(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133905
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】スポットサイズ変換器
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G02B6/122 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043915
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】古澤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 浩一
(72)【発明者】
【氏名】関根 徳彦
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB24
2H147BB02
2H147BG11
2H147EA13C
2H147EA14A
2H147EA14B
2H147GA13
(57)【要約】
【課題】積層構造を用いずに高い結合効率を実現できるスポットサイズ変換器を提供する。
【解決手段】スポットサイズ変換器1は、シリコン基板2上に形成されたアンダークラッド3上に、第1コア4と第2コア5を並設し、オーバークラッド6で覆った構造である。第2コア5は、端面1aから基準位置RPまで断面の横幅が徐々に減少して第1コア4との離隔距離が広がるテーパ状の入出力部51を備える。並設した第1コア4と第2コア5によって形成されるスロット導波路モードにて端面1aの空間的電磁界分布が形成されることにより、空間的電磁界分布が第1コア4からコア間隙部7を介して第2コア5まで平滑化されて広がるので、光スポットの面内方向の広がりの制御自由度が高まり、結合効率が向上する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光集積回路において、端面の入出力電磁界分布を所望の入出力電磁界分布に整合するためのスポットサイズ変換器であって、
前記光集積回路のクラッド層内に、互いに接触しない第1のコア、及び第2のコアを有し、前記第2のコアの2つの側壁は、長手方向に互いに平行でないことを特徴とするスポットサイズ変換器。
【請求項2】
前記第2のコアは、前記端面からの距離に応じてコア幅が減少し、かつ前記第1のコアからの距離が連続的に増加する構造を有することを特徴とする請求項1に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項3】
前記第2のコアは、前記端面よりも40〔um〕以上離れた位置に、転倒防止構造を有することを特徴とする請求項2に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項4】
前記スポットサイズ変換器の長さは、40〔um〕以上であることを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載のスポットサイズ変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光集積回路内外のインターフェース部分に相当するスポットサイズ変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンフォトニクスに代表される光集積回路は2019年にデータセンター向けの信号処理回路製品が出荷され、増大する通信量に対して、省電力化に貢献している。また、車載向けのレーザーレーダや光ネットワーク信号処理回路の研究開発も積極的に行われている。これらの光集積回路においては、半導体レーザ、波長変換装置、受光素子、光ファイバ等と低損失接続を実現するために、スポットサイズ変換器(SSC:Spot-Size-Converter)が必須である。
【0003】
SSCは、光ファイバとモード面積が顕著に異なるシリコンフォトニクス分野の勃興と共に、多くの研究がなされてきた。光集積回路の回路面から光ファイバに光を取り出すグレーティングカップラーは、50%近い結合効率を得られるが、回折格子の波長依存性から光通信波長帯における帯域は数10nm程度に限られる。
【0004】
一方、簡便かつ広帯域な光ファイバへのインターフェースとして、光集積回路内導波路のコア幅が端面に向けて断熱的に狭まる逆テーパー構造のSSCが広く用いられている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。逆テーパー構造のSSCでは、テーパー先端方向へ伝搬する導波光の空間的閉じ込めがコア幅の減少に伴って弱くなり、モードフィールドが広がる。そのため、光ファイバの伝搬モードの電磁界強度分布と空間的な広がりが同程度となり、高効率な結合が可能となる。また、逆テーパー構造のコアに隣接させた他のコアに光パワーの分布をエバネッセント結合により移動させることができるので、逆テーパー構造のコアに隣接させた他のコアの形状や構造を適宜に設定すれば、多様なSSCを構成できる。
【0005】
しかし、テーパー先端で必要となる最小導波路幅は光集積回路プラットフォームのコア-クラッド間の屈折率に依存する。例として、シリコンフォトニクスでは、特許文献1や非特許文献1に記載された断熱的逆テーパー構造におけるテーパー先端では最小寸法100〔nm〕以下が求められ、コア層の標準的な厚み220〔nm〕に対してアスペクト比は4以上が要求されるため、一般的な半導体加工技術ではパターン倒れなどにより、実用的な歩留まりを阻害する要因となる。高アスペクト比構造の課題が顕在化する典型例として、マイクロコムに適した窒化シリコン(SiN)プラットフォームが挙げられる。マイクロコムでは分散制御のために、コア層の膜厚が800〔nm〕程度となる。加えて、ストリップ型の光導波路における光閉じ込めは、導波路幅と膜厚の両方に依存するため、同程度にモードフィールドを広げるためには、一般に膜厚が厚いほど、導波路幅を狭くする必要がある。例えば、SiNプラットフォームにおいてレンズドファイバの集光スポットサイズと同程度にモードフィールドを広げるためには、テーパー先端の最小寸法を150〔nm〕程度以下にしなければならない。すなわち、アスペクト比は5以上となり、加工プロセスにおける歩留まり向上はさらに困難となる。
【0006】
シリコンフォトニクスのSSCでは、性能が加工寸法に強く依存しない構造等が提案されてきた(例えば、非特許文献2、非特許文献3を参照)。非特許文献2には、パターニングの工夫により、テーパー先端形状を3次元的に形成し、先端における膜厚を減少させることで転倒防止する手法が提案されている。また、非特許文献3には、テーパー先端に補助的な導波路構造を導入し、出射端における空間的電磁界分布を補助的な導波路構造で独立に制御する手法が記載されている。したがって、これら非特許文献2,3に記載された技術によれば、高アスペクト比構造のテーパー先端の転倒防止を行いつつ、高精度なスポットサイズの変換を行うことができる。
【0007】
また、シリコン系と化合物半導体系の光集積回路間など、異なるプラットフォーム間の共集積化を意識したSSC及びその製造手法も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2に記載のSSCは、石英基板上の石英クラッドと石英コアで形成した導波路と、シリコンフォトニクス用光集積回路のスポットを変換するにあたり、中間層に形成したSiNコア層を介すことにより、フリップチップボンディングなど、異種基板間のアライメントをした上で共集積化可能なSSCを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-157530号公報
【特許文献2】特許第6175263号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】V.R.Almeida,et al.、“Nanotaper for compact mode conversion,”、Opt. Lett. 28, 1802、2003年、p.1302-1304
【非特許文献2】R.Takei,et al.、“Silicon knife-edge taper waveguide for ultralow-loss spot-size converter fabricated by photolithography,”、Appl. Phys. Lett. 102, 101108、2013年、p.101108-1-4
【非特許文献3】Y.Maegami,et al.、“Spot-size converter with a SiO2 spacer layer between tapered Si and SiON waveguides for fiber-to-chip coupling,”、Opt. Express, 23, 21287、2015年、p.21287-21295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の逆テーパー構造のみによるSSCでは、コアの屈折率境界におけるMaxwell方程式の境界条件(界面における垂直成分は不連続)による制約で、特に膜厚が大きい場合に電磁界強度分布の不均一性が顕著になり、滑らかな電磁界強度分布を有するモードへ変換する際、実現できる結合効率の律速要因になる。これは、特にSiNプラットフォームにおいて低損失を呈するTEモードに対して問題となる。例えば、自由空間の集光光学系を用いた場合、結合効率は理論最適値でも60%程度しか得られない。また、よりスポットサイズの小さい半導体レーザに対しても、同様の理由で理論最適値は77%に留まる。従って、SiN光プラットフォームのような系においては、さらなる結合効率の改善が望まれる。一方、特許文献2、非特許文献3記載のSSCでは、SiN光プラットフォームにおいても原理的には高い結合効率を実現できるものの、積層構造によって第2のコアを導入しているため、作製プロセスは複雑化してしまう。また、コア層に対して破断限界に近い引っ張り応力がかかる厚膜SiNコアを有するプラットフォームでは、第2のコアを堆積、加工する際にクラック等の機械的損傷が発生する可能性があり、実際の作製プロセスへの適用は困難を伴う。
【0011】
そこで、本発明は、積層構造を用いずに高い結合効率を実現できるスポットサイズ変換器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明に係るスポットサイズ変換器は、光集積回路において、端面の入出力電磁界分布を所望の入出力電磁界分布に整合するためのスポットサイズ変換器であって、前記光集積回路のクラッド層内に、互いに接触しない第1のコア、及び第2のコアを有し、前記第2のコアの2つの側壁は、長手方向に互いに平行でないことを特徴とする。
【0013】
また、前記構成において、前記第2のコアは、前記端面からの距離に応じてコア幅が減少し、かつ前記第1のコアからの距離が連続的に増加する構造を有しても良い。
【0014】
また、前記構成において、前記第2のコアは、前記端面よりも40〔um〕以上離れた位置に、転倒防止構造を有しても良い。
【0015】
また、前記構成において、前記スポットサイズ変換器の長さは、40〔um〕以上であっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るスポットサイズ変換器によれば、並設した第1コアと第2コアによって形成されるスロット導波路モードにて端面の空間的電磁界分布が形成されることにより、空間的電磁界分布が第1コアからコア間隙を介して第2コアまで平滑化されて広がるので、光スポットの面内方向の広がりの制御自由度が高まり、結合効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A1)は本実施形態に係るスポットサイズ変換器の第1構成例における端面の要部を示す正面図である。(A2)は本実施形態に係るスポットサイズ変換器の第1構成例における第1コアと第2コアのレイアウトを示す平面図である。(B1)は本実施形態に係るスポットサイズ変換器の第2構成例における端面の要部を示す正面図である。(B2)は本実施形態に係るスポットサイズ変換器の第2構成例における第1コアと第2コアのレイアウトを示す平面図である。
【
図2】(A)は端面から入射される半導体レーザ出力の電磁界強度分布を示す特性図である。(B1)は従来の逆テーパー構造コアのスポットサイズ変換器で最適化されたスポットの電磁界強度分布を示す特性図である。(B2)は従来の逆テーパー構造コアのスポットサイズ変換器におけるモード不整合損失のテーパー先端幅に対する依存性を示す図である。(C1)は本実施形態の並設2コア構造のスポットサイズ変換器で得られるスポットの電磁界強度分布を示す特性図である。(C2)は本実施形態の並設2コア構造のスポットサイズ変換器におけるモード不整合損失の、テーパー先端幅と間隔に対する依存性を示す図である。
【
図3】(A)は本実施形態に係るスポットサイズ変換器の第1コアと第2コアそれぞれの入出力部の長さと伝搬損失の特性図である。(B)は実施形態に係るスポットサイズ変換器の第1コアと第2コアそれぞれの入出力部における電磁界強度分布を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に基づいてスポットサイズ変換器1を詳細に説明する。なお、波長は光通信波長帯1550〔nm〕とする。このスポットサイズ変換器1は、同一基板上に設けた光素子(例えば、半導体レーザ、光導波路、光スイッチ、光変調器、光検出器など)間、または端面に隣接して配置された光素子との間のスポットサイズを変換する構造デバイスである。
【0019】
図1(A1)は、本実施形態に係るスポットサイズ変換器1の第1構成例における端面1aの要部を示す正面図である。
図1(A2)は、本実施形態に係るスポットサイズ変換器1の第1構成例における第1コア4と第2コア5のレイアウトを示す平面図である。
図1(B1)は、第2構成例のスポットサイズ変換器1′における端面1aの要部を示す正面図である。
図1(B2)は、第2構成例のスポットサイズ変換器1′における第1コア4と第2コア5′のレイアウトを示す平面図である。先ず、第1構成例のスポットサイズ変換器1について説明する。
【0020】
スポットサイズ変換器1は、例えば、シリコン基板2上に形成されたアンダークラッド3(積層厚さ3~6〔μm〕のSiO2 )上に、適宜な幅のコア間隙(コア間隙幅=TS)を介して第1コア4(高さT=0.8〔μm〕のSiN)と第2コア5(高さT=0.8〔μm〕のSiN)を並設すると共に、第1コア4および第2コア5を覆うように、アンダークラッド3上にオーバークラッド6(積層厚さ2~3〔μm〕のSiO2 )を設けた構造である。また、並設された第1コア4と第2コア5との間には、コア間隙部7が形成される。
【0021】
第1コア4は、例えば、スポットサイズ変換器1の端面1aから所定の基準位置RPまで断面積(コア幅WA1×高さT)が変化しない直線状(第1側面41aと第2側面41bが平行な状態)の入出力部41と、この入出力部41に連なり断面の横幅が徐々に拡大(コア幅WA1からコア幅WA2まで等しい割合で拡大)してゆくテーパー部42と、このテーパー部42に連なる主導波部43と、を備える。すなわち、主導波部43における空間的電磁界分布から、所望の空間的電磁界分布を端面1aで得るための構造と言い換えることもできる。第1コア4における入出力部41の全長WL(端面1aから基準位置RPまでの長さ)は、例えば80〔μm〕である。なお、入出力部41の第1側面41aと第2側面41bは必ずしも平行である必要はなく、スロットモードへの変換を断熱的に行えれば良い。
【0022】
第2コア5は、スポットサイズ変換器1の端面1aから基準位置RPまで断面の横幅が徐々に減少(高さTは変わらず、端面1aにおけるコア幅WB1から基準位置RPにおけるコア幅WB2まで減少)して第1コア4との離隔距離が広がるテーパー状の入出力部51と、この入出力部51に連なる転倒抑止体52と、を備える。第2コア5における入出力部51の全長WLは、例えば第1コア4における入出力部41と同じく80〔μm〕である。なお、入出力部51の第1側面51aと第2側面51bは長手方向(例えば、基準位置RPから端面1aに向かう方向)に互いに平行でなく、第1コア4の第2側面41bからの距離が連続的に増加する構造であれば良い。
【0023】
なお、傾倒抑止体52は、アスペクト比が高い構造の転倒防止のための付加的構造である。例えば、第2コア52の高さT=800〔nm〕に対して、基準位置RPにおけるコア間隔WB2=100〔nm〕であれば、アスペクト比は8倍にもなるので、第2コア5の形成過程でパターン倒れが生ずる危険性があるが、転倒抑止体52があることで、パターン倒れが生ずる危険性を抑止できる。また、スポットサイズ変換器1′においては、第2コア5′の入出力部51から滑らかな曲面を描きながら転倒抑止体53が連なるように配置される。
【0024】
上述したスポットサイズ変換器1,1′において、第1コア4の主導波部43から端面1aに向かって伝搬する光は、テーパー部42を経て入出力部41へ至る際に導波路幅が減少することにより、光閉じ込め効果が減少し、近傍の高屈折率媒質の摂動を受けやすくなる。すなわち、基準位置RPにおいて第2コア5,5′の入出力部51(幅WB2)が現れることにより、散乱損失が生じる。従って、基準位置RPにおける第1コア4の幅WA1に対して、この散乱損失が全光損失に対して十分に小さくなる距離に第2コア5,5′の入出力部51を導入する。基準位置RPにおける第1コア4の第2側面41bと第2コア5,5′の第1側面51aの距離は、WB2が小さいほど短くできるが、本実施形態ではWB2=100nmに対して、800nmである。その後、第2コア5,5′の入出力部51が第1コア4の入出力部41に徐々に近接していくことにより、基準位置RPから端面1aに向かって横幅が減少してゆくコア間隙部7を含めて、スロット導波路を形成する。結果として、第1コア41を伝搬する光は、前記スロット導波路を伝搬する光に断熱的に変換される。端面1aでは、コア間隙部7も、第1,第2コア4,5(5′)と共に単一の光スポットを形成する。
【0025】
なお、基準位置RPにおいて第2コア5,5′の入出力部51を導入する際に、散乱損失を十分に小さくしているゆえ、転倒防止体52,53は第1コア4からさらに遠方となるように配置すれば、第1のコア4を伝搬するモードへの摂動は十分小さいとみなすことができ、その伝搬モードへの損失への寄与分は無視できる(伝搬モードに対する摂動の大きさは、距離に対して指数関数的に減少する)。
【0026】
端面1aにおいて所望のモードへの接続に際しての損失要因は2つある。ひとつは、互いの実効屈折率が異なることであり、マイクロ波におけるインピーダンス不整合による反射である。これは、適切な反射防止膜構造を設けることで回避可能である。もうひとつは、所望のモードの空間的電磁界強度分布と端面1aにおけるSSCの空間的電磁界強度分布の不整合、すなわち、モード不整合である。これに起因する(モード不整合)損失は、両者の重なり積分から評価できる。従って、端面1aにおけるコア間隙部7の幅、第1,第2コア4,5(5′)の幅で規定されるスロット導波路のパラメータをモード不整合損失が最小になるように最適化すればよい。
【0027】
例えば、半導体レーザ8のスポットが、
図2(A)に示すような横長の空間的電磁界強度分布を呈するのに対して、従来の逆テーパー構造のコアを備えるSSCにおける空間的電磁界強度分布は、
図2(B1)に示すように膜厚が大きいことに起因して縦長の形状となり、膜厚方向と導波路幅方向の空間的広がりが独立には制御できない。また、適切な空間的広がりを実現するにあたって、導波路幅が十分に小さくならないので、屈折率界面における電界の不連続性が顕著となる部分が、ピーク近傍となるため、モード不整合損失を増加させる要因となる。従来の逆テーパー構造のコアの高さTを0.8〔μm〕にして、コア幅Wを変化させたときのモード不整合損失を
図2(B2)に示す。モード不整合損失を最小化するようにコア幅Wを約360〔nm〕(0.36〔μm〕)とした場合、コアのアスペクト比は約2.2であり、最低損失でも1.12[dB]であり、モード不整合損失の低減には限度があることを示している。
【0028】
これに対して、本実施形態のスポットサイズ変換器1,1′においては、適切にスロット導波路のパラメータを選択することにより、
図2(C1)に示すような横長の電磁界強度分布を合成することができる。半導体レーザの空間的電磁界分布のピークから離れた場所に、高屈折率界面が来るため、電界不連続によるモード不整合損失の効果を受けにくくなることは明らかである。第1,第2コア4,5(5′)の高さTを先の例と同様に0.8〔μm〕とし、第1,第2コア4,5(5′)のコア幅WA1,WB1が400〔nm〕、500〔nm〕、600〔nm〕の各場合に、コア間隔幅TS(コア間隙部7の端面1aにおける横幅)を変化させたときのモード不整合損失特定を
図2(C2)に示す。本特性図より分かるように、第1,第2コア4,5(5′)のコア幅WA1,WB1やコア間隙幅TSを様々に変化させてもモード不整合損失を低く抑えることができることから、構造パラメータ依存性を小さくできる。すなわち、作製誤差に対する許容性を高めることができる。また、第1,第2コア4,5(5′)のコア幅WA1,WB1を0.5〔μm〕、コア間隔の幅TSを0.32〔μm〕とした場合、端面1aにおける第1コア4および第2コア5(5′)それぞれのアスペクト比は1.6まで改善できるため、端面1a側に転倒防止構造を設ける必要性も無い。
【0029】
なお、第1コア4における入出力部41と第2コア5,5′における入出力部51とで、スロット導波路を形成するためには、スロット幅を屈折率界面における染み出し長程度とすればよい。第1コア4の伝搬定数をβ、第1コア4および第2コア5,5′それぞれの屈折率をn1、アンダークラッド3およびオーバークラッド6それぞれの屈折率をn2、伝搬光の波長をλ、真空中の波数をkとすると、染み出し長dは、下式にて表すことができる。
【0030】
【0031】
以上のように、本実施形態のスポットサイズ変換器1,1′によれば、第1,第2コア4,5(5′)の各入出力部41,51により構成されるスロット導波路構造により、空間的電磁界分布が平滑化され、空間的広がりを広範囲に制御できる。結果として半導体レーザ8との空間的電磁界分布の整合性が改善されるため、半導体レーザ8に対する結合効率は87%まで改善できる。さらに、端面1aにおける第1,第2コア4,5(5′)のコア幅WA1,WB1は400〔nm〕程度で構成できるので、端面1aにおける第1,第2コア4,5(5′)のアスペクト比を2以下に抑えることができる。従って、従来の逆テーパー構造と比べてデバイス作製プロセスにおける作製難易度も軽減できる。
【0032】
また、スポットサイズ変換器1,1′における端面1aから基準位置RPまでの距離は、本実施形態の場合、40〔μm〕以上であればモード不整合損失よりも十分に小さくできる。これは、
図3(A)に示す第1,第2コア4,5(5′)の各入出力部41,51の長さWLに対する損失依存特性より明らかである。急激に第2コア5,5′の入出力部51が近接すると、第1コア4の入出力部41を伝搬する光は、大きな摂動を受け、結果として端面1aへ伝搬する途中に生じる放射損失が大きくなる。40〔um〕以上の領域において振動している理由は、第2コア5,5′による摂動によって、端面1aにおける電磁界モードの重心がスロットの中心からずれることに起因しているためであり、例えば、半導体レーザ8のスポットの位置をずらしてやればキャンセルすることが可能である。入出力部41,51の長さWLを短尺化するためには、スロット導波路の伝搬モードの実効屈折率と基準位置RPにおける第1コア4を伝搬するモードの実効屈折率が近くなるようにコア幅WA1を設定してやればよい。
【0033】
図3(B)は、第1,第2コア4,5(5′)の各入出力部41,51の長さWLを80〔μm〕としたときの伝搬特性を示す面内電磁界強度分布で、基準位置RPを0〔μm〕、スポットサイズ変換器1,1′における端面1aを約80〔μm〕とすると、概ね40〔μm〕~80〔μm〕の場所でモード分布が第1コア4と第2コア5,5′の間のコア間隙部7に集中していく様子がわかる。すなわち、第1,第2コア4,5(5′)の各入出力部41,51の長さWLが40〔μm〕以上となる位置を基準位置RPに設定しておけば、モード不整合損失を十分抑制できる。
【0034】
さらに、本実施形態のスポットサイズ変換器1,1′は、第1コア4に第2コア5,5′を並設するだけであるから、前述した多くの先行技術と異なり、作製プロセスを変更せずにマスクレイアウトのみで結合効率を改善できるという利点がある。しかも、第1,第2コア4,5(5′)におけるテーパー先端の幅も、非特許文献1に示されているSSCの逆テーパー構造の場合に比べて広くできるため、レイアウトパターンの転倒防止の抑制にも効果がある。加えて、第2コア5,5′の導入に際して、端面1a側ではなく、基準位置RP側に転倒抑止体52,53を転倒防止構造として導入できるため、ダイシングや化学研磨処理など、端面に異種材料が配置することが困難なプロセスにも併用可能となる。
【0035】
上述したスポットサイズ変換器1,1′は、高い結合効率を実現できることから、半導体レーザ直接励起によるマイクロコム発生のための光集積回路に好適である。マイクロコムを真に小型化する上で、半導体レーザとの共集積化は重要である。半導体レーザと高Q値光共振器の結合動作を阻害する寄生的な反射成分を抑制するためにも、低損失接続は望ましい。低損失インターフェースは、変換効率の高効率化だけなく、光損傷を回避する上でも重要である。
【0036】
また、上述したスポットサイズ変換器1,1′は、高い結合効率を実現できることから、光集積回路を用いた外部共振器型ブリルアンレーザ(超狭線幅<10kHz)にも好適である。外部共振器型半導体レーザは、光時計や高精度計測などに広く使われており、自発的な発振線幅の狭窄化は、センシングの高精度化だけでなく、光ビートによって発生するミリ波・テラヘルツ波の低ノイズ化にも有用である。光集積回路のリングフィルタによるスペクトルフィルタリングや、スパイラル導波路で長尺化することによるブリルアン利得効率の改善によって、超小型かつ線幅10kHz以下のレーザが実現されつつある。低損失接続によって、帰還効率が改善されるため、これらのレーザ発振の低閾値化にも有用である。
【0037】
以上、本発明に係るスポットサイズ変換器の実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0038】
1,1′ スポットサイズ変換器
2 シリコン基板
3 アンダークラッド
4 第1コア
41 入出力部
5,5′ 第2コア
51 入出力部
6 オーバークラッド
7 コア間隙部
8 半導体レーザ