(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133668
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用治療計画システム、BNCTシステム及びBNCT
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
A61N5/10 S
A61N5/10 H
A61N5/10 P
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109863
(22)【出願日】2024-07-08
(62)【分割の表示】P 2020557752の分割
【原出願日】2019-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2018220561
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(72)【発明者】
【氏名】熊田 博明
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ホウ素中性子捕捉療法用治療計画システムを提供する。
【解決手段】それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置の中性子線照射口に対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる理想患者位置と、想定される複数の照射直前の血中ホウ素濃度測定値から推定される推定段階的減少ホウ素濃度値と、各推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく付与線量を算出する算出手段により算出された想定ホウ素濃度付与線量と、を記憶しておく記憶手段を備え、照射直前の血中ホウ素濃度測定値を受信すると、当該測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値を選択し、当該ホウ素濃度値に基づく想定ホウ素濃度付与線量を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するBNCT用治療計画システム。
【選択図】
図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置の中性子線照射口に対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる理想患者位置と、
想定される複数の照射直前の血中ホウ素濃度測定値から推定される推定段階的減少ホウ素濃度値と、
各推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく付与線量を算出する算出手段により算出された想定ホウ素濃度付与線量と、を記憶しておく記憶手段を備え、
照射直前の血中ホウ素濃度測定値を受信すると、当該測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値を選択し、当該ホウ素濃度値に基づく想定ホウ素濃度付与線量を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴とするBNCT用治療計画システム。
【請求項2】
それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置の中性子線照射口に対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる理想患者位置と、
各々の患者に特有のその患者が治療中に取る確率が高いと想定される少なくとも1以上の想定患者位置と、
各想定患者位置における付与線量を算出する算出手段により算出された想定患者位置付与線量と、
想定される複数の照射直前の血中ホウ素濃度測定値から推定される推定段階的減少ホウ素濃度値と、
各推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく付与線量を算出する算出手段により算出された想定ホウ素濃度付与線量と、を記憶しておく記憶手段を備え、
実治療中に、患者位置計測システムから患者位置変動の信号を受信すると、当該患者位置に最も近い想定患者位置を選択し、当該想定患者位置とともに、当該想定患者位置における付与線量、
及び照射直前の血中ホウ素濃度測定値を受信すると、当該測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値を選択し、当該ホウ素濃度値に基づく想定ホウ素濃度付与線量を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴とするBNCT用治療計画システム。
【請求項3】
中性子線照射装置、患者保持装置、患者位置計測システム、BNCT用治療計画システム、及び中性子線照射制御システムを含んで構成されるBNCTシステムであって、
前記中性子線照射制御システムが、請求項1又は請求項2に記載のBNCT用治療計画システムから送信されてくる付与線量の情報を記憶する記憶手段、及びこれら付与線量を積算し、積算値が治療目標値に到達した時点で、照射終了制御を行う照射制御部を備えていることを特徴とするBNCTシステム。
【請求項4】
それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置の中性子線照射口に対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる理想患者位置と、治療中の想定平均ホウ素濃度と、を記憶しておく記憶手段、及び高速線量計算部を備え、
実治療中に、患者位置計測システムから前記理想患者位置からの患者位置の変動信号を受信すると、当該変動に対応する患者位置で、及びホウ素濃度は、照射直前の血中ホウ素濃度の測定値から推定された照射時平均ホウ素濃度で計算モデルの条件を再現し、
再現された計算モデルの条件下での線量計算を前記高速線量計算部で実行し、
高速計算された付与線量値を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴とするBNCT用治療計画システム。
【請求項5】
それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置の中性子線照射口に対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる理想患者位置を記憶しておく記憶手段、及び高速線量計算部を備え、
実治療中に、ホウ素濃度が逐次計測され、これら計測値を受信すると、
ホウ素濃度は逐次計測された計測値に変更する一方、患者位置は前記理想患者位置に維持したままの計算モデルの条件を再現し、
再現された計算モデルの条件下での線量計算を前記高速線量計算部で実行し、
高速計算された付与線量値を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴とするBNCT用治療計画システム。
【請求項6】
それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置の中性子線照射口に対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる理想患者位置を記憶しておく記憶手段、及び高速線量計算部を備え、
実治療中に、患者位置計測システムから前記理想患者位置からの患者位置の変動信号を受信すると、当該変動に対応する患者位置で、及びホウ素濃度は、実治療中に、即発γ線測定法により、逐次計測された計測値で計算モデルの条件を再現し、
再現された計算モデルの条件下での線量計算を前記高速線量計算部で実行し、
高速計算された付与線量値を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴とするBNCT用治療計画システム。
【請求項7】
中性子線照射装置、患者保持装置、患者位置計測システム、BNCT用治療計画システム、及び中性子線照射制御システムを含んで構成されるBNCTシステムであって、
前記中性子線照射制御システムが、請求項4~6のいずれかの項に記載のBNCT用治療計画システムから送信されてくる付与線量の情報を記憶する記憶手段、及びこれら付与線量を積算し、積算値が治療目標値に到達した時点で、照射終了制御を行う照射制御部を備えていることを特徴とするBNCTシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:以下、BNCTと記す)用治療計画システム、BNCTシステム及びBNCTに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線の種類は大きく分けてアルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線、エックス(X)線、陽子線、重イオンなどの荷電粒子線、および中性子線があり、ここで後に列記されたものほど物質を透過する能力(透過力)が大きい。
【0003】
放射線の有効利用の代表的なものが医療分野への応用である。特に癌治療にこれら放射線が用いられており、X線を用いるX線治療、陽子、炭素などの粒子を用いる“粒子線治療”などがある。
放射線を使って癌治療を行う際には、できるだけ癌病巣に放射線を集中させる一方、周囲の正常組織に対しては極力放射線が当たらないようにし、癌病巣と正常組織とにそれぞれ付与される放射線量の差を利用して治療を行う。
現状の放射線療法では医療効果を得るため、癌病巣と正常組織とが近接しているような癌や正常組織の中に癌が浸潤しているような癌の場合、正常組織にも多くの放射線が付与されてしまい、副作用や晩期障害が生じる恐れもある 。
【0004】
近年、こうした副作用や晩期障害を生じさせないために、放射線を癌にピンポイントで当てる方法が研究されている。その例として、立体照射による正確な癌部位への高線量照射である“強度変調放射線治療法(IMRT)”、患者の呼吸や心臓の動きなど体内の動きに合わせて放射線を照射する“動体追跡放射線治療法”、治療効果の高い重粒子線や陽子線などを集中的に当てる“粒子線治療法”などを挙げることができる。
【0005】
これらのX線治療、粒子線治療に加えて、近年、特に、注目されているのが中性子線とホウ素化合物とを組み合わせて、細胞レベルで癌を選択的に破壊して治療する“ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)”である 。
放射線の中で一番透過力が大きい中性子線は、更に保持するエネルギーレベルに応じて、例えば以下のように分類される。括弧内は各種中性子線の持つエネルギーを示しており、その数値が大きいほど透過力が大きいことを示している。
【0006】
透過力が小さい方から、冷中性子(~0.005eV)、熱中性子(~0.025eV)、熱外中性子(0.025eV~10keV)、高速中性子(10keV以上)に分類される。
ただし、中性子線の分類にはいろいろな説があり、括弧内のエネルギーの値は厳密なものではなく、例えば、熱中性子のエネルギー領域を0.5eV以下とし、熱外中性子のエネルギーの範囲として、0.5eVから10keV以下、もしくは40keV以下と記す説もある。
【0007】
また、中性子は電荷を持たず、そのため原子核と衝突した時に吸収されやすく、この様に中性子を吸収することを中性子捕獲と言う。特にホウ素の同位体であるホウ素10は、熱中性子を捕獲する確率(断面積という)が他の元素と比べて非常に高いという性質を有している。
熱中性子を捕獲したホウ素10は以下のような核反応を起こす。
10B+n→7Li+4He
核反応を起こして殺細胞効果の高いヘリウム原子核(α線)とリチウム原子核を放出する。さらに発生したα線とリチウム原子核は、正常組織の中では数マイクロメートルだけ進行して止まる 。
【0008】
BNCTはこの物理特性を利用する。治療前に注射や点滴などによって癌細胞内にホウ素10を含有する化合物(以下、ホウ素化合物と記す)を取り込ませておき、その状態で癌病巣に熱中性子を照射することによって、癌細胞内で中性子捕獲反応を生じさせ、発生するヘリウム原子核(α線)とリチウム原子核によって癌のDNAを破壊する。癌細胞の大きさは10マイクロメートル程度であるため、α線とリチウム原子核は癌細胞内で止まるため、周囲の正常組織には影響を及ぼさない。
この原理によりBNCTは、癌を細胞レベルで破壊し、正常組織を温存できるという極めて優れた特徴を備えている。
【0009】
癌細胞は、盛んに増殖する過程でホウ素化合物をその細胞内に取り込みやすく、BNCTでは、この性質を利用して効果的に癌細胞だけを破壊する治療を行う。
この原理は米国のLocherにより約80年前に提唱され、患者の健全部への影響が少ないなど、極めて優れた放射線療法として以前から注目され、各国で研究開発がなされてきた。
しかしながら、中性子線発生装置、治療に有効な中性子線種の選定を行う選定装置の開発、患者の患部以外の健全部への影響の除去(すなわち、ホウ素化合物を癌細胞にだけ形成させること)など、多岐に渡る重要な開発課題が存在しており、未だ一般的な治療法として普及するには至っていない。
【0010】
中性子線を医療用、特にBNCTにおいて効果的に利用するための中性子線種の選定の一例を以下に示す。
身体に悪影響のある高エネルギーの中性子線(例えば、高速中性子線)をまずは極力除外し、さらに生体内への深達性がほとんどない低エネルギーの中性子線(例えば、熱中性子線、冷中性子線)を減らし、生体内への深達性のある中程度のエネルギーの中性子線(例えば、“熱外中性子線(0.5eV~10keV)”)の割合を高める 。
【0011】
これにより、BNCTの効果的利用が可能な医療用中性子線とすることができる。熱外中性子線は、患者体内の組織への深達性が比較的高く、これら中速中性子線の内の低エネルギー部分及び熱外中性子線を、例えば頭部へ照射する場合、よほど深部の癌でない限り開頭手術を必要とせず、無開頭の状態で患部への効果的な照射が可能となる。
【0012】
一方、熱中性子線や冷中性子線などの極低エネルギーの中性子線は、この深達性が低く、これら中性子線を用いた手術治療の場合、表在性のがん(例えば皮膚がんなど)に対する治療に用いる。また、この低エネルギーの中性子線を悪性脳腫瘍への治療に用いる場合は、病巣部に中性子を届かせるために開頭が必要となり、患者への負担が重いものとなる。
BNCTにおいて治療効果を高めるには、熱外中性子線を主体とし、熱中性子線をいくらか含む中性子線を患部に必要量照射することが大切とされる。
【0013】
具体的には、照射時間を1時間程度とした場合に必要とされる熱外中性子束は、照射口の位置でおおよそ0.5~1.0×109 [n/cm2/sec] となる。
この強度の熱外中性子を発生させるためには、中性子の発生源である加速器からの陽子の出射エネルギーは、中性子線生成のターゲットにベリリウム(Be)を使用する場合、おおよそ5~30MeV、平均電流値はおおよそ1mA~数mAが必要であるとされている。また、ターゲットにリチウム(Li)を用いる場合は、陽子の出射エネルギーは、2.5MeV前後が用いられ、平均電流値は、10mA~30mA程度が必要であるとされている。
【0014】
X線治療、粒子線治療、BNCTなどの放射線照射治療では、事前に治療計画システムを用いて線量評価を実施して照射条件を決定しておく。照射条件の中でも特に重要なのが、患者位置であり、照射するビーム(照射口)に対する患者の位置関係を定めている。
【0015】
一般的に放射線照射治療(BNCTも含む)では、治療前に照射条件に従って決定された所定位置に患者を固定し、患者に放射線を照射する。
ここで、BNCTを除く現状の放射線治療の場合は、照射時間が1分以内と非常に短いため、患者は(呼吸以外では)動かないことを前提に治療(照射)が行われ、患者に付与される線量は、事前の治療計画時に算出された線量が、そのまま付与されたものとする。
【0016】
従って、もし照射中に患者が動いてしまうと、計画された箇所に放射線が照射されず、病巣には、治療に十分な線量が付与されず、周囲の正常組織に計画以上の線量が付与されてしまう恐れがある。
その為、照射中の患者の位置変化は、X線治療、粒子線治療では、医師や医療スタッフがカメラモニターで観察している。もし治療中に患者に大きな動きが生じた場合は、治療を中断して位置合わせをし直して、再照射している。
また、患者の予期せぬ位置変動とは別に、呼吸によって臓器が常に周期的に位置変動する肺癌や肝臓癌に対するX線治療や陽子線治療などでは、呼吸に合わせてビームをオン/オフすることによって照射精度を担保したりしている。
例えば、X線治療や、粒子線治療では、照射中の病巣の動きを、ビーム照射の合間に透視用X線を照射して病巣位置を把握して治療を行っている。この場合、治療用ビームが狙っているところに病巣が入った時に照射を行う“待ち伏せ照射法”と、動いている病巣にビーム照射範囲を動かして照射する“動態追尾照射法”のそれぞれがある。
また、呼吸に同期させる検知方法として、レーザーによる距離計などでモニターし、間接的に臓器の位置変化を計測している。また、金マーカーを病巣周辺に埋め込んで、ビーム照射前後の病巣の(呼吸による)動きと位置を確認する技術も実用化されている。
【0017】
他方、BNCTの場合、治療時間が1時間程度と、他の放射線照射治療と較べて極めて長いため、長時間の照射中、患者が動いてしまう可能性は他の放射線治療に比して高い。これを避ける為に、患者を動けないように完全に固定してしまうと、患者に大きな負担をかけることになるので、強固な固定は行わない。
すなわち、BNCTの場合、治療時間が1時間程度と長いこと、及び強固な固定は行わないことから、照射中に患者位置が変動する可能性が極めて高い。もし位置がずれたまま照射を完了すると、当初の計画時の線量とは大きな差異が生じてしまうこととなる。
BNCTでは、照射中の患者の動きはカメラモニターで観察し、患者の多少の動きに対しては(呼吸による位置変動などBNCTにおいて許容範囲内の場合)治療を継続する。
また、BNCTの場合、ホウ素化合物を患者に投与しており、ホウ素の血中濃度が時間とともに低下するため、照射時間が1時間を超えてしまうと治療に必要なホウ素濃度を下回ってしまう恐れがある。よって照射中に一旦中性子照射をオフにして位置合わせ作業を行うとホウ素濃度低下によって治療の継続が困難となり、治療自体が成立しなくなってしまうため、通常、中性子出力のオン/オフによる中性子線の照射制御は行わず、連続的に照射を行う。
このため、BNCTの場合、治療を、通常1回の連続照射で完了させる。従って、もし位置がずれたまま照射を完了すると、当初の計画時の線量とは大きな差異が生じてしまうこととなる。
【0018】
(BNCTの治療実施手順)
BNCTの一般的な治療手順を
図1に示す。
通常、BNCTの候補の患者が現れると、まず“治療計画システム(Treatment Planning System 以下、TPSと記す)”を用いて治療計画を立てる。治療計画とは、その患者に最適な照射条件:ビームの照射位置、角度、距離及び照射時間などを決定することをいう。この治療計画立案作業を照射の1~2週間前に行う。
【0019】
TPSを用いて最適な治療計画を立案した後、実際の治療当日を迎える。当日は実際の照射の約1~2時間前からホウ素化合物(BPA)の投与を行う。ある程度ホウ素化合物が投与されて癌病巣にホウ素化合物が集まった段階で、患者を照射室に連れて行く。実際の照射室では、患者を照射位置に正確に固定する。この照射位置は、TPSで導いた照射条件の中に定義されており、その条件通りに患者を固定する。BNCTの照射は、病巣の場所によって患者を寝かせて照射する場合もあれば、座った状態で照射する場合もある。
【0020】
従来の患者の位置合わせ方法は、複数のレーザー光線を使って位置合わせしたり、目視や定規を使ってビーム孔に対する目や鼻、耳などの位置関係を確認しながら位置合わせを行う(なお、X線治療や粒子線治療などでは、X線透視装置が照射室内に設置可能なため、大まかに照射位置に固定された患者にX線透視してレントゲン撮影し、癌病巣の位置を確認する。しかしBNCTは中性子を用いるためX線透視装置を照射室内に設置するとその装置が中性子ですぐに壊れてしまうため、X線透視装置を設置できず、従来のX線透視による病巣位置確認による位置合わせはできない)。
【0021】
照射を開始する前に何回か採血して血中のホウ素濃度を測定する。このホウ素濃度の測定に基づいて、照射中のホウ素濃度を推定する。ここで脳や皮膚、粘膜、がん病巣などの各臓器・組織中のホウ素濃度と、血中のホウ素濃度の比は、過去の研究から特性が分かっている。例えばBPAの場合、血中のホウ素濃度を1とすると、皮膚の濃度比は1.2、脳は1.0、がん細胞は3~5である。よって、採血によって血中のホウ素濃度を測定することによって、各組織に集積しているホウ素濃度を推定することができる。
照射中も血中及び各臓器・組織中のホウ素濃度は逐次変化(減少)するが、照射中はホウ素濃度は測定できないため、照射直前の測定値と、薬物動態と過去の研究に基づいたホウ素濃度の減衰カーブを基に、ホウ素濃度の変化を推定する。そして実際の照射においては照射中の“平均ホウ素濃度”を推定して、照射中の“平均ホウ素線量”を算出する(1ppm当たりのホウ素線量はTPSで算出する)方法も使われる。ここで“ホウ素線量”とは、中性子がホウ素に吸収され、ホウ素10と中性子との反応によって発生するα線とリチウム原子核によって細胞に与える線量のことである。ホウ素線量のことを、以下、ホウ素濃度付与線量とも言う。がん細胞中のホウ素濃度と正常組織中のホウ素濃度に差が生じることで、ホウ素線量にも差が生じるため、このホウ素線量の差が、BNCTの治療効果(がん細胞と正常細胞への線量の差)となる。
【0022】
患者の位置合わせ(TPSで導いている“理想の”照射位置への固定)が完了し、採血を行って平均ホウ素濃度を推定し、照射時間を決定して、照射を開始する。
しかし、血中ホウ素濃度の時間変化は患者ごとに変動することもあり、照射直前の測定値からの照射中の平均ホウ素濃度の推定は精度が十分でないことがある。照射が終わった後に、再度採血して照射後のホウ素濃度を実測し、照射中の平均ホウ素濃度を事後評価すると、照射前に予測・推定した平均ホウ素濃度と大きくズレていることが多々ある。このズレの誤差は10~20%にもなることもよくある。
【0023】
ホウ素濃度によって癌病巣や正常組織に付与される線量率も変化する。ホウ素濃度が高い場合は、その部位に付与される線量率も高くなるので、照射時間は短くなる。逆にホウ素濃度が低いと照射時間は長くなる。BNCTの照射時間は、正常組織に付与される最大中性子線量(例えば10Gy)で制御する。例えば、ホウ素濃度1ppmあたりホウ素線量率が1Gy/ppm/hrだった場合、ホウ素濃度が10ppmのときは、ホウ素線量率は10Gy/hrになるため、最大ホウ素線量10Gyを付与するためには1時間必要、ということになる。もしホウ素濃度が20ppmだった場合は、20Gy/hrとなるため、10Gy付与するためには0.5hr=30分の照射で良い、という計算になる。
【0024】
このように事前のホウ素濃度およびホウ素線量の推定値によって照射時間が変化するため、ホウ素濃度の推定とそれに基づくホウ素線量の予測計算が非常に重要になる。
【0025】
患者の位置合わせについては、従来の方法では照射中に患者が動くことは想定していない。
通常は、
(1)患者はTPSで決められた条件の位置に固定できている。
(2)照射中も患者は動かない。
という想定の下で照射を行う。
この想定が担保されれば、TPSの照射計画通りに病巣と周辺臓器に中性子を照射できることになるため、TPSが導いた照射時間通りに照射すれば、各部位に計算通りの線量を付与できる、ということになる。しかし、実際には、
(1) 照射前の位置合わせの段階でTPSの計画通りに位置合わせできない場合がある。
(2) 照射時間が長いため、照射中に患者が動いてしまい、TPSで導いた照射条件を担保できなくなる、計画とは違うところに中性子が当たり始める、
という状況が生じる。
【0026】
下記の特許文献1(住友重機械工業株式会社の先行出願)の内容は、このTPSが導いた“理想の”照射条件位置と、実際に患者を固定した際の(照射前の)位置とのズレを、事前に予測しておいて、(たくさんの位置ズレ条件での線量計算を実施しておいて)事前の計算の中からズレた位置に最も近い位置条件の計算結果を採用する、というものである。位置ズレに合わせて照射時間も多少変更する、というものである。
【0027】
(治療計画システム)
図2に、TPSを用いてある照射条件下で患者に付与される線量計算の流れを示す。また、
図3に、TPSを用いた治療計画立案(最適照射条件の決定)の流れを示す。TPSでは、患者のCT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)データを取り込み、まず、患者の3次元モデルを作成する。この3次元モデルに対して、想定される照射条件(ビームの入射位置、角度、距離など)、すなわち計算条件を設定する。この計算条件を決定すると、TPSは計算モデルを作成し、それをモンテカルロ(MC)計算コードに入力して計算を実行する。MC計算では、その照射条件下の場合、患者の体の中の中性子分布=線量分布がどのようになるか、を算出する(照射のシミュレーションを行う)。
【0028】
通常は1回の計算(1回の計算条件)では最適な照射条件かは判定できず、照射条件を変更して、その変更条件での計算をさらに実施する。そして前の計算結果と条件変更後の計算結果を比較して、良い方の条件を選択する。この作業を何度も繰り返し、計算結果を比較し、最終的に(最適な照射条件)=(計算を行った中の計算結果が最もよかったものの照射条件)を選択して、それを実際の照射に用いる照射条件とする。
【0029】
(患者の位置ずれによる線量分布の変化)
図4は、原子炉でBNCTを実施している際の様子を示している。照射位置に患者を固定した後の照射直前に“3次元ディジタイザ”という装置を使って患者の眼、鼻、耳などの位置を測定する。
図4中の真ん中の上の表のものにおける、この眼、鼻、耳の位置(座標)は、TPSによる事前の照射シミュレーション時(治療計画時)に“理想の”照射位置に固定できていた場合の各座標を示している。
【0030】
しかし、3次元ディジタイザで実測した座標では、理想の位置からズレていることが分かる(
図4中の真ん中の下の表の下側の数字がズレ量を示している)。従来は、この3次元ディジタイザによる測定を何回か行って、位置合わせを調整し、できるだけ“理想の”照射条件に近づいたことを確認して、照射を開始していた。それでも少しはズレる。
図4は、この少しずれている状況を示しているが、これでOKとして照射を実施する。
【0031】
この3次元ディジタイザで測定した照射直前の実際の患者の位置をTPSを使って再現した様子が
図5の右下の図である。照射条件である右上の図と、(実際の固定)=(実際に照射された患者位置)である右下の図とを比較すると、癌病巣(ビーム孔の中心付近の黒い領域)の位置が、照射条件では中心にセットされているのに対して、実際の患者固定位置では癌病巣がビームの中心よりも少し下にズレていることが分かる。
【0032】
このようにBNCTでは、実際の照射では理想の照射条件通りに照射することはなかなか困難な状況にある。それでも“理想通りの位置に固定できている”ものとして照射を行っている。
【0033】
なお、この原子炉BNCTでは、3次元ディジタイザでの位置測定に、5分程度はかかり、直接患者に触れながら計測するため、照射中の計測は実施できない。また、3次元ディジタイザで計測した眼、鼻、耳の座標の情報をTPSにフィードバックするのも簡単ではなく、治療(照射)が終わった後の翌日以降に作業を行って再計算を行う、という手順になっている。
【0034】
従って、3次元ディジタイザで理想の照射位置から少しずれていることが分かったとしても、その場でTPSにフィードバックすることはできない、という状況にある。
下記の特許文献1の発明では、この照射直前の位置ズレを考慮して、事前に多数の位置条件下での線量計算を行っておき、その中から、実際にズレた位置に最も近い条件を採用して照射を行う、というものになっている。
【0035】
(照射中のホウ素濃度)
上記したようにBNCT照射時のホウ素濃度は常に変化(減少)している。
図6(a)(b)は2つのホウ素化合物、BPAとBSHの血中ホウ素濃度の実測データを示している。この実測データは原子炉でのBNCT時のデータで、照射前に何回か患者から採血してその血中のホウ素濃度を測定したデータである。BPAは、薬剤投与が終了した直後(=照射が開始された時)から急速に減少する。この現象の特性は、生体の薬物動態と代謝によって特性付けられている。この減衰カーブを基に、照射中の“平均濃度”を照射開始前に推定する。
【0036】
例えば
図6(a)のBPAの場合、照射直前の血中ホウ素濃度は約24ppmとなっている。そして照射(グレーの領域)中は、BPAの薬物動態から推測した減衰カーブ(図中のカーブライン)で減衰すると仮定し、終了した直後の濃度は約8ppmになると照射開始前に予測する。これに基づいて照射中の“平均ホウ素濃度”は例えば“15ppm”と、照射前に医師が判断し決定する。
【0037】
すなわち線量評価では照射中はホウ素濃度は常に15ppmである、と仮定して線量計算を行う。例えば、ある部位の線量率が1Gy/ppm/hrという計算結果があるとして、15ppmだとすると、15Gy/hrとなり、10Gyで照射を完了する場合は、照射時間(10/15)×60分=40分という計算になる。しかし実際には、このホウ素濃度の予測精度は悪いのが現状である。
【0038】
生体中のホウ素化合物の濃度変化は、下記の非特許文献1、2の論文などに公開されている。これらの論文や経験から、ホウ素濃度の減衰を推測していた。
【0039】
(ホウ素濃度の違いによる生体内の線量分布の違い、変化)
ホウ素10(ホウ素10)は中性子と良く反応し易い特性を持っている(そのためBNCTの治療が成立する)。しかしホウ素10は中性子と反応し易いため、もし病巣部分のホウ素10濃度が高いと、中性子が止まってしまって深い部分に中性子が届きにくくなる、という特性がある。逆にホウ素10濃度が少ない(もしくはホウ素10が入っていない)場合は、中性子はスムーズに生体を通っていき、通常の中性子分布を形成する。すなわち、ホウ素10濃度の違いによって生体内の中性子分布は変化し、これに伴って生体内(病巣周辺の)線量分布も変化することになる。
【0040】
図7は、癌病巣にホウ素10が入っていない場合(上線)と癌病巣中のホウ素10濃度が50ppmだった場合(下線)のビーム軸上の中性子束分布を比較したものである。また
図8(a)(b)は、癌病巣(白楕円の範囲)にホウ素10が入っていない場合の生体内の中性子の2次元分布(a)と、ホウ素10濃度が50ppmだった場合の2次元分布(b)を示している。
【0041】
図7は、ビームが体に入ってから癌病巣までは両者の中性子の分布は変わらず、癌病巣を通過すると、ホウ素10が入っていない場合は、上線の分布(通常の分布)となり、他方、癌病巣に50ppmのホウ素10が入っていた場合は、下線の分布となり、癌病巣を中性子が通過する際にホウ素10によって多くの中性子が止まってしまい、癌病巣を通過した後の中性子が減少してしまうことを示している。
【0042】
図8も同様で、(a)の癌病巣にホウ素10が入っていない場合は、中性子の高い範囲(カラー表示では、赤線→オレンジ線→黄色線)は広く深い範囲に広がっているが、ホウ素10濃度が50ppmの場合は、中性子が高い赤線の領域が癌病巣の手前で止まってしまい、癌病巣を通過した後の中性子強度は(a)の分布よりも低くなっていることを示している。
【0043】
従来のTPSにおける線量評価及び治療計画では、癌病巣中のホウ素濃度はある濃度(想定される照射中の平均濃度:例えば15ppm)を仮定して計算モデルにその濃度をセットして計算を行う。そして実際の治療でも、その単一の濃度で計算した中性子分布の線量評価に基づいて照射時間を決定し、各部位に付与される線量も評価している(
図9)。
しかし、実際には照射開始時のホウ素濃度(例えば24ppm)と照射終了直前の濃度(例えば8ppm)では、中性子の分布は異なり、これに基づいて各部位に付与される線量も変わっている。現状のBNCTではそれらは無視している。その時その時のホウ素濃度の変化に応じた線量評価を行うことができれば、より精度の高い線量評価ができ、照射制御ができることになる。
【0044】
[発明が解決しようとする課題]
現在のBNCTにおける大きな課題は、上記した背景技術からも明らかなように、下記の3つとなっている。
(1)治療中における患者位置の変動を把握しようとしても、現状では患者位置の変動をリアルタイムで測定できる中性子線の照射に耐える患者位置高精度測定システムが存在しないこと。
(2)治療中に患者位置が変動した場合、患者位置の変動情報に基づいて線量評価を逐次実施して付与される線量を補正しようとしても、この変動位置での再線量評価には時間を要し、治療時間内に有効利用できる状況にはなっていないこと。
(3)ホウ素濃度は中性子線照射中にも常に変化しているが、照射中の細かいホウ素濃度変化は測定されておらず、ホウ素濃度の変化に合わせた線量の再評価に基づく照射制御ができていないこと。
【0045】
上記(1)の課題を解決するものとして、本件出願人らが先に出願し、最近特許化された特許第6591229号がある。この技術は、照射室内に設置した複数のカメラを用い、モーションキャプチャー技術を組み合わせて患者の位置を逐次計測する。この技術を用いることで、照射中の患者位置を秒単位で定量的に計測することが可能となり、中性子線照射中もリアルタイムで患者位置を高精度に測定できるようになった。
【0046】
また、特許第6565120号には、中性子捕捉療法システムが開示され、上記課題(2)を解決するものとして、患者の位置ずれ量に対応する線量評価を前もって行っておくという技術が開示されている。
しかし、この技術は、中性子線照射中もリアルタイムで患者位置を高精度に測定できる技術を伴っていないため、照射前の患者の位置合わせ段階のものにとどまっており、患者が中性子線の照射中に移動する場合には対応できていない。あくまで照射開始時のみにおいて対応できるものとなっている。
【0047】
従って、多少の位置変化の場合は、線量が変化することを許容して照射を継続する。
この結果、本来、病巣に付与すべき処方線量が足りなくなる場合は、再発が起きてしまうこともある。逆に必要以上の線量を与えてしまうと、正常組織に対しては過照射となり、放射線障害などの有害事象が生じる虞れがある。
【0048】
また仮に、患者の位置情報に基づいて線量評価を逐次実施して付与される線量を補正しようとしても、現状の計算手法では、線量計算に時間を要するため、それを実現することはできないといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】特許第6565120号公報(特開2018-47132号公報)
【特許文献2】特許第6591229号公報(特開2017-35348号公報)
【非特許文献】
【0050】
【非特許文献1】Effect of Dose and infusion time on the delivery of p-boronophenylalanine for neutron capture therapy, D.D.Joel, et al, J. Neuro-Oncology, 41, 213-221, 1999
【非特許文献2】Pharmacokinetics of sodium borocaptate: a critical assessment of dosing paradigms for boron neutron capture therapy, C. R. Gibson, et al., J. Neuro-Oncology, 62, 157-169, 2003
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0051】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、病巣に付与すべき処方線量が足りなくて再発が起きてしまうようなことがなく、また、逆に必要以上の線量を与えてしまい、正常組織に対しては過照射となり、放射線障害などの有害事象が生じるようなことのない、高精度な治療を実現可能とするBNCT用治療計画システム、BNCTシステム及びBNCTを提供することを目的としている。
【0052】
上記目的を達成するために、本発明に係るBNCT用治療計画システム(1)は、治療に理想とされる理想患者位置と、
治療中の想定平均ホウ素濃度と、
各々の患者に特有のその患者が治療中に取る確率が高いと想定される少なくとも1以上の想定患者位置と、
各想定患者位置における付与線量を算出する算出手段により算出された想定患者位置付与線量と、を記憶しておく記憶手段を備え、
実治療中に、患者位置計測システムから患者位置変動の信号を受信すると、当該患者位置に最も近い想定患者位置を選択し、当該想定患者位置とともに、当該想定患者位置における付与線量、及び照射直前の血中ホウ素濃度の測定値から推定された照射時平均ホウ素濃度の値を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴としている。
【0053】
上記BNCT用治療計画システム(1)によれば、実治療中に、前記患者位置計測システムから患者位置変動の信号を受信すると、当該患者位置に最も近い想定患者位置を選択することができ、実治療中に患者に付与される線量を、実治療に先立って予め算出しておいた想定患者位置における付与線量に基づいて時間をかけることなく即座に求めることができる。このため、実治療中に患者に付与される線量を調整することも可能となり、BNCT治療時における計画付与線量の確保が容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績の向上につなげることができる。しかも病巣周辺の正常細胞への線量を抑制することも容易となり、有害事象(副作用)の低減にもつなげることができる。
なお、上記計画付与線量とは、理想患者位置において算出された治療のための理想的付与線量を意味している。
【0054】
また、本発明に係るBNCT用治療計画システム(2)は、治療に理想とされる理想患者位置と、
想定される複数の照射直前の血中ホウ素濃度測定値から推定される推定段階的減少ホウ素濃度値と、
各推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく付与線量を算出する算出手段により算出された想定ホウ素濃度付与線量と、を記憶しておく記憶手段を備え、
照射直前の血中ホウ素濃度測定値を受信すると、当該測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値を選択し、当該ホウ素濃度値に基づく想定ホウ素濃度付与線量を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴としている。
【0055】
ホウ素濃度は中性子線照射中にも常に変化しているが、上記BNCT用治療計画システム(2)によれば、血中ホウ素濃度測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく想定ホウ素濃度付与線量でもって照射制御することが可能となり、BNCT治療時における計画付与線量の確保が容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績の向上につなげることができる。
【0056】
また、本発明に係るBNCT用治療計画システム(3)は、治療に理想とされる理想患者位置と、
各々の患者に特有のその患者が治療中に取る確率が高いと想定される少なくとも1以上の想定患者位置と、
各想定患者位置における付与線量を算出する算出手段により算出された想定患者位置付与線量と、
想定される複数の照射直前の血中ホウ素濃度測定値から推定される推定段階的減少ホウ素濃度値と、
各推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく付与線量を算出する算出手段により算出された想定ホウ素濃度付与線量と、を記憶しておく記憶手段を備え、
実治療中に、患者位置計測システムから患者位置変動の信号を受信すると、当該患者位置に最も近い想定患者位置を選択し、当該想定患者位置とともに、当該想定患者位置における付与線量、
及び照射直前の血中ホウ素濃度測定値を受信すると、当該測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値を選択し、当該ホウ素濃度値に基づく想定ホウ素濃度付与線量を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴としている。
【0057】
上記BNCT用治療計画システム(3)によれば、実治療中に、前記患者位置計測システムから患者位置変動の信号を受信すると、当該患者位置に最も近い想定患者位置を選択することができ、実治療中に患者に付与される線量を、実治療に先立って予め算出しておいた想定患者位置における付与線量に基づいて時間をかけることなく即座に求めることができる。このため、実治療中に患者に付与される線量を調整することも可能となり、BNCT治療時における計画付与線量の確保が容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績の向上につなげることができる。しかも、血中ホウ素濃度測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく想定ホウ素濃度付与線量でもって照射制御することも可能となり、BNCT治療時における計画付与線量の確保が容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績のより一層の向上につなげることができる。
【0058】
また、本発明に係るBNCTシステム(1)は、中性子線照射装置、患者保持装置、患者位置計測システム、BNCT用治療計画システム、及び中性子線照射制御システムを含んで構成されるBNCTシステムであって、
前記中性子線照射制御システムが、上記BNCT用治療計画システム(1)~(3)のいずれかから送信されてくる付与線量の情報を記憶する記憶手段、及びこれら付与線量を積算し、積算値が治療目標値に到達した時点で、照射終了制御を行う照射制御部を備えていることを特徴としている。
【0059】
上記BNCTシステム(1)によれば、BNCT治療時における計画付与線量の確保が容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績の向上につなげることができる。
【0060】
また、本発明に係るBNCT用治療計画システム(4)は、治療に理想とされる理想患者位置と、治療中の想定平均ホウ素濃度と、を記憶しておく記憶手段、及び高速線量計算部を備え、
実治療中に、患者位置計測システムから前記理想患者位置からの患者位置の変動信号を受信すると、当該変動に対応する患者位置で、及びホウ素濃度は、照射直前の血中ホウ素濃度の測定値から推定された照射時平均ホウ素濃度で計算モデルの条件を再現し、
再現された計算モデルの条件下での線量計算を前記高速線量計算部で実行し、
高速計算された付与線量値を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴としている。
【0061】
上記BNCT用治療計画システム(4)によれば、高速線量計算部により、実治療中においても、逐次、変動患者位置で計算モデルの条件を再現し、再現された計算モデルの条件下での高速線量計算を実行することができる。換言すれば、より細かい、精度の高い付与線量値でもって照射を制御することができるようになり、BNCT治療時における計画付与線量の確保が容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績のより一層の向上につなげることができる。しかも病巣周辺の正常細胞への線量をより一層抑制することも容易となり、有害事象(副作用)のより一層の低減にもつなげることができる。
【0062】
また、本発明に係るBNCT用治療計画システム(5)は、治療に理想とされる理想患者位置を記憶しておく記憶手段、及び高速線量計算部を備え、
実治療中に、ホウ素濃度が逐次計測され、これら計測値を受信すると、
ホウ素濃度は逐次計測された計測値に変更する一方、患者位置は理想患者位置に維持したままの計算モデルの条件を再現し、
再現された計算モデルの条件下での線量計算を前記高速線量計算部で実行し、
高速計算された付与線量値を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴としている。
【0063】
上記BNCT用治療計画システム(5)によれば、実治療中においても、逐次計測可能な即発γ線測定法などにより計測されたホウ素濃度計測値を使用した計算モデルの条件が再現され、再現された計算モデルの条件下での線量計算が前記高速線量計算部で実行される。換言すれば、ホウ素濃度の変化に対応した、より細かい、精度の高い付与線量値でもって照射を制御することができるようになり、BNCT治療時における計画付与線量の確保が容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績のより一層の向上につなげることが可能となる。
【0064】
また、本発明に係るBNCT用治療計画システム(6)は、治療に理想とされる理想患者位置を記憶しておく記憶手段、及び高速線量計算部を備え、
実治療中に、患者位置計測システムから前記理想患者位置からの患者位置の変動信号を受信すると、当該変動に対応する患者位置で、及びホウ素濃度は、実治療中に、逐次計測された計測値で計算モデルの条件を再現し、
再現された計算モデルの条件下での線量計算を前記高速線量計算部で実行し、
高速計算された付与線量値を、BNCTシステムにおける中性子線照射制御システムに送信するものであることを特徴としている。
【0065】
上記BNCT用治療計画システム(6)によれば、実治療中においても、逐次、変動患者位置、及び、逐次計測可能な即発γ線測定法等により計測されたホウ素濃度計測値に条件変更した計算モデルが再現され、再現された計算モデルの条件下での高速線量計算が実行される。
従って、変動患者位置、及びホウ素濃度変化の両者に対応した、より細かい、精度の高い付与線量値でもって照射を制御することができるようになる。
このため、BNCT治療時における計画付与線量の確保が極めて容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績のより一層の向上につなげることができる。しかも病巣周辺の正常細胞への線量をより一層抑制することも容易となり、有害事象(副作用)のより一層の低減にもつなげることができる。
【0066】
また、本発明に係るBNCTシステム(2)は、中性子線照射装置、患者保持装置、患者位置計測システム、BNCT用治療計画システム、及び中性子線照射制御システムを含んで構成されるBNCTシステムであって、
前記中性子線照射制御システムが、上記BNCT用治療計画システム(4)~(6)のいずれかから送信されてくる付与線量の情報を記憶する記憶手段、及びこれら付与線量を積算し、積算値が治療目標値に到達した時点で、照射終了制御を行う照射制御部を備えていることを特徴としている。
【0067】
上記BNCTシステム(2)によれば、変動患者位置及び/又はホウ素濃度変化の両者に対応した、より細かい、精度の高い付与線量値でもって照射を制御することができるようになる。
このため、BNCT治療時における計画付与線量の確保が極めて容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績のより一層の向上につなげることができる。
【0068】
また、本発明に係るBNCT(1)は、BNCTシステム(1)又は(2)のいずれかを使用するBNCTであって、
実治療中の患者位置の変動及び/又は実治療中のホウ素濃度の変化を考慮した計算モデルによる付与線量の再評価を実治療中に継続的に実施し、当該患者の治療にとっての、高精度線量付与を実施することを特徴としている。
【0069】
上記BNCT(1)によれば、変動患者位置及び/又はホウ素濃度変化の両者に対応した、より細かい、精度の高い付与線量値でもって照射を制御することができるようになる。
このため、BNCT治療時における計画付与線量の確保が極めて容易となり、中性子線治療による癌の治療効果、治療成績に優れた治療を実施することができることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】BNCTの一般的な治療手順を示す模式的概略図である。
【
図2】治療計画システム(TPS)を用いてある照射条件下で患者に付与される線量計算の流れを示す模式的概略図である。
【
図3】TPSを用いた治療計画立案(最適照射条件の決定)の流れを示す模式的概略図である。
【
図4】原子炉でBNCTを実施していた際の流れを示す模式的概略図である。
【
図5】TPSによる“理想の”照射条件下での患者照射位置(右上)と、3次元ディジタイザで測定して再現した“実際に照射を行った位置(右下)”の様子を示す模式的概略図である。
【
図6】2つのホウ素化合物、BPA(a)とBSH(b)の血中ホウ素濃度の実測データをしめすグラフである。
【
図7】がん病巣にホウ素10が入っていない場合(上線)と、がん病巣中のホウ素10濃度が50ppmだった場合のビーム軸上の中性子束分布を比較したグラフである。
【
図8】がん病巣(白楕円の範囲)にホウ素10が入っていない場合の生体内の中性子の2次元分布(a)と、ホウ素10濃度が50ppmだった場合の2次元分布(b)の比較を示すグラフである。
【
図9】従来の治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を模式的に示す外観図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を模式的に示す外観図である。
【
図11】本発明の実施の形態1に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図12】本発明の実施の形態1に係る治療計画システムを用い、想定患者位置において線量評価を行う状況を説明するための一例を示す模式図である。
【
図13】本発明の実施の形態1に係る治療計画システムにおける理想患者位置に実際の患者位置を一致させる方法を説明するための外観図及び模式図である。
【
図14】本発明の実施の形態1に係る実治療中の患者位置の一例と、理想患者位置とのずれを測定する方法を説明するための表を含む模式図である。
【
図15】本発明の実施の形態1に係る実治療中の患者位置の一例を用い、線量評価の実施方法を説明するための表を含む模式図である。
【
図16】本発明の実施の形態1に係る治療計画システムにおける実治療開始前の想定患者位置における線量評価を実施するための制御動作を示すフローチャート図である。
【
図17】本発明の実施の形態1に係るBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作を示すフローチャート図である。
【
図18】本発明の実施の形態1に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【
図19】本発明の実施の形態2に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【
図20】本発明の実施の形態2に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図21】本発明の実施の形態2に係る治療計画システムにおける実治療開始前及びBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作を示すフローチャート図である。
【
図22】本発明の実施の形態3に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【
図23】本発明の実施の形態3に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図24】本発明の実施の形態3に係る治療計画システムにおける実治療開始前及びBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作を示すフローチャート図である。
【
図25】本発明の実施の形態4に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【
図26】本発明の実施の形態4に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図27】本発明の実施の形態4に係る治療計画システムにおける実治療開始前及びBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作を示すフローチャート図である。
【
図28】本発明の実施の形態5に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【
図29】本発明の実施の形態5に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図30】本発明の実施の形態5に係る治療計画システムにおける実治療開始前及びBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作を示すフローチャート図である。
【
図31】本発明の実施の形態6に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【
図32】本発明の実施の形態6に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図33】本発明の実施の形態6に係る治療計画システムにおける実治療開始前及びBNCTシステムにおける実治療開始後の制御動作を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、本発明に係るホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用治療計画システム、BNCTシステム及びBNCTの実施の形態を図面に基づいて説明する。
図10は、本発明の実施の形態に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を模式的に示す外観図である。
BNCTシステム1は、BNCT用治療計画システム2(以下、単に治療計画システム2と記す)、中性子線照射制御システム3、中性子線照射装置4、患者位置計測システム5、及び患者保持装置6を含んで構成されている。
【0072】
中性子線照射装置4は、中性子線治療室Rに中性子線の照射口4Aが向けられて配置されている。BNCTの場合、通常、照射口4A自体は動かすことができない構造となっているが、この照射口4Aに、マルチリーフコリメータ(図示せず)を装備することにより、ある程度の範囲の患者位置の変動には、このマルチリーフコリメータの開口範囲の制御により、追従できるように構成されている。
【0073】
中性子線照射装置4の1実施の形態では、照射口4Aの近傍に治療中の例えば、患者頭部を安定的に保持できる頭部保持手段(図示せず)が出し入れ可能に装備されている。BNCTの場合、1時間程度の治療時間を要するが、頭部保持手段を装備しておくことにより、患者が治療計画における理想患者位置をキープし続けられる可能性が高まり、頭部癌の治療効果、治療成績の向上につなげることができることとなる。しかも病巣周辺の正常細胞への線量を抑制することも容易となり、有害事象(副作用)の低減にもつなげることができることとなる。
【0074】
患者位置計測システム5は、中性子線治療室Rの患者上方に配置される3台の可視光線型カメラCを含んで構成されている。
また、患者位置計測システム5には、本件出願人らが先に出願し、最近特許化された特許第6591229号の技術が採用されている。
【0075】
患者位置計測システム5は、放射線治療室R内に設置された複数の可視光線型カメラ5Aを用い、モーションキャプチャー技術を組み合わせて患者Mの位置を逐次計測可能に構成されている。この技術を採用することで、中性子線照射中の患者位置を秒単位で定量的に計測することが可能となり、中性子線照射中もリアルタイムで患者位置を高精度に測定できるようになっている。本件発明は、この技術の採用を前提として成立している。
患者位置計測システム5により算出された患者位置情報は、本実施の形態では、治療計画システム2及び患者保持装置6の駆動制御部6aへ、DICOMフォーマットで出力され、送信される構成となっている。
【0076】
患者保持装置6は、
図10に示したものでは、ベッド形式のものとなっているが、病巣の位置によっては、ベッド形式のものより、椅子タイプのもののほうが治療に適する場合もあり、このような場合のために、患者保持装置6としては椅子タイプのもの(図示せず)も用意されている。
【0077】
いずれのタイプの患者保持装置6であっても、1実施の形態では、患者位置を任意の方向に移動させることができるように、例えば、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向に移動可能で、これら3軸の周りに回転可能な、6軸駆動の駆動装置(図示せず)が組み込まれている。患者保持装置6の駆動制御部6a(
図11)は、患者位置計測システム5からの患者位置変動信号5s(
図11)を受け、患者保持装置6を任意の方向へ移動、回転駆動できるように構成されている。
【0078】
図11は、本発明の実施の形態1に係る治療計画システム2を含むBNCTシステム1の全体を概略的に示した機能ブロック図である。
治療計画システム2は、
図10に示したようなコンピュータシステムに、専用のソフトウエアがインストールされて構成されており、患者位置計測システム5からの患者位置情報を受信するとともに、各患者毎の病巣情報などが入力されると、患者毎の理想的治療条件、例えば、照射時間、ビーム照射角度、単位ホウ素濃度当たりの照射時間などを決定し、患者毎の理想的治療計画を作成し、実行できるように構成されている。
治療計画システム2は、中性子線照射制御システム3を介して中性子線照射装置4の駆動制御部4aに接続され、患者位置計測システム5、及び患者保持装置6の駆動制御部6aにも接続されている。
【0079】
治療計画システム2は、記憶手段2A、想定患者位置付与線量算出手段2B、及び想定患者位置選択手段2Cを含んで構成されている。
記憶手段2Aには、理想患者位置2Aa、想定平均ホウ素濃度値2Ab、想定患者位置2Ac、想定患者位置付与線量2Ad、照射時平均ホウ素濃度2Aeなどが記憶されるようになっている。
【0080】
ここでいう理想患者位置2Aaとは、それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置4の中性子線の照射口4Aに対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる位置を意味している。
また、理想患者位置2Aaにおいて計算される治療のための理想的付与線量を計画付与線量という。
想定患者位置2Acは、各々の患者に特有のその患者が治療中に取る確率が高いと想定される少なくとも1以上の患者位置であって、治療開始前に想定される患者位置を意味している。
【0081】
想定平均ホウ素濃度2Abは、患者の体格などを考慮して治療開始前にそれぞれの患者毎に対応させて決定しておく治療中に想定される平均ホウ素濃度を意味している。
照射時平均ホウ素濃度値2Aeは、照射直前の血中ホウ素濃度の測定値から推定されるホウ素濃度であって、実治療の際の線量の計算に用いられるものを意味している。
想定患者位置付与線量算出手段2Bは、各想定患者位置を取り込み、各想定患者位置における計画付与線量を算出しておく算出手段であって、算出された各想定患者位置付与線量2Adは記憶手段2Aに記憶される。
この想定患者位置付与線量2Adの算出には、計算精度の高いモンテカルロ法が採用されている。
【0082】
現状のモンテカルロ法による線量計算では、1つの患者位置条件に対してCPUを100個並列化した並列計算環境を用いても、約30分程度を要する。すなわち、実際のBNCTの照射が30分から1時間以内で終了することを考えると、照射中にモンテカルロ法を用いて変動患者位置での付与線量を再計算しようとすると、計算が完了する前に照射が終了してしまう確率が高い。また、30分掛けて計算を行っている間に患者がさらに別の場所に動いてしまう確率も高い。
従って、従来の方法でモンテカルロ法を用いて治療中に変動患者位置での付与線量を再計算しても照射制御を続行することは不可能であった。
【0083】
これに対して、本実施の形態では、事前に患者が移動する範囲を想定しておき、複数の想定患者位置に対する計画付与線量をそれぞれ事前に計算しておく。そして、実治療中には、患者位置計測システム5からの患者位置情報を受信して、正確な変動患者位置を取得し、取得した変動患者位置と複数の想定患者位置とを照合し、変動患者位置に最も近い想定患者位置を選択する(想定患者位置選択手段2C)。
【0084】
そして選択された想定患者位置に対応する、事前に計算しておいた想定患者位置付与線量Adが治療に使用される。このことにより、実治療中には、あたかも変動患者位置におけるリアルタイム線量評価が実現されて照射制御が継続されるかのごとくの治療を実施することができる。
【0085】
想定される患者の位置変化は10条件程度と見込まれ、最大でも20条件を超えることはないと考えられる(これ以上の変動範囲になると、照射位置から大きく外れるため、実際の治療では一旦照射を中断して患者を元の位置に戻して後、照射を再開せざるを得ないことになる)。
20条件を事前に想定して計算しておく場合、上記の通り1条件の計算時間が30分として、約600分=10時間程度で完了する。治療計画は、実際の治療を実施する1週間程度前に立てられるため、10時間の計算時間を要しても、十分治療当日までにすべての想定患者位置条件での線量評価を完了して想定患者位置付与線量2Adを記憶手段2Aに記憶させて準備しておくことができる。
【0086】
図12は、治療計画システム2を用い、事前に想定患者位置1、2における線量評価を行っている状況を示す模式図である。
治療計画における理想患者位置2Aaに対するビームの照射方向、その結果付与される線量評価グラフ、実治療中に患者がおそらく取るであろうと想定される、想定患者位置1、2に対するビームの照射方向、その結果付与される線量評価グラフを示している。
そして、想定患者位置1~20についてそれぞれ線量評価が事前に実施され、これらデータが紐づけされて記憶手段2Aに記憶される。
【0087】
図13は、治療計画システム2における理想患者位置2Aaに実際の患者位置を一致させる方法を説明するための外観図及び模式図である。
【0088】
患者の頭部には、マーカーが取り付けられている。これらマーカーを目印に、理想患者位置2Aaに実際の患者位置を一致させてゆく工程を示している。これらマーカーのすべてを一致させることより、理想患者位置2Aaに実際の患者位置を一致させようとすると、頭部上のマーカー位置に少しのずれでも生じると、一致させることが不可能になってしまう。このため、本実施の形態では、これらマーカーのすべてを一致させる方法は採用せず、これらマーカーの重心点を求め、さらに重心点から所定方向に延びるベクトルを生成し、これら重心点及びベクトルとの一致点を見出すことにより、正確かつ容易に理想患者位置2Aaに実際の患者位置を一致させる構成としている。
【0089】
図14は、治療計画システム2で導いた理想の患者位置(左)と、実際の治療時における患者位置を実測した結果(右)とを比較したものである。患者の位置を特定するための点として、この例では、「右外眼角」、「右外耳孔」、「鼻尖」を採用した例を示している。
右側の実際の治療時の測定では、実際の患者上の同一点を実測し、その測定座標と理想の照射位置での座標との差分を示している。
【0090】
図15は、実治療中の患者位置の一例を用い、線量評価の実施方法を説明するための表を含む模式図である。
図15は、治療計画システム2で求めた理想の照射条件下で照射した各部位における線量率の結果(左下)と、
図14の右側に示した患者位置の実測データを、治療計画システム2に読み込ませて、理想患者位置2Aaに実際の患者位置を移動させて再線量評価して算出した各部位における線量率の結果(右下)とを示している。
【0091】
実際の位置条件を再現した結果、患者は理想患者位置2Aaに対して頭頂部が約7度ビーム側に傾き、かつ、病巣領域の中心が、ビームの中心に対して、約3ミリメートル下方向に移動していることが確認できた。
【0092】
この条件で、再線量評価を実施した結果、病巣領域、皮膚、及び、脳の最大線量率、平均線量率が約7パーセントから14パーセント低下することが確認できる。
照射時間も理想条件の場合は、45.9分で治療を完了する計画に対して、実際の患者位置を再現した条件では、照射時間が、48.9分必要という結果になっている。
これは、患者位置の変化によって、各部位への線量率が低下したため、プラス3分の照射を追加する必要が生じたことを示している。
【0093】
この例は、1回の患者位置の測定、再線量評価、照射時間の修正の実施例であるが、実際の治療においては、患者位置の変動のたびに再線量評価を再現し、線量評価を高精度化してゆく。
【0094】
図16は、本発明の実施の形態1に係る治療計画システム2における実治療開始前の想定患者位置における線量評価を実施しておく際の制御部の制御動作を示すフローチャート図である。
【0095】
まず、ステップS1において、各患者毎の病巣情報などを取り込み、患者毎の理想的治療条件、例えば、照射時間、ビーム照射角度、単位ホウ素濃度当たりの照射時間などを決定し、患者毎の理想的治療計画を作成する。
【0096】
次に、ステップS2において、想定患者位置の設定数nが20に達したか否かを判定する。
ステップS2において、想定患者位置の設定数nが20に達したと判断されると工程を終了する一方、想定患者位置の設定数nが20に達していないと判断されると、次に、ステップS3に進む。
【0097】
ステップS3においては、想定患者位置の設定数nを1から開始させる。
次に、ステップS4に進み、ステップS4においては、想定患者位置nでの付与線量率を計算する。この計算には、上記したように計算精度の高いモンテカルロ法を採用する。
【0098】
次に、ステップS5に進み、ステップS5においては、これら想定患者位置、想定患者位置における付与線量率、ホウ素濃度を、紐付けして記憶手段2Aにメモリーしておく。
【0099】
次に、ステップS6において、想定患者位置の設定数nを一つプラスした後、ステップS2に戻る。
この動作を想定患者位置の設定数nが20に達するまで繰り返し、想定患者位置の設定数nが20に達したと判断されると工程を終了する
【0100】
図17は、本発明の実施の形態1に係るBNCTシステムにおいて、実治療開始後に実行される制御動作を示すフローチャート図である。
【0101】
まず、ステップS10において、患者位置計測システム5を用いながら、患者を患者保持装置6上の求めておいた理想患者位置2Aaに正確に保持させる。
次に、ステップS11において、照射直前の血中ホウ素濃度測定値から推定された推定平均ホウ素濃度情報を取り込む。
【0102】
次に、ステップS12において、計画付与線量で中性子線の照射を開始する。
次に、ステップS13に進み、ステップS13においては、患者位置計測システム5からの患者位置変動信号5sを受信したか否かを判断する。患者位置変動信号5sを受信したと判断するとステップS14に進む一方、患者位置変動信号5sを受信していないと判断すると、ステップS13に戻る。
【0103】
ステップS14においては、患者位置計測システム5から患者位置の現在値を取り込む。
次に、ステップS15において、ステップS14で取り込まれた治療時における現在の患者位置と、記憶手段2Aに記憶されている想定患者位置とを比較する。
【0104】
次に、ステップS16において、前のステップS15において比較した結果の、現在の患者位置に最も近い想定患者位置を選択する。
【0105】
次に、ステップS17では、ステップS16において選択した想定患者位置に関する、付与線量率を、記憶手段2Aから呼び出す。
次に、ステップS18では、今までに照射された線量を積算する。
次に、ステップS19では、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、ステップS13に戻る。
【0106】
図18は、本発明の実施の形態1に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【0107】
患者は、患者位置計測システムを用いながら、患者保持装置上の理想患者位置に正確に保持される。
中性子線の照射直前には、血中のホウ素濃度が測定され、この測定値から推定された推定平均ホウ素濃度情報が治療計画システムに入力される。図に示されている推定平均ホウ素濃度は15ppmである。
【0108】
計画付与線量で中性子線の照射が開始されると、患者位置計測システムからは、患者位置情報(重心&ベクトル)が治療計画システム側に常に送信され、治療計画システム側では、患者位置の変動を正確に判断することができる。
【0109】
患者位置変動信号を受信したと判断すると、患者位置計測システムからの患者位置信号に基づいて現在値を判断し、記憶手段2Aに記憶されている想定患者位置(本実施の形態では20個)と比較する。
比較した結果、現在の患者位置に最も近い想定患者位置が選択される。
【0110】
次に、選択された想定患者位置に関する、付与線量、想定患者位置に位置する患者に付与される付与線量の計画付与線量に対する比率、算出された付与線量率を照射時間に換算した照射時間が、記憶手段2Aから呼び出される。
【0111】
次に、呼び出された照射時間に基づいて実治療における照射時間が調整される。
照射制御システム側では、今までに照射された照射時間を積算してゆき、積算された照射時間が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了させる制御を実行し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、照射を継続させる。
【0112】
図18に示されたものでは、最終的に照射時間が62分で治療を終えている。
この照射時間は、
図9に示した治療計画の段階の照射時間50分よりも12分延長されており、計画付与線量が確保されたと認められる結果となっている。
【0113】
図19は、本発明の実施の形態2に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【0114】
実施の形態2においては、患者は治療に理想とされる理想患者位置を照射中は維持していると仮定する一方、ホウ素濃度は、照射中に想定されるホウ素濃度変化値を複数推定し、予めそれぞれのホウ素濃度での線量計算が実施され、記憶手段にメモリされている状況で照射が開始される。
【0115】
患者は、患者位置計測システムを用いながら、患者保持装置上の理想患者位置に正確に保持される。
中性子線の照射直前には、血中のホウ素濃度が測定され(26ppm)、この測定値から推定された推定段階的減少ホウ素濃度値情報が治療計画システムに入力される。図に示されている推定段階的減少ホウ素濃度値は、25ppm、16ppm、12ppmとなっている。
【0116】
計画付与線量で中性子線の照射が開始されると、推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく付与線量、付与線量の計画付与線量に対する比率、算出された付与線量率を照射時間に換算した照射時間が、記憶手段2Aから呼び出される。
【0117】
照射制御システム側では、呼び出された照射時間に基づいて実治療における照射時間を調整し、各ホウ素濃度区間に照射されてゆく照射時間を積算してゆき、積算された照射時間が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かを判断する。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了させる制御を実行し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、照射を継続させる。
【0118】
図19に示されたものでは、最終的に照射時間が63分で治療を終えている。
この照射時間は、
図9に示した治療計画の段階の照射時間50分よりも13分延長されており、計画付与線量が確保されたと認められる結果となっている。
【0119】
図20は、本発明の実施の形態2に係る治療計画システム2を含むBNCTシステム1の全体を概略的に示した機能ブロック図である。
【0120】
治療計画システム2は、記憶手段2A、理想患者位置付与線量算出手段2B1、想定ホウ素濃度付与線量算出手段2B2、及び推定段階的減少ホウ素濃度選択手段2C1を含んで構成されている。
記憶手段2Aには、理想患者位置2Aa、推定段階的減少ホウ素濃度値2Af、想定ホウ素濃度付与線量2Ag、照射時推定段階的減少ホウ素濃度値2Ahなどが記憶されるようになっている。
【0121】
ここでいう理想患者位置2Aaとは、それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置4の中性子線の照射口4Aに対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる位置を意味している。
【0122】
推定段階的減少ホウ素濃度値2Afは、照射直前の血中ホウ素濃度測定値から薬物動態法などに基づいて推定される複数のホウ素濃度値のことを意味している。
想定ホウ素濃度付与線量2Agは、照射直前の血中ホウ素濃度測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値に基づくホウ素濃度付与線量を意味している。
照射時推定段階的減少ホウ素濃度値2Ahは、推定される複数の段階的減少ホウ素濃度値の中の、実際の照射時に選択されるものを意味している。
【0123】
理想患者位置付与線量算出手段2B1は、理想患者位置を取り込み、理想患者位置における計画付与線量を算出しておく算出手段であって、算出された理想患者位置付与線量は記憶手段2Aに記憶される。
この理想患者位置付与線量の算出には、計算精度の高いモンテカルロ法が採用されている。
【0124】
本実施の形態2では、事前に推定段階的減少ホウ素濃度値2Afの範囲を想定しておき、複数の推定段階的減少ホウ素濃度値2Afに対する計画付与線量をそれぞれ事前に計算してメモリしておく。
【0125】
そして、実治療中には、複数の推定段階的減少ホウ素濃度値2Afの中から、照射直前の血中ホウ素濃度測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値を選択し、選択された推定段階的減少ホウ素濃度値に対する事前に計算された計画付与線量に基づいて照射時間を制御してゆく。
【0126】
このことにより、実治療中には、あたかも推定段階的減少ホウ素濃度値に基づくリアルタイム線量評価が実現されて照射制御がなされるかのごとくの治療を実施することができる。
【0127】
想定される推定段階的減少ホウ素濃度値は10条件程度と見込まれ、より細かく想定しても最大で20条件を超えることはないと考えられる。
20条件を事前に想定して計算しておく場合、1条件の計算時間が10分として、約200分=3時間20分程度で完了する。治療計画は、実際の治療を実施する1週間程度前に立てられるため、3時間を少し超える計算時間を要しても、十分治療当日までにすべての想定される推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく線量評価を完了して想定ホウ素濃度付与線量2Agを記憶手段2Aに記憶させて準備しておくことができる。
【0128】
図21(a)は、本発明の実施の形態2に係る治療計画システム2における実治療開始前の線量評価を実施しておく際の制御部の制御動作を示すフローチャート図である。
【0129】
まず、ステップS21において、各患者毎の病巣情報などを取り込み、患者毎の理想的治療条件、例えば、照射時間、ビーム照射角度、単位ホウ素濃度当たりの照射時間などを決定し、患者毎の理想的治療計画を作成しておく。
また、推定される複数のホウ素濃度値の段階的変化値を取り込んでおく。
【0130】
次に、ステップS22において、各段階的ホウ素濃度値に基づく線量率の計算を実施する。
ステップS22においては、段階的ホウ素濃度値として20を上限として設定する。
【0131】
ステップS23においては、これら段階的ホウ素濃度値、各段階的ホウ素濃度値に基づく付与線量、付与線量の計画付与線量に対する比率を、紐付けして記憶手段2Aにメモリーしておく。
【0132】
図21(b)は、本発明の実施の形態2に係るBNCTシステムにおいて、実治療開始後に実行される制御動作を示すフローチャート図である。
【0133】
まず、ステップS25において、患者位置計測システム5を用いながら、患者を患者保持装置6上の求めておいた理想患者位置2Aaに正確に保持させる。
次に、照射直前の血中ホウ素濃度測定値を基に、照射開始時のホウ素濃度を推定する。
【0134】
次に、ステップS26において、ホウ素濃度情報を治療計画システム側へ送信する。
【0135】
次に、ステップS27に進み、ステップS27においては、薬物動態法、即発γ線測定法、もしくはPG-SPECT法によりホウ素濃度を推定する。
次に、ステップS28に進み、ステップS28では、決定されたホウ素濃度値に対応する、事前に計算され、メモリされている線量値を取得する。
【0136】
次に、ステップS29に進み、ステップS29では、線量が積算される。
次に、ステップS30では、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断され、計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、ステップS27に戻る。
【0137】
図22は、本発明の実施の形態3に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【0138】
実施の形態3においては、事前に患者が移動する範囲を想定しておき、複数の想定患者位置に対する計画付与線量がそれぞれ事前に計算されており、ホウ素濃度は、照射中に想定されるホウ素濃度変化値を複数推定し、予めそれぞれのホウ素濃度での線量計算が実施され、複数の想定患者位置それぞれと紐付けされて、記憶手段にメモリされている状況で照射が開始される。
【0139】
患者は、患者位置計測システムを用いながら、患者保持装置上の理想患者位置に正確に保持される。
中性子線の照射直前には、血中のホウ素濃度が測定され(26ppm)、この測定値から推定された推定段階的減少ホウ素濃度値情報が治療計画システムに入力される。図に示されている推定段階的減少ホウ素濃度値は、25ppm、16ppm、12ppmとなっている。
【0140】
計画付与線量で中性子線の照射が開始されると、患者位置計測システムからは、患者位置情報(重心&ベクトル)が治療計画システム側に常に送信され、治療計画システム側では、患者位置の変動を正確に判断することができる。
【0141】
患者位置変動信号を受信したと判断すると、患者位置計測システムからの患者位置信号に基づいて現在値を判断し、記憶手段2Aに記憶されている想定患者位置(本実施の形態では20個)と比較する。
比較した結果、現在の患者位置に最も近い想定患者位置が選択される。
【0142】
次に、選択された想定患者位置に関する、付与線量、想定患者位置に位置する患者に付与される付与線量の計画付与線量に対する比率、算出された付与線量率を照射時間に換算した照射時間が、記憶手段2Aから呼び出される。
併せて、推定段階的減少ホウ素濃度値に基づく付与線量、付与線量の計画付与線量に対する比率、算出された付与線量率を照射時間に換算した照射時間が、記憶手段2Aから呼び出される。
【0143】
次に、呼び出された照射時間に基づいて実治療における照射時間が調整される。
照射制御システム側では、現在の患者位置、及び推定段階的減少ホウ素濃度値の両者が考慮された、照射時間を積算してゆき、積算された照射時間が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了させる制御を実行し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、照射を継続させる。
【0144】
図22に示されたものでは、最終的に照射時間が64分で治療を終えている。
この照射時間は、
図9に示した治療計画の段階の照射時間50分よりも14分延長されており、計画付与線量が確保されたと認められる結果を示している。
【0145】
図23は、本発明の実施の形態3に係る治療計画システム2を含むBNCTシステム1の全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【0146】
治療計画システム2は、記憶手段2A、想定患者位置付与線量算出手段2B、想定患者位置選択手段2C、理想患者位置付与線量算出手段2B1、想定ホウ素濃度付与線量算出手段2B2、及び推定段階的減少ホウ素濃度選択手段2C1を含んで構成されている。
【0147】
記憶手段2Aには、理想患者位置2Aa、想定患者位置2Ac、想定患者位置付与線量2Ad、推定段階的減少ホウ素濃度値2Af、想定ホウ素濃度付与線量2Ag、照射時推定段階的減少ホウ素濃度値2Ahなどが記憶されるようになっている。
【0148】
想定患者位置2Acは、各々の患者に特有のその患者が治療中に取る確率が高いと想定される少なくとも1以上の患者位置であって、治療開始前に想定される患者位置を意味している。
推定段階的減少ホウ素濃度値2Afは、照射直前の血中ホウ素濃度測定値から薬物動態法などに基づいて推定される複数のホウ素濃度値のことを意味している。
【0149】
想定ホウ素濃度付与線量2Agは、照射直前の血中ホウ素濃度測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値に基づくホウ素濃度付与線量を意味している。
照射時推定段階的減少ホウ素濃度値2Ahは、推定される複数の段階的減少ホウ素濃度値の中の、実際の照射時に選択されるものを意味している。
【0150】
想定患者位置付与線量算出手段2Bは、各想定患者位置を取り込み、各想定患者位置における計画付与線量を算出しておく算出手段であって、算出された各想定患者位置付与線量2Adは記憶手段2Aに記憶される。
この想定患者位置付与線量2Adの算出には、計算精度の高いモンテカルロ法が採用されている。
【0151】
本実施の形態3では、事前に患者が移動する範囲を想定しておき、複数の想定患者位置に対する計画付与線量をそれぞれ事前に計算しておく。そして、実治療中には、患者位置計測システム5からの患者位置情報を受信して、正確な変動患者位置を取得し、取得した変動患者位置と複数の想定患者位置とを照合し、変動患者位置に最も近い想定患者位置を選択する(想定患者位置選択手段2C)。
【0152】
そして選択された想定患者位置に対応する、事前に計算しておいた想定患者位置付与線量Adが治療に使用される。このことにより、実治療中には、あたかも変動患者位置におけるリアルタイム線量評価が実現されて照射制御が継続されるかのごとくの治療を実施することができる。
【0153】
理想患者位置付与線量算出手段2B1は、理想患者位置を取り込み、理想患者位置における計画付与線量を算出しておく算出手段であって、算出された理想患者位置付与線量は記憶手段2Aに記憶される。
この理想患者位置付与線量の算出には、計算精度の高いモンテカルロ法が採用されている。
【0154】
本実施の形態3では、事前に推定段階的減少ホウ素濃度値2Afの範囲を想定しておき、複数の推定段階的減少ホウ素濃度値2Afに対する計画付与線量をそれぞれ事前に計算してメモリしておく。
【0155】
そして、実治療中には、複数の推定段階的減少ホウ素濃度値2Afの中から、照射直前の血中ホウ素濃度測定値に最も近い推定段階的減少ホウ素濃度値を選択し、選択された推定段階的減少ホウ素濃度値に対する事前に計算された計画付与線量に基づいて照射時間を制御してゆく。
【0156】
このことにより、実治療中には、あたかも推定段階的減少ホウ素濃度値に基づくリアルタイム線量評価が実現されて照射制御がなされるかのごとくの治療を実施することができる。
【0157】
図24(a)は、本発明の実施の形態3に係る治療計画システム2における実治療開始前に事前に線量評価を実施しておく際の制御部の制御動作を示すフローチャート図である。
【0158】
まず、ステップS31において、各患者毎の病巣情報などを取り込み、患者毎の理想的治療条件、例えば、照射時間、ビーム照射角度、単位ホウ素濃度当たりの照射時間などを決定し、患者毎の理想的治療計画を作成する。
【0159】
次に、ステップS32において、想定患者位置の設定数nが20に達したか否かを判定する。
ステップS32において、想定患者位置の設定数nが20に達したと判断されると工程を終了する一方、想定患者位置の設定数nが20に達していないと判断されると、次に、ステップS33に進む。
【0160】
ステップS33においては、想定患者位置の設定数nを1から開始させる。
次に、ステップS34に進み、ステップS34においては、想定患者位置nでの付与線量率を計算する。この計算には、上記したように計算精度の高いモンテカルロ法を採用する。
【0161】
次に、ステップS35に進み、ステップS35においては、理想患者位置2Aaと想定患者位置とから、想定患者位置に位置する患者に付与される付与線量の計画付与線量に対する比率を算出する。
【0162】
そして、ステップS36において、推定される複数のホウ素濃度値の段階的変化値を取り込んでおく。
【0163】
次に、ステップS37において、各段階的ホウ素濃度値に基づく線量率を計算する。
ステップS37においては、段階的ホウ素濃度値として20を上限として設定する。
【0164】
次に、ステップS38において、これら想定患者位置、ホウ素濃度、及び各段階的ホウ素濃度値線量率を、紐付けして記憶手段2Aにメモリーしておく。
【0165】
次に、ステップS39において、想定患者位置の設定数nを一つプラスした後、ステップS32に戻る。
この動作を想定患者位置の設定数nが20に達するまで繰り返し、想定患者位置の設定数nが20に達したと判断されると工程を終了する
【0166】
図24(b)は、本発明の実施の形態3に係るBNCTシステムにおいて、実治療開始後に実行される制御動作を示すフローチャート図である。
【0167】
まず、ステップS41において、患者位置計測システム5を用いながら、患者を患者保持装置6上の求めておいた理想患者位置2Aaに正確に保持させる。
次に、ステップS42において、照射直前の血中ホウ素濃度測定値から照射開始時のホウ素濃度を推定する。
【0168】
次に、ステップS43において、計画付与線量で中性子線の照射を開始する。
次に、ステップS44に進み、ステップS44においては、患者位置計測システム5からの患者位置変動信号5sを受信したか否かを判断する。患者位置変動信号5sを受信したと判断するとステップS45に進む一方、患者位置変動信号5sを受信していないと判断すると、ステップS51に進む。
【0169】
ステップS45においては、患者位置計測システム5から患者位置の現在値を取り込む。
次に、ステップS46において、ステップS45で取り込まれた治療時における現在の患者位置と、記憶手段2Aに記憶されている想定患者位置とを比較する。
次に、ステップS47において、前のステップS46において比較した結果の、現在の患者位置に最も近い想定患者位置を選択する。
【0170】
次に、ステップS48では、ホウ素濃度を推定する。
次に、ステップS49において、選択された想定患者位置、及びその時のホウ素濃度での線量率を呼び出す。
【0171】
次に、ステップS50では、線量を積算する。
次に、ステップS51に進み、ステップS51では、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、ステップS44に戻る。
【0172】
図25は、本発明の実施の形態4に係る治療計画システム2を含むBNCTシステム1における制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【0173】
患者は、患者位置計測システムを用いながら、患者保持装置上の理想患者位置に正確に保持される。
中性子線の照射直前には、血中のホウ素濃度が測定され、この測定値から推定された推定平均ホウ素濃度情報が治療計画システムに入力される。図に示されている推定平均ホウ素濃度は15ppmである。
【0174】
計画付与線量で中性子線の照射が開始されると、患者位置計測システムからは、患者位置情報(重心&ベクトル)が治療計画システム側に常に送信され、治療計画システム側では、患者位置の変動を正確に判断することができる。
【0175】
患者位置変動信号を受信したと判断すると、患者位置計測システムからの患者位置信号に基づいて現患者位置を判断し、現患者位置に基づく計算モデル条件を再現して線量評価を高速計算する。この高速計算には、図示したようなスーパーコンピューターレベルのものが使用される。
【0176】
照射制御システム側では、今までに照射された線量を積算してゆき、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了させる制御を実行し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、照射を継続させる。
【0177】
図25に示されたものでは、最終的に照射時間が62.5分で治療を終えている。
この照射時間は、
図9に示した治療計画の段階の照射時間50分よりも12.5分延長されており、計画付与線量が確保されたと認められる結果となっている。
【0178】
図26は、本発明の実施の形態4に係る治療計画システム2を含むBNCTシステム1の全体を概略的に示した機能ブロック図である。
【0179】
治療計画システム2は、記憶手段2A、及び変動患者位置付与線量高速算出手段2B4を含んで構成されている。
記憶手段2Aには、理想患者位置2Aa、想定平均ホウ素濃度値2Ab、変動患者位置2Aj、変動患者位置付与線量2Ak、照射時平均ホウ素濃度2Aeなどが記憶されるようになっている。
【0180】
ここでいう理想患者位置2Aaとは、それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置4の中性子線の照射口4Aに対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる位置を意味している。
また、理想患者位置2Aaにおいて計算される治療のための理想的付与線量を計画付与線量という。
【0181】
想定平均ホウ素濃度2Abは、患者の体格などを考慮して治療開始前にそれぞれの患者毎に対応させて決定しておく治療中に想定される平均ホウ素濃度を意味している。
照射時平均ホウ素濃度値2Aeは、照射直前の血中ホウ素濃度の測定値から推定されるホウ素濃度であって、実治療の際の線量の計算に用いられるものを意味している。
【0182】
変動患者位置付与線量高速算出手段2B4は、変動患者位置を取り込み、各変動患者位置における付与線量を高速で算出しておくスーパーコンピューターなどで構成される算出手段であって、算出された各変動患者位置付与線量2Akは記憶手段2Aに一旦記憶される。
この変動患者位置付与線量2Akの算出は、変動患者位置に基づく計算モデル条件を再現して線量評価を高速計算することによって行われる。
【0183】
図27(a)は、本発明の実施の形態4に係る治療計画システム2における実治療開始前の理想患者位置における線量評価を実施しておく際の制御部の制御動作を示すフローチャート図である。
【0184】
ステップS60において、各患者毎の病巣情報などを取り込み、患者毎の理想的治療条件、例えば、照射時間、ビーム照射角度、単位ホウ素濃度当たりの照射時間などを決定し、患者毎の理想的治療計画を作成する。
ホウ素濃度は、上記した想定平均ホウ素濃度2Abが使用される。
【0185】
図27(b)は、本発明の実施の形態4に係るBNCTシステムにおいて、実治療開始後に実行される制御動作を示すフローチャート図である。
【0186】
まず、ステップS61において、患者位置計測システム5を用いながら、患者を患者保持装置6上の求めておいた理想患者位置2Aaに正確に保持させる。
次に、ステップS62において、照射直前の血中ホウ素濃度測定値から推定された推定平均ホウ素濃度情報を取り込む。
【0187】
次に、ステップS63において、計画付与線量で中性子線の照射を開始する。
次に、ステップS64に進み、ステップS64においては、患者位置計測システム5からの患者位置変動信号5sを受信したか否かが判断される。患者位置変動信号5sを受信したと判断するとステップS65に進む一方、患者位置変動信号5sを受信していないと判断すると、ステップS68に進む。
【0188】
ステップS65においては、患者位置計測システム5から患者位置の現在値、すなわち変動患者位置を取り込む。
次に、ステップS66において、ステップS65で取り込まれた治療時における現在の患者位置(変動患者位置)を治療計画システム側へ送信する。
【0189】
治療時における現在の患者位置(変動患者位置)を受信した治療計画システムは、次に、ステップS67において、変動患者位置に基づく計算モデル条件を再現して線量を高速計算する。この高速計算には、図示したようなスーパーコンピューターレベルのものが使用される。
【0190】
次に、ステップS68では、今までに照射された線量を積算する。
次に、ステップS69では、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、ステップS64に戻る。
【0191】
図28は、本発明の実施の形態5に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【0192】
実施の形態5においては、患者は治療に理想とされる理想患者位置を照射中は維持していると仮定する一方、ホウ素濃度は、逐次計測し、計測濃度変化に対応させて、計算モデル中のホウ素濃度を変化させて線量計算を実施する。
【0193】
患者は、患者位置計測システムを用いながら、患者保持装置上の理想患者位置に正確に保持される。
中性子線の照射直前には、血中のホウ素濃度が測定され(26ppm)、この測定値から照射開始時のホウ素濃度は推定される。
【0194】
実治療中には、薬物動態法、即発γ線測定法、あるいはPG-SPECT法等の測定法の中から選ばれた測定法による測定値が逐次、治療計画システムに送信される。
測定値を取り込んだ治療計画システムでは、計測濃度変化に対応させて、計算モデル中のホウ素濃度を変化させて線量計算を実施する。
図に示されている測定ホウ素濃度値は、25ppm、20ppm、17ppm、15ppm、13.5ppmなどの値となっている。
【0195】
照射制御システム側では、計算された線量を積算してゆき、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かを判断し、計画付与線量に達したと判断すると、照射を終了させる制御を実行し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断すると、照射を継続させる。
【0196】
図28に示されたものでは、最終的に照射時間が63.5分で治療を終えている。
この照射時間は、
図9に示した治療計画の段階の照射時間50分よりも13.5分延長されており、計画付与線量が確保されたと認められる結果となっている。
【0197】
図29は、本発明の実施の形態5に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【0198】
治療計画システム2は、記憶手段2A、及び理想患者位置・ホウ素濃度逐次計測値付与線量高速算出手段2B5を含んで構成されている。
記憶手段2Aには、理想患者位置2Aa、薬物動態法、即発γ線測定法、あるいはPG-SPECT法等の測定法の中から選ばれた測定法による逐次計測値2Am、高速算出付与線量値2Anなどが記憶されるようになっている。
【0199】
ここでいう理想患者位置2Aaとは、それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置4の中性子線の照射口4Aに対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる位置を意味している。
また、理想患者位置2Aaにおいて計算される治療のための理想的付与線量を計画付与線量という。
【0200】
理想患者位置・ホウ素濃度逐次計測値付与線量高速算出手段2B5は、ホウ素濃度逐次計測値を取り込み、ホウ素濃度逐次計測値における付与線量を高速で算出するスーパーコンピューターなどで構成される算出手段であって、算出された高速算出付与線量値2Anは記憶手段2Aに一旦記憶される。
この高速算出付与線量値2Anは、ホウ素濃度逐次計測値に基づく計算モデル条件を再現して線量評価を高速計算することによって算出される。
【0201】
図30(a)は、本発明の実施の形態5に係る治療計画システム2における実治療開始前の理想患者位置における線量評価を実施しておく際の制御部の制御動作を示すフローチャート図である。
【0202】
ステップS70において、各患者毎の病巣情報などを取り込み、患者毎の理想的治療条件、例えば、照射時間、ビーム照射角度、単位ホウ素濃度当たりの照射時間などを決定し、患者毎の理想的治療計画を作成する。
【0203】
図30(b)は、本発明の実施の形態5に係るBNCTシステムにおいて、実治療開始後に実行される制御動作を示すフローチャート図である。
【0204】
まず、ステップS71において、患者位置計測システム5を用いながら、患者を患者保持装置6上の求めておいた理想患者位置2Aaに正確に保持させる。
併せて、照射直前の血中ホウ素濃度測定値を基に、照射開始時のホウ素濃度を推定する。
【0205】
次に、ステップS72において、薬物動態法、即発γ線測定法、もしくはPG-SPECT法によるホウ素濃度推定値をTPSへ送信する。
次に、ステップS73に進み、ステップS73においては、TPSにおいて理想患者位置・ホウ素濃度逐次計測値の条件で、計算モデル条件を再現して高速線量計算を実施し、その計算結果を照射制御システムへ送信する。この高速計算には、図示したようなスーパーコンピューターレベルのものが使用される。
次に、ステップS74では、今までに照射された線量を積算する。
【0206】
次に、ステップS75では、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、ステップS72に戻る。
【0207】
図31は、本発明の実施の形態6に係る治療計画システムを含むBNCTシステムにおける制御動作の全体を模式的に示す外観図である。
【0208】
実施の形態6においては、患者位置は、患者位置計測システムにより逐次計測され、ホウ素濃度も、逐次計測され、計算モデル中の患者位置・ホウ素濃度を変化させて線量計算が実施される。
【0209】
患者は、患者位置計測システムを用いながら、患者保持装置上の理想患者位置に正確に保持される。
中性子線の照射直前には、血中のホウ素濃度が測定され(26ppm)、この測定値から照射開始時のホウ素濃度は推定される。
【0210】
計画付与線量で中性子線の照射が開始されると、患者位置計測システムからは、患者位置情報(重心&ベクトル)が治療計画システム側に常に送信され、治療計画システム側では、患者位置の変動を正確に判断することができる。
【0211】
他方、ホウ素濃度は、薬物動態法、即発γ線測定法、あるいはPG-SPECT法等の測定法の中から選ばれた測定法による測定値が逐次、治療計画システムに送信される。
治療計画システムでは、患者位置計測システムからの患者位置信号に基づく現患者位置情報、及び計測濃度変化に対応させた、計算モデル条件を再現して線量評価を高速計算する。この高速計算には、図示したようなスーパーコンピューターレベルのものが使用される。
【0212】
照射制御システム側では、今までに照射された線量を積算してゆき、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了させる制御を実行し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、照射を継続させる。
【0213】
図31に示されたものでは、最終的に照射時間が65.0分で治療を終えている。
この照射時間は、
図9に示した治療計画の段階の照射時間50分よりも15.0分延長されており、計画付与線量が確保されたと認められる結果となっている。
【0214】
図32は、本発明の実施の形態6に係る治療計画システムを含むBNCTシステムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【0215】
治療計画システム2は、記憶手段2A、及び変動患者位置・ホウ素濃度逐次計測値付与線量高速算出手段2B6を含んで構成されている。
記憶手段2Aには、理想患者位置2Aa、変動患者位置2Aj、薬物動態法、即発γ線測定法、あるいはPG-SPECT法等の測定法の中から選ばれた測定法による逐次計測値2Am、高速算出付与線量値2Anなどが記憶されるようになっている。
【0216】
ここでいう理想患者位置2Aaとは、それぞれの患者毎に決定される中性子線照射装置4の中性子線の照射口4Aに対する位置であって、当該患者にとっての中性子線治療のための理想的位置と考えられる位置を意味している。
また、理想患者位置2Aaにおいて計算される治療のための理想的付与線量を計画付与線量という。
【0217】
変動患者位置・ホウ素濃度逐次計測値付与線量高速算出手段2B6は、変動患者位置及びホウ素濃度逐次計測値を取り込み、変動患者位置情報、及び計測濃度変化に対応させた、計算モデル条件を再現して線量評価を高速計算するスーパーコンピューターなどで構成される算出手段であって、算出された高速算出付与線量値2Anは記憶手段2Aに一旦記憶される。
【0218】
図33(a)は、本発明の実施の形態6に係る治療計画システム2における実治療開始前の理想患者位置における線量評価を実施しておく際の制御部の制御動作を示すフローチャート図である。
【0219】
ステップS80において、各患者毎の病巣情報などを取り込み、患者毎の理想的治療条件、例えば、照射時間、ビーム照射角度、単位ホウ素濃度当たりの照射時間などを決定し、患者毎の理想的治療計画を作成する。
【0220】
図33(b)は、本発明の実施の形態6に係るBNCTシステムにおいて、実治療開始後に実行される制御動作を示すフローチャート図である。
【0221】
まず、ステップS81において、患者位置計測システム5を用いながら、患者を患者保持装置6上の求めておいた理想患者位置2Aaに正確に保持させる。
次に、ステップS82において、照射直前の血中ホウ素濃度測定値を基に、照射開始時のホウ素濃度を推定する。
【0222】
次に、ステップS83において、計画付与線量で中性子線の照射を開始する。
次に、ステップS84に進み、ステップS84においては、患者位置計測システム5からの患者位置変動信号5sを受信したか否かが判断される。患者位置変動信号5sを受信したと判断するとステップS85に進む一方、患者位置変動信号5sを受信していないと判断すると、ステップS87に進む。
【0223】
ステップS85においては、患者位置計測システム5から患者位置の現在値、すなわち変動患者位置を取り込む。
次に、ステップS86において、ステップS85で取り込まれた治療時における現在の患者位置(変動患者位置)を治療計画システム側へ送信する。
【0224】
次に、ステップS87において、薬物動態法、即発γ線測定法、もしくはPG-SPECT法によりホウ素濃度を推定する。
次に、ステップS88において、ホウ素濃度の推定値をTPSへ送信する。
【0225】
次に、ステップS89においては、TPSにおいて変動患者位置・ホウ素濃度逐次計測値の条件で、計算モデル条件を再現して高速線量計算を実施し、その計算結果を照射制御システムへ送信する。この高速計算には、図示したようなスーパーコンピューターレベルのものが使用される。
次に、ステップS90では、今までに照射された線量を積算してゆく。
【0226】
次に、ステップS91では、積算された線量が治療計画システムで計画された計画付与線量に達したか否かが判断される。計画付与線量に達したと判断されると、照射を終了し、他方、計画付与線量に未だ達していないと判断されると、ステップS84に戻る。
【産業上の利用分野】
【0227】
産業上の利用分野としては、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用治療計画システム、BNCTシステム及びBNCTなどの放射線外部照射治療を挙げることができる。
放射線の照射時間が長く、かつ、治療システム、治療手法が確立されていないBNCT分野では、特に有効な技術となり得る。
【符号の説明】
【0228】
1 BNCTシステム
2 治療計画システム
2A 記憶手段
2Aa 理想患者位置
2Ab 想定平均ホウ素濃度
2Ac 想定患者位置
2Ad 想定患者位置付与線量
2Ae 照射時平均ホウ素濃度
2Af 推定段階的減少ホウ素濃度値
2Ag 想定ホウ素濃度付与線量
2Ah 照射時推定段階的減少ホウ素濃度値
2Aj 変動患者位置
2Ak 変動患者位置付与線量
2Am 即発γ線ホウ素濃度逐次計測値
2An 高速算出付与線量値
2B 想定患者位置付与線量算出手段
2B1 理想患者位置付与線量算出手段
2B2 想定ホウ素濃度付与線量算出手段
2B4 変動患者位置付与線量高速算出手段
2B5 理想患者位置・ホウ素濃度逐次計測値付与線量高速算出手段
2B6 変動患者位置・ホウ素濃度逐次計測値付与線量高速算出手段
2C 想定患者位置選択手段
2C1 推定段階的減少ホウ素濃度選択手段
3 中性子線照射制御システム
3a 記憶手段
3b 照射制御部
4 中性子線照射装置
4A 照射口
4a 駆動制御部
5 患者位置計測システム
5A 可視光線型カメラ
5S 患者位置変動信号
6 患者保持装置
6a 駆動制御部
R 中性子線治療室
M 患者