(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134075
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】腹部圧迫体
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20240926BHJP
A61B 6/04 20060101ALI20240926BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G01T1/161 B
A61B6/04 309A
A61B6/04 303
A61B6/03 323Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044178
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】322005219
【氏名又は名称】PDRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 肇
(72)【発明者】
【氏名】島田 秀樹
【テーマコード(参考)】
4C093
4C188
【Fターム(参考)】
4C093AA21
4C093AA22
4C093CA13
4C093DA02
4C093ED17
4C093ED22
4C093ED24
4C188EE02
4C188FF04
4C188JJ25
(57)【要約】
【課題】医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に、胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制することによって、臓器又は照射部位の位置ずれを簡易に防止することができる方法の提供。
【解決手段】被験者の腹部を圧迫して胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制するための腹部圧迫体であって、
被験者の腹部前面に接する腹部圧迫面と、
前記腹部圧迫面に対面するベルト掛け面とを有する立体形状からなることを特徴とする腹部圧迫体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の腹部を圧迫して胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制するための腹部圧迫体であって、
被験者の腹部前面に接する腹部圧迫面と、
前記腹部圧迫面に対面するベルト掛け面とを有する立体形状からなることを特徴とする腹部圧迫体。
【請求項2】
前記被験者の体の中心ライン上に接する腹部圧迫面とベルト掛け面との間の厚みが8~16cmである請求項1記載の腹部圧迫体。
【請求項3】
前記腹部圧迫面とベルト掛け面が、外側に向かって凸形状面をなしている請求項1記載の腹部圧迫体。
【請求項4】
前記腹部圧迫面とベルト掛け面との間に、厚さ可変機構を有する部材を有する請求項1記載の腹部圧迫体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の腹部圧迫体と、当該腹部圧迫体を被験者に固定するための固定用ベルトとを含む医用画像の撮影用又は放射線の外部照射用セット。
【請求項6】
医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に、請求項1~4のいずれか1項記載の腹部圧迫体を用いて被験者の腹部を圧迫する方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項記載の腹部圧迫体を用いて被験者の医用画像を撮影する方法。
【請求項8】
医用画像が心筋SPECT画像である請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記腹部圧迫体とベルトとの間に、体積調整可能なバルーンを挟む請求項7記載の方法。
【請求項10】
被験者の胸部及び/又は腹部臓器を含む医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に使用するための腹部圧迫体であって、
被験者の腹部前面に接する腹部圧迫面と、
前記腹部圧迫面に対面するベルト掛け面とを有する立体形状からなることを特徴とする腹部圧迫体。
【請求項11】
前記被験者の体の中心ライン上に接する腹部圧迫面とベルト掛け面との間の厚みが8~16cmである請求項10記載の腹部圧迫体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の胸部及び/又は腹部を撮像対象とする画像検査や外部照射でのがん治療等の際に、胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制することによって、臓器又は照射部位の位置ずれを防止することができる腹部圧迫体に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の医学において画像診断が担う役割は大きく、診断装置の発展は目まぐるしく、1つの検査において多くの情報が提供されている。例えば、CT(コンピューター断層撮影)検査では広範囲での多時相撮影、MRI(磁気共鳴映像法)検査では多数のシーケンス撮影、SPECT(単一フォトン放射断層撮影装置)検査やPET(陽電子放射断層撮影)検査においてはCT検査やMRI検査との融合画像等多岐にわたる。
これらの撮影において正確な診断を行うためには、撮像中の被験者の臓器の呼吸性移動によるアーチファクトを少なくすることが求められる。撮影時間の短縮や被験者の協力にも限界があり、特に高齢者や核医学検査等、検査時間が長くなるほど、臓器の呼吸性移動による影響は大きい。
【0003】
従来、PET/CT検査では、呼吸停止下での撮像(非特許文献1)や呼吸同期撮像が行われている(非特許文献2及び3)。しかしながら、前者は、撮像時間の大幅な延長や長時間の呼吸停止による患者の負担の増加につながる。また、後者は、画像ノイズの増大により、現実的な臨床利用はあまりされていない。
【0004】
多時相撮影や融合画像に限らず、心筋SPECT検査においては肝臓や胃等の心筋以外の集積や心筋自体が呼吸性移動によって強いアーチファクトの発生原因となり、診断に影響しかねない症例と日常的に遭遇する。これらの対策として、例えば、腹部ベルト(非特許文献4)やマスク処理等が報告されているが、根本的な解決に至っていない。
【0005】
また、放射線を体の外部から照射してがんの治療を行う外部照射においても臓器の呼吸性移動による照射部位の位置ずれは問題となる。本来、照射野は標的(病巣)にしぼるべきだが、標的の呼吸性移動を考慮し照射野を広くすると正常組織へもダメージを与えてしまう。
これらの課題を解決する技術開発は行われており一定の成果はあるものの、簡易かつ低コストに実現可能な状況とはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Nuclear Medicine. 2007;48(5):712-9
【非特許文献2】Translational Oncology. 2015;8(6):524-34
【非特許文献3】Journal of Nuclear Cardiology. 2022;29(5):2423-33
【非特許文献4】Journal of Nuclear Cardiology. 2018;25(2):407-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に、胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制することによって、臓器又は照射部位の位置ずれを簡易に防止することができる方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に、立体形状物により被験者の腹部前面全体を圧迫して胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制すれば、極めて良い結果が得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の1)~5)に係るものである。
1)被験者の腹部を圧迫して胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制するための腹部圧迫体であって、
被験者の腹部前面に接する腹部圧迫面と、
前記腹部圧迫面に対面するベルト掛け面とを有する立体形状からなることを特徴とする腹部圧迫体。
2)1)記載の腹部圧迫体と、当該腹部圧迫体を被験者に固定するための固定用ベルトとを含む医用画像の撮影用又は放射線の外部照射用セット。
3)医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に1)記載の腹部圧迫体を用いて被験者の腹部を圧迫する方法。
4)1)記載の腹部圧迫体を用いて被験者の医用画像を撮影する方法。
5)被験者の胸部及び/又は腹部臓器を含む医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に使用するための腹部圧迫体であって、
被験者の腹部前面に接する腹部圧迫面と、
前記腹部圧迫面に対面するベルト掛け面とを有する立体形状からなることを特徴とする腹部圧迫体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の立体形状の腹部圧迫体を用いれば、被験者の腹部前面全体を均一に圧迫することができるので、被験者の呼吸による横隔膜の上下運動を抑制し、呼吸を浅くすることができ、胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制することができる。その結果、医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に、臓器又は照射部位の位置ずれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明第1の実施の形態に係る腹部圧迫体の斜視図。
【
図2】本発明第1の実施の形態に係る腹部圧迫体の(a)正面図、(b)右側面図、(c)平面図
【
図3】本発明第1の実施の形態に係る腹部圧迫体の(d)背面図、(e)左側面図、(f)底面図。
【
図4】本発明第2の実施の形態に係る腹部圧迫体の側面図。
【
図5】本発明腹部圧迫体の使用状態を示す概略斜視説明図。
【
図6】シネ表示で心臓の動きの距離を測定した方法を示す。
【
図7】ダイナミックスキャン中の心臓の動きの距離をITKの有無で比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
【0013】
まず、
図1~
図3を用いて本発明の第1の実施の形態に係る腹部圧迫体について説明する。
図1において、10は被験者の腹部を圧迫して胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制するための腹部圧迫体で、被験者の腹部前面に接する腹部圧迫面11と、当該腹部圧迫面11に対面するベルト掛け面12とを有する立体形状からなる。
腹部圧迫面11とベルト掛け面12は、平面であってもよいが、
図1、
図2(c)及び
図3(f)に示したように、外側に向かって凸形状面であることが好ましい。腹部圧迫面11を外側に向かって緩やかな凸形状面とすることで、被験者の腹部中央に集まる臓器を効果的に圧迫することができる。また、ベルト掛け面12を外側に向かって緩やかな凸形状面とすることで、当該面12に掛けるベルトの掛かりが面全体に分散されるので、腹部圧迫体を被験者に安定に保持固定することができる。
【0014】
腹部圧迫面11とベルト掛け面12の大きさは、被験者の腹部を圧迫して胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制することができれば特に限定されないが、腹部圧迫面11を腹部前面全体に接する大きさとするのが、均一に圧迫する上で望ましい。また、腹部圧迫面11とベルト掛け面12は面対称であることが、腹部圧迫体を被験者に安定に保持固定することができるのでより望ましい。
尚、本明細書において、腹部は、胸郭の肋骨下部から腸骨上部に囲まれる領域である。
【0015】
図1に示したように、この実施の形態では、腹部圧迫体10は四角柱形状であり、上部が被験者の胸骨下部と腹部の境界の凹形状に対応する凸形状13をなし、かつ上部中央からそれぞれ左右外側に向かっては、左右の肋骨下部に対応する傾斜面14を有している。この凸形状13と傾斜面14は、腹部圧迫体により被験者の腹部を圧迫する位置を決める際のガイドの役割を果たす。すなわち、腹部圧迫面11の凸形状13部分を、被験者の胸骨下部と腹部の境界の凹形状にフィットさせ、また、腹部圧迫面11の傾斜面14部分を、被験者の左右の肋骨下部にフィットさせることにより、腹部圧迫体を腹部前面上に容易に配置することができる。
当該凸形状13と傾斜面14はそれぞれ単独で機能を発揮できるが、両方を有することが、腹部圧迫体の位置決めを容易にする上で望ましい。
【0016】
本発明において、腹部圧迫体の立体形状としては、四角柱等の角柱形状の他、球形状、円柱形状、楕円柱形状、円錐台形状、角錐台形状等任意に選択することができるが、角柱形状のものが、腹部前面全体を均一に圧迫する上で望ましい。
【0017】
腹部圧迫体10は、ベルトで固定する際、被験者の腹部前面全体に均一に力をかけるために、腹部圧迫面11とベルト掛け面12との間に厚みを有することが好ましい。より具体的には、被験者の体の中心ライン上に接する腹部圧迫面とベルト掛け面との間の厚みは、8~16cm、更に9~14cm、特に10~12cmとするのが好ましい。
腹部圧迫面11とベルト掛け面12との間の厚みを上述の範囲とすると、特に心臓SPECT検査において次の効果も期待できる。すなわち、心臓のSPECT検査では、被験者の胸部及び腹部回りにカメラを接近・回転させて3次元像を作成するが、このとき心臓をカメラの回転の中心に位置させて撮影すると高精度の画像が得られる。そこで、腹部圧迫体により被験者の腹部前面とカメラとの間に所定のスペースを作ると、多くの被験者でカメラの回転軌道の中心に心臓を位置させることができるので、均一な画質の画像を取得することができる。
第1の実施の形態では、腹部圧迫体10の厚みは、被験者の体の中心ラインに沿って同じ厚みであるが、別の実施の形態では、腹部圧迫面11又はベルト掛け面12が被験者の体の中心ラインに沿って外側に向かって凸形状面であってもよく、中心ラインに沿って厚みが異なっていてもよい。この場合、中心ラインに沿って最も厚い箇所の厚みを腹部圧迫体10の厚みとすることができる。
【0018】
次に、
図4を用いて本発明の第2の実施の形態に係る腹部圧迫体について説明する。
図4において、20は腹部圧迫体で、被験者の腹部前面に接する腹部圧迫面21と、当該腹部圧迫面21に対面するベルト掛け面22との間に厚さ可変機構を有する部材25を有する以外は第1の実施の形態と同様に構成されている。
厚さ可変機構を有する部材25としては、腹部圧迫面21とベルト掛け面22との間の厚みを被験者の性別や体格の違い等に応じて可変できる部材であれば特に制限されない。例えば、互いに結合及び分離可能な複数の板状部材からなる部材が挙げられる。この厚さ可変機構を有する部材25は、腹部圧迫面21及びベルト掛け面22とそれぞれ結合及び分離可能とするのが、簡便に厚みを調整する上で望ましい。
【0019】
本発明において、腹部圧迫体の材質としては、各検査の画像生成原理や外部照射のがん治療原理に応じて、その画像生成やがん治療に影響を与えないかまたは影響が少ない材質が好ましい。例えば、核医学画像やCT画像の生成には被験者の体内を透過して体外へ放出される放射線(γ線、X線)を検出するので、また、外部照射時には放射線(γ線、X線、電子線、陽子線、重粒子線)を体の外から照射するので、放射線との相互作用がないことが要求される。このような材質としては、放射線を吸収、散乱しない性質を有する材質がよい。
より具体的には、軽量であること、加工性、強度、防汚性、価格等を考慮して、発泡スチロール、ポリプロピレンやポリエチレン等のプラスチックが好ましいものとして挙げられる。尚、厚さ可変機構を有する部材の材質も、腹部圧迫体と同様な材質が使用される。
【0020】
腹部圧迫体は、特に限定されないが、例えば、無垢からの削り出し、金型、3Dプリンタ等により適宜形成することができる。腹部圧迫体は、強度が保たれる限り中空構造でもよい。
【0021】
次に、
図5を用いて、本発明腹部圧迫体10の使用例を説明する。まず、
図5に示すように、撮像装置等の寝台に仰向けに寝た被験者Pの腹部前面に腹部圧迫面11が接するように腹部圧迫体10を載せる。このとき、腹部圧迫面11の凸形状13部分を、被験者の胸骨下部と腹部の境界の凹形状にフィットさせ、また、腹部圧迫面11の傾斜面14部分を、被験者の左右の肋骨下部にフィットさせる。次いで、息を吐いて腹部を凹ませた状態でベルト掛け面12上にベルトを掛けて腹部圧迫体10を固定し、腹部を圧迫する。これにより、被験者の胸部及び/又は腹部臓器の呼吸性移動を抑制することができ、その結果、医用画像の撮影時又は放射線の外部照射時に、臓器又は照射部位の位置ずれを防止することができる。
なお、
図5は腹部圧迫体の特に圧迫方法を説明するためのものであって、医用画像の撮像時又は放射線の外部照射時の状態を説明するものではなく、腹部圧迫体及びその使用方法をなんら限定するものではない。
【0022】
腹部圧迫体のベルト掛け面に掛けるベルトは、腹部圧迫体を被験者に固定するための固定用ベルトであり、長さ方向(側腹部から臍部の方向)に伸縮するベルトや、腹部で互いに止脱自在に連結し、腹囲長さを調整できるベルト等が挙げられる。より具体的には、
図5に示したように、ベルトの片端部の内面(ベルト装着時被験者側となる面)には面ファスナー部、他方の片端部の外面には面ファスナー生地が設けられて、腹部圧迫体を腹部前面に押し付けつつ腹部で互いに止脱自在に連結するベルトを用いるのが、腹部圧迫体10の固定及び圧迫の程度の調整を簡便に行なえるので望ましい。
固定位置や圧迫の程度を調整する場合は、被験者の腹部回りに力を加えてベルトを締めた状態で、ベルト両端を物理的に固定するなどして調整してもよい。
また、ベルトの幅は、腹部圧迫体全体を被覆する幅広とすれば、被験者の腹部前面に腹部圧迫体の腹部圧迫面全体を均等に押し付けることができ、検査ごとの圧迫誤差を少なくすることができる。
【0023】
撮像装置や外部照射用装置の中には、被験者の動きを固定するために寝台にベルトを備えた機種があるため、ベルトは、撮像装置や外部照射用装置にあらかじめ備えられたベルトを用いることができる。
【0024】
本発明において、腹部圧迫体を使用する際は、衛生面から、腹部圧迫体にカバーをかけてもよい。腹部圧迫体用のカバーとしては、腹部圧迫体の全体を容易に覆うことができ、画像撮影や外部照射、及び圧迫の妨げにならないもの、例えば、市販のディスポーザブルヘアキャップ等が挙げられる。腹部圧迫体用のカバーは検査ごとに使い捨てで、使用後は容易に取り外して使用済み除却とすることができる。
【0025】
さらに、ベルトのみでは圧迫の微調整が難しい場合は、腹部圧迫体とベルトとの間に体積調整可能なバルーンを挟むことができる。当該バルーンが萎んだ状態でベルトを締めたのちバルーンを膨らませることで圧迫をさらに強める方へ調整することができる。バルーンとしては、医療用のバルーンが挙げられる。
【0026】
次に、医用画像の撮影用又は放射線の外部照射用セットを説明する。
本発明の医用画像の撮影用又は放射線の外部照射用セットは、被験者の胸部及び/又は腹部を撮像対象とする、核医学画像検査、X線CT画像検査、MRI画像検査等の医用画像撮影時、あるいはがんに対する放射線の外部照射時に用いられるセットで、上述した腹部圧迫体と、ベルトとを含む。腹部圧迫体とベルトとは分離不能に取り付けられ一体となっていてもよいし、取り外し可能となっていてもよい。取り外し可能となっていれば、個別に在庫を管理することができる。また、本発明のセットには、腹部圧迫体とベルトの他、上述した腹部圧迫体用のカバーやバルーン、検査の用具等をさらに含むことができる。
【0027】
さらに、医用画像の撮影用又は放射線の外部照射用セットの別の実施の形態を説明する。
本発明の医用画像の撮影用又は放射線の外部照射用セットは、上述した腹部圧迫体と、腹部圧迫体の使用方法を説明する説明書とを含む。説明書は使用方法を記載した紙である形態以外に、使用方法を記載したWEBページ又はWEBページへ誘導するページのURLを記載したものや、当該ページへリンクするバーコードや二次元コードであってもよい。また、当該URLやコードは腹部圧迫体に直接印刷されていてもよい。腹部圧迫体が医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律における医療機器である場合には、添付文書が説明書に該当してもよい。
【実施例0028】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0029】
呼吸性移動の抑制方法
呼吸性移動に伴う心臓の動きを抑制するため、腹部圧迫体(IKI-TOMEHIRO-KUN:ITK)をガンマカメラに備え付けのベルトを使用して被験者の腹部に巻き付けた。ITKは第1の実施の形態で説明した
図1の四角柱形状で、高さは20cm、幅は20cm、被験者の体の中心ライン上に接する腹部圧迫面とベルト掛け面との間の厚みは10cm、腹部圧迫面及びベルト掛け面を外側に向かって緩やかな凸形状面となるよう発泡スチロールを削りだして作製した。ITKの傾斜面を被験者の左右肋骨下部にあわせ、腹部圧迫面の凸形状を深呼吸で凹形状になった腹部に押し付け、被験者に不快感を与えずにきつく巻き付けた。
【0030】
調査対象母集団
2022年6月から12月の間に豊橋市民病院で心筋血流SPECT検査を受けた91人の被験者を母集団として遡及的に評価した。疾患疑いのあるまたは疾患のある被験者に対して、負荷/安静または安静/安静の心筋血流SPECTを実施した。被験者は、ITKを適用しなかった対照群の28人(男性16人、女性12人) と、ITKを適用した63人(男性45人、女性18人)で構成されている(表1)。
【0031】
【0032】
画像の取得と処理
すべての被験者は、早期(負荷または安静)と後期(安静)の2つのフェーズを1日に撮像した。負荷検査では、アデノシン(PDRファーマ社製) を120μg/kg/minで6分間静脈投与し、99mTc-Sestamibi(PDRファーマ社製) をアデノシン投与開始の3分後に投与した。安静/安静プロトコルの撮像は、259-370MBqの99mTc-Sestamibiの投与及び軽食摂取の1時間後と4時間後に実行した。負荷/安静プロトコルの撮像は、それぞれ259MBqと740MBqの99mTc-Sestamibiの投与の45~60分後に実行した。ほとんどの被験者は、それぞれの投与後に軽食を取り、負荷投与と安静投与の間隔は少なくとも2時間あけた。
【0033】
ガンマカメラは、低エネルギー高解像度コリメータを備えたSymbia Evo又はSymbia Intevo(Siemens Healthineers社製)を使用した。上述のITKありの群(n=63)の被験者については、SPECT撮像の前に、ITKありとなしの状態でそれぞれダイナミック撮像(256×256マトリックス(2.4mm2ピクセル)、1秒/フレーム×60フレーム)も実施して、心臓の動きの距離を比較した。すべてのSPECT取得パラメーターは次のとおりとした。エネルギー ウィンドウ140keV±7.5%、128×128マトリックス、1.45倍ズーム(3.3mm2ピクセル)、25~35秒/ビュー、72ビュー/360度、近接楕円軌道。 ただし、ITKありの群ではITKを使用したため、取得軌道は近接楕円軌道に設定したが、心臓中心の円軌道となった。
【0034】
ダイナミック画像は、Pixon法 を用いたPlanar Processing処理(Siemens Helthineers社製)により30%のブレンド率でノイズ除去した。SPECT画像は、サブセット9、イタレーション10、及び半値幅13mmのポストガウスフィルターを備えたFlash3Dを使用して再構成した。減衰補正、散乱補正、及びモーション補正は行わなかった。
【0035】
呼吸性移動とモーションアーチファクトの評価
ダイナミック画像を使用して、スキャン中の心臓の動きの距離をシネ表示で観察しながら測定した(
図6)。
すべての投影データは、シネ表示、サイノグラム、及びリノグラムを観察することにより、心臓の動きの程度についても評価した。心臓の動きの程度は、なし、軽度、中程度、重度の4段階に分類した。スコア基準は、軽度の場合は1ピクセルの動き、中程度の場合は2ピクセルの動き、重度の場合は3ピクセル以上の動きとした。そして、ITKありの群と対照群を比較するため、各群において中程度と重度に分類された被験者数の全体被験者数に占める割合を、合計として算出した。
SPECT画像のモーションアーチファクトの程度を視覚的に評価した。モーションアーチファクトは、なし、軽度、重度、及びハリケーンサインとして定義した。そして、ITKありの群と対照群を比較するため、各群において軽度、重度とハリケーンサインに分類された被験者数の全体被験者数に占める割合を、合計として算出した。
【0036】
統計解析
すべてのデータは、Shapiro-Wilk検定を使用して非正規分布で解析した。対応のある値は、対応のあるt検定とWilcoxonの符号順位検定で分析し、対応のない値は、対応のないt検定とMann-WhitneyのU検定でそれぞれ分析した。 統計解析は、SPSSバージョン27ソフトウェア(IBM社製)を使用して実行した。p値<.05を統計的に有意とした。
【0037】
呼吸性移動の評価結果
ダイナミックスキャン中の心臓の動きの距離は、ITKの有無でそれぞれ15.4±5.3及び7.6±2.4であり、ITKありの群で有意に低かった(
図7)。ITKありの群は、対照群と比較して、投影データで心臓の動きが大幅に減少したことを示した。
投影データでは、ITKありの群の心臓の動きの程度は、対照群よりも有意に小さかった(p=.002)。安静撮像中の心臓の動きの程度は、対照群とITKありの群の両方で負荷撮像中よりも小さかったが、有意差は見られなかった(表2)。
【0038】
【0039】
モーションアーチファクトの評価結果
ITKありの群のSPECT画像におけるモーションアーチファクトの程度は、対照群よりも有意に小さかった(p<.001)(表3)。SPECTのモーションアーチファクトの程度は、対照群(p=.184)とITKありの群(p=.001)の負荷よりも安静時のほうが小さかった。
【0040】