(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133771
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】床構造、及び、床構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20240926BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
E04B5/02 E
E04B5/02 J
E04B5/43 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043734
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直人
(72)【発明者】
【氏名】金森 誠治
(72)【発明者】
【氏名】三宅 朗彦
(72)【発明者】
【氏名】初田(本田) あかり
(57)【要約】
【課題】緩衝材と金属板と金属板の上に設けられる表面材とを一体化させることができて遮音性能を向上させた床構造、及び、当該床構造の施工方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る床構造1は、CLTにより形成された床版2と、床版2の上に設けられた緩衝材3と、緩衝材3の上に設けられた金属板4と、金属板4の表面全てを覆う接着膜5と、金属板4の上板面を覆う接着膜5上に載置された表面材6とを備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLTにより形成された床版と、床版の上に設けられた緩衝材と、緩衝材の上に設けられた金属板と、金属板の表面全てを覆う接着膜と、金属板の上板面を覆う接着膜上に載置された表面材とを備えたことを特徴とする床構造。
【請求項2】
表面材は、床仕上げ部を形成するフローリング材、又は、乾式二重床の支持脚を設置するための板であることを特徴とする請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の床構造の施工方法であって、
CLTにより形成された床版の上に緩衝材を載置するステップと、
緩衝材の上面全体に接着剤を塗布するステップと、
緩衝材の上面全体に塗布されて形成された接着膜上に金属板を載置するステップと、
接着膜上に載置された金属板の上板面全体に接着剤を塗布するステップと、
金属板の上板面全体に塗布されて形成された接着膜上に表面材を載置するステップと、
を備えたことを特徴とする床構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CLT(Cross Laminated Timber(直交集成板))を用いて構成された床構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
CLTにより形成されたCLT床材を複数並べて形成された床主体層と、当該床主体層の上面に設けられた緩衝材により形成された緩衝層と、緩衝層の上面にCLT床材の比重よりも大きい比重の板材としてのALC(軽量気泡コンクリート)板を複数並べて形成された重量床衝撃音低減層と、重量床衝撃音低減層の上に表面板としての合板を複数並べて形成された表面層とを備え、固定手段としてのビスが、合板、ALC板、緩衝材を貫通するようにねじ込まれてCLT床材に固定されたことにより、表面層を形成する合板と重量床衝撃音低減層を形成するALC板と緩衝層を形成する緩衝材と床主体層を形成するCLT床材とが一体化されて構成された床構造が知られている(特許文献1参照)。
また、当該特許文献1には、重量床衝撃音低減層を形成する板としては、ALC以外の材料により形成された板、例えば、鉄板(比重7.85(ton/m3))を用いるようにしても良い旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたように、ALC板の代わりに鉄板等の金属板を用いた場合、金属板の比重は、ALC板の比重と比べて大きいため、床構造の厚さ寸法を薄くできる。
しかしながら、特許文献1に記載されたように、ALC板の代わりに鉄板等の金属板を用いる場合においては、当該金属板をCLT床材にビス止めすることは困難であるため、緩衝材と金属板と金属板の上に設けられる表面板(表面材)とを一体化させた床構造を実現することは困難である。
即ち、緩衝材と金属板と金属板の上に設けられる表面板(表面材)とを一体化させることによって遮音性能を向上させた床構造を実現することは困難であるという課題があった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、緩衝材と金属板と金属板の上に設けられる表面材とを一体化させることができて遮音性能を向上させた床構造、及び、当該床構造の施工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る床構造は、CLTにより形成された床版と、床版の上に設けられた緩衝材と、緩衝材の上に設けられた金属板と、金属板の表面全てを覆う接着膜と、金属板の上板面を覆う接着膜上に載置された表面材とを備えたことを特徴とする。
また、表面材は、床仕上げ部を形成するフローリング材、又は、乾式二重床の支持脚を設置するための板であることを特徴とする。
本発明に係る床構造によれば、緩衝材と金属板と金属板の上に設けられる表面材とを一体化させることができて遮音性能を向上させた床構造を提供できる。
また、本発明に係る床構造の施工方法は、上述した床構造の施工方法であって、CLTにより形成された床版の上に緩衝材を載置するステップと、緩衝材の上面全体に接着剤を塗布するステップと、緩衝材の上面全体に塗布されて形成された接着膜上に金属板を載置するステップと、接着膜上に載置された金属板の上板面全体に接着剤を塗布するステップと、金属板の上板面全体に塗布されて形成された接着膜上に表面材を載置するステップと、を備えたことを特徴とする。
本発明に係る床構造の施工方法によれば、上述した本発明に係る床構造を容易に施工できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
実施形態1に係る床構造1は、
図1に示すように、CLTにより形成された床版2と、床版2の上に設けられた緩衝材3と、緩衝材3の上に設けられた金属板4と、金属板4の表面全てを覆う接着膜5と、金属板4の上板面を覆う接着膜5上に載置された表面材6とを備えて構成される。
換言すれば、実施形態1に係る床構造1は、CLTにより形成された床版2と、床版2の上に設けられた緩衝材3と、緩衝材3の上に設けられた金属板4と、金属板4の上に設けられた表面材6と備え、金属板4の表面には、金属板4の表面全てを覆う接着膜5を備えた床構造である。
【0008】
実施形態1に係る床構造1は、例えば、
図2に示すように、CLTにより形成された床版2と、床版2の上に複数の緩衝材3,3…を並べて形成された緩衝層3Lと、緩衝層3Lの上に設けられた接着膜5と、当該接着膜5の上に複数の金属板4,4…を並べて形成された金属板層4Lと、金属板層4Lの上に設けられた接着膜5と、当該接着膜5の上に複数の表面材6,6…を並べて形成された床仕上げ層6Lとを備え、金属板層4Lを構成する複数の金属板4,4…は、金属板4の表面全てが接着膜5で覆われた構成となる。
【0009】
床版2を構成するCLTとは、農林水産省告示第3079号に規定されたように、「ひき板又は小角材(これらをその繊維方向を互いにほぼ平行にして長さ方向に接合接着して調整したものを含む。)をその繊維方向を互いにほぼ平行にして幅方向に並べ又は接着したものを、主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして積層接着し3層以上の構造を持たせた一般材」である。
即ち、CLTは、一般に、張り合わせる板の繊維方向が直交するように複数の板を張り合わせて構成された木材であり、直交集成板と呼ばれている。
【0010】
緩衝材3は、例えば、ビーズ法架橋発泡ポリエチレン、化学架橋ポリエチレン樹脂発泡体、無架橋発泡ポリエチレン押出厚板、連続気泡ポリエチレンフォーム等のポリエチレン系発泡体により、板状に形成されたものである。
当該緩衝材3としては、例えば、ビーズ法架橋発泡ポリエチレンである「ミラブロック(登録商標)」を用いる。
当該緩衝材3の上に金属板4が載置されて、当該緩衝材3に金属板4及び表面材6の荷重が加わることにより、当該緩衝材3は、耐水性を有した防振材として機能し、床構造1の重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能、振動低減効果が向上する。
【0011】
金属材4は、例えば、敷鉄板4Aである。
尚、金属材4としては、コスト面から考えて敷鉄板4Aを用いることが経済的であるが、金属材4としては、その他の金属板、例えば、一般的な鉄板、鉛板、銅板、ステンレス板等の金属板を使用しても構わない。
【0012】
接着膜5は、例えば、接着剤5aにより、金属板4としての敷鉄板4Aの表面全体、即ち、敷鉄板4Aの板面(上下の板面)及び縁面(周縁面)のすべてを覆うように膜状に形成される。
尚、接着剤5aとしては、例えば、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等の樹脂系の接着剤を用いれば良い。
このように、敷鉄板4Aの表面全体が接着膜5で覆われるように構成されたことで、敷鉄板4Aの表面が空気及び水分に触れないようになるため、敷鉄板4Aの防錆効果が維持されるようになる。
さらに、接着膜5により、敷鉄板4Aと緩衝材3とフローリング材6Aとを一体化できるので、当該一体化により、床構造1の重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能が向上する。
【0013】
表面材6は、例えば、床仕上層6Lを形成する直床フローリング材と呼ばれるフローリング材6Aである。
尚、表面材6は、フローリング材6A以外のシート材等の床仕上材を用いても構わない。
【0014】
実施形態1に係る床構造1によれば、敷鉄板4Aの比重は、コンクリートやALC板の比重と比べて格段に大きいので、コンクリートやALC板よりも薄い厚さの敷鉄板4Aを使用できて、床構造1の厚さ寸法を薄くできる。さらに、緩衝材3を備えたので、当該緩衝材3に一定の荷重が加わることにより防振性能が発揮されて、振動低減効果が向上するとともに、重量床衝撃音、及び、軽量床衝撃音の遮音性能が向上する床構造1を提供できるようになる。
また、敷鉄板4Aが接着膜5を介して緩衝材3に接着され、かつ、フローリング材6Aが接着膜5を介して敷鉄板4Aに接着された構成となり、緩衝材3と敷鉄板4Aとフローリング材6Aとが一体化された床構造となるので、当該一体化により、重量床衝撃音、及び、軽量床衝撃音の遮音性能がより向上する床構造1となる。
【0015】
即ち、実施形態1に係る床構造1によれば、特許文献1に開示された床構造と比べて、床の厚さ寸法を薄くできるとともに、接着膜5を介して緩衝材3と敷鉄板4Aとフローリング材6Aとが一体化されたので、特許文献1で示唆されている、緩衝材と鉄板と表面材とが一体化されない床構造と比べて、重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能に優れた床構造1を得ることができるようになった。
つまり、接着膜5を設けたことにより、緩衝材3と金属板4としての敷鉄板4Aと敷鉄板4Aの上に設けられる表面材6としてのフローリング材6Aを一体化させることができたので、特許文献1に開示された従来の床構造と比べて、重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能に優れた床構造1を得ることができるようになった。
【0016】
また、実施形態1に係る床構造の施工方法は、CLTにより形成された床版2の上に緩衝材3を載置するステップと、緩衝材3の上面全体に接着剤5aを塗布するステップと、緩衝材3の上面全体に塗布されて形成された接着膜5上に金属板4としての敷鉄板4Aを載置するステップと、接着膜5上に載置された敷鉄板4Aの上板面全体に接着剤5aを塗布するステップと、敷鉄板4Aの上板面全体に塗布されて形成された接着膜5上に表面材6としてのフローリング材6Aを載置するステップとを備えた方法とした。
【0017】
即ち、まず、CLTにより形成された床版2を所定の状態に敷設するとともに、当該床版2の周囲側に例えばCLTにより形成された壁パネル2Wを設置する。
そして、壁パネル2Wで囲まれた床版2上に緩衝材3を敷設して緩衝層3Lを形成する。
次に、緩衝層3Lの上面に、接着剤5aを塗布する。
そして、緩衝層3Lの上面に塗布された接着剤5aの上に、敷鉄板4Aを載置していって、金属板層4Lを形成する。この際、敷鉄板4Aの重みにより敷鉄板4Aが沈んだ際に敷鉄板4Aの周囲の接着剤5aが敷鉄板4Aの周縁面を覆うように盛り上がるので、敷鉄板4Aの下板面及び周縁面が接着剤5aによって膜状に覆われる。
さらに、金属板層4Lを形成する敷鉄板4Aの上板面を覆うように、当該敷鉄板4Aの上板面に接着剤5aを塗布する。
そして、金属板層4Lの上面に塗布された接着剤5aの上に、フローリング材6Aを載置していって、床仕上層6Lを形成する。
そして、接着剤5aの硬化を待つ。
以上により、敷鉄板4Aの表面全体が接着膜5で覆われて、かつ、当該接着膜5を介して緩衝材3と敷鉄板4Aとフローリング材6Aとが一体化された床構造1が完成する。
【0018】
上述した床構造の施工方法によれば、床の厚さ寸法を薄くできて、かつ、接着膜5を介して緩衝材3と敷鉄板4Aとフローリング材6Aとが一体化されたことで重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能に優れた床構造1を、容易に施工できるようになる。
即ち、実施形態に係る床構造の施工方法によれば、非常に簡単な、接着剤5aの塗布作業と敷鉄板4A及びフローリング材6Aの設置作業とにより、実施形態1に係る重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能に優れた床構造1を施工できるようになった。
【0019】
尚、上述した床構造1は、例えば、床版2の厚さ寸法を90mm、緩衝層4Lの厚さ寸法を25mm、金属板層4Lの厚さ寸法を9mm、床仕上層6Lの厚さ寸法を12mm、接着膜5の膜の厚さ寸法を1mmとできる。
即ち、この場合、床版2の上面から床仕上層6Lの上面までの厚さ寸法を48mmにでき、床厚さ寸法の薄い床構造1を構築できるようになる。
【0020】
実施形態2
実施形態1に係る床構造では、表面材6としてのフローリング材6Aにより形成された床仕上層6Lを備えた床構造1を例示したが、表面材6は、乾式二重床の支持脚を設置するための合板等の板であってもよい。
実施形態2に係る床構造では、金属板層4Lの上面に塗布された接着剤5aによる接着膜5の上に、表面材6としての例えば合板を載置して、支持脚設置面を形成する。そして、当該支持脚設置面に支持脚を設置し、当該支持脚の上に例えば下地パネル及び化粧板が設けられて床仕上層が形成された床構造を施工できる。
実施形態2に係る床構造によれば、実施形態1に係る床構造1と同様に、床の厚さ寸法を薄くできるとともに、重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能に優れた床構造1を得ることができる。
【0021】
また、敷鉄板4A等の金属板4は大きくて重いので、小さく切断した金属板4を用いるようにしても良い。このようにすれば、金属板4の取り扱いが容易になるとともに、緩衝層3Lの上面に塗布された接着剤5aの上に金属板4,4…を並べた場合に、互いに隣り合う金属板4,4…の縁面と縁面との間に接着剤5aが廻りこみ易くなる。
従って、この場合、緩衝層3Lの上面に並べられた各金属板4,4…の表面全体が接着膜5で覆われやすくなるとともに、隣り合う各金属板4,4…同士が一体化されやすくなり、さらには、緩衝材3と金属板4と表面材6とが一体化されやすくなって、緩衝材3と金属板4と表面材6とがより強固に一体化されるため、重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能により優れた床構造を得ることができるようになる。
【0022】
尚、実施形態1,2では、接着剤5aにより形成された接着膜5を例示したが、防錆塗料を使用して接着膜を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 床構造、2 床版、3 緩衝材、4 金属板、5 接着膜、6 表面材。