(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013406
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス光触媒
(51)【国際特許分類】
C03C 10/02 20060101AFI20240125BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240125BHJP
B01J 27/195 20060101ALI20240125BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20240125BHJP
A61L 9/00 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
C03C10/02
B01J35/02 J ZAB
B01J27/195 A
A61L9/01 B
A61L9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115466
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】傅 杰
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 圭介
【テーマコード(参考)】
4C180
4G062
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA10
4C180AA16
4C180CC03
4C180CC12
4C180CC15
4C180CC16
4C180CC17
4C180DD03
4C180DD04
4C180EA24X
4C180EA27X
4C180EA28X
4C180EA33X
4C180EA34X
4C180EA39X
4C180EA40X
4C180EA52X
4C180EA64X
4G062AA11
4G062BB01
4G062BB09
4G062CC10
4G062DA01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DA04
4G062DB01
4G062DB02
4G062DB03
4G062DB04
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DC04
4G062DD04
4G062DE01
4G062DE02
4G062DE03
4G062DE04
4G062DE05
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA10
4G062EB01
4G062EC01
4G062ED01
4G062ED02
4G062ED03
4G062ED04
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EE04
4G062EF01
4G062EF02
4G062EF03
4G062EF04
4G062EG01
4G062EG02
4G062EG03
4G062EG04
4G062FA01
4G062FB01
4G062FB02
4G062FB03
4G062FB04
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FF02
4G062FF03
4G062FF04
4G062FG04
4G062FG05
4G062FG06
4G062FH01
4G062FH02
4G062FH03
4G062FH04
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH04
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH14
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM40
4G062NN40
4G062QQ20
4G169AA02
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA06A
4G169BA06B
4G169BA14A
4G169BA14B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC17A
4G169BC17B
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC54A
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BC56A
4G169BC75A
4G169BD03A
4G169BD03B
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA11
4G169EB01
4G169EB14Y
4G169EB15Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169HA01
4G169HB01
4G169HB06
4G169HC08
4G169HC29
4G169HD05
4G169HE03
(57)【要約】
【課題】優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供する。
【解決手段】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
P2O5成分 10.0%~30.0%、
Nb2O5成分 20.0%~70.0%、
を含有し、Nb2O5とP2O5との比が1.0以上であり、主結晶相としてナイオベート化合物が析出することにより、優れた光触媒活性を有するガラスセラミックスを提供する。本ガラスセラミックスは、バルク状、粉粒状、ファイバー状、スラリー状混合物、多孔質体等の形態をとることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
P2O5成分 10.0%~30.0%、
Nb2O5成分 20.0%~70.0%、
を含有し、
モル比Nb2O5/P2O5が1.0以上であり、主結晶相としてナイオベート化合物が析出する光触媒活性を有するガラスセラミックス。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
GeO2成分 0~20.0%、
V2O5成分 0~30.0%、
Ta2O5成分 0~30.0%、
SiO2成分 0~20.0%、
B2O3成分 0~20.0%、
Al2O3成分 0~15.0%、
TiO2成分 0~15.0%、
MgO成分 0~30.0%
CaO成分 0~30.0%、
SrO成分 0~30.0%、
BaO成分 0~30.0%、
ZnO成分 0~40%
を含有する、請求項1に記載の光触媒活性を有するガラスセラミックス。
【請求項3】
Cu、Ag、Au及びPtからなる群から選ばれる1種または1種以上を0~3%含有することを特徴とする請求1または2に記載の光触媒活性を有するガラスセラミックス。
【請求項4】
日本興業規格JIS R 1703-2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が15.0nmol/l/min以上である請求項3に記載のガラスセラミックス
【請求項5】
請求項4に記載のガラスセラミックスからなる多孔質ガラスセラミックス
【請求項6】
請求項5に記載の多孔質ガラスセラミックスを含有し、日本工業規格JIS R 1701-2:2016に基づくアセトアルデヒドの除去量が 10.0μmol/h以上であることを特徴とする光触媒。
【請求項7】
請求項6に記載の光触媒を含むことを特徴とする空気浄化用フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光触媒活性を有するガラスセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光を吸収してエネルギーの高い状態になり、このエネルギーを用いて反応物質に化学反応を起こす材料である。光触媒としては、金属イオンや金属錯体等も用いられているが、特に二酸化チタン(TiO2)をはじめとする半導体の無機化合物が光触媒として高い触媒活性を有することが知られており、特によく使用されている。半導体は、通常電気を通さないが、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子が伝導帯に移動することで電子の抜けた正孔が生成され、これら電子と正孔によって強い酸化還元力を持つようになる。光触媒の持つこの酸化還元力は、汚れや汚染物質、悪臭成分等を分解・除去し、浄化する働きを有する。これらの光触媒は、太陽光等を利用して酸化還元力を得られることから、エネルギーフリーな環境浄化技術として注目を浴びている。また、無機チタン化合物を含む成形体の表面は、光の照射によって水が濡れ易くなる親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
一方、酸化チタン(TiO2)等の光触媒活性を有する無機化合物は、非常に微細な粉末であり、そのままでは取り扱いが困難である。そのため、実際に使用されるときには、塗料にして基材の表面にコーティングしたり、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ等の手法で膜状に形成したりして利用する場合が殆どである。例えば、特開2008-81712号公報には、基材の表面に無機チタン化合物層を形成するために用いられる塗布剤として、合成樹脂を分散相とする水性エマルジョンに高濃度の無機チタン化合物が含まれた光触媒性塗布剤が開示されている。また、特開2007-230812号公報には、ガスフロースパッタリングにより、TiOyのターゲットを用いて成膜された光触媒酸化チタン薄膜が開示されている。その他、コーティングや膜の形をとらずに、無機チタン化合物を基材中に含ませる技術としては、例えば、特開平9-315837号公報に、SiO2、Al2O3、CaO、MgO、B2O3、ZrO2、及びTiO2の各成分を所定量含有する光触媒用ガラスが開示されている。
【0004】
しかしながら、基材の表面に無機チタン化合物を塗布し又はコーティングする場合には、塗布膜やコーティング層の耐久性が十分ではなく、塗布膜やコーティング層が基材から剥離するおそれがあった。例えば、特開2008-81712で開示される光触媒性塗布剤を用いて塗布膜を形成する場合、塗布膜に残留している樹脂や有機バインダーが、紫外線等によって分解されたり、無機チタン化合物の触媒作用で酸化還元されたりする結果、塗布膜の耐久性が経時的に劣化し易い問題点があった。また、上記の無機チタン化合物触媒は、十分な光触媒活性を引き出すためにはナノサイズの微粒子が必要であるが、このような超微粒子は、作製するコストが高く、且つ凝集し易いという問題点があった。
【0005】
また、特開2007-230812で開示された、いわゆるドライプロセス法と呼ばれる成膜法を利用した光触媒部材も、膜として形成されるものであるため、剥離によって光触媒活性が劣化してしまう憂いがあるだけでなく、高価な装置による緻密な雰囲気の制御が必要になることで、製造コストが非常に高くなってしまう問題があった。
【0006】
また、特開平9-315837で開示される光触媒用ガラスは、酸化チタンが結晶構造を有しておらず、アモルファスの形でガラス中に存在するため、その光触媒活性が不充分であった。
【0007】
一方、これらの課題、すなわち光触媒活性を有する結晶の生成とその固定化を一括で解決する技術として、ガラスの中から光触媒結晶を析出させる技術がある。ガラス全体に光触媒結晶を分散させた結晶化ガラスは、表面の亀裂や剥離等の経時変化が殆どなく、半永久的に結晶の特性を利用できる利点がある。
【0008】
例えば、特開2011-178603号公報は、光触媒材料として、P2O5―TiO2-RO(R:Mg、Ca、Ba、Zn)系ガラスを熱処理してナシコンタイプの結晶を得る結晶化ガラスを開示している。しかし、光触媒活性については、さらなる改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-81712号公報
【特許文献2】特開2007-230812号公報
【特許文献3】特開平9-315837号公報
【特許文献4】特開2011-178306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上述の組成と全く異なった、Nb2O5成分とP2O5成分を含有したガラス組成において、ナイオベート化合物を多量に析出させることにより、優れた光触媒活性が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の(1)~(7)である。
【0012】
(1) P2O5成分 10.0%~30.0%、
Nb2O5成分 20.0%~70.0%、
を含有し、
モル比Nb2O5/P2O5が1.0以上であり、主結晶相としてナイオベート化合物が析出する光触媒活性を有するガラスセラミックス。
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
GeO2成分 0~20.0%、
V2O5成分 0~30.0%、
Ta2O5成分 0~30.0%、
SiO2成分 0~20.0%、
B2O3成分 0~20.0%、
Al2O3成分 0~15.0%、
TiO2成分 0~15.0%、
MgO成分 0~30.0%
CaO成分 0~30.0%、
SrO成分 0~30.0%、
BaO成分 0~30.0%、
ZnO成分 0~40%
を含有する前記(1)に記載の光触媒活性を有するガラスセラミックス。
(3)Cu、Ag、Au及びPtからなる群から選ばれる1種または1種以上を0~3%含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の光触媒活性を有するガラスセラミックス。
(4)
日本興業規格JIS R 1703-2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が15.0nmol/L/min以上である前記(3)に記載のガラスセラミックス
(5)前記(4)に記載のガラスセラミックスからなる多孔質ガラスセラミックス
(6)前記(5)に記載の多孔質ガラスセラミックスを含有し、日本工業規格JIS R 1701-2:2016に基づくアセトアルデヒドの除去量が 10.0μmol/h以上であることを特徴とする光触媒。
(7)前記(6)に記載の光触媒を含むことを特徴とする空気浄化用フィルター。
【発明の効果】
【0013】
本発明の結晶化ガラスは、その内部及び表面に光触媒活性を持つ結晶が均質に存在しているため、優れた光触媒活性を有する。また、仮に表面が削られても性能の低下が少なく、極めて耐久性に優れたものである。また、本発明の結晶化ガラスは、大きさや形状等を加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に利用できる。従って、本発明の結晶化ガラスは、光触媒機能性素材として有用である。
【0014】
また、本発明の結晶化ガラスの製造方法によれば、原料の配合組成と熱処理温度の制御によってガラス中に光触媒活性を備えた結晶を生成させることができるため、特殊な設備を用いることなく、優れた光触媒活性を備え、光触媒機能性素材として有用な結晶化ガラスを工業的規模で容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明について説明する。
本発明は、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
P2O5成分 10.0%~30.0%、
Nb2O5成分 20.0%~70.0%、
を含有し、モル比Nb2O5/P2O5が1.0以上であり、主結晶相としてナイオベート化合物が析出する光触媒活性を有するガラスセラミックスである。
【0016】
本発明の光触媒活性を有するガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することでガラス相中にナイオベート化合物を析出させて得られたものである。そのナイオベート化合物として特にPNb9O25または/及びその固溶体が多く析出することで、より高い光触媒活性が得られる。
また、「光触媒活性」とは、光照射によって酸化、還元反応を起こすことをいう。例えば、日本工業規格JIS R 1703-2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が5.0nmol/L/min以上であれば、「光触媒活性がある」とされる。光触媒活性によって有機物質の分解作用や表面の親水化作用を示すことが知られている。
【0017】
次に、本発明のガラスセラミックスの成分及び物性について説明する。
本明細書中において、ガラスセラミックスを構成する各成分の含有量は特に断りがない場合、全て「酸化物換算組成の全物質量に対するモル%」で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラスセラミックスとなるガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0018】
P2O5成分は、ガラスの網目構造を構成しガラスの安定性を高めると共に、ナイオベート化合物の構成成分となる本発明のガラスセラミックスにおいて必須成分である。特に、P2O5成分を10.0%以上含有することで、より安定的にガラスを作製することができる。10.0%未満であるとガラスの作製が困難となる。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは12.0%以上、より好ましくは14.0%以上、さらに好ましくは17.0%以上とする。
他方で、P2O5成分の含有量を30.0%以下にすることで、目的のナイオベート化合物がより多く析出し、より高い触媒活性を容易に得ることができる。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは28.0%以下、より好ましくは26.0%以下とする。
【0019】
Nb2O5成分は、ガラスの安定性を高めるとともに、ナイオベート化合物の構成成分となる成分であるので、本発明のガラスセラミックスにおいて必須成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、70.0%以下含有することが好ましく、60.0%以下含有することがより好ましく、50.0%以下含有することがより好ましく、45.0%以下含有することがさらに好ましい。一方、所望のナイオベート化合物の析出が困難となるので、下限の含有量は20%以上であることが好ましく、23.0%以上であることがより好ましく、25.0%以上であることがより好ましく、27.0%以上であることがさらに好ましい。
なお、所望のナイオベート化合物をより多く析出させるために、Nb2O5成分とP2O5成分との比が1.00以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましく、1.15以上であることが最も好ましい。
【0020】
GeO2成分は、ガラスの安定性を高めるとともに、ナイオベート化合物の構成成分となる本発明のガラスセラミックスにおいて任意成分である。Ge4+イオンとして結晶構造中に固溶することで、光触媒活性がより高くなる。しかし、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、20%以下含有することが好ましく、15%以下含有することがより好ましく、10%以下含有することが最も好ましい。一方、所望の光触媒活性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
V2O5成分は、ガラスの安定性を高めるとともに、ナイオベート化合物の構成成分となる本発明のガラスセラミックスにおいて任意成分である。V5+イオンまたは/及びV4+イオンとして結晶構造中に固溶することで、光触媒活性がより高くなる。しかし、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30%以下含有することが好ましく、15%以下含有することがより好ましく、10%以下含有することが最も好ましい。一方、所望の光触媒活性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
Ta2O5成分は、ガラスの安定性を高めるとともに、ナイオベート化合物の構成成分となる本発明のガラスセラミックスにおいて任意成分である。Ta5+イオンとして結晶構造中に固溶することで、光触媒活性がより高くなる。しかし、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30%以下含有することが好ましく、15%以下含有することがより好ましく、10%以下含有することが最も好ましい。一方、所望の光触媒活性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい
【0023】
TiO2成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、さらにナイオベート化合物の析出に促進する効果があるので、本発明のガラスセラミックスにおいて任意成分である。しかし、この成分の含有率が高すぎるとガラスセラミックスのナイオベート化合物以外の結晶が析出しやくなり、光触媒特性が弱くなる傾向があるので、15.0%以下含有することが好ましく、10.0%以下含有することがより好ましく、7.0%以下含有することが最も好ましい。
【0024】
SiO2成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスにおける任意成分である。しかし、この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性低下や熔解性悪化を引き起こすだけでなく、ガラスセラミックスの触媒活性も低下しやすくなる。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましい。一方、所望の光触媒活性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、1.5%以上であることがより好ましく、3.5%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
B2O3成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスにおける任意成分である。しかし、この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性低下や熔解性悪化を引き起こすだけでなく、ガラスセラミックスの光触媒活性も低下しやすくなる。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
Al2O3成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスにおける任意成分である。しかし、この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性低下や熔解性悪化を引き起こすだけでなく、ガラスセラミックスの光触媒も低下しやすくなる。具体的な含有率は10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。一方、所望の光触媒活性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。
なお、より高い安定性のガラスを得るために、SiO2成分、B2O3成分及びAl2O3成分の合計は1.5%~15.0%の範囲であることが好ましく、3.0%~12.0%の範囲であることがより好ましく、5.0%~10.0%の範囲であることが最も好ましい。
【0027】
MgO成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、20.0%以下含有することがより好ましく、10.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0028】
CaO成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、20.0%以下含有することがより好ましく、10.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0029】
SrO成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、20.0%以下含有することがより好ましく、10.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0030】
BaO成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。従って、好ましくは0%以上、より好ましくは0%超、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上含有してもよい。他方で、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性と光触媒活性とも低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、25.0%以下含有することがより好ましく、20.0%以下含有することが最も好ましい。
【0031】
ZnO成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。従って、好ましくは0%以上、より好ましくは0%超、さらに好ましくは1.0%以上含有してもよい。他方で、この成分の含有率が高すぎるとナイオベート化合物の析出が困難となり、光触媒活性が弱くなる傾向があるので、40.0%以下含有することが好ましく、33.0%以下含有することがより好ましく、30.0%以下含有することがさらに好ましい。
なお、ガラスの安定性を維持するため、上記のMgO成分、CaO成分、SrO成分、BaO成分及びZnO成分の合計は5.0%~50.0%の範囲であることが好ましく、10.0%~43.0%の範囲であることがより好ましく、20.0%~38.0%の範囲であることが最も好ましい。
【0032】
本発明のガラスは、モル比TiO2/(Nb2O5+ZnO)が1.0以下であることにより、所望の結晶相析出することができ、ガラスの安定性を高めることができる。従って、モル比TiO2/(Nb2O5+ZnO)は1.0以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下がより好ましく、0.4以下がより好ましく、0.2以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明のガラスは、モル比(ZnO+Al2O3)/Nb2O5が0超であることにより、所望の結晶相析出することができ、光触媒活性を高めることができる。従って、モル比(ZnO+Al2O3)/Nb2O5は0超が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましい。
(ZnO+Al2O3)/Nb2O5が1.5以上になるとガラスの安定性が低下し、所望の結晶相を析出しにくくなる。従って、モル比(ZnO+Al2O3)/Nb2O5は1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、0.9以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明のガラスは、モル比P2O5/(Nb2O5+TiO2)が2.00以下であることにより、ナイオベート化合物の析出することができ、ガラスの安定性を高めることができる。従って、モル比P2O5/(Nb2O5+TiO2)は2.00以下が好ましく、1.50以下がより好ましく、1.00以下がより好ましく、0.85以下がさらに好ましい。
【0035】
本発明のガラスセラミックスは、Cu成分、Ag成分、Au成分及びPt成分から選ばれる少なくとも1種の金属イオン又は粒子が含まれていてもよい。これらの金属イオン又は粒子は、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、これらの金属イオン又は粒子の含有量の合計が、酸化物基準の質量に対する外割り質量%で、3%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒活性がかえって低下し易くなる。従って、上記金属イオン又は粒子の含有量の、酸化物換算組成の結晶化ガラス全質量に対する外割り質量比の合計は、好ましくは3%、より好ましくは2%、さらに好ましくは1%を上限とする。
これらの金属イオン又は粒子は、原料として例えばCuO、Cu2O、Ag2O、AuCl3、PtCl2、PtCl4、H2PtCl6、PdCl2等を用いて結晶化ガラスに導入することができる。
なお、これらの成分を含有する場合に、上記金属イオン又は粒子の含有量の、酸化物換算組成の結晶化ガラス全質量に対する外割り質量比の合計は、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%、さらに好ましくは0.03%を下限とする。
【0036】
本発明のガラスセラミックスは、上述のナイオベート化合物として、PNb9O25、ZnNb4P2O17結晶及びこれらのGe4+イオン固溶体、V5+イオンまたは/及びV4+イオン固溶体、Ta5+イオン固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが好ましく、PNb9O25または/及びその固溶体を含むことがより好ましい。
【0037】
本発明のガラスセラミックスにおいてナイオベート化合物を全析出の結晶に対する体積比で40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが最も好ましい。
【0038】
本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、又はそれらが複合した波長の光によって触媒活性が発現される。より具体的には、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光を照射したときに、メチレンブルーや有害ガス等の有機物を分解する特性を有する。これにより、ガラスセラミックスの表面に付着した汚れ物質や細菌、空気中の有害ガスが酸化又は還元反応によって分解されるため、光触媒を防汚用途や抗菌用途や大気浄化等に用いることができる。
ここで、ガラスセラミックスのメチレンブルーの分解活性指数は、日本工業規格JIS R 1703-2:2007に基づく値で15.0nmol/L/min以上が好ましく、20.0nmol/L/min以上がより好ましく、25nmol/L/min以上が最も好ましい。
また、ガラスセラミックスの有害ガスの分解力は、日本工業規格JIS R 1701-2:2016に基づくアセトアルデヒドの除去量により評価される。その値は光触媒として認められる基準値が0.17μmol/hであるが、本発明においてはその値が5.0μmol/h以上であることが好ましく、8.0μmol/h以上であることがより好ましく、10.0μmol/h以上であることが最も好ましい。
【0039】
[ガラスセラミックスの製造方法]
次に、本発明のガラスセラミックスの製造方法について、具体的工程を例示して説明する。ただし、本発明のガラスセラミックスの製造方法は、以下に示す方法に限定されるものではない。
【0040】
ガラスセラミックスの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶分散ガラスを得る再冷却工程と、を有することができる。
【0041】
(溶融工程)
溶融工程は、上述の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、結晶化ガラスの各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合して作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉で1200~1600℃の温度範囲で1~24時間溶融し、攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び配合量等に応じて、適宜設定することができる。
【0042】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融工程で得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラスを作製する工程である。具体的には、融液を流出させて適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状等であってよいが、バルク体の光触媒部材を作成する場合には、板状であることが好ましい。
【0043】
(再加熱工程)
再加熱工程は、冷却工程で得られたガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる工程である。この工程では、昇温速度及び温度が結晶の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが重要である。
【0044】
(結晶化工程)
結晶化工程は、結晶化温度領域で所定の時間保持することにより光触媒結晶を生成させる工程である。この結晶化工程で結晶化温度領域に所定時間保持することにより、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有する光触媒結晶をガラス体の内部に均一に分散させて形成できる。結晶化温度領域は、例えばガラス転移温度を超える温度領域である。ガラス転移温度はガラス組成ごとに異なるため、ガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定することが好ましい。また、結晶化温度領域は、ガラス転移温度より10℃以上高い温度領域とすることが好ましく、20℃以上高くすることがより好ましく、30℃以上高くすることがさらに好ましい。好ましい結晶化温度領域の下限は600℃であり、より好ましくは700℃であり、さらに好ましくは800℃である。他方、結晶化温度が高くなり過ぎると、目的以外の結晶相が析出する傾向が強くなり、光触媒活性が消失し易くなるので、結晶化温度領域の上限は1100℃が好ましく、1050℃がより好ましく、1000℃がさらに好ましい。この工程では、昇温速度及び温度が結晶のサイズに大きな影響を及ぼすので、組成や熱処理温度に応じて適切に制御することが重要である。また、結晶化のための熱処理時間は、ガラスの組成や熱処理温度等に応じて結晶をある程度まで成長させ、且つ十分な量の結晶を析出させ得る条件で設定する必要がある。熱処理時間は、結晶化温度によって様々な範囲で設定できる。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。結晶化過程は、1段階の熱処理過程を経ても良く、2段階以上の熱処理過程を経ても良い。
【0045】
(再冷却工程)
再冷却工程は、結晶化が完了した後、温度を結晶化温度領域外まで低下させて光触媒結晶を有する結晶分散ガラスを得る工程である。
【0046】
(エッチング工程)
結晶が生じた後のガラスセラミックスは、そのままの状態、又は研磨等の機械的な加工を施した状態で高い光触媒活性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスに対してエッチングを行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックスの光触媒活性をより高めることが可能である。ここで、エッチングの方法としては、例えば、ドライエッチング、溶液への浸漬によるウェットエッチング、及びこれらの組み合わせ等の方法が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、結晶化ガラスの表面に吹き付けることで行ってよい。
【0047】
上記方法では、必要に応じて成形工程を設けてガラスもしくはガラスセラミックスを任意の形状に加工することができる。
【0048】
以上のように、本発明のガラスセラミックスは、その内部及び表面に光触媒活性を有する結晶が均質に析出しているため、優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れている。従って、基材の表面にのみ光触媒層が設けられている従来技術の光触媒機能性部材のように、光触媒層が剥離して光触媒活性が失われる、ということがない。また、本発明のガラスセラミックスは、溶融ガラスの形態から製造できるので、大きさや形状等を加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に加工できる。
【0049】
[光触媒]
以上のようにして製造されるガラスセラミックスは、用途に応じて、そのまま、或いは任意の形状に加工して光触媒として用いることができる。ここで「光触媒」は、例えば、板状等のバルク状態、膜状、粉粒状、繊維状、多孔質体等、その形状は問わない。例えばガラスビーズやガラス繊維(ガラスファイバー)の形態を採用すると、光触媒結晶の露出面積が増えるため、ガラスセラミックス成形体の光触媒活性をより高めることができる。また、光触媒は、紫外線等の光によって有機物を分解する作用と、水に対する接触角を小さくして親水性を付与する作用と、のいずれか片方の活性を有するものであればよいが、両方の活性を有するものであることが好ましい。この光触媒は、例えば光触媒材料、光触媒部材(例えば水の浄化材、空気浄化材等)、親水性材料、親水性部材(例えば窓、ミラー、パネル、タイル等)等として利用できる。
【0050】
[スラリー状混合物]
前述した光触媒又は成形体を粉粒体(ガラスセラミックス粉粒体及び加熱されることにより光触媒結晶相を生成させ得る未結晶化ガラス粉粒体。以下、総称して光触媒粉粒体という。)にし、任意の溶媒等と混合することによってスラリー状混合物を調製できる。これにより、例えば基材上への塗布等が容易になる。具体的には、前記粉粒体に、好ましくは無機もしくは有機バインダー及び/又は溶媒を添加することによりスラリーを調製できる。
【0051】
本発明のスラリー状混合物における光触媒粉粒体の含有量は、その用途に応じて適宜設定できる。従って、スラリー状混合物における光触媒粉粒体の含有量は、特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、十分な光触媒活性を発揮させる観点から、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは5質量%を下限とし、スラリーとしての流動性と機能性を確保する観点から、好ましくは90質量%、より好ましくは80質量%、さらに好ましくは70質量%を上限とすることができる。
【0052】
無機バインダーとしては、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド系バインダー、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の微粒子等を挙げることができる。
【0053】
有機バインダーとしては、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形、射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダーが使用できる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、ビニル系の共重合物等が挙げられる。
【0054】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ポリビニルアルコール(PVA)等の公知の溶媒が使用できるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水が好ましい。
【0055】
また、スラリーの均質化を図るために、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
本発明のスラリー状混合物には、その用途に応じて、上記成分以外に例えば硬化速度、比重を調節するための添加剤成分等を配合することができる。Cu、Ag、Au及びPtから選ばれる金属元素成分を添加して粉粒混合物を作製する添加工程を有してもよい。本発明方法では、ガラス体から光触媒結晶相を生成することができるが、これらの物質をスラリー状混合物に添加することで、光触媒機能が増強された機能性素材を製造できる。
【0057】
本発明のスラリー状混合物は、光触媒粉粒体及び前述したその他の添加物を様々な公知の方法によって溶媒に分散させることによって製造できる。また、所定の目開きのメッシュ等の濾過材を用いて光触媒粉粒体の凝集体を除去する工程を経ても良い。光触媒粉粒体は、その粒径が小さくなるに従い、表面エネルギーが大きくなって凝集し易くなる傾向がある。光触媒粉粒体が凝集していると、スラリー状混合物中での均一な分散ができず、所望の光触媒活性が得られないことがある。本発明のスラリー状混合物は、光触媒機能性素材として、例えば塗料、成形/固化が可能な混練物等に配合して使用することができる。
【0058】
[多孔質体]
また、光触媒活性を十分に引き出すために、より比表面積を大きくして分解対象との接触機会を十分に確保するために、本発明の結晶化ガラスそのものを骨格材料とする多孔質体を形成できる。ここで骨格材料とは、光触媒多孔質体の骨格構造を形成する主材料を意味し、例えば表面を被覆しているに過ぎない材料は、骨格材料には含まれない。また、主材料とは、骨格構造の少なくとも80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100%を占める材料である。このように骨格材料自体が光触媒活性を有することによって、本発明の結晶化ガラスを用いた多孔質体では、優れた光触媒活性と優れた耐久性を両立させることが可能である。
【0059】
多孔質体の製造方法は、特に限定されないが、多孔質のテンプレートを使用する方法や、起泡剤を使用する方法、顆粒状ガラスから焼結させる方法等が挙げられる。テンプレートを用いる方法は、本発明の結晶化ガラスの原料ガラス粉末のスラリーを調製する工程(スラリー調製工程)、このスラリーをテンプレートに含浸させる工程(含浸工程)、及び、スラリーを含浸させたテンプレートを焼成する工程を含む。起泡剤を用いる方法は、原料ガラス粉末のスラリーを調製する工程(スラリー調製工程)、このスラリーに起泡剤を添加して発泡させる工程(発泡工程)、発泡させたスラリーを所定形状に成形して成形体とする工程(成形工程)、この成形体を焼成する工程(焼成工程)を有する。さらに、顆粒状ガラスから焼結させる方法は、原料ガラスから顆粒状ガラスを調製する工程(顆粒状ガラス調製工程)、及び、この顆粒状ガラスを型に入れ、加熱して焼結させる工程(焼結工程)を有する。
【0060】
また、多孔質体は、そのままの状態でも高い光触媒活性を得ることが可能であるが、多孔質体に対してエッチングを行うことにより、光触媒活性をより高めることができる。すなわち、光触媒多孔質体をエッチングして得られるエッチング加工物は、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、光触媒多孔質体の光触媒活性がより向上する。ここで、エッチングの方法としては、例えば、ドライエッチング、溶液への浸漬によるウェットエッチング、及びこれらの組み合わせ等の方法が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、光触媒多孔質体の表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってもよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、光触媒多孔質体の表面に吹き付けることで行ってもよい。
【実施例0061】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0062】
[実施例1]
組成:6SiO2-24P2O5-5GeO2-6TiO2-35Nb2O5-24ZnO(モル%)
上記の組成になるように原料(SiO2、Zn(PO3)2、GeO2、TiO2、Nb2O5)を調合し、よく混合した後、白金坩堝にて1450℃の炉内で熔解した。融液を攪拌均質化してから、金型に流し込み、板状のガラスを得た。その後、950℃で4時間熱処理を行い、ガラスセラミックスに変換した。得られたガラスセラミックスについて約20mm×20mm×1mmに加工し、4.6%のフッ酸でエッチングした後に、表1に記載の物性を評価した。
ガラスセラミックスの結晶相についてX線回折装置(Bruker社製、商品名:D8 DISCOVER)で確認した結果、主結晶相として(P,Ge)Nb9O25が析出したことが判明した。
光触媒活性については、はガラスセラミックスを4.6%のフッ酸で1分間エッチングした後に、日本工業規格JISR 1703-2:2007に基づき、メチレンブルーの分解活性指数(nmol/L/min)を求めることにより評価した。
【0063】
[実施例2~6]
実施例1と類似な方法で実施例2~6を作製し、表1に記載の物性を評価した。この表から、いずれの実施例においても析出した主結晶相はPNb9O25または/及びその固溶体(P,Ge)Nb9O25であることがわかる。また、メチレンブルーの分解活性指数は、いずれのガラスセラミックスにおいても25nmol/L/min以上であり、優れた光触媒活性を有することが確認できた。
【0064】
【0065】
[実施例7]
モル%で3SiO2-1B2O3-1Al2O3-25P2O5-8GeO2-35Nb2O5-27ZnOという組成を以て多孔質ガラスセラミックスを作製した。各成分の原料として、SiO2、B2O3、Al2O3、GeO2、Nb2O5及びZn(PO3)2に相当する酸化物を秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、電気炉で1350℃で3時間溶解した。その後、ガラスの溶融液を水に投入し、顆粒状のガラスを作製した。得られたガラスを平均粒子1μのサイズに粉砕し、以下の多孔質ガラスセラミックスの作製に用いた。
【0066】
テンプレートとして格子状の穴(穴サイズ7×10mm)を有するポリエステルとナイロンからなる不織布(厚み7mm)を用いた。スラリーは、上述のガラス粉末に対してバインダー(積水化学工業株式会社、エスレックKKW-10)を10wt%、蒸留水を40wt%加えて調合した。このスラリーを上述の不織布に含浸させ、ドライヤーで余分なスラリーを除去、乾燥後、同様な操作をもう一回行った。このように作製したスラリー含浸シートを2枚用意し、重ねてから、950℃で2時間焼成することにより、多孔質ガラスセラミックスを得た。得られた多孔質ガラスについて4.6wt%のHFで1分間処理を行ってから、諸物性の測定に供した。粉末法のXRD測定により、主結晶相として(Nb,Ge)9PO25が生成していることが確認された。光触媒性能については日本工業規格JIS R 1701-2に基づいてアセトアルデヒドの除去量を測定することにより評価した。求められたアセトアルデヒドの除去量は11.3μmol/hであった。この値は光触媒として認められる基準値の0.17μmol/hを66倍上回っており、本発明のガラスセラミックは有害ガスに対して優れた分解力を有することが確認できた。
【0067】
以上の実験結果が示すように、本発明の実施例1~7のガラスセラミックスは、優れた光触媒活性を有しており、且つ光触媒結晶が均一にガラスに分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性に優れた光触媒機能性素材として利用できることが確認された。
【0068】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。