(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133745
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】工事用金車及び工事用金車を用いた工法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20240926BHJP
B60M 1/28 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H02G1/02
B60M1/28 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043688
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】591048830
【氏名又は名称】日本電設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000139702
【氏名又は名称】株式会社安田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100227455
【弁理士】
【氏名又は名称】莊司 英史
(72)【発明者】
【氏名】渡部 博貴
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 正幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】木佐貫 雄太
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AA13
5G352AA14
5G352AF01
5G352AF10
(57)【要約】
【課題】電線の搬送作業時において引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能な工事用金車を提供する。
【解決手段】本発明に係る工事用金車100は、第1軸131を中心に回転する一対の回転挟持板135、135’と、前記第1軸と平行な複数の軸を中心に回転自在な状態で前記一対の回転挟持板135、135’の間に保持される複数の回転体(ホイール輪140)と、からなる回転体保持構造130を2組有し、2組の前記回転体保持構造130の間に、第1軸131と平行な複数の軸171を中心に回転する複数の中間ローラ170が配されることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸を中心に回転する一対の回転挟持板と、前記第1軸と平行な複数の軸を中心に回転自在な状態で前記一対の回転挟持板の間に保持される複数の回転体と、からなる回転体保持構造を2組有し、
2組の前記回転体保持構造の間に、第1軸と平行な複数の軸を中心に回転する複数の中間ローラが配されることを特徴とする工事用金車。
【請求項2】
2組の前記回転体保持構造と、複数の前記中間ローラとを回転可能に保持する一対のフレームを有することを特徴とする請求項1に記載の工事用金車。
【請求項3】
2組の前記回転体保持構造の2つの第1軸の中間に形成される仮想面内に、前記第1軸と平行な回動支軸が配されており、前記フレームの吊り下げ構造は前記回動支軸を中心として回動することを特徴とする請求項2に記載の工事用金車。
【請求項4】
1つの前記回転体保持構造におけるそれぞれの回転体の回転中心となる軸は、前記第1軸を中心として等間隔に配されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の工事用金車。
【請求項5】
1つの前記回転体保持構造における回転体の数が5つであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の工事用金車。
【請求項6】
前記回転体が外周囲に凹凸がないホイール輪であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の工事用金車。
【請求項7】
前記回転体が外周囲に凹凸があるホイール輪であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の工事用金車。
【請求項8】
前記第1軸に対して垂直な第2軸を中心に回転する縦ローラが配されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の工事用金車。
【請求項9】
前記縦ローラは、前記回転体保持構造の前記中間ローラが設けられていない側に配されることを特徴とする請求項8に記載の工事用金車。
【請求項10】
第1軸を中心に回転する一対の回転挟持板と、前記第1軸と平行な複数の軸を中心に回転自在な状態で前記一対の回転挟持板の間に保持される複数の回転体と、からなる回転体保持構造を2組有し、
2組の前記回転体保持構造の間に、第1軸と平行な複数の軸を中心に回転する複数の中間ローラが配される工事用金車を用いて、電線の張替を行うことを特徴とする工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き抜き工法を利用した電線工事等で電線を搬送する際、電線のガイドを行う工事用金車、及びこのような工事用金車を用いて電線等の張替を行う工法に関する。
【背景技術】
【0002】
架空電車線等の電線の張替工事としては、旧線と新品の電線を接続し引き抜く「引き抜き工法」による施工が知られている。以下、引き抜き工法によって、電線として、電気鉄道における給電に用いられる、き電線の張替を行う場合を例に説明する。
【0003】
図11は電車用設備の一例を電車(不図示)の進行方向から見た模式図である。なお、電車(不図示)の進行方向側面からみると、ビーム3、やぐら部4、碍子8の一部等の構成は電柱2、2’に隠れて、視認することはできないものである。また、
図11において、電車用設備として一般的に用いられるトロリー線等の構成は簡略化のために図示を省略している。
【0004】
電線10は、主として電柱2、2’とこれらの電柱2、2’間に渡されているビーム3とからなる構造物1によってちょう架されている。ビーム3の上方側には、やぐら部4が設けられており、このやぐら部4において、電線10は碍子8を介して、やぐら部4内側の通線可能な空間に配された状態でちょう架されている。
【0005】
上記のようにしてちょう架されている電線10の引き抜き工法による張替工事を、
図12を参照して説明する。
図12は電車用設備の一例を電車(不図示)の進行方向側面側から見た模式図である。この
図12では、引き抜き工法により、4つの電柱2、2’対に渡って張架されている電線10を旧線から新品のものへと張り替える様子を模式的に示している。
【0006】
送り出し車両18に載置されている送り出しドラム19には新品の電線10が巻回されている。新品の電線10と、旧線とは
図12においては×印の位置で接続されており、巻き取り車両16に載置されている巻き取りドラム17で旧線を巻き取っていくことにより、旧線が引き抜かれつつ、新品の電線10が図面の左から右へと張り替えられていくこととなる。引き抜き工法による電線の張替工事については、例えば特許文献(特開2022-114185号公報)に開示がある。
【特許文献1】特開2022-114185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような引き抜き工法においては、碍子8の下方等に暫定的に金車11を設けて、電線10を搬送することが行われる。
【0008】
巻き取られる電線10(旧線)には、その外周にスリーブ(不図示)等が取り付けられていることがあり、このようなスリーブが金車11に引っかかってしまうことがあった。電線10(旧線)を引き抜く際の張力が、このような引っかかりの力に負けると、金車11がフリーズしてしまい電線10全体が搬送されず作業が中断してしまう。
【0009】
このような作業中断時には、作業員の手作業によって、金車11部においてスリーブを乗り越えさせることで引っかかりを解消して、電線10の搬送作業を再開するようにしていた。金車11において、電線10に装着されているスリーブ等の障害物の引っかかりが頻繁に発生すると、引き抜き工法の作業効率が落ち込んでしまい、問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明に係る工事用金車は、第1軸を中心に回転する一対の回転挟持板と、前記第1軸と平行な複数の軸を中心に、回転自在な状態で前記一対の回転挟持板の間に保持される複数の回転体と、からなる回転体保持構造を2組有し、2組の前記回転体保持構造の間に、第1軸と平行な複数の軸を中心に回転する複数の中間ローラが配されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る工事用金車は、2組の前記回転体保持構造と、複数の前記中間ローラとを回転可能に保持する一対のフレームを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る工事用金車は、2組の前記回転体保持構造の2つの第1軸の中間に形成される仮想面内に、前記第1軸と平行な回動支軸が配されており、前記フレームの吊り下げ構造は前記回動支軸を中心として回動することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る工事用金車は、1つの前記回転体保持構造におけるそれぞれの回転体の回転中心となる軸は、前記第1軸を中心として等間隔に配されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る工事用金車は、1つの前記回転体保持構造における回転体の数が5つであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る工事用金車は、前記回転体が外周囲に凹凸がないホイール輪であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る工事用金車は、前記回転体が外周囲に凹凸があるホイール輪であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る工事用金車は、前記第1軸に対して垂直な第2軸を中心に回転する縦ローラが配されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る工事用金車は、前記縦ローラは、前記回転体保持構造の前記中間ローラが設けられていない側に配されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る工事用金車を用いた工法は、第1軸を中心に回転する一対の回転挟持板と、前記第1軸と平行な複数の軸を中心に、回転自在な状態で前記一対の回転挟持板の間に保持される複数の回転体と、からなる回転体保持構造を2組有し、2組の前記回転体保持構造の間に、第1軸と平行な複数の軸を中心に回転する複数の中間ローラが配される工事用金車を用いて、電線の張替を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る工事用金車は、複数の回転体を含む回転体保持構造を2組有し、2組の前記回転体保持構造の間に、第1軸と平行な複数の軸を中心に回転する複数の中間ローラが配されているので、このような本発明に係る工事用金車によれば、スリーブ等の障害物が電線10に設けられていたとしても、電線10の搬送作業時において引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る工事用金車を用いた工法によれば、電線の張替を行う際、スリーブ等の障害物による引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る工事用金車100を説明する図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る工事用金車100斜視図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る工事用金車100のフレーム120等の部品の一部を透過的にみた斜視図である。
【
図4】スリーブ等の障害物Sが設けられていない電線10が工事用金車100によって搬送される際のホイール輪140の位置を説明する図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る工事用金車100による電線10の搬送を説明する図である。
【
図6】本発明に係る工事用金車100によるシーソー動作を説明する図である。
【
図7】それぞれの回転体保持構造130にかかる障害物Sを含む電線10の荷重を説明する図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る工事用金車100のフレーム120等の部品の一部を透過的にみた斜視図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る工事用金車100で用いられる凹凸を有するホイール輪150の斜視図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る工事用金車100による線10の搬送を説明する図である。
【
図11】電車用設備の一例を電車(不図示)の進行方向から見た模式図である。
【
図12】引き抜き工法の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る工事用金車100を説明する図である。
図1(A)は工事用金車100の側面を見た図である。本発明の第1実施形態に係る工事用金車100を、
図12で説明した引き抜き工法による張替工事に用いた際には、電車(不図示)の進行方向側面側から見た工事用金車100が、
図1(A)に示したものとなる。なお、本発明に係る工事用金車100をやぐら部4(
図11参照)の通線可能な空間内で利用するような場合、工事用金車100の高さ方向で許容される寸法は350mm~450mm程度である。しかしながら、本発明に係る工事用金車100のサイズがこれに限定されるわけではない。
【0024】
また、
図1(B)は工事用金車100の中に設けられた回転する主要な構成要素を抜き出して示す図である。工事用金車100の縦ローラ180も回転する構成要素ではあるが、
図1(B)では図示されていない。また、
図1(B)は工事用金車100を側面から見たものである。以下、工事用金車100を構成する材料は、特段の言及がない限り、金属等の剛性を有する材料である。
【0025】
図2は本発明の第1実施形態に係る工事用金車100斜視図であり、
図3は本発明の第1実施形態に係る工事用金車100のフレーム120等の部品の一部を透過的にみた斜視図である。
図2以下の図面で工事用金車100を図示する際には、ボルトナット等の締結部材は省略して、代わりに当該締結部材の中心を通る軸等を示すものとする。また、
図2以下の図面ではフレーム120、120’の間を通過する電線10の見やすさのために、適宜不図示とする構成があることに留意されたい。
【0026】
本発明に係る工事用金車100は、電線工事(特に、電線の張替工事)で電線10のガイドを行う際に用いる金車として好適であるが、用途がこれに限定されるものではない。本発明に係る工事用金車100は、主要な回転要素として、2組の回転体保持構造130と、これらの間に設けられる複数の中間ローラ170と、を有している。これらの構成が
図1(B)に示されるものである。また、本発明に係る工事用金車100おいては、これらの回転要素が電線10の荷重を支えるようになっている。
【0027】
先の2組の回転体保持構造130と、複数の中間ローラ170とは、一対のフレーム120、120’によって、回転可能に保持された状態とされている。それぞれのフレーム120、120’には、各軸を軸支するための貫通孔が複数設けられている。このような構造により、2組の回転体保持構造130と、複数の中間ローラ170とは、一対のフレーム120、120’に対し軸を中心として、相対的に回転するようになっている。
【0028】
電線10は、一対のフレーム120、120’の間に回転可能に設けられている2組の回転体保持構造130と、これらの間に設けられる複数の中間ローラ170の上を、搬送されるようになっている。
【0029】
1つの回転体保持構造130には、ある軸(以下、この軸を「第1軸131」とする)を中心に回転する一対の回転挟持板135、135’と、先の第1軸131と平行な複数の軸141を中心に、回転自在な状態で一対の回転挟持板135、135’の間に保持されている複数の回転体と、が含まれている。
【0030】
一対の回転挟持板135、135’の間に保持される回転体としては、第1実施形態に係る工事用金車100では、外周囲に凹凸がないホイール輪140を用いることができる。ホイール輪140は、例えば、軸141としてのボルトナットなどが挿通される軸孔を有するゴムなどを、材料とすることができる。回転体保持構造130中に設けられるホイール輪140は、寸法等全て同様の規格のものが用いられる。また、2組の回転体保持構造130は、全体としても同様の規格のものが用いられる。
【0031】
それぞれの回転挟持板135、135’には、各軸を軸支するための貫通孔が複数設けられている。このような構造により、ホイール輪140は、一対の回転挟持板135、135’に対し軸を中心として、相対的に回転するようになっている。
【0032】
ここで、ホイール輪140について着目すると、ホイール輪140は一対の回転挟持板135、135’に対し回転する(この回転を「自転」とも言う)。また、ホイール輪140は一対の回転挟持板135、135’の回転に伴い、回転挟持板135、135’の軸(回転体保持構造130の第1軸131に同じ)を中心にして回転する(この回転を「公転」とも言う)。
【0033】
なお、第1実施形態に係る工事用金車100においては、一対の回転挟持板135、135’に挟持されるホイール輪140の数が5つであるが、一対の回転挟持板135、135’に挟持されるホイール輪140の数は3つ以上であれば、特段の制限があるわけではない。
【0034】
1つの回転体保持構造130におけるそれぞれのホイール輪140の回転中心となる軸141は、回転挟持板135、135’の第1軸131を中心として等間隔に配される。第1軸131を中心として等間隔に配される軸141の様子を、
図1(B)の右側の回転挟持板135、135’に示している。
図1(B)において、隣り合う軸141の間の円周上の距離Cは、全て等しくされている。
【0035】
中間ローラ170は、第1軸131と平行な軸171を中心として回転可能となるように、一対のフレーム120、120’によって挟持されるように保持されている。また、複数の中間ローラ170は全て同じ規格のものであり、複数の中間ローラ170は全て面一となるようにフレーム120、120’によって保持されている。
【0036】
本発明に係る工事用金車100において、中間ローラ170は、例えば、軸171としてのボルトナットなどが挿通される軸孔が設けられる円柱状基材と、その円柱状基材の外周囲に設けられているゴム等の柔軟性を有する材料などにより構成することができる。
【0037】
本実施形態においては、2組の回転体保持構造130の間に設けられる中間ローラ170の数は5つであるが、設ける中間ローラ170の数に特段の制限があるわけではない。要は、2組の回転体保持構造130の間における複数の中間ローラ170の一群で、スリーブ等の障害物Sを含めた電線10の荷重を十分に受け止めることができるように構成されればよい。
【0038】
回転体保持構造130中に用いるホイール輪140の径(ホイール輪140を直円柱としてみたときの径)と、中間ローラ170の径(中間ローラ170を直円柱としてみたときの径)とを比較したとき、前者の径が後者の径より大きくされている。この理由の一つは、中間ローラ170の軽量化による工事用金車100全体の重量の軽減を図るためである。
【0039】
また、回転体保持構造130中に用いるホイール輪140最大の高さと、面一とされている複数の中間ローラ170の高さとを比較したとき、前者が後者より高くなるように設定される。2者の高さの差は、
図1(B)においてDとして示されている。このように設定される理由の一つは、電線10の搬送時、入口側の回転体保持構造130で引き上げたスリーブ等の障害物Sの荷重を、複数の中間ローラ170で受け止めるようにするためである。
【0040】
一方、スリーブ等の障害物Sが取り付けられていない箇所の電線10が、工事用金車100によって搬送されるときにおいては、複数の中間ローラ170と、それぞれの回転体保持構造130におけるホイール輪140のうちの2つのホイール輪140[複数(本例では5つ)のホイール輪140の高さが最大に位置するもの2つ]とが面一(
図4参照)となるように、中間ローラ170と、回転体保持構造130におけるホイール輪140の寸法関係が決められている。本発明に係る工事用金車100においては、このような寸法関係となっているために、障害物Sが配されていない電線10が真っ平らの平面上をスムーズに搬送されるようになっている。
【0041】
本発明に係る工事用金車100においては、2組の回転体保持構造130のうちのいずれか一方の回転体保持構造130から電線10が進入し、他側の回転体保持構造130から電線10が退出しつつ、電線10が搬送されていくようになっている。このように搬送される電線10において、進行方向の上流側の回転体保持構造130を入口側の回転体保持構造130、下流側の回転体保持構造130を出口側の回転体保持構造130と称することがある。
【0042】
本発明に係る工事用金車100を構成する2組の回転体保持構造130それぞれにおいて、中間ローラ170が設けられていない側に、第1軸131に対して垂直な第2軸182を中心に回転する縦ローラ180が対向するように対で配されている。すなわち、縦ローラ180は、1つの工事用金車100に計4本が設けられている。
【0043】
縦ローラ180は、縦ローラ保持構造127に対して回転可能に取り付けられている。また、縦ローラ保持構造127は、
図1でみて各フレーム120、120’の左右に取り付けられている。工事用金車100の入口側、出口側のそれぞれで、縦ローラ180が対で設けられることで、電線10の進行方向に対して垂直な左右方向の蛇行を規制することが可能となる。
【0044】
それぞれのフレーム120、120’の上部には吊り下げ構造110が取り付けられている。この吊り下げ構造110によって、碍子8等から工事用金車100のフレーム120、120’中に設けられている、電線10を搬送するローラ等の回転要素が、吊り下げられるようになっている。
【0045】
吊り下げ構造110には、対で渡し板112、112’が設けられており、それぞれの渡し板112、112’の中央部分には吊り下げ孔113、113’が設けられている。渡し板112、112’の間の空間に、碍子8等の取り付け用付属部品の孔が配され、当該孔と、吊り下げ孔113、113’とにボルトナット等の締結部材が挿通されることで、工事用金車100が碍子8等から吊り下げられるようになっている。
【0046】
本明細書において、工事用金車100吊り下げに用いたボルトナット等の締結部材の中心軸を、回動支軸111と称する。工事用金車100は、この回動支軸111を中心として回動するようにされている。これを図示すると、
図1(A)において工事用金車100全体は、(a)、(b)の方向に回動する。また、回動支軸111は第1軸131と平行とされている。
【0047】
本発明に係る工事用金車100において、2組の回転体保持構造130のそれぞれの第1軸131から等距離の中間に形成される面を仮想面(
図1(A)のx-x’を含む紙面に対して垂直な面)とする。前記の回動支軸111は、この仮想面内に第1軸131と平行となるように配されている。
【0048】
工事用金車100の基本構成は、前記の仮想面に対して鏡像対称とされている。すなわち、工事用金車100は、仮想面の左右に対して重量的に等しくされている。工事用金車100のフレーム120、120’の吊り下げ構造110は、回動支軸111を中心として回動するが、外力がなければ、左右でバランスがとれた状態となり
図1に示すように平衡状態で静止する。
【0049】
次に、以上のように構成される本発明に係る工事用金車100による電線10の搬送について
図5を参照して説明する。
図5において、(A)から(E)までは時間の経過の順を示している。また、
図5では、電線10は紙面の右から左へと進行している様子を示している。電線10に対しては、不図示の巻き取り機等により矢印方向に張力が作用している。
【0050】
電線10にはスリーブ等の障害物Sが装着されており、特に障害物Sが工事用金車100を通過する際に、引っかかりが発生する恐れがある。
図5(A)は、工事用金車100における入口側の回転体保持構造130に、電線10に取り付けられた障害物Sが進入する様子を示している。
【0051】
このとき、障害物Sの先頭が、回転体保持構造130のホイール輪140に乗り上げて、ホイール輪140の回転(自転)のみで電線10が進行する可能性もあるが、一方で、障害物Sの先頭が、回転体保持構造130のホイール輪140に当たってしまい、ホイール輪140の回転(自転)のみでは電線10が進行しない場合もあり得る。
【0052】
このような場合、本発明に係る工事用金車100においては、
図5(A)→
図5(B)に示すように、第1軸131を中心に、ホイール輪140が公転することで、引っかかりを防止することができるようになっている。
【0053】
仮に、
図5(A)の状態で、障害物Sの先頭が、回転体保持構造130のホイール輪140に当たり、引っかかった際の力が、先の張力に勝ってしまった場合には、
図6に示すように、回動支軸111を中心として、工事用金車100全体がシーソー(紙面左側が上がり、右側が下がる)のように作用し、障害物Sの先頭がホイール輪140を乗り越えて、Pにおける障害物Sの引っかかりが解消する。このように、本発明に係る工事用金車100によれば、電線10の搬送作業時において引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能となる。
【0054】
電線10に装着されている障害物Sが、入口側の回転体保持構造130のホイール輪140を乗り越えると、続いて、電線10と障害物Sの荷重が中間ローラ170に支えられつつ、電線10は
図5(C)→
図5(D)に示すように進行していく。中間ローラ170で荷重を支えられている障害物Sは、次に出口側の回転体保持構造130に進入し、これを乗り越えて工事用金車100を退出していくが、障害物Sが出口側の回転体保持構造130に引っかかる可能性は、入口側の回転体保持構造130に引っかかる可能性に比べて非常に小さい。このことを、
図7を参照して説明する。
【0055】
図7(A)は入口側の回転体保持構造130にかかる荷重を示しており、
図7(B)は出口側の回転体保持構造130にかかる荷重を示している。入口側の回転体保持構造130の障害物Sが当たるホイール輪140においては、Qに荷重W
1がかかるが、この荷重W
1はQより紙面右側の障害物Sと電線10の重力に起因するものであり、相応の大きさを有するものである。
【0056】
一方、
図7(B)を参照すると、出口側の回転体保持構造130の障害物Sが当たるホイール輪140においては、Rに荷重W
2がかかる。障害物Sと電線10の重力の一部は中間ローラ170で支えられているため、Rにかかる荷重W
2は、入口側のQに荷重W
1より大幅に減少する。これにより、出口側の回転体保持構造130で障害物Sが引っかかる可能性は非常に小さい。このように、本発明に係る工事用金車100によれば、複数の間ローラ170が設けられているために、電線10の搬送作業時において引っかかりが発生する率を低減することが可能となる。
【0057】
図5(D)→
図5(E)に示すように、電線10に取り付けられている障害物Sは、出口側の回転体保持構造130を通過して、搬送されていくこととなる。
【0058】
以上のように、本発明に係る工事用金車100は、複数の回転体(ホイール輪140)を含む回転体保持構造130を2組有し、2組の前記回転体保持構造130の間に、第1軸131と平行な複数の軸171を中心に回転する複数の中間ローラ170が配されているので、このような本発明に係る工事用金車100によれば、スリーブ等の障害物Sが電線10に設けられていたとしても、電線10の搬送作業時において引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能となる。
【0059】
また、本発明に係る工事用金車100を用いた工法によれば、電線10の張替を行う際、スリーブ等の障害物Sによる引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能となる。
【0060】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。以下の説明においては、先の実施形態と相違する点を中心として説明する。
図8は本発明の第2実施形態に係る工事用金車100のフレーム120等の部品の一部を透過的にみた斜視図である。
【0061】
第2実施形態に係る工事用金車100においては、一対の回転挟持板135、135’の間に保持される回転体としては、外周囲に積極的に凹凸を設けたホイール輪150が用いられる。このホイール輪150は、第1軸131と平行な軸151を中心として回転するように設定されている。
【0062】
図9は本発明の第2実施形態に係る工事用金車100で用いられる凹凸を有するホイール輪150の斜視図である。ホイール輪150は、例えば、軸151としてのボルトナットなどが挿通される軸孔155が設けられる略円柱状の基材154から構成することができる。基材154の外周囲には、複数の取り付け凹部156が設けられており、これら取り付け凹部156のそれぞれに凸状部材158が固着される。
【0063】
次に、以上のように構成される第2実施形態に係る工事用金車100による電線10の搬送について
図10を参照して説明する。
図10(A)→(B)は、入口側の回転体保持構造130を障害物Sが通過する様子を示している。また、
図10では、電線10は紙面の右から左へと進行している様子を示している。電線10に対しては、不図示の巻き取り機等により矢印方向に張力が作用している。
【0064】
第2実施形態に係る工事用金車100においては、電線10の進行に伴い、電線10に装着されている障害物Sが、入口側の回転体保持構造130におけるホイール輪150の凸状部材158に当接する(
図10(A))。このように障害物Sにより、ホイール輪150が押されて、入口側の回転体保持構造130のホイール輪150は公転する(
図10(B))。このように、第2実施形態に係る工事用金車100においては、ホイール輪150の外周囲に凹凸を設けることで、ホイール輪150の公転を積極的に促すことで、障害物S等の引っかかりを防止するようにしている。
【0065】
以上のような第2実施形態に係る工事用金車100によれば、スリーブ等の障害物Sが電線10に設けられていたとしても、電線10の搬送作業時において引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能となる。
【0066】
さらに、第2実施形態に係る工事用金車100では、凹凸が設けられたホイール輪150を用いることで、積極的にホイール輪150の公転を生じせしめ、電線10の搬送作業時において引っかかりの抑制を防止するようにしている。
【0067】
また、第2実施形態に係る工事用金車100を用いた工法によれば、電線10の張替を行う際、スリーブ等の障害物Sによる引っかかりが発生する率を大幅に低減することができ、引き抜き工法の作業効率の落ち込みを回避することが可能となる。
【0068】
なお、以上の説明では、引き抜き工法に係る電線工事等電線のガイドを行うために、本発明に係る工事用金車100を用いる例について説明したが、本発明に係る工事用金車100の用途がこれに限定されるものではなく、例えば、通信用の光ファイバなどの工事にも用いることができる。
【0069】
また、本発明に係る工事用金車100は、主として、電線の張替を行う工法に好適に用い得るものであるが、このような工法に限らず、他の工法にも用い得る。本発明に係る工事用金車100は、例えば、新規の電線を延線するような工事のためにも用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1・・・構造物
2、2’ ・・・電柱
3・・・ビーム
4・・・やぐら部
8・・・碍子
10・・・電線(き電線)
11・・・金車
16・・・巻き取り車両
17・・・巻き取りドラム
18・・・送り出し車両
19・・・送り出しドラム
100・・・工事用金車
110・・・吊り下げ構造
111・・・回動支軸
112、112’・・・渡し板
113、113’・・・吊り下げ孔
120、120’・・・フレーム
127・・・縦ローラ保持構造
130・・・回転体保持構造
131・・・第1軸
135、135’・・・回転挟持板
140・・・(凹凸なし)ホイール輪(回転体)
141・・・軸(第1軸と平行)
150・・・(凹凸あり)ホイール輪(回転体)
151・・・軸(第1軸と平行)
154・・・基材
155・・・軸孔
156・・・取り付け凹部
158・・・凸状部材
170・・・中間ローラ
171・・・(第1軸と平行)軸
180・・・縦ローラ
182・・・第2軸
S・・・障害物