(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013397
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】双ロール式連続鋳造用サイド堰および薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115455
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004RA02
4E004SC01
4E004SC07
(57)【要約】
【課題】鋳造開始から終了までの全期間に渡って安定した鋳造を可能とする、双ロール式連続鋳造用サイド堰および薄肉鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明では、サイド堰(堰)の内部温度検出器(熱電対等)を堰厚さ方向で電熱ヒータ中心位置から背面側の堰内部に配設し、堰予熱時には、堰内部温度初期加熱目標値に、堰内部温度測定値が近づくように、電熱ヒータに投入する電力を制御して予熱を開始し、堰予熱時の堰稼働面温度測定値を外部から受けて、堰稼働面温度と堰内部温度との乖離幅を把握し、その後の堰予熱時および鋳造時の堰の加熱に際して、堰稼働面目標温度から前記乖離幅を用いて新たに求まる堰内部温度の加熱目標値に、堰内部温度測定値が近づくように電熱ヒータへの投入電力を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面を水冷式補剛体に連結され、正面の稼働面には、一対の冷却ロールの端面と溶融金属とが同時に接する双ロール式連続鋳造用のサイド堰であって、
前記サイド堰は、
(a)前記稼働面を成すベース部材に埋め込まれた電熱ヒータと、
(b)前記稼働面の温度と対応付けられた内部温度の測定手段と、
(c)予熱時から鋳造時を通して、前記内部温度の測定値に基づいて前記電熱ヒータへの投入電力を制御することで、前記稼働面の温度を制御する制御装置と、を有し、
(b1)前記内部温度の測定手段は、前記内部温度の測温位置まで貫通し前記サイド堰背面に開口する温度測定孔と、前記温度測定孔の開口部近傍または該温度測定孔内に配設される前記内部温度を検出する温度検出器と、を有し、前記温度検出器の前記測温位置は、前記サイド堰の厚さ方向では、前記電熱ヒータの中心位置から前記ベース部材の背面側端面までの範囲で可変であり、前記稼働面に対して平行な面内では、前記電熱ヒータとは重複しない位置であり、
(c1)前記制御装置は、前記サイド堰の予熱時には、予熱の開始後に前記内部温度測定手段により測定される前記内部温度の測定値が初期加熱目標値に近づくように、前記電熱ヒータに投入する電力を制御しながら予熱を開始し、前記サイド堰の稼働面温度の測定値の外部信号を受けて、該稼働面温度の測定値と前記内部温度の測定値との乖離幅を把握し、その後の予熱時および鋳造時の前記サイド堰の加熱に際して、所定の稼働面目標温度から、前記乖離幅を用いて新たに求まる前記内部温度の加熱目標値に、前記内部温度の測定値が近づくように前記電熱ヒータに投入する電力を制御する、双ロール式連続鋳造用サイド堰。
【請求項2】
前記温度検出器の測温位置を前記温度測定孔の深さ方向に移動可能な移動機構を有する、請求項1に記載の双ロール式連続鋳造用サイド堰。
【請求項3】
背面を水冷式補剛体に連結され、正面の稼働面には、一対の冷却ロールの端面と溶融金属とが同時に接するサイド堰を有する双ロール式連続鋳造装置を用いた、薄肉鋳片の製造方法において、
前記サイド堰は、
(a)前記稼働面を成すベース部材に埋め込まれた電熱ヒータと、
(b)前記稼働面の温度と対応付けられた内部温度の測定手段と、
(c)予熱時から鋳造時を通して、前記内部温度の測定値に基づいて前記電熱ヒータへの投入電力を制御することで、前記稼働面の温度を制御する制御装置と、を有し、
(b1)前記内部温度の測定手段は、前記内部温度の測温位置まで貫通し前記サイド堰背面に開口する温度測定孔と、前記温度測定孔の開口部近傍または該温度測定孔内に配設される前記内部温度を検出する温度検出器と、を有し、前記温度検出器の前記測温位置は、前記サイド堰の厚さ方向では、前記電熱ヒータの中心位置から前記ベース部材の背面側端面までの範囲で可変であり、前記稼働面に対して平行な面内では、前記電熱ヒータとは重複しない位置であり、
(c2)前記制御装置により、前記サイド堰の予熱に際して、次の(1)式を満たす範囲で定められる前記稼働面の初期予熱目標温度から、前記サイド堰に個体差がないと仮定した場合の前記稼働面温度と前記内部温度との初期想定乖離幅ΔTis(0)を差し引いて求まる、前記内部温度の初期加熱目標値Tic(0)に、予熱の開始後に前記内部温度測定手段により測定される前記内部温度の測定値Tiが近づくように、前記電熱ヒータに投入する電力を制御しながら予熱を開始し、
予熱時に設置され鋳造時に除去される前記サイド堰の稼働面温度測定手段で、前記稼働面温度の測定値Tsを得て、前記内部温度の測定値Tiと併せて、次の(2)式により前記サイド堰の個体差を加味した前記稼働面温度と前記内部温度との乖離幅ΔTisを求め、該乖離幅ΔTisを用いて、次の(3)式を満たす範囲で、新たに前記内部温度の加熱目標値Ticを決定し、
その後の予熱時および鋳造時の前記サイド堰の加熱に際して、前記内部温度の測定値Tiが前記内部温度の加熱目標値Ticに近づくように前記電熱ヒータに投入する電力を制御する、薄肉鋳片の製造方法。
TL-250≦Tic(0)+ΔTis(0)≦TL-30 ・・・(1)
Ts-Ti=ΔTis ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
TL-250≦Tic+ΔTis≦TL-30 ・・・・・・・・・(3)
ただし、
Tic(0):内部温度の初期加熱目標値(℃)
ΔTis(0):稼働面温度と内部温度との初期想定乖離幅(℃)
Tic(0)+ΔTis(0):稼働面の初期予熱目標温度
TL:鋳造金属の液相線温度(℃)
Ts:稼働面温度の測定値(℃)
Ti:内部温度の測定値(℃)
Tic:内部温度の加熱目標値(℃)
ΔTis:稼働面温度の測定値と内部温度の測定値との乖離幅(℃)
【請求項4】
前記予熱の際に、前記温度検出器の測温位置を前記温度測定孔の深さ方向で移動させて、前記乖離幅ΔTisが0℃以上60℃以下となる測温位置を探索して確定させる、請求項3に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双ロール式連続鋳造用サイド堰および双ロール式連続鋳造による薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
双ロール式連続鋳造技術は、
図3に示すように、互いに反対方向に回転する一対の冷却ロール10(10a、10b)と、冷却ロール10の両端面に押し付けられて摺動接触する一対のサイド堰20(20a、20b)とによって湯溜まり部3を形成し、湯溜まり部3に連続的に供給した溶融金属5を冷却ロール10の周面で冷却して凝固シェル(図示せず)を生成させ、凝固シェルを一対の冷却ロール10a、10bの最接近部(ロールキス点)で圧着し一体化して薄肉鋳片7とする技術である。
【0003】
このサイド堰20は、
図3に示すように、冷却ロール10a、10b間の溶融金属をシールするために必要不可欠なものである。このような双ロール式連続鋳造技術におけるサイド堰のシール性を安定的に確保する技術として、特許文献1では、サイド堰の製造時や鋳造前の予熱時のサイド堰の熱変形を最小限に食い止め、その形状性を安定的に確保することができる双ロール式連続鋳造用サイド堰が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載のサイド堰20は、
図4に(a)の正面図および(b)のC-C矢視の断面図で示すように、側板30aと底板30bとからなる金属ケース30と、この金属ケース30に収容された不定形耐火物24と、この不定形耐火物24に植設されたベース部材22と、このベース部材22に冷却ロール10a、10bの端面と摺動するごとく植設されたY字型のセラミック当板26と、上記ベース部材22に埋設された電熱ヒータ42とからなっている。これにより、サイド堰としての基本的な機能である、地金付着防止のための断熱および加熱機能と、冷却ロール10の端面との摺動接触によるシール機能とを担保できるとしている。
【0005】
さらに、金属ケース30の背面には、熱変形を抑制するための剛性の高い補剛体(一般構造用圧延鋼板SS400製)32が取り付けられている。補剛体32は、金属ケース30の底板30bに、複数の連結ボスを介して複数の締結ボルト・ナット34により、締結される。この補剛体32は、冷却媒体の流通路36を内蔵し、冷却できるようになっており、溶融金属からの伝熱による補剛体32の剛性低下を防ぐことができるとしている。さらに補剛体32は、その背面が、支持ボルト・ナット40で支持体38に取り付けられており、サイド堰20の剛性を一層高めることができるとしている。
【0006】
サイド堰では、熱変形の抑制の問題の他、サイド堰への地金付着を防止しサイド堰への熱衝撃を緩和するための、鋳造開始前のサイド堰の予熱が重要である。なお、この予熱のための加熱装置を用いて、鋳造中にも引き続き地金付着を防止するための加熱が行われる場合も多い。
【0007】
特許文献2では、ホットバンドの発生につながる湯溜まり部内における地金張りの張り易さは、溶鋼の過熱温度(溶鋼温度-液相線温度)に関係し、また、鋳片エッジ部における低温側でのサイド堰地金張りや高温側での凝固不十分によるエッジ欠落などは液相線温度とサイド堰予熱温度との差に関係するとして、湯溜まり内の溶鋼温度とサイド堰予熱温度を制御する発明が開示されている。
【0008】
図5は、特許文献2で開示されている、タンディッシュ12から注湯ノズル14を経て供給される溶鋼5が湯溜まり部3内に溜まった鋳造中のサイド堰の温度制御系を説明する概略図である。図中のサイド堰20には加熱装置として電熱ヒータ42が埋設されており、湯溜まり部3内の溶鋼5の温度は測温装置44によって検出され、またサイド堰20の表層温度も温度測定装置46によって検出される。検出された溶鋼5の温度およびサイド堰の表層温度の信号は、制御装置48に入力され、制御装置48において両信号は所定の関係式に基づいて比較され、サイド堰の表層温度が所定の関係式を満たすように温度制御信号がサイド堰20の加熱装置としての電熱ヒータ42に出力される。
【0009】
また、特許文献3では、特許文献1に記載のサイド堰と類似の構造のサイド堰20において(
図4参照)、さらに金属ケース30の底板30bの外側からこの底板30bと不定形耐火物24を貫通する挿通孔を設け、この挿通孔に熱電対を挿通し、その先端を不定形耐火物24に面するベース部材22の背面に接触・配置したサイド堰20を開示している。このようなサイド堰20を備えた双ロール式連続鋳造装置による薄肉鋳片の製造では、予熱に際しては、この熱電対により予熱温度を検知しながら予熱し、この検知温度の範囲が定められた温度に達したときに鋳造を開始することで、連続鋳造操業を安定化し、高品質で均質な鋳片を製造することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07-068352号公報
【特許文献2】特開平05-318043号公報
【特許文献3】特開平07-096354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来より鋳造開始前にサイド堰の予熱を行なうのは、上述したとおりサイド堰への地金付着を防止し、サイド堰への熱衝撃を緩和するためであった。近年では、特許文献1に記載のような水冷式の補剛体構造の登場により熱衝撃の問題は解消されているものの、サイド堰への地金付着の防止のためには、依然として鋳造開始前にサイド堰の予熱を行う必要がある。サイド堰の予熱温度の管理精度が十分でなく、低温である場合には地金付着を引き起こしやすく、高温である場合には溶湯のシ-ルが不安定になって、いずれの場合も安定した連続鋳造操業ができない。そのため、サイド堰の温度の管理精度が大きな問題となってきている。また、サイド堰に埋め込まれた電熱ヒータによりサイド堰の予熱等の温度管理が行われる場合には、予熱中が電熱ヒータからの加熱のみの条件であるのに対し、鋳造中には稼動面で接触する溶融金属および冷却ロールが各々加熱源および冷却源として同時に加わった複雑な条件に変化することから、サイド堰の加熱制御のうえで温度測定位置の違いが大きな問題となる場合がある。
【0012】
このような観点から特許文献1に記載の発明を検討する。同文献には、確かにサイド堰20の予熱についてはサイド堰の稼働面(冷却ロール端面および溶融金属に接する面であり、単にサイド堰の表面という場合がある。)28の温度により予熱完了が判断されたことは記載されている。しかし、上記のような予熱中および鋳造中のサイド堰20の温度管理の問題については何ら記載されていない。
【0013】
また、同様に特許文献2に記載の発明について検討する。同文献では、鋳造中に、サイド堰20の稼働面の表層に埋め込まれた温度測定装置46により温度測定され、その測定温度に応じて電熱ヒータ42の加熱制御がなされることは記載されている。しかし、予熱中のサイド堰の熱源が電熱ヒータ42のみの条件から、鋳造中には熱源として溶融金属5も加わり、さらに冷却源として冷却ロール10も同時に加わる複雑な条件に変化する温度制御については、同文献には何ら記載されていない。
【0014】
さらに、特許文献3に記載の発明について検討する。同文献では、電熱ヒータ42が埋め込まれたベース部材22の背面に配置された熱電対により測定される温度データを用いて電熱ヒータ42を加熱制御することより、サイド堰20の鋳造開始までの予熱の温度管理がなされることが記載されている。しかし、鋳造開始後もサイド堰の温度管理を継続しようとする場合には、予熱中の電熱ヒータ42のみの条件から鋳造中の溶融金属5も熱源に加わり、さらに冷却ロール10も冷却源として同時に加わる複雑な温度制御が必要になるところ、このような点については同文献には何ら記載されていない。
【0015】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、予熱時にサイド堰の稼働面の温度と内部温度とを関連付けておくことにより、鋳造開始から終了までの全期間に渡って安定した鋳造を可能とする、双ロール式連続鋳造用サイド堰および薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[1]背面を水冷式補剛体に連結され、正面の稼働面には、一対の冷却ロールの端面と溶融金属とが同時に接する双ロール式連続鋳造用のサイド堰であって、
前記サイド堰は、
(a)前記稼働面を成すベース部材に埋め込まれた電熱ヒータと、
(b)前記稼働面の温度と対応付けられた内部温度の測定手段と、
(c)予熱時から鋳造時を通して、前記内部温度の測定値に基づいて前記電熱ヒータへの投入電力を制御することで、前記稼働面の温度を制御する制御装置と、を有し、
(b1)前記内部温度の測定手段は、前記内部温度の測温位置まで貫通し前記サイド堰背面に開口する温度測定孔と、前記温度測定孔の開口部近傍または該温度測定孔内に配設される前記内部温度を検出する温度検出器と、を有し、前記温度検出器の前記測温位置は、前記サイド堰の厚さ方向では、前記電熱ヒータの中心位置から前記ベース部材の背面側端面までの範囲で可変であり、前記稼働面に対して平行な面内では、前記電熱ヒータとは重複しない位置であり、
(c1)前記制御装置は、前記サイド堰の予熱時には、予熱の開始後に前記内部温度測定手段により測定される前記内部温度の測定値が初期加熱目標値に近づくように、前記電熱ヒータに投入する電力を制御しながら予熱を開始し、前記サイド堰の稼働面温度の測定値の外部信号を受けて、該稼働面温度の測定値と前記内部温度の測定値との乖離幅を把握し、その後の予熱時および鋳造時の前記サイド堰の加熱に際して、所定の稼働面目標温度から、前記乖離幅を用いて新たに求まる前記内部温度の加熱目標値に、前記内部温度の測定値が近づくように前記電熱ヒータに投入する電力を制御する、双ロール式連続鋳造用サイド堰。
【0017】
[2]前記温度検出器の測温位置を前記温度測定孔の深さ方向に移動可能な移動機構を有する、[1]に記載の双ロール式連続鋳造用サイド堰。
【0018】
[3]背面を水冷式補剛体に連結され、正面の稼働面には、一対の冷却ロールの端面と溶融金属とが同時に接するサイド堰を有する双ロール式連続鋳造装置を用いた、薄肉鋳片の製造方法において、
前記サイド堰は、
(a)前記稼働面を成すベース部材に埋め込まれた電熱ヒータと、
(b)前記稼働面の温度と対応付けられた内部温度の測定手段と、
(c)予熱時から鋳造時を通して、前記内部温度の測定値に基づいて前記電熱ヒータへの投入電力を制御することで、前記稼働面の温度を制御する制御装置と、を有し、
(b1)前記内部温度の測定手段は、前記内部温度の測温位置まで貫通し前記サイド堰背面に開口する温度測定孔と、前記温度測定孔の開口部近傍または該温度測定孔内に配設される前記内部温度を検出する温度検出器と、を有し、前記温度検出器の前記測温位置は、前記サイド堰の厚さ方向では、前記電熱ヒータの中心位置から前記ベース部材の背面側端面までの範囲で可変であり、前記稼働面に対して平行な面内では、前記電熱ヒータとは重複しない位置であり、
(c2)前記制御装置により、前記サイド堰の予熱に際して、次の(1)式を満たす範囲で定められる前記稼働面の初期予熱目標温度から、前記サイド堰に個体差がないと仮定した場合の前記稼働面温度と前記内部温度との初期想定乖離幅ΔTis(0)を差し引いて求まる、前記内部温度の初期加熱目標値Tic(0)に、予熱の開始後に前記内部温度測定手段により測定される前記内部温度の測定値Tiが近づくように、前記電熱ヒータに投入する電力を制御しながら予熱を開始し、
予熱時に設置され鋳造時に除去される前記サイド堰の稼働面温度測定手段で、前記稼働面温度の測定値Tsを得て、前記内部温度の測定値Tiと併せて、次の(2)式により前記サイド堰の個体差を加味した前記稼働面温度と前記内部温度との乖離幅ΔTisを求め、該乖離幅ΔTisを用いて、次の(3)式を満たす範囲で、新たに前記内部温度の加熱目標値Ticを決定し、
その後の予熱時および鋳造時の前記サイド堰の加熱に際して、前記内部温度の測定値Tiが前記内部温度の加熱目標値Ticに近づくように前記電熱ヒータに投入する電力を制御する、薄肉鋳片の製造方法。
TL-250≦Tic(0)+ΔTis(0)≦TL-30 ・・・(1)
Ts-Ti=ΔTis ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
TL-250≦Tic+ΔTis≦TL-30 ・・・・・・・・・(3)
ただし、
Tic(0):内部温度の初期加熱目標値(℃)
ΔTis(0):稼働面温度と内部温度との初期想定乖離幅(℃)
Tic(0)+ΔTis(0):稼働面の初期予熱目標温度
TL:鋳造金属の液相線温度(℃)
Ts:稼働面温度の測定値(℃)
Ti:内部温度の測定値(℃)
Tic:内部温度の加熱目標値(℃)
ΔTis:稼働面温度の測定値と内部温度の測定値との乖離幅(℃)
【0019】
[4]前記予熱の際に、前記温度検出器の測温位置を前記温度測定孔の深さ方向で移動させて、前記乖離幅ΔTisが0℃以上60℃以下となる測温位置を探索して確定させる、[3]に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
上述のように、本発明によれば、予熱時にサイド堰の稼働面の温度と内部温度とを関連付けておくことにより、鋳造開始から終了までの全期間に渡って安定した鋳造を可能とする、双ロール式連続鋳造用サイド堰および薄肉鋳片の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰の一例を正面図と断面図とで模式的に説明する図である。
【
図2】本発明の実施の形態2に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰の一例を正面図と断面図とで模式的に説明する図である。
【
図3】本発明を実施する双ロール式連続鋳造装置の一例を斜視図で模式的に説明する図である。
【
図4】従来技術に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰の一例を正面図と断面図とで模式的に説明する図である。
【
図5】従来技術に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰の他の例の温度制御系を一部断面概略図で説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰およびその双ロール式連続鋳造用サイド堰(単にサイド堰ともいう。)を用いた薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明の実施の形態に係るサイド堰20(20a、20b)は、
図3に示すような双ロール式連続鋳造装置1において、互いに反対方向に回転する一対の冷却ロール10(10a、10b)の両端面に、摺動接触するようにして一対でそれぞれ押し付けられ移動鋳型を形成する。双ロール式連続鋳造装置1による鋳造に際しては、この移動鋳型内に溶融金属5を連続的に供給して湯溜まり部3を形成し、冷却ロール10の周面で冷却して凝固シェル(図示せず)を生成させ、凝固シェルを一対の冷却ロール10a、10bの最接近部(ロールキス点)で圧着して一体化することにより、薄肉鋳片7を製造する。
【0024】
本発明の実施の形態に係るサイド堰20は、
図4に示すような従来技術に係るサイド堰20と共通する基本構成を有する。すなわち、本発明の実施形態に係るサイド堰20は、背面を水冷式補剛体32に連結する金属ケース30と、該金属ケース30に収容された不定形耐火物24と、該不定形耐火物を裏込めの耐火物とし、内部に発熱体(電熱ヒータ)42を埋め込み、サイド堰20の正面側の面を稼働面28とするベース部材22と、該べ-ス部材22に埋め込まれて、該ベース部材22と同一面を成して共に稼働面28を形成するとともに、冷却ロール10の端面との摺動面となるセラミック当板26とを基本構成とする。
【0025】
このようなサイド堰20の本体部分の基本構成により、サイド堰20としての基本的な機能である、地金付着防止のための断熱および加熱機能と、冷却ロール10の端面との摺動接触によるシール機能とを発揮させることができる。また、金属ケース30の背面の水冷式補剛体32は、サイド堰20の本体部分の熱変形を抑制するために剛性面でサイド堰20を補強する。この補剛体32は、水冷式であり、これにより溶融金属5および発熱体42からの伝熱による補剛体32自体の剛性低下を防ぐことができるものである。
【0026】
以上のようなサイド堰20に関連する構成の好適な素材としては、次のような素材を例示できる。すなわち、補剛体32および金属ケース30には一般構造用圧延鋼板SS400を、また、不定形耐火物24にはフュ-ズドSiO2質を、ベース部材22には高アルミナ質(Al2O3-C系耐火物等)を、セラミック当板26にはSi3N4-BN-AlN質を、電熱ヒータ42にはSiC発熱体を、それぞれ例示することができるが、これに限定はされない。
【0027】
サイド堰20の本体部分の厚さは80~150mm程度であり、補剛体32の厚さは80~200mm程度である。ベース部材22内部には、サイド堰20の幅方向両端に貫通する円筒状の貫通孔を複数本(2~7本程度)水平に設け、その孔内に棒状の発熱体(電熱ヒータ)42を内蔵させる。例えば、厚さ60mmのベース部材22の厚さ中心部に内径36mmの貫通孔を設ける。発熱体(電熱ヒータ)42は、貫通孔の中心に配する。発熱体の直径は20~25mm程度とする。
【0028】
サイド堰20の温度制御は、サイド堰内部の所定の測温位置で測定される内部温度に基づいて発熱体(電熱ヒータ)42に通電する電力を制御することにより行う。サイド堰内部の測温位置は、ベース部材22内の発熱体42配設用の貫通孔と干渉しない位置で、発熱体42の断面中心より背面側のベース部材22内部とする。例えば、厚さ60mmのベース部材22を用いる場合、稼働面28からの厚さ方向距離は、30~60mmの範囲となる。また、サイド堰稼働面28に対して平行な面内での測温位置は、前記電熱ヒータ42とは重複しない位置であり、鋳造時、湯溜まり部3の溶融金属5と接触する面に相当する位置が典型的な位置である。例えば、サイド堰20の幅中心で湯溜まり部3の溶融金属深さ120mmの位置である。なお、サイド堰20内部の好ましい測温位置については、後述する
図2で、内部温度測温位置の好ましい範囲58として説明する。
【0029】
内部温度を検出する温度検出器として、典型的には熱電対を例示できる。温度検出器に熱電対が用いられる場合の測温位置54は熱電対先端位置である。なお、熱電対は、サイド堰という過酷な使用環境であることから、熱電対保護管に収容した状態で用いる。
図1、
図2では熱電対保護管を温度検出管52として表示している。
【0030】
また、熱電対以外の内部温度の温度検出器として、赤外線放射温度計も使用することができる。赤外線放射温度計を用いる場合、黒鉛製のチューブ(黒鉛管ともいう。)の一端に底面を設け、底面を温度検出対象として測温する。この場合の温度検出管52は黒鉛管であり、測温位置54は黒鉛管底面位置である。なお、黒鉛がほぼ黒体とみなせるため、輻射率は1とする。
【0031】
本実施の形態において製造される薄肉鋳片7は、例えば各種組成の鋼からなり、その幅が100mm以上2000mmの範囲内、厚さが1mm以上6mm以下の範囲内のものを挙げることができる。
【0032】
ここで、双ロール式連続鋳造装置1における鋳造の安定性、および鋳造される薄肉鋳片7の品質向上の課題に対して一つの有効な解決手段となり得る、サイド堰20の稼働面温度の適正範囲制御の問題について検討する。通常、サイド堰20の加熱温度制御は、予熱時から鋳造時を通して温度測定が可能であることを考慮して、内装された温度検出器(一般的には、熱電対が用いられることが多い。)による測定値に基づいて行われる。予熱時には、制御対象であるサイド堰稼働面温度を直接測定することに大きな支障はないものの、鋳造時には、サイド堰の稼働面28には冷却ロール10の端面および溶融金属5が接することになり稼働面28の温度を直接測定することが困難になるからである。そこで、このようなサイド堰20の稼働面温度の適正範囲制御の前提となるサイド堰20の温度測定について、さらに具体的に検討する。
【0033】
まずはじめに、目的とするサイド堰の稼働面温度と間接測定される内部温度との間で生じる乖離幅の取り扱いの問題について検討する。間接測定であるため、対象とする測定値と間接測定値との間で乖離が生じることは避けられないとしても、その間の対応関係が明確であれば問題ないことが多い。しかしながら、サイド堰内での温度測定の場合は、両者の対応関係が複雑である。例えば、サイド堰20は、構造上、特性のばらつきの大きい耐火物を主要構成要素としており、温度特性上の個体差が大きいものである。また、サイド堰加熱の熱源である発熱体(電熱ヒータ)42もセラミックであり、温度特性上の個体差を無視できない。このようにサイド堰20は、温度特性上の多くの変動要因を含んでいるため、同時に使用される一対のサイド堰20a、20bの間でも、それぞれの稼働面温度と内部温度測定値との乖離幅に差が生じる場合もある。そのため、目的とするサイド堰20の稼働面温度と間接測定される内部温度との間で対応関係付けすることは容易でないことが分かる。
【0034】
次に、サイド堰20の厚さ方向の温度勾配と温度測定位置(測温位置ともいう)の選択の問題について検討する。本発明の実施の形態に係るサイド堰20は、構造上、背面側の水冷式補剛体32と連結されていることから、サイド堰20の厚さ方向では急峻でかつ温度差の大きい温度分布が生じている。さらに、このサイド堰厚さ方向の温度分布には、発熱体42中心を最高点とし、稼働面28側に向かって緩やかに温度低下していく温度勾配と、背面側に向かって急に温度低下していく温度勾配とがある。このような温度勾配がある場合には、温度測定位置の僅かな変動により温度測定値が大きく変動してしまう可能性があることが分かる。
【0035】
また、サイド堰20の内部の温度分布は、予熱中と鋳造中とで異なるという問題がある。予熱中は、サイド堰20の発熱体42から稼働面28側では、外的環境が断熱または放冷の状態である。そのため、予熱中は、稼働面28の面内方向で温度分布は殆どなく、厚さ方向も稼働面28側に向かって緩やかに温度低下していく温度分布であり、温度測定上の大きな問題はない。他方、鋳造中は、サイド堰20の稼働面28の面内位置により、伝熱挙動が変化する。すなわち、サイド堰20の稼働面28においては、冷却ロール10の端面と摺接する部位では冷却ロール10の端面から抜熱され、溶融金属5と接する部位では溶融金属5から入熱する。そのため、鋳造中に、サイド堰20の稼働面28側に近い厚さ方向位置での内部温度の測定値に基づいて、サイド堰20の温度制御を行うことは好ましくない。
【0036】
例えば、内部温度の測温位置がサイド堰20の稼働面28内で冷却ロール10の端面との摺接部位に対応する場合、冷却ロール10の端面からの抜熱の影響により内部温度の測定値が低く出力されるため、内部温度を目標値まで高める誤った制御が働いて発熱体42への電力印加が強まる。一方、内部温度の測温位置がサイド堰20の稼働面28内で溶融金属5との接触部位に対応する場合、溶融金属5からの入熱の影響により内部温度の測定値が高く出力されるため、内部温度を目標値まで低める誤った制御が働いて発熱体42への電力印加が弱まる。
【0037】
これに対し、サイド堰の厚さ方向で発熱体42中心から背面側の温度分布は、主に発熱体42からの入熱と水冷式補剛体32への抜熱により決まると考えられ、予熱中も鋳造中も、上記のような稼働面28側の伝熱挙動の変動の影響は殆ど受けないと考えられる。
【0038】
以上のような検討の結果から、サイド堰20の温度制御は、稼働面28側の抜熱または入熱の影響が少なくなるように、発熱体42の位置から背面側の厚さ方向位置で行うのが制御上好ましいことが分かる。このような内部温度の測温位置を採用することにより、鋳造中もサイド堰20の稼働面28側の抜熱または入熱の影響を受けることがないため、鋳造中も予熱中と同様に内部温度の測定値に基づいてサイド堰20の発熱体42への電力印加の制御を行うことができるからである。
【0039】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰20の例を模式的に説明する図であり、(a)は正面図、(b)はA-A矢視の断面図である。
図1、
図3および
図4を参照して、実施の形態1に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰20、および実施の形態1に係るサイド堰20が配設される、双ロール式連続鋳造装置1を用いた薄肉鋳片7の製造方法について説明する。
【0040】
実施の形態1に係るサイド堰20は、
図4に示すような従来技術に係るサイド堰20と共通する基本構成を有する。そのうえで、本実施の形態1に係るサイド堰20は、サイド堰20の内部温度を検出する温度検出器と、該温度検出器を配設するための温度測定孔50とからなる内部温度測定手段を有する。温度検出器の測温位置は、サイド堰20の厚さ方向では、電熱ヒータ42の中心位置からベース部材22の背面側端面までの範囲で可変であり、稼働面28に対して平行な面内では、電熱ヒータ42とは重複しない位置である。
【0041】
温度測定孔50は、サイド堰20の内部温度測定用の温度検出器の温度検出管(熱電対保護管または黒鉛管)52を挿入するための孔である。温度測定孔50の開口部は、予熱時から鋳造時を通して温度測定を可能とするために、サイド堰20の背面、具体的には、金属ケースの底板30bに設けられる。また、温度測定孔50の貫入深さは、金属ケースの底板30bおよび不定形耐火物24を貫通し、さらにベース部材22内の電熱ヒータ42の厚さ方向中心位置までである。これは、内部温度の測温位置(熱電対先端位置または黒鉛管底面位置)54が電熱ヒータ42の中心位置から稼働面28までの範囲では、鋳造中に稼働面28の冷却ロール10の端面と摺接する部位では抜熱され、溶融金属5と接する部位では入熱することとなり、内部温度測定値に基づくサイド堰20の温度制御が困難になるためである。
【0042】
内部温度の測温位置54が、電熱ヒータ42の厚さ方向中心位置までであれば、稼働面28側の抜熱または入熱の影響が少なく、内部温度測定値に基づくサイド堰20の温度制御が可能になる。例えば、サイド堰厚さが100mm程度の場合、測温位置54の厚さ方向位置は、稼働面28から30~60mm程度である。サイド堰の制御対象である稼働面温度と制御に用いることのできる実測の内部温度との乖離幅を低減し、温度制御の応答性を確保するためには、稼働面28から40~55mm(発熱体の径中心から10~25mm背面側)とするのが好ましい。
【0043】
なお、温度測定孔50を、稼働面28に対して平行な面内で、電熱ヒータ42とは重複しない位置とするのは、電熱ヒータ42とは重複する場合には厚さ方向位置によっては電熱ヒータ42に近すぎて電熱ヒータ42そのものの温度を測定することとなって内部温度の測温位置54として相応しくない場合を含むことになるからである。
【0044】
次に、実施の形態1に係るサイド堰20が有する制御装置、および実施の形態1に係るサイド堰20が配設される、双ロール式連続鋳造装置を用いた薄肉鋳片の製造方法におけるサイド堰20の温度の制御方法について説明する。
【0045】
実施の形態1に係るサイド堰20の制御装置は、サイド堰20の予熱時には、予熱の開始後に内部温度測定手段により測定される内部温度の測定値が初期加熱目標値に近づくように、電熱ヒータ42に投入する電力を制御しながら予熱を開始する。次に、サイド堰20の稼働面28の温度の測定値の外部信号を受けて、該稼働面温度の測定値と内部温度の測定値との乖離幅を把握する。その後の予熱時および鋳造時の前記サイド堰20の加熱に際して、所定の稼働面目標温度から、前記の乖離幅を用いて新たに求まる内部温度の加熱目標値に、内部温度の測定値が近づくように電熱ヒータ42に投入する電力を制御する。
【0046】
また、実施の形態1に係るサイド堰20が配設される、双ロール式連続鋳造装置1を用いた薄肉鋳片7の製造方法においては、稼働面28の初期予熱目標温度を、(1)式のとおりの液相線温度TL-250(℃)以上、同TL-30(℃)以下とする。なお、稼働面予熱目標温度を液相線温度TL-250(℃)以上とするのは、この温度より低い場合はサイド堰20に地金が張るようになり激しいホットバンドの発生を引き起こすようになるためである。また、稼働面予熱目標温度を液相線温度TL-30(℃)以下とするのは、この温度より高い場合は凝固が不十分となってエッジ部の欠落が起こるようになるためである。
TL-250≦Tic(0)+ΔTis(0)≦TL-30 ・・・(1)
【0047】
また、本実施の形態1では、予熱時から鋳造時を通して稼働面28の温度制御を行うために、予熱時から鋳造時を通して直接測定可能な内部温度を制御指標として用いることとする。しかし、予熱の開始時には、稼働面温度と内部温度との乖離幅のような熱的特性の個体差が不明であるため、上記のような稼働面28の初期予熱目標温度から、サイド堰に個体差がないと仮定した場合の稼働面温度と内部温度との初期想定乖離幅ΔTis(0)を差し引いて、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を定める。この内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を制御指標に用いることで、予熱の開始後に内部温度測定手段により測定される内部温度の測定値TiがTic(0)に近づくように、電熱ヒータ42に投入する電力を制御しながら予熱を開始することができる。
【0048】
予熱が進んだ段階で、予熱時に設置され鋳造時に除去されるサイド堰20の稼働面温度測定手段で、稼働面温度の測定値Tsを外部信号として得る。なお、この温度測定手段は、鋳造時には冷却ロール10や溶融金属5との干渉を考慮して除去され、予熱時限定で用いられる。
【0049】
この稼働面温度の測定値Tsと上記の内部温度の測定値Tiとを併せて、(2)式によりサイド堰20の個体差を加味した稼働面温度と内部温度との乖離幅ΔTisを求めることができる。さらに、この乖離幅ΔTisを用いて、(3)式を満たす範囲で、サイド堰の個体差を織り込んだ新たな内部温度の加熱目標値Ticを決定することができる。なお、(3)式も、(1)式と同様の理由で、稼働面目標温度の上下限を液相線温度TLを基準にして表したものである。
Ts-Ti=ΔTis ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
TL-250≦Tic+ΔTis≦TL-30 ・・・・・・・・・(3)
【0050】
その後の予熱時および鋳造時のサイド堰の加熱に際しては、上記のとおりの新たな内部温度の加熱目標値Ticに内部温度の測定値Tiが近づくように、電熱ヒータ42に投入する電力を制御することで、応答性と制御精度の高いサイド堰20の加熱制御を行うことができ、延いては鋳造品質の高い薄肉鋳片7を製造することができる。
【0051】
実施の形態1では、サイド堰20毎に個体差の大きい、稼働面温度の測定値Tsと内部温度の測定値Tiとの乖離幅ΔTisを予熱終了までに把握しており、個体差の問題を有していない。また、内部温度の測温位置を電熱ヒータ42の厚さ方向中心位置から背面側としており、内部温度の測定値Tiは、予熱時から鋳造時を通して安定的に同等の値を示すと考えられる。そのため、サイド堰の稼働面温度の制御に、サイド堰の内部温度Tiを指標として問題なく用いることができる。
【0052】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰21の例を模式的に説明する図であり、(a)は正面図、(b)はB-B矢視の断面図である。
図2を参照して、実施の形態2に係る双ロール式連続鋳造用サイド堰21、および実施の形態2に係るサイド堰21が配設される、双ロール式連続鋳造装置1を用いた薄肉鋳片7の製造方法について説明する。
【0053】
図2に示すように、実施の形態2に係るサイド堰21は、実施の形態1に係るサイド堰20と比較した場合に、温度検出器の測温位置54を温度測定孔50の深さ方向に移動可能な温度検出管移動機構(単に移動機構ともいう。)56を有する点において相違する。また、実施の形態2に係るサイド堰21が配設される、双ロール式連続鋳造装置1を用いた薄肉鋳片7の製造方法は、実施の形態1に係るサイド堰20が配設される、双ロール式連続鋳造装置1を用いた薄肉鋳片7の製造方法と比較した場合に、予熱の際に、温度検出器の測温位置54を温度測定孔50の深さ方向で移動させて、稼働面温度の測定値Tsと内部温度の測定値Tiとの乖離幅ΔTisが0℃以上60℃以下となる測温位置54を探索して確定させる点において相違する。その他の構成については、実施の形態1とほぼ同様である。
【0054】
実施の形態1との主たる相違点としては、実施の形態2では、稼働面温度の測定値Tsと内部温度の測定値Tiとの乖離幅ΔTisを0℃以上60℃以下となる測温位置54を探索して確定させるために、移動機構56を有するのに対し、実施の形態1ではそのようなことがない点である。
【0055】
図2には、サイド堰20、21の温度制御用の内部温度測温位置の好ましい範囲58を併せて示している。サイド堰の高さ方向位置は、稼働面28の溶融金属5との接触部を含む領域で湯溜まり部3の底(冷却ロールのキス点)から湯溜まり部3のメニスカス上方20mmの範囲とするのが好ましい。サイド堰20、21の幅方向位置は、稼働面28の溶融金属5との接触部を含む領域から、冷却ロール10の周面(図中の10a、10bの位置参照)より内径側に半径-20mmまでの範囲とするのが好ましい。サイド堰20、21の厚さ方向位置は、発熱体(電熱ヒータ)42の厚さ方向中心位置(円筒形状の発熱体の場合、断面円中心)から背面側に30mmまでの範囲とするのが好ましい。以上のような内部温度測温位置の好ましい範囲58を外れる位置で内部温度を測定する場合は、サイド堰20、21の稼働面温度の測定値Tsと内部温度Tiとの乖離幅ΔTisが大きくなり、電熱ヒータ42によるサイド堰20、21の温度制御の応答性および制御精度を高めることが難しくなるからである。なお、実施の形態1に係るサイド堰20についても、同様のサイド堰20の温度制御用の内部温度測温位置の好ましい範囲58を規定できるが
図1ではその記載を省略している。
【0056】
測温位置の移動調整範囲は、例えばサイド堰21の厚さが100mm程度の場合、初期位置から深さ方向に前後10mm程度である。移動機構56としては、ボールねじ機構やラック&ピニオン機構を例示することができるが、これに限定はされない。
【0057】
以上のように構成される場合であっても、実施の形態2に係るサイド堰21は、実施の形態1に係るサイド堰20とほぼ同様の効果が得られる。
【0058】
加えて、移動機構56により温度検出管52を移動させることを通して温度検出器の測温位置54を移動させることにより、熱的特性の個体差の大きいサイド堰21において、稼働面温度の測定値Tsと内部温度の測定値Tiとの乖離幅ΔTisの個体差を縮小させることができ、延いてはサイド堰の加熱温度制御の応答性および制御精度を高めることができる。また、この移動機構56により、サイド堰21の電熱ヒータ42から背面側の水冷式補剛体32に向かって急に温度低下していく急峻かつ大きな温度勾配となっている測温位置を有利に避けることもできる。
【0059】
さらに、稼働面温度の測定値Tsと内部温度の測定値Tiとの乖離幅ΔTisを0℃以上60℃以下とすることができれば、実測される内部温度の測定値Tiを通した稼働面温度の応答性および制御精度をさらに高めることができ好ましい。
【実施例0060】
以下に、本発明の効果を確認すべく実施した実施例について説明する。なお、本発明は上記で実施の形態として説明した各形態を含み、以下で説明する実施例の形態に限定されるものではない。
【0061】
本実施例の薄肉鋳片の共通する実験条件は以下の通りである。
鋳造品種:質量%で0.05%C、0.6%Si、1.5%Mn、0.03%Al、
残部Fe及び不純物の低炭素鋼(本組成の液相線温度TL=1519℃)
冷却ロールの直径:500mm
鋳造幅:800mm
湯溜まり部の溶鋼深さ:190mm
鋳造厚み:平均2.0mm
鋳造速度:平均50m/min
鋳造雰囲気:Ar
【0062】
また、サイド堰として、以下のものを使用した。すなわち、サイド堰本体の背面には水冷式の補剛体(SS400の鋼製、厚さ100mm)を設け、サイド堰本体の厚さは100mmで、鋼製(SS400)の金属ケース枠内に、厚さ40mmの不定形耐火物、厚さ60mmのアルミナ-黒鉛材質(Al2O3-C系耐火物)のベース部材を組み込んだ。また、ベース部材の冷却ロール端面と摺接する部位にはセラミック当板を嵌め込んだ。
サイド堰の稼働面(溶鋼側表面)側に配した厚さ60mmのベース部材の厚中心部に内径36mmの貫通孔を3本設け、各孔の径中心に直径20mmの発熱体(電熱ヒータ)を水平方向に配置した。3本の発熱体の径中心位置は、湯溜まり部の底(冷却ロールのキス点)から各々100mm、160mm、220mm上方とした。サイド堰の内部温度の測定は熱電対により行うこととした。
サイド堰内部の厚さ方向での測温位置(熱電対先端位置)は、稼働面からの距離50mmの位置とし、稼働面の面内位置は、サイド堰の幅中心で湯溜まり部の底(冷却ロールのキス点)から120mm上方の位置とした。
【0063】
表1に、本発明の実施の形態1に係る発明例1~4、実施の形態2に係る発明例5、6、および、比較例1~3をまとめて示す。なお、ここでは、一対のサイド堰を右堰、左堰と称し、表1ではR、Lで示す。
【0064】
発明例1として、まずサイド堰の初期加熱条件を決定した。具体的には、鋳造鋼の液相線温度TL=1519℃を(1)式に代入すると、稼働面の初期予熱目標温度(=Tic(0)+ΔTis(0))は1269~1489℃とするのが好ましいため、その範囲内で、稼働面温度と内部温度との初期想定乖離幅ΔTis(0)を100℃と仮定して、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を1200℃とした。
【0065】
この初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1200℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1350℃、Ti=1200℃、ΔTis=+150℃となり、左堰では、Ts=1210℃、Ti=1200℃、ΔTis=+10℃となった。ここで、個体差による右堰と左堰の各々の乖離幅が確認できたため、右堰と左堰のいずれでも稼働面温度が1350℃となるように、左堰の内部温度の加熱目標値Ticを1340℃に再設定して予熱を継続し、安定するまで保持した。再び各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定した結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1350℃、Ti=1200℃、ΔTis=+150℃が維持され、左堰では、Ts=1348℃、Ti=1340℃、ΔTis=+8℃となった。
【0066】
これで、右堰と左堰のいずれでも稼働面温度が測定値Tsで予熱の目標温度に到達しており、その稼働面温度を制御するための右堰と左堰の各々の内部温度の加熱目標値もそれぞれ1200℃、1340℃として鋳造を開始できると判断した。そこで、この条件でサイド堰の加熱制御を継続しながら鋳造を開始したところ、問題なく鋳造ができ、端部形状も良好な鋳片を製造できた。このことからサイド堰稼働面温度が鋳造中に適正範囲内に維持されたと推定される。
【0067】
発明例2では、発明例1と同様のサイド堰を使用し、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を1250℃とした以外は発明例1と同様の初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1250℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1273℃、Ti=1250℃、ΔTis=+23℃となり、左堰では、Ts=1346℃、Ti=1250℃、ΔTis=+96℃となった。ここでは、稼働面予熱目標温度としての下限温度1269℃に近い鋳造実験とするために、左堰の稼働面温度を右堰の稼働面温度と同等になるように、左堰の内部温度の加熱目標値Ticのみ1180℃に再設定して予熱を継続し、安定するまで保持した。再び各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定した結果、表1に示すとおり、右堰と左堰のいずれの稼働面温度の測定値Tsを稼働面予熱目標温度の下限温度近傍にすることが確認できたため、この条件でサイド堰の加熱制御を継続しながら鋳造を開始した。その結果、鋳造開始30秒以内に鋳片の左側に微小な地金が生成し軽微なホットバンドが発生したが、鋳造には影響なく安定鋳造することができた。
【0068】
発明例3では、発明例1と同様のサイド堰を使用し、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を1250℃とした以外は発明例1と同様の初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1250℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1408℃、Ti=1250℃、ΔTis=+158℃となり、左堰では、Ts=1390℃、Ti=1250℃、ΔTis=+140℃となった。ここでは、稼働面予熱目標温度としての上限温度1489℃に近い鋳造実験とするために、右堰の内部温度の加熱目標値Ticを1320℃に再設定し、左堰の内部温度の加熱目標値Ticを1340℃に再設定して予熱を継続し、安定するまで保持した。再び各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定した結果、表1に示すとおり、左堰の稼働面温度の測定値Tsを稼働面予熱目標温度の上限温度にすることができたが、右堰では稼働面温度の測定値Tsが稼働面予熱目標温度の上限から十数℃低いことを確認した。そこで、左堰の加熱条件は維持しながら、右堰のみ内部温度の加熱目標値Ticを10℃上方に修正することとし、この条件でサイド堰の加熱制御を継続しながら鋳造を開始した。その結果、鋳造中に鋳片の左側の形状が一時的に乱れ鋸刃状を呈したが、鋳造には影響なく安定鋳造することができた。
【0069】
発明例4では、発明例1と同様のサイド堰を使用し、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)も含め発明例1と同様の初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1200℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1272℃、Ti=1200℃、ΔTis=+72℃となり、左堰では、Ts=1187℃、Ti=1200℃、ΔTis=-13℃となった。ここでは、一旦右堰と左堰の稼働面温度を揃えるために、右堰の内部温度の加熱目標値Ticのみを1120℃に再設定して予熱を継続し、安定するまで保持した。再び各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定した結果、表1に示すとおり、右堰と左堰のいずれの稼働面温度の測定値Tsを同等に揃えることができた。しかしこれでは稼働面予熱目標温度の下限温度を下回るため、右堰と左堰のいずれの内部温度の加熱目標値Ticもそれぞれ150℃上方に修正してサイド堰の加熱制御を継続しながら鋳造を開始した。その結果、発明例1と同様に安定鋳造することができた。
【0070】
発明例5では、サイド堰本体構成としては発明例1と同様のものであるが、熱電対を挿入した熱電対保護管52ごと堰厚さ方向に±10mm移動可能な機構を設け、堰厚さ方向の測温位置を調整可能なものを使用した。また、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を1250℃とした以外は発明例1と同様の初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1250℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1230℃、Ti=1250℃、ΔTis=-20℃となり、左堰では、Ts=1405℃、Ti=1250℃、ΔTis=+155℃となった。ここで、右堰と左堰のいずれでも、乖離幅ΔTisが0℃以上60℃以下で同等の値となるように、測温位置を調整した結果、右堰では3mm稼働面側に前進させ(背面側から差し込み)、左堰では7mm稼働面側から後退させる(背面側から引き抜き)ことで、稼働面温度Ts、内部温度Ti、および乖離幅ΔTisの全てで、左右差なく同等に揃えることができることを確認した。ただし測温位置調整後の稼働面温度が1280℃程度で稼働面予熱目標温度の下限に近い温度であったため、この稼働面温度を1350℃超とするために、内部温度の加熱目標値Ticを1320℃に再設定して予熱を継続し、その加熱目標値に到達後に鋳造を開始した。その結果、問題なく鋳造が開始でき、さらに鋳造中も問題なく端部形状が良好な薄肉鋳片を製造することができた。
【0071】
発明例6では、サイド堰は発明例5と同様の熱電対の測温位置の移動機構を有するものを用い、初期加熱条件も発明例5と同様の条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1250℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1371℃、Ti=1250℃、ΔTis=+121℃となり、左堰では、Ts=1304℃、Ti=1250℃、ΔTis=+54℃となった。ここで、右堰と左堰のいずれでも、乖離幅ΔTisが0℃以上60℃以下で同等の値となるように、右堰のみ測温位置を調整した結果、3mm稼働面側から後退させる(背面側から引き抜き)ことで、稼働面温度Ts、内部温度Ti、および乖離幅ΔTisの全てで、左右差なく同等に揃えることができることを確認した。測温位置調整後の稼働面温度は1300℃を僅かに超える程度で問題ない温度であったため、内部温度の加熱目標値Ticを1250℃としたままで鋳造を開始した。その結果、問題なく鋳造が開始でき、さらに鋳造中も問題なく端部形状が良好な薄肉鋳片を製造することができた。
【0072】
比較例1では、サイド堰本体は発明例1と同様のサイド堰を使用し、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を1250℃とした以外は発明例1と同様の初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1250℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1334℃、Ti=1250℃、ΔTis=+84℃となり、左堰では、Ts=1261℃、Ti=1250℃、ΔTis=+11℃となった。ここでは、発明例1~4のような右堰、左堰の内部温度の加熱目標値Ticの再設定を行うことなく、そのままの条件でサイド堰の加熱制御を継続しながら鋳造を開始した。その結果、左側堰の内部温度の加熱目標値では、稼働面温度が加熱目標温度の下限を下回るほど低すぎる可能性があり、鋳造初期に左堰側に地金が形成して鋳片に巻き込まれた。その後、鋳造を継続したが、左堰側での地金発生が頻発したため鋳片に割れが生じ、健全な鋳片を得ることができなかった。
【0073】
比較例2では、サイド堰本体は発明例1と同様のサイド堰を使用し、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)も含め発明例1と同様の初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1200℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1216℃、Ti=1200℃、ΔTis=+16℃となり、左堰では、Ts=1332℃、Ti=1200℃、ΔTis=+132℃となった。ここでは、発明例1~4のような右堰、左堰の内部温度の加熱目標値Ticの再設定を行うことなく、そのままの条件でサイド堰の加熱制御を継続しながら鋳造を開始した。その結果、右側堰の内部温度の加熱目標値が低すぎたため、鋳造初期に右堰側に地金が形成して鋳片に巻き込まれた。その後、鋳造を継続したが、右堰側での地金発生が頻発したため鋳片に割れが生じ、健全な鋳片を得ることができなかった。
【0074】
比較例3では、サイド堰本体は発明例1と同様のサイド堰を使用し、内部温度の初期加熱目標値Tic(0)を1250℃とした以外は発明例1と同様の初期加熱条件で加熱制御しながらサイド堰をTi=1250℃まで昇温後、その温度に保持した。この予熱途中段階での各々の稼働面温度Tsと内部温度Tiを測定し、乖離幅ΔTisを求めた。その結果、表1に示すとおり、右堰では、Ts=1320℃、Ti=1250℃、ΔTis=+70℃となり、左堰では、Ts=1388℃、Ti=1250℃、ΔTis=+138℃となった。ここでは、右堰の稼働面温度のみから鋳造条件を判断して、両側の堰の内部温度の加熱目標値Ticを1360℃に再設定して鋳造を開始した。その結果、鋳造中に左堰側で冷却ロール下方に僅かに溶鋼滴の漏れが生じ、鋳片の左側端片(左堰側)が平滑でなく鋸刃状に乱れた形状を呈し薄肉鋳片の品質を損ねた。原因は左堰側の端部凝固不良と考えられた。
【0075】