(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134007
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】アッパー及びシューズ
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
A43B23/02 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044071
(22)【出願日】2023-03-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月20日にスポーツオーソリティ楽天市場店のウェブサイトに掲載した。
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 玲美
(72)【発明者】
【氏名】中村 勉
(72)【発明者】
【氏名】串田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】梶原 遥
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 まりあ
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BC47
4F050HA55
4F050HA73
4F050LA01
(57)【要約】
【課題】手を使うことなく容易に着脱できるシューズを提供する。
【解決手段】アッパー20は、着用者の足首の周囲において開口する履き口Oを有し、着用者の足を覆うアッパー本体21を備えている。アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oの少なくとも一方には、履き口Oの周縁から前下がり方向Xに延びる切り欠きからなる分断部30が形成されている。分断部30の前端部は、アッパー本体21のインステップ部よりも前方且つウエスト部よりも後方に位置している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の足首の周囲において開口する履き口を有し、着用者の足を覆うアッパー本体を備えたシューズ用アッパーであって、
上記アッパー本体の内甲部及び外甲部の少なくとも一方には、上記履き口の周縁から前下がり方向に延びる切り込み又は切り欠きからなる分断部が形成され、
上記分断部の前端部は、上記アッパー本体のインステップ部よりも前方且つウエスト部よりも後方に位置している
ことを特徴とするシューズ用アッパー。
【請求項2】
請求項1に記載のシューズ用アッパーであって、
上記アッパー本体の踵部には、ヒールカウンタが設けられ、
上記アッパー本体の踵部は、上記ヒールカウンタより上方に、上端部が上記踵部の最も後方に位置するように後ろ上がりに傾斜した傾斜部を有し、
上記傾斜部には、補強部材が設けられている
ことを特徴とするシューズ用アッパー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシューズ用アッパーであって、
上記分断部の幅が広がると、上記アッパー本体の上記分断部の周辺に、上記分断部の幅が元に戻るように復原力を作用する復原機構をさらに備える
ことを特徴とするシューズ用アッパー。
【請求項4】
請求項3に記載のシューズ用アッパーであって、
上記復原機構は、上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より下方に取り付けられた下端から上記分断部を跨ぐ前上がりの第1方向に延び、上端が上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より上方に取り付けられた第1弾性部材を有し、
上記第1弾性部材は、上記分断部の幅が広がると伸長して上記アッパー本体の上記分断部の周辺に収縮力を作用するように構成されている
ことを特徴とするシューズ用アッパー。
【請求項5】
請求項4に記載のシューズ用アッパーであって、
上記復原機構は、上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より下方に取り付けられた下端から上記分断部を跨ぐ前上がりの第2方向に延び、上端が上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より上方に取り付けられた第2弾性部材をさらに有し、
上記第2弾性部材は、上記分断部の幅が広がると伸長して上記アッパー本体の上記分断部の周辺に収縮力を作用するように構成され、
上記第2方向は、上記第1方向よりも上向きである
ことを特徴とするシューズ用アッパー。
【請求項6】
請求項5に記載のシューズ用アッパーであって、
上記復原機構は、上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より上方に上記分断部に突出するように取り付けられた少なくとも棒状部分を有する支持部材をさらに有し、
上記第1弾性部材と上記第2弾性部材とは、上記支持部材の上記棒状部分に引っ掛けられて該棒状部分で折り返され、両端が上記下側部分の前後にずれた位置に固定された単一の弾性部材で構成されている
ことを特徴とするシューズ用アッパー。
【請求項7】
請求項3に記載のシューズ用アッパーであって、
上記分断部は、上記履き口側が幅広のV字形状又はU字形状の切り欠きであり、
上記復原機構は、
上記アッパー本体の上記分断部との境界に取り付けられ、上記分断部の二辺を縁取る縁取り部と、
上記縁取り部の二辺のなす角が拡大すると、元の角度に戻す弾性復原力が上記縁取り部に作用するように上記縁取り部の二辺を連結する弾性材料からなる連結部とを有している
ことを特徴とするシューズ用アッパー。
【請求項8】
路面に接地する接地面を有するソールと、該ソールの上部に固定されて着用者の足を覆うアッパーとを備えたシューズであって、
上記アッパーは、請求項1に記載のシューズ用アッパーである
ことを特徴とするシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アッパー及びシューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アッパーが着用者の足の足首付近まで覆うシューズの着脱を容易にするために、着脱時に履き口を広げられるようにしたシューズが提案されている(例えば、下記の特許文献1を参照)。この種のシューズとして、特許文献1には、履き口の周縁にかかる位置に切れ込みを形成すると共に、切れ込みを開閉するファスナーを設けたシューズが開示されている。上記シューズでは、ファスナーを開けることにより、シューズの着脱時に切れ込みが開いて履き口が広がるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記シューズでは、シューズを着脱する前に、着用者が屈みながら手でファスナーを開く必要があり、屈むことが難しい着用者には着脱が容易でなかった。
【0005】
また、上記シューズでは、切れ込みが、履き口の周縁の内側部から斜め後方下向きに延びるように設けられており、このような切れ込みでは、シューズの着脱時に切れ込みが開くことにより、履き口が多少広がるものの、着脱が容易になる程、履き口を大きく広げることができなかった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、手を使うことなく容易に着脱できるシューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の形態は、着用者の足首の周囲において開口する履き口を有し、着用者の足を覆うアッパー本体を備えたシューズ用アッパーであって、上記アッパー本体の内甲部及び外甲部の少なくとも一方には、上記履き口の周縁から前下がり方向に延びる切り込み又は切り欠きからなる分断部が形成され、上記分断部の前端部は、上記アッパー本体のインステップ部よりも前方且つウエスト部よりも後方に位置していることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、アッパー本体のインステップ部とは、アッパー本体において、着用者のインステップガースの測定ラインに対応する部分をいう。本願では、
図1に示すように、シューズの前後方向において、足裏支持面の後端と前端をそれぞれ0%と100%の位置としたときに、アッパー本体とソールの足裏支持面の前後方向の35%の位置を通る所定の傾斜面Siとが交わる部分をインステップ部とする。なお、所定の傾斜面Siの水平面に対する傾斜角度αは、50度以上70度以下の所定の角度であり、シューズ毎に設定される。
【0009】
また、アッパー本体のウエスト部とは、アッパー本体において、着用者のウエストガースの測定ラインに対応する部分をいう。本願では、
図1に示すように、シューズの前後方向において、足裏支持面の後端と前端をそれぞれ0%と100%の位置としたときに、アッパー本体とソールの足裏支持面の前後方向の50%の位置を通る所定の傾斜面Swとが交わる部分をウエスト部とする。なお、所定の傾斜面Swの水平面に対する傾斜角度βは、50度以上70度以下の所定の角度であり、シューズ毎に設定される。
【0010】
なお、傾斜角度αと傾斜角度βは、アッパー本体において、インステップ部とウエスト部とが交差しないように設定される。
【0011】
第1の形態のシューズ用アッパーでは、アッパー本体の内甲部及び外甲部の少なくとも一方に、履き口の周縁から前下がり方向に延びる切り込み又は切り欠きからなる分断部が形成され、該分断部により、アッパー本体の一部が、分断部より上方の甲側部分と分断部より下方の踵側部分とに分断されている。このような構成によれば、シューズの着脱時に、上記甲側部分が、前下がりに傾斜した着用者の足の甲により、接地面に対する傾斜角度が着用時及び未着用時に比べて大きくなるように立ち上げられることにより、分断部幅が広がり、履き口が足長方向に広がることとなる。また、履き口の周辺部も分断部によって前後に分断されており、環状でないため、履き口が足長方向に広がる際に履き口が足幅方向に狭まることもなく、履き口の周長が長くなり、履き口が広くなる。これにより、シューズの着脱時に、着用者の足が引っ掛かるのを抑制でき、摩擦抵抗が小さくなるため、着用者が足をシューズ内に挿入し易くなり、着用者が足をシューズ内から抜き出し易くなる。つまり、シューズの着脱が容易になる。
【0012】
また、第1の形態のシューズ用アッパーでは、分断部が、履き口の周縁から前下がり方向にアッパー本体のインステップ部よりも前方の位置まで長く延びている。そのため、分断部がインステップ部に達しない場合に比べて、シューズの着脱時に着用者の足の甲によって立ち上げられる上記甲側部分の足長方向の長さが長くなり、履き口が足長方向により大きく広がることとなる。また、シューズの着脱時に、上記甲側部分が立ち上げられて分断部の幅が広がることにより、アッパー本体のインステップ部の周囲長さが長くなるため、シューズの着脱を容易に行うことができる。
【0013】
一方、第1の形態のシューズ用アッパーでは、分断部は、アッパー本体のウエスト部までは延びておらず、アッパー本体のウエスト部は分断部によって分断されない。分断部をアッパー本体のウエスト部まで延ばしてしまうと、上記甲側部分が歩行時にも立ち上がってしまい、歩行時にシューズがずれたり脱げたりするおそれがあるが、上記構成によれば、アッパー本体のウエスト部で着用者の足の土踏まず付近をしっかりと保持することができ、歩行中にシューズがずれたり脱げたりすることがなく、アッパー本体に分断部を形成しても、ホールド性を損なわない。
【0014】
以上により、第1の形態のシューズ用アッパーによれば、手を使うことなく容易に着脱できるシューズを、ホールド性を損なうことなく提供することができる。
【0015】
第2の形態は、第1の形態において、上記アッパー本体の踵部には、ヒールカウンタが設けられ、上記アッパー本体の踵部は、上記ヒールカウンタより上方に、上端部が上記踵部の最も後方に位置するように後上がりに傾斜した傾斜部を有し、上記傾斜部には、補強部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
第2の形態のシューズ用アッパーでは、アッパー本体の踵部のヒールカウンタより上方に、上端部が踵部の最も後方に位置するように後上がりに傾斜した傾斜部を設けることとしている。このような構成により、シューズを履く際には、前下がりに傾斜した着用者の足が傾斜部によって円滑にシューズ内に導かれ、シューズを脱ぐ際には、前下がりに傾斜した着用者の足が、踵部に引っ掛かることなく円滑にシューズ外へ導かれることとなる。従って、第2の形態によれば、より着脱容易なシューズを提供することができる。
【0017】
また、第2の形態のシューズ用アッパーでは、アッパー本体の踵部に、ヒールカウンタを設けると共に、ヒールカウンタの上方の傾斜部に補強部材を設けることとしている。このようにアッパー本体の踵部の強度を高めることにより、シューズの着脱時に、上記甲側部分が踵側部分よりも変形し易くなり、アッパー本体が着脱時の着用者の足の前下がり形状に適した形状となる。従って、第2の形態によれば、シューズの着脱をより円滑に行うことができる。
【0018】
第3の形態は、第1又は第2の形態において、上記分断部の幅が広がると、上記アッパー本体の上記分断部の周辺に、上記分断部の幅が元に戻るように復原力を作用する復原機構をさらに備えることを特徴とするものである。
【0019】
第3の形態のシューズ用アッパーは、分断部の幅が広がると、アッパー本体の分断部の周辺に分断部の幅が元に戻るように復原力を作用する復原機構をさらに備えている。そのため、シューズの着脱時に、上記甲側部分が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部の幅が広がっても、シューズの着脱後(着用時及び未着用時)には、復原機構により、迅速に分断部の幅が元の幅に戻ろうとし、履き口の周長が着用者の足の最も太いヒールガース部分(足のヒールガースの測定ラインに対応する部分)よりも短くなる。よって、シューズ着用時にはフィット性が向上し、未着用時には迅速に元の形状に復原することができる。
【0020】
第4の形態は、第3の形態において、上記復原機構は、上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より下方に取り付けられた下端から上記分断部を跨ぐ前上がりの第1方向に延び、上端が上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より上方に取り付けられた第1弾性部材を有し、上記第1弾性部材は、上記分断部の幅が広がると伸長して上記アッパー本体の上記分断部の周辺に収縮力を作用するように構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
第4の形態のシューズ用アッパーは、復原機構が、アッパー本体の分断部の周辺の分断部よりも下方と上方とに下端と上端とが取り付けられ、分断部を跨ぐ前上がりの第1方向に延びる第1弾性部材を有し、第1弾性部材は、分断部の幅が広がると伸長してアッパー本体の分断部の周辺に収縮力を作用するように構成されている。そのため、シューズの着脱時に、上記甲側部分が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部の幅が広がると、第1弾性部材が伸長し、アッパー本体の分断部の周辺には伸長した第1弾性部材の収縮力(復原力)が作用する。よって、第4の形態のシューズ用アッパーによれば、シューズの着脱後(着用時及び未着用時)に、着用者の足の甲によって立ち上げられた上記甲側部分を迅速に元の位置又はその付近(少なくとも履き口の周長が着用者の足のヒールガース部分よりも短くなる位置)まで復帰させることができる。
【0022】
第5の形態は、第4の形態において、上記復原機構は、上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より下方に取り付けられた下端から上記分断部を跨ぐ前上がりの第2方向に延び、上端が上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より上方に取り付けられた第2弾性部材をさらに有し、上記第2弾性部材は、上記分断部の幅が広がると伸長して上記アッパー本体の上記分断部の周辺に収縮力を作用するように構成され、上記第2方向は、上記第1方向よりも上向きであることを特徴とするものである。
【0023】
第5の形態のシューズ用アッパーでは、復原機構が、第1弾性部材に加え、アッパー本体の分断部の周辺の分断部よりも下方と上方とに下端と上端とが取り付けられ、分断部を跨ぐ前上がりの第2方向に延びる第2弾性部材をさらに有し、第2弾性部材は、分断部の幅が広がると伸長してアッパー本体の分断部の周辺に収縮力を作用するように構成されている。そのため、シューズの着脱時に、上記甲側部分が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部の幅が広がると、第1及び第2弾性部材が伸長し、アッパー本体の分断部の周辺には、伸長した第1及び第2弾性部材により、異なる二方向(第1方向及び第2方向)の収縮力(復原力)が作用する。よって、第5の形態のシューズ用アッパーによれば、シューズの着脱後(着用時及び未着用時)に、着用者の足の甲によって立ち上げられた上記甲側部分をより迅速且つ正確に元の位置又はその付近(少なくとも履き口の周長が着用者の足のヒールガース部分よりも短くなる位置)まで復帰させることができる。
【0024】
また、第5の形態のシューズ用アッパーでは、第1弾性部材に加え、第1弾性部材の延伸方向(第1方向)よりも上向きの第2方向に延び、アッパー本体の分断部の周辺に第2方向の収縮力を作用する第2弾性部材をさらに設けることにより、着用後にシューズが着用者の足にフィットし易くなり、フィット性が向上することとなる。
【0025】
第6の形態は、第5の形態において、上記復原機構は、上記アッパー本体の上記分断部の周辺であって上記分断部より上方に上記分断部に突出するように取り付けられた少なくとも棒状部分を有する支持部材をさらに有し、上記第1弾性部材と上記第2弾性部材とは、上記支持部材の上記棒状部分に引っ掛けられて該棒状部分で折り返され、両端が上記下側部分の前後にずれた位置に固定された単一の弾性部材で構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
第6の形態のシューズ用アッパーでは、第1弾性部材と第2弾性部材とを、アッパー本体の分断部の上方周辺に分断部に突出するように取り付けられた支持部材の棒状部分に引っ掛けて折り返した単一の弾性部材で構成している。そのため、第1弾性部材と第2弾性部材とを、別個にアッパー本体の分断部の周辺に取り付ける場合に比べて復原機構をコンパクトに設けることができる。
【0027】
第7の形態は、第3の形態において、上記分断部は、上記履き口側が幅広のV字形状又はU字形状の切り欠きであり、上記復原機構は、上記アッパー本体の上記分断部との境界に取り付けられ、上記分断部の二辺を縁取る縁取り部と、上記縁取り部の二辺のなす角が拡大すると、元の角度に戻す弾性復原力が上記縁取り部に作用するように上記縁取り部の二辺を連結する弾性材料からなる連結部とを有していることを特徴とするものである。
【0028】
第7の形態のシューズ用アッパーでは、分断部が、履き口側が幅広のV字形状又はU字形状の切り欠きで構成され、復原機構が、アッパー本体の分断部との境界に取り付けられたV字形状又はU字形状の分断部の二辺を縁取る縁取り部と、縁取り部の二辺のなす角が拡大すると、元の角度に戻す弾性復原力(回転力)を縁取り部に作用するように縁取り部の二辺を連結する弾性材料からなる連結部とを有するように構成されている。そのため、シューズの着脱時に、上記甲側部分が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部の幅が広がると、縁取り部の二辺のなす角が拡大し、連結部によって縁取り部には二辺のなす角を元の角度に戻す弾性復原力が作用する。よって、第7の形態のシューズ用アッパーによれば、シューズの着脱後(着用時及び未着用時)に、着用者の足の甲によって立ち上げられた上記甲側部分を迅速に元の位置又はその付近(少なくとも履き口の周長が着用者の足のヒールガース部分よりも短くなる位置)まで復帰させることができる。
【0029】
第8の形態は、路面に接地する接地面を有するソールと、該ソールの上部に固定されて着用者の足を覆うアッパーとを備えたシューズであって、上記アッパーは、第1の形態に係るシューズ用アッパーであることを特徴とするものである。
【0030】
第8の形態によれば、第1の形態に係るシューズ用アッパーを備えることにより、手を使うことなく容易に着脱できるシューズを、ホールド性を損なうことなく提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明によると、手を使うことなく容易に着脱できるシューズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、実施形態1のアッパーを備えたシューズの外甲側側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のアッパーを備えたシューズの内甲側側面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1のアッパーを備えたシューズの平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2のアッパーを備えたシューズの外甲側側面図である。
【
図5】
図5は、実施形態3のアッパーを備えたシューズの外甲側側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態は、本質的に好ましい例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0034】
《発明の実施形態1》
図1~
図3は、本発明の実施形態1に係るシューズ1を示している。このシューズ1は、例えばランニング、各種球技、バトミントン等の各種競技におけるスポーツ用シューズ、日常使用のスニーカー、リハビリ用シューズなどに適用される。以下では、
図1~
図3に示す左足用シューズについて説明し、左足用シューズと左右対称に構成される左足用シューズについては説明を省略する。
【0035】
また、以下の説明では、上方(上側)及び下方(下側)とは、シューズ1の上下方向の位置関係(シューズ1を平坦面の上に載置したときの載置面に直交する高さ方向の位置関係)を表すものとする。前方(前側)及び後方(後側)とは、シューズ1の足長方向の位置関係を表すものとする。内甲側及び外甲側とは、シューズ1の足幅方向の位置関係を表すものとする。
【0036】
-シューズの構成-
シューズ1は、ソール10と、その上方に配置されるアッパー(甲被部)20とを備えている。
【0037】
〈ソール〉
図1~
図3に示すように、ソール10は、アウトソール11と、ミッドソール12とを備えている。ソール10は、シューズ1の最も下側に設けられ、路面Gに接地する接地面10gを有している。
【0038】
アウトソール11は、ソール10の前端から後端に亘る範囲に設けられている。アウトソール11は、ミッドソール12よりも硬度の高い硬質の弾性材によって構成されている。具体的には、アウトソール11の材料としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、又はブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材が適している。本実施形態1では、アウトソール11は、複数の部分に分割されている。アウトソール11を構成する複数の部分の下面が、歩行時又は走行時に路面Gに接する接地面10gとなる。
【0039】
ミッドソール12は、ソール10の前端から後端に亘り、また、ソール10の足幅方向の内甲端から外甲端に亘る全範囲に設けられている。ミッドソール12の上面は、シューズ着用者の足の足裏面に沿うように湾曲形状に形成され、インソール(図示省略)を介してシューズ着用者の足の足裏面を支持する足裏支持面Sとなる。
【0040】
ミッドソール12は、アウトソール11よりも硬度が低い軟質の弾性材によって形成されている。具体的には、ミッドソール12の材料としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、ブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材やその発泡体等が適している。ミッドソール12は、接着剤等によってアウトソール11に固着されることにより、アウトソール11の上側に積層されている。
【0041】
本実施形態1では、このようなアウトソール11とミッドソール12とにより、路面に接地する接地面10gを有するソール10が構成されている。
【0042】
〈アッパー〉
アッパー20は、着用者の足を覆うアッパー本体21と、踵部カバー22と、補強芯材23とを備えている。
【0043】
アッパー本体21は、アッパー20の前後方向の前端から後端までの範囲において内甲側から外甲側に亘る範囲に設けられ、着用者の足を一体的に覆う。アッパー本体21の素材は特に限定されないが、伸縮性を有する素材で構成することができる。具体的には、アッパー本体21は、例えば、編み物、織物、不織布、メッシュ素材、合成皮革、人工皮革、天然皮革等で構成することができる。本実施形態1では、アッパー本体21は、内部にクッション材や後述するヒールカウンタ24及び補強部材25を設けることができるように、複数枚の生地で袋状に構成されている。アッパー本体21は、着用者の足首の周囲において開口する履き口Oを有している。
【0044】
なお、以下の説明では、
図3に示すように、アッパー本体21の正中面M(シューズ1の足幅方向の中央を通る鉛直面)よりも内甲側をアッパー本体21の内甲部21i、正中面Mよりも外甲側をアッパー本体21の外甲部21oという。
【0045】
本実施形態1では、アッパー本体21は、後端部の高さが比較的高くなるように形成されている。具体的には、アッパー本体21の後端部は、上端部が着用者の足首付近まで覆うような高さに形成されている。また、アッパー本体21は、踵部に設けられる後述するヒールカウンタ24より上方に、後上がりに傾斜した傾斜部21Rを有するように構成されている。傾斜部21Rは、後上がりに傾斜し、上端部がアッパー本体21の踵部の中で最も後方に位置するように、上端部が後方へ突き出るように設けられている。このような傾斜部21Rをアッパー本体21に設けることにより、シューズ1の着脱時に着用者の足が、傾斜部21Rにより、アッパー本体21の外部から内部へ又は内部から外部へ円滑に導かれることとなる。
【0046】
なお、
図1~
図3では、靴紐を有しないアッパー本体21を示しているが、本発明に係るアッパー20のアッパー本体21は、足幅方向の中央に切り込みを有し、内甲部21iと外甲部21oとが舌片部の上方で靴紐によって綴じられたものであってもよい。
【0047】
踵部カバー22は、アッパー本体21の踵部を、内甲側から後端を経て外甲側に亘るように覆っている。本実施形態1では、踵部カバー22は、合成皮革で構成されているが、踵部カバー22の素材は、アッパー本体21の踵部を補強できる剛性を有するものであればいかなるものであってもよい。踵部カバー22は、アッパー本体21の外甲部21o及び内甲部21iの踵部を覆う各部分が、前方に向かうほど高さが低くなる前下がり形状に形成されている。
【0048】
補強芯材23は、アッパー本体21の前後方向の中程の中足部領域において、正中面Mに沿って前後方向に延びる帯状部材によって構成され、アッパー本体21に縫い付けられている。本実施形態1では、補強芯材23は、アッパー本体21より剛性の高い生地によって構成されているが、補強芯材23の素材は、着用者がシューズ1を履く際に、アッパー本体21の後述する甲側部分31が内部に巻き込まれるのを抑制できる程度の強度を有するものであればいかなるものであってもよい。
【0049】
本実施形態1では、アッパー本体21の後足部が補強され、変形し難くなっている。具体的には、アッパー本体21の踵部に、ヒールカウンタ24を設けると共に、アッパー本体21のヒールカウンタ24の上方の傾斜部21Rに補強部材25を設けることとしている。なお、本実施形態1では、ヒールカウンタ24は、アッパー本体21の踵部の内部に設けられ、補強部材25は、傾斜部21Rの内部に設けられている。
【0050】
ヒールカウンタ24は、例えば熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、熱可塑性ゴム(TPR)、又は天然皮革や合成皮革で構成することができる。
【0051】
ヒールカウンタ24は、アッパー本体21の踵部において内甲側から後端を経て外甲側に亘るように、着用者の足の踵に沿う湾曲した形状に形成されている。本実施形態1では、ヒールカウンタ24は、アッパー本体21の外甲部21o及び内甲部21iのそれぞれの踵部において、踵部カバー22に対応する形状、即ち、前方に向かうほど高さが低くなる前下がり形状に形成されている。
【0052】
補強部材25は、ヒールカウンタ24と同様に、例えば熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、熱可塑性ゴム(TPR)、又は天然皮革や合成皮革で構成することができる。
【0053】
補強部材25は、アッパー本体21の傾斜部21Rにおいて内甲側から後端を経て外甲側に亘るように、着用者の足首に沿う湾曲した形状に形成されている。本実施形態1では、補強部材25は、アッパー本体21の傾斜部21Rに対応する形状、即ち、後上がり形状に形成されている。
【0054】
以上のようなヒールカウンタ24及び補強部材25が設けられることにより、アッパー本体21の後足部が補強され、シューズ1の着脱時にアッパー本体21の後足部が変形し難くなっている。なお、本実施形態1では、図示を省略しているが、アッパー本体21の踵部の内部には、ヒールカウンタ24及び補強部材25の内側にクッション材が設けられている。
【0055】
[分断部]
本発明に係るアッパー20では、アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oの少なくとも一方に、内甲部21i及び外甲部21oの一部を、甲側部分31と踵側部分32とに分断する分断部30が形成されている。
図1~
図3に示すように、本実施形態1では、分断部30は、アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oの両方に形成されている。
【0056】
分断部30は、アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oのそれぞれにおいて、履き口Oの周縁から所定の前下がり方向Xに延びている。所定の前下がり方向Xは、水平面と30度以上50度以下の所定の角度θをなす方向であり、本実施形態1では、角度θは、40度に設定されている。
【0057】
分断部30は、先端に向かう程、幅が狭くなるU字形状の切り欠きで構成されている。分断部30は、前端部が、アッパー本体21のインステップ部よりも前方且つウエスト部よりも後方に位置するように形成されている。
【0058】
ここで、アッパー本体21のインステップ部とは、アッパー本体21において、着用者のインステップガースの測定ラインに対応する部分をいう。本願では、
図1に示すように、シューズ1の前後方向において、足裏支持面Sの後端と前端をそれぞれ0%と100%の位置としたときに、アッパー本体21とソール10の足裏支持面Sの前後方向の35%の位置を通る所定の傾斜面Siとが交わる部分をインステップ部とする。なお、所定の傾斜面Siの水平面に対する傾斜角度αは、50度以上70度以下の所定の角度であり、本実施形態1では、60度である。
【0059】
また、アッパー本体21のウエスト部とは、アッパー本体21において、着用者のウエストガースの測定ラインに対応する部分をいう。本願では、
図1に示すように、シューズ1の前後方向において、足裏支持面Sの後端と前端をそれぞれ0%と100%の位置としたときに、アッパー本体21とソール10の足裏支持面Sの前後方向の50%の位置を通る所定の傾斜面Swとが交わる部分をウエスト部とする。なお、所定の傾斜面Swの水平面に対する傾斜角度βは、50度以上70度以下の所定の角度であり、本実施形態1では、60度である。
【0060】
なお、傾斜角度αと傾斜角度βは、アッパー本体21において、インステップ部とウエスト部とが交差しないように設定される。具体的には、インステップ部の上端(正中面M上の部分)がウエスト部の上端(正中面M上の部分)よりも後方に位置するように、傾斜角度αと傾斜角度βを設定する。
【0061】
[復原機構]
本発明に係るアッパー20は、アッパー本体21に形成した分断部30の幅が広がると、アッパー本体21の分断部30の周辺に、分断部30の幅が元に戻るように復原力を作用する復原機構40をさらに備えている。本実施形態1では、復原機構40は、第1弾性部材41と第2弾性部材42とを有している。
【0062】
第1弾性部材41及び第2弾性部材42は、いずれも弾性材料からなる帯状部材である。第1弾性部材41及び第2弾性部材42は、いずれも下端が、アッパー本体21の分断部30の周辺であって分断部30より下方に取り付けられ、分断部30を跨ぐ前上がり方向に延びている。第1弾性部材41は、前上がりの第1方向Y1に延び、第2弾性部材42は、第1方向Y1よりも上向きの前上がりの第2方向Y2に延びている。第1弾性部材41及び第2弾性部材42は、いずれも上端が、アッパー本体21の分断部30の周辺であって分断部30より上方に取り付けられている。
【0063】
第1弾性部材41及び第2弾性部材42は、いずれも分断部30の幅が広がると伸長してアッパー本体21の分断部30の周辺に収縮力(第1弾性部材41は第1方向Y1の収縮力、第2弾性部材42は第2方向Y2の収縮力)を作用するように構成されている。本実施形態1では、このような第1弾性部材41及び第2弾性部材42の収縮力が、上記復原力となる。
【0064】
本実施形態1では、第1弾性部材41と第2弾性部材42とは、弾性材料からなる単一の帯状部材である弾性部材43で構成されている。また、復原機構40は、アッパー本体21の分断部30の周辺であって分断部30より上方に分断部30に突出するように取り付けられた環状部材(支持部材)44をさらに有している。環状部材44は、基端がアッパー本体21の分断部30上方に取り付けられた帯状の支持部材45の先端に取り付けられている。弾性部材43は、環状部材44の棒状部分に引っ掛けられて該棒状部分で折り返されており、第1方向Y1に延びる部分が第1弾性部材41を構成し、第2方向Y2に延びる部分が第2弾性部材42を構成する。
【0065】
-アッパーの性能-
(着脱容易性)
シューズ1の着脱時には、着用者の足が前下がりに傾斜した状態となり、足の最も太いヒールガース部分(足のヒールガースの測定ラインに対応する部分)が履き口Oを通過する。そのため、履き口Oの周長が、着用者の足のヒールガース部分よりも短いと、シューズ1の着脱時に、着用者の足のヒールガース部分が履き口O付近で引っ掛かり、摩擦抵抗が大きくなるので、足をシューズ1内に挿入し難くなり、また、足をシューズ1内から抜き出し難くなる。
【0066】
本実施形態1では、アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oに分断部30が形成され、分断部30により、内甲部21i及び外甲部21oの一部(後半部分)が、分断部30より上方の甲側部分31と分断部30より下方の踵側部分32とに分断されている。このような構成により、シューズ1の着脱時には、甲側部分31が、前下がりに傾斜した着用者の足の甲により、接地面10gに対する傾斜角度が着用時及び未着用時に比べて大きくなるように立ち上げられることにより、分断部30の幅が広がり、履き口Oが足長方向に広がることとなる。このとき、履き口Oの周辺部も分断部30によって前後に分断されており、環状でないため、履き口Oが足長方向に広がる際に履き口Oが足幅方向に狭まることもなく、履き口Oの周長が長くなり、履き口Oが広くなる。これにより、シューズ1の着脱時に、着用者の足のヒールガース部分の引っ掛かりを抑制でき、摩擦抵抗が小さくなるため、着用者が足をシューズ1内に挿入し易くなり、また、着用者が足をシューズ1内から抜き出し易くなる。つまり、シューズ1の着脱が容易になる。
【0067】
また、本実施形態1では、分断部30が、履き口Oの周縁から前下がり方向Xにアッパー本体21のインステップ部よりも前方の位置まで長く延びている。そのため、分断部30がインステップ部に達しない場合に比べて、シューズの着脱時に着用者の足の甲によって立ち上げられる甲側部分31の足長方向の長さが長くなり、履き口Oが足長方向により大きく広がることとなる。また、シューズ1の着脱時に、上記甲側部分31が立ち上げられて分断部30の幅が広がることにより、アッパー本体21のインステップ部の周囲長さが長くなるため、シューズ1の着脱が容易になる。
【0068】
さらに、本実施形態1では、アッパー本体21が、ヒールカウンタ24より上方に、上端部が踵部の最も後方に位置するように後上がりに傾斜した傾斜部21Rを有するように構成されている。このような構成により、シューズ1を履く際には、前下がりに傾斜した着用者の足が傾斜部21Rによって円滑にシューズ1内に導かれ、シューズ1を脱ぐ際には、前下がりに傾斜した着用者の足が、踵部に引っ掛かることなく傾斜部21Rによって円滑にシューズ1外へ導かれることとなる。つまり、シューズ1の着脱が円滑になる。
【0069】
(ホールド性、フィット性)
分断部30が、前下がり方向Xに長く延び、ウエスト部に達してしまうと、甲側部分31が歩行時にも立ち上がり、歩行時にシューズ1がずれたり脱げたりするおそれが生じる。
【0070】
本実施形態1では、分断部30は、アッパー本体21のウエスト部までは延びておらず、アッパー本体21のウエスト部は分断部30によって分断されない。そのため、アッパー本体21のウエスト部で着用者の足の土踏まず付近をしっかりと保持することができ、歩行中にシューズ1がずれたり脱げたりすることがなく、アッパー本体21に分断部30を形成しても、ホールド性を損なわない。
【0071】
また、本実施形態1では、アッパー20が、分断部30の幅が広がると、アッパー本体21の分断部30の周辺に該分断部30の幅が元に戻るように復原力を作用する復原機構40をさらに備えている。そのため、シューズ1の着脱時に、甲側部分31が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部30の幅が広がっても、シューズ1の着脱後(着用時及び未着用時)には、復原機構40により、迅速に分断部30の幅が元の幅に戻ろうとする。具体的には、本実施形態1では、シューズ1の着脱時に、甲側部分31が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部30の幅が広がると、弾性部材43(第1弾性部材41及び第2弾性部材42)が伸長し、アッパー本体21の分断部30の周辺には伸長した弾性部材43の収縮力(第1方向Y1の収縮力と第2方向Y2の収縮力)が作用する。よって、本実施形態1では、シューズ1の着脱時に着用者の足の甲によって立ち上げられていた甲側部分31は、着脱後(着用時及び未着用時)には、迅速に元の位置又はその付近(少なくとも履き口Oの周長が着用者の足のヒールガース部分よりも短くなる位置)まで復帰することとなる。よって、シューズ1の着用時にはフィット性が向上し、未着用時には迅速に元の形状に復原することができる。
【0072】
また、上述のように、アッパー20に分断部30を設けると、シューズ1の着用後、例えば歩行時等、着用者の足によってアッパー20が持ち上げられる際に、分断部30の幅が広がって甲側部分31が立ち上がってしまい、歩行時にシューズ1がずれたり脱げたりするおそれがある。しかしながら、本実施形態1では、復原機構40が設けられているため、歩行時等、着用者の足によってアッパー20が持ち上げられる際に、分断部30の幅が広がろうとしても、弾性部材43(第1弾性部材41及び第2弾性部材42)の収縮力が作用して分断部30の幅が広がらず、甲側部分31が立ち上がらない。そのため、アッパー本体21によって着用者の足をしっかりと保持することができ、歩行中にシューズ1がずれたり脱げたりすることがない。特に、アッパー本体21の分断部30の周辺に第2方向Y2の収縮力を作用する第2弾性部材42を設けることにより、着用後にシューズ1が着用者の足にフィットし易くなり、フィット性が向上することとなる。
【0073】
-実施形態1の効果-
以上のように、本実施形態1のアッパー20では、アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oに、履き口Oの周縁から前下がり方向Xに延びる切り欠きからなる分断部30が形成され、該分断部30により、アッパー本体21の一部(後半部分)が、分断部30より上方の甲側部分31と分断部30より下方の踵側部分32とに分断されている。このような構成によれば、シューズ1の着脱時に、甲側部分31が、前下がりに傾斜した着用者の足の甲により、接地面10gに対する傾斜角度が着用時及び未着用時に比べて大きくなるように立ち上げられることにより、分断部30の幅が広がり、履き口Oが足長方向に広がることとなる。また、履き口Oの周辺部も分断部によって前後に分断されており、環状でないため、履き口Oが足長方向に広がる際に履き口Oが足幅方向に狭まることもなく、履き口Oの周長が長くなり、履き口Oが広くなる。これにより、シューズ1の着脱時に、着用者の足が引っ掛かるのを抑制でき、摩擦抵抗が小さくなるため、着用者が足をシューズ1内に挿入し易くなり、着用者が足をシューズ1内から抜き出し易くなる。つまり、シューズ1の着脱が容易になる。
【0074】
また、本実施形態1のアッパー20では、分断部30が、履き口Oの周縁から前下がり方向Xにアッパー本体21のインステップ部よりも前方の位置まで長く延びている。そのため、分断部30がインステップ部に達しない場合に比べて、シューズの着脱時に着用者の足の甲によって立ち上げられる甲側部分31の足長方向の長さが長くなり、履き口Oが足長方向により大きく広がることとなる。また、シューズ1の着脱時に、甲側部分31が立ち上げられて分断部30の幅が広がることにより、アッパー本体21のインステップ部の周囲長さが長くなるため、シューズ1の着脱を容易に行うことができる。
【0075】
一方、本実施形態1のアッパー20では、分断部30は、アッパー本体21のウエスト部までは延びておらず、アッパー本体21のウエスト部は分断部30によって分断されない。分断部30をアッパー本体21のウエスト部まで延ばしてしまうと、上記甲側部分31が歩行時にも立ち上がってしまい、歩行時にシューズ1がずれたり脱げたりするおそれがあるが、上記構成によれば、アッパー本体21のウエスト部で着用者の足の土踏まず付近をしっかりと保持することができ、歩行中にシューズ1がずれたり脱げたりすることがなく、アッパー本体21に分断部30を形成しても、ホールド性を損なわない。
【0076】
以上により、本実施形態1によれば、手を使うことなく容易に着脱できるシューズ1を、ホールド性を損なうことなく提供することができる。
【0077】
また、本実施形態1のアッパー20では、アッパー本体21の踵部のヒールカウンタ24より上方に、上端部が踵部の最も後方に位置するように後上がりに傾斜した傾斜部21Rを設けることとしている。このような構成により、シューズ1を履く際には、前下がりに傾斜した着用者の足が傾斜部21Rによって円滑にシューズ1内に導かれ、シューズ1を脱ぐ際には、前下がりに傾斜した着用者の足が、踵部に引っ掛かることなく円滑にシューズ1外へ導かれることとなる。従って、本実施形態1によれば、より着脱容易なシューズ1を提供することができる。
【0078】
また、本実施形態1のアッパー20では、アッパー本体21の踵部に、ヒールカウンタ24を設けると共に、ヒールカウンタ24の上方の傾斜部21Rに補強部材25を設けることとしている。このようにアッパー本体21の踵部の強度を高めることにより、シューズ1の着脱時に、上記甲側部分31が踵側部分32よりも変形し易くなり、アッパー本体21が着脱時の着用者の足の前下がり形状に適した形状となる。従って、本実施形態1のアッパー20によれば、シューズ1の着脱をより円滑に行うことができる。
【0079】
また、本実施形態1のアッパー20では、分断部30の幅が広がると、アッパー本体21の分断部30の周辺に分断部30の幅が元に戻るように復原力を作用する復原機構40をさらに備えている。そのため、シューズ1の着脱時に、上記甲側部分31が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部30の幅が広がっても、シューズ1の着脱後(着用時及び未着用時)には、復原機構40により、迅速に分断部30の幅が元の幅に戻ろうとする。
【0080】
具体的には、本実施形態1のアッパー20では、復原機構40が、アッパー本体21の分断部30の周辺の分断部30よりも下方と上方とに下端と上端とが取り付けられ、分断部30を跨ぐ前上がりの第1方向Y1に延びる第1弾性部材41を有し、第1弾性部材41は、分断部30の幅が広がると伸長してアッパー本体21の分断部30の周辺に収縮力を作用するように構成されている。このような構成により、シューズ1の着脱時に、上記甲側部分31が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部30の幅が広がると、第1弾性部材41が伸長し、アッパー本体21の分断部30の周辺には伸長した第1弾性部材41の収縮力(復原力)が作用する。よって、本実施形態1のアッパー20によれば、シューズ1の着脱後(着用時及び未着用時)に、着用者の足の甲によって立ち上げられた上記甲側部分31を迅速に元の位置又はその付近(少なくとも履き口Oの周長が着用者の足のヒールガース部分よりも短くなる位置)まで復帰させることができる。
【0081】
また、本実施形態1のアッパー20では、復原機構40が、第1弾性部材41に加え、アッパー本体21の分断部30の周辺の分断部30よりも下方と上方とに下端と上端とが取り付けられ、分断部30を跨ぐ前上がりの第2方向Y2に延びる第2弾性部材42をさらに有し、第2弾性部材42は、分断部30の幅が広がると伸長してアッパー本体21の分断部30の周辺に収縮力を作用するように構成されている。このような構成によれば、シューズ1の着脱時に、上記甲側部分31が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部30の幅が広がると、第1及び第2弾性部材41,42が伸長し、アッパー本体21の分断部30の周辺には、伸長した第1及び第2弾性部材41,42により、異なる二方向(第1方向Y1及び第2方向Y2)の収縮力(復原力)が作用する。よって、本実施形態1のアッパー20によれば、シューズ1の着脱後(着用時及び未着用時)に、着用者の足の甲によって立ち上げられた上記甲側部分31をより迅速且つ正確に元の位置又はその付近(少なくとも履き口Oの周長が着用者の足のヒールガース部分よりも短くなる位置)まで復帰させることができる。
【0082】
また、本実施形態1のアッパー20では、第1弾性部材41に加え、第1弾性部材41の延伸方向(第1方向Y1)よりも上向きの第2方向Y2に延び、アッパー本体21の分断部30の周辺に第2方向Y2の収縮力を作用する第2弾性部材42をさらに設けることにより、着用後にシューズ1が着用者の足にフィットし易くなり、フィット性が向上することとなる。
【0083】
また、本実施形態1のアッパー20では、第1弾性部材41と第2弾性部材42とを、アッパー本体21の分断部30の上方周辺に分断部30に突出するように取り付けられた環状部材44の棒状部分に引っ掛けて折り返した単一の弾性部材43で構成している。そのため、第1弾性部材41と第2弾性部材42とを、別個にアッパー本体21の分断部30の周辺に取り付ける場合に比べて復原機構40をコンパクトに設けることができる。
【0084】
《発明の実施形態2》
実施形態2のシューズ1は、実施形態1のシューズ1において、アッパー20の構成を一部変更したものである。具体的には、実施形態2では、
図4に示すように、アッパー20が復原機構40を備えていない。このような構成によっても、アッパー本体21に分断部30を形成することにより、実施形態1と同様に、手を使うことなく容易に着脱できるシューズ1を提供することができる。
【0085】
《発明の実施形態3》
実施形態3のシューズ1は、実施形態1のシューズ1において、アッパー20の構成を一部変更したものである。
【0086】
具体的には、実施形態3では、
図5に示すように、分断部30が、履き口O側が幅広のV字形状の切り欠きによって構成されている。そして、復原機構40が、縁取り部46と連結部47とを有するように構成されている。その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0087】
縁取り部46は、アッパー本体21の分断部30との境界に取り付けられ、V字形状の分断部30の二辺を縁取る2つの帯状部材で構成されている。本実施形態3では、縁取り部46は、弾性材料によって構成されている。縁取り部46を構成する弾性材料は、後述する連結部47による弾性復原力が作用する際に、撓まない程度の硬度を有するものであればいかなる材料を用いてもよいが、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、又はブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材が適している。
【0088】
連結部47は、縁取り部46の二辺46a,46bの間に設けられ、当該二辺46a,46bを連結している。本実施形態3では、連結部47は、C字形状に形成され、2つの端部に縁取り部46の二辺46a,46bが連結されている。連結部47は、縁取り部46の二辺46a,46bのなす角が拡大すると、元の角度に戻す弾性復原力(回転力)が縁取り部46に作用するように、弾性材料によって構成されている。なお、本実施形態3では、縁取り部46と連結部47とは、同一の弾性材料によって一体に成形されている。連結部47を構成する弾性材料は、上記弾性復原力(回転力)が生じるものであればいかなる材料を用いてもよいが、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、又はブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材が適している。
【0089】
以上のように復原機構40が構成されることにより、実施形態3では、シューズ1の着脱時に、甲側部分31が着用者の足の甲によって立ち上げられて分断部30の幅が広がると、縁取り部46の二辺46a,46bのなす角が拡大し、連結部47によって縁取り部46には二辺46a,46bのなす角を元の角度に戻す弾性復原力(回転力)が作用する。これにより、アッパー本体21が縁取り部46によって引っ張られ、分断部30の幅が迅速に元の幅に戻ろうとする。よって、実施形態3のアッパー20によっても、シューズ1の着脱後(着用時及び未着用時)に、着用者の足の甲によって立ち上げられた甲側部分31を迅速に元の位置又はその付近(少なくとも履き口Oの周長が着用者の足のヒールガース部分よりも短くなる位置)まで復帰させることができる。
【0090】
《その他の実施形態》
上記実施形態1~3では、分断部30が切り欠きによって構成されていたが、分断部30は、履き口Oの周縁から前下がり方向Xに延びる切り込みによって構成されていてもよい。分断部30が切り込みによって構成されていても、上記実施形態1~3と同様に、シューズ1の着脱時に、履き口Oを広げ、アッパー本体のインステップ部の周囲長さを長くすることができるため、シューズ1の着脱が容易になる。また、切り込みの先端(分断部30の前端部)をアッパー本体21のウエスト部よりも後方に位置させることにより、実施形態1~3と同様に、アッパー本体21に分断部30を形成しても、ホールド性を損なわない。従って、分断部30を切り込みによって構成することとしても、手を使うことなく容易に着脱できるシューズ1を、ホールド性を損なうことなく提供することができる。
【0091】
また、上記実施形態1~3では、分断部30が、アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oの両方に形成されていたが、いずれか一方のみに設けられていてもよい。アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oのいずれか一方にのみ分断部30を形成しても、上記実施形態1~3と同様に、シューズ1の着脱時に、履き口Oを広げ、アッパー本体のインステップ部の周囲長さを長くすることができるため、シューズ1の着脱が容易になる。なお、アッパー本体21の内甲部21i及び外甲部21oのいずれか一方にのみ分断部30を形成する場合、内甲部21iに形成するのが好ましい。
【0092】
また、上記実施形態1~3では、分断部30がU字形状又はV字形状の切り欠きで構成されていたが、切り欠きの形状はU字又はV字に限られない。
【0093】
また、上記実施形態3では、分断部30がV字形状の切り欠きで構成されていたが、分断部30はU字形状の切り欠きで構成されていてもよい。また、V字形状又はU字形状の切り欠きからなる分断部30の二辺及び分断部30の二辺を縁取る縁取り部46の二辺46a,46bは、必ずしも直線形状でなくてもよく、湾曲していても実施形態3と同様の効果を奏することができる。
【0094】
また、上記実施形態1~3では、アッパー本体21の踵部が、傾斜部21Rを有するように構成されていたが、アッパー本体21の踵部は、傾斜部21Rを有していなくてもよい。
【0095】
また、上記実施形態1~3では、ヒールカウンタ24がアッパー本体21の踵部の内部に設けられ、補強部材25が傾斜部21Rの内部に設けられていたが、ヒールカウンタ24は、アッパー本体21の踵部の外部に設けられていてもよく、同様に、補強部材25は、傾斜部21Rの外部に設けられていてもよい。
【0096】
さらに、上記実施形態1~3では、ヒールカウンタ24と補強部材25とが別部材で構成されていたが、ヒールカウンタ24と補強部材25とは、単一部材で構成されていてもよい。その場合、単一部材からなるヒールカウンタ24及び補強部材25は、アッパー本体21の内部に設けられていてもよく、アッパー本体21の外部に設けられていてもよい。
【0097】
また、上記実施形態1では、復原機構40の第1弾性部材41と第2弾性部材42とが、単一の弾性部材43で構成されていたが、別個の弾性部材により構成されて別々にアッパー本体21に取り付けられるものであってもよい。また、復原機構40は、第2弾性部材42を有しないものであってもよい。
【0098】
さらに、上記実施形態1では、復原機構40の第1弾性部材41及び第2弾性部材42は、弾性材料からなる帯状部材であったが、弾性材料からなり、第1方向Y1及び第2方向Y2にそれぞれ延びる部材であれば帯状部材である必要はなく、棒状部材でも紐状部材でもよい。
【0099】
また、上記実施形態1では、弾性部材43が、環状部材44の棒状部分に引っ掛けられて折り返されることにより、環状部材44に支持されるように構成されていたが、弾性部材43を折り返して支持する部材は、環状部材44に限られない。アッパー本体21の分断部30の上方周辺に分断部30に突出するように取り付けられた棒状部分を有するものであれば環状部材44でなくてもよく、単なる棒状部材であってもよい。
【0100】
また、上記実施形態3において、復原機構40は、縁取り部46に連続するように縁取り部46と一体に形成され、アッパー本体21の履き口Oに取り付けられて履き口Oを縁取る履き口部をさらに有するものであってもよい。
【0101】
また、上記実施形態3において、連結部47の形状はC字形状に限られず、縁取り部46の二辺46a,46bのなす角が拡大すると、元の角度に戻す弾性復原力(回転力)を縁取り部46に作用させることができる形状であれば、いかなる形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明は、アッパー及びシューズについて有用である。
【符号の説明】
【0103】
1 シューズ
10 ソール
10g 接地面
20 アッパー
21 アッパー本体
21R 傾斜部
21i 内甲部
21o 外甲部
24 ヒールカウンタ
25 補強部材
30 分断部
31 甲側部分
32 踵側部分
40 復原機構
41 第1弾性部材
42 第2弾性部材
43 弾性部材
44 環状部材(支持部材)
46 縁取り部
46a 縁取り部の辺
46b 縁取り部の辺
47 連結部
G 路面
X 分断部の延伸方向(前下がり方向)
Y1 第1方向
Y2 第2方向