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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134065
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ギヤ油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240926BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20240926BHJP
   C10M 135/20 20060101ALN20240926BHJP
   C10M 135/22 20060101ALN20240926BHJP
   C10M 137/06 20060101ALN20240926BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240926BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20240926BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240926BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240926BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M145/14
C10M135/20
C10M135/22
C10M137/06
C10N20:02
C10N20:04
C10N30:06
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044160
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】多田 亜喜良
(72)【発明者】
【氏名】小川 仁志
(72)【発明者】
【氏名】岸 美里
(72)【発明者】
【氏名】床桜 大輔
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BG11C
4H104BG12C
4H104CB08C
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104EA03C
4H104LA03
4H104PA02
(57)【要約】
【課題】40℃および100℃における動粘度を基準として動粘度を低粘度とすることが可能でありながら、優れた耐焼き付き性能を有するものとすることが可能なギヤ油組成物を提供すること。
【解決手段】(A)基油組成物、(B)特定の増粘剤及び(C)極圧剤を含むギヤ油組成物であり;前記(A)成分は特定の基油(A-1)を特定の割合で含有し;前記(A)成分は40℃及び100℃における動粘度がそれぞれ特定の範囲にあり;前記(A)成分の粘度指数は特定の値以上であり;前記(B)成分は特定のポリ(メタ)アクリレートであり;前記(B)成分の含有量が特定の範囲にあり;前記ギヤ油組成物中の硫黄及びリンの含有量がそれぞれ特定の範囲にあり;前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度および100℃における動粘度がそれぞれ特定の範囲にあり;前記ギヤ油組成物の粘度指数が特定の値よりも大きいこと;を特徴とするギヤ油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基油組成物、(B)ポリ(メタ)アクリレート系増粘剤、および、(C)極圧剤を含むギヤ油組成物であり、
前記(A)成分は、100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sでありかつ粘度指数が140以上である基油(A-1)を、前記基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有してなり、
前記(A)成分の40℃における動粘度は20~23mm/sであり、
前記(A)成分の100℃における動粘度は4.5~5.0mm/sであり、
前記(A)成分の粘度指数は140以上であり、
前記(B)成分は、重量平均分子量が11000~13000のポリ(メタ)アクリレートであり、
前記ギヤ油組成物の全量を基準とした前記(B)成分の含有量は2~3質量%であり、 前記ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量は2.0~2.2質量%であり、
前記ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量は1400~1700質量ppmであり、
前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度は34.0~36.0mm/sであり、
前記ギヤ油組成物の100℃における動粘度は6.0~8.0mm/sであり、
前記ギヤ油組成物の粘度指数が170よりも大きいこと、
を特徴とするギヤ油組成物。
【請求項2】
前記(C)成分がポリサルファイド化合物からなる硫黄系極圧剤(C-1)とリン系極圧剤(C-2)とからなり、
前記(C)成分に由来する硫黄の含有量が前記ギヤ油組成物の全量を基準として2.0~2.2質量%であり、かつ、
前記(C)成分に由来するリンの含有量が1400~1700質量ppmであることを特徴とする請求項1に記載のギヤ油組成物。
【請求項3】
前記硫黄系極圧剤(C-1)がジヒドロカルビルポリサルファイドであることを特徴とする請求項2に記載のギヤ油組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、100℃における動粘度が6.0~7.0mm/sでありかつ粘度指数が140以上である基油(A-2)を前記基油組成物の全量を基準として40~50質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のギヤ油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は様々な用途に用いられており、その用途に応じた特性を発揮するために様々な種類の組成物が研究されてきた。このような状況の中、特に、歯車(ギヤ)装置に利用する潤滑油組成物(ギヤ油組成物)に対しては、環境適合性やエネルギー効率(省燃費性等)の観点等から、より低粘度の潤滑油組成物の利用が検討されている。
【0003】
例えば、国際公開第2017/073748号(特許文献1)には、潤滑油基油と;潤滑油組成物全量基準で1.0質量%以上15.0質量%以下の、重量平均分子量が2万以上20万以下である分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物と;潤滑油組成物全量基準で0.05質量%以上6.0質量%以下のチアジアゾール化合物と;潤滑油組成物全量基準で1.5質量%以上4.0質量%以下のポリサルファイド化合物と;潤滑油組成物全量基準で0.2質量%以上1.5質量%以下の摩擦調整剤と;を含有し、前記チアジアゾール化合物の含有量に対する前記ポリサルファイド化合物の含有量の質量比(ポリサルファイド化合物/チアジアゾール化合物)が0.4以上50以下であり、潤滑油組成物の100℃における動粘度が7.0mm/s以上35.0mm/s以下である潤滑油組成物が、ギヤ油用の潤滑油組成物として好適であることが開示されている。
【0004】
また、特開2021-080429号公報(特許文献2)には、(A)潤滑油基油、(B)重量平均分子量10,000~100,000の粘度指数向上剤、(C)硫黄系極圧剤、(D)リン系極圧剤、及び、(E)無灰分散剤を含む潤滑油組成物であって、前記(C)硫黄系極圧剤が(C1)硫黄原子を2つ以上有するチアジアゾールを含み、かつ、100℃における動粘度2~10mm/sである潤滑油組成物が、ギヤ油用の潤滑油組成物として好適なものである旨が開示されている。なお、特許文献2においては、前記粘度指数向上剤として、非分散型ポリメタクリレート及び分散型ポリメタクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましい旨も開示されている。
【0005】
また、特開2007-284564号公報(特許文献3)には、(A1)100℃における動粘度が2.5~4.5mm/sの潤滑油基油および(A2)100℃における動粘度が10~40mm/sの潤滑油基油からなりかつ100℃における動粘度が3.7~4.1mm/sである潤滑油基油(A)に、(B)重量平均分子量が1.5万~3.0万のポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤を組成物全量基準で1~20質量%と、(C)炭素数8~30の炭化水素基を有するイミド系摩擦調整剤を組成物全量基準で2~4質量%と、(D)リン系極圧剤を組成物全量基準でリン量として0.01~0.04質量%と、(E)数平均分子量が2000以上のアルキル基又はアルケニル基を少なくとも1つ有する無灰分散剤を組成物全量基準で窒素含有量として0.01~0.04質量%とを配合した、100℃における動粘度が5.6~5.8mm/sである自動変速機用潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/073748号
【特許文献2】特開2021-080429号公報
【特許文献3】特開2007-284564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1~3に記載されているような潤滑油組成物は、その組成物を低粘度のものとしつつ、耐荷重性能(特に耐焼き付き性能)を優れたものとするといった点においては改良の余地があった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、40℃および100℃における動粘度を基準として動粘度を低粘度とすることが可能でありながら、優れた耐焼き付き性能を有するものとすることが可能なギヤ油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、潤滑油組成物は、粘度を低下させるほど油膜の形成性能が低下して金属接触部位が生じ易くなり、これに起因して耐焼き付き性能が低下する。このように、潤滑油組成物において、低粘度化と耐焼き付き性能の向上とは、一方の特性が向上するともう一方の特性が低下してしまう相反関係(トレードオフの関係)にある。そのため、従来のギヤ油組成物においては、双方の特性を両立させることができず、組成物の動粘度を低粘度とすることは可能であっても、低粘度とした際に耐荷重性能(特に耐焼き付き性能)を優れたものとすることができなかった。そこで、本発明者らが上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねたところ、ギヤ油組成物を(A)基油組成物、(B)ポリ(メタ)アクリレート系増粘剤、および、(C)極圧剤を含むものとし;前記(A)成分を、100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sでありかつ粘度指数が140以上である基油(A-1)を前記基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有するものとし;前記(A)成分の40℃における動粘度を20~23mm/sとし;前記(A)成分の100℃における動粘度を4.5~5.0mm/sとし;前記(A)成分の粘度指数を140以上とし;前記(B)成分を、重量平均分子量が11000~13000のポリ(メタ)アクリレートとし;前記ギヤ油組成物の全量を基準とした前記(B)成分の含有量を2~3質量%とし;前記ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量を2.0~2.2質量%とし;前記ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量を1400~1700質量ppmとし;前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度を34.0~36.0mm/sとし;前記ギヤ油組成物の100℃における動粘度を6.0~8.0mm/sとし;更に、前記ギヤ油組成物の粘度指数を170よりも大きな値とすることにより、驚くべきことに、相反関係にある低粘度化と耐焼き付き性能の向上の両立を図ることが可能となり、40℃および100℃における動粘度を基準としてギヤ油組成物の動粘度を低粘度とすることを可能としながら、優れた耐焼き付き性能を有するものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0011】
[1](A)基油組成物、(B)ポリ(メタ)アクリレート系増粘剤、および、(C)極圧剤を含むギヤ油組成物であり、
前記(A)成分は、100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sでありかつ粘度指数が140以上である基油(A-1)を、前記基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有してなり、
前記(A)成分の40℃における動粘度は20~23mm/sであり、
前記(A)成分の100℃における動粘度は4.5~5.0mm/sであり、
前記(A)成分の粘度指数は140以上であり、
前記(B)成分は、重量平均分子量が11000~13000のポリ(メタ)アクリレートであり、
前記ギヤ油組成物の全量を基準とした前記(B)成分の含有量は2~3質量%であり、 前記ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量は2.0~2.2質量%であり、
前記ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量は1400~1700質量ppmであり、
前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度は34.0~36.0mm/sであり、
前記ギヤ油組成物の100℃における動粘度は6.0~8.0mm/sであり、
前記ギヤ油組成物の粘度指数が170よりも大きい、ギヤ油組成物。
【0012】
[2]前記(C)成分がポリサルファイド化合物からなる硫黄系極圧剤(C-1)とリン系極圧剤(C-2)とからなり;前記(C)成分に由来する硫黄の含有量が前記ギヤ油組成物の全量を基準として2.0~2.2質量%であり;かつ、前記(C)成分に由来するリンの含有量が1400~1700質量ppmである、[1]に記載のギヤ油組成物。
【0013】
[3]前記硫黄系極圧剤(C-1)がジヒドロカルビルポリサルファイドである、[2]に記載のギヤ油組成物。
【0014】
[4]前記(A)成分が、100℃における動粘度が6.0~7.0mm/sでありかつ粘度指数が140以上である基油(A-2)を前記基油組成物の全量を基準として40~50質量%含有する、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載のギヤ油組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、40℃および100℃における動粘度を基準として動粘度を低粘度とすることが可能でありながら、優れた耐焼き付き性能を有するものとすることが可能なギヤ油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、数値X及びYについて「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0017】
本発明のギヤ油組成物は、(A)基油組成物、(B)ポリ(メタ)アクリレート系増粘剤、および、(C)極圧剤を含むギヤ油組成物であり、
前記(A)成分は、100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sでありかつ粘度指数が140以上である基油(A-1)を、前記基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有してなり、
前記(A)成分の40℃における動粘度は20~23mm/sであり、
前記(A)成分の100℃における動粘度は4.5~5.0mm/sであり、
前記(A)成分の粘度指数は140以上であり、
前記(B)成分は、重量平均分子量が11000~13000のポリ(メタ)アクリレートであり、
前記ギヤ油組成物の全量を基準とした前記(B)成分の含有量は2~3質量%であり、 前記ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量は2.0~2.2質量%であり、
前記ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量は1400~1700質量ppmであり、
前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度は34.0~36.0mm/sであり、
前記ギヤ油組成物の100℃における動粘度は6.0~8.0mm/sであり、
前記ギヤ油組成物の粘度指数が170よりも大きいこと、
を特徴とするものである。
【0018】
〔(A)成分:基油組成物〕
本発明のギヤ油組成物は、(A)成分として基油組成物を含有する。このような(A)成分として利用する基油組成物は、前記基油(A-1)を基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有してなり;40℃における動粘度が20~23mm/sであり;100℃における動粘度が4.5~5.0mm/sであり;かつ粘度指数が140以上である基油組成物である。なお、このような基油組成物は、本発明のギヤ油組成物において潤滑油基油として利用される成分であり、かかる基油組成物を利用することによって、本発明のギヤ油組成物を低粘度化させて、ギヤ油組成物の100℃における動粘度を6.0~8.0mm/sとすることが可能となる。
【0019】
このように、本発明にかかる(A)成分は、前記基油(A-1)を、前記基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有してなる基油組成物である。すなわち、前記基油組成物(前記(A)成分)は、前記基油(A-1)を主たる成分(前記基油組成物において含有量が50質量%以上となる成分)として含む基油の組成物である。
【0020】
このような基油組成物が含有する前記基油(A-1)は、100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sでありかつ粘度指数が140以上であるという条件を満たす基油である。このように、前記基油(A-1)は、100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sと低くかつ粘度指数が140以上と極めて高い高性能の基油である。なお、本明細書において、基油や組成物の40℃又は100℃における動粘度は、JIS K 2283-2000に規定される各温度(40℃又100℃)での動粘度を意味する。また、本明細書において、基油や組成物の「粘度指数」は、JIS K 2283-2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0021】
前記基油(A-1)は、前述のように、100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sの基油である必要がある。このような基油(A-1)の100℃における動粘度を3.5mm/s以上とすることで潤滑箇所での油膜形成性能がより高くなり、耐焼き付き性を向上させることが可能となる。他方、基油(A-1)の100℃における動粘度を4.5mm/s以下とすることで、最終的に得られるギヤ油組成物をより低粘度のものとすることができ、使用時の撹拌損失を低減することが可能となる。このような基油(A-1)の100℃における動粘度は、油膜形成性能による耐焼き付き性の向上、および、低粘度化による省燃費性能の向上の観点でより高い効果が得られることから、3.7~4.3mm/sであることがより好ましい。
【0022】
また、前記基油(A-1)は、粘度指数が140以上の基油である必要がある。このような基油(A-1)の粘度指数を140以上とすることで温度による粘度変化がより小さなギヤ油組成物を得ることが可能となり、使用条件下において粘度を低く維持して省燃費性能をより向上させることが可能となる。このような基油(A-1)の粘度指数は、省燃費性能の観点でより高い効果が得られることから、141以上であることがより好ましい。
【0023】
また、前記基油(A-1)は、40℃における動粘度が15.8~16.5mm/s(さらに好ましくは16.0~16.3mm/s)の基油であることがより好ましい。このような基油(A-1)の40℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較して潤滑箇所での油膜形成性をより向上させて潤滑性をより優れたものとすることが可能となるとともに、ギヤ油組成物の蒸発損失がより低減されてギヤ油組成物の消費量をより低減させることが可能となる。他方、基油(A-1)の40℃における動粘度が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較してギヤ油組成物の低温粘度特性と省燃費性能の点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0024】
また、前記基油(A-1)は、硫黄の含有量が10質量ppm以下(より好ましくは8質量ppm以下、更に好ましくは5質量ppm以下)の基油であることが好ましい。このような硫黄の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、より高い酸化安定性を有するギヤ油組成物を得ることが可能となる。また、基油中の「硫黄の含有量」は、ASTM D4951に準拠して測定できる。
【0025】
また、前記基油(A-1)は、流動点が-20℃以下の基油であることが好ましい。このような流動点が前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較して、最終的に得られるギヤ油組成物の低温流動性をより向上させることが可能となる。また、このような流動点の下限は特に制限されるものではないが、粘度指数をより高いものとすることが可能となるといった観点からは、流動点が-40℃以上であることがより好ましい。なお、本明細書において「流動点」とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0026】
さらに、前記基油(A-1)は、引火点が200℃以上の基油であることが好ましい。また、このような引火点を前記下限以上とすることで前記下限未満の場合と比較して、高温使用時の安全性がより向上する傾向にある。なお、本明細書において「引火点」とは、JIS K 2265-4-2007(クリーブランド開放法)に準拠して測定される引火点を意味する。
【0027】
また、前記基油(A-1)は、%Cが90~95の基油であることが好ましい。基油(A-1)の%Cを前記下限値以上とすることにより、粘度-温度特性、省燃費性能、及び、基油以外の他の成分(他の添加剤等を含む)を添加することにより得られる効果、等をさらに高めることが可能になる。他方、基油の%Cを上記上限値以下とすることにより、極圧剤等の他の成分の溶解性を高めることが可能になる。
【0028】
また、前記基油(A-1)は、%Cが0の基油であることが好ましい。基油(A-1)の%Cを0とすることにより、粘度-温度特性をより高めることが可能になるほか、省燃費性能をさらに高めることも可能になる。
【0029】
また、前記基油(A-1)は、%Cが5~10の基油であることが好ましい。基油(A-1)の%Cを上記上限値以下とすることにより、粘度-温度特性を高めることが可能になるとともに、省燃費性をさらに高めることが可能になる。また、%Cを上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を高めることが可能になる。
【0030】
なお、本明細書において%C、%Cおよび%Cとは、それぞれASTM D 3238-85に準拠した方法(n-d-M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%Cおよび%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えば、ナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cは0を超える値を示し得る。
【0031】
また、前記基油(A-1)として好適に利用可能な基油は、特に制限されるものではないが、例えば、パラフィン系、ナフテン系、又は、芳香族系の原油の蒸留により得られる灯油留分;及び/又は灯油留分からの抽出操作等により得られるノルマルパラフィン;及び/又はパラフィン系、ナフテン系、又は芳香族系の原油の蒸留により得られる潤滑油留分、あるいは潤滑油脱ろう工程により得られる、スラックワックス等の原油由来のワックス;及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる、フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等の合成ワックス;を原料とし、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1つ又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系基油、ナフテン系基油、芳香族系基油、ワックス異性化基油、溶剤精製基油、水素化精製基油、水素化分解基油、ノルマルパラフィン、イソパラフィンが挙げられる。これらの基油は単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。また、このような基油(A-1)としては、鉱油系炭化水素油がより好ましい。
【0032】
また、前記基油(A-1)は、飽和分の含有量が90質量%以上(より好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)の鉱油系の基油であることが好ましい。飽和分の含有量が前記下限値以上であることにより、粘度-温度特性を向上させることができる。ここで、本明細書において飽和分の含有量は、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0033】
さらに、前記基油(A-1)は、芳香族分の含有量が0~10質量%(より好ましくは0~5質量%、特に好ましくは0~1質量%)の鉱油系の基油であることが好ましい。なお、このような鉱油系の基油の一の実施形態において、芳香族分の含有量を0.1質量%以上としてもよい。このような芳香族分の含有量を上記上限値以下とすることにより、粘度-温度特性および低温粘度特性を高めることが可能になる。なお、本明細書において芳香族分の含有量は、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0034】
また、このような基油(A-1)としては、API(アメリカ石油協会:American Petroleum Institute)による基油の分類において、グループIIIの基油であることが好ましい(以下、APIによる基油分類のグループを場合により単に「APIグループ」と称する)。なお、APIグループIIIの基油は硫黄分0.03質量%以下、飽和分90質量%以上、かつ粘度指数120以上の鉱油系の基油である。
【0035】
また、本発明にかかる基油組成物((A)成分)は、前述のように、前記基油(A-1)を基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有してなるものである。このような基油(A-1)の含有量を前記基油組成物の全量を基準として50質量%以上とすることによって、粘度-温度特性を高めることが可能になるとともに、省燃費性をさらに高めることが可能となる。このような基油(A-1)の含有量は、省燃費性をさらに高めることが可能となるといった観点からは、50~70質量%であることがより好ましく、50~60質量%であることが更に好ましい。
【0036】
また、本発明にかかる基油組成物((A)成分)は、40℃における動粘度が20~23mm/sである必要がある。このような基油組成物の40℃における動粘度が前記下限以上である場合には、潤滑箇所での油膜形成性をより向上させて潤滑性をより優れたものとすることが可能となるとともに、ギヤ油組成物の蒸発損失がより低減されてギヤ油組成物の消費量をより低減させることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較してギヤ油組成物の低温粘度特性と省燃費性能を向上させることが可能となる。このような基油組成物の40℃における動粘度は、ギヤ油組成物の低粘度化、省燃費性、および、油膜形成性の観点でより高い効果が得られることから、21.5~22.5mm/sであることがより好ましい。
【0037】
また、本発明にかかる基油組成物((A)成分)は、100℃における動粘度は4.5~5.0mm/sである必要がある。このような基油組成物の100℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較して潤滑箇所での油膜形成性能がより高くなり、耐焼き付き性を向上させることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、ギヤ油組成物が低粘度のものとなり、使用時の撹拌損失を低減することが可能となる。このような基油組成物の100℃における動粘度は、油膜形成性能、耐焼き付き性、ギヤ油組成物の低粘度化の観点でより高い効果が得られることから、4.6~4.9mm/sであることがより好ましい。
【0038】
さらに、本発明にかかる基油組成物((A)成分)は、粘度指数が140以上の基油である必要がある。このような基油組成物の粘度指数を140以上とすることで温度による粘度変化がより小さなギヤ油組成物を得ることが可能となり、使用条件下において低粘度の状態を維持して省燃費性能をより向上させることが可能となる。このような基油組成物の粘度指数は、省燃費性能の観点でより高い効果が得られることから、140~142であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明にかかる基油組成物((A)成分)は、前記基油(A-1)を基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有してなり;40℃における動粘度が20~23mm/sであり;100℃における動粘度が4.5~5.0mm/sであり;かつ粘度指数が140以上であるという条件(基油組成物の条件)を満たす基油組成物であればよく、他の条件は特に制限されるものではないが、その基油組成物中の硫黄の含有量が11質量ppm未満(より好ましくは0~10質量ppm)であることが好ましい。このような基油組成物中の硫黄の含有量が前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較して、酸化安定性の点でより高い効果が得られる傾向にある。
【0040】
また、本発明にかかる基油組成物((A)成分)は、上記基油組成物の条件を満たすものとなるように、前記基油(A-1)以外にも、他の基油を適宜選択して含有させることができる。このような基油組成物に含有させる前記基油(A-1)以外の他の基油としては、得られる組成物が上記基油組成物の条件を満たすものとなるようにすることが可能なものであればよく、前記基油(A-1)の種類に応じて公知の基油の中から適宜選択して利用することが可能であり、例えば、鉱油系基油(例えば、ワックス異性化基油等)、ポリアルファオレフィン(PAO)からなる合成油等を適宜利用できる。
【0041】
また、このような他の基油の中でも、粘度-温度特性を高めることが可能となることから、前記基油(A-1)と組み合わせて利用する基油としては、100℃における動粘度が6.0~7.0mm/sでありかつ粘度指数が140以上である基油(A-2)を利用することが特に好ましい。前記基油(A-1)とともに基油(A-2)を利用することで、より効率よく粘度-温度特性を高めることが可能となる。以下、基油組成物((A)成分)に前記基油(A-1)と組み合わせて好適に利用可能な前記基油(A-2)について説明する。
【0042】
このような基油(A-2)は、100℃における動粘度が6.0~7.0mm/sの基油である。このような基油(A-2)の100℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して潤滑箇所での油膜形成性をより向上させて潤滑性をより優れたものとすることが可能となるとともに、ギヤ油組成物の蒸発損失がより低減されてギヤ油組成物の消費量をより低減させることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較してギヤ油組成物の低温粘度特性と省燃費性能を向上させる点でより高い効果を得ることが可能となる。このような基油(A-2)の100℃における動粘度は、ギヤ油組成物の低粘度化、省燃費性、および、油膜形成性の観点でより高い効果が得られることから、6.0~6.5mm/s(さらに好ましくは6.1~6.5mm/s)であることがより好ましい。
【0043】
また、前記基油(A-2)は、粘度指数が140以上の基油である。このような基油(A-2)の粘度指数を140以上とすることで温度による粘度変化がより小さなギヤ油組成物を得ることが可能となり、使用条件下において低粘度の状態を維持して省燃費性能をより向上させることが可能となる。このような基油(A-2)の粘度指数は、省燃費性能の観点でより高い効果が得られることから、140~145であることがより好ましい。
【0044】
また、前記基油(A-2)は、硫黄の含有量が1質量ppm以下の基油であることが好ましい。このような硫黄の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して酸化安定性を向上することが可能となる。
【0045】
また、前記基油(A-2)は、流動点が-10℃以下の基油であることが好ましい。このような流動点が前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較してギヤ油組成物全体の低温流動性を向上させることが可能となる。また、このような流動点の下限は特に制限されるものではないが、粘度指数をより高いものとすることが可能となるといった観点からは、流動点が-40℃以上であることがより好ましい。さらに、前記基油(A-2)は、引火点が200℃以上(より好ましくは230℃以上)の基油であることが好ましい。また、このような引火点を前記下限以上とすることで前記下限未満の場合と比較して、高温使用時の安全性がより向上する傾向にある。
【0046】
また、前記基油(A-2)は、%Cが70~90の基油であることが好ましい。基油(A-2)の%Cを前記下限値以上とすることにより、粘度-温度特性、省燃費性能、及び、基油以外の他の成分(他の添加剤等を含む)を添加することにより得られる効果、等をさらに高めることが可能になる。他方、基油の%Cを上記上限値以下とすることにより、極圧剤等の他の成分の溶解性を高めることが可能になる。
【0047】
また、前記基油(A-2)は、%Cが0~30の基油であることが好ましい。基油(A-2)の%Cを上記上限値以下とすることにより、粘度-温度特性をより高めることが可能になるほか、省燃費性能をさらに高めることも可能になる。
【0048】
また、前記基油(A-2)は、%Cが0~30の基油であることが好ましい。基油(A-2)の%Cを上記上限値以下とすることにより、粘度-温度特性を高めることが可能になるとともに、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0049】
また、前記基油(A-2)は、飽和分の含有量が90質量%以上(より好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)の鉱油系の基油であることが好ましい。飽和分の含有量が前記下限値以上であることにより、粘度-温度特性を向上させることができる。ここで、本明細書において飽和分の含有量は、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0050】
さらに、前記基油(A-2)は、芳香族分の含有量が0~10質量%(より好ましくは0~5質量%、特に好ましくは0~1質量%以下)の鉱油系の基油であることが好ましい。なお、このような鉱油系の基油の一の実施形態において、芳香族分の含有量を0.1質量%以上としてもよい。このような芳香族分の含有量を上記上限値以下とすることにより、粘度-温度特性および低温粘度特性を高めることが可能になる。なお、本明細書において芳香族分の含有量は、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0051】
また、前記基油(A-2)としては、特に制限されるものではないが、鉱油系炭化水素油(例えば、水素化精製鉱油等)であることが好ましい。このような基油(A-2)としては、APIグループIIIの基油であることが好ましい。
【0052】
また、本発明にかかる基油組成物((A)成分)において、前記基油(A-1)とともに前記基油(A-2)を利用する場合、基油(A-2)の含有量は、前記基油組成物の全量を基準として30~50質量%(より好ましくは、40~50質量%)とすることが好ましい。このように、前記基油(A-2)の含有量を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して潤滑箇所での油膜形成性をより向上させて潤滑性をより優れたものとすることが可能となるとともに、ギヤ油組成物の蒸発損失がより低減されてギヤ油組成物の消費量をより低減させることが可能となる。他方、前記基油(A-2)の含有量を前記上限以下とすることで、前記上限未満の場合と比較して、ギヤ油組成物の低温粘度特性と省燃費性能の点でさらに高い効果を得ることが可能となる。
【0053】
また、このような基油組成物((A)成分)は、前記基油(A-2)を含む場合、潤滑箇所での油膜形成性をより向上させて潤滑性をより優れたものとすることが可能となるとともに、省燃費性能をより向上させることが可能となるといった観点から、基油組成物の全量に対する前記基油(A-1)及び前記基油(A-2)の含有量(総量)が90~100質量%(さらに好ましくは95~100質量%、特に好ましくは98~100質量%)であることがより好ましい。なお、このような基油組成物は、その好適な一の実施形態として、例えば、前記基油(A-1)および前記基油(A-2)のみからなるものとしてもよい。
【0054】
また、本発明にかかる基油組成物((A)成分)は、炭化水素系基油の混合物であることがより好ましい。このような炭化水素系基油の混合物である基油組成物は、例えば、基油組成物中に含有させる全ての基油成分(基油組成物が前記基油(A-1)と前記基油(A-2)のみからなるものである場合、前記基油(A-1)と前記基油(A-2)の全て)を炭化水素系基油(より好ましくは鉱油系炭化水素油)として混合したものを、その好適な一実施形態として挙げることができる。
【0055】
〔(B)成分:ポリ(メタ)アクリレート系増粘剤〕
本発明のギヤ油組成物は、(B)成分としてポリ(メタ)アクリレート系増粘剤を含有する。ここで、本発明において、ポリ(メタ)アクリレート系増粘剤((B)成分)は、重量平均分子量が11000~13000のポリ(メタ)アクリレートである。このような(B)成分として利用するポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量が11000以上である場合には、11000未満の場合と比較して、貧潤滑時における耐焼付き性をより向上させることが可能となり、他方、前記重量平均分子量が13000以下である場合には、13000を超えた場合と比較して、貧潤滑時における耐焼付き性をより向上させることが可能となる。なお、このようなポリ(メタ)アクリレートの「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(標準ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。
【0056】
また、前記(B)成分として利用するポリ(メタ)アクリレートは、重量平均分子量が11500~12500のポリ(メタ)アクリレートであることが特に好ましい。ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量を前記範囲内とすることで貧潤滑時における耐焼付き性向上の点でさらに高い効果が得られる傾向にある。
【0057】
このような(B)成分として利用するポリ(メタ)アクリレートは、重量平均分子量が11000~13000のものであればよく、それ以外の条件等(例えば構造等)は特に制限されず、潤滑油の分野において増粘剤(いわゆる粘度指数向上剤であってもよい)として利用可能なものとして公知のポリ(メタ)アクリレート化合物(例えば、特開2010-195894号公報の段落[0079]~段落[0096]に記載されているポリ(メタ)アクリレート化合物等)であって重量平均分子量が11000~13000のものを適宜利用できる。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。また、このようなポリ(メタ)アクリレートは、非分散型のものであっても、あるいは、分散型のものであってもよい。また、このような(B)成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
〔(C)成分:極圧剤〕
本発明のギヤ油組成物は、(C)成分として極圧剤を含有する。このような極圧剤((C)成分)としては、公知の極圧剤を適宜利用でき、特に制限されるものではないが、ギヤ油組成物中の硫黄の含有量およびリンの含有量を調整することがより容易となるといった観点から、硫黄系極圧剤(より好ましくはポリサルファイド化合物からなる硫黄系極圧剤(C-1))と、リン系極圧剤(C-2)を組み合わせて利用することが好ましい。なお、ここにいう「リン系極圧剤(C-2)」は、リン系化合物の他、リン-硫黄系化合物からなるものであってもよい。
【0059】
このような硫黄系極圧剤としては、潤滑油組成物の分野において公知の硫黄系極圧剤(例えば、ポリサルファイド化合物、硫化エステル、硫化油脂およびチアジアゾール化合物等)を適宜利用可能であり、特に制限されるものではないが、中でも、耐焼付き性の更なる向上の観点から、ポリサルファイド化合物からなる硫黄系極圧剤(C-1)であることが好ましい。なお、本明細書において、ポリサルファイド化合物は2個以上の硫黄によって架橋された化合物全般をいう。
【0060】
また、(C)成分として好適な前記硫黄系極圧剤(C-1)としては、耐焼付き性の向上の点でより高い効果を得ることが可能となることから、ジヒドロカルビルポリサルファイドが好ましい。なお、このようなジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、公知のもの(例えば、特開2010-195894号公報に記載されているジヒドロカルビルポリサルファイド化合物等)を適宜利用できる。
【0061】
また、前記ジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、下記式(I):
-S-R (I)
[式(I)中、R及びRはそれぞれ同一のものであってもあるいは異なるものであってもよく、それぞれ独立に、炭素数1~22の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~22の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアルキルアリール基、または、炭素数6~20のアリールアルキル基を示し、aは1~5、好ましくは1~2の整数を表す。なお、前記アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基を含む。]
で表される化合物を好適なものとして挙げることができる。
【0062】
また、このようなジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジブチルポリサルファイド、ジヘキシルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジノニルポリサルファイド、ジデシルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジテトラデシルポリサルファイド、ジヘキサデシルポリサルファイド、ジオクタデシルポリサルファイド、ジエイコシルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジベンジルポリサルファイド、ジフェネチルポリサルファイド、ポリプロペニルポリサルファイド、ポリブテニルポリサルファイドが挙げられ、中でも、耐焼付き性向上の観点からは、ジブチルポリサルファイドがより好ましい。なお、このような硫黄系極圧剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用できる。
【0063】
また、前記リン系極圧剤(C-2)としては、分子中にリンを含有する化合物からなる極圧剤であればよく、特に制限されず、リン含有化合物の他、リン-硫黄含有化合物(いわゆるリン-硫黄系極圧剤)を利用することができる。このようなリン系極圧剤としては、潤滑油組成物の分野において添加剤として利用可能な、公知のリンを含有する化合物(例えば、特開2015-203054号公報に記載されているリン系極圧剤およびリン-硫黄系極圧剤、特開2015-131906号公報に記載されているリン系極圧剤、特開2017-078138号公報に記載されているチオリン酸エステル、特開2021-147517号公報に記載されている「ジチオリン酸エステル誘導体」、特表2014-515421号公報の段落[0025]~[0036]に記載されている化合物等)を適宜利用することができる。
【0064】
このようなリン系極圧剤(C-2)としては、例えば、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸不完全エステルの塩、亜リン酸不完全エステルの塩、チオリン酸エステル、チオリン酸アミン塩を挙げることができる。また、このようなリン系極圧剤(C-2)としては、耐焼付き性をさらに向上させることが可能となることから、チオリン酸エステルと、ジチオリン酸アミン塩とを組み合わせて利用することが好ましい。なお、ここにいう「チオリン酸エステル」は、チオリン酸のエステルの他、ジチオリン酸のエステルであってもよい。また、ここにいう「ジチオリン酸アミン塩」は、ジチオリン酸のアミン塩の他、ジチオリン酸エステルのアミン塩であってもよい。
【0065】
このようなチオリン酸エステル(ジチオリン酸エステルであってもよい)としては、公知の化合物を適宜利用でき、例えば、特開2021-147517号公報に記載されている「ジチオリン酸エステル誘導体」を好適に利用できる。また、このようなチオリン酸エステル(ジチオリン酸エステルであってもよい)としては、市販品(例えば、BASFジャパン株式会社製、商品名:IRGALUBE 353、IRGALUBE62等)を利用してもよい。また、このようなチオリン酸エステル(ジチオリン酸エステルであってもよい)において、一分子中の硫黄の含有量は8~20質量%でありかつ一分子中のリンの含有量が5~1質量%である化合物が好ましい。
【0066】
また、前記ジチオリン酸アミン塩としては、特に制限されないが、例えば、特表2014-515421号公報の段落[0025]~[0036]に記載されている化合物を好適に利用可能である。このようなジチオリン酸アミン塩としては、一分子中の硫黄の含有量は8~10質量%でありかつ一分子中のリンの含有量が5~10質量%である化合物が好ましい。
【0067】
また、このような(C)成分としては、ポリサルファイド化合物(より好ましくはジヒドロカルビルポリサルファイド)である硫黄系極圧剤(C-1)と、リン系極圧剤(C-2)との混合物からなる極圧剤がより好ましく、中でも、耐焼付き性向上の観点から、ジヒドロカルビルポリサルファイドと、チオリン酸エステルと、ジチオリン酸アミン塩との混合物からなる極圧剤が特に好ましい。
【0068】
〔ギヤ油組成物の組成について〕
本発明のギヤ油組成物は、前記(A)成分、前記(B)成分、および、前記(C)成分を含むギヤ油組成物(ギヤ油用の潤滑油組成物)である。
【0069】
本発明のギヤ油組成物において、前記(A)成分の含有量は特に制限されないが、前記ギヤ油組成物の全量を基準として75~95質量%(より好ましくは80~90質量%)であることが好ましい。このような(A)成分の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して酸化安定性の点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して潤滑箇所での添加剤効果をより向上させて潤滑性をより優れたものとする点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0070】
このような本発明のギヤ油組成物において、前記(B)成分の含有量は、前記ギヤ油組成物の全量を基準として2~3質量%である必要がある。このような(B)成分の含有量が2質量%以上である場合には、2質量%未満である場合と比較して油膜形成性を向上させることが可能となるため、耐焼き付き性を優れたものとすることが可能となり、他方、(B)成分の含有量が3質量%以下である場合には、3質量%を超えた場合と比較して添加剤の被膜形成の阻害を抑制することが可能となるため、やはり耐焼き付き性を優れたものとすることが可能となる。
【0071】
また、本発明のギヤ油組成物において、前記(C)成分の含有量((C)成分の総量)は、前記ギヤ油組成物の全量を基準として8~10質量%であることが好ましい。このような(C)成分の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して添加剤の被膜生成性を向上させる点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して過度な添加剤被膜の形成を抑制して油膜の効果を向上させる点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0072】
また、本発明のギヤ油組成物において、前記(C)成分が前記硫黄系極圧剤(より好ましくは硫黄系極圧剤(C-1))と、リン系極圧剤(C-2)との混合物からなるものである場合、前記硫黄系極圧剤の含有量は前記ギヤ油組成物の全量を基準として5~7質量%であることが好ましく、また、前記リン系極圧剤(C-2)の含有量は前記ギヤ油組成物の全量を基準として3~5質量%であることが好ましい。
【0073】
また、本発明のギヤ油組成物においては、前記ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量が2.0~2.2質量%である必要がある。このような硫黄の含有量が2.0質量%以上である場合には、2.0質量%未満である場合と比較して添加剤の被膜生成性を向上させることが可能となり、他方、硫黄の含有量が2.2質量%以下である場合には、2.2質量%を超えた場合と比較して過度な添加剤被膜の形成を抑制して油膜の効果を向上させることが可能となる。また、前記ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量は、耐焼付き性向上の点でより高い効果が得られることから、前記ギヤ油組成物の全量を基準として2.0~2.1質量%であることがより好ましい。なお、前記ギヤ油組成物中の硫黄の含有量は、ASTM D4951に準拠して測定できる。
【0074】
また、本発明のギヤ油組成物においては、前記ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量が1400~1700質量ppmである必要がある。このようなリンの含有量が1400質量ppm以上である場合には、1400質量ppm未満である場合と比較して添加剤の被膜生成性を向上させることが可能となり、他方、前記リンの含有量が1700質量ppm以下である場合には、1700質量ppmを超えた場合と比較して過度な添加剤被膜の形成を抑制して油膜の効果を向上させることが可能となる。また、前記ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量は、耐焼付き性向上の点でより高い効果が得られることから、前記ギヤ油組成物の全量を基準として1450~1550質量ppmであることがより好ましい。なお、前記ギヤ油組成物中のリンの含有量は、ASTM D4951に準拠して測定できる。
【0075】
さらに、本発明のギヤ油組成物においては、前記(C)成分が、ポリサルファイド化合物からなる硫黄系極圧剤(C-1)と、リン系極圧剤(C-2)とからなり;前記(C)成分に由来する硫黄の含有量が前記ギヤ油組成物の全量を基準として2.0~2.2質量%であり;かつ、前記(C)成分に由来するリンの含有量が1400~1700質量ppmであることが好ましい。このように、前記硫黄系極圧剤(C-1)およびリン系極圧剤(C-2)を利用することで、優れた極圧性を得ることが可能となるとともに、ギヤ油組成物中の硫黄およびリンの含有量を(C)成分によりより容易に調整可能となる。ここにおいて、ギヤ油組成物中の硫黄およびリンの含有量の調整がより容易となるとともに、より優れた極圧性を得ることが可能となることから、前記硫黄系極圧剤(C-1)に由来する硫黄の含有量を、前記ギヤ油組成物の全量を基準として1.6~1.8質量%とすることが好ましく、また、前記リン系極圧剤(C-2)に由来するリンの含有量を、前記ギヤ油組成物の全量を基準として1400~1700質量ppmとすることが好ましく、更に、前記リン系極圧剤(C-2)がリン-硫黄系極圧剤を含む場合、前記リン系極圧剤(C-2)に由来する硫黄の含有量を4000~5000質量ppmとすることがより好ましい。
【0076】
また、本発明のギヤ油組成物においては、前記ギヤ油組成物の全量を基準としたホウ素の含有量が60~70質量ppmであることがより好ましい。このようなホウ素の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較してスラッジ分散性の点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して貯蔵安定性の点でより高い効果を得ることが可能となる。なお、前記ギヤ油組成物中のホウ素の含有量は、ASTM D4951に準拠して測定できる。
【0077】
また、本発明のギヤ油組成物は、前記(A)~(C)成分以外に、添加剤を更に含んでいてもよい。このような添加剤としては、潤滑油組成物(より好ましくはギヤ油組成物)の分野において利用されている公知の添加剤を適宜利用でき、特に制限されないが、粘度-温度特性を高めるといった点でより高い効果が得られるといった観点からは、(D)エチレンとα-オレフィンのコポリマーおよびその水素化物のうちの少なくとも1種よりなる粘度指数向上剤を好適なものとして挙げることができる。このような(D)成分としての粘度指数向上剤に用いられるコポリマーおよびその水素化物は、いわゆる非分散型のものであっても、分散型のものであってもよい。また、(D)粘度指数向上剤に用いられる前記コポリマーおよびその水素化物は、数平均分子量が2,000~10,000のものが好ましい。このような数平均分子量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して粘度-温度特性を高めるといった点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較してせん断安定性の点でより高い効果を得ることが可能となる。なお、(D)成分として利用されるコポリマー等の「数平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(標準ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。
【0078】
また、本発明のギヤ油組成物において(D)成分を利用する場合、前記ギヤ油組成物の全量を基準とした(D)成分の含有量が3.0~4.5質量%であることがより好ましい。このような(D)成分の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して粘度-温度特性を高めるといった点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較してせん断安定性の点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0079】
また、前記添加剤としては、低温流動性の点でより高い効果が得られるといった観点からは、(E)重量平均分子量が30,000~200,000のポリマーである流動点降下剤を好適なものとして挙げることができる。このような(E)成分としては、潤滑油組成物の分野において流動点降下剤として公知のものであってかつ重量平均分子量が前記範囲にあるものを適宜利用でき、特に制限されるものではない。このようなポリマーとしては、流動点を下げる効果の点で更に高い効果が得られることから、中でも、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)を用いることが好ましく、ポリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。(E)成分に利用する前記ポリマーは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0080】
本発明のギヤ油組成物において(E)成分を利用する場合、前記ギヤ油組成物の全量を基準とした(E)成分の含有量が0.5~1.5質量%であることがより好ましい。このような(E)成分の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して流動点を下げる効果の点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して粘度増加を低減するといった点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0081】
なお、本発明のギヤ油組成物に好適に利用可能な添加剤として、前記(D)成分や前記(E)成分を好適なものとして例示して説明したが、本発明のギヤ油組成物に利用可能な添加剤は、前記(D)成分や(E)成分に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲において、例えば、金属不活性化剤、摩擦調整剤、無灰分散剤、酸化防止剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、希釈油、防錆剤、抗乳化剤、着色剤、腐食防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属系清浄剤、酸捕捉剤等のような公知の他の添加成分(例えば、特開2016-3258号公報、国際公開2015/056783号、特開2016-160312号公報、特開2003-155492号公報、国際公開2017/073748号、特開2020-76004号公報等に記載されているようなもの等)も適宜利用できる。
【0082】
また、前記(D)成分や(E)成分以外の他の添加成分を利用する場合、他の添加成分の総量(合計量)は、前記ギヤ油組成物の全量を基準として1.0~2.0質量%であることがより好ましい。このような他の添加成分の総量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較してスラッジ分散性や腐食防止性の点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して酸化安定性の点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0083】
なお、このようなギヤ油組成物に利用し得る各種の添加剤は、それぞれ各成分ごとに別々に準備して添加してもよいし、あるいは、他の成分の混合物として準備して添加してもよい。このような他の成分の混合物としては、市販のパッケージ品(例えば、分散剤、摩擦調整剤、腐食防止剤を含む添加剤パッケージ等)を適宜利用してもよい。この点に関して、例えば、一の実施形態として、前記(D)成分や(E)成分を個々に準備しつつ、分散剤、摩擦調整剤、腐食防止剤等を含む添加剤パッケージを別途準備して、これらを組み合わせて利用してもよい。
【0084】
〔ギヤ油組成物の特性、製法、用途等について〕
本発明のギヤ油組成物は、100℃における動粘度が6.0~8.0mm/sである必要がある。前記ギヤ油組成物の100℃における動粘度が6.0mm/s以上である場合には、6.0mm/s未満である場合と比較して、100℃近傍の比較的高温の温度域(好ましくは80~120℃程度)において、潤滑箇所でのギヤ油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上して、油膜をより均一に保持できるため、使用時の耐焼き付き性能を高度なものとすることが可能となる。他方、前記ギヤ油組成物の100℃における動粘度が8.0mm/s以下である場合には、8.0mm/sを超えた場合と比較して、100℃近傍の比較的高温の温度域において、より低粘度のものとすることができ、撹拌抵抗をより小さくすることが可能となるため、動力伝達効率をより向上させることが可能となり、省燃費性能を向上させることが可能となる。また、このようなギヤ油組成物の100℃における動粘度は、耐焼き付き性能の向上及び省燃費性能の向上の点でより高い効果が得られることから、6.5~7.5mm/sであることがより好ましい。
【0085】
本発明のギヤ油組成物は、40℃における動粘度が34.0~36.0mm/sである必要がある。前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度が34.0mm/s以上である場合には、34.0mm/s未満である場合と比較して、40℃近傍の比較的低温の温度域(好ましくは20~60℃程度)においても潤滑箇所でのギヤ油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上して、より良好な潤滑状態を保持することを可能として省燃費性能をさらに向上させることが可能となる。他方、前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度が36.0mm/s以下である場合には、36.0mm/sを超えた場合と比較して、40℃近傍の比較的低温の温度域(好ましくは20~60℃程度)において、撹拌抵抗をより小さくすることが可能となり、使用開始直後などの低温状態においても動力伝達効率をより向上させることが可能となるため、省燃費性能をさらに向上させることが可能となる。
【0086】
また、本発明のギヤ油組成物は、粘度指数が170よりも大きな値であることが必要がある。すなわち、本発明のギヤ油組成物は、170よりも大きい粘度指数を有するものであること(粘度指数が170を超えた値となるものであること)が必要である。このような粘度指数が170よりも大きな値である場合、170以下の場合と比較して、潤滑油組成物の粘度-温度特性、および、摩耗防止性をより向上させることが可能となるとともに、省燃費性能をさらに向上させることが可能となる。このようなギヤ油組成物の粘度指数としては、同様の観点でより高い効果が得られることから171以上であることがより好ましい。
【0087】
また、本発明のギヤ油組成物は、-40℃におけるブルックフィールド粘度(BF粘度)が15Pa・s以下であることが好ましい。BF粘度を前記上限以下とすることで、低温流動性をより向上させることが可能となる。このようなブルックフィールド粘度(BF粘度)は、ASTM D2983に準拠して測定できる。
【0088】
本発明のギヤ油組成物を製造するための方法としては特に制限されず、前記本発明のギヤ油組成物を得ることが可能となるように(前記条件を満たすように)、含有させる各成分を適宜選択して混合することにより調製すればよい。
【0089】
本発明のギヤ油組成物の用途は特に制限されず、例えば、手動変速機(例えば自動車用手動変速機油等)、ディファレンシャルギヤ等の歯車機構用の潤滑油等の用途に好適に利用できる。また、本発明のギヤ油組成物は、例えば、自動車用手動変速機とディファレンシャルギヤの双方に用いる共通潤滑油(兼用油)等として利用することもできる。
【実施例0090】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
(各実施例等で利用した成分について)
先ず、各実施例等において利用した基油、増粘剤、極圧剤およびその他の添加剤を以下に示す。
【0092】
〔基油〕
〈基油(A1)〉
鉱油系炭化水素油[ワックス異性化基油、APIグループIII、40℃における動粘度(KV40):16.19mm/s、100℃における動粘度(KV100):3.912mm/s、粘度指数(VI):141、基油中の硫黄の含有量(基油中の硫黄分):10質量ppm未満]
〈基油(A2)〉
鉱油系炭化水素油[水素化精製基油、APIグループIII、40℃における動粘度(KV40):34.1mm/s、100℃における動粘度(KV100):6.437mm/s、粘度指数(VI):144、基油中の硫黄の含有量(基油中の硫黄分):1質量ppm未満]
〈基油(A3)〉
鉱油系炭化水素油[水素化精製基油、APIグループIII、40℃における動粘度(KV40):19.4mm/s、100℃における動粘度(KV100):4.23mm/s、粘度指数(VI):124、基油中の硫黄の含有量(基油中の硫黄分):1質量ppm未満]。
【0093】
〔ポリ(メタ)アクリレート系増粘剤〕
〈増粘剤(B1)〉
重量平均分子量(Mw)が12200のポリメタクリレート[非分散型]
〈増粘剤(B2):比較用の成分〉
重量平均分子量(Mw)が17600のポリメタクリレート[非分散型]
〈増粘剤(B3):比較用の成分〉
重量平均分子量(Mw)が13600のポリメタクリレート[非分散型]
〈増粘剤(B4):比較用の成分〉
重量平均分子量(Mw)が9610のポリメタクリレート[非分散型]。
【0094】
〔極圧剤〕
〈硫黄系極圧剤(C1-I)〉
ジブチルポリサルファイド[化合物中の硫黄の含有量:29.09質量%]
〈硫黄系極圧剤(C1-II)〉
ポリサルファイド[化合物中の硫黄の含有量:30.91質量%]
〈リン系極圧剤(C2-I)〉
ジチオリン酸アミン塩[化合物中のリンの含有量:9.87質量%、化合物中の硫黄の含有量:20.39質量%]
〈リン系極圧剤(C2-II)〉
チオフォスフェート[BASFジャパン株式会社製、商品名「IRGALUBE 353」、化合物中のリンの含有量:9.3質量%、化合物中の硫黄の含有量:19.8質量%]
〈リン系極圧剤(C2-III)〉
ジアルキルフォスファイト[化合物中のリンの含有量:7.4質量%]。
【0095】
〔その他の添加成分(添加剤)〕
〈粘度指数向上剤(D1)〉
エチレンとα-オレフィンとのコポリマー[数平均分子量(Mn):2600]
〈流動点降下剤(E1)〉
重量平均分子量(Mw)が55800のポリマー[ポリマー種:ポリメタクリレート]
〈添加剤パッケージ(F1)〉
分散剤、摩擦調整剤、および、腐食防止剤の混合物
【0096】
(実施例1~2および比較例1~16)
表1~2に示す組成となるように、前述の各成分を利用して、実施例1~2および比較例1~16のギヤ油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1~2中の「ギヤ油組成物の組成」の項目に関して「-」はその成分を利用していないことを示す。また、表1~2中の「ギヤ油組成物の組成」の項目において、「mass%」は基油組成物(混合基油)の全量に対する質量基準の基油の含有量(質量%)を表し、「inmass%」はギヤ油組成物の全量に対する質量基準の含有量(質量%)を表す。さらに、表1~2中に示す「ギヤ油組成物中の各元素の含有量」の項目中の各含有量は、ASTM D4951に準拠して測定した値である。また、表1~2中に示す「極圧剤由来の硫黄及びリンの含有量」の項目中の各含有量は、配合量から計算して求めた値である。
【0097】
[各実施例等で得られたギヤ油組成物の特性の評価方法について]
<ギヤ油組成物の動粘度および粘度指数の測定>
各実施例等で得られたギヤ油組成物について、40℃における動粘度、100℃における動粘度、および、粘度指数をそれぞれ、JIS K2283-2000に準拠して測定した。表1~2に測定結果を示す。なお、本明細書においては、40℃における動粘度が36.0mm/s以下でありかつ100℃における動粘度が8.0mm/s以下であるという条件(低粘度の条件)を満たすものを、低粘度のギヤ油組成物と評価する。表1~2に低粘度の条件に適合するか否かについての項目を設け、前述の低粘度の条件を満たすもの(低粘度のもの)を「適合」と表記し、前記条件を満たさないものを「不適合」と表記する。なお、ギヤ油組成物においては、特に省燃費性の観点から低粘度であることが求められるため、前記低粘度の条件を満たす場合(適合の場合)には、省燃費性の観点でより高い効果が得られるものと評価することができる。
【0098】
<ギヤ油組成物のブルックフィールド粘度(BF粘度)の測定>
各実施例等で得られたギヤ油組成物の-40℃におけるBF粘度を、ASTM D2983に準拠して、測定装置としてブルックフィールド粘度用恒温槽/ブルックフィールド粘度計を用いて、温度:-40℃の条件で測定した。得られた結果を表1~2に示す。なお、BF粘度の値が15Pa・s以下となる場合には、低温での流動性が高い水準にあると評価できる。
【0099】
<ギヤ油組成物の耐焼き付き性の評価試験>
ASTM D 2174に準拠したブロックオンリング試験機(LFW-1)を用いて、ブロック状の試験片(Falex H-60 Test Block、SAE01 Steel:以下、単に「ブロック」と称する)と、リング状の試験片(Falex S-10 Test Ring、SAE4620 Steel:以下、単に「リング」と称する)が、線接触(ブロックオンリング)の接触形態となるようにして、先ず、油浴槽にギヤ油組成物を供給して、油浴槽中のギヤ油組成物にリングが接触する状態(リングの半分程度が油浴に浸る状態)で、油温:室温(25℃程度)、すべり速度1m/s、リングとブロックの間の接触面の面圧(荷重):0GPa(無負荷)の条件(慣らし条件)で慣らし運転を1分間行って、無負荷でギヤ油組成物をリングの表面及びリングに対するブロックの接触面に行き渡らせた後、ドレンコックを開いて油浴槽からギヤ油組成物を全て抜き出すことにより貧潤滑状態(慣らし運転で行き渡らせたギヤ油組成物以外、ギヤ油組成物が補充されない状態)とし、次いで、ギヤ油組成物の油温を試験中の成り行きに任せて、すべり速度2.5m/s、リングとブロックの間の接触面の面圧(荷重):0.25GPaの条件でブロックオンリング試験機の運転(試験)を行い、焼き付きが起こるまでの時間(焼き付き時間)を求めた。なお、焼き付きが起こるとブロックオンリング試験機で測定できる摩擦係数μや振動が上昇するため、本試験においては、前述の慣らし運転後、上記運転(試験)を開始してから、摩擦係数μの上昇が起こるまでの経過時間を「焼き付き時間」として求めた。得られた結果を表1~2に示す。なお、焼き付き時間が2000秒以上のものは耐焼き付き性に優れたものであると評価できる。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1~2に示した結果から明らかなように、先ず、実施例1~2においては、ギヤ油組成物に利用する基油組成物が100℃における動粘度が3.5~4.5mm/sでありかつ粘度指数が140以上であるという条件を満たす基油(A1)を50質量%以上含有するものとなっており、その基油組成物は、40℃における動粘度が20~23mm/sであり、100℃における動粘度が4.5~5.0mm/sであり、かつ、粘度指数が140以上であるという条件を満たすものとなっている。そして、実施例1~2で得られたギヤ油組成物は、重量平均分子量が12200のポリ(メタ)アクリレートからなる増粘剤をギヤ油組成物の全量を基準として2~3質量%含有している。更に、実施例1~2で得られたギヤ油組成物は、ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量は2.04質量%であり、ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量は1500質量ppmである。また、実施例1~2で得られたギヤ油組成物は、100℃における動粘度が6.0~8.0mm/sの範囲にありかつ粘度指数が170よりも大きな値を示すものとなっていた。このような特性を有する実施例1~2で得られたギヤ油組成物は、前記低粘度の条件を満たすもの(低粘度の条件に適合したもの)であってかつ耐焼き付き性が高いものとなった。このように、実施例1~2で得られたギヤ油組成物は、低粘度でかつ耐焼き付き性に優れたギヤ油組成物であることが確認された。なお、実施例1~2で得られたギヤ油組成物は、BF粘度の値が15Pa・s以下となっており、低温での流動性も高い水準にあることも分かった。
【0103】
一方、増粘剤として重量平均分子量が12200のポリメタクリレートを利用しているものの、かかるポリメタクリレートの含有量がギヤ油組成物の全量を基準として2~3質量%の範囲外となっている比較例1~2で得られたギヤ油組成物においては、前記低粘度の条件を満たすものとはなったが、耐焼き付き性が十分なものとはならなかった。
【0104】
また、重量平均分子量が12200のポリメタクリレートの代わりに、重量平均分子量が11000~13000の範囲に無いポリメタクリレートを増粘剤として利用した、比較例3~5及び比較例14で得られたギヤ油組成物は、前記低粘度の条件を満たすものとはなったが、耐焼き付き性が十分なものとはならず、低粘度と、優れた耐焼き付き性とを両立することができなかった。
【0105】
また、ギヤ油組成物の粘度指数が170以下となっている比較例6~8で得られたギヤ油組成物も、前記低粘度の条件を満たすものとはなったが、耐焼き付き性が十分なものとはならず、低粘度と、優れた耐焼き付き性とを両立することができなかった。
【0106】
さらに、粘度指数が140未満となっている基油(A3)を基油組成物の全量を基準として50質量%以上含有した基油組成物を利用しており、かつ、かかる基油組成物の40℃における動粘度が23mm/sを超えた値となっている比較例9で得られたギヤ油組成物は、優れた耐焼き付き性を有するものとはなったが、前記低粘度の条件を満たさないものとなり、低粘度化を十分に図ることができなかった。
【0107】
また、ギヤ油組成物の全量を基準とした硫黄の含有量が2.0~2.2質量%の範囲外となっている比較例10~11で得られたギヤ油組成物、並びに、ギヤ油組成物の全量を基準としたリンの含有量が1400~1700質量ppmの範囲外となっている比較例12~13で得られたギヤ油組成物は、耐焼き付き性が低いものとなった。
【0108】
また、基油組成物の代わりに、基油(A1)を単独で利用した比較例15で得られたギヤ油組成物も、耐焼き付き性の低いものとなった。なお、比較例15で得られたギヤ油組成物は、ギヤ油組成物の100℃における動粘度が6.0mm/s未満となっており、低粘度ではあるものの、粘度が低くなり過ぎたことに起因して耐焼き付き性を高度なものとすることができなかったものと考えられる。
【0109】
また、基油組成物の代わりに、基油(A2)を単独で利用した比較例16で得られたギヤ油組成物は、優れた耐焼き付き性を有するものとはなったが、前記低粘度の条件を満たすものとはならず、低粘度と、優れた耐焼き付き性とを両立することができなかった。
【0110】
このような表1~2に示す実施例1~2及び比較例1~16で得られたギヤ油組成物の特性から、本発明によれば、40℃および100℃における動粘度を基準として、動粘度を低粘度とすることができるとともに、耐焼き付き性能に優れたギヤ油組成物を得ることができることが分かった。このような結果から、本発明によれば、ギヤ油組成物を、低粘度で省燃費性能の高いものとしながら、耐焼き付き性能にも優れたものとできることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上説明したように、本発明によれば、40℃および100℃における動粘度を基準として動粘度を低粘度とすることが可能でありながら、優れた耐焼き付き性能を有するものとすることが可能なギヤ油組成物を提供することが可能となる。このような本発明のギヤ油組成物は、例えば、手動変速機(例えば自動車用手動変速機油等)、ディファレンシャルギヤ等の歯車機構用の潤滑油等として有用である。