(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133923
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】防食システム、防食モニタリングシステム及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
C23F 13/06 20060101AFI20240926BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20240926BHJP
C23F 13/22 20060101ALI20240926BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20240926BHJP
E01D 19/08 20060101ALN20240926BHJP
【FI】
C23F13/06
C23F13/02 A
C23F13/22
E04B1/64 Z
E01D19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043948
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391019658
【氏名又は名称】株式会社中部プラントサービス
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐古 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】小▲濱▼ 清
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 重信
(72)【発明者】
【氏名】楊 沐野
【テーマコード(参考)】
2D059
2E001
4K060
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059GG21
2E001DH25
2E001HB01
2E001HC11
4K060AA02
4K060BA07
4K060BA13
4K060BA43
4K060BA45
4K060BA50
4K060CA11
4K060EB01
4K060FA07
(57)【要約】
【課題】複雑形状の被防食材である鋼構造物であっても、容易に防食効果のある鋼構造物にするシステムを提供する。
【解決手段】本発明は、鋼材、鋼材よりも自然電位が低い卑金属、並びに平均繊維幅が1nm以上1000nm以下の微細セルロース繊維及び電解質を含む含水流体を含み、鋼材と卑金属とが電気的に導通する形で接合され、含水流体が鋼材表面及び卑金属表面に接しており且つ卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給する、鋼材の防食システムに関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材、鋼材よりも自然電位が低い卑金属、並びに平均繊維幅が1nm以上1000nm以下の微細セルロース繊維及び電解質を含む含水流体を含み、鋼材と卑金属とが電気的に導通する形で接合され、含水流体が鋼材表面及び卑金属表面に接しており且つ卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給する、鋼材の防食システム。
【請求項2】
含水流体中の微細セルロース繊維の含有量が、含水流体の総質量に対して、1質量%以上である、請求項1に記載の鋼材の防食システム。
【請求項3】
鋼材表面が、鋼材同士の隙間部における鋼材表面である、請求項1又は2に記載の鋼材の防食システム。
【請求項4】
微細セルロース繊維が、含水流体における固形分の総質量に対して、0.1質量%以上50質量%以下のアニオン変性微細セルロース繊維を含み、前記アニオン変性微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、前記アニオン変性微細セルロース繊維のアニオン変性基導入量が、0.3mmol/g以上4.0mmol/g以下である、請求項1又は2に記載の鋼材の防食システム。
【請求項5】
含水流体が、含水流体における固形分の総質量に対して、1.0質量%以上の1種以上の電解質を含む、請求項1又は2に記載の鋼材の防食システム。
【請求項6】
電解質のうちの少なくとも1種が、還元剤としての機能を有する、請求項5に記載の鋼材の防食システム。
【請求項7】
アニオン変性微細セルロース繊維が、式(1)に記載の置換基を有する硫酸エステル化微細セルロース繊維である、請求項4に記載の鋼材の防食システム。
【化1】
(式中、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【請求項8】
含水流体が、5μm以上300μm以下の繊維径を有する繊維をさらに含む、請求項1又は2に記載の鋼材の防食システム。
【請求項9】
卑金属及び含水流体を覆うように鋼材表面に張設された外装材をさらに含む、請求項1又は2に記載の鋼材の防食システム。
【請求項10】
請求項1に記載の鋼材の防食システムと、タンパー機能を有するRFIDタグとを含み、RFIDタグが前記鋼材の防食システムにおける鋼材及び卑金属の両者に電気的に導通されており、卑金属の減耗及び剥離がRFIDリーダにより読み取られる、防食モニタリングシステム。
【請求項11】
請求項1又は10に記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムにおいて、含水流体が、乾燥体となっている、鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステム。
【請求項12】
水と、微細セルロース繊維と、電解質とを含む、請求項1又は10に記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムに使用するための含水流体。
【請求項13】
微細セルロース繊維と、電解質とを含む、請求項11に記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムに使用するための乾燥体。
【請求項14】
請求項1又は10に記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムを構築する方法であって、さびを有する鋼材と当該鋼材よりも自然電位が低い卑金属とを電気的に導通する形で接合し、含水流体を、鋼材表面及び卑金属表面に接するように、且つ卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給できるように配置し、ここで、さびは除去されない、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食システム、防食モニタリングシステム及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁をはじめとした鋼構造物は、その多くが1970年代の高度成長期に建設され、その寿命である50年の節目を迎えつつある。特に橋梁においては、70万橋に及ぶ橋梁の内、2023年には43%、2033年には67%の橋梁が50年以上の経過年数となり、寿命に伴う全数建て替えは輸送を中心としたライフラインに対する影響・費やす予算の面から不可能といってよい。
【0003】
その対応として、国交省では従来の対応策である事後保全ではなく、定期的な点検を行い、その結果に基づいた予防保全を中心としたアセットマネジメントを推奨しており、建て替えに伴う混乱を回避する努力を行っている。他にも、沿岸部に設置されることが多いプラント設備など、腐食が生じやすい構造物も同様に予防保全を中心としたアセットマネジメントが推奨されている。特に、鋼構造物の場合、腐食による劣化防止が予防保全対策の中心となり、その方法として塗装が主として採用されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、被塗面に、エポキシ樹脂系結合剤及び亜鉛末を主成分とするジンクリッチ塗料(I)を塗装した後、アクリル樹脂(A)、1分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)、及びアミノシランを含み得るアミン硬化剤(C)を含有する塗料組成物(III)を塗装することを特徴とする塗装方法が開示されている。
【0005】
特許文献2では、鋼構造物の表面をチタン箔で被覆して防食する防食方法であって、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上に塗料を塗布して塗料層を形成する塗布工程と、前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に、前記チタン箔を被覆する被覆工程と、前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける貼付工程とを具備する防食方法が開示されている。
【0006】
さらに、鋼構造物の複雑な形状部の防食の中には、隙間部防食がある。隙間部防食は、防食塗料を用いる方法では根本的に解決することは難しい。隙間部防食を根本的に解決する方法としては、犠牲防食技術が考えられる。犠牲防食技術の中でも犠牲陽極方式は海水中や水分を含んだ土中でなければその機能を発揮することができないため、近年ではその対応策として大気中での犠牲防食技術が考案され運用されてきている。
【0007】
例えば、特許文献3では、表面が酸化されて腐食層が形成された被防食部材に対して、絶縁体からなると共に外部の水分を吸収する吸水シートと、前記被防食部材に対して卑な材料からなると共に外部から前記吸水シートまで連通する複数の連通孔が形成された犠牲陽極材とを、前記腐食層と前記犠牲陽極材との間に前記吸水シートを挟むように配置すると共に、前記被防食部材と前記犠牲陽極材にそれぞれ配置された一対の端子の間を電気的に接続し、前記複数の連通孔を介して外部の水分を前記吸水シートに供給し、前記吸水シートに吸収された水分が腐食回路を形成し、前記腐食回路を前記犠牲陽極材から前記被防食部材に伝導する電子により前記腐食層を還元して腐食に対して安定な転換層に転換する防食方法が開示されている。
【0008】
特許文献4では、鉄筋コンクリート構造物のコンクリート表面に設けられた保水層と、該保水層に接触して設けられた流電陽極とを有し、該流電陽極と該鉄筋コンクリート構造物の鉄筋とが導通可能に接続され、該流電陽極から該保水層を介して該鉄筋に防食電流が流れるようになされている、鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造であって、前記保水層は、親水性繊維を含んで構成される吸水体に、潮解性塩を含む電解質水溶液を保持させてなる、鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造が開示されている。
【0009】
特許文献5では、鋼構築物を構成する鉄鋼材と、この鉄鋼材の表面に塗布する導電性接着剤と、この導電性接着剤を間に置いて前記鉄鋼材に固定的に取り付けたマグネシウム板と、このマグネシウム板を覆い且つこのマグネシウム板の表面積よりも広い範囲に亘り配置するガーゼ状の網目構造を有するポリエステル製繊維の平織布帛と、この布帛にビチューメン系のカバーをさらに重ねて備えた前記鉄鋼材のための防食構造において、前記導電性接着剤と前記マグネシウム板とを挟み且つ前記表面の上に配置した可撓性のある前記布帛、及び、前記カバーが前記鉄鋼材に固定してあり、前記布帛が前記マグネシウム板に由来して生成されたマグネシウムイオンを担持しており、そして、前記担持した前記布帛が前記鉄鋼材の前記表面に重畳されており、前記マグネシウム板の表面積よりも広く且つ前記重畳された範囲に亘って前記鉄鋼材の前記表面を不動態化して防食することを特徴とする防食構造が開示されている。
【0010】
特許文献6では、鋼構築物の防食構造であって、鋼構築物を構成する鉄鋼材と、この鉄鋼材の表面の少なくとも一部に塗布する導電性接着剤と、この導電性接着剤を間に挟んで前記鉄鋼材に固定的に取り付けた単独もしくは複数のマグネシウム板と、可撓性のあるポリエステル製の繊維状基体と、ビチューメン系のカバーとを備えた前記鉄鋼材のための防食構造において、前記単独の場合、前記繊維状基体はマグネシウム板を覆い且つこのマグネシウム板の表面積よりも広い範囲に亘り前記表面の上に配置してあり、また、前記複数の場合、前記繊維状基体は複数のマグネシウム板の間を接続して前記表面を覆い且つこれらのマグネシウム板及び前記接続する部分全体の表面積よりも広い範囲に亘り前記表面の上に配置してあり、前記単独の場合の繊維状基体あるいは前記複数の場合の繊維状基体に前記カバーをさらに重ねて配置してあり、前記単独のマグネシウム板あるいは前記複数のマグネシウム板と前記導電性接着剤とを間に挟んで前記表面の上に設けた前記単独の場合の繊維状基体あるいは前記複数の場合の繊維状基体と、前記カバーとが前記鉄鋼材に固定してあり、前記単独の場合の繊維状基体あるいは前記複数の場合の繊維状基体が前記マグネシウム板に由来して生成されたマグネシウムイオンとイオン化に伴う電子を担持且つ供給しており、そして、前記担持且つ供給する前記繊維状基体が前記鉄鋼材の前記表面の少なくとも一部に重畳されており、前記単独の場合の前記繊維状基体あるいは前記複数の場合の前記繊維状基体によって前記重畳された前記表面の範囲に亘って前記鉄鋼材の自然電位を防食電位に維持して、温度あるいは外力により変形する前記鋼構築物の箇所、前記鋼構築物を接合する隙間部分の箇所、前記表面のうち前記マグネシウム板を配置できない特異形状表面の箇所のうち、少なくとも1つの箇所を防食することを特徴とする防食構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-074272号公報
【特許文献2】特開2011-206754号公報
【特許文献3】特開2016-040403号公報
【特許文献4】特開2016-169407号公報
【特許文献5】特開2021-055147号公報
【特許文献6】特開2021-055148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
大気に開放された一般的な鋼材表面で起きる腐食は、腐食範囲が固定されず全面的に生じる。したがって、腐食速度は遅く目視も容易なため、適切な塗装計画を立て、さびを完全に削り落とし、再塗装することで長期に渡って鋼材の強度を保つことは可能である。例えば、主桁部など平面でさびの除去が容易に可能な部位は、さびの除去を行い、安価な防食塗料で塗装するのが通例である。
【0013】
一方、橋梁やプラント設備の鋼材の角部や支承部など複雑な形状でさびの除去が困難な部位では、防食対策として防食塗料を塗装しても、一部残留したさびを起因として腐食が進行してしまう。このようなさびは、ヘマタイトなどの3価のFeイオンを含む金属酸化物又はその水和物からなる不安定さびである。
【0014】
例えば、さびの除去が困難な部位の例として添接板が挙げられる。添接板は、橋梁などにおいて輸送などのために分割された鋼材における継手部を現場において接合するために使用される鋼材からなる板であり、高力ボルトなどにより締め付けられている。添接板は高力ボルトなどによりしっかり締め付けられているものの、鋼材と鋼材の間にはひずみなどの影響で微小な隙間部が生じている。その隙間部に雨水や塩水などの水分が浸入すると、内部と外部の水分において溶存酸素の差が生じて酸素による濃淡電池作用が働き、その部分で腐食が激しく起きることとなる(この腐食は、通気差腐食という)。腐食に伴って発生したさびは、入口部に集まり堆積することで添接板の変形を進行させ、ボルトの変形などの強度上のリスクを招くこととなる。
【0015】
添接板はそれ自体を外さなければ隙間部のさびを落とすことは不可能である。このため、添接板の取り外しに伴う橋梁の通行止めや、添接部の代替部を作る(バイパス工法)などの影響を考慮すると、添接板のさびの除去は簡単に行うことはできず、その腐食は放置されがちになってしまう。放置された腐食は、一般的な全面腐食よりも速いスピードで進行してしまう。このような腐食は添接板のさらなる変形も引き起こし、その結果、添接板の取替が必須となり、最終的には大規模な取替工事やそれに伴う通行止めなどの対応やコストが必要となってくる。前記の通り橋梁の50年での取替が不可能となった現在、橋梁のさらなる長期使用を目指すにはこのような部分的で早期に進行する腐食要因に対する対応方法が新たに必要になってくる。
【0016】
しかしながら、例えば特許文献1では、防食塗料を用いて既設設備の隙間部補修を行う場合、構成設備を解体する必要があった。また、防食塗料は鋼材のエッジ部膜厚が薄くなり、塗膜が薄くなった部位から腐食が広がる課題があった。
【0017】
特許文献2では、防食状況を点検するためには、チタン箔越しに確認できないためチタンを剥離させる必要があった。またチタンは鋼材に対して貴な金属であるため、チタン箔と鋼材との接合部で鋼材の腐食が発生しやすいという根本的な課題があった。また、このような腐食を防ぐためには、厚膜の防食塗料で施工する必要があるなどの課題があった。
【0018】
特許文献3~6では、鋼材などの被防食材(防食対象)の形状に合わせて吸水シートと鋼材に対して卑である金属を整形しなければならないため、複雑な形状を有する構造体や隙間部の防食が困難である課題があった。また、特許文献3~6では、防食材が防食対象の鋼材表面と導電性接着剤や紙などの媒体を介して密着している必要があり、大気中の犠牲防食によって通気差腐食の防食を行うには、防食対象、例えば添接板を分解し、隙間部に防食材を差し込む必要があった。
【0019】
したがって、本発明は、複雑形状の被防食材である鋼構造物であっても、容易に防食効果のある鋼構造物にするシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
犠牲陽極方式における防食材の動作原理は、海水や電解液などに含まれるイオンの電気泳動により電子の授受が可能となり、これに伴って鋼材などの防食対象と防食材との間に電流を流すことで金属表面の電位を変化させ(分極という)、鋼材の表面電位を、腐食を開始する電位(腐食電位又は自然電位という)から腐食しない電位(防食電位という)範囲まで変化させることで防食が実現されている。このため、海水中や水分を含んだ土中ではイオンの流れが容易にできるため防食が可能となる。
【0021】
一方で、電解液を保持することが困難な大気中における大気中犠牲防食の原理では、防食対象と防食材とが近接した部分のみを動作範囲とすることでイオンの移動範囲を確保し防食を実現している。しかしながら、防食材特有の電位(平衡電位)と鋼材の持つ特有の電位との差が十分大きければ鋼材と防食材との間に電解液さえ確保できれば遠方の鋼材にも防食効果を起こすことは可能である。
【0022】
隙間腐食の場合は隙間部の保水効果があるからこそ腐食が起きるため、防食材から隙間入口部までの電解液の確保を工夫することで防食材から隙間部防食対象までの保水を確保することが可能となる。
【0023】
本発明者らは、複雑形状の鋼材の防食について鋭意検討した結果、鋼材の防食システムにおいて、鋼材と鋼材よりも自然電位が低い卑金属とを電気的に導通する形で接合し、鋼材表面と卑金属表面に微細セルロース繊維を含む含水流体を接触させたところ、含水流体が卑金属と鋼材との間で卑金属のイオン化により生成した卑金属イオンを鋼材表面に供給するための担体として複雑形状の鋼材の隙間に容易に入り込み、さらに、卑金属のイオン化により生成した電子が卑金属から電気的に導通する形で接合された鋼材へと供給され、結果として、当該構築された複雑形状の鋼材の防食システムが良好な防食効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0024】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)鋼材、鋼材よりも自然電位が低い卑金属、並びに平均繊維幅が1nm以上1000nm以下の微細セルロース繊維及び電解質を含む含水流体を含み、鋼材と卑金属とが電気的に導通する形で接合され、含水流体が鋼材表面及び卑金属表面に接しており且つ卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給する、鋼材の防食システム。
(2)含水流体中の微細セルロース繊維の含有量が、含水流体の総質量に対して、1質量%以上である、(1)に記載の鋼材の防食システム。
(3)鋼材表面が、鋼材同士の隙間部における鋼材表面である、(1)又は(2)に記載の鋼材の防食システム。
(4)微細セルロース繊維が、含水流体における固形分の総質量に対して、0.1質量%以上50質量%以下のアニオン変性微細セルロース繊維を含み、前記アニオン変性微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、前記アニオン変性微細セルロース繊維のアニオン変性基導入量が、0.3mmol/g以上4.0mmol/g以下である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システム。
(5)含水流体が、含水流体における固形分の総質量に対して、1.0質量%以上の1種以上の電解質を含む、(1)~(4)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システム。
(6)電解質のうちの少なくとも1種が、還元剤としての機能を有する、(5)に記載の鋼材の防食システム。
(7)アニオン変性微細セルロース繊維が、式(1)に記載の置換基を有する硫酸エステル化微細セルロース繊維である、(4)に記載の鋼材の防食システム。
【化1】
(式中、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
(8)含水流体が、5μm以上300μm以下の繊維径を有する繊維をさらに含む、(1)~(7)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システム。
(9)卑金属及び含水流体を覆うように鋼材表面に張設された外装材をさらに含む、(1)~(8)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システム。
(10)(1)~(9)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システムと、タンパー機能を有するRFIDタグとを含み、RFIDタグが前記鋼材の防食システムにおける鋼材及び卑金属の両者に電気的に導通されており、卑金属の減耗及び剥離がRFIDリーダにより読み取られる、防食モニタリングシステム。
(11)(1)~(10)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムにおいて、含水流体が、乾燥体となっている、鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステム。
(12)水と、微細セルロース繊維と、電解質とを含む、(1)~(10)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムに使用するための含水流体。
(13)微細セルロース繊維と、電解質とを含む、(11)に記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムに使用するための乾燥体。
(14)(1)~(11)のいずれか1つに記載の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムを構築する方法であって、さびを有する鋼材と当該鋼材よりも自然電位が低い卑金属とを電気的に導通する形で接合し、含水流体を、鋼材表面及び卑金属表面に接するように、且つ卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給できるように配置し、ここで、さびは除去されない、方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によって、複雑形状の被防食材である鋼構造物であっても、容易に防食効果のある鋼構造物にするシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】繊維6が鋼材1又は卑金属2の表面上において含水流体3により挟み込まれた構造で配置される一例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図3】含水流体3が微細セルロース繊維を含まないことにより途絶し防食効果を示すことができなくなった例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図13】鋼-マグネシウム試験体又は鋼-亜鉛試験体を模式的に示す図である。
【
図14】鋼-マグネシウム試験体又は鋼-亜鉛試験体に含水流体3及び滅菌ガーゼ6を配置する様子を模式的に示す図である。
【
図15】RFIDモニタリング用試験体を模式的に示す図である。
【
図16】RFIDモニタリング用試験体におけるマグネシウム合金板2の表面、断面、及び鋼板1と接触させる裏面を模式的に示す図である。
【
図17】腐食確認実験における試験体の各部寸法を示す図である。
【
図18】腐食確認実験における試験体の外観を模式的に示す図である。
【
図19】腐食確認実験における試験体におけるプラスチックテープによる隙間部の確保の様子を模式的に示す図である。
【
図20】腐食確認実験における試験体に貼り付けたプラスチックテープ上にアクリル板を設置し、アクリル板の四角を万力により締め付ける様子を模式的に示す図である。
【
図21】腐食確認実験における試験体の各チャネル(CH)のデータロガーへの繋ぎ込みを模式的に示す図である。
【
図22】腐食確認実験の様子を撮影した写真である。
【
図23】腐食確認実験における鋼材及びマグネシウム合金の経過時間に対する電流値の変化を示すグラフである。
【
図24】腐食確認実験における電解質としての亜硫酸ナトリウムの有無による鋼材及びマグネシウム合金の経過時間に対する電流値の変化を示すグラフである。
【
図25】腐食確認実験における隙間部の内部の防食状況を示す写真である。
【
図26】本発明の防食システムを使用しない場合の鋼材の経過時間に対する電流値の変化を示すグラフである。
【
図27】RFIDタグの一例の分解図であり、特願2021-176544号から抜粋されたものである。
【
図28】RFIDタグの一例の斜視図であり、特願2021-176544号から抜粋されたものである。
【
図29】導通判定装置を模式的に示す図であり、特願2021-176544号から抜粋されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の防食システム、防食モニタリングシステム及びその構築方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0028】
本発明は、鋼材、鋼材よりも自然電位が低い卑金属、並びに平均繊維幅が1nm以上1000nm以下の微細セルロース繊維及び電解質を含む含水流体を含み、鋼材と卑金属とが電気的に導通する形で接合され、含水流体が、鋼材表面及び卑金属表面に接しており、且つ卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給する、鋼材の防食システムに関する。
【0029】
鋼材とは、土木、建築、又は機械などの材料として使用するために、板状、棒状、又は管状などに加工された鋼鉄を意味する。鋼材としては、1つであっても、又は2つ以上を組み合わせてもよい。鋼材としては、2つ以上を組み合わせて、当該2つの鋼材の間に隙間部を有する鋼材、例えば添接板、フランジ、ボルトなどが好ましい。
【0030】
鋼材は、鋼材表面にさびを有していてもよい。
【0031】
鋼材が、鋼材表面にさびを有していたとしても、当該さびを取り除くことなく、本発明の防食システムを構築することができ、本発明の防食システムにより、当該さびのさらなる拡大を抑制することができる。
【0032】
鋼材よりも自然電位が低い卑金属としては、当該技術分野において公知の卑金属が挙げられる。卑金属としては、例えばマグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。
【0033】
例えば、マグネシウム合金は鋼材に比べて平衡電位は卑である。したがって、マグネシウム合金と鋼材とを導電性接着剤(当該技術分野において公知の導電性接着剤、例えば、熱、嫌気性条件、湿気、光吸収、及び感圧からなる群のうちの少なくとも1つの条件により硬化接着する、シリコーン、エポキシ、フェノール、アクリル、エン、ユリア、メラミン、イソシアネート、及びクロロプレンゴムからなる群のうちの少なくとも1つを主剤とする導電性接着剤、又はホットメルト系樹脂を含有する導電性接着剤など)を用いて接着することにより、含水流体が浸入した際に鋼材に防食電流、すなわち卑金属がイオン化した際に生じる電子を供給することができ、犠牲防食を行うことが可能となる。これにより、鋼材の隙間部におけるアノード部をカソード部に逆転させることが可能であり、マグネシウム合金が健全である限り腐食することはなくなる。
【0034】
鋼材と鋼材よりも自然電位が低い卑金属とは、電気的に導通する形で接合されている。ここで、「電気的に導通する形で接合」としては、当該技術分野において公知の接合が挙げられる。当該接合としては、例えば導電性接着剤を介した接合、溶接、はんだ付け、リベットなどが挙げられる。接合において溶接を使用する場合には、ガルバニック腐食を生じる可能性があるため注意が必要である。
【0035】
本発明において、鋼材の防食電位は、一般的には-0.77Vvs.SCE以下であるが、その鋼材の持つ固有の自然電位を基準としてその電位から陰極電位を0.3V以上低下させることが好ましい。
【0036】
含水流体とは、静止状態においてせん断応力が発生しない(すなわち、流動性を有する)連続体を意味する。含水流体は、水、微細セルロース繊維、及び電解質を含む。
【0037】
含水流体が水、微細セルロース繊維、及び電解質を含むことにより、水分浸入時において微細セルロース繊維が水分を保持し、含水流体中の電解質の媒体となることで、鋼材及び卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給することができる。
【0038】
微細セルロース繊維とは、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した(C6H10O5)nで示される多糖類からなる繊維を、平均繊維幅1nm以上1000nm以下の範囲に微細に解きほぐした構造の物質であり、セルロースナノファイバー(CNF)やセルロースナノクリスタル(CNC)などと称されることもある。
【0039】
微細セルロース繊維としては、機械解繊微細セルロース繊維、非アニオン変性微細セルロース繊維、アニオン変性微細セルロース繊維などが挙げられる。
【0040】
アニオン変性微細セルロース繊維は、グルコースユニットのOH基の一部が、アニオンに変性されたセルロース、すなわちOH基がエステル化修飾などを受けて負電荷を持つアニオン変性基が導入されたセルロース、又は6位OH基が結合するメチレンが酸化されることによりアニオン変性基が導入されたセルロースから構成される繊維である。アニオン変性微細セルロース繊維としては、例えば、限定されないが、硫酸エステル化微細セルロース繊維、TEMPO酸化微細セルロース繊維、リン酸エステル化微細セルロース繊維、亜リン酸エステル化微細セルロース繊維、ザンテート化微細セルロース繊維などが挙げられる。
【0041】
例えば、アニオン変性微細セルロース繊維としては、式(1)
【化2】
(式中、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位(グルコースユニットのOH基が結合していた炭素原子への結合部位)である。)
に記載の置換基を有する水和性の高い硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫酸エステル化セルロースナノファイバーともいう)が挙げられる。硫酸エステル化微細セルロース繊維では、通常は繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている。硫酸エステル化微細セルロース繊維は、例えば原料パルプを硫酸エステル化及び解繊することにより製造することができる。
【0042】
ここで、Mn+としては、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。nが2又は3の場合、Mn+は、2つ又は3つの-OSO3
-との間でイオン結合を形成する。
【0043】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0044】
ここで、アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)などが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)などが挙げられる。遷移金属イオンとしては、鉄イオン、ニッケルイオン、クロムイオン、パラジウムイオン、銅イオン、銀イオンなどが挙げられる。その他の金属イオンとしては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンなどが挙げられる。
【0045】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンが挙げられ、例えば、NH4
+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリニウムイオンなどが挙げられる。
【0046】
Mn+としては、アニオン変性微細セルロース繊維の各用途における加工性の観点から、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンが好ましく、ナトリウムイオン(Na+)であることが特に好ましい。上記一般式(1)で表されるアニオン変性基が有するMn+としては1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0047】
本発明のアニオン変性微細セルロース繊維では、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基の他に、他の置換基を有していてもよい。ここでアニオン変性微細セルロース繊維が、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基以外の基、すなわち、他の置換基を有する場合、他の置換基は通常微細セルロース繊維を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の置換基としては、例えば、特に限定されないが、アニオン性置換基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせなどが挙げられる。他の置換基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの置換基の含有比率は限定されない。他の置換基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性置換基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性置換基及びその塩としては、特にカルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性置換基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0048】
アニオン変性微細セルロース繊維は、たとえ乾燥したとしても、加水によりその保水性(ゲル状)を再現できる。
【0049】
アニオン変性微細セルロース繊維の平均繊維幅は、限定されないが、通常1nm以上1000nm以下、好ましくは1nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上10nm以下である。
【0050】
アニオン変性微細セルロース繊維の平均繊維長は、限定されないが、通常0.1μm以上6μm以下であり、好ましくは0.1μm以上2μm以下である。
【0051】
平均繊維幅及び平均繊維長は、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅(繊維径(円相当直径))及び繊維長を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。平均繊維幅及び平均繊維長は硫酸などの試薬の濃度、反応溶液に対するパルプの量、反応時間を調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0052】
アニオン変性微細セルロース繊維の平均繊維幅及び平均繊維長が前記範囲であることにより、当該アニオン変性微細セルロース繊維が過剰な水分を吸収・保持することなく適切な水分で防食対象の鋼材表面を満たすことができ、乾固しても再び吸水すれば含水流体に可逆的に戻すことができ、乾燥して乾燥膜となった際に被膜防食効果を発現することができる。
【0053】
アニオン変性微細セルロース繊維では、アニオン変性基の導入量が、限定されないが、通常0.3mmol/g以上4.0mmol/g以下、好ましくは0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下、より好ましくは0.4mmol/g以上2.5mmol/g以下、さらにより好ましくは0.8mmol/g以上2.0mmol/g以下である。アニオン変性微細セルロース繊維のアニオン変性基導入量は、アニオン変性微細セルロース繊維1g当たりのアニオン変性基含有率(mmol)で表わされる。アニオン変性基導入量は、前記範囲内で、用途などに応じて任意の適切な値に設定することができる。
【0054】
アニオン変性基導入量が前記範囲内であることにより、乾燥後に高い水分散性を得ることができる。
【0055】
非アニオン変性微細セルロース繊維としては、機械解繊型セルロースナノファイバー、機械解繊型セルロースマイクロファイバーなどが挙げられる。
【0056】
非アニオン変性微細セルロース繊維は、塩分やアルカリによる粘度変化を起こさず、ゲル状の状態で施工することができる。したがって、非アニオン変性微細セルロース繊維は、隙間部の入口部までの複雑な形状への適合性が高く、例えば紙などに比べて連続性を維持しやすい。また、非アニオン変性微細セルロース繊維は紙と同じ繊維質でできており保水性も有する。
【0057】
非アニオン変性微細セルロース繊維の各材料特性としては、アニオン変性微細セルロース繊維と同等の平均繊維幅及び平均繊維長を有し、比較的耐薬品性に優れ、化学修飾したもの、例えばアニオン変性微細セルロース繊維と比較して、安価である一方で、乾燥後は水分散性が下がるといった性質が挙げられる。
【0058】
セルロース繊維としては、非アニオン変性微細セルロース繊維とアニオン変性微細セルロース繊維、例えば硫酸エステル化微細セルロース繊維との混合物であってもよい。
【0059】
セルロース繊維として、非アニオン変性微細セルロース繊維と硫酸エステル化微細セルロース繊維との混合物を使用することにより、硫酸エステル化微細セルロース繊維の硫酸エステル基の静電反発力によって、非アニオン変性微細セルロース繊維の乾燥時に生じる水素結合による保水性の減少を抑制し、さらに、非アニオン変性微細セルロース繊維によって、硫酸エステル化微細セルロース繊維の塩分やアルカリ(卑金属の水酸化物によるアルカリ化(pH10.5程度))による粘度の減少(ゾル化)を抑制することができ、したがって、両者を混合することでそれぞれの欠点を補い、乾燥時の加水再現性とアルカリ性及び塩存在下におけるゲル状維持を実現できる。
【0060】
また、当該混合物は、その割合を変化させることで粘度を自由に調整することができ、例えば混合割合を調整して粘度を下げることで、より狭い隙間内部まで微細セルロース繊維を行き渡らせることが可能となる。また、微細セルロース繊維には酸素バリア機能があるため、入口部と隙間奥部の酸素濃度差を低減でき、卑金属アノードによる防食効果をより深部まで伝達することができるようになる。
【0061】
セルロース繊維として非アニオン変性微細セルロース繊維とアニオン変性微細セルロース繊維との混合物を使用する場合、非アニオン変性微細セルロース繊維とアニオン変性微細セルロース繊維との質量比(非アニオン変性微細セルロース繊維:アニオン変性微細セルロース繊維)は、目的とする混合物の特性、例えば粘度に依存し、限定されないが、通常1:0.01~1:100、好ましくは1:0.1~1:10である。
【0062】
微細セルロース繊維の含有量は、限定されないが、含水流体における固形分の総質量に対して、通常0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0063】
微細セルロース繊維の含有量の調整により、防食対象の複雑形状部や隙間部の施工に適した含水流体の粘度とする事が可能となる。
【0064】
電解質としては、微細セルロース繊維とは異なる化合物であり、限定されないが、水溶性であることが好ましく、さらに還元剤としての作用も併せ持つか、又は電解質の一部に還元剤としての作用を持つものを併用することがより好ましい。電解質としては、例えば、水溶性の金属塩、アンモニウム塩、及びイオン液体からなる群から選択される1つ以上を用いる事ができる。また、前記アニオン変性微細セルロース繊維もアニオン変性基がアニオンとして電離するため、電解質としての機能を発現する。
【0065】
金属塩としては、特に限定されないが、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される1種以上をカチオンとするものが挙げられる。金属塩の具体例としては、例えば塩化ナトリウム(食塩)、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸塩類、カルボン酸塩類、ホウ酸塩類、リン酸塩類などが挙げられる。
【0066】
アンモニウム塩としては、特に限定されないが、NH4X(式中、Xは1価の塩基である)又はNR4X(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基であり、Xは1価の塩基である)で表される。Xとしては、例えばハロゲンイオン、硫酸イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、又はヒドロキシドイオンが、分散性の観点から好ましい。Rは、それぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基である。アンモニウム塩としては、例えば硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
【0067】
イオン液体としては、特に限定されないが、イミダゾリウム系イオン液体、芳香族系イオン液体、ピロリジニウム系イオン液体、アンモニウム系イオン液体、ピペリジニウム系イオン液体、四級ホスホニウム系イオン液体などが挙げられる。イオン液体には電解質としての機能の他に、凍結防止機能、セルロース系化合物の溶解機能がある。
【0068】
イミダゾリウム系イオン液体としては、特に限定されないが、ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(C1C6Im-NTf2)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(C1C4Im-NTf2)などを挙げることができる。
【0069】
芳香族系イオン液体としては、特に限定されないが、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MDI-TFSI)などが挙げられる。
【0070】
アンモニウム系イオン液体としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジエチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート(DEME-BF4)、トリメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TMPA-(CF3SO2)2N)などが挙げられる。
【0071】
還元性を持つ電解質としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸鉄(II)ヒドラジン、没食子酸などが挙げられる。
【0072】
含水流体が電解質を含むことにより、卑金属イオンの卑金属から鋼材への移動をよりスムーズに行うことができる。
【0073】
さらに、含水流体が還元剤の作用を併せ持つ電解質を含むことにより、含水流体中の酸素を還元し、含水流体中の酸素濃度を低下させることができる。
【0074】
なお、含水流体が亜硫酸ナトリウムを含む場合、隙間部の酸素濃度の低下量が大きくなるため、卑金属の防食効果が消滅した場合において隙間部外部との間で形成される酸素濃淡電池の電位差も大きくなり隙間部の腐食が促進される可能性があるため、卑金属が消費されたらすぐに卑金属を交換する必要がある。
【0075】
電解質の含有量は、限定されないが、含水流体における固形分の総質量に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上である。電解質の含有量の上限値は、限定されないが、通常85質量%、好ましくは80質量%である。したがって、電解質の含有量は、限定されないが、含水流体における固形分の総質量に対して、通常0.1質量%以上85質量%以下、好ましくは1質量%以上80質量%以下、例えば45質量%以上79質量%以下である。
【0076】
また、本発明の含水流体は、電解質を含むため凝固点降下により0℃未満の凝固点を有し得るが、低温環境の使用時に凍結することをより防ぐため、凍結防止剤を含んでいてもよい。
【0077】
凍結防止剤としては、水の凝固点を下げるものであれば特に限定されないが、例えば、グリコール系化合物、及び高極性の両親媒性溶媒からなる群から選択される1つ以上が挙げられる。グリコール系化合物としては、特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。高極性の両親媒性溶媒としては、特に限定されないが、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、2-プロパノール、グリセリンなどが挙げられる。
【0078】
凍結防止剤の含有量は、使用環境によって任意に選ぶ事ができ、限定されないが、含水流体における固形分の総質量に対して通常0.1質量%以上85質量%以下、好ましくは1質量%以上80質量%以下、例えば5質量%以上50質量%以下である。
【0079】
含水流体の固形分は、限定されないが、通常1%以上50%以下、好ましくは2%以上15%以下である。
【0080】
本発明の防食システムは、微細セルロース繊維とは異なる含水流体を担持するための繊維(本明細書等では、「微細セルロース繊維」に対して、単に「繊維」ともいう)、例えばパルプなどのセルロース繊維、樹脂繊維など、またそれらが絡み合った形態であるガーゼ、綿、不織布、樹脂ネットなどをさらに含んでいてもよい。
【0081】
繊維の平均繊維径は、限定されないが、通常5μm以上300μm以下、好ましくは10μm以上200μm以下である。
【0082】
本発明において、微細セルロース繊維は含水流体中でのイオンの泳動をスムーズに行える環境を提供する。微細セルロース繊維は経時的に乾燥するため、微細セルロース繊維乾燥時には、微細セルロース繊維は卑金属、例えばマグネシウム合金と隙間部の入口部の全面を極力覆っていることが好ましい。本発明の防食システムが含水流体を担持するための繊維を含むことにより、微細セルロース繊維の乾燥に伴う結合由来の縮小特性を緩和し、乾燥過程でのセルロース繊維の剥離及び割れの発生を抑制することができる。なお、繊維は、含水流体を担持することができればよく、複雑形状の鋼材の隙間部の奥深くまで挿入しなくとも、当該隙間部の入口部付近に配置することで、その効果を発揮することができる。
【0083】
本発明の防食システムは、
図1に示すように、鋼材1又は卑金属2の表面上に、綿ガーゼなどの繊維6を含水流体3により挟み込む構造を有することが好ましい。
【0084】
本発明の防食システムが、
図1に示すように、鋼材1又は卑金属2の表面上に、綿ガーゼなどの繊維6を含水流体3により挟み込む構造を有することにより、乾燥過程での微細セルロース繊維を含む含水流体又はその乾燥体の剥離及び割れの発生をより抑制することができる。
【0085】
本発明の防食システムは、繊維を含む場合、吸水蒸発紙をさらに含んでいてもよい。
【0086】
本発明の防食システムが吸水蒸発紙を含むことにより、含水流体の乾燥に伴う剥がれを防止することができる。
【0087】
本発明の防食システムは、卑金属及び含水流体を覆うように鋼材表面に張設された外装材をさらに含んでいてもよい。
【0088】
外装材としては、限定されないが、耐候性及び防水性に優れたもの、例えば大気や紫外線を通さない材質からなるものが好ましい。外装材としては、例えばビチューメン(アスファルト)とゴムの混合物、ペトロラタム系のシートなどが挙げられる。
【0089】
外装材は、例えば隙間部が存在する鋼材表面に卑金属及び含水流体を覆うように防水性に優れた接着剤(当該技術分野において公知の接着剤、例えば、熱、嫌気性条件、湿気、光吸収、及び感圧からなる群のうちの少なくとも1つの条件により硬化接着する、シリコーン、エポキシ、フェノール、アクリル、エン、ユリア、メラミン、イソシアネート、及びクロロプレンゴムからなる群のうちの少なくとも1つを主剤とする接着剤、又はホットメルト系樹脂を含有する接着剤など)又はボルト留めなどの物理的な方法で張設することができる。外装材は、外界の水分浸入を防ぐ役割を発揮することができる。さらに、経年的に外装材及び接着剤が劣化し水分が浸入してきたとしても、その水分を防食システム内部に閉じ込めて、防食回路を維持することができる。
【0090】
したがって、本発明は、塗布された微細セルロース繊維が乾燥した際に、隙間部を取り巻く環境において、第一過程として外界の水分浸入を防ぐために設けられた外装材で施工部分を覆って、当該外装材を防水性に優れた接着剤又はボルト留めなどの物理的な方法で鋼材に固定し、第二過程として経年的に外装材及び接着剤が劣化し水分が浸入したとしてもその水分を内部に閉じ込め防食回路を維持できる防食システムにも関する。
【0091】
本発明の防食システムが外装材を含むことにより、マグネシウムなどの卑金属の大気曝露に伴う自己腐食を抑制することができ、さらに、隙間部への水分の到達を予防し、また、劣化などにより水分の浸入が始まったとしても外装材内に水分を閉じ込めることで防食回路を維持でき、加えて、大気からの遮断による酸素供給の希薄効果を得ることができる。
【0092】
本発明の防食システムは、RFIDタグをさらに備えていてもよい。
【0093】
ここで、RFIDタグについて、
図27~29を使用して説明する。
図27は、RFIDタグの一例の分解図である。
図28は、RFIDタグの一例の斜視図である。
図29は、導通判定装置を模式的に示す図である。RFIDタグ10は、一方向に長いブロック状のベース基板16と、前記ベース基板16の第1面23に重ねた状態で配置されるアンテナ基板17と、前記ベース基板16と前記アンテナ基板17の間に位置し、前記ベース基板16との対向面に第1電極18と第2電極19を有するICチップモジュール20と、前記ICチップモジュール20の第1電極18に電気的に接続された第1検出端子21と、前記ICチップモジュール20の第2電極19に電気的に接続された第2検出端子22と、を備え、前記第1検出端子21と前記第2検出端子22は、それぞれ卑金属2と鋼材1に電気的に接続され、前記アンテナ基板17は、2つの金属体間の導通の有無の検出結果を電波で発信する。
【0094】
このようなRFIDタグ10では、導通の有無の検出結果を、電波を介して非接触で発信することができる。
【0095】
RFIDタグ10の実施態様としては、以下の構成が望ましい。前記ベース基板16は、絶縁性の材料からなり、前記第1面23の反対側に第2面24を有し、前記第2面24は、前記第1面23とは所定距離以上離隔しており、RFIDタグ10は、前記第2面24を装着面として、前記鋼材1に装着される。
【0096】
鋼材1とICチップモジュール20の距離が所定距離未満まで接近すると、ICチップモジュール20が外乱の影響を受けて検出の正確性が低下するおそれがある。第1面23と第2面24との距離を所定距離以上にすると、鋼材1とICチップモジュール20が所定距離以上離隔するため、外乱による影響を低減し、より正確に導通の有無を検出できる。
【0097】
RFIDタグ10は、前記ベース基板16に対して前記アンテナ基板17を保持するクリップ25を備え、前記第1検出端子21及び前記第2検出端子22は、前記クリップ25の弾性力により、前記第1電極18及び前記第2電極19との接触状態を保つことで、電極18及び19との電気的な接続を維持する。
【0098】
各端子21及び22と各電極18及び19は、クリップ25で押さえつけられることで接触状態を保ち、電気的な接続が維持される。電極18及び19に対して端子21及び22が固定されていないので、温度変化と線膨張係数の違いにより電極18及び19と端子21及び22の位置にずれが生じても、接続部分が破損せず、良好な接続状態を維持することができる。これにより、温度変化に強いRFIDタグ10にすることができる。
【0099】
導通判定装置26は、RFIDタグ10と、前記RFIDタグ10から非接触で検出結果を読み取るRFIDリーダ11と、を備える。このようにすると、RFIDリーダ11を用いてRFIDタグ10の検出結果を非接触で受信できる。
【0100】
導通の有無から、犠牲防食の効果を維持しているか否かを判断できる。
【0101】
前記RFIDリーダ11は、前記RFIDタグ10との間で電波を送受信するRFIDリーダ側アンテナと、制御部と、を含み、前記RFIDタグ10は、受信した電波から電力の供給を受けて、導通状態の検出及び検出結果の発信を行うパッシブ型であり、前記制御部は、前記RFIDリーダ側アンテナで前記RFIDタグ10が発信する検出結果を受信できるように、前記RFIDタグ10に出力する電波のレベルを自動調整してもよい。
【0102】
このようにすると、RFIDリーダ11は、RFIDタグ10の検出結果を、より確実に受信することができる。
【0103】
前記制御部は、前記RFIDリーダ側アンテナで前記RFIDタグ10が発信する前記検出結果を受信できない場合、出力する電波のレベルを上昇させてもよい。電波レベルの上昇により、RFIDリーダ11からRFIDタグ10に供給する電力が増大すると、RFIDタグ10がRFIDリーダ11に向けて発信する電波のレベルも上昇する。これにより、RFIDリーダ11はより確実にRFIDタグ10からの電波を受信できる。
【0104】
前記検出結果は、前記第1検出端子21と前記第2検出端子22の間が導通しているときに検出されるクローズ信号、又は、導通していないときに検出されるオープン信号であり、前記制御部は、受信した前記オープン信号及び前記クローズ信号の順序及び数に基づき、導通の有無を判定してもよい。
【0105】
検出結果には、実際の導通状況とは異なる結果を示すエラーが含まれることがある。RFIDリーダ11が受信したオープン信号及びクローズ信号の順序及び数に基づいて導通の有無を判定することにより、エラーの影響を除外して、導通の有無をより正確に判定できる。
【0106】
前記制御部は、前記クローズ信号を複数回受信する前に、前記オープン信号を1回以上受信した場合は、前記第1検出端子21と、前記第2検出端子22とが導通していないと判定し、前記オープン信号を1回以上受信する前に、前記クローズ信号を複数回受信した場合は、前記第1検出端子21と、前記第2検出端子22とが導通していると判定してもよい。
【0107】
このようにすると、少なくとも最初に検出されるクローズ信号は導通の有無の判断には用いられないため、最初のクローズ信号がエラーであったとしても、判定結果に与える影響を除外することができる。2度目以降のクローズ信号により、正確な判定をすることができる。
【0108】
RFIDタグ10の一実施形態では、RFIDタグ10は、タンパー(tamper)機能を有するICチップをセラミック製のタグに乗せてあり、卑金属2からなる金属材料が剥離や消耗した際にRFIDリーダ11の要求に応じてフラグ信号を発するものである。ここで、タンパー機能は、RFIDタグ10などを不正に開けられた際にタグに繋がれたリード線27の断線を検知してフラグを立てる機能である。タンパー機能は断線検知のために開発されたものであり、前記リード線27を金属同士に繋いだ場合は金属に静電容量があるため誤動作してしまうが、統計処理により静電容量の影響を受けないようにプログラムによるフィルターをかけてある。また、RFIDタグ10は温度変化に強いセラミックで構成されており、室外の気温変化の影響を受けず長寿命(20年以上)を維持できる工夫がなされている。また、RFIDタグ10は金属によって電波が外乱を受け、読み取りができないか又は距離が短くなる傾向にあるが、外乱を受けない工夫もなされており、外装材に覆われた状態でも4m以上10m以下程度の読み取り距離を持っている。特に、卑金属2からなる金属材料の副生成物である水酸化物、例えばマグネシウムの副生成物である水酸化マグネシウムは絶縁物であるため、卑金属2全体が消耗し卑金属2から卑金属2の水酸化物、例えば水酸化マグネシウムに置き換わった段階で、外装材に覆われたままRFIDリーダ11での消耗状態の瞬時遠隔読み取りが可能となる。このRFIDタグ10の採用により近距離で外装材をはがすことなく遠隔から内部の消耗状況を把握でき、外観上は確認が不可能な環境の違いによる消耗の遅速を把握できるため、その弊害を気にすることなく運用が可能となる。なお、RFIDタグ10は電源を使わないパッシブ型であり途中の電池交換などの手間はいらない。
【0109】
図27~29及び前記RFIDタグについての説明は、特願2021-176544号から抜粋されたものである。
【0110】
犠牲防食は防食対象である鋼材などに対して卑金属からなる金属材料の消耗により防食機能を発現する手法である。したがって、卑金属からなる金属材料が減耗し切ると防食能が消失する。また、卑金属からなる金属材料と防食対象である鋼材などを電気的に接合する導電性接着剤などが剥離すると防食能が消失する。
【0111】
この際に、卑金属からなる金属材料に由来する水酸化物(卑金属としてマグネシウム合金を用いる場合は、水酸化マグネシウム)などの付着などによる隙間部の不動態皮膜の防食効果を期待できるが、その効果についても凍結防止剤の塩などによる塩化物イオンが流入することで破壊されることとなり、その後は以前と同様に腐食が進んでいく可能性が高い。
【0112】
このため、卑金属からなる金属材料の消耗や剥離のモニタリングは防食システムの維持に重要である。また、本発明の技術適用領域は橋梁やプラント設備の防食であり、長期間にわたるモニタリングが必要であるため、電源を用いない方法が好ましい。
【0113】
したがって、本発明の防食システムが電源を用いないパッシブ型RFIDタグを備えることにより、本発明の防食システムを防食モニタリングシステムとして利用できる。
【0114】
本発明の防食システム又は防食モニタリングシステムでは、含水流体は、乾燥していてもよい。
【0115】
含水流体が乾燥すると、含水流体中に含まれている微細セルロース繊維に基づく被膜が形成され、当該被膜が酸素ガスバリア効果を発揮し、鋼材の入口部と隙間部の酸素濃度差を低減でき、鋼材の腐食を抑制することができる。
【0116】
本発明は、前記において説明した鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムに使用するための含水流体にも関する。
【0117】
本発明の含水流体は、水と、微細セルロース繊維と、電解質とを含み、含水流体に含まれる材料は、前記で説明した通りである。
【0118】
本発明の含水流体の各材料の含有量及び固形分は、前記で説明した通りである。
【0119】
本発明の含水流体の粘度は、流動性を有していれば限定されない。本発明の含水流体の粘度は、自由に調整することができるが、含水流体を使用する条件下、例えば、大気圧中、通常-10℃以上65℃以下、例えば0℃以上60℃以下の温度で、通常1mPa・s以上100,000mPa・s以下、好ましくは10mPa・s以上10,000mPa・s以下である。本発明の含水流体は、ゲル状であることが好ましい。
【0120】
本発明の含水流体は、犠牲防食システムの防食電流を伝搬させ、防食電流が伝搬した領域の防食を行う役割を有する。また、本発明の含水流体は、電解質をさらに含むことにより、防食電流を効果的に伝搬させることができる。本発明の含水流体により、紙シートなどを用いた含水シートと比較して、複雑な形状部や隙間部に犠牲防食システムを適用する事が可能となる。
【0121】
本発明の含水流体が前記の通り構成されることにより、含水流体が鋼材の隙間部に容易に浸入することができ、本発明の鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムを構築することができる。
【0122】
本発明は、前記において説明した鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムに使用するための含水流体の乾燥体にも関する。
【0123】
本発明の含水流体の乾燥体は、本発明の含水流体が乾燥したものであり、微細セルロース繊維と、電解質とを含む。本発明の含水流体の乾燥体は、電解質などの乾燥時に揮発しない成分を含む乾燥組成物である。本発明の含水流体の乾燥体は、微細セルロース繊維により形成された被膜であり、酸素ガスバリア効果を発揮し、鋼材の腐食を抑制するためのものであり、例えば、含水流体が到達し得る複雑形状の被防食材である鋼材の隙間部にも存在することができる。
【0124】
本発明の含水流体の乾燥体の厚さは、限定されない。本発明の含水流体の乾燥体の厚さは、通常1μm以上50mm以下、好ましくは5μm以上10mm以下である。
【0125】
本発明の含水流体の乾燥体の厚さが前記範囲であることにより、十分な酸素ガスバリア効果を発揮し、鋼材の腐食を抑制することができる。
【0126】
本発明は、前記において説明した鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムを構築する方法にも関する。
【0127】
本発明の方法は、鋼材と当該鋼材よりも自然電位が低い卑金属とを電気的に導通する形で接合し、含水流体を、鋼材表面及び卑金属表面に接するように、且つ卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給できるように配置する工程を含む。
【0128】
含水流体を配置する方法は、限定されない。含水流体は、鋼材の隙間部に満遍なく行き渡るように導入されることが好ましい。含水流体は、例えばコーキング注入器、コーキングガン又はシリンジなどによる注入を、常圧、低圧、高圧、又は任意の圧力条件下で、さらに水分が液状である任意の温度域内で、導入することができる。
【0129】
本発明の方法では、鋼材においてさびが存在していてもよく、鋼材にさびが存在していても、当該さびを除去する必要はない。
【0130】
本発明の方法は、さびが存在しているような鋼材、例えば添接板においても、当該添接板を分解せずに行うことができる。これは、本発明の方法では、含水流体が鋼材の隙間部に容易に浸入することで、卑金属表面から生じる卑金属イオンを鋼材表面に供給でき、鋼材の表面電位を防食電位にして、鋼材の防食システム又は防食モニタリングシステムを構築できるためである。したがって、本願発明を、さびを有する鋼材に使用することによって、さびのさらなる拡大を抑制することができる。したがって、本発明の防食システム又は防食モニタリングシステムは、例えば、大気圧中、通常-10℃以上65℃以下、例えば0℃以上60℃以下の温度において、日照や風雨に晒されるような環境下に存在する鋼材においても、さらなるさびによる腐食を防止し、鋼材の寿命を長くすることができる。
【0131】
【0132】
図2に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い卑金属2、及び微細セルロース繊維を含む含水流体3を含む。鋼材1には、既存のさび層S’が形成されている。鋼材1と卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び卑金属2の周りにおいて、鋼材1表面及び卑金属2表面に接しており、且つ
図2中の矢印により示されるように卑金属2表面から生じる卑金属イオンを鋼材1表面に供給するよう配置されている。
【0133】
なお、含水流体3が微細セルロース繊維を含まない場合、
図3に示すように、含水流体3は、鋼材1表面及び卑金属2表面それぞれに接しているものの、
図3中の矢印により示されるように卑金属2表面から生じる卑金属イオンを鋼材1表面に供給するよう配置されないような態様を示す可能性がある。この場合には、鋼材1と卑金属2との間に電流を流すことができず、その結果、防食効果を示すことができず、さびSが形成してしまう。したがって、含水流体3に含まれる微細セルロース繊維は、鋼材1の表面を適度に湿潤させて卑金属2表面から生じる卑金属イオンを鋼材1表面にスムーズに供給できるように卑金属2表面と鋼材1表面とを途絶することなく接続する役目を有する。
【0134】
【0135】
図4に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い2つの卑金属2、及び微細セルロース繊維を含む含水流体3を含む。鋼材1には、既存のさび層S’が形成されている。鋼材1と卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び2つの卑金属2の周りにおいて、鋼材1表面及び2つの卑金属2表面に接しており且つ2つの卑金属2表面から生じる卑金属イオンをそれぞれの卑金属が接合されている上部及び下部の鋼材1表面に供給するよう配置されている。なお、含水流体3に含まれる微細セルロース繊維は、大気中の酸素を遮断する酸素ガスバリア機能を有する。
【0136】
【0137】
図5に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い2つの卑金属2、微細セルロース繊維を含む含水流体3、及び外装材5を含む。鋼材1には、既存のさび層S’が形成されている。鋼材1と卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び2つの卑金属2の周りにおいて、鋼材1表面及び2つの卑金属2表面に接しており且つ2つの卑金属2表面から生じる卑金属イオンをそれぞれの卑金属が接合されている上部及び下部の鋼材1表面に供給するよう配置されている。外装材5は、2つの卑金属2及び含水流体3を覆うように鋼材1表面に張設されている。なお、外装材5は、含水流体3に含まれる微細セルロース繊維同様に、大気中の酸素を遮断する酸素ガスバリア機能を有し、また、内側の水分を閉じ込める役割も有する。
【0138】
【0139】
図6に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1上に接合された鋼材1よりも自然電位が低い3つの卑金属2、鋼材1のボルト貫通穴に埋め込まれたアンカーボルト28、アンカーボルト28に締結されたナット部分29、ナット部分29の側面を取り囲む卑金属2、ナット部分29の下部、すなわちナット部分29と鋼材1との間に設置されたワッシャー31、微細セルロース繊維を含む含水流体3、及び外装材5を含む。鋼材1と鋼材1上に接合された3つの卑金属2及びナット部分29とナット部分29の側面を取り囲む卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び表面(周り)、鋼材1上に接合された3つの卑金属2の表面、アンカーボルト28の表面、ナット部分29及びワッシャー31の表面、ナット部分29の側面を取り囲む卑金属2の表面、アンカーボルト28とナット部分29との間に形成され得る微小隙間30、ナット部分29及びワッシャー31と鋼材1との間に形成され得る微小隙間30、並びに鋼材1とアンカーボルト28の間に形成され得る微小隙間30に途切れることなく接しており、且つ鋼材1上に接合された3つの卑金属2及びナット部分29の側面を取り囲む卑金属2の表面から生じる卑金属イオンを、鋼材1表面、ナット部分29及びワッシャー31の表面、及びアンカーボルト28表面に供給するよう配置されている。外装材5は、鋼材1上に接合された3つの卑金属2、アンカーボルト28、ナット部分29及びワッシャー31、ナット部分29の側面を取り囲む卑金属2、並びに含水流体3を覆うように鋼材1表面に張設されている。なお、
図6では、微小隙間30を便宜上目に見えるように記載しているが、微小隙間30は、通常目に見えるほどの隙間ではなく、含水流体3が通過し得る程度の隙間であり、施工上不可避的に形成され得る微小な隙間を意味する。ここで、含水流体3は、鋼材1(特に、ベースプレート)、特に鋼材1の下部とアンカーボルト28との密着性のためにそれらの境界部で封水となり、本発明の防食システムから排出されることはない。さらに、微小隙間30の含水流体を確実にアンカーボルト28の下部の表面に伝達するためにナット部分29の下部に設置されたワッシャー31にその機能に影響しない程度の切り込みを入れることでさらに確実に含水流体3の連続性を保つこともできる。また、
図6の下方部分(すなわち、アンカーボルト28により鋼材1の下部と接合されることになり得る部材、例えばモルタル)は、省略されている。さらに、外装材5は、含水流体3に含まれる微細セルロース繊維同様に、大気中の酸素を遮断する酸素ガスバリア機能をし、また、内側の水分を閉じ込める役割も有する。
【0140】
図7に、
図6に示す本発明の一実施形態の防食システムの外装材の内部の状態を模式的に示す。
図7は、防食システム内に外部から水分Wが浸入してきたとしても、その水分Wを防食システム内部に閉じ込めて、防食回路を維持することができる様子を示す。
【0141】
【0142】
図8に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い2つの卑金属2、及び微細セルロース繊維を含む含水流体3を含む。鋼材1と卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び2つの卑金属2の周りだけでなく鋼材1の周りにおいて、鋼材1表面及び2つの卑金属2表面に接しており且つ2つの卑金属2表面から生じる卑金属イオンをそれぞれの卑金属が接合されている上部及び下部の鋼材1表面に供給するよう配置されている。
【0143】
【0144】
図9に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い2つの卑金属2、微細セルロース繊維を含む含水流体3、及び繊維6を含む。鋼材1と2つの卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び2つの卑金属2の周りだけでなく鋼材1の周りにおいて、鋼材1表面及び2つの卑金属2表面に接しており且つ2つの卑金属2表面から生じる卑金属イオンをそれぞれの卑金属が接合されている上部及び下部の鋼材1表面に供給するよう配置されている。繊維6は、鋼材1の隙間部に差し込むように配置されている。繊維6を鋼材1の隙間部に差し込むことにより、
図3のような含水流体3の途絶を防ぐことができる。
【0145】
【0146】
図10に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い2つの卑金属2、微細セルロース繊維を含む含水流体3、及び2つの繊維6を含む。鋼材1と卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び2つの卑金属2の周りだけでなく鋼材1の周りにおいて、鋼材1表面及び2つの卑金属2表面に接しており且つ2つの卑金属2表面から生じる卑金属イオンをそれぞれの卑金属が接合されている上部及び下部の鋼材1表面に供給するよう配置されている。2つの繊維6のうちの1つの繊維6は、鋼材1の隙間部に差し込むように配置されている。2つの繊維6を用いることにより、
図3のような含水流体3の途絶をより防ぐことができる。
【0147】
【0148】
図11に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い2つの卑金属2、微細セルロース繊維を含む含水流体3、2つの繊維6、及び吸水蒸発紙7を含む。鋼材1と卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び2つの卑金属2の周りだけでなく鋼材1の周りにおいて、鋼材1表面及び2つの卑金属2表面に接しており且つ2つの卑金属2表面から生じる卑金属イオンをそれぞれの卑金属が接合されている上部及び下部の鋼材1表面に供給するよう配置されている。2つの繊維6のうちの1つの繊維6は、鋼材1の隙間部に差し込むように配置されている。吸水蒸発紙7は、鋼材1と卑金属2の間の繊維6の上に配置されている。吸水蒸発紙7の配置により、含水流体3の乾燥に伴う剥がれを防止することができる。
【0149】
【0150】
図12に示す本発明の一実施形態の防食システムは、鋼材1、鋼材1よりも自然電位が低い2つの卑金属2、微細セルロース繊維を含む含水流体3、2つの繊維6、及び吸水蒸発紙7を含む。鋼材1と卑金属2とは、電気的に導通する形(導電性接着剤4)で接合されている。含水流体3は、鋼材1の隙間部及び2つの卑金属2の周りだけでなく鋼材1の周り、さらには2つの繊維6の上において、鋼材1表面及び2つの卑金属2表面に接しており且つ2つの卑金属2表面から生じる卑金属イオンをそれぞれの卑金属が接合されている上部及び下部の鋼材1表面に供給するよう配置されている。2つの繊維6のうちの1つの繊維6は、鋼材1の隙間部に差し込むように配置されている。吸水蒸発紙7が鋼材1と卑金属2の間の繊維6の上に配置され、さらに、含水流体3が吸水蒸発紙7を覆うように配置されることで、含水流体3の乾燥に伴う剥がれをより防止することができる。
【実施例0151】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0152】
<微細セルロース繊維としての高置換度の硫酸エステル化CNF(セルロースナノファイバー)作製方法>
ジメチルスルホキシド(DMSO)90g、無水酢酸10g(解繊溶液における濃度:9.8質量%)及び硫酸2.0g(解繊溶液における濃度:2.0質量%)を300mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0153】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)3.0gを加え、23℃の室温下でさらに2時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を150ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0154】
さらに蒸留水1350mlを加えて均一分散するまで攪拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離による洗浄後に蒸留水を加え、全体の重さが300gになるまで希釈した。
【0155】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。
【0156】
硫酸エステル化CNFの水分散液を23℃の室温下で24時間乾燥させ、固体状の硫酸エステル化CNFを得た。赤外分光装置(Nicolet iS 5N FT-IR、サーモフィッシャーサイエンス社製)及び有機元素分析装置(EA-3100、JASCO製)を用いて硫酸エステル基を定量したところ、セルロースのグルコース単位当たりの硫酸エステル基置換度は3.5mmol/gであった。
【0157】
<微細セルロース繊維としての低置換度の硫酸エステル化CNF(セルロースナノファイバー)作製方法>
ジメチルスルホキシド(DMSO)90g、無水酢酸10g(解繊溶液における濃度:9.9質量%)及び硫酸1.0g(解繊溶液における濃度:1.0質量%)を300mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0158】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)3.0gを加え、23℃の室温下でさらに2時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を150ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0159】
さらに蒸留水1350mlを加えて均一分散するまで攪拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離による洗浄後に蒸留水を加え、全体の重さが300gになるまで希釈した。
【0160】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。
【0161】
硫酸エステル化CNFの水分散液を23℃の室温下で24時間乾燥させ、固体状の硫酸エステル化CNFを得た。赤外分光装置(Nicolet iS 5N FT-IR、サーモフィッシャーサイエンス社製)及び有機元素分析装置(EA-3100、JASCO製)を用いて硫酸エステル基を定量したところ、セルロースのグルコース単位当たりの硫酸エステル基置換度は1.6mmol/gであった。
【0162】
<鋼-マグネシウム試験体の作製方法>
図13に示すように、鋼板1に導電性接着剤(SX-ECA-48、セメダイン製)4を1g塗布し、卑金属2としてのマグネシウム合金板(AZ91)を貼り付け、オーブンで80℃、1時間加熱し接着剤を硬化させ、室温まで冷却した。続いて、電位測定のための孔8を有する鋼板1を支柱9に立て掛けることで隙間部及び支柱部を複雑形状とした鋼-マグネシウム試験体を得た。本試験体は、すき間部や複雑形状部を再現し同時に試験できるものとなっていた。
【0163】
<鋼-亜鉛試験体の作製方法>
図13に示すように、鋼板1に導電性接着剤(SX-ECA-48、セメダイン製)4を1g塗布し、卑金属2としての亜鉛板(亜鉛純度99%以上)を貼り付け、オーブンで80℃、1時間加熱し接着剤を硬化させ、室温まで冷却した。続いて、電位測定のための孔8を有する鋼板1を支柱に立て掛けることで隙間部及び支柱部を複雑形状とした鋼-亜鉛試験体を得た。本試験体は、すき間部や複雑形状部を再現し同時に試験できるものとなっていた。
【0164】
<微細セルロース繊維を含む組成物の作製方法、及び評価試験方法>
[実施例1]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液100gに対し食塩0.12gを加え、完全に溶解させた後に機械解繊セルロースナノファイバーBiNFIs(固形分濃度10質量%、スギノマシン製)24.88gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.1を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.1を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0165】
[実施例2]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液100gに対し食塩0.15gを加え、完全に溶解させた後に機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)49.85gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.2を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.2を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0166】
[実施例3]
1質量%濃度のTEMPO酸化CNF水分散液(日本製紙製)100gに対し食塩0.15gを加え、完全に溶解させた後に機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)49.85gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.3を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.3を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0167】
[実施例4]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液100gに対し食塩0.15gを加え、完全に溶解させた後に機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)49.85gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.4を得た。
図13に示す構造を有する鋼-亜鉛試験体に試料No.4を20g塗布し、防食電位、亜鉛の損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0168】
[実施例5]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液50gに対し純水50gを添加し0.5質量%濃度の硫酸エステル化CNF分散液100gを得た。さらに食塩0.15gを加え、完全に溶解させた後に機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)49.85gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.5を得た。
図13に示す構造を有する鋼-亜鉛試験体に試料No.5を20g塗布し、防食電位、亜鉛の損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0169】
[実施例6]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液95gに対し塩化ナトリウム5gを加え完全に溶解させた後、機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)50gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.6を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.6を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0170】
[実施例7]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液95gに対し亜硫酸ナトリウム(和光純薬製)5gを加え完全に溶解させた後、さらに機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)50gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.7を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.7を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0171】
[実施例8]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液85gに対し亜硫酸ナトリウム(和光純薬製)15gを加え完全に溶解させた後、さらに機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)50gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.8を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.8を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0172】
[実施例9]
低置換度(1.6mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液85gに対し亜硫酸ナトリウム(和光純薬製)15gを加え完全に溶解させた後、さらに機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)50gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.9を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.9を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0173】
[実施例10]
図14に示すように、実施例8で得た試料No.8を
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に10g塗布した後、繊維6としての滅菌ガーゼ(スズラン株式会社製、12PLY)を、塗布した試料No.8のうち天面が露出する部分と、底部鋼板及びマグネシウム合金の界面とを覆うように被せ、さらに滅菌ガーゼの上に試料No.8を10g塗布した。その後防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0174】
[実施例11]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液95gに対しイオン液体としてEMI-TFSI(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)(Merck製)5gを加え完全に溶解させた後、さらに機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)50gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.10を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.10を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0175】
[実施例12]
高置換度(3.5mmol/g)の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを1質量%濃度で含む水分散液85gに対し亜硫酸ナトリウム(和光純薬製)7.5gを加え完全に溶解させた後、さらに機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)50g、エチレングリコール7.5gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.11を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.11を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0176】
[比較例1]
純水100gに機械解繊セルロースナノファイバーBiNFis(WFo-10010、固形分濃度10質量%、スギノマシン製)50gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.12を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.12を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0177】
[比較例2]
純水100gに吸水ポリマー(ポリアクリル酸ナトリウム、市販品)3.5g、食塩0.1gを加え、遊星式撹拌装置で5分間混錬することで試料No.13を得た。
図13に示す構造を有する鋼-マグネシウム試験体に試料No.13を20g塗布し、防食電位、マグネシウムの損耗、乾燥-加水繰り返し後の防食電位を測定した。
【0178】
[実施例1]~[実施例12]及び[比較例1]~[比較例2]の評価結果を表1に示す。
【0179】
表1中の評価について、正極を卑金属板に接続し、負極は飽和硫酸銅電極を介して鋼板の孔から試料に接続し、電位差を測定することで防食が成り立っているかどうかを評価した。初期防食電位については-1000mVvs.CSE以下を〇とし、-1000mVvs.CSE超-100mVvs.CSE未満を△とし、-100mVvs.CSE以上を×とした。
【0180】
絶乾/加水後の防食電位再現について、初期防食電位と同様に接続して電位差を測定し、-1000mVvs.CSE以下を〇とし、-1000mVvs.CSE超-100mVvs.CSE未満を△とし、-100mVvs.CSE以上を×とした。さらに、試料が各試験体から全く剥離していないとき、すなわち電気回路の遮断が全くないとき、◎とした。なお、絶乾処理後も実施例11の試料ではイオン液体が、実施例12ではエチレングリコールが液状のまま残ったが、そのまま評価を実施した。
【0181】
最後に卑金属減耗抑止の評価方法として、試料を塗布してから24時間後の単位面積当たりの卑金属の質量減少度を測定し、質量減少が0.1%未満であったとき〇を、1%未満であったとき△を示した。
【0182】
【0183】
なお、実施例10において、(i)滅菌ガーゼのいずれかの片面のみに試料No.8を配置した実験、及び(ii)滅菌ガーゼをポリエステルネットに変更した実験を行ったところ、(i)及び(ii)のいずれにおいても、剥離及び割れの発生を抑制する効果が表れたが、実施例10が一番優れた効果を有していた。
【0184】
<RFIDモニタリング用試験体の作製方法>
図15に示すように、鋼板1に導電性接着剤(SX-ECA-48、セメダイン製)4を1g塗布し、導電ワイヤーが鋼板1と接触しないように底部を筋状にくりぬいた溝に貫通孔を2つ設け導電ワイヤーを貫通孔に通し結索した卑金属2としてのマグネシウム合金板(AZ91)(
図16)を貼り付け、室温にて接着剤4を硬化させた。続いて底部の鋼板1に導電ワイヤーを固定テープ(カプトンテープ)を用いて固定した。続いて導電ワイヤーをRFIDタグ(株式会社イーガルド製)10に結合させた。
【0185】
なお、RFIDモニタリング用試験体としては、卑金属2として、未腐食のマグネシウム合金板(
図15のA)、途中まで腐食させたマグネシウム合金板(
図15のB)、及び完全に腐食したマグネシウム合金板(
図15のC)の3種類(途中腐食及び完全腐食のRFIDモニタリング用試験体は、下記の通り調製)を上記の方法で導電性接着剤4にて鋼板1に接着させたもの、さらに導電性接着剤を用いず鋼板の上にマグネシウム合金板を静置しただけのもの(
図15のD)の計4つを用意した。
【0186】
・マグネシウム合金板の腐食処理
マグネシウム合金板を鋼板に金属間の導通が生じるようにクリップで固定し、5質量%塩水の環境下、24時間及び96時間浸漬放置することで腐食処理し、途中腐食(
図15のB)及び完全腐食(
図15のC)のRFIDモニタリング用試験体を得た。
【0187】
・RFIDモニタリング
腐食処理未実施の状態の卑金属2としてのマグネシウム合金板を導電性接着剤4で鋼板1に接着したRFIDモニタリング用試験体(
図15のA)の状態をRFIDリーダ(株式会社デンソーウェーブ製)11により読み取ることでRFIDモニタリング評価を行った。その結果、RFIDモニタリング用試験体(
図15のA)は、「導通状態」と判定された。したがって、RFIDモニタリング用試験体(
図15のA)では、卑金属2のマグネシウム合金が脱落又は全消耗しておらず、防食機能に寄与していることが確認された。
【0188】
続けて、腐食処理24時間後のRFIDモニタリング用試験体(
図15のB)の状態をRFIDリーダ(株式会社デンソーウェーブ製)11により読み取ることでRFIDモニタリング評価を行った。その結果、RFIDモニタリング用試験体(
図15のA)は、「導通状態」と判定された。
【0189】
導通状態となったRFIDモニタリング用試験体(
図15のB)の鋼板1を確認したところ、卑金属2のマグネシウム合金の脱落は認められず、減耗もわずかであった。
【0190】
一方で、腐食処理96時間後のRFIDモニタリング用試験体(
図15のC)の状態をRFIDリーダ(株式会社デンソーウェーブ製)11により読み取ることでRFIDモニタリング評価を行った。その結果、RFIDモニタリング用試験体(
図15のC)は、「導通なし状態」と判定された。導通なし状態となったRFIDモニタリング用試験体(
図15のC)の鋼板1を確認したところ、卑金属2としてのマグネシウム合金の減耗が激しく、犠牲防食機能を十分に発揮できない状態になっていることが確認された。
【0191】
なお、卑金属2としてのマグネシウム合金板を静置しただけのRFIDモニタリング用試験体(
図15のD)の状態をRFIDリーダ(株式会社デンソーウェーブ製)11により読み取ることでRFIDモニタリング評価を行ったところ、「導通なし状態」と判定された。これにより、鋼板1と卑金属2としてのマグネシウム合金とが剥離した状態においても犠牲防食機能を十分に発揮できない状態になっていることが確認された。
【0192】
<腐食確認実験>
本実験では、防食に伴う電流の大きさと方向(電極に対しての電流の出入の方向)を実際に計測することで腐食部分と防食部分の平面的な分布を経時的に把握する方法を採用した(一般的にはカップリング電流法と呼ばれる)。
【0193】
試験体は、
図17~20に記載されるように構成した。まず、絶縁体である樹脂12に電極となる鋼材1を複数個貫通させ、CH1及びCH2を外面に突出させた(
図17及び18)。続いて、CH3以降の外周において、1mm厚さのプラスチックテープ13を、3方向を囲む(CH3以降のCHを囲む)ように設置した(
図19)。その後、プラスチックテープ13の上にアクリル板14を設置して、アクリル板14の四角を万力で締め付けて、隙間部を再現した(
図20)。次に、CH1及びCH2の電極部に導電性接着剤を用いてマグネシウム合金2(12mm×15mm×2mm)を接着し(
図20)、その上面から隙間部の内部に至るまで試料No.8の含水流体を塗布した。このように構成させた試験体において、CH1及びCH2に接着したマグネシウム合金2により隙間部の内部の電極表面(鋼材1)を防食させる際の電流の大きさと方向を、各CHの電極部をリード線で32CHデータロガー15に繋ぎ込むと同時に短絡させ(短絡することで防食が可能となる)(
図21)、10秒単位で各電極をスキャンすることで測定した。
図22に腐食確認実験の様子を撮影した写真を示す。
【0194】
図23に試験体で防食システムを適用した場合の鋼材及びマグネシウム合金の電流値の測定結果を示す。マグネシウム合金は防食を行うことにより腐食していく(負(-)の電流値:腐食電流)。鋼材では電荷保存の法則に従いマグネシウム合金とは反対方向の同じ大きさの電流値が計測される(正(+)の電流値:防食電流)。測定当初は含水流体に含まれる多量の酸素が防食に伴って隙間部の内部で消費されるため、電流値は減衰を続けるが、隙間部の内部の酸素が消費され尽くすと電流値は0付近で落ち着くことになる。途中で注水を行った場合、注水した水の中に初期の含水流体ほどの酸素は含まれないため、上昇電流値も少なく、電流値は早期に0付近まで到達する。このことは、マグネシウム合金が早期に消耗してしまうのではなく比較的長寿命で維持できることを示唆している。当該腐食確認実験の場合、マグネシウム合金の寿命は、電流値から計算すると50年以上の寿命という結果となった。
【0195】
続いて、電解質としての亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)の効果を確認するために、前記腐食確認試験において、含水流体から電解質としての亜硫酸ナトリウムを除いた以外、前記腐食確認試験と同様にした実験を行った。
【0196】
図24に結果を示す。
図24における鋼材+Na
2SO
3及びMg合金+Na
2SO
3のグラフは、
図23のグラフの再掲である。
図24より、亜硫酸ナトリウムを含まない含水流体の場合、電流値は、初期及び注水時共に大きい値となり、また、初期電流値からの減衰速度も緩やかであり、したがって、マグネシウム合金の寿命が短くなることがわかった。
【0197】
図25に、0.1質量%の塩水を隙間部に注入して1週間経過した状況下における、本発明の防食システムを適用した場合と適用しない場合の隙間部の内部の腐食状況の違いを写真で示す。
【0198】
図25より、本発明の防食システムにより、隙間部の内部を有効に防食できることがわかった。
【0199】
図26に、本発明の防食システムを使用しない場合の鋼材の経過時間に対する電流値の変化を示すグラフを示す。
【0200】
図26より、本発明の防食システムを使用しない場合、本発明の防食システムを使用した場合のように電流値が収束することがなく、したがって、水分が蒸発しない限り鋼材の腐食が継続されることがわかった。