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特開2024-133909脱塩素処理装置、脱塩素処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133909
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】脱塩素処理装置、脱塩素処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20240926BHJP
   C08J 11/24 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
C08J11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043929
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】広崎 真司
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA13
4F401AD07
4F401CA65
4F401CB26
4F401DB01
4F401EA11
4F401EA12
4F401EA17
4F401EA18
4F401EA19
4F401EA20
4F401EA22
4F401EA60
(57)【要約】
【課題】脱塩素処理を効率化する。
【解決手段】
本発明の一態様に係る脱塩素処理装置1は、湿式脱塩素処理器2を備える脱塩素処理装置1であって、湿式脱塩素処理器2は、排出口12を備えるシリンダー10と、ポリ塩化ビニリデンをシリンダー10の内部に取り込む第1取込口14と、塩基をグリコール溶媒に溶解させた液体をシリンダー10の内部に取り込む第2取込口16と、シリンダー10の内部に取り込まれた物質を混錬しながら排出口12に向かって押し出すスクリュー18と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式脱塩素処理器を備える脱塩素処理装置であって、
前記湿式脱塩素処理器は、
排出口を備えるシリンダーと、
ポリ塩化ビニリデンを前記シリンダーの内部に取り込む第1取込口と、
塩基をグリコール溶媒に溶解させた液体を前記シリンダーの内部に取り込む第2取込口と、
前記シリンダーの内部に取り込まれた物質を混錬しながら前記排出口に向かって押し出すスクリューと、
を備える、脱塩素処理装置。
【請求項2】
コンピュータをさらに備え、当該コンピュータを、
前記排出口から排出された湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する脱塩素情報を取得する取得手段と、
前記脱塩素情報が脱塩素処理の目標に関する条件を満たすか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて、前記脱塩素情報が前記条件を満たすように前記シリンダーの内部の反応を制御する制御手段と、
として機能させる、請求項1に記載の脱塩素処理装置。
【請求項3】
前記脱塩素情報は、前記ポリ塩化ビニリデンが含む塩素の量と、前記湿式脱塩素生成物が含む塩素の量との差に関する情報を含む、請求項2に記載の脱塩素処理装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記ポリ塩化ビニリデンが含む塩素の量に関する情報によらない一方で、前記湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する情報に基づいて、前記脱塩素情報が前記条件を満たすか否かを判定する、請求項2に記載の脱塩素処理装置。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニリデンと、ポリオレフィンとを所定の割合で混合することにより希釈ポリ塩化ビニリデンを生成する希釈樹脂生成器、をさらに備え、
前記第1取込口は、前記ポリ塩化ビニリデンを含む前記希釈ポリ塩化ビニリデンを取り込み、
前記制御手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、さらに前記希釈樹脂生成器における前記所定の割合を変更する、請求項2に記載の脱塩素処理装置。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニリデンと、塩基とを所定の温度で加熱することにより乾式脱塩素生成物を生成する乾式脱塩素処理器、をさらに備え、
前記第1取込口は、前記ポリ塩化ビニリデンに由来する前記乾式脱塩素生成物を取り込み、
前記制御手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、さらに前記乾式脱塩素処理器における前記所定の温度を変更する、請求項2に記載の脱塩素処理装置。
【請求項7】
所定の割合で前記塩基を前記グリコール溶媒に対して溶解させることにより前記液体を生成する液体生成器、をさらに備え、
前記制御手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、さらに前記液体生成器における前記所定の割合を変更する、請求項2に記載の脱塩素処理装置。
【請求項8】
前記シリンダーの内部の温度を管理する温度管理器、をさらに備え、
前記制御手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、前記温度を変更する、請求項2に記載の脱塩素処理装置。
【請求項9】
前記湿式脱塩素処理器は、前記シリンダーの内部に複数のスクリューを備える、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の脱塩素処理装置。
【請求項10】
前記塩基は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化鉄(II)、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化ランタン、水酸化アルミニウム及び水酸化鉄(III)の少なくともいずれかを含む、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の脱塩素処理装置。
【請求項11】
前記グリコール溶媒は、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール及びモノエチレングリコールの少なくともいずれかを含む、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の脱塩素処理装置。
【請求項12】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の脱塩素処理装置によって脱塩素処理を実行する、脱塩素処理方法。
【請求項13】
請求項1に記載の脱塩素処理装置が備えるコンピュータを、
前記排出口から排出された湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する脱塩素情報を取得する取得手段と、
前記脱塩素情報が脱塩素処理の目標に関する条件を満たすか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて、前記脱塩素情報が前記条件を満たすように前記シリンダーの内部の反応を制御する制御手段と、
として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱塩素処理装置、脱塩素処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、比較的低温で、かつ比較的短時間で脱塩素ができ、またC-Cl結合を選択的に分解し、それによって残留塩素濃度を低減することができ、また燃料収率を高め、高沸点塩化物の生成の抑制、有害な塩素ガスの発生の抑制等ができると共に処理能力も大きい廃棄プラスチックの脱塩素方法およびこの方法の実施に使用される脱塩素装置に関する技術が記載されている。また、特許文献2には、低コストおよび低ランニングコストにより廃材の脱塩素処理を行うことができる脱塩素処理装置に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002―053697号公報
【特許文献2】特開2006―160963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された技術では、脱塩素処理を十分に効率化することができない。
【0005】
特に、特許文献1及び2に記載された技術によっては、塩素系樹脂と塩基とを溶媒中で反応させる脱塩素処理(以下では、「湿式脱塩素処理」と称する)を十分に効率化することができない。湿式脱塩素処理は、塩素系樹脂を加熱することにより脱塩酸させる脱塩素処理(以下では、「乾式脱塩素処理」と称する)と比較して、脱塩酸収率が高く、脱塩素処理に要するエネルギーが少ないというメリットがある。しかしながら、従来の湿式脱塩素処理は、毒劇性の高い塩基を使用する必要があり、さらに、そのような塩基を使用することはコストが比較的高いという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、脱塩素処理を効率化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る脱塩素処理装置は、湿式脱塩素処理器を備える脱塩素処理装置であって、湿式脱塩素処理器は、排出口を備えるシリンダーと、ポリ塩化ビニリデンをシリンダーの内部に取り込む第1取込口と、塩基をグリコール溶媒に溶解させた液体をシリンダーの内部に取り込む第2取込口と、シリンダーの内部に取り込まれた物質を混錬しながら排出口に向かって押し出すスクリューと、を備える。
【0008】
本発明の他の一態様に係る脱塩素処理方法は、上記の脱塩素処理装置によって脱塩素処理を実行する。
【0009】
本発明の他の一態様に係るプログラムは、上記の脱塩素処理装置が備えるコンピュータを、排出口から排出された湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する脱塩素情報を取得する取得手段と、脱塩素情報が脱塩素処理の目標に関する条件を満たすか否かを判定する判定手段と、判定手段の判定結果に基づいて、脱塩素情報が条件を満たすようにシリンダーの内部の反応を制御する制御手段と、として機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、脱塩素処理を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る脱塩素処理装置の構成及び動作を示す図である。
図2】第2実施形態に係る脱塩素処理装置の構成及び動作を説明するための図である。
図3】第2実施形態に係る脱塩素処理装置が備えるコンピュータの動作を説明するための図である。
図4】第2実施形態に係る脱塩素処理装置が備えるコンピュータの動作を説明するための図である。
図5】脱塩素処理装置が備えるコンピュータのハードウェア構成図である。
図6】脱塩素処理装置の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態として、第1実施形態及び第2実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0013】
第1実施形態に係る脱塩素処理装置1は、本発明の基礎的な構成に係るものであり、脱塩素処理の対象となるポリ塩化ビニリデン(以下では、「廃サランポリマー」と称する)と塩基性の液体とを押出機で混練することにより脱塩素処理を行う装置である。第2実施形態に係る脱塩素処理装置1は、これに加えて、脱塩素処理装置1から得られる脱塩素生成物の残留塩素濃度に基づいて、廃サランポリマーの希釈の度合及び塩基性の液体の塩基濃度等をフィードバック制御する装置である。塩基性の液体については、後述するが、例えば、水酸化ナトリウム等をグリコール溶媒に溶解させた液体を用いてもよい。
【0014】
本発明において、「器」、「部」、「手段」、「装置」及び「システム」とは、単に物理的手段を意味するものではなく、その「器」、「部」、「手段」、「装置」及び「システム」が有する機能をソフトウェアによって実現する場合も含む。また、1つの「器」、「部」、「手段」、「装置」及び「システム」が有する機能が2つ以上の物理的手段及び装置、ソフトウェアにより実現されても、2つ以上の「器」、「部」、「手段」、「装置」及び「システム」の機能が1つの物理的手段、装置、ソフトウェアにより実現されてもよい。
【0015】
なお、以下で説明する実施形態においては、「脱塩素処理装置」は、脱塩素処理に係る原料の貯蔵、生成及び供給等を行う部分と、供給された原料を用いて実際に廃サランポリマーに対して脱塩素処理を施す部分とを含む、脱塩素処理を行うシステム全体のことをいい、「脱塩素処理器」は、その中でも特に、供給された原料を用いて実際に廃サランポリマーに対して脱塩素処理を施す部分のことをいい、両者は区別する。
【0016】
以下で説明する実施形態において、脱塩素処理を効率化することは、脱塩素処理における脱塩酸収率、脱塩素処理に使用する原料の消費量、単位時間あたりの脱塩素処理量、及び脱塩素処理を行う作業員等の安全性等の少なくとも一部を改善することをいう。
【0017】
<1.第1実施形態>
図1を参照して、第1実施形態に係る脱塩素処理装置1の構成の一例について説明する。第1実施形態に係る脱塩素処理装置1は、湿式脱塩素処理器2、廃サランポリマー容器22及び塩基性液体容器24を含む。
【0018】
湿式脱塩素処理器2は、第1取込口14、第2取込口16、シリンダー10、スクリュー18及び温度管理器20を備える。第1取込口14は、廃サランポリマー容器22から廃サランポリマーをシリンダー10の内部に取り込むための部分である。第2取込口16は、塩基性液体容器24から塩基性の液体をシリンダー10の内部に取り込むための部分である。
【0019】
シリンダー10は、排出口12を備える。スクリュー18は、シリンダー10の内部に取り込んだ物質を混錬しながら排出口12に向かって押し出す部分である。具体的には、スクリュー18は、廃サランポリマー及び塩基性の液体を混錬しながら排出口12に向かって押し出す。排出口12は、スクリュー18が廃サランポリマー及び塩基性の液体を混錬することにより生成した脱塩素生成物(以下では、「湿式脱塩素生成物」と称する)を排出する。
【0020】
温度管理器20は、シリンダー10の内部の温度を管理する部分である。温度管理器20は、典型的には、シリンダー10の内部を加熱する。温度管理器20は、シリンダー10の内部を冷却してもよい。温度管理器20は、シリンダー10の内部の温度が、湿式脱塩素処理のための好適な温度になるように温度を管理してもよい。
【0021】
湿式脱塩素処理の温度は、好ましくは、100~275℃であり、120~250℃であり、140~225℃であり、160~200℃であり、160~190℃である。湿式脱塩素処理の温度が275℃以下であることにより、脱塩素効率がより向上する傾向にある。なお、脱塩素効率が向上する要因は、特に限定されないが、例えば、300℃付近の高温で進行するE2脱離反応では塩素の脱離率が塩素が抜け切れる前に飽和するのに対して、低温で進行するSn2反応ではそのような飽和現象が生じにくく、脱離が最後まで優位に進行するためと考えられるが、理由はこの限りではない。
【0022】
湿式脱塩素処理器2は、押出機ということもできる。特に、シリンダー10の内部にスクリュー18が複数備えられているときは、多軸押出機ということもできる。多軸押出機は、例えば、二軸押出機又は八軸押出機等である。
【0023】
脱塩素処理装置1によれば、脱塩素処理を効率化することができる。具体的には、湿式脱塩素処理器2は、廃サランポリマー及び塩基性の液体をスクリュー18により混錬するため、毒劇性の低い塩基を使用しても十分に脱塩素処理に係る反応を進行させることができる。これにより、比較的安価かつ安全に脱塩素処理を実行することができる。毒劇性の低い塩基は、例えば、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウム等である。
【0024】
また、湿式脱塩素処理器2は、連続的に第1取込口14及び第2取込口16のそれぞれから廃サランポリマー及び塩基性の液体を取り込みつつ、排出口12から連続的に湿式脱塩素生成物を排出することができる。すなわち、脱塩素処理装置1によれば、典型的なバッチ式の脱塩素処理と比較して単位時間あたりにより多くの廃サランポリマーを処理することができる。
【0025】
また、以下で詳述するように、湿式脱塩素生成物に含まれる塩素の量に関する脱塩素情報に基づいて脱塩素処理装置1の動作をフィードバック制御することにより、より効率的に脱塩素処理を実行することができる。
【0026】
<2.第2実施形態>
図2を参照して、第2実施形態に係る脱塩素処理装置1の構成及び動作の一例について説明する。第2実施形態に係る脱塩素処理装置1は、第1実施形態に係る脱塩素処理装置1の構成に加えて、湿式脱塩素処理器2から得られた湿式脱塩素生成物に係る脱塩素情報を取得し、当該脱塩素情報に基づいて脱塩素処理装置1の動作を制御するコンピュ―タ3を備える。
【0027】
―第2実施形態に係る脱塩素処理装置1の構成―
第2実施形態に係る脱塩素処理装置1は、湿式脱塩素処理器2、希釈樹脂生成器4、液体生成器5、塩素濃度測定器40及びコンピュータ3を備える。湿式脱塩素処理器2は、図1を参照して説明したものと同様であってもよいため、以下では、希釈樹脂生成器4、液体生成器5及びコンピュータ3について説明する。
【0028】
[希釈樹脂生成器4]
希釈樹脂生成器4は、廃サランポリマーとポリオレフィンとを混合することにより廃サランポリマーを希釈した物質(以下では、「希釈廃サランポリマー」と称する)を生成する部分である。
【0029】
希釈樹脂生成器4は、廃サランポリマー容器22、塩素濃度測定器23、ポリオレフィン容器26、第1混合器28及び希釈廃サランポリマー容器30を備える。廃サランポリマー容器22は、廃サランポリマーを貯蔵する容器である。塩素濃度測定器23は、廃サランポリマー容器22に貯蔵された廃サランポリマーの塩素濃度を測定する部分である。塩素濃度測定器23は、例えば、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)分析により湿式脱塩素生成物に含まれる塩素の量を測定してもよい。ポリオレフィン容器26は、ポリオレフィンを貯蔵する容器である。第1混合器28は、廃サランポリマー容器22及びポリオレフィン容器26のそれぞれから廃サランポリマー及びポリオレフィンを取り込み、これらを混合することにより希釈廃サランポリマーを生成する部分である。希釈廃サランポリマー容器30は、第1混合器28において生成された希釈廃サランポリマーを貯蔵する容器である。
【0030】
[液体生成器5]
液体生成器5は、塩基とグリコール溶媒とを混合することにより塩基性の液体を生成する部分である。
【0031】
液体生成器5は、塩基容器34、グリコール溶媒容器36、第2混合器38及び塩基性液体容器24を備える。塩基容器34は、塩基を貯蔵する容器である。グリコール溶媒容器36は、グリコール溶媒を貯蔵する容器である。第2混合器38は、塩基容器34及びグリコール溶媒容器36のそれぞれから塩基及びグリコール溶媒を取り込み、これらを混合することにより塩基性の液体を生成する部分である。塩基性液体容器24は、第2混合器38において生成された塩基性の液体を貯蔵する容器である。
【0032】
塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化鉄(II)、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化ランタン、水酸化アルミニウム及び水酸化鉄(III)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0033】
グリコール溶媒の例としては、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール及びモノエチレングリコール等が挙げられるが、これに限定されない。
【0034】
[塩素濃度測定器40]
塩素濃度測定器40は、湿式脱塩素処理器2から得られた湿式脱塩素生成物に含まれる塩素の量を測定する部分である。塩素濃度測定器40は、例えば、FT-IR分析により湿式脱塩素生成物に含まれる塩素の量を測定してもよい。湿式脱塩素処理器2から得られた湿式脱塩素生成物に含まれる塩素の量は、残留塩素濃度ということもできる。
【0035】
[コンピュータ3]
コンピュータ3は、各種プログラムを実行することにより、取得手段100、判定手段102及び制御手段104として機能する。なお、当該各種プログラムは、脱塩素処理装置1が備える記憶部(図示しない)に記憶されたものであってもよく、外部の装置から受信したものであってもよい。また、コンピュータ3は、脱塩素処理装置1に含まれる他の部分や、脱塩素処理装置1とは異なる装置と通信ネットワークを介して各種情報を送受信することができる。
【0036】
取得手段100は、排出口12から排出された湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する脱塩素情報を取得する。なお、第2実施形態において、情報を取得することは、当該情報をコンピュータ3上で処理可能な状態にすることをいう。情報を取得することは、例えば、他の装置や部分から当該情報を受信すること及び当該情報を記憶部から読み出すこと等である。
【0037】
脱塩素情報は、塩素濃度測定器40が測定した湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する情報を含んでもよい。すなわち、脱塩素情報は、残留塩素濃度に関する情報を含んでもよい。
【0038】
脱塩素処理が十分に進行しているか否かは、残留塩素濃度に基づいて判断することができる。そのため、後述する制御手段104は、残留塩素濃度に基づいて脱塩素処理装置1の動作を制御してもよい。
【0039】
脱塩素情報は、さらに、塩素濃度測定器23が測定した廃サランポリマーが含む塩素の量に関する情報を含んでもよい。具体的には、脱塩素情報は、塩素濃度測定器23が測定した廃サランポリマーが含む塩素の量と、塩素濃度測定器40が測定した湿式脱塩素生成物が含む塩素の量との差に関する情報を含んでもよい。すなわち、脱塩素情報は、入力となった脱塩素処理前の塩素系樹脂に含まれる塩素の量と、出力として得られた脱塩素処理後の塩素系樹脂に含まれる塩素の量との差(以下では、「脱塩素処理効率」と称する)に関する情報を含んでもよい。
【0040】
脱塩素処理が十分に進行しているか否かは、残留塩素濃度の他にも、脱塩素処理効率に基づいて判断することができる。例えば、残留塩素濃度が低い場合であっても、入力となった脱塩素処理前の塩素系樹脂に含まれる塩素の量がそもそも少なかった場合、脱塩素処理が十分に進行しているか否かは判断できない。そのため、後述する制御手段104は、脱塩素処理効率に基づいて脱塩素処理装置1の動作を制御してもよい。
【0041】
塩素の量は、例えば、FT-IRにより測定される塩素-炭素間結合に対応するスペクトルの強度、塩素の質量、塩素の濃度、塩素の体積及び塩素の物質量等によって表されてもよい。また、第2実施形態において、2つの値の差は、当該2つの値の減算の結果に限られず、当該2つの値の相違を表現したものであればよい。差は、差分、割合、大小関係、対数及びこれらの組み合わせ等により表現されてもよい。
【0042】
判定手段102は、取得手段100が取得した脱塩素情報が脱塩素処理の目標に関する条件(以下では、「目標条件」と称する)を満たすか否かを判定する。目標条件は、典型的には、脱塩素処理の進行の度合に関する条件である。目標条件は、例えば、残留塩素濃度に関する条件である。目標条件は、他にも、例えば、脱塩素処理効率に関する条件であってもよい。
【0043】
残留塩素濃度は、湿式脱塩素生成物のポリマーとしての品質に対応するパラメータである。また、脱塩素処理効率は、脱塩素処理の反応効率に対応するパラメータである。後述する制御手段104の動作の一例は、これらのパラメータを改善するように脱塩素処理装置1を制御することである。
【0044】
判定手段102は、脱塩素情報が、塩素濃度測定器23が測定した廃サランポリマーが含む塩素の量に関する情報及び塩素濃度測定器40が測定した湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する情報の両方を含む場合であっても、塩素濃度測定器40が測定した湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する情報に基づいて、目標条件を満たすか否かを判定してもよい。目標条件は、塩素濃度測定器40が測定した湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する条件を含んでもよい。
【0045】
制御手段104は、判定手段102の判定結果に基づいて、脱塩素情報が目標条件を満たすようにシリンダー10の内部の反応を制御する。制御手段104は、典型的には、第1取込口14が取り込む希釈廃サランポリマーが含む塩素の量と、第2取込口16が取り込む塩基性の液体の塩基の濃度と、シリンダー10の内部の温度との少なくとも一つを制御することにより、脱塩素情報が目標条件を満たすようにシリンダー10の内部の反応を制御する。制御手段104の具体的な動作については、後述する。
【0046】
目標条件は、コストや廃サランポリマーの単位時間あたりの処理量に関する所定の制約下において、残留塩素濃度をできる限り低減することであってもよい。
【0047】
目標条件は、最低条件を満たし、かつ、過剰条件を満たさないことであってもよい。脱塩素情報が最低条件を満たしていない場合は、判定手段102は、脱塩素処理の進行が不十分であると判定する。これに対して制御手段104は、脱塩素処理が進行しやすくなるようにシリンダー10の内部の反応を制御してもよい。脱塩素情報が過剰条件を満たしていない場合は、判定手段102は、脱塩素処理の進行が十分以上であると判定する。これに対して制御手段104は、脱塩素処理の進行を緩和するようにシリンダー10の内部の反応を制御してもよい。脱塩素情報が最低条件を満たし、かつ、過剰条件を満たさない場合は、判定手段102は脱塩素処理が目標通りに進行していると判定する。このとき、制御手段104は、なにもしなくてもよい。最低条件及び過剰条件の具体例については後述する。
【0048】
―第2実施形態に係る脱塩素処理装置1の動作―
引き続き図2を参照して、第2実施形態に係る脱塩素処理装置1の動作の一例について説明する。
【0049】
[希釈樹脂生成器4の動作]
まず、希釈樹脂生成器4において、第1混合器28は、廃サランポリマー容器22及びポリオレフィン容器26のそれぞれから廃サランポリマー及びポリオレフィンを所定の割合で取り込む(S10)。
【0050】
次に、第1混合器28は、ステップS10において取り込んだ廃サランポリマー及びポリオレフィンを混合することにより希釈廃サランポリマーを生成し、当該希釈廃サランポリマーを希釈廃サランポリマー容器30に貯蔵する(S12)。
【0051】
廃サランポリマー及びポリオレフィンを混合する割合を変更することにより、希釈廃サランポリマーの塩素濃度を制御することができる。具体的には、添加するポリオレフィン量を多くするほど、希釈廃サランポリマーに含まれる塩素濃度を薄くすることができる。
【0052】
希釈廃サランポリマーの塩素濃度を制御することにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度を制御することができる。具体的には、塩素濃度の薄い廃サランポリマーを処理して得られる湿式脱塩素生成物の塩素濃度は薄くなる。
【0053】
したがって、廃サランポリマー及びポリオレフィンを混合する割合を変更することにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度を制御することができる。
【0054】
以上のとおり、残留塩素濃度を低下させるという観点からは、ポリオレフィンに対して混合する廃サランポリマーの割合を低下させることが望ましい。しかしながら、廃サランポリマーの単位時間あたりの処理量という観点からは、ポリオレフィンに対して混合する廃サランポリマーの割合を上昇させることが望ましい。このように、残留塩素濃度と、廃サランポリマーの単位時間あたりの処理量とにはトレードオフの関係が生じる。後述の制御手段104は、このようなトレードオフの関係下における脱塩素処理を効率化する。
【0055】
また、押出機(脱塩素処理装置1に相当)内で脱塩素処理が行われる時間は、第1取込口14に廃サランポリマーが取り込まれてから、排出口12から排出されるまでの時間となる。したがって、スクリュー18の回転速度を制御するにしても、脱塩素処理時間には装置上の限界がある。そこで、上記のように、脱塩素処理装置1の処理時間内で脱塩素処理反応が十分に進行する濃度まで、希釈廃サランポリマーの塩素濃度を低減して添加することが考えられる。これにより、脱塩素処理装置1の脱塩素処理能力の範囲で、より効率的に脱塩素処理反応を進行させることができる。
【0056】
なお、ポリオレフィンに対して混合する廃サランポリマーの割合を低下させることは、希釈サランポリマーの希釈の度合を上昇させることに対応する。同様に、ポリオレフィンに対して混合する廃サランポリマーの割合を上昇させることは、希釈サランポリマーの希釈の度合をできる限り低下させることに対応する。
【0057】
[液体生成器5の動作]
次に、液体生成器5において、第2混合器38は、塩基容器34及びグリコール溶媒容器36のそれぞれから塩基及びグリコール溶媒を所定の割合で取り込む(S16)。
【0058】
次に、第2混合器38は、ステップS16において取り込んだ塩基及びグリコール溶媒を混合することにより塩基性の液体を生成し、当該塩基性の液体を塩基性液体容器24に貯蔵する(S18)。
【0059】
塩基及びグリコール溶媒を混合する割合を変更することにより、塩基性の液体の塩基濃度を制御することができる。具体的には、塩基とグリコール溶媒との割合をY1:1-Y1として混合した場合に得られる塩基性の液体と比較して、塩基とグリコール溶媒とをY2:1-Y2として、混合した場合に得られる塩基性の液体は、塩基濃度が高い。ただし、1>Y2>Y1>0である。
【0060】
塩基性の液体の塩基濃度を制御することにより、湿式脱塩素生成物に含まれる残留塩素濃度を制御することができる。具体的には、第1の塩基性の液体を用いて廃サランポリマーに脱塩素処理を実行した場合の湿式脱塩素生成物は、第1の塩基性の液体より塩基濃度が低い第2の塩基性の液体を用いて廃サランポリマーに同様の脱塩素処理を実行した場合の湿式脱塩素生成物と比較して、残留塩素濃度が低い。すなわち、シリンダー10の内部の温度や、廃サランポリマーの塩素濃度が同様であるという前提では、塩基性の液体の塩基濃度を上昇させることで湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度を低下させることができる。
【0061】
したがって、塩基及びグリコール溶媒を混合する割合を変更することにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度を制御することができる。
【0062】
以上のとおり、残留塩素濃度を低下させるという観点からは、塩基の割合を上昇させることが望ましい。しかしながら、脱塩素処理に要するコストの観点からは、塩基の割合を低下させることが望ましい。このように、残留塩素濃度と、脱塩素処理に要するコストとにはトレードオフの関係が生じる。後述の制御手段104は、このようなトレードオフの関係下における脱塩素処理を効率化する。
【0063】
なお、塩基の割合を上昇させることは、塩基性の液体の塩基濃度を上昇させることに対応する。同様に塩基の割合を低下させることは、塩基性の液体の塩基濃度をできる限り下げることに対応する。
【0064】
[湿式脱塩素処理器2の動作]
次に、湿式脱塩素処理器2は、希釈廃サランポリマー容器30に貯蔵された希釈廃サランポリマーを第1取込口14からシリンダー10の内部に取り込むとともに、塩基性液体容器24に貯蔵された塩基性の液体を第2取込口16からシリンダー10の内部に取り込む(S20)。
【0065】
次に、湿式脱塩素処理器2は、シリンダー10の内部に取り込んだ希釈廃サランポリマー及び塩基性の液体をスクリュー18により混錬しながら、排出口12に向かって押し出す。この際、湿式脱塩素処理器2は、温度管理器20により、シリンダー10の内部の温度を管理する。
【0066】
シリンダー10の内部の温度を制御することにより、湿式脱塩素生成物に含まれる残留塩素濃度を制御することができる。具体的には、温度管理器20がシリンダー10の内部を脱塩素処理に好適な温度に維持することにより、残留塩素濃度を低下させることができる。
【0067】
しかしながら、スクリュー18による混練に伴うせん断熱の発生や、脱塩素化に伴う反応熱の発生により、シリンダー10の内部の温度が脱塩素処理に好適な温度から外れることがある。後述する制御手段104は、このような場合における脱塩素処理を効率化する。
【0068】
[塩素濃度測定器40及びコンピュータ3の動作]
次に、塩素濃度測定器40は、湿式脱塩素処理器2の排出口12から排出された湿式脱塩素生成物に含まれる塩素濃度を測定する(S22)。
【0069】
次に、コンピュータ3は、塩素濃度測定器40から脱塩素情報を取得し、脱塩素処理に係る各種パラメータを変更する。図3を参照して、コンピュータ3の動作について具体的に説明する。
【0070】
図3は、コンピュータ3が、脱塩素情報を取得してから脱塩素処理反応に係る各種パラメータを制御するまでの動作の一例を示す図である。
【0071】
コンピュータ3は、取得手段100により、湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する脱塩素情報を取得する(S24)。
【0072】
次に、コンピュータ3は、記憶部に記憶された目標条件に関する情報を参照しつつ、判定手段102により、脱塩素情報が最低条件を満たすか否かを判定する(S100)。最低条件は、湿式脱塩素生成物の性質や組成が満たすべき最低限の条件である。第2実施形態において、脱塩素情報が最低条件を満たすのは、脱塩素情報に含まれる、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度の値が第1閾値以下であることとして説明する。すなわち、判定手段102は、残留塩素濃度が第1閾値より低い場合には脱塩素情報は最低条件を満たすと判定し、残留塩素濃度が第1閾値より高い場合には脱塩素情報は最低条件を満たさないと判定する。
【0073】
判定手段102により脱塩素情報が最低条件を満たしていないと判定された場合(S100 NO)、コンピュータ3は、制御手段104により脱塩素処理に係る各種パラメータを変更する(S102)。脱塩素情報が最低条件を満たしていない状態とは、最低限の脱塩素処理が実行できていない状態ということもできる。
【0074】
制御手段104は、例えば、第1混合器28において廃サランポリマーを混合する割合を低下させる(S102a)。すなわち、制御手段104は、湿式脱塩素処理器2が取り込む希釈廃サランポリマーの希釈の度合を上昇させる。上述のとおり、これにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度を低下させることができる。
【0075】
制御手段104は、他にも、例えば、第2混合器38において塩基を混合する割合を上昇させる(S102b)。すなわち、制御手段104は、湿式脱塩素処理器2が取り込む塩基性の液体の塩基濃度を上昇させる。上述のとおり、これにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度を低下させることができる。
【0076】
制御手段104は、他にも、例えば、温度管理器20によりシリンダー10の内部を加熱する(S102c)。ステップS100の時点でシリンダー10の内部の温度が脱塩素処理に好適な温度に達していなかった場合、これにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度を低下させることができる。
【0077】
制御手段104は、ステップS104a―ステップS104cの一部を実行してもよく、全部を実行してもよい。制御手段104は、所定の優先度に基づいて、ステップS104a―ステップS104cのいずれを実行するかを決定してもよい。制御手段104は、例えば、廃サランポリマーの処理量を優先する場合は、ステップ104b又はステップ104cのように廃サランポリマーの処理量を減少させることなく残留塩素濃度を低下させる制御を実行してもよい。制御手段104は、他にも、例えば、使用する塩基の量を減少させることを優先する場合は、ステップS104a又はステップS104cのように塩基の量を増加させることなく残留塩素濃度を低下させる制御を実行してもよい。
【0078】
判定手段102により脱塩素情報が最低条件を満たしていると判定された場合(S100 YES)、コンピュータ3は、記憶部に記憶された目標条件に関する情報を参照しつつ、判定手段102により、脱塩素情報が過剰条件を満たすか否かを判定する(S104)。第2実施形態において、脱塩素情報が過剰条件を満たすのは、脱塩素情報に含まれる、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度の値が第2閾値以下であることとして説明する。なお、第2閾値は、第1閾値より低い値である。すなわち、判定手段102は、残留塩素濃度が第2閾値より低い場合には脱塩素情報は過剰条件を満たすと判定し、残留塩素濃度が第2閾値より高い場合には脱塩素情報は過剰条件を満たさないと判定する。
【0079】
判定手段102により脱塩素情報が過剰条件を満たしていると判定された場合(S104 YES)、コンピュータ3は、制御手段104により脱塩素処理に係る各種パラメータを変更する(S106)。脱塩素情報が過剰条件を満たしている状態とは、残留塩素濃度が十分以上に低下している状態ということもできる。
【0080】
制御手段104は、例えば、第1混合器28において廃サランポリマーを混合する割合を上昇させる(S106a)。すなわち、制御手段104は、湿式脱塩素処理器2が取り込む希釈廃サランポリマーの希釈の度合を低下させる。上述のとおり、これにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度は上昇する可能性があるが、単位時間あたりの廃サランポリマーの処理量を増やすことができる。
【0081】
制御手段104は、他にも、例えば、第2混合器38において塩基を混合する割合を低下させる(S106b)。すなわち、制御手段104は、湿式脱塩素処理器2が取り込む塩基性の液体の塩基濃度を低下させる。上述のとおり、これにより、湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度は上昇する可能性があるが、塩基の使用量を削減することができる。
【0082】
制御手段104は、他にも、例えば、温度管理器20によるシリンダー10の内部を加熱を停止する(S106c)。ステップS104の時点でシリンダー10の内部の温度が脱塩素処理に好適な温度に達していた場合、これにより、残留塩素濃度を許容範囲内におさえたまま、消費するエネルギーを削減することができる。
【0083】
制御手段104は、ステップS106a―ステップS106cの一部を実行してもよく、全部を実行してもよい。制御手段104は、所定の優先度に基づいて、ステップS106a―ステップS106cのいずれを実行するかを決定してもよい。制御手段104は、例えば、廃サランポリマーの処理量を優先する場合は、ステップ106aのように廃サランポリマーの処理量を増加させる制御を実行してもよい。制御手段104は、他にも、例えば、使用する塩基の量を減少させることを優先する場合は、ステップS106bのように塩基の量を減少させる制御を実行してもよい。
【0084】
図4を参照して、図3に示したコンピュータ3の動作を別の観点から説明する。図4は、各時刻における湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度の推移の一例を示したグラフである。例えば、時刻T1における残留塩素濃度は、時刻T1において生成された湿式脱塩素生成物の残留塩素濃度である。コンピュータ3は、残留塩素濃度が第1閾値以下かつ第2閾値以上である状態を維持するように、脱塩素処理装置1を制御する。以下では、その制御方法について具体的に説明する。
【0085】
まず、時点T0において、残留塩素濃度は第1閾値より大きく、脱塩素情報は最低条件を満たさないとする。図3を参照すると、このような状況においては制御手段104はステップS102において説明した各種処理を実行することにより、残留塩素濃度が低下するように脱塩素処理装置1を制御する。その結果として、時点T0から時点T1にかけて、残留塩素濃度は低下するものとする。
【0086】
次に、時点T1において、残留塩素濃度は第1閾値より低くなるとする。このような状況において、制御手段104は脱塩素処理装置1の動作に変更を加えないが、連続的に脱塩素処理装置1に取り込まれる廃サランポリマーの組成の推移、スクリュー18によるせん断熱の発生及び塩基性の液体を加えることによる発熱等により、残留塩素濃度は変化しうる。
【0087】
この例では、時点T2において、残留塩素濃度は第2閾値を下回るものとする。このような状況においては、制御手段104はステップS106において説明した各種処理を実行することにより、脱塩素処理の進行を緩和するように脱塩素処理装置1を制御する。その結果として、時点T2から時点T3にかけて、残留塩素濃度は上昇するものとする。なお、残留塩素濃度が第2閾値を下回るのは、典型的には、脱塩素処理が十分以上に進行しており、コストを削減する余地がある場合である。したがって、このように残留塩素濃度が十分以上に低い場合には脱塩素処理の進行を緩和することで、脱塩素処理をコストの観点から効率化することができる。
【0088】
時点T4では、時点T1と同様に、制御手段104は残留塩素濃度が低下するように脱塩素処理装置1を制御する。また、時点T5では、時点T2と同様に、制御手段104は脱塩素処理の進行を緩和するように脱塩素処理装置1を制御する。
【0089】
以上のとおり、脱塩素処理装置1によれば、十分に脱塩素処理を進行させることと、脱塩素処理のコストを抑制することとを両立することができる。
【0090】
<3.コンピュータ3のハードウェア構成>
図5を参照して、上述してきたコンピュータ3のハードウェア構成の一例を説明する。なお、それぞれの装置の機能は、複数台の装置に分けて実現することもできる。
【0091】
図5に示すように、コンピュータ3は、プロセッサ300と、記憶装置302と、入力I/F304と、データI/F306と、通信I/F308、及び表示装置310を含む。
【0092】
プロセッサ300は、記憶装置302に記憶されているプログラムを実行することによりコンピュータ3における様々な処理を制御する。例えば、コンピュータ3が機能する各種手段は、記憶装置302に記憶されたプログラムを、プロセッサ300が実行することにより実現可能である。
【0093】
記憶装置302は、例えばRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。RAMは、プロセッサ300によって実行されるプログラムのプログラムコード及びプログラムの実行時に必要となるデータを一時的に記憶する。
【0094】
記憶装置302は、他にも、例えばハードディスクドライブ(HDD)及びフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶媒体である。記憶装置302は、オペレーティングシステム及び上記各構成を実現するための各種プログラムを記憶する。当該各種プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。このようなプログラム及びデータは、必要に応じて記憶装置302にロードされることにより、プロセッサ300から参照される。
【0095】
入力I/F304は、ユーザからの入力を受け付けるためのデバイスである。入力I/F304の具体例としては、カメラ、ボタン、マイク、キーボード、マウス、タッチパネル、各種センサ、ウェアラブル・デバイスなどが挙げられる。入力I/F304は、例えばUSB(Universal Serial Bus)などのインタフェースを介してコンピュータ3に接続されてもよい。
【0096】
データI/F306は、コンピュータ3の外部からデータを入力するためのデバイスである。データI/F306の具体例としては、各種記憶媒体に記憶されているデータを読み取るためのドライブ装置などがある。データI/F306は、コンピュータ3の外部に設けられることも考えられる。その場合、データI/F306は、例えばUSBなどのインタフェースを介してコンピュータ3へと接続される。
【0097】
通信I/F308は、コンピュータ3の外部の装置と有線または無線により、通信ネットワーク7を介したデータ通信を行うためのデバイスである。通信I/F308は、コンピュータ3の外部に設けられることも考えられる。その場合、通信I/F308は、例えばUSBなどのインタフェースを介してコンピュータ3に接続される。
【0098】
表示装置310は、各種情報を表示するためのデバイスである。表示装置310の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ及び有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、ウェアラブル・デバイスのディスプレイなどが挙げられる。表示装置310は、コンピュータ3の外部に設けられてもよい。その場合、表示装置310は、例えばディスプレイケーブルなどを介してコンピュータ3に接続される。また、入力I/F304としてタッチパネルが採用される場合には、表示装置310は、入力I/F304と一体化して構成することが可能である。
【0099】
<4.変形例>
第2実施形態では、希釈樹脂生成器4を用いて希釈廃サランポリマーを生成し、湿式脱塩素処理器2が当該希釈廃サランポリマーを脱塩素処理の対象として取り込む例を説明した。以下では、図6を参照して、乾式脱塩素処理器6によって乾式脱塩素生成物を生成し、湿式脱塩素処理器2が当該乾式脱塩素生成物を脱塩素処理の対象と取り込む例を説明する。
【0100】
図6に示す脱塩素処理装置1は、湿式脱塩素処理器2、コンピュータ3、液体生成器5、塩素濃度測定器40及び乾式脱塩素処理器6を含む。図6に示す脱塩素処理装置1は、図2に示す脱塩素処理装置1の希釈樹脂生成器4を乾式脱塩素処理器6に置き換えたものに相当するため、以下では乾式脱塩素処理器6以外の部分については説明しない。
【0101】
乾式脱塩素処理器6は、廃サランポリマーと、塩基とを所定の温度で加熱することにより乾式脱塩素生成物を生成する部分である。
【0102】
まず、乾式脱塩素処理器6は、廃サランポリマー容器22及び塩基性液体容器48のそれぞれから廃サランポリマー及び塩基性の液体を取り込む(S26)。
【0103】
次に、乾式脱塩素処理器6は、ステップS26で取り込んだ廃サランポリマー及び塩基性の液体を、温度管理器46により加熱しながら反応させる。温度管理器46は、乾式脱塩素処理に好適な温度になるように、廃サランポリマー及び塩基性の液体を加熱する。これにより、乾式脱塩素生成物が生成される。乾式脱塩素処理に好適な温度は、例えば、300℃程度である。
【0104】
次に、湿式脱塩素処理器2は、乾式脱塩素処理器6から乾式脱塩素生成物を取り込むとともに、液体生成器5から塩基性の液体を取り込む(S28)。湿式脱塩素処理器2は、乾式脱塩素生成物及び塩基性の液体を混錬しながら排出口12に向かって押し出すことにより、湿式脱塩素生成物を生成及び排出する。
【0105】
第2実施形態では、コンピュータ3は、第1混合器28、第2混合器38及び湿式脱塩素処理器2の温度管理器20を制御する例について説明した。これに対して、図6の脱塩素処理装置1は、乾式脱塩素処理器6の温度管理器46を制御してもよい。コンピュータ3の制御手段104は、例えば、残留塩素濃度が十分に低い場合には温度管理器46による廃サランポリマー及び塩基性の液体に対する加熱を停止してもよい。コンピュータ3の制御手段104は、他にも、例えば、残留塩素濃度が十分に低くなく、さらに低下させる必要がある場合には温度管理器46により廃サランポリマー及び塩基性の液体をさらに加熱してもよい。
【0106】
<5.その他の実施形態>
脱塩素処理装置1は、複数の装置からなる装置であってもよい。また、脱塩素処理装置1は、他の装置の一部であってもよい。コンピュータ3は、取得手段100、判定手段102及び制御手段104として機能する制御部と、脱塩素処理装置1の動作に必要な各種情報を記憶する記憶部と、他の装置との通信を行うネットワークインタフェース部と、が互いに電気的に接続された情報処理装置に含まれるものであってもよい。また、上記実施形態で説明したプログラムは、複数の装置を協働して動作させるものであってもよい。
【0107】
上記実施形態で説明した技術的事項は、当業者の知識に基づいて、組み換えること、組み合わせること及び一部を切り出して利用することができる。
【0108】
以下のような実施形態も、本発明に含まれる。
【0109】
[付記1]
本発明の一態様に係る脱塩素処理装置1は、湿式脱塩素処理器2を備える脱塩素処理装置1であって、湿式脱塩素処理器2は、排出口12を備えるシリンダー10と、ポリ塩化ビニリデンをシリンダー10の内部に取り込む第1取込口14と、塩基をグリコール溶媒に溶解させた液体をシリンダー10の内部に取り込む第2取込口16と、シリンダー10の内部に取り込まれた物質を混錬しながら排出口12に向かって押し出すスクリュー18と、を備える。
【0110】
[付記2]
付記1の脱塩素処理装置1は、コンピュータ3をさらに備え、当該コンピュータ3は、排出口12から排出された湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する脱塩素情報を取得する取得手段100と、脱塩素情報が脱塩素処理の目標に関する条件を満たすか否かを判定する判定手段102と、判定手段102の判定結果に基づいて、脱塩素情報が条件を満たすようにシリンダー10の内部の反応を制御する制御手段104と、として機能してもよい。
【0111】
[付記3]
付記2に記載の脱塩素処理装置1において、脱塩素情報は、ポリ塩化ビニリデンが含む塩素の量と、湿式脱塩素生成物が含む塩素の量との差に関する情報を含んでもよい。
【0112】
[付記4]
付記2又は付記3に記載の脱塩素処理装置1において、判定手段102は、ポリ塩化ビニリデンが含む塩素の量に関する情報によらない一方で、湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する情報に基づいて、脱塩素情報が条件を満たすか否かを判定してもよい。
【0113】
[付記5]
付記2から付記4のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1は、ポリ塩化ビニリデンと、ポリオレフィンとを所定の割合で混合することにより希釈ポリ塩化ビニリデンを生成する希釈樹脂生成器4、をさらに備え、第1取込口14は、ポリ塩化ビニリデンを含む希釈ポリ塩化ビニリデンを取り込み、制御手段104は、判定手段102の判定結果に基づいて、さらに希釈樹脂生成器4における所定の割合を変更してもよい。
【0114】
[付記6]
付記2から付記5のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1は、ポリ塩化ビニリデンと、塩基とを所定の温度で加熱することにより乾式脱塩素生成物を生成する乾式脱塩素処理器6、をさらに備え、第1取込口14は、ポリ塩化ビニリデンに由来する乾式脱塩素生成物を取り込み、制御手段104は、判定手段102の判定結果に基づいて、さらに乾式脱塩素処理器6における所定の温度を変更してもよい。
【0115】
[付記7]
付記2から付記6のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1は、所定の割合で塩基をグリコール溶媒に対して溶解させることにより液体を生成する液体生成器5、をさらに備え、制御手段104は、判定手段102の判定結果に基づいて、さらに液体生成器5における所定の割合を変更してもよい。
【0116】
[付記8]
付記2から付記7のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1は、シリンダー10の内部の温度を管理する温度管理器20、をさらに備え、制御手段104は、判定手段102の判定結果に基づいて、温度を変更してもよい。
【0117】
[付記9]
付記1から付記8のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1において、湿式脱塩素処理器2は、シリンダー10の内部に複数のスクリュー18を備えてもよい。
【0118】
[付記10]
付記1から付記9のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1において、塩基は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化鉄(II)、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化ランタン、水酸化アルミニウム及び水酸化鉄(III)の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0119】
[付記11]
付記1から付記10のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1において、グリコール溶媒は、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール及びモノエチレングリコールの少なくともいずれかを含んでもよい。
【0120】
[付記12]
本発明の他の一態様に係る脱塩素処理方法は、付記1から付記11のいずれか一つに記載の脱塩素処理装置1によって脱塩素処理を実行する。
【0121】
[付記13]
本発明の他の一態様に係るプログラムは、付記2から付記11のいずれか一つの脱塩素処理装置1が備えるコンピュータ3を、排出口12から排出された湿式脱塩素生成物が含む塩素の量に関する脱塩素情報を取得する取得手段100と、脱塩素情報が脱塩素処理の目標に関する条件を満たすか否かを判定する判定手段102と、判定手段102の判定結果に基づいて、脱塩素情報が条件を満たすようにシリンダー10の内部の反応を制御する制御手段104と、として機能させる。
【符号の説明】
【0122】
1…脱塩素処理装置、2…湿式脱塩素処理器、3…コンピュータ、4…希釈樹脂生成器、5…液体生成器、6…乾式脱塩素処理器、10…シリンダー、12…排出口、14…第1取込口、16…第2取込口、18…スクリュー、20…温度管理器、46…温度管理器、100…取得手段、102…判定手段、104…制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6