(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133793
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】O結合型糖タンパク質及び/または糖ペプチドからO結合型糖鎖を効率よく切断し、ピラゾロン標識化する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240926BHJP
G01N 27/62 20210101ALN20240926BHJP
C07D 231/22 20060101ALN20240926BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V
C07D231/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043758
(22)【出願日】2023-03-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年10月1日に第41回日本糖質学会年会のポスターにて発表 〔刊行物等〕 令和4年11月11日に第95回日本生化学会大会のポスターにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000173924
【氏名又は名称】公益財団法人野口研究所
(72)【発明者】
【氏名】黒河内 政樹
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041JA02
2G041JA04
2G045BB01
2G045DA44
2G045FB06
2G045FB07
(57)【要約】
【課題】O結合型糖鎖が修飾された糖タンパク質及び/または糖ペプチドから効率よくO結合型糖鎖を切断し、解析することである。
【解決手段】本発明者は、糖鎖のβ脱離とピラゾロン標識を同時に行う手法を検討した結果、塩基試薬を塩基強度が弱い水酸化リチウムを用いて、反応を開放系にして加熱する事により、溶媒の蒸発が起こる事によって、反応が劇的に進行し、糖鎖誘導体の回収量が向上した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
O結合型糖鎖で修飾された糖タンパク質及び/または糖ペプチドを、ピラゾロン誘導体と水酸化リチウムを含む反応溶液中、開放系で加熱する事により、O結合型糖鎖を糖タンパク質及び糖ペプチドから切断し、標識するための方法。
【請求項2】
反応溶媒が10~50v/v%の有機溶媒を含む水との混合溶媒、反応温度が90~120℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機溶媒がメタノールまたはピリジンであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O結合型糖タンパク質及び/または糖ペプチドからO結合型糖鎖の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体分子として、糖鎖が注目されている。生体内で、糖鎖は複合糖質として糖タンパク質、糖脂質、遊離糖鎖等で存在しており、細胞間や生体分子の認識、シグナル伝達において非常に重要な役割を果たしている。糖タンパク質の糖鎖は大きくN結合型糖鎖とO結合型糖鎖に分類される。糖タンパク質からの糖鎖切断手法については、一般的手法としてN結合型糖鎖を網羅的に切断できるエンドグリコシダーゼ(PNGaseFやグリコペプチダーゼA)が用いられている。一方、O結合型糖鎖は、タンパク質のセリン、スレオニンの側鎖に結合しており、その糖鎖構造はムチン型のコア1型、コア2型、コア3型、コア4型等の様々な種類が存在しており、O結合型糖鎖を網羅的に切断できる酵素が存在しないことから、一般的には化学反応による糖鎖切断手法が利用されている。
【0003】
この化学反応は、アルカリ溶液を利用したβ脱離反応が用いられているが、糖鎖の切断効率が低い問題と遊離した糖鎖の分解(ピーリング反応)が起きてしまう問題がある。この問題を解決する手段として、遊離した糖を直ちに還元してアルジトールに変換する事でピーリング反応を防ぐ手段がある。こちらは、糖の還元末端側に標識試薬を導入する事が出来ないので、アルジトールの全てのヒドロキシ基をメチル化(完全メチル化)することによって、イオン化能を向上させ、質量分析計で分析する事が一般的であるが、この完全メチル化する条件が非水系である為、特殊な反応装置が必要になり、作業工程に手間がかかるという問題点がある。
【0004】
上記と同様にピーリング反応が起きる前に糖の還元末端側を保護する戦略からアルカリ条件下で還元末端のアルデヒド基を3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロン(PMP)で保護するという手法が報告された(非特許文献1)。そして、アミン化合物とピロゾロン誘導体を混合させた状態で反応させる事により糖タンパク質からのO結合型糖鎖の切断と遊離した糖鎖の還元末端アルデヒド基へのピラゾロン誘導体の標識化反応を同時に行った手法が報告された(特許文献1)。その後、糖鎖の標識と同時に糖鎖が結合していたアミノ酸部位にピラゾロン誘導体を標識する手法の開発が行われ(特許文献2)、その糖鎖切断の効率を上げたマイクロ波照射装置を用いた手法が報告されている(特許文献3)。そして、またヒドロキシルアミン存在下で塩基性触媒を用いて37~50℃、短時間反応する事によって、糖鎖の切断と同時にヒドロキシルアミンを糖の還元末端に導入してピーリング反応を抑制する手法が開発された(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2011-038874
【特許文献2】特許第6013197号
【特許文献3】特許第6499580号
【特許文献4】特開2020-73670
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Honda S, Suzuki S,Taga A. J. Pharm. Biomed. Anal, 30, 1689-1714, 2003
【非特許文献2】Furukawa J-i, Piao J,Yoshida Y, et al. Anal. Chem., 87, 7524-7528, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、O結合型糖鎖が修飾された糖タンパク質及び/または糖ペプチドから効率よくO結合型糖鎖を切断し、標識することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
糖鎖のβ脱離とピラゾロン標識を効率よく行う手法は、通常、長い反応時間(10~24時間)か、特殊なマイクロ波照射装置が必要とされており、汎用装置を用いて短時間で効率よくO結合型糖鎖を切断と修飾が可能な手法の報告はされていない。本発明者は、汎用装置を用いて短時間で効率よくO結合型糖鎖を切断と修飾が可能な手法について種々検討した結果、塩基試薬を水酸化リチウムにして、反応系を開放系にして加熱する事により、溶媒の蒸発が起こる事によって、O結合型糖鎖の切断と修飾の反応が収率良く進行し、かつピーリング反応を抑制することにより、PMP標識化糖鎖誘導体の回収量が従来法よりも向上する事を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]O結合型糖鎖が修飾された糖タンパク質及び/または糖ペプチドをピラゾロン誘導体と水酸化リチウムを含む有機溶媒の混合溶液を加えて、110℃で2時間、開放系で加熱する事により、O結合型糖鎖を切断し、標識するための方法。
[2]前記の溶液を100~300 mM水酸化リチウム、200~700 mMピラゾロン誘導体の10~50%メタノール水溶液とすることを特徴とする[1]に記載の方法。
[3]前記の溶液を100~300 mM水酸化リチウム、200~700 mMピラゾロン誘導体の10~50%ピリジン水溶液とすることを特徴とする[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、安全かつ安価な試薬と汎用装置の使用によって、ピーリング反応を抑制しつつ、短時間の処理時間で糖タンパク質及び/または糖ペプチドから糖鎖を切断させ、標識化された糖鎖誘導体を回収することが可能である。
【0011】
これによって、バイオ医薬品や細胞等のO結合型糖鎖の定量解析が可能となり、バイオ医薬品や細胞のO結合型糖鎖の品質管理も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを塩基試薬として用いた場合のブタ胃ムチン(PSM)のO結合型糖鎖のプロファイル(a)単位タンパク質当たりの各種糖鎖の回収量(pmol/μg)(b)それぞれの糖鎖割合(%)
【
図2】MeOH、DMA、DMSO、ピリジンをPMP試薬の調製溶媒として用いた場合のブタ胃ムチン(PSM)のO結合型糖鎖の単位タンパク質当たりの各種糖鎖の回収量(pmol/μg)
【
図3】MeOHをPMP試薬の調製溶媒として用いた場合の各種反応温度(100℃、105℃、110℃、115℃、120℃)と反応時間(0.5,1,2,3,5時間)のブタ胃ムチン(PSM)のO結合型糖鎖の18種類の糖鎖回収量の合計値(pmol/μg)
【
図4】ピリジンをPMP試薬の調製溶媒として用いた場合の各種反応温度(100℃、105℃、110℃、115℃、120℃)と反応時間(0.5,1,2,3,5時間)のブタ胃ムチン(PSM)のO結合型糖鎖の18種類の糖鎖回収量の合計値(pmol/μg)
【
図5】水酸化ナトリウムを用いた75℃、16時間の密閉系の反応条件と、水酸化ナトリウムを用いたマイクロ波照射装置で120℃、2時間の密閉系の反応条件、及び水酸化リチウムを用いた110℃、2時間の開放系の反応条件におけるブタ胃ムチン(PSM)のO結合型糖鎖のプロファイル(a)単位タンパク質当たりの各種糖鎖の回収量(pmol/μg)(b)それぞれの糖鎖割合(%)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施する為の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施する事ができる。
本発明のO結合型糖タンパク質及び/または糖ペプチドからO結合型糖鎖を効率よく切断し、ピラゾロン標識化する方法は、O結合型糖鎖が修飾された糖タンパク質及び/または糖ペプチドをピラゾロン誘導体と水酸化リチウムを含む溶液を加えて、100~120℃で1~3時間、開放系で加熱する事により、O結合型糖鎖を切断し、標識するための方法である。
【0014】
以下に、O結合型糖鎖がタンパク質から切断され、ピラゾロン誘導体(PMP)によって、標識される反応の例を示す。
【化1】
【0015】
本明細書において、「糖タンパク質及び/または糖ペプチド」とは、タンパク質・ペプチドのアミノ酸中にO結合型糖鎖が少なくとも1つ以上結合しているタンパク質・ペプチドをいう。本発明に適用可能な糖タンパク質及び/または糖ペプチドは、天然由来であっても、合成したものでも良く、複数の分子の混合物でも良い。
【0016】
本発明においてO結合型糖鎖とは、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)残基の側鎖ヒドロキシ基に結合している糖鎖である。
【0017】
本発明では、セリン、スレオニンの側鎖に結合したO結合型糖鎖をβ脱離反応をさせる際に、アルカリ金属の水酸化物の中で塩基強度が低い水酸化リチウムを100~300mMの濃度と、水酸化リチウムよりも濃度が高いピラゾロン誘導体を混合させ、高温条件下(100~120℃)、短時間(0.5~3時間)、開放系で行う事により、標識化された糖鎖誘導体の回収量を劇的に向上させる事ができる。
【0018】
本発明の方法では、従来のβ脱離反応に使用する塩基強度の高い水酸化ナトリウムを使用するのではなく、塩基強度の低い水酸化リチウムを用いる事で塩基性条件によるピーリング反応を低減させ、糖鎖誘導体の回収量を向上させている。また、反応を開放系にする事で溶媒が蒸発し、反応系内の塩基濃度、ピラゾロン誘導体の試薬濃度が向上する事によって、反応が加速され、糖鎖誘導体の回収量を向上させていると考える。
【0019】
本発明による糖鎖誘導体の解析手法は、高速液体クロマトグラフィーを用いて行う事が出来、質量分析計(MS)や紫外線吸光度系(UV)などの検出器を用いる事ができる。
【0020】
本発明の方法では、汎用装置であるアルミブロック型恒温槽で行える為、同時に多くの試料を短時間に効率よく処理する事が出来る為、迅速かつ多検体を分析する場合に非常に効果を発揮する事ができる。また、本発明の方法では、糖鎖誘導体の回収量を向上させている為、他の手法よりも高感度に糖鎖誘導体の解析を行う事ができ、糖鎖の構造解析や定量分析をより向上させることができる。
【実施例0021】
以下に本発明の実施例を挙けるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1> O結合型糖鎖誘導体の回収量に塩基強度が低い水酸化リチウムが与える影響について検討した。
【0022】
ブタ胃ムチン(PSM,Sigma-Aldrich, T1778,20mg/mL,25μL)に0.6M 水酸化リチウム(50μL)と500mM 3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロン(PMP)のメタノール溶液(75μL)を加え、アルミブロック型恒温槽を用いて120℃、開放系で2時間反応させた。その後、内部標準として1.25μMGN4-PMP2誘導体(500μL)を加え、4Mの酢酸水溶液(7.5μL)を加えて、水-クロロホルムの分液操作を行い、水相をクロロホルム(500μL)で3回洗浄した。その溶液(PSM4μg相当分)をLC-ESI MSに導入して、解析した。LC-ESI MSの測定条件は、Zorbax Extend−C18 1.0×150mm カラム(Agilent社製)を繋げたThermoScientific製LC−ESI MS装置(Ultimate3000+VelosPro)を用いてnegativeモードでMS測定、MS/MS測定を行い、O結合型糖鎖の誘導体を観測した。LCの溶出条件は流速:50μl/minで、A液:20mM ギ酸アンモニウム、B液:0.1%ギ酸水溶液、C液:アセトニトリルの3液を使用した系で、0-1min:A100%,1-3min:C15%,B85%,3-18min:C15-30%,B85-70%,18-20min:C30-80%,B70-20%,20-25min:A100%を1測定のメソッドとした。その結果、PSM由来のO結合型糖鎖が、Hex1の構成糖である糖鎖誘導体として、m/z:509、HexNAc1の構成糖である糖鎖誘導体として、m/z:550、Hex1HexNAc1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:712、Hex1HexNAc1dHex1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:858、Hex1HexNAc2の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:915、Hex1HexNAc1NeuAc1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1003.4、Hex1HexNAc2dHex1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1061、Hex2HexNAc2の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1077、Hex1HexNAc3の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1118、Hex1HexNAc2dHex1+SO3の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1141、Hex1HexNAc2NeuAc1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1206、Hex2HexNAc2dHex1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1223、Hex1HexNAc3dHex1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1264、Hex2HexNAc3の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1280、Hex1HexNAc4の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1321、Hex2HexNAc2dHex2の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1369、Hex2HexNAc3dHex1の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1426、Hex2HexNAc4の構成糖である糖鎖誘導体としてm/z:1483の18種類の糖鎖誘導体が検出され、また内部標準として加えたGN4-PMP2誘導体がm/z:11159に検出された。このように、得られた糖鎖誘導体のイオン量をモル量に変換して、内部標準で補正する事によって、回収された糖鎖誘導体の量をタンパク質当たりに換算して算出した。それぞれの試料はn=3で行った。また、18種類の糖鎖を100%として、それぞれの糖鎖割合を算出した。
【0023】
<比較例1> 塩基試薬として塩基強度が高い水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムを用いた場合の検討を行った。
ブタ胃ムチン(PSM,20mg/mL,25μL)に0.6M 水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム(50μL)と500mM PMPのメタノール溶液(75μL)を加え、アルミブロック型恒温槽を用いて120℃、開放系で2時間反応させた。反応後の処理と解析は、上記の手法と同様である。
【0024】
塩基試薬として水酸化リチウム、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを用いた反応系を比較した結果、水酸化リチウムで反応を行った系が一番糖鎖誘導体の回収量が多い事が分かり、塩基強度が高くなるにつれて回収量が悪くなっていた。また、糖鎖割合を比較するとピーリング反応による糖鎖分解物であるm/z:550,712であらわされる糖鎖が塩基強度の強い水酸化ナトリウムと水酸化カリウムで増えている事が分かった。
【0025】
これにより、水酸化リチウムが糖鎖回収量の向上に適した塩基試薬であると分かった((
図1参照)。
【0026】
<実施例2> O結合型糖鎖誘導体の回収量に有機溶媒の与える影響について検討した。
ブタ胃ムチン(PSM,20mg/mL,25μL)に0.6M 水酸化リチウム(50μL)と500mM PMPのメタノール(MeOH)溶液(75μL)もしくは750mM PMPのN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)溶液(50μL)もしくは750mM PMPのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(50μL)もしくは750mM PMPのピリジン溶液(50μL)を加え、アルミブロック型恒温槽を用いて120℃、開放系で2時間反応させた。反応後の処理と解析は、上記の手法と同様である。メタノール溶液だけは、PMPの溶解が500mMまでなので、モル当量を合わせる為に液量を75μLにしている。
【0027】
PMP試薬を調製する有機溶媒としてMeOH,DMA,DMSO,ピリジンを用いた反応系を比較した結果、MeOHとピリジンで反応を行った系が糖鎖誘導体の回収量が多い事が分かり、高沸点の有機溶媒であるDMAとDMSOが反応に向いていないことが分かった。これによって、開放系で素早く溶媒が蒸発するMeOHとピリジンが糖鎖回収量を向上させるのに適している事が分かった(
図2参照)。
【0028】
<実施例3> 混合溶液の有機溶媒にMeOHを用いた場合のO結合型糖鎖誘導体の回収量に反応温度と反応時間の与える影響について検討した。
【0029】
ブタ胃ムチン(PSM,20mg/mL,25μL)に0.6M 水酸化リチウム(50μL)と500mM PMPのMeOH溶液(75μL)を加え、アルミブロック型恒温槽を用いて100℃、105℃、110℃、115℃、120℃のそれぞれを開放系で0.5,1,2,3,5時間反応させた。反応後の処理と解析は、上記の手法と同様である。そして、18種類の糖鎖の回収量を算出し、反応時間と反応温度で折れ線グラフを作成した。
【0030】
18種類の糖鎖回収量に着目した結果、110℃2時間反応した試料の糖鎖回収量が一番多かった。これによって、糖鎖切断と糖鎖標識を同時に行うMeOH溶媒を用いた反応条件では、110℃2時間が適している事が分かった(
図3参照)。
【0031】
<実施例4> 混合溶液の有機溶媒にピリジンを用いた場合のO結合型糖鎖誘導体の回収量に反応温度と反応時間の与える影響について検討した。
【0032】
ブタ胃ムチン(PSM,20mg/mL,25μL)に0.6M 水酸化リチウム(50μL)と750mM PMPのピリジン溶液(50μL)を加え、アルミブロック型恒温槽を用いて100℃、105℃、110℃、115℃、120℃のそれぞれを開放系で0.5,1,2,3,5時間反応させた。反応後の処理と解析は、上記の手法と同様である。そして、18種類の糖鎖の回収量を算出し、反応時間と反応温度で折れ線グラフを作成した。
【0033】
18種類の糖鎖回収量に着目した結果、110℃2時間反応した試料の糖鎖回収量が一番多かった。これによって、糖鎖切断と糖鎖標識を同時に行うピリジン溶媒を用いた反応条件では、110℃2時間が適している事が分かった(
図4参照)。
【0034】
<実施例5> 他の反応条件と開放系110℃2時間の反応条件の糖鎖回収量の比較を行う。
【0035】
ブタ胃ムチン(PSM,20mg/mL,75μL)に0.6M 水酸化リチウム(150μL)と500mM PMPのメタノールピリジン溶液(225μL)を加え、アルミブロック型恒温槽を用いて120℃、開放系で2時間反応させた。その後、内部標準として3.75μMGN4-PMP2誘導体(500μL)を加え、4Mの酢酸水溶液(20μL)を加えて、水-クロロホルムの分液操作を行い、水相をクロロホルム(500μL)で3回洗浄した。反応後の解析は、上記の手法と同様である。
【0036】
<比較例2> 非特許文献2で行われている反応条件で糖鎖回収量を算出した。
【0037】
ブタ胃ムチン(PSM,20mg/mL,100μL)に0.4M 水酸化ナトリウム(200μL)と500mM PMPのメタノール溶液(200μL)を加え、アルミブロック型恒温槽を用いて75℃、密閉系で16時間反応させた。その後、内部標準として5μMGN4-PMP2誘導体(500μL)を加え、4Mの酢酸水溶液(20μL)を加えて、水-クロロホルムの分液操作を行い、水相をクロロホルム(500μL)で3回洗浄した。反応後の解析は、上記の手法と同様である。
【0038】
<比較例3> 非特許文献3で行われている反応条件で糖鎖回収量を算出した。
【0039】
ブタ胃ムチン(PSM,20mg/mL,100μL)に0.4M 水酸化ナトリウム(200μL)と500mM PMPのメタノール溶液(200μL)を加え、マイクロ波(MW)照射反応装置(アントンパール社製Monowave400)を用いて120℃、密閉系で2時間反応させた。その後、内部標準として5μMGN4-PMP2誘導体(500μL)を加え、4Mの酢酸水溶液(20μL)を加えて、水-クロロホルムの分液操作を行い、水相をクロロホルム(500μL)で3回洗浄した。反応後の解析は、上記の手法と同様である。
【0040】
水酸化ナトリウムを用いた75℃16時間の密閉系の反応条件と水酸化ナトリウムを用いたMW装置120℃2時間の密閉系の反応条件と本発明の水酸化リチウムを用いた110℃2時間の開放系の反応条件の糖鎖回収量を比較した結果、18種類の糖鎖の回収量の合計は、水酸化ナトリウムを用いた75℃16時間の密閉系で約14.2pmol/μg、水酸化ナトリウムを用いたMW装置120℃2時間の密閉系で約34.7pmol/μg、本発明の水酸化リチウムを用いた110℃2時間の開放系で約131.5pmol/μgであるので、本発明の手法の反応条件が一番糖鎖誘導体の回収量が多い事が分かった。
【0041】
非特許文献2によるとMW装置のMW照射の効果よりも温度上昇の効果が高いという事なので、
図1によるNaOHの塩基試薬の120℃2時間の開放系の糖鎖回収量と
図5のMW装置120℃2時間の密閉系の糖鎖回収量を比較すると、密閉系と開放系の比較になる。
図1によるNaOHの塩基試薬の120℃2時間の開放系の18種類の糖鎖の回収量の合計は、約68.3pmol/μgという事なので、密閉系より開放系で溶媒が蒸発する事による試薬濃度の上昇の影響によって、糖鎖回収量が増えている事が推察される。また、糖鎖割合を比較すると75℃16時間の密閉系の反応とMW装置120℃2時間の密閉系の反応と110℃2時間の開放系の反応によるピーリング反応の糖鎖分解物であるm/z:550,712であらわされる糖鎖の割合はほとんど変わらなかった(
図5参照)。
【0042】
これにより、110℃2時間の開放系の反応によって、糖鎖回収量が向上していると分かった。
本発明は、O結合型糖タンパク質及び/または糖ペプチドからO結合型糖鎖の解析方法に関する。これは、O結合型糖鎖が結合している糖タンパク質の品質評価やO結合型糖鎖が絡むタンパク質の解析などに適用でき、医薬品業界等においても利用可能である。