(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133782
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】可視光応答性半導体光電極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/087 20210101AFI20240926BHJP
H01L 31/0216 20140101ALI20240926BHJP
H01L 31/0224 20060101ALI20240926BHJP
H01L 31/0256 20060101ALI20240926BHJP
C25B 11/052 20210101ALN20240926BHJP
【FI】
C25B11/087
H01L31/04 240
H01L31/04 260
H01L31/04 320
C25B11/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043745
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 大貴
(72)【発明者】
【氏名】石井 仁士
(72)【発明者】
【氏名】谷口 貴章
(72)【発明者】
【氏名】坂井 伸行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 高義
(72)【発明者】
【氏名】ヌルディワィジャヤント レアンダス
【テーマコード(参考)】
4K011
5F251
【Fターム(参考)】
4K011BA09
5F251AA14
5F251DA20
5F251FA01
5F251FA06
5F251FA30
(57)【要約】
【課題】本発明は、半導体光電極に使用する半導体光触媒材料において、光エネルギー変換効率及び安定性を両立する手段を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、MoS
2からなる可視光応答性の半導体からなる半導体層と、該半導体層の上面に配置されたTi酸化物及びAl酸化物からなる群より選択される1種以上の金属酸化物からなる保護膜とを有し、該保護膜が2から5 nmの範囲の膜厚を有する、可視光応答性半導体光電極に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MoS2からなる可視光応答性の半導体からなる半導体層と、該半導体層の上面に配置されたTi酸化物及びAl酸化物からなる群より選択される1種以上の金属酸化物からなる保護膜とを有し、該保護膜が2から5 nmの範囲の膜厚を有する、可視光応答性半導体光電極。
【請求項2】
保護膜が、Ti酸化物又はAl酸化物のいずれかからなる、請求項1に記載の可視光応答性半導体光電極。
【請求項3】
保護膜が、TiO2又はAl2O3のいずれかからなる、請求項1に記載の可視光応答性半導体光電極。
【請求項4】
半導体層が、2から3 nmの膜厚を有する、請求項1に記載の可視光応答性半導体光電極。
【請求項5】
半導体層が、2から3 nmの膜厚を有し、且つ保護膜が、TiO2又はAl2O3のいずれかからなる、請求項1に記載の可視光応答性半導体光電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答性半導体光電極に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルの実現において、近年、太陽光による人工光合成が注目されている。人工光合成に用いるための半導体光触媒材料として、導電性ガラス電極の表面に、ビスマス、バナジウム及びタングステン等の金属酸化物からなる可視光応答性の半導体光触媒を成膜した半導体光電極を挙げることができる。
【0003】
金属酸化物からなる半導体光触媒は、安価で大面積を成膜しやすいという利点を有する。しかしながら、これらの金属酸化物からなる半導体光触媒は、光エネルギー変換効率及び安定性が十分ではない。
【0004】
例えば、特許文献1は、半導体材料の光反応中の安定性を向上させ、且つ効率が低下しない安定化された材料として、構成元素としてBi、V、W、及び酸素を含有してなる可視光応答性の半導体からなる半導体層上に、Nb、Sn、Zr、La、Ti、Bi、Taからなる群から選ばれた1種以上の元素を含む化合物からなる保護膜が被覆されていることを特徴とする安定化された可視光応答性半導体光電極を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体光電極に使用し得る高効率な半導体光触媒材料として、硫化物系の材料が知られている。硫化物系の材料は、光エネルギー変換効率は高いものの、安定性の向上が課題として挙げられる。
【0007】
それ故、本発明は、半導体光電極に使用する半導体光触媒材料において、光エネルギー変換効率及び安定性を両立する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、硫化物系半導体光触媒材料の上面にTi酸化物及び/又はAl酸化物の保護膜を配置し、且つ該保護膜の膜厚を所定の範囲とすることにより、高い光エネルギー変換効率を維持しつつ安定性を向上させることができることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(実施形態1) MoS2からなる可視光応答性の半導体からなる半導体層と、該半導体層の上面に配置されたTi酸化物及びAl酸化物からなる群より選択される1種以上の金属酸化物からなる保護膜とを有し、該保護膜が2から5 nmの範囲の膜厚を有する、可視光応答性半導体光電極。
(実施形態2) 保護膜が、Ti酸化物又はAl酸化物のいずれかからなる、実施形態1に記載の可視光応答性半導体光電極。
(実施形態3) 保護膜が、TiO2又はAl2O3のいずれかからなる、実施形態1又は2に記載の可視光応答性半導体光電極。
(実施形態4) 半導体層が、2から3 nmの膜厚を有する、実施形態1から3のいずれかに記載の可視光応答性半導体光電極。
(実施形態5) 半導体層が、2から3 nmの膜厚を有し、且つ保護膜が、TiO2又はAl2O3のいずれかからなる、実施形態1から4のいずれかに記載の可視光応答性半導体光電極。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、半導体光電極に使用する半導体光触媒材料において、光エネルギー変換効率及び安定性を両立する手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】TiO
2ナノシート膜を成膜した半導体(MoS
2)光電極を有するガラス基板のTEM画像である。
【
図2】種々の膜厚の保護膜を有する半導体光電極において、保護膜の膜厚と、該半導体光電極を作用極(アノード)に有する光電気化学セルの初期の光電流密度及び特性維持率との関係を示すグラフである。図中、横軸は、半導体光電極の保護膜の膜厚(nm)であり、左縦軸及び黒塗り四角のプロットは、初期の光電流密度(μA/cm
2)であり、右縦軸及び黒塗り丸のプロットは、特性維持率(%)である。特性維持率(%)は、初期の光電流密度に対する2時間耐久処理後の光電流密度の百分率である。(a)は、Al
2O
3ナノシート膜を成膜した半導体光電極を有するガラス基板を作用極(アノード)に有する光電気化学セルを用いて測定した、黒塗り四角及び黒塗り丸のプロットの組み合わせを表す。(b)は、TiO
2ナノシート膜を成膜した半導体光電極を有するガラス基板を作用極(アノード)に有する光電気化学セルを用いて測定した、黒塗り四角及び黒塗り丸のプロットの組み合わせを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の一態様は、可視光応答性半導体光電極(以下、単に「半導体光電極」とも記載する)に関する。本態様の半導体光電極は、半導体層と、該半導体層の上面に配置された金属酸化物からなる保護膜とを有する。半導体層の上面に保護膜を配置することにより、本態様の半導体光電極は、高い安定性を発揮することができる。
【0014】
本態様の半導体光電極において、半導体層は、MoS2からなる可視光応答性の半導体からなる。硫化物系の半導体光触媒材料は、光エネルギー変換効率が高いことが知られている。本発明者らは、MoS2からなる可視光応答性の半導体からなる半導体層を有する半導体光電極を光電気化学セルに適用すると、高い光電流密度を示すことを見出した。それ故、MoS2からなる可視光応答性の半導体からなる半導体層を有する本態様の半導体光電極は、高い光エネルギー変換効率を発揮することができる。
【0015】
本態様の半導体光電極において、半導体層の半導体の原子組成は、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて該半導体層を分析することにより、確認することができる。
【0016】
半導体層は、2から3 nmの膜厚を有することが好ましい。前記範囲の膜厚を有するナノシート膜の形態である半導体層を有する本態様の半導体光電極は、高い光エネルギー変換効率を発揮することができる。
【0017】
本態様の半導体光電極において、半導体層の膜厚は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて該半導体層を観察することにより、確認することができる。
【0018】
本態様の半導体光電極において、保護膜は、Ti酸化物及びAl酸化物からなる群より選択される1種以上の金属酸化物からなる。保護膜は、Ti酸化物又はAl酸化物のいずれかからなることが好ましく、TiO2又はAl2O3のいずれかからなることがより好ましい。本発明者らは、前記で説明した特徴を有する半導体層の上面に、前記で説明した特徴を有する保護膜を配置した本態様の半導体光電極を光電気化学セルに適用すると、耐久処理後であっても一定の光電気化学特性を示すことを見出した。それ故、半導体層の上面に保護膜を有する本態様の半導体光電極は、高い安定性を発揮することができる。
【0019】
本態様の半導体光電極において、保護膜の金属酸化物の原子組成は、例えば、XPSを用いて該半導体層を分析することにより、確認することができる。
【0020】
本態様の半導体光電極において、保護膜は、2から5 nmの範囲の膜厚を有する。本発明者らは、前記範囲の膜厚を有する保護膜を有する本態様の半導体光電極を光電気化学セルに適用すると、初期だけでなく耐久処理後であっても高い光電流密度を示すことを見出した。保護膜の膜厚が前記上限値を超える場合、半導体層における半導体光触媒のキャリアの移動が抑制される可能性がある。また、保護膜の膜厚が前記下限値未満の場合、半導体層の劣化が促進されて安定性が低下する可能性がある。それ故、半導体層の上面に前記範囲の膜厚を有する保護膜を有する本態様の半導体光電極は、高い光エネルギー変換効率及び高い安定性のいずれも発揮することができる。
【0021】
本態様の半導体光電極において、保護膜の膜厚は、例えば、TEMを用いて該保護膜を観察することにより、確認することができる。
【0022】
特に好ましくは、本態様の半導体光電極は、半導体層が、2から3 nmの膜厚を有し、且つ保護膜が、TiO2又はAl2O3からなる。前記特徴を有することにより、本態様の半導体光電極は、高い光エネルギー変換効率及び高い安定性のいずれも発揮することができる。
【0023】
本態様の半導体光電極において、光エネルギー変換効率及び安定性は、例えば、以下の手順で評価することができる。本態様の半導体光電極を、ITO電極を表面に成膜したガラス基板の最表面に作製する。このガラス基板を作用極に、Pt電極を対極に有する光電気化学セルを作製する。このセルに、所定の定電圧(例えば、1.2 V(RHE))を印加し、印加開始から所定の時間(例えば、2時間)耐久処理する。初期の光電流密度及び耐久処理後の光電流密度を測定する。初期の光電流密度に対する耐久処理後の光電流密度の百分率を、特性維持率(%)として算出する。初期の光電流密度は、本態様の半導体光電極の光エネルギー変換効率を表す。また、特性維持率は、本態様の半導体光電極の安定性を表す。
【0024】
本態様の半導体光電極は、例えば、MoS2からなる可視光応答性の半導体からなる半導体層を得る、半導体層作製工程、半導体層作製工程で得られた半導体層の上面に、Ti酸化物及びAl酸化物からなる群より選択される1種以上の金属酸化物からなる保護膜を形成する、保護膜形成工程、を含む方法により、製造することができる。
【0025】
本態様の半導体光電極の製造方法において、半導体層作製工程は、例えば、MoS2層状化合物からナノシート形態のMoS2層を剥離すること、又は化学気相成長法(CVD)等の手段により基板の上面にMoS2層を堆積させること等により、実施することができる。ナノシート形態のMoS2層の剥離は、例えば、以下の手順で実施することができる。MoS2層状化合物を負極に配置し、電気化学的にカチオン材料を層間にインターカレーションする。膨張したMoS2層を超音波処理によりナノシート状に剥離したMoS2からなる半導体光触媒材料を得る。
【0026】
本態様の半導体光電極の製造方法において、保護膜形成工程は、例えば、原子層堆積(ALD)成膜法、浸漬成膜法、ディップコート法、スピンコート法、スパッタ法、CVD又はPVD等を用いて、半導体層作製工程で得られた半導体層の上面に、Ti酸化物及びAl酸化物からなる群より選択される1種以上の金属酸化物からなる保護膜を形成することにより、実施することができる。
【0027】
以上のように、本態様の半導体光電極は、高い光エネルギー変換効率及び高い安定性のいずれも発揮することができる。それ故、本態様の半導体光電極を、光触媒反応装置及び光センサー等に適用することにより、光エネルギー変換効率及び安定性を両立する装置等を提供することができる。
【実施例0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
<I:半導体光電極の作製>
[I-1:半導体光触媒材料の作製]
MoS2層状化合物を負極に配置し、電気化学的にカチオン材料を層間にインターカレーションした。膨張したMoS2層を超音波処理によりナノシート状に剥離したMoS2からなる半導体光触媒材料(以下、「MoS2ナノシート」とも記載する)を得た。得られたMoS2ナノシートを、ITO電極を表面に成膜したガラス基板の最表面に成膜して、約2から3 nmの膜厚を有するMoS2ナノシート膜を表面に有する光電気化学特性評価用のガラス基板を得た。
【0030】
[I-2:劣化抑制用保護膜の作製]
I-1で作製した基板のMoS2ナノシート膜の表面に、原子層堆積(ALD)成膜法を用いて、Ti酸化物(TiO2)又はAl酸化物(Al2O3)を成膜した。ALD成膜法において、成膜原料としては、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(TDMA Ti)及びトリメチルアルミニウム(TMA)を用い、酸化剤としては、水(H2O)を用いた。
【0031】
また、I-1で作製した別の基板のMoS2ナノシート膜の表面に、浸漬成膜法を用いて、TiO2(Ti0.87O2)ナノシートを成膜した。
【0032】
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察及びX線光電子分光法(XPS)による分析により、前記手順で作製した基板の表面の保護膜の膜厚を測定した。TiO
2(Ti
0.87O
2)ナノシート膜を成膜した半導体(MoS
2)光電極を有するガラス基板のTEM画像を
図1に示す。
図1に示すように、この半導体(MoS
2)光電極は、MoS
2ナノシート膜の表面にTiO
2(Ti
0.87O
2)ナノシート膜を有する。
【0033】
<II:半導体光電極の光電気化学特性の評価>
Iで作製した半導体光電極を有するガラス基板を作用極(アノード)に、Pt電極を対極(カソード)に有する光電気化学セルを作製した。このセルに、1.2 V(RHE)の定電圧を印加し、印加開始から2時間耐久処理した。初期の光電流密度及び2時間耐久処理後の光電流密度を測定した。初期の光電流密度に対する2時間耐久処理後の光電流密度の百分率を、特性維持率(%)として算出した。種々の膜厚の保護膜を有する半導体光電極において、保護膜の膜厚と、該半導体光電極を作用極(アノード)に有する光電気化学セルの初期の光電流密度及び特性維持率との関係を示すグラフを
図2に示す。図中、横軸は、半導体光電極の保護膜の膜厚(nm)であり、左縦軸及び黒塗り四角のプロットは、初期の光電流密度(μA/cm
2)であり、右縦軸及び黒塗り丸のプロットは、特性維持率(%)である。(a)は、Al
2O
3ナノシート膜を成膜した半導体光電極を有するガラス基板を作用極(アノード)に有する光電気化学セルを用いて測定した、黒塗り四角及び黒塗り丸のプロットの組み合わせを表す。(b)は、TiO
2ナノシート膜を成膜した半導体光電極を有するガラス基板を作用極(アノード)に有する光電気化学セルを用いて測定した、黒塗り四角及び黒塗り丸のプロットの組み合わせを示す。
【0034】
図2に示すように、半導体光電極の保護膜の膜厚が薄くなると、初期の光電流密度は高くなるものの、特性維持率は低くなった。他方、半導体光電極の保護膜の膜厚が厚くなると、特性維持率は高くなるものの、初期の光電流密度は低くなった。半導体光電極の保護膜の膜厚が2から5 nmの範囲の場合、初期の光電流密度及び特性維持率のいずれも良好な値を示した。
【0035】
以上の結果より、半導体光電極の保護膜の膜厚が2から5 nmの範囲の場合、高い光エネルギー変換効率及び安定性を兼ね備えることができることが明らかとなった。
【0036】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。