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特開2024-133779水素分離膜モジュール、水素精製器及び水素分離膜モジュールアセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133779
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】水素分離膜モジュール、水素精製器及び水素分離膜モジュールアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20240926BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D63/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043742
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000231556
【氏名又は名称】日本精線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】堤 弘之
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA22
4D006HA28
4D006HA41
4D006JA25A
4D006JA25C
4D006JA30A
4D006JA30C
4D006KA01
4D006KA31
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA56
4D006KA64
4D006KA67
4D006KB30
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA31
4D006MC02
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB66
4D006PB68
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】 水素ラジカル化に大きなエネルギーを必要とすることなく、純度が高い水素を効率良く分離・精製可能な水素分離膜モジュール及びこれを用いた水素精製器を提供する。
【解決手段】 水素分離膜モジュール1であって、内部に空間Sを画定するハウジング2と、水素ラジカルを選択的に透過させる性能を有する水素分離膜3と、水素を水素ラジカル化するための水素ラジカル化手段4とを含む。水素分離膜3は、ハウジング2の空間Sを、第1空間21と第2空間22とを含む複数の空間に区画するように配置される。ハウジング2は、水素を含む原料ガスGを第1空間21に導入するための入口23と、原料ガスGの一部を第1空間21から排出するための出口24と、原料ガスGから水素分離膜3を透過して第2空間22に移動した水素を取り出すための取出口25とを備える。水素ラジカル化手段4は、第1空間21に配された熱フィラメントである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素分離膜モジュールであって、
内部に空間を画定するハウジングと、
水素ラジカルを選択的に透過させる性能を有する水素分離膜と、
水素を水素ラジカル化するための水素ラジカル化手段とを含み、
前記水素分離膜は、前記ハウジングの前記空間を、第1空間と第2空間とに区画するように配置されており、
前記ハウジングは、水素を含む原料ガスを前記第1空間に導入するための入口と、前記原料ガスの一部を前記第1空間から排出するための出口と、前記原料ガスから前記水素分離膜を透過して前記第2空間に移動した水素を取り出すための取出口とを備え、
前記水素ラジカル化手段は、前記第1空間に配された熱フィラメントである、
水素分離膜モジュール。
【請求項2】
前記水素分離膜は、筒状体に形成されており、
前記第1空間が、前記筒状体の内部空間とされている、請求項1に記載の水素分離膜モジュール。
【請求項3】
前記水素分離膜は、筒状体に形成されており、
前記第1空間が、前記筒状体の外部空間とされている、請求項1に記載の水素分離膜モジュール。
【請求項4】
前記熱フィラメントは、螺旋状に巻回されたコイル状部分を含む、請求項1に記載の水素分離膜モジュール。
【請求項5】
前記熱フィラメントは、軸方向を画定する支持体と、前記支持体に外挿された前記コイル状部分とを含むフィラメントユニットを含む、請求項4に記載の水素分離膜モジュール。
【請求項6】
前記第1空間には、複数の前記フィラメントユニットが配置されている、請求項5に記載の水素分離膜モジュール。
【請求項7】
前記水素分離膜は、筒状体に形成されており、
前記複数のフィラメントユニットは、それぞれの前記軸方向を、互いに揃えて、かつ、前記水素分離膜の前記筒状体の軸方向と平行に配置されている、請求項6に記載の水素分離膜モジュール。
【請求項8】
前記複数のフィラメントユニットは、前記水素分離膜までの離隔距離が実質的に一定とされている、請求項7に記載の水素分離膜モジュール。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載された水素分離膜モジュールを用いた水素精製器。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれかに記載された水素分離膜モジュールを少なくとも2つ含み、
前記少なくとも2つの水素分離膜モジュールのうちの一方の水素分離膜モジュールの前記出口と、前記少なくとも2つの水素分離膜モジュールのうちの他方の水素分離膜モジュールの前記入口とが、接続手段により接続されている、
水素分離膜モジュールアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜モジュール、水素精製器及び水素分離膜モジュールアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素を含むガスから水素を分離・精製する水素生成装置が種々提案されている。例えば、特許文献1では、アンモニアをプラズマにして水素を生成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-70012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置では、高電圧電極を用いることから、水素分子を水素ラジカル化するために比較的大きなエネルギーが必要となり、エネルギー収支の面で実用化に適さないという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、水素ラジカル化に大きなエネルギーを必要とすることなく、純度が高い水素を効率良く分離・精製可能な水素分離膜モジュール、水素精製器及び水素分離膜モジュールアセンブリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、水素分離膜モジュールであって、内部に空間を画定するハウジングと、水素ラジカルを選択的に透過させる性能を有する水素分離膜と、水素を水素ラジカル化するための水素ラジカル化手段とを含み、前記水素分離膜は、前記ハウジングの前記空間を、第1空間と第2空間とに区画するように配置されており、前記ハウジングは、水素を含む原料ガスを前記第1空間に導入するための入口と、前記原料ガスの一部を前記第1空間から排出するための出口と、前記原料ガスから前記水素分離膜を透過して前記第2空間に移動した水素を取り出すための取出口とを備え、前記水素ラジカル化手段は、前記第1空間に配された熱フィラメントである、水素分離膜モジュールである。
【0007】
本発明の他の態様では、前記水素分離膜は、筒状体に形成されており、前記第1空間が、前記筒状体の内部空間とされても良い。
【0008】
本発明の他の態様では、前記水素分離膜は、筒状体に形成されており、前記第1空間が、前記筒状体の外部空間とされても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記熱フィラメントは、螺旋状に巻回されたコイル状部分を含んでも良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記熱フィラメントは、軸方向を画定する支持体と、前記支持体に外挿された前記コイル状部分とを含むフィラメントユニットを含んでも良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記第1空間には、複数の前記フィラメントユニットが配置されても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記水素分離膜は、筒状体に形成されており、前記複数のフィラメントユニットは、それぞれの前記軸方向を、互いに揃えて、かつ、前記水素分離膜の前記筒状体の軸方向と平行に配置されても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記複数のフィラメントユニットは、前記水素分離膜までの離隔距離が実質的に一定とされても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、上記いずれかの水素分離膜モジュールを用いた水素精製器であっても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、上記いずれかに記載された水素分離膜モジュールを少なくとも2つ含み、前記少なくとも2つの水素分離膜モジュールのうちの一方の水素分離膜モジュールの前記出口と、前記少なくとも2つの水素分離膜モジュールのうちの他方の水素分離膜モジュールの前記入口とが、接続手段により接続されている、水素分離膜モジュールアセンブリであっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水素分離膜モジュール及びこれを用いた水素精製器は、上記の構成を採用することにより、水素ラジカル化に大きなエネルギーを必要とすることなく、純度が高い水素を効率良く分離・精製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の水素分離膜モジュールの概略断面図である。
図2図1のII-II線の拡大断面図である。
図3図2の一つのフィラメントユニットの斜視図である。
図4】第1実施形態の熱フィラメントの要部斜視図である。
図5】第2実施形態の水素分離膜モジュールの概略断面図である。
図6図5のVI-VI線の拡大断面図である。
図7】第3実施形態の水素分離モジュールの概略断面図である。
図8図7のVIII-VIII線の拡大断面図である。
図9】第4実施形態の水素分離モジュールアセンブリの概略図である。
図10】第4実施形態の水素分離モジュールアセンブリの概略図である。
図11】水素精製器の一実施形態を示す概略断面図である。
図12】本実施形態の他の実施形態を示す概略断面図である。
図13】第1の実施形態の水素ラジカル化手段の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のいくつかの実施形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが理解されなければならない。また、複数の実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の水素分離膜モジュール1の模式的な概略断面図であり、図2は、そのII-II線の拡大断面図である。図1及び図2に示されるように、水素分離膜モジュール1は、供給される原料ガスGから水素を取り出すためのモジュールであって、ハウジング2と、水素分離膜3と、水素ラジカル化手段4とを含む。なお、本明細書において、単に「水素」と記載されている場合、それは「水素分子」を意図している。
【0020】
本実施形態のハウジング2は、水素分離膜モジュール1の外装部材であって、その内部には空間Sが画定される。本実施形態において、空間Sは、軸方向に延びる円筒状とされている。ただし、空間Sの形状等は、様々なものが採用でき、特に制限されるものではない。
【0021】
ハウジング2は、例えば、金属材料で構成され得る。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼が好適であり、とりわけ、耐熱性に優れたSUS316L等が望ましい。ハウジング2には、入口23、出口24及び取出口25が設けられているが、これらについては後述する。
【0022】
水素分離膜3は、水素ラジカルを選択的に透過させる性質を有する薄膜材料である。水素分離膜3は、水素ラジカルを透過させるが、固体や液体をはじめ水素分子や他の気体は透過しない。また、本実施形態の水素分離膜3は、表面が平滑な非多孔質薄膜が用いられる。水素分離膜3は、例えば、パラジウム(Pd)を含む金属材料からなり、Pd-Cu合金やPd-Ag合金等が好適に用いられる。水素分離膜3の水素透過性能は、その厚さが小さいほど優れる傾向がある。特に制限されるものではないが、水素分離膜3の厚さは、例えば300μm以下が好ましく、1μm以上100μm以下程度がより好ましい。
【0023】
水素分離膜3は、ハウジング2内部の空間Sを、第1空間21と第2空間22とを含む複数の空間に区画するように配置されている。本実施形態において、水素分離膜3は、軸方向に延びる筒状体3a(円筒状体)に形成されている。筒状体3aは、例えば、矩形シート状の水素分離膜3を軸心周りで円筒状に湾曲させ、対向したシート縁を互いに溶接固着することで形成され得る。そして、筒状体3aの軸方向の両端は、例えば、溶接等により、ハウジング2に気密に固着されている。また、筒状体3aは、その軸方向をハウジング2の空間Sの軸方向と向きを揃えて配置されている。より好ましい態様では、図2から明らかなように、筒状体3aの軸中心線CLは、ハウジング2の空間Sの軸中心線と一致するように配置される。
【0024】
ハウジング2の空間Sは、筒状体3aの内部空間である第1空間21と、筒状体3aの外部空間である第2空間22とに区画されている。第1空間21は、例えば、円筒状の空間とされ、第2空間22は、例えば、パイプ状の空間とされている。
【0025】
次に、ハウジング2の入口23、出口24及び取出口25が説明される。
【0026】
入口23は、水素を含む原料ガスGを第1空間21に導入するためのもので、例えば、開口、継手等として形成される。入口23には、原料ガスの供給源(図示省略)が接続される。本実施形態の入口23は、ハウジング2の軸方向の第1端A側の端面に形成されている。
【0027】
出口24は、原料ガスGの一部を第1空間21から排出するためのもので、例えば、開口、継手等として形成される。原料ガスGの一部とは、水素分離膜3を透過できずに第1空間21に残ったガスを意味する。本実施形態では、出口24は、ハウジング2の軸方向の第2端B側の端面に形成されている。したがって、原料ガスGは、図1において、第1空間21を左側から右側に流れる。
【0028】
取出口25は、原料ガスGから水素分離膜3を透過して第2空間22に移動した水素を取り出すためのもので、開口、継手等として形成される。本実施形態では、取出口25は、第2空間22に設けられ、例えば、ハウジング2の軸方向の第2端B側の外周面に形成されている。
【0029】
本実施形態では、水素ラジカル化手段4は、第1空間S1に配された熱フィラメント41として構成されている。
【0030】
図3には、熱フィラメント41の一例の拡大図が示されている。本実施形態の熱フィラメント41は、例えば、細いタングステンワイヤーで構成されており、通電により発熱することができる。本実施形態のタングステンワイヤーは、例えば、3mmの線径を有し、電源からの電力供給を受けることで1000~2800℃に発熱することができる。なお、タングステンワイヤーは、水素分離膜モジュール1のサイズ等に応じて、例えば、0.1mmから1mmの細線径のものに適宜変更することができる。
【0031】
また、本実施形態の熱フィラメント41は、少なくとも一部に、螺旋状に巻回されたコイル状部分41aを含んでいる。好ましい例では、熱フィラメント41は、さらに、軸方向を画定する支持体42を含み、この支持体42にコイル状部分41aが外挿されたフィラメントユニット5を含む。図3では、支持体42とコイル状部分41aとの間の隙間が描かれているが、コイル状部分41aは、支持体42に接するように巻き付けられても良い。
【0032】
[作用]
水素分離膜モジュール1の作用は、次のとおりである。
まず、ハウジング2の入口23から、第1空間21に、水素を含む原料ガスGが供給される。原料ガスGは、水素を含むものであれば特に制限されるものではなく、例えば、メタンやアンモニア等を採用することができる。
【0033】
第1空間21に供給された原料ガスGは、第1空間21を軸方向に移動し、出口24からハウジング2の外部に排出される。第1空間21を通過している間、原料ガスGは、熱フィラメント41及び水素分離膜3に接触することができる。
【0034】
第1空間21への原料ガスGの供給に合わせて、又は、それに先行して、熱フィラメント41が通電加熱される。熱フィラメント41に電流を流すことにより、熱フィラメント41は、1000~2800℃の所定の温度まで発熱することができる。発熱した熱フィラメント41は、その触媒反応により、原料ガスG中の水素分子を分解し、水素ラジカルを生成する。具体的には、水素分子は、熱フィラメント41上のダングリングボンドに水素原子として解離吸着される。
【0035】
加熱された熱フィラメント41上では、水素原子は、水素ラジカルとして熱脱離し、第1空間21の原料ガスG中へと放出される。放出された水素ラジカルは、水素分離膜3の表面に吸着される。この水素ラジカルは、水素ラジカルの濃度勾配によって第1空間21から第2空間22へ水素分離膜3への透過が促進される。これは、第1空間21と第2空間22との間に差圧を必要としないメリットをもたらす。水素分離膜3の内部を拡散移動した水素ラジカルは、水素分離膜3の第2空間22側の表面に達し、その後、第2空間22で水素ラジカル同士が結合することにより、水素(水素分子)が得られる。この水素は、取出口25からハウジング2の外部へと取り出され得る。
【0036】
本実施形態の水素分離膜モジュール1は、いくつかの利点を有する。まず、水素ラジカル化手段4は、プラズマを発生させるための高電圧電極を用いない。したがって、本実施形態の水素分離膜モジュール1は、水素分子を水素ラジカル化するための大きなエネルギーが不要であり、水素分離を行う際のコストを大幅に低減することができる。
【0037】
また、第2空間22に透過した水素ラジカルは、水素分離膜3との吸着が外れ、他の水素ラジカルと結合して水素分子となる。したがって、第2空間22で得られた水素分子は再び第1空間21に逆流することがなく、純度の高い水素を効率良く分離・精製することができる。
【0038】
本実施形態の水素分離膜モジュール1は、水素を分離するために、第1空間21と第2空間22の間に積極的な圧力差を提供する必要が無い。したがって、水素分離膜3は、例えば、水素分離膜3を支持ないし補強するパンチングメタルのような支持構造体(図示省略)を別途備える必要がない。したがって、本実施形態の水素分離膜モジュール1は、軽量かつ簡単な構成で製造され得る。なお、本実施形態の水素分離膜モジュール1は、上述のような支持構造体を備えても良い。
【0039】
また、上記構成に関連し、水素分離膜3には、例えば、純鉄、ニッケル、チタン、バナジウム系、ニオブ系の材料が採用されても良い。バナジウムやニオブ系の水素分離膜3はパラジウム系のものよりも安価かつ透過性能に優れることが知られているが、機械的強度に劣り、それ単体では高い圧力に耐えることができないが、本実施形態の水素分離膜モジュール1は、ハウジング2の第1空間21と第2空間22との間で大きな差圧が生じないことから、このような水素分離膜3を、支持構造体を用いることなく単体で使用することができ、水素の高い透過量を得ることが可能である。
【0040】
また、水素の透過流量は水素分離膜3の厚さの逆数に比例することが知られている。これまでの技術では、水素分離膜3を薄くすると、第1空間21と第2空間22との間の差圧を小さくする必要があったが、本実施形態の水素分離膜モジュール1は、上述のような差圧に依存することなく水素分離が可能となる。特に、純鉄は安価なうえに加工性に優れ延性・展性に富むため薄膜化が容易であるため、本実施形態の水素分離膜モジュール1は、純鉄を利用した低コストで高効率な水素分離も可能となる。
【0041】
図2及び図4に示されるように、水素ラジカル化手段4は、複数のフィラメントユニット5を含んでも良い。例えば、複数のフィラメントユニット5は、それぞれの軸方向を、互いに揃えて、かつ、水素分離膜3の筒状体3aの軸方向と平行に配置されても良い。また、図4に示されるように、複数のフィラメントユニット5は、水素分離膜3の筒状体3aの軸中心線CLの同心円Rに沿って配置されている。好ましい態様では、複数のフィラメントユニット5は、同心円R上に配置されている。したがって、複数のフィラメントユニット5は、それぞれ、水素分離膜3までの離隔距離(径方向の距離)L1が実質的に一定とされている。したがって、このような水素ラジカル化手段4は、水素分離、精製時のムラを減じ、精製効率を高めるのに役立つ。また、複数のフィラメントユニット5は、周方向にも等間隔の距離L2で配置されている。このような水素ラジカル化手段4は、さらに、水素分離、精製時のムラを減じ、精製効率を高めるのに役立つ。なお、図13には、第1実施形態の水素ラジカル化手段4の変形例として、図1のII-II線断面を示す。図13に示されるように、水素ラジカル化手段4は、一つのみのフィラメントユニット5で構成されても良い。
【0042】
フィラメントユニット5において、支持体42は、高温に耐え得る材料であれば特に制限されないが、例えば、耐熱性に優れたセラミックス材料等が好適である。また、支持体42の外径などは、熱フィラメント41の螺旋径などに応じて適宜調整可能であるが、例えば、外径が5~15mm程度とされている。支持体42は、熱フィラメント41の螺旋形状を長期に渡って安定的に維持する他、特に、発熱に伴う熱フィラメント41の熱変形(いわゆる熱ダレ)を抑制するのに役立つ。
【0043】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態の水素分離膜モジュール1の模式的な概略断面図であり、図6は、そのVI-VI線の要部断面図である。この実施形態においても、ハウジング2や水素分離膜3の形状は、基本的に、第1実施形態と同様である。一方、第2実施形態では、ハウジング2の空間Sにおいて、第1空間21が、筒状体3aの水素分離膜3の外部空間とされており、第2空間22が、筒状体3aの水素分離膜3の内部空間とされている点で、第1実施形態と異なっている。すなわち、この実施形態では、第1空間21はパイプ状の空間であり、第2空間22は、円筒状の空間である。
【0044】
第2実施形態において、例えば、ハウジング2の外周面には、第1空間21に連通するように、入口23及び出口24が設けられている。また、ハウジング2の軸方向の第1端A側の端面には、第2空間22に連通するように取出口25が設けられている。
【0045】
図6に示されるように、水素ラジカル化手段4は、第1空間21に配されている。第2実施形態においても、複数のフィラメントユニット5が、筒状体3aの水素分離膜3の軸中心線CLを中心とする同心円R上に、ほぼ等間隔の距離L2で配置されている。なお、この実施形態においても、水素ラジカル化手段4は、一つのフィラメントユニット5のみで構成されても良い(図示省略)。
【0046】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態の水素分離膜モジュール1の模式的な概略断面図であり、図8は、そのVIII-VIII線の拡大断面図である。この実施形態では、ハウジング2は、内部に直方体状の空間Sを画定している。空間Sは、図において左右方向に長く延びており、この方向を軸方向とする。
【0047】
水素分離膜3は、ハウジング2の空間Sを、図において上下に2つの空間に区分するように、平面状に延びている。本実施形態では、下部側の空間が第1空間21とされ、その上部側の空間が第2空間22とされている。第1空間21には、原料ガスGの入口23及び出口24がそれぞれ連通している。また、第2空間22には、原料ガスGから分離された水素を取り出すための取出口25が連通している。
【0048】
第1空間21には、熱フィラメント41を含む水素ラジカル化手段4が配置されている。本実施形態の水素ラジカル化手段4は、複数のフィラメントユニット5を含む。各フィラメントユニット5は、その軸方向を、空間Sの軸方向と平行に配置されている。また、図8に示されるように、ハウジング2の軸方向と直交する横断面において、複数のフィラメントユニット5は、水素分離膜3と平行な軸線P上に配置される。このような水素ラジカル化手段4は、水素分離、精製時のムラを減じ、精製効率を高めるのに役立つ。また、複数のフィラメントユニット5は、水素分離膜3に沿った方向にも等間隔の距離L2で配置されている。このような水素ラジカル化手段4は、さらに、水素分離、精製時のムラを減じ、精製効率を高めるのに役立つ。なお、この実施形態においても、水素ラジカル化手段4は、一つのフィラメントユニット5のみで構成されても良い(図示省略)。
【0049】
[第4実施形態]
図9は、本発明の第4実施形態の概略断面図である。
図9には、少なくとも2つの水素分離膜モジュール1を用いた水素分離膜モジュールアセンブリ10が示されている。このアセンブリ10は、第1実施形態の水素分離膜モジュール1を少なくとも2つ含み、その内の一方の水素分離膜モジュール1(以下、第1のモジュール1Aという。)の出口24と、他方の水素分離膜モジュール1(以下、第2のモジュール1Bという。)の入口23とが、接続手段6で接続されて構成されている。この実施形態のアセンブリ10は、水素分離膜モジュール1の軸方向に長く延びるように構成されているが、接続手段6に可撓性を持たせることで、アセンブリ10は種々の形状に変形可能である。
【0050】
接続手段6は、一方のモジュール1Aと他方のモジュール1Bのそれぞれの第1空間21が互いに連通するように、2つのモジュールを接続している。接続手段6は、例えば、各種の接続金具、ホース、配管等を含む。また、接続手段6は、出口24及び入口23の一方に形成された雄ネジ部と、出口24及び入口23の他方に形成された雌ネジ部とで構成されてもよく、この場合、独立した他の部品を用いずに構成され得る。さらに、接続手段6には、例えば面シール(VCR)継手、スウェージロック、突き合わせ溶接(バッドウェルド)等が採用されても良い。
【0051】
本実施形態のアセンブリ10の作用は、次のとおりである。
まず、一方のモジュール1Aの入口23には、原料ガスGが供給される。原料ガスGは、すでに説明された作用により、一方のモジュール1Aの水素分離膜3で水素分離され、その取出口25から水素が取り出される。一方のモジュール1Aで分離処理しきれなかった水素を含む残余の原料ガスGは、一方のモジュール1Aの出口24、接続手段6、及び、他方のモジュール1Bの入口23を経て、他方のモジュール1Bの第1空間21に供給される。他方のモジュール1Bにおいて、原料ガスGは、再び水素分離膜3で水素分離され、その取出口25から水素が取り出される。
【0052】
この実施形態では、原料ガスからより多くの水素を取り出し、水素分離膜モジュール1(アセンブリ10)を通過した後の処理済の原料ガスGの水素含有量を減少させることができる。特に、比較的小型の水素分離膜モジュール1を用いる場合、これに比例して水素分離膜3の分離・精製に必要な表面積も小さくなる傾向にあり、十分に水素を分離・精製できず処理済みの原料ガスGに水素が残る割合が大きくなる。しかし、上述のように、複数の水素分離膜モジュール1を複数接続したアセンブリ10として使用することにより、実装する装置の形状に応じて柔軟に水素分離膜モジュール1の配置を決定することができ、原料ガスGからより多くの水素を分離・精製することが可能となる。また、水素分離膜モジュール1が、表面積が小さい水素分離膜3を備えている場合であっても、上述のように配置の自由度が高いアセンブリとして使用することで、水素の分離・精製が効率的に行える。
【0053】
なお、図9の実施形態のアセンブリ10は、2つの水素分離膜モジュール1が接続されているが、3つ以上の水素分離膜モジュール1が互いに接続されても良い。
【0054】
[第5実施形態]
図10は、本発明の第5実施形態の概略断面図である。
図10には、少なくとも2つの水素分離膜モジュール1を用いた水素分離膜モジュールアセンブリ10が示されている。このアセンブリ10は、第2実施形態の水素分離膜モジュール1を少なくとも2つ含み、その内の一方の水素分離膜モジュール1(以下、第1のモジュール1Cという。)の出口24と、他方の水素分離膜モジュール1(以下、第2のモジュール1Dという。)の入口23とが、接続手段6で接続されて構成されている。この実施形態では、アセンブリ10は、水素分離膜モジュール1をその径方向に積み上げて構成されているが、接続手段6に可撓性を持たせることで、アセンブリ10は種々の形状に変形可能である。
【0055】
なお、図示してないが、第3実施形態の水素分離膜モジュール1を用いてアセンブリ10が形成されても良いのは言うまでもない。
【0056】
[水素精製器の実施形態1]
上で説明されたいずれかの水素分離膜モジュール1は、水素精製器として実施することができる。図11は、そのような水素精製器100の実施形態の概略図である。
【0057】
この水素精製器100は、原料ガス供給部50と、水素分離膜モジュール1とを含む。ここで用いられる水素分離膜モジュール1は、上述の水素分離膜モジュールアセンブリ10であっても良い。
【0058】
本実施形態において、原料ガス供給部50は、例えば、半導体工場、液晶工場等で用いられるCVD装置(薄膜形成装置)501である。本実施形態のCVD装置501は、半導体ウエハ等の表面に薄膜を成形するためのプラズマCVD装置が例示されている。このCVD装置501は、例えば、基板を配置可能なチャンバー51を備える。
【0059】
チャンバー51は、成膜のためのプロセスガスPGを供給するための装置入口52と、成膜処理後のプロセスガスを排出するための排出口53とを含む。また、CVD装置501は、チャンバー51内のプロセスガスPGを活性化させるためのプラズマ発生装置54を備える。プロセスガスPGとしては、例えば、シラン(SiH4)と水素との混合ガスが用いられる。
【0060】
プラズマ発生装置54は、シャワーヘッド(カソード)54a、ステージ(アノード)54b、及び、高周波電源54cを含む。ステージ54bには、ウエハの温度を調整するためのヒーター54dが設けられている。
【0061】
水素分離膜モジュール1は、水素分離膜モジュール1の入口23に、CVD装置501の排出口53から排出されるプロセスガスPGが供給されるように、CVD装置501に接続されている。
【0062】
一般に、CVD装置501では、排出口53から排出されるプロセスガスはそのまま廃棄処分されている。本実施形態の水素精製器100は、CVD装置501において、従来、廃棄されていたプロセスガスPGから水素を分離・精製することができ、資源の有効活用を図ることができる。
【0063】
本実施形態の水素分離膜モジュール1は、熱フィラメント41を備えているが、この熱フィラメント41の働きにより、CVD装置501の排出口53の流路内でのデポ生成を抑制することが可能になる。さらに、CVD装置501のプロセスガスPGにアンモニアが含まれている場合、熱フィラメント41は、排出されたプロセスガスPG中に含まれる未反応のアンモニアを、熱フィラメント41の働きにより窒素と水素に分解して、この分解によって生成された水素も分離・精製することが可能となる。
【0064】
なお、CVD装置501は、本実施形態のようなプラズマCVD装置に制限されるものではなく、プロセスガスPGに水素を含むものであれば、熱CVD装置や、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置等が採用されても良い。
【0065】
[水素精製器の実施形態2]
図12は、水素精製器100の他の実施形態のブロック図を示す。
この実施形態では、原料ガス供給部50は、光輝焼鈍炉502とされている。光輝焼鈍炉502は、ステンレスの光沢を維持したまま焼鈍を行う無酸化熱処理炉である。炉内は、例えば、アンモニア分解ガス(水素75%、窒素25%)や、純水素と純窒素の混合ガス等の無酸化性雰囲気ガスが用いられる。そして、光輝焼鈍炉502のガス排気口には、水素分離膜モジュール1の入口23が接続されている。
【0066】
さらに、この実施形態では、水素分離膜モジュール1から水素を取り出すための取出口25には、水素貯蔵部60が接続されている。水素貯蔵部60は、例えば、水素を気体のまま高圧で貯蔵するタンク等が用いられ得る。また、他の例として、水素貯蔵部60は、金属などに吸蔵、吸着させて高純度の水素として貯蔵させても良い。
【0067】
水素貯蔵部60には、例えば、切替供給部70が接続されている。切替供給部70は、水素貯蔵部60に貯蔵されている水素を、要求に応じて、光輝焼鈍炉502に供給することができる。これにより、水素が、光輝焼鈍炉502の雰囲気ガスとして再利用され得る。また、切替供給部70には、水素を必要とする他のデバイス、例えば、燃料電池が接続されても良い。この場合、切替供給部70は、要求に応じて、水素貯蔵部60に貯蔵されている水素を燃料電池に供給し、発電に利用され得る。
【0068】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 水素分離膜モジュール
2 ハウジング
3 水素分離膜
3a 筒状体
4 水素ラジカル化手段
5 フィラメントユニット
6 接続手段
10 水素分離膜モジュールアセンブリ
21 第1空間
22 第2空間
23 入口
24 出口
25 取出口
41 熱フィラメント
41a コイル状部分
42 支持体
100 水素精製器
S 空間
S1 第1空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13