸)
40A 接触端子
40B 配線パターン
41 糸目
41A 間隔
41B 間隔
41C 交絡点
42 導電糸列
42A ライン
42B 糸目
42C 糸目
43 往復起点
43A 起点対向点
44 縁部起点
44A 第1の距離
45 縁部終点
45A 第2の距離
46 往復終点
46A 終点対向点
90 シート材
90A 裏面(片側の面)
91 導電部材
92 導電部材
図1
図2
図3
図4
図5