(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133926
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】異常判定装置、異常判定システム、異常判定方法、及び異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20240926BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20240926BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240926BHJP
【FI】
F03D17/00
G01H3/00 A
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043953
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 靖弘
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
3H178
【Fターム(参考)】
2G024AD23
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA03
2G064BA08
2G064CC43
2G064CC46
2G064DD08
2G064DD15
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB56
3H178CC02
3H178DD12Z
3H178DD51X
3H178DD52X
3H178EE05
3H178EE25
(57)【要約】
【課題】風車ブレードの異常の有無を精度良く判定すること。
【解決手段】異常判定装置6は、風車ブレードの異常の有無を判定するプロセッサ63を備える。プロセッサ63は、音声を収音する複数のマイクロフォンを含む収音装置2にて収音された音声情報を取得し、風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得し、特定情報に基づいて、風車ブレードの位置を算出し、音声情報に基づいて、風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出し、対応音声情報に基づいて、風車ブレードの異常の有無を判定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車ブレードの異常の有無を判定するプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
音声を収音する複数のマイクロフォンを含む収音装置にて収音された音声情報を取得する音声情報取得部と、
前記風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得する特定情報取得部と、
前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出する位置算出部と、
前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出する対応音声情報算出部と、
前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定する異常判定部とを備える異常判定装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記風車ブレードの回転速度を示す回転速度情報を取得する回転速度情報取得部をさらに備え、
前記音声情報取得部は、
前記回転速度情報に基づく前記回転速度が特定の範囲内である場合に、前記音声情報の取得を開始する請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
音声を収音する複数のマイクロフォンを含む収音装置と、
風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得する特定情報取得装置と、
前記風車ブレードの異常の有無を判定するプロセッサを有する異常判定装置とを備え、
前記プロセッサは、
前記収音装置にて収音された音声情報を取得する音声情報取得部と、
前記特定情報取得装置から前記特定情報を取得する特定情報取得部と、
前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出する位置算出部と、
前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出する対応音声情報算出部と、
前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定する異常判定部とを備える異常判定システム。
【請求項4】
前記特定情報取得装置は、
前記風車ブレードの位置を光学的に計測する光学センサを含む請求項3に記載の異常判定システム。
【請求項5】
前記特定情報取得装置は、
前記風車ブレードを含む風力発電設備の稼働情報を収集するSCADAを含む請求項3に記載の異常判定システム。
【請求項6】
異常判定装置のプロセッサが実行する異常判定方法であって、
複数のマイクロフォンを含む収音装置にて収音された音声情報を取得するステップと、
風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得するステップと、
前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出するステップと、
前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出するステップと、
前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定するステップとを含む異常判定方法。
【請求項7】
複数のマイクロフォンを含む収音装置にて収音された音声情報を取得するステップと、
風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得するステップと、
前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出するステップと、
前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出するステップと、
前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定するステップとをコンピュータに実行させるための異常判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定装置、異常判定システム、異常判定方法、及び異常判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風力発電設備における風車ブレードの異常の有無を判定する異常判定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の異常判定装置は、風車ブレードの下方にて音響信号を収音する。また、当該異常判定装置は、収音した音響信号を周波数軸及び時間軸にわたって解析する。そして、当該異常判定装置は、当該音響信号の解析結果中に、時間推移とともに先鋭度が高い周波数成分が推移するドップラーシフト成分の存在を検出することで、風車ブレードの異常を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の異常判定装置では、ドップラーシフト成分の存在を明確に検出するために、風車ブレードの移動範囲をカバーすることができるようにマイクロフォンを配置し、あるいは、当該風車ブレードの移動範囲をカバーすることができる指向性を有するマイクロフォンを選択している。このため、風車ブレードに由来しない音響信号が同時に収音されることが予想される。したがって、当該風車ブレードに由来しない音響信号によって、当該風車ブレードの異常の有無を精度良く判定することが難しい。
そこで、風車ブレードの異常の有無を精度良く判定することができる技術が要望されている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、風車ブレードの異常の有無を精度良く判定することができる異常判定装置、異常判定システム、異常判定方法、及び異常判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常判定装置は、風車ブレードの異常の有無を判定するプロセッサを備え、前記プロセッサは、複数のマイクロフォンを含む収音装置にて収音された音声情報を取得する音声情報取得部と、前記風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得する特定情報取得部と、前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出する位置算出部と、前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出する対応音声情報算出部と、前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定する異常判定部とを備える。
【0007】
また、本発明に係る異常判定装置では、上記発明において、前記プロセッサは、前記風車ブレードの回転速度を示す回転速度情報を取得する回転速度情報取得部をさらに備え、前記音声情報取得部は、前記回転速度情報に基づく前記回転速度が特定の範囲内である場合に、前記音声情報の取得を開始する。
【0008】
本発明に係る異常判定システムは、音を収音する複数のマイクロフォンを含む収音装置と、風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得する特定情報取得装置と、前記風車ブレードの異常の有無を判定するプロセッサを有する異常判定装置とを備え、前記プロセッサは、前記収音装置にて収音された音声情報を取得する音声情報取得部と、前記特定情報取得装置から前記特定情報を取得する特定情報取得部と、前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出する位置算出部と、前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出する対応音声情報算出部と、前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定する異常判定部とを備える。
【0009】
また、本発明に係る異常判定システムでは、上記発明において、前記特定情報取得装置は、前記風車ブレードの位置を光学的に計測する光学センサを含む。
【0010】
また、本発明に係る異常判定システムでは、上記発明において、前記特定情報取得装置は、前記風車ブレードを含む風力発電設備の稼働情報を収集するSCADAを含む。
【0011】
本発明に係る異常判定方法は、異常判定装置のプロセッサが実行する異常判定方法であって、複数のマイクロフォンを含む収音装置にて収音された音声情報を取得するステップと、風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得するステップと、前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出するステップと、前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出するステップと、前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定するステップとを含む。
【0012】
本発明に係る異常判定プログラムは、複数のマイクロフォンを含む収音装置にて収音された音声情報を取得するステップと、風車ブレードの位置を特定するための特定情報を取得するステップと、前記特定情報に基づいて、前記風車ブレードの位置を算出するステップと、前記音声情報に基づいて、前記風車ブレードの位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出するステップと、前記対応音声情報に基づいて、前記風車ブレードの異常の有無を判定するステップとをコンピュータに実行させるための異常判定プログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る異常判定装置、異常判定システム、異常判定方法、及び異常判定プログラムによれば、風車ブレードの異常を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る異常判定システムによる異常の有無の判定対象を示す図である。
【
図2】
図2は、風車ブレードの構成を説明する図である。
【
図3】
図3は、風車ブレードの構成を説明する図である。
【
図4】
図4は、異常判定システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、異常判定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態)について説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0016】
〔異常判定システムによる異常の有無の判定対象〕
図1は、実施の形態に係る異常判定システム1による異常の有無の判定対象を示す図である。なお、
図1では、鉛直軸をZ軸、当該Z軸に直交する2つの軸をそれぞれX軸及びY軸としている。
先ず、異常判定システム1の構成を説明する前に、当該異常判定システム1による異常の有無の判定対象について説明する。
図1には、風力発電設備100が示されている。この風力発電設備100は、主塔(タワー)101と、ナセル102と、ハブ103と、風車ブレード104とを備える。
【0017】
主塔101は、地表から上方に向けて延在する断面略円形状の柱状構造体である。
ナセル102は、Z軸を中心として回転可能(水平面内を回転可能)に主塔101の上部に取り付けられている。
【0018】
ハブ103は、水平面(XY平面)に沿って延在する主軸(図示略)を介して、ナセル102に軸支されている。
風車ブレード104は、複数設けられ、ハブ103から放射状にそれぞれ延在し、風を受け止める部分である。そして、風車ブレード104は、本実施の形態に係る異常判定システム1による異常の有無の判定対象となる。
なお、風車ブレード104の詳細な構成については、後述する「風車ブレードの構成」において説明する。
【0019】
そして、ナセル102内には、具体的な図示は省略したが、上述した主軸、当該主軸の回転数を発電機に必要な回転数まで増やす増速機、及び当該増速機によって増速された回転力を使って発電する発電機等が格納されている。当該発電機によって発電された電気は、主塔101内の導線を通して送電系統へと伝達される。
【0020】
〔風車ブレードの構成〕
図2及び
図3は、風車ブレード104の構成を説明する図である。具体的に、
図2は、風車ブレード104が風を受け止める側から見た図である。なお、風車ブレード104の
図2中、下端部は、ハブ103に接続する部分である。
図3は、
図2のIII-III線の断面図である。
風車ブレード104は、
図3に示すように、シェル105と、スパーキャップ106と、シェアウェブ107とにより構成されている。
【0021】
シェル105は、風車ブレード104表面の大部分を覆う形で配置され、当該風車ブレード104の外形を決めている。このシェル105には、ガラス繊維強化複合材料(以下、GFRPと記載)、炭素繊維強化複合材料(以下、CFRPと記載)、及びその両者を合わせたものが主に使用されている。
【0022】
スパーキャップ106及びシェアウェブ107は、風車ブレード104の長手方向(
図2中、上下方向、
図3中、紙面に直交する方向)の略全長に亘って配置されている。風車ブレード104の断面を見た時に長辺側(
図3中、左右方向)をエッジ方向と呼ぶのに対して短辺側(
図1中、上下方向)をフラップ方向と呼び、スパーキャップ106は、風車ブレード104のフラップ方向への強度と剛性を高める役割を持つ。一方、シェアウェブ107は、せん断荷重とフラップ方向への曲げ荷重を支持するように設定されている。このスパーキャップ106には、GFRP、CFRPが主に使用され、風車が大型化されるにつれて、剛性強度に優れるCFRPが用いられることが多くなってきている。
なお、シェル105内において、スパーキャップ106及びシェアウェブ107以外の部分は、人間が立って作業できる程度の空洞である。
【0023】
そして、風車ブレード104の異常としては、被雷による破損、シェル105の表面のエロ―ジョンやクラック、シェル105内の部材の劣化等を例示することができる。
【0024】
〔異常判定システムの構成〕
図4は、異常判定システム1の構成を示すブロック図である。
異常判定システム1は、風車ブレード104の異常の有無を判定するシステムである。この異常判定システム1は、
図4に示すように、収音装置2と、センサ装置3と、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)4と、表示装置5と、異常判定装置6とを備える。
【0025】
収音装置2は、音声を入力して電気信号に変換する複数のマイクロフォンを含み、当該各電気信号にA/D(Analog/Digital)変換等をそれぞれ行うことにより音声情報を生成する。この収音装置2としては、当該複数のマイクロフォンが直線状に並設された1次元のアレイマイクとして構成してもよく、当該複数のマイクロフォンが特定の平面内で2次元的に配列された2次元のアレイマイクとして構成してもよく、あるいは、当該複数のマイクロフォンが3次元的に配列された3次元のアレイマイクとして構成してもよい。また、当該複数のマイクロフォンの数としては、2つ以上であればよい。本実施の形態では、収音装置2は、風力発電設備100に近接した地表に配置されている(
図8~
図10参照)。なお、収音装置2の配設位置は、地表に限らず、その他の位置、例えば、主塔101の外面等としても構わない。
【0026】
そして、収音装置2は、異常判定装置6との間で通信可能に接続され、収音した音声情報を当該異常判定装置6に出力する。なお、収音装置2と異常判定装置6との間の通信は、無線通信でもよく、あるいは、有線通信でもよい。
【0027】
センサ装置3は、本発明に係る特定情報取得装置に相当する。このセンサ装置3は、風車ブレード104の位置を光学的に計測する光学センサ31を備える。本実施の形態では、光学センサ31は、具体的な図示は省略するが、光を出射する発光素子と、当該発光素子から出射され、計測対象にて反射された光を受光する受光素子とを備える。また、センサ装置3は、
図1に示すように、主塔101の外面に配設されている。
【0028】
このセンサ装置3は、異常判定装置6との間で通信可能に接続されている。そして、センサ装置3は、光学センサ31において、発光素子から出射され、風車ブレード104にて反射された光が受光素子にて受光された場合(風車ブレード104が主塔101に対向する位置に位置付けられている場合)に、当該受光したことを示す信号(以下、センサ信号と記載)を当該異常判定装置6に出力する。このセンサ信号は、風車ブレード104の位置を特定するための情報であり、本発明に係る特定情報に相当する。
【0029】
なお、センサ装置3と異常判定装置6との間の通信は、無線通信でもよく、あるいは、有線通信でもよい。また、センサ装置3は、主塔101に対するナセル102(ハブ103及び風車ブレード104を含む)のZ軸を中心とする回転に対応するために、
図1に示すように、主塔101の中心軸を中心とする周方向に沿って、複数、並設されている。
【0030】
SCADA4は、本発明に係る特定情報取得装置に相当する。このSCADA4は、風力発電設備100の運転制御を監視するために備えられている装置であり、当該風力発電設備100の稼働情報を収集する。当該稼働情報としては、ハブ103の回転速度(以下、風車ブレード104の回転速度と記載)を示す回転速度情報や、主塔101に対するナセル102の回転角度(風車の向き)を示す風車向き情報を例示することができる。
【0031】
このSCADA4は、異常判定装置6との間で通信可能に接続されている。すなわち、異常判定装置6は、SCADA4にて収集された稼働情報を読み込み(取得)可能とする。なお、SCADA4と異常判定装置6との間の通信は、無線通信でもよく、あるいは、有線通信でもよい。
【0032】
表示装置5は、液晶または有機EL(Electro Luminescence)等を用いた表示ディスプレイで構成され、異常判定装置6による制御の下、所定の画像を表示する。
【0033】
異常判定装置6は、収音装置2から出力される音声情報と、センサ装置3から出力されるセンサ信号と、SCADA4にて収集された稼働情報とに基づいて、風車ブレード104の異常の有無を判定する。この異常判定装置6は、
図4に示すように、入力部61と、記憶部62と、プロセッサ63とを備える。
【0034】
入力部61は、マウス、キーボード、及びタッチパネル等の操作デバイスを用いて構成され、ユーザ操作を受け付ける。そして、入力部61は、当該ユーザ操作に応じた操作信号をプロセッサ63に出力する。
【0035】
記憶部62は、プロセッサ63が実行する各種のプログラム(本発明に係る異常判定プログラムを含む)や、当該プロセッサ63が処理を行うときに必要なデータ等を記憶する。当該プロセッサ63が処理を行うときに必要なデータとしては、以下に示す第1~第10のデータを例示することができる。
【0036】
第1のデータは、風力発電設備100の設計値を示す第1の設計情報である。当該第1の設計情報としては、風力発電設備100の配置位置、風車ブレード104の寸法、及びハブ103を中心とする各風車ブレード104の配置角度等を例示することができる。
【0037】
第2のデータは、複数のセンサ装置3の各配設位置を示す配設位置情報である。
【0038】
第3のデータは、収音装置2の設計値を示す第2の設計情報である。当該第2の設計情報としては、収音装置2に含まれる各マイクロフォンの配置位置、及び当該収音装置2に含まれるマイクロフォン同士の離間距離を示す離間距離等を例示することができる。
【0039】
第4のデータは、音波の音速を示す音速情報である。
【0040】
第5のデータは、風車ブレード104の回転速度の特定の範囲を示す範囲情報である。当該特定の範囲としては、風車ブレード104の回転速度の平均的な値を中心値とする範囲を例示することができる。
【0041】
第6のデータは、風車ブレード104の異常の有無を判定する際の基準となる基準データである。当該基準データとしては、風力発電設備100の建設当初、あるいは、健全であることが確認されている状態で、かつ、風車ブレード104の回転速度が上述した範囲情報に基づく特定の範囲内にある状態で算出された対応音声情報をフーリエ変換した周波数スペクトルや、当該対応音声情報を時間周波数解析(短時間フーリエ変換またはウェーブレット変換等)したデータを例示することができる。
【0042】
第7のデータは、収音装置2から出力され、プロセッサ63にて取得された音声情報である。
【0043】
第8のデータは、センサ装置3から出力され、プロセッサ63にて取得されたセンサ信号である。
【0044】
第9のデータは、プロセッサ63にてSCADA4から取得した稼働情報である。
【0045】
第10のデータは、プロセッサ63にて算出された対応音声情報である。
【0046】
プロセッサ63は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等のコントローラによって、記憶部62に記憶された各種のプログラムが実行されることにより実現され、異常判定装置6全体の動作を制御する。なお、プロセッサ63は、CPUやMPUに限らず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって構成されても構わない。
【0047】
このプロセッサ63は、本発明に係る音声情報取得部、特定情報取得部、位置算出部、対応音声情報算出部、異常判定部、及び回転速度情報取得部としての機能を有する。
なお、プロセッサ63における音声情報取得部、特定情報取得部、位置算出部、対応音声情報算出部、異常判定部、及び回転速度情報取得部としての機能の詳細については、後述する「異常判定方法」において説明する。
【0048】
〔異常判定方法〕
次に、プロセッサ63が実行する異常判定方法について説明する。
図5は、異常判定方法を示すフローチャートである。
先ず、プロセッサ63は、SCADA4から風車ブレード104の回転速度を示す回転速度情報を取得する(ステップS1)。すなわち、プロセッサ63は、回転速度情報取得部としての機能を有する。
【0049】
ステップS1の後、プロセッサ63は、記憶部62に記憶された第5のデータ(範囲情報)を参照し、当該ステップS1にて取得した回転速度に基づく回転速度が当該範囲情報に基づく特定の範囲内であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0050】
特定の範囲内ではないと判定した場合(ステップS2:No)には、プロセッサ63は、ステップS1に戻る。
【0051】
一方、特定の範囲内であると判定した場合(ステップS2:Yes)には、プロセッサ63は、収音装置2からの音声情報の取得を開始する(ステップS3)。すなわち、プロセッサ63は、音声情報取得部としての機能を有する。そして、プロセッサ63は、取得した音声情報を順次、記憶部62に記憶させる。
【0052】
ステップS3の後、プロセッサ63は、センサ装置3からセンサ信号を取得するとともに、SCADA4から風力発電設備100の稼働情報を取得する(ステップS4)。すなわち、プロセッサ63は、特定情報取得部としての機能を有する。そして、プロセッサ63は、取得したセンサ信号及び稼働情報を記憶部62に記憶させる。
【0053】
ステップS4の後、プロセッサ63は、異常の有無を判定する判定対象となる風車ブレード104の位置を算出する(ステップS5)。すなわち、プロセッサ63は、本発明に係る位置算出部としての機能を有する。
【0054】
具体的に、プロセッサ63は、ステップS5において、ステップS4にて記憶部62に記憶させたセンサ信号を読み込み、複数のセンサ装置3のうち、当該センサ信号を出力したセンサ装置3を把握する。また、プロセッサ63は、記憶部62に記憶させた第2のデータ(配設位置情報)に基づいて、当該把握したセンサ装置3の配設位置を把握する。さらに、プロセッサ63は、当該把握したセンサ装置3の配設位置から、当該センサ装置3からセンサ信号を取得した時点での風車ブレード104の位置を把握する。また、プロセッサ63は、記憶部62に記憶された第1のデータ(第1の設計情報)及びステップS4にて記憶部62に記憶させた稼働情報に含まれる回転速度情報に基づいて、当該センサ信号を取得した時点(経過時間t=0)からの経過時間tでの風車ブレード104の位置を算出する。
【0055】
ステップS5の後、プロセッサ63は、ステップS3にて順次、記憶部62に記憶させた音声情報に基づいて、当該ステップS5にて算出した風車ブレード104の位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出する(ステップS6)。すなわち、プロセッサ63は、本発明に係る対応音声情報算出部としての機能を有する。
【0056】
図6ないし
図10は、ステップS6を説明する図である。なお、
図6では、収音装置2に設けられるマイクロフォンがマイクロフォン21A,21Bの2つのみである場合を例示している。また、
図7の(a)は、マイクロフォン21Aにて収音された風車ブレード104からの音波の波形を示す図である。一方、
図7の(b)は、マイクロフォン21Bにて収音された風車ブレード104からの音波の波形を示す図である。
図8は、ハブ103の回転軸及びZ軸を含む平面に直交する方向から風力発電設備100を見た図である。
図9及び
図10の(a)は、ハブ103の回転軸に沿って風力発電設備100を見た図である。
図10の(b)は、
図10の(a)の状態から主塔101に対してナセル102が回転した状態を示す図である。
【0057】
以下、ステップS6について、収音装置2に設けられたマイクロフォンがマイクロフォン21A,21Bの2つのみである場合で説明する。
【0058】
ここで、
図6に示すように、収音装置2に対する風車ブレード104からの音波の伝搬方向をθとし、当該音波の音速をCとし、マイクロフォン21A,21B間の離間距離をdとし、当該音波のマイクロフォン21A,21Bへの到達時間差をΔtとすると、当該到達時間差Δtは、以下の式(1)によって表される。
【0059】
【0060】
そして、プロセッサ63は、ステップS6において、ステップS5にて算出した風車ブレード104の位置、及び記憶部62に記憶された第3のデータ(第2の設計情報)に基づいて、収音装置2に対する風車ブレード104からの音波の伝搬方向θを算出する。また、プロセッサ63は、式(1)に対して、当該算出した伝搬方向θ、記憶部62に記憶された第3のデータ(第2の設計情報)に基づく離間距離d、及び当該記憶部62に記憶された第4のデータ(音速情報)に基づく音速Cを代入することによって、到達時間差Δtを算出する。そして、プロセッサ63は、マイクロフォン21Bにて収音された音波の波形(
図7の(b))の時間軸をΔtだけずらして、マイクロフォン21Aにて収音された音波の波形と合成することで対応音声情報を生成する。これにより、伝搬方向θから伝搬した音は強調され、他の伝搬方向から伝搬した音は相殺される。すなわち、風車ブレード104から伝搬された音が強調され、他から伝搬された音が相殺された対応音声情報が生成される。
【0061】
したがって、ステップS6にて算出された対応音声情報は、風車ブレード104(
図8、
図9の(a)、及び
図10の(a)の破線で示した範囲α)から収音された音声を示す情報と同一の情報となる。また、
図9の(b)に示すように、
図9の(a)の状態から時間が経過し、ハブ103が回転することで風車ブレード104の位置が変化した場合であっても、ステップS6にて算出された対応音声情報は、範囲αが変更され、当該風車ブレード104から収音された音声を示す情報と同一の情報となる。さらに、
図10の(b)に示すように、
図10の(a)の状態から時間が経過し、主塔101に対してナセル102が回転することで風車ブレード104の位置が変化した場合であっても、ステップS6にて算出された対応音声情報は、範囲αが変更され、当該風車ブレード104から収音された音声を示す情報と同一の情報となる。
【0062】
ステップS6の後、プロセッサ63は、当該ステップS6にて算出した対応音声情報を解析し、風車ブレード104の異常の有無を判定する(ステップS7)。すなわち、プロセッサ63は、本発明に係る異常判定部としての機能を有する。そして、プロセッサ63は、風車ブレード104の異常の有無の判定結果を示す画像(例えば、メッセージ等)を表示装置5に表示させる。
【0063】
図11ないし
図15は、ステップS7を説明する図である。具体的に、
図11は、ステップS6にて算出された対応音声情報に基づく音波の波形を示す図である。
図12は、ステップS6にて算出された対応音声情報をフーリエ変換した周波数スペクトルを示す図である。
図13は、ステップS6にて算出した対応音声情報を時間周波数解析(短時間フーリエ変換またはウェーブレット変換等)したデータを示す図である。
図14及び
図15は、ステップS7にて異常有りと判定された場合の具体例を説明する図である。
図14の(a)は、記憶部62に記憶された第6のデータ(基準データ)における周波数スペクトルを示す図である。
図14の(b)は、ステップS6にて算出された対応音声情報をフーリエ変換した周波数スペクトルを示す図である。
図15は、ステップS6にて算出した対応音声情報を時間周波数解析(短時間フーリエ変換またはウェーブレット変換等)したデータを示す図である。
【0064】
例えば、プロセッサ63は、ステップS7において、ステップS6にて算出された対応音声情報(
図11)をフーリエ変換した周波数スペクトル(
図12)や、当該対応音声情報を時間周波数解析したデータ(
図13)を記憶部62に記憶された第6のデータ(基準データ)と比較することにより、風車ブレード104の異常の有無を判定する。
【0065】
周波数スペクトルを用いた場合について説明する。
プロセッサ63は、
図14の(a)に示した基準データにおける周波数スペクトルと、
図14の(b)に示したステップS6にて算出された対応音声情報をフーリエ変換した周波数スペクトルとを比較し、周波数スペクトルの分布が基準データと異なり、予め設定した変動幅の閾値を超える場合(
図14の(b)に破線の枠で示した領域参照)に、風車ブレード104に異常が生じていると判定する。
【0066】
また、時間周波数解析したデータを用いた場合について説明する。
プロセッサ63は、
図15に示すように、時間経過に伴う周波数変化が繰り返される現象(
図15の破線の枠で示した領域参照)が生じ、その現象が基準データでは確認されていない場合に、風車ブレード104に異常が生じていると判定する。
【0067】
なお、風車ブレード104の異常の有無の判定方法としては、上述した周波数スペクトルや時間周波数解析したデータを用いた判定方法に限らず、その他の判定方法を採用しても構わない。
【0068】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
本実施の形態に係る異常判定装置6では、プロセッサ63は、風車ブレード104の位置を特定するための特定情報を取得し、当該特定情報に基づいて、当該風車ブレード104の位置を算出する。また、プロセッサ63は、複数のマイクロフォンを含む収音装置2にて収音された音声情報を取得し、当該音声情報に基づいて、風車ブレード104の位置に対応した音声を示す対応音声情報を算出する。そして、プロセッサ63は、対応音声情報に基づいて、風車ブレード104の異常の有無を判定する。
したがって、本実施の形態に係る異常判定装置6によれば、風車ブレード104に由来しない音声を含まず、当該風車ブレード104から収音された音声に対応する対応音声情報に基づいて、当該風車ブレード104の異常の有無を判定することができる。すなわち、風車ブレード104の異常の有無を精度良く判定することができる。
【0069】
また、本実施の形態に係る異常判定装置6では、プロセッサ63は、ステップS2で「Yes」と判定した場合に、収音装置2からの音声情報の取得を開始する。このため、記憶部62に記憶される音声情報のデータ量を少なくすることができる。
【0070】
特に、ステップS2の判定で用いられる特定の範囲は、風車ブレード104の回転速度の平均的な値を中心値とする範囲である。このため、記憶部62に記憶される音声情報のデータ量を少なくしつつ、風車ブレード104の回転速度が平均的な値である状態での対応音声情報に基づいて、ステップS7での解析を良好に実行することができる。
【0071】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
上述した実施の形態では、プロセッサ63は、ステップS2で「Yes」と判定した場合に、収音装置2からの音声情報の取得を開始していたが、これに限らない。
例えば、プロセッサ63は、特定の周期で収音装置2からの音声情報の取得を開始してもよく、あるいは、常時、収音装置2からの音声情報を取得しても構わない。
【0072】
上述した実施の形態では、プロセッサ63は、センサ装置3から取得したセンサ信号と、記憶部62に記憶された配設位置情報及び第1の設計情報と、SCADA4から取得した回転速度情報とに基づいて、風車ブレード104の位置を算出していたが、これに限らない。
例えば、ハブ103の回転角度を検出する第1の回転角センサと、ナセル102の回転角度を検出する第2の回転角センサとを風力発電設備100に設けておく。そして、プロセッサ63は、当該第1,第2の回転角センサにてそれぞれ検出された各回転角度と、記憶部62に記憶された第1の設計情報とに基づいて、風車ブレード104の位置を算出しても構わない。
【0073】
図16は、実施の形態の変形例を説明する図である。具体的に、
図16は、
図9に対応した図である。
上述した実施の形態では、プロセッサ63は、風車ブレード104毎の音声に対応する対応音声情報を算出していたが、これに限らない。
例えば、プロセッサ63は、全ての風車ブレード104(
図16の(a)及び
図16の(b)の破線で示した範囲α)から収音された音声に対応する対応音声情報を算出しても構わない。
【符号の説明】
【0074】
1 異常判定システム
2 収音装置
3 センサ装置
4 SCADA
5 表示装置
6 異常判定装置
21A,21B マイクロフォン
31 光学センサ
61 入力部
62 記憶部
63 プロセッサ
100 風力発電設備
101 主塔
102 ナセル
103 ハブ
104 風車ブレード
105 シェル
106 スパーキャップ
107 シェアウェブ