(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133881
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/16 20060101AFI20240926BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240926BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20240926BHJP
【FI】
B32B27/16 101
B32B27/18 F
C08J7/046 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043883
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】表 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】江田 俊和
(72)【発明者】
【氏名】糸部 悟
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英汰
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB37
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4F100JN01
(57)【要約】
【課題】良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備えたハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】基材上の少なくとも一方の面に、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有する。前記ハードコート層は、さらに無機系金属粒子を含有する。前記無機系金属粒子が、前記ハードコート層の前記基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内に、0.03質量%以上存在している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一方の面に、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有するハードコートフィルムにおいて、前記ハードコート層は、さらに無機系金属粒子を含有し、前記無機系金属粒子が、前記ハードコート層の前記基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内に、0.03質量%以上存在していることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記無機系金属粒子は、少なくとも銀成分を含む無機材料であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層は、さらに帯電防止剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層は、さらに無機微粒子を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層は、さらに防曇剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層は、さらに有機微粒子を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
前記基材上の前記ハードコート層と反対の面、もしくは前記基材と前記ハードコート層との間に、金属または金属酸化物からなる薄膜が少なくとも1層以上積層されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性・抗ウイルス性を有するハードコートフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、特に感染症対策の観点から、人の手が表面に直接触れたりする可能性のある、たとえばフェイスシールド用フィルム、パーティション用フィルム、ウィンドウフィルム、電子機器等のタッチパネル用フィルムなどは、抗菌性・抗ウイルス性を有していることが要望されている。
【0003】
従来技術としては、たとえば、フィルム基材上に、抗菌剤等を含有する抗菌ハードコート層が積層されたハードコートフィルムが種々提案されている(例えば、特許文献1乃至3等を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-216750号公報
【特許文献2】特開2010-234523号公報
【特許文献3】特開2012-208169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来より、抗菌性を備えたハードコートフィルムは種々提案されているが、最近では、抗菌性だけではなく、良好な抗ウイルス性も兼ね備えたものが要望されている。また、用途によっては、抗菌性・抗ウイルス性に加えて、たとえば、帯電防止性能、高硬度、防曇性、高ヘイズ、遮熱性(つまり遮熱乃至は断熱性)なども要求されており、このようにハードコートフィルムに対する機能的要求は高まってきている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、第1に、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備えたハードコートフィルムを提供することであり、第2に、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに帯電防止性能を有するハードコートフィルムを提供することであり、第3に、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに高硬度のハードコートフィルムを提供することであり、第4には、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに防曇性を有するハードコートフィルムを提供することであり、第5には、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに高ヘイズ値を有するハードコートフィルムを提供することであり、第6には、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに遮熱性を有するハードコートフィルムを提供することである。またさらには、良好な抗菌性及び抗ウイルス性に加え、上記の帯電防止性能、高硬度、防曇性、高ヘイズや遮熱性等のうちの複数の性能をも兼備えるハードコートフィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため鋭意検討を行い、得られた種々の知見に基づき完成したものである。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0008】
(第1の発明)
基材上の少なくとも一方の面に、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有するハードコートフィルムにおいて、前記ハードコート層は、さらに無機系金属粒子を含有し、前記無機系金属粒子が、前記ハードコート層の前記基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内に、0.03質量%以上存在していることを特徴とするハードコートフィルムである。
【0009】
(第2の発明)
前記無機系金属粒子は、少なくとも銀成分を含む無機材料であることを特徴とする第1の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0010】
(第3の発明)
前記ハードコート層は、さらに帯電防止剤を含有することを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0011】
(第4の発明)
前記ハードコート層は、さらに無機微粒子を含有することを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0012】
(第5の発明)
前記ハードコート層は、さらに防曇剤を含有することを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0013】
(第6の発明)
前記ハードコート層は、さらに有機微粒子を含有することを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0014】
(第7の発明)
前記基材上の前記ハードコート層と反対の面、もしくは前記基材と前記ハードコート層との間に、金属または金属酸化物からなる薄膜が少なくとも1層以上積層されてなることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備えたハードコートフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに帯電防止性能を有するハードコートフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに高硬度のハードコートフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに防曇性を有するハードコートフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに高ヘイズ値を有するハードコートフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに遮熱性を有するハードコートフィルムを提供することができる。
さらには、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性に加え、上記の帯電防止性能、高硬度、防曇性、高ヘイズや遮熱性等のうちの複数の性能をも兼備えるハードコートフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
なお、本発明において、特に断りの無い限り、「○○~△△」との記載は「○○以上△△以下」を意味するものとする。
【0017】
以下に、本発明のハードコートフィルムについて説明する。
本発明のハードコートフィルムは、上記のとおり、基材上の少なくとも一方の面に、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有し、前記ハードコート層は、さらに無機系金属粒子を含有し、前記無機系金属粒子が、前記ハードコート層の前記基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内に、0.03質量%以上存在していることを特徴とするハードコートフィルムである。
【0018】
本発明のハードコートフィルムは、例えば、フェイスシールド用フィルム、パーティション用フィルム、ウィンドウフィルム、テーブルカバー用フィルム、バスミラー用フィルム、冷凍冷蔵庫窓用フィルム、あるいは電子機器等のディスプレイ用またはタッチパネル用フィルム、等々に好ましく適用することができる。勿論、ここに挙げた用途はほんの一例であり、これらの用途に限定されるものではない。
【0019】
このハードコートフィルムの被塗工基材としては、通常フィルム基材が用いられる。
本発明において使用されるフィルム基材は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレングリシジルメタクリレート、芳香族式ポリイミド、脂環式ポリイミド、ポリアミドイミド及びこれらの混合物を例示することができる。これらのフィルム基材のなかでも、特にポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートが好適である。
【0020】
本発明のハードコートフィルムを、例えば、フェイスシールド用フィルムとして用いる場合は、フィルム基材は、透明性や価格的に有利という観点から、トリアセチルセルロースやポリエチレンテレフタレートが好ましく、パーティション用フィルムやウィンドウフィルムとして用いる場合には、フィルム基材は、アクリル系樹脂フィルムや、耐衝撃性や価格的に有利という観点から、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートが好ましい。基材には紫外線カット性能を有することも可能である。
【0021】
上記フィルム基材の厚さは、用途によっても異なるので一概には言えないが、通常、10~1000μmの範囲が好ましく、より好ましくは20μm~300μmの範囲である。
【0022】
次に、上記ハードコート層について説明する。
上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、被膜を形成する樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、特にハードコート層の表面硬度(耐擦傷性)を付与し、また、紫外線等の露光量によって架橋度合を調節することが可能であり、ハードコート層の表面硬度の調節が可能になるという点で電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、紫外線(以下、「UV」と略記する。)や電子線(以下、「EB」と略記する。)を照射することによって硬化する樹脂であれば、特に限定されるものではないが、塗膜硬度及びハードコート層が3次元的な架橋構造を形成するために1分子内に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するUVまたはEBにて硬化可能な多官能アクリレートからなるものが好ましい。UVまたはEB硬化可能な多官能アクリレートの具体例としては、ウレタンアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げることができる。なお、多官能アクリレートは単独で使用するだけでなく、2種以上の複数を混合し使用してもよい。
【0024】
さらに、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が例えば700~3600の範囲内であるポリマーを用いることが好ましく、重量平均分子量を官能基数で割ったときの数字が50~1500の範囲のものが好ましい。重量平均分子量を官能基数で割ったときの数字が50未満の場合、ハードコートフィルムがハードコート層面側に反りかえる現象(カール)が大きくなり、その後の加工工程に不具合が生じ、加工適性が悪い。また、重量平均分子量を官能基数で割ったときの数字が1500を超えると、硬度が不足するため適さない。
【0025】
また、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が1500未満である場合は、1分子中の官能基数は3個以上10個未満であることが望ましい。また、上記電離放射線硬化型樹脂の重量平均分子量が1500以上である場合は、1分子中の官能基数は3個以上20個以下であることが望ましい。上記範囲内であれば、高温条件下でのクラックの発生を抑えつつ、カールが抑制でき、適切な加工適性を維持できる。例えば、ウィンドウフィルムの用途には好適である。
【0026】
また、上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、上述の電離放射線硬化型樹脂の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、スチレン-アクリル、繊維素等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ、珪素樹脂等の熱硬化性樹脂をハードコート層の硬度、耐擦傷性を損なわない範囲内で配合してもよい。
【0027】
本発明では、上記ハードコート層に無機系金属粒子を含有させることにより、良好な抗菌性及び抗ウイルス性(「抗菌性・抗ウイルス性」とも表記する。)を備えたハードコートフィルムを得ることが可能である。
【0028】
本発明に用いられる上記無機系金属粒子とは、無機化合物(無機材料)に、例えば、銀、モリブデン、銅、亜鉛等の金属イオンを取り込んで形成した物質、あるいは、銀、モリブデン、銅、亜鉛等の金属イオンを無機化合物(無機材料)に担持させた物質である。
本発明に用いられる無機系金属粒子の具体例としては、例えば、無機化合物のゼオライト、アパタイト、ジルコニア等の物質に銀、モリブデン、銅、亜鉛等のうちの少なくともいずれかの金属イオンを取り込んで形成した抗菌性・抗ウイルス性ゼオライト、抗菌性・抗ウイルス性アパタイト、抗菌性・抗ウイルス性ジルコニア等の無機系抗菌・抗ウイルス剤が使用できる。また、銀、モリブデン、銅、亜鉛等のうちの少なくともいずれかの金属イオンをゼオライト、アパタイト、ジルコニア、ガラス等に担持させた化合物なども好ましく挙げられる。これらの金属イオンを無機材料に担持させることで、経時での金属成分の脱落を防ぐことができる。
【0029】
本発明に用いられる無機系金属粒子としては、生体毒性が無く安全性に優れる観点から、銀イオン(銀成分)を含む銀系材料が好ましい。中でも、例えば、リン酸系ガラス銀担持化合物や、銀ゼオライト化合物は、少量でも抗菌性・抗ウイルス性能を発現することから添加量を抑制することができるため、より好ましい。また、銀とモリブデンの両成分を含む銀-モリブデン系材料も、良好な抗菌性・抗ウイルス性能を発現することから、本発明において好ましく用いることができる。本発明における上記無機系金属粒子は、少なくとも銀成分を含む無機材料であることが好ましい。
【0030】
上記無機系金属粒子の平均粒子径は、例えば、1~30,000nmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは平均粒子径2.5~20,000nmの範囲である。平均粒子径が1nm未満であると、材料が限定的で入手が困難である。一方、平均粒子径が30,000nmを超えると、ハードコート塗料への分散性が悪化し、塗工した際に粒状感が残ってしまう。
【0031】
上記無機系金属粒子の添加量は、本発明では特に限定される必要はないが、例えば、上記ハードコート層中の固形分に対して、0.20質量%~10質量%の範囲である。添加量が0.20質量%未満であると、抗菌性・抗ウイルス性が十分に発現されない。一方、添加量が10質量%を超えると、透明性が低くなり、フェイスシールドやウィンドウフィルム等の視認性が求められる場合には、著しく視認性が劣ってしまう。
【0032】
なお、本発明において、特に断りの無い限り、「ハードコート層中の固形分」との記載は「ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用塗工液(ハードコート用塗料)中の固形分」を意味するものとする。また、固形分とは、例えば樹脂、添加剤等の固形分である。
【0033】
特に、前記の銀系材料や、銀-モリブデン系材料は、少量の添加量でも良好な抗菌性・抗ウイルス性能を発現することから、添加量は、上記ハードコート層中の固形分に対して、0.20質量%~5.0質量%の範囲とすることができる。
なお、上記無機系金属粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
本発明者らは、鋭意検討の結果、上記無機系金属粒子の添加量が、上記範囲内であっても、抗菌性・抗ウイルス性が十分に発現されるためには、ハードコート層の表層、具体的には前記ハードコート層の前記基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内に、上記無機系金属粒子が、0.03質量%以上存在していることが必要であることを見出した。
【0035】
なぜならば、ハードコート層が、抗菌性・抗ウイルス性を十分に発現するためには、細菌やウイルスが無機系金属粒子と接触することが必要であり、そのためには、ハードコート層の基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内に無機系金属粒子が一定量以上存在することが重要である。
【0036】
ハードコート層の基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内の無機系金属粒子の存在量は、質量%で規定することができ、例えば、走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線解析装置を用いて、その量を測定することができる。
【0037】
本発明において、上記ハードコート層にさらに帯電防止剤を含有させることが好ましい実施形態である。上記無機系金属粒子を含有するハードコート層にさらに帯電防止剤を含有させることにより、良好な抗菌性・抗ウイルス性と帯電防止性能を兼ね備えたハードコート層を有するハードコートフィルムを得ることができる。
【0038】
このような帯電防止剤の種類としては、特に制約はされないが、例えば金属系導電性フィラー、非金属性導電性フィラー、カーボン系導電性フィラーのような導電性フィラーや有機系帯電防止剤からなる帯電防止剤を必要に応じて有機化合物からなるバインダー中に分散させたものを好ましく用いることができる。本発明においては、例えば4級アンモニウム塩系の帯電防止剤を好ましく用いることができる。
【0039】
上記帯電防止剤、例えば4級アンモニウム塩系の帯電防止剤を用いる場合、その添加量は、本発明では特に制約はされないが、例えば、上記ハードコート層中の固形分に対して、1質量%~20質量%の範囲である。添加量が1質量%未満であると、十分な帯電防止性能が得られない。一方、添加量が20質量%を超えると、塗膜強度が低下するおそれがある。
【0040】
また、本発明では、上記ハードコート層に無機微粒子を含有させ、表面硬度(耐擦傷性、鉛筆硬度)の更なる向上を図ることが可能である。すなわち、上記無機系金属粒子を含有するハードコート層にさらに無機微粒子を含有させることにより、良好な抗菌性・抗ウイルス性を有し、かつ高硬度のハードコート層を有するハードコートフィルムを得ることができる。
【0041】
この場合、無機微粒子の平均粒子径は5~200nmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは平均粒子径10~80nmの範囲である。平均粒子径が5nm未満であると、十分な表面硬度を得ることが困難である。一方、平均粒子径が200nmを超えると、ハードコート層の光沢及び透明性が低下し易く、また可撓性も低下するおそれがある。
【0042】
上記無機微粒子としては、例えばシリカやアルミナなどの無機酸化物微粒子を挙げることができる。アルミニウムを主成分とするアルミナは高硬度を有するため、シリカよりも少ない添加量で効果を得られる。
【0043】
上記無機微粒子の添加量は、本発明では特に制約はされないが、例えば、上記ハードコート層中の固形分に対して、10質量%~60質量%の範囲である。添加量が10質量%未満であると、十分な表面硬度が得られ難い。一方、添加量が60質量%を超えると、透明性や見映えの低下が生じ、フェイスシールドやウィンドウフィルム等の視認性が求められる場合には、著しく視認性が劣ってしまう。
【0044】
本発明において、上記ハードコート層に防曇剤を含有させることができる。上記無機系金属粒子を含有するハードコート層にさらに防曇剤を含有させることにより、良好な抗菌性・抗ウイルス性と防曇性を兼ね備えたハードコート層を有するハードコートフィルムを得ることができる。
【0045】
このような防曇剤としては、親水性領域を形成するような物質であれば特に制約されることなく使用可能であるが、例えば、脂肪酸石鹸、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、第4アンモニウム基を持つ陽イオン界面活性剤、長鎖アルキルアミノ酸等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤、等の界面活性剤や、フッ素系界面活性剤や、グリコシルエチルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、2-ヒドロキシルエチルメタクリレート、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-(2-メタクロイルオキシエチル)-2-ピロリドン、グリセリルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート等のヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレート類、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、N-ビニルラクタム類、等の親水性モノマー及びこれらのモノマーからなるポリマー等を挙げることができる。また、親水性物質として、アニオン系の親水基(例えばスルホン酸基など)を有するシランカップリング剤や、親水性のモノマー及びビニル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、アリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基等の反応性末端基とスルホン基、水酸基、アンモニウムクロライドなどの親水性部分を持つ反応性界面活性剤を用いることもできる。
【0046】
上記防曇剤の添加量は、本発明では特に制約はされないが、例えば、上記ハードコート層中の固形分に対して、10質量%~70質量%の範囲である。添加量が10質量%未満であると、防曇性が十分に得られない。一方、添加量が70質量%を超えると、フィルムの耐擦傷性が低下するおそれがある。
【0047】
本発明において、基材上のハードコート層と反対の面、もしくは基材とハードコート層との間に、金属または金属酸化物からなる薄膜を少なくとも1層以上積層させることができる。金属または金属酸化物からなる層を設けることにより、ハードコートフィルムの遮熱効果(遮熱性)が得られる。
具体的な金属または金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、銀、金、ニッケル、コバルト、及びステンレス、及びそれらの合金、二酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、及び酸化タングステンなどが挙げられる。
【0048】
上述の金属または金属酸化物からなる層(薄膜)の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、化学蒸着法(CVD法)等の公知の薄膜形成方法を適用することができる。
上述の金属または金属酸化物からなる層(薄膜)の厚みは、10~1000nmの範囲であることが好ましい。厚みが10nm未満であると、十分な遮熱効果が得られず、また、1000nm以上を超えると透明性が低下する傾向が認められ、ウィンドウフィルム等の視認性が求められる用途には適さない場合がある。
【0049】
上記ハードコート層に含有される電離放射線硬化型樹脂を硬化させるため、上記ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用塗工液(ハードコート用塗料)には、公知の光重合開始剤を含むことができる。そのような光重合開始剤としては、アセトフェノン類やベンゾフェノン類を使用できる。
【0050】
また、上記ハードコート層には、塗工性の改善を目的にレベリング剤(表面改質剤)の使用が可能であり、たとえばフッ素系、アクリル系、シロキサン系、及びそれらの付加物或いは混合物などの公知のレベリング剤を使用可能である。
【0051】
また、本発明のハードコートフィルムに防汚性を付与するためには、上記ハードコート層に、フッ素系やシロキサン系等の防汚剤(レベリング剤または界面活性剤など)を添加することができる。防汚剤の添加量としては、特に制約はされないが、ハードコート用塗料中の樹脂固形分に対して、0.05質量%~2.0質量%が好ましい。
【0052】
また、本発明のハードコートフィルムに不透明性を付与するためには、例えば上記ハードコート層のヘイズ値を高めることが好適である。そのためには、上記ハードコート層に有機微粒子や無機微粒子を添加する方法が挙げられる。ハードコート層中に有機微粒子や無機微粒子が存在することに起因し光が屈折、散乱することでヘイズが発現する。有機微粒子としては、アクリル、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、ポリエチレン、スチレンアクリル、ポリエステル等の微粒子を例示することができ、無機微粒子としては、アルミナ、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン、酸化セリウム等の微粒子を例示することができる。
ヘイズ値を高めるために、上記微粒子の添加量は、ハードコート層中の固形分に対して、10質量%~80質量%の範囲が好適である。
【0053】
上記ハードコート層に添加するその他の添加剤として、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、光安定剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0054】
上記ハードコート層は、上述の無機系金属粒子、電離放射線硬化型樹脂の他に、上記の帯電防止剤、無機微粒子、有機微粒子、防曇剤や、光重合開始剤、その他の添加剤等を適当な溶媒に溶解、分散したハードコート層形成用塗工液を、上記被塗工基材上に塗工、乾燥した後、UV又はEB等の電離放射線を照射することにより形成することができる。電離放射線硬化型樹脂を用いることにより、電離放射線照射で光重合が起こりハード性に優れるハードコート層を得ることができる。
【0055】
溶媒としては、配合される上記樹脂等の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、その他の上記添加剤等)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、n-ヘプタンなどの芳香族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール系等のアルコール系溶剤等の公知の有機溶媒を単独或いは適宜数種類組み合わせて使用することもできる。
【0056】
また、上記塗工液の濃度(固形分濃度)については、特に制約はされないが、例えば10質量%~70質量%程度の範囲とすることができる。
【0057】
上記ハードコート層形成用塗工液を基材上に塗工、乾燥した後の電離放射線(UV、EB等)の照射量は、ハードコート層に十分なハード性を持たせるに必要な照射量であればよく、電離放射線硬化型樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0058】
上記ハードコート層を形成するためのハードコート形成用塗工液の塗工方法については、特に限定はないが、グラビア塗工、マイクログラビア塗工、ファウンテンバー塗工、スライドダイ塗工、スロットダイ塗工、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の公知の塗工方式が挙げられる。
【0059】
また、塗工後の乾燥工程における乾燥温度、加熱時間(乾燥時間)については適宜設定することができる。
【0060】
上記ハードコート層の塗膜厚さ(乾燥後)は、ハードコートフィルムの用途によっても異なるため、特に制約される必要はないが、一般には例えば1.0μm~20.0μmの範囲であることが好適である。塗膜厚さが1.0μm未満では、必要な表面硬度が得られ難いため好ましくない。また、塗膜厚さが20.0μmを超えた場合は、カールが発生しやすく製造工程などで取扱い性が低下するため好ましくない。
【0061】
本発明のハードコートフィルムは、基材上の少なくとも一方の面に、少なくとも無機系金属粒子および電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を設けたものであるが、層構成の具体例(実施態様)を以下に挙げる。
(実施態様1)
基材上の両方の面にそれぞれ上記ハードコート層を設け、一方は、層中に本発明の無機系金属粒子と帯電防止剤を含有し、抗菌性・抗ウイルス性と帯電防止性能を有するハードコート層であり、他方は、層中に本発明の無機系金属粒子と防曇剤を含有し、抗菌性・抗ウイルス性と防曇性を有するハードコート層である。あるいは、同じく基材上の両方の面にそれぞれ上記ハードコート層を設け、一方は、層中に本発明の無機系金属粒子と無機微粒子を含有し、抗菌性・抗ウイルス性を有し、かつ高硬度のハードコート層であり、他方は、上記の抗菌性・抗ウイルス性と防曇性を有するハードコート層である。
このようなハードコートフィルムの実施態様は、例えば、フェイスシールド用フィルムとして好適である。
【0062】
(実施態様2)
基材上の一方の面に、上記の抗菌性・抗ウイルス性と帯電防止性能を有するハードコート層を設ける。あるいは、基材上の一方の面に、上記の抗菌性・抗ウイルス性を有し、かつ高硬度のハードコート層を設ける。いずれの実施態様においても、基材上の他方の面(ハードコート層を設けた面とは反対面)には、ハードコートフィルムを、パーティション、ウィンドウ、テーブルカバー、電子機器のタッチパネル等の部材に貼着するための粘着層を設けることができる。
このようなハードコートフィルムの実施態様は、例えば、パーティション用フィルム、ウィンドウフィルム、テーブルカバー用フィルム、あるいは電子機器等のディスプレイ用またはタッチパネル用フィルムとして好適である。
【0063】
(実施態様3)
基材上の一方の面に、上記の抗菌性・抗ウイルス性と防曇性を有するハードコート層を設ける。また、基材上の他方の面(ハードコート層を設けた面とは反対面)には、ハードコートフィルムを、ウィンドウ、バスミラー、冷凍冷蔵庫窓等の部材に貼着するための粘着層を設けることができる。
このようなハードコートフィルムの実施態様は、例えば、ウィンドウフィルム、バスミラー用フィルム、冷凍冷蔵庫窓用フィルムとして好適である。
【0064】
(実施態様4)
基材上の一方の面に、上記の抗菌性・抗ウイルス性と帯電防止性能を有するハードコート層を設け、あるいは、基材上の一方の面に、上記の抗菌性・抗ウイルス性を有し、かつ高硬度のハードコート層を設ける。このいずれの実施態様においても、さらに、基材上の他方の面(ハードコート層を設けた面とは反対面)、もしくは基材とハードコート層との間には、金属または金属酸化物からなる薄膜を少なくとも1層以上積層させることができる。
このようなハードコートフィルムの実施態様は、遮熱効果が求められる例えば、パーティション用フィルム、ウィンドウフィルムとして好適である。
【0065】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を有するハードコートフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と帯電防止性能を有するハードコートフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を有し、かつ高硬度のハードコートフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と防曇性を有するハードコートフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、さらに高ヘイズ値を有するハードコートフィルムを提供することができる。さらには、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と遮熱効果を有するハードコートフィルムを提供することができる。またさらには、良好な抗菌性及び抗ウイルス性に加え、上記の帯電防止性能、高硬度、防曇性、高ヘイズや遮熱性等のうちの複数の性能をも兼備えるハードコートフィルムを提供することができる。
【実施例0066】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記の記載中、「部」は別途記載がない限り質量部を、「%」は別途記載がない限り質量%を意味する。
【0067】
(実施例1)
[ハードコート層形成用塗工液の調製]
ウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)95部を主剤とし、イルガキュア184(光重合開始剤、BASF社製)3.5部と、表面改質剤(メガファックR-08MH;DIC(株)製)を1.5%(対固形分0.5%)、本発明の無機系金属粒子として銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を0.15%(対固形分0.5%)の割合で配合し、酢酸ブチル/n-プロピルアルコール=50/50(重量部)にて希釈して最終固形分濃度30%のハードコート層形成用塗工液(以下、「ハードコート用塗料」とも呼ぶ。)を調製した。
【0068】
[ハードコートフィルムの作製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材フィルム(フィルム厚50μm)の片面に、上記組成からなるハードコート用塗料を、バーコーターを用いて塗工した後、80℃の乾燥炉で60秒間乾燥させ、乾燥後の膜厚が4.0μmのハードコート層を形成した。次いで、このハードコート層に対して、塗布面より60mmの高さにセットされたUV照射装置を用い、UV照射量200mJ/cm2の紫外線照射により硬化させ、本実施例1のハードコートフィルムを作製した。
【0069】
(実施例2)
実施例1におけるハードコート用塗料中の銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を、0.13%(対固形分0.42%)の割合で配合した以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、実施例2のハードコートフィルムを作製した。
【0070】
(実施例3)
実施例1におけるハードコート用塗料中の銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を、0.08%(対固形分0.28%)の割合で配合した以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、実施例3のハードコートフィルムを作製した。
【0071】
(実施例4)
[ハードコート用塗料の調製]
ウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)95部を主剤とし、イルガキュア184(光重合開始剤、BASF社製)3.5部と、表面改質剤(メガファックR-08MH;DIC(株)製)を1.5%(対固形分0.5%)、4級アンモニウム塩系帯電防止剤(1SX-1055F(商品名);大成ファインケミカル(株)製)5部、本発明の無機系金属粒子として銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を0.15%(対固形分0.5%)の割合で配合し、酢酸ブチル/n-プロピルアルコール=50/50(重量部)にて希釈して最終固形分濃度30%のハードコート層形成用塗工液を調製した。
【0072】
[ハードコートフィルムの作製]
上記組成からなるハードコート用塗料を用い、乾燥後の膜厚が4.0μmのハードコート層としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のハードコートフィルムを作製した。
【0073】
(実施例5)
[ハードコート用塗料の調製]
ウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)95部を主剤とし、イルガキュア184(光重合開始剤、BASF社製)3.5部と、シリカ微粒子(平均粒子径50nm)30部、表面改質剤(メガファックR-08MH;DIC(株)製)を1.5%(対固形分0.5%)、本発明の無機系金属粒子として銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を0.15%(対固形分0.5%)の割合で配合し、酢酸ブチル/n-プロピルアルコール=50/50(重量部)にて希釈して最終固形分濃度30%のハードコート層形成用塗工液を調製した。
【0074】
[ハードコートフィルムの作製]
上記組成からなるハードコート用塗料を用い、乾燥後の膜厚が4.0μmのハードコート層としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5のハードコートフィルムを作製した。
【0075】
(実施例6)
[ハードコート用塗料の調製]
フッ素系界面活性剤(防曇剤)を含有し、ウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(アイカアイトロンZ-942-4(商品名);アイカ工業(株)製)を99.7%、本発明の無機系金属粒子として銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を0.15%(対固形分0.5%)の割合で配合し、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)にて希釈して最終固形分濃度40%のハードコート用塗料を調製した。
【0076】
[ハードコートフィルムの作製]
上記組成からなるハードコート用塗料を用い、乾燥後の膜厚が4.0μmのハードコート層としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6のハードコートフィルムを作製した。
【0077】
(実施例7)
[ハードコート用塗料の調製]
ウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)90部を主剤とし、イルガキュア184(光重合開始剤、BASF社製)3.5部と、有機微粒子(KMP-605;信越シリコーン社製:平均粒子径2μm)30部、表面改質剤(メガファックR-08MH;DIC(株)製)を1.5%(対固形分0.5%)、本発明の無機系金属粒子として銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を0.15%(対固形分0.5%)の割合で配合し、酢酸ブチル/n-プロピルアルコール=50/50(重量部)にて希釈して最終固形分濃度30%のハードコート層形成用塗工液を調製した。
【0078】
[ハードコートフィルムの作製]
上記組成からなるハードコート用塗料を用い、乾燥後の膜厚が4.0μmのハードコート層としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7のハードコートフィルムを作製した。
【0079】
(実施例8)
実施例4のハードコートフィルムの基材上のハードコート層と反対面に、酸化インジウム・錫化合物(ITO)層を、スパッタ装置(マグネトロンスパッタMSP-40T(商品名);(株)真空デバイス製)にて、厚み600nmを塗設し、実施例8のハードコートフィルムを作製した。
【0080】
(実施例9)
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材フィルム(フィルム厚50μm)の片面に、酸化インジウム・錫化合物(ITO)層を、スパッタ装置(マグネトロンスパッタMSP-40T(商品名);(株)真空デバイス製)にて、厚み600nmを塗設した。その上に、実施例4と同様のハードコート用塗料を用い、乾燥後の膜厚が4.0μmのハードコート層を設け、実施例9のハードコートフィルムを作製した。
【0081】
(比較例1)
実施例1におけるハードコート用塗料中の銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を含有しない(省いた)こと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、比較例1のハードコートフィルムを作製した。
【0082】
(比較例2)
実施例1におけるハードコート用塗料中の銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を、0.02%(対固形分0.07%)の割合で配合した以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、比較例2のハードコートフィルムを作製した。
【0083】
<評価>
以上のようにして作製された実施例及び比較例の各ハードコートフィルムを次の項目について評価し、その結果を纏めて表1に示した。
【0084】
<塗膜の厚み>
ハードコート層の塗膜の形成厚みは、Thin-Film Analyzer F20(商品名)(FILMETRICS社製)を用いて測定した。
【0085】
<無機系金属粒子存在量>
(株)日立ハイテク製FlexSEMに搭載のエネルギー分散型X線解析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ製)を用いて、測定条件は、加速電圧15KV、スポット強度70として、測定面積を1.2mm2にて、ハードコート層の基材側とは反対側の表面および該表面から層内の無機系金属粒子の存在量を測定し、深さ0.5μmまでの存在量を算出した。
【0086】
<抗菌性>
JIS Z 2801:2010の規格に準じた方法にて測定した。抗菌活性値2.0以上を抗菌活性値として有効であると判定した。
【0087】
<抗ウイルス性>
ISO 21702:2019の規格に準じた方法にて測定した。抗ウイルス活性値2.0以上を抗ウイルス活性値として有効であると判定した。
【0088】
<全光線透過率>
各ハードコートフィルムについて、村上色彩技術研究所(株)製ヘイズメータHM-150Nを用いて測定した。測定は、JIS-K7361の規格に基づき実施した。
【0089】
<ヘイズ>
実施例、比較例で作製した各ハードコートフィルムのヘイズは、JIS-K7136に基づき、村上色彩技術研究所(株)製ヘイズメータHM-150Nを用いて測定した。
【0090】
<表面抵抗(帯電防止性能)>
実施例4、8、9で作製した各ハードコートフィルムの表面抵抗値は、日東精工アナリテック(株)製ハイレスタ-UX MCP-HT800を用いて測定した。測定にはUSRプローブを用い、引加電圧を500Vとした。評価基準については、表面抵抗値1.0×1011Ω/□未満を合格とした。なお、1011Ω/□は、静電気などでほこりが付着しないレベルである。
【0091】
<鉛筆硬度>
実施例、比較例で作製した各ハードコートフィルムについて、JIS-K-5600-5-4に準じた試験法により鉛筆硬度を測定した。表面に傷の発生なき硬度を標記した。判定基準については、硬度2H以上は合格とした。
【0092】
<水接触角>
JIS-3257の規格に準じた方法にて測定した。
【0093】
<防曇性>
80℃に熱したお湯にハードコート層面をかざし、湯気で曇りが発生するかを目視観察した。
○:曇りの発生なし
×:曇りの発生あり
【0094】
<遮熱性(遮蔽係数)>
実施例8、9で作製した各ハードコートフィルムの遮熱性は「遮蔽係数」によって評価した。遮蔽係数は、JIS A 5759に準拠し測定した。遮蔽係数が1.0未満であれば、遮熱性(遮熱効果)を有している。
【0095】
【0096】
表1の結果から、本発明の実施例によれば、ハードコート層の基材側とは反対側の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内の無機系金属粒子の存在量が0.03質量%以上であることにより、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を有するハードコートフィルムが得られることがわかる。また、ハードコート層に帯電防止剤を含有する実施例4では、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と帯電防止性能を兼ね備えるハードコートフィルムが得られる。また、ハードコート層に無機微粒子を含有する実施例5では、良好な抗菌性を有し、かつ高硬度のハードコートフィルムが得られる。また、ハードコート層に防曇剤を含有する実施例6では、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と防曇性を有するハードコートフィルムが得られる。また、実施例7では、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と高ヘイズなハードコートフィルム得られる。また、実施例8及び実施例9では、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と遮熱効果を有するハードコートフィルムが得られる。
【0097】
一方、ハードコート層に無機系金属粒子を含有していても、ハードコート層の表面および該表面から深さ0.5μmまでの層内の無機系金属粒子の存在量が0.03質量%未満である比較例2のハードコートフィルムでは、抗菌性及び抗ウイルス性が発現されない。