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  • 特開-リチウム電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133895
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】リチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/16 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
H01M6/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043901
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 皓己
(72)【発明者】
【氏名】本池 紘一
【テーマコード(参考)】
5H024
【Fターム(参考)】
5H024AA03
5H024AA12
5H024FF14
5H024FF15
5H024FF16
5H024FF18
5H024HH01
5H024HH08
(57)【要約】
【課題】低温時の放電特性に優れたリチウム電池を実現する。
【解決手段】リチウム電池100は、二酸化マンガンが用いられた正極11と、リチウムが用いられた負極12と、それらの間に設けられるセパレータ13とを有する電池要素10を含む。リチウム電池100は更に、電池要素10が収容される外装体30と、外装体30内に収容される電解液20とを含む。電解液20として、リチウム電解質塩と、エチレンカーボネートを含有する溶媒とを含む成分と、リン原子に結合したエトキシ基等の-OR基(Rは炭化水素)を有するホスファゼン化合物とを含むものが用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化マンガンが用いられた正極と、リチウムが用いられた負極と、前記正極と前記負極との間に設けられるセパレータとを有する電池要素と、
前記電池要素が収容される外装体と、
前記外装体内に収容される電解液と、
を含み、
前記電解液は、
リチウム電解質塩と、エチレンカーボネートを含有する溶媒とを含む成分と、
リン原子に結合した-OR基(Rは炭化水素)を有するホスファゼン化合物と、
を含む、リチウム電池。
【請求項2】
前記ホスファゼン化合物は、下記式(1)で表される環状ホスファゼン化合物である、請求項1に記載のリチウム電池。
(NPX・・・(1)
〔前記式(1)において、6つのXのうち、5つはフッ素であり、1つは前記-OR基であってエトキシ基又はフェノキシ基である。〕
【請求項3】
前記電解液は、25℃における粘度が2.0mPa・s以下である、請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項4】
前記ホスファゼン化合物は、前記成分に、前記成分の2体積%以上50体積%以下に相当する量、更に添加される、請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項5】
前記溶媒は、プロピレンカーボネート及び1,2-ジメトキシエタンを更に含有する、請求項1に記載のリチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液を用いる電池として、リチウムイオン電池(「リチウム二次電池」とも言う)やリチウム電池(「リチウム一次電池」とも言う)が知られている。
例えば、リチウムイオン電池(リチウム二次電池)に関し、その異常時の発火等に対する安全性向上のため、電解液にホスファゼン誘導体を含有させ、電解液の難燃性又は自己消火性を高める技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-16107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電解液を用いる電池の1種であるリチウム電池(リチウム一次電池)は、二酸化マンガンが用いられた正極と、リチウムが用いられた負極と、正極と負極との間に設けられるセパレータとを有する電池要素が、電解液と共に、フィルムや缶等の外装体内に収容される構成を有する。リチウム電池は、メーター通信や各種バックアップ電源等、様々な用途に使用され、その使用温度範囲は広く、広い温度範囲で高い放電特性が発揮されることが望まれる。しかし、これまでの電解液を用いるリチウム電池では、低温環境下、例えば、-40℃といった0℃以下の低温環境下において、十分な放電特性が得られない場合があった。
【0005】
1つの側面では、本発明は、低温時の放電特性に優れたリチウム電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、二酸化マンガンが用いられた正極と、リチウムが用いられた負極と、前記正極と前記負極との間に設けられるセパレータとを有する電池要素と、前記電池要素が収容される外装体と、前記外装体内に収容される電解液と、を含み、前記電解液は、リチウム電解質塩と、エチレンカーボネートを含有する溶媒とを含む成分と、リン原子に結合した-OR基(Rは炭化水素)を有するホスファゼン化合物と、を含む、リチウム電池が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、低温時の放電特性に優れたリチウム電池を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リチウム電池の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
はじめに、リチウム電池の一例について説明する。
電池の1種として、リチウム電池(リチウム一次電池)が知られている。リチウム電池は、例えば、二酸化マンガンが用いられた正極と、リチウムが用いられた負極と、正極と負極との間に設けられるセパレータとを有するリチウム電池用の電池要素が、電解液と共に、外装体内に収容される構成を有する。リチウム電池の形態としては、袋状のラミネートフィルムを外装体に用いる薄形電池の形態や、所定の形状の缶を外装体に用いるコイン形電池、円筒形電池、角形電池等の形態が知られている。
【0010】
図1はリチウム電池の一例について説明する図である。図1(A)には、リチウム電池の一例の要部平面図を模式的に示している。図1(B)には、リチウム電池の一例の要部断面図を模式的に示している。図1(B)は、図1(A)のI-I断面模式図である。
【0011】
図1(A)及び図1(B)に示すリチウム電池100は、薄形リチウム電池の一例である。リチウム電池100は、電池要素10、電解液20及び外装体30を含む。
電池要素10は、リチウム電池用の電池要素であって、図1(B)に示すように、正極11及び負極12とそれらの間に設けられるセパレータ13とを有する。
【0012】
正極11には、正極活物質を含む正極材料が用いられる。正極活物質には、二酸化マンガンが用いられる。正極材料には、正極活物質のほか、炭素材料等の導電剤、及び、結着剤、溶剤等の有機成分が含まれてもよい。このような材料が正極活物質と共に混練され、正極材料(正極合剤)が形成されてもよい。正極11は、ステンレス製エキスパンドメタル等の集電体を含み、その上に正極材料を積層したものであってもよい。例えば、集電体にスラリー状の正極材料を塗布し、乾燥後、プレスすることで、正極11が形成される。正極11には、外部接続のため、図1(A)及び図1(B)に示すように、帯状の金属等を用いた正極タブ11aが接続される。
【0013】
負極12には、負極活物質を含む負極材料が用いられる。負極活物質には、リチウム、例えば、金属リチウム又はリチウム合金が用いられる。負極12は、銅箔等の集電体を含み、その上に負極材料のリチウムを積層したものであってもよい。例えば、集電体に負極材料のリチウムを貼り付けることで、負極12が形成される。負極12には、外部接続のため、図1(A)及び図1(B)に示すように、帯状の金属等を用いた負極タブ12aが接続される。
【0014】
正極11と負極12とは、図1(B)に示すように、セパレータ13を介して、互いに対向するように設けられる。対向する正極11と負極12とは、セパレータ13によって隔離される。セパレータ13には、ポリオレフィン系やセルロース系の多孔質膜、織布、不織布等が用いられる。このほか、セパレータ13には、セラミック等が用いられてもよい。
【0015】
電池要素10の正極11、負極12及びセパレータ13は、図1(A)及び図1(B)に示すように、正極タブ11a及び負極タブ12aの先端部が突出するように、外装体30内、例えば、2枚の外装フィルム30aの縁部を貼り合わせて袋状にした外装体30内に収容される。外装体30の外装フィルム30aには、アルミニウムやステンレス等の金属層の両面に、ポリアミドやポリプロピレン等の絶縁層が積層されたラミネートフィルムが用いられる。
【0016】
外装体30内には、電池要素10と共に、リチウムイオンの伝導媒体となる電解液20が収容される。
例えば、2枚の矩形状の外装フィルム30aの三辺の縁部を溶着して一辺を開口した袋状の外装体30内に、電池要素10が、その正極タブ11a及び負極タブ12aが外装体30外に突出するように、電解液20と共に収容され、開口している一辺が溶着される。このような手法が用いられ、図1(A)及び図1(B)に示すようなリチウム電池100、即ち、外装体30内に電池要素10及び電解液20が収容され、正極タブ11a及び負極タブ12aが外装体30外に突出した、リチウム電池100が得られる。
【0017】
ここではリチウム電池の一例として、薄形電池の形態を有するリチウム電池100を例示するが、このほか、リチウム電池としては、正極及び負極とそれらの間に設けられるセパレータとを有する電池要素を電解液と共にコイン形の外装缶内に収容したコイン形電池や、電池要素を電解液と共に円筒形や角筒形の外装缶内に収容した円筒形電池や角形電池等の形態も知られている。いずれの形態のリチウム電池においても、電池要素は、2層以上のセパレータを含んでもよく、各セパレータを介して正極と負極とが対向するように(即ち正極又は負極が2層以上)設けられてもよい。また、電池要素は、正極、負極及びセパレータが所定の層数、所定の順で一方向に積層されたもののほか、積層されたものが巻回されたり折り畳まれたりしたものであってもよい。
【0018】
上記リチウム電池100の電解液20等、リチウム電池の電解液としては、従来、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のリチウム電解質塩と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタン等の溶媒とを含むものが知られている。しかし、このような従来の電解液を用いたリチウム電池では、低温環境下、例えば、-40℃といった0℃以下の低温環境下において、十分な放電特性が得られない場合があった。
【0019】
ここで、リチウム電池の放電特性としては、例えば、連続放電特性とパルス放電特性とがある。連続放電特性とは、リチウム電池について、定電流で連続的に放電を行った場合の特性、即ち、所定電流が連続的に流れる負荷に接続されている状態での特性である。連続放電特性とは、リチウム電池について、ローレートで連続的に放電を行った場合の特性であるとも言える。また、パルス放電特性とは、リチウム電池について、無負荷状態からパルス的又は突発的に放電を行った場合の特性、即ち、負荷に接続されていない無負荷状態から所定電流がパルス的又は突発的に流れる負荷に接続された状態での特性である。パルス放電特性とは、ハイレートでパルス的又は突発的に放電を行った場合の特性であるとも言える。
【0020】
上記のような従来の電解液を用いたリチウム電池では、低温環境下において、十分なパルス放電特性が得られず、負荷に接続されていない無負荷状態から突発的に負荷に接続された負荷状態に移行した時の電圧値、即ち、無負荷状態から突発的に開始される放電時の電圧値が低くなり、電圧降下が大きくなる傾向があった。
【0021】
一般に、放電時の電圧値が低くなり、電圧降下が大きくなると、リチウム電池が使用されている製品の基準電圧値を下回る可能性が高まり、製品側で電池切れと判断される可能性が高まる。従って、低温環境下において、無負荷状態から突発的に開始される放電時の電圧値が基準電圧値を下回ると、リチウム電池が製品側で早期に電池切れと判断されてしまうような状況を招き易い。例えば、低温環境下での製品起動時等の初期段階において早々に電池切れと判断されてしまうような状況を招くことが考えられる。
【0022】
低温環境下における製品側の早期電池切れ判断を回避するためには、リチウム電池の低温時のパルス放電特性を高めること、即ち、無負荷状態からの放電時の電圧値を高めること及び電圧降下を小さくすることが有効となる。しかし、従来の電解液を用いたリチウム電池では、このような低温時のパルス放電特性が十分とは言えず、製品側の早期電池切れ判断を回避することが難しい場合があった。
【0023】
このような点に鑑み、ここではリチウム電池の電解液として、以下に示すようなものを用い、低温時の放電特性に優れたリチウム電池を実現する。
即ち、ここではリチウム電池の電解液として、リチウム電解質塩及び所定の溶媒を含む成分と、所定のホスファゼン化合物とを含む電解液が用いられる。
【0024】
電解液のリチウム電解質塩には、例えば、リチウム塩の1種であるトリフルオロメタンスルホン酸リチウムが用いられる。このほか、電解液のリチウム電解質塩には、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等、各種リチウム塩が用いられてもよい。電解液のリチウム電解質塩には、1種のリチウム塩が用いられてもよいし、2種以上のリチウム塩が用いられてもよい。
【0025】
電解液の溶媒には、エチレンカーボネートを含有するものが用いられる。電解液の溶媒には、エチレンカーボネートのほか、プロピレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタン等の他の化合物が更に含有されてもよい。電解液の溶媒には、少なくともエチレンカーボネートを含む、2種以上の化合物が含有されてもよい。以下では、このように少なくともエチレンカーボネートを含有する電解液の溶媒を、「エチレンカーボネート含有溶媒」とも言う。
【0026】
また、電解液のホスファゼン化合物には、リン原子に結合した-OR基(Rは炭化水素)を有するものが用いられる。電解液のホスファゼン化合物は、例えば、下記式(1)で表される環状ホスファゼン化合物である。
【0027】
(NPX・・・(1)
上記式(1)において、6つのXのうち、5つはハロゲン元素であり、1つは-OR基(Rは炭化水素)である。ハロゲン元素は、例えば、フッ素である。-OR基は、例えば、エトキシ基等のアルコキシ基、又は、フェノキシ基等のアリールオキシ基である。一例として、電解液のホスファゼン化合物には、下記式(1a)のようなモノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼン、又は、式(1b)のようなモノフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンを用いることができる。
【0028】
【化1a】
【0029】
【化1b】
【0030】
尚、電解液のホスファゼン化合物は、これらに限定されるものではなく、各種ホスファゼン化合物を用い得る。電解液のホスファゼン化合物には、1種のホスファゼン化合物が用いられてもよいし、2種以上のホスファゼン化合物が用いられてもよい。
【0031】
上記電解液、即ち、リチウム電解質塩とエチレンカーボネート含有溶媒とを含む成分と、-OR基(Rは炭化水素)を有するホスファゼン化合物とを含む電解液は、例えば、25℃における粘度が2.0mPa・s以下となるように調整される。電解液の粘度が2.0mPa・s以下といった比較的低い粘度とされることで、当該電解液が用いられたリチウム電池において、リチウムイオン伝導度の低下及びセル抵抗の上昇等が効果的に抑えられる。
【0032】
上記電解液において、ホスファゼン化合物は、リチウム電解質塩とエチレンカーボネート含有溶媒とを含む成分に、当該成分の2体積%以上50体積%以下に相当する量、更に添加される。換言すれば、リチウム電解質塩とエチレンカーボネート含有溶媒とを含む成分の体積V1と、ホスファゼン化合物の体積V2との比率を、V1:V2=100:Xとした場合に、Xが2以上50以下となるように、当該成分にホスファゼン化合物が添加される。尚、当該成分には、リチウム電解質塩とエチレンカーボネート含有溶媒とを主体として含有するものであれば、それらとは異なる他の物質、例えば、溶媒や不可避不純物等が含まれてもよい。
【0033】
上記のように、リチウム電池の電解液として、リチウム電解質塩とエチレンカーボネート含有溶媒とを含む成分と、-OR基(Rは炭化水素)を有するホスファゼン化合物とを含むものが用いられる。リチウム電池は、このような所定のホスファゼン化合物が添加された電解液が用いられることで、添加されない電解液が用いられる場合に比べて、低温時の放電特性が改善される。例えば、-40℃といった0℃以下の低温環境下での放電特性、そのような低温環境下でのパルス放電特性が高められる。即ち、低温環境下で無負荷状態から突発的に開始される放電時の電圧値が高められ、そのような無負荷状態からの突発的な放電時の電圧降下が抑えられる。これにより、リチウム電池が使用される製品が低温環境下に置かれるような場合でも、製品起動時等の初期段階においてリチウム電池の電圧値が製品の基準電圧値を下回ること、それにより製品側で早期に電池切れと判断されてしまうことが効果的に抑えられるようになる。上記電解液によれば、低温時の放電特性に優れたリチウム電池が実現される。
【0034】
以下、実施例及び比較例の電解液及びリチウム電池並びにそれらの特性評価の結果について説明する。
<実施例1>
(正極)
正極活物質として二酸化マンガンを用い、これを導電剤及び結着剤等と混合し、スラリー状の正極材料を得た。得られた正極材料を、正極集電体となるシート状のステンレス製エキスパンドメタルに塗布し、乾燥、プレス後に、正極電極部と正極端子部とを切り出し、熱融着樹脂付きの正極タブを正極端子部に抵抗溶接し、正極タブが接続された正極を得た。
【0035】
(負極)
負極集電体となる銅箔からリチウム貼り付け部と負極端子部とを切り出し、リチウム貼り付け部に、負極材料又は負極活物質として、切断した金属リチウムを貼り付け、熱融着樹脂付きの負極タブを負極端子部に抵抗溶接し、負極タブが接続された負極を得た。
【0036】
(セパレータ)
セパレータとして、ポリプロピレン系セパレータを用いた。
(電解液)
リチウム電解質塩としてトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを用い、溶媒としてエチレンカーボネート(「EC」とも言う)、プロピレンカーボネート(「PC」とも言う)、1,2-ジメトキシエタン(「DME」とも言う)を用いた。ホスファゼン化合物として上記式(1a)に示したもの、即ち、モノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼンを用いた。
【0037】
電解液の作製では、まず、EC、PC及びDMEを含有する溶媒(上記エチレンカーボネート含有溶媒の一例)を作製した。溶媒におけるEC、PC及びDMEの体積比は、例えば、ECを5体積%から20体積%の範囲、PCを5体積%から20体積%の範囲、DMEを60体積%から90体積%の範囲とすることができる。ここでは一例として、ECを10体積%、PCを10体積%、DMEを80体積%として溶媒を作製した。次いで、作製した溶媒に、リチウム電解質塩のトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを、塩濃度が0.6M(mol/L)となるように溶解し、リチウム電解質塩及び溶媒を含む溶液を作製した。そして、作製した溶液に、ホスファゼン化合物を、当該作製した溶液の2体積%に相当する量、更に添加した。これにより、所定のリチウム電解質塩及び溶媒を含む成分(100体積%)と、更にその2体積%相当量の所定のホスファゼン化合物(2体積%)とを含む、実施例1の電解液を得た。
【0038】
(セルの作製)
正極タブ付きの正極、セパレータ、負極タブ付きの負極の順に積層した積層体を、電解液と共に、別途用意しておいたラミネートフィルム製の外装体内に、正負極タブが突出するように収容し、外装体を密封した。尚、外装体外に正負極タブが突出するように、外装体内に積層体及び電解液を収容して外装体を密封する手順としては、例えば、次のような手順を採用することができる。即ち、互いに対面させた2枚の矩形状のラミネートフィルム(外装フィルム)の三辺を溶着して一辺が開口する袋状の外装体を作製し、その袋状の外装体内に、正負極タブが突出するように、積層体を収容し、更に電解液を注入して収容し、袋状の外装体における正負極タブ突出側の開口している一辺を封止する。例えば、このような手順が採用され、外装体外に正負極タブが突出するように、外装体内に積層体及び電解液が収容される。
【0039】
上記のような手順で組み立てることにより、実施例1のリチウム電池を得た。尚、リチウム電池のセルサイズは縦7mm×横7mm×厚み1mmとした。
<実施例2>
塩濃度0.6Mのリチウム電解質塩のトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、並びに、EC、PC及びDMEを含有する溶媒(体積比でEC:PC:DME=10:10:80)を含む溶液に、ホスファゼン化合物のモノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼンを、当該溶液の5体積%に相当する量、更に添加した。これにより、所定のリチウム電解質塩及び溶媒を含む成分(100体積%)と、更にその5体積%相当量の所定のホスファゼン化合物(5体積%)とを含む、実施例2の電解液を得た。このような電解液を用いること以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2のリチウム電池を得た。
【0040】
<実施例3>
塩濃度0.6Mのリチウム電解質塩のトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、並びに、EC、PC及びDMEを含有する溶媒(体積比でEC:PC:DME=10:10:80)を含む溶液に、ホスファゼン化合物のモノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼンを、当該溶液の10体積%に相当する量、更に添加した。これにより、所定のリチウム電解質塩及び溶媒を含む成分(100体積%)と、更にその10体積%相当量の所定のホスファゼン化合物(10体積%)とを含む、実施例3の電解液を得た。このような電解液を用いること以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3のリチウム電池を得た。
【0041】
<実施例4>
塩濃度0.6Mのリチウム電解質塩のトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、並びに、EC、PC及びDMEを含有する溶媒(体積比でEC:PC:DME=10:10:80)を含む溶液に、ホスファゼン化合物のモノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼンを、当該溶液の20体積%に相当する量、更に添加した。これにより、所定のリチウム電解質塩及び溶媒を含む成分(100体積%)と、更にその20体積%相当量の所定のホスファゼン化合物(20体積%)とを含む、実施例4の電解液を得た。このような電解液を用いること以外は、上記実施例1と同様にして、実施例4のリチウム電池を得た。
【0042】
<実施例5>
塩濃度0.6Mのリチウム電解質塩のトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、並びに、EC、PC及びDMEを含有する溶媒(体積比でEC:PC:DME=10:10:80)を含む溶液に、ホスファゼン化合物のモノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼンを、当該溶液の50体積%に相当する量、更に添加した。これにより、所定のリチウム電解質塩及び溶媒を含む成分(100体積%)と、更にその50体積%相当量の所定のホスファゼン化合物(50体積%)とを含む、実施例5の電解液を得た。このような電解液を用いること以外は、上記実施例1と同様にして、実施例5のリチウム電池を得た。
【0043】
<比較例1>
塩濃度0.6Mのリチウム電解質塩のトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、並びに、EC、PC及びDMEを含有する溶媒(体積比でEC:PC:DME=10:10:80)を含む溶液を、比較例1の電解液とした。即ち、所定のリチウム電解質塩及び溶媒を含み(100体積%)、ホスファゼン化合物を含まない(0体積%)、比較例1の電解液を得た。このような電解液を用いること以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1のリチウム電池を得た。
【0044】
<特性評価>
(リチウム電池のパルス放電特性)
上記実施例1-5及び比較例1の電解液を用いたリチウム電池(未放電品)のそれぞれについて、開路電圧値[V]を測定した。更に、上記実施例1-5及び比較例1の電解液を用いたリチウム電池(未放電品)のそれぞれに対し、電流値16.1mA、時間1s(秒)、温度-40℃の条件でパルス放電(低温パルス放電)を行った。リチウム電池は、低温パルス放電の際、その負荷期間(放電開始から1秒間)に電圧が降下する放電挙動を示す。上記実施例1-5及び比較例1の電解液を用いたリチウム電池のそれぞれについて、上記条件で低温パルス放電を行った際の放電挙動(放電グラフ)から、低温パルス放電時(負荷期間)の電圧値[V]を求めた。更に、上記実施例1-5及び比較例1の電解液を用いたリチウム電池のそれぞれについて、開路電圧値と低温パルス放電時の電圧値との電圧差、即ち、開路電圧値からの低温パルス放電時の電圧降下[V]を求めた。
【0045】
(電解液の粘度)
上記実施例1-5及び比較例1の電解液のそれぞれについて、25℃の恒温槽内にて、E型粘度計を用い、ずり速度10s-1の条件で粘度[mPa・s]を測定した。
【0046】
<特性評価の結果>
上記実施例1-5及び比較例1の電解液の組成[体積%]、電解液を用いたリチウム電池の開路電圧値[V]、低温パルス放電時の電圧値[V]及び電圧降下[V]、並びに、電解液の粘度[mPa・s]を、表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
まず、リチウム電池に、比較例1の電解液が用いられる場合と、実施例1-5の電解液が用いられる場合の、低温パルス放電(電流値16.1mA、時間1s、温度-40℃)時の電圧値、及び、当該電圧値の開路電圧値からの電圧降下を比較する。
【0049】
表1より、比較例1の電解液が用いられたリチウム電池の低温パルス放電時の電圧値が2.39Vであったのに対し、実施例1-5の電解液が用いられたリチウム電池の低温パルス放電時の電圧値は2.45Vから2.46Vの範囲となった。ホスファゼン化合物が含まれる実施例1-5の電解液が用いられたリチウム電池では、ホスファゼン化合物が含まれない比較例1の電解液が用いられたリチウム電池に比べて、低温パルス放電時の電圧値が上昇することが確認された。
【0050】
また、表1より、比較例1の電解液が用いられるリチウム電池の開路電圧値からの低温パルス放電時の電圧降下が0.76Vであったのに対し、実施例1-5の電解液が用いられるリチウム電池の開路電圧値からの低温パルス放電時の電圧降下は0.70Vから0.72Vの範囲となった。ホスファゼン化合物が含まれる実施例1-5の電解液が用いられたリチウム電池では、ホスファゼン化合物が含まれない比較例1の電解液が用いられたリチウム電池に比べて、開路電圧値からの低温パルス放電時の電圧降下が小さく抑えられることが確認された。
【0051】
続いて、比較例1の電解液と、実施例1-5の電解液の、25℃における粘度を比較する。
表1より、比較例1の電解液の25℃における粘度が0.9mPa・sであったのに対し、実施例1-5の電解液の25℃における粘度は1.0mPa・sから1.3mPa・sの範囲となった。ホスファゼン化合物が含まれる実施例1-5の電解液は、ホスファゼン化合物が含まれない比較例1の電解液に比べて、25℃における粘度が若干高くなる傾向が認められた。但し、実施例1-5の電解液は、リチウム電池の電解液としては十分に低い2.0mPa・s以下の粘度を示し、リチウムイオン伝導度の低下やセル抵抗の上昇等、リチウム電池の性能低下を招くような粘度ではなかった。実施例1-5の電解液のように、ホスファゼン化合物が添加されても、2.0mPa・s以下といった十分に低い粘度が実現されることが確認された。
【0052】
以上の特性評価の結果から、リチウム電解質塩のトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、並びに、EC、PC及びDMEを含有する溶媒を含む成分に、更にホスファゼン化合物が添加された実施例1-5の電解液(ホスファゼン化合物の添加量が2体積%から50体積%の電解液)が用いられることで、高性能のリチウム電池が実現される。
【0053】
即ち、電解液にホスファゼン化合物が添加されても、当該電解液の高粘度化が抑えられ、リチウムイオン伝導度の低下やセル抵抗の上昇等が抑えられる。また、電解液にホスファゼン化合物が添加されることで、当該電解液を用いたリチウム電池の低温パルス放電時の電圧値が高くなり、開路電圧値からの電圧降下が小さく抑えられる。換言すれば、低温環境下で無負荷状態から突発的に開始される放電時の電圧値が高められ、そのような無負荷状態からの突発的な放電時の電圧降下が抑えられる。これにより、リチウム電池が使用される製品が低温環境下に置かれるような場合でも、製品起動時等の初期段階においてリチウム電池の電圧値が製品の基準電圧値を下回ること、それにより製品側で早期に電池切れと判断されてしまうことが効果的に抑えられるようになる。上記電解液によれば、低温時の放電特性に優れたリチウム電池が実現される。
【0054】
ここでは、ホスファゼン化合物としてモノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼン(式(1a))を含む電解液及びそれを用いたリチウム電池を例示したが、ホスファゼン化合物としてモノフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン(式(1b))を含む電解液及びそれを用いたリチウム電池についても、上記同様の効果が得られる。モノエトキシペンタフロオロシクロトリホスファゼン及びモノフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンを共に含む電解液及びそれを用いたリチウム電池についても、上記同様の効果が期待できると考えられる。
【0055】
また、ここでは、リチウム電解質塩としてトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含む電解液及びそれを用いたリチウム電池を例示したが、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム以外の他のリチウム塩を含む電解液及びそれを用いたリチウム電池についても、上記同様の効果が期待できると考えられる。
【0056】
また、ここでは、EC、PC及びDMEを含有する溶媒を含む電解液及びそれを用いたリチウム電池を例示したが、EC、PC及びDMEのうち、EC及びDMEのみが含有される溶媒や、EC及びDMEのみが含有される溶媒を含む電解液及びそれを用いたリチウム電池についても、上記同様の効果が期待できると考えられる。ECと、PC及びDME以外の他の化合物を含有する溶媒を含む電解液及びそれを用いたリチウム電池についても、上記同様の効果が期待できると考えられる。
【符号の説明】
【0057】
10 電池要素
11 正極
11a 正極タブ
12 負極
12a 負極タブ
13 セパレータ
20 電解液
30 外装体
30a 外装フィルム
100 リチウム電池
図1