(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134069
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】グルテンフリーパンの製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 13/066 20170101AFI20240926BHJP
A21D 13/047 20170101ALI20240926BHJP
A21D 13/045 20170101ALI20240926BHJP
【FI】
A21D13/066
A21D13/047
A21D13/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044167
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】進藤 佑理
(72)【発明者】
【氏名】東村 徹
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 昌伸
(72)【発明者】
【氏名】円谷 恭子
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG08
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK16
4B032DK18
4B032DK29
4B032DK33
4B032DK55
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】ボリューム、風味、食感いずれも良好なグルテンフリーパンを提供すること。
【解決手段】蛋白質、油脂、澱粉及び水分を含み、蛋白質含有素材として、全脂大豆からの水抽出物であって炭水化物に対する蛋白質の重量比が100~200%である大豆抽出物を含む、pH7.0以下の水中油型乳化組成物を用いる。グルテンを含有せずにボリューム、風味、食感いずれにおいても優れたパン類、特に米粉パンが製造できる。小麦粉やグルテンの配合量を減らした一部代替用途においても好適に用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)~(iii) をすべて満たす水中油型乳化組成物を配合することを特徴とする、グルテンを含有しないパン類の製造方法。
(i)蛋白質、油脂、澱粉及び水分を含む
(ii)蛋白質含有素材として、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の重量比が100~200%である大豆抽出物を含む
(iii)pH7.0以下である
【請求項2】
穀粉類の少なくとも一部として米原料を配合する、請求項1に記載のパン類の製造方法。
【請求項3】
穀粉類100重量部に対し、請求項1に記載の水中油型乳化組成物を5~60重量部配合する、請求項1または2に記載のパン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグルテンを含有しないパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーや健康上の理由から、小麦粉やグルテンを配合(含有)しない食品の提供が求められている。また日本では小麦粉はその大部分を輸入に依存していることから、気候変動や政情などの理由により供給が不安定になる場合があり、小麦粉代替技術の重要性が増している。
【0003】
パンは小麦粉を用いた代表的な食品であるが、パンにおける小麦粉の代替としては米粉が多く用いられている。米粉を用いたパン、いわゆる米粉パンはしっとり、もっちりした食感を有し、日本人の嗜好にもなじみやすい。また、米粉はほとんどが国内産で供給が安定している利点があり、米粉パンの普及による食料自給率向上への寄与も期待されている(非特許文献1)。
しかし米の澱粉は老化しやすいため、パンに配合した場合は経時的にボソボソした、ざらついた食感になりやすいという課題がある。さらに米粉はプレーンな食味のため、パンの風味としてはあっさりして物足りなく感じられてしまう場合がある。
【0004】
一方、グルテンはパンの骨格を形成しているため、グルテンを配合しない(グルテンフリー、ノングルテン)、ないしは配合量を減らしたパンでは、ボリュームが不足する、形状が崩れる、気泡が不均一になる、などの課題がある。またグルテン骨格には焼成後のパン中の水分を保持する役割もあるため、グルテンフリーパンでは経時的な水分の損失や、それに伴う食感の変化が起こりやすい。
グルテンフリーパンの骨格を補助する目的においては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)に代表される増粘多糖類が広く用いられている(特許文献1、2)。
【0005】
グルテンフリーパンには大豆原料を用いた技術も検討されている。特許文献3は大豆粉、澱粉、こうじ粉末、砂糖、米粉、品質安定剤を含有する大豆粉パン用ミックス粉を、特許文献4は米粉、サイリウム、大豆粉を含有するミックス粉を、それぞれ開示している。
【0006】
特許文献5は、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の重量比が100~200質量%である大豆抽出物を含む、パン生地練り込み用水中油型乳化油脂組成物に関する発明である。この水中油型乳化油脂組成物を小麦粉やグルテンを含有する一般的なパンに用いることで、しっとり、もっちりとした歯切れの良い食感が得られることを開示している。
【0007】
特許文献6は、総蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合がLCI値として40%以下である大豆蛋白素材の乳酸発酵物を含有する、製パン用乳化油脂組成物に関する発明であり、小麦粉やグルテンを含有する一般的なパンにおけるソフトな食感の付与と、その維持効果を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-126311号公報
【特許文献2】特開2010-022313号公報
【特許文献3】特開2017-112902号公報
【特許文献4】特開2019-24347号公報
【特許文献5】特開2018-170967号公報
【特許文献6】特開2014-113088号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「米粉利用の現状と課題 米粉パンについて」與座宏一、日本食品科学工学会誌、55、444-454(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、品質良好なグルテンフリーパンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
特許文献1~4は、ボリューム、風味、食感いずれも良好なグルテンフリーパンを製造する技術としては満足のいくものではなかった。
特許文献5、6はグルテンフリーパンにおける効果、特にボリュームへの効果の有無は開示も示唆もされていない。
【0012】
本発明者らは本課題について鋭意検討し、特定組成の大豆蛋白質、油脂、澱粉及び水分を含み、pH7.0以下の水中油型乳化組成物を配合することで、グルテンを含有せずにボリューム、風味、食感いずれにおいても優れたパン類、特に米粉パンが製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち本発明は
1.下記(i)~(iii) をすべて満たす水中油型乳化組成物を配合することを特徴とする、グルテンを含有しないパン類の製造方法。
(i)蛋白質、油脂、澱粉及び水分を含む
(ii)蛋白質含有素材として、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の重量比が100~200%である大豆抽出物を含む
(iii)pH7.0以下である
2.穀粉類の少なくとも一部として米原料を配合する、1に記載のパン類の製造方法。
3.穀粉類100重量部に対し、1に記載の水中油型乳化組成物を5~60重量部配合する、1または2に記載のパン類の製造方法、である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通常の練り込み油脂と同様に配合するという簡易な手段により、品質良好なグルテンフリーパンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
(グルテンフリーパン)
本発明においてグルテンフリーパン、ないしはグルテンを含有しないパン類とは、グルテンを含有する小麦粉、及び補助原材料としてのグルテン(活性グルテン)をいずれも配合せずに製造されるパン類を指す。なお、本発明はグルテンを全く配合せずに品質良好なパン類が製造可能な技術を開示しているが、言うまでもなく、小麦粉やグルテンの配合量を減らした一部代替、部分置換の用途においてもその効果を発揮し、好適に用いることができる。
具体的には例えば穀粉類100重量部中、小麦粉が80重量部以下、小麦粉以外が20重量部以上である配合が例示される。より好ましくは小麦粉が70重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下、最も好ましくは30重量部以下である配合が例示できる。
【0017】
(パン類)
本発明が適用できるパンの種類としては特に制限はなく、穀粉類に水、油脂類、糖類、澱粉類、調味料、卵、乳製品、イースト、イーストフード、酵素類、乳化剤、フレーバー等の原料を必要に応じて添加し、混捏工程を経て得られた生地を、発酵、分割、成形、ホイロなどの工程を経て焼成加熱し得られるものを指し、食パン、菓子パン、テーブルロール、デニッシュペストリー、ピザ、ナンなどが挙げられる。
なおパン類は一般に小麦粉や米粉など、穀類の粉(穀粉)を主原料とするが、本発明においては穀類以外、たとえば豆類、ナッツ類の粉や、各種食物繊維類などを用いる場合であっても、小麦粉の一部ないしは全部の代替として配合される原材料を「穀粉類」と称する。
【0018】
小麦粉の全部ないしは一部代替として配合する穀粉類には特に制限はなく、米粉、玄米粉、大豆粉、脱脂大豆粉、コーンフラワー、キャッサバ粉、そば粉、アーモンド粉末、ココナツ粉末、各種澱粉、加工澱粉、食物繊維類などに例示される原材料から選ばれる単独、あるいは複数種類を適宜選択、組み合わせて用いることができる。
本発明の技術は米原料、特に米粉を使用したパン(米粉パン)において好適に用いられる。配合される穀粉類のうち50重量%以上が米原料であることが好ましい。より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上が米原料であることが望ましい。米粉の種類や粒子径などには特に制限はなく、パン用として用いられる公知の原材料から適宜選択し配合することができる。なお、米原料を用いた他の態様としては、熱処理によりα化した米を配合する方法などが例示されるが、米粉を用いる方法が汎用的であり、好ましい。
【0019】
(水中油型乳化組成物)
本発明のパンには蛋白質、油脂、澱粉及び水分を含む水中油型乳化組成物を配合する。蛋白質の原料となる素材としては次項に説明する大豆抽出物を用いる。
【0020】
(大豆抽出物)
本発明の水中油型乳化組成物には、蛋白質含有素材として、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物に対する蛋白質の重量比が100~200%である大豆抽出物を用いる。好ましくは120~200%、より好ましくは130~190%、さらに好ましくは140~180%である。かかる大豆抽出物の一形態としては低脂肪豆乳が例示できる。これは固形分中の脂質含量と炭水化物に対する蛋白質の重量比(以下、P/C含量と表記する場合がある)が上記範囲となるものである。低脂肪豆乳を得るには、スラリー(大豆粉砕液)や全脂豆乳から高速遠心分離等により脂質を分離する方法や、該スラリーからオカラを分離する際に脂質をオカラ側に移行させる方法を用いることができる。より好ましい態様として、予め加熱処理された全脂大豆、好ましくはNSI(水溶性窒素指数)15~77、より好ましくは40~70の全脂大豆を原料とすることによって、さらに本発明の効果を向上させることができる。この方法は例えば特開2012-16348号公報に記載の方法を参照することができる。
【0021】
本発明の水中油型乳化組成物には、前述した大豆抽出物由来の蛋白質を1重量%以上8重量%以下含有することが望ましく、より好ましくは1.5~5重量%、さらに好ましくは1.5~4重量%である。
【0022】
(油脂)
本発明の水中油型乳化組成物は油脂を含む。油脂は食用として用いられているものであれば植物性油脂、動物性油脂の何れでもよく、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂、又はこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
配合量は水中油型乳化組成物中10重量%以上40重量%以下が好ましく、より好ましくは15~35重量%、さらに好ましくは20~30重量%である。この範囲外では乳化が不安定になったり、パン生地への練り込みに適した物性が得られにくくなったりする場合がある。
【0023】
(澱粉)
本発明の水中油型乳化組成物は澱粉を含む。食用として用いられているものであれば何れでもよく、例えば馬鈴薯澱粉、米澱粉、モチ米澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等の生澱粉や、これらに架橋処理、α化処理、エーテル化処理、エステル化処理、分解処理等の処理が施された加工澱粉等が挙げられる。配合量は水中油型乳化組成物中0.5重量%以上10重量%以下が好ましく、より好ましくは2~8重量%である。配合量がこれ未満ではパン練り込みに適した可塑性が維持されにくかったり、食感改良効果が十分でなかったりする場合がある。これより多いとパンの食感が損なわれてしまう場合がある。
【0024】
(水分)
本発明の水中油型乳化組成物に用いる水分としては、飲用に適するものであれば特に限定されず、水道水、蒸留水、イオン交換水、ミネラルウォーター等を何れも用いることができる。本発明の水中油型乳化組成物の水分含量は、他原料中に由来する水分も含め40~80重量%が好ましく、より好ましくは50~70重量%である。これより多い、又は少ないと乳化が不安定になったり、パン生地への練り込みに適した物性が維持されにくくなったりする場合がある。
【0025】
(水中油型乳化組成物のpH)
本発明の水中油型乳化組成物のpHは7.0以下であることを特徴とする。より好ましくはpH3.5以上6.5以下、より好ましくはpH4.0~6.5、さらに好ましくはpH4.5~6.5、最も好ましくはpH5.0~6.0である。水中油型乳化組成物の原料混合後のpH又は乳酸発酵物の発酵停止時のpHにより、酸あるいはアルカリ剤を添加し、目的とするpHに適宜調整することが好ましい。
pH調整に用いる酸としては食用として用いられているものであれば無機酸、有機酸の何れでもよく、例えば、リン酸等の無機酸や、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、グルコン酸等の有機酸が挙げられ、これらを単独ないしは2種以上を組合せて用いることもできる。また、微生物発酵により酸性化を行ってもよい。用いる微生物は、酸を産生する微生物であればよく、例えば乳酸菌、酢酸菌などが挙げられる。該発酵と酸の添加を併用することもできる。
【0026】
(発酵)
本発明の水中油型乳化組成物においては、少なくとも蛋白質を含む原料の一部又は全部を発酵させることができる。特に蛋白質を含む原料が乳酸発酵されていることが好ましい。乳酸発酵を経た水中油型乳化組成物を用いることで、パン類に更に良好な風味を付与することができる。蛋白質以外の油脂、澱粉や他の原料は、乳化物の状態で同時に乳酸発酵されていてもよい。乳酸発酵に使用される乳酸菌は特に限定されず、通常の発酵乳に使用する一般的な乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス、ストレプコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベチカス、ラクトバチルス・ラクチス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・サンフランシスコ、ラクトバチルス・パネックス、ラクトバチルス・コモエンシス、ラクトバチルス・カルバタス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ヒルガルディ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ルテリ、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・ジアセチルラクチス、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・クレモリス、ビフィドバクテリム属等の単独または混合物を適宜使用することができる。
【0027】
(可塑性)
本発明の水中油型乳化組成物は、その性状が可塑性を有することが望ましい。さらに、5℃におけるレオメーター測定値による硬さが150~500g/19.6mm2(直径30mm円形プランジャー、テーブルスピード50mm/分)、より好ましくは180~450g/19.6mm2、最も好ましくは200~400g/19.6mm2であることが望ましい。この範囲の硬さを有する可塑性の水中油型乳化組成物は、均一にパン生地に練り込みやすい物性を備える。
【0028】
(他原料)
本発明の水中油型乳化組成物中には、上記の他にもゲル化剤、安定剤、乳化剤、多糖類、食物繊維、糖類、甘味料、塩類、該大豆抽出物以外の蛋白質含有素材等、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜添加することができる。
【0029】
(水中油型乳化組成物の製造)
本発明の水中油型乳化組成物の製造方法には特に制限はなく、例えば全原料を混合、乳化して得た原料液に、酸を添加、または酸を産生する微生物で発酵することにより製造することができる。酸の添加、または酸を産生する微生物発酵の前後には、必要により加熱殺菌を行うこともできる。
【0030】
本発明の水中油型乳化組成物のパン生地への添加混合は常法に従えばよく、工程中において通常の練り込み用の油脂と同様に使用することができる。具体的には工程の前半から主原料と同時に混合してもよく、またはミキシングの後半に油脂と同時、あるいは油脂の混合の後でも添加できる。配合量のすべてを一度に加えても、数回に分けて加えてもよい。
配合量は穀粉類100重量部に対し5重量部以上60重量部以下、より好ましくは10~50重量部である。これより少ないと本発明の効果が得られにくく、これより多いと生地がまとまりにくくなる場合がある。
【0031】
(HPMC)
本発明のパン配合においては、グルテンに代わってパン類の骨格形成を補助するため、公知の増粘多糖類を使用することが望ましい。特にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が好ましい。HPMCは市販品を適宜選択することができる。配合量は適宜調整することができるが、穀粉類100重量部に対して0.5~3重量部が好ましい。また、本発明により、HPMCのみを配合した場合よりもさらにボリュームを向上させることができる。
【0032】
(オオバコ粉末)
本発明のパン配合においては、オオバコ粉末(サイリウム、サイリウムハスク)を用いることが好ましい。これにより生地のまとまり、成形性などが向上し、作業性が改良される。オオバコ粉末は市販品を適宜選択し使用することができる。配合量は適宜調整することができるが、穀粉類100重量部に対して0.5~3重量部が好ましい。
【0033】
(実施例)
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中の「部」および「%」は特に断りのない限り重量基準を意味する。
【0034】
(水中油型乳化組成物(1)の製造)
菜種硬化油20部を60℃に加温し、水20部、低脂肪豆乳(商品名:美味投入(R)、不二製油(株)製)50部を混合し50℃に加温した。糖類5部、デキストリン5部を混合し、50℃で加熱攪拌し予備乳化の後、2MPaの圧力にてホモゲナイザーで均質化し、70~80℃で殺菌後24℃まで冷却した。
続いて該乳化液に対してラクトバチルス・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスを混合した乳酸菌スターターを0.01%添加し37~40℃で約5時間発酵させた。発酵液のpHは4.5であった。得られた発酵液80部に対して菜種硬化油10部、澱粉5部、さらに水を加えて100部とし、50℃で撹拌しながらアルカリでpH5.5に調整後、80~90℃で加熱撹拌して殺菌し、次いで2MPaの圧力にてホモゲナイザーで均質化し、冷却して本発明の「水中油型乳化組成物(1)」を得た。
該組成物の組成を、後述する他の組成物とともに表1に示した。硬さの測定はレオメーターを使用し、直径30mm円形プランジャー、テーブルスピード50mm/分の条件で行った。なお、本実施例で用いた低脂肪豆乳はNSIが20~77の範囲となるように加熱処理された全脂大豆からの抽出物であり、特開2012-16348号公報に記載の方法で製造された。
【0035】
(水中油型乳化組成物(2)の製造)
菜種硬化油26部を60℃に加温し、水24部、低脂肪豆乳(商品名:美味投入(R)、不二製油(株)製)40部を混合し50℃に加温した。糖類5部、澱粉5部を混合し、50℃で撹拌しながら乳酸でpH5.5に調整後、80~90℃で加熱撹拌して殺菌し、次いで4MPaの圧力にてホモゲナイザーで均質化し、冷却して本発明の「水中油型乳化組成物(2)」を得た。
【0036】
(水中油型乳化組成物(3)の製造)
水中油型乳化組成物(2)の配合中、低脂肪豆乳を市販の無調整豆乳42部に、水を22部に代え、他は同様に製造した。
【0037】
(水中油型乳化組成物(4)の製造)
水中油型乳化組成物(2)の配合中、低脂肪豆乳を市販の低脂肪牛乳55部、水を9部に代え、他は同様に製造した。
【0038】
【0039】
(パン生地の製造)
表2の配合及び表3の製造条件に従い、常法によりパン生地(ソフトフランス生地)を製造した。生地はフランスパン形状、及び食パン形状にそれぞれ成形し、ホイロ後に焼成した。なお、製造中の生地作業性にはいずれも問題なかった。
【0040】
【0041】
【0042】
(比容積)
焼成当日(放冷後)、フランスパンを用いて常法により比容積を計測、算出した。各サンプルについて6回計測した平均値を表4に記載した。
【0043】
【0044】
実施例1、2はコントロールよりも比容積が向上した(いずれも有意差あり)。
比較例1も向上しているが、実施例1、2よりもその差は小さかった。一方、比較例2はコントロールよりも比容積が著しく低下し、見た目も詰まって好ましくない外観であった。
【0045】
(官能評価)
焼成当日(放冷後)および翌日(常温保管)、熟練したパネラー5名による風味、食感の官能評価を実施した。評価は以下の基準とし、合議にて決定した。すべての項目で評点3以上を合格とした。
【0046】
(風味評価基準)
5:好ましい風味を有し、特に良好
4:良好
3:概ね良好(商品価値を有するレベル)
2:風味が薄く、物足りない and/or 若干の異風味あり
1:風味がかなり薄く、物足りない and/or 明確な異風味あり
【0047】
(食感評価基準)
5:しっとり感あり、特に良好
4:良好
3:若干のざらつき、パサつきあるが概ね良好(商品価値を有するレベル)
2:ざらつき、パサつきあり
1:顕著なざらつき、パサつきあり
【0048】
(官能評価結果)
表5に評価の一覧を示した。
低脂肪豆乳を用いて製造した水中油型乳化組成物(1)、(2)を用いることで(実施例1、2)、米粉のみの配合の物足りなさを補う、好ましい風味が付与された。さらに、老化に伴う食感の劣化も明確に抑制されていた。
【0049】
【0050】
(水中油型乳化組成物の配合量の検討)
表2、実施例1の配合において、水中油型乳化組成物(1)を40部とし、同様にパンを製造、評価した。生地作業性、焼成後のボリュームともに問題なく良好であった。
また、焼成当日および翌日の風味、食感ともに良好であり、実施例1と同等ないしはそれ以上であると評価された。