(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134098
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】試料の前処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20240926BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20240926BHJP
G01N 23/04 20180101ALN20240926BHJP
G01N 23/2252 20180101ALN20240926BHJP
【FI】
G01N1/28 N
G01N1/28 F
H01J37/20 A
H01J37/20 H
G01N23/04
G01N23/2252
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044208
(22)【出願日】2023-03-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度(2020年度) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO新技術先導研究プログラム「エネルギー・環境新技術先導研究プログラム(採択テーマ名「電力貯蔵用高安全・低コスト二次電池の研究開発」)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 和生
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈晴
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001HA03
2G001HA13
2G001LA11
2G001MA05
2G001NA05
2G001NA18
2G001RA08
2G052AD32
2G052AD52
2G052FD06
2G052GA18
2G052GA33
2G052JA08
5C101AA04
5C101FF01
5C101FF25
5C101FF26
5C101FF36
(57)【要約】
【課題】イオン化傾向の高い元素を含有する材料で調製した対象試料あっても放射線を照射しての観察や加工に際しての不具合が生じにくくすること。
【解決手段】対象試料を支持体にセットするセット手順と、前記支持体および該支持体にセットされた前記対象試料の表面を電気的な絶縁性能を有する材料で構成された絶縁層でコーティングする絶縁手順と、前記外側絶縁層のコーティングされた前記支持体および前記対象試料の表面を導電層でコーティングする導電手順とを備え、前記セット手順では、その表裏方向へのイオン伝導性の低い材料で構成された抑制層を介して、前記対象試料を前記支持体にセットする、試料の前処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象試料を支持体にセットするセット手順と、
前記支持体および該支持体にセットされた前記対象試料の表面を電気的な絶縁性能を有する材料で構成された絶縁層でコーティングする絶縁手順と、
前記絶縁層のコーティングされた前記支持体および前記対象試料の表面を導電層でコーティングする導電手順と、を備え、
前記セット手順では、その表裏方向へのイオン伝導性の低い材料で構成された抑制層を介して、前記対象試料を前記支持体にセットする、
試料の前処理方法。
【請求項2】
前記支持体の表面を前記抑制層でコーティングする抑制手順、を備え、
前記セット手順では、前記対象試料を、前記絶縁層のコーティングされた前記支持体にセットする、
請求項1に記載の試料の前処理方法。
【請求項3】
前記対象試料が固体電解質である場合において、
前記抑制手順では、非晶質の酸化物材料で構成された層を前記抑制層とし、該抑制層で前記支持体の表面をコーティングして、
前記絶縁手順では、非晶質の酸化物材料で構成された層を前記絶縁層とし、該絶縁層で前記支持体および前記対象試料の表面をコーティングして、
前記導電手順では、カーボン材料で構成された層を前記導電層とし、該導電層で前記支持体および前記対象試料の表面をコーティングする、
請求項2に記載の試料の前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を照射しての試料の観察や加工に際し、その試料への前処理を施す前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子線やX線などの放射線を照射して対象試料の観察や加工を行うことが行われており、それに伴う対象試料のチャージアップによる不具合(観察画像の不鮮明化や加工不足など)を回避するための対策が種々提案されている。例えば、電子顕微鏡の観察対象となる試料表面に導電性物質を形成する、というものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、二次電池に用いられる固体電解質などのようにイオン化傾向の高い元素(例えばリチウムやナトリウムなど)を含有する材料で対象試料を調製した場合、チャージアップによる不具合を回避できたとしても、対象試料からこれを支持する支持体側へのイオンの移動に伴い、対象試料の組成ズレや構造変化など別の不具合が発生してしまう、といった課題があった。放射線が照射される環境下では、対象試料へのカスケード損傷によってイオンの発生が促進されるため、上記のような不具合が発生しやすい。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、イオン化傾向の高い元素を含有する材料で調製した対象試料あっても放射線を照射しての観察や加工に際しての不具合が生じにくくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1局面は、対象試料を支持体にセットするセット手順と、前記支持体および該支持体にセットされた前記対象試料の表面を電気的な絶縁性能を有する材料で構成された絶縁層でコーティングする絶縁手順と、前記絶縁層のコーティングされた前記支持体および前記対象試料の表面を導電層でコーティングする導電手順と、を備え、前記セット手順では、その表裏方向へのイオン伝導性の低い材料で構成された抑制層を介して、前記対象試料を前記支持体にセットする、試料の前処理方法である。
【0007】
この局面は以下に示す第2局面のようにしてもよい。第2局面においては、前記支持体の表面を前記抑制層でコーティングする抑制手順、を備え、前記セット手順では、前記対象試料を、前記絶縁層のコーティングされた前記支持体にセットする。
【0008】
また、上記各局面は以下に示す第3局面のようにしてもよい。第3局面は、前記対象試料が固体電解質である場合において、前記抑制手順では、非晶質の酸化物材料で構成された層を前記抑制層とし、該抑制層で前記支持体の表面をコーティングして、前記絶縁手順では、非晶質の酸化物材料で構成された層を前記絶縁層とし、該絶縁層で前記支持体および前記対象試料の表面をコーティングして、前記導電手順では、カーボン材料で構成された層を前記導電層とし、該導電層で前記支持体および前記対象試料の表面をコーティングする。
【0009】
上記各局面に係る試料の前処理方法では、対象試料が支持体との間に表裏方向へのイオン伝導性の低い抑制層を介在させた状態でセットされる。これにより、放射線を照射しての対象試料の観察や加工に際し、対象試料から支持体側へのイオンの移動が抑制される結果、対象試料の組成ズレや構造変化などの不具合を生じにくくすることができる。
【0010】
また、この局面では、対象試料と導電層との間に、電気的な絶縁性能を有する絶縁層が介在し、これによって対象試料から導電層への導電およびイオンの移動が抑制される結果、チャージアップに加え、イオンの移動に伴う不具合を生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示における試料の前処理方法の手順を示すフローチャート
【
図2】本開示において試料の前処理が施される様子を示す支持体および対象試料の要部断面図
【
図3】本開示の事例において観察対象となる試料を観察したSTEM画像(a)、および、EDS分析したEDS画像(b)(1/2)
【
図4】本開示の事例において観察対象となる試料を観察したSTEM画像(a)、および、EDS分析したEDS画像(b)(2/2)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の一実施形態として、放射線を照射しての試料の観察や加工に際してその試料への前処理を施す前処理方法につき、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)における電子線を照射しての対象試料の観察に際し、この対象試料へと前処理を施す前処理方法について例示する。ここで、対象試料は、ナトリウムまたはリチウムのように高いイオン化傾向の元素を含有する材料で構成された酸化物系の固体電解質である。
【0013】
(1)試料の前処理方法;
図1
この前処理方法では、まず、対象試料を支持するための支持体の表面を抑制層でコーティングする「抑制手順」が実施される(s110)。ここでは、
図2(a)(b)に示すように、その表裏方向へのイオン伝導性の低い材料で構成された層を抑制層10として、この抑制層10で支持体1の表面にコーティングする。
【0014】
本実施形態では、抑制層10の材料、つまり表裏方向へのイオン伝導性の低い材料として、原子欠損や価数変化の少ない非晶質の酸化物材料であるアルミナが選択的に用いられる。アルミナ以外の材料としては、例えば窒化珪素などを用いることも可能である。
【0015】
次に、抑制層のコーティングされた支持体に対象試料をセットする「セット手順」が実施される(s120)。ここでは、
図2(c)に示すように、支持体1(本実施形態では支持体1を構成するカーボン膜)上に対象試料2を載せることによって、ここにコーティングされた抑制層10を介して対象試料2が支持体1にセットされる。
【0016】
なお、抑制層10のコーティングには、物理気相成長(PVD;Physical Vapor Deposition)、化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition)、原子層堆積(ALD;Atomic Layer Deposition)など周知の手法が用いられる。
【0017】
次に、支持体およびここにセットされた対象試料の表面を絶縁層でコーティングする「絶縁手順」が実施される(s130)。ここでは、
図2(d)に示すように、電気的な絶縁性能を有する材料で構成された層を絶縁層20として、この絶縁層20で支持体1および対象試料2の表面をコーティングする。
【0018】
本実施形態では、絶縁層20の材料として、抑制層10と同じアルミナが選択体に用いられる。アルミナ以外の材料としては、例えば酸化リチウムなどを用いることが考えられる。
【0019】
そして、絶縁層のコーティングされた支持体および対象試料の表面を導電層でコーティングする「導電手順」が実施される(s140)。ここでは、
図2(e)に示すように、導電性を有する材料で構成された層を導電層30として、この導電層30で支持体1および対象試料2の表面を絶縁層20ごとコーティングする。
【0020】
本実施形態では、導電性を有する材料による導電層30が、支持体1および対象試料2の表面に上記と同様の手法でコーティングされる。導電層30の材料としては、導電性材料であるカーボンが選択体に用いられる。この材料としては、カーボン以外で導電性を有する材料を用いることも可能である。
【0021】
こうして、透過型顕微鏡の観察対象として、支持体1にセットされた前処理済みの対象試料2がつくられる。
【0022】
なお、本実施形態のように、透過型電子顕微鏡による観察用途での前処理方法では、上述した各層が厚すぎると観察時に電子線が透過しにくくなる一方、各層が薄すぎると層としてのそれぞれの機能が発揮されない。そのため、本実施形態では、各層の合計が10nm以下となるように膜厚を調整している。
【0023】
(2)変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0024】
例えば、上記実施形態では、透過型電子顕微鏡による電子線を照射しての対象試料の観察に際し、この対象試料へと前処理を施す前処理方法について例示した。しかし、この前処理方法は、X線などの放射線を照射しての対象試料の加工に際し、この対象試料へと前処理を施すための方法とできることはいうまでもない。
【0025】
また、上記実施形態では、抑制手順において支持体の表面を抑制層でコーティングするように構成されたものを例示した。しかし、抑制手順では、支持体ではなく対象試料の表面を抑制層でコーティングするように構成してもよい。
【0026】
(3)作用効果
上記実施形態に係る試料の前処理方法では、対象試料2が支持体1との間に表裏方向へのイオン伝導性の低い抑制層10を介在させた状態で支持体1にセットされる(
図2参照)。これにより、放射線を照射しての対象試料の観察や加工に際し、対象試料2から支持体1側へのイオンの移動が抑制される結果、対象試料2の組成ズレや構造変化などの不具合を生じにくくすることができる。
【0027】
また、本実施形態では、対象試料2と導電層30との間に、電気的な絶縁性能を有する絶縁層20が介在し、これによって対象試料2から導電層30への導電およびイオンの移動が抑制される結果、チャージアップに加え、イオンの移動に伴う不具合を生じにくくすることができる。
【0028】
この点、本願出願人は、ナトリウムを含む酸化物系の固定電解質を対象試料とし、これを支持体に直接セットした観察対象A、および、上記前処理方法を経て支持体にセットした観察対象Bについて、それぞれ走査透過電子顕微鏡(STEM;Scanning Transmission Electron Microscopy)によるエネルギー分散型X線分光(EDS;Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)分析を行い、上記前処理方法によりイオンの移動が抑制されることを確認している。
【0029】
まず、観察対象Aでは、
図3に示すように、STEM像(明視野像)(
図3(a))でみられる支持体1(具体的には格子状のカーボングリッド)が、ナトリウム成分についてマッピングしたEDS画像(同図(b))にも表れている。これは、対象試料2から支持体1側へとナトリウムイオンが移動し、こうして移動したナトリウム成分が支持体1に沿って表れた結果である。つまり、対象試料を支持体に直接セットした観察対象Aでは、イオンの移動を抑制できない。
【0030】
他方、観察対象Bでは、
図4に示すように、STEM像(明視野像)(
図4(a))でみられる支持体1(同上)が、ナトリウム成分についてマッピングしたEDS画像(同図(b))に表れていない。これは、対象試料2から支持体1側へのナトリウムイオンの移動が抑制された結果である。
【符号の説明】
【0031】
1…支持体、2…対象試料、10…抑制層、20…絶縁層、30…導電層。