(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133762
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】情報通信装置
(51)【国際特許分類】
G06T 7/20 20170101AFI20240926BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240926BHJP
G06T 7/246 20170101ALI20240926BHJP
G06V 40/16 20220101ALI20240926BHJP
H04N 7/18 20060101ALI20240926BHJP
A61B 5/1171 20160101ALI20240926BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G06T7/20 300B
G06T7/00 660A
G06T7/246
G06V40/16 B
H04N7/18 K
H04N7/18 C
A61B5/1171 200
A61B5/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043716
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 祥司
(72)【発明者】
【氏名】岩間 茂彦
(72)【発明者】
【氏名】箱嶋 修二
(72)【発明者】
【氏名】小村田 美玖
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】松島 ひかる
【テーマコード(参考)】
4C038
5C054
5L096
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PR01
4C038PS00
5C054CA04
5C054CC02
5C054CD03
5C054CD05
5C054FC12
5C054FE14
5C054FE16
5C054HA05
5C054HA12
5L096EA13
5L096EA14
5L096EA16
5L096EA23
5L096FA39
5L096JA05
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】対象者がモノを見た時の表情の変化の情報を提供する。
【解決手段】情報通信装置10は、顔画像30を撮影するカメラ部11と、カメラ部11で撮影した顔画像30の大きさと傾きを正規化する正規化部12と、顔画像30の個人を識別する識別部13と、識別部13で識別した個人の正規化された顔画像30の特徴点31を検出する検出部14と、画像を表示する表示部15と、他の情報通信装置90と通信する通信部16と、を備え、検出部14は、識別部13が対象者SP(一の個人)を特定した場合に、通信部16で受信した提示用画像40を表示部15に表示して、提示用画像40の表示前後に撮影され正規化された顔画像30間の特徴点31の変化が所定の基準を上回った場合に、対象者SP(一の個人)に変化があったことを出力する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔画像を撮影するカメラ部と、
前記カメラ部で撮影した前記顔画像の大きさと傾きを正規化する正規化部と、
前記顔画像の個人を識別する識別部と、
前記識別部で識別した個人の正規化された前記顔画像の特徴点を検出する検出部と、
画像を表示する表示部と、
他の情報通信装置と通信する通信部と、を備え、
前記検出部は、
前記識別部が一の個人を特定した場合に、前記通信部で受信した提示用画像を前記表示部に表示して、
前記提示用画像の表示前後に撮影され正規化された前記顔画像間の前記特徴点の変化が所定の基準を上回った場合に、前記一の個人に変化があったことを出力する、
情報通信装置。
【請求項2】
前記検出部は、
前記提示用画像の表示前後に撮影された前記顔画像間の前記特徴点の変位ベクトルを検出し、
前記変位ベクトルと所定の基準ベクトルとの内積が所定の閾値以下であったときに、前記特徴点の変化が前記所定の基準を上回ったと判定する、
請求項1に記載の情報通信装置。
【請求項3】
過去の前記変位ベクトルと表示した前記提示用画像を関連付けて記憶する記憶部をさらに備え、
前記検出部は、前記記憶部に記憶された前記提示用画像における過去の複数の前記変位ベクトルから得られた統計量を前記基準ベクトルとして採用する、
請求項2に記載の情報通信装置。
【請求項4】
前記特徴点は、前記顔画像の複数の箇所に設定され、
前記検出部は、
前記特徴点それぞれについて前記変位ベクトルと前記基準ベクトルとの内積を特徴点内積値として求め、
前記特徴点内積値を所定の条件で加算した計算値が所定の閾値以下であったときに、前記特徴点の変化が前記所定の基準を上回ったと判定する、
請求項2または3に記載の情報通信装置。
【請求項5】
人の容姿を映す鏡をさらに備え、
前記カメラ部は、前記鏡と向かい合う人の前記顔画像を撮影する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の情報通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象者が日常行動で用いる装置を、対象者の健康状態の維持管理に利用する技術が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1では、洗面台のガラス面裏にハーフミラーを介してビデオカメラとモニターとを備え、対象者が日常的に洗面台を利用するときに、対象者の映像と共に、各種センサで取得した対象者の健康管理情報を表示する洗面台型ディスプレイ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置では、対象者の肉体的な健康状態を提示することができるものの、対象者の精神的な健康状態を把握することはできない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、対象者がモノを見た時の表情の変化の情報を提供することが可能な情報通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る情報通信装置は、顔画像を撮影するカメラ部と、前記カメラ部で撮影した前記顔画像の大きさと傾きを正規化する正規化部と、前記顔画像の個人を識別する識別部と、前記識別部で識別した個人の正規化された前記顔画像の特徴点を検出する検出部と、画像を表示する表示部と、他の情報通信装置と通信する通信部と、を備え、前記検出部は、前記識別部が一の個人を特定した場合に、前記通信部で受信した提示用画像を前記表示部に表示して、前記提示用画像の表示前後に撮影され正規化された前記顔画像間の前記特徴点の変化が所定の基準を上回った場合に、前記一の個人に変化があったことを出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、対象者の精神的な健康状態の情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る情報通信装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、情報通信装置の構造を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、提示用画像の表示前の顔画像および提示用画像の表示後の顔画像を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、変位ベクトルを説明する模式図である。
【
図5】
図5は、通常時の変位ベクトルと基準ベクトルとの内積を例示する説明図である。
【
図6】
図6は、対象者が普段と異なる精神状態にある場合の、変位ベクトルと基準ベクトルとの内積を例示する説明図である。
【
図7】
図7は、情報通信装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る情報通信装置における、顔画像の特徴点の設定を示す説明図である。
【
図9】
図9は、特徴点の変化の判定方法を説明する説明図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係る情報通信装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る情報通信装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
<情報通信装置の構成>
図1は、第1実施形態に係る情報通信装置10の一例を示すブロック図である。
図2は、情報通信装置10の構造を説明するための模式図である。第1実施形態に係る情報通信装置10は、予め登録された対象者(一の個人)SPの顔画像30を撮影し、撮影した顔画像30に基づいて対象者の健康状態を評価し、評価結果41を他の情報通信装置90と共有することができる。
【0011】
他の情報通信装置90は、例えば、対象者の健康状態を評価したい家族(保護者)、医師、医療又は介護スタッフなどが使用する。
【0012】
図1に示すように、情報通信装置10は、カメラ部11と、正規化部12と、識別部13と、検出部14と、表示部15と、通信部16と、記憶部17と、を備える。
【0013】
カメラ部11は、顔画像30を撮影する。カメラ部11は、1または複数のカメラにより構成され、それぞれのカメラがイメージセンサを有する。カメラ部11は、動画像および静止画像を撮影できる。
【0014】
正規化部12は、カメラ部11で撮影した顔画像30の大きさと傾きを正規化する。正規化部12は、CPU(central processing unit)のようなプロセッサを含み、画像の正規化処理を行う。正規化の結果、顔画像30に映る個人の顔の傾きやカメラ部11までの距離による顔の大きさが一定範囲に補正される。
【0015】
識別部13は、顔画像30の個人を識別する。識別部13は、CPUのようなプロセッサを含み、画像認識を行う。識別部13は、カメラ部11で撮影された顔画像30中に、予め記憶部17に登録された一の個人(対象者SP、
図2参照)が映っているか否かを判定する。
【0016】
検出部14は、識別部13で識別した個人の正規化された顔画像30の特徴点31を検出する。検出部14は、CPUのようなプロセッサを含み、画像認識により、正規化された顔画像30中から、予め設定された特徴点31の位置を取得する。
【0017】
表示部15は、画像を表示する。表示部15は、液晶ディスプレイ(liquid crystal display:LCD)又は有機ELディスプレイ(organic electroluminescence display:OLED)のようなフラットパネルディスプレイを含む。
【0018】
通信部16は、他の情報通信装置90と通信する。通信部16は、有線または無線の通信モジュールを含む。通信部16は、インターネットなどのネットワークを介した通信により、装置間で各種データのやり取りを行う。すなわち、通信部16は、他の情報通信装置90から、対象者SPの状態評価の際に対象者SPに提示するための提示用画像40を取得し、記憶部17に格納する。通信部16は、対象者SPの健康状態の評価結果41を、他の情報通信装置90に対して送信する。
【0019】
記憶部17は、情報通信装置10が利用する各種データ、顔画像30、およびプロセッサが実行するプログラムを記憶する。記憶部17は、通信部16で受信した提示用画像40を、予め登録された対象者SP(一の個人)の情報と対応付けて記憶する。記憶部17は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ素子、または、ハードディスクなどの記憶装置である。記憶部17は、SDメモリーカードなどの可搬型記録媒体を着脱可能であってもよく、装着された可搬型記録媒体に上記各種のデータを記憶してもよい。
【0020】
他の情報通信装置90は、通信機能を有する任意の装置である。他の情報通信装置90は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット型端末、などでありうる。
【0021】
<情報通信装置の構造>
図2に示すように、情報通信装置10は、人の容姿を映す鏡20をさらに備える。情報通信装置10は、洗面台の鏡や、鏡台として構成されうる。対象者SPは、日常生活の例えば歯磨き、整髪、化粧などのため、定期的に鏡20と正対する。
図2に示す対象者SPは、正確には、鏡20に映りこんだ対象者SPの鏡像である。鏡20は、ハーフミラーであり、入射光の一部を反射して鏡像を形成するとともに、入射光の他の一部を透過する。
【0022】
カメラ部11は、鏡20と向かい合う人の顔画像30を撮影する。カメラ部11は、鏡20の上部に配置され、鏡20の正面方向を撮影するように設けられている。
図2の例では、カメラ部11は、鏡20の上辺の一端(左端)と他端(右端)とにそれぞれ設けられた一対のカメラ11a、11bを有する。カメラ部11は、対象者SPが鏡20の正面に位置したときに、カメラ11a、11bによって対象者SPの顔画像30を撮影する。カメラ部11は、鏡20を透過して撮影するように鏡20の背面側に設けられていてもよい。
【0023】
表示部15は、鏡20の背面側に設けられている。
図2の例では、表示部15は、鏡20の図中右上隅部の位置に配置されている。表示部15で表示された画像は、鏡20を透過して、対象者SPによって視認される。これにより、表示部15は、通信部16で受信した提示用画像40を表示して、鏡20で自己の鏡像を見ている対象者SPに提示用画像40を視認させることができる。表示部15は、鏡20の一部に形成した貫通孔内に設置されてもよいし、鏡20の隣に並んで設置されていてもよく、その場合鏡20はハーフミラーでなくてもよい。
【0024】
<精神状態の判定方法>
第1実施形態では、検出部14は、識別部13が一の個人(対象者SP)を特定した場合に、通信部16で受信した提示用画像40を表示部15に表示させる。検出部14は、提示用画像40の表示前後に撮影され正規化された顔画像30間の特徴点31(
図3参照)の変化が所定の基準を上回った場合に、対象者SP(一の個人)が通常と異なる状態にあることを出力する。すなわち、第1実施形態では、検出部14は、提示用画像40の表示前後の顔画像30間の特徴点31の変化に基づいて、対象者SPが普段通りの精神状態にあるか、普段とは異なった精神状態にあるか、を判断する。
【0025】
提示用画像40は、対象者SPが当該画像を視認することにより、対象者SPに何らかの感情を惹起させる傾向のある画像である。提示用画像40は、好ましくは、対象者SPにポジティブな感情(喜び、楽しみ、愛情、など)を抱かせる画像である。そのような提示用画像40は、例えば、対象者SPの家族(子供や孫)や恋人、ペット、対象者SPが愛好する事物、などの画像であり、対象者SPの家族等が利用する他の情報通信装置90から予め提供される。提示用画像40を視認した対象者SPには、ポジティブな感情変化が生じる。つまり、自然と顔がほころぶといった具合に、感情の変化に応じた表情の変化が対象者SPに現れる。
【0026】
図3は、提示用画像40の表示前の顔画像30aおよび提示用画像40の表示後の顔画像30bを説明する模式図である。
図4は、変位ベクトル32を説明する模式図である。以下、変位ベクトルを用いた判定方法の例を説明するが、大きさや長さの変位を基準値と比較する、例えば、偏差を用いることも可能で、これらに限定されない。
【0027】
図3に示す例では、特徴点31は、顔の口角である。口角は、唇の端部の部分である。まず、正規化部12は、各顔画像30a、30b中の顔の輪郭および唇の中心により各画像を正規化する。これにより、顔画像30a、30b中の顔の傾きおよび唇の上下位置が一致(点線部参照)する。
【0028】
図4に示すように、顔画像30aにおける口角の位置と比較して、顔画像30bでは口角の位置が上昇していることが分かる。検出部14は、顔画像30aおよび顔画像30bの各々における特徴点31の位置座標を取得する。
【0029】
そして、検出部14は、提示用画像40の表示前後に撮影された顔画像30間の特徴点31の変位ベクトル32を検出し、変位ベクトル32と所定の基準ベクトル35との内積が所定の閾値以下であったときに、特徴点31の変化が所定の基準を上回った(つまり、対象者SPが通常と異なる)と判定する。
【0030】
具体的には、検出部14は、顔画像30aの特徴点31の位置座標に対する、顔画像30bの特徴点31の位置座標の変化を、変位ベクトル32として取得する。無表情の顔画像30aから、笑顔の顔画像30bへの特徴点31の変位ベクトル32は、画像中の上向きのベクトルとなる。
【0031】
第1実施形態では、記憶部17は、過去の変位ベクトル32と表示した提示用画像40とを関連付けて記憶している。そして、検出部14は、記憶部17に記憶された提示用画像40における過去の複数の変位ベクトル32から得られた統計量を基準ベクトル35として採用する。統計量は、例えば、ベクトルの平均値である。統計量は、例えば、正規分布などの統計モデルを観測データに当てはめて求めた信頼度を伴う平均値である。つまり、毎日の習慣で取得され、蓄積された過去の変位ベクトル32の平均が、基準ベクトル35となる。
【0032】
図5は、通常時、すなわち、対象者SPが普段と変わらない場合の、変位ベクトル32と基準ベクトル35との内積を例示する説明図である。
図6は、対象者SPが普段と異なる精神状態にある場合の、変位ベクトル32と基準ベクトル35との内積を例示する説明図である。
【0033】
提示用画像40の表示前後の表情の変化(口角の位置変化)は、対象者SPの精神状態が普段通りであれば、概ね、似た傾向を示す。つまり、
図5に示すように、新たに取得された変位ベクトル32aと、基準ベクトル35とは、方向が類似する。その結果、変位ベクトル32aと基準ベクトル35との内積は正の値となる(2つのベクトルのなす角が小さくなる)。
【0034】
一方、対象者SPの表情の変化が普段と異なる場合、つまり、対象者SPが提示用画像40を視認したときに普段と異なる感情が惹起されたと予測される場合では、
図6に示すように、提示用画像40の視認後の顔画像30bにおいて、口角(特徴点31)の位置が上がらず、むしろ下がったり、あるいは口角の位置が変化せずに無表情のままになったりする。その場合に取得される変位ベクトル32bは、基準ベクトル35とは異なる方向を向く。その結果、変位ベクトル32bと基準ベクトル35との内積は、たとえば負の値となるなど、
図5の内積の値からは乖離する。
【0035】
そのため、
図5の状態(内積)と
図6の状態(内積)とを区分する適切な閾値を設定することによって、対象者SPの精神状態が、普段通りで安定しているか、普段とは異なった状態にあるかが、内積の大きさに基づいて判断できる。この例では、内積の閾値をゼロとすることができる。
【0036】
このようにして、検出部14は、変位ベクトル32と所定の基準ベクトル35との内積が閾値以下の場合に、特徴点31の変化が所定の基準を上回った(すなわち、対象者SPが通常と異なる)と判定する。この場合、検出部14は、通信部16で対象者SP(一の個人)に通常と異なる変化があったことを出力する。通信部16は、例えば、評価結果41として、予め設定された他の情報通信装置90に対して、対象者SPに通常と異なる変化があったことを出力する。
【0037】
これにより、情報通信装置10は、例えば、家族と離れて独居する高齢の対象者SPの健康状態、特に精神状態の変化を、対象者SPの家族の端末(他の情報通信装置90)へ出力することができる。また例えば、情報通信装置10は、遠方で寮生活や一人暮らしを営む対象者SP(子供)の健康状態を、対象者SPの家族の端末(他の情報通信装置90)へ出力することができる。
【0038】
検出部14は、対象者SPに変化があったことを表示部15に出力してもよい。情報通信装置10は、自己の状態が普段と異なることを対象者SP自身に認識させることで、精神状態の健康維持への動機づけを対象者SPに提供することができる。
【0039】
なお、検出部14は、変位ベクトル32と所定の基準ベクトル35との内積が所定の閾値よりも大きい場合、特徴点31の変化が所定の基準内である(すなわち、対象者SPがいつも通りである)と判定する。
【0040】
<情報通信装置の動作>
図7は、情報通信装置10の動作を説明するためのフローチャートである。
図7を参照して、第1実施形態に係る情報通信装置10の動作を説明する。
【0041】
まず、情報通信装置10は、カメラ部11によって顔画像30を取得する。カメラ部11により画像を撮影したときに鏡20の前に対象者SPがいれば、顔画像30が取得される(ステップS1)。
【0042】
識別部13は、画像が取得されると、予め登録された対象者SPを特定したか否かを判断する(ステップS2)。情報通信装置10は、対象者SPを特定していない場合、処理をステップS1に戻す。情報通信装置10は、ステップS1、S2を繰り返すことにより、日常の習慣で対象者SPが鏡20を利用するタイミングで、対象者SPの顔画像30を取得する。
【0043】
情報通信装置10は、対象者SPが特定されると、健康状態の評価を開始するか否かを判断する(ステップS3)。情報通信装置10は、対象者SPの明示の指示により、または対象者SPの指示なしで自動的に、健康状態の評価を開始する。対象者SPの明示の指示は、例えば予め登録されたジェスチャー(サムアップなど)である。情報通信装置10がマイクや操作部(タッチパネルやスイッチなど)を備える場合、対象者SPの音声入力や操作入力を受け付けてもよい。自動的な開始の条件は、例えば、所定時間(1秒~数秒など)の間、対象者SPが鏡20を正視したことである。自動的な開始の条件は、例えば、あらかじめ設定された毎日の同じ時間帯である。情報通信装置10は、健康状態の評価を開始しない場合、処理をステップS1に戻す。
【0044】
情報通信装置10は、健康状態の評価を開始する場合、提示用画像40の表示前後の対象者SPの顔画像30を取得する(ステップS4)。つまり、情報通信装置10は、表示前の顔画像30aの取得、提示用画像40の表示、および表示後の顔画像30bの取得、という3つの処理をこの順で行う。
【0045】
まず、カメラ部11が、提示用画像40の表示前に、鏡20の鏡像を見ている対象者SPの顔画像30を撮影する。提示用画像40の表示前の顔画像30aは、識別部13によって対象者SPを特定するためにステップS1で撮影した画像であってもよいし、提示用画像40の提示直前のタイミングで撮影されてもよい。
【0046】
次に、表示部15は、通信部16で受信した提示用画像40を表示する。提示用画像40は、通信部16により他の情報通信装置90から予め取得され、記憶部17に格納されている。
【0047】
カメラ部11は、提示用画像40の表示後に、提示用画像40を見た対象者SPの顔画像30bを撮影する。これにより、提示用画像40によって惹起された表情変化を示した対象者SPの顔画像30bが得られる。このようにして、情報通信装置10は、ステップS4において、提示用画像40の表示前の顔画像30aと、表示後の顔画像30bとを、それぞれ取得する。
【0048】
次に、正規化部12は、得られた各顔画像30a、30bの正規化を行う(ステップS5)。
【0049】
次に、検出部14は、正規化された各顔画像30a、30bから特徴点31をそれぞれ検出し、提示用画像40の表示前後に撮影された各顔画像30a、30b間の特徴点31の変位ベクトル32を検出する(ステップS6)。
【0050】
検出部14は、変位ベクトル32と基準ベクトル35との内積を取得する(ステップS7)。
【0051】
検出部14は、変位ベクトル32と基準ベクトル35との内積が、所定の閾値以下か否かを判断する(ステップS8)。内積が閾値以下であった場合、検出部14は、通信部16により、他の情報通信装置90に、対象者SPの変化があった(いつもと違う)ことを出力する(ステップS9)。通信部16は、「対象者SPの変化があったこと」を含む評価結果41を他の情報通信装置90へ送信する。
【0052】
検出部14は、内積が閾値よりも大きい場合、対象者SPの変化がなかった(いつも通り)と判定し、通知をせずに処理を終了する。なお、内積が閾値よりも大きい場合に、検出部14は、「対象者SPの変化がなかったこと」を含む評価結果41を他の情報通信装置90や表示部15に出力してもよい。
【0053】
以上により、情報通信装置10の動作が終了する。
【0054】
<第1実施形態の効果>
以上のように、第1実施形態に係る情報通信装置10は、顔画像30を撮影するカメラ部11と、カメラ部11で撮影した顔画像30の大きさと傾きを正規化する正規化部12と、顔画像30の個人を識別する識別部13と、識別部13で識別した個人の正規化された顔画像30の特徴点31を検出する検出部14と、画像を表示する表示部15と、他の情報通信装置90と通信する通信部16と、を備え、検出部14は、識別部13が対象者SP(一の個人)を特定した場合に、通信部16で受信した提示用画像40を表示部15に表示して、提示用画像40の表示前後に撮影され正規化された顔画像(30a、30b)間の特徴点31の変化が所定の基準を上回った場合に、対象者SPの反応に変化があったことを出力する。
【0055】
そのため、提示用画像40の表示前後に撮影された顔画像(30a、30b)間の特徴点31の変化、すなわち、提示用画像40を見たことによる対象者SPの表情の変化を捉えて、対象者SPの反応が普段通りであるのか、それとも普段と異なっているのかを、判断できる。そして、基準を上回る特徴点31の変化があった場合に、その旨を出力することにより、対象者SPの精神的な健康状態を示唆する情報を提供することができる。
【0056】
また、第1実施形態では、基準を上回る特徴点31の変化があった場合に、通信部16で他の情報通信装置90に対して対象者SP(一の個人)に変化があったことを出力するので、対象者SPの精神的な健康状態の情報を他の装置と連携して提供し、共有することができる。
【0057】
第1実施形態に係る情報通信装置10では、検出部14は、提示用画像40の表示前後に撮影された顔画像(30a、30b)間の特徴点31の変位ベクトル32を検出し、変位ベクトル32と所定の基準ベクトル35との内積が所定の閾値以下であったときに、特徴点31の変化が所定の基準を上回ったと判定する。これにより、提示用画像40の表示に起因する対象者SPの表情の変化を基準ベクトル35(つまり、典型的な表情変化)と対比できるので、対象者SPの精神状態が通常と異なるか否かを適切に判断できる。
【0058】
第1実施形態に係る情報通信装置10は、過去の変位ベクトル32と表示した提示用画像40を関連付けて記憶する記憶部17をさらに備え、検出部14は、記憶部17に記憶された提示用画像40における過去の複数の変位ベクトル32から得られた統計量を基準ベクトル35として採用する。これにより、対象者SP(一の個人)自身の普段の状態の変位ベクトルを基準ベクトル35として利用できるので、対象者SPの精神状態が、対象者SP自身の普段の状態と異なるか否かを精度よく判断できる。
【0059】
第1実施形態に係る情報通信装置10は、人の容姿を映す鏡20をさらに備え、カメラ部11は、鏡20と向かい合う人の顔画像30を撮影する。これにより、歯磨き、整髪、化粧などといった鏡20によって自身を視認する生活習慣の場面で、顔画像30を撮影できる。人が鏡20を見るときは、高い確率で鏡20を正視するので、極めて容易に、画像認識および画像処理に適した高品質な顔画像30を取得できる。また、多くの人が、毎日の同じような時間に同じような態様で鏡20と向かい合う。そのため、対象者SPが、意識的に、情報通信装置10による健康状態の評価を実行しなくても、自然のままで健康状態の評価を行うことができる。
【0060】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。
図8は、第2実施形態に係る情報通信装置10における、顔画像30の特徴点31の設定を示す説明図である。以下の説明においては、情報通信装置10の構成要素は上記第1実施形態と同様であるので、同一の符号または対応する符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0061】
上記第1実施形態では、顔画像30の特徴点31を口角に設定した例を示したが、第2実施形態では、
図8に示すように、特徴点31は、顔画像30の複数の箇所に設定されている。
【0062】
特徴点31の数は特に限定されないが、
図8では、3つの特徴点31(31a~31c)を設定した例を示す。特徴点31aは、顔の口角に設定されている。特徴点31bは、顔の眉部に設定されている。特徴点31cは、目の瞳孔又は虹彩に設定されている。設定される特徴点31は、これらの例に限られないが、人の感情の変化が表情の変化として現れやすい箇所を、特徴点31として設定することが好ましい。
【0063】
特徴点31aは、上記第1実施形態と同様である。検出部14は、特徴点31bの変化として、例えば眉部の輪郭線の位置や傾きの移動方向のベクトルを検出する。眉部は、例えば眉間にしわを寄せるといった具合に、人の感情の変化をよく表す。検出部14は、特徴点31cの変化として、例えば瞳孔又は虹彩の変位(すなわち、視線変化)、または、瞳孔の大きさの変化を検出する。例えば、特徴点として瞳孔の大きさを用いる場合、提示用画像40の表示前後で瞳孔の直径の大きさの変化値(拡大を正値、縮小を負値)が、過去の変化値の平均値を基準値として、基準値との差分値(偏差)を求め、内積値の代わりに使用することができる。例えば対象者SPが提示用画像40に興味を示さない場合(瞳孔の大きさが拡大しない場合)や、提示用画像40から視線を逸らした場合には、対象者SPが普段とは異なった精神状態にあることを示唆する。
【0064】
図9は、特徴点31の変化の判定方法を説明する説明図である。第2実施形態では、検出部14は、特徴点31a~31cそれぞれについて変位ベクトル32と基準ベクトル35との内積を特徴点内積値Pa~Pcとして求める。
【0065】
図9では、特徴点31a~31cを、それぞれ「特徴点A」~「特徴点C」と表記している。記憶部17には、特徴点31a~31cの各々に対する基準ベクトル35が予め記憶されている。検出部14は、特徴点31aについての変位ベクトル32と基準ベクトル35とに基づき、特徴点内積値Paを算出する。同様に、検出部14は、特徴点31bについての特徴点内積値Pb、特徴点31cについての特徴点内積値Pcを、それぞれ算出する。
【0066】
検出部14は、特徴点内積値Pa~Pcの合計Psumが所定の閾値以下であったときに、特徴点31の変化が所定の基準を上回ったと判定する。すなわち、検出部14は、得られた特徴点内積値Pa~Pcの合計Psumを算出し、合計Psumが、記憶部17に予め設定された閾値を上回るか否かにより、対象者SPに変化があったか否かを判断する。検出部14は、合計Psumが閾値以下であった場合、対象者SPに変化があったことを出力する。例えば、合計Psumは、特徴点内積値Pa~Pcのそれぞれに重み係数Xa~Xcを乗じた上で加算した合計値であってもよい。例えば、重み係数Xa~Xcは、特徴点31a~31cのそれぞれに現れるベクトルの大きさの違いを調整する正規化係数である。なお、合計値は、加算値に限定されず、所定の計算式を用いることができる。
【0067】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0068】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態に係る情報通信装置10では、上記第1実施形態と同様に、対象者SPの精神的な健康状態を示唆する情報を提供することができる。
【0069】
また、第2実施形態に係る情報通信装置10では、特徴点31a~31cは、顔画像30の複数の箇所に設定され、検出部14は、特徴点31a~31cそれぞれについて変位ベクトル32と基準ベクトル35との内積を特徴点内積値Pa~Pcとして求め、特徴点内積値Pa~Pcを所定の条件で加算した計算値(合計Psum)が所定の閾値以下であったときに、特徴点31の変化が所定の基準を上回ったと判定する。これにより、提示用画像40を表示させたときの対象者SP(一の個人)の表情の変化を、より多くの箇所に設定した特徴点31a~31cの変化により総合的に取得できる。その結果、提示用画像40により惹起される対象者SPの感情(表情)の変化の判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0070】
[第3実施形態]
図10を参照しながら、第3実施形態について説明する。
図10は、第3実施形態に係る情報通信装置10Aの一例を示すブロック図である。以下の説明において、上記第1実施形態と同様の構成要素については、同一の符号または対応する符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0071】
第3実施形態に係る情報通信装置10Aは、上記第1実施形態との相違点として、データ取得部50をさらに備える。
【0072】
データ取得部50は、対象者SPのバイタルデータ51を取得する。データ取得部50は、CPUのようなプロセッサを含み、通信部16を介して、対象者SPが使用する健康情報測定機器91からバイタルデータ51を取得する。データ取得部50は、記憶部17に着脱される可搬型記憶媒体を用いて健康情報測定機器91からバイタルデータ51を取得してもよい。
【0073】
バイタルデータ51は、生命活動を示す情報であり、例えば、心拍、体温、血圧、呼吸数、血中酸素濃度などの各情報を含む。健康情報測定機器91は、これらの1種または複数種のバイタルデータ51を測定する機器である。健康情報測定機器91は、例えば、心拍計、体温計、血圧計、パルスオキシメーターなどであるが、これらの専用機器のみならず、各種センサを備えたウェアラブルデバイスでありうる。
【0074】
第3実施形態では、検出部14は、顔画像30間の特徴点31の変化に加えて、さらに、データ取得部50により取得されたバイタルデータ51にも基づいて、対象者SP(一の個人)に変化があったことを検出する。バイタルデータ51は、例えば、基準値と比較した変化の有無が判断される。
【0075】
基準値は、過去のバイタルデータ51の統計量でありうる。すなわち、記憶部17が、過去のバイタルデータ51を対象者SPの識別情報と関連付けて記憶し、検出部14が、識別部13によって特定された対象者SPについての、過去の複数のバイタルデータ51から得られた統計量を基準値として採用する。統計量は、例えばバイタルデータ51の平均値である。統計量は、例えば、正規分布などの統計モデルを観測データに当てはめて求めた信頼度を伴う平均値である。
【0076】
また、第3実施形態では、検出部14は、対象者SPの精神的な健康状態だけでなく、肉体的な健康状態についての情報を出力することができる。検出部14は、顔画像30から、健康状態に関する対象者特徴量を検出する。対象者特徴量は、例えば、対象者SPの皮膚の色味、対象者SPの髪の毛の色、つや、または毛量、対象者SPの姿勢、などである。対象者SPの姿勢は、例えば目の高さと肩の位置との位置関係に基づく。
【0077】
記憶部17は、過去の対象者特徴量を対象者SPの識別情報と関連付けて記憶する。検出部14は、識別部13によって特定された対象者SPについての、過去の対象者特徴量およびバイタルデータ51(またはその統計量)と比較し、対象者特徴量に変化があった場合に肉体的な健康状態に変化があったことを出力する。
【0078】
第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0079】
<第3実施形態の効果>
第3実施形態に係る情報通信装置10Aでは、上記第1実施形態と同様に、対象者SPの精神的な健康状態を示唆する情報を提供することができる。
【0080】
また、第3実施形態に係る情報通信装置10Aでは、検出部14が、データ取得部50により取得されたバイタルデータ51にも基づいて、対象者SP(一の個人)に変化があったことを検出するので、画像からは把握できないバイタルデータ51を考慮することにより、対象者SPの変化の判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0081】
[変形例]
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【0082】
上記第1~第3実施形態では、情報通信装置10が鏡20を備える例を示したが、情報通信装置10は鏡20を備えなくてもよい。情報通信装置10は、例えば
図2の表示部15を鏡20に相当するサイズにして、表示部15がカメラ部11の映像を表示することにより、鏡20としても機能するようにしてもよい。この場合、提示用画像40は、表示部15の画面内の一部に、カメラ部11の映像に重畳表示させることができる。
【0083】
情報通信装置10は、洗面台または鏡台として構成されなくてもよい。顔画像30の取得のため、情報通信装置10は、対象者SPが日常習慣として、情報通信装置10(カメラ部11および表示部15)と正対する態様で利用する装置であることが好ましい。そのため、例えば対象者SPが日常的にテレビ番組などを視聴する場合に、情報通信装置10がテレビジョン装置またはディスプレイ装置であってもよい。また、情報通信装置10は、タブレット型端末であってもよく、対象者SPが日常習慣で利用する場所、例えばキッチン、デスクスペースなどで対象者SPと正対するように備え付けられてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10、10A 情報通信装置
11 カメラ部
12 正規化部
13 識別部
14 検出部
15 表示部
16 通信部
17 記憶部
20 鏡
30、30a、30b 顔画像
31、31a、31b、31c 特徴点
32、32a、32b 変位ベクトル
35 基準ベクトル
40 提示用画像
90 他の情報通信装置
SP 対象者(一の個人)