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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133883
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】非線形抵抗材料及び放電防止構造
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/112 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
H01C7/112
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043885
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 圭太
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄也
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕治
(72)【発明者】
【氏名】平 健一
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034CC05
5E034DA07
5E034EA06
5E034EB04
5E034EB09
(57)【要約】
【課題】本発明は、高周波数領域においても良好な電界緩和特性を有する非線形抵抗材料を提供する。
【解決手段】本発明は、基材と、基材の主面に配置された非線形抵抗層と、を備え、前記非線形抵抗層は、亜鉛複合酸化物である非線形抵抗粉と、体積抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下である導電性粉と、樹脂と、を含み、前記非線形抵抗粉は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化アンチモン(Sb)、酸化コバルト(Co)、酸化マンガン(MnO)及び酸化ニッケル(NiO)を含む焼成体である非線形抵抗材料に関する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の主面に配置された非線形抵抗層と、を備え、
前記非線形抵抗層は、亜鉛複合酸化物である非線形抵抗粉と、体積抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下である導電性粉と、樹脂と、を含み、
前記非線形抵抗粉は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化アンチモン(Sb)、酸化コバルト(Co)、酸化マンガン(MnO)及び酸化ニッケル(NiO)を含む焼成体である非線形抵抗材料。
【請求項2】
前記非線形抵抗層における前記非線形抵抗粉と前記導電性粉との含有量の質量比(導電性紛の質量/非線形抵抗粉の質量)は、0.05以上0.2以下である請求項1に記載の非線形抵抗材料。
【請求項3】
前記非線形抵抗層の厚みは、100μm以上300μm以下である請求項1又は2に記載の非線形抵抗材料。
【請求項4】
前記導電性粉の平均粒径D50は、前記非線形抵抗紛の平均粒径D50よりも小さい請求項1又は2に記載の非線形抵抗材料。
【請求項5】
コイルエンドにおける絶縁層の外層に配置される低抵抗層と、
前記低抵抗層の終端を含む一部をオーバーラップして前記絶縁層の外層に配置される電界緩和層と、を有し、
前記電界緩和層は請求項1又は2に記載の非線形抵抗材料である放電防止構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形抵抗材料及び放電防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機(発電機)のコイルエンド等として、例えば図4のように、鉄心41に組み込まれた導体51の外層に絶縁層52が巻かれ、その絶縁層52の外層に比較的抵抗値の低い低抵抗層53を備えた絶縁構造が知られている。コイルエンド50の絶縁構造において、低抵抗層53の終端部付近は、電界強度が高電界になることがある。この局地的な電界集中を緩和するため、例えば、低抵抗層53の一部にオーバーラップして、コロナ放電防止テープ等の非線形抵抗材料からなる電界緩和層54を配置した放電防止構造4がある。
【0003】
電界緩和層54を形成する非線形抵抗材料としては、例えば、炭化ケイ素を用いた材料が知られている。特許文献1には、炭化ケイ素粒子を用いた塗料を絶縁層の外周に塗布し、又は、これら塗料を塗布したテープを絶縁層に巻き付けて電界緩和層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-217109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したコロナ放電防止テープであっても、周波数400Hz以上のような高周波数領域では所望の放電防止効果が得られにくい場合がある。このため、非線形抵抗材料の高周波数領域における電界緩和特性は、更なる向上が求められている。
【0006】
このような背景の下、本発明は、高周波数領域においても良好な電界緩和特性を有する非線形抵抗材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の一態様は、
基材と、基材の主面に配置された非線形抵抗層と、を備え、
前記非線形抵抗層は、亜鉛複合酸化物である非線形抵抗粉と、体積抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下である導電性粉と、樹脂と、を含み、
前記非線形抵抗粉は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化アンチモン(Sb)、酸化コバルト(Co)、酸化マンガン(MnO)及び酸化ニッケル(NiO)を含む焼成体である非線形抵抗材料に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非線形抵抗材料によれば、400Hz以上等の高周波数領域においても好適な電界緩和特性が示され、特に回転機のコイルエンド等の放電防止構造において、電界緩和層として適用する場合に好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態における非線形抵抗材料の概略断面図である。
図2】実施形態におけるコイルエンドの概略図である。
図3】実施形態におけるコイルエンドの概略断面図である。
図4】従来のコイルエンドの放電防止構造の概略断面図である。
図5】実施例における表面抵抗率の結果を示す図である。
図6】実施例における電解緩和特性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、非線形抵抗材料の概略断面図である。図2は、非線形抵抗材料を電界緩和層に用いたコイルエンドを示す概略図である。図3は、図2のA-A断面図である。
【0012】
[非線形抵抗材料]
非線形抵抗材料は、例えば図1に示されるように、基材20と、基材20の主面に配置された非線形抵抗層10と、を備える。非線形抵抗層10は、基材20の主面に対し、片面、又は、両面に配置され、好ましくは両面に配置される。非線形抵抗材料の形状は特に限定されないが、所定の幅を有するテープ状であると好ましい。
【0013】
[非線形抵抗層]
非線形抵抗層10は、非線形抵抗粉と導電性粉と樹脂とを含む。本実施形態における非線形抵抗層では、酸化亜鉛を主材とした複合酸化物である下記の非線形抵抗粉を有することにより、印加電圧が低い場合には高い抵抗を示しつつ、印加電圧が高くなると電流が流れる非線形抵抗特性を示すものとなる。一方、非線形抵抗層として非線形抵抗粉のみを用いた場合、電圧値が高くなった際にも抵抗が高いままとなり、所望の電界緩和特性が得られにくい。これに対し、非線形抵抗粉と導電性粉とを有する非線形抵抗材料を適用することが考えられるが、本発明者等によれば、導電性粉の種類によっては、電圧値が高くなった際に抵抗が低くなりすぎることがあることが見出された。このため、本発明では、非線形抵抗粉と共に、体積抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下である導電性粉を非線形抵抗層に含有するものとした。上記した導電性粉を含む非線形抵抗層を有する非線形抵抗材料は、非線形抵抗粉と導電性粉の分散状態を良好な状態としつつ、電圧値が高くなった際にも抵抗が下がり過ぎず、良好な電界緩和特性を示すものとなりやすい。
【0014】
非線形抵抗層の厚みは、100μm以上300μm以下であることが好ましく、150μm以上250μm以下であることが特に好ましい。上記厚みの範囲内であると、非線形抵抗粉及び導電性粉が層内に適量含まれ、良好な電界緩和特性を示すものとなりやすく、非線形抵抗層にひび割れが生じることも少ない傾向となる。ここで、上記非線形抵抗層の厚みは、基材の両面に非線形抵抗層を有する場合には、両面の非線形抵抗層を合計した厚みを上記範囲内にすることが好ましい。
【0015】
非線形抵抗粉:非線形抵抗粉は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化アンチモン(Sb)、酸化コバルト(Co)、酸化マンガン(MnO)及び酸化ニッケル(NiO)を含む焼成体である。上記酸化物を含有した焼成体は、安定的に非線形抵抗特性を示す非線形抵抗粉となりやすい。特に、酸化亜鉛、酸化ビスマス、及び、酸化アンチモンを含有することにより、非線形抵抗特性を有しやすくなり、酸化コバルト、酸化マンガン、及び、酸化ニッケルを含有することにより、非線形抵抗特性を安定して示しやすい傾向になる。酸化コバルトを含有する場合、特に非線形抵抗特性を安定して示しやすくなる。
【0016】
本実施形態の非線形抵抗粉が、安定的に非線形抵抗特性を示すのは、以下の理由によると考えられる。酸化亜鉛とともに、酸化ビスマス、酸化アンチモン等の酸化物を焼成し焼成体とすることで、複数種類の酸化物の一部以上が複合してスピネル粒子を形成する複合酸化物を形成し、酸化亜鉛の粒界に偏析する。この偏析したスピネル粒子の複合酸化物が、焼成体中において酸化亜鉛粒子の成長を抑制することで、粒径が均一で小さい酸化亜鉛粒子となりやすく、これにより非線形抵抗特性の良好な非線形抵抗粉になると考えられる。
【0017】
非線形抵抗粉における各酸化物の含有量は、非線形抵抗粉の酸化物換算での金属元素全体を100モル%としたときのモル比で以下の範囲であると好ましい。非線形抵抗粉の主材である酸化亜鉛の含有量は、90.0モル%以上が好ましく、93.0モル%以上がさらに好ましい。安定的に非線形抵抗特性を示す観点から、酸化亜鉛の含有量は99.0モル%以下が好ましく、98.0モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
非線形抵抗特性を示す非線形抵抗粉となりやすい観点から、酸化ビスマスの含有量は、0.05モル%以上3.0モル%以下が好ましく、0.1モル%以上2.0モル%以下がさらに好ましい。また、酸化アンチモンの含有量は、0.05モル%以上4.0モル%以下が好ましく、0.1モル%以上3.0モル%以下がさらに好ましい。特に安定して非線形抵抗特性を示しやすいことから、酸化コバルトの含有量は、0.03モル%以上3.0モル%以下が好ましく、0.05モル%以上2.0モル%以下がさらに好ましい。安定して非線形抵抗特性を示しやすいことから、酸化マンガンの含有量は、0.03モル%以上3.0モル%以下が好ましく、0.05モル%以上2.0モル%以下がさらに好ましい。また、酸化ニッケルの含有量は、0.03モル%以上3.0モル%以下が好ましく、0.05モル%以上2.0モル%以下がさらに好ましい。
【0019】
非線形抵抗粉は、上記以外の副成分として酸化クロム(Cr)、酸化銀(AgO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化ホウ素(B)、酸化錫(SnO)等の酸化化合物を含んでいてもよい。これらの酸化化合物は焼成工程において酸化亜鉛結晶粒子に対して固溶することが知られている。このように固溶する酸化化合物中の金属はドナーとして機能する。このため、酸化亜鉛結晶粒子の自由電子密度がより高くなり、酸化亜鉛結晶粒子自体の抵抗値が低減するため、過電流範域における電圧の立ち上がりを低く抑えることができる傾向になる。このような観点から、上記酸化化合物を非線形抵抗粉中に含むことが好ましい。上記した副成分としての酸化化合物の含有量は、非線形抵抗粉の酸化物換算での金属元素全体を100モル%としたときのモル比で、それぞれ、0.01モル%以上7.0モル%以下が好ましく、0.05モル%以上2.0モル%以下がより好ましい。
【0020】
非線形抵抗粉は、任意にその他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、非線形抵抗粉の高抵抗化等を目的として希土類酸化物を含んでいてもよい。希土類酸化物として、例えば、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)等の少なくとも1種の希土類元素(R)の酸化物(R)を含んでいてもよい。非線形抵抗粉中の希土類酸化物の含有量は、金属元素換算で、それぞれ、0.01モル%以上5.0モル%以下が好ましく、0.1モル%以上1.0モル%以下がより好ましい。
【0021】
非線形抵抗粉の平均粒径D50は、15μm以上60μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下が特に好ましい。上記平均粒径D50の非線形抵抗粉であると、導電性粉との分散状態が良好な非線形抵抗層となりやすく、良好な電界緩和特性を示しやすいものとなる。なお、本実施形態における平均粒径D50は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径であり、体積基準における粒径である。
【0022】
導電性粉:本実施形態における導電性粉は、体積抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下である。体積抵抗率は、抵抗が下がり過ぎることを防止しやすい観点から、50Ω・cm以上800Ω・cm以下が好ましく、70Ω・cm以上600Ω・cm以下が特に好ましい。この点、一般的な導電性粉としては、例えば、体積抵抗率が約10-1Ω・cm以下である導体から、約10-1Ω・cm以上10Ω・cm以下の半導体まで広範囲に渡るものが挙げられる。これに対し、本実施形態では、上記した体積抵抗率の範囲内の導電性粉を適用することにより、非線形抵抗層として、各粉体の好適な分散状態と良好な電界緩和特性との両立を可能なものとしている。本実施形態の導電性粉は、非線形抵抗粉とは異なる材料であり、導電性粉は非線形抵抗粉を除く材料を対象としている。具体的には、導電性粉は線形抵抗を示す材料であり、上記のような体積抵抗率での特定が可能である。これに対し、非線形抵抗粉は非線形抵抗を示し、電圧の高低により体積抵抗率が変化する。このように、本実施形態における導電性粉と非線形抵抗粉とは、非線形抵抗を示すか否かで切り分けられる。なお、本実施形態における体積抵抗率は、定電流印加方式(JIS K 7194)等により測定できる。
【0023】
導電性粉は、上記した体積抵抗率の範囲内であれば、限定なく種々の材料のものを適用してよい。例えば、酸化錫、リンドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、ITO、ATO、銀コート樹脂粉等の材料から適宜選択することができ、特に、酸化錫、リンドープ酸化錫が好ましい。
【0024】
導電性粉の平均粒径D50は、0.001μm以上10μm以下が好ましく、0.01μm以上5μm以下が特に好ましい。上記平均粒径の導電性粉であると、非線形抵抗粉との分散状態が良好な非線形抵抗層となりやすく、良好な電界緩和特性を示しやすいものとなる。また、導電性粉の平均粒径D50は、非線形抵抗粉の平均粒径D50よりも小さいことが好ましく、非線形抵抗粉の平均粒径D50に対する導電性粉の平均粒径D50の比の割合%((導電性粉の平均粒径D50)/(非線形抵抗粉の平均粒径D50)×100)が、0.01%以上0.15%が好ましく、0.02%以上0.10%以下が特に好ましい。導電性粉と非線形抵抗粉の平均粒径が上記比の範囲内であると、非線形抵抗層を形成する際に導電性粉と非線形抵抗粉の分散状態が良好となる。
【0025】
樹脂:本実施形態に適用可能な樹脂は特に制限されず、樹脂は非線形抵抗粉と導電性粉が分散した状態で層を形成する基材として機能する。樹脂は、耐熱性を有することが好ましく、耐熱クラスの階級がF種(155℃以上)、又は、H種(180℃以上)であると特に好ましい。例えば、シリコーンレジン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂であってよい。
【0026】
任意成分:非線形抵抗層10は、以上説明した非線形抵抗粉、導電性粉、樹脂の他、任意の成分を含んでいても良く、例えば、分散剤を含んでいてもよい。分散剤の種類は、特に限定されず、例えば湿潤分散剤等を含んでいてよい。
【0027】
配合比:非線形抵抗層10における各材料の含有量は、以下の範囲であると好ましい。非線形抵抗粉の含有量は、40質量%以上80質量%以下が好ましく、50質量%以上70質量%以下が特に好ましい。導電性粉の含有量は、3質量%以上15質量%以下が好ましく、5質量%以上10質量%以下が特に好ましい。樹脂の含有量は、15質量%以上40質量%以下が好ましく、20質量%以上30質量%以下が特に好ましい。分散剤の含有量は、0質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下が特に好ましい。上記含有量の範囲内であると、非線形抵抗粉及び導電性粉の分散状態が好適な非線形抵抗層10となりやすい。
【0028】
前記非線形抵抗層10における前記非線形抵抗粉と前記導電性粉との含有量の質量比(導電性紛の質量/非線形抵抗粉の質量)は、0.05以上0.2以下であることが好ましく、0.07以上0.15以下であることが特に好ましい。上記範囲内であると、抵抗が低くなりすぎることを抑制して、良好な電界緩和効果を実現しやすい。
【0029】
[基材]
基材20として適用可能な材料は特に制限されず、繊維強化布等の適宜の材料から選択してよい。基材20としては、例えば、テトロンクロスやガラスクロス等を用いることができる。
【0030】
[製造方法]
本実施形態において、基材20に対する非線形抵抗層10の積層方法は特に限定されず、任意の方法で積層してよい。例えば、比線形抵抗材料として、非線形抵抗粉、導電性粉、樹脂、及び任意成分を混合して得られた組成物又はスラリーを、基材20に塗布して非線形抵抗層10を形成する方法で製造してもよい。基材20への塗布に代えて、前記組成物又はスラリーを基材20に含浸して非線形抵抗層10を形成してもよい。基材20に対する非線形抵抗層10の塗布は、任意の方法で行うことができ、例えば、特開2022-053780号公報に記載のマイクロバリスター塗料塗装装置等を使用してもよい。
【0031】
非線形抵抗粉の製造方法:非線形抵抗粉は、下記に示す(1)~(4)の工程を行うことにより製造することができる。
(1)酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化コバルト、酸化マンガン及び酸化ニッケルと、任意の副成分とを混合する第一混合工程
(2)第一混合工程の混合物と、酸化亜鉛とを混合する第二混合工程
(3)第二混合工程の混合物を仮焼する仮焼工程
(4)仮焼工程後の仮焼体を焼成する焼成工程
以下工程(1)~(4)について詳細に説明する。
【0032】
(1)第一混合工程:本工程では、酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化コバルト、酸化マンガン及び酸化ニッケルと、任意の副成分とを任意の溶媒、例えば純水中で混合する。混合物は、粉砕することが好ましい。粉砕は、例えばボールミルを用いて、混合物のスラリーの平均粒径D50が0.7μm以下となるように粉砕することが好ましい。
【0033】
(2)第二混合工程:本工程では、第一混合工程で得られた混合物のスラリーに、酸化亜鉛と、任意で溶媒(例えば、純水)を添加し、混合する。混合物には、任意で、バインダー(有機樹脂)や微量成分を添加してもよい。混合物は、乾燥後に分級することが好ましく、例えば、ふるい分級を行ってよい。なお、微量成分としては、スラリーのpHを調整するための酸化剤等を適宜用いてよい。
【0034】
(3)仮焼工程:本工程では、第二混合工程で得られた混合物を仮焼する。仮焼は、最高保持温度800℃以上950℃以下で、3時間以上20時間以下、熱処理して行うことが好ましい。仮焼のための熱処理の前段階として、350℃以上700℃以下で熱処理し、有機バインダーを除去することが好ましい。
【0035】
(4)焼成工程:本工程では、焼成工程後の仮焼体を焼成する。焼成は、最高保持温度900℃以上1200℃以下で、1時間以上15時間以下、熱処理して行った。
【0036】
非線形抵抗粉は、好適な平均粒径の範囲内とすべく、上記焼成工程後、粉砕及び分級を行うことが好ましい。粉砕は、例えばクラッシャー粉砕機を用いればよく、分級はふるい分級を用いてよい。
【0037】
[用途]
本実施形態の非線形抵抗材料は、以下説明するコイルエンドの放電防止構造に好適に用いられる。コイルエンド3の放電防止構造としては、例えば、図2のように、コイルエンド3における絶縁層32の外層に配置される低抵抗層33と、低抵抗層33の終端を含む一部をオーバーラップして絶縁層32の外層に配置される、印加電圧が低い場合において低抵抗層よりも抵抗率の高い電界緩和層34と、を有し、電界緩和層34は本実施形態における非線形抵抗材料である放電防止構造が挙げられる。
【0038】
絶縁層32は、絶縁性を有していれば特に限定されず、例えば、ガラス繊維やポリエステルシートから成る基材にマイカ粉をまぶして接着材により貼り合わせたテープ材料(マイカテープ)等が導体31に巻き付けられて形成された層であってよい。低抵抗層33は、体積抵抗率が10~10Ω・m程度の比較的抵抗率の低い層であれば特に限定されず、例えば、テトロン織布、ガラス織布等の基材に対して、カーボンブラックとエポキシ樹脂等とを混合させた導電性塗料を含浸または塗工した後に硬化させたテープ材(カーボンテープ)等により形成された層であってよい。低抵抗層33と電界緩和層34は、図3に示されるように、絶縁層32の外層に、オーバーラップして(両方の層が絶縁層32の外層で重なり合うように積層される部分があるように)配置される。なお、図2及び図3では、説明の都合、電界緩和層34及び絶縁層32が導体の長さよりも順に低抵抗層33側に短く設けられた場合の図として記載されているが、電界緩和層34及び絶縁層32の低抵抗層33と逆側の長さは特に限定されず、導体を完全に覆う長さとしても構わない。前記放電防止構造は、前記電界緩和層34のオーバーラップ部分及び前記低抵抗層33の外層に第二低抵抗層(図示せず)が配置されてもよい(この場合、前記低抵抗層33を第一低抵抗層と称する)。第二低抵抗層は、第一低抵抗層と同様のカーボンテープ等から形成された層であってよい。前記放電防止構造34は、前記第二低抵抗層と前記電界緩和層34のオーバーラップ部分及び前記電界緩和層34の外層に保護絶縁層(図示せず)が配置されていてもよい。保護絶縁層は、例えば、熱収縮性フィルムとテトロン織布やガラス織布で構成されたテープ材料から成る。このテープ材料には、硬化状態(Bステージ)のエポキシ樹脂を含有させてもよい。
【実施例0039】
本実施形態について、以下の実施例によりさらに詳細に説明する。
【0040】
<<導電性粉の検討>>
予備的な実験例として、まず導電性粉の検討を行った。以下で示す配合比で非線形抵抗粉及び導電性粉を含む実験例及び比較実験例の非線形抵抗層について、表面抵抗率の測定を行った。ここで表面抵抗率を評価したのは、電解値が高くなった際に、表面抵抗率が急激に低下してしまう場合に比べ、緩やかに低下する場合、電界緩和層としてより優れた電界緩和効果を示すことになるためである。以下、実験例及び比較実験例について、説明する。
【0041】
実験例:以下の手順で非線形抵抗粉を作製した後、導電性粉、樹脂、分散剤と混合して絶縁板に塗布し、非線形抵抗層を形成した。
【0042】
[非線形抵抗粉の作製]
まず、第一混合工程として、酸化ビスマス1.00モル%、酸化アンチモン2.00モル%、酸化コバルト1.00モル%、酸化マンガン1.00モル%及び酸化ニッケル0.3モル%と、副成分である酸化銀(AgO)0.1モル%(酸化亜鉛及び第一混合工程の混合物の全量に対して200質量ppm)を、純水中で混合した。混合物を、ボールミル中で、3mmのジルコニアボールで粉砕し、スラリーを得た。スラリーの平均粒径D50は、0.7μm以下であった。なお、本製造方法における配合比のモル%は、酸化物換算での金属元素全体を100モル%としたときのモル比である。
【0043】
次に、第二混合工程として、上記工程で得られたスラリーと、酸化亜鉛94.6モル%と、有機バインダーであるポリビニルアルコール 酸化亜鉛の質量に対して1質量%と、微量成分として硝酸アルミニウム水溶液(Al(NO・9HO) Al3+イオン換算で20質量ppmと、を純水中で混合した、その後、スプレードライヤーで造粒し、目開き120μmのふるいで分級した。上記で得られた造粒物は、平均粒径D50が49.1μmであった。
【0044】
上記で得られた造粒物について、最高保持温度800℃以上950℃以下で、3時間以上20時間以下、熱処理して仮焼工程を行った。なお前処理として、350℃以上700℃以下で熱処理し、有機バインダーを除去した。その後、最高保持温度900℃以上1200℃以下で、1時間以上15時間以下で熱処理し、焼成工程を行った。得られた焼成体は、粉砕機(大阪ケミカル製 ワンダークラッシュミル)で粉砕し、目開き64μmのふるいで分級した。以上により得られた非線形抵抗粉の平均粒径D50は、30.65μmであった。
【0045】
[非線形抵抗層の形成]
上記で得られた非線形抵抗粉及び導電性粉等を以下の配合比で混合し、ガラスエポキシの絶縁板上に厚さ約1mmでテープ形状に塗布し、非線形抵抗層を形成した。実験例では、導電性粉として、リンドープ酸化錫(三菱マテリアル電子化成株式会社製 SP-2、体積抵抗率 5×10Ω・cm(平均値)、平均粒径D50 0.02μm)を用いた。樹脂には、室温乾燥型メチル系シリコーンレジン(信越化学工業株式会社製、KR-251)、分散剤は、湿潤分散剤(BYK社製、DISPER BYK180)を用いた。
・非線形抵抗粉 66.0wt%
・導電性粉 SP-2 6.7wt%
・樹脂 (KR-251) 27.0wt%
・分散剤(DISPER BYK180) 0.3wt%
【0046】
比較実験例:比較実験例では、導電性粉として、カーボンブラック(東海カーボン製 トーカブラック#4400、体積抵抗率 10―1Ω・cm以下)を用いた。その他の材料及び非線形抵抗層の作製条件は、実験例1と同様とした。なお、導電性粉の含有量を実験例よりも少ないものとしたのは、カーボンブラックにより表面抵抗率が大幅に低下すると予測されたことによる。
・非線形抵抗粉 65.7wt%
・導電性粉 SP-2 1.3wt%
・樹脂 (KR-251) 32.8wt%
・分散剤(DISPER BYK180) 0.2wt%
【0047】
[表面抵抗率の測定]
実験例及び比較実験例で形成したテープ形状の非線形抵抗層の上(絶縁板と反対側)に、電極としての導電性ペースト(ドータイト、藤倉化成株式会社製)を10mmの間隔幅を空けて2本、テープ形状の長辺に対して並行になるように形成した。導電性ペーストの長辺方向における長さは300mmとした。上記導電性ペーストで形成した2本の電極間に、直流電流を1Vから1000Vまで変化させながら電流値を測定した。測定には、電流計(ADCMT社 5450)を用いた。測定した電圧、電流、電極間距離、電極の長さの値に基づいて、表面抵抗率(Ω/□)を算出した。測定結果を、図5に示す。
【0048】
図5より、実験例では、電界が30V/mm以上に高くなっても表面抵抗率の低下が抑制され、緩やかな低下であったのに対し、比較実験例では、電界が高くなるに応じて、表面抵抗率が急激に低下した。このことから、比較実験例に対して実験例の非線形抵抗層の方が、良好な電界緩和効果を示すと考えられる。なお、比較実験例において、電圧を上げ始める初期段階で表面抵抗値が高くなったのは、導電性粉の含有量が少なく、導電性粉以外の材料の影響が顕著に出たものと考えられる。
【0049】
<<実施例>>
次に、実験例の非線形抵抗粉を用いた非線形抵抗材料について、電界緩和効果の評価を行った。
【0050】
[非線形抵抗材料の作製]
上記実験例で作製した非線形抵抗粉を用いて、非線形抵抗材料を作製した。上記実験例と同様の配合比で配合した混合物を、基材であるガラスクロス(電子基板用 1280(E06C))の両面に対し、片面につき100μmずつ、両面の層の厚さの合計が200μmになるように塗布した。塗布は、マイクロバリスター塗料塗装装置を用いて行った。
【0051】
[放電防止構造の作製]
実施例:上記非線形抵抗材料を用いて、図2、3に示す放電防止構造を有する測定対象を作製した。導体である銅角棒(25mm×25mm)の外周に、絶縁層32としてマイカテープを巻き付けた後、低抵抗層33としてカーボンテープを絶縁層32の外周の一部に巻き付けた。その後、図3のように、低抵抗層33の一部に重なるようにして、絶縁層32の外層に電界緩和層34として上記非線形抵抗材料を巻き付けた。
【0052】
比較例1、2:実施例の非線形抵抗材料に代えて、SiCテープを用いて上記放電防止構造を作製した以外は、実施例と同様とした。比較例1のSiCテープは、VonRoll Switzerland LtdのCoronaShield SC217.31であり、比較例2のSiCテープは、EGSB-T2701である。
【0053】
[電界強度の測定]
実施例及び比較例の放電防止構造について、導体31-低抵抗層33間に所定電圧(1kVrms、3.81kVrms、6kVrms)及び所定周波数(50Hz、400Hz、800Hz)の交流電圧を印加した。そして、光電界センサ((株)精工技研 CS-1403)により、図3における低抵抗層33と電界緩和層34の境目Bをx=0mmとして、電界緩和層が形成された方向(図3における右方向)に5mmごとに電界強度を計測した。光電界センサヘッドは、バーコイルの表面から径方向に30mm離して設置した。電界強度は、オシロスコープ(Tektronix DPO4104B)で電圧Vp-p(mV)に変換表示されたものを測定した。この変換はアンテナファクタが変換係数として用いられた。上記測定は、試験用変圧器(東京精電(株) AH1946)及び交流安定化電源(菊水電子工業(株) PCR2000LA)を用いて、単相200Vで行った。
【0054】
以上の測定結果より、下記式に基づいて電界強度を算出した。
電界強度(V/m)=[電圧Vp‐p(mV)×アンテナファクタ(1/m)]/10
※アンテナファクタは以下の通りである。
[周波数(Hz)] [アンテナファクタ(1/m)]
50 275441
400 65575
800 42666
【0055】
以上により測定した実施例及び比較例の放電防止構造について、電界強度の測定結果を図6及び表1~表3に示す。なお、図6は、電圧3.81kVrmsにおける、50Hz、400Hz、800Hzの周波数の結果を示す。
【0056】
図6より、電圧3.81kVrmsにおける、50Hz、400Hz、800Hzのいずれの周波数の結果においても、実施例は比較例1、2より、境目B(x=0)から離れた位置で電界強度が最大値となるか、又は、境目B(x=0)の電界強度から電界強度が最大値に至るまでの各測定地点における電界強度が小さいことが示された。このことから、実施例では、比較例1、2よりも優れた電界緩和効果を有することが示された。また、表1~表3より、電圧1kVrms、3.81kVrms、6kVrmsのいずれの条件においても、実施例では、比較例1、2より境目B(x=0)から離れた位置で電界強度が最大値となるか、又は、境目B(x=0)の電界強度から電界強度が最大値に至るまでの各測定地点における電界強度が小さいことが示された。なお表1~表3では、電界強度(V/m)のうち、各条件における最大値(複数ある場合には境目Bからより近い位置の値)に下線を引いた。よって、電圧、周波数の条件によらず、実施例では優れた電界緩和効果を有することが示された。また、400Hz以上の高周波数領域においても優れた電界緩和効果を有することが示された。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
以下に本発明の好ましい態様を示す。
[1]基材と、基材の主面に配置された非線形抵抗層と、を備え、
前記非線形抵抗層は、亜鉛複合酸化物である非線形抵抗粉と、体積抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下である導電性粉と、樹脂と、を含み、
前記非線形抵抗粉は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化アンチモン(Sb)、酸化コバルト(Co)、酸化マンガン(MnO)及び酸化ニッケル(NiO)を含む焼成体である非線形抵抗材料。
[2]前記非線形抵抗層における前記非線形抵抗粉と前記導電性粉との含有量の質量比(導電性紛の質量/非線形抵抗粉の質量)は、0.05以上0.2以下である[1]に記載の非線形抵抗材料。
[3]前記非線形抵抗層の厚みは、100μm以上300μm以下である[1]又は[2]に記載の非線形抵抗材料。
[4]前記導電性粉の平均粒径D50は、前記非線形抵抗紛の平均粒径D50よりも小さい[1]~[3]のいずれかに記載の非線形抵抗材料。
[5]コイルエンドにおける絶縁層の外層に配置される低抵抗層と、
前記低抵抗層の終端を含む一部をオーバーラップして前記絶縁層の外層に配置される電界緩和層と、を有し、
前記電界緩和層は[1]~[4]のいずれかに記載の非線形抵抗材料である放電防止構造。
【符号の説明】
【0061】
1 非線形抵抗材料
10 非線形抵抗層
20 基材
31、51 導体
32、52 絶縁層
33、53 低抵抗層
34、54 電界緩和層

図1
図2
図3
図4
図5
図6