(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133777
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】エンジン監視装置
(51)【国際特許分類】
G01M 15/04 20060101AFI20240926BHJP
B60K 35/00 20240101ALI20240926BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G01M15/04
B60K35/00 Z
F02D45/00 360A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043740
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】523085083
【氏名又は名称】日立造船マリンエンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】小林 達也
(72)【発明者】
【氏名】怡土 弘典
(72)【発明者】
【氏名】赤荻 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】龍井 隆佳
【テーマコード(参考)】
2G087
3D344
3G384
【Fターム(参考)】
2G087AA01
2G087AA12
2G087CC21
2G087EE21
2G087EE24
2G087FF06
2G087FF07
2G087FF37
2G087FF38
3D344AA19
3D344AA20
3D344AD01
3G384AA03
3G384AA04
3G384DA26
3G384DA42
3G384DA44
3G384DA61
3G384FA28Z
(57)【要約】
【課題】シリンダライナの周方向の温度変化の様子を容易に把握できる表示を実現する。
【解決手段】エンジン監視装置は、表示画面を有する表示部と、エンジンのシリンダライナに設けられた温度センサから出力された温度信号が入力される温度入力部と、温度入力部から出力される出力温度に基づいて表示画面にシリンダライナの温度状態を表示する表示制御部とを備える。表示画面には、シリンダライナの周方向の複数の位置に対応づけられた複数の表示位置であるブロック321が配列される。複数の表示位置の配列に沿って複数の表示位置に順番が定められている。表示制御部の制御により、予め定められた時間間隔で温度入力部から出力された出力温度に基づく取得温度が取得され、一定の期間内に取得された複数の取得温度が、順番に従って複数の表示位置に表示される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの状態を監視するエンジン監視装置であって、
表示画面を有する表示部と、
エンジンのシリンダライナに設けられた温度センサから出力された温度信号が入力される温度入力部と、
前記温度入力部から出力される出力温度に基づいて前記表示画面に前記シリンダライナの温度状態を表示する表示制御部と、
を備え、
前記表示画面に、前記シリンダライナの周方向の複数の位置に対応づけられた複数の表示位置が配列されており、前記複数の表示位置の配列に沿って前記複数の表示位置に順番が定められており、
前記表示制御部の制御により、予め定められた時間間隔で前記温度入力部から出力された出力温度に基づく取得温度が取得され、一定の期間内に取得された複数の取得温度が、前記順番に従って前記複数の表示位置に表示されるエンジン監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン監視装置であって、
前記複数の表示位置が円状に配列されるエンジン監視装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジン監視装置であって、
前記複数の取得温度の各取得温度が、当該各取得温度の値に対応する濃度または色にて対応する表示位置に表示されるエンジン監視装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジン監視装置であって、
前記温度入力部から出力される複数の出力温度を記憶する記憶部と、
操作者による操作を前記表示制御部に入力する入力デバイスと、
をさらに備え、
操作者による前記入力デバイスの操作に従って、前記表示制御部が、前記操作者により指定された期間、または、予め指定された期間における複数の出力温度を前記記憶部から読み出し、前記指定された期間における前記複数の表示位置における温度表示を時間の経過と共に前記表示画面に表示するエンジン監視装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジン監視装置であって、
前記シリンダライナの周方向に複数の温度センサが設けられ、前記温度入力部に前記複数の温度センサから出力される温度信号が入力され、
前記複数の温度センサのそれぞれに対して前記表示画面上に前記複数の表示位置が設定されており、前記複数の温度センサに対応する全ての表示位置が前記シリンダライナの全周の複数の位置に対応するエンジン監視装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエンジン監視装置であって、
前記複数の温度センサの数が2であるエンジン監視装置。
【請求項7】
請求項1に記載のエンジン監視装置であって、
前記表示制御部が、前記取得温度の変化の周期を取得し、前記周期に基づいて前記取得温度を取得する時間間隔、または、前記複数の表示位置の間隔を変更するエンジン監視装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載のエンジン監視装置であって、
前記表示制御部が、所定の期間内の前記出力温度に基づいて取得される第1取得温度の変化が予め定められた大きさよりも小さい場合に第1警告を前記表示画面に表示し、前記出力温度に基づく第2取得温度の変化のパターンが予め定められた条件を満たす場合に第2警告を前記表示画面に表示するエンジン監視装置。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載のエンジン監視装置であって、
前記表示制御部が、前記複数の表示位置に表示される前記複数の取得温度に基づいて前記シリンダライナの周方向において最も温度が高い位置、または、最も温度が低い位置を取得し、所定の期間内における前記位置の変化が所定量以下の場合に、警告を前記表示画面に表示するエンジン監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの状態を監視するエンジン監視装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関ではシリンダライナ内を円柱状のピストンが上下動する。ピストンの外周面の溝にはピストンリングが設けられ、ピストンリングにより、シリンダライナの内周面とピストンの外周面との間の気密性が保たれる。シリンダライナ内周とピストンリングとの間には潤滑油が存在し、ピストンはシリンダライナ内を滑らかに上下動する。ピストンリングとシリンダライナとの間の潤滑が不十分な場合、シリンダライナ内に凝着摩擦による傷が発生する。このような現象は「スカッフィング」と呼ばれる。
【0003】
従来より、スカッフィングの前兆を捉える技術が提案されている。例えば、特許文献1では、エンジンが動作している間にピストンリングが周方向に回転する現象を利用して、焼き付きの予兆が検出される。具体的には、シリンダライナの周方向の複数箇所に温度計を設け、温度計の温度変化からピストンリングの合口(すなわち、切り口)の周方向位置の移動を検出する。そして、合口の移動の停止が検出されると、ピストンリングが固着したと判定される。
【0004】
特許文献2では、シリンダライナの温度を取得することにより、ピストンリングの回転周期を検出し、回転周期から焼き付きの兆候を判定する技術が開示されている。また、特許文献3ないし5では、シリンダライナの温度変化から、または、シリンダライナの温度変化を他の情報を共に利用しつつ、スカッフィングの前兆を捉える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-346789号公報
【特許文献2】特開2010-8112号公報
【特許文献3】特表2010-521626号公報
【特許文献4】特開2011-169327号公報
【特許文献5】特開2011-220204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1および2では、シリンダライナの温度変化を取得しているが、ピストンリングの回転は、エンジンの回転数や負荷の大きさに応じて変化し、温度計の位置における温度の変化を目視するのみではピストンリングの回転によるシリンダライナの周方向の温度変化の様子を容易に把握できない。そのため、ピストンリングが回転しないというスカッフィングの前兆を容易に捉えることができない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、シリンダライナの周方向の温度変化の様子を容易に把握できる表示を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、エンジンの状態を監視するエンジン監視装置であって、表示画面を有する表示部と、エンジンのシリンダライナに設けられた温度センサから出力された温度信号が入力される温度入力部と、前記温度入力部から出力される出力温度に基づいて前記表示画面に前記シリンダライナの温度状態を表示する表示制御部とを備え、前記表示画面に、前記シリンダライナの周方向の複数の位置に対応づけられた複数の表示位置が配列されており、前記複数の表示位置の配列に沿って前記複数の表示位置に順番が定められており、前記表示制御部の制御により、予め定められた時間間隔で前記温度入力部から出力された出力温度に基づく取得温度が取得され、一定の期間内に取得された複数の取得温度が、前記順番に従って前記複数の表示位置に表示される。
【0009】
本発明の態様2は、態様1のエンジン監視装置であって、前記複数の表示位置が円状に配列される。
【0010】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2であってもよい。)のエンジン監視装置であって、前記複数の取得温度の各取得温度が、当該各取得温度の値に対応する濃度または色にて対応する表示位置に表示される。
【0011】
本発明の態様4は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つであってもよい。)のエンジン監視装置であって、前記温度入力部から出力される複数の出力温度を記憶する記憶部と、操作者による操作を前記表示制御部に入力する入力デバイスとをさらに備え、操作者による前記入力デバイスの操作に従って、前記表示制御部が、前記操作者により指定された期間、または、予め指定された期間における複数の出力温度を前記記憶部から読み出し、前記指定された期間における前記複数の表示位置における温度表示を時間の経過と共に前記表示画面に表示する。
【0012】
本発明の態様5は、態様1(態様1ないし4のいずれか1つであってもよい。)のエンジン監視装置であって、前記シリンダライナの周方向に複数の温度センサが設けられ、前記温度入力部に前記複数の温度センサから出力される温度信号が入力され、前記複数の温度センサのそれぞれに対して前記表示画面上に前記複数の表示位置が設定されており、前記複数の温度センサに対応する全ての表示位置が前記シリンダライナの全周の複数の位置に対応する。
【0013】
本発明の態様6は、態様5のエンジン監視装置であって、前記複数の温度センサの数が2である。
【0014】
本発明の態様7は、態様1(態様1ないし6のいずれか1つであってもよい。)のエンジン監視装置であって、前記表示制御部が、前記取得温度の変化の周期を取得し、前記周期に基づいて前記取得温度を取得する時間間隔、または、前記複数の表示位置の間隔を変更する。
【0015】
本発明の態様8は、態様1ないし7のいずれか1つのエンジン監視装置であって、前記表示制御部が、所定の期間内の前記出力温度に基づいて取得される第1取得温度の変化が予め定められた大きさよりも小さい場合に第1警告を前記表示画面に表示し、前記出力温度に基づいて取得される第2取得温度の変化のパターンが予め定められた条件を満たす場合に第2警告を前記表示画面に表示する。
【0016】
本発明の態様9は、態様1ないし7のいずれか1つ(態様1ないし8のいずれか1つであってもよい。)のエンジン監視装置であって、前記表示制御部が、前記複数の表示位置に表示される前記複数の取得温度に基づいて前記シリンダライナの周方向において最も温度が高い位置、または、最も温度が低い位置を取得し、所定の期間内における前記位置の変化が所定量以下の場合に、警告を前記表示画面に表示する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シリンダライナの周方向の温度変化の様子を容易に把握できる表示を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】エンジン監視装置および監視対象のエンジンを示す図である。
【
図3】表示制御部を他の構成要素と共に示すブロック図である。
【
図6】表示制御部の機能構成を示すブロック図である。
【
図7】第1取得温度の変化と第2取得温度の変化を例示する図である。
【
図9】スカッフィング発生直前の第1および第2取得温度の変化を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るエンジン監視装置1、および、監視対象のエンジン9を示す図である。エンジン9は内燃機関である。好ましくは、エンジン9は2サイクルエンジンである。さらに好ましくは、エンジン9は、舶用エンジン(すなわち、船舶の主機または補機)、発電設備の発電機等の大型のディーゼルエンジンである。
【0020】
図2はエンジン9の概略構成を示す図である。エンジン9は、シリンダライナ91を含むシリンダ90、ピストン92、複数のピストンリング93、シャフト94および排気弁95を備える。なお、
図2において、排気弁95が設けられるシリンダ90の上部と、略円筒状の部位であるシリンダライナ91との境界を省略している。シリンダ90の上部には燃料噴射部が設けられ、シリンダライナ91の下部には掃気ポートが設けられるが、
図2では省略している。また、ピストンリング93の厚さを強調して描いている。
【0021】
ピストン92はシリンダライナ91内を上下に(軸方向に)往復移動する。ピストン92の下端にはシャフト94が接続され、シャフト94はピストン92からの力を伝達する。ピストン92の外周面には、周方向に伸びる複数の溝(「ピストンクラウンリング溝」とも呼ばれる。)が形成されており、各溝にピストンリング93が嵌められる。ピストンリング93には、合口931と呼ばれる切れ目が存在し、合口931の幅を周方向に広げることにより、ピストンリング93をピストン92の溝に嵌めることが可能となる。ピストンリング93の内径は、ピストン92の溝の底面の直径よりも大きい。ピストンリング93の厚さは、溝の軸方向の幅よりも小さい。すなわち、ピストンリング93はピストン92の溝内に、径方向にも軸方向にも遊びを持たせて配置される。「軸方向」とは、シリンダライナ91およびピストン92の中心軸に平行な方向である。「径方向」とは、シリンダライナ91およびピストン92の中心軸に対する径方向である。軸方向は、重力方向における上下方向には限定されない。
【0022】
ピストンリング93の外周面には、略軸方向に伸びる逃し溝932が形成される。燃料の燃焼時には、合口931および逃し溝932から燃焼ガスが下方に漏れる。これにより、それぞれのピストンリング93のシリンダライナ91への接触荷重が分担される。ピストンリング93の数、逃し溝932の数およびこれらの配置、並びに、合口931および逃し溝932の形状は、
図2に示すものには限定されない。ピストンリング93の数は好ましくは2以上であるが、1でもよい。逃し溝932は存在しなくてもよい。
【0023】
シリンダライナ91には、2つの温度センサ96が設けられる。具体的には、温度センサ96はシリンダライナ91の外周面に設けられた穴に挿入される。温度センサ96はシリンダライナ91の内周面近傍の温度を電気的信号(例えば、電圧)として出力する。
図2の例の場合、2つの温度センサ96は周方向に180°のピッチで設けられる。温度センサ96は、好ましくは、軸方向において、燃焼直後にピストンリング93が通過する位置に設けられる。温度センサ96は、少なくとも、ピストンリング93が上下動する際に、高さ方向に関していずれかのピストンリング93と一時的に重なる位置に配置される。
【0024】
図1に示すように、エンジン監視装置1は、表示部11と、温度入力部12と、記憶部13と、表示制御部14と、入力デバイス15とを備える。表示部11は表示画面111を有し、操作者に向けて様々な表示を行う。温度入力部12には、シリンダライナ91に設けられた温度センサ96から出力された温度信号が入力され、温度センサ96の位置における温度を出力する。実際には、エンジンには多数のシリンダ90が存在し、各シリンダライナ91に設けられた温度センサ96から出力された温度信号が温度入力部12に入力される。記憶部13は、温度入力部12から出力された温度(以下、「出力温度」ともいう。)を記憶する。記憶部13には、温度入力部12から複数の時間(すなわち、複数の時刻)に出力された複数の出力温度が記憶される。
【0025】
表示制御部14は、複数の出力温度に基づいて表示画面111にシリンダライナ91の温度状態を表示する。入力デバイス15は、操作者による操作を表示制御部14に入力する。入力デバイス15は、例えば、キーボードやマウスである。表示制御部14による表示画面111への表示は、正確には、表示制御部14の制御により、表示部11に情報を表示画面111上に表示させる動作であるが、表示制御部14が表示画面111に表示するものとして簡略化して表現する。
【0026】
図3は、表示制御部14を他の構成要素と共に示すブロック図である。表示制御部14は、各種演算処理を行うCPU21、基本プログラムを記憶するROM22および各種情報を記憶するRAM23を含む一般的なコンピュータシステムの構成を有する。表示制御部14には、
図1の記憶部13としての機能を兼ねる固定ディスク24、表示部11、
図1の入力デバイス15として機能するキーボード25およびマウス26が接続される。表示制御部14は、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8から情報の読み取りを行う読取装置27、並びに、他の構成との間で信号を送受信する通信部28をさらに含む。
【0027】
なお、
図3では、表示制御部14に温度入力部12が接続されるが、
図1のように温度入力部12は表示制御部14を介することなく直接的に記憶部13に出力温度を記憶させてもよい。また、記憶部13は固定ディスク24には限定されず、半導体記憶装置や他の記憶装置であってもよい。記憶部13は表示制御部14には含まれない記憶デバイスであってもよい。
【0028】
表示制御部14では、事前に読取装置27を介して記録媒体8からプログラム80が読み出されて固定ディスク24に記憶される。プログラム80はネットワークを介して固定ディスク24に記憶されてもよい。CPU21は、プログラム80に従ってRAM23や固定ディスク24を利用しつつ演算処理を実行する。CPU21は、表示制御部14において演算部として機能する。CPU21以外に演算部として機能する他の構成が採用されてもよい。表示制御部14の機能の全部または一部は専用の電気回路により実現されてもよい。また、複数のコンピュータにより表示制御部14の機能が実現されてもよい。
【0029】
さらに、エンジン監視装置1は、クラウドシステムを利用して構築されてもよい。すなわち、表示部11、記憶部13および入力デバイス15が配置される場所とは別の場所に表示制御部14として機能するコンピュータを設け、表示部11、記憶部13および入力デバイス15を通信ネットワークを介して表示制御部14に接続してもよい。記憶部13の機能の全部または一部は通信ネットワークを介して表示制御部14側に設けられてもよい。
【0030】
図4は、表示制御部14による表示画面111の表示例を示す図である。表示画面111の上部には、操作者からの入力を受け付けるための入力項目が表示される。入力項目の下には、期間を示すバー31が表示される。表示画面111の下部には、各シリンダ90のシリンダライナ91の温度状態が表示される。
図4では、「シリンダ1」から「シリンダ10」に対応する10個の温度表示リング32(以下、単に「リング32」という。)が示されている。
【0031】
図5は、1つのリング32を拡大して示す図である。リング32は、40個のブロック321が円状(すなわち、環状)に並んだものであり、40個のブロック321は、シリンダライナ91の周方向の複数の位置に対応づけられた複数の表示位置の配列である。すなわち、各ブロック321は、シリンダライナ91の内周を周方向に40等分した位置のいずれかに対応する。エンジン9が舶用エンジンの場合、例えば、
図5の上側は船首側、下側は船尾側、右側は右舷側、左側は左舷側に対応する。40個のブロック321には、配列に沿って順番が定められている。
【0032】
図5において、右上から左下に向かう平行斜線は赤色を示し、左上から右下に向かう平行斜線は青色を示す。平行斜線の密度が高いほど濃い色を示す。濃い赤、薄い赤、白、薄い青、濃い青の順で高い温度から低い温度を示す。例えば、
図5では、符号321aのブロックは高い温度を示し、符号321bのブロックは低い温度を示す。
図5の例では、高い温度の周方向の範囲と低い温度の周方向の範囲とが周方向におよそ180°ずれて存在する。各リング32は、対応するシリンダライナ91の周方向の温度分布を色およびその濃淡で表示する。複数のシリンダ90に対応する
図4の複数のリング32において、温度が高い範囲および温度が低い範囲の周方向の位置は様々に異なる。
【0033】
詳細については後述するが、「シリンダライナの周方向の温度分布」は、推定される温度分布、あるいは、擬似的な温度分布を含む。以下、「シリンダライナの周方向の温度分布」を「シリンダライナの温度分布」と簡略して表現する場合がある。
【0034】
図4のシリンダ2のリング32内に「レベル2」、「レベル1」と示されるように、リング32内には警告のレベルが表示される。警告の詳細については後述する。
【0035】
操作者が、入力デバイス15を用いて
図4の上段の「期間指定」のラジオボタン332を選択した場合、その下の「開始」から「終了」までの期間が入力可能となる。操作者が期間を入力して「再生」ボタン333をクリックすると、下の当該期間を示すバー31のポインタ311が左から右へと動き、この動きの同期して、ポインタ311が示す時刻の各シリンダライナ91の温度分布が下段に動画(すなわち、温度分布の変化)として表示される。再生は、「一時停止」ボタン334をクリックすることにより一時停止され、「停止」ボタン335をクリックすることにより停止され、初期の時刻に戻る。「過去1週間」ボタン336をクリックした場合、過去1週間が指定期間として設定される。ポインタ311を操作者が移動させることにより、任意の速度で再生が行われてもよい。「メニュー」ボタン337がクリックされると、他の様々な機能を利用するためのメニューが表示される。
【0036】
次に、エンジン監視装置1の全体の動作について
図1を参照して説明する。既述のように、温度センサ96から出力された温度信号は温度入力部12に絶えず入力されており、温度入力部12は、温度の出力を繰り返す。例えば、温度入力部12は、1分間隔で温度を出力する。温度入力部12から出力された出力温度は、記憶部13に送られ、記憶部13に記憶される。表示制御部14は、記憶部13に記憶された出力温度を取り出すことができる。
【0037】
図6は、表示制御部14の機能構成を示すブロック図である。すなわち、
図3の構成により実現される機能を示す。表示制御部14は、長期温度変化取得部141と、第1前兆検出部142と、短期温度変化取得部143と、第2前兆検出部144と、周期取得部145とを含む。長期温度変化取得部141は、操作者により指定された期間の出力温度を、出力時刻順に記憶部13から読み出し、出力温度の長い区間における移動平均を求める。例えば、ある時刻の移動平均の値として、その時刻の直前の30分間の単純平均が求められる。これにより、十分に平滑化された温度変化が取得される。以下、長期温度変化取得部141にて取得される温度を「第1取得温度」という。短期温度変化取得部143は、操作者により指定された期間の出力温度を、出力時刻順に記憶部13から読み出し、移動平均を求めることなく、あるいは、2分や3分といった短い区間の移動平均を求める。これにより、短期間における温度変化が取得される。以下、短期温度変化取得部143にて取得される温度を「第2取得温度」という。上記動作は、各温度センサ96からの信号に基づく出力温度に対して行われる。
【0038】
第1取得温度および第2取得温度は、温度入力部12から出力された出力温度に基づいて表示制御部14にて取得される温度である。第2取得温度については、温度入力部12から出力された出力温度そのものであってもよい。このように、表示制御部14において取得される温度は、「温度入力部12から出力された出力温度に基づいて取得される温度」であり、温度入力部12から出力された出力温度を利用して求められる温度および温度入力部12から出力された出力温度そのものを含む概念である。
【0039】
図7は、1つの温度センサ96に対応する第1取得温度の変化と第2取得温度の変化を例示する図である。第1取得温度の変化を破線の曲線81にて示し、第2取得温度の変化を実線の曲線82にて示している。第2取得温度は、温度センサ96の位置における温度の細かな上下動を示し、第1取得温度は、温度センサ96の位置における温度の大まかな上下動を示す。
【0040】
表示制御部14は、第1取得温度を用いて
図5の表示を行う。表示制御部14の動作には、第1取得温度の変化の周期を求めない、または、周期を利用しない「簡易モード」と、周期を求めて利用する「周期利用モード」とを有する。簡易モードは、エンジンが始動してからしばらくの期間、すなわち、温度変化の周期を取得することができない期間に利用される。また、正確な周期を把握することが困難な場合は、簡易モードはエンジンが停止するまで継続的に利用される。
【0041】
簡易モードでは、長期温度変化取得部141により、指定期間内の予め定められた一定の間隔の第1時刻、第2時刻、第3時刻・・・における第1取得温度が求められる。
図2のエンジン9の場合、温度センサ96の数は2つであることから、以下、一方の温度センサ96を「第1温度センサ96a」と呼び、他方の温度センサ96を「第2温度センサ96b」と呼ぶ。また、正確には、温度センサ96から出力される温度信号に基づいて温度入力部12および長期温度変化取得部141により第1取得温度が取得されるが、この動作にて取得される温度を、単に「温度センサ96による第1取得温度」とも表現する。
【0042】
操作者が
図4の「再生」ボタンをクリックすると、第1時刻および第2時刻における第1温度センサ96aおよび第2温度センサ96bによる第1取得温度が求められ、表示制御部14の制御により、第1取得温度に基づいて各ブロック321が温度に応じた色となる。具体的には、
図8のリング32の右の中央のブロック321(以下、「ブロック41」という。)が、第1温度センサ96aによる第1時刻の第1取得温度に応じた色となり、リング32の左の中央のブロック321(以下、「ブロック42」という。)が、第2温度センサ96bによる第1時刻の第1取得温度に応じた色となる。また、リング32の上の中央のブロック321(以下、「ブロック43」という。)が、第1温度センサ96aによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となり、リング32の下の中央のブロック321(以下、「ブロック44」という。)が、第2温度センサ96bによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となる。他のブロック321の色は、ブロック41~44の温度を(線形に)補間した温度に応じた色となる。補間は、局所的に多次関数や周期関数を適用する等の他の方法で行われてもよい。
【0043】
上記第1取得温度が表示されるブロック321の数が周方向に4個である上記動作例の場合、第1時刻、第2時刻、第3時刻・・・の間隔は、例えば、0.5時間である。
【0044】
次に、第3時刻における第1温度センサ96aおよび第2温度センサ96bによる第1取得温度が求められ、表示制御部14の制御により、第1取得温度に基づいて各ブロック321が次の時刻の温度に応じた色となる。具体的には、
図8のブロック41が、第1温度センサ96aによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となり、ブロック42が、第2温度センサ96bによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となる。また、ブロック43が、第1温度センサ96aによる第3時刻の第1取得温度に応じた色となり、ブロック44が、第2温度センサ96bによる第3時刻の第1取得温度に応じた色となる。他のブロック321の色は、ブロック41~44の温度を補間した温度に応じた色となる。以後、再生が継続される間、ブロック41~44に対応する時刻が更新されつつ全ブロックが表現する温度が更新される。
【0045】
以上のように、簡易モードでは、ブロック41,43は第1温度センサ96aに対応づけられ、ブロック42,44は第2温度センサ96bに対応づけられ、ブロック41~44が示す温度は、強制的に所定間隔の時刻の第1取得温度とされる。そのため、簡易モードでは、リング32は必ずしもシリンダライナ91の周方向の温度分布を正確に示すものではない。しかし、一定期間の上記表示を動画として表示することにより、どの程度の温度変化がどのように生じているか否かを視覚的かつ直感的に把握することができる。
【0046】
図2に示すように、ピストンリング93には合口931や逃し溝932が設けられ、これらの位置では燃焼ガスが流れてシリンダライナ91の温度が上昇する。そして、エンジンの動作によりピストンリング93がゆっくりと周方向に回転すると、シリンダライナ91の温度状態が変化し、温度センサ96にて取得される温度が変化する。したがって、上記表示方法により、シリンダライナ91の周方向の温度変化の様子を容易に把握でき、ピストンリング93がピストン92の溝に固着して回転が停止するというスカッフィングの前兆を視覚的に容易に把握することができる。なお、「スカッフィング」とは凝着摩擦による傷が発生現象であり、焼き付きの一種または焼き付きの前兆である。
【0047】
ピストンリング93の合口931や逃し溝932は、周方向において偏って配置されるため、温度センサ96の数が2個の場合、すなわち、2つの温度センサ96が周方向に180°ピッチで配置される場合、一方の温度センサ96にて検出される温度が高いと他方の温度センサ96にて検出される温度は低くなる。なお、ピストンリング93の数は、通常2以上であり、各ピストンリング93がどのように回転するか詳細は不明であるが、温度センサ96にて検出される温度は上下動する。
【0048】
次に、周期利用モードについて説明する。周期利用モードでは、
図6の周期取得部145が第1取得温度の変化の周期を取得する。具体的には、
図7に例示する第1取得温度のピーク811の間隔の平均、または、ボトム812の間隔の平均を周期として取得する。周期は所定の数の間隔の平均(すなわち、移動平均)として求められ、ピーク811またはボトム812が取得される毎に更新される。
【0049】
周期が取得されると、周期の1/4の間隔で、第1時刻、第2時刻、第3時刻・・・が設定される。そして、これらの時刻に従って、簡易動作モードと同様の動作にてシリンダライナ91の温度分布の表示が行われる。すなわち、まず、
図8のブロック41が、第1温度センサ96aによる第1時刻の第1取得温度に応じた色となり、ブロック42が、第2温度センサ96bによる第1時刻の第1取得温度に応じた色となる。また、ブロック43が、第1温度センサ96aによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となり、ブロック44が、第2温度センサ96bによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となる。他のブロック321の色は、ブロック41~44の温度を補間した温度に応じた色となる。
【0050】
次に、ブロック41が、第1温度センサ96aによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となり、ブロック42が、第2温度センサ96bによる第2時刻の第1取得温度に応じた色となる。また、ブロック43が、第1温度センサ96aによる第3時刻の第1取得温度に応じた色となり、ブロック44が、第2温度センサ96bによる第3時刻の第1取得温度に応じた色となる。他のブロック321の色は、ブロック41~44の温度を補間した温度に応じた色となる。以後、再生が継続される間、ブロック41~44に対応する時刻が更新されつつ全ブロックが表現する温度が更新される。
【0051】
周期利用モードにおいても、ブロック41,43は第1温度センサ96aに対応づけられ、ブロック42,44は第2温度センサ96bに対応づけられる。ブロック41~44が示す温度は、周期を考慮した一定間隔の時刻の第1取得温度とされる。そのため、周期利用モードでは簡易モードよりも、リング32はシリンダライナ91の周方向の温度分布を正確に示す。これにより、一定期間の上記表示を動画として表示することにより、どの程度の温度変化がどのように生じているか否かを視覚的かつ直感的に正確に把握することができる。
【0052】
なお、本実施の形態の場合、温度センサ96の数は2であるため、温度変化の回転方向は不明である。しかし、スカッフィングの前兆を把握するためにはピストンリング93が回転しているか否かを把握することが重要であり、温度変化の回転方向の把握は不要である。
【0053】
次に、表示制御部14の警告表示機能について説明する。表示制御部14は、第1前兆検出部142により第1取得温度に基づいてスカッフィングの前兆を検出した場合に第1警告を表示画面111に表示し、第2前兆検出部144により第2取得温度に基づいてスカッフィングの前兆を検出した場合に第2警告を表示画面111に表示する。
図4では、シリンダ2のリング32内の上段に第1警告が表示され、下段に第2警告が表示される様子を示している。第1警告および第2警告は、それぞれ「レベル1」、「レベル2」、「レベル3」の3段階である。レベルは1段階でもよく、2段階以上でもよい。
【0054】
既述のように、第1取得温度の変化の有無は、ピストンリング93の回転の有無を示している。そのため、第1警告は、所定の期間内の第1取得温度の変化が予め定められた大きさよりも小さい場合に表示画面111に表示される。例えば、舶用または発電用の大型の2サイクルディーゼルエンジンの場合、12時間の間、第1取得温度の変化が10℃未満の場合に「レベル1」が表示され、12時間の間、第1取得温度の変化が5℃未満の場合に「レベル2」が表示され、12時間の間、第1取得温度の変化が3℃未満の場合に「レベル3」が表示される。
【0055】
ピストンリング93の回転の異常は、温度分布の回転の停止として検出されてもよい。例えば、補間処理を経てリング32の全ブロック321に表示すべき温度が求められる場合において、最も温度が高いブロック321の位置が、所定期間内においてほぼ動かなくなった場合に、ピストンリング93が回転しなくなったと判断し、第1警告が表示画面111に表示されてもよい。例えば、24時間の間、最も温度が高いブロック321の位置が変化しなかった場合に「レベル1」が表示され、48時間の間、当該ブロック321の位置が変化しなかった場合に「レベル2」が表示され、72時間の間、当該ブロック321の位置が変化しなかった場合に「レベル3」が表示される。
【0056】
一方、第2取得温度は、スカッフィングが発生してシリンダライナ91の温度が急上昇する直前に、
図9の符号83にて示す領域のように特徴的な温度変化を示す。そのため、この特徴的な温度変化が第2前兆検出部144により検出された際に、第2警告が表示画面111に表示される。すなわち、第2取得温度の変化のパターンが予め定められた条件を満たす場合に第2警告が表示画面111に表示される。具体的には、一定時間内に第2取得温度が上下に変化した回数が予め定められた第1閾値以上であり、かつ、第2取得温度の上下動の変化量の合計値、すなわち、ピークとボトムとの間の温度差の絶対値の累計が予め定められた第2閾値以上の場合に、スカッフィング発生の直前状態であると判断する。例えば、1分毎に第2取得温度が取得され、5分以内に第2取得温度が上下に3回以上変化し、第2取得温度の上下動の変化量の合計値が6℃以上の場合に、「レベル1」の第2警告が表示画面111に表示される。その後、同様の警告条件が連続して満たされる毎に、「レベル2」、「レベル3」と表示が変更される。
【0057】
なお、第1閾値および第2閾値の組み合わせが複数通り設定され、これらの組み合わせに応じて「レベル1」、「レベル2」、「レベル3」の警告が表示されてもよい。例えば、舶用または発電用の大型の2サイクルディーゼルエンジンの場合、「レベル1」に対応する第1閾値は1回、第2閾値は3℃、「レベル2」に対応する第1閾値は2回、第2閾値は4℃、「レベル3」に対応する第1閾値は5回、第2閾値は6℃とされてもよい。
【0058】
シリンダ90毎に第1警告および第2警告が表示されることにより、各シリンダ90の状態を的確に把握することができる。また、上記の通り、シリンダライナ91の過去の温度変化を動画としてリング32に表示することができるため、各シリンダ90の状態をさらに的確に把握することができる。
【0059】
上記実施の形態は、エンジン監視装置1の一例に過ぎない。エンジン監視装置1が監視するエンジン9は、内燃機関であればどのようなものであってもよい。ガソリンエンジンであってもディーゼルエンジンであってもよい。好ましくは、大型のディーゼルエンジンである。さらに好ましくは、2サイクルエンジンである。また、スカッフィングの前兆の検出は、エンジンをすぐに停止することができない場合に適しており、スカッフィングの前兆が検出された際には、重大な損傷を回避するために、潤滑油の供給量を増やしたり、エンジンの負荷を低減するといった対応がなされる。このような対応が必要となるエンジンとしては、舶用のエンジンを挙げることができ、特に好ましくは船舶の推進力を発生する主機である。
【0060】
シリンダライナ91に設けられる温度センサ96は、例えば、熱電対であるが、これには限定されない。温度センサ96から出力された温度信号は、電圧、電流、抵抗のいずれでもよく、これらを組み合わせたものであってもよい。温度センサ96は、温度に対応する信号を出力するものであればどのようなものであってもよく、「温度計」と呼ばれるものであってもよい。温度入力部12は、温度信号が入力され、温度センサ96の位置における温度を「値として」取得し、出力する。典型的には、温度入力部12は、温度信号を、温度を示すデジタル信号に変換するA/D変換器である。温度入力部12が取得する温度は、温度そのものの値である必要は無く、実際の温度に変換可能な値であればよい。
【0061】
エンジン監視装置1の表示部11は、汎用の表示装置であってもよく、所定の場所に固定された専用の表示装置であってもよい。表示画面111は、作業者に情報を表示する面である。表示制御部14は、上記の通り、典型的にはコンピュータシステムが利用されるが、全体または一部が専用のハードウェアであってもよい。表示制御部14により、温度入力部12から出力された出力温度に基づいて表示画面111にシリンダライナ91の温度状態が表示される。なお、表示内容を示すデータのみが表示制御部14から表示部11に送られ、表示部11側でデータに基づく表示が行われてもよい。
【0062】
上記エンジン監視装置1では、温度入力部12から出力された複数の出力温度を記憶する記憶部13と、操作者による操作を表示制御部14に入力する入力デバイス15とが設けられるが、これらは主に、シリンダライナ91の過去の温度状態の変化を表示部11に表示させるために用いられる。エンジン監視装置1では、表示画面111に「現在」のラジオボタンを設け、これを選択した場合に、10個のリング32に各シリンダライナ91の現在の周方向の温度分布が色およびその濃淡で表示されてもよい。現在の温度状態のみを表示する場合は記憶部13や入力デバイス15は省略可能である。
【0063】
記憶部13は、少なくとも、複数の出力温度を記憶する機能を有するのであれば、どのようなデバイスが記憶部13として利用されてもよい。表示制御部14がコンピュータシステムの場合、記憶部13は表示制御部14の一部と捉えることも可能である。同様に、入力デバイス15も表示制御部14の一部と捉えることも可能である。入力デバイス15は、マウスやキーボードのみならず、表示部11に設けられたタッチパネルであってもよい。この場合、入力デバイス15は表示部11の一部と捉えることも可能である。
【0064】
上記実施の形態では、シリンダライナ91の周方向の複数の位置に対応づけられた複数の表示位置として、ブロック321が表示画面111上に設定される。そして、これらのブロック321のうち、実際の第1取得温度に従った表示が行われるのは、
図8の4つのブロック41~44である。また、ブロック41,43は、第1温度センサ96aに対応づけられ、ブロック42,44は第2温度センサ96bに対応づけられる。したがって、複数の表示位置の配列として、ブロック41,43と、ブロック42,44の2つの配列が存在する。また、配列に沿って複数の表示位置であるブロック41、ブロック43に順番が定められており、同様に、複数の表示位置であるブロック42、ブロック44に順番が定められている。そして、表示制御部14の制御により、予め定められた時間間隔で各温度センサによる第1取得温度が取得され、一定の期間内に取得された複数の第1取得温度が、順番に従ってブロック41,43と、ブロック42,44に表示される。
【0065】
上記実施の形態では、表示制御部14は温度入力部12から直接的に温度を取得するのではなく、記憶部13を介して間接的に温度を取得するが、表示制御部14は、温度入力部12から出力された出力温度のうち予め定められた時間間隔で出力されたものをそのまま第1取得温度として利用してもよい。また、第1警告に利用される第1取得温度とは異なる手法にて求められた取得温度(例えば、第1取得温度とは異なる大きさの区間で求められた移動平均)や第2取得温度が温度表示に用いられてもよい。すなわち、表示制御部14による温度表示には、上記第1取得温度に限定されない「取得温度」が利用されてよい。以下の説明において温度表示に利用される温度を、単に「取得温度」とも表現する。ブロック41~44以外の表示位置であるブロック321は、ブロック41~44の表示温度を補間して温度表示を行うため、補助的な表示位置にすぎない。
【0066】
表示位置の数は4以外でもよく、補助的な表示位置は存在しなくてもよい。例えば、
図8において、ブロック44の右隣のブロック321から反時計回りに20個のブロック321に順番が与えられ、第1温度センサ96aに基づく取得温度が過去から順番に表示され、ブロック43の左隣のブロック321から反時計回りに20個のブロック321に順番が与えられ、第2温度センサ96bに基づく取得温度が過去から順番に表示されてもよい。この場合、「複数の表示位置の配列」は、半円状に並ぶ20個のブロック321の配列である。一般的に表現すれば、表示画面111に、シリンダライナ91の周方向の複数の位置に対応づけられた複数の表示位置が配列され、複数の表示位置の配列に沿って複数の表示位置に順番が定められており、表示制御部14の制御により、予め定められた時間間隔で出力温度に基づく取得温度が取得され、一定の期間内に取得された複数の取得温度が、順番に従って複数の表示位置に表示される。これにより、シリンダライナ91の周方向の温度変化の様子を容易に把握することが実現される。
【0067】
表示位置の数が多い表示は、周方向の温度分布をある程度正確に表示することができる周期利用モードに適している。周期利用モードの場合、既に説明したように、周期に基づいて取得温度を取得する時間間隔、すなわち、上記第1時刻、第2時刻、第3時刻・・・が定められてよい。リング32において表示位置の数が4の場合は、取得温度を取得する間隔は、周期の1/4である。
図8の全てのブロック321が取得温度の表示位置の場合は、取得温度を取得する間隔は周期の1/40である。
【0068】
複数の表示位置の数は可変であってもよい。例えば、取得温度を取得する間隔が一定である場合において、周期が変動した場合、表示位置の間隔(および個数)を変更することにより、周期を反映した温度状態の変化が表示されてもよい。さらには、温度の取得する時間間隔の変更と、表示位置の間隔(および個数)の変更を同時に行ってもよい。
【0069】
なお、エンジン監視装置1では、周期利用モードを省略し、簡易モードのみが実装されてもよい。
【0070】
上記実施の形態では、複数の表示位置であるブロック41~44は、円状に配列されるが、周方向の位置と温度とを対応づけることができるのであれば、配列は円状には限定されない。例えば、ブロック41~44(補助的な表示位置であるブロック321を含めてもよい。)を横一列に並べ、各ブロックに角度位置の表示を付加してもよい。これによっても、シリンダライナ91の周方向の温度分布の変化の様子を容易に把握することができる。
【0071】
ブロック321における温度の表示は、数字であってもよい。もちろん、視覚的に容易に把握できるようにするには、各取得温度は、対応する表示位置であるブロック321に温度の値に対応する濃度または色にて表示されることが好ましい。表示位置はブロック状である必要はない。例えば、各表示位置(を示す領域)は円形であってもよいし、環状の領域を周方向に分割した1つの領域であってもよい。
【0072】
操作者が、入力デバイス15を介して「再生」ボタン333を操作した際にの表示制御部14の動作は、一般的に表現すると、表示制御部14は、操作者により指定された期間、または、予め指定された期間の間の複数の出力温度を記憶部13から読み出し(ただし、移動平均である取得温度を表示する場合は、移動平均を求めることができる期間の間に取得された複数の取得温度を読み出す。)、指定された期間における複数の表示位置における温度表示を時間の経過(すなわち、時刻の更新)と共に表示画面111に表示する。これにより、シリンダライナ91の過去の温度変化の様子を容易に把握することができ、現在の状態を推測することができる。
【0073】
既に説明したように、温度分布の表示に利用される温度は、温度入力部12から出力された温度、第1取得温度、第2取得温度のいずれでもよく、これら以外の取得温度であってもよい。したがって、上記再生動作をさらに正確に表現すれば、表示制御部14は、操作者により指定された期間、または、予め指定された期間を少なくとも含む期間の間に温度入力部12から出力された(複数の)出力温度を記憶部13から読み出し、当該出力温度に基づいて指定された期間における(複数の)取得温度を取得し、指定された期間における複数の表示位置における取得温度に基づく温度表示を時間の経過と共に表示画面111に表示する。
【0074】
上記実施の形態では、温度センサ96の数は2である。既述の通り、温度分布の変化を把握するという観点からは、温度分布の変化の回転方向の把握は不要である。温度センサ96の数は1でもよい。この場合、好ましくは、1つの温度センサ96に対応する複数の表示位置がシリンダライナ91の全周の複数の位置に対応する。温度センサ96の数は3以上でもよい。温度センサ96の数が2以上の場合、
図8における温度の表示位置の配列は好ましくは温度センサ96の数の区間に分けられる。そして、全ての温度センサ96に対応する表示位置の配列により円状の表示位置の配列が構成される。すなわち、複数の温度センサ96のそれぞれに対して表示画面111上に複数の表示位置(の配列)が設定されており、複数の温度センサ96に対応する全ての表示位置がシリンダライナ91の全周の複数の位置に対応する。
【0075】
エンジン監視装置1では、第1前兆検出部142が、所定の期間内に取得される第1取得温度の変化が予め定められた大きさよりも小さいことを検出すると、表示制御部14は、第1警告を表示画面111に表示する。第2前兆検出部144が、第2取得温度の変化のパターンが予め定められた条件を満たすことを検出すると、表示制御部14は、第2警告を表示画面111に表示する。2種類の警告を表示することにより、エンジン9の状態を的確に把握することができる。第1警告および第2警告の表示は、リング32の内側である必要はなく、シリンダの番号に対応づけて表示されるのであればどのように表示されてもよい。
【0076】
また、第1警告を表示する上記方法に代えて、リング32の周方向において最も温度が高い位置が変化しなくなった場合に第1警告を表示するという技術は、リング32の周方向の温度が、補間処理を経て求められる場合においても、全ブロック321に対応する温度が取得温度である場合(すなわち、補間処理を経ない場合)でも適用することができる。ピストンリング93の回転は、リング32の周方向において最も温度が低い位置の変化として捉えられてもよい。また、所定期間内に最も温度が高いブロック321または最も温度が低いブロック321の移動量が少ない場合にピストンリング93が回転しなくなったとみなしてもよい。
【0077】
一般的に表現すれば、表示制御部14の第1前兆検出部142は、複数の表示位置に表示される取得温度に基づいて(必要に応じて補間処理を行って)、シリンダライナ91の周方向において最も温度が高い位置、または、最も温度が低い位置を取得し、所定の期間内における当該位置の変化が所定量以下の場合に、第1警告を表示画面111に表示する。このような処理により、異常検出において、シリンダライナ91全体の温度変化の影響を低減することができる。
【0078】
警告表示は、第1警告のみでもよく、第2警告のみでもよい。第1警告の表示に際して、所定の期間内に取得される第1取得温度の変化が予め定められた大きさよりも小さいことを検出する手法と、シリンダライナ91の周方向において最も温度が高い位置、または、最も温度が低い位置の変化が所定量以下であることを検出する手法とが併用されてもよい。
【0079】
エンジン監視装置1では、
図4の表示以外にも、「メニュー」ボタン337を介して他の様々な表示が行われてよい。例えば、温度入力部12から出力される出力温度が指定期間を時間軸とするグラフとして表示されてもよい。第1警告や第2警告のレベルも指定期間を時間軸とするグラフとして表示されてよい。
【0080】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0081】
1 エンジン監視装置
9 エンジン
11 表示部
12 温度入力部
13 記憶部
14 表示制御部
15 入力デバイス
32 リング
41~44,321 ブロック(表示位置)
91 シリンダライナ
96 温度センサ
111 表示画面
142 第1前兆検出部
144 第2前兆検出部
145 周期取得部