(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133650
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】睡眠補助用装置
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
A61M21/02 C
A61M21/02 G
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109374
(22)【出願日】2024-07-08
(62)【分割の表示】P 2020117215の分割
【原出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】大越 慶太
(72)【発明者】
【氏名】北村 尚也
(72)【発明者】
【氏名】三好 洸了
(72)【発明者】
【氏名】堤 武弘
(72)【発明者】
【氏名】河合 徳枝
(72)【発明者】
【氏名】仁科 エミ
(57)【要約】
【課題】睡眠の質を高めることができる、睡眠補助用装置及び睡眠補助用システムを提供する。
【解決手段】ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置、並びに
ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置と、睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動等を検知し、検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量及び出力パターンを制御する、ハイパーソニック音由来の非可聴音の制御手段と、を有する、睡眠補助用システム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置。
【請求項2】
睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸及び開眼度からなる群より選ばれる少なくとも1つを検知する信号検知部を有し、
前記非可聴音出力部が、前記信号検知部が検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量及び出力パターンを制御する、請求項1に記載の睡眠補助用装置。
【請求項3】
前記ハイパーソニック音が、人間が音として知覚できる可聴周波数範囲の可聴域成分と、可聴域をこえ所定の最大周波数までの範囲内の超高周波成分を有する音であって、ハイパーソニック効果を有する特定の音である、請求項1又は2に記載の睡眠補助用装置。
【請求項4】
前記可聴周波数範囲が、20Hzから15kHz乃至20kHzまでの範囲である、請求項3に記載の睡眠補助用装置。
【請求項5】
ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置と、
睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸及び開眼度からなる群より選ばれる少なくとも1つを検知し、検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量及び出力パターンを制御する、ハイパーソニック音由来の非可聴音の制御手段と、
を有する、睡眠補助用システム。
【請求項6】
前記ハイパーソニック音が、人間が音として知覚できる可聴周波数範囲の可聴域成分と、可聴域をこえ所定の最大周波数までの範囲内の超高周波成分を有する音であって、ハイパーソニック効果を有する特定の音である、請求項5に記載の睡眠補助用システム。
【請求項7】
前記可聴周波数範囲が、20Hzから15kHz乃至20kHzまでの範囲である、請求項6に記載の睡眠補助用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠補助用装置及び睡眠補助用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間は人生の約3分の1を「睡眠」に費やしており、睡眠は人間にとって最も重要な行為と考えられる。しかしながら、現代社会では、生活リズムの乱れやストレス、運動不足等により睡眠不足、不眠等の症状を訴える人が多く存在する。平成27年国民健康・栄養調査報告(厚生労働省,2017)によれば、日本人の約5人に1人は、自身の睡眠全体の質に対して不満を抱えている。加えて、日本人の平均睡眠時間は、年々短くなっていることが報告されている。
【0003】
睡眠の質は、加齢に伴い、低下する(非特許文献1参照)。平成29年版高齢社会白書(内閣府, 2017)によると、少子高齢化が加速して2050年には日本国の高齢化率が40%に達すると公表されている。これらのことから、今後、高齢者数の増加に伴い、睡眠の質が低下した高齢者数が増加すると予想される。
睡眠の質には、身体的要因の他、心理的要因、薬理学的要因、環境要因等の様々な要因が影響する。睡眠の質の低下は、寝つきが悪い入眠障害、夜中に何度も目が覚める中途覚醒、朝早くに目が覚めてしまう早期覚醒、よく眠った感じがしない熟眠不全等を誘発する。睡眠の質の低下は、心筋梗塞や脳梗塞等の重大な疾患に繋がるだけでなく、日中の眠気や疲労から作業能率が低下し、重大な事故に繋がることから、その改善は重要な課題である。
【0004】
睡眠の質の低下に対する治療法としては、ベンゾジアゼピン系や抗ヒスタミン系等の睡眠改善医薬品による薬物療法が挙げられる。これら従来の医薬品は、睡眠改善効果を有するが、精神症状や筋弛緩作用等の副作用がある為、必ずしも十分な解決策とはなっていない。
【0005】
睡眠を導入ないし促進するための装置が、特許文献1及び2などに記載されている。特許文献1及び2に記載の発明では、単一周波数の超音波を照射することで睡眠を導入ないし促進している。
また、特許文献3には、超音波を照射して脳内α波の発生を促すことにより、リラックス効果がもたらされることが記載されている。
一方で、可聴域成分と、可聴域をこえる高周波成分を豊富に含む音であるハイパーソニック音には、ハイパーソニック効果(ハイパーソニック・エフェクト)と呼ばれるリラックス効果があることが知られており、特許文献4には、そのようなハイパーソニック効果を導くことができる振動(ハイパーソニック音)を発生するための装置及び方法が記載されている。
【0006】
しかしこれまでに、非可聴音を利用者に照射することで、睡眠の質を高めることについて、未だ報告はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-199831号公報
【特許文献2】特開2011-56025号公報
【特許文献3】特開2005-342560号公報
【特許文献4】国際公開第2010/089911号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ohayon et al, Sleep, 2004, vol. 27, p. 1255-1273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、睡眠の質を高めることができる、睡眠補助用装置及び睡眠補助用システムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述のように、ハイパーソニック音はリラックス効果(ハイパーソニック効果)を示すが、ハイパーソニック音を構成する、可聴域を超える周波数成分のみからなる非可聴音自体には、ハイパーソニック効果はないとされている(Oohashi et al, Journal of Neurophysiology, 2000, vol. 83, p. 3548-3558参照)。
【0011】
このような知見に対して本発明者らは、これまで睡眠補助に効果がないとされてきた非可聴音に着目し、ストレスや自律神経と睡眠との因果関係と、睡眠補助に導くことができる非可聴音の構造上の特徴について鋭意検討を行った。その結果、単一周波数ではない、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみをヒトに照射することで、健康面や心理状態に負の効果をもたらすことなく、睡眠の質が高められることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0012】
本発明は、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置に関する。
【0013】
また本発明は、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置と、
睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸及び開眼度からなる群より選ばれる少なくとも1つを検知し、検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量及び出力パターンを制御する、ハイパーソニック音由来の非可聴音の制御手段と、
を有する、睡眠補助用システムに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の装置及びシステムは、健康面や心理状態に負の効果をもたらすことなく、睡眠の質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の睡眠補助用装置の好ましい実施形態を示すブロック図である。
【
図2】本発明の睡眠補助用装置の別の好ましい実施形態を示すブロック図である。
【
図3】本発明の睡眠補助用装置のさらに別の好ましい実施形態を示すブロック図である。
【
図4】本発明の睡眠補助用装置のさらに別の好ましい実施形態を示すブロック図である。
【
図5】実施例で用いた睡眠補助用装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の睡眠補助用装置及び睡眠補助用システムは、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する。
後述の実施例でも示すように、ハイパーソニック音由来非可聴音のみをヒトに照射することで睡眠状態を改善することができる。
以下、本発明で用いるハイパーソニック音由来の非可聴音について説明する。しかし本発明は、これに制限するものではない。
【0017】
本発明において、ハイパーソニック音とは、人間が音として知覚できる可聴周波数範囲(例えば、20Hzから15kHz乃至20kHzまでの範囲)の可聴域成分と、可聴域をこえ所定の最大周波数までの範囲内の超高周波成分を有する音であって、ハイパーソニック効果と呼ばれるリラックス効果を有する特定の音を指す。
ここで、ハイパーソニック効果とは、ハイパーソニック音の受容者の基幹脳(視床、視床下部、脳幹を含む基幹的機能を担う深部構造)およびそれに発する神経ネットワーク(基幹脳ネットワーク系)を活性化し、それを反映した領域脳血流値の増大、脳波α波の増強、免疫活性の上昇、ストレス性ホルモンの減少、音のより快く美しい受容の誘起、音をより大きく聴く行動の誘導などのいずれかの反応を導く効果を指し、このような効果を有する音として、都市化が進行している市街地環境音には含まれない可聴域上限を上回る高周波成分を含む熱帯雨林環境音が用いられている(公益社団法人 日本都市計画学会 都市計画論文集、2007年、42-3巻、139-144頁)。
本発明で用いられるハイパーソニック音由来の非可聴音とは、前記ハイパーソニック音から可聴周波数範囲の可聴域成分を除いた(カットされた)非可聴音を指す。
【0018】
ハイパーソニック音についてより詳細には、前記基幹脳ネットワーク系の活性化を導くハイパーソニック音の信号発生装置における振動信号の構造上の特徴が特許文献4に規定されている。具体的には、ハイパーソニック音は、可聴周波数範囲の振動成分である可聴域成分と、前記可聴周波数範囲をこえ所定の最大周波数までの範囲内の超高周波成分とを有し、第1の性質と第2の性質とのうち少なくともいずれかの性質で表される自己相関秩序を有する振動と規定されている。
以下、第1の性質と第2の性質について具体的に説明する。
【0019】
第1の性質とは、前記可聴周波数範囲をこえる成分についての、時間、周波数及びパワーの三次元パワースペクトルアレイの形状が、自己相似性をもった複雑さである下記のフラクタル性の特徴を有するものであって、上記形状の自己相似性を表現する「フラクタル次元局所指数」が、それを計測する尺度となる「時間周波数構造指標」が2-1~2-5の範囲において、平面の「位相次元」である次元数2と異なり、かつ、立方体の「位相次元」である次元数3とも異なる、2.2以上2.8以下の値を常にとり、かつ、上記時間周波数構造指標が2-1~2-5の範囲で変化しても、フラクタル次元局所指数は大きく変化せず、変動幅が0.4以内におさまることである。
【0020】
ここで、振動信号の三次元パワースペクトルアレイとは、基幹脳活性化効果を導くことのできる振動の候補となる振動の51.2秒間の信号を、標本化周波数192kHz、量子化ビット数24ビット又は12ビットでデジタル化し、信号全体の分散を標準化して、全体を単位解析区間長200ミリ秒、単位解析区間重複50%に分割し、それぞれの区間毎にユール・ウォーカー法を用いて自己相関モデル次数10でパワースペクトル推定を行い、得られたパワースペクトルから人間の可聴域上限をこえる20kHzから96kHzの帯域成分を抽出して、その時間変化を、横軸(左から右)を周波数の線形表示、前後軸(手前から奥)を時間の線形表示、上下軸(下から上)を各周波数成分の各時点におけるパワーの対数表示として、三次元的に描出することにより得られるものとする。
また、「フラクタル次元局所指数」とは、ボックスカウンティング法を用いて曲面のフラクタル次元を計算するときに使用する基準ボックス(すなわち「ものさし」となる立方体もしくは直方体)の一辺の長さの対数を横軸、その大きさの基準ボックスで三次元パワースペクトルアレイ曲面を覆うために必要最低限の基準ボックス数の対数を縦軸とし、異なる大きさの基準ボックスに対して必要基準ボックス数をプロットしたとき、隣り合った2点を結んだ直線の傾き(すなわちグラフの局所の傾き)を逆符号にした値である。
さらに「時間周波数構造指標」とは、ボックスカウンティング法を用いて三次元パワースペクトルアレイ曲面のフラクタル次元局所指数を計算する時に用いる基準ボックスの一辺の長さを、解析対象となる三次元パワースペクトルアレイの周波数帯域幅全体(横軸)及び時間全体(前後軸)に対する比として正規化して表したものである。
【0021】
第2の性質とは、振動信号の時系列が、完全に予測可能で規則的なものではなく、かつ、完全に予測不可能でランダムなものでもなく、さらにその予測可能性あるいは不規則性の度合いが時間とともに変化することである。すなわち、時系列データの不規則性を表す「情報エントロピー密度」が、サイン波のような完全に確定的で規則的な信号が示す-5よりもさらに小さな値をとらず、かつ、ホワイトノイズのように完全にランダムな信号が示す0をとらず、常に-5以上0未満の範囲内の値をとり、加えて、その値がサイン波やホワイトノイズのように時間的に一定の値をとらず情報エントロピー密度の時間変化度合を表す「エントロピー変動指標」(Entropy Variation Index:以下、EV-indexとも略する。)が、51.2秒間において、0.001以上の値をとることである。
【0022】
ここで、振動信号の時系列データの「情報エントロピー密度」は、基幹脳活性化効果を導くことのできる振動の候補となる振動の51.2秒間の信号を標本化周波数192kHz、量子化ビット数24ビット又は12ビットでデジタル化し、全体を単位解析区間長200ミリ秒、単位解析区間重複50%に分割し、それぞれの区間毎にユール・ウォーカー法を用いて自己相関モデル次数10でパワースペクトル推定を行い、得られたパワースペクトルから計算するものとする。また、「EV-index」とは、各単位解析区間の情報エントロピー密度の、全解析対象区間の分散である。
【0023】
次に、「自己相関秩序」について説明する。
無機的な物質世界を構成する原子や分子をはじめとする諸要素の加算的集合は、熱力学第二法則に従って熱エントロピーすなわち「乱雑さ」が時間とともに一方向性に増大するという特徴をもっている。その一方、生命を含む自然界に存在する複雑な構造は、こうした特徴をもった原子や分子を含む諸要素が、ユークリッド幾何学やデカルト的数理学に代表される決定論的な規則性とは異なる何らかの「秩序」に従って自己組織化することにより生み出される。こうした特徴は、例えば生体分子の階層性や、遺伝子による生命活動の制御、アデノシン3リン酸を用いたエネルギー利用などの仕組みを基盤として構成される細胞や生体などの生命現象とそれらが生み出す構造などの中に典型的にみられる。生命現象以外の自然構造にも、例えば岩石の組成や地形、結晶構造などに類似した傾向を見出すことができる。さらに、こうして自己組織化した自然構造物の1つとして生み出された「生命体としての人間」の感覚や感性に適合性の高い人工物、例えば自然性の高い日本庭園や民族楽器音などにも同様の構造をみてとることができる。
こうした生命現象にかかわる自然性の高い構造に広く見られる「複雑ではあるけれども乱雑ではなく構造化された秩序」を表す概念を、「自己相関秩序」と呼ぶ。これは、自らが内的に有する相関性に従って組織化されること、又は組織化することによって構造が生み出されるという普遍的な現象を包括して表現した概念である。自己相関秩序によって生み出される構造は、例えばフラクタル次元で表現されるような自己相似性や、完全に乱雑ではなく完全に規則的でもない適度な範囲の情報エントロピー密度を示す時系列構造、さらに時間的な構造変容、カオスといった特徴を示すことがあり得る。自己相関秩序は、これら複雑系のもつ特徴を包括する概念ともいうことができる。
【0024】
次に、自己相関秩序に関する第1の性質について説明する。自然界の天然の構造物のもつ複雑に入り組んだ構造は、その細部を拡大すると、拡大前とそっくり同じような形を示すことが多い(例:樹木の枝分かれ、木の葉の葉脈、海岸線、人体内の血管分布、肺内部の肺胞分布など)。このように、ある範囲内での粗いレベルから細かいレベルにかけて、よく似た構造が再帰的に繰り返されている場合には、その範囲内で、形状の複雑さと自己相似性を表現するフラクタル次元が、位相次元とは異なる一定の値をとる。
【0025】
基幹脳活性化効果を導くことができる振動は、人間の可聴域上限をこえる超高周波領域における振動信号の時間周波数構造を三次元パワースペクトルアレイの曲面として表示した場合に、その構造が自然の構造物と同じように再帰的な複雑性をそなえているため、ある範囲内の大きさをもった「ものさし」を用いてフラクタル次元を求めた場合、その範囲内で「ものさし」の大きさが変化してもフラクタル次元の局所指数が一定の範囲内におさまる性質をもつ。
一方、基幹脳活性化効果を持たない振動、例えばホワイトノイズやサイン波の振動信号の三次元パワースペクトルアレイのフラクタル次元は、平面の位相次元である2あるいはそれに近い値をとり、またフラクタル次元の局所指数が「ものさし」の大きさによって大きく変動する。
一般に、ボックスカウンティング法を用いてフラクタル次元を求める場合には、上記のグラフから得られる回帰直線の傾きを逆符号にした値が、フラクタル次元となる。従ってフラクタル次元局所指数とは、上記グラフの局所の傾き(すなわち微分値)となる。離散化されたデータでは上記微分値は差分により求める。
【0026】
可聴周波数範囲をこえる範囲の三次元パワースペクトルアレイの抽出や、時間周波数構造のフラクタル次元局所指数の算出については、特許文献4などを参考に、常法により行うことができる。
【0027】
次に、自己相関秩序に関する第2の性質について説明する。
自然界で観察される自己相関秩序をもった時系列の多くは、完全にランダムではなく、かつ、完全に規則的でもない構造を示す。すなわち、ホワイトノイズのように完全にランダムで予測可能性を全くもたない時系列ではなく、同時に、サイン波などのように完全に予測可能で確定的な規則性を有している時系列でもなく、自己相関秩序にみあった固有の予測可能性と不規則性とをあわせもっている。従って、信号の不規則性の指標である「情報エントロピー密度」を求めた場合、本発明で用いる前記非可聴音の振動は、例えばホワイトノイズのような完全に不規則で予測不能な振動と、例えばサイン波のような完全に規則的で確定的な振動との間の一定の範囲内の値を示すことが好ましい。さらに、本発明で用いる前記非可聴音の振動は、時間とともに自己相関構造が変化し、情報エントロピー密度が時間的に一定範囲以上の変動を示すことが好ましい。
これに対して、例えばホワイトノイズのような完全に不規則な信号からなる振動では、情報エントロピー密度は理論的に常に最大値をとり、完全に確定的な信号からなる振動、例えばサイン波は、理論的に常に最小値をとる。さらに、ホワイトノイズやサイン波では、情報エントロピー密度は常に一定の値を示す。
【0028】
第2の性質を満たす振動の情報エントロピー密度とその時間変化、並びに情報エントロピー密度の時間変化度合を表す「エントロピー変動指標」について、特許文献4に詳細に記載されており、本発明で参照することができる。
【0029】
可聴周波数範囲をこえ所定の最大周波数(例えば、88.2kHz、96kHz、100kHz、176.4kHz、192kHz、200kHz、300kHz、500kHz又は1MHz)までの範囲内の超高周波成分を有し、第1の性質及び第2の性質の少なくともいずれかの性質で表される自己相関秩序を有する非可聴音を発生する音源としては、チェンバロ、Blu-rayDisc版AKIRAサウンドトラック、尺八、バイオリン、本明細書中の実施例で使用される熱帯雨林環境音、ガムラン、水音、グルジア男声合唱団などが挙げられる。しかし本発明は、これらに制限するものではない。
【0030】
後述の実施例で示すように、非可聴音をヒトに照射することで、睡眠補助効果を奏する。本発明においては、ヒトが知覚でき、騒音となりうる可聴音(可聴周波数範囲の可聴域成分)は照射しないので、静寂な環境を作り出すことができ、その結果、よりよい睡眠状態に導くことができる。
本発明の睡眠補助用装置及び睡眠補助用システムを用いて非可聴音のみをヒトに照射する環境としては、可聴音の音圧が、100dB以下、好ましくは80dB以下、より好ましくは60dB以下の環境下で照射することが望ましい。
可聴音の周波数の範囲は、各自の聴力によるが、通常20Hzから15kHz乃至20kHzまでの範囲である。
【0031】
以下、本発明の睡眠補助用装置の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。しかし本発明は、これに制限するものではない。
【0032】
図1は本発明の睡眠補助用装置の好ましい実施態様の構成を示すブロック図である。
図1に示す睡眠補助用装置10は、信号発生装置(信号発生部)1と非可聴音出力部2が接続されており、非可聴音出力部2からハイパーソニック音由来の非可聴音のみが出力される。
【0033】
信号発生装置(信号発生部)1は、音源情報を保持している部分とその音源情報を電気信号に変換する部分から構成される。信号発生装置(信号発生部)1は、その内部に保持されている音源の情報に基づいて、非可聴音のみを発生させるために必要な電気信号(振動信号)を出力する。出力される信号の強度に応じて、信号発生装置(信号発生部)1には信号増幅装置(アンプなど)が接続されていてもよいし、信号増幅部が内蔵されていてもよい。
【0034】
信号発生装置(信号発生部)1から発生する電気信号を、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみをスピーカーなどの非可聴音出力部2から出力するための電気信号とするためには、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみの情報が信号発生装置(信号発生部)1に音源情報として保持されていることが好ましい。この場合、信号発生装置(信号発生部)1から発生したハイパーソニック音由来の非可聴音のみの周波数信号に基づいて、非可聴音出力部2がハイパーソニック音由来の非可聴音のみを出力する。
あるいは、信号発生装置(信号発生部)1にはハイパーソニック音の情報が音源情報として保持されていてもよい。この場合、フィルター処理などの処理を電気信号にかけることで、可聴周波数範囲の可聴域成分をカットし、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみの周波数信号を抽出する。そして、抽出した周波数信号に基づいて、非可聴音のみを非可聴音出力部2が出力する。フィルターとしては、例えばFukushima A et al, PLoS One. 2014, vol. 9, e95464に記載されている、FV-66及び3628(NF Electronic Instruments, Yokohama, Japan)を使用することができる。
【0035】
信号発生装置(信号発生部)1から再生された、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみの周波数信号は、非可聴音出力部2から空気振動に変換されてハイパーソニック音由来の非可聴音のみが放射される。非可聴音出力部2として使用されるスピーカーとしては、非可聴域の振動を出力することが可能なスピーカーであれば特に限定されず、市販のスピーカーを使用することも可能である。例えば、スーパーツィーターPT-R100(パイオニア社製)などを使用することができる。
【0036】
図1では非可聴音出力部2は1つ記載されているが、本発明の装置は非可聴音出力部2を2つ以上有していてもよい。また、
図2に示すように、本発明の装置には、利用者の状態などに応じて、非可聴音の照射量や照射パターンを変えるための制御装置又は制御部3を加えてもよい。例えば、予め定められた時刻に非可聴音の出力を開始させ、予め定められた時刻に非可聴音の出力を停止する機能を有する制御装置を連結させてもよいし、このような機能を有する制御部を本発明の装置に内蔵させてもよい。さらに、赤外線センサ、変位センサ等のセンサにより、利用者の存在を検知して、信号発生装置(信号発生部)1が電気信号を発する構成その他の構成を有することができる。
さらに、
図3に示すように、
図1に示す睡眠補助用装置10の信号発生装置(信号発生部)1と、利用者5に取り付けた、体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸、開眼度などを検知するセンサ(信号検知部)4とを連動させ、センサ4で検知した利用者5の情報に基づいて、信号発生装置(信号発生部)1から出力される電気信号を制御してもよい。
または、
図4に示すように、
図2に示す睡眠補助用装置10の制御装置(制御部)3と、利用者5に取り付けた、体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸、開眼度などを検知するセンサ(信号検知部)4とを連動させ、センサ4で検知した利用者5の情報に基づいて、非可聴音出力部2に送る非可聴音のみの周波数信号を制御してもよい。
【0037】
睡眠の深さの度合いは、体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸、開眼度などと関係性を有することが知られている(日本睡眠学会、睡眠学、2009、p. 690-699、特開2016-209013号公報、国際公開第2016/096518号など参照)。
そこで、本発明では、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部と、睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸及び開眼度からなる群より選ばれる少なくとも1つを検知する信号検知部(センサ)を有し、非可聴音出力部が、信号検知部が検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量ないし照射量、並びに出力パターンないし照射パターンを制御することが好ましい。このような構成を有する本発明の装置若しくはシステムは、利用者の睡眠の深さの度合いに応じて、照射するハイパーソニック音由来の非可聴音を制御することができる。
なお、体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸、及び開眼度は、常法に従い検知することができる。
【0038】
超高周波成分を豊富に含む環境音から変換された非可聴音などの、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを照射することで、入眠の促進や、睡眠の質の向上がもたらされる。本発明は、睡眠の質の改善(好ましくは入眠と睡眠維持の改善、より好ましくはOSA睡眠調査票MA版(一般社団法人日本睡眠改善協議会提供)における「入眠と睡眠維持」の項目の改善)を希望するヒトに利用させることが望ましい。また、本発明は、就床時と比較して、睡眠によっても起床時の不安が軽減しないヒトに利用させることも好ましい。
なお、このようなハイパーソニック音由来の非可聴音のみの照射は睡眠を補助するためのものであるため、非治療的行為である。本明細書において「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まないことを意味する。
【0039】
本発明の装置及びシステムの使用態様について特に制限はなく、装置及びシステムの形態や、利用者の体調などに応じて、睡眠導入前や睡眠中に適宜利用できる。
本発明の装置及びシステムから照射されるハイパーソニック音由来の非可聴音の照射量は適宜選択できる。また、ハイパーソニック音由来の非可聴音の照射時間についても特に制限はなく、断続的に一定時間照射してもよいし、連続的に一定時間照射してもよい。
【0040】
本発明の装置及びシステムの形態は、睡眠を妨げずに利用者にハイパーソニック音由来の非可聴音のみを照射できれば特に制限はない。
本発明の装置及びシステムの具体例としては、ベッド、マット、布団、枕などの寝具、スピーカー、音楽プレーヤー、ヘッドホン、イヤホンなどの音響装置、携帯用通信端末、ブローチ、ペンダントなどの装身具、衣服、などが挙げられる。
【0041】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の睡眠補助用装置、睡眠補助用システム、及び睡眠補助方法を開示する。
【0042】
<1>ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置。
【0043】
<2>音源情報としてハイパーソニック音由来の非可聴音のみの情報を保持する信号発生装置ないし信号発生部を有し、信号発生装置ないし信号発生部から発生したハイパーソニック音由来の非可聴音のみの周波数信号に基づいて、前記非可聴音出力部がハイパーソニック音由来の非可聴音のみを出力する、前記<1>項に記載の睡眠補助用装置。
<3>音源情報としてハイパーソニック音の情報を保持する信号発生装置ないし信号発生部を有し、信号発生装置ないし信号発生部においてハイパーソニック音由来の非可聴音のみの周波数信号を抽出し、抽出した周波数信号に基づいて、前記非可聴音出力部がハイパーソニック音由来の非可聴音のみを出力する非可聴音出力部と、
を有する、前記<1>項に記載の睡眠補助用装置。
<4>睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸及び開眼度からなる群より選ばれる少なくとも1つを検知する信号検知部を有し、
前記非可聴音出力部が、前記信号検知部が検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量及び出力パターンを制御する、前記<1>~<3>のいずれか1項に記載の睡眠補助用装置。
【0044】
<5>ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを発生する非可聴音出力部を有する、睡眠補助用装置と、
睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸及び開眼度からなる群より選ばれる少なくとも1つを検知し、検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量及び出力パターンを制御する、ハイパーソニック音由来の非可聴音の制御手段と、
を有する、睡眠補助用システム。
【0045】
<6>前記睡眠補助用装置が、音源情報としてハイパーソニック音由来の非可聴音のみの情報を保持する信号発生装置ないし信号発生部を有し、信号発生装置ないし信号発生部から発生したハイパーソニック音由来の非可聴音のみの周波数信号に基づいて、前記非可聴音出力部がハイパーソニック音由来の非可聴音のみを出力する、前記<5>項に記載の睡眠補助用システム。
<7>前記睡眠補助用装置が、音源情報としてハイパーソニック音の情報を保持する信号発生装置ないし信号発生部を有し、信号発生装置ないし信号発生部においてハイパーソニック音由来の非可聴音のみの周波数信号を抽出し、抽出した周波数信号に基づいて、前記非可聴音出力部がハイパーソニック音由来の非可聴音のみを出力する、前記<5>項に記載の睡眠補助用システム。
【0046】
<8>ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを利用者に照射する、睡眠補助方法。
【0047】
<9>睡眠の深さの指標として、ハイパーソニック音由来の非可聴音が照射される利用者の体動、心拍、脈拍、脳波、筋電、眼電、血中酸素飽和度、皮膚温、深部体温、発汗、呼吸及び開眼度からなる群より選ばれる少なくとも1つを検知し、検知した指標に応じてハイパーソニック音由来の非可聴音の出力量及び出力パターンを制御する、前記<8>に記載の睡眠補助方法。
<10>可聴音の音圧が100dB以下、好ましくは80dB以下、より好ましくは60dB以下、の環境下で、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを利用者に照射する、前記<8>又は<9>項に記載の睡眠補助方法。
<11>睡眠補助方法の利用者が、睡眠の質の改善を希望するヒト、好ましくは入眠と睡眠維持の改善を希望するヒト、より好ましくはOSA睡眠調査票MA版(一般社団法人日本睡眠改善協議会提供)における「入眠と睡眠維持」の項目の改善を希望するヒトである、前記<8>~<10>のいずれか1項に記載の睡眠補助方法。
<12>睡眠補助方法の利用者が、就床時と比較して、睡眠によっても起床時の不安が軽減しないヒトである、前記<8>~<11>いずれか1項に記載の睡眠補助方法。
【0048】
<13>前記ハイパーソニック音が、人間が音として知覚できる可聴周波数範囲の可聴域成分と、可聴域をこえ所定の最大周波数までの範囲内の超高周波成分を有する音であって、ハイパーソニック効果を有する特定の音である、前記<1>~<12>のいずれか1項に記載の装置、システム又は方法。
<14>前記可聴周波数範囲が、20Hzから15kHz乃至20kHzまでの範囲である、前記<1>~<13>のいずれか1項に記載の装置、システム又は方法。
<15>前記最大周波数が、88.2kHz、96kHz、100kHz、176.4kHz、192kHz、200kHz、300kHz、500kHz又は1MHzである、前記<1>~<14>のいずれか1項に記載の装置、システム又は方法。
<16>前記非可聴音が、下記に示す第1の性質及び第2の性質の少なくともいずれかの性質で表される自己相関秩序を有する、前記<1>~<15>のいずれか1項に記載の装置、システム又は方法。
(第1の性質)
前記可聴周波数範囲をこえる成分についての、時間、周波数及びパワーの三次元パワースペクトルアレイの形状が自己相似性をもった複雑さであるフラクタル性を有するものであって、
ボックスカウンティング法を用いて前記三次元パワースペクトルアレイの曲面のフラクタル次元を計算するときに当該曲面を覆うための必要最低限の基準ボックス数の対数を基準ボックス数に対してプロットしたときの隣接する2点を連結する直線の傾きを逆符号にした値であり、当該形状の自己相似性を表す値であるフラクタル次元局所指数が、上記基準ボックスの一辺の長さを正規化して定義される時間周波数構造指標が2-1~2-5の範囲において、2.2以上2.8以下の値を有し、上記時間周波数構造指標が2-1~2-5の範囲で変化したときに上記フラクタル次元局所指数の変動幅が0.4以内である。
(第2の性質)
前記非可聴音の振動信号の時系列が、完全に予測可能で規則的なものと、完全に予測不可能でランダムなものとを除き、上記振動信号の時系列の予測可能性又は不規則性の度合いが時間とともに変化するものであって、
時系列データの不規則性を表す情報エントロピー密度が-5以上0未満の範囲内の値を有し、上記情報エントロピー密度の分散であって時間変化度合を表すエントロピー変動指標(Entropy Variation Index;EV-index)が51.2秒間において0.001以上の値を有する。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
本実施例における試験の概要について表1に示す。この表に示されるように、試験は、20~30歳代の健常男性18名に対して、試験音を照射する処理群と、試験音照射のない試験環境音(暗騒音)だけの対照群との2群クロスオーバー/ダブルブラインドの形態で行った。ウォッシュアウト期間は1週間であり、試験参加者ごとに月曜日から木曜日の同一曜日に実施した。試験音照射は、試験参加者の就床前から起床後まで継続的に行った。
【0051】
【0052】
ハイパーソニック音由来の非可聴音を出力するための音源として、公益社団法人 日本都市計画学会 都市計画論文集、2007年、42-3巻、139-144頁を参考に、人為の及んでいない希少な熱帯雨林が良好に保全されているマレーシア・サバ州で録音した環境音録音物を使用した。そして、環境音の収録における信号処理は高速標本化1ビット量子化方式で行い、これを超広帯域地域環境音編集システムで編集し、シンセサイザーなどを用いてその音響効果を高める加工を行った。このような編集・加工処理を行った後、サンプリング周波数2.8224MHzで光ディスク上に記録した。このようにして準備した音源は、日本都市計画学会 都市計画論文集、2007年、42.3巻、139-144頁に記載されているように、150kHzを上回る高周波成分が豊富に含まれている。
【0053】
本実施例で使用した睡眠補助用装置の概略を
図5に示す。
図5に示されるように、睡眠補助用装置100は、周波数信号を電気的に発生する信号発生部101と、非可聴音出力部として、信号発生部101で発生した周波数信号に基づいてハイパーソニック音由来の非可聴音を発生するスピーカー103と、を備えている。信号発生部101とスピーカー103とは別々の筐体を有し、信号線107で接続されている。
【0054】
試験前日は、順化のため、0kHz以上20kHz未満の可聴領域を就床前から起床後まで照射した。この時の音の強さは、寝具105上にいる試験参加者200の頭の位置で56.1dBであった。なお、本試験の睡眠補助用装置100の非可聴音出力部として、一辺30cm程度の小型スピーカー103(2台)を使用し、試験参加者200の頭部から足方向に延びる鉛直面202を挟んだ両側に配置した。なお、この小型スピーカー103は、可聴音の出力も可能であり、順化のための可聴領域の音出力においても使用した。また試験音は、室温25℃±3℃、湿度50~60%で照射した。さらに、外部からの光刺激を遮断するため、就床前にカーテンを閉め、部屋の照明も消し、照明光が直接的に試験参加者に届かない状態とした。その他の試験環境及び試験参加者の制限事項は、前記表1に記載の通りである。
【0055】
評価は、試験参加者の起床時に、OSA睡眠調査票MA版(一般社団法人日本睡眠改善協議会提供)を用いて、睡眠の質について評価した。OSA睡眠調査票MA版は、16個の質問に対しそれぞれ4段階で答えることにより、睡眠の状態について評価する調査方法である。OSA睡眠調査票MA版の睡眠の状態のついての5つの評価項目のうちの1つである「入眠と睡眠維持」の項目に関する反応尺度値(Zc得点)の結果を表2に示す。この結果は、平均値±標準誤差で示され、Zc値は、数値が高いほど睡眠の状態が良いことを示している。
【0056】
【0057】
表2に示されるように、試験音が照射される環境下の処理群のZc得点は20.1±1.6であるのに対し、暗騒音の環境下の対照群のZc得点は16.4±1.7であり、試験音環境下の処理群のZc得点は、暗騒音の環境下の対照群のZc得点の約23%増となっている。
したがって、試験音であるハイパーソニック音由来の非可聴音を照射することにより睡眠の状態がよくなり、睡眠の質を高められることが確認された。
【0058】
また、OSA睡眠調査票MA版による評価に加えて、試験参加者の就床前と起床後に不安の強さをVAS(Visual Analog Scale)を用いて評価した。この評価方法は、例えば長さ10cmのスケールにおいて想像できる最も大きな不安をスケールの右端として、自分がどれくらいの不安度であるかを示す評価方法である。その結果を表3に示す。
【0059】
【0060】
表3は、利用者の就床時と起床時における、VASを用いた不安の強さの変化量(起床時の値から就床時の値を引いた値)を示す表である。変化量は、平均値±標準誤差で示した。
表3に示されるように、試験音環境下の処理群では、平均値が就床時よりも起床時の方が不安の少ないマイナスの値(-5.7±4.1)となり、試験音環境下の処理群においては、平均値がプラスの値(3.1±4.9)となった暗騒音の環境下の対照群より不安が軽減される傾向が見られた。
【0061】
これまでの報告から、不安と睡眠の質に関する関係性が知られており、就床前の不安が強い人はNREM睡眠量が少ないことが報告されている(Biological Psychology, 66, 169-176, 2004)。
【0062】
そこで、次に表3における暗騒音環境の対照群の試験参加者のうち、不安の強さの変化量がプラス、つまり起床後において不安が軽減されなかった試験参加者8名を対象(処理群)として、「入眠と睡眠維持」の項目に関する反応尺度値(Zc得点)を解析した。その結果を表4に示す。尚、統計学的有意差検定にはPaired T-testを使用し、P<0.05を有意差ありと判定した。
【0063】
【0064】
表4に示されるように、試験音が照射される環境下の処理群のZc得点は23.1±1.6であるのに対し、暗騒音の環境下の対照群のZc得点は16.0±3.0であり、暗騒音の環境下の対照群と比較して処理群は、対照群の約44%増の得点となっている。これにより、試験参加者の不安の軽減を介して、睡眠を補助していることが伺える。したがって、試験音である非可聴音を照射することにより、特に睡眠により不安が軽減しない人に対して、睡眠の質を高められることが確認された。
【0065】
以上説明したように、ハイパーソニック音由来の非可聴音のみを照射することで、健康面や心理状態に負の効果をもたらすことなく、睡眠の質を高めることができる。