(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133966
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】センサ素子、ガスセンサ及びセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240926BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/416 321
G01N27/416 381
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044010
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和真
(72)【発明者】
【氏名】南谷 和加子
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BC02
2G004BF05
2G004BF08
2G004BF13
2G004BF15
2G004BF27
2G004BH06
2G004BJ03
(57)【要約】
【課題】被測定ガス中の未燃ガスを良好に燃焼して検知精度を向上させると共に、センサの応答速度の低下を抑制したセンサ素子、ガスセンサ及びセンサ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】固体電解質層30上に設けられる第1電極41と第2電極42と、外部から第1電極及び第2電極の少なくともいずれか一方の電極へ向かって導入される被測定ガスが通過するように、外部と一方の電極との間に介在する少なくとも1つ以上の多孔質層80とを有し、被測定ガス中の特定ガスを検出するセンサ素子10であって、少なくとも1つの多孔質層は、Pt、Pd及びRhの群から選ばれる1種以上の貴金属粒子90を担持した触媒層81であり、X線吸収微細構造解析をしたとき、触媒層に担持された貴金属粒子の吸収端での吸収強度Ipが貴金属粒子の純金属の吸収端での吸収強度Imと、貴金属粒子の酸化物の吸収端での吸収強度Ioとの間である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層上に設けられる第1電極と、前記第1電極の対極となると共に前記固体電解質層上に設けられる第2電極と、外部から前記第1電極及び前記第2電極の少なくともいずれか一方の電極へ向かって導入される被測定ガスが通過するように、前記外部と前記一方の電極との間に介在する少なくとも1つ以上の多孔質層とを有し、前記被測定ガス中の特定ガスを検出するセンサ素子であって、
少なくとも1つの前記多孔質層は、Pt、Pd及びRhの群から選ばれる1種以上の貴金属粒子を担持した触媒層であり、
X線吸収微細構造解析をしたとき、前記触媒層に担持された前記貴金属粒子の吸収端での吸収強度Ipが前記貴金属粒子の純金属の吸収端での吸収強度Imと、前記貴金属粒子の酸化物の吸収端での吸収強度Ioとの間であることを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
前記貴金属粒子がPtを含み、Ptの前記Imを0%とし、Ptの前記Ioを100%としたとき、Ptの前記Ipが2~20%であることを特徴とする請求項1記載のセンサ素子。
【請求項3】
センサ素子と、前記センサ素子を保持する主体金具とを備えたガスセンサであって、
前記センサ素子が請求項1又は2のセンサ素子であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
固体電解質層上に設けられる第1電極と、前記第1電極の対極となると共に前記固体電解質層上に設けられる第2電極と、外部から前記第1電極及び前記第2電極の少なくともいずれか一方の電極へ向かって導入される被測定ガスが通過するように、前記外部と前記一方の電極との間に介在する少なくとも1つ以上の多孔質層とを有し、前記被測定ガス中の特定ガスを検出するセンサ素子の製造方法であって、
少なくとも1つの前記多孔質層は、Pt、Pd及びRhの群から選ばれる1種以上の貴金属粒子を担持した触媒層であり、
前記触媒層となる前記多孔質層に、前記貴金属のイオン又は粒子を含む貴金属塩溶液を浸透させる浸透工程と、
前記貴金属塩溶液が浸透した前記多孔質層を、不活性雰囲気、又は酸素を2000質量ppm以下含む不活性雰囲気で、前記貴金属塩溶液の成分が熱分解する温度以上で熱処理する熱処理工程と、を有することを特徴とするセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するガスセンサに好適に用いられるセンサ素子、ガスセンサ及びセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の排気ガス等の被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を測定できるガスセンサとして、ジルコニア等の酸素イオン伝導性の固体電解質層の表面に一対の電極を形成してなるセルを備えた構成が知られている。ここで、各電極はPt等の貴金属粒子を含むペーストをスクリーン印刷した後、焼成して形成されている。
また、被測定ガス中の未燃ガスの燃焼度合いを向上させるため、被測定側の検知電極を覆う触媒層を設ける技術が知られている(特許文献1)。この触媒層は、アルミナやチタニア等の多孔質層に貴金属粒子を担持させ、被測定ガス中の未燃ガス(H2、NOx、HC等)を検知電極に到達する前に燃焼させて測定への影響を防止し、検知精度を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、触媒層に担持される貴金属粒子の量が多くなるほど、未燃ガスの燃焼度合い(触媒能)が向上するが、触媒層でガスが燃焼することによってセンサの応答速度が低下する傾向にある。これは、触媒層の貴金属粒子が酸素の吸着や放出を行い、被測定ガスの変化に対する応答速度が低下するためと考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、被測定ガス中の未燃ガスを良好に燃焼して検知精度を向上させると共に、センサの応答速度の低下を抑制したセンサ素子、ガスセンサ及びセンサ素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のセンサ素子は、固体電解質層上に設けられる第1電極と、前記第1電極の対極となると共に前記固体電解質層上に設けられる第2電極と、外部から前記第1電極及び前記第2電極の少なくともいずれか一方の電極へ向かって導入される被測定ガスが通過するように、前記外部と前記一方の電極との間に介在する少なくとも1つ以上の多孔質層とを有し、前記被測定ガス中の特定ガスを検出するセンサ素子であって、少なくとも1つの前記多孔質層は、Pt、Pd及びRhの群から選ばれる1種以上の貴金属粒子を担持した触媒層であり、X線吸収微細構造解析をしたとき、前記触媒層に担持された前記貴金属粒子の吸収端での吸収強度Ipが前記貴金属粒子の純金属の吸収端での吸収強度Imと、前記貴金属粒子の酸化物の吸収端での吸収強度Ioとの間であることを特徴とする。
【0007】
このセンサ素子によれば、Im<Ip<Ioとなり、触媒層中の貴金属粒子のX線吸収微細構造解析(XAFS)による電子状態が純金属と酸化物の間に位置するので両者の利点を両立させ、被測定ガス中の未燃ガスを良好に燃焼して検知精度を向上させると共に、センサの応答速度の低下を抑制することができる。
【0008】
本発明のセンサ素子において、前記貴金属粒子がPtを含み、Ptの前記Imを0%とし、Ptの前記Ioを100%としたとき、Ptの前記Ipが2~20%であってもよい。
このセンサ素子によれば、触媒層中の貴金属粒子の電子状態を、純金属と酸化物の間に確実に保つことができる。
【0009】
本発明のガスセンサは、センサ素子と、前記センサ素子を保持する主体金具とを備えたガスセンサであって、前記センサ素子が請求項1又は2のセンサ素子であることを特徴とする。
【0010】
本発明のセンサ素子の製造方法は、固体電解質層上に設けられる第1電極と、前記第1電極の対極となると共に前記固体電解質層上に設けられる第2電極と、外部から前記第1電極及び前記第2電極の少なくともいずれか一方の電極へ向かって導入される被測定ガスが通過するように、前記外部と前記一方の電極との間に介在する少なくとも1つ以上の多孔質層とを有し、前記被測定ガス中の特定ガスを検出するセンサ素子の製造方法であって、
少なくとも1つの前記多孔質層は、Pt、Pd及びRhの群から選ばれる1種以上の貴金属粒子を担持した触媒層であり、前記触媒層となる前記多孔質層に、前記貴金属のイオン又は粒子を含む貴金属塩溶液を浸透させる浸透工程と、前記貴金属塩溶液が浸透した前記多孔質層を、不活性雰囲気、又は酸素を2000質量ppm以下含む不活性雰囲気で、前記貴金属塩溶液の成分が熱分解する温度以上で熱処理する熱処理工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、被測定ガス中の未燃ガスを良好に燃焼して検知精度を向上させると共に、センサの応答速度の低下を抑制したセンサ素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例としてのガスセンサ200を示す断面図である。
【
図4】触媒能と、センサの応答速度との関係を示す模式図である。
【
図5】H
2リッチ雰囲気中でのVR値と、触媒層中のPt粒子の吸収強度との関係を示す図である。
【
図6】COリッチ雰囲気中でのVR値と、触媒層中のPt粒子の吸収強度との関係を示す図である。
【
図7】各吸収強度Xμにおいて、
図5のH
2リッチ雰囲気におけるVR値から、
図6のCOリッチ雰囲気におけるVR値を差し引いたグラフを示す図である。
【
図8】金属状態(PtM)と酸化物(PtO
2)との間にあるPt粒子のXAFSスペクトルを示す図である。
【
図10】貴金属塩溶液を熱処理する雰囲気中の酸素濃度と、Pt粒子の吸収強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施例としてのガスセンサ200を示す断面図である。このガスセンサ200は、図示しない内燃機関(エンジン)の排気管に固定されて、被測定ガスである酸素の濃度を測定する。
図1は、ガスセンサ200の長手方向D1と平行な断面を示している。以下、
図1における下方向(下側)をガスセンサ200の先端側(FWD)と呼び、
図1における上方向(上側)をガスセンサ200の後端側(BWD)と呼ぶ。
【0014】
ガスセンサ200は、筒状の主体金具138と、長手方向D1に延びる板状形状をなすセンサ素子10と、センサ素子10を囲む筒状のセラミックスリーブ106と、絶縁コンタクト部材166と、6個の接続端子110(
図1では、4個図示している)と、を備えている。主体金具138の外表面には、排気管に固定されるためのねじ部139が形成されている。
セラミックスリーブ106は、センサ素子10の先端がセラミックスリーブ106の先端側(FWD)の外部に配置され、センサ素子10の後端側がセラミックスリーブ106の後端側(BWD)の外部に配置されるように、センサ素子10をセラミックスリーブ106内に保持している。
絶縁コンタクト部材166には、長手方向D1に貫通するコンタクト挿通孔168が形成されている。絶縁コンタクト部材166は、コンタクト挿通孔168の内壁面がセンサ素子10の後端部の周囲を取り囲むように、配置されている。各接続端子110は、センサ素子10と絶縁コンタクト部材166との間に配置されている。
【0015】
主体金具138は、軸線方向に貫通する貫通孔154を有し、貫通孔154の径方向内側に突出する棚部152を有する略筒状形状に構成されている。主体金具138は、センサ素子10の先端が貫通孔154の先端側(FWD)の外部に配置され、センサ素子10の後端側が貫通孔154の後端側(BWD)の外部に配置されるように、センサ素子10を貫通孔154内に保持している。棚部152は、長手方向D1に垂直な平面に対して傾斜したテーパ面を含んでいる。
このテーパ面は、棚部152の先端側(FWD)の直径が、後端側(BWD)の直径と比べて小さくなるように形成されている。
【0016】
主体金具138の貫通孔154の内部には、セラミックホルダ151、粉末充填層153、156(以下、滑石リング153、156ともいう)、セラミックスリーブ106が、この順に先端側(FWD)から後端側(BWD)に向かって積層されている。セラミックホルダ151、滑石リング153,156、セラミックスリーブ106を総称して保持部160とも呼ぶ。
保持部160は、センサ素子10の先端が保持部160の先端側(FWD)の外部に配置され、センサ素子10の後端側が保持部160の後端側(BWD)の外部に配置されるように、センサ素子10を保持部160内に保持している。なお、センサ素子10は、保持部160によって保持されている。
【0017】
セラミックスリーブ106と主体金具138の後端部140との間には、加締めパッキン157が配置されている。セラミックホルダ151と主体金具138の棚部152との間には、滑石リング153とセラミックホルダ151を保持し、気密性を維持するための金属ホルダ158が配置されている。
なお、主体金具138の後端部140は、加締めパッキン157を介してセラミックスリーブ106を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0018】
また、
図1で示すように、主体金具138の先端側(FWD)の外周には、外部プロテクタ142および内側プロテクタ143が、溶接等によって取り付けられている。この二重のプロテクタ142、143は、金属(例えばステンレスなど)によって形成されており、それぞれ複数のガス導入孔を備えつつ、センサ素子10の突出部分を覆っている。
【0019】
主体金具138の後端側外周には、外筒144が固定されている。外筒144の後端側(BWD)の開口部には、グロメット150が配置されている。グロメット150には、リード線挿通孔161が形成されている。リード線挿通孔161には、6本のリード線146が挿通される(
図1では5本のリード線146のみが示されている)。これらのリード線146は、センサ素子10の後端側の外表面に設けられた電極パッド(図示せず)にそれぞれ電気的に接続される。
【0020】
また、主体金具138の後端部140より突出したセンサ素子10の後端側(BWD)には、絶縁コンタクト部材166が配置される。この絶縁コンタクト部材166は、センサ素子10の後端側の表面に形成される電極パッド(図示せず)の周囲に配置される。絶縁コンタクト部材166は、長手方向D1に貫通するコンタクト挿通孔168を有する筒状形状に形成され、後端側外表面から径方向外側に突出する鍔部167を備えている。
絶縁コンタクト部材166と外筒144との間には、保持部材169が挿入されている。保持部材169は、外筒144と鍔部167とに接触することによって、絶縁コンタクト部材166を外筒144の内部に配置する。
【0021】
図2は、センサ素子10の分解斜視図である。
図2において、左方向はセンサ素子10の先端方向(先端側)FWDを示し、右方向は後端方向(後端側)BWDを示している。センサ素子10は、絶縁層21、固体電解質層30、絶縁層22、絶縁層23、多孔質層80、81を備える。絶縁層21、固体電解質層30、絶縁層22、絶縁層23は、長手方向D1とは垂直な積層方向D2に沿って積層されている。なお、
図2では、多孔質層80、81の図示は省略され、絶縁層21、固体電解質層30、絶縁層22、絶縁層23が示される。
【0022】
本実施例では、固体電解質層30は、酸素イオン伝導性を有するジルコニアを主成分に形成されており、安定化剤としてイットリア又はカルシアを添加している。
【0023】
絶縁層21、22、23は、アルミナを主成分に用いて形成されている。固体電解質層30と絶縁層21、22、23は、それぞれ、原材料のシートを用いて形成されている(例えば、ジルコニアやアルミナ等のセラミックのシート)。
【0024】
固体電解質層30と絶縁層21との間には、被測定ガス側電極41が配置されており、固体電解質層30と絶縁層22の間には、基準ガス電極42が配置されている。被測定ガス側電極41から後端方向(後端側)BWDへ向かって検知リード部41aが延び、基準ガス電極42からも後端方向(後端側)BWDへ向かって検知リード42aが延びている。なお、被測定ガス側電極41、基準ガス電極42は、例えばプラチナ、ロジウム、鉛などを用いて形成する。
【0025】
被測定ガス側電極41及び基準ガス電極42がそれぞれ、特許請求の範囲の「第1電極」及び「第2電極」に相当し、そのうち第1電極が特許請求の範囲の「一方の電極」に相当する。
【0026】
排気ガス中の酸素濃度の検出は、酸素濃淡電地により行う。酸素濃淡電池は、固体電解質層30と、被測定ガス側電極41と、基準ガス電極42からなる。被測定ガス側電極41は、検知リード部41aから、絶縁層21に形成されたスルーホール21aを介して電極端子61に電気的に接続される。基準ガス電極42は、検知リード42aから、固体電解質層30に形成されたスルーホール30aと、絶縁層21に形成されたスルーホール21bとを介して電極端子62に電気的に接続される。
【0027】
絶縁層21の先端側には、アルミナなどからなる多孔質保護層60を備える。多孔質保護層60は、被測定ガス側電極41に侵入する気体(被測定ガス)を拡散するために設けられた多孔質層である。
【0028】
絶縁層22と絶縁層23の間には、長手方向D1に沿って延びるヒータ50が埋設されている。ヒータ50は、センサ素子10を所定の活性温度に昇温し、固体電解質層の酸素イオンの伝導性を高めてガスセンサ200の動作を安定させるために用いられる。ヒータ50は、タングステンなどの伝導体によって形成された発熱抵抗体であり、供給された電力によって熱を生じる。なお、ヒータ50は、絶縁層22と絶縁層23によって挟持されている。
【0029】
ヒータ50は、発熱部50aと電極端子50b、50cを備える。発熱部50aは、先端側に位置する。発熱部50aは、発熱線が蛇行状に配置されており、通電により発熱する。ヒータ50は、電極端子50b、50cから、絶縁層23に形成されたスルーホール23a、23bを介して、それぞれ、電極端子63、64に電気的に接続される。なお、電極端子61~64は、例えばプラチナ、ロジウム、鉛などを用いて形成することができる。
【0030】
なお、
図2には、ガスセンサ200(センサ素子10)の制御部CUも示されている。制御部CUには、
図1に示す接続端子110とリード線146とを介して、ヒータ50と、各電極端子61~64が接続されている。制御部CUは、ヒータ50に電力を供給する。また、制御部CUは、各電極端子61~64に対して信号を送受信することによって、ガスセンサ200(センサ素子10)を制御する。なお、制御部CUは、CPUとメモリとを有するコンピュータを用いて形成してもよい。
【0031】
図3は、センサ素子10の断面図である。この断面図は、積層方向D2と平行な断面を示しており、
図2に示すII-II線に沿った断面図である。
【0032】
図3においては、
図2において図示を省略した多孔質層80、81が記載されている。本実施例では、
図2におけるセンサ素子10の先端から多孔質保護層60の後端までの範囲Sを、多孔質層80、81が被覆している。なお、多孔質層80は、センサ素子10と接して被覆しており、多孔質層81は、多孔質層80の外表面を被覆している。
【0033】
多孔質層80、81は、センサ素子10に水滴が付着した場合に、センサ素子10本体にクラックが生じることを防止する。また、外側の多孔質層81は、Pt、Pd及びRhの群から選ばれる1種以上の貴金属粒子90を担持した触媒層である。
多孔質層80、81は、セラミック粒子(アルミナとスピネル)を主体として形成され、焼成することで各セラミック粒子が隙間を介して結合している。
多孔質層81が特許請求の範囲の「触媒層」に相当する。
なお、触媒は最外層(多孔質層81)だけでなく、内側層(多孔質層80)にも担持されていてもよい。
【0034】
多孔質層81に担持されている貴金属粒子90は、未燃ガスの燃焼度合いを向上させる触媒となる。つまり、貴金属粒子90は、被測定ガス(排ガス)中の未燃ガス(H2、NOx、HC等)を被測定ガス側電極41に到達する前に燃焼させて測定への影響を防止し、検知精度を向上させるものである。
ところで、触媒層に担持される貴金属粒子90の状態(酸化状態や粒子サイズ)や量に応じて未燃ガスの燃焼度合い(触媒能)が変化する。例えば、貴金属粒子90の量が多くなるほど、未燃ガスの燃焼度合い(触媒能)が向上するが、触媒層でガスが燃焼することによってセンサの応答速度が低下する傾向にある。
【0035】
図4は、触媒能と、センサの応答速度との関係を示す模式図である。触媒能とセンサの応答速度との間にはトレードオフの関係がある。触媒層に担持される貴金属粒子90の量が多くなるとセンサの応答速度が低下する理由は、触媒層の貴金属粒子が酸素の吸着や放出を行い、被測定ガスの変化に対する応答速度が低下するためと考えられる。
【0036】
そして、本発明者が検討したところ、後述するように、同じ量の貴金属粒子90を用いても触媒能が低い場合、貴金属粒子90(
図4ではPt)が酸化物(
図4ではPtO
2)になっている傾向にある。一方、センサの応答速度が遅い場合、貴金属粒子90(
図4ではPt)が金属状態(
図4ではPtM)になっている傾向にあることが判明した。
そこで、触媒能とセンサの応答速度を両立する
図4のR領域での貴金属粒子90の状態を特定できれば、被測定ガス中の未燃ガスを良好に燃焼して検知精度を向上させると共に、センサの応答速度の低下を抑制できることが想定される。
このようなことから、本発明者は、
図4のR領域の貴金属粒子90の状態を特定する指標を実験的に求めた。
【0037】
まず、触媒層に担持される貴金属粒子90として、Ptのイオンを含む貴金属塩溶液(具体的には、ジニトロジアンミンPt硝酸塩)を、多孔質層81に浸透させた。そして、多孔質層81を含むセンサ素子10全体を、所定の雰囲気で貴金属塩溶液の成分が熱分解する温度以上で熱処理し、貴金属粒子90を得た。
ここで、貴金属塩溶液中のPt量、及び熱処理雰囲気を種々変化させることで、得られたPt粒子の電子状態を、金属状態(PtM)と酸化物(PtO2)との間で変化させた。
熱処理雰囲気中の酸素量が少ないほど金属状態に近づき、熱処理雰囲気中の酸素量が多いほど金属状態に近づいた。後者については、予想と反対の挙動であり、後述する。
【0038】
熱処理して得られたPt粒子の電子状態は、X線吸収微細構造解析(XAFS)における吸収端での吸収強度(X線吸収量又は吸光度)Xμで特定した。
なお、金属状態(PtM)を示すPt箔のXμ=1.237(任意単位:a.u)、酸化物(PtO2)のXμ=2.214であった。
【0039】
得られたセンサ素子10をガスセンサ200に組付け、所定の試験用ガス雰囲気におけるセンサ出力を測定した。
図5、
図6は、それぞれH
2リッチ雰囲気、COリッチ雰囲気中でのVR値と、触媒層中のPt粒子の吸収強度との関係を示す。
図5に示すように、吸収強度Xμが小さい(
図5の左側)ほど、Pt粒子の電子状態が金属状態(PtM)に近く、吸収強度Xμが大きい(
図5の右側)ほど、酸化物(PtO
2)に近くなる。
【0040】
また、
図7は、各吸収強度Xμにおいて、
図5のH
2リッチ雰囲気におけるVR値から、
図6のCOリッチ雰囲気におけるVR値を差し引いた(VR(H
2-CO))グラフを示す。
図7におけるVR値の差分(VR(H
2-CO))が小さいほど、被測定ガスの組成に依らずに安定して検知できる(検知精度に優れる)ので好ましい。
表1は、金属状態(PtM:Pt箔)及び酸化物(PtO
2)のVR(H
2)、VR(CO)、及び差分VR(H
2-CO))を示す。
【0041】
【0042】
表1によれば、金属状態(PtM)では差分VRが極めて小さく、検知精度に優れる一方で、
図4に示したようにセンサの応答速度が低い。
これに対し、酸化物(PtO
2)では差分VRが大きく、応答速度に優れる一方で検知精度に劣る。
これらのことから、差分VRの値が金属状態(PtM)と酸化物(PtO
2)との間にある状態が良いことがわかる。
なお、金属状態(PtM)は貴金属塩溶液の熱処理雰囲気を還元雰囲気(H
2)とすることで得られ、酸化物(PtO
2)は貴金属塩溶液の熱処理雰囲気を大気雰囲気とすることで得られた。
【0043】
そして、
図8,
図9に、このように差分VRの値が金属状態(PtM)と酸化物(PtO
2)との間にあるPt粒子(
図9の「本発明例群」)のXAFSスペクトルを、金属状態(PtM)及び酸化物(PtO
2)のXAFSスペクトルと合わせて示す。なお、
図9は
図8のピーク付近の拡大図である。
【0044】
図8,
図9に示すように、XAFSにおいて、Pt粒子の吸収端での吸収強度Ipが金属状態(PtM:純金属)の吸収端での吸収強度Imと、酸化物(PtO
2)の吸収端での吸収強度Ioとの間であることがわかる。
このことより、
図4のR領域の貴金属粒子90の状態を特定する指標として、Im<Ip<Ioを規定して本発明とした。
Im<Ip<Ioであれば、触媒層中の貴金属粒子90が
図4のR領域、つまりその電子状態が純金属と酸化物の間に位置するので両者の利点を両立させ、被測定ガス中の未燃ガスを良好に燃焼して検知精度を向上させると共に、センサの応答速度の低下を抑制することができる。
【0045】
なお、上述のように、実際のPtのIm=1.237、PtのIo=2.214であった。また、
図9の実施例群のIpは1.267~1.382であった。
これより計算すると、触媒層中の貴金属粒子がPtを含み、PtのImを0%とし、PtのIoを100%としたとき、PtのIpが2~20%であることが好ましい。
触媒層中の貴金属粒子がPtを含むとは、例えば貴金属粒子がPtとRhの混合物である場合は、そのうちPtについてIpが2~20%であればよい。
【0046】
次に、センサ素子10の動作の一例について説明する。まず、制御部CUが、ヒータ50に電力を供給する制御を行い、ヒータ50は、被測定ガス側電極41、基準ガス電極42を活性化温度まで加熱する。そして、被測定ガス側電極41、基準ガス電極42が活性化温度まで加熱されたことに応じて、制御部CUは、被測定ガス側電極41と基準ガス電極42との間に電流を流す制御を行う。これにより、基準濃度となる量の酸素を被測定ガス側電極41から基準ガス電極42に汲みこむ。
【0047】
被測定ガス側電極41へ流入した被測定ガス(排ガス)中の酸素濃度に応じて、被測定ガス側電極41と基準ガス電極42の間の起電力は理論空燃比(λ=1)近傍で急激に変化する。これにより、制御部CUは、被測定ガス(排ガス)がリーン状態かリッチ状態かを検出する。ここで、「リーン状態」とは、λ=1に対して酸素の割合が多い雰囲気を意味する。また、「リッチ状態」とは、λ=1に対して酸素の割合が少ない雰囲気を意味する。
【0048】
なお、本実施例では、基準ガス電極42内に基準となるガスを貯めるが、基準ガス電極42と絶縁層22の間に大気を導入するための空間(大気導入孔)を設けてもよい。
【0049】
次に、本発明の実施形態に係るセンサ素子の製造方法について説明する。
本発明の実施形態に係るセンサ素子の製造方法は、触媒層となる多孔質層に、貴金属のイオン又は粒子を含む貴金属塩溶液を浸透させる浸透工程と、貴金属塩溶液が浸透した多孔質層を、不活性雰囲気、又は酸素を2000質量ppm以下含む不活性雰囲気で、貴金属塩溶液の成分が熱分解する温度以上で熱処理する熱処理工程と、を有する。
【0050】
ここで、貴金属塩溶液が浸透した多孔質層の熱処理雰囲気により、得られた貴金属(例えばPt)粒子の電子状態が金属状態(PtM)と酸化物(PtO2)との間のいずれか(PtMやPtO2を含む)となることは、既に述べた実験結果の通りである。
従って、熱処理雰囲気が重要となる。
【0051】
熱処理雰囲気として、不活性雰囲気、又は酸素を2000質量ppm以下含む不活性雰囲気とする理由は以下の通りである。
まず、上述のように、熱処理雰囲気を還元雰囲気(H2)とすると、貴金属(例えばPt)の酸化物が完全に還元されて金属状態(PtM)となってしまうので、還元雰囲気を除く不活性雰囲気とした。不活性雰囲気は、例えばAr等の希ガス、N2ガス等が挙げられる。
また、上述のように、熱処理雰囲気を大気雰囲気(酸素を約20万質量ppm)とするると、貴金属(例えばPt)が完全に酸化物に酸化されてしまうので、不活性雰囲気とした。
【0052】
但し、驚くべきことに、
図10に示すように、酸素を2000質量ppm以下、より好適には1000ppm以下、更に好適には100ppm以下含む不活性雰囲気では、酸素濃度が増えるほど、金属状態(PtM)側に近づくことが判明した。
金属状態(PtM)のXμ=1.237であることから、Xμ=1.237より高い値となる酸素濃度をおよそ1000質量ppm以上と見積もった。
そこで、不活性雰囲気に1000質量ppm以下の酸素を含む程度であれば、貴金属粒子の電子状態を、金属状態(PtM)と酸化物(PtO
2)との間で調整できる。
なお、
図10の酸素濃度の最低値は20質量ppm、最高値は780ppmであった。
【0053】
貴金属塩溶液を、多孔質層81に浸透させる方法は、スプレーコート、含浸等が挙げられる。また、熱処理温度は、900~1100℃程度とすることができる。
【0054】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、本発明は、NOxセンサの他、全領域空燃比センサ等の酸素センサに適用することができるが、これらの用途に限られない。
【0055】
例えば上述の実施例において、センサ素子10は板状に積層された形状であるが、板状のセンサ素子に限らず、筒状のセンサ素子においても実施可能である。なお、筒状のセンサ素子とは、中心にヒータを備え、ヒータを包み込む形で固体電解質層を配した形状のセンサ素子をいう。より具体的には、中心から径方向外側に向かって、ヒータ、基準ガス電極、固体電解質層、被測定ガス側電極、多孔質層を備えているセンサ素子を筒状のセンサ素子という。
【0056】
また、上述の実施例において、触媒金属を担持した多孔質層は2層としたが(多孔質層80、81)、一層としてもよい。1層とすることで、センサ素子を小型化することができる。反対に、触媒金属を担持した多孔質層は、3層以上とすることも可能である。多孔質層を増やすことで、センサ素子の内部への水の浸入をより確実に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
10 センサ素子
30 固体電解質層
41 第1電極、一方の電極(被測定ガス側電極)
42 第2電極(基準ガス電極)
80 多孔質層
81 多孔質層(触媒層)
90 貴金属粒子
138 主体金具
200 ガスセンサ