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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133803
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】基礎杭撤去方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/00 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
E02D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043771
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596164652
【氏名又は名称】太洋基礎工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
(72)【発明者】
【氏名】鹿又 善憲
(72)【発明者】
【氏名】土屋 敦雄
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050DA03
2D050DB08
(57)【要約】
【課題】騒音・振動等の周辺環境への影響を抑えつつ、杭の切断効率を高め、杭撤去後の孔壁の安定化を図るとともに、埋戻し時の充填不足や固化不良等の不具合を解消する。
【解決手段】基礎杭1を囲むように外函させた状態でケーシング2を地中に貫入させる第1ステップと、ケーシング2を所定の深さ位置で停止した状態とし、噴射ノズル4からポリマー水溶液を噴射しながらケーシング2を回転させることにより基礎杭1を水平方向に切断する第2ステップと、切断した基礎杭1の上部側をハンマーグラブ14で掴み、上方に引き上げて撤去する第3ステップとを繰り返すことにより基礎杭1を全長に亘って撤去する。ケーシング2を地上に引き上げて回収したならば、基礎杭1の切断に使用したポリマー水溶液によって孔壁保護を図る。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された既存の基礎杭を撤去するための基礎杭撤去方法であって、
先端に地盤掘削用の切削ビットを備えるとともに、先端部分に内方側に向けてウォータージェットを高圧で噴射するための噴射ノズルを備えたケーシングを持ち込むとともに、ウォータージェットのための高圧ポンプ設備を設置する準備工程と、
基礎杭を囲むように外嵌させた状態で前記ケーシングを地中に貫入させる第1ステップと、
前記ケーシングを所定の深さ位置で停止した状態とし、前記噴射ノズルから高吸水性ポリマーを含むポリマー水溶液を噴射しながら前記ケーシングを回転させることにより前記基礎杭を水平方向に切断する第2ステップと、
前記切断した基礎杭の上部側をハンマーグラブで掴み、上方に引き上げて撤去する第3ステップと、
前記第1ステップから第3ステップを繰り返すことにより基礎杭を全長に亘って撤去する基礎杭の撤去工程と、
前記ケーシングを地上に引き上げて回収したならば、基礎杭の切断に使用した前記ポリマー水溶液によって孔壁保護を図るケーシングの回収工程と、
前記ポリマー水溶液に分離剤を添加することにより水と泥土に分離するとともに、必要に応じて埋戻し土を投入して埋戻しを図る埋戻し工程とからなることを特徴とする基礎杭撤去方法。
【請求項2】
少なくとも前記基礎杭に埋設された鉄筋を切断する際は、前記噴射ノズルから前記ポリマー水溶液とともに鉱物系の研磨剤を噴射する請求項1記載の基礎杭撤去方法。
【請求項3】
前記ケーシングの先端に、地盤切削のために下方向に向けてウォータージェットを噴射するための噴射ノズルを備える請求項1記載の基礎杭撤去方法。
【請求項4】
前記ケーシングとして、一重ケーシング又は二重ケーシングを用いている請求項1記載の基礎杭撤去方法。
【請求項5】
前記ケーシングの先端部分に内方側に向けて開口するコ字状部を形成し、このコ字状部内に前記噴射ノズルを収容するようにしてある請求項1記載の基礎杭撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された既存の基礎杭を所定の長さに切断して順次撤去する基礎杭撤去方法に関し、詳しくは吸水して膨潤した高吸水性ポリマーを含むポリマー水溶液を高圧で噴射して基礎杭を切断した後、撤去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、市街地における再開発工事などでは、既存建造物の解体後、地中に埋設されている基礎杭の撤去を伴う工事が多くなっている。既存の基礎杭撤去では建造物の大型化・高層化に伴い大径杭、長尺杭の撤去が増加している。そのような大径杭、長尺杭の撤去は引抜きが難しく、地盤との縁切り後引き抜く工法や機械により破砕・粉砕する撤去工法が一般的であるが、騒音・振動等の周辺環境への影響や埋戻し時の不具合等、施工法に課題がある。
【0003】
代表的な既存の基礎杭の撤去工法は、直接・引抜き工法、縁切り・引抜き工法、破砕・撤去工法に大別できる。このうち直接・引抜き工法は、木杭や比較的細径のPC杭などを対象としており、大径杭、長尺杭には一般に、縁切り・引抜き工法や破砕・撤去工法が用いられる。
【0004】
前記縁切り・引抜き工法は、ケーシング回転掘削機等を用いて回転するケーシングチューブの先端から下方向に向けて水を噴射させながら杭周地盤を削孔し、地盤と既存杭とを縁切りした後、杭を引き抜く工法である。この工法を利用した技術としては、例えば下記特許文献1に開示されたものなどを挙げることができる。
【0005】
また、前記破砕・撤去工法は、全周回転式掘削機等を用いて先端に切削ビット等を有するケーシングを杭周地盤に回転挿入し、ロッドの先端に取り付けられたカッタービットを基礎杭の外周面に当接させた状態でケーシングを回転することで基礎杭を所定長さに切断し、クローラークレーンなどを用いてハンマグラブをケーシングチューブ内に吊り下ろして、切断した部分を掴んで引き上げる工法である。この工法を利用した技術としては、例えば下記特許文献2に開示されたものなどを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-81066号公報
【特許文献2】特開2019-11551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記縁切り・引抜き工法には、次の課題がある。
(1)杭を引き上げる際、坑内の水位と地下水位のバランスが崩れ、原地盤の緩みや孔壁の崩壊が生じる。
(2)大径・長尺杭の場合、クレーン等で直接引き抜くことができず、地上での破砕・切断作業が必要となるため、騒音・振動・粉塵等の発生により周辺環境への影響が大きくなる。
(3)孔壁の崩壊により杭先端まで流動化処理土等の埋戻し材が十分に充填されず、固化不良等の不具合が生じる。
【0008】
また、前記破砕・撤去工法には、次の課題がある。
(1)地中ケーシング内での破砕・切断であるが、直接杭を機械破砕・切断するため、騒音・振動が地盤を介して伝播し、周辺環境に影響を与える。
(2)切削時の回転反力不足により切削に時間を要する。またカッタービットが杭体に食い込み、杭曲がりや回転反力によりケーシングが損傷する。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、騒音・振動等の周辺環境への影響を抑えつつ、杭の切断効率を高め、杭撤去後の孔壁の安定化を図るとともに、埋戻し時の充填不足や固化不良等の不具合を解消した基礎杭撤去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地中に埋設された既存の基礎杭を撤去するための基礎杭撤去方法であって、
先端に地盤掘削用の切削ビットを備えるとともに、先端部分に内方側に向けてウォータージェットを高圧で噴射するための噴射ノズルを備えたケーシングを持ち込むとともに、ウォータージェットのための高圧ポンプ設備を設置する準備工程と、
基礎杭を囲むように外嵌させた状態で前記ケーシングを地中に貫入させる第1ステップと、
前記ケーシングを所定の深さ位置で停止した状態とし、前記噴射ノズルから高吸水性ポリマーを含むポリマー水溶液を噴射しながら前記ケーシングを回転させることにより前記基礎杭を水平方向に切断する第2ステップと、
前記切断した基礎杭の上部側をハンマーグラブで掴み、上方に引き上げて撤去する第3ステップと、
前記第1ステップから第3ステップを繰り返すことにより基礎杭を全長に亘って撤去する基礎杭の撤去工程と、
前記ケーシングを地上に引き上げて回収したならば、基礎杭の切断に使用した前記ポリマー水溶液によって孔壁保護を図るケーシングの回収工程と、
前記ポリマー水溶液に分離剤を添加することにより水と泥土に分離するとともに、必要に応じて埋戻し土を投入して埋戻しを図る埋戻し工程とからなることを特徴とする基礎杭撤去方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、噴射ノズルからポリマー水溶液を噴射しながらケーシングを回転させることにより基礎杭を水平方向に切断しているため、非接触で基礎杭が切断でき、カッタービットを押し付けて機械切削する場合と比較して騒音・振動等の周辺環境への影響が極めて小さく抑えられる。
【0012】
また、切断用の噴射物として粘性を有するポリマー水溶液を噴射しているため、水を噴射した場合と比較して空気抵抗による拡散が少なく、高い切削能力が得られる。このため、基礎杭の切断効率が高くなる。
【0013】
また、掘削安定液としても知られるポリマー水溶液を基礎杭の切断に使用しているため、このポリマー水溶液によってケーシング回収後における孔壁保護が図られ、ケーシング回収後の孔壁が崩壊しにくく安定化する。
【0014】
ケーシングの回収後、ポリマー水溶液に分離材を添加することにより水と泥土に分離しているため、膨潤ゲルが小さくなるとともに、粘度が低下し、付着土粒子とともに沈降するため、埋戻し土との置換性に優れ、埋戻し時の充填不足や固化不良等の不具合が解消できる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、少なくとも前記基礎杭に埋設された鉄筋を切断する際は、前記噴射ノズルから前記ポリマー水溶液とともに鉱物系の研磨剤を噴射する請求項1記載の基礎杭撤去方法が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、基礎杭に埋設された鉄筋部分を切断する際、硬くて耐久性の高い例えばガーネット等の鉱物系の研磨剤をポリマー水溶液とともに噴射している。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記ケーシングの先端に、地盤切削のために下方向に向けてウォータージェットを噴射するための噴射ノズルを備える請求項1記載の基礎杭撤去方法が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明では、ケーシングの回転による地盤掘削の際、高圧ウォータージェットの併用により、摩擦を低減するとともに地盤を緩めて、掘削効率の向上を図っている。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記ケーシングとして、一重ケーシング又は二重ケーシングを用いている請求項1記載の基礎杭撤去方法が提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明では、一重ケーシングを用いた場合は、シンプルな機構で取り扱いが簡単になり、二重ケーシングを用いた場合は、外側のケーシングを非回転とし、内側のケーシングを回転させて掘進させることにより、地盤との摩擦を軽減した状態で掘削でき、掘削効率が向上できる。
【0021】
請求項5に係る本発明として、前記ケーシングの先端部分に内方側に向けて開口するコ字状部を形成し、このコ字状部内に前記噴射ノズルを収容するようにしてある請求項1記載の基礎杭撤去方法が提供される。
【0022】
上記請求項5記載の発明では、前記ケーシングの先端部分に内方側に向けて開口するコ字状部を形成し、このコ字状部内に噴射ノズルを収容するようにしているため、ケーシングを回転して地盤を掘削する際の噴射ノズルの損傷が防止できる。
【発明の効果】
【0023】
以上詳説のとおり本発明によれば、騒音・振動等の周辺環境への影響を抑えつつ、杭の切削効率を高めることができ、杭撤去後の孔壁の安定化を図ることができるとともに、埋戻し時の充填不足や固化不良等の不具合が解消できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】基礎杭1の頭出しを行った状態を示す断面図である。
図2】準備工程を示す断面図である。
図3】ケーシング2の先端部の縦断面図である。
図4】流速分布概念の説明図である。
図5】基礎杭1の撤去工程を示す断面図である。
図6】ケーシング2の先端部の縦断面図である。
図7】ケーシング2の先端部の縦断面図である。
図8】基礎杭1の撤去工程を示す断面図である。
図9】ケーシング2の回収工程を示す断面図である。
図10】ケーシング2を回収した後の断面図である。
図11】埋戻し土15による埋戻し工程を示す断面図である。
図12】埋戻しが完了した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0026】
本発明に係る基礎杭撤去方法は、地中に埋設された既存の基礎杭1を撤去するための方法である。以下、その工程を順に説明する。
【0027】
〔準備工程〕
基礎杭1を撤去するに当たり、図1に示されるように、バックホー等によって予め地盤表面を掘り下げて既設の基礎杭1の上端を露出した状態にしておく。
【0028】
次いで、図2に示されるように、先端に地盤掘削用の切削ビット3を備えるとともに、図3に示されるように、先端部分に内方側に向けてウォータージェットを高圧で噴射するための噴射ノズル4を備えたケーシング2を持ち込むとともに、ウォータージェットのための高圧ポンプ車12などの高圧ポンプ設備を設置する。
【0029】
前記ケーシング2は、図2に示されるように、クローラークレーンやラフタークレーン等の重機11の先端から懸垂されたリーダーに沿って昇降するオーガーに取り付けられ、前記オーガーによって回転するようになっている。
【0030】
前記ケーシング2の先端(下端)縁部には、周方向に間隔を空けて複数の切削ビット3、3…が設けられており、ケーシング2の回転と同時にオーガーを降下することによって地中に貫入できるようになっている。
【0031】
また、ケーシング2の先端に、地盤切削のために下方向に向けてウォータージェットを噴射する噴射ノズル(図示せず)を備えるようにし、切削ビット3と併用して地盤を掘削するようにしてもよい。この噴射ノズルは、基礎杭1切断用の噴射ノズル4とは別に設けられるものであり、水のみを噴射してもよいし、高吸水性ポリマーを含むポリマー水溶液を噴射してもよい。
【0032】
図3に示されるように、前記ケーシング2の先端部分には、内方側に向けて開口するコ字状部5が形成され、このコ字状部5内に前記噴射ノズル4が収容されている。噴射ノズル4をコ字状部5内に収容することにより、ケーシング2による地盤掘削時における噴射ノズル4の損傷が防止できる。
【0033】
前記噴射ノズル4には、この噴射ノズル4にポリマー水溶液8及び研磨材を供給するための高圧ホース6が接続されるとともに、前記コ字状部5の上部には前記高圧ホース6を挿通するための挿通孔が設けられている。すなわち、地上の高圧ポンプ車12から延びる高圧ホース6は、ケーシング2の外周部を軸方向に沿って延び、コ字状部5上部の前記挿通孔を通って噴射ノズル4に接続している。
【0034】
前記ケーシング2としては、前記噴射ノズル4を備えたケーシング2のみからなる一重ケーシングを用いてもよいし、図3に示されるように、前記噴射ノズル4を備えたケーシング2の外側に外周ケーシング7を同心円状に配置した二重ケーシングを用いてもよい。二重ケーシング方式の場合は、内側ケーシングの先端に切削ビットが装着されるとともに、内側ケーシングの外周面に螺旋状の排土用スクリュが設けられ、内側ケーシングの回転により掘削及び排土を行う方式である。
【0035】
前記噴射ノズル4から噴射される高吸水性ポリマーは、架橋構造をもつ親水性のポリマー粒子であって、自重の10倍~500倍程度の吸水性を有し、圧力をかけても水分を放出しにくいという特徴を備える。このような吸水性ポリマーの吸水作用は、ポリマー内外のイオン濃度差によって生じる浸透圧によって発揮される。そのため、高吸水性ポリマーと混合攪拌させる溶媒の電気伝導率を、例えば、塩化ナトリウム等の電解質を添加することによって調整可能であり、ポリマー粒子の質量に対する吸水した水の質量比(以下、吸水倍率という。)を変化させることができる。なお、溶媒としては水を用い、特に切削現場においては水道水を好適に用いることができる。
【0036】
高吸水性ポリマーの種類は特に限定されるものではなく、例えば、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく考慮される。
【0037】
上記の高吸水性ポリマーの中でも、合成ポリマー系のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーは、性能とコストの両面に優れているため、特に好適に用いることができる。
【0038】
ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーは、アクリル酸ナトリウム(CH=CH-COONa)に架橋剤を加えて、軽度に架橋させた3次元網目構造を持ったアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物のゲルである。架橋剤としては、従来公知のものを用いることができる。
【0039】
前記ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーは、水を吸収するとカルボキシル基がゲル状にナトリウムイオンを解離し、純水ならば自重の100~1000倍にも達する膨潤度を生み出すことが知られている。
【0040】
また、ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーは、アクリル酸ナトリウムに対して架橋剤を多く配合することで、得られるゲルは硬くなり、その吸水量は減少する。また、架橋剤の配合を少なくすると、得られるゲルは柔らかくなり、その吸水量は増大する。
【0041】
さらに、特殊なポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーとして、架橋剤により重合させた高吸水性ポリマーの表面をさらに架橋させた、シェルとコアの二重構造を有するポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーの使用が例示される。
【0042】
このシェルとコアの二重構造を有するポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーにおいては、外殻であるシェルの厚みが厚いほど硬質なゲルとなり、その吸水量は減少する。一方、シェルの厚みを薄くすると柔らかいゲルとなり、その吸水量は増大する。
【0043】
また、上記のシェルとコアは、通常、エステル結合により架橋したものであるが、シェルとコアの架橋が耐アルカリ性、耐電化質性に優れたエーテル結合により架橋したポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーも存在する。本発明においては、エーテル結合によりシェルとコアが架橋したポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーを用いることがより好ましい。
【0044】
上記の特性のほか、ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーにおけるナトリウムイオンの解離は、ゲルがおかれるpHや電解質濃度等の条件にも依存するため、使用条件に応じてその他の高吸水性ポリマーを適宜選択して用いることができる。
【0045】
ポリマー水溶液の濃度は、高吸水性ポリマーの吸水性能や吸水する水のイオン濃度、また、切削する対象物の性状等に応じて適宜調整することができる。
【0046】
なお、一般的に、吸水性能が大きい高吸水性ポリマーを用いると粘性が大きくなる傾向があり、吸水性能が小さい高吸水性ポリマーを用いると粘性が小さくなる傾向がある。そのため、用いる高吸水性ポリマーの吸水性能を考慮して所望の粘土のポリマー水溶液となるように濃度を設定することが望ましい。本実施形態のポリマー水溶液を用いることにより、図4に示す流速分布概念図におけるポテンシャル領域を長くとることができ、切削効率を向上させることができる。
【0047】
なお、前記ポリマー水溶液においては、上記吸水性ポリマーの吸水率を調整するために、上記ポリマー水溶液とともに、塩化ナトリウム等の電解質を添加することができる。
【0048】
さらに、上記ポリマー水溶液に研磨剤を添加することができる。前記研磨剤としては、例えば、砂、珪砂、ガーネット等の鉱物系の研磨剤等を用いることができる。研磨剤を添加して切断する際、基礎杭1の切断部分によって異なる研磨剤を用いてもよい。すなわち、基礎杭1のコンクリート部分を切断する際は、前記研磨剤として砂、珪砂を用いることができる。一方、図6に示されるように、研磨剤として砂や珪砂を用いた場合は基礎杭1に埋設された鉄筋9の切断が難しいため、少なくとも基礎杭1に埋設された鉄筋9を切断する際、つまり通常鉄筋9が基礎杭1の外周部に埋設されることから、少なくとも基礎杭1の外周部を切断する際は、鉱物系の研磨剤を用いるのが好ましい。この鉱物系の研磨剤としては硬くて耐久性の高いガーネットを好適に用いることができる。なお、コンクリート部分を切断する際も、前記研磨剤として鉱物系の研磨剤を用いてもよい。
【0049】
また、研磨剤の粒径は特に限定されるものではないが、研磨剤を添加したポリマー水溶液の流動性、研磨材の切削性等を考慮した場合、平均粒径D50において320~570μmの範囲が好ましい。
【0050】
さらに本実施形態においては、上記研磨材を添加した研磨材添加ポリマー水溶液を直接噴射してもよいが、高吸水性ポリマーと水からなるポリマー水溶液と、予め、吸水させた高吸水性ポリマーに上記研磨材を添加、混合して調整した流動研磨材とを噴射ノズルの先端部で混合して噴射するようにしてもよい。このような噴射ノズルの先端部での混合噴射は、例えば、二重管構造のノズルを用いて、内側管にポリマー水溶液を圧送するとともに、外側管に流動研磨材を供給して混合噴射させることができる。上記二重管構造の噴射ノズルとしては、一般的に切削に使用されるアブレシブルノズルを好適に用いることができる。
【0051】
なお、上記流動研磨材に用いる高吸水性ポリマーは、研磨材を添加した後に容易に分離しないように、吸水後のポリマー粒径が小さいものが好ましい。具体的には、吸水後のポリマー粒径が100μm程度の高吸水性ポリマーを好適に用いることができる。流動研磨材に吸水後のポリマー粒径が小さい高吸水性ポリマーを用いることにより、研磨材が均一に分散した流動研磨材を調整することができる。
【0052】
〔基礎杭の撤去工程〕
上述の準備工程が完了したならば、基礎杭1を撤去する撤去工程を行う。この撤去工程は、次の第1ステップ~第3ステップを繰り返すことにより、基礎杭1を全長に亘って撤去する。
【0053】
(第1ステップ)
図5に示されるように、基礎杭1を囲むように外嵌させた状態で、重機11に装備された前記オーガーによってケーシング2を回転させながら、前記ケーシング2を地中に貫入させる。
【0054】
(第2ステップ)
前記ケーシング2を所定の深さ位置で停止した状態とし、図6に示されるように、噴射ノズル4から高吸水性ポリマーを含むポリマー水溶液8を研磨材とともに噴射しながらケーシング2を回転させることにより基礎杭1を水平方向に切断する。
【0055】
このようなウォータージェットによる基礎杭1の切削は、基礎杭1の全断面に亘って行う。また、図7に示されるように、ウォータージェットによってある程度の深さ(半径位置)まで切断したら、基礎杭1とケーシング2との間にセリ矢13を挟み込むことによって残りの断面を切断することとしてもよい。
【0056】
ウォータージェット技術による切断方式を採用することで、基礎杭1に機械的に直接接触して切断する方式と比較して、騒音や振動等の周辺環境への影響を極めて小さく抑えられる。また、直接接触しないため、ケーシングの損傷や杭曲がり等のリスクが軽減できる。
【0057】
更に、杭切断用の噴射物として粘性を有するポリマー水溶液8を噴射しているため、水を噴射した場合と比較して、空気抵抗による拡散が少なく、1.5~2倍の切削能力を有し、切断効率が向上する。
【0058】
また、削孔の内部が、掘削安定液としても知られるポリマー水溶液8で充填されるため、従来のベントナイト系安定液に比べて、掘削地盤の安定性が向上するとともに、早期に難透水層を形成し、ケーシング引抜き後の孔壁の安定化を図ることができる。
【0059】
(第3ステップ)
図8に示されるように、切断した基礎杭1の上部側をハンマーグラブ14で掴み、上方に引き上げて撤去する。
〔ケーシングの回収工程〕
全長に亘って基礎杭1の撤去が完了したならば、図9に示されるように、クローラークレーンなどのクレーン装置によって、ケーシング2を地上に引き上げて回収する。ケーシング2回収後は、図10に示されるように、基礎杭1の切断に使用したポリマー水溶液8によって孔内が満たされるため、このポリマー水溶液8によって孔壁保護が図られ、孔壁の崩壊が防止され、孔壁の安定化を図ることができる。
【0060】
〔埋戻し工程〕
孔内に溜まったポリマー水溶液8に分離剤を添加することにより、吸水膨潤していた高吸水性ポリマーが水を放出して、水と水を放出した高吸水性ポリマーを含む泥土とに分離する。これによって、水溶液の粘度が低下し、高吸水性ポリマーが付着土粒子とともに沈降する。そして、図11に示されるように、必要に応じて埋戻し土15を投入して埋戻しを図る(図12)。
【0061】
前記分離剤は、吸水膨潤した高吸水性ポリマーから水を放出する作用を有するものであり、塩化カルシウムなどの二価の金属イオンを添加して溶液の電気伝導率を上昇させることによりポリマー材に吸着されていた水が分離する現象を有するものである。
【符号の説明】
【0062】
1…基礎杭、2…ケーシング、3…切削ビット、4…噴射ノズル、5…コ字状部、6…高圧ホース、7…外周ケーシング、8…ポリマー水溶液、9…鉄筋、11…重機、12…高圧ポンプ車、13…セリ矢、14…ハンマーグラブ、15…埋戻し土
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12