(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134015
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】溶融樹脂からの異物の除去方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044086
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠山 亮太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA09
4F401AA10
4F401BA13
4F401CA34
4F401CA46
4F401CA49
4F401CA58
4F401CB18
4F401DC04
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】溶融樹脂からフィルターを用いて異物を除去する際に、フィルターの目詰まりの発生を抑制しつつ、異物を効率的に除去しうる手段を提供する。
【解決手段】溶融樹脂からフィルターを用いて異物を除去する際に、多孔板を備えた第1のフィルターを用いて前記溶融樹脂をろ過して第1のろ過物を得た後、不織布を備えた第2のフィルターを用いて前記第1のろ過物をろ過する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異物を含む溶融樹脂からの前記異物の除去方法であって、
多孔板を備えた第1のフィルターを用いて前記溶融樹脂をろ過して第1のろ過物を得ることと、
不織布を備えた第2のフィルターを用いて前記第1のろ過物をろ過して第2のろ過物を得ることと、
を含む、除去方法。
【請求項2】
前記多孔板および前記不織布が金属製である、請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
前記異物が、前記溶融樹脂の主成分とは異なる樹脂を含む、請求項1または2に記載の除去方法。
【請求項4】
前記多孔板の目開きが30~300μmである、請求項1または2に記載の除去方法。
【請求項5】
前記不織布の目開きが10~150μmである、請求項1または2に記載の除去方法。
【請求項6】
前記溶融樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1または2に記載の除去方法。
【請求項7】
前記溶融樹脂がリサイクル樹脂を含む、請求項1または2に記載の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融樹脂からの異物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCR樹脂とは、ポストコンシューマーリサイクル(Post-Consumer Recycle)樹脂の略であり、使用済みの樹脂(プラスチック)製品をリサイクルして作られた樹脂(リサイクル樹脂)を意味する。
【0003】
一般的に、樹脂(プラスチック)は石油を原料として作られていることから、リサイクルされずに廃棄されると環境に悪影響を与えることが知られている。一方、PCR樹脂は、リサイクルされた樹脂を使用することで、石油を使用することなく新しい製品を作ることができるという利点を有している。このため、PCR樹脂は環境に優しい材料として近年注目を集めている。
【0004】
PCR樹脂は、飲料瓶や容器、包装材料など、多くのプラスチック製品に使用されているが、リサイクルされた樹脂には製品に含まれる他の原料などが異物として混入する場合があり、PCR樹脂を使用する際にはこのような異物を除去することが広く行われている。
【0005】
樹脂に含まれる異物を除去する手段として、樹脂を溶融させた状態でフィルターを通過させる(溶融樹脂をろ過する)方法が知られている。
【0006】
例えば特許文献1には、金属不織布を用いて熱可塑性樹脂(ポリカーボネート)に含まれる異物を除去する技術が開示されている。また、特許文献2には、レーザーフィルター(金属多孔板)を用いて溶融樹脂に含まれる異物を除去することを含む、再生原料の製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、上下流の二か所にフィルターが配置された2段フィルターを用いて溶融樹脂をろ過する技術が開示されている。
【0007】
このように、従来、溶融樹脂に含まれる異物を除去する技術として、各種のフィルターを用いたり、フィルターを2段に配置したりすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-74064号公報
【特許文献2】特開2022-173177号公報
【特許文献3】特開平3-53923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示された金属不織布のみを用いて溶融樹脂をろ過すると、急速に目詰まりが発生して連続的な処理が困難となることが判明した。また、特許文献2に開示された金属多孔板のみを用いて溶融樹脂をろ過すると、樹脂中の異物を十分に除去できない場合があることが判明した。さらに、従来公知のフィルターを2段直列に接続して溶融樹脂をろ過したとしても、フィルターの組み合わせや配置順序によっては依然として目詰まりの発生を抑えつつ異物を十分に除去することができない場合があることも判明した。
【0010】
したがって、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶融樹脂に含まれる異物をフィルターを用いて除去する際に、フィルターの目詰まりの発生を抑制しつつ、異物を効率的に除去しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、溶融樹脂からフィルターを用いて異物を除去する際に、多孔板を備えた第1のフィルターを用いて前記溶融樹脂をろ過して第1のろ過物を得た後、不織布を備えた第2のフィルターを用いて前記第1のろ過物をろ過することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、上記諸目的は、下記の構成を有する本発明によって達成でき、本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0013】
本発明の一態様は、
1.異物を含む溶融樹脂からの前記異物の除去方法であって、
多孔板を備えた第1のフィルターを用いて前記溶融樹脂をろ過して第1のろ過物を得ることと、
不織布を備えた第2のフィルターを用いて前記第1のろ過物をろ過して第2のろ過物を得ることと、
を含む、除去方法である;
2.上記1.に記載の除去方法において、前記多孔板および前記不織布は金属製であることが好ましい;
3.上記1.または2.に記載の除去方法において、前記異物は、前記溶融樹脂の主成分とは異なる樹脂を含むことが好ましい;
4.上記1.~3.のいずれかに記載の除去方法において、前記多孔板の目開きは30~300μmであることが好ましい;
5.上記1.~4.のいずれかに記載の除去方法において、前記不織布の目開きは10~150μmであることが好ましい;
6.上記1.~5.のいずれかに記載の除去方法において、前記溶融樹脂はポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい;
7.上記1.~6.のいずれかに記載の除去方法において、前記溶融樹脂はリサイクル樹脂を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶融樹脂に含まれる異物をフィルターを用いて除去する際に、フィルターの目詰まりの発生を抑制しつつ、異物を効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶融樹脂からの異物の除去装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一形態は、異物を含む溶融樹脂からの前記異物の除去方法であって、多孔板を備えた第1のフィルターを用いて前記溶融樹脂をろ過して第1のろ過物を得ること(以下、「第1のろ過工程」とも称する)と、不織布を備えた第2のフィルターを用いて前記第1のろ過物をろ過して第2のろ過物を得ること(以下、「第2のろ過工程」とも称する)とを含む、除去方法である。
【0017】
《溶融樹脂からの異物の除去方法》
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0018】
本発明に係る異物の除去方法は、例えば、
図1に示されるような除去装置によって実施することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る溶融樹脂からの異物の除去装置の概略図である。
【0019】
図1に示す除去装置10は、溶融樹脂が流通する流路20を備えている。また、流路20の途中には、上流側に第1のフィルター31が設置されており、下流側には第2のフィルター32が設置されている。本実施形態において、第1のフィルターは多孔板(好ましくは金属多孔板)を備えており、第2のフィルターは不織布(好ましくは金属不織布)を備えている。流路20の最上流側には、原料樹脂の溶融物(溶融樹脂)を投入するための投入口(溶融樹脂の投入口)40が設けられている。一方、流路20の最下流側には、第1のフィルター31および第2のフィルター32を通過して異物が除去または異物量が低減された溶融樹脂をシートに成形するためのTダイ押出機50が設けられている。この装置を用いることで、異物を含む溶融樹脂から異物を除去した後、異物を除去された溶融樹脂を原料として押出成形シートが製造される。
【0020】
次いで、
図1に示す除去装置10を用いて溶融樹脂に含まれる異物を除去する方法について、工程順に説明する。
【0021】
[第1のろ過工程]
本工程では、多孔板を備えた第1のフィルターを用いて、異物を含む溶融樹脂をろ過する。これにより、第1のろ過物が得られる。
【0022】
(溶融樹脂)
溶融樹脂は、本発明に係る異物の除去方法において異物を除去する対象であり、主成分を構成する樹脂を加熱によって溶融させたものである。なお、「主成分」とは、本発明の除去方法に供する樹脂の全量100質量%(異物の質量を含む)のうち50質量%以上を占める樹脂を意味し、この割合は好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは99質量%以上である。
【0023】
主成分を構成する樹脂の種類について特に制限はなく、加熱により溶融する樹脂であればよい。このような樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂の例としては、ポリプロピレン系樹脂;高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-環状オレフィン共重合体等のポリエチレン系樹脂等が挙げられる。ポリエステル系樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等が挙げられる。ポリアミド系樹脂の例としては、ナイロン-6、ナイロン-6,6等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂の例としては、シンジオタクティックポリスチレン、アタクティックポリスチレン等が挙げられる。これらの中でも、溶融樹脂(の主成分を構成する樹脂は)、ポリオレフィン系樹脂またはポリエステル系樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート等)を含ことがと好ましく、ポリオレフィン系樹脂を含むことがより好ましく、ポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン系樹脂(好ましくは高密度ポリエチレン等)を含むことがさらにより好ましく、ポリプロピレン系樹脂を含むことが特に好ましい。また、上記ポリプロピレン系樹脂の好適な例としては、プロピレンを単独重合させたホモポリプロピレンや、プロピレンを主体とし、エチレン、1-ブテン等のα-オレフィン等を共重合させた様々な立体規則性を有するプロピレン系共重合体が挙げられる。中でもホモポリプロピレンが好ましい。なお、プロピレン系共重合体は2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0025】
溶融樹脂は、リサイクル樹脂を含むことが好ましい。リサイクル樹脂は後述するような異物を多量に含む可能性が高いことから、本発明に係る除去方法に供する樹脂として好適に採用される。「リサイクル樹脂」とは、使用済みのプラスチック製品を再生して作られた樹脂のことであり、再生プラスチックやPCR(Post-Consumer Recycled)樹脂とも呼ばれる。一般にプラスチックの製造には、原油から得られる石油製品が主原料として使用される。一方、プラスチック製品は廃棄物として処分されることが多く、環境問題をもたらすという懸念がある。リサイクル樹脂は、使用済みのプラスチック製品を回収・分別・洗浄・粉砕などの処理を経て再生されたものであり、新たな製品を作る原料として使用されている。リサイクル樹脂は、石油から得られるプラスチック樹脂と比べて、環境負荷が低く、資源を有効利用することが可能となる。
【0026】
樹脂を溶融させるための加熱条件については特に制限はなく、溶融押し出し技術等における従来公知の技術が適宜参照されうる。加熱温度は、樹脂の融点以上であって樹脂の劣化または分解が開始する温度未満であればよいが、例えば180~300℃であり、好ましくは200~280℃であり、より好ましくは230~270℃である。また、加熱時間は、樹脂が溶融するのに十分な時間であればよいが、例えば1~100秒である。
【0027】
(異物)
溶融樹脂は異物を含む。異物の種類について特に制限はないが、例えば、溶融樹脂の主成分とは異なる樹脂(以下、「異種の樹脂」とも称する)、炭酸カルシウムやタルクなどの無機フィラー、金属の単体または金属含有化合物などが挙げられる。本発明者らの検討によれば、驚くべきことに、リサイクル樹脂に含まれる異物の大部分は無機物ではなく異種の樹脂であることが判明した。ここで、異物として含まれる異種の樹脂が主成分の樹脂と近い融点を有していることも多い。よって、このような場合にはフィルターを用いて溶融樹脂をろ過したとしても異種の樹脂をフィルターにより除去することはできないと考えられていた。それにもかかわらず、本発明者らは、後述する所定の第1のフィルターおよび第2のフィルターをこの順に配置して溶融樹脂を2段でろ過することで、主成分の樹脂と融点が近い異種の樹脂が異物として含まれる場合であってもこのような異物を除去することができることを見出したのである。また、さらに驚くべきことには、異種の樹脂の融点が主成分の樹脂の融点よりも低い(より低温で溶融する)場合であっても、やはり同様にしてこのような異種の樹脂を除去することが可能であることも判明した。
【0028】
以上のような観点から、本発明に係る除去方法において、溶融樹脂に含まれる異物は、溶融樹脂の主成分とは異なる樹脂(異種の樹脂)を含むことが好ましく、溶融樹脂の主成分の融点よりも低い融点を有する樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0029】
異物を効率的に除去するという観点から、溶融樹脂の主成分の融点と、異種の樹脂の融点との差は、20℃以上であると好ましく、40℃以上であるとより好ましい。なお、「融点」とは、JIS-K7121:2012の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度(転移温度)を意味する。
【0030】
本発明に係る除去方法に好適に供される溶融樹脂と異物(異種の樹脂)との組み合わせの例としては、以下の形態がある:一実施形態において、溶融樹脂はポリエチレン樹脂を含み、異物(異種の樹脂)はポリプロピレン樹脂を含む。また、他の実施形態において、溶融樹脂はポリプロピレン樹脂を含み、異物(異種の樹脂)はポリエチレン樹脂を含む。
【0031】
なお、溶融樹脂がmmオーダーといった粗大な異物を含有していることが明らかである場合には、本発明に係る除去方法に供する前の段階で、篩等を用いてこのような粗大な異物を予め除去しておくことが好ましい。
【0032】
(第1のフィルター)
上述したように、第1のろ過工程では、第1のフィルターを用いて異物を含む溶融樹脂をろ過するが、この第1のフィルターは、多孔板を備えている点に特徴がある。この多孔板は、耐久性や樹脂との非反応性などの観点から金属製であることが好ましいが、その他の材質からなるものであってもよい。「多孔板」とは、板状の素材であり、多数の微細な孔が開いているものを指す。一般的にはステンレス鋼や銅などが使用され、孔の形状や密度、孔径などは用途に応じて設計される。なお、多孔板は、パンチングやスクリーンと称されることもある。
【0033】
本発明において、多孔板はレーザーフィルターであることが好ましい。レーザーフィルターとは、レーザー光を用いて多数の微細な孔を開けたフィルターである。多孔板の目開きについて特に制限はなく、除去の対象とする異物のサイズに応じて調節すればよいが、好ましくは30~300μmであり、より好ましくは50~200μmであり、さらに好ましくは60~90μmである。また、多孔板のサイズや厚さについても特に制限はないが、サイズについては直径数十cm程度の円形等が例示される。また、多孔板の厚さは、通常は50~2000μmであり、好ましくは100~500μmであり、より好ましくは200~400μmである。
【0034】
多孔板からなる第1のフィルターには、多孔板によって除去された異物を連続的に排出するための排出機構が備えられていることが好ましい。このような排出機構としては、例えば、多孔板の表面に沿って回転するスクレーパーカッターが挙げられ、これによって掻き取られた異物は、スクレーパーカッターの下部等に設置された排出口から排出される。
【0035】
第1のろ過工程を実施するには、溶融樹脂を加圧した状態で流路の内部に流通させて、第1のフィルターを通過させればよい。この際の圧力について特に制限はなく、小さいほど経済性に優れるが、通常は5~20MPa程度である。
【0036】
第1のろ過工程を経た溶融樹脂(第1のろ過物)は、依然として相当量の異物を含有しており、第1のろ過物を用いてシート等の成形体を作製すると異物の存在が目視でも(フィッシュアイなどとして)確認できるレベルである。そこで本発明では、以下の第2のろ過工程を実施することで、異物量のさらなる低減が可能となった。
【0037】
[第2のろ過工程]
第2のろ過工程では、不織布を備えた第2のフィルターを用いて、第1のろ過工程で得られた第1のろ過物をろ過する。これにより、第2のろ過物が得られる。
【0038】
第2のろ過工程を実施するには、
図1に示すように、上述した第1のフィルターの下流に設置された第2のフィルターに第1のろ過物を通過させればよい。ただし、場合によっては、第1のろ過物を取り出し、別途用意した装置(第2のフィルターを含む)を用いて第2のろ過工程を実施してもよい。
【0039】
(第2のフィルター)
第2のフィルターは、不織布を備えている点に特徴がある。この不織布は、耐久性や樹脂との非反応性などの観点から金属製であることが好ましいが、その他の材質からなるものであってもよい。「不織布」とは、ランダムに絡み合った多数の繊維から構成された、織布ではない構造体をいう。従来、金属不織布は種々のろ過工程においてフィルターとして用いられており、これはニードルパンチウェブまたは金属ウールとも称される。
【0040】
不織布の目開きについて特に制限はなく、除去の対象とする異物のサイズに応じて調節すればよく、通常は第1のフィルターよりも小さく設定されるが、好ましくは10~150μmであり、より好ましくは25~100μmであり、さらに好ましくは40~70μmである。また、不織布のサイズや厚さについても特に制限はないが、サイズについては直径数十cm程度の円形等が例示される。また、不織布の厚さは、通常は100~2000μmであり、目詰まりの発生をより抑制しやすいという観点から、好ましくは200~800μmであり、より好ましくは400~700μmである。
【0041】
不織布からなる第2のフィルターにも、不織布によって除去された異物による目詰まりを除去するための除去機構が備えられていることが好ましい。このような除去機構としては、例えば、2槽切り替え式の逆洗式連続フィルターが挙げられ、特に2槽切り替え式とすることによって不織布が目詰まりを起こした場合であっても連続的な運転が可能となる。ここで、逆洗間隔の決定は、上限差圧(圧力損失)による差圧制御であってもよいし、差圧に関係なく一定の時間間隔で行う時間制御であってもよい。なお、本発明に係る除去方法によれば、そもそも不織布をフィルターとして採用しているにもかかわらず、目詰まりの発生が効果的に抑制されるという有利な効果が存在する。したがって、本発明によれば、不織布からなる第2のフィルターを2槽切り替え式の逆洗式連続フィルターとした場合における逆洗間隔を延長することが可能である。
【0042】
第2のろ過工程を経た溶融樹脂(第2のろ過物)においては、異物が極めて少量に低減されている。したがって、この第2のろ過物を用いてシート等の成形体を作製した場合には、異物の存在が実用上は問題とならない程度に抑えられている。なお、本明細書において、「異物の除去」の概念には、異物の量をゼロにすることに加えて、処理前と比較して異物の量が低減されていることも包含するものとする。また、異物の除去率(個数基準)について特に制限はないが、実用上は50%以上であり、好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、特に好ましくは75%以上であり、最も好ましくは80%以上である。
【0043】
このように、本発明に係る異物の除去方法によれば、溶融樹脂に含まれる異物をフィルターを用いて除去する際に、フィルターの目詰まりの発生を抑制しつつ、異物を効率的に除去することができる。本発明の構成とすることによりこのような効果が奏されるメカニズムは完全には明らかとなってはいないが、後述する実施例の欄に示すように目開きの小さい不織布のみを用いて異物の除去を試みた場合には、溶融樹脂を流通させる際の押出圧力が急激に上昇したことから、不織布フィルターにおいて目詰まりが発生したものと考えられる。これに対し、不織布フィルターの前段に多孔板からなるフィルターを配置して第1のろ過工程を行うことで、不織布フィルターでの目詰まりの発生を抑制しつつ異物量を低減できている。このことから、不織布フィルターにおいて目詰まりを発生させるような異物が第1のろ過工程においてほとんど除去され、第1のろ過工程において除去しきれなかった残りの異物が第2のろ過工程において不織布フィルターにより確実に除去されているものと推測される。なお、このメカニズムの正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすことはない。
【0044】
《溶融樹脂を用いた押出成形シートの製造》
上述した本発明の一形態に係る異物の除去方法によって異物が除去された溶融樹脂は、種々の用途に利用されうる。一例として、当該溶融樹脂は、押出成形シートの製造に利用される。ここで、上述した異物の除去方法によって得られた溶融樹脂(第2のろ過物)は、固化することなくそのまま押出成形シートの製造に用いられてもよい。ただし、一旦ペレット状等の形状に固化された後に必要に応じて添加剤と混合された樹脂組成物の形態で押出成形シートの製造に供されることが好ましい。
【0045】
樹脂組成物を構成する添加剤としては、無機フィラーまたは有機フィラーが挙げられる。押出成形シートが無機フィラー等を含む場合、これを延伸したものは、無機フィラー等を核とした微細な空孔をシート内部に多数形成することができ、更なる白色化、不透明化、軽量化を与えることができる。無機フィラーの具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化珪素などが挙げられる。また、これらを脂肪酸、高分子界面活性剤、帯電防止剤等で表面処理したものも挙げられる。中でも重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルクが、空孔成形性が良く、安価なために好ましい。また、白色度、不透明度を向上させるため、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウムを用いることも好ましい。また、有機フィラーはシートの構成樹脂とは非相溶であり、融点ないしはガラス転移温度がシートの構成樹脂よりも高く、シートの構成樹脂の溶融混練条件下で微分散するものが好ましい。例えば、シートの構成樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合は、有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンスルフィド、ポリエーテルケトン、環状オレフィンの単独重合体、環状オレフィンとエチレンとの共重合体等が挙げられる。またはメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂の微粉末を用いてもよい。更に熱可塑性樹脂を架橋して不溶化してもよい。無機フィラーおよび有機フィラーは、これらの中から1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組み合わせる場合は無機フィラーと有機フィラーとの組み合わせであってもよい。
【0046】
また、その他の添加剤として、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機フィラーの分散剤、脂肪酸アミドなどのスリップ剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料、可塑剤、結晶核剤、離型剤、難燃剤等がさらに用いられてもよい。
【0047】
押出成形シートの製造方法としては、スクリュー型押出機に接続されたTダイ、Iダイ等により、樹脂およびフィラー等を含む樹脂組成物を溶融してシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形等が挙げられる。
【0048】
押出成形シートは、無延伸フィルムであってもよいし、1軸方向または2軸方向に延伸された延伸フィルムであってもよい。空孔の形成性および機械的強度の向上の観点からは、延伸フィルムであることが好ましい。延伸方法としては、例えばロール群の周速差を利用したロール間延伸、テンターオーブンを利用したクリップ延伸等が挙げられる。ロール間延伸によれば、延伸倍率を任意に調整して、目的の剛性、不透明度、平滑度、光沢度等が得られやすく、好ましい。延伸温度は、通常、樹脂の融点より5~60℃低い温度である。
【0049】
このようにして得られた押出成形シートの厚みは、機械的強度および印刷時の搬送性等の観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、また、製造コスト削減および廃プラスチック削減の観点から、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは500μm以下、よりさらに好ましくは200μm以下、特に好ましくは130μm以下である。なお、押出成形シートが延伸シートである場合、押出成形シートの厚みは、上記厚みを延伸倍率で除した範囲内であることが好ましい。
【0050】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【実施例0051】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。以下の製造例、実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の技術的範囲は、以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0052】
《樹脂に含まれる異物の除去》
[実施例1]
リサイクル樹脂であるポリエチレン樹脂(Polyethylene resin blend containing 100% recycled material)を原料樹脂として用い、Tダイ押出法により無延伸の単層シートを作製した。なお、作製したシートのサイズは幅20cm×長さ200cm×厚み50μm(質量は18g)であった。
【0053】
ここで、押出機のTダイの上流側には、上流から第1のフィルターおよび第2のフィルターをこの順に配置した。シートの作製時には、まず、上記原料樹脂を210℃、10MPaで溶融押出混練した後、これらのフィルターを通過させることにより、溶融樹脂に含まれる異物を除去し、次いでTダイから押し出すことによりシートに成形した。なお、第1のフィルターとしては、目開き70μmの金属多孔板(厚み300μmのレーザーフィルター)を用いた。また、第2のフィルターとしては、目開き60μmの金属不織布(厚み600μm、日本精線株式会社製、ナスロン(登録商標)フィルターNF13-N)を用いた。
【0054】
[実施例2]
ポリエチレン樹脂に代えて、同様にリサイクル樹脂であるポリプロピレン樹脂(Polypropylene resin blend containing 100% recycled material)を原料樹脂として用い、混練温度を230℃にしたこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、原料樹脂に含まれる異物を除去し、シートを作製した。
【0055】
[比較例1]
第2のフィルター(金属不織布)を用いず、第1のフィルター(金属多孔板)のみを用いたこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、原料樹脂に含まれる異物を除去し、シートを作製した。
【0056】
[比較例2]
第1のフィルター(金属多孔板)を用いず、第2のフィルター(金属不織布NF13)のみを用いたこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、原料樹脂に含まれる異物を除去し、シートを作製した。
【0057】
[比較例3]
第2のフィルター(金属不織布)に代えて、目開き62μmの金属メッシュ#250を用いたこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、原料樹脂に含まれる異物を除去し、シートを作製した。
【0058】
《フィルターの性能評価》
[異物の除去性能]
上述した各実施例および各比較例について、作製されたシートに含まれる異物(最大径50μm以上のもの)の個数を目視によりカウントし、原料樹脂の単位質量[g]当たりの個数に換算した。なお、フィルターを設置せずに実施例1(ポリエチレン樹脂)または実施例2(ポリプロピレン樹脂)と同じ方法により作製したシート(コントロール)についても同様にして単位質量当たりの異物の個数をカウントしたところ、それぞれ50[個/g]および12[個/g]であった。また、事前の予想に反して、原料樹脂としてポリエチレン樹脂を用いた実施例1における異物の大部分はポリプロピレン樹脂であり、原料樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いた実施例2における異物の大部分はポリエチレン樹脂であることも分析により確認された。
【0059】
各実施例および各比較例について上記の方法によりカウントした異物の個数およびコントロールに対する異物の除去率を下記の表1に示す。また、表1には、以下の判定基準に照らした場合の異物の個数および除去率の評価についても併せて示す。なお、異物の個数の値は小さいほど好ましく、異物の除去率の値は大きいほど好ましい。また、いずれも評価はC以上であれば実用的であるといえる。
【0060】
(異物の個数の評価)
A:10個/g未満
B:10個/g以上15個/g未満
C:15個/g以上20個/g未満
D:20個/g以上30個/g未満
E:30個/g以上
(異物の除去率の評価)
A:80%以上
B:65%以上80%未満
C:50%以上65%未満
D:30%以上50%未満
E:30%未満。
【0061】
[目詰まり耐性]
上述した各実施例および各比較例において、原料樹脂に含まれる異物を除去している際に、圧力計を用いて第1のフィルターの上流部分の圧力を測定し、当該圧力の上昇速度[MPa/min]を測定した。結果を下記の表1に示す。また、表1には、以下の判定基準に照らした場合の評価についても併せて示す。なお、この値は目詰まりの指標であり、小さいほど好ましく、評価はB以上であれば実用的であるといえる。
【0062】
A:0.1MPa/min未満
B:0.1MPa/min以上0.6MPa/min未満
C:0.6MPa/min以上1.0MPa/min未満
D:1.0MPa/min以上2.0MPa/min未満
E:2.0MPa/min以上。
【0063】
【0064】
表1に示す結果から、フィルターとして金属多孔板のみを用いた比較例1では、目開きを比較的小さく設定したとしても、異物を十分に除去することができないことがわかる。また、フィルターとして金属不織布のみを用いた比較例2では、優れた異物除去性能を示すものの、昇圧速度が非常に大きいことからすぐに目詰まりを起こすことがわかる。さらに、金属多孔板と金属メッシュとを併用した比較例3では、フィルターを2段としたにもかかわらず依然として異物を十分に除去することができていないことがわかる。
【0065】
これに対し、フィルターを2段とする際に、1段目の金属多孔板と2段目の金属不織布とを併用した実施例1では、非常に優れた異物の除去性能が発揮されていることがわかる。また、金属不織布を用いているにもかかわらず目詰まり耐性も良好である。したがって、本発明によれば、フィルターを用いて溶融樹脂に含まれる異物を除去する際に、フィルターの目詰まりの発生を抑制しつつ、異物を効率的に除去することができるといえる。
【0066】
さらに、実施例2について見ると、異物の大部分を占めるポリエチレン樹脂の融点(115~135℃)は、主成分であるポリプロピレン樹脂の融点(170~180℃)よりもかなり低い。このため、シートの作製時には、異物であるポリエチレン樹脂も主成分と同様に溶融した状態で存在すると考えられる。それにもかかわらず、本発明の構成とすることにより、より低融点の異物であるポリエチレン樹脂を効率的に除去できているという結果は、本願発明の属する分野における技術水準からは予測できない顕著なものであるといえる。