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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013382
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B23K20/12 342
B23K20/12 344
B23K20/12 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115434
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502444733
【氏名又は名称】日軽金アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
(72)【発明者】
【氏名】小泉 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】熊井 雅章
(72)【発明者】
【氏名】菊 和雄
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167BG14
4E167BG22
4E167BG30
4E167DB01
4E167DC01
(57)【要約】
【課題】バリの発生と接合部の欠陥の発生を抑えるとともに、回転ツール及び接合装置に加わる負荷を軽減する接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】螺旋溝が形成された攪拌ピンF2を有する回転ツールFを用いて、被接合部材への摩擦攪拌接合により接合体を製造する方法であって、回転ツールFを螺旋溝の形成方向と同方向に回転させた状態で、攪拌ピンF2を被接合部材に挿入する挿入工程と、回転ツールFの回転方向を、螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させるように変更する変更工程と、回転ツールFを螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させた状態で、被接合部材の接合を行う接合工程と、を順に備えることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋溝が形成された攪拌ピンを有する回転ツールを用いて、被接合部材への摩擦攪拌接合により接合体を製造する方法であって、
前記回転ツールを前記螺旋溝の形成方向と同方向に回転させた状態で、前記攪拌ピンを前記被接合部材に挿入する挿入工程と、
前記回転ツールの回転方向を、前記螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させるように変更する変更工程と、
前記回転ツールを前記螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させた状態で、前記被接合部材の接合を行う接合工程と、を順に備えることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項2】
前記挿入工程における前記回転ツールの回転数が、前記接合工程における前記回転ツールの回転数以上である、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記挿入工程における前記回転ツールの回転数N1と、前記接合工程における前記回転ツールの回転数N2との関係が、N2≦N1≦N2×5である、請求項2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記挿入工程の後に、前記回転ツールを前記被接合部材の表面方向に向けて引き上げる引上げ工程をさらに備え、
前記引上げ工程の後に、前記変更工程を行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記引上げ工程での引上量H2との関係が、H1×0.01≦H2≦H1×0.5である、請求項4に記載の接合体の製造方法。
【請求項6】
前記変更工程の後に、前記回転ツールを前記被接合部材の深さ方向に向けて押し込む押込み工程をさらに備え、
前記押込み工程の後に、前記接合工程を行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項7】
前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記押込み工程での挿入量H3との関係が、H1×0.01≦H3≦H1×0.5である、請求項6に記載の接合体の製造方法。
【請求項8】
前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記接合工程で接合を開始する際の挿入深さH4との関係が、H1×1.01≦H4≦H1×1.5である、請求項6に記載の接合体の製造方法。
【請求項9】
前記回転ツールは、平面状又はすり鉢状の下端面が設けられるとともに、柱状又は推台状を呈するショルダ部をさらに有し、
前記攪拌ピンは、前記ショルダ部の前記下端面から垂下しており、
前記被接合部材に対して前記ショルダ部を接触させるとともに、前記被接合部材に前記攪拌ピンを挿入した状態で、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項10】
前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記攪拌ピンの長さL1との関係が、L1×0.5≦H1≦L1である、請求項9に記載の接合体の製造方法。
【請求項11】
前記回転ツールは、柱状又は推台状を呈する基部を有し、
前記攪拌ピンは、前記基部の下端面から垂下しており、
前記被接合部材に対して前記基部を離間させるとともに、前記被接合部材に前記攪拌ピンのみを挿入した状態で、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項12】
前記回転ツールは、柱状又は推台状を呈する基部を有し、
前記攪拌ピンは、前記基部に連続する基端側ピンと、前記基端側ピンに連続する先端側ピンとを有し、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、
前記基端側ピンの外周面を前記被接合部材の表面に接触させた状態で、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項13】
前記挿入工程の前に、前記被接合部材に下穴を形成する下穴形成工程をさらに備え、
前記挿入工程において、前記下穴に前記攪拌ピンを挿入する、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項14】
前記被接合部材が、第一被接合部材と、前記第一被接合部材よりも硬度が低い第二被接合部材とからなり、
前記第一被接合部材と前記第二被接合部材との少なくともいずれか一方の端面が突き合わされて突合せ部が形成されるか、又は前記第一被接合部材の表面に前記第二被接合部材の裏面が重ね合わされて重合部が形成されており、
前記挿入工程において、前記第一被接合部材の表面から攪拌ピンを挿入して、
前記接合工程において、前記突合せ部又は前記重合部の摩擦攪拌接合を行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項15】
前記被接合部材が、第一被接合部材と、第二被接合部材とからなり、
前記第一被接合部材と前記第二被接合部材との少なくともいずれか一方の端面が突き合わされて突合せ部が形成されるか、又は前記第一被接合部材の表面に前記第二被接合部材の裏面が重ね合わされて重合部が形成されており、
前記挿入工程において、前記突合せ部又は前記重合部に向けて攪拌ピンを挿入する、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
螺旋溝が形成された攪拌ピンを有する回転ツールを用いて被接合部材の摩擦攪拌接合を行うことで接合体を製造する方法が知られている。
通常、螺旋溝が基端から先端に向かうにつれて左巻き(左ネジ)に形成されている場合には、この回転ツールを右回転させて被接合部材に攪拌ピンを挿入して摩擦攪拌接合が行われる。一方、螺旋溝が基端から先端に向かうにつれて右巻き(右ネジ)に形成されている場合には、この回転ツールを左回転させて被接合部材に攪拌ピンを挿入して摩擦攪拌接合が行われる。すなわち、螺旋溝の形成方向と逆方向に回転ツールを回転(以下、この形態を「正回転」とする)させて被接合部材に攪拌ピンを挿入して摩擦攪拌接合が行われている(特許文献1)。
【0003】
正回転で摩擦攪拌接合を行うことで、塑性流動化した被接合部材の材料を攪拌ピンの先端側に導くことができる。これにより、先端部周辺の塑性流動を大きくすることで、接合部の深い部分における接合を安定して行うことができ、健全な接合部を形成することができる。また、被接合部材の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0004】
また、従来、螺旋溝の形成方向と同方向に回転ツールを回転(以下、この形態を「逆回転」とする)させて被接合部材に攪拌ピンを挿入して摩擦攪拌接合が行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-249551号公報
【特許文献2】特開2002-035962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように正回転(螺旋溝の形成方向と回転ツールの回転方向が逆)させて摩擦攪拌接合を行う場合には、攪拌ピンと被接合部材との接触によって被接合部材の塑性流動が生じるとともに、攪拌ピンの挿入に伴って攪拌ピンの体積に応じて塑性流動化した被接合部材の材料が被接合部材の外部に溢れ出すことになる。このようにして溢れ出した塑性流動化した被接合部材の材料が固化することによって、接合後の被接合部材の表面にバリが多く発生するという問題がある。
【0007】
また、正回転で摩擦攪拌接合を行う場合には、塑性流動化した被接合部材の材料を攪拌ピンの先端側に向けて押し付けるようにして摩擦攪拌を行うことになるため、回転ツールを回転させる接合装置への負荷が増大するおそれがある。また、被接合部材の硬度が比較的に高い場合には、回転ツールの破損が生じる場合がある。また、2点の被接合部材を重ね合わせた状態で、正回転で攪拌ピンを挿入して摩擦攪拌接合を行った場合には、塑性流動化した被接合部材の材料の対流が生じることで、重ね面(重合部)に存在する被接合部材の酸化皮膜が巻き上げられることにより、接合部に欠陥が生じることがある。
【0008】
一方、特許文献2に記載されるように逆回転(螺旋溝の形成方向と回転ツールの回転方向が同一)させて摩擦攪拌接合を行う場合、塑性流動化した領域で生じる過剰な上向きの対流及び界面の巻き込みを抑制することができるとされている。しかしながら、この場合には、攪拌ピンの先端側の位置において材料が不足してしまい、内部に欠陥が生じることがある。
【0009】
このような観点から本発明は、バリの発生と接合部の欠陥の発生を抑えるとともに、回転ツール及び接合装置に加わる負荷を軽減する接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、螺旋溝が形成された攪拌ピンを有する回転ツールを用いて、被接合部材への摩擦攪拌接合により接合体を製造する方法であって、前記回転ツールを前記螺旋溝の形成方向と同方向に回転させた状態で、前記攪拌ピンを前記被接合部材に挿入する挿入工程と、前記回転ツールの回転方向を、前記螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させるように変更する変更工程と、前記回転ツールを前記螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させた状態で、前記被接合部材の接合を行う接合工程と、を順に備えることを特徴とする。
【0011】
また、前記挿入工程における前記回転ツールの回転数が、前記接合工程における前記回転ツールの回転数以上であることが好ましい。
【0012】
また、前記挿入工程における前記回転ツールの回転数N1と、前記接合工程における前記回転ツールの回転数N2との関係が、N2≦N1≦N2×5であることが好ましい。
【0013】
また、前記挿入工程の後に、前記回転ツールを前記被接合部材の表面方向に向けて引き上げる引上げ工程をさらに備え、前記引上げ工程の後に、前記変更工程を行うことが好ましい。
【0014】
また、前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記引上げ工程での引上量H2との関係が、H1×0.01≦H2≦H1×0.5であることが好ましい。
【0015】
また、前記変更工程の後に、前記回転ツールを前記被接合部材の深さ方向に向けて押し込む押込み工程をさらに備え、前記押込み工程の後に、前記接合工程を行うことが好ましい。
【0016】
また、前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記押込み工程での挿入量H3との関係が、H1×0.01≦H3≦H1×0.5であることが好ましい。
【0017】
また、前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記接合工程で接合を開始する際の挿入深さH4との関係が、H1×1.01≦H4≦H1×1.5であることが好ましい。
【0018】
また、前記回転ツールは、平面状又はすり鉢状の下端面が設けられるとともに、柱状又は推台状を呈するショルダ部をさらに有し、前記攪拌ピンは、前記ショルダ部の前記下端面から垂下しており、前記被接合部材に対して前記ショルダ部を接触させるとともに、前記被接合部材に前記攪拌ピンを挿入した状態で、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0019】
また、前記挿入工程における前記回転ツールの挿入深さH1と、前記攪拌ピンの長さL1との関係が、L1×0.5≦H1≦L1であることが好ましい。
【0020】
また、前記回転ツールは、柱状又は推台状を呈する基部を有し、前記攪拌ピンは、前記基部の下端面から垂下しており、前記被接合部材に対して前記基部を離間させるとともに、前記被接合部材に前記攪拌ピンのみを挿入した状態で、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0021】
また、前記回転ツールは、柱状又は推台状を呈する基部を有し、前記攪拌ピンは、前記基部に連続する基端側ピンと、前記基端側ピンに連続する先端側ピンとを有し、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記基端側ピンの外周面を前記被接合部材の表面に接触させた状態で、前記被接合部材に対する摩擦攪拌接合を行うが好ましい。
【0022】
また、前記挿入工程の前に、前記被接合部材に下穴を形成する下穴形成工程をさらに備え、前記挿入工程において、前記下穴に前記攪拌ピンを挿入することが好ましい。
【0023】
また、前記被接合部材が、第一被接合部材と、前記第一被接合部材よりも硬度が低い第二被接合部材とからなり、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材との少なくともいずれか一方の端面が突き合わされて突合せ部が形成されるか、又は前記第一被接合部材の表面に前記第二被接合部材の裏面が重ね合わされて重合部が形成されており、前記挿入工程において、前記第一被接合部材の表面から攪拌ピンを挿入して、前記接合工程において、前記突合せ部又は前記重合部の摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0024】
また、前記被接合部材が、第一被接合部材と、第二被接合部材とからなり、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材との少なくともいずれか一方の端面が突き合わされて突合せ部が形成されるか、又は前記第一被接合部材の表面に前記第二被接合部材の裏面が重ね合わされて重合部が形成されており、前記挿入工程において、前記突合せ部又は前記重合部に向けて攪拌ピンを挿入することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る接合体の製造方法によれば、バリの発生と接合部の欠陥の発生を抑えるとともに、回転ツール及び接合装置に加わる負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第一実施形態に係る接合体を示す分解斜視図である。
図2】第一実施形態に係る接合体の製造方法の突合せ工程を示す断面図である。
図3】第一実施形態に係る接合体の製造方法の突合せ工程を示す平面図である。
図4】第一実施形態に係る接合体の製造方法で用いる回転ツールを示す側面図である。
図5】第一実施形態に係る接合体の製造方法の挿入工程を示す断面図である。
図6】第一実施形態に係る接合体の製造方法の引上げ工程を示す断面図である。
図7】第一実施形態に係る接合体の製造方法の変更工程を示す断面図である。
図8】第一実施形態に係る接合体の製造方法の押込み工程を示す断面図である。
図9】第一実施形態に係る接合体の製造方法の接合工程を示す断面図である。
図10】第一実施形態の第一変形例に係る下穴形成工程を示す断面図である。
図11】第一実施形態の第二変形例に係る挿入工程を示す断面図である。
図12】第一実施形態の第二変形例に係る接合工程を示す断面図である。
図13】第一実施形態の第三変形例に係る挿入工程を示す断面図である。
図14】第一実施形態の第三変形例に係る回転ツールを示す拡大図である。
図15】第一実施形態の第三変形例に係る接合工程を示す断面図である。
図16】第一実施形態の第四変形例に係る突合せ工程を示す平面図である。
図17】第一実施形態の第四変形例に係る挿入工程を示す断面図である。
図18】第二実施形態に係る接合体を示す分解斜視図である。
図19】第二実施形態に係る重ね合わせ工程を示す断面図である。
図20】第二実施形態に係る重ね合わせ工程を示す平面図である。
図21】第二実施形態に係る挿入工程を示す断面図である。
図22】第二実施形態の第一変形例に係る挿入工程を示す断面図である。
図23】試験1及び試験2において、回転ツールの形状、回転方向及びツール回転数の条件を示した表である。
図24】試験1及び試験2において、移動速度、挿入深さ、引上量・挿入量及び評価並びに合金種を示した表である。
図25】試験例11の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図26図25のXXVI-XXVI線断面図である。
図27】比較試験例11の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図28図27のXXVIII-XXVIII線断面図である。
図29】比較試験例12の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図30図29の開始位置における拡大平面図である。
図31図29のXXXI-XXXI線断面図である。
図32】比較試験例13の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図33図32の開始位置における拡大平面図である。
図34図32のXXXIV-XXXIV線断面図である。
図35】試験例21の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図36図35の開始位置における拡大平面図である。
図37】試験例22の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図38図37の開始位置における拡大平面図である。
図39図37のXXXIX-XXXIX線断面図である。
図40】比較試験例21の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図41図40の開始位置における拡大平面図である。
図42】比較試験例22の摩擦攪拌状態を示す平面図である。
図43図42の開始位置における拡大平面図である。
図44図42のXXXXIV-XXXXIV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態及び変形例における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。
【0028】
[1.第一実施形態]
[1-1.被接合部材及び接合体]
本発明の第一実施形態に係る液冷ジャケット(接合体)1は、図1に示すように、ジャケット本体(第一被接合部材)2と封止体(第二被接合部材)3とで構成されている。液冷ジャケット1は、内部に流体を流通させて、配置される発熱体を冷却する機器である。ジャケット本体2と封止体3とは摩擦攪拌接合で一体化される。以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面を意味する。
【0029】
ジャケット本体(第一被接合部材)2は、底部10及び周壁部11で主に構成されている。ジャケット本体2は、摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、本実施形態では第一アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第一アルミニウム合金は、例えば、JISH5302 ADC12(Al-Si-Cu系)等のアルミニウム合金鋳造材を用いている。
【0030】
底部10は、矩形を呈する板状部材である。周壁部11は、底部10の周縁部から矩形枠状に立ち上がる壁部である。底部10及び周壁部11で、上方に開放する凹部13が形成されている。周壁部11の内周縁には周壁段差部12が形成されている。周壁段差部12は、段差底面12aと、段差底面12aから垂直に立ち上がる段差側面(側面)12bとで構成されている。
【0031】
なお、本実施形態のジャケット本体2は一体形成されているが、例えば、周壁部11を分割構成としてシール部材で接合して一体化してもよい。
【0032】
封止体(第二被接合部材)3は、ジャケット本体2の開口部を封止する板状部材である。封止体3は、摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、本実施形態では第二アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第二アルミニウム合金は、第一アルミニウム合金よりも硬度の低い材料である。第二アルミニウム合金は、例えば、JIS A1050,A1070,A1100,A6063等のアルミニウム合金展伸材で形成されている。
【0033】
[1-2.製造方法]
次に、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法(接合体の製造方法、被接合部材の接合方法)(以下、「本方法」と称することがある。)について説明する。本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法では、準備工程と、突合せ工程と、挿入工程と、引上げ工程と、変更工程と、押込み工程と、接合工程と、を行う。
【0034】
本方法では、図2に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置して側面同士を突き合わせた状態で、ジャケット本体2と封止体3との摩擦攪拌接合を行う。図3に示すように、本方法では、周壁部11の端面11aにおいて、開始位置SP1及び終了位置EP1を設定し、封止体3の表面3aにおいて、中間位置S1及び中間位置E1を設定する。図3に示すように、本実施形態の回転ツールF(図4参照)の回転軸Cが通る移動ルートR1は、開始位置SP1、中間位置S1、中間位置E1、及び終了位置EP1を通過する。移動ルートR1は、始点である開始位置SP1と終点である終了位置EP1とに挟まれたルートであり、挿入区間と、本区間と、離脱区間とを備えている。本方法では、開始位置SP1において、挿入工程、引上げ工程、変更工程、及び押込み工程を行う。また、本方法では、挿入区間、本区間、及び離脱区間において、接合工程を行う。
【0035】
挿入区間は、周壁部11の端面11aに設定された開始位置SP1から封止体3の表面3a上に設定された中間位置S1までの区間である。挿入区間では、開始位置SP1に挿入された回転ツールFを、中間位置S1に向けて移動させつつ、徐々に押し込んでいく。
【0036】
本区間は、中間位置S1から第一突合せ部J1に沿って一周して中間位置S1を通り過ぎ、封止体3の表面3a上に設定された中間位置E1までの区間である。詳細は後記するが、本区間では、移動ルートR1を第一突合せ部J1よりもわずかに内側(封止体3側)に設定している。本区間では、回転ツールFを概ね一定の深さで移動させる。
【0037】
離脱区間は、中間位置E1から周壁部11の端面11aに設定された終了位置EP1までの区間である。離脱区間では、後記する回転ツールFを移動させつつ、徐々に引き上げていき、終了位置EP1で封止体3から回転ツールFを離間させる。
【0038】
第一突合せ部J1から移動ルートR1までの変位量P1は、適宜設定すればよいが、好ましくは0.1(mm)<P1、より好ましくは0.2(mm)<P1であり、好ましくはP1<0.5(mm)、より好ましくはP1<0.4(mm)である。変位量P1は、第一突合せ部J1から移動ルートR1までの距離である。つまり、変位量P1は、第一突合せ部J1を基準として移動ルートR1が同一平面上でどのくらいずれているかを意味している。
【0039】
<回転ツール>
接合体の製造に用いられる回転ツールFについて説明する。回転ツールFは、図4に示すように、ショルダ部F1と、攪拌ピンF2とを備えている。回転ツールFは、例えば、工具鋼で形成されている。ショルダ部F1は、接合装置(図示省略)の出力軸に連結される部位であって、柱状又は推台状を呈する。攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F1aから垂下している。攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F1a側を基端として先端側に向かにつれて縮径する、円錐台状を呈する。下端面F1aは平面状であってもよいし、上方(攪拌ピンF2から離間する方向)に凹むすり鉢状であってもよい。攪拌ピンF2の先端は平坦になっている。攪拌ピンF2の外周面には、高さ方向全体に亘って螺旋溝が形成されている。螺旋溝は、右巻き又は左巻きのどちらでもよいが、本実施形態では左巻き(上方から見て反時計回り)になっている。攪拌ピンF2の長さL1は、被接合部材の接合深さに応じて設計することができる。本実施形態では、後述する第一突合せ部J1の全体を接合するとともに、第二突合せ部J2に達する程度まで接合を行うことを目的として、段差側面12bの高さ寸法となる15mmの深さまで攪拌ピンの挿入を行う。このため、攪拌ピンF2の長さL1が15mmである場合を例示して説明する。
【0040】
螺旋溝が左巻きの場合に回転ツールFを右回転させる場合、又は、螺旋溝が右巻きの場合に回転ツールFを左回転させる場合、摩擦攪拌によって軟化された塑性流動材が螺旋溝に導かれて攪拌ピンF2の先端側に流動する。これにより、摩擦攪拌接合時に塑性流動材が外部に溢れ出るのを防ぐことができ、バリの発生を抑制することができる。なお、前記したように、螺旋溝が左巻きの場合に回転ツールFを右回転させる場合、又は、螺旋溝が右巻きの場合に回転ツールFを左回転させる場合のことを「正回転」と定義する。一方、螺旋溝が左巻きの場合に回転ツールFを左回転させる場合、又は、螺旋溝が右巻きの場合に回転ツールFを右回転させる場合のことを「逆回転」と定義する。
【0041】
<準備工程>
準備工程は、ジャケット本体2及び封止体3を準備する工程である。ジャケット本体2及び封止体3は、製造方法については特に制限されないが、ジャケット本体2は、例えば、ダイキャストで成形する。封止体3は、例えば押出成形により成形する。
【0042】
<突合せ工程>
突合せ工程は、図2に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置して側面同士を突き合わせる工程である。突合せ工程によって、封止体3の側面3cと周壁段差部12の段差側面(側面)12bとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される。第一突合せ部J1は、図3に示すように、封止体3の周囲、及びジャケット本体2の端面11aの内縁に沿って平面視矩形状に形成される。また、周壁段差部12の段差底面12aと、封止体3の裏面3bとが突き合わされて(重ね合わされて)第二突合せ部J2が形成される。封止体3の板厚は、本実施形態では段差側面12bの高さ寸法と同一になっている。封止体3の板厚は、段差側面12bの高さ寸法よりも大きく設定してもよい。これにより、接合部の金属が不足するのを防ぐことができる。なお、突合せ工程後、ジャケット本体2及び封止体3の位置がずれないように、治具(図示省略)で固定する。
【0043】
<挿入工程>
挿入工程は、図5に示すように、回転ツールFを被接合部材(ここではジャケット本体2)に挿入する工程である。挿入工程では、回転ツールFを、攪拌ピンF2に設けられた螺旋溝の形成方向と同方向に回転(逆回転)させる。本実施形態では、螺旋溝は左巻きであるため、回転ツールFを左回転させる。挿入工程では、所定の挿入深さH1となるまで回転ツールFを押し込む。挿入深さH1は、周壁部11の端面11aから攪拌ピンF2の先端までの距離である。挿入深さH1は、攪拌ピンF2の長さL1以下となる範囲で適宜設定することができる。挿入工程では、攪拌ピンF2のみを周壁部11に接触させ、ショルダ部F1が周壁部11に接触しない範囲で挿入深さH1を設定してもよい。挿入工程によって、封止体3の材料が摩擦攪拌されて塑性化領域W1が形成される。なお、挿入された攪拌ピンF2の先端の位置を第一仮想基準面D1とする。
【0044】
挿入工程における攪拌ピンF2の挿入深さH1は、攪拌ピンF2の長さL1及び被接合部材に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは7.5mm以上、より好ましくは9mm以上、さらに好ましくは10.5mm以上であり、好ましくは15mm以下、より好ましくは13.5mm以下、さらに好ましくは12mm以下である。
【0045】
挿入工程における攪拌ピンF2の挿入深さH1は、攪拌ピンF2の長さL1との関係において、好ましくはL1×0.5≦H1、より好ましくはL1×0.6≦H1、さらに好ましくはL1×0.7≦H1であり、好ましくはH1≦L1、より好ましくはH1≦L1×0.9、さらに好ましくはH1≦L1×0.8である。
【0046】
挿入工程における回転ツールFの回転数は、適宜設定すればよいが、接合工程における回転数以上に設定することが好ましい。挿入工程における回転ツールFの回転数は、例えば、好ましくは400rpm以上、より好ましくは600rpm以上、さらに好ましくは800rpm以上、さらにより好ましくは900rpm以上、特に好ましくは1000rp以上であり、好ましくは5000rpm以下、より好ましくは4000rpmであり、さらに好ましくは3000rpmである。
【0047】
挿入工程における回転ツールFの回転数は、例えば、挿入工程における回転ツールFの回転数N1と、接合工程における回転ツールFの回転数N2との関係が、好ましくはN2≦N1、より好ましくはN2×1.1≦N1、さらに好ましくはN2×1.5≦N1であり、好ましくはN1≦N2×5、より好ましくはN1≦N2×4、さらに好ましくはN1≦N2×3である。
【0048】
<引上げ工程>
引上げ工程は、図6に示すように、挿入工程後において、回転ツールFを被接合部材(ここではジャケット本体2)の表面方向に向けて引き上げる工程である。つまり、挿入工程における回転方向(逆回転)を維持した状態で回転ツールFを引き上げる。引上げ工程において、回転ツールFを引き上げた後の先端の位置を第二仮想基準面D2とする。引上げ工程において回転ツールFを引き上げる引上量H2は、第一仮想基準面D1から第二仮想基準面D2までの距離となる。引上げ工程では、第一仮想基準面D1から回転ツールFをわずかに引き上げるだけでもよいし、周壁部11の端面11aよりも上方に離間させるように引き上げてもよい。
【0049】
引上げ工程での引上量H2は、攪拌ピンF2の長さL1及び被接合部材に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、好ましくは7.5mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。
【0050】
引上げ工程での引上量H2は、適宜設定すればよいが、挿入深さH1との関係が、好ましくはH1×0.01≦H2、より好ましくはH1×0.05≦H2、さらに好ましくはH1×0.1≦H2であり、好ましくはH2≦H1×0.5、より好ましくはH2≦H1×0.3、さらに好ましくはH2≦H1×0.2である。
【0051】
<変更工程>
変更工程は、図7に示すように、回転ツールFの回転方向を変更する工程である。本実施形態では、挿入工程で逆回転させたため、逆回転から正回転に変更する。換言すると、本実施形態では、回転ツールFの回転方向を左回転から右回転に変更する。変更工程は、攪拌ピンF2が周壁部11と接触した状態で行ってもよいし、本実施形態のように周壁部11とは離間した状態で回転方向を変更してもよい。
【0052】
変更工程において、回転方向を変更した後の回転ツールFの回転数は、被接合部材に応じて適宜設定することができる。回転方向を変更した後の回転ツールFの回転数は、接合工程において設定する回転ツールFの回転数と同じ回転数に設定することができる。
【0053】
<押込み工程>
押込み工程は、図8に示すように、変更工程後において回転ツールFを被接合部材(ここではジャケット本体2)の深さ方向に向けて押し込む工程である。つまり、変更工程後の回転方向(正回転)を維持した状態で回転ツールFを押し込む。押込み工程において、回転ツールFを押し込んだ後の先端の位置を第三仮想基準面D3とする。押込み工程において回転ツールFを押し込む挿入量H3は、第一仮想基準面D1から第三仮想基準面D3までの距離(攪拌ピンF2が周壁部11に再度当接してからの挿入量)となる。押込み工程では、回転ツールFを周壁部11にわずかに接触させるだけでもよい。つまり、少なくとも第一仮想基準面D1よりも攪拌ピンF2の先端側が深い位置となるように挿入量を設定することが好ましい。
【0054】
押込み工程では、所定の挿入深さH4となるまで回転ツールFを押し込む。挿入深さH4は、周壁部11の端面11aから攪拌ピンF2の先端までの距離である。挿入工程における挿入深さH1と、押込み工程における挿入量H3及び挿入深さH4とが、H1+H3=H4との関係になる。押込み工程における挿入深さH4は、接合工程において摩擦攪拌接合を開始する際の回転ツールFの挿入深さとなる。
【0055】
また、押込み工程での挿入量H3は、攪拌ピンF2の長さL1及び被接合部材に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、好ましくは7.5mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。挿入量H3は、例えば、攪拌ピンF2の長さL1の10分の1程度としてもよい。
【0056】
押込み工程での挿入量H3は、挿入深さH1との関係が、好ましくはH1×0.01≦H3、より好ましくはH1×0.05≦H3、さらに好ましくはH1×0.1≦H3であり、好ましくはH3≦H1×0.5、より好ましくはH3≦H1×0.3、さらに好ましくはH3≦H1×0.2である。
【0057】
また、押込み工程での挿入深さH4は、攪拌ピンF2の長さL1及び被接合部材に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは8mm以上、より好ましくは9mm以上、さらに好ましくは10mm以上であり、好ましくは15mm以下、より好ましくは13.5mm以下、さらに好ましくは12mm以下である。
【0058】
押込み工程での挿入深さH4は、挿入深さH1との関係が、好ましくはH1×1.01≦H4、より好ましくはH1×1.05≦H4、さらに好ましくはH1×1.1≦H4であり、好ましくはH4≦H1×1.5、より好ましくはH4≦H1×1.3、さらに好ましくはH4≦H1×1.2である。
【0059】
押込み工程における回転ツールFの回転数は、被接合部材に応じて適宜設定することができる。押込み工程における回転ツールFの回転数は、接合工程において設定する回転ツールFの回転数と同じ回転数に設定することができる。
【0060】
<接合工程>
接合工程は、図9に示すように、回転ツールFを螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させた状態で、被接合部材(ここではジャケット本体2及び封止体3)の接合を行う工程である。つまり、接合工程では、正回転させた状態で摩擦攪拌接合を行う。接合工程では、回転ツールFを螺旋溝の形成方向と逆方向に回転させた状態で、回転ツールF移動させることで被接合部材の接合を行う。前記した押込み工程で回転ツールFを所定の挿入深さH4となるまで押し込んだ後、回転ツールFを中間位置S1まで移動させつつ、所定の挿入深さH5となるまで徐々に深い位置に向けて押し込んでいく。中間位置S1に達したら、回転ツールFの回転軸Cを移動ルートR1と重ね合わせた状態で第一突合せ部J1に沿って移動させる。移動ルートR1は、第一突合せ部J1と同じ位置に設定してもよいが、本実施形態では、第一突合せ部J1よりもわずかに内側(封止体3側)に設定している。移動ルートR1と第一突合せ部J1とは概ね平行になっている。
【0061】
回転ツールFの挿入深さH5は、周壁部11の端面11aから攪拌ピンF2の先端までの距離である。挿入深さH5は、第一突合せ部J1を摩擦攪拌接合可能な範囲で適宜設定すればよいが、本実施形態では攪拌ピンF2の先端が段差底面12aよりも深くなるように設定している。
【0062】
接合工程では、挿入深さH5を維持した状態で、中間位置S1(図3参照)から移動ルートR1に沿って右回りで一周させた後、塑性化領域W1の一部を重複させつつ中間位置E1まで移動させる。その後、終了位置EP1まで移動させつつ、徐々に回転ツールFを引き上げる。最後に、終了位置EP1で回転ツールFを封止体3から離脱させる。
【0063】
また、接合工程での挿入深さH5は、攪拌ピンF2の長さL1及び被接合部材に応じて適宜設定すればよいが、本実施形態では、好ましくは15mm以上、より好ましくは16mm以上であり、好ましくは18mm以下、より好ましくは17mm以下である。
【0064】
[1-3.作用効果]
以上説明した本実施形態に係る接合体の製造方法によれば、挿入工程において、螺旋溝の形成方向と同方向に回転ツールFを回転(逆回転)させた状態で攪拌ピンF2を被接合部材(ここではジャケット本体2)に挿入することで、攪拌ピンF2が被接合部材に挿入される際に、被接合部材に対して螺旋溝がドリルの刃のように作用することで、螺旋溝が被接合部材の材料を削り取りながら侵入する。つまり、本実施形態の挿入工程では、正回転の場合のような塑性流動を生じることなく被接合部材に攪拌ピンF2が浸入するため、正回転の時に比べて回転ツールFが被接合部材に浸入し易くなる。これにより、攪拌ピンF2を挿入する際に攪拌ピンの挿入に伴って被接合部材を積極的に外部に排出することで、挿入時に回転ツールF及び接合装置に加わる負荷を軽減することができる。また、負荷が軽減される分、攪拌ピンF2の螺旋溝の摩耗も軽減し、攪拌ピンF2の破損を低減することができる。
【0065】
また、従来、圧入抵抗を低減するために攪拌ピンF2の開始位置SP1に下穴を設けることが行われていたが、この場合には、下穴を形成するための工程が増えることになり時間を要することが課題となっていた。また、例えば、マシニングセンタを用いて下穴の形成と摩擦攪拌接合を行う場合には、それぞれの加工に用いられるツールの交換にも時間を要することが課題となっていた。しかし、本実施形態によれば、下穴を設けずとも圧入抵抗を減らして攪拌ピンF2の挿入をスムーズに行うとこができ、生産性を向上させることができる。
【0066】
また、本実施形態では、攪拌ピンF2の挿入後に回転ツールFの回転方向を螺旋溝の形成方向と逆方向に切り替えて、螺旋溝の形成方向と逆方向に回転ツールFを回転(正回転)させた状態で摩擦攪拌接合を行う。これにより、摩擦攪拌接合時には下向きの塑性流動を起こすことで攪拌ピンF2の先端側に向けて材料を補充することができ、内部に欠陥が生じにくくすることできる。
【0067】
また、本実施形態の挿入工程では、削り取られた被接合部材の材料は、ドリルによる切削によって生じる切粉のように、螺旋溝の回転に伴って被接合部材の外部に排出されていると推察される。これにより、摩擦攪拌接合後に被接合部材の表面(ここでは周壁部11の端面11a)に、塑性流動化を受けて流出した材料がバリとして残りにくくなるため、バリを除去するための切削加工等の後処理の負担も軽減されて生産性を向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態の挿入工程における回転ツールFの回転数は適宜設定すればよいが、回転ツールFの回転数が、接合工程における回転ツールFの回転数以上であることが好ましい。挿入工程における回転数を接合工程における回転数以上とすることで、攪拌ピンF2の挿入時に螺旋溝によって被接合部材が切り取られ、回転ツールFの回転に伴って切り取られた被接合部材の切粉を被接合部材の表面から外部に飛ばしやすくなり、接合後の被接合部材の表面にバリや切粉が残らないようにしやすくなる。特に、回転ツールFのサイズが比較的小さい場合であっても、被接合部材の切粉を飛ばしやすくなる。また、挿入時の回転数が低いと、酸化被膜の巻き上げが発生しやすくなるが、挿入工程における回転数を接合工程における回転数以上とすることで、当該巻き上げの発生を防ぐことができる。
【0069】
また、本実施形態のように挿入工程における回転ツールFの回転数N1と、接合工程における回転ツールFの回転数N2との関係が、N2≦N1≦N2×5であることが好ましい。回転数N1をN2以上とすることで攪拌ピンF2の螺旋溝による被接合部材の切り取り効果を高めることができる。また、回転数N1をN2×5以下とすることで、回転ツールF及び接合装置にかかる負荷を軽減することができる。
【0070】
また、本実施形態のように、挿入工程の後に、回転ツールFを被接合部材の表面方向に向けて引き上げる引上げ工程をさらに備え、引上げ工程の際に、変更工程を行うことが好ましい。挿入工程の後に回転ツールFを引き上げることによって、回転ツールFと被接合部材との接触抵抗を減らす(実質的に無くす)ことで、回転方向を変更する際に生じる回転ツールF及び接合装置への負荷を抑えることができる。
【0071】
また、本実施形態のように、挿入工程における回転ツールFの挿入深さH1と、引上げ工程での引上量H2との関係が、H1×0.01≦H2≦H1×0.5であることが好ましい。引上量H2をH1×0.01以上とすることで、被接合部材との接触抵抗を小さくすることができる。引上量H2をH1×0.5以下とすることで、回転ツールFと被接合部材とが過度に離れることによって、被接合部材の温度が下がるのを防ぐことができ、その後の接合を好適に行うことができる。
【0072】
また、本実施形態のように、変更工程の後に、回転ツールFを被接合部材の深さ方向に向けて押し込む押込み工程をさらに備え、押込み工程の後に、接合工程を行うことが好ましい。回転方向を変更した後に攪拌ピンF2を押し込むことで、挿入工程での逆回転の際に形成された金属組織を、正回転による下向きの塑性流動材からなる組織に変えることができる。また、攪拌ピンF2の押し込みによって回転ツール(攪拌ピンF2(+ショルダ部F1))Fが新たに被接合部材と接触することになることで発熱を増加させることができる。したがって、その後の接合を好適に行うことができる。
【0073】
また、本実施形態のように、挿入工程における回転ツールの挿入深さH1と、押込み工程での挿入量H3との関係が、H1×0.01≦H3≦H1×0.5であることが好ましい。挿入量H3をH1×0.01以上とすることで、正回転による下向きの塑性流動からなる組織を生じさせるとともに、回転ツールFと新たな被接合部材との接触によって発熱を増加させて、摩擦攪拌接合を好適に行うことができる。また、挿入量H3をH1×0.5以下とすることで、回転ツールF及び接合装置にかかる負荷を低減することができる。
【0074】
また、本実施形態のように、挿入工程における回転ツールの挿入深さH1と、接合工程で接合を開始する際の挿入深さH4との関係が、H1×1.01≦H4≦H1×1.5であることが好ましい。挿入深さH4をH1×0.01以上とすることで、正回転による下向きの塑性流動からなる組織を生じさせるとともに、回転ツールFと新たな被接合部材との接触によって発熱を増加させて、摩擦攪拌接合を好適に行うことができる。また、挿入深さH4をH1×1.5以下とすることで、回転ツールF及び接合装置にかかる負荷を低減することができる。
【0075】
また、本実施形態の回転ツールFのようにショルダ部F1を有すると、ショルダ部F1の接触によって切粉を好適に切り飛ばすことができるとともに、接合時のショルダ部F1による発熱効率も向上する。なお、一般的に、ショルダ部を備える回転ツールを用いると被接合部材との接触面積が大きくなるため、接合装置に作用する負荷が大きくなる傾向にある。しかし、本実施形態では挿入工程、引上げ工程、変更工程及び押込み工程を備えており、これらの工程時(挿入時)に予め被接合部材を積極的に外部に排出しているため、ショルダ部を被接合部材と接触させて摩擦攪拌接合を行う際に、回転ツールF及び接合装置に作用する負荷を軽減することができる。
【0076】
また、本実施形態のように、挿入工程における回転ツールFの挿入深さH1と、攪拌ピンF2の長さL1との関係が、L1×0.5≦H1≦L1であることが好ましい。挿入深さH1をL1×0.5以上とすることにより、攪拌ピンF2の螺旋溝によって材料を削り取ることで回転ツールF及び接合装置に加わる負荷を軽減する効果が得やすくなる。また、挿入深さH1をH1≦L1とすることで、挿入工程時にショルダ部F1と被接合部材とが多く接触して接触抵抗が大きくなるのを防ぐことができる。
【0077】
また、本実施形態では、ジャケット本体(第一被接合部材)2と、ジャケット本体2よりも硬度の低い封止体3(第二被接合部材)とで構成されている。これにより、液冷ジャケット(接合体)1の強度を高めることができる。また、本実施形態では、第一突合せ部J1よりも内側に移動ルートR1を設定し、移動ルートR1と回転ツールFの回転軸Cとを重ね合わせた状態で摩擦攪拌接合を行う。これにより、比較的硬いジャケット本体2の材料が、封止体3側に混入するのを極力防ぐことができ、接合部の強度が低下するのを防ぐことができる。また、摩擦攪拌接合時の材料抵抗による不均衡も解消されるため、バランスよく摩擦攪拌され好適に接合することができる。なお、挿入時に回転ツールF及び接合装置に加わる負荷を軽減する観点からは、第一被接合部材よりも硬度が低い第二被接合部材側に攪拌ピンを挿入することが望ましい。本実施形態では、挿入工程、変更工程、及び接合工程を順に備えることで、硬度の高い第一被接合部材に攪拌ピンを挿入する場合であっても、挿入時に回転ツールF及び接合装置に加わる負荷を軽減することができる。
【0078】
また、接合工程において、攪拌ピンF2の先端が、段差底面12aに達するように挿入深さを設定することにより、第一突合せ部J1だけでなく、第二突合せ部J2も確実に摩擦攪拌接合することができる。
【0079】
また、開始位置SP1を第一突合せ部J1上に設けると、酸化被膜の巻き上げが起こる場合があるが、本実施形態の接合工程では、開始位置SP1を周壁部11の端面11aに設定した。これにより、特に、挿入位置において塑性化領域W1に酸化被膜が残存するのを防ぐことができる。
【0080】
[1-4.その他]
以上本実施形態にかかる接合体の製造方法について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、上記実施形態では、封止体3の側面3cと周壁段差部12の段差側面12bとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される場合、すなわち、第一被接合部材と第二被接合部材との両側の端面どうしが付き合わされる場合を例示した。第一被接合部材と第二被接合部材との少なくともいずれか一方の端面が他方に対して突き合わされて突合せ部が形成されればよい。
【0081】
また、上記実施形態では、挿入工程、引上げ工程、変更工程、及び押込み工程は、回転ツールFを開始位置SP1から移動させずに行ったが、各工程を進行方向に移動しながら行ってもよい。すなわち、開始位置SP1から挿入区間において、回転ツールFを移動させながら挿入工程、引上げ工程、変更工程、及び押込み工程を行ってもよい。
【0082】
また、引上げ工程は省略してもよい。つまり、挿入工程を終了した後、回転ツールFの高さ位置を維持したまま(被接合部材に接触したまま)、回転ツールFの回転方向を変更してもいい。特に、回転ツールFが比較的小さい場合は、接触抵抗が小さいため、引上げ工程を省略してもよい。
【0083】
また、押込み工程は省略してもよい。
また、挿入区間において、回転ツールFを移動ながら徐々に押し込む場合を例示して説明したが、開始位置SP1において所定の挿入深さH5にまで挿入した後に、当該挿入深さH5を保ったまま回転ツールFを移動させてもよい。
【0084】
また、接合工程において、開始位置SP1及び終了位置EP1を第一突合せ部J1上又は封止体3の表面3a上に設定してもよい。また、接合体は、本実施形態では直方体状の液冷ジャケットを例示したが、他の形状であってもよいし、少なくとも二部材が接合されていればよい。
【0085】
また、段差側面12bは、段差底面12aに対して外側に傾斜させてもよい。この場合は、回転ツールFの回転軸Cを封止体3の側面3cよりも内側に設定し、攪拌ピンF2と周壁部11との接触が薄くなるように設定することが好ましい。これにより、比較的硬いジャケット本体2の材料が、封止体3側に混入するのを極力少なくすることができるため、接合強度の低下を防ぐことができる。また、摩擦攪拌時の材料抵抗による不均衡を解消することができる。またこの時、封止体3の板厚を、段差側面12bの高さ寸法よりも大きくしてもよい。これにより、接合部における材料不足を補うことができる。
【0086】
[2.第一実施形態の第一変形例]
次に、前記した第一実施形態の第一変形例について説明する。本変形例に係る接合体の製造方法では、下穴形成工程を備える点で、前記した第一実施形態と相違する。
【0087】
本変形例では、図10に示すように、挿入工程を行う前に、下穴形成工程を行う。下穴形成工程では、回転ツール、エンドミル等の切削工具を用いて、周壁部11の端面11aに設定した開始位置SP1に下穴Qを形成する。下穴Qの形状は、本変形例では推台状を呈する中空部としたが、円錐状、円柱状、角柱状を呈する中空部としてもよい。
【0088】
下穴形成工程を行うことで、挿入工程を行う際の回転ツールFによる圧入抵抗を低減することができる。またこれにより、回転ツールFの破損や摩耗も低減することができる。特に、ジャケット本体(第一被接合部材)2をアルミニウム合金鋳造材等の比較的硬い材料で形成する場合は、圧入抵抗の低減効果が顕著となる。なお、開始位置SP1を封止体3の表面3aに設定する場合は、表面3aに下穴Qを設けてもよい。また、ジャケット本体2の成形段階で、予め下穴Qを形成してもよい。
【0089】
[3.第一実施形態の第二変形例]
次に、前記した第一実施形態の第二変形例について説明する。本変形例に係る接合体の製造方法では、図11に示すように、回転ツールKを用いる点で、前記した第一実施形態と相違する。
【0090】
回転ツールKは、基部K1と、攪拌ピンK2とを備えている。基部K1は、接合装置(図示省略)の出力軸に連結される部位であって、柱状又は推台状を呈する。攪拌ピンK2は、円錐台状を呈し、基部K1の下端面K1aから垂下している。攪拌ピンK2は、封止体3の板厚に対して2倍以上の長さになっている。攪拌ピンK2の先端は、平坦になっている。攪拌ピンK2の外周面には、高さ方向全体に亘って螺旋溝が形成されている。螺旋溝は右巻き又は左巻きのどちらでもよいが、本実施形態では左巻き(上方から見て反時計回り)になっている。
【0091】
本変形例の接合体の製造方法では、準備工程と、突合せ工程と、挿入工程と、引上げ工程と、変更工程と、押込み工程と、接合工程と、を行う。準備工程及び突合せ工程は、前記した第一実施形態と同一である。
【0092】
挿入工程では、図11に示すように、回転ツールFを逆回転(左回転)させて攪拌ピンK2を周壁部11の端面11aに挿入する。挿入工程では、攪拌ピンK2のみを周壁部11に接触させる。
挿入工程の他の要領は、前記した第一実施形態と同一である。また、引上げ工程、変更工程、及び押込み工程も前記した第一実施形態と同一である。
【0093】
接合工程では、図12に示すように、回転ツールKを正回転(右回転)させつつ、回転軸Cを移動ルートR1に重ね合わせつつ、第一突合せ部J1と平行となるように回転ツールKを移動させる。接合工程では、攪拌ピンK2のみを被接合部材(ここではジャケット本体2及び封止体3)に接触させ、攪拌ピンK2の基端側は露出した状態で摩擦攪拌接合を行う。
【0094】
本変形例の回転ツールKであっても、前記した第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、接合工程において攪拌ピンK2のみを被接合部材に接触させ、基部K1を被接合部材に接触させない状態で摩擦攪拌接合を行うため、接合装置に作用する負荷を軽減することができる。なお、回転ツールKを用いる場合においても、段差側面12bを外側に傾斜させてもよい。
【0095】
[4.第一実施形態の第三変形例]
次に、前記した第一実施形態の第三変形例について説明する。本変形例に係る接合体の製造方法では、図13に示すように、回転ツールGを用いる点で、前記した第一実施形態と相違する。
【0096】
回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されており、基部G1と、攪拌ピン(基端側ピンG2及び先端側ピンG3)とで主に構成されている。基部G1は、柱状又は推台状を呈し、接合装置の出力軸に接続される部位である。
【0097】
基端側ピンG2は、基部G1に連続し、先端に向けて先細りになっている。基端側ピンG2は、円錐台形状を呈する。基端側ピンG2のテーパー角度Aは適宜設定すればよいが、例えば、135~160°になっている。テーパー角度Aが135~160°であると、摩擦攪拌後の接合表面粗さを小さくすることができる。
【0098】
テーパー角度Aは、後記する先端側ピンG3のテーパー角度Bよりも大きくなっている。図14に示すように、基端側ピンG2の外周面には、階段状のピン段差部G21が高さ方向の全体に亘って形成されている。ピン段差部G21は、右巻き又は左巻きで螺旋状に形成されている。つまり、ピン段差部G21は、平面視して螺旋状であり、側面視すると階段状になっている。本変形例では、ピン段差部G21は基端側から先端側に向けて左巻きに設定している。
【0099】
図14に示すように、ピン段差部G21は、段差底面G21aと、段差側面G21bとで構成されている。隣り合うピン段差部G21の各頂点G21c,G21cの距離X1(水平方向距離)は、後記する段差角度M1及び段差側面G21bの高さY1に応じて適宜設定される。
【0100】
段差側面F21bの高さY1は適宜設定すればよいが、例えば、0.1~0.4mmで設定されている。高さY1が0.1mm未満であると接合表面粗さが大きくなる。一方、高さY1が0.4mmを超えると接合表面粗さが大きくなる傾向があるとともに、有効段差部数(被接合金属部材と接触しているピン段差部G21の数)も減少する。
【0101】
段差底面G21aと段差側面G21bとでなす段差角度M1は適宜設定すればよいが、例えば、85~120°で設定されている。段差底面G21aは、本実施形態では水平面(ここでは回転軸Cに対して垂直な面)と平行になっている。段差底面G21aは、回転軸Cから外周方向に向かって水平面に対して-5°~15°内の範囲で傾斜していてもよい(マイナスは水平面に対して下方、プラスは水平面に対して上方)。距離X1、段差側面G21bの高さY1、段差角度M1及び水平面に対する段差底面G21aの角度は、摩擦攪拌を行う際に、塑性流動材がピン段差部G21の内部に滞留して付着することなく外部に抜けるとともに、段差底面G21aで塑性流動材を押えて接合表面粗さを小さくすることができるように適宜設定する。
【0102】
図13に示すように、先端側ピンG3は、基端側ピンG2に連続して形成されている。先端側ピンG3は円錐台形状を呈する。先端側ピンG3の先端は平坦になっている。先端側ピンG3のテーパー角度Bは、基端側ピンG2のテーパー角度Aよりも小さくなっている。図14に示すように、先端側ピンG3の外周面には、螺旋溝G31が刻設されている。螺旋溝G31は、右巻き、左巻きのどちらでもよいが、本実施形態では左巻きに刻設されている。
【0103】
螺旋溝G31は、螺旋底面G31aと、螺旋側面G31bとで構成されている。隣り合う螺旋溝G31の頂点G31c,G31cの距離(水平方向距離)を長さX2とする。螺旋側面G31bの高さを高さY2とする。螺旋底面G31aと、螺旋側面G31bとで構成される螺旋角度M2は例えば、45~90°で形成されている。螺旋溝G31は、被接合部材と接触することにより摩擦熱を上昇させるとともに、塑性流動材を先端側に導く役割を備えている。螺旋角度M2、長さX2及び高さY2は、適宜設定すればよい。なお、回転ツールGのピン段差部G21及び螺旋溝G31が、請求項の「攪拌ピンの螺旋溝」に対応する部分である。
【0104】
本変形例の接合体の製造方法では、準備工程と、突合せ工程と、挿入工程と、引上げ工程と、変更工程と、押込み工程と、接合工程と、を行う。準備工程及び突合せ工程は、前記した第一実施形態と同一である。
【0105】
挿入工程では、図13に示すように、回転ツールGを逆回転(左回転)させて先端側ピンG3を周壁部11の端面11aに挿入する。挿入工程では、先端側ピンG3のみを周壁部11に接触させる。挿入工程の他の要領は、前記した第一実施形態と同一である。また、引上げ工程、変更工程及び押込み工程も前記した第一実施形態と同一である。
【0106】
接合工程では、図15に示すように、回転ツールGを右回転(正回転)させつつ、回転軸Cを移動ルートR1に重ね合わせつつ、第一突合せ部J1と平行になるように回転ツールGを移動させる。接合工程では、基端側ピンG2の外周面を、封止体3の表面3a及び周壁部11の端面11aに接触させつつ、先端側ピンG3の先端が段差底面12aよりも下に位置するように挿入深さを設定する。
【0107】
本変形例の回転ツールGであっても、前記した第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、接合工程において、基端側ピンG2の外周面で塑性流動材を押えることができるため、接合表面に形成される段差凹溝を小さくすることができるとともに、段差凹溝の脇に形成される膨出部を無くすか若しくは小さくすることができる。また、階段状のピン段差部G21は浅く、かつ、出口が広いため、塑性流動材を段差底面G21aで押えつつ塑性流動材がピン段差部G21の外部に抜けやすくなっている。そのため、基端側ピンG2で塑性流動材を押えても基端側ピンG2の外周面に塑性流動材が付着し難い。よって、接合表面粗さを小さくすることができるとともに、接合品質を好適に安定させることができる。
【0108】
また、本実施形態の回転ツールGは、基端側ピンG2と、基端側ピンG2のテーパー角度Aよりもテーパー角度が小さい先端側ピンG3を備えた構成になっている。これにより、ジャケット本体2及び封止体3に回転ツールGを挿入しやすくなる。また、先端側ピンG3のテーパー角度Bが小さいため、第一突合せ部J1の深い位置まで回転ツールGを容易に挿入することができる。なお、回転ツールGを用いる場合においても、段差側面12bを外側に傾斜させてもよい。
【0109】
[5.第一実施形態の第四変形例]
次に、前記した第一実施形態の第四変形例について説明する。本変形例に係る接合体の製造方法では、挿入工程において、第一突合せ部J1に向けて攪拌ピンを挿入する点で、前記した第一実施形態と相違する。
【0110】
本変形例の接合体の製造方法(以下、「本方法」と称することがある。)では、準備工程と、突合せ工程と、挿入工程と、引上げ工程と、変更工程と、押込み工程と、接合工程と、を行う。準備工程及び突合せ工程は、前記した第一実施形態と同一である。
【0111】
本方法では、図16に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置して側面同士を突き合わせた状態で、ジャケット本体2と封止体3との摩擦攪拌接合を行う。本方法では、周壁部11の端面11aにおいて、終了位置EP1を設定し、封止体3の表面3aにおいて、開始位置SP2、中間位置S1、及び中間位置E1を設定する。本方法では、回転ツールFの挿入位置である開始位置SP2に攪拌ピンF2を挿入することで形成される塑性化領域W2(図17参照)が、第一突合せ部J1と重なる位置関係となるように開始位置SP2を設定する。本方法の回転ツールFの回転軸Cが通る移動ルートR2は、開始位置SP2、中間位置S1、中間位置E1、及び終了位置EP1を通過する。移動ルートR2は、始点である開始位置SP2と終点である終了位置EP1とに挟まれたルートであり、挿入区間と、本区間と、離脱区間とを備えている。本方法では、開始位置SP2において、挿入工程、引上げ工程、変更工程、及び押込み工程を行う。また、本方法では、挿入区間、本区間、及び離脱区間において、接合工程を行う。
【0112】
挿入区間は、開始位置SP2から中間位置S1までの区間となっている。挿入区間では、開始位置SP2に挿入された回転ツールFを、中間位置S1に向けて移動させつつ、徐々に押し込んでいく。
【0113】
本区間では、移動ルートR2を第一突合せ部J1よりもわずかに内側(封止体3側)に設定している。また、移動ルートR2と第一突合せ部J1とは概ね平行になっている。
【0114】
本方法の挿入工程は、図17に示すように、回転ツールFを被接合部材(ジャケット本体2及び封止体3)に挿入する工程である。より具体的には、本方法の挿入工程は、回転ツールFを、ジャケット本体2と封止体3との第一突合せ部J1に向けて挿入する工程である。挿入工程では、回転ツールFを、攪拌ピンF2に設けられた螺旋溝の形成方向と同方向に回転(逆回転)させて、回転ツールFを第一突合せ部J1に向けて挿入する。攪拌ピンF2の挿入深さH1は、第一実施形態と同様に設定することができる。挿入工程によって、ジャケット本体2及び封止体3の材料が摩擦攪拌されて塑性化領域W2が形成される。このとき、塑性化領域W2は、第一突合せ部J1に跨って、ジャケット本体2及び封止体3と接触する形で形成される。
【0115】
挿入工程の他の要領は、前記した第一実施形態と同様である。また、引上げ工程、変更工程、押込み工程、及び接合工程も前記した第一実施形態と同様である。
【0116】
ここで、正回転させた攪拌ピンを被接合部材に挿入する場合には、攪拌ピンが挿入される位置において、被接合部材の塑性流動によって塑性化領域が形成されるとともに、挿入される攪拌ピンの体積分に応じて塑性流動を受けた被接合部材が下方に押し出される。このとき、塑性化領域のうち攪拌ピンの周囲に位置する内側の部分には下向きの対流が生じるとともに、塑性化領域のうち外側の部分には上向きの対流が生じることになる。このため、ジャケット本体2の段差側面12bと、封止体3の側面3cとによって形成される第一突合せ部J1に向けて、正回転させた攪拌ピンを挿入すると、攪拌ピンが挿入される位置付近の界面に存在する酸化皮膜が塑性流動によって上側に巻き込まれることで、第一突合せ部J1の接合強度が低下する場合があった。また、正回転させた攪拌ピンを被接合部材に挿入する場合には、攪拌ピンの挿入量に応じて、塑性流動を受けて対流する被接合部材の量が増えることになる。このため、攪拌ピンが挿入される位置付近において、攪拌ピンの挿入に伴って塑性流動を受けた被接合部材の対流が増加することによって、界面付近の巻き込みが生じやすくなることで、第一突合せ部J1の接合強度が低下する場合があった。
【0117】
本方法によれば、挿入工程において、螺旋溝の形成方向と同方向に回転ツールFを回転(逆回転)させた状態で攪拌ピンF2を第一突合せ部J1に向けて挿入する。これにより、塑性化領域W2のうち攪拌ピンの周囲に位置する内側の部分には上向きの対流が生じるとともに、塑性化領域W2のうち外側の部分には下向きの対流が生じる。したがって、第一突合せ部J1の開始位置SP2付近において、ジャケット本体2と封止体3との界面に存在する酸化皮膜が上側に巻き込まることを防ぎやすくなる。また、本方法によれば、攪拌ピンF2を挿入する際に攪拌ピンの挿入に伴って被接合部材を積極的に外部に排出することで、塑性流動を受けて対流する被接合部材の量を低下させることができる。これにより、ジャケット本体2と封止体3との界面に存在する酸化皮膜の巻き込みを防ぎやすくなる。よって、本方法によれば、ジャケット本体2と封止体3との突合せ部J1における接合強度の低下を抑えることができる。
【0118】
[6.第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。本実施形態に係る接合体の製造方法では、図18に示すように、ジャケット本体2A及び封止体3Aを用いる点で、前記した第一実施形態と相違する。
【0119】
ジャケット本体2Aは、底部10及び周壁部11で構成されている。ジャケット本体2Aの内部には、凹部13が形成されている。封止体3Aは、ジャケット本体2Aの開口部を覆うとともに、周壁部11の外縁と同じ大きさになっている。
【0120】
次に、本実施形態に係る接合体の製造方法(以下、「本方法」と称することがある。)について説明する。本実施形態に係る接合体の製造方法では、準備工程と、重ね合わせ工程と、挿入工程と、引上げ工程と、変更工程と、押込み工程と、接合工程と、を行う。準備工程、引上げ工程、変更工程、及び押込み工程は前記した第一実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0121】
本方法では、図19示すように、ジャケット本体2Aに封止体3Aを載置して重ね合わせた状態で、ジャケット本体2Aと封止体3Aとの摩擦攪拌接合を行う。図20に示すように、本方法では、封止体3の表面3aにおいて、重合部J3に対応する位置に開始位置SP3、中間位置S3、中間位置E3、及び終了位置EP3を設定する。本方法における回転ツールFの回転軸Cが通る移動ルートR3は、開始位置SP3、中間位置S3、中間位置E3、及び終了位置EP3を通過する。移動ルートR3は、重合部J3と重なるように平面視矩形となる。移動ルートR3は、始点である開始位置SP3と終点である終了位置EP3とに挟まれたルートであり、挿入区間と、本区間と、離脱区間とを備えている。本方法では、開始位置SP3において、挿入工程、引上げ工程、変更工程、及び押込み工程を行う。また、本方法では、挿入区間、本区間、及び離脱区間において、接合工程を行う。
【0122】
挿入区間は、開始位置SP3から中間位置S3までの区間となっている。挿入区間では、開始位置SP3に挿入された回転ツールFを、中間位置S3に移動させつつ、徐々に押し込んでいく。
【0123】
本区間は、中間位置S3から重合部J3に沿って一周させた後、中間位置S3を通り越して、中間位置E3まで回転ツールFを移動させる区間である。この時、図19示すように、攪拌ピンF2が端面11aに達するように回転ツールFの挿入深さを一定に維持する。
【0124】
離脱区間は、中間位置E3から終了位置EP3までの区間である。離脱区間では、中間位置E3に達した回転ツールFを、終了位置EP3に向けて移動させつつ、徐々に回転ツールFを引き上げる。終了位置EP3に回転ツールFが達したら、封止体3から回転ツールFを離脱させる。
【0125】
重ね合わせ工程は、図19に示すように、ジャケット本体2Aと封止体3Aとを重ね合わせる工程である。重ね合わせ工程では、周壁部11の端面11aと封止体3Aの裏面3bとを重ね合わせて重合部J3を形成する。重合部J3は、凹部13の外周に沿って、平面視矩形枠状に形成される。
【0126】
挿入工程は、図21に示すように、回転ツールFを被接合部材(封止体3A)に挿入する工程である。より具体的には、回転ツールFを、封止体3Aの表面3aから、ジャケット本体2Aと封止体3Aとの重合部J3に向けて挿入する工程である。挿入工程では、回転ツールFを、攪拌ピンF2に設けられた螺旋溝の形成方向と同方向に回転(逆回転)させる。本実施形態では、螺旋溝は左巻きであるため、回転ツールFを左回転させる。本実施形態の挿入工程では、攪拌ピンF2を封止体3Aのみに接触させて、攪拌ピンF2を周壁部11に接触させない範囲で挿入深さH1を設定している。挿入工程では、攪拌ピンF2のみを封止体3Aの表面3aに接触させ、ショルダ部F1が表面3aに接触しない範囲で挿入深さH1を設定してもよい。挿入工程によって、封止体3Aの材料が摩擦攪拌されて塑性化領域W3が形成される。
【0127】
接合工程は、回転ツールFを用いて重合部J3に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。接合工程における回転ツールFの挿入深さは、本方法ではショルダ部F1を封止体3の表面3aにわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2が周壁部11の端面11aに達するように設定している。接合工程における回転ツールFの挿入深さは、適宜設定すればよく、例えば、攪拌ピンF2が端面11aに達しない状態で、重合部J3を接合してもよい。
【0128】
以上説明した本実施形態によっても、前記した第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、本実施形態によれば、重合部J3を接合することもできる。
【0129】
なお、本実施形では回転ツールFを用いる場合を例示して説明したが、回転ツールK,Gを用いてもよい。
また、本実施形態において、開始位置SP3及び終了位置EP3は、封止体3Aの表面3aのうち重合部J3に対応しない位置(重合部J3よりも内側)に設定してもよい。
【0130】
[7.第二実施形態の第一変形例]
次に、前記した第二実施形態の第一変形例について説明する。本変形例に係る接合体の製造方法では、挿入工程において、形成される塑性化領域W4が重合部J3と重なる範囲となるように攪拌ピンF2の挿入深さH1を設定している点で、前記した第二実施形態と相違する。
【0131】
本変形例の接合体の製造方法(以下、「本方法」と称することがある。)では、準備工程と、重ね合わせ工程と、挿入工程と、引上げ工程と、変更工程と、押込み工程と、接合工程と、を行う。準備工程及び重ね合わせ工程は、前記した第二実施形態と同一である。
【0132】
本方法の挿入工程は、図22示すように、回転ツールFを被接合部材(ジャケット本体2A及び封止体3A)に挿入する工程である。より具体的には、本方法の挿入工程は、回転ツールFを、封止体3Aの表面3aから、ジャケット本体2Aと封止体3Aとの重合部J3に向けて挿入する工程である。挿入工程では、回転ツールFを、攪拌ピンF2に設けられた螺旋溝の形成方向と同方向に回転(逆回転)させて、回転ツールFを重合部J3に向けて挿入する。本実施形態の挿入工程では、攪拌ピンF2を封止体3Aに接触させるとともに、攪拌ピンF2を周壁部11の端面11aに接触させる範囲で挿入深さH1を設定している。挿入工程では、攪拌ピンF2のみを封止体3A及びジャケット本体2Aに接触させ、ショルダ部F1が封止体3Aの表面3aに接触しない範囲で挿入深さH1を設定してもよい。挿入工程によって、ジャケット本体2A及び封止体3Aの材料が摩擦攪拌されて塑性化領域W4が形成される。このとき、塑性化領域W4は、重合部J3に跨って、ジャケット本体2A及び封止体3Aと接触する形で形成される。
【0133】
挿入工程の他の要領は、前記した第二実施形態と同様である。また、引上げ工程、変更工程、押込み工程、及び接合工程も前記した第二実施形態と同様である。
【0134】
ここで、ジャケット本体2Aの端面11aと、封止体3の裏面3bとによって形成される重合部J3に向けて、正回転させた攪拌ピンを挿入すると、攪拌ピンが挿入される位置付近の界面が塑性流動によって上側に巻き込まれることで、重合部J3の接合強度が低下する場合があった。また、攪拌ピンの挿入量に応じて、塑性流動を受けて対流する被接合部材の量が増えるため、攪拌ピンの挿入に伴って塑性流動を受けた被接合部材の対流が増加するとともに、界面付近の巻き込みが生じやすくなることで、重合部J3の接合強度が低下する場合があった。
【0135】
本方法によれば、挿入工程において、螺旋溝の形成方向と同方向に回転ツールFを回転(逆回転)させた状態で攪拌ピンF2を重合部J3に向けて挿入する。これにより、塑性化領域W4のうち攪拌ピンの周囲に位置する内側の部分には上向きの対流が生じるとともに、塑性化領域W4のうち外側の部分には下向きの対流が生じる。したがって、重合部J3の開始位置SP3付近において、ジャケット本体2Aと封止体3Aとの界面に存在する酸化皮膜が上側に巻き込まることを防ぎやすくなる。また、本方法によれば、攪拌ピンF2を挿入する際に攪拌ピンの挿入に伴って被接合部材を積極的に外部に排出することで、塑性流動を受けて対流する被接合部材の量を低下させることができる。これにより、ジャケット本体2と封止体3との界面に存在する酸化皮膜の巻き込みを防ぎやすくなる。よって、本方法によれば、ジャケット本体2と封止体3との重合部J3における接合強度の低下を抑えることができる。
【実施例0136】
本発明の効果を確認するために、試験1及び試験2を行った。試験1及び試験2は、二つの部材を接合するものではなく、一つの部材を用いて回転ツールFによる摩擦攪拌状態を確認した。図23は、試験1及び試験2において、回転ツールの形状、回転方向及びツール回転数の条件を示した表である。図24は、試験1及び試験2において、移動速度、挿入深さ、引上量・挿入量及び評価並びに合金種を示した表である。
【0137】
[試験1]
試験1は、供試材(A1050)を用意し、回転ツールFを用いて所定の距離で摩擦攪拌を行った。回転ツールFのショルダ部F1の外径を30mmとし、攪拌ピンF2の基端の外径を14mmとし、攪拌ピンF2の先端の外径を9.2mmとした。攪拌ピンF2の長さL1は15mmとし、螺旋溝は左巻きとした。接合速度は125mm/minとした。
【0138】
<試験例11>
図25は、試験例11の摩擦攪拌状態を示す平面図である。図26は、図25のXXVI-XXVI線断面図である。試験例11では、開始位置SP11において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを左回転で挿入した後、回転ツールFを引き上げて、回転方向を右回転に変更し、回転ツールFを押し込んでから、摩擦攪拌を行った。試験例11では、挿入時の回転ツールFの回転速度は2000rpmであり、引上げ時の回転ツールFの回転速度は2000rpmであり、押し込み時の回転ツールFの回転速度は890rpmであり、摩擦攪拌接合時の回転ツールFの回転速度は890rpmである。また、試験例11では、挿入時の挿入深さH1は15mmであり、引上げ時の引上量H2は1mmであり、引き上げた際の(回転方向の変更時の)挿入深さは14mmであり、押込み時の挿入量H3は0.5mmであり、押し込んだ後の挿入深さH4は15.5mmであり、摩擦攪拌接合時の挿入深さH5は15.5mmである。試験例11では、図25に示すように、開始位置SP11におけるバリV11は比較試験例11,12よりも少なかった。また、図26に示すように、塑性化領域W11内にトンネル状欠陥は無かった。
【0139】
<比較試験例11>
図27は、比較試験例11の摩擦攪拌状態を示す平面図である。282は、図27のXXVIII-XXVIII線断面図である。比較試験例11では、開始位置SP12において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを右回転で挿入した後、摩擦攪拌接合を行う深さまで挿入して、そのまま右回転で摩擦攪拌を行った。挿入時の回転ツールFの回転速度は890rpmであり、摩擦攪拌接合時の回転ツールFの回転速度も890rpmである。また、挿入時の挿入深さは15.5mmであり、摩擦攪拌接合時の挿入深さH5は15.5mmである。図27及び図28に示すように、比較試験例11では、塑性化領域W12内にトンネル状欠陥は無かった。しかし、図27に示すように、開始位置SP12においてバリV12が多く発生した。
【0140】
<比較試験例12>
図29は、比較試験例12の摩擦攪拌状態を示す平面図である。図30は、図29の開始位置における拡大平面図である。図31は、図29のXXXI-XXXI線断面図である。比較試験例12では、開始位置SP13において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを右回転で挿入した後、回転ツールFを引き上げて、回転方向を変更せずに回転ツールFを押し込んでから、そのまま右回転で摩擦攪拌を行った。比較試験例12では、挿入時の回転ツールFの回転速度、引上げ時の回転ツールFの回転速度、押し込み時の回転ツールFの回転速度、摩擦攪拌接合時の回転ツールFの回転速度、挿入時の挿入深さH1、引上げ時の引上量H2、引き上げた際の挿入深さ、押込み時の挿入量H3、押し込んだ後の挿入深さH4、及び摩擦攪拌接合時の挿入深さH5は、試験例11と同様にして行った。比較試験例12では、図31に示すように、塑性化領域W13内にトンネル状欠陥は無かった。しかし、図29及び図30に示すように、開始位置SP13においてバリV13が多く発生した。
【0141】
<比較試験例13>
図32は、比較試験例13の摩擦攪拌状態を示す平面図である。図33は、図32の開始位置における拡大平面図である。図34は、図32のXXXIV-XXXIV線断面図である。比較試験例13では、開始位置SP14において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを左回転で挿入した後、回転ツールFを引き上げて、回転方向を変更せずに回転ツールFを押し込んでから、そのまま左回転で摩擦攪拌を行った。比較試験例13では、挿入時の回転ツールFの回転速度、引上げ時の回転ツールFの回転速度、押し込み時の回転ツールFの回転速度、摩擦攪拌接合時の回転ツールFの回転速度、挿入時の挿入深さH1、引上げ時の引上量H2、引き上げた際の挿入深さ、押込み時の挿入量H3、押し込んだ後の挿入深さH4、及び摩擦攪拌接合時の挿入深さH5は、試験例1と同様にして行った。比較試験例13では、図32及び図33に示すように、開始位置SP14におけるバリV14は比較試験例11,12よりも少なかった。しかし、図34に示すように、塑性化領域W14内にトンネル状欠陥T14が発生した。
【0142】
[試験2]
試験2は、供試材(A5052)を用意し、回転ツールFを用いて所定の距離で摩擦攪拌を行った。回転ツールFの各部位の寸法は試験1と同じである。攪拌ピンF2の螺旋溝は左巻きとした。接合速度は100mm/minとした。
【0143】
<試験例21>
図35は、試験例21の摩擦攪拌状態を示す平面図である。図36は、図35の開始位置における拡大平面図である。試験例21では、開始位置SP15において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを左回転で挿入した後、回転ツールFを引き上げて、回転方向を右回転に変更し、回転ツールFを押し込んでから、摩擦攪拌を行った。挿入時の回転ツールFの回転速度は2000rpmであり、引上げ時の回転ツールFの回転速度は2000rpmであり、押し込み時の回転ツールFの回転速度は400rpmであり、摩擦攪拌時の回転ツールFの回転速度は400rpmである。また、試験例21では、挿入時の挿入深さH1は15mmであり、引上げ時の引上量H2は1mmであり、回転方向の変更時の挿入深さは14mmであり、押込み時の挿入量H3は0.5mmであり、押し込んだ後の挿入深さH4は15.5mmであり、摩擦攪拌接合時の挿入深さH5は15.5mmである。試験例21では、図35及び図36に示すように、開始位置SP15におけるバリV15は比較試験例21,22よりも少なかった。
【0144】
<試験例22>
図37は、試験例22の摩擦攪拌状態を示す平面図である。図38は、図37の開始位置における拡大平面図である。図39は、図37のXXXIX-XXXIX線断面図である。試験例22では、開始位置SP16において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを左回転で挿入した後、回転ツールFを引き上げて、回転方向を右回転に変更し、回転ツールFを押し込んでから、摩擦攪拌を行った。試験例22では、挿入時の回転ツールFの回転速度を400rpm、引上げ時の回転ツールFの回転速度を400rpmに変更した以外は、試験例21と同様にして行った。図37及び図38に示すように、開始位置SP16におけるバリV16は比較試験例21,22よりも少なかった。また、図39に示すように、塑性化領域W16内に欠陥は見当たらなかった。
【0145】
<比較試験例21>
図40は、比較試験例21の摩擦攪拌状態を示す平面図である。図41は、図40の開始位置における拡大平面図である。比較試験例21では、開始位置SP17において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを右回転で挿入した後、摩擦攪拌接合を行う深さまで挿入して、そのまま右回転で摩擦攪拌を行った。比較試験例21では、挿入時の回転ツールFの回転速度は400rpmであり、摩擦攪拌接合時の回転ツールFの回転速度は400rpmである。また、比較試験例21では、挿入時の挿入深さは15.5mmであり、摩擦攪拌接合時の挿入深さH5は15.5mmである。比較試験例21では、図40及び図41に示すように、開始位置SP17において、バリV17が多く発生した。
【0146】
<比較試験例22>
図42は、比較試験例22の摩擦攪拌状態を示す平面図である。図43は、図42の開始位置における拡大平面図である。図44は、図42のXXXXIV-XXXXIV線断面図である。比較試験例22では、開始位置SP18において螺旋溝が左巻きの攪拌ピンF2を備えた回転ツールFを右回転で挿入した後、回転ツールFを引き上げて、回転方向を変更せずに回転ツールFを押し込んでから、そのまま右回転で摩擦攪拌を行った。比較試験例22では、挿入時の回転ツールFの回転速度、引上げ時の回転ツールFの回転速度、押し込み時の回転ツールFの回転速度、摩擦攪拌接合時の回転ツールFの回転速度、挿入時の挿入深さH1、引上げ時の引上量H2、引き上げた際の挿入深さ、押込み時の挿入量H3、押し込んだ後の挿入深さH4、及び摩擦攪拌接合時の挿入深さH5は、試験例21と同様にして行った。比較試験例2では、図44に示すように、塑性化領域W18内にトンネル状欠陥は無かった。しかし、図42及び図43に示すように、開始位置SP18においてバリV18が多く発生した。
【0147】
以上のように、比較試験例11,12,21,22のように、開始位置SP12,SP13,SP17,SP18において回転ツールFを正回転(螺旋溝が左巻きで右回転又は右巻きで左回転)で挿入すると、開始位置SP12,SP13,SP17,SP18においてバリV12,V13,V17,V18がそれぞれ多く発生することが分かった。
一方、試験例11,21,22のように、開始位置SP11,SP15,SP16において回転ツールFを逆回転(螺旋溝が左巻きで左回転又は右巻きで右回転)で挿入した後に、正回転で摩擦攪拌すると、開始位置SP11,SP15,SP16においてバリV11,V15,V16がそれぞれ少なくなることが分かった。
【0148】
また、比較試験例13のように、摩擦攪拌接合時において回転ツールFを逆回転(螺旋溝が左巻きで左回転又は右巻きで右回転)とすると、トンネル状欠陥T14が発生することが分かった。
一方、試験例11,21,22のように、摩擦攪拌接合時において回転ツールFを正回転(螺旋溝が左巻きで右回転又は右巻きで左回転)で挿入すると、接合状況は良好であることが分かった。
【0149】
つまり、本発明のように、挿入時(挿入工程)においては逆回転とし、摩擦攪拌接合時(接合工程)においては正回転とすることで、開始位置におけるバリを少なくしつつ、摩擦攪拌接合時の欠陥を無くすことができることが分かった。
【符号の説明】
【0150】
1 液冷ジャケット(接合体)
2 ジャケット本体(第一被接合部材)
3 封止体(第二被接合部材)
F 回転ツール
F2 攪拌ピン
G 回転ツール
G1 基部
G2 基端側ピン
G3 先端側ピン
J1 第一突合せ部(突合せ部)
J2 第二突合せ部(突合せ部)
J3 重合部
H1,H4,H5 挿入深さ
H2 引上量
H3 挿入量
K 回転ツール
K1 基部
K2 攪拌ピン
N1,N2 回転数
L1 攪拌ピンの長さ
R1,R2,R3 移動ルート
SP1,SP2,SP3 開始位置
EP1,EP3 終了位置
W 塑性化領域
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