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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133886
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/34 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
F02D41/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043888
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】神田 高輔
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA01
3G301HA09
3G301JA26
3G301LB01
3G301MA20
3G301NC02
3G301NE11
(57)【要約】
【課題】冷却装置での暖機処理によって筒内壁面温度のばらつきが生じても、未燃HCの増加や気筒間での空燃比差の拡大などを抑止できる、内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関の制御装置は、その一態様において、暖機処理によって部位に応じてばらつく筒内壁面温度に関する情報を取得し、燃料噴射弁の噴射パターンを、燃料噴射弁によって燃料が供給される部位の筒内壁面温度に応じて、同一気筒に設けられた複数の燃料噴射弁の間、または、気筒間で異ならせる。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関は、
吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁と、
シリンダの周囲に形成される流水通路のうちの一部に対する冷却水の循環量を冷機状態で低下させる暖機処理を実施する冷却装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記暖機処理によって部位に応じてばらつく筒内壁面温度に関する情報を取得し、
前記燃料噴射弁の噴射パターンを、前記燃料噴射弁によって燃料が供給される部位の筒内壁面温度に応じて、同一気筒に設けられた複数の前記燃料噴射弁の間、または、気筒間で異ならせる、
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記噴射パターンは、噴射タイミング、燃料噴射量の分担比、分割噴射の分割回数のうちの少なくとも1つである、
内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
燃料が供給される部位の筒内壁面温度が相対的に低い前記燃料噴射弁の噴射タイミングを、燃料が供給される部位の筒内壁面温度が相対的に高い前記燃料噴射弁の噴射タイミングより早くする、
内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
燃料の気化率及び混合気の均質度に基づく指標が前記燃料噴射弁によって燃料が供給される部位の筒内壁面温度においてピーク値となるような前記噴射パターンを選定する、
内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記指標は前記均質度の重み付けを前記気化率の重み付けより大きくして定められる、
内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される内燃機関の冷却構造は、シリンダを取り囲むように環状に形成されたブロック側ウォータージャケットを周方向に仕切る閉位置と周方向に開放する開位置とを取り得る可動パーティション部材を、冷却水入口と主冷却水出口との間に設ける。
可動パーティション部材が開位置にある開放状態では、冷却水が直接的に主冷却水出口に流れることで早期暖機が図られ、可動パーティション部材が閉位置にある閉塞状態では、冷却水が可動パーティション部材を迂回するように流れて効果的な冷却が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/203707号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダの周囲に形成される流水通路のうちの一部に対する冷却水の循環量を冷機状態で低下させる暖機処理が冷却装置で実施される場合、1つの気筒内で、また、気筒間で、筒内壁面温度(ライナ壁面温度)のばらつき、つまり、筒内壁面の部位による温度の違いが生じる。
そして、筒内壁面温度が低い部位に付着した燃料の気化量が減ることで未燃HCが増加し、また、気筒間で筒内壁面温度がばらつくと、気筒間での空燃比差が拡大してノッキングが悪化する可能性があった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却装置での暖機処理によって筒内壁面温度のばらつきが生じても、未燃HCの増加や気筒間での空燃比差の拡大などを抑止できる、内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、その一態様において、暖機処理によって部位に応じてばらつく筒内壁面温度に関する情報を取得し、燃料噴射弁の噴射パターンを、燃料噴射弁によって燃料が供給される部位の筒内壁面温度に応じて、同一気筒に設けられた複数の燃料噴射弁の間、または、気筒間で異ならせる。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、冷却装置での暖機処理によって筒内壁面温度のばらつきが生じても、未燃HCの増加や気筒間での空燃比差の拡大などを抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】内燃機関の冷却装置の構成図である。
図2】冷却装置の暖機処理を示す状態図である。
図3】吸排気バルブ及び燃料噴射の制御系を示す図である。
図4】第1気筒における吸排気バルブと冷却系統との位置関係を示す図である。
図5】気化率マップを示す図である。
図6】均質度マップを示す図である。
図7】HC低減指標マップを示す図である。
図8】水温センサの配置例を示す図である。
図9】水温センサの配置例を示す図である。
図10】水温センサの配置例を示す図である。
図11】冷機始動直後の温度状態を例示する図である。
図12】冷機始動直後での噴射タイミングの設定処理を示す図である。
図13】冷機始動直後での噴射パルス信号を示す図である。
図14】暖機途中での温度状態を例示する図である。
図15】暖機途中での噴射タイミングの設定処理を示す図である。
図16】暖機途中での噴射パルス信号を示す図である。
図17】暖機完了後の温度状態を例示する図である。
図18】暖機完了後での噴射タイミングの設定処理を示す図である。
図19】暖機完了後での噴射パルス信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照して、本発明を実施するための実施形態を説明する。
図1は、内燃機関10の冷却装置20の構造を示す概略図である。
内燃機関10は、第1気筒#1、第2気筒#2、第3気筒#3を、クランク軸方向に一直線に配列した3気筒直列機関である。
但し、内燃機関10の気筒数を3気筒に限定するものではない。
【0010】
冷却装置20は、冷却水(冷却液)を使って内燃機関10を冷却する水冷式である。
そして、冷却装置20は、シリンダブロック11に形成されたブロック側ウォータージャケット21、ラジエータ22、ウォーターポンプ23、第1サーモスタット24、第2サーモスタット25、さらに、これらを互いに接続する冷却水配管などを有する。
【0011】
ブロック側ウォータージャケット21は、シリンダの周囲に形成される流水通路であって、第1気筒#1から第3気筒#3までのシリンダボアを取り囲むように形成される。
ブロック側ウォータージャケット21の冷却水入口と冷却水出口とは、第1気筒#1のシリンダ軸線を挟んで対向するように設けられている。
【0012】
第1サーモスタット24は、内燃機関10を冷却した後の冷却水を、ラジエータ22を介して循環させるか、ラジエータ22を迂回して循環させるかを、冷却水の温度に応じて切り替える。
ウォーターポンプ23は、内燃機関10によって駆動される液体ポンプであり、第1サーモスタット24及びラジエータ22の下流側で、ブロック側ウォータージャケット21の上流側の冷却水配管に配置される。
そして、ウォーターポンプ23は、冷却水をブロック側ウォータージャケット21に向けて圧送する。
【0013】
係る構成によれば、冷却水の温度が閾値よりも低い冷機状態では、冷却水は、ウォーターポンプ23、ブロック側ウォータージャケット21、第1サーモスタット24を経由して循環する。
また、冷却水の温度が閾値よりも高い暖機後の状態では、冷却水は、ウォーターポンプ23、ブロック側ウォータージャケット21、ラジエータ22を経由して循環する。
【0014】
ここで、ブロック側ウォータージャケット21は、第1系統21Aと第2系統21Bとで構成される。
第1系統21Aは、第1気筒#1のシリンダボアの第2気筒#2に隣接しない側に沿って設けられて、ブロック側ウォータージャケット21の冷却水入口と冷却水出口とを直接的に接続するルートであって、第2気筒#2のシリンダボア及び第3気筒#3のシリンダボアを経由しないルートである。
【0015】
一方、第2系統21Bは、第1系統21Aと隔てられ、第2気筒#2のシリンダボア及び第3気筒#3のシリンダボアの周囲を巡るルートである。
したがって、第1系統21A及び第2系統21Bに冷却水が循環される状態では、第1気筒#1から第3気筒#3までの全3気筒についてシリンダライナの冷却が行われる。
これに対し、第1系統21Aへは通常に冷却水が循環される一方、第2系統21Bへの冷却水の循環が停止されるか循環量が減らされると、第1気筒#1に比べて、第2気筒#2及び第3気筒#3についての冷却能力が低下することになる。
【0016】
第2サーモスタット25は、冷却水の温度に応じて、第2系統21Bへの冷却水の循環量を調整する装置であり、冷却水の温度が閾値よりも低いときには、冷却水の温度が閾値よりも高いときに比べて第2系統21Bへの冷却水の循環量を減らして、必要最小量の冷却水を第2系統21Bへ循環させる。
なお、必要最小量とは、実質的に冷却機能が停止するような循環量であり、必要最小量の冷却水を循環させる状態を止水状態と称することができる。
【0017】
係る冷却装置20によれば、冷却水温度が低い冷機状態において、冷却水は、ラジエータ22を迂回し、かつ、専ら第1気筒#1の冷却に供されて循環することになり、第2気筒#2及び第3気筒#3の冷却機能は殆ど発揮されないことになる。
したがって、冷機状態において、第1気筒#1から第3気筒#3の全てに冷却水を循環させる冷却装置に比べて、内燃機関10の暖機を促進させることができる。
【0018】
つまり、冷却装置20は、シリンダの周囲に形成される流水通路のうちの一部に対する冷却水の循環量を冷機状態で低下させる暖機処理を実施する。
図2は、暖機処理が実施されているときのブロック側ウォータージャケット21における冷却水の循環量(流水量)の違いを示す図であり、第1系統21Aに比べて第2系統21Bの循環量が減らされ、第2系統21Bの冷却水の温度が第1系統21Aに比べて高くなることを示す。
【0019】
上記の冷却装置20を備える内燃機関10は、吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた、吸気ポート噴射式の火花点火ガソリン機関である。
図3は、内燃機関10の吸排気バルブの構成及び燃料噴射弁の配置を示す図であって、3気筒のうちの1つの気筒をシリンダ軸線に沿った上方から見た図である。
なお、図3に示す吸排気バルブの構成及び燃料噴射弁の配置は、3気筒に共通のものである。
【0020】
内燃機関10は、1気筒当たり、第1吸気バルブ12A、第2吸気バルブ12B、第1排気バルブ13A、第2排気バルブ13Bを備えた4バルブ型機関である。
第1吸気バルブ12Aを介して燃焼室と連通する第1吸気ポート14Aには、第1燃料噴射弁15Aが設けられる。
【0021】
また、第2吸気バルブ12Bを介して燃焼室と連通する第2吸気ポート14Bには、第2燃料噴射弁15Bが設けられる。
そして、第1燃料噴射弁15Aは第1吸気ポート14Aに燃料を噴射し、第2燃料噴射弁15Bは第2吸気ポート14Bに燃料を噴射する。
【0022】
図4は、第1気筒#1における、吸排気バルブと、ブロック側ウォータージャケット21の第1系統21Aとの位置関係を示す図である。
第1気筒#1においては、第1吸気バルブ12Aと第1排気バルブ13Aとが対向配置される側に第1系統21Aが設けられ、第2吸気バルブ12Bと第2排気バルブ13Bとが対向配置される側に第2系統21Bが設けられている。
【0023】
制御装置30は、取得した情報に基づいて演算した結果を出力するコントロール部としてのマイクロコンピュータ30Aを備え、各気筒の燃料噴射弁15A,15Bによる燃料噴射を制御する。
マイクロコンピュータ30Aは、図示を省略したMPU(Microprocessor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを有する。
【0024】
マイクロコンピュータ30Aは、内燃機関10の運転状態を検出する各種センサが出力する信号を取得し、取得した信号に基づく演算処理によって、各気筒の燃料噴射弁15A,15Bの燃料噴射を制御するための噴射パルス信号を出力する。
上記の各種センサとして、内燃機関10の吸入空気流量を検出する流量センサ41、内燃機関10のクランク軸の回転角を検出するクランク角センサ42、内燃機関10の冷却水の温度を検出する水温センサ43、内燃機関10の排気空燃比を検出する空燃比センサ44などが設けられている。
【0025】
マイクロコンピュータ30Aは、クランク角センサ42が検出するクランク軸の回転角に基づいて機関回転速度を求め、流量センサ41が検出する吸入空気流量と、機関回転速度とに基づいて、基本噴射パルス幅(基本の燃料噴射量)を求める。
さらに、マイクロコンピュータ30Aは、基本噴射パルス幅に対して、水温センサ43が検出する冷却水の温度に基づく補正処理や、空燃比センサ44が検出する排気空燃比に基づく補正処理などを施して、最終的な噴射パルス幅(最終的な燃料噴射量)を求める。
そして、マイクロコンピュータ30Aは、最終的な噴射パルス幅の噴射パルス信号を、各気筒の燃焼サイクルに応じたタイミングで各気筒の燃料噴射弁15A,15Bに出力する。
【0026】
ところで、上記の冷却装置20は、冷機状態において、第2系統21Bへの冷却水の循環量を減らすことで、ブロック側ウォータージャケット21のうちの一部に対する冷却水の循環量を低下させる暖機処理を実施するため、筒内壁面温度(換言すれば、シリンダライナ温度)にばらつきが発生する。
つまり、第1気筒#1の筒内壁面温度は、第2気筒#2及び第3気筒#3の筒内壁面温度に比べて低くなり、また、第1気筒#1の第1系統21A側(第1吸気バルブ12A及び第1排気バルブ13Aが並ぶ側、図4参照)の筒内壁面温度は、第2系統21B側(第2吸気バルブ12B及び第2排気バルブ13Bが並ぶ側)の筒内壁面温度に比べて低くなる。
【0027】
そして、筒内壁面温度にばらつきが生じると、筒内壁面からの燃料の気化量が筒内壁面温度の違いに応じて異なるようになる。
このため、気筒間(詳細には、第1気筒#1と第2気筒#2、第3気筒#3との間)での筒内壁面温度のばらつきは、気筒間での空燃比のばらつきを生じさせることになって、未燃HCの増加や、ノッキングの悪化などが発生する。
【0028】
また、2つの燃料噴射弁15A,15Bを備える1つの気筒で、第1燃料噴射弁15Aが噴射する燃料が達する側と、第2燃料噴射弁15Bが噴射する燃料が達する側との間での筒内壁面温度がばらつくと、筒内壁面温度が低い側からの燃料の気化量が、筒内壁面温度が高い側からの燃料の気化量よりも低下し、未燃HCの増加を招く。
本実施形態の場合、暖機処理中は、第1気筒#1において、第1燃料噴射弁15A側の筒内壁面温度が第2燃料噴射弁15B側の筒内壁面温度よりも低くなり、第1燃料噴射弁15Aから噴射されて筒内壁面に付着した燃料からの気化量が減る。
【0029】
そこで、マイクロコンピュータ30Aは、冷却装置20が暖機処理を実施して筒内壁面温度のばらつきが発生する冷機状態において、燃料噴射弁15A,15Bの噴射パターンを、燃料噴射弁15A,15Bによって燃料が供給される部位の筒内壁面温度に応じて、同一気筒(第1気筒#1)に設けられた燃料噴射弁15Aと燃料噴射弁15Bとの間、または、気筒間で異ならせる。
つまり、マイクロコンピュータ30Aは、筒内壁面温度のばらつきに応じて燃料噴射弁15A,15Bの噴射パターンを切り替えることで、筒内壁面温度のばらつきによる未燃HCの増加を抑止する。
なお、噴射パターンとは、燃料の噴射タイミング、燃料噴射量の分担比、分割噴射の分割回数のうちの少なくとも1つである。
【0030】
以下では、マイクロコンピュータ30Aが実施する、筒内壁面温度に応じた噴射パターンの制御を、詳細に説明する。
マイクロコンピュータ30Aは、燃料噴射弁15A,15Bによって燃料が供給される部位の筒内壁面温度に関する情報を取得し、取得した筒内壁面温度においてHC低減指標がピーク値(最大値)となる、つまり、未燃HCが可及的に少なくなる噴射パターンを選定する。
【0031】
HC低減指標は、気化率と均質度とから決定され、マイクロコンピュータ30Aは、気化率と均質度とを最適なバランスで最大化できる噴射パターンの選定によって、筒内壁面温度がばらついても未燃HCが増えることを抑止する。
なお、本実施形態では、「気化率」、「均質度」を以下のように定義する。
【0032】
「気化率」は、本実施形態において、内燃機関10の1サイクル中に燃料噴射弁15A,15Bから噴射した燃料量をFS、燃料量FSのうち圧縮TDCで筒内に存在する気化燃料量をFVとしたときに、気化率[%]=100×FV/FAとする。
また、「均質度」は、本実施形態において、圧縮TDCで筒内に存在する混合気の体積をVM、圧縮TDCで筒内に存在する可燃混合気、詳細には、空燃比が12から16までの混合気の体積をVCとしたときに、均質度[%]=100×VC/VMとする。
【0033】
未燃HCは上記の「気化率」と「均質度」とを因子として発生し、筒内壁面への燃料付着量の低減によって「気化率」が向上することで未燃HCが低減される。
また、筒内の局所的なリッチ混合気の低減によって「均質度」が向上することで未燃HCが低減される。
【0034】
そこで、マイクロコンピュータ30Aは、「気化率」を指標とする噴射パターンと、「均質度」を指標とする噴射パターンとを勘案して、筒内壁面温度の条件に対して未燃HCを可及的に低減できる噴射パターンを選定するよう構成されている。
詳細には、マイクロコンピュータ30Aは、「気化率」と「均質度」とに重み付けして定められるHC低減指標が、筒内壁面温度の条件に対してピーク値となる噴射パターンを選定するよう構成されている。
【0035】
図5図7は、HC低減指標に基づき噴射パターンを選定する制御の特性を説明するための図であって、噴射パターンとしての噴射タイミング(詳細には、噴射終了タイミング)を筒内壁面温度に応じて切り替える場合について示す。
図5は、噴射終了タイミングと水温との組み合わせ毎に気化率[%]のデータを格納したマップである。
図6は、噴射終了タイミングと水温との組み合わせ毎に均質度[%]のデータを格納したマップである。
図7は、噴射終了タイミングと水温との組み合わせ毎にHC低減指標[%]を格納したマップである。
【0036】
マイクロコンピュータ30Aの制御仕様を定める開発、設計段階で、噴射終了タイミングと筒内壁面温度を代表する水温との組み合わせ毎の気化率を、実験やシミュレーションによって求め、これらの関係を図5に示すようにマップ化する。
同様に、制御仕様を定める開発、設計段階で、噴射終了タイミングと筒内壁面温度を代表する水温との組み合わせ毎の均質度を、実験やシミュレーションによって求め、これらの関係を図6に示すようにマップ化する。
【0037】
なお、対象とする内燃機関10が、吸気バルブ12A,12Bのバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング装置VTCを備える場合、吸気バルブ12A,12Bのバルブタイミングによってバルブオーバーラップが変わることで、吸気バルブ12A,12Bが開いたときの吸気ポート14A,14Bへの吹き返し量が変わる。
そして、吸気ポート14A,14Bへの吹き返し量が変わることで、気化率、均質度が変わる。
そこで、内燃機関10が可変バルブタイミング装置VTCを備える場合、バルブタイミング毎(換言すれば、可変バルブタイミング装置VTCの変換角毎)に気化率のマップ、均質度のマップが定められる。
【0038】
気化率のマップ、均質度のマップが求まると、噴射終了タイミングと水温との組み合わせ毎に、気化率と均質度とに重み付けしてHC低減指標を求め、噴射終了タイミングと水温との組み合わせ毎にHC低減指標を格納するマップ(図7参照)を定める。
つまり、HC低減指標マップの各格子に格納されるHC低減指標[%]の値は、気化率マップの同じ格子上に格納された気化率[%]と、均質度マップの同じ格子上に格納された均質度[%]とを加重平均して求められた値である。
そして、マイクロコンピュータ30Aは、HC低減指標マップにおけるHC低減指標の特性に基づき、筒内壁面温度(水温)の検出値に対してHC低減指標が最も大きくなる噴射終了タイミングを、燃料噴射弁15A,15Bの噴射制御における設定値とし、筒内壁面温度(水温)の違いによって噴射終了タイミングを可変とする。
【0039】
ここで、HC低減指標は、気化率が未燃HCの低減に寄与する度合いである寄与度C1と、均質度が未燃HCの低減に寄与する度合いである寄与度C2とを用い、下式にしたがって算出される。
HC低減指標=気化率×C1+均質度×C2
【0040】
寄与度C1,C2は、C1+C2=1.0であって、実機における未燃HCの測定結果などに基づき適合される値である。
なお、HC指標は、均質度の重み付け(寄与度C2)を気化率の重み付け(寄与度C1)より大きくして求めることが未燃HCの低減により有効で、たとえば、C1=0.3、C2=0.7とする。
【0041】
マイクロコンピュータ30Aは、冷却装置20で暖機処理が行われ、燃料噴射弁15A,15Bが噴射する燃料が付着する部位の筒内壁面温度が気筒間または同一気筒でばらつくときに、筒内壁面温度の違いに応じて個別に噴射終了タイミングを設定する。
ここで、マイクロコンピュータ30Aは、筒内壁面温度のばらつきを、第1系統21Aでの水温TW1及び第2系統21Bでの水温TW2の情報を取得することで検知する。
【0042】
詳しくは、マイクロコンピュータ30Aは、第1気筒#1において第1系統21A側に配される第1燃料噴射弁15A(図4参照)については、第1系統21Aでの水温TW1を、第1燃料噴射弁15Aが噴射する燃料が付着する部位の筒内壁面温度とする。
また、マイクロコンピュータ30Aは、第1気筒#1において第2系統21B側に配される第2燃料噴射弁15Bについては、第2系統21Bでの水温TW2を、第2燃料噴射弁15Bが噴射する燃料が付着する部位の筒内壁面温度とする。
さらに、マイクロコンピュータ30Aは、第2気筒#2及び第3気筒#3については、第1燃料噴射弁15Aが噴射する燃料が付着する部位の筒内壁面温度と、第2燃料噴射弁15Bが噴射する燃料が付着する部位の筒内壁面温度とを、共に第2系統21Bでの水温TW2で代表させる。
【0043】
ここで、第1系統21Aでの水温TW1及び第2系統21Bでの水温TW2を求める方法を説明する。
図8は、水温センサ43として、第1系統21Aと第2系統21Bとが合流した後の流水通路での水温TW3を検出する第1水温センサ43Aと、第1系統21Aでの水温TW1を検出する第2水温センサ43Bとを備えた構成を示す。
係る構成の場合、マイクロコンピュータ30Aは、合流後の水温TW3と、第1系統21Aでの水温TW1とから、第2系統21Bでの水温TW2を推定する。
【0044】
図9は、水温センサ43として、第1系統21Aと第2系統21Bとが合流した後の流水通路での水温TW3を検出する第1水温センサ43Aと、第2系統21Bでの水温TW2を検出する第3水温センサ43Cとを備えた構成を示す。
係る構成の場合、マイクロコンピュータ30Aは、合流後の水温TW3と、第2系統21Bでの水温TW2とから、第1系統21Aでの水温TW1を推定する。
【0045】
図10は、水温センサ43として、第1系統21Aと第2系統21Bとが合流した後の流水通路での水温TW3を検出する第1水温センサ43Aと、第1系統21Aでの水温TW1を検出する第2水温センサ43Bと、第2系統21Bでの水温TW2を検出する第3水温センサ43Cとを備えた構成を示す。
この場合、第1系統21Aでの水温TW1と、第2系統21Bでの水温TW2とが、それぞれセンサによって直接的に検出されるため、水温推定を行なう場合に比べて制御精度が高くなるものの、水温センサ43の数が多くなる。
これに対し、図8又は図9の構成では、水温センサ43の数を削減しつつ、筒内壁面温度のばらつきに応じた噴射パターンの制御を実現できる。
【0046】
次に、筒内壁面温度のばらつきによる噴射終了タイミングの違いをより具体的に説明する。
図11図19は、第1気筒#1における筒内壁面温度のばらつきによる噴射終了タイミングの違いを、暖機の進行段階毎に説明するための図であって、図11図13は冷機始動直後の状態、図14図16は暖機がある程度進行した状態、図17図19は暖機完了状態を示す。
【0047】
図11は、冷機始動直後であって第2系統21Bにおける冷却水の循環量が抑制されるとき(第2系統21Bで止水されたとき)の筒内壁面温度のばらつきを例示し、第1燃料噴射弁15A側である第1系統21Aの水温が20℃で、第2燃料噴射弁15B側である第2系統21Bの水温が40℃である状態を示す。
図12は、図11に示した水温(筒内壁面温度)の条件で、HC低減指標マップから、第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングと、第2燃料噴射弁15Bの噴射終了タイミングとが検索される様子を示す。
なお、図12は、可変バルブタイミング装置VTCの変換角が0degであると仮定し、変換角が0degであるときのHC低減指標マップから噴射終了タイミングを検索する処理を示す。後で説明する図15図18も同様である。
【0048】
第1燃料噴射弁15A側である第1系統21Aの水温は20℃であって、第1燃料噴射弁15Aから噴射された燃料が付着する筒内壁面温度は20℃程度であるので、HC低減指標マップの20℃の行においてHC低減指標がピーク値となる噴射終了タイミングが、第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングに設定される。
図12の例では、HC低減指標マップの20℃の行において、HC低減指標が最も大きくなる(換言すれば、未燃HCの低減度合いが最も高い)噴射終了タイミングは、HC低減指標が72である吸気上死点前90deg(-90degATDC)である。
したがって、第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングは、吸気上死点前90degに定められる。
【0049】
一方、第2燃料噴射弁15B側である第2系統21Bの水温は40℃であって、第2燃料噴射弁15Bから噴射された燃料が付着する筒内壁面温度は40℃程度であるので、HC低減指標マップの40℃の行を参照する。
ここで、HC低減指標マップの40℃の行において、HC低減指標の最も大きい値は75であって、HC低減指標が75となる噴射終了タイミングは、吸気上死点前30deg(-30degATDC)と、吸気上死点(0degATDC)である。
【0050】
但し、気化率と均質度とからHC低減指標を求めるときに均質度が優先され、また、均質度のマップ(図6参照)は、水温が40℃のときは概ね噴射終了タイミングが遅くなると均質度が高くなる傾向が示す。
そこで、HC低減指標が最大値を示す噴射終了タイミングである、吸気上死点前30degと、吸気上死点とのうち、より遅いタイミングであって均質度が僅かながらでも高くなる可能性のある吸気上死点が、第2燃料噴射弁15Bの噴射終了タイミングに定められる。
なお、HC低減指標マップにおける水温の格子が、たとえば0℃、20℃、40℃のように20℃単位で設定され、実際の水温が25℃、30℃のような中間値である場合、補間処理によって、中間値である水温に適合する噴射終了タイミングが求められる。
【0051】
図13は、第1燃料噴射弁15A側である第1系統21Aの水温が20℃で、第2燃料噴射弁15B側である第2系統21Bの水温が40℃である状態であるときの、第1気筒#1の各燃料噴射弁15A,15Bの噴射パルス信号の出力タイミングを示す。
前述したように、第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングは吸気上死点前90degに定められるので、吸気上死点前90degから噴射パルス幅分だけ前のタイミングで第1燃料噴射弁15Aの燃料噴射が開始されるように、第1燃料噴射弁15Aへの噴射パルス信号の出力が行われる。
一方、第2燃料噴射弁15Bの噴射終了タイミングは吸気上死点に定められるので、吸気上死点から噴射パルス幅分だけ前のタイミングで第2燃料噴射弁15Bの燃料噴射が開始されるように、第2燃料噴射弁15Bへの噴射パルス信号の出力が行われる。
【0052】
つまり、第1気筒#1において、燃料が供給される部位の筒内壁面温度が相対的に低い燃料噴射弁(第1燃料噴射弁15A)の噴射タイミングが、燃料が供給される部位の筒内壁面温度が相対的に高い燃料噴射弁(第2燃料噴射弁15B)の噴射タイミングより早いタイミングに設定される。
係る噴射タイミングの設定により、筒内壁面温度が低い側に燃料を噴射する第1燃料噴射弁15Aから噴射される燃料の気化期間がより長く確保され、未燃HCの低減を図ることができる。
なお、図13に示す例では、第1燃料噴射弁15Aと第2燃料噴射弁15Bとの燃料噴射量の分担比は50:50であって、第1燃料噴射弁15Aに与えられる噴射パルス信号のパルス幅と、第2燃料噴射弁15Bに与えられる噴射パルス信号のパルス幅とは同じである。
【0053】
一方、第2気筒#2及び第3気筒#3の各燃料噴射弁15A,15Bの噴射終了タイミングは、第2系統21Bの水温である40℃に基づき、吸気上死点前90degに統一設定される。
つまり、暖機処理状態において、マイクロコンピュータ30Aは、筒内壁面温度のばらつきに応じて、同一気筒に設けられた複数の燃料噴射弁の間、または、気筒間で、噴射タイミング(噴射パターン)を異ならせる制御を実施する。
【0054】
図14は、図11に比べて暖機が進んだ状態における、第1気筒#1での筒内壁面温度のばらつきの状態を例示し、第1系統21Aの水温が40℃で、第2系統21Bの水温が80℃である状態を示す。
なお、第2系統21Bの水温=80℃は、暖機完了後の適正範囲内の水温であって、暖機完了状態に略相当する水温である。
【0055】
図15は、上記の水温条件にしたがって、HC低減指標のマップから噴射終了タイミングが検索される様子を示す。
第2系統21Bの水温は80℃であり、水温=80℃でHC低減指標が最大値となるのは、噴射終了タイミングが吸気上死点後30deg(30degATDC)の場合である。
したがって、第1気筒#1の第2燃料噴射弁15Bの噴射終了タイミングは、吸気上死点後30degに設定される。
【0056】
また、第2気筒#2及び第3気筒#3の各燃料噴射弁15A,15Bの噴射終了タイミングは、第2系統21Bの水温である80℃に基づき、吸気上死点後30degに統一設定される。
一方、第1系統21Bの水温は40℃であり、水温=40℃でHC低減指標が最大値となるのは、噴射終了タイミングが吸気上死点前30deg(-30degATDC)の場合と吸気上死点(0degATDC)の場合とである。
前述したように、水温が40℃であるとき、均質度は、噴射終了タイミングの遅い方が高くなる傾向があるので、ここでは、2つの噴射終了タイミングのうちのより遅い方である吸気上死点が、第1気筒#1の第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングとして設定される。
【0057】
図16は、第1系統21Aの水温が40℃で、第2系統21Bの水温が80℃である状態での、第1気筒#1の各燃料噴射弁15A,15Bの噴射パルス信号を示す。
前述したように、第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングは吸気上死点に定められるので、吸気上死点から噴射パルス幅分だけ前のタイミングで第1燃料噴射弁15Aの燃料噴射が開始されるように、第1燃料噴射弁15Aへの噴射パルス信号の出力が行われる。
一方、第2燃料噴射弁15Bの噴射終了タイミングは吸気上死点後30degに定められるので、吸気上死点後30degから噴射パルス幅分だけ前のタイミングで第2燃料噴射弁15Bの燃料噴射が開始されるように、第2燃料噴射弁15Bへの噴射パルス信号の出力が行われる。
【0058】
つまり、冷機始動状態から暖機が進んだことで、第1気筒#1での噴射終了タイミングは、第1燃料噴射弁15Aと第2燃料噴射弁15Bとの双方で、暖機開始当初(図13参照)よりも遅角される。
しかし、図14図16の温度状態は、依然として、第1燃料噴射弁15A側の筒内壁面温度と第2燃料噴射弁15B側の筒内壁面温度とに差があり、第1燃料噴射弁15A側が低い状態である。
そこで、第1燃料噴射弁15Aから噴射される燃料の気化期間を確保するため、第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングは、第1燃料噴射弁15Aの噴射終了タイミングよりも早いタイミングに設定される。
【0059】
図17は、内燃機関10の暖機が略完了した状態での第1気筒#1における筒内壁面温度を例示する図であり、第1系統21Aの水温及び第2系統21Bの水温が共に80℃であって、第1気筒#1で筒内壁面温度のばらつきが解消された状態である。
そして、図18は、上記の水温条件にしたがって、HC低減指標マップから噴射終了タイミングが検索される様子を示す。
【0060】
第1系統21Aの水温及び第2系統21Bの水温は共に80℃であり、HC低減指標マップの水温=80℃でHC低減指標が最大値となるのは、噴射終了タイミングが吸気上死点後30deg(30degATDC)の場合である。
したがって、第1気筒#1の各燃料噴射弁15A,15Bの噴射終了タイミングは吸気上死点後30degに設定される。
また、第2気筒#2及び第3気筒#3の各燃料噴射弁15A,15Bについても噴射終了タイミングは上死点後30degに設定され、全燃料噴射弁15A,15Bで噴射終了タイミングが上死点後30degに統一設定される。
【0061】
図19は、第1系統21Aの水温が80℃で、第2系統21Bの水温が80℃である状態での、第1気筒#1の各燃料噴射弁15A,15Bの噴射パルス信号を示す。
暖機完了によって第1系統21Aの水温及び第2系統21Bの水温が共に80℃になり、第1気筒#1での筒内壁面温度のばらつきが解消されたことで、第1気筒#1の各燃料噴射弁15A,15Bの噴射終了タイミングは吸気上死点後30degに統一設定され、各燃料噴射弁15A,15Bに同じタイミングで噴射パルス信号が与えられる。
また、第2気筒#2及び第3気筒#3の各燃料噴射弁15A,15Bにも、図19と同じタイミングで噴射パルス信号が与えられる。
【0062】
上記の実施形態では、噴射パターンとしての噴射タイミングを、筒内壁面温度のばらつきに応じて、同一気筒に設けられた複数の燃料噴射弁の間、または、気筒間で異ならせるが、噴射パターンは噴射タイミングに限定されず、燃料噴射量の分担比、或いは、分割噴射の分割回数を可変とすることができる。
さらに、噴射タイミング、燃料噴射量の分担比、分割噴射の分割回数のうちの複数を、筒内壁面温度のばらつきに応じて、同一気筒に設けられた複数の燃料噴射弁の間、または、気筒間で異ならせることができる。
【0063】
燃料噴射量の分担比を、筒内壁面温度のばらつきに応じて、同一気筒に設けられた複数の燃料噴射弁の間で異ならせる場合での噴射制御を以下で概説する。
筒内壁面温度が低い場合、壁面に付着した燃料の気化量が減ることで未燃HCが増えることになる。
そこで、筒内壁面温度が低い側に噴射する燃料噴射弁(第1気筒#1の第1燃料噴射弁15A)による燃料噴射量を減らす分担比設定を行ない、相対的に、筒内壁面温度が高い側に噴射する燃料噴射弁(第1気筒#1の第2燃料噴射弁15B)よる燃料噴射量を増やすように、燃料噴射量の分担比を切り替える。
【0064】
そして、暖機が完了し、筒内壁面温度のばらつきが解消されれば、両燃料噴射弁による燃料噴射量の分担比を、50:50に復帰させる。
ここで、分担比と水温との組み合わせ毎に気化率及び均質度を求め、気化率及び均質度から求めたHC低減指標を分担比と水温との組み合わせ毎に設定してHC低減指標マップを作成し、制御時における水温の条件でHC低減指標が高くなる分担比を選定するよう構成することができる。
【0065】
また、1サイクル当たりの燃料噴射量を複数回に分けて噴射する分割噴射によって、筒内壁面に付着する燃料量を低減できると共に、筒内の均質化を図ることができる。
そこで、燃料噴射弁から噴射した燃料が付着する筒内壁面の温度が低いほど、分割噴射の回数を増やすようにし、同一気筒に設けられた複数の燃料噴射弁の間、または、気筒間で分割数を異ならせることができる。
【0066】
なお、筒内壁面温度に応じて設定される分割数は自然数であり、分割数=1は、1サイクル当たりの燃料噴射量を分割せずに1回で噴射することを示す。
ここでも、分割数と水温との組み合わせ毎に気化率及び均質度を求め、気化率及び均質度から求めたHC低減指標を分担比と水温との組み合わせ毎に設定してHC低減指標マップを作成し、制御時における水温の条件でHC低減指標が高くなる分割数を選定するよう構成することができる。
【0067】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0068】
たとえば、図1図3に示した内燃機関10において、第1気筒#1の筒内壁面温度を第1系統21Aの水温で代表させ、第1気筒#1の第1燃料噴射弁15A及び第2燃料噴射弁15Bの噴射パターンを、第1系統21Aの水温に応じた同一の噴射パターンとする一方、第2気筒#2及び第3気筒#3の噴射パターンを第2系統21Bの水温に応じて設定することで、気筒間で噴射パターンを異ならせることができる。
【0069】
また、図3に示した内燃機関10は、1気筒当たり、2つの吸気ポートと2本の燃料噴射弁を備えるが、1気筒当たり、1つの吸気ポートと1本の燃料噴射弁を備えるポート噴射機関とすることができる。
そして、1気筒当たり1本の燃料噴射弁を備えるポート噴射機関の場合、気筒間での筒内壁面温度のばらつきに応じて、気筒間で噴射パターンを異ならせることができる。
【0070】
また、内燃機関の気筒数を3気筒に限定するものではなく、2気筒機関や4気筒以上の気筒数の内燃機関であってもよい。
3気筒以上の気筒の内燃機関では、常時通水する(換言すれば、冷機状態と暖機完了後との双方で通水する)気筒の数を2気筒以上とすることもできる。
【0071】
また、冷却水の温度で筒内壁面温度を代表させる代わりに、直接的に筒内壁面温度を検出する壁面温度センサ(シリンダライナ温度センサ)を設けて、係る壁面温度センサの検出結果に応じて噴射パターンを異ならせることができる。
また、噴射パターンとしての噴射終了タイミングを異ならせる代わりに、噴射開始タイミングを筒内壁面温度のばらつきに応じて異ならせることができる。
【0072】
また、冷却装置20において、シリンダの周囲に形成される流水通路のうちの一部に対する冷却水の循環量を冷機状態で低下させる構造は、図1に示したものに限定されない。
たとえば、ブロック側ウォータージャケットが1系統だけ設けられる冷却装置において、仕切り板の位置を冷却水温度に応じて切り替えることで、一部に対する冷却水の循環量を変化させる構造の冷却装置であってもよい。
また、冷却装置20のサーモスタット24,25に代えて、アクチュエータで駆動される弁装置を設け、マイクロコンピュータ30Aが、水温の情報に基づき弁装置を電子制御する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0073】
10…内燃機関、11…シリンダブロック、12A…第1吸気バルブ、12B…第2吸気バルブ、14A…第1吸気ポート、14B…第2吸気ポート、15A…第1燃料噴射弁、15B…第2燃料噴射弁、20…冷却装置、21…ブロック側ウォータージャケット(流水通路)、21A…第1系統、21B…第2系統、22…ラジエータ、23…ウォーターポンプ、24…第1サーモスタット、25…第2サーモスタット、30…制御装置、30A…マイクロコンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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