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特開2024-134031回路シミュレーション装置、回路シミュレーション方法、および回路シミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134031
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】回路シミュレーション装置、回路シミュレーション方法、および回路シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/367 20200101AFI20240926BHJP
【FI】
G06F30/367
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044114
(22)【出願日】2023-03-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5Gに向けた高速ビームステアリング技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504130821
【氏名又は名称】学校法人湘南工科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康之
(72)【発明者】
【氏名】加保 貴奈
(72)【発明者】
【氏名】松永 高治
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA22
5B146GG24
(57)【要約】
【課題】電気回路のシミュレーションの精度を向上できる技術を提供する。
【解決手段】回路シミュレーション装置1において、入力部2は、トランジスタの直流特性の入力を受け付ける。演算部4は、トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得する。演算部4は、出力信号が負荷線の端で制限された場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタの直流特性の入力を受け付ける入力部と、
前記トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、前記トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得する演算部と、を備え、
前記演算部は、出力信号が負荷線の端で制限された場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算する、
ことを特徴とする回路シミュレーション装置。
【請求項2】
前記トランジスタは、電界効果トランジスタであり、
前記出力信号は、前記電界効果トランジスタのドレイン電流とドレイン電圧を含み、
前記演算部は、
ドレイン電流が負荷線の端で制限された場合、取得されたドレイン電流の時間波形の直流成分を取得し、取得された直流成分の値を通るように負荷線を移動させ、前記トランジスタの直流特性と移動後の負荷線とにもとづいて、同一の交流成分の入力信号に対するドレイン電流の時間波形を新たに取得する一連の処理を繰り返し、
最終的に取得されたドレイン電流の時間波形の直流成分と基本波成分を取得し、前記直流成分から前記基本波成分だけ変動した値にもとづいて、最終的な負荷線の端を超えるドレイン電流またはドレイン電圧の変動量を演算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記トランジスタを有する電気回路の非線形特性を表した関数にもとづいて、前記電気回路の電気的特性を演算する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項4】
前記演算部で演算された出力信号の変動量を含む時間波形の1周期分にもとづいて、前記トランジスタの等価回路に含まれる非線形回路素子の値を演算するモデリング部をさらに備え、
前記演算部は、前記モデリング部で演算された前記非線形回路素子の値にもとづいて、前記トランジスタを有する電気回路の散乱パラメータを演算する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項5】
前記演算部は、複数の入力電力のそれぞれに関して出力信号の変動量を含む時間波形を取得し、取得された出力信号の時間波形にもとづいて、前記トランジスタを有する電気回路のAM-AM特性とAM-PM特性を演算し、
前記回路シミュレーション装置は、
演算されたAM-AM特性とAM-PM特性のそれぞれを関数で近似するモデリング部をさらに備え、
前記演算部は、前記関数にもとづいて前記電気回路の歪特性を演算する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記関数の近似誤差が所定の許容範囲を超える場合、演算されたAM-AM特性とAM-PM特性をテーブルとして保持し、保持された前記テーブルをもとに前記電気回路の歪特性を演算する、
ことを特徴とする請求項5に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項7】
トランジスタの直流特性の入力を受け付けるステップと、
前記トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、前記トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得するステップと、
出力信号が負荷線の端で制限される場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算するステップと、
を備えることを特徴とする回路シミュレーション方法。
【請求項8】
トランジスタの直流特性の入力を受け付けるステップと、
前記トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、前記トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得するステップと、
出力信号が負荷線の端で制限される場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする回路シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回路シミュレーション装置、回路シミュレーション方法、および回路シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路のシミュレーション方法のひとつにロードライン法がある。ロードライン法は、ロードライン解析とも呼ばれる。ロードライン法では、トランジスタの負荷線上を動く電流と電圧の波形を時間軸解析することにより非線形特性を求めることができる。例えば、非特許文献1および非特許文献2は、ロードライン法を基本とする非線形解析を採用している電気回路のシミュレーション方法を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Mori, M. Nakayama, Y. Itoh, S. Murakami, Y. Nakajima, T. Takagi, and Y. Mitsui, "Direct Efficiency and Power Calculation Method and Its Application to Low Voltage High Efficiency Power Amplifier", IEICE Trans., vol. E78-C, No.9, pp.1229-1236, September 1995
【非特許文献2】Y. Ikeda, K. Mori, M. Nakayama, Y. Itoh, O. Ishida, and T. Takagi, "An Efficient Large-Signal Modeling Method Using Load-Line Analysis and its Application to Non-Linear Characterization of FET", IEICE Trans. Electron., vol. E84-C, No. 7, pp. 875-880, July 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の電気回路のシミュレーション方法は、トランジスタのニー電圧、破壊電圧、飽和電流より決定される直流特性および出力負荷条件、バイアス条件から、トランジスタの出力、効率を計算する。トランジスタへの入力電力が大きくなり、ゲートに順方向の飽和電流(以下、順方向ゲート電流と呼ぶ)や逆方向の漏れ電流(以下、逆方向ゲート電流と呼ぶ)が流れるようになると、非特許文献1の方法ではトランジスタのニー電圧、破壊電圧、飽和電流で決定される直流特性の範囲を超えないように電圧振幅または電流振幅を計算するため、出力や効率の精度が低下する可能性がある。
【0005】
非特許文献2のシミュレーション方法でも、非特許文献1と同様に電圧振幅または電流振幅を計算するため、大信号動作時のシミュレーション精度が低下する可能性がある。
【0006】
本開示の例示的な目的の一つは、電気回路のシミュレーションの精度を向上できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の回路シミュレーション装置は、トランジスタの直流特性の入力を受け付ける入力部と、トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得する演算部と、を備える。演算部は、出力信号が負荷線の端で制限された場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算する。
【0008】
本開示の別の態様は、回路シミュレーション方法である。この方法は、トランジスタの直流特性の入力を受け付けるステップと、トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得するステップと、出力信号が負荷線の端で制限される場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算するステップと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本開示の構成要素や表現を方法、システム、プログラムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、電気回路のシミュレーションの精度を向上できる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の回路シミュレーション装置の機能構成を示す図である。
図2】実施形態の回路シミュレーション装置の構成を示す図である。
図3】実施形態のトランジスタの直流特性を示す図である。
図4図4(a),(b)は、実施形態のトランジスタの入力信号が大きい場合の動作を説明するための図である。
図5】実施形態におけるトランジスタの等価回路図である。
図6】実施形態におけるトランジスタの電流電圧特性を示す図である。
図7】実施形態における電気回路の出力電力、振幅歪、および位相歪の入力電力依存性を示す図である。
図8図1の回路シミュレーション装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0013】
まず、図1および図2を参照して、本実施形態の回路シミュレーション装置について説明する。図1は、実施形態の回路シミュレーション装置1の機能構成を示す。図2は、実施形態の回路シミュレーション装置1の構成を示す。
【0014】
回路シミュレーション装置1は、ロードライン法を用いて、トランジスタなどの増幅素子を含む電気回路の線形および非線形特性を解析する。電気回路は、例えば、電力増幅器などの増幅器であってよい。電気回路の動作周波数は特に限定されないが、例えば、無線周波数帯であってよい。回路シミュレーション装置1は、入力信号の時間波形に対する出力信号の時間波形をシミュレーションし、得られた出力信号の時間波形をもとに出力電力、効率、振幅歪、位相歪、歪特性などをシミュレーションし、これらを出力する。
【0015】
図1に示すように、回路シミュレーション装置1は、入力部2、モデリング部3、演算部4、解析結果表示部5、および解析結果出力部6を備える。これらの構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0016】
入力部2は、非線形回路素子であるトランジスタ等の直流特性(図3)および等価回路(図4)の回路素子値の入力を受け付ける機能を有する。トランジスタの直流特性は、測定値であり、ニー電圧V、破壊電圧Vbr、2端子耐圧(Vbr+V)、飽和電流Idss、I-V特性を含む。ここでVは、トランジスタのピンチオフ電圧である。トランジスタの等価回路の回路素子値については後述する。入力部2は、交流負荷の値、入力信号の周波数と入力電力などのシミュレーション条件の入力を受け付けてもよい。
【0017】
モデリング部3は、トランジスタの直流特性、トランジスタの等価回路の容量や抵抗等の非線形特性から電気回路の振幅歪や位相歪の非線形特性までを数学的に関数で表現する機能を有する。演算部4は、電気回路の線形および非線形特性を時間領域で解析する機能を有する。モデリング部3、演算部4の機能の詳細は後述する。
【0018】
解析結果表示部5は、電気回路の線形および非線形特性を図2の表示装置7を用いてグラフまたは数値で表示する機能を有する。解析結果出力部6は、上記解析結果を図2の記憶装置、入出力装置、通信装置を用いて出力する機能を有する。
【0019】
図2に示すように、回路シミュレーション装置1は、表示装置7、演算装置8、記憶装置9、通信装置10、および入出力装置11を備える。演算装置8は、記憶装置9に格納されている回路シミュレーションプログラムを実行することにより、回路シミュレーション装置1を統合制御し、回路シミュレーション装置1の各機能を実現する。記憶装置9は、プログラムやデータを格納している。通信装置10は、外部機器との通信を行う。表示装置7は、例えばディスプレイであり、回路シミュレーション装置1の解析結果等の各種情報を表示する。入出力装置11は、回路シミュレーション装置1に対してデータを入力するためのキーボードやマウス、回路シミュレーション装置1の解析結果等の各種情報を出力するプリンターを含む。
【0020】
次に、図3図6を参照して、回路シミュレーション装置1が解析するトランジスタの直流特性、等価回路、電流電圧特性について説明する。トランジスタは、電界効果トランジスタである一例を説明する。
【0021】
図3は、実施形態のトランジスタの直流特性を示す。図3では、トランジスタの直流特性をドレイン電圧Vに対するドレイン電流Iで表現する。トランジスタはソース接地され、ドレインに交流負荷が接続されているとする。トランジスタのドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、入力部2で受け付けられたニー電圧V、破壊電圧Vbr、2端子耐圧(Vbr+V)、飽和電流Idssで囲まれる四角形の領域30の内側をスイングする。より詳しくは、領域30は、電圧と電流がゼロの点、ニー電圧Vと飽和電流Idssの交点、破壊電圧Vbrと飽和電流Idssの交点、電圧が2端子耐圧(Vbr+V)で電流がゼロの点を頂点とする四角形である。
【0022】
トランジスタのバイアス点18の電圧と電流を(Vdo,Ido)、電圧最小・電流最大点19の電圧と電流を(Vdmin,Idmax)、電圧最大・電流最小点20の電圧と電流を(Vdmax,Idmin)とする。電圧最小・電流最大点19は、電圧と電流がゼロの点と、ニー電圧Vと飽和電流Idssの交点とを結んだ直線上に位置する。電圧最大・電流最小点20は、ドレイン電流Iがゼロの直線上に位置する。
【0023】
実線で表す負荷線21は、バイアス点18、電圧最小・電流最大点19、電圧最大・電流最小点20を結んだ傾斜「-gl」の直線である。負荷線21は、交流負荷線であり、交流負荷の大きさ等に応じて定まる。
【0024】
演算部4は、トランジスタの直流特性と負荷線21にもとづいて、トランジスタへの入力信号の時間波形に対する出力信号の時間波形を取得する。トランジスタの直流特性は、複数のゲート電圧のそれぞれにおけるI-V特性を含む(図示せず)。詳細は後述するが、I-V特性は、例えば、入力部2で受け付けられたI-V特性の測定値を関数で近似して得られる。演算部4は、入力信号であるゲート電圧の時間変化に応じて、出力信号であるドレイン電圧Vとドレイン電流Iを負荷線21上でスイングさせ、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iの時間波形を取得する。トランジスタへの入力が相対的に小さい範囲では、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、電圧最小・電流最大点19と電圧最大・電流最小点20に到達しない範囲内で負荷線21上を動く。この場合、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iの時間波形は、クリップされない。
【0025】
演算部4は、入力信号が相対的に大きくなり、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iが電圧最小・電流最大点19に達する場合、ドレイン電圧Vの最小値が電圧Vdminで制限された時間波形と、ドレイン電流Iの最大値が電流Idmaxで制限された時間波形を取得する。演算部4は、入力信号が相対的に大きくなり、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iが電圧最大・電流最小点20に達する場合、ドレイン電圧Vの最大値が電圧Vdmaxで制限された時間波形と、ドレイン電流Iの最小値が電流Idminで制限された時間波形を取得する。つまり、これらの時間波形では、最大値と最小値の少なくとも一方がクリップされている。
【0026】
ここで、実際のトランジスタでは、入力信号が大きくなると、トランジスタに順方向ゲート電流または逆方向ゲート電流が流れることにより、出力信号が負荷線21の端をわずかに超え、出力信号の変動分が生じる。そこで、演算部4は、この変動量を演算し、変動量を出力信号の時間波形に組み入れる。
【0027】
破線で表す直線22aは、トランジスタへの入力が大きくなり、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iが負荷線21の端の電圧最小・電流最大点19を超える場合に、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iがスイングし得る範囲を示す。破線で表す直線22bは、トランジスタへの入力が大きくなり、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iが負荷線21の端の電圧最大・電流最小点20を超える場合に、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iがスイングし得る範囲を示す。直線22aは、電圧と電流がゼロの点と、ニー電圧Vと飽和電流Idssの交点とを結んだ直線上を、電圧最小・電流最大点19からドレイン電流Iが大きくなる方向に延びる。直線22bは、ドレイン電流Iがゼロの直線上を電圧最大・電流最小点20からドレイン電圧Vが大きくなる方向に延びる。
【0028】
演算部4は、出力信号が負荷線21の端で制限される場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線21の端を超える出力信号の変動量を演算する。演算部4は、出力信号が負荷線21の端で制限される場合、トランジスタに順方向ゲート電流または逆方向ゲート電流が流れることによる出力信号の変動量を演算するとも言える。変動量の演算について以下に説明する。
【0029】
図4(a),(b)は、実施形態のトランジスタの入力信号が大きい場合の動作を説明するための図である。図4(a)は、トランジスタへの入力が大きくなり、ドレイン電流Iの上半分がクリップされた場合の時間波形60とI-V特性を示す。図4(b)は、トランジスタへの入力が大きくなり、ドレイン電流Iの下半分がクリップされた場合の時間波形64とI-V特性を示す。ここでは、図3とは別の負荷線とバイアス点を用いて説明する。
【0030】
図4(a)において、一点鎖線で示す負荷線40は、初期状態の小信号時の負荷線である。負荷線40上に位置するバイアス点41の電圧をVdo、電流をIdoとする。最初、演算部4は、負荷線40上を動くドレイン電流Iとドレイン電圧Vの時間波形(図示せず)を取得する。この例では、入力が大きいため、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、負荷線40の端の電圧最小・電流最大点42で制限される。ドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、負荷線40の端の電圧最大・電流最小点43では制限されないとする。
【0031】
演算部4は、ドレイン電流Iが負荷線40の端で制限された場合、取得されたドレイン電流Iの時間波形をフーリエ級数展開し、時間波形の直流成分を取得し、取得された直流成分の値を通るように負荷線40を移動させる。このとき、演算部4は、負荷線の傾き「-gl」とバイアス点の電圧Vdoを一定に保つ。演算部4は、トランジスタの直流特性と移動後の負荷線(図示せず)とにもとづいて、同一の交流成分の入力信号に対するドレイン電流Iとドレイン電圧Vの時間波形を新たに取得する。
【0032】
演算部4は、ドレイン電流Iの直流成分の値が概ね一定値に収束するまで、これらの一連の処理を繰り返す。演算部4は、一連の処理を予め定められた回数だけ繰り返してもよい。図4(a)では、直流成分の値が収束したときのドレイン電流Iの時間波形60と負荷線45を太い実線で示す。収束したドレイン電流Iの直流成分の値は、負荷線45上のバイアス点46の電流Idavに対応する。
【0033】
演算部4は、最終的に取得されたドレイン電流Iの時間波形60の直流成分Aと基本波成分Aを取得する。演算部4は、直流成分Aから基本波成分Aだけ変動した値にもとづいて、最終的な負荷線45の端の電圧最小・電流最大点47を超えるドレイン電流Iの変動量ΔIとドレイン電圧Vの変動量ΔV(図示せず)を演算する。ドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、負荷線45の端の電圧最大・電流最小点48では制限されないとする。
【0034】
演算部4は、最終的に取得されたドレイン電流Iの時間波形60における最大値に変動量ΔIを加算し、ドレイン電流Iの変動量ΔIを含む時間波形62を取得する。演算部4は、最終的に取得されたドレイン電圧Vの時間波形(図示せず)における最小値に変動量ΔVを加算し、ドレイン電圧Vの変動量ΔVを含む時間波形(図示せず)を取得する。
【0035】
同様に、図4(b)において、一点鎖線で示す負荷線50は、初期状態の小信号時の負荷線である。バイアス点51は、負荷線50上に位置する。最初、演算部4は、負荷線50上を動くドレイン電流Iとドレイン電圧Vの時間波形(図示せず)を取得する。この例では、入力が大きいため、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、負荷線50の端の電圧最大・電流最小点53で制限される。ドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、負荷線50の端の電圧最小・電流最大点52では制限されないとする。
【0036】
演算部4は、ドレイン電流Iが負荷線50の端で制限された場合、取得されたドレイン電流Iの時間波形をフーリエ級数展開し、時間波形の直流成分を取得し、取得された直流成分の値を通るように負荷線50を移動させる。既述の通り、負荷線の傾き「-gl」とバイアス点の電圧Vdoは一定に保たれる。演算部4は、トランジスタの直流特性と移動後の負荷線(図示せず)とにもとづいて、同一の交流成分の入力信号に対するドレイン電流Iの時間波形を新たに取得する。
【0037】
既述のように、演算部4は、ドレイン電流Iの直流成分の値が概ね一定値に収束するまで、これらの一連の処理を繰り返す。図4(b)では、直流成分の値が収束したときのドレイン電流Iの時間波形64と負荷線55を太い実線で示す。収束したドレイン電流Iの直流成分の値は、負荷線55上のバイアス点56の電流Idavに対応する。
【0038】
演算部4は、最終的に取得されたドレイン電流Iの時間波形64の直流成分Aと基本波成分Aを取得する。演算部4は、直流成分Aから基本波成分Aだけ変動した値にもとづいて、最終的な負荷線55の端の電圧最大・電流最小点58を超えるドレイン電圧Vの変動量ΔVを演算する。図4(b)の例では、ドレイン電流Iの変動量はゼロである。ドレイン電圧Vとドレイン電流Iは、負荷線55の端の電圧最小・電流最大点57では制限されないとする。
【0039】
演算部4は、最終的に取得されたドレイン電圧Vの時間波形(図示せず)の最大値に変動量ΔVを加算し、ドレイン電圧Vの変動量ΔVを含む時間波形(図示せず)を取得する。
【0040】
これらの処理を数式を用いて説明する。ドレイン電流Iの振幅をA、クリップされた時間波形60,64をフーリエ級数展開して得られた直流成分をA、基本波成分をA、周期をTとする。図4(a)に示すように、ドレイン電流Iのピーク値からbT離れた点でIの上半分がクリップされたとする。また、図4(b)に示すように、ドレイン電流Iのピーク値からaT離れた点でIの下半分がクリップされたとする。Iの上半分と下半分の両方が同時にクリップされた時間波形をフーリエ級数展開すると、次の式(1)、式(2)が得られる。
【0041】
【数1】
【0042】
図4(a)では、a=1/2、すなわち下半分がクリップされていないので、A,Aは、それぞれ次の式(3)、式(4)で与えられる。
【0043】
【数2】
【0044】
また図4(b)では、b=0すなわち上半分がクリップされていないので、A,Aは、それぞれ次の式(5)、式(6)で与えられる。
【0045】
【数3】
【0046】
トランジスタの入力が大きくなると、図4(a)ではドレイン電流Iは負荷線45の端の電圧最小・電流最大点47を超えて、ゼロ点とニー電圧Vを結んだ線上を上方にスイングする。このときのドレイン電流Iの変動量をΔIとすると、ΔIは次の式(7)より求めることができる。また、ドレイン電圧Vの変動量ΔVは、ゼロ点とニー電圧Vを結んだ線上で、電流がΔI変化したときの電圧の変化量として求めることができる。
【0047】
【数4】
【0048】
またトランジスタの入力が大きくなると、図4(b)ではドレイン電圧Vは負荷線55の端の電圧最大・電流最小点58を超えて、I=0の線上を右方にスイングする。このときのドレイン電圧Vの変動量をΔVとすると、ΔVは次の式(8)より求めることができる。つまり、変動量ΔVは、負荷線55上でドレイン電流が電圧最大・電流最小点58の電流Idminから「基本波成分A-直流成分A」だけ減少したときの電圧の変化量として求めることができる。
【0049】
【数5】
【0050】
ドレイン電流Iの上側と下側の両方が同時に制限された場合であっても、同様に、出力信号の変動量を含む時間波形を取得できる。
【0051】
本実施形態では、トランジスタの入力が大きくなり、トランジスタに順方向ゲート電流や逆方向ゲート電流が生じる場合に、電圧振幅や電流振幅の変動量を計算できる。つまり、トランジスタの入力が大きい場合、負荷線を超えた領域でのドレイン電流I、ドレイン電圧Vの振る舞いも考慮に入れて出力信号の時間波形を取得するので、計算精度が高くなる。
【0052】
図5は、実施形態におけるトランジスタの等価回路図である。相互コンダクタンスをgm、ドレイン・ソース間抵抗をRds、ゲート・ソース間容量をCgs、ゲート・ドレイン間容量をCdgで表現する。これらの回路素子は、ゲート電圧Vおよびドレイン電圧Vにより値が変化する非線形回路素子であり、これらの値は、例として、以下の式(9)-(12)で与えることができる。なお、式(10)では、ドレイン・ソース間抵抗Rdsをコンダクタンスgds=1/Rdsで示している。トランジスタへの入力電力に応じて、ドレイン電圧Vおよびドレイン電流I図3の負荷線21と直線22a,22b上をスイングするので、非線形動作時(すなわち大信号動作時)には1周期分の平均値、すなわち以下の式(13)-(16)で与えられるgmav,gdsav,Cgsav,Cdgavで与えることができる。つまり、モデリング部3は、演算部4で演算された出力信号の変動量を含む時間波形の1周期分にもとづいて、等価回路に含まれる非線形回路素子の値を演算する。演算部4は、複数の入力電力のそれぞれに関して出力信号の変動量を含む時間波形を取得する。モデリング部3は、複数の入力電力のそれぞれに関して非線形回路素子の値を演算する。
【0053】
【数6】
【数7】
【0054】
また、ゲート・ソース間抵抗をR、ドレイン・ソース間容量をCdsで表現する。これらの回路素子は、ゲート電圧Vおよびドレイン電圧Vに依存しない線形回路素子である。
【0055】
図6は、本実施形態におけるトランジスタの電流電圧特性を示す。図6では、図3の直流特性の領域30にトランジスタのV-I特性を重ねている。既述のように、破線の四角形で囲まれた領域30をドレイン電圧V、ドレイン電流Iがスイングする。実線32は、トランジスタの直流特性である電流電圧特性の測定値である。破線31は、トランジスタの直流特性を数学的に関数で表現した例である。ドレイン電流Iをドレイン電圧Vとゲート電圧Vの関数として表現した数式の例を式(17),(18)に示す。つまり、モデリング部3は、トランジスタのV-I特性の測定値を関数で近似する。
【0056】
【数8】
【0057】
ドレイン電流Iは、ドレイン電圧Vとゲート電圧Vの3次多項式と双曲線関数で表現されており、測定値が無い領域でもドレイン電流Iを計算することができる。これにより、測定値が無い領域でも、より正確な出力信号の時間波形を取得でき、式(9)および式(13)の相互コンダクタンス、式(10)および式(14)のドレイン・ソース間コンダクタンスをより正確に演算できる。よって、シミュレーションの精度を高めることができる。
【0058】
つまり、演算部4は、トランジスタの直流特性の測定値を近似した関数と負荷線にもとづいて、出力信号の時間波形を取得する。この処理は、演算部4が、トランジスタを有する電気回路の非線形特性を表した関数にもとづいて、電気回路の電気的特性を演算することに相当する。
【0059】
ここで、非特許文献2の技術では、トランジスタの電流と電圧などの直流特性の測定値を直接用いて時間波形を取得するため、測定値が無い点での計算精度が低下する可能性がある。これに対して、実施形態ではトランジスタの直流特性を測定値ではなく数学的に関数で表現するため、計算精度を向上できる。
【0060】
次に、図7を参照して、回路シミュレーション装置1による電気回路のAM-AM特性、AM-PM特性、歪特性の解析について説明する。
【0061】
図7は、本実施形態における電気回路の出力電力Pout、振幅歪ΔG、および位相歪Δφの入力電力Pin依存性を示す。Pin-Pout特性は、AM-AM特性として知られ、Pin-Δφ特性はAM-PM特性として知られている。振幅歪ΔGおよび位相歪Δφは、図5のトランジスタの等価回路の散乱パラメータから以下の式(19)-(22)を用いて求めることができる。
【0062】
【数9】
【0063】
つまり、演算部4は、複数の入力電力のそれぞれに関して、モデリング部3で演算された非線形回路素子の値にもとづいて散乱パラメータを演算し、演算された複数の入力電力のそれぞれに関する散乱パラメータをもとにAM-AM特性とAM-PM特性を導出する。この処理は、演算部4が、複数の入力電力のそれぞれに関する出力信号の時間波形にもとづいて、電気回路のAM-AM特性とAM-PM特性を演算することに相当する。
【0064】
ここで、非特許文献2の技術では、トランジスタの非線形動作時の散乱パラメータを市販のシミュレータを用いて計算するため、その際には計算がオフラインとなり、計算速度が低下する可能性がある。これに対して、実施形態では、モデリング部3で演算された非線形回路素子の値をもとに非線形動作時の散乱パラメータをオンラインで計算できるので、シミュレーションの速度を向上できる。
【0065】
AM-AM特性、AM-PM特性は、歪特性としての相互変調歪、スペクトル、変調精度(EVM)等を計算する際の基本式となるが、入力電力を変更してシミュレーションする場合、上記の式(19)-(22)のままでその都度計算すると時間がかかる虞がある。そこで、実施形態では一旦計算したAM-AM特性、AM-PM特性を数学的に関数で表現する。つまり、モデリング部3は、演算されたAM-AM特性とAM-PM特性のそれぞれを関数で近似する。演算部4は、AM-AM特性とAM-PM特性のそれぞれを近似した関数にもとづいて電気回路の歪特性を演算する。この処理は、演算部4が、電気回路の非線形特性を表した関数にもとづいて、電気回路の電気的特性を演算することに相当する。これにより、計算速度を向上できる。ここでは回帰解析の手法を用い、式(23)および式(24)でAM-AM特性、AM-PM特性を表現している。a,an-1,an-2,・・・,b,bn-1,bn-2・・・は係数を表し、式(23)および式(24)はn次の多項式で示す。
【0066】
【数10】
【0067】
また、演算部4は、関数の近似誤差が所定の許容範囲を超える場合、演算されたAM-AM特性とAM-PM特性をテーブルとして保持し、保持されたテーブルをもとに電気回路の歪特性を演算する。関数の近似誤差として、公知の各種の誤差を利用できる。許容範囲は、実験またはシミュレーションにより適宜定めることができる。これにより、AM-AM特性とAM-PM特性の関数による近似が困難な場合にも歪特性を演算できる。
【0068】
次に、図1および図8を参照して、回路シミュレーション装置1の全体的な動作について説明する。図8は、図1の回路シミュレーション装置1の動作を示すフローチャートである。
【0069】
入力部2は、非線形回路素子であるトランジスタ等の直流特性および等価回路の回路素子値の入力を受け付ける(S1)。つぎにモデリング部3は、式(17)、(18)を用いて、直流特性の測定値をもとにトランジスタのV-I特性をモデリングする(S2)。演算部4は、トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得する(S3)。モデリング部3は、式(9)-(16)を用いて、トランジスタの出力信号の時間波形をもとにトランジスタの等価回路の容量、抵抗等の非線形素子の非線形特性をモデリングする(S4)。
【0070】
演算部4は、電気回路の出力Poutと効率ηを式(25)、(26)から演算する(S5)。ここで、V(t)およびI(t)はドレイン電圧、ドレイン電流の時間変化を表し、Pdcは消費電力を示す。
【0071】
【数11】
【0072】
演算部4は、電気回路の散乱パラメータを式(21)、(22)から演算する(S6)。電気回路の散乱パラメータは、入力電力Pinに応じてトランジスタの非線形回路素子である相互コンダクタンスgm、ドレイン・ソース間抵抗Rds、ゲート・ソース間容量Cgs、ゲート・ドレイン間容量Cdgが変化するため、式(21)、(22)から入力電力に依存した形で計算することができる。
【0073】
演算部4は、散乱パラメータをもとに、電気回路の振幅歪ΔGおよび位相歪Δφを式(19)、(20)から演算する(S7)。演算部4は、AM-AM特性とAM-PM特性をもとに、相互変調歪、スペクトル、EVMなどの電気回路の各種の歪特性を演算する(S8)。
【0074】
これらの解析結果は、図1の解析結果表示部5および解析結果出力部6よりディスプレイ、プリンター、記憶装置にデータとして出力される。
【0075】
以上、本開示を実施形態にもとづいて説明した。本開示は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0076】
例えば、実施形態では回路シミュレーション装置1は電界効果トランジスタを有する電気回路を解析する一例を示したが、回路シミュレーション装置1は、バイポーラトランジスタなどの他の増幅素子を有する電気回路を解析してもよい。
【0077】
本開示の一態様は、次の通りである。
【0078】
[項目1]
トランジスタの直流特性の入力を受け付ける入力部と、
前記トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、前記トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得する演算部と、を備え、
前記演算部は、出力信号が負荷線の端で制限された場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算する、
ことを特徴とする回路シミュレーション装置。
この態様によれば、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算するので、シミュレーションの精度を向上できる。
【0079】
[項目2]
前記トランジスタは、電界効果トランジスタであり、
前記出力信号は、前記電界効果トランジスタのドレイン電流とドレイン電圧を含み、
前記演算部は、
ドレイン電流が負荷線の端で制限された場合、取得されたドレイン電流の時間波形の直流成分を取得し、取得された直流成分の値を通るように負荷線を移動させ、前記トランジスタの直流特性と移動後の負荷線とにもとづいて、同一の交流成分の入力信号に対するドレイン電流の時間波形を新たに取得する一連の処理を繰り返し、
最終的に取得されたドレイン電流の時間波形の直流成分と基本波成分を取得し、前記直流成分から前記基本波成分だけ変動した値にもとづいて、最終的な負荷線の端を超えるドレイン電流またはドレイン電圧の変動量を演算する、
ことを特徴とする項目1に記載の回路シミュレーション装置。
この場合、シミュレーションの精度を向上できる。
【0080】
[項目3]
前記演算部は、前記トランジスタを有する電気回路の非線形特性を表した関数にもとづいて、前記電気回路の電気的特性を演算する、
ことを特徴とする項目1または2に記載の回路シミュレーション装置。
この場合、シミュレーションの精度を向上できる。
【0081】
[項目4]
前記演算部で演算された出力信号の変動量を含む時間波形の1周期分にもとづいて、前記トランジスタの等価回路に含まれる非線形回路素子の値を演算するモデリング部をさらに備え、
前記演算部は、前記モデリング部で演算された前記非線形回路素子の値にもとづいて、前記トランジスタを有する電気回路の散乱パラメータを演算する、
ことを特徴とする項目1から3のいずれかに記載の回路シミュレーション装置。
この場合、シミュレーションの速度と精度を向上できる。
【0082】
[項目5]
前記演算部は、複数の入力電力のそれぞれに関して出力信号の変動量を含む時間波形を取得し、取得された出力信号の時間波形にもとづいて、前記トランジスタを有する電気回路のAM-AM特性とAM-PM特性を演算し、
前記回路シミュレーション装置は、
演算されたAM-AM特性とAM-PM特性のそれぞれを関数で近似するモデリング部をさらに備え、
前記演算部は、前記関数にもとづいて前記電気回路の歪特性を演算する、
ことを特徴とする項目1から3のいずれかに記載の回路シミュレーション装置。
この場合、関数により歪特性を演算できるので、入力電力の条件を変えるたびにAM-AM特性等を演算し直す必要がない。よって、シミュレーション速度を向上できる。
【0083】
[項目6]
前記演算部は、前記関数の近似誤差が所定の許容範囲を超える場合、演算されたAM-AM特性とAM-PM特性をテーブルとして保持し、保持された前記テーブルをもとに前記電気回路の歪特性を演算する、
ことを特徴とする項目5に記載の回路シミュレーション装置。
この場合、関数による近似が困難な場合にも歪特性を演算できる。
【0084】
[項目7]
トランジスタの直流特性の入力を受け付けるステップと、
前記トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、前記トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得するステップと、
出力信号が負荷線の端で制限される場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算するステップと、
を備えることを特徴とする回路シミュレーション方法。
【0085】
[項目8]
トランジスタの直流特性の入力を受け付けるステップと、
前記トランジスタの直流特性と負荷線にもとづいて、前記トランジスタへの入力信号に対する出力信号の時間波形を取得するステップと、
出力信号が負荷線の端で制限される場合、出力信号の時間波形にもとづいて、負荷線の端を超える出力信号の変動量を演算するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする回路シミュレーションプログラム。
【0086】
[項目9]
トランジスタの負荷線上をスイングする電圧電流の時間波形を解析するロードライン法を用いて、電気回路の非線形特性を解析するシミュレーション方法を用いたことを特徴とする電気回路のシミュレーション装置。
【0087】
[項目10]
電気回路の非線形特性を測定値ではなく関数で表現したビヘイビアモデルを用いることにより、シミュレーション速度や精度の向上を図ったことを特徴とする項目9に記載の電気回路のシミュレーション装置。
【0088】
[項目11]
電気回路を構成する非線形回路素子の値に、負荷線上をスイングするそれぞれの電圧電流の時間波形1周期分の平均を採用し、大信号動作時の散乱パラメータの計算にそのまま用いることによりシミュレーション速度や精度の向上を図ったことを特徴とする項目9または10に記載の電気回路のシミュレーション装置。
【0089】
[項目12]
トランジスタ等が大信号動作する場合に生じる順方向ゲート電流や逆方向ゲート電流を考慮したドレイン電圧およびドレイン電流の変動分を含めて電気回路の非線形特性の解析を行うことによりシミュレーション精度の向上を図ったことを特徴とする項目9から11のいずれかに記載の電気回路のシミュレーション装置。
【0090】
[項目13]
電気回路のAM-AM特性、AM-PM特性について、関数を基本としたビヘイビアモデルで表現することにより、相互変調歪、スペクトル、変調精度の計算速度向上を図ったことを特徴とする項目9から12のいずれかに記載の電気回路のシミュレーション装置。
【0091】
[項目14]
電気回路のAM-AM特性、AM-PM特性を関数を基本としたビヘイビアモデルで表現することが難しい場合、AM-AM特性およびAM-PM特性を1つのルックアップテーブルにまとめ、このテーブルを読み込むことにより相互変調歪、スペクトル、変調精度の計算を可能にしたことを特徴とする項目13に記載の電気回路のシミュレーション装置。
【0092】
[項目15]
電気回路のシミュレーションプログラムを同じ1本のソフトにまとめ、同じ1つのハード上で計算できることを可能にしたことを特徴とする項目9から14のいずれかに記載の電気回路のシミュレーション装置。
【符号の説明】
【0093】
1…回路シミュレーション装置、2…入力部、3…モデリング部、4…演算部、5…解析結果表示部、6…解析結果出力部、7…表示装置、8…演算装置、9…記憶装置、10…通信装置、11…入出力装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8