(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134039
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】移動体部材および移動体
(51)【国際特許分類】
B60J 5/10 20060101AFI20240926BHJP
F16B 37/04 20060101ALI20240926BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20240926BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B60J5/10 R
F16B37/04 H
F16B5/02 U
B60J5/04 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044122
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染谷 紀樹
【テーマコード(参考)】
3J001
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GB01
3J001GC02
3J001HA02
3J001HA07
3J001JA10
(57)【要約】
【課題】接着剤を用いずに、あるいは接着剤の使用量を減らしてアウターパネルおよびインナーパネルを組み付けることができ、かつ容易に分解することもでき、さらにはこれらの間の隙間を密閉することも可能な移動体部材を提供すること。
【解決手段】樹脂製のアウターパネルおよび樹脂製のインナーパネルを有する移動体部材であって、前記インナーパネルおよびアウターパネルは、シール材により密着され、かつ、前記シール材とは異なる位置で締結部材により締結されている、移動体部材。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のアウターパネルおよび樹脂製のインナーパネルを有する移動体部材であって、
前記インナーパネルおよびアウターパネルは、シール材により密着され、かつ、前記シール材とは異なる位置で締結部材により締結されている、
移動体部材。
【請求項2】
前記締結部材は、前記シール材よりも移動体の外側に配置された、
請求項1に記載の移動体部材。
【請求項3】
前記締結部材は、移動体の内部に配置された、
請求項1に記載の移動体部材。
【請求項4】
前記アウターパネルまたは前記インナーパネルは、前記アウターパネルまたは前記インナーパネルの本体部から延出された板状の延出部を有し、
前記締結部材は、前記延出部において前記アウターパネルおよび前記インナーパネルを締結する、
請求項1に記載の移動体部材。
【請求項5】
前記インナーパネルは、前記インナーパネルの本体部から延出された板状の延出部を有し、
前記シール材は、前記延出部の先端に設けられた、
請求項1に記載の移動体部材。
【請求項6】
前記締結部材は、前記アウターパネルまたは前記インナーパネルの端部を挟み込むクリップナットと、
前記クリップナットに挿入されたボルトと、を有する、
請求項1に記載の移動体部材。
【請求項7】
前記シール材は、前記インナーパネルの周縁部を取り囲むように設けられた、
請求項1に記載の移動体部材。
【請求項8】
バックドアである、
請求項1に記載の移動体部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の移動体部材を有する、移動体。
【請求項10】
自動車である、請求項9に記載の移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体部材および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの移動体のボディが有する構成として、外観に意匠を付与するアウターパネルと補強のためのインナーパネルとを接着させて組み付けた構成が公知である。近年、移動体を軽量化するため、アウターパネルおよびインナーパネルに樹脂製の部材を用いる試みも進められている。
【0003】
樹脂製のアウターパネルおよび樹脂製のインナーパネルは、接着剤により互いに接着される。たとえば特許文献1には、ポリプロピレン(PP)製のアウターパネルと、ガラス繊維補強ポリプロピレン(GFPP)製のインナーパネルとを接着させる際には特殊なゴム系接着剤を使用し、なおかつこのゴム系接着剤のPPへの付着性を高めるため、接着補助用プライマーを用いることが記載されている。
【0004】
また、環境負荷の低減を考慮すると、移動体の廃棄後には、アウターパネルとインナーパネルとを分解して互いから取り外し、それぞれリサイクルできることが望ましい。アウターパネルとインナーパネルとを容易に分解するための構成として、特許文献2には、アウターパネルとインナーパネルとを接着する接着剤の内側の端部またはそれよりも内側に、ワイヤー等の線状部材を配設した構成が記載されている。特許文献2によれば、分解時にはこの線状部材を引き出すことで接着剤による接着面を剥離させ、アウターパネルとインナーパネルとを容易に分解できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-002297号公報
【特許文献2】特開2010-247676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載のように接着剤でこれらを接着させると、分解後のアウターパネルおよびインナーパネルには異物としての接着剤が付着して残存してしまうため、そのままでのリサイクルは難しい。そのため、リサイクルを容易にするためには、接着剤を用いずに、あるいは接着剤の使用量を減らしてアウターパネルおよびインナーパネルを組み付けることが望ましい。一方で、接着剤を用いずに、あるいは接着剤の使用量を減らしてアウターパネルおよびインナーパネルを組み付ける際には、何らかの方法でこれらの組み付け強度を十分に確保する必要がある。
【0007】
また、接着剤は、アウターパネルおよびインナーパネルを接着させるほかに、これらの間の隙間を密閉し、移動体の内部に外部からの水分(雨水等)やガスが入り込まないようにする役割も有する。そのため、接着剤を用いずに、あるいは接着剤の使用量を減らしてアウターパネルおよびインナーパネルを組み付ける際には、他の方法でこれらの間の空間の密閉性を担保する必要がある。なお、従来の金属製のアウターパネルおよびインナーパネルであれば、端部にヘミング構造を形成して密閉性を付与することができるが、樹脂製のアウターパネルおよびインナーパネルではヘミング構造を形成することはできない。
【0008】
本発明はこれらの問題に鑑みなされたものであり、接着剤を用いずに、あるいは接着剤の使用量を減らしてアウターパネルおよびインナーパネルを組み付けることができ、かつ容易に分解することもでき、さらにはこれらの間の隙間を密閉することも可能な移動体部材、および当該移動体部材を有する移動体を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[1]~[8]の移動体部材に関する。
[1]樹脂製のアウターパネルおよび樹脂製のインナーパネルを有する移動体部材であって、
前記インナーパネルおよびアウターパネルは、シール材により密着され、かつ、前記シール材とは異なる位置で締結部材により締結されている、
移動体部材。
[2]前記締結部材は、前記シール材よりも移動体の外側に配置された、
[1]に記載の移動体部材。
[3]前記締結部材は、移動体の内部に配置された、
[1]または[2]に記載の移動体部材。
[4]前記アウターパネルまたは前記インナーパネルは、前記アウターパネルまたは前記インナーパネルの本体部から延出された板状の延出部を有し、
前記締結部材は、前記延出部において前記アウターパネルおよび前記インナーパネルを締結する、
[1]~[3]のいずれかに記載の移動体部材。
[5]前記インナーパネルは、前記インナーパネルの本体部から延出された板状の延出部を有し、
前記シール材は、前記延出部の先端に設けられた、
[1]~[4]のいずれかに記載の移動体部材。
[6]前記締結部材は、前記アウターパネルまたは前記インナーパネルの端部を挟み込むクリップナットと、
前記クリップナットに挿入されたボルトと、を有する、
[1]~[5]のいずれかに記載の移動体部材。
[7]前記シール材は、前記インナーパネルの周縁部を取り囲むように設けられた、
[1]~[6]のいずれかに記載の移動体部材。
[8]バックドアである、
[1]~[7]のいずれかに記載の移動体部材。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、下記[9]~[10]の移動体に関する。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の移動体部材を有する、移動体。
[10]自動車である、[9]に記載の移動体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接着剤を用いずに、あるいは接着剤の使用量を減らしてアウターパネルおよびインナーパネルを組み付けることができ、かつ容易に分解することもでき、さらにはこれらの間の隙間を密閉することも可能な移動体部材、および当該移動体部材を有する移動体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の例示的な実施形態に関する、自動車のバックドアの外観を示す模式図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、インナーパネルと一体成型品との接合方法の一例を示す、
図1に示す一点鎖線3-3における模式的な断面図であり、
図3Aは、例示的な従来の接合方法、
図3Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、インナーパネルと一体成型品との接合方法の一例を示す、
図1に示す一点鎖線4-4における模式的な断面図であり、
図4Aは、例示的な従来の接合方法、
図4Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、インナーパネルと一体成型品との接合方法の一例を示す、
図1に示す一点鎖線5-5における模式的な断面図であり、
図5Aは、例示的な従来の接合方法、
図5Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、インナーパネルと一体成型品との接合方法の一例を示す、
図1に示す一点鎖線6-6における模式的な断面図であり、
図6Aは、例示的な従来の接合方法、
図6Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の例示的な実施形態に関する、自動車のバックドアの外観を示す模式図であり、
図2は、
図1に示すバックドアの分解図である。
【0014】
なお、これ以降の説明および図面中、自動車の前方方向をX方向、自動車の右方向をY方向、自動車の上方方向をZ方向とする。
【0015】
図1および
図2に示すように、本実施形態に関するバックドア10は、いずれも樹脂製である上部アウターパネル110、下部アウターパネル120およびウインドウ130と、これらの内側に配置された樹脂製のインナーパネル200とを有する。また、
図1に示すように、バックドア10は左右一方のテールライトおよびブレーキライト150、およびナンバープレートの取付部160を有してもよい。
【0016】
上部アウターパネル110、下部アウターパネル120およびウインドウ130は、多色成型により成型された一体成型品である。そして、インナーパネル200と、この一体成型品100とが、インナーパネル200の外周の周縁部を取り囲むように隙間なく付与されたシール材210を介して密着されている。なお、シール材とは、接着剤とは異なり塗布後に硬化反応をさせずに2つの部材を密着させる接着用材料である。本実施形態において、シール材は、一体成型品100とインナーパネル200とを剥離可能に密着させ、これによりこれらの接触部の隙間を埋めて、車内に密閉性を付与する。シール材としては、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ホットメルト系などの公知のシール材を使用することができるが、本実施形態では、下処理が不要であり、剥離が容易であり、なおかつ粘着力の耐久性が高いゴム系、特にはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)系のシール材を使用することが好ましい。
【0017】
さらに、インナーパネル200と一体成型品100とは、複数の締結部材により締結されている。
【0018】
なお、インナーパネル200には、複数の補強部材である、左右一対のヒンジリンフォースメント220およびヒンジリンフォースメント230、左右一対のステイリンフォースメント240およびステイリンフォースメント250、ならびにロックリンフォースメント260が組み付けられている。
【0019】
(第1の密着および締結)
図3Aおよび
図3Bは、インナーパネル200と一体成型品100(下部アウターパネル120)との接合方法の一例を示す、
図1に示す一点鎖線3-3における模式的な断面図である。
図3Aは、例示的な従来の接合方法、
図3Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【0020】
図3Aに示すように、従来、インナーパネル200と下部アウターパネル120とは、これらの接触部位に付与された接着剤300により接着され、これによりインナーパネル200と下部アウターパネル120との間の空間が密閉されていた。また、下部アウターパネル120の端部は、インナーパネル200の端部のみを覆うように前方(X方向)に折り曲げられて延出された延出部122(フランジ部)となっていた。
【0021】
これに対し、
図3Bに示すように、本実施形態では、インナーパネル200と下部アウターパネル120とは、これらの接触部位に付与されたシール材210により密着され、これによりインナーパネル200と下部アウターパネル120との間の空間が密閉されている。
【0022】
また、インナーパネル200の端部は前方(X方向:車体内側方向)に折り曲げられて延出された延出部202(フランジ部)となっており、下部アウターパネル120の延出部122も、これに対応する長さを有するように従来よりも前方(X方向:車体内側方向)に延出されている。これにより、インナーパネル200および下部アウターパネル120の端部に、インナーパネル200および下部アウターパネル120により三方を取り囲まれた空間340を形成している。
【0023】
インナーパネル200の延出部202の端部には、この端部を覆うようにクリップナット310が配置されている。クリップナット310は、U字形状に折り曲げられた板状の弾性部材であり、U字状に曲げられて対向する板状部の間に延出部202の端部を挟み込むように、当該端部にはめ込まれる。また、対向する板状部の対応する位置には、一方の板状部に貫通孔が、他方の板状部にナット部が、それぞれ設けられている。そして、クリップナット310は、貫通孔が下部アウターパネル120側(Y方向側:車体外側)、ナット部がその反対側(Y方向の反対方向側:車体内側)となるように配置される。
【0024】
下部アウターパネル120の延出部122のうち、前方に延出された部位には貫通孔が形成されており、インナーパネル200の延出部202にも、対応する位置に貫通孔が形成されている。また、下部アウターパネル120とクリップナット310との間には、クリップナット310との間の摩擦による下部アウターパネル120の劣化を抑制するための金属板320が配置されており、この金属板320にも、対応する位置に貫通孔が形成されている。そして、ボルト330が、下部アウターパネル120の貫通孔、クリップナット310の外側の板状部の貫通孔、およびインナーパネル200の貫通孔に挿入され、クリップナット310の内側のナット部にはめ込まれて、クリップナット310を介してインナーパネル200と下部アウターパネル120とを締結する。
【0025】
図3Bに示すように、締結部材(クリップナット310およびボルト330)による締結は、シール材210による密着とは異なる位置、なおかつシール材210による密着よりも車体外側となる位置で行われる。締結を密着とは異なる位置で行うため、締結による樹脂の変形(クリープ)が生じたときに、これによるシール材210の剥離が生じにくい。また、締結を密着よりも車体外側で行うため、締結のための貫通孔からの車体内部への水分やガスの侵入が生じない。また、下部アウターパネル120およびインナーパネル200の本体部から延出された延出部で締結を行うため、締結によるクリープが生じたときに、これによる車体の変形が生じにくい。
【0026】
また、このとき、インナーパネル200および下部アウターパネル120により三方を取り囲まれた空間340に向けてボルト330を挿入しているため、インナーパネル200および下部アウターパネル120から突き出したボルトの先端により他の部材が傷つけられることもない。
【0027】
また、下部アウターパネル120およびインナーパネル200の双方に、これらの本体部から前方(X方向)に折り曲げられて延出された延出部122(フランジ部)および延出部202(フランジ部)を設けることで、下部アウターパネル120およびインナーパネル200の断面二次モーメントを向上させ、これらの剛性を高めることもできる。
【0028】
(第2の密着および締結)
図4Aおよび
図4Bは、ドアロックが配置された部位におけるインナーパネル200と一体成型品100((下部アウターパネル120))との接合方法の例を示す、
図1に示す一点鎖線4-4における模式的な断面図である。
図4Aは、例示的な従来の接合方法、
図4Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【0029】
図4および
図4Bに示すように、インナーパネル200にはドアロック270が設けられ、その内側にはロックリンフォースメント260が配置されている。
図4Aに示すように、従来、インナーパネル200と下部アウターパネル120とは、ドアロック270よりも後方側(X方向の反対方向側)における、これらの接触部位に付与された接着剤300により接着され、これによりインナーパネル200と下部アウターパネル120との間の空間が密閉されていた。また、下部アウターパネル120の端部は、インナーパネル200の端部のみを覆うように前方(X方向)に折り曲げられて延出された延出部122(フランジ部)となっていた。
【0030】
これに対し、本実施形態では、インナーパネル200と下部アウターパネル120(一体成型品)とは、これらの接触部位に付与されたシール材210により密着され、これによりインナーパネル200と下部アウターパネル120との間の空間が密閉されている。
【0031】
また、インナーパネル200の端部は前方(X方向:車体内側方向)に折り曲げられて延出された延出部202(フランジ部)となっており、これに対応するように、下部アウターパネル120の延出部122が従来よりも前方(X方向:車体内側方向)に延出されている。これにより、インナーパネル200および下部アウターパネル120の端部に、三方をこれらの部材により取り囲まれた空間340を形成している。
【0032】
そして、これらの延出部202および延出部122において、クリップナット310、金属板320およびボルト330により、インナーパネル200と下部アウターパネル120とが締結されている。これらの締結方法は
図3Bについて説明したものと同様なので、繰り返しの説明は省略する。
【0033】
図4Bに示すドアロック270が設けられた部位においても、締結部材(クリップナット310およびボルト330)による締結は、シール材210による密着とは異なる位置、なおかつシール材210による密着よりも車体外側となる位置で行われている。そして、下部アウターパネル120およびインナーパネル200の双方に、これらの本体部から前方(X方向)に延出された延出部122および延出部202を設ける。このような構成とすることで、
図4Bに示すドアロックが配置された部位においても、
図3Bについて説明したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0034】
(第3の密着および締結)
図5Aおよび
図5Bは、ウインドウ130が形成された部位におけるインナーパネル200と一体成型品100(上部アウターパネル110およびウインドウ130)との接合方法の例を示す、
図1に示す一点鎖線5-5における模式的な断面図である。
図5Aは、例示的な従来の接合方法、
図5Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【0035】
図5Aに示すように、従来は、上部アウターパネル110とウインドウ130とが、これらの接触部位に付与された接着剤300aにより接着されており、インナーパネル200と上部アウターパネル110とが、2か所あるこれらの接触部位のそれぞれに付与された接着剤300bおよび接着剤300cにより接着されていた。そして、これによりインナーパネル200と上部アウターパネル110およびウインドウ130との間の空間が密閉されていた。また、上部アウターパネル110の端部は、インナーパネル200の端部のみを覆うように前方(X方向)に折り曲げられて延出された延出部112(フランジ部)となっていた。なお、ウインドウ130には、これら内部の構造を外部から視認しにくくするための着色部132が、車体内側に設けられている(
図1参照)。
【0036】
これに対し、本実施形態では、上部アウターパネル110およびウインドウ130は、多色成型により成型された一体成型品100となっている。
【0037】
そして、一体成型品100のうち上部アウターパネル110となっている部位に、内側からインナーパネル200が接合されている。インナーパネル200は、車体外側(Y方向側)の一方が上部アウターパネル110に沿って伸びた平面状となっており、車体内側(Y方向とは反対側)の他方は、板状のインナーパネル200の端部が上部アウターパネル110に向かって延びている。そして、インナーパネル200は、上部アウターパネル110に沿って延びた平面状となっている部位で上記アウターパネルに接触している。一方で、車体内側で上部アウターパネル110に向かって伸びたインナーパネル200の端部の端面は、上部アウターパネル110には接触しない。
【0038】
上部アウターパネル110に沿って延びた平面状となっている外側の接触部位にシール材210が付与され、このシール材210によりインナーパネル200と上部アウターパネル110とが密着され、これによりインナーパネル200と上部アウターパネル110およびウインドウ130との間の空間が密閉されている。
【0039】
そして、インナーパネル200の端部が上部アウターパネル110に沿って延びている内側の部位では、上部アウターパネル110に、インナーパネル200に沿って前方(X方向:車体内側方向)に延出した板状の延出部114が形成されている。
【0040】
上部アウターパネル110の延出部114の端部には、この端部を覆うようにクリップナット310が配置されている。クリップナット310は、U字状に曲げられて対向する板状部の間に延出部114の端部を挟み込むように、当該端部にはめ込まれる。クリップナット310は、貫通孔がインナーパネル200側(Y方向の反対側:車体内側)、ナット部がその反対側(Y方向側:車体外側)となるように配置される。
【0041】
上部アウターパネル110の延出部114には貫通孔が形成されており、インナーパネル200にも、対応する位置に貫通孔が形成されている。また、インナーパネル200とクリップナット310との間には、クリップナット310との間の摩擦によるインナーパネル200の劣化を抑制するための金属板320が配置されており、この金属板320にも、対応する位置に貫通孔が形成されている。そして、ボルト330が、インナーパネル200の貫通孔、クリップナット310の車体内側の板状部の貫通孔、および延出部114の貫通孔に挿入され、クリップナット310の車体外側のナット部にはめ込まれて、クリップナット310を介してインナーパネル200と上部アウターパネル110とを締結する。
【0042】
図5Bに示すウインドウ130が形成された部位においても、締結部材(クリップナット310およびボルト330)による締結は、シール材210による密着とは異なる位置で行われている。そのため、締結による樹脂の変形(クリープ)が生じたときに、これによるシール材210の剥離が生じにくい。また、締結部材による締結を、上部アウターパネル110から車体内側方向に延出した延出部114により、車体内部で行うため、締結のための貫通孔からの車体内部への水分やガスの侵入が生じないし、締結によるクリープが生じたときに、これによる車体の変形も生じにくい。
【0043】
また、このとき、インナーパネル200および上部アウターパネル110により取り囲まれた空間350に向けてボルト330を挿入しているため、インナーパネル200および下部アウターパネル120から突き出したボルトの先端により他の部材が傷つけられることもない。
【0044】
また、上部アウターパネル110に、本体部から前方(X方向)に延出した延出部114を設けることで、上部アウターパネル110の断面二次モーメントを向上させ、上部アウターパネル110の剛性を高めることもできる。さらに、
図5Bに示すように、本実施形態でも、インナーパネル200の端部は前方(X方向:車体内側方向)に折り曲げられて延出された延出部202(フランジ部)となっており、上部アウターパネル110の延出部112(フランジ部)も、これに対応する長さを有するように従来よりも前方(X方向:車体内側方向)に延出されている。これらの延出部によっても、インナーパネル200および上部アウターパネル110の断面二次モーメントを向上させ、これらの剛性を高めることができる。
【0045】
(第4の密着および締結)
図6Aおよび
図6Bは、天井部におけるインナーパネル200と一体成型品100(上部アウターパネル110およびウインドウ130)との接合方法の例を示す、
図1に示す一点鎖線6-6における模式的な断面図である。
図6Aは、例示的な従来の接合方法、
図6Bは、本実施形態における接合方法を示す。
【0046】
図6Aに示すように、従来は、上部アウターパネル110とウインドウ130とが、これらの接触部位に付与された接着剤300dにより接着されており、インナーパネル200と上部アウターパネル110とが、2か所あるこれらの接触部位のそれぞれに付与された接着剤300eおよび接着剤300fにより接着されていた。
【0047】
なお、上部アウターパネル110およびインナーパネル200の図中後方側(X方向の反対方向側)の端部はそれぞれ、ウインドウ130の上端部に沿って延出された延出部112(フランジ部)および延出部204(フランジ部)となっている。そして、上部アウターパネル110の延出部112が、一方の面において接着剤300dによりウインドウ130に接着され、他方の面において接着剤300eによりインナーパネル200の延出部204に接着されていた。
【0048】
また、インナーパネル200の図中前方側(X方向側)の端部には、上部アウターパネル110に沿って配置された平行部206が形成されており、上部アウターパネル110が、接着剤300fにより平行部206に接着されていた。
【0049】
そして、これらの接着により、インナーパネル200と上部アウターパネル110およびウインドウ130との間の空間が密閉されていた。
【0050】
これに対し、本実施形態では、上部アウターパネル110およびウインドウ130は、多色成型により成型された一体成型品100となっている。
【0051】
そして、インナーパネル200には、一体成型品100のうち上部アウターパネル110となっている部位に向けて延出された板状の延出部208が形成されている。延出部208の先端の、上部アウターパネル110との接触部位にシール材210が付与され、このシール材210によりインナーパネル200と上部アウターパネル110とが密着され、これによりインナーパネル200と上部アウターパネル110およびウインドウ130との間の空間が密閉されている。
【0052】
また、上部アウターパネル110の後方側(X方向の反対方向側)端部の延出部112は、ウインドウ130とは直交する方向(車体内側方向)に延出され、インナーパネル200の後方側(X方向の反対方向側)端部の延出部204も、上部アウターパネル110の延出部112に沿って延出する形状とされている。
【0053】
上部アウターパネル110の延出部112の端部には、この端部を覆うようにクリップナット310aが配置されている。クリップナット310aは、U字状に曲げられて対向する板状部の間に延出部112の端部を挟み込むように、当該端部にはめ込まれる。クリップナット310aは、貫通孔がインナーパネル200の延出部204側(後方側:X方向の反対方向側)、ナット部がその反対側(前方側:X方向側)となるように配置される。
【0054】
上部アウターパネル110の延出部112には貫通孔が形成されており、インナーパネル200の延出部204にも、対応する位置に貫通孔が形成されている。また、インナーパネル200とクリップナット310aとの間には、クリップナット310aとの間の摩擦によるインナーパネル200の劣化を抑制するための金属板320aが配置されており、この金属板320aにも、対応する位置に貫通孔が形成されている。そして、ボルト330aが、インナーパネル200の延出部204の貫通孔、クリップナット310aの車体後方側の板状部の貫通孔、および上部アウターパネル110の延出部112の貫通孔に挿入され、クリップナット310aの車体前方側のナット部にはめ込まれて、クリップナット310aを介してインナーパネル200と上部アウターパネル110とを締結する。
【0055】
また、インナーパネル200の前方側(X方向側)の端部には、インナーパネル200と上部アウターパネル110との間に、インナーパネル200に沿って樹脂製の締結プレート170が配置されている。締結プレート170は、一部が上部アウターパネル110に近接するように屈折された屈折部172となっており、この屈折部172の上部アウターパネル110に沿った平面状とされた部位が、上部アウターパネル110に溶着された溶着部172aとされている。締結プレート170を、上部アウターパネル110と同じ材料から作製し、なおかつこれらを(接着剤を用いずに)溶着させることで、バックドア10を分解した後に、締結プレート170および上部アウターパネル110を分離させず再利用することができる。
【0056】
締結プレート170の後方側(X方向の反対側)の端部は、インナーパネル200に沿って形成された板状の平行部174となっている。そして、平行部174の端部には、この端部を覆うようにクリップナット310bが配置されている。クリップナット310bは、U字状に曲げられて対向する板状部の間に平行部174の端部を挟み込むように、当該端部にはめ込まれる。クリップナット310bは、貫通孔がインナーパネル200側(Z方向の反対方向側:車体内側)、ナット部がその反対側(上部アウターパネル110側、Z方向側:車体外側)となるように配置される。
【0057】
締結プレート170の平行部174には貫通孔が形成されており、インナーパネル200にも、対応する位置に貫通孔が形成されている。また、インナーパネル200とクリップナット310との間には、クリップナット310との間の摩擦によるインナーパネル200の劣化を抑制するための金属板320bが配置されており、この金属板320bにも、対応する位置に貫通孔が形成されている。そして、ボルト330bが、インナーパネル200の貫通孔、クリップナット310bの車体内側の板状部の貫通孔、および車体の貫通孔に挿入され、クリップナット310bの車体外側のナット部にはめ込まれて、クリップナット310bを介して、インナーパネル200と、上部アウターパネル110に溶着された締結プレート170とを締結する。
【0058】
図6Bに示す天井部においても、締結部材(クリップナット310およびボルト330)による締結は、シール材210による密着とは異なる位置で行われている。そのため、締結による樹脂の変形(クリープ)が生じたときに、これによるシール材210の剥離が生じにくい。また、締結部材による締結は、上部アウターパネル110から車体内側に延出した延出部112、および上部アウターパネル110に溶着された締結プレート170により、車体内部で行うため、締結のための貫通孔からの車体内部への水分やガスの侵入が生じないし、締結によるクリープが生じたときに、これによる車体の変形も生じにくい。
【0059】
また、このとき、インナーパネル200および上部アウターパネル110により取り囲まれた空間350に向けてボルト330を挿入しているため、インナーパネル200および下部アウターパネル120から突き出したボルトの先端により他の部材が傷つけられることもない。
【0060】
また、上部アウターパネル110の延出部112を、車体内部方向に突出する形状とすることで、上部アウターパネル110の断面二次モーメントを向上させ、上部アウターパネル110の剛性を高めることもできる。また、インナーパネル200が上部アウターパネル110に向けて延出された板状の延出部208を有することで、インナーパネル200の断面二次モーメントを向上させ、インナーパネル200の剛性を高めることもできる。
【0061】
(材料)
上部アウターパネル110、下部アウターパネル120、締結プレート170およびインナーパネル200は、熱可塑性樹脂製であってもよいし、熱硬化性樹脂製であってもよい。これらのうち、分解後の再利用が容易であることから、熱可塑性樹脂製が好ましい。
【0062】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレートなどを含む熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)などを含むスチレン系樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどを含むポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、およびポリメタクリレートなどが含まれる。これらのうち、比重が小さく、大面積であるこれらの部材に使用したときに移動体の重量を小さくできること、加工性が良好であること、および表面の光沢性が良好であり意匠性を高めやすいことから、ポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0063】
ウインドウ130の材料である樹脂ガラスの例には、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)などを含むスチレン系樹脂、ポリアルキルメタクリレート、およびポリメタクリルメタクリレートなどを含むアクリル系樹脂、ポリフェニルエーテル、ポリカーボネート、非晶性ポリアルキレンテレフタレートポリエステル、非晶性ポリアミド、ポリ-4-メチルペンテン-1および環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン、非晶性ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、およびポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどを含む熱可塑性エラストマーなどが含まれる。これらのうち、耐衝撃性および耐熱性が高いことから、ポリカーボネート、特には芳香族含有ポリカーボネートが好ましい。
【0064】
各種リンフォースメントは、アルミニウムおよびその合金、ならびにステンレス等の鉄またはその合金などの、金属製とすることができる。なお、リンフォースのアウターパネル側は、繊維強化樹脂シートにより補強されていてもよい。
【0065】
[その他の実施形態]
なお、上述した各実施形態は、あくまで本発明の例示的な実施形態であり、本発明は、本明細書に開示された技術思想の範囲内において、様々に変更された実施形態をとり得ることはいうまでもない。
【0066】
たとえば、上述した実施形態は、移動体のバックドアについて説明したが、サイドドアなどの他の移動体部材に上述した構成を採用してもよい。
【0067】
また、上述した実施形態におけるシール材の位置や、締結部材の位置は、移動体の設計に応じて任意に変更できることは言うまでもない。
【0068】
また、上述した実施形態では、クリップナットと、インナーパネルまたはアウターパネルと、の間に金属板を配置していたが、金属板を配置しない構成としてもよい。
【0069】
また、上述した実施形態では、製造を容易にし、かつ密閉性をより高めるためにアウターパネルとウインドウとを多色成型により一体成型したものとしたが、これらを別に成型して組み付ける構成であってもよい。
【0070】
また、上述した実施形態では、クリップナットおよびボルトによりアウターパネルとインナーパネルとを締結していたが、エンザートおよびボルト、ポップナットおよびボルト、ウェルドナットおよびボルト、ナットおよびウェルドボルト、タッピングビス、タッピングビスとグロメットスクリューやバーリング加工との組み合わせ、リベット、ならびにクリップ締結などの方法でこれらを締結してもよい。これらのうち、締結強度が高く、なおかつ解体が容易であることから、クリップナットおよびボルト、エンザートおよびボルト、ウェルドナットおよびボルト、ならびにナットおよびウェルドボルトが好ましく、解体後の締結部材の取り外しが容易であることから、クリップナットおよびボルト、ならびにエンザートおよびボルトがより好ましい。
【0071】
また、上述した実施形態では、接着剤を使用せずにアウターパネルとインナーパネルとを接合させていたが、接合の補助等を目的として、部分的に接着剤を用いてこれらを接合させてもよい。この場合でも、上述した構成により、接着剤の使用量は従来よりも少なくなる。
【0072】
また、自動車のみならず、空飛ぶ自動車、バス、トラック、電車、飛行機、ヘリコプター、船舶などのあらゆる移動体に上述した窓部構造体の構造を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に関する移動体部材は、リサイクルが容易であり、環境問題への対応が容易となる。
【符号の説明】
【0074】
10 バックドア
100 一体成型品
110 上部アウターパネル
112、114 延出部
120 下部アウターパネル
122 延出部
130 ウインドウ
132 着色部
150 テールライトおよびブレーキライト
160 ナンバープレートの取付部
170 締結プレート
172 屈折部
172a 溶着部
174 平行部
200 インナーパネル
202 延出部
204 延出部
206 平行部
208 延出部
210 シール材
220、230 ヒンジリンフォースメント
240、250 ステイリンフォースメント
260 ロックリンフォースメント
270 ドアロック
300、300a、300b、300c、300d、300e、300f 接着剤
310、310a、310b クリップナット
320、320a、320b 金属板
330、330a、330b ボルト
340、350 空間