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  • 特開-酸化防止カバーおよび加熱処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133985
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】酸化防止カバーおよび加熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 7/06 20060101AFI20240926BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240926BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F27D7/06 B
C04B38/00 303Z
C04B35/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044039
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 仁朗
【テーマコード(参考)】
4G019
4K063
【Fターム(参考)】
4G019FA11
4K063AA05
4K063BA02
4K063BA03
4K063BA04
4K063CA03
4K063DA05
4K063DA17
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】不活性ガスを用いなくても、簡便に非酸化物の加熱処理が可能になる酸化防止カバーおよび加熱処理方法を提供する。
【解決手段】非酸化物を含む対象物11を加熱処理する際に非酸化物の酸化を防止するための酸化防止カバー12であって、酸化防止カバー12は、少なくとも厚み方向において通気性を有する多孔質炭素材料13からなり、対象物11の加熱処理中に対象物11の周囲を覆うことが可能であり、多孔質炭素材料13は、比表面積が0.05m/g以上、炭素純度が95wt%以上、密度均一性が嵩密度の標準偏差として0.1g/cm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非酸化物を含む対象物を加熱処理する際に前記非酸化物の酸化を防止するための酸化防止カバーであって、
前記酸化防止カバーは、少なくとも厚み方向において通気性を有する多孔質炭素材料からなり、前記対象物の加熱処理中に前記対象物の周囲を覆うことが可能であり、
前記多孔質炭素材料は、比表面積が0.05m/g以上、炭素純度が95wt%以上、密度均一性が嵩密度の標準偏差として0.1g/cm以下であることを特徴とする酸化防止カバー。
【請求項2】
前記多孔質炭素材料は、通気度が0.1~50cm/cm・s、観察面積360μmの切断面において観察される炭素と空隙との境界線の長さの総和が30μm以上、空隙率が20~80%であることを特徴とする請求項1に記載の酸化防止カバー。
【請求項3】
前記多孔質炭素材料が炭素粒子または炭素繊維からなり、炭素粒子または炭素繊維が結着していることを特徴とする請求項1に記載の酸化防止カバー。
【請求項4】
前記酸化防止カバーは、前記対象物を収容可能な凹状の内部空間を有することを特徴とする請求項1に記載の酸化防止カバー。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化防止カバーを用いて前記対象物を加熱処理する加熱処理方法であって、
前記対象物の加熱処理中に前記酸化防止カバーが前記対象物に接しないように配置されることを特徴とする加熱処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載の酸化防止カバーを用いて前記対象物を加熱処理する加熱処理方法であって、
前記対象物を収容可能な凹部を成形し、前記凹部に前記対象物を充填してから前記対象物を加熱処理することを特徴とする加熱処理方法。
【請求項7】
請求項1に記載の酸化防止カバーを用いて、大気下で前記対象物を加熱処理することを特徴とする加熱処理方法。
【請求項8】
前記対象物が固形物またはペースト状であり、前記加熱処理が焼成または焼結であることを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載の加熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止カバーおよび加熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の加熱処理を行う際、空気中の酸素が対象物を変質させる場合がある。しかし、窒素などの不活性ガスを用いた雰囲気下で加熱処理を行う場合、不活性ガスや、それを使用する雰囲気炉等の設備が必要になるなど、多大なコストが掛かる。
【0003】
例えば特許文献1には、非酸化物または非酸化物を組成の一部に含む耐火物を、予め炭素質膜で被覆した後、焼成する方法が記載されている。炭素質膜として、織布、不織布、フィルムが例示され、被覆方法には、貼着または包み込みが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-17238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術において、炭素質膜の貼着または包み込みにより対象物を被覆する方法は、複雑な構造体の場合には被覆しにくい、炭素質膜を構成する炭素繊維が非酸化物に混入する恐れがある、加熱処理後に炭素質膜を除去する手間がかかるといった課題がある。
【0006】
本発明の課題は、不活性ガスを用いなくても、簡便に非酸化物の加熱処理が可能になる酸化防止カバーおよび加熱処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、非酸化物を含む対象物を加熱処理する際に前記非酸化物の酸化を防止するための酸化防止カバーであって、前記酸化防止カバーは、少なくとも厚み方向において通気性を有する多孔質炭素材料からなり、前記対象物の加熱処理中に前記対象物の周囲を覆うことが可能であり、前記多孔質炭素材料は、比表面積が0.05m/g以上、炭素純度が95wt%以上、密度均一性が嵩密度の標準偏差として0.1g/cm以下であることを特徴とする。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記多孔質炭素材料は、通気度が0.1~50cm/cm・s、観察面積360μmの切断面において観察される炭素と空隙との境界線の長さの総和が30μm以上、空隙率が20~80%であることを特徴とする。
第3の態様は、第1または第2の態様において、前記多孔質炭素材料が炭素粒子または炭素繊維からなり、炭素粒子または炭素繊維が結着していることを特徴とする。
第4の態様は、第1~3のいずれか1の態様において、前記酸化防止カバーは、前記対象物を収容可能な凹状の内部空間を有することを特徴とする。
【0009】
第5の態様は、第1~4のいずれか1の酸化防止カバーを用いて前記対象物を加熱処理する加熱処理方法であって、前記対象物の加熱処理中に前記酸化防止カバーが前記対象物に接しないように配置されることを特徴とする。
第6の態様は、第1~4のいずれか1の酸化防止カバーを用いて前記対象物を加熱処理する加熱処理方法であって、前記対象物を収容可能な凹部を成形し、前記凹部に前記対象物を充填してから前記対象物を加熱処理することを特徴とする。
【0010】
第7の態様は、第1~4のいずれか1の酸化防止カバーを用いて、大気下で前記対象物を加熱処理することを特徴とする。
第8の態様は、第5~7のいずれか1の態様において、前記対象物が固形物またはペースト状であり、前記加熱処理が焼成または焼結であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不活性ガスを用いなくても、簡便に非酸化物の加熱処理が可能になる酸化防止カバーおよび加熱処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の酸化防止カバーおよび加熱処理方法を示す説明図である。
図2】具体例1の酸化防止カバーおよび加熱処理方法を示す説明図である。
図3】具体例2の酸化防止カバーおよび加熱処理方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0014】
図1に、実施形態の酸化防止カバーおよび加熱処理方法の一例を示す。実施形態の酸化防止カバー12は、非酸化物を含む対象物11を加熱処理する際に非酸化物の酸化を防止するために用いられる。
【0015】
酸化防止カバー12は、少なくとも厚み方向において通気性を有する多孔質炭素材料13からなり、対象物11の加熱処理中に対象物11の周囲を覆うことが可能である。対象物11は、酸化防止カバー12によって区画される内部空間15に収容される。酸化防止カバー12は、対象物11を収容可能な凹状の内部空間15を有することが好ましい。
【0016】
加熱処理の方法は、特に限定されず、例えばオーブン等の加熱処理装置10内に対象物11と酸化防止カバー12を収容して行うことができる。加熱処理装置10内には、加熱処理雰囲気が形成される。後述する図2図3に示されるように、対象物11を収容した酸化防止カバー12に対して、バーナー、プラズマ等の熱源19を直接作用させて加熱処理を行うことも可能である。
【0017】
対象物11は、非酸化物を含む限りは特に限定されず、無機物でも有機物でもよい。対象物11に含まれる成分として、例えば、金属、無機化合物、有機化合物、またはこれらの2種以上を含む混合物が挙げられる。
【0018】
対象物11が金属を含む場合、金属としては、卑金属、貴金属などが挙げられるが、常温の空気中では安定で、高温の空気中では酸化される金属を含むことが好ましい。具体例として、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、またはこれらの1種以上を含む合金などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
対象物11は、非酸化物のみから構成されてもよく、非酸化物と酸化物との混合物であってもよい。酸化物としては、水(HO)、金属酸化物等が挙げられる。金属以外の非酸化物としては、塩化物等のハロゲン化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ酸塩、炭酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。非酸化物の種類としては、銅、亜鉛、銀、アルミニウム、ステンレス(SUS)などの金属、窒化ケイ素などのセラミックなどが挙げられる。
【0020】
酸化防止カバー12は、加熱処理中の対象物11に含まれる非酸化物の酸化反応を防止するために用いられる。対象物11の酸化反応は、非酸化物が酸化物になる反応でもよく、非酸化物が酸素と反応して別の非酸化物を生成する反応でもよい。
【0021】
対象物11の形状は特に限定されず、粉粒状、繊維状、球状、板状、柱状、薄片状、塊状、またはこれらの2種以上を含む混合状態が挙げられる。対象物11は、固形物であることが好ましいが、対象物11に液体および/または気体が含まれてもよい。対象物11に含まれてもよい液体としては、水、有機溶媒などが挙げられる。
【0022】
対象物11が固形物またはペースト状であってもよく、固形物またはペースト状の対象物11が液体および/または気体を含んでもよい。例えば対象物11の粉体および/または粒体に液体を加えてペースト状にし、粘土のように所望の形状に成形してもよい。対象物11を成形してから酸化防止カバー12に収容してもよく、酸化防止カバー12の凹部17に対象物11を充填することで対象物11を凹部17の形状に成形してもよい。
【0023】
加熱処理により、対象物11に変化が生じることが意図されてもよい。対象物11の変化は、化学的変化でも物理的変化でもよく、例えば、焼成、焼結、乾燥、熱硬化、熱分解、架橋、縮合などが挙げられる。加熱処理の目的が、少なくとも焼成または焼結を含んでもよく、その際に乾燥、熱分解などが起きてもよい。対象物11の酸化反応は抑制すべきであるが、それ以外の化学反応は、任意に加熱処理の目的とすることができる。
【0024】
多孔質炭素材料13は、空隙14を有するため、酸化防止カバー12の内部空間15と外部空間16との間で、雰囲気ガスの流通が可能である。雰囲気ガスの流通方向は、特に限定されないが、内部空間15から外部空間16に向かう方向でもよく、外部空間16から内部空間15に向かう方向でもよい。圧力差や対流などに応じて流通方向が自発的に決まってもよく、ファン等の送風機を用いて人為的に流通方向を制御してもよい。
【0025】
大気下で対象物11を加熱処理してもよい。対象物11を収容した酸化防止カバー12を直接加熱する場合は、外部空間16に外気が存在してもよい。外部空間16が閉鎖された空間である場合は、閉鎖前に外気で満たされてもよい。加熱処理中に、外部空間16に対して外気の流通を可能にしてもよい。
【0026】
加熱処理装置10の加熱処理雰囲気が筐体等で囲まれた一定の範囲を有する場合には、外部空間16は、加熱処理雰囲気のうち、酸化防止カバー12を介して内部空間15と区画される領域である。対象物11を収容した酸化防止カバー12が筐体等で囲まれない状態で、加熱処理を実施することも可能である。この場合の外部空間16は、酸化防止カバー12の周辺の空間を指す。
【0027】
外部空間16の雰囲気ガスは、空気を含んでいてもよい。例えば、外部空間16には、酸素(O)、窒素(N)、アルゴン(Ar)等が含まれてもよい。通常の大気の組成は、例えば酸素が約21%、窒素が約78%、アルゴンが約1%であるが、外部空間16の雰囲気ガスの組成が大気の組成と異なっていてもよい。外部空間16の酸素濃度が、例えば10~25体積%であってもよい。
【0028】
酸化防止カバー12は、対象物11の周囲を全面的に覆ってもよく、対象物11の周囲の一部のみを覆ってもよい。対象物11が酸化防止カバー12で覆われない領域は、設置面18等の気密性のある隔壁により対象物11が覆われることが好ましい。
【0029】
酸化防止カバー12の形状は特に限定されないが、対象物11を収容可能な凹部17を有してもよい。凹部17の個数は特に限定されず、1つでも複数でもよい。対象物11が所定の設置面18に設置されている場合は、酸化防止カバー12が設置面18と接することで、内部空間15が外部空間16と区画されてもよい。
【0030】
対象物11の設置面18は、加熱処理装置10の壁面、床面等の一部であってもよく、加熱処理装置10から分離可能な基板等の一部であってもよい。対象物11を収容した酸化防止カバー12を熱源19から直接加熱する場合は、特に図示しないが、設置面18の上方が外気に開放されていてもよい。酸化防止カバー12が設置面18に接する場合は、対象物11と設置面18との間に、酸化防止カバー12を配置しなくてもよい。
【0031】
内部空間15と外部空間16との圧力差が小さいことが好ましい。内部空間15の圧力が外部空間16の圧力より高すぎると、内部空間15の圧力により、酸化防止カバー12が対象物11の周囲から外れるおそれがある。内部空間15の圧力が外部空間16の圧力より低すぎると、外部空間16から酸素を含むガスが多量に流入して内部空間15の酸素濃度が上昇するおそれがある。
【0032】
加熱処理中に酸化防止カバー12が酸素と接すると、炭素の酸化反応が起こり、酸化防止カバー12中の炭素材料が酸化されて二酸化炭素(CO)を生成する。このため酸化防止カバー12の周囲の雰囲気では酸素濃度が低下する。対象物11の周囲に酸化防止カバー12を設置することにより、加熱処理中に内部空間15の酸素濃度を低下させることができる。このため、加熱処理中の対象物11の酸化を防止することができる。
【0033】
炭素が酸素と反応する温度は、例えば約450℃またはそれ以上である。酸化防止カバー12の多孔質炭素材料13中に触媒を含浸または担持させて、炭素が酸素と反応する温度を低下させてもよい。
【0034】
実施形態の酸化防止カバー12を用いた加熱処理は、少なくとも一部の時間帯において、炭素が酸素と反応する温度領域に達することが好ましい。加熱処理の前処理または後処理において、炭素が酸素と反応する温度よりも低い温度領域で、予熱、乾燥、放冷等の処理が行われてもよい。
【0035】
炭素の酸化反応は、酸化防止カバー12の空隙14内、内部空間15側、外部空間16側のいずれでも起こり得る。内部空間15の容積が限られていることから、内部空間15に含まれる酸素が消費されると、内部空間15の酸素濃度を実質ゼロにし、あるいはゼロに近づけることができる。内部空間15の容積は、対象物11が収容可能な限り、なるべく小さいことが好ましい。
【0036】
実施形態の酸化防止カバー12は、多孔質炭素材料13から形成されるため、通気性を有する。酸化防止カバー12が通気性を有することにより、外部空間16の熱風を内部空間15に流入させることができる。また、対象物11の加熱処理中に、内部空間15でガスが発生または膨張しても、内部空間15の圧力の増加を抑制することができる。
【0037】
多孔質炭素材料13は、炭素粒子および/または炭素繊維等の炭素断片から形成される集合体であってもよく、塊状の炭素材料が多孔質に形成されていてもよい。炭素断片が炭素繊維である場合は、短繊維でも長繊維でもよい。例えば多孔質炭素材料13が織布、不織布等の形態であってもよい。
【0038】
炭素断片について、小径に対する大径の比をアスペクト比とするとき、炭素粒子はアスペクト比が3以下、炭素繊維はアスペクト比が3より大きい。また、この場合における小径および大径の定義は、炭素断片を水平面に最も安定に静置した際に、水平面に対して垂直な方向から観察できる炭素断片の輪郭において、この輪郭に接する二本の平行線で挟んだ時の平行線の間隔の値について、最も小さい値を小径とし、最も大きい値を大径とする。
【0039】
炭素断片の寸法は特に限定されないが、0.1~50μmや1~10μm程度の粒子径が挙げられる。粒子径がより大きい粗大粒子や粒子径がより小さい微細粒子が含まれてもよい。必要に応じて、原材料となる炭素断片の粒度分布を篩分け等によって調整してもよい。粒子径の大きい炭素断片と粒子径の小さい炭素断片とを混合して、粒度分布のピークが2以上となるように調整してもよく、あるいは、粒度分布のピークが1つとなるように調整してもよい。
【0040】
多孔質炭素材料13の製造方法は特に限定されないが、上述した炭素断片を結着する方法、有機物の断片からなる集合体を炭化させる方法などが挙げられる。有機物の断片としては、特に限定されないが、合成樹脂の粒子、合成繊維などの合成物でもよく、おが屑、もみ殻などの天然物でもよい。炭素断片を用いなくても、例えば連続気泡を含む有機物の発泡体を炭化させる方法で、多孔質炭素材料13を得ることもできる。
【0041】
酸化防止カバー12の外部から対象物11に向けて熱が移動する機構は、特に限定されず、熱伝導、対流、放射またはこれらの組み合わせであってもよい。例えば、酸化防止カバー12の外面で赤外線を吸収して得られるエネルギーにより、内部空間15に向けて熱が放出されてもよい。
【0042】
内部空間15で対象物11から放出され得るアウトガスとしては、水蒸気、二酸化炭素、溶媒蒸気などが挙げられるが、特に限定されるものではない。対象物11に含まれる成分に応じて、水素(H)、アンモニア(NH)、硫化水素(HS)、二酸化硫黄(SO)など任意のガスが発生してもよい。
【0043】
内部空間15でアウトガスが発生しない場合であっても、上述したように、外部空間16から熱風として加熱された雰囲気ガスが内部空間15に流入することにより、対象物11をより効率的に加熱することができる。
【0044】
酸化防止カバー12の空隙14内は、空隙14内の体積に比べて、空隙14に面する多孔質炭素材料13の表面積が大きいことから、炭素の酸化反応が起こりやすい。外部空間16の雰囲気ガスが空隙14を介して内部空間15に流入する際、雰囲気ガス中の酸素が炭素と反応して、酸素濃度が実質ゼロの状態、あるいはゼロに近づいた状態になることが好ましい。
【0045】
多孔質炭素材料13の比表面積は、0.05m/g以上が好ましく、0.3m/g以上がより好ましく、0.9m/g以上がさらに好ましい。
【0046】
比表面積の測定方法は特に限定されないが、例えばガス吸着測定などが挙げられる。
【0047】
多孔質炭素材料13の通気度を損なわなければ、比表面積の値が大きければ大きいほど優れた効果を発揮する。材料として、より粒子径の小さい炭素粒子や、繊維径の小さい炭素繊維を用いることで、更に比表面積が大きい多孔質炭素材料13を得ることができる。
【0048】
多孔質炭素材料13の炭素純度は、95wt%以上が好ましく、99%以上がより好ましく、99.9%以上がさらにより好ましい。
【0049】
炭素純度は、例えば、次の方法により測定することができる。
(1)多孔質炭素材料のサンプルを一つ用意し、秤量する。
(2)サンプルを燃焼させ、発生した二酸化炭素をガスクロマトグラフィーを用いて定量分析する。
(3)分析結果から得られたCOの物質量を元に、燃焼させたサンプルに含まれていた炭素の質量(すなわち、純粋な炭素の質量)を算出する。
(4)「燃焼前のサンプル質量」に対する「純粋な炭素の質量」の割合(百分率)を「炭素純度(wt%)」とし、その値を評価する。
【0050】
多孔質炭素材料13の密度均一性は、嵩密度の標準偏差として、0.1g/cm以下が好ましく、0.08g/cm以下がより好ましく、0.05g/cm以下がさらにより好ましい。
【0051】
密度均一性は、例えば、次の方法により測定することができる。
(1)多孔質炭素材料のサンプルを一つ用意し、等しい任意の体積になるようにn個切り出す(以下、n個に切り出されたサンプルを「小片」と呼ぶ)。
(2)小片をそれぞれ秤量し、各小片ごとに「質量/体積」から嵩密度を算出する。
(3)得られた各小片の嵩密度の値から、小片の標本のバラつき具合(標準偏差σ)を求める。
(4)得られた標準偏差σを、サンプルの「密度均一性」として評価する。
【0052】
密度均一性の評価における小片の個数nは、例えばn=10としてもよい。また、標準偏差の計算は、JIS Z8103:2019(計測用語)に基づいて行うことができる。
【0053】
多孔質炭素材料13の通気度は、0.1~50cm/cm・sが好ましく、1~10cm/cm・sがより好ましく、3~5cm/cm・sがさらにより好ましい。
【0054】
上記の通気度が上記の数値範囲の下限値未満であると、内部空間15の温度上昇を妨げたり、内圧の上昇を招いたりするおそれがある。上記の通気度が上記の数値範囲の上限値を超えると、外部空間16から流入するガス中の酸素が十分に除去されず、対象物11の酸化を招くおそれがある。
【0055】
通気度の測定方法は特に限定されないが、例えば、JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)のA法(フラジール形法)が挙げられる。
【0056】
多孔質炭素材料13は、観察面積360μmの切断面において観察される炭素と空隙との境界線の長さの総和(以下「観察面積あたり境界線長さ」という場合がある。)が、30μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、360μm以上がさらにより好ましい。
【0057】
「観察面積あたり境界線長さ」が上記の下限値未満であると、多孔質炭素材料13の比表面積が小さくなりすぎて、外部空間16から流入するガス中の酸素が十分に除去されず、対象物11の酸化を招くおそれがある。
【0058】
「観察面積あたり境界線長さ」の測定方法は、多孔質炭素材料13の切断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた画像を解析する方法が好ましい。具体的には、所定の面積の観察領域を抽出して炭素領域と空隙領域とを分離し、炭素領域と空隙領域の境界線を特定し、観察領域に含まれる境界線の長さを合計して求められる。上述の数値範囲では、観察領域の面積を360μmとしている。
【0059】
切断面の画像から観察領域を抽出する方法は、ランダムな方法が好ましい。例えば、画像から複数の観察領域を抽出し、それぞれの観察領域に含まれる境界線の長さの平均値を「観察面積あたり境界線長さ」の数値としてもよい。酸化防止カバー12の各部に相当する複数箇所からそれぞれ観察領域を抽出してもよい。
【0060】
観察面積の面積よりも十分に大きい断面積が得られるように、酸化防止カバー12のサンプルを切断し、断面積の範囲内で観察領域を適宜にサンプリングすることにより、平均的な「観察面積あたり境界線長さ」の値を得ることが好ましい。
【0061】
観察領域の形状は特に限定されず、例えば、正方形、円形などでもよいが、例えば18μm×20μmなどの長方形でもよい。観察領域の面積が360μmと異なる場合は、観察領域の面積をA(μm)、境界線の長さをB(μm)とおくとき、「観察面積あたり境界線長さ」=(B/A)×360のようにして換算することができる。
【0062】
観察領域から炭素領域と空隙領域とを分離する工程、炭素領域と空隙領域の境界線を特定する工程、観察領域に含まれる境界線の長さを合計する工程は、切断面の画像解析における公知の方法により行うことができる。
【0063】
多孔質炭素材料13が、炭素粒子および/または炭素繊維などの炭素断片の集合体からなる場合は、炭素領域には、炭素断片の断面となる領域、炭素断片が接触または結着した領域、炭素断片が重なり合った間に空隙が認識されない領域などが含まれる。空隙領域は、炭素領域以外の領域である。炭素領域と空隙領域との判別は、例えば二値化処理により行うことができる。
【0064】
具体例として、画像中で明度の低い画素を炭素領域とし、明度の高い画素を空隙領域としてもよい。炭素領域と空隙領域との判別に用いられる明度の閾値は、適宜設定することが可能である。通常の炭素は黒色などの明度が低い色を示すため、可視光領域の観測でも炭素領域と空隙領域との判別が容易である。画像の撮影に用いられる光の波長は、可視光領域の全部または一部の領域に限定されず、赤外光領域や紫外光領域を含んでもよい。
【0065】
画像中で炭素領域とされる画素が多数連続して存在する領域を炭素領域とし、空隙領域とされる画素が多数連続して存在する領域を空隙領域としてもよい。少数の画素から構成される領域は、ノイズとして、周囲の領域に含めてもよい。例えば、微小の炭素領域を周囲の空隙領域に含めてもよいし、微小の空隙領域を周囲の炭素領域に含めてもよい。微小の領域の判別に用いられる画素数や領域の形状は、適宜設定することが可能である。
【0066】
例えば、多孔質炭素材料13が炭素粒子からなる場合は、炭素粒子の直径が大きいほど「観察面積あたり境界線長さ」の数値が小さくなり、炭素粒子の直径が小さいほど「観察面積あたり境界線長さ」の数値が大きくなる傾向がある。
【0067】
例えば球状の炭素粒子の円形断面が六方格子状で最密に配置されている場合を仮定すると、比表面積S(m/g)の値は、密度ρ(g/cm)、直径D(μm)の球の表面積と質量との比から、S=6/(D×ρ)と求められる。
【0068】
また、「観察面積あたり境界線長さ」は、直径D(μm)の円形断面が最密に配置されている場合、円形断面2個分の単位格子において、観察領域の面積A=√3×D、境界線の長さB=2πDであるから、「観察面積あたり境界線長さ」≒1305/Dと求められる。現実の切断面では、粒子形状が球形とは限らない点で、境界線の長さがより大きくなる可能性がある。逆に、粒子形状が球形であっても、切断面に大円(球の中心を含む切断面)が現れるとは限らないことから、境界線の長さがより小さくなる可能性もある。
【0069】
同様に、多孔質炭素材料13が炭素繊維からなる場合は、炭素繊維の直径または長さが大きいほど「観察面積あたり境界線長さ」の数値が小さくなり、炭素繊維の直径または長さが小さいほど「観察面積あたり境界線長さ」の数値が大きくなる傾向がある。
【0070】
例えば円柱状の炭素繊維の円形断面(炭素繊維の長さ方向に垂直な面)が最密に配置されている場合を仮定すると、比表面積S(m/g)の値は、密度ρ(g/cm)、直径D(μm)の円柱の表面積と質量との比から、S=4/(D×ρ)と求められる。また、上述した球状の炭素粒子と同様に「観察面積あたり境界線長さ」は直径Dに反比例する式で求められる。
【0071】
上記の例に示されるように、比表面積および「観察面積あたり境界線長さ」が、いずれも直径Dに反比例する式で表されることから、「観察面積あたり境界線長さ」の値で比表面積の大小関係を推測することができる。
【0072】
さらに一般化して、必ずしも均一でない、任意の寸法の炭素断片の集合体において、比表面積および「観察面積あたり境界線長さ」がそれぞれ所定の値であった場合に、全ての炭素断片の寸法がxyz3軸方向で等しくk倍に拡大または縮小された場合(寸法変化比k)が考えられる。
【0073】
上記の寸法変化比kに対して、表面積はk倍、質量はk倍になることから、比表面積は1/k倍になる。また、観察領域の面積はk倍、境界線の長さはk倍になることから、「観察面積あたり境界線長さ」は1/k倍になる。比表面積および「観察面積あたり境界線長さ」が、いずれも寸法変化比kに反比例することから、「観察面積あたり境界線長さ」の値で比表面積の大小関係を推測することができる。
【0074】
多孔質炭素材料13の空隙率は、20~80%が好ましく、35~65%がより好ましく、40~60%がさらにより好ましい。当該空隙率が上記の下限値未満であると、内部空間15と外部空間16の間で気体の移動が困難になり、内部空間15の温度上昇を妨げたり、対象物11から発生したガスにより内圧の上昇を招くおそれがある。当該空隙率が上記の上限値を超えると、多孔質炭素材料13の形状を維持しにくくなるおそれがある。
【0075】
多孔質炭素材料13の空隙率は、空隙14を含めた多孔質炭素材料13全体の体積をV、空隙14の体積をv、空隙14を除いた体積をv=V-vとするとき、v/Vで表される。百分率で表示する場合は、(v/V)×100(%)で空隙率(%)が求められる。
【0076】
多孔質炭素材料13全体の体積Vの測定方法は、特に限定されないが、多孔質炭素材料13の概略の形状から計算する方法、空隙14を塞いだ試料の体積を測定する方法、空隙14に進入しにくい水銀などの液体に浸漬させる方法などが挙げられる。
【0077】
多孔質炭素材料13の真密度ρが既知の場合は、多孔質炭素材料13の質量M/真密度ρの比によって、空隙14を除いた体積(v=V-v)を求めることができる。V-v=M/ρから、空隙率(v/V)=1-M/(V×ρ)と求められる。
【0078】
実施形態の酸化防止カバー12を用いて対象物11を加熱処理する場合は、例えば、図2に例示するように、設置面18上に配置した対象物11の周囲に酸化防止カバー12Aをかぶせてもよい。対象物11の加熱は、図2に示すように、対象物11を収容した酸化防止カバー12Aに対して、バーナー、プラズマ等の熱源19を直接作用させてもよく、図1に示すように、加熱処理装置10を用いてもよい。
【0079】
対象物11の加熱処理中に酸化防止カバー12Aが対象物11に接しないように配置してもよい。この場合は、酸化防止カバー12Aの凹部17により、内部空間15が形成される。酸化防止カバー12Aが設置面18上で自立可能な強度を有する、リジッドな成形体であることが好ましい。
【0080】
また、図3に例示するように、対象物11を収容可能な凹部17を酸化防止カバー12Bに成形し、凹部17に対象物11を充填してから対象物11を加熱処理することもできる。この場合、(1)凹部17を有する酸化防止カバー12Bの製造工程、(2)凹部17に対象物11を充填する工程、(3)対象物11を充填した酸化防止カバー12Bを設置面18上に配置する工程、(4)設置面18上で酸化防止カバー12Bを介して対象物11を加熱する工程を、この順に有してもよい。
【0081】
なお、図1~3では、形状の違いから、酸化防止カバー12,12A,12Bの符号を区別したが、図2および図3の酸化防止カバー12A,12Bに関する詳細は、図1を参照しながら酸化防止カバー12について説明したのと同様にすることができる。このため、酸化防止カバー12A,12Bについて、酸化防止カバー12と重複する説明は省略する場合がある。また、図2および図3では、空隙14の図示を省略した。
【0082】
多孔質炭素材料13を作製する際に、炭素断片または有機物の断片を結着する場合は、結着材として炭化可能な樹脂等を用いてもよい。薄いシート状の多孔質炭素材料13を作製する場合は、炭素断片または有機物の断片を含むスラリーを塗工した後、乾燥させてもよい。炭素断片または有機物の断片を含むスラリーを所望の形状に成形し、乾燥させた後、炭化させることにより、所望の形状に多孔質炭素材料13を作製することができる。
【0083】
酸化防止カバー12,12A,12Bに凹部17を成形する方法としては、機械加工等によって溝状、槽状などの形状となるように多孔質炭素材料13を切削する方法、炭素粒子とバインダー成分と溶剤からなるスラリーを凹部17を有する形状の型に流し込んで溶剤乾燥させてからバインダー成分を炭化させて結着する方法、凹部17を有する形状に成形した有機物の成形品を炭化させる方法などが挙げられる。
【0084】
図2に示す具体例1の酸化防止カバー12Aでは、大きい凹部17を得るため、例えば、酸化防止カバー12Aの形状に合う型を作製し、型の形状に合わせて材料を成形する方法が好ましい。また、内部空間15が対象物11より広ければよいため、例えば、板状、シート状など所定形状の多孔質炭素材料13を箱状に組み合わせて凹部17を形成してもよい。
【0085】
図3に示す具体例2の酸化防止カバー12Bでは、凹部17が小さくても済むことから、例えば、板状、柱状など所定形状の多孔質炭素材料13の表面を切削して凹部17を形成する方法が好ましい。
【0086】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例0087】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
(酸化防止カバーの作製方法)
比較例1では非多孔質の炭素材料を用い、比較例2では網状の炭素材料を用いた。それ以外では、炭素材料として、表1または表2に示す炭素粒子または炭素繊維を用い、次に示す方法で、結着および炭化させて、酸化防止カバーを作製した。
【0089】
炭素粒子または炭素繊維の結着材としてポリイミドワニス、溶剤としてシクロヘキサノンを準備し、炭素材料:結着材:溶剤を3:1:1で混合し、スラリーを調製した。シリコーン型にスラリーを流し込んでブロック体を作製し、または塗工によりシート体を作製して、乾燥させた。乾燥後のブロック体またはシート体を真空または窒素雰囲気のオーブンに入れ、1000℃まで2~3時間で昇温し、1時間1000℃で保持してポリイミドを炭化させた。さらに炭化処理後のブロック体に非酸化物を格納する空間を研削で成形した。
【0090】
(非酸化物の焼成方法)
ブロック体のくぼみに非酸化物を塗布または充填するか、またはシート体で非酸化物を覆った状態で、オーブンに入れた。非酸化物として厚さが1mm以下の銅ペーストを用い、430℃以上で30分保持して銅ペーストを焼成した。
【0091】
(通気度の測定方法)
通気度は、JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)のA法(フラジール形法)によって測定した。内圧が125Paになるように空気を吸引し、その時に外圧(大気圧)との差から生じる空気流量を測定した。空気孔の寸法は直径40mmを選択した。
【0092】
(空隙率の測定方法)
空隙率は、以下(1)~(3)の手順で測定した。
(1)サンプルの寸法を測定し、体積Vを計算によって求めた。
(2)サンプルの質量Mを黒鉛の真密度ρ(2.2g/m)で除して、サンプル中の空隙を除いた体積vを算出した。
(3)Vとvの差が空隙部分のみの体積なので、サンプルの空隙率(%)を100×(V-v)/Vとして求めた。
【0093】
(比表面積の測定方法)
比表面積は、以下(1)~(3)の手順で測定した。
(1)サンプルをガス吸着測定用の試料管にサンプリングし、前処理装置(BELPREP-vacIII〔マイクロトラック・ベル(株)製〕)を用いて、300℃/3hours,減圧下で前処理を行った。
(2)前処理終了後のサンプルの質量を測定し、分析装置(BELSORP-maxII〔マイクロトラック・ベル(株)製〕)を用いて以下の条件で吸着測定を行った。
試料管:大容量試料管(5.0cm,φ9mm)
サンプル量:0.05~0.7g
吸着質:クリプトン
吸着温度:77.360K
死容積測定:吸着測定前または吸着測定後
飽和蒸気圧:実測
(3)吸着量からBET法によって比表面積を求めた。
【0094】
(観察面積あたり境界線長さの測定方法)
「観察面積あたり境界線長さ」は、以下(1)~(4)の手順で測定した。
(1)サンプルを、切断面観察が充分に行える任意の箇所で切断し、切断面を走査電子顕微鏡(SEM)で拡大倍率3000にて観察し、サンプルの切断面画像(以下、画像と称する)を得た。
(2)得られた画像において、面積が360μm(18μm×20μm)の長方形からなる観察領域をランダムに抽出して観察した。観察領域において炭素領域に該当する箇所を画像処理ソフト(Paint Shop pro V4.20J)を用いて着色し、二値化画像を得た。
(3)得られた二値化画像における着色箇所の外周長さを画像処理ソフト(WinROOF V3.0)を用いて測長し、その総和を計算した。
(4)上記(1)~(3)の手順を、サンプルの異なる箇所10点で行い、得られた各総和の平均値を、観察面積あたり境界線長さとした。
【0095】
(炭素純度の測定方法)
炭素純度は、以下(1)~(4)の手順で測定した。
(1)サンプルを秤量し、質量を求めた。
(2)秤量したサンプルを燃焼させ、発生した二酸化炭素をガスクロマトグラフィーを用いて定量分析した。
(3)分析結果から得られたCOの物質量を元に、燃焼させたサンプルに含まれていた炭素の質量(すなわち、純粋な炭素の質量)を計算した。
(4)「燃焼前のサンプル質量」に対する「純粋な炭素の質量」の割合(百分率)を計算し、この値を炭素純度(wt%)とした。
【0096】
(密度均一性の測定方法)
密度均一性は、以下(1)~(3)の手順で測定した。
(1)サンプルを等しい任意の体積になるように10個切り出した(以下、10個に切り出されたサンプルを「小片」と称する)。
(2)小片をそれぞれ秤量し、各小片ごとに「質量/体積」から嵩密度を算出した。
(3)得られた各小片の嵩密度の値から、小片の標本のバラつき具合(標準偏差σ)を求め、この値を密度均一性とした。
【0097】
(質量増加分Xの評価方法)
非酸化物の焼成後に、酸化による質量の増加を確認するため、焼成前後の質量を測定し、酸化による質量増加分を観察することで、酸化防止カバーの酸化防止性能を評価した。焼成前の質量をm、焼成後の質量をmとし、次の式を用いて質量増加分X(wt%)を求め、小数点以下(1wt%未満)の端数は切り捨てた。
X=(m-m)/m×100(wt%)
【0098】
質量増加分の評価は、X≦4のときに「◎」、4<X≦10のときに「○」、10<Xのときに「×」と評価した。
【0099】
(カバー表面状態の評価方法)
焼成に使用した後の酸化防止カバーの表面状態を観察し、カバーの内圧上昇等による、ひび割れ等の有無を確認した。具体的には、焼成後の酸化防止カバー本体の表面を顕微鏡等で観察し、ひび割れ無しなら「◎」、ひび割れは確認できるが、元の形状を維持している場合は「○」、カバーが破砕し、元の形状を維持していない場合は「×」と評価した。
【0100】
(総合評価)
質量増加分およびカバー表面状態の評価が両方とも「◎」の場合に、総合評価も「◎」とした。少なくとも片方が「○」で、いずれも「×」でない場合に、総合評価を「○」とした。少なくとも片方が「×」の場合に、総合評価を「×」とした。
【0101】
以上の結果を表1および表2に示す。
【0102】
「炭素材構造」の欄において、多孔質を「P」、非多孔質を「N-P」と表示した。
実施例10~11および比較例5は、粒子径の分布が広い炭素粒子を材料とした。
実施例12は炭素繊維を材料として用いたため、粒子径は繊維径(D)1μm、繊維長(L)10μmとした。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
実施例1~12では、総合評価が「◎」または「○」となった。
比較例1~5では、総合評価が「×」となった。
【符号の説明】
【0106】
10…加熱処理装置、11…対象物、12,12A,12B…酸化防止カバー、13…多孔質炭素材料、14…空隙、15…内部空間、16…外部空間、17…凹部、18…設置面、19…熱源。
図1
図2
図3