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特開2024-133968集音装置、集音方法、プログラム、および記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133968
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】集音装置、集音方法、プログラム、および記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G10K11/178 100
G10K11/178 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044012
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522237542
【氏名又は名称】NTTソノリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】門脇 正天
(72)【発明者】
【氏名】小林 和則
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】柿山 陽一郎
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】能動騒音制御技術で用いられるマイクロホンを流用し、利用者から発せられた音響信号に対応する高い音質の送話信号を得る。
【解決手段】騒音信号と、第1地点から放出された能動騒音制御のための擬似騒音信号と、身体を伝達した音響信号と、が到達する第2地点で観測された前記能動騒音制御のための内部観測信号を得、内部観測信号から擬似騒音信号に対応する成分の少なくとも一部を減じて得られる送話信号を得て出力する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音信号と、第1地点から放出された能動騒音制御のための擬似騒音信号と、身体を伝達した音響信号と、が到達する第2地点で観測された前記能動騒音制御のための内部観測信号を得、前記内部観測信号から前記擬似騒音信号に対応する成分の少なくとも一部を減じて得られる送話信号を得て出力する集音装置。
【請求項2】
請求項1の集音装置であって、
前記第1地点から前記第2地点までの伝達特性に基づく第1経路モデルを前記擬似騒音信号に対応する第1信号に適用して第2信号を得る第1経路モデル適用部と、
前記騒音信号と、前記第1地点から放出された前記第1信号に基づく前記擬似騒音信号と、前記音響信号と、が到達する前記第2地点で観測された前記内部観測信号から前記第2信号の成分を減じて第3信号を得る第1演算部と、
前記第3信号に前記能動騒音制御のための第1騒音制御フィルタを適用し、前記第1信号を更新するための第4信号を得る第1騒音制御部と、を有し、
前記送話信号は、前記内部観測信号から少なくとも前記第1騒音制御フィルタに基づく成分を減じて得られる信号に基づく、集音装置。
【請求項3】
請求項2の集音装置であって、
前記音響信号の音圧が前記第2地点よりも低い第3地点で観測される外部観測信号に前記能動騒音制御のための第2騒音制御フィルタを適用し、前記第1信号を更新するための第5信号を得る第2騒音制御部をさらに有する集音装置。
【請求項4】
請求項2または3の集音装置であって、
前記送話信号は、前記第3信号に基づく信号である、集音装置。
【請求項5】
請求項3の集音装置であって、
前記伝達特性に基づく第2経路モデルを前記第4信号に基づく第6信号に適用して第7信号を得る第2経路モデル適用部と、
前記内部観測信号から前記第7信号の成分を減じて第8信号を得る第2演算部と、をさらに有し、
前記送話信号は、前記第8信号に基づく信号である、集音装置。
【請求項6】
請求項5の集音装置であって、
前記第4信号に受話信号の成分を加えて前記第6信号を得る第3演算部と、
前記第5信号に前記第6信号を加えて更新後の前記第1信号を得る第4演算部と、
をさらに有する集音装置。
【請求項7】
請求項5または6の集音装置であって、
前記第1騒音制御フィルタを更新する第1更新部と、
前記第2騒音制御フィルタを更新する第2更新部と、を有し、
前記第1更新部および前記第2更新部は、前記第2騒音制御フィルタによる前記第1信号への貢献度が、前記第1騒音制御フィルタによる前記第1信号への貢献度よりも大きくなるように、前記第1騒音制御フィルタおよび前記第2騒音制御フィルタをそれぞれ更新する、集音装置。
【請求項8】
請求項1から3の何れかの集音装置であって、
前記第2地点は、外耳道の近傍または前記外耳道の中に位置する、集音装置。
【請求項9】
集音装置による集音方法であって、
騒音信号と、第1地点から放出された能動騒音制御のための擬似騒音信号と、身体を伝達した音響信号と、が到達する第2地点で観測された前記能動騒音制御のための内部観測信号を得、前記内部観測信号から前記擬似騒音信号に対応する成分の少なくとも一部を減じて得られる送話信号を得て出力する集音方法。
【請求項10】
請求項9の集音方法であって、
前記第1地点から前記第2地点までの伝達特性に基づく第1経路モデルを前記擬似騒音信号に対応する第1信号に適用して第2信号を得る第1経路モデル適用ステップと、
前記騒音信号と、前記第1地点から放出された前記第1信号に基づく前記擬似騒音信号と、前記音響信号と、が到達する前記第2地点で観測された前記内部観測信号から前記第2信号の成分を減じて第3信号を得る第1演算ステップと、
前記第3信号に前記能動騒音制御のための第1騒音制御フィルタを適用し、前記第1信号を更新するための第4信号を得る第1騒音制御ステップと、を有し、
前記送話信号は、前記内部観測信号から少なくとも前記第1騒音制御フィルタに基づく成分を減じて得られる信号に基づく、集音方法。
【請求項11】
請求項9または10の集音方法の処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項12】
請求項9または10の集音方法の処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集音技術に関し、特に、能動騒音制御機能を持つ装置で音響信号を集音する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音環境下で通話を行う場合、外部の音を集音するマイクロホン(外部マイクロホン)では周囲の騒音に対する利用者の音声の比率(S/N比)が小さくなってしまい、利用者の音声をクリアに集音することができない。また、イヤホンに外部マイクロホンが設置される場合もあるが、この状態で騒音対策としてイヤマフを装着すると、イヤマフに遮られて利用者の音声をクリアに集音することができない。
【0003】
この問題を解決するため、外耳道またはその近傍に装着されたマイクロホン(耳内マイクロホン)を用いて利用者(装着者)の音声を集音し、それによって得られた信号を送話信号とする技術が知られている(例えば、非特許文献1等参照)。ここで、耳内マイクロホンに到達する騒音はイヤホンやイヤマフ等に遮られて音圧が小さくなっている。一方、利用者が発した音声は、空気中のみならず、利用者の身体をも伝わって耳内マイクロホンに到達する。空気中を伝わる音声は騒音と同様にイヤホンやイヤマフ等に遮られて音圧が小さくなるが、身体を伝わる音声はさほど減衰しない。これにより、耳内マイクロホンは、騒音環境下において、外部マイクロホンよりも高いS/N比で音声を集音できる。
【0004】
また、能動騒音制御用の擬似騒音信号を用いて騒音を抑制する能動騒音制御システムが知られている(例えば、非特許文献2等参照)。能動騒音制御システムには、フィードフォワード型、フィードバック型、これらを組み合わせたハイブリッド型がある。フィードバック型やハイブリッド型の能動騒音制御システムでは、耳内マイクロホンで観測された信号に基づいて、騒音成分をキャンセルするための擬似騒音信号を生成し、生成した擬似騒音信号をスピーカから放出することで、利用者が聴取する騒音を抑制する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“三洋・日鉄エレ、「耳でしゃべる」イヤホンマイク“e耳くん”を発売”,[online],2007年12月18日,日鉄エレックス,[2022年12月8日検索],インターネット<https://www.phileweb.com/news/d-av/200712/18/19995.html>
【非特許文献2】西村正治,梶川嘉延,“アクティブノイズコントロール”,[online],2011年11月,電子情報通信学会,知識の森 2群-6編-6章,[2022年12月8日検索],インターネット<http://www.ieice-hbkb.org/files/02/02gun_06hen_06.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
騒音環境下で通話を行う場合に、フィードバック型やハイブリッド型の能動騒音制御システムで用いられる耳内マイクロホンを流用して、利用者の音声を集音することも考えられる。しかし、利用者が音声を発した場合、耳内マイクロホンでは騒音のみならず音声も観測され、騒音のみならず音声をもキャンセルする擬似騒音信号がスピーカから放出されてしまう。その結果、耳内マイクロホンでは、騒音のみならず音声もキャンセルされた信号や劣化した音声の信号が観測される。そのため、耳内マイクロホンで集音された信号をそのまま送話信号すると、送話信号の音声品質が低下してしまう。このような問題は、能動騒音制御技術で用いられるマイクロホンを流用し、利用者から発せられる何らかの音響信号に対応する送話信号を得る用途に共通するものである。
【0007】
このような点に鑑み、本発明では、能動騒音制御技術で用いられるマイクロホンを流用し、利用者から発せられた音響信号に対応する高い音質の送話信号を得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
騒音信号と、第1地点から放出された能動騒音制御のための擬似騒音信号と、身体を伝達した音響信号と、が到達する第2地点で観測された前記能動騒音制御のための内部観測信号を得、内部観測信号から擬似騒音信号に対応する成分の少なくとも一部を減じて得られる送話信号を得て出力する。
【発明の効果】
【0009】
これにより、高い音質の送話信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の音声通信システムを例示するための図である。
図2図2は、第1実施形態の能動騒音制御システムを例示するための図である。
図3図3は、第1実施形態の集音装置を例示するためのブロック図である。
図4図4は、第1実施形態の変形例の能動騒音制御システムを例示するための図である。
図5図5は、第2実施形態の能動騒音制御システムを例示するための図である。
図6図6は、第2実施形態の集音装置を例示するためのブロック図である。
図7図7は、第2実施形態の変形例の能動騒音制御システムを例示するための図である。
図8図8は、第3実施形態の集音装置を例示するためのブロック図である。
図9図9は、第4実施形態の集音装置を例示するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
以下で説明する各実施形態では、集音装置が、騒音信号と、第1地点から放出された能動騒音制御のための擬似騒音信号と、身体を伝達した音響信号と、が到達する第2地点で観測された能動騒音制御のための内部観測信号を得、この内部観測信号から擬似騒音信号に対応する成分の少なくとも一部を減じて得られる送話信号を得て出力する。本実施形態の集音装置は、例えば、公知の装着機構を介して利用者に装着される。例えば、第2地点が、利用者の外耳道の近傍(例えば、外耳道の入り口)または外耳道の中に位置するように装着される。例えば、集音装置はマイクロホン付きのイヤホンやヘッドホン等であり、利用者の頭部に装着可能なように構成されている。しかし、これは本発明を限定するものではなく、集音装置が製造装置や検査装置や重機等の工業機械、椅子等の家具、壁等の建築物に装着され、利用者がその近傍で発話を行うことが可能なように構成されていてもよい。「騒音信号」とは騒音の音響信号であり、「騒音」は、利用者の身体の外部で発生する雑音を含む。騒音の種別や音圧レベルに限定はない。例えば、騒音は、利用者の身体および集音装置の外部で発生する雑音を含み、空気中を伝搬して集音装置および利用者の外耳道に到達するものである。騒音が利用者の身体または集音装置で発生する音を含んでいてもよい。「第1地点」は、例えば、集音装置の内部の位置である。例えば、擬似騒音信号を放出するスピーカの音響放出位置が第1地点である。しかし、第1地点が集音装置の外部の位置であってもよい。「第2地点」は、利用者が音を聴取する基準点である。例えば、音響信号を観測するマイクロホンの受音位置が第2地点である。例えば、第2地点が利用者の外耳道の近傍または外耳道の中の位置である場合、このマイクロホンは内耳マイクロホンである。マイクロホンの方式に限定はなく、空気中を伝搬する音響信号と身体を伝搬する音響信号の両方を観測できるものであればどのようなものであってもよい。「身体を伝達した音響信号」は、身体を伝達する音を表す信号であればどのようなものであってもよい。これは、例えば、利用者の身体活動に伴って発生する音である。「身体を伝達した音響信号」は、例えば、利用者の発話に伴って発生する音声信号であってもよいし、利用者の呼吸音であってもよいし、利用者の心音であってもよいし、利用者が身体を動かすことによって発生するその他の音であってもよい。
【0012】
ここで、第1地点から放出される擬似騒音信号は、騒音キャンセル用の信号であり、騒音成分と干渉することで、第2地点で聴取される騒音信号の少なくとも一部をキャンセルする。これによって、第2地点での騒音信号が抑制される。例えば、第2地点が、利用者の外耳道の近傍または外耳道の中に位置するのであれば、この利用者が聴取する騒音信号を抑制または削減できる。また、利用者の身体を伝搬した音響信号(例えば、音声信号)も第2地点に伝達される。この音響信号の少なくとも一部の成分も、第1地点から放出された擬似騒音信号によってキャンセルされる。これにより、第2地点での音響信号も抑制または削減されるが、これは利用者本人が発したものであるため、特に問題は生じない。
【0013】
一方、送話信号は、第2地点で観測された内部観測信号から擬似騒音信号に対応する成分の少なくとも一部を減じて得られるものである。例えば、送話信号は、内部観測信号の少なくとも一部の成分を能動騒音制御前の状態(騒音信号の少なくとも一部をキャンセルする前の状態)、またはそれに近い状態に戻した信号である。そのため、送話信号には、利用者の身体を伝搬した音響信号(例えば、音声信号)成分が十分に含まれている。これにより、利用者から発せられた音響信号に対応する高い音質の送話信号を得ることができる。
【0014】
以下では、説明を簡略化するため、集音装置が、利用者の頭部に装着可能なように構成されている内耳マイクロホン付きのイヤホンやヘッドホン等であり、騒音が利用者の身体および集音装置の外部で発生する雑音であり、音響信号が利用者から発せられた音声信号であり、第1地点が集音装置の内部の位置であり、第2地点が、利用者の外耳道の近傍または外耳道の中の位置である例を説明する。しかし、これは本発明を限定するものではない。
【0015】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態を説明する。第1実施形態は、フィードバック側の能動騒音制御システムに本発明を適用した例である。
【0016】
<構成>
図1に例示するように、本実施形態では、騒音環境下で、能動騒音制御システム1-iを装着したI人の利用者1000-iが音声通信を行う。ただし、i=1,2,…,Iであり、Iは2以上の整数である。図1はI=2の例であり、能動騒音制御システム1-1,1-2をそれぞれ装着した2人の利用者1000-1,1000-2が音声通信を行う例を示している。しかし、これは本発明を限定するものではなく、本実施形態の能動騒音制御システムを装着して3人以上の利用者が音声通信を行ってもよい。以降、能動騒音制御システム1-iの総称を能動騒音制御システム1とし、利用者1000-iの総称を利用者1000とする。その他の名称に付される参照符号についても「α-i」の総称を「α」と表記する。
【0017】
図2に例示するように、本実施形態の能動騒音制御システム1は、集音装置11、スピーカ12、マイクロホン13(耳内マイクロホン)、筐体14、およびイヤーチップ15(イヤーピース、イヤーパッド)を有する。この例の筐体14は、中空の中空部141,142および先端部143を有している。先端部143の径は中空部142の径よりも小さく、中空部142の先端部143側の領域はテーパー状に形成され、中空部142につながっている。先端部143の端部は開放端143aとなっており、この開放端143aを通じて中空部142および先端部143の内部が開放端143aの外方に開放されている。先端部143の外側には、先端部143を囲むイヤーチップ15が取り付けられている。中空部141と中空部142の間にはスピーカ12が取り付けられている。スピーカ12は中空部142側に擬似騒音信号を放出するように配置されている。先端部143の内部にはマイクロホン13が取り付けられている。図2の例では、先端部143内部の中空部142側の位置にマイクロホン13が取り付けられている。しかし、これは本発明を限定するものではない。中空部141の内部には集音装置11が取り付けられ、集音装置11はスピーカ12およびマイクロホン13と電気的に接続されている。本実施形態の能動騒音制御システム1は、利用者1000の耳1010に装着される。すなわち、開放端143aを利用者1000の鼓膜1012側に向けた状態で、イヤーチップ15が取り付けられた先端部143が耳1010の外耳道1011に挿入される。これにより、先端部143の内部に取り付けられたマイクロホン13が、外耳道1011の近傍または外耳道1011の中に配置される。
【0018】
図3に例示するように、本実施形態の集音装置11は、経路モデル適用部111(第1経路モデル適用部)、演算部112(第1演算部)、騒音制御部113(第1騒音制御部)、経路モデル適用部114、更新部115、および演算部116を有する。
【0019】
経路モデル適用部111には、スピーカ12の位置(例えば、スピーカ12の音響放出位置)(第1地点)からマイクロホン13の位置(例えば、マイクロホン13の受音位置)(第2地点)までの伝達特性(二次経路特性)c=[c,c,…,cM-1に基づく二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’](第1経路モデル)が設定されている。ただし、Mはフィルタ長を表す正整数であり、m=0,…,M-1である。cおよびc’は実数の係数であり、・は・の転置を表す。なお、二次経路モデルc’は、例えば、スピーカ12の位置(第1地点)からマイクロホン13の位置(第2地点)までの伝達特性cを予め測定しておき、その測定結果に基づいて設定される。理想的にはc’=cであるが、必ずしもこれらが厳密に同一である必要はない。すなわち、二次経路モデルc’が伝達特性cに基づいていれば、二次経路モデルc’と伝達特性cが同一であってもよいし、同一でなくてもよい。例えば、二次経路モデルc’が伝達特性cと近似していてもよい。例えば、二次経路モデルc’と伝達特性cとの位相差がθ以下であり、後述するステップサイズ×(|c’|と|c|との振幅比)がδ以下であればよい。ただし、|・|は・のノルムである。θの例は、-90°<θ<90°等である。δの例は、1.0等である。また、|c’|と|c|との振幅比は、|c’|/|c|または|c|/|c’|である。
【0020】
同様に、経路モデル適用部114には、伝達特性c=[c,c,…,cM-1に基づく二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’]が設定されている。なお、本実施形態では、説明の簡略化のため、経路モデル適用部114に経路モデル適用部111と同じ二次経路モデルc’が設定される例を示す。しかし、これは本発明を限定するものではない。すなわち、二次経路モデルc’に代え、伝達特性cに基づくその他の二次経路モデル(伝達特性cと同一または近似する二次経路モデル)が経路モデル適用部114に格納されてもよい。伝達特性cに基づくその他の二次経路モデルのフィルタ長はMであってもよいし、M以外であってもよい。
【0021】
また、騒音制御部113には、能動騒音制御のための騒音制御フィルタg=[g(t),g(t),…,gL-1(t)](第1騒音制御フィルタ)が格納されている。ただし、Lはフィルタ長を表す正整数である。L=Mであってもよいし、L=Mでなくてもよい。tは離散時間を表す0以上の整数インデックスである。tが大きいほど後の時点(新しい時点)であることを表している。また、「(t)」や下付き添え字「t」が付されているデータは離散時刻tにおけるデータであることを表す。gαL(t)(ここで、α=0,1,…,L-1であり、gαL(t)の下付き添え字の「αL」はαを表す。)は実数の係数である。騒音制御フィルタgは、後述のように更新部115によって更新される。
【0022】
<処理>
図2に例示するように、筐体14の外部で発せられた騒音信号N(t)および利用者1000から発せられた音声信号S(t)は、空気中を伝搬して筐体14の外部に到達する。これらの騒音信号N(t)および音声信号S(t)は、さらに筐体14の壁等を透過し、筐体14の内部に伝搬されてマイクロホン13に到達する。このように筐体14の内部に伝搬された騒音信号N(t)および音声信号S(t)を騒音信号n’(t)と表現する。この過程で騒音信号N(t)および音声信号S(t)は大きく減衰するため、騒音信号n’(t)の音圧レベルは、騒音信号N(t)および音声信号S(t)の音圧レベルよりも低い。また、利用者1000から発せられた音声信号は、さらに利用者1000の身体を伝達してマイクロホン13に到達する。このように利用者1000の身体を伝搬された音声信号を音響信号s’(t)と表現する。身体を伝搬する音声信号はさほど減衰しない。
【0023】
また、スピーカ12(図3)には擬似騒音信号に対応する信号x(t)(第1信号)が入力され、スピーカ12は信号x(t)に基づく擬似騒音信号x’(t)を放出する。放出された擬似騒音信号x’(t)は、スピーカ12の位置(第1地点)からマイクロホン13の位置(第2地点)まで空気中を伝搬する。
【0024】
以上のように、マイクロホン13の位置(第2地点)には、騒音信号n’(t)と、伝達特性cが畳み込まれた擬似騒音信号x’(t)(第1地点から放出された能動騒音制御のための擬似騒音信号)と、音響信号s’(t)(身体を伝達した音響信号)と、が到達する。これらはマイクロホン13(第2地点)で観測される。マイクロホン13は、これらを観測して得られる内部観測信号y(t)(能動騒音制御のための内部観測信号)を出力する。ここで、スピーカ12およびマイクロホン13の内部の伝達特性を無視すると、以下の関係を近似できる。
y(t)=c+s(t)+n(t) (1)
c=[c,c,…,cM-1
=[x(t),x(t-1),…,x(t-M+1)]
ここで、s(t)は、マイクロホン13で音響信号s’(t)を観測して得られる観測信号(マイクロホン13からの出力信号成分)を表す。n(t)は、マイクロホン13で騒音信号n’(t)を観測して得られる観測信号(マイクロホン13からの出力信号成分)を表す。y(t),x(α),s(t),n(t)(α=t,t-1,…,t-M+1)は実数である。内部観測信号y(t)は、演算部112および更新部115に送られる(ステップS13)。
【0025】
また、経路モデル適用部111には、擬似騒音信号x’(t)に対応する信号x(t)(第1信号)が入力される。経路モデル適用部111は、二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’](第1経路モデル)を信号x(t)(第1信号)に適用して(畳み込んで)信号w(t)(第2信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
w(t)=c’ (2)
c’=[c’,c’,…,cM-1’]
=[x(t),x(t-1),…,x(t-M+1)]
信号w(t)は演算部112に送られる(ステップS111)。
【0026】
演算部112には、内部観測信号y(t)および信号w(t)が送られる。演算部112は、内部観測信号y(t)から信号w(t)(第2信号)の成分を減じて信号h(t)(第3信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
h(t)=y(t)-w(t) (3)
信号h(t)(第3信号)は、騒音制御部113および経路モデル適用部114に送られるとともに、信号h(t)に基づく信号(第3信号に基づく信号)が送話信号として出力される。信号h(t)がそのまま送話信号とされてもよいし、信号h(t)にエコーキャンセリング等その他の処理を施したものが送話信号とされてもよい。また送話信号は、そのまま、音声通信相手の他の利用者1000に使用される他の能動騒音制御システム1の集音装置11に送信されてもよいし、エコーキャンセリング等その他の処理を施された後、当該他の能動騒音制御システム1の集音装置11に送信されてもよい(ステップS112)。
【0027】
騒音制御部113は、信号h(t)(第3信号)に能動騒音制御のための騒音制御フィルタg(第1騒音制御フィルタ)を適用し(畳み込み)、信号u(t)(第1信号を更新するための第4信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
u(t)=g (4)
=[g(t),g(t),…,gL-1(t)]
=[h(t),h(t-1),…,h(t-L+1)]
信号u(t)は、演算部116に送られる(ステップS113)。
【0028】
経路モデル適用部114は、二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’]を信号h(t)に適用して(畳み込んで)信号p(t)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
p(t)=c’ (5)
c’=[c’,c’,…,cM-1’]
=[h(t),h(t-1),…,h(t-M+1)]
信号p(t)は更新部115に送られる(ステップS114)。
【0029】
更新部115は、内部観測信号y(t)および信号p(t)を用い、騒音制御フィルタgを更新して騒音制御フィルタgt+1を得て出力する。この更新は内部観測信号y(t)が小さくなるように(例えば、y(t)を最小化するように)行われる。この更新には、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムやNLMS(Normalized Least Mean Square)アルゴリズム等の公知の方法を用いることができる。
LMSアルゴリズムの場合:
t+1=g+μy(t)p (6-1)
=[g(t),g(t),…,gL-1(t)]
t+1=[g(t+1),g(t+1),…,gL-1(t+1)]
=[p(t),p(t-1),…,p(t-L+1)]
ここで、μはステップサイズを表す0以上の実数である。例えば、0.0<μ≦2.0である。
NLMSアルゴリズムの場合:
t+1=g+μy(t)p/P(t) (6-2)
ここで、P(t)=p である。
騒音制御フィルタgt+1は騒音制御部113に送られ、騒音制御部113に設定された騒音制御フィルタgが騒音制御フィルタgt+1に更新される(ステップS115)。
【0030】
他の能動騒音制御システム1の集音装置11から受信した信号に基づく受話信号r(t)は、演算部116に送られる。演算部116は、信号u(t)(第1信号を更新するための第4信号)に受話信号r(t)を加え、これにより信号x(t)を信号x(t+1)(第1信号)に更新する。ここで、以下の関係が成り立つ。
t+1=u+r (7)
t+1=[x(t+1),x(t),…,x(t-L+2)]
=[u(t),u(t-1),…,u(t-L+1)]
=[r(t),r(t-1),…,r(t-L+1)]
信号x(t+1)(第1信号)はスピーカ12および経路モデル適用部111に送られる(ステップS116)。
【0031】
以降、t+1を新たなtとして、ステップS13,S111,S112,S113,S114,S115,S116を実行する処理(本実施形態の処理)が繰り返される。
【0032】
<本実施形態の特徴>
本実施形態では、フィードバック型の能動騒音制御システム1で用いられるマイクロホン13(耳内マイクロホン)を流用して送話信号を生成する際に、マイクロホン13で観測した内部観測信号y(t)をそのまま送話信号としない。本実施形態では、内部観測信号y(t)から、二次経路モデルc’(第1経路モデル)を信号x(t)(第1信号)に適用して得られる信号w(t)(第2信号)の成分を減じ、これによって得られる信号h(t)(第3信号)に基づく送話信号を得た。この送話信号は、内部観測信号y(t)から擬似騒音信号x’(t)に対応する成分の少なくとも一部w(t)=c’を減じて得られる信号h(t)(第3信号)に基づくものである。また、式(4)および式(7)より、送話信号は、内部観測信号y(t)から少なくとも騒音制御フィルタg(第1騒音制御フィルタ)に基づく成分を減じて得られる信号に基づくともいえる(ステップS112)。ここで、前述の式(1)(2)より、式(3)は以下の式(8)のように変形できる。
h(t)=y(t)-w(t) (3)
=c+s(t)+n(t)-c’ (8)
ここでc’はcに近似するため、式(8)は以下の式(9)のように近似できる。
h(t)=s(t)+n(t) (9)
式(9)に示すように、本実施形態の送話信号は、利用者1000から発せられた音声信号成分を十分に含んでいる。また前述のように、筐体14の外部で発せられた騒音信号N(t)および利用者1000から発せられた音声信号S(t)はマイクロホン13に到達するまでに大きく減衰し、騒音信号n’(t)としてマイクロホン13に到達し、観測信号n(t)として観測される。一方、利用者1000の身体を伝搬された音響信号s’(t)はさほど減衰せずにマイクロホン13に到達し、音響信号s(t)として観測される。そのため、本実施形態の送話信号からは騒音成分がある程度抑制されており、送話信号のS/N比もある程度高い。以上のように、本実施形態では、能動騒音制御技術で用いられるマイクロホン13を流用し、利用者1000から発せられた音響信号に対応する高い音質の送話信号を得ることができる。
【0033】
[第1実施形態の変形例1]
図4に例示するように、利用者1000の耳に能動騒音制御システム1を装着し、その上からさらにイヤマフ16を装着してもよい。イヤマフ16により、筐体14の外部で発せられた騒音信号N(t)および利用者1000から発せられた音声信号S(t)はマイクロホン13に到達するまでにさらに大きく減衰し、騒音信号n’(t)としてマイクロホン13に到達し、観測信号n(t)として観測される。一方、イヤマフ16にかかわらず、利用者1000の身体を伝搬された音響信号s’(t)はさほど減衰せずにマイクロホン13に到達し、音響信号s(t)として観測される。そのため、送話信号のS/N比をさらに改善できる。
【0034】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態は、ハイブリッド型の能動騒音制御システムに本発明を適用した例である。以降、既に説明した事項については、同じ参照符号を付して説明を簡略化する。
【0035】
<構成>
図1に例示するように、本実施形態では、騒音環境下で、能動騒音制御システム2-iを装着したI人の利用者1000-iが音声通信を行う。図5に例示するように、本実施形態の能動騒音制御システム2は、集音装置21、スピーカ12、マイクロホン13(耳内マイクロホン)、マイクロホン23(外部マイクロホン)、筐体24、およびイヤーチップ15を有する。能動騒音制御システム2は、能動騒音制御システム1の集音装置11が集音装置21に置換され、筐体14が筐体24に置換され、さらにマイクロホン23が追加されたものである。筐体24は、中空部141,142および先端部143を有し、中空部141にはさらに音孔24aが設けられている。音孔24aは筐体24の壁よりも音を透過しやすい孔であり、例えば、貫通孔等である。マイクロホン23は、筐体24の中空部141の内側に取り付けられている。マイクロホン23の受音位置(第3地点)は、音孔24aの近傍であり、マイクロホン23はこの音孔24aを通じて筐体24の外部の音を集音できるように構成されている。集音装置21はスピーカ12およびマイクロホン13,23と電気的に接続されている。第1実施形態と同様に、本実施形態の能動騒音制御システム2は、利用者1000の耳1010に装着される。すなわち、開放端143aを利用者1000の鼓膜1012側に向けた状態で、イヤーチップ15が取り付けられた先端部143が耳1010の外耳道1011に挿入される。これにより、先端部143の内部に取り付けられたマイクロホン13が、外耳道1011の近傍または外耳道1011の中に配置される。一方、マイクロホン23の受音位置(第3地点)は、マイクロホン13の位置(第2地点)よりも、利用者1000の身体を伝達した音声信号(音響信号)の音圧が低い位置である。例えば、マイクロホン13の位置(第2地点)では、利用者1000の身体を伝達した音声信号(音響信号)は観測されるが、マイクロホン23の受音位置(第3地点)では、利用者1000の身体を伝達した音声信号(音響信号)は観測されないか、ほとんど観測されない。例えば、マイクロホン23の受音位置(第3地点)は、マイクロホン13の位置(第2地点)よりも、筐体24の外部の騒音信号の音圧が高い位置である。例えば、装着時における、外耳道101からマイクロホン23の受音位置(第3地点)までの距離は、外耳道101からマイクロホン13の受音位置(第2地点)までの距離よりも長い。例えば、マイクロホン24は、スピーカ12よりも外方側(外耳道1011の反対側)に配置される。
【0036】
図6に例示するように、本実施形態の集音装置21は、経路モデル適用部111(第1経路モデル適用部)、演算部112(第1演算部)、騒音制御部113(第1騒音制御部)、経路モデル適用部114、更新部115、演算部216、騒音制御部213(第2騒音制御部)、経路モデル適用部214、更新部215、および演算部217を有する。
【0037】
経路モデル適用部214には、伝達特性c=[c,c,…,cM-1に基づく二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’]が設定されている。なお、本実施形態では、説明の簡略化のため、経路モデル適用部214に経路モデル適用部111と同じ二次経路モデルc’が設定される例を示す。しかし、これは本発明を限定するものではない。すなわち、二次経路モデルc’に代え、伝達特性cに基づくその他の二次経路モデル(伝達特性cと同一または近似する二次経路モデル)が経路モデル適用部214に格納されてもよい。伝達特性cに基づくその他の二次経路モデルのフィルタ長はMであってもよいし、M以外であってもよい。
【0038】
また、騒音制御部213には、能動騒音制御のための騒音制御フィルタf=[f(t),f(t),…,fK-1(t)](第1騒音制御フィルタ)が格納されている。ただし、Kはフィルタ長を表す正整数である。L=Kであってもよいし、L=Kでなくてもよい。また、L=Mであってもよいし、L=Mでなくてもよい。fαK(t)(ここで、α=t,t-1,…,t-K+1であり、下付き添え字の「αK」は「α」を表す。)は実数の係数である。騒音制御フィルタfは、後述のように更新部215によって更新される。
【0039】
<処理>
図5に例示するように、筐体24の外部で発せられた騒音信号N(t)および利用者1000から発せられた音声信号S(t)は、空気中を伝搬して筐体24の外部に到達する。これらの騒音信号N(t)および音声信号S(t)は、筐体24の音孔24aを通じてマイクロホン23の受音位置に到達する。マイクロホン23の受音位置に到達したこれらの信号を騒音信号z’(t)と表現する。騒音信号z’(t)はマイクロホン23(第3地点)で観測される(図6)。マイクロホン23は、観測して得られる外部観測信号z(t)を出力する。外部観測信号z(t)は、騒音制御部213および経路モデル適用部214に送られる(ステップS23)。
【0040】
また、図5に例示するように、筐体24の外部で発せられた騒音信号N(t)および音声信号S(t)は、さらに筐体14の壁等を透過し、筐体14の内部に伝搬されてマイクロホン13に到達する。このように筐体14の内部に伝搬された騒音信号N(t)および音声信号S(t)を騒音信号n’(t)と表現する。また、スピーカ12には擬似騒音信号に対応する信号x(t)(第1信号)が入力され、スピーカ12は信号x(t)に基づく擬似騒音信号x’(t)を放出する。放出された擬似騒音信号x’(t)は、スピーカ12の位置(第1地点)からマイクロホン13の位置(第2地点)まで空気中を伝搬する。
【0041】
以上のように、マイクロホン13の位置(第2地点)には、騒音信号n’(t)と、伝達特性cが畳み込まれた擬似騒音信号x’(t)(第1地点から放出された能動騒音制御のための擬似騒音信号)と、音響信号s’(t)(身体を伝達した音響信号)と、が到達する。これらはマイクロホン13(第2地点)で観測される。マイクロホン13は、これらを観測して得られる内部観測信号y(t)を出力する(ステップS13)。
【0042】
本実施形態でも、第1実施形態で説明したステップS111,S112,S113,S114,S115の処理が行われる。ステップS112で得られた信号h(t)(第3信号)は、騒音制御部113および経路モデル適用部114に送られるとともに、信号h(t)に基づく信号(第3信号に基づく信号)が送話信号として出力される。信号h(t)がそのまま送話信号とされてもよいし、信号h(t)にエコーキャンセリング等その他の処理を施したものが送話信号とされてもよい。また送話信号は、そのまま、音声通信相手の他の利用者1000に使用される他の能動騒音制御システム2の集音装置21に送信されてもよいし、エコーキャンセリング等その他の処理を施された後、当該他の能動騒音制御システム2の集音装置21に送信されてもよい。
【0043】
また、他の能動騒音制御システム2の集音装置21から受信した信号に基づく受話信号r(t)は、演算部216に送られる。演算部216は、ステップS113で得られた信号u(t)に受話信号r(t)を加え、これによって得られるb(t)=u(t)+r(t)を演算部217に送る(ステップS216)。
【0044】
騒音制御部213は、外部観測信号z(t)に能動騒音制御のための騒音制御フィルタf(第2騒音制御フィルタ)を適用し(畳み込み)、信号v(t)(第1信号を更新するための第5信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
v(t)=f (21)
=[f(t),f(t),…,fK-1(t)]
=[z(t),z(t-1),…,z(t-K+1)]
信号v(t)は、演算部217に送られる(ステップS213)。
【0045】
経路モデル適用部214は、二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’]を外部観測信号z(t)に適用して(畳み込んで)信号q(t)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
q(t)=c’ (22)
c’=[c’,c’,…,cM-1’]
=[z(t),z(t-1),…,z(t-M+1)]
信号q(t)は更新部215に送られる(ステップS214)。
【0046】
更新部215は、内部観測信号y(t)および信号q(t)を用い、騒音制御フィルタfを更新して騒音制御フィルタft+1を得て出力する。この更新は内部観測信号y(t)が小さくなるように(例えば、y(t)を最小化するように)行われる。この更新には、LMSアルゴリズムやNLMSアルゴリズム等の公知の方法を用いることができる。
LMSアルゴリズムの場合:
t+1=f+μy(t)q (23-1)
=[f(t),f(t),…,fK-1(t)]
t+1=[f(t+1),f(t+1),…,fK-1(t)]
=[q(t),q(t-1),…,q(t-K+1)]
ここで、μはステップサイズを表す0以上の実数である。例えば、0.0<μ≦2.0である。
NLMSアルゴリズムの場合:
t+1=f+μy(t)q/Q(t) (23-2)
t+1=g+μy(t)p/Q(t)
ここで、Q(t)=p +q である。
騒音制御フィルタft+1は騒音制御部213に送られ、騒音制御部213に設定された騒音制御フィルタfが騒音制御フィルタft+1に更新される(ステップS215)。
【0047】
演算部217は、ステップS216で得られたb(t)=u(t)+r(t)に信号v(t)を加え、これにより信号x(t)を信号x(t+1)(第1信号)に更新する。ここで、以下の関係が成り立つ。
t+1=b+v (24)
t+1=[x(t+1),x(t),…,x(t-K+2)]
=u+r (25)
=[u(t),u(t-1),…,u(t-K+1)]
=[r(t),r(t-1),…,r(t-K+1)]
=[v(t),v(t-1),…,v(t-K+1)]
信号x(t+1)(第1信号)はスピーカ12および経路モデル適用部111に送られる(ステップS217)。
【0048】
以降、t+1を新たなtとして、ステップS23,S13,S111,S112,S113,S114,S115,S216,S213,S214,S215,S217を実行する処理(本実施形態の処理)が繰り返される。
【0049】
<本実施形態の特徴>
本実施形態では、ハイブリッド型の能動騒音制御システム2で用いられるマイクロホン13(耳内マイクロホン)を流用して送話信号を生成する際に、マイクロホン13で観測した内部観測信号y(t)をそのまま送話信号としない。本実施形態でも、内部観測信号y(t)から、二次経路モデルc’(第1経路モデル)を信号x(t)(第1信号)に適用して得られる信号w(t)(第2信号)の成分を減じ、これによって得られる信号h(t)(第3信号)に基づく送話信号を得た。この送話信号は、内部観測信号y(t)から擬似騒音信号x’(t)に対応する成分の少なくとも一部w(t)=c’を減じて得られる信号h(t)(第3信号)に基づくものである。また、式(4)、式(24)、および式(25)より、送話信号は、内部観測信号y(t)から少なくとも騒音制御フィルタg(第1騒音制御フィルタ)に基づく成分を減じて得られる信号に基づくともいえる(ステップS112)。第1実施形態と同様、本実施形態でも、能動騒音制御技術で用いられるマイクロホン13を流用し、利用者1000から発せられた音響信号に対応する高い音質の送話信号を得ることができる。
【0050】
[第2実施形態の変形例1]
図7に例示するように、利用者1000の耳に能動騒音制御システム2を装着し、その上からさらにイヤマフ16を装着してもよい。イヤマフ16により、筐体14の外部で発せられた騒音信号N(t)および利用者1000から発せられた音声信号S(t)はマイクロホン13,24に到達するまでにさらに大きく減衰し、マイクロホン13,23に到達し、観測信号n(t)や外部観測信号として観測される。一方、イヤマフ16にかかわらず、利用者1000の身体を伝搬された音響信号s’(t)はさほど減衰せずにマイクロホン13に到達し、音響信号s(t)として観測される。そのため、送話信号のS/N比をさらに改善できる。
【0051】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態は、第2実施形態の変形例である。本実施形態では、騒音制御フィルタfに基づくフィードフォワード側の能動騒音制御成分を残し、騒音制御フィルタgに基づくフィードバック側の能動騒音制御成分を能動騒音制御前に戻して送話信号を得る。これにより、送話信号のS/N比を向上させることができる。
【0052】
<構成>
図1に例示するように、本実施形態では、騒音環境下で、能動騒音制御システム3-iを装着したI人の利用者1000-iが音声通信を行う。図5に例示するように、本実施形態の能動騒音制御システム3は、集音装置31、スピーカ12、マイクロホン13(耳内マイクロホン)、マイクロホン23(外部マイクロホン)、筐体24、およびイヤーチップ15を有する。能動騒音制御システム3は、能動騒音制御システム3の集音装置21が集音装置31に置換されたものである。
【0053】
図8に例示するように、本実施形態の集音装置31は、経路モデル適用部111(第1経路モデル適用部)、演算部112(第1演算部)、騒音制御部113(第1騒音制御部)、経路モデル適用部114、更新部115、演算部216、騒音制御部213(第2騒音制御部)、経路モデル適用部214、更新部215、演算部217、経路モデル適用部311(第2経路モデル適用部)、および演算部318(第2演算部)を有する。
【0054】
経路モデル適用部311には、伝達特性c=[c,c,…,cM-1に基づく二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’](第2経路モデル)が設定されている。なお、本実施形態では、説明の簡略化のため、経路モデル適用部311に経路モデル適用部111と同じ二次経路モデルc’が設定される例を示す。しかし、これは本発明を限定するものではない。すなわち、二次経路モデルc’に代え、伝達特性cに基づくその他の二次経路モデル(伝達特性cと同一または近似する二次経路モデル)が経路モデル適用部311に格納されてもよい。伝達特性cに基づくその他の二次経路モデルのフィルタ長はMであってもよいし、M以外であってもよい。
【0055】
<処理>
本実施形態でも、第1,2実施形態で説明したステップS23,S13,S111,S112,S113,S114,S115,S216,S213,S214,S215,S217の処理が実行される。ただし、本実施形態のステップS112では、信号h(t)に基づく信号が送話信号として出力されない。またステップS113で得られた信号u(t)が、さらに経路モデル適用部311に送られる。経路モデル適用部311は、二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’](第2経路モデル)を信号u(t)(第4信号に基づく第6信号)に適用して(畳み込んで)信号a(t)(第7信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
a(t)=c’ (31)
c’=[c’,c’,…,cM-1’]
=[u(t),u(t-1),…,u(t-M+1)]
信号a(t)は演算部318に送られる(ステップS311)。
【0056】
演算部318には、内部観測信号y(t)および信号a(t)が送られる。演算部318は、内部観測信号y(t)から信号a(t)(第7信号)の成分を減じて信号h’(t)=y(t)-a(t)(第8信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
h’(t)=y(t)-a(t) (32)
信号h’(t)(第8信号)に基づく信号は、送話信号として出力される。信号h’(t)がそのまま送話信号とされてもよいし、信号h’(t)にエコーキャンセリング等その他の処理を施したものが送話信号とされてもよい。また送話信号は、そのまま、音声通信相手の他の利用者1000に使用される他の能動騒音制御システム3の集音装置31に送信されてもよいし、エコーキャンセリング等その他の処理を施された後、当該他の能動騒音制御システム3の集音装置31に送信されてもよい(ステップS318)。
【0057】
以降、t+1を新たなtとして、ステップS23,S13,S111,S112,S113,S114,S115,S216,S213,S214,S215,S217,S311,S318を実行する処理(本実施形態の処理)が繰り返される。
【0058】
<本実施形態の特徴>
本実施形態では、信号h’(t)(第8信号)に基づく信号が送話信号として得られる。ここで、式(1)(4)(31)より、式(32)は以下の式(33)のように変形できる。
h’(t)=y(t)-a(t) (32)
=c+s(t)+n(t)-c’ (33)
また、式(4)(21)(24)(25)より、式(33)のxのx(t)は、以下の式(34)のように近似できる。
x(t)=b(t)+v(t)
=u(t)+r(t)+v(t) (34)
式(34)を式(33)に代入すると以下の式(35)が得られる。
h’(t)=c+c+c+s(t)+n(t)-c’ (35)
ここでc’はcに近似するため、式(35)は以下の式(36)のように近似できる。
h’(t)=c+c+s(t)+n(t) (36)
式(36)に示すように、h’(t)では、成分cによって外部の雑音成分の少なくとも一部が抑制されている。しかし、vは外部観測信号z(t)の成分のみを含み、利用者1000の身体を伝搬された音響信号s’(t)に基づく観測信号s(t)の成分は含まれないかほとんど含まれない。そのため、成分cによって、利用者1000の身体を伝搬された音響信号s’(t)に基づく観測信号s(t)はほとんど抑制されない。これにより、本実施形態の信号h’(t)のS/N比は、第1,2実施形態の信号h(t)のS/N比よりも高く、信号h’(t)に基づく送話信号の音質もより高くなる。なお、本実施形態の送話信号も、内部観測信号y(t)から擬似騒音信号x’(t)に対応する成分の少なくとも一部w(t)=c’を減じて得られる信号h(t)に基づくものである。また、式(33)より、送話信号は、内部観測信号y(t)から少なくとも騒音制御フィルタg(第1騒音制御フィルタ)に基づく成分を減じて得られる信号に基づくともいえる。以上のように、本実施形態では、能動騒音制御技術で用いられるマイクロホン13を流用し、利用者1000から発せられた音響信号に対応する高い音質の送話信号を得ることができる。
【0059】
[第3実施形態の変形例1]
本実施形態でも、第2実施形態の変形例1と同様、利用者1000の耳に能動騒音制御システム3を装着し、その上からさらにイヤマフ16を装着してもよい。これにより、送話信号のS/N比をさらに改善できる。
【0060】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態は、第3実施形態の変形例である。本実施形態では、騒音制御部113から出力された信号が分岐される前に受話信号を加算する。これにより、理想的には送話信号に含まれる受話信号の回り込みをキャンセルできる。これにより、後段のエコーキャンセリング等を省略したり、簡略化できたりする。また、二次経路モデルの誤差等によって送話信号に含まれる受話信号をキャンセルできない場合であっても、送話信号に含まれる受話信号の回り込みを減らすことができる。これにより、後段のエコーキャンセリング等の性能を向上させることができる。
【0061】
<構成>
図1に例示するように、本実施形態では、騒音環境下で、能動騒音制御システム4-iを装着したI人の利用者1000-iが音声通信を行う。図5に例示するように、本実施形態の能動騒音制御システム4は、集音装置41、スピーカ12、マイクロホン13(耳内マイクロホン)、マイクロホン23(外部マイクロホン)、筐体24、およびイヤーチップ15を有する。能動騒音制御システム3は、能動騒音制御システム3の集音装置21が集音装置31に置換されたものである。
【0062】
図9に例示するように、本実施形態の集音装置41は、経路モデル適用部111(第1経路モデル適用部)、演算部112(第1演算部)、騒音制御部113(第1騒音制御部)、経路モデル適用部114、更新部115、演算部416(第3演算部)、騒音制御部213(第2騒音制御部)、経路モデル適用部214、更新部215、演算部217、経路モデル適用部411(第2経路モデル適用部)、および演算部418(第2演算部)を有する。
【0063】
<処理>
まず、第1,2実施形態で説明したステップS23,S13,S111,S112,S113,S114,S115の処理が実行される。ただし、本実施形態のステップS112では、信号h(t)に基づく信号が送話信号として出力されない。
【0064】
本実施形態では、ステップS216に代え、他の能動騒音制御システム4の集音装置41から受信した信号に基づく受話信号r(t)が演算部416に送られる。演算部416は、ステップS113で得られた信号u(t)(第4信号)に受話信号r(t)の成分を加えてb(t)=u(t)+r(t)(第4信号に基づく第6信号)を得、b(t)(第6信号)を演算部217および経路モデル適用部411に送る(ステップS416)。また、ステップS213,S214,S215,S217の処理が実行される。なお、本実施形態のステップS217は、信号v(t)(第5信号)にb(t)(第6信号)を加えてx(t+1)(更新後の第1信号)を得る処理に相当する。
【0065】
さらに、ステップS311に代えて、経路モデル適用部411が、二次経路モデルc’=[c’,c’,…,cM-1’](第2経路モデル)を信号b(t)(第4信号に基づく第6信号)に適用して(畳み込んで)信号d(t)(第7信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
d(t)=c’ (41)
c’=[c’,c’,…,cM-1’]
=[b(t),b(t-1),…,b(t-M+1)]
信号d(t)は演算部418に送られる(ステップS411)。
【0066】
また本実施形態では、ステップS318に代え、演算部418に、内部観測信号y(t)および信号d(t)が送られる。演算部418は、内部観測信号y(t)から信号d(t)(第7信号)の成分を減じて信号h”(t)=y(t)-d(t)(第8信号)を得て出力する。ここで、以下の関係が成り立つ。
h”(t)=y(t)-d(t) (42)
信号h”(t)(第8信号)に基づく信号は、送話信号として出力される。信号h”(t)がそのまま送話信号とされてもよいし、信号h”(t)にエコーキャンセリング等その他の処理を施したものが送話信号とされてもよい。また送話信号は、そのまま、音声通信相手の他の利用者1000に使用される他の能動騒音制御システム4の集音装置41に送信されてもよいし、エコーキャンセリング等その他の処理を施された後、当該他の能動騒音制御システム4の集音装置41に送信されてもよい(ステップS418)。
【0067】
<本実施形態の特徴>
本実施形態では、信号h”(t)(第8信号)に基づく信号が送話信号として得られる。ここで、式(1)(4)(25)(41)より、式(42)は以下の式(43)のように変形できる。
h”(t)=y(t)-d(t) (42)
=c+s(t)+n(t)-c’
=c+s(t)+n(t)-c’-c’ (43)
また、式(43)のxは、前述した式(34)のように近似できる。
x(t+1)=u(t)+r(t)+v(t) (34)
式(34)を式(43)に代入すると以下の式(45)が得られる。
h”(t)=c+c+c+s(t)
+n(t)-c’-c’ (45)
ここでc’はcに近似するため、式(45)は以下の式(46)のように近似できる。
h”(t)=c+s(t)+n(t) (46)
式(46)に示すように、理想的には信号h”(t)(第8信号)に受話信号r(t)の成分の成分は含まれておらず、それに基づく送話信号にも受話信号r(t)の成分の成分は含まれない。これにより、理想的には送話信号に含まれる受話信号の回り込みをキャンセルできる。その結果、後段のエコーキャンセリング等を省略したり、簡略化できたりする。ただし、伝達特性cに対する二次経路モデルc’の誤差等により、信号h”(t)に受話信号r(t)の一部の成分が残存する場合もある。その場合であっても、信号h”(t)に含まれる受話信号r(t)の成分は大幅に削減されている。これにより、送話信号に含まれる受話信号の回り込みを減らすことができる。その結果、後段のエコーキャンセリング等の性能を向上させることができる。
【0068】
また、式(46)に示すように、h”(t)では、成分cによって外部の雑音成分の少なくとも一部が抑制されている。しかし、式(21)に示すように、成分cに対応するzは外部観測信号z(t)の成分のみを含み、利用者1000の身体を伝搬された音響信号s’(t)に基づく観測信号s(t)の成分は含まれないかほとんど含まれない。そのため、成分cによって、利用者1000の身体を伝搬された音響信号s’(t)に基づく観測信号s(t)はほとんど抑制されない。これにより、本実施形態の信号h”(t)のS/N比は、第1,2実施形態の信号h(t)のS/N比よりも高く、信号h”(t)に基づく送話信号の音質もより高くなる。なお、本実施形態の送話信号も、内部観測信号y(t)から擬似騒音信号x’(t)に対応する成分の少なくとも一部w(t)=c’を減じて得られる信号h(t)に基づくものである。また、式(45)より、送話信号は、内部観測信号y(t)から少なくとも騒音制御フィルタg(第1騒音制御フィルタ)に基づく成分を減じて得られる信号に基づくともいえる。以上のように、本実施形態では、能動騒音制御技術で用いられるマイクロホン13を流用し、利用者1000から発せられた音響信号に対応する高い音質の送話信号を得ることができる。
【0069】
[第4実施形態の変形例1]
本実施形態でも、第2実施形態の変形例1と同様、利用者1000の耳に能動騒音制御システム4を装着し、その上からさらにイヤマフ16を装着してもよい。これにより、送話信号のS/N比をさらに改善できる。
【0070】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態を説明する。第5実施形態は、第3実施形態および第4実施形態の変形例である。本実施形態では、更新部115(第1更新部)および更新部215(第2更新部)が、騒音制御フィルタft+1によるx(t+1)(第1信号)への貢献度が、騒音制御フィルタgt+1によるx(t+1)(第1信号)への貢献度よりも大きくなるように、騒音制御フィルタgおよび騒音制御フィルタfをそれぞれ更新する。第3実施形態および第4実施形態では、騒音制御フィルタfに基づく能動騒音制御成分を残しつつ、騒音制御フィルタgに基づく能動騒音制御成分を能動騒音制御前に戻して送話信号を得た(式(36)(46))。このように、騒音制御フィルタfに基づく能動騒音制御に基づく能動騒音制御は送話信号の音質向上に貢献するが、騒音制御フィルタgに基づく能動騒音制御は送話信号の音質向上にほとんど貢献しない。そのため、騒音制御フィルタft+1によるx(t+1)への貢献度が、騒音制御フィルタgt+1によるx(t+1)(第1信号)への貢献度よりも大きくなるようにすることで、送話信号の音質をさらに向上させることができる。なお、利用者1000が聴取する信号の騒音制御については、騒音制御フィルタfに基づく能動騒音制御も騒音制御フィルタgに基づく能動騒音制御も貢献している。
【0071】
<処理>
第3実施形態および第4実施形態と、第5実施形態との違いは、更新部115の処理(ステップS115)および更新部115の処理(ステップS215)の処理のみである。以下では、この相違点のみを説明する。上述のように、本実施形態のステップS115およびステップS215では、騒音制御フィルタft+1による信号x(t+1)への貢献度(重み)が、騒音制御フィルタgt+1によるx(t+1)(第1信号)への貢献度(重み)よりも大きくなるように、騒音制御フィルタgおよび騒音制御フィルタfを更新する。以下に具体例を示す。
【0072】
<フィルタ更新方法の例1>
フィルタ更新方法の例1では、ステップS215における騒音制御フィルタfの更新のためのステップサイズμ(例えば、式(23-1)および式(23-2))を、ステップS115における騒音制御フィルタgの更新のためのステップサイズμ(例えば、式(13-1)および式(13-2))よりも大きくする。すなわち、μ>μ>0に設定する。ステップサイズが大きい方が騒音制御フィルタの要素(係数)の大きさ(振幅)が大きい。これにより、騒音制御フィルタft+1に基づくフィードフォワード側の能動騒音制御成分の信号x(t+1)に対する貢献度が、騒音制御フィルタgt+1に基づくフィードバック側の能動騒音制御成分の信号x(t+1)に対する貢献度よりも大きくなる。
【0073】
<フィルタ更新方法の例2>
フィルタ更新方法の例2では、ステップS115において、更新結果gt+1(例えば、式(13-1)や式(13-2))に係数γ1を乗じたものを更新後の騒音制御フィルタgt+1とし、ステップS215において、更新結果ft+1(例えば、式(23-1)や式(23-2))に係数γ2を乗じたものを更新後の騒音制御フィルタft+1とする。ただし、γ1は1よりも小さな正の実数係数(例えば、0.999)であり、γ2はγ1よりも大きく1以下の実数係数(例えば、0.9999)である。これによっても、騒音制御フィルタft+1に基づくフィードフォワード側の能動騒音制御成分の信号x(t+1)に対する貢献度が、騒音制御フィルタgt+1に基づくフィードバック側の能動騒音制御成分の信号x(t+1)に対する貢献度よりも大きくなる。
【0074】
<フィルタ更新方法の例3>
フィルタ更新方法の例2では、ステップS215による騒音制御フィルタfの更新頻度を、ステップS115による騒音制御フィルタfの更新頻度よりも高くする。例えば、ステップS215による騒音制御フィルタfの更新は各tで行うが、ステップS115による騒音制御フィルタfの更新は各tでは行わず、間隔を空けて行う(例えば、tが奇数の場合にのみ騒音制御フィルタfの更新を行う等)。これによっても、騒音制御フィルタft+1に基づくフィードフォワード側の能動騒音制御成分の信号x(t+1)に対する貢献度が、騒音制御フィルタgt+1に基づくフィードバック側の能動騒音制御成分の信号x(t+1)に対する貢献度よりも大きくなる。
【0075】
<フィルタ更新方法の例4>
その他、フィルタ更新方法の例1から例3の何れかを組み合わせてもよい。
【0076】
<本実施形態の特徴>
本実施形態では、騒音制御フィルタft+1によるx(t+1)(第1信号)への貢献度が、騒音制御フィルタgt+1によるx(t+1)(第1信号)への貢献度よりも大きくなるように、騒音制御フィルタgおよび騒音制御フィルタfをそれぞれ更新する。これにより、送話信号の音質をさらに向上させることができる。
【0077】
[第5実施形態の変形例1]
本実施形態でも、第2実施形態の変形例1と同様、利用者1000の耳に能動騒音制御システムを装着し、その上からさらにイヤマフ16を装着してもよい。これにより、送話信号のS/N比をさらに改善できる。
【0078】
[ハードウェア構成]
各実施形態における集音装置11,21,31,41は、例えば、CPU(central processing unit)等のプロセッサ(ハードウェア・プロセッサ)やRAM(random-access memory)・ROM(read-only memory)等のメモリ等を備える汎用または専用のコンピュータが所定のプログラムを実行することで構成される装置である。すなわち、各実施形態における集音装置11,21,31,41は、例えば、それぞれが有する各部を実装するように構成された処理回路(processing circuitry)を有する。このコンピュータは1個のプロセッサやメモリを備えていてもよいし、複数個のプロセッサやメモリを備えていてもよい。このプログラムはコンピュータにインストールされてもよいし、予めROM等に記録されていてもよい。また、CPUのようにプログラムが読み込まれることで機能構成を実現する電子回路(circuitry)ではなく、単独で処理機能を実現する電子回路を用いて一部またはすべての処理部が構成されてもよい。また、1個の装置を構成する電子回路が複数のCPUを含んでいてもよい。
【0079】
上述のプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体の例は非一時的な(non-transitory)記録媒体である。このような記録媒体の例は、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等である。
【0080】
このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0081】
各実施形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、集音装置11,21,31,41を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【0082】
[その他の変形例]
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の各実施形態では、集音装置11,21,31,41が能動騒音制御システム1,2,3,4に組み込まれていた。しかし、能動騒音制御システム1,2,3,4に集音装置11,21,31,41が組み込まれておらず、集音装置11,21,31,41が能動騒音制御システム1,2,3,4の外部に配置されていてもよい。
【0083】
上述の実施形態では、集音装置11,21,31,41の処理を時間領域で説明した。しかし、集音装置11,21,31,41の処理の少なくとも一部が時間周波数領域で実行されてもよい。すなわち、集音装置11,21,31,41の処理は、時間領域で実行されてもよいし、時間周波数領域で実行されてもよい。
【0084】
また、互いに異なる実施形態の能動騒音制御システムの間で音声通信が行われてもよいし、いずれかの能動騒音制御システム1,2,3,4と他の能動騒音制御システムとの間で音声通信が行われてもよい。
【0085】
また、上述の各種の処理は、記載に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0086】
1,2,3,4 能動騒音制御システム
11,21,31,41 集音装置
12 スピーカ
13,23 マイクロホン
101 外耳道
111,114,214,311,411 経路モデル適用部
112,116,216,217,318,416,418 演算部
113,213 騒音制御部
115,215 更新部
1000 利用者
1011 外耳道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9