(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133856
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】同期PWM制御の位相補正装置および位相補正方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240926BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P27/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043852
(22)【出願日】2023-03-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔
(72)【発明者】
【氏名】中井 喬太
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE50
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ25
5H505JJ28
5H505LL22
5H505LL39
5H770BA01
5H770DA03
5H770EA01
5H770EA02
5H770EA05
5H770EA27
5H770HA02Y
5H770HA05X
(57)【要約】
【課題】同期PWM制御による運転中に、出力電圧指令とキャリア周波数の位相誤差を解消し同期状態を保つことができる位相補正装置を提供する。
【解決手段】同期PWM制御により運転中の電力変換器の出力電圧指令の位相θ
Vと、同期PWM制御におけるキャリア周波数f
Cのキャリア信号の位相との誤差を検出する位相誤差検出部と、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えたときに、当該位相誤差を補正する第1の位相補正用キャリア周波数f
cθを演算する第1のキャリア周波数演算部と、同期PWM制御による運転中は同期PWM制御におけるキャリア周波数f
Cを設定し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えた場合に、前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数f
cθに設定変更し、出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数Kp周期経過後に、再び前記キャリア周波数f
Cに戻す。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧指令とキャリア信号の位相を同期させる同期PWM制御がなされる単相又は三相の電力変換器において、
同期PWM制御により運転中の電力変換器の出力電圧指令の位相と、同期PWM制御におけるキャリア周波数のキャリア信号の位相との誤差を検出する位相誤差検出部と、
前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えたときに、当該位相誤差を補正する第1の位相補正用キャリア周波数を演算する第1のキャリア周波数演算部と、
同期PWM制御による運転中は同期PWM制御におけるキャリア周波数を設定し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えた場合に、前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更するキャリア周波数設定部と、
を備えたことを特徴とする同期PWM制御の位相補正装置。
【請求項2】
前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えているか否かを判定し、上限を超えている場合に、前記位相誤差を補正する、電力変換器のキャリア周波数の上限を超えない第2の位相補正用キャリア周波数を演算する第2のキャリア周波数演算部を備え、
前記キャリア周波数設定部は、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えていない場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えている場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第2の位相補正用キャリア周波数に設定変更することを特徴とする請求項1に記載の同期PWM制御の位相補正装置。
【請求項3】
前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が、設定した変化幅制限値を超えているか否かを判定し、変化幅制限値を超えている場合は、キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数に前記変化幅制限値を加算又は減算して第3の位相補正用キャリア周波数を演算する第3のキャリア周波数演算部を備え、
前記キャリア周波数設定部は、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えているが、第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えていないときは、キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えており、且つ第1の位相補正用キャリア周波数と前記周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えているときは、キャリア信号のキャリア周波数を設定した期間第3の位相補正用キャリア周波数に設定変更する、ことを特徴とする請求項1に記載の同期PWM制御の位相補正装置。
【請求項4】
前記キャリア周波数設定部には、同期PWM制御におけるキャリア周波数fc=Kp×f
0(Kpは出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数、f
0は電力変換器の出力周波数)が設定され、
前記位相誤差検出部は、前記出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期しており、前記パルス数Kpであるときの、出力電圧指令の設定した基準点における位相の同期位相θ’
v0を次の(3)式で定義し、
【数3】
前記出力電圧指令の設定した基準点における位相を検出した検出位相θ
v0と、前記(3)式で定義した同期位相θ’
v0との誤差を検出し、
前記第1のキャリア周波数演算部は、次の(4)式、(5)式によって第1の位相補正用キャリア周波数f
cθを演算し、
【数4】
【数5】
(ただしθ
errは同期位相θ’
v0と検出位相θ
v0の差)
前記キャリア周波数設定部における、第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間はキャリア信号のKp周期であることを特徴とする請求項1に記載の同期PWM制御の位相補正装置。
【請求項5】
前記キャリア周波数設定部には、同期PWM制御におけるキャリア周波数fc=Kp×f
0(Kpは出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数、f
0は電力変換器の出力周波数)が設定され、
前記位相誤差検出部は、前記出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期しており、前記パルス数Kpであるときの、出力電圧指令の設定した基準点における位相の同期位相θ’
v0を次の(3)式で定義し、
【数3】
前記出力電圧指令の設定した基準点における位相を検出した検出位相θ
v0と、前記(3)式で定義した同期位相θ’
v0との誤差を検出し、
前記第1のキャリア周波数演算部は、次の(4)式、(5)式によって第1の位相補正用キャリア周波数f
cθを演算し、
【数4】
【数5】
(ただしθ
errは同期位相θ’
v0と検出位相θ
v0の差)
前記第2のキャリア周波数演算部は、次の(6)式、(5)式によって第2の位相補正用キャリア周波数(f
cθ)を演算し、
【数6】
【数5】
(ただしθ
errは同期位相θ’
v0と検出位相θ
v0の差)
前記キャリア周波数設定部における、第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間はキャリア信号のKp周期であり、第2の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間はキャリア信号の(Kp-1)周期であることを特徴とする請求項2に記載の同期PWM制御の位相補正装置。
【請求項6】
前記キャリア周波数設定部には、同期PWM制御におけるキャリア周波数fc=Kp×f
0(Kpは出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数、f
0は電力変換器の出力周波数)が設定され、
前記位相誤差検出部は、前記出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期しており、前記パルス数Kpであるときの、出力電圧指令の設定した基準点における位相の同期位相θ’
v0を次の(3)式で定義し、
【数3】
前記出力電圧指令の設定した基準点における位相を検出した検出位相θ
v0と、前記(3)式で定義した同期位相θ’
v0との誤差を検出し、
前記第1のキャリア周波数演算部は、次の(4)式、(5)式によって第1の位相補正用キャリア周波数f
cθを演算し、
【数4】
【数5】
(ただしθ
errは同期位相θ’
v0と検出位相θ
v0の差)
前記第3のキャリア周波数演算部は次の(7)式によって第3の位相補正用キャリア周波数f’
cθを演算し、
【数7】
(ただしf
c_zは現在キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数、f
limはキャリア周波数の変化幅制限値)
前記(7)式のf
limの加算又は減算は次の(8)式の大小関係によって決定し、
【数8】
前記キャリア周波数設定部における、第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間と、第3の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間は、ともにキャリア信号のKp周期であることを特徴とする請求項3に記載の同期PWM制御の位相補正装置。
【請求項7】
出力電圧指令とキャリア信号の位相を同期させる同期PWM制御がなされる単相又は三相の電力変換器における同期PWM制御の位相補正方法であって、
位相誤差検出部が、同期PWM制御により運転中の電力変換器の出力電圧指令の位相と、同期PWM制御におけるキャリア周波数のキャリア信号の位相との誤差を検出する位相誤差検出ステップと、
第1のキャリア周波数演算部が、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えたときに、当該位相誤差を補正する第1の位相補正用キャリア周波数を演算する第1のキャリア周波数演算ステップと、
キャリア周波数設定部が、同期PWM制御による運転中は同期PWM制御におけるキャリア周波数を演算して設定するステップと、前記位相誤差検出ステップで検出された位相誤差が設定した閾値を超えた場合に、前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更するキャリア周波数設定変更ステップと、
を備えたことを特徴とする同期PWM制御の位相補正方法。
【請求項8】
第2のキャリア周波数演算部が、前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えているか否かを判定し、上限を超えている場合に、前記位相誤差を補正する、電力変換器のキャリア周波数の上限を超えない第2の位相補正用キャリア周波数を演算する第2のキャリア周波数演算ステップを備え、
前記キャリア周波数設定変更ステップは、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えていない場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えている場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第2の位相補正用キャリア周波数に設定変更することを特徴とする請求項7に記載の同期PWM制御の位相補正方法。
【請求項9】
第3のキャリア周波数演算部が、前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が、設定した変化幅制限値を超えているか否かを判定し、変化幅制限値を超えている場合は、キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数に前記変化幅制限値を加算又は減算して第3の位相補正用キャリア周波数を演算する第3のキャリア周波数演算ステップを備え、
前記キャリア周波数設定変更ステップは、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えているが、第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えていないときは、キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えており、且つ第1の位相補正用キャリア周波数と前記周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えているときは、キャリア信号のキャリア周波数を設定した期間第3の位相補正用キャリア周波数に設定変更する、ことを特徴とする請求項7に記載の同期PWM制御の位相補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータなどの駆動を行う電力変換器において、同期PWM制御の出力電圧指令とキャリア信号の位相誤差を補正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータなどの電力変換器において、所望の出力電圧や電流を生成するための制御方法に、出力電圧指令とキャリア信号との比較に基づいて電力変換器内のスイッチング素子をオンオフさせるPWM制御方法がある。
【0003】
特許文献1には、非同期PWM制御から同期PWM制御への切り替え、および同期PWM制御におけるパルス数切り替えにおいて、適切な切り替え条件を設けることで切り替え時の電流ショックやトルクショックを抑制する方法が提案されている。切り替え前後のキャリア信号と出力電圧指令の位相差がある範囲内であることを切り替え条件とすることを特徴とする。
【0004】
特許文献2には、同期PWM制御におけるキャリア周波数の変更タイミングを決定する方法が提案されている。出力(ロータ)の電気角とキャリア信号の位相差にある閾値を設け、その閾値を超えた場合にキャリア周波数の変更を許可することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-51129号公報
【特許文献2】特開2010-98868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同期PWM制御で重要となるのは、出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期していることであり、これにより出力電圧のパルスの対称性が保たれ、出力の低周波脈動などの問題を解消することができる。
【0007】
特許文献1では、非同期PWM制御から同期PWM制御への切り替え、または同期PWM制御のパルス数切り替えにおいて、切り替え前後のキャリア信号(三角波)と出力電圧指令の位相差がある範囲内であることを切り替え条件とする方法が提案されている。
【0008】
非同期PWM制御から同期PWM制御に切り替える際には、出力電圧指令とキャリア信号の位相差が定義された基準値の±5°程度の範囲内にあるか判定し、その判定を満足しない場合は非同期PWM制御を継続し、判定を満足する場合は同期PWM制御に切り替える。
【0009】
同期PWM制御のパルス数を切り替える際には、パルス数が奇数の場合は出力電圧指令とキャリア信号の位相は同期状態を保っているため、切り替え時の判定を不要としている。このように、特許文献1では判定を満足しない場合には非同期PWM制御から同期PWM制御への切り替えに遅延が発生する。また、同期PWM制御で駆動中に位相誤差が発生することを考慮できていない。
【0010】
特許文献2では、負荷であるモータのロータ回転速度が急変した際にも、安定的に同期PWM制御が実施される方法が提案されている。
図1に、キャリア信号とロータ電気角の位相関係の例を示す。キャリア信号の位相をθ
CA、ロータ電気角の位相をθ
mとしている。キャリア信号の1周期ごとにそのときのロータ電気角をサンプリングする(
図1のθ
m1~θ
m5)。このサンプリングされたロータ電気角の各位相は、定義された上限閾値および下限閾値と比較され、その閾値を超えた場合にキャリア周波数を変更する。
【0011】
特許文献1、2のいずれにおいても、同期PWM制御における出力周波数が一定の際の出力電圧(または出力電圧指令)とキャリア信号の位相誤差については言及されていない。同期PWM制御におけるキャリア周波数はそのときの出力周波数の整数倍とするため、理想的には出力電圧とキャリア信号の位相を一度同期させれば出力周波数が変動しない限りは位相の同期状態は保たれる。
【0012】
しかしながら、実機においてはキャリア周波数は例えばCPUやFPGAなどの制御器のクロック周波数によって分解能が決まってしまうため(キャリア周期はクロック周期の整数倍に限定されるため)、必ずしもキャリア周波数が出力周波数の整数倍とはなっていない。このようにキャリア周波数が出力周波数の整数倍からずれている場合は、出力周波数が一定であっても時々刻々と出力電圧とキャリア信号の位相誤差は大きくなり、同期状態が保たれない。
【0013】
例えば、出力周波数が600Hzのときにパルス数を9個とする同期PWM制御を考える。キャリア周波数は出力周波数とパルス数の乗算値である5400Hzとする必要がある。ここで、制御器のクロック周波数が200MHzであるとし、そのクロック周波数のカウントによってキャリア信号が生成されるとする。200M/5400の小数点以下切り捨てと考えると、200MHzのクロック周波数の37037カウントによって5400Hzとする。
【0014】
しかしながら、実際には200M/37037=5400.0054Hzとなってしまっている。この0.0054Hzの誤差は、周波数600Hzの出力電圧1周期当たり、位相が約0.00036degずれることになる。1周期当たりの位相誤差は微小であるが、例えば周波数600Hzで1分間運転したとすると位相誤差は12.96degとなる。
【0015】
このように、出力周波数が一定であったとしても出力電圧とキャリア信号の位相誤差が徐々に増加し、出力パルスの対称性が保てなくなる。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、同期PWM制御による運転中に、出力電圧指令とキャリア周波数の位相誤差を解消し同期状態を保つことができる同期PWM制御の位相補正装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための請求項1に記載の同期PWM制御の位相補正装置は、
出力電圧指令とキャリア信号の位相を同期させる同期PWM制御がなされる単相又は三相の電力変換器において、
同期PWM制御により運転中の電力変換器の出力電圧指令の位相と、同期PWM制御におけるキャリア周波数のキャリア信号の位相との誤差を検出する位相誤差検出部と、
前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えたときに、当該位相誤差を補正する第1の位相補正用キャリア周波数を演算する第1のキャリア周波数演算部と、
同期PWM制御による運転中は同期PWM制御におけるキャリア周波数を設定し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えた場合に、前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更するキャリア周波数設定部と、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載の同期PWM制御の位相補正装置は、請求項1において、
前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えているか否かを判定し、上限を超えている場合に、前記位相誤差を補正する、電力変換器のキャリア周波数の上限を超えない第2の位相補正用キャリア周波数を演算する第2のキャリア周波数演算部を備え、
前記キャリア周波数設定部は、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えていない場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えている場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第2の位相補正用キャリア周波数に設定変更することを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の同期PWM制御の位相補正装置は、請求項1において、
前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が、設定した変化幅制限値を超えているか否かを判定し、変化幅制限値を超えている場合は、キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数に前記変化幅制限値を加算又は減算して第3の位相補正用キャリア周波数を演算する第3のキャリア周波数演算部を備え、
前記キャリア周波数設定部は、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えているが、第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えていないときは、キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えており、且つ第1の位相補正用キャリア周波数と前記周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えているときは、キャリア信号のキャリア周波数を設定した期間第3の位相補正用キャリア周波数に設定変更する、ことを特徴としている。
【0020】
請求項4に記載の同期PWM制御の位相補正装置は、請求項1において、
前記キャリア周波数設定部には、同期PWM制御におけるキャリア周波数fc=Kp×f0(Kpは出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数、f0は電力変換器の出力周波数)が設定され、
前記位相誤差検出部は、前記出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期しており、前記パルス数Kpであるときの、出力電圧指令の設定した基準点における位相の同期位相θ’v0を次の(3)式で定義し、
【0021】
【0022】
前記出力電圧指令の設定した基準点における位相を検出した検出位相θv0と、前記(3)式で定義した同期位相θ’v0との誤差を検出し、
前記第1のキャリア周波数演算部は、次の(4)式、(5)式によって第1の位相補正用キャリア周波数fcθを演算し、
【0023】
【0024】
【0025】
(ただしθerrは同期位相θ’v0と検出位相θv0の差)
前記キャリア周波数設定部における、第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間はキャリア信号のKp周期であることを特徴とする。
【0026】
請求項5に記載の同期PWM制御の位相補正装置は、請求項2において、
前記キャリア周波数設定部には、同期PWM制御におけるキャリア周波数fc=Kp×f0(Kpは出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数、f0は電力変換器の出力周波数)が設定され、
前記位相誤差検出部は、前記出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期しており、前記パルス数Kpであるときの、出力電圧指令の設定した基準点における位相の同期位相θ’v0を次の(3)式で定義し、
【0027】
【0028】
前記出力電圧指令の設定した基準点における位相を検出した検出位相θv0と、前記(3)式で定義した同期位相θ’v0との誤差を検出し、
前記第1のキャリア周波数演算部は、次の(4)式、(5)式によって第1の位相補正用キャリア周波数fcθを演算し、
【0029】
【0030】
【0031】
(ただしθerrは同期位相θ’v0と検出位相θv0の差)
前記第2のキャリア周波数演算部は、次の(6)式、(5)式によって第2の位相補正用キャリア周波数(fcθ)を演算し、
【0032】
【0033】
【0034】
(ただしθerrは同期位相θ’v0と検出位相θv0の差)
前記キャリア周波数設定部における、第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間はキャリア信号のKp周期であり、第2の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間はキャリア信号の(Kp-1)周期であることを特徴とする。
【0035】
請求項6に記載の同期PWM制御の位相補正装置は、請求項3において、
前記キャリア周波数設定部には、同期PWM制御におけるキャリア周波数fc=Kp×f0(Kpは出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数、f0は電力変換器の出力周波数)が設定され、
前記位相誤差検出部は、前記出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期しており、前記パルス数Kpであるときの、出力電圧指令の設定した基準点における位相の同期位相θ’v0を次の(3)式で定義し、
【0036】
【0037】
前記出力電圧指令の設定した基準点における位相を検出した検出位相θv0と、前記(3)式で定義した同期位相θ’v0との誤差を検出し、
前記第1のキャリア周波数演算部は、次の(4)式、(5)式によって第1の位相補正用キャリア周波数fcθを演算し、
【0038】
【0039】
【0040】
(ただしθerrは同期位相θ’v0と検出位相θv0の差)
前記第3のキャリア周波数演算部は次の(7)式によって第3の位相補正用キャリア周波数f’cθを演算し、
【0041】
【0042】
(ただしfc_zは現在キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数、flimはキャリア周波数の変化幅制限値)
前記(7)式のflimの加算又は減算は次の(8)式の大小関係によって決定し、
【0043】
【0044】
前記キャリア周波数設定部における、第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間と、第3の位相補正用キャリア周波数に設定変更する期間は、ともにキャリア信号のKp周期であることを特徴としている。
【0045】
請求項7に記載の同期PWM制御の位相補正方法は、
出力電圧指令とキャリア信号の位相を同期させる同期PWM制御がなされる単相又は三相の電力変換器における同期PWM制御の位相補正方法であって、
位相誤差検出部が、同期PWM制御により運転中の電力変換器の出力電圧指令の位相と、同期PWM制御におけるキャリア周波数のキャリア信号の位相との誤差を検出する位相誤差検出ステップと、
第1のキャリア周波数演算部が、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えたときに、当該位相誤差を補正する第1の位相補正用キャリア周波数を演算する第1のキャリア周波数演算ステップと、
キャリア周波数設定部が、同期PWM制御による運転中は同期PWM制御におけるキャリア周波数を演算して設定するステップと、前記位相誤差検出ステップで検出された位相誤差が設定した閾値を超えた場合に、前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更するキャリア周波数設定変更ステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0046】
請求項8に記載の同期PWM制御の位相補正方法は、請求項7において、
第2のキャリア周波数演算部が、前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えているか否かを判定し、上限を超えている場合に、前記位相誤差を補正する、電力変換器のキャリア周波数の上限を超えない第2の位相補正用キャリア周波数を演算する第2のキャリア周波数演算ステップを備え、
前記キャリア周波数設定変更ステップは、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えていない場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器のキャリア周波数の上限を超えている場合は前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間前記第2の位相補正用キャリア周波数に設定変更することを特徴としている。
【0047】
請求項9に記載の同期PWM制御の位相補正方法は、請求項7において、
第3のキャリア周波数演算部が、前記演算された第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が、設定した変化幅制限値を超えているか否かを判定し、変化幅制限値を超えている場合は、キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数に前記変化幅制限値を加算又は減算して第3の位相補正用キャリア周波数を演算する第3のキャリア周波数演算ステップを備え、
前記キャリア周波数設定変更ステップは、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えているが、第1の位相補正用キャリア周波数と前記キャリア周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えていないときは、キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間第1の位相補正用キャリア周波数に設定変更し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えており、且つ第1の位相補正用キャリア周波数と前記周波数設定部に設定されているキャリア周波数との差が前記変化幅制限値を超えているときは、キャリア信号のキャリア周波数を設定した期間第3の位相補正用キャリア周波数に設定変更する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0048】
請求項1~9に記載の発明によれば、運転中に位相誤差を検知し、キャリア周波数を適切に変更することで位相誤差を解消し、同期状態を保つことができる。出力電圧パルスの対称性も保たれるため、出力のビート現象などを抑制することができる。
【0049】
請求項1、4、7において、演算した位相補正用のキャリア周波数が電力変換器によって制限されているキャリア周波数の上限値を超えた値となることがある。そのような場合に、キャリア周波数を上限値に設定してしまうと適切に位相補正が行えない。請求項2,5,8に記載の発明によれば、演算された位相補正用のキャリア周波数が上限値を超えた場合に、上限値を超えないキャリア周波数で、かつ位相補正が行えるキャリア周波数を再度演算し直すので、電力変換器のキャリア周波数の上限に関係なく、位相補正を実施できる。
【0050】
請求項1、4、7において、演算した位相補正用のキャリア周波数と現在設定されているキャリア周波数の差が大きくなることがある。キャリア周波数の変化幅が大きいと、キャリア周波数切替時に電流振幅が過大になる。請求項3、6、9に記載の発明によれば、キャリア周波数の変化幅に制限を設け、急峻なキャリア周波数の変化を抑制するので、電流振幅の増大を抑制しながら、キャリア周波数を変更し位相補正を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】同期PWM制御におけるキャリア信号とロータ電気角の位相関係を示す説明図。
【
図2】本発明が適用されるシステムの一例を示す構成図。
【
図3】PWM制御に使用する出力周波数に対するキャリア周波数の一例を示す説明図。
【
図4】キャリア信号に同期した出力電圧指令の位相サンプリングを示す説明図。
【
図5】本発明の位相補正法のキャリア周波数遷移を示す説明図。
【
図6】本発明の実施例1によるキャリア周波数設定のフローチャート。
【
図7】本発明の実施例2によるキャリア周波数設定のフローチャート。
【
図8】本発明の実施例3によるキャリア周波数設定のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0053】
図2に、本発明の同期PWM制御の位相補正法を適用するシステム構成の一例を示す。1は、PWM制御器2において出力電圧指令とキャリア信号を比較して生成されたゲート信号によってPWM制御が行われる電力変換器(三相インバータ)である。
【0054】
電力変換器1の出力電圧はモータ3に供給される。4U,4V,4Wは電力変換器1の三相出力電流IU,IV,IWを検出する電流センサである。5は、前記検出された三相出力電流IU,IV,IWをdq座標系のd軸電流ID、q軸電流IQに変換するuvw/dq変換器である。
【0055】
6Dはd軸電流指令ID
*とd軸電流IDとの偏差をとる減算器、6Qはq軸電流指令IQ
*とq軸電流IQとの偏差をとる減算器である。
【0056】
7は、6D、6Qの偏差出力が各々零となるように(ID、IQがID
*、IQ
*に追従するように)dq軸電圧指令VD
*、VQ
*を算出する電流制御器である。
【0057】
8は、電流制御器7から出力されるdq軸電圧指令VD
*、VQ
*を三相の電圧指令VU
*,VV
*,VW
*に座標変換してPWM制御器2に与えるdq/uvw変換器である。
【0058】
PWM制御器2は一般的に広く採用されている三角波比較PWM方式である。PWM制御器2では、出力周波数によって非同期PWM制御と同期PWM制御を切り替える。同期PWM制御のキャリア周波数は出力周波数の3の整数倍とし、(1)式を満足するようなパルス数Kp(出力電圧指令の1周期あたりのキャリア信号のパルス数)に決定する。
【0059】
【0060】
ただし、nは整数(n=0,1,2, …)とする。
【0061】
キャリア周波数の上限は対象とする電力変換器によって異なるが、本明細書で対象とする電力変換器1ではキャリア周波数の上限を8000Hzであるとする。
【0062】
図3に、出力周波数が0~1000HzまでのPWM制御に使用するキャリア周波数の一例を示す。ただし、非同期PWM制御のときにはキャリア周波数の上限とした8000Hz固定とする。非同期PWM制御から同期PWM制御の切り替えについては、出力電圧のパルス数が(1)式のn=3である21個を確保できない出力周波数fx(8000/21≒380.95Hz)になったとき、(1)式のn=2であるパルス数15個の同期PWM制御に切り替えるものとする。
【0063】
また出力電圧のパルス数が(1)式のn=2である15個を確保できない出力周波数fy(8000/15≒533.33Hz)になったとき、(1)式のn=1であるパルス数9個の同期PWM制御に切り替え、同様に出力電圧のパルス数が(1)式のn=1である9個を確保できない出力周波数fz(8000/9≒888.88Hz)になったとき、(1)式のn=0であるパルス数3個の同期PWM制御に切り替えるものとする。
【0064】
同期PWM制御におけるキャリア周波数fc[Hz]は、(2)式のようにパルス数Kpと出力周波数fo[Hz]との乗算から求める。
【0065】
【0066】
例えば、出力周波数が600Hzのときにはキャリア周波数は5400Hz(=9×600)となる。
【実施例0067】
出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期しているかは、キャリア信号に同期した周期的なタイミングで出力電圧指令の位相をサンプリングすることで判断することができる。
【0068】
図4に、パルス数Kpが9個の同期PWM制御であるときに、キャリア信号に同期した出力電圧指令の位相のサンプリングを示す。図中のθ
vは、出力電圧指令の位相である。
図4の例では、キャリア信号である三角波の谷でサンプリングしているが、三角波の山や0点などサンプリングタイミングは適宜変更してもよい。
【0069】
キャリア信号の1周期に1回サンプリングするように設定する場合は、同期PWM制御のパルス数が9個の場合には
図4のように出力電圧指令の1周期の間にサンプリングは9回行われる。9個のサンプリングされた位相を識別するために添え字に0~8の数字を付与している。
【0070】
出力電圧指令とキャリア信号の位相同期の定義はいくつか考えられるが、今回は
図4のように出力電圧指令の位相0degとキャリア信号である三角波の山から谷に遷移する間の0点が一致する状態を位相同期の定義とする。
【0071】
出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期している場合には、出力電圧指令のサンプリングされた位相θv0~θv8は一意に決まる。同期PWM制御のパルス数Kpのときのθv0の同期位相θ’v0は次の(3)式のようになる。
【0072】
【0073】
その他のθv1~θv8の同期位相も求めることができるが、同期PWM制御のどのパルス数においても必ずθv0は存在するため(例えば、パルス数15個のときにはθv0~θv14が存在するが、パルス数9個のときにはθv0~θv8となり、θv9以降は存在しない)、(3)式から求めることができる同期位相θ’v0を基準とし、この同期位相θ’v0と実際のθv0(検出位相)の誤差によって位相の同期状態を判断することとする。
【0074】
例えば、パルス数が9個のときは(3)式より同期位相θ’v0は10degである。実際のθv0も10degであれば位相誤差がなく同期しているが、θv0が15degとなっている場合は同期状態から+5degの位相誤差があることになる。
【0075】
本発明の位相補正法では、この定義している同期状態からの位相誤差がある閾値を超えた場合にキャリア周波数を(2)式の出力周波数の整数倍の値から、位相補正用のキャリア周波数に変更する。位相補正を実施する条件となる位相誤差の閾値は、例えば±5degなどのように与える。
【0076】
位相補正用のキャリア周波数fcθは、次の(4)式のように演算する。
【0077】
【0078】
ただし、θerrは同期位相θ’v0と実際の位相θv0の差であり、次の(5)式で求められる。
【0079】
【0080】
位相補正用キャリア周波数fcθは、キャリア信号のKp周期後には、再び(2)式で演算されるキャリア周波数fcに戻す。
【0081】
例えば、出力周波数600Hz、同期PWM制御のパルス数9個のときのキャリア周波数は、平常時には(2)式から演算される5400Hz(=9×600)とする。運転中に位相誤差θerrが+5degとなった場合には、(4)式から演算される位相補正用のキャリア周波数である約5476Hzに変更する。変更してからキャリア信号の9周期後には、再びキャリア周波数を5400Hzに戻す。
【0082】
図5に、本発明の位相補正法によるキャリア周波数の遷移を示す。
図5の上段のV
CAはキャリア信号を示し、下段のθvは出力電圧指令の位相を示している。同期PWM制御のパルス数Kpは9個としている。
【0083】
図5の、同期PWM制御のキャリア周波数fcで運転中において、出力電圧指令の位相θvが0degである時刻t1とキャリア信号の山から谷に遷移する間の0点となる時刻t2が一致せず、位相誤差が存在する。そしてその位相誤差が位相補正を実施する閾値を超えていた場合は時刻t3において、キャリア周波数f
cを(4)式から演算される位相補正用のキャリア周波数f
cθに変更する。変更してからキャリア信号が9周期後の時刻t5において、(2)式から演算されるキャリア周波数f
cに戻す。このとき、時刻t4に示すように位相誤差はほぼ消失しており、出力電圧指令とキャリア信号の位相が同期した状態に補正される。
【0084】
図5の位相補正法を実現するために実施例1の位相補正装置は、次に説明する位相誤差検出部、第1のキャリア周波数演算部、キャリア周波数設定部を備える。
【0085】
前記位相誤差検出部は、同期PWM制御により運転中の電力変換器1の出力電圧指令の位相(サンプリングにより取得した検出位相θv0)と、同期PWM制御におけるキャリア周波数のキャリア信号の位相に対応する(3)式で演算された同期位相θ’v0との誤差を検出する。
【0086】
前記第1のキャリア周波数演算部は、前記検出した位相誤差(θv0とθ’v0の誤差)が設定した閾値を超えたときに、当該位相誤差を補正する第1の位相補正用キャリア周波数fcθを(4)式によって演算する。
【0087】
前記キャリア周波数設定部は、同期PWM制御による運転中は同期PWM制御におけるキャリア周波数((2)式のfc)を設定し、前記検出した位相誤差が設定した閾値を超えた場合に、前記キャリア信号のキャリア周波数を、設定した期間(Kp期間)前記第1の位相補正用キャリア周波数((4)式のfcθ)に設定変更する。
【0088】
次に実施例1の位相補正装置が、電力変換器1の運転中に行うキャリア周波数設定のフローチャートを
図6とともに説明する。
図6においてまずステップS1では出力周波数によって、非同期PWM制御による運転か、同期PWM制御による運転かの判断を行う。非同期PWM制御で運転する場合(ステップS1の判定結果がNoの場合)はステップS2において非同期PWM制御キャリア周波数f’
cに設定する。
【0089】
同期PWM制御で運転する場合(ステップS1の判定結果がYesの場合)には、平常時にはステップS3において(2)式で演算される出力周波数の整数倍(fc)をキャリア周波数として設定する。
【0090】
次にステップS4において、位相誤差補正中ではないか否かを判定し、位相誤差補正中ではない場合はステップS5において、同期状態を判断するために出力電圧指令の位相θv0をサンプリングにより取得する(検出位相θv0)。
【0091】
次にステップS6では、前記検出位相θv0と(3)式で演算した同期位相θ’v0)の位相誤差が閾値を超過しているか否かを判定する。ステップS6の判定結果が「超過している」場合はステップS7において、(4)式を演算して第1の位相補正用キャリア周波数fcθを求め、ステップS8において、キャリア周波数を第1の位相補正用キャリア周波数fcθに設定変更する。
【0092】
前記ステップS4の判定処理において位相誤差補正中であると判定された場合は、ステップS9において位相補正開始からKp周期未満か否かを判定する。
【0093】
ステップS9の判定結果がKp周期未満である間は、ステップS8の実行により第1の位相補正用キャリア周波数fcθのままの設定とし、Kp周期が経過したら(ステップS9の判定結果がNoとなったら)ステップS10において、再び(2)式で演算されるキャリア周波数fcに設定する。
【0094】
このように位相補正を実施することで、同期PWM制御で運転中に出力電圧指令とキャリア信号の位相誤差が生じた場合においてもキャリア周波数を一時的に変更することで位相の同期状態が保たれる。
【0095】
本発明が適用される
図2は、モータ3を負荷とする電力変換器1、すなわち三相インバータ(DC/AC変換器)での構成例である。ただし、本発明はこれに限らず、モータ以外の負荷にも適用できるし、単相インバータに適用してもよい。すなわち、キャリア周波数を備える電力変換器全般に適用できる発明である。
スイッチング時に発生するスイッチング素子の損失と温度上昇と、キャリア信号を生成する制御回路の演算速度等の関係で、キャリア周波数には上限がある。実施例1のように、(4)式によって第1の位相補正用のキャリア周波数fcθを演算した際に、出力周波数や位相誤差の条件によって電力変換器によって制限されているキャリア周波数の上限を超えてしまう可能性がある。前述したように対象とする電力変換器のキャリア周波数の上限を8000Hzとする。出力周波数880Hz(同期PWM制御のパルス数は9個)、位相誤差+5degとして(4)式を演算すると、位相補正用のキャリア周波数は約8031Hzとなり、上限を超えてしまう。
そこで、実施例2では電力変換器のキャリア周波数の上限超過を回避し位相を補正する。すなわち、(4)式の演算結果がキャリア周波数の上限を超えた場合には、位相補正用のキャリア周波数を次の(6)式にて演算し直す。
出力周波数880Hz、位相誤差+5degとして(6)式により位相補正用のキャリア周波数を演算すると約7139Hzとなり、電力変換器のキャリア周波数の上限8000Hzを超えない。キャリア信号の(Kp-1)周期後には(2)式で演算されるキャリア周波数に戻す。位相補正用キャリア周波数から出力周波数の整数倍である元のキャリア周波数に戻すタイミングが、(4)式を適用している場合はキャリア信号のKp周期後、(6)式を適用している場合はキャリア信号の(Kp-1)周期後のように異なるので、どちらの方程式から求めたキャリア周波数によって位相補正を行っているか判断するための判別フラグなどを用意する必要がある。
上記の位相補正法を実現するために実施例2の位相補正装置は、次に説明する位相誤差検出部、第1のキャリア周波数演算部、第2のキャリア周波数演算部、キャリア周波数設定部を備える。
前記第2のキャリア周波数演算部は、前記(4)式により演算された第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器1のキャリア周波数の上限を超えているか否かを判定し、上限を超えている場合に、前記位相誤差を補正する、電力変換器のキャリア周波数の上限を超えない第2の位相補正用キャリア周波数((6)式のfcθ)を演算する。
同期PWM制御で運転する場合(ステップS1の判定結果がYesの場合)には、平常時にはステップS3において(2)式で演算される出力周波数の整数倍(fc)をキャリア周波数として設定する。
次にステップS4において、位相誤差補正中ではないか否かを判定し、位相誤差補正中ではない場合はステップS5において、同期状態を判断するために出力電圧指令の位相θv0をサンプリングにより取得する(検出位相θv0)。
次にステップS21において、ステップS7で演算された第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器の上限キャリア周波数を超えているか否かを判定する。ステップS21の判定結果がYesの場合はステップS22において、前記(6)式の第2の位相補正用キャリア周波数(fcθ)を演算し、ステップS23において(6)式で演算された第2の位相補正用キャリア周波数(fcθ)が設定される。
尚、ステップS21の判定結果がNoである場合(第1の位相補正用キャリア周波数が電力変換器の上限キャリア周波数を超えていない場合)は、ステップS23において第1の位相補正用キャリア周波数fcθが設定される。
前記ステップS4の判定結果がNoである場合(位相誤差補正中である場合)は、ステップS24において位相誤差補正開始からKp又はKp-1周期未満であるか否かが判定される。
このステップS24では、(4)式の第1の位相補正用キャリア周波数か、又は(6)式の第2の位相補正用キャリア周波数を適用して位相補正を行っているのかを判断する判別フラグが用意されており、(4)式による位相補正が行われている場合はKp周期未満か否かを判定し、(6)式による位相補正が行われている場合はKp-1周期未満か否かを判定する。
ステップS24の判定結果が、Yesの場合はステップS23へ戻り、Noの場合(Kp又はKp-1周期が経過した場合)はステップS25において、再び(2)式で演算されるキャリア周波数fcに設定する。
実施例1のように(4)式の演算結果が電力変換器のキャリア周波数の上限を超過した場合に、例えばその上限によってキャリア周波数は制限されたとすれば位相補正が正確に行われないことになる。実施例2ではキャリア周波数の上限を超過しない第2の位相補正用のキャリア周波数が設定されるため、位相補正が正確に行われることになる。