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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134045
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】層状穀粉食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/10 20170101AFI20240926BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A21D13/10
A23D7/00 506
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044131
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】前田 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】東村 徹
(72)【発明者】
【氏名】眞々田 基
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DH05
4B026DL01
4B026DL05
4B026DL09
4B026DP01
4B026DP04
4B026DX05
4B032DB13
4B032DE05
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK33
4B032DK51
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP30
4B032DP37
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】本発明は、水分を含有するフィリング材を内包しているにもかかわらず、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明により、穀粉及び油脂を含む層状穀粉食品の製造方法であって、
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、及び、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、
穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、
折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、
焼成及び/又はフライすることにより、水分を含有するフィリング材を内包しているにもかかわらず、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することができることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉及び油脂を含む層状穀粉食品の製造方法であって、
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、
及び、
全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、
穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、
折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、
焼成及び/又はフライすることを特徴とする、層状穀粉食品の製造方法。
【請求項2】
該フィリング材の水分含量が0.5~65質量%である、請求項1記載の層状穀粉食品の製造方法。
【請求項3】
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、
及び、
全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、
穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、
折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、
焼成及び/又はフライする、層状穀粉食品の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状穀粉食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ベーカリーやファストフード店舗のサイドメニューとして、デニッシュやクロワッサン、パイなどのペストリー類がラインナップされており、消費者が容易に焼き立てパイを入手できるようになってきた。その結果、ホールセールやコンビニエンスストアにおいてもパイ本来の美味しさに対する需要が高まっている。
【0003】
デニッシュやクロワッサン、パイなどのペストリー類である層状穀粉食品は小麦粉生地とロールイン油脂とを重ね合わせ、折り畳み、圧延を繰り返して油脂層と小麦粉生地層による積層構造とした後に成形し、またデニッシュやクロワッサンにおいてはその後ホイロ工程を得て焼成することにより得られる。このようなペストリー類の特徴は歯切れや口溶けの良さ、サクサクとしたフレーキーな食感である。
【0004】
従来からパイなどの層状穀粉食品の食感や生地物性を改良するための多くの研究がなされ、様々な改良方法が開発されてきた。
ベーカリーの食感改善に関する出願として、例えば特許文献1が存在する。特許文献1では、「4糖生成アミラーゼを含有するベーカリー用油脂組成物」に関して記載されている。また、豆類抽出物を含有する油中水型乳化物をペストリー類に使用する出願として、特許文献2~3が存在する。特許文献2では「豆類抽出物を含む、ロールイン用油中水型乳化組成物」に関して記載されている。特許文献3では「油脂35~70重量%を含有し、接着性蛋白質素材を 乾燥物換算で0.05~5重量%含有する、ロールイン用油中水型乳化油脂組成物」に関して記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-71872号公報
【特許文献2】特開2018-170966号公報
【特許文献3】国際公開2012/081351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デニッシュやクロワッサン、パイなどのペストリー類である層状穀粉食品は、サクサクとした食感が特有の食品であり、カスタードクリームやチョコクリームなどのフィリング材を内包しているものがある。しかしながら、フィリング材を内包すると、フィリング材から層状穀粉食品生地へと水分が移行し、特有の好ましいサクサクとした食感が失われてしまう場合がある。
特にパイは、サクサクとした食感とフィリング材のなめらかさの食感のコントラストが特徴の食品であるが、焼成やフライ後、時間の経過とともにこのような焼成直後のサクサクとした食感は損なわれてしまうといった問題があった。
【0007】
本発明は、水分を含有するフィリング材を内包しているにもかかわらず、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することを課題とする。特に焼成やフライ加熱後一定時間が経過してもサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水分を含有するフィリング材を内包しているにもかかわらず、層状穀粉食品を食した際のサクサクとした食感をより強く感じることができ、さらに焼成から一定の時間が経過しても良好な食感を有する層状穀粉食品を提供することが出来れば、更なる市場の拡大につながるのではないかと、鋭意検討を重ねた。その結果、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、及び、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、焼成及び/又はフライすることで、前記課題を解決し本発明を完成するに至った。
【0009】
なお、特許文献1は、ペストリー類のサクサクとした食感については記載がなく、本発明を完成させる上で参考とならなかった。特許文献2~3は、本発明のような、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、及び、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、焼成及び/又はフライすることを特徴とする、層状穀粉食品について記載はない。
【0010】
即ち本発明は、
(1)穀粉及び油脂を含む層状穀粉食品の製造方法であって、
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、
及び、
全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、
穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、
折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、
焼成及び/又はフライすることを特徴とする、層状穀粉食品の製造方法、
(2)該フィリング材の水分含量が0.5~65質量%である、(1)に記載の層状穀粉食品の製造方法、
(3)エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、
及び、
全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、
穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、
折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、
焼成及び/又はフライする、層状穀粉食品の食感改良方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、水分を含有するフィリング材を内包しているにもかかわらず、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することができる。また、焼成やフライ加熱後一定時間が経過してもサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(層状穀粉食品)
本発明において層状穀粉食品とは小麦粉や米粉等の穀粉を主原材料とし、水、塩などを加えて混捏した生地(ドウ)を薄く延ばし、これにロールイン用油脂を載せて折りたたみ、あるいは点在させ、再び薄く延ばすことを繰り返して層状生地を作り、さらに必要に応じ発酵、成形、焼成加熱もしくはフライ加熱し得られるものをいう。具体的には、デニッシュペストリー、クロワッサン、パイ、フライパイ(フライドパイ)、デニッシュドーナツが挙げられる。さらに加熱前ないしは加熱後に各種フィリング材を充填し、内包することもできる。特に、本発明では、パイ又はフライパイ(フライドパイ)であることが好ましい。パイ又はフライパイ(フライドパイ)などのパイにおいて、特に顕著な効果を発揮することができる。パイの製法は、一般的に使用されるストレート法、冷凍生地法、冷蔵生地法などをいずれも用いることができる。
【0013】
(層状穀粉食品の折り数)
本発明の層状穀粉食品は、折り数(層)が8~64層であることに特徴がある。折り数は、好ましくは16~48層であり、より好ましくは18~32層、さらに好ましくは24~27層である。折り数が少なすぎる場合は、油脂層が厚くなることによる層のはがれや、焼成時の「オイルオフ」が起こりやすくなる上、層状穀粉食品のボリュームが出ないなど、作業性や品質の低下を招く場合がある。また折り数が多すぎる場合は、十分に層が形成されない場合があり、本発明の効果が十分に得られない場合がある。
なお、折り数(層)は、穀粉含有生地を薄く延ばし、これに適宜大きさおよび厚さを調整した折り込み用油中水型乳化油脂組成物をのせて折りたたむ。続いて、該折り込み用油中水型乳化油脂組成物が包み込まれた生地を薄く延ばし、折り込む。最終的な折り数はこの折り数と繰り返す回数によって決まり、適宜設定することができる。
【0014】
(フィリング材)
本発明の層状穀粉食品は、加熱前ないしは加熱後にフィリング材を内包する。フィリング材は、一般的にパイに内包されるものであれば特に限定はされないが、具体的には、ホイップクリーム、カスタードクリーム、チーズ様素材、チョコレートクリーム、チョコレート類、ジャム類のような甘味系素材や、ミートソース、グラタン、ウィンナー等の総菜系素材などが挙げられる。本発明では、特に、カスタードクリームやホイップクリーム、チーズ様素材など、水分を多く含有するフィリング材を内包させた層状穀粉食品においても効果を発揮することができる。なお、日本食品標準成分表2020年版(八訂、文部科学省)によれば、カスタードクリームの水分は61.8質量%、ホイップクリームの水分は43.7~44.3質量%、チョコレートクリームの水分は14.6質量%である。
また、水分が少ないチョコレート類をフィリング材として用いる場合においては、よりサクサクとした食感が増強され、焼成もしくはフライから時間がたってもサクサクとした食感を維持することができる。なお、日本食品標準成分表2020年版(八訂、文部科学省)によれば、ホワイトチョコレートの水分は0.8質量%、ミルクチョコレートの水分は0.5質量%、アーモンドチョコレートの水分は2.0質量%である。
本発明で使用するフィリング材は、水分含量が0.5~65質量%であることが好ましい。より好ましくは、下限値が0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、1質量%以上、1.3質量%以上又は1.5質量%以上などとすることができる。また、上限値は、より好ましくは60質量%以下、58質量%以下、56質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下又は5質量%以下などとすることができる。
水分を含有するフィリング材を内包させるにもかかわらず、本発明において、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することができる。
【0015】
ある態様においては、焼成及び/又はフライ加熱後の層状穀粉食品を保管する際に、ビニール袋のような密封した状態であっても、焼成及び/又はフライ加熱から一定時間が経過してもサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を得ることができる。このとき、フィリング材の水分含量が0.5~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.8~8質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%である。内包するフィリング材の水分含量が所定の範囲であることで、より水分移行が起こりやすい、層状穀粉食品を密封した状態での保管においても、サクサクとした良好な食感である層状穀粉食品を得ることが可能である。
【0016】
(油中水型乳化物)
本発明に用いる油中水型乳化物は後述する酵素、及び特定組成の大豆抽出物を含有する。これ以外には公知のパン類練り込み用途の油中水型乳化物ないしは可塑性油脂組成物の配合、すなわち油脂及びその他原材料の配合をいずれも使用することができる。
また油脂原料としては公知の食用油脂類をいずれも使用することができ、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、及び/又はこれらの単独又は混合油或いはそれらの硬化、分別、エステル交換等から選択される1以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
油中水型乳化物の製造法については、特に限定されないが、常法通り油相と水相とを予備乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーターなどの掻き取り式急冷混捏装置で急冷捏和することにより製造することができる。油相は、融解した油脂に必要に応じて色素、抗酸化剤、香料等の油溶性成分を添加、溶解及び/又は分散させ調製することができる。水相は水又は温水に水溶性の乳成分、必要に応じて食塩、糖類、無機塩類等を添加、溶解及び/又は分散させ調製することができる。本発明の効果を阻害しない範囲であれば各種乳化剤類を含有することも妨げない。
後述する酵素の配合は常法によればよいが、分量内ないしは分量外の少量の水で分散させ、油相に加える方法が例示できる。後述する特定組成の大豆抽出物は水相として加えることができる。
【0018】
本発明において水相とは、油中水型乳化物の原料中、水及び水に溶解する原料を混合したものをいう。油中水型乳化物における水相の含量は10~35質量%、好ましくは12~30質量%、さらに好ましくは13~27質量%である。水相の量を適切な範囲とすることで、製造適性を良好にすることができる。
【0019】
(エキソマルトテトラオヒドロラーゼ)
本発明においてはアミラーゼの1種であるエキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4アミラーゼ)を用いることにより、噛んですぐに感じる「サクサクとした食感」のみならず、焼成後24時間経過した後においても良好な「サクサクとした食感」を得ることができる。
配合するエキソマルトテトラオヒドロラーゼはその起源にも特に制限はなく、食品用途の市販製剤を利用することができ、例えば製品名:デナベイク(R)EXTRA(6,500U/g)(ナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。配合量は前述のデナベイク(R)EXTRAを用いる場合、油中水型乳化物中0.01~1質量%、より好ましくは0.01~0.08質量%が例示できる。
【0020】
(グルコースオキシダーゼ)
本発明においてはさらにグルコースオキシダーゼを使用することで生地作業性を改良することができる。グルコースオキシダーゼは市販の製剤を適宜使用することができ、例えばGO-2「アマノ」、ハイデラーゼ15(いずれも商品名、天野エンザイム製)等が挙げられる。配合量は「ハイデラーゼ15」を用いる場合、好ましくは油中水型乳化物中0.001~0.1%であり、より好ましくは0.003~0.02%が望ましい。
【0021】
(大豆抽出物)
本発明には全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を用いる。かかる大豆抽出物の一形態としては低脂肪豆乳が例示できる。これは固形分中の脂質含量と炭水化物に対する蛋白質の質量比(以下、P/C含量と表記する場合がある)が上記範囲となるものである。ちなみに全脂大豆から公知の方法で抽出、オカラを除去して得られる一般の豆乳(全脂豆乳)では、固形分中の脂質含量が20質量%以上、かつP/C含量は250を超える。低脂肪豆乳を得るには、スラリー(大豆粉砕液)や全脂豆乳から高速遠心分離等により脂質を分離する方法や、該スラリーからオカラを分離する際に脂質をオカラ側に移行させる方法を用いることができる。より好ましい態様として、予め加熱処理された全脂大豆、好ましくはNSI(水溶性窒素指数)15~77、より好ましくは40~70の全脂大豆を原料とすることによって、さらに本発明の効果を向上させることができる。この方法は例えば特開2012-16348号公報に記載の方法を参照することができる。
【0022】
大豆抽出物は油中水型乳化物の水相中に配合する。低脂肪豆乳の形態であれば水相の一部ないしは全部として配合することができる。大豆抽出物の配合量は水相中の固形分として3質量%以上20質量%以下であり、好ましくは4~18質量%であり、より好ましくは5~15質量%が望ましい。また水相中の大豆抽出物の蛋白質含量は1~15質量%であることが好ましく、より好ましくは2~10質量%であることが好ましい。油中水型乳化物中の大豆抽出物の固形分としては0.1~8質量%、好ましくは0.5~6質量%が例示できる。配合量が水相中の固形分として3質量%未満では本発明の効果が得られにくく、水相中の固形分として20質量%より多いと油中水型乳化物の乳化が不安定となる場合がある。
さらに本大豆抽出物の効果について説明する。例えば水相含量18%の油中水型乳化物を対粉5質量%配合して層状穀粉食品を製造した場合、該固形分としての配合量は対粉約0.1%程度でありながら、食感改良に顕著な効果を示すことが大きな特徴である。
【0023】
(他原材料)
本発明によれば乳化剤表示不要で、高い食感改良効果を有する油中水型乳化物を製造することができるが、その商品設計によっては他原材料の配合を妨げるものではない。乳化剤、酵素、ゲル化剤、安定剤、多糖類、糖類、甘味料、塩類等を、本発明の効果を妨げない範囲で適宜添加することができる。
【0024】
前述の組成を有する油中水型乳化物は、層状穀粉食品生地に練り込んで使用する。具体的な使用態様としては通常公知の練り込み用油脂と同様でよく、例えば、油中水型乳化物以外の原材料を一定時間混捏し、油中水型乳化物を加え、さらにミキシングする方法が例示できる。このとき、油中水型乳化物の配合量は穀粉100質量部に対し5~25質量%であり、好ましくは7~20質量%、より好ましくは8~18質量%であり、さらに好ましくは10~15質量%である。
その後、油中水型乳化物が練り込まれた該穀粉含有生地を薄く延ばし、これに適宜大きさおよび厚さを調整した折り込み用油中水型乳化油脂組成物をのせて折りたたむ。続いて、折り込み用油中水型乳化油脂組成物が包み込まれた生地を薄く延ばし、折り込む。最終的な折り数はこの折り数と繰り返す回数によって決まり、所望の折数を設定することができる。折り込まれた層状穀粉食品生地は成形、必要に応じて発酵工程を経て、焼成及び/又はフライに供される。
【0025】
(パイ)
本発明において、層状穀粉食品は、特にパイ(折りパイ)が好ましい。パイの製造方法としては以下の方法が例示できる。まず、小麦粉および水を必須成分とする混捏物(ドウ)の小麦粉生地で折り込み用油中水型乳化油脂組成物を包み込み、折り重ねて展延する作業を繰り返して積層させ、折りパイ生地を得る。この折りパイ生地を必要に応じて適宜展延、成形し、オーブン等で焼成することで折りパイ、パイ菓子が得られる。各種フィリング材やセンター類を包んで焼成することもでき、各種チョコレート類、クリーム類、ジャム類、ドライフルーツ、ナッツ、ナッツペースト類、チーズ様素材、ミートソース、グラタン、ウィンナー等の総菜系素材等の使用が例示される。また、本発明によれば、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、及び、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、焼成及び/又はフライすることで、水分を含有するフィリング材を内包しているにもかかわらず、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することができるものである。
【0026】
以下に実施例を記載する。以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【実施例0027】
(油脂混合物の調製)
菜種油10部、パーム主体エステル交換油10部、パーム分別油59.5部、菜種極度硬化油2部を融解混合して油脂混合物を調製し、以降の検討に用いた。
【0028】
(油中水型乳化物の調製)
表1の配合に従い、常法により油相と水相とを調製、予備乳化の後に全原材料を混合し、コンビネーターにより急冷混捏し、油中水型乳化物A~Dを得た。
表中の酵素は以下の市販製剤を使用し、水(配合外)2%で分散して油相に投入した。
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ(G4 アミラーゼ):製品名:デナベイクEXTRA(ナガセケムテックス、カビ由来、酵素濃度3%)
グルコースオキシダーゼ:ハイデラーゼ 15(天野エンザイム、カビ由来、酵素濃度 9%)
低脂肪豆乳(美味投入(R) 、不二製油)についてはその組成を表2に記載した。なお、低脂肪豆乳は、全脂大豆からの水抽出物であった。
【0029】
表1.油中水型乳化物配合(単位:質量部)
【0030】
表2.低脂肪豆乳の組成
【0031】
○層状穀粉食品(パイ)の調製
表3~4に示す配合に従い、フィリング材を内包するパイを調製した。すなわち、縦型ミキサーを用いて強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖6部、食塩2部、油中水型乳化物A~Dを12部、水54部を加えて、低速6分、ついで中速3分でミキシングを行い、20℃で捏ね上げた。10分間リタードをとった後、この生地に折り込み用油中水型乳化油脂組成物(アベニアRZ、不二製油株式会社)を折り込んだ。
折り込み数24層の層状穀粉食品については、はじめに3つ折り×2回折り込を行い、10分間リタードをとって生地を休ませ、再度4層に折り込んで最終的に折り数は24層とした。また、折り込み数144層の層状穀粉食品については、はじめに4つ折り×3回折り込を行い、10分間リタードをとって生地を休ませ、再度4つ折り×3回折り込んで最終的に折り数は144層とした。
24層および144層の折り数の層状穀粉食品生地において、それぞれ最終の生地厚は4mmであった。該生地を成形し、フィリング材A又はBを絞り、生地を重ねて-40℃で40分冷凍し、その後-20℃で16時間保管した。保管後、温度20℃で解凍し、コンベクションオーブン(190℃)で20分間焼成した。
なお、フィリング材Aは、不二製油株式会社製のカスタードクリーム「フローマミュレアR」(水分含量55.2%)を使用した。フィリング材Bは、不二製油株式会社製のチョコレート「なめらかチョコスイート」(水分含量1.6%)を使用した。
【0032】
表3.配合(単位:質量部)
【0033】
表4.配合(単位:質量部)
【0034】
○評価法
実施例及び比較例について、評価を行った。上記で調製した層状穀粉食品(フィリング材を内包するパイ)を、(1)焼成後のパイを袋に入れずそのままの状態で、20℃で6時間保管後、(2)焼成後のパイを袋に入れずそのままの状態で、20℃で24時間保管後に、それぞれ官能評価した。官能評価は、パネラー10名にて盲検にて試食を行い、口に入れてすぐに感じる食感について、合議にて以下の基準に従って評価した。
なお、本評価におけるパネラーは、従前からパン類及びペストリー類の研究に従事し、熟練したパネラー10名であった。
【0035】
<官能評価>
5点:非常に良好(非常に強くサクサクとした食感が感じられる)
4点:良好(強くサクサクとした食感が感じられる)
3点:許容できる(サクサクとした食感が感じられる)
2点:やや不良(サクサクとした食感が弱い)
1点:不良(サクサクとした食感が感じらない)
の5段階で評価付けを行い、評価が3点以上のものを合格品質とした。結果を表5~6に示した。
【0036】
表5.結果
【0037】
表6.結果
【0038】
表5~6の結果より、折り数が24層である層状穀粉食品(実施例1および2)において、水分を含有するフィリング材を内包するにもかかわらず、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、及び、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、焼成及び/又はフライすることにより、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品(折りパイ)が得られた。
【0039】
また、フィリング材B(水分含量1.6質量%)を内包する層状穀粉食品である、比較例8~14及び実施例2について、(3)焼成後のパイをビニール袋に入れて密封した状態で、20℃で24時間保管後に官能評価を行った。評価基準は、上記の<官能評価>の評価基準と同様に行い、結果を表7に示した。
【0040】
表7.結果
【0041】
表7の結果より、フィリング材B(水分含量1.6質量%)を内包する層状穀粉食品において、ビニール袋で密封した状態であっても、焼成加熱から24時間が経過してもサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を得ることができた。
【0042】
考察
以上の結果より、本発明において、穀粉及び油脂を含む層状穀粉食品の製造方法であって、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ及びグルコースオキシダーゼ、及び、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の質量比が100~200%である大豆抽出物を水相中に固形分として3質量%以上20質量%以下含有する油中水型乳化物を、穀粉100質量部あたり5~25質量部配合し、折り数が8~64層である生地にフィリング材を内包させた成形生地を、焼成及び/又はフライすることにより、水分を含有するフィリング材を内包しているにもかかわらず、良好なサクサクとした食感を有する層状穀粉食品を提供することができることを見出した。