(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134099
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】状態監視システム
(51)【国際特許分類】
F16J 15/00 20060101AFI20240926BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20240926BHJP
F16H 57/029 20120101ALI20240926BHJP
【FI】
F16J15/00 E
F16J15/34 A
F16H57/029
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044210
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】眞田 和俊
【テーマコード(参考)】
3J041
3J063
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BD01
3J041BD06
3J063AA15
3J063AB12
3J063AC01
3J063BB01
3J063BB37
(57)【要約】
【課題】ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れることを未然に防止する。
【解決手段】フローティングシール50を有する動力伝達装置1の状態監視システム100であって、フローティングシール50は、第1弾性リング51と、第1弾性リング51を介して固定ハウジング10に支持される第1シールリング53と、第2弾性リング52と、第2弾性リング52を介して回転ハウジング20に支持され、第1シールリング53に摺接する第2シールリング54と、を有し、状態監視システム100は、第1シールリング53に設けられる温度センサ60と、温度センサ60の検出結果に基づいてフローティングシール50の異常を判定する情報処理装置70と、を備え、情報処理装置70は、温度センサ60により検出される温度が予め定められる劣化判定閾値以上となった累積時間に基づいて、第1弾性リング51及び/または第2弾性リング52の劣化を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構の状態監視システムであって、
前記変速機構は、
駆動源を収容する固定ハウジングと、
前記駆動源の出力回転が減速機を介して伝達され回転する回転ハウジングと、
前記固定ハウジングと前記回転ハウジングの間に形成されるとともに、前記減速機が収容され潤滑油が封入されるギヤ室と、
前記固定ハウジングと前記回転ハウジングとにわたって設けられ、前記ギヤ室内の潤滑油をシールするフローティングシールと、を有し、
前記フローティングシールは、
前記固定ハウジングに設けられる第1弾性リングと、
前記第1弾性リングを介して前記固定ハウジングに支持される第1シールリングと、
前記回転ハウジングに設けられる第2弾性リングと、
前記第2弾性リングを介して前記回転ハウジングに支持され、前記第1シールリングに摺接する第2シールリングと、を有し、
前記状態監視システムは、
前記第1シールリングに設けられて前記第1シールリングの温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器の検出結果に基づいて前記フローティングシールの異常を判定する情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、前記温度検出器により検出される温度が予め定められる劣化判定閾値以上となった累積時間に基づいて、前記第1弾性リング及び/または前記第2弾性リングの劣化を判定することを特徴とする状態監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の状態監視システムであって、
前記情報処理装置は、前記温度検出器により検出される温度が前記劣化判定閾値よりも大きい異常判定閾値以上になると、前記第1弾性リング及び/または前記第2弾性リングの異常を判定することを特徴とする状態監視システム。
【請求項3】
請求項1に記載の状態監視システムであって、
前記温度検出器は、前記第1シールリングの周方向に互いに離れて複数設けられ、
前記情報処理装置は、複数の前記温度検出器により検出される温度の互いの差から前記フローティングシールの異常を判定することを特徴とする状態監視システム。
【請求項4】
請求項1に記載の状態監視システムであって、
前記温度検出器は、前記第1シールリングの内周面であって常に潤滑油に浸る位置に設けられることを特徴とする状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動源を収容する固定ハウジングと、駆動源の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジングと、回転ハウジングに収容され、駆動源の出力回転を変速して回転ハウジングに伝達する変速機構と、固定ハウジングと回転ハウジングとの間の隙間をシールするフローティングシールと、を備える動力伝達装置が開示されている。回転ハウジングと固定ハウジングの間には変速機構を収容するギヤ室が形成され、ギヤ室には変速機構を潤滑する潤滑油が充填される。
【0003】
また、フローティングシールは、固定ハウジングに設けられる第1弾性リングと、第1弾性リングを介して固定ハウジングに支持される第1シールリングと、回転ハウジングに設けられる第2弾性リングと、第2弾性リングを介して回転ハウジングに支持され、第1シールリングに摺接する第2シールリングと、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の動力伝達装置では、第1弾性リング及び第2弾性リングの弾性力により第1シールリングと第2シールリングが互いに摺接することによって、ギヤ室内の潤滑油がシールされる。しかし、第1弾性リング及び第2弾性リングの経年劣化や、外部から土砂等の異物混入により、第1シールリングと第2シールリングの摺接状態が変化すると、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れてしまうおそれがある。特許文献1に記載の動力伝達装置では、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れて初めてフローティングシールの異常に気付くため、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れることを未然に防止することができない。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れることを未然に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、変速機構の状態監視システムであって、変速機構は、駆動源を収容する固定ハウジングと、駆動源の出力回転が減速機を介して伝達され回転する回転ハウジングと、固定ハウジングと回転ハウジングの間に形成されるとともに、減速機が収容され潤滑油が封入されるギヤ室と、固定ハウジングと回転ハウジングとにわたって設けられ、ギヤ室内の潤滑油をシールするフローティングシールと、を有し、フローティングシールは、固定ハウジングに設けられる第1弾性リングと、第1弾性リングを介して固定ハウジングに支持される第1シールリングと、回転ハウジングに設けられる第2弾性リングと、第2弾性リングを介して回転ハウジングに支持され、第1シールリングに摺接する第2シールリングと、を有し、状態監視システムは、第1シールリングに設けられて第1シールリングの温度を検出する温度検出器と、温度検出器の検出結果に基づいてフローティングシールの異常を判定する情報処理装置と、を備え、情報処理装置は、温度検出器により検出される温度が予め定められる劣化判定閾値以上となった累積時間に基づいて、第1弾性リング及び/または第2弾性リングの劣化を判定することを特徴とする。
【0008】
この発明では、温度検出器により第1シールリングの温度を検出することによって、第1弾性リング及び/または第2弾性リングの経年劣化を監視し、フローティングシールの異常を判定する。よって、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れる前に、フローティングシールの交換等のメンテナンスを行うことができる。
【0009】
また、本発明は、情報処理装置は、温度検出器により検出される温度が劣化判定閾値よりも大きい異常判定閾値以上になると、第1弾性リング及び/または第2弾性リングの異常を判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、温度検出器は、第1シールリングの周方向に互いに離れて複数設けられ、情報処理装置は、複数の温度検出器により検出される温度の互いの差からフローティングシールの異常を判定することを特徴とする。
【0011】
これらの発明では、異物混入等による突発的なフローティングシールの異常を判定することができる。よって、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れる前に、異物の除去やフローティングシールの交換等のメンテナンスをすることができる。
【0012】
また、本発明は、温度検出器は、第1シールリングの内周面であって常に潤滑油に浸る位置に設けられることを特徴とする。
【0013】
この発明では、温度検出器は常に潤滑油に浸っており、温度変化が小さい状態で設けられるため、フローティングシールの異常を判定する精度が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れることを未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1,第2実施形態に係る状態監視システムの概略図である。
【
図3】フローティングシールに異物が侵入した状態を示す図であり、
図2に対応して示す。
【
図4】本発明の第1,第2実施形態に係る状態監視システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る状態監視システムの情報処理装置がフローティングシールの劣化時間を測定する処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る状態監視システムの情報処理装置が劣化時間からフローティングシールの劣化を判定する処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る状態監視システムの情報処理装置がフローティングシールの異常を判定する処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】温度センサのフローティングシールへの取り付け例を示す図であり、
図2に対応して示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る状態監視システム100について説明する。
【0017】
状態監視システム100は、変速機構1の状態を監視するものである。まず、変速機構1について説明する。
【0018】
変速機構1は、例えば、油圧ショベルなどのクローラ式作業機の走行用の油圧モータ9(駆動源)の動力をクローラベルトに伝達するものである。
図1に示すように、変速機構1は、油圧モータ9を収容する固定ハウジング10と、固定ハウジング10に対して回転自在に設けられる回転ハウジング20と、油圧モータ9のシャフト31の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する減速機30と、を備える。
【0019】
固定ハウジング10には、本体部11の外周面から突出するように固定フランジ12が形成される。固定フランジ12がボルトによって車体6に取り付けられることにより、変速機構1が車体6に固定される。本実施形態では、
図1に示す向きで変速機構1が車体6に固定される。
【0020】
回転ハウジング20は、円筒状の部材であり、その内部(具体的には、後述するギヤ室4)に減速機30が収容されている。回転ハウジング20は、油圧モータ9の出力回転が減速機30を介して伝達され回転する。
【0021】
固定ハウジング10及び回転ハウジング20は、クローラベルトが循環する経路の内側に配置される。回転ハウジング20には、外周面から径方向外方に突出する環状の回転フランジ29が形成される。回転フランジ29には、ボルト(図示省略)によってスプロケット(図示省略)が締結される。スプロケットにはクローラベルトが噛み合う。回転ハウジング20とスプロケットが共に回転することで、スプロケットに噛み合うクローラベルトが循環してクローラ式作業機が走行する。
【0022】
固定ハウジング10の外周と回転ハウジング20の内周との間には、軸受ユニット40が設けられる。軸受ユニット40は、固定ハウジング10に対して回転ハウジング20を回転自在に支持する。回転ハウジング20は、車体6に固定される固定ハウジング10に対して軸受ユニット40を介して回転自在に支持され、回転中心軸Oを中心として回転する。
【0023】
油圧モータ9は、固定ハウジング10の本体部11の内部に収容される。油圧モータ9は、例えば、斜板式ピストンモータである。なお、駆動源は油圧モータ以外であってもよく、例えば、駆動源は電動モータとしてもよい。油圧モータ9は、公知の構成を採用できるため、
図1では簡略化して図示しており、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0024】
減速機30は、油圧モータ9のシャフト31の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する遊星歯車減速機構である。減速機30は、油圧モータ9のシャフト31に設けられるサンギヤ32と、回転ハウジング20の内壁に設けられるインナーギヤ33と、サンギヤ32とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ34と、各プラネタリギヤ34を支持するプラネタリキャリア35と、プラネタリキャリア35と噛み合う2段目のサンギヤ36と、サンギヤ36とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ37と、を備える。
【0025】
回転ハウジング20の開口端部20aの内周には、開口端部20aを閉塞する円盤状のカバー21が着脱可能に取り付けられる。固定ハウジング10と回転ハウジング20の間には、減速機30を収容するギヤ室4が形成される。ギヤ室4は、回転ハウジング20及びカバー21の内面と、固定ハウジング10の本体部11の外面と、によって画成される。カバー21には、ギヤ室4と外部を連通するポート(図示省略)と、ポートを封止するプラグ(図示省略)が設けられ、当該ポートを通じて、ギヤ室4に減速機30を潤滑する潤滑油が封入される。本実施形態では、ギヤ室4に潤滑油が半分ほど(具体的には、
図1において潤滑油が油圧モータ9のシャフト31にかかるあたりまで)充填される。
【0026】
また、変速機構1は、固定ハウジング10と回転ハウジング20とにわたって設けられ、ギヤ室4内の潤滑油をシールするフローティングシール50を有する。フローティングシール50は、固定ハウジング10に設けられる第1弾性リング51と、第1弾性リング51を介して固定ハウジング10に支持される第1シールリング53と、回転ハウジング20に設けられる第2弾性リング52と、第2弾性リング52を介して回転ハウジング20に支持される第2シールリング54と、を有する。
【0027】
第1弾性リング51は、固定ハウジング10の固定フランジ12に形成されたシール面14と、第1シールリング53の外周面に形成されたシール面53a(
図2,
図3参照)と、の間に圧縮されて設けられるOリングである。第1弾性リング51により、固定ハウジング10のシール面14と第1シールリング53のシール面53aの間がシールされる。第2弾性リング52は、回転ハウジング20の回転側突起部23のシール面24と、第2シールリング54の外周面に形成されたシール面54a(
図2,
図3参照)と、の間に圧縮されて設けられるOリングである。第2弾性リング52により、回転ハウジング20のシール面24と第2シールリング54のシール面54aの間がシールされる。
【0028】
第1シールリング53及び第2シールリング54は、鋳鉄で形成され、互いに摺接するように設けられる。具体的には、第1シールリング53及び第2シールリング54は、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の緊迫力により、互いに押し付けられて摺接する。これにより、第1シールリング53と第2シールリング54の間がシールされ、変速機構1内(ギヤ室4内)の油をシールするとともに、外部から土砂等の異物が変速機構1内に侵入することを防止する。
【0029】
油圧モータ9が駆動すると、回転ハウジング20が回転し、回転ハウジング20に支持される第2シールリング54が第1シールリング53に対して摺接しながら回転する。第1シールリング53は、固定ハウジング10に支持されるため、油圧モータ9が駆動しても回転しない。第1シールリング53と第2シールリング54の摺接面で生じる摩擦熱は第1弾性リング51及び第2弾性リング52に伝達されるため、フローティングシール50では、第1弾性リング51及び第2弾性リング52が徐々に熱硬化して経年劣化する。第1シールリング53には、後述するように、温度検出器としての温度センサ60が設けられる。
【0030】
なお、フローティングシール50の外側における固定ハウジング10と回転ハウジング20との間には、外部から土砂等の異物を侵入しづらくするためのラビリンスシール5が形成される。ラビリンスシール5は、固定ハウジング10と回転ハウジング20の間の隙間によって形成される。具体的には、固定ハウジング10の固定フランジ12には、回転ハウジング20に向かって延びる環状の固定側突起部13が形成される。回転ハウジング20の回転フランジ29の基端側には、固定側突起部13の径方向内側において固定ハウジング10に向かって延びる環状の回転側突起部23が形成される。ラビリンスシール5は、固定ハウジング10の固定側突起部13と、回転ハウジング20の回転側突起部23及び回転フランジ29の間の隙間によって形成される。
【0031】
ここで、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態の変化は、異物の侵入等の突発的な異常が生じなくても、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接面で生じる摩擦熱が第1弾性リング51及び第2弾性リング52に伝達されて徐々に熱硬化することで生じる。つまり、第1弾性リング51及び第2弾性リング52が熱硬化することで経年劣化し、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態が変化することで、第1シールリング53と第2シールリング54の間からギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れやすくなる。そのため、状態監視システム100では、温度センサ60により第1弾性リング51及び第2弾性リング52の温度を間接的に検出する。状態監視システム100は、温度センサ60により検出される温度が予め定められる劣化判定閾値以上となった累積時間に基づいて、情報処理装置70の判定部73が第1弾性リング51及び第2弾性リング52の劣化(具体的には、経年劣化)を判定する。
【0032】
次に、状態監視システム100について説明する。
【0033】
状態監視システム100は、第1シールリング53に設けられて第1シールリング53の温度を検出する温度検出器としての温度センサ60と、温度センサ60の検出結果に基づいてフローティングシール50の異常を判定する情報処理装置70と、を備える。
【0034】
図1、
図2に示すように、温度センサ60は、ギヤ室4に面するように第1シールリング53の内側に設けられる。本実施形態では、温度センサ60は、第1シールリング53の内周面であって常に潤滑油に浸る位置に一つ設けられる。具体的には、温度センサ60は、変速機構1の下方側に位置するように第1シールリング53に設けられる。温度センサ60は、第1シールリング53の温度を直接検出するものであり、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の温度については間接的に検出することになる。なお、温度センサ60は、
図2に示すように第1シールリング53に埋め込まれて設けられてもよく、また、第1シールリング53の内周面に接着剤、半田付け、ロウ付け、ボルト留め等によって固定されてもよい(
図8参照)。また、固定ハウジング10側に挿通孔等を形成し、温度センサ60のリード線(図示省略)を配線すれば、リード線の断線などを防止することができる。
【0035】
図4に示すように、情報処理装置70は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラム等を記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)と、を含むマイクロコンピュータで構成される。情報処理装置70は、情報を記憶する記憶部72と、フローティングシール50の異常を判定する判定部73と、を有する。なお、記憶部72及び判定部73は、情報処理装置70の各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的に存在することを意味するものではない。
【0036】
本実施形態では、情報処理装置70は、油圧ショベルなどの車体に設けられる。情報処理装置70は、温度センサ60と有線または無線により接続される。情報処理装置70には、温度センサ60により検出される温度が連続して入力される。
【0037】
情報処理装置70の記憶部72には、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の熱硬化による経年劣化を判定するために、劣化判定閾値と、劣化判定閾値を超える時間の累積値(以下では、「劣化時間」とも称する。)の基準値が予め記憶される。劣化判定閾値は、第1弾性リング51及び第2弾性リング52が熱硬化により経年劣化する基準となる温度であり、劣化時間の基準値は、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の交換時期を判定するための値である。劣化判定閾値及び劣化時間の基準値は、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の物性を基に決定され、例えば、JIS K6257に準拠して求められる熱老化特性に基づいて決定される。なお、劣化判定閾値は、一つの値ではなく、一定の数値幅を有する数値範囲であってもよい。また、劣化判定閾値には、外気温や土砂の影響等を考慮して所定の補正量を加味した値を設定してもよい。例えば、外気温が高い場合には劣化判定閾値を高く設定してもよく、水分の多い土砂によってフローティングシール50が冷やされる場合には劣化判定閾値を低く設定してもよい。
【0038】
図5、
図6は、判定部73がフローティングシール50の異常(劣化)を判定する処理手順を示すフローチャートである。
図5は、判定部73がフローティングシール50の劣化を判定するためにフローティングシール50の劣化時間を測定する手順を示したものであり、
図6は、判定部73が劣化時間からフローティングシール50の劣化を判定する手順を示したものである。判定部73は、例えば、油圧ショベル等の自車両のエンジンが始動した場合に、
図5、
図6に示す処理を並行して所定の時間間隔ごとに繰り返して実行する。なお、判定部73は、
図5、
図6に示す処理を一連の処理として実行してもよい。
【0039】
まず、
図5に示す判定部73がフローティングシール50の劣化時間を測定する手順について説明する。判定部73は、まず、ステップS101において、記憶部72に保存された異常判定に関する劣化時間演算プログラムを読み出す。次に、ステップS102へと進み温度センサ60から温度を示す信号を取得した後、ステップS103へと進み記憶部72に当該温度を記憶させる。そして、ステップS104へと進み、記憶部72に記憶された劣化判定閾値を読み出して、ステップS105へと進む。
【0040】
ステップS105では、温度センサ60の温度と劣化判定閾値を比較する。具体的には、ステップS105では、温度センサ60の温度が劣化判定閾値以上であるか否かの判定をする。温度センサ60の温度が劣化判定閾値より小さい場合には、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の劣化(熱硬化)が進行していないとして、何もせずに処理を終了する。温度センサ60の温度が劣化判定閾値以上である場合には、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の劣化が進行しているとして、ステップS106へと進み劣化時間を演算する。
【0041】
ステップS106では、具体的には、温度センサ60の信号のカウントやタイマー(図示省略)により劣化時間を演算する。そして、判定部73は、所定の時間間隔ごとに、記憶部72に劣化時間を記録または加算する。より具体的には、ステップS107へと進み、ステップS107において、記憶部72に劣化時間の記憶がないかの判定をする。判定部73は、記憶部72に劣化時間が記憶されていない場合には、ステップS109へと進み、記憶部72に新たに劣化時間を記録する。記憶部72に劣化時間が記憶されている場合には、ステップS108へと進み記憶済みの劣化時間に演算された劣化時間を加算して更新し、ステップS109へと進み記憶部72に劣化時間を記録する。判定部73は、温度センサ60の温度が劣化判定閾値未満となるまで劣化時間を演算し、処理を終了する。
【0042】
次に、
図6に示す劣化時間からフローティングシール50の劣化を判定する手順について説明する。判定部73は、まず、ステップS111において、ステップS101と同様に異常判定に関する劣化判定プログラムを読み出す。次に、ステップS112に進み、記憶部72からフローティングシール50の劣化時間と劣化時間の基準値を取得し、ステップS113へと進む。
【0043】
ステップS113では、劣化時間が基準値以上であるか否かの判定をする。劣化時間が基準値より小さい場合には、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の交換がまだ不要であるとして、何もせずに処理を終了する。劣化時間が基準値以上である場合には、第1弾性リング51及び第2弾性リング52が劣化しており交換が必要であるとして、ステップS114に進み、モニターやアラーム等の報知部80(
図4参照)を介して作業者に異常を報知して処理を終了する。例えば、モニターには常時または一定時間ごとにシール交換を作業者に促す表示をし、アラームは基準値を超えたタイミングや、基準値を超えた状態でエンジンを停止し再度エンジンを稼働した際等に作動させてもよい。また、異常の報知は、劣化時間のリセットボタンを設けて、リセットボタンを押すことで現場作業者が解除できるようにしてもよい。しかしながら、メンテナンスをせずに現場作業者が異常の報知を解除することがないように、例えばメンテナンス作業者が外部端末から有線または無線によって情報処理装置70に解除コードを送信することで報知を解除できるようにすることで、ギヤ室内の潤滑油が外部に漏れることを未然に防止することができる。
【0044】
このように、状態監視システム100では、温度センサ60により第1弾性リング51及び第2弾性リング52の温度を間接的に検出することによって、第1シールリング53と第2シールリング54の経年劣化を監視し、フローティングシール50の異常(第1弾性リング51及び第2弾性リング52の経年劣化)を判定する。よって、第1弾性リング51及び第2弾性リング52が経年劣化してギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れる前に、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の交換等のメンテナンスをすることができる。
【0045】
また、状態監視システム100では、温度センサ60の温度が劣化判定閾値を超える時間の累積値(劣化時間)を利用することにより、フローティングシール50の異常をより簡単な構成で判定することができる。
【0046】
また、温度センサ60が潤滑油に浸る状態では、温度センサ60が検出する温度は、潤滑油の温度の影響を受ける。よって、油圧モータ9及び減速機30の駆動状態や変速機構1の傾きにより、潤滑油に浸ったり浸らなかったりする位置に温度センサ60が設けられると、温度センサ60が検出する温度が潤滑油により変化してしまうため、フローティングシール50の異常を判定する精度が低くなる。これに対して、状態監視システム100では、温度センサ60が常に潤滑油に浸る位置に設けられ、温度変化が小さい状態で設けられるため、フローティングシール50の異常を判定する精度が向上する。なお、第1シールリング53は金属であるため、第1シールリング53における潤滑油に浸る下部と潤滑油に浸らない上部の間で大きな温度差は生じない(最大で5℃程度である)。そのため、温度センサ60は、常に潤滑油に浸らない位置に設けられてもよい。
【0047】
また、温度センサ60は、一つのみではなく、第1シールリング53の周方向に互いに離れて複数設けられてもよい。例えば、油圧ショベルなどのクローラ式作業機の走行用の油圧モータ9(駆動源)は、周方向にどの向きで取り付けられるか不明であるため、温度センサ60を少なくとも1つは潤滑油に浸る位置に設けることが好ましい。潤滑油は、通常、ギヤ室4の半分以上程度に入れられるため、例えば、温度センサ60を、180°間隔で2個や、120°間隔で3個や、90°間隔で4個設ければよい。
【0048】
この場合では、複数の温度センサ60のうち、常に潤滑油に浸る位置にあるものが最も高い温度が検出されると想定される。そのため、情報処理装置70は、複数の温度センサ60で検出された温度のうち最も高いものに基づいてフローティングシール50の異常を判定してもよい。これにより、温度センサ60の検出値の温度変化が小さくなるため、フローティングシール50の異常をより正確に判定することができる。さらに、温度が高い方が第1弾性リング51及び第2弾性リング52の劣化が大きくなるため、複数の温度センサ60で検出された温度のうち最も高いものを参照することにより、フローティングシール50の異常をより精度よく判定することができる。なお、複数の温度センサ60で検出される温度の平均値に基づいてフローティングシール50の異常を判定してもよい。この場合には、温度センサ60の誤検知等の影響を小さくすることができる。
【0049】
なお、状態監視システム100は、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の両方だけでなく、一方のみの経年劣化を判定する構成であってもよい。
【0050】
また、ステップS106では、判定部73は、演算した劣化時間を加算せずに所定の時間間隔ごとに別個に記憶部72に記録してもよい。この場合には、ステップS113において、記憶部72に記憶されたそれぞれの劣化時間を合計した劣化時間(合計劣化時間)が基準値以上であるか否かの判定をすればよい。
【0051】
以上の第1実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0052】
状態監視システム100では、温度センサ60により第1弾性リング51及び第2弾性リング52の温度を間接的に検出することによって、第1シールリング53と第2シールリング54の経年劣化を監視し、フローティングシール50の異常(経年劣化)を判定する。よって、第1弾性リング51及び第2弾性リング52が経年劣化してギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れる前に、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の交換等のメンテナンスをすることができる。
【0053】
状態監視システム100では、温度センサ60は、常に潤滑油に浸っており、温度変化が小さい状態で設けられるため、フローティングシール50の異常を判定する精度が向上する。
【0054】
<第2実施形態>
図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る状態監視システム200について説明する。以下では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、図中、上記第1実施形態で説明した構成と同一の構成または相当する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
状態監視システム200は、物理的な構成は状態監視システム100と同様であり、情報処理装置70による異常の判定方法のみが異なる。第1実施形態の状態監視システム100では、情報処理装置70は、温度センサ60により検出される温度が予め定められる劣化判定閾値以上となった累積時間(劣化時間)に基づいて、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の劣化を判定する。これに加えて、状態監視システム200では、情報処理装置70は、温度センサ60により検出される第1シールリング53の温度の変化により、フローティングシール50に異物が侵入し突発的な異常が生じたと判定する。
【0056】
前述のように、変速機構1では、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の緊迫力により第1シールリング53と第2シールリング54が互いに摺接することによって、ギヤ室4内の潤滑油がシールされる。変速機構1は、ラビリンスシール5によって外部から土砂等の異物が侵入しづらい構成とはなっているものの、ラビリンスシール5を通じて異物が混入してしまい、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態が変化すると、ギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れてしまうおそれがある。
【0057】
具体的には、
図3に示すように、例えば第2弾性リング52と第2シールリング54の間に異物Aが侵入すると、異物Aの介在により、第2弾性リング52が第1シールリング53と第2シールリング54の摺接面から離れる向きに(
図3中右側に)ずれるおそれがある。その場合には、第2弾性リング52が第2シールリング54を第1シールリング53に向けて押し付ける緊迫力が小さくなり、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態が変化する。そのため、第1シールリング53と第2シールリング54の間からギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れやすくなる。
【0058】
一方、異物Aの介在した状態で第2弾性リング52が第1シールリング53と第2シールリング54の摺接面から離れる向きに(
図3中右側に)ずれない場合であっても、異物Aの介在により第2弾性リング52の反力が大きくなり、第2弾性リング52が第2シールリング54を第1シールリング53に向けて押し付ける緊迫力が大きくなるおそれもある。これにより、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接面で生じる摩擦熱が大きくなり、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の温度が通常よりも高くなる。結果として、第1弾性リング51及び第2弾性リング52が熱硬化しやすくなり、通常よりも劣化しやすくなる。第1弾性リング51及び第2弾性リング52が劣化すると、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態が変化し、シール性が低下するため、ギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れやすくなる。
【0059】
そのため、本実施形態では、状態監視システム200により第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態を監視し、フローティングシール50の異常を判定して、ギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れることを未然に防止する。
【0060】
具体的には、第2弾性リング52と第2シールリング54の間への異物の介在により第2弾性リング52が
図3中右側にずれると、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接面で生じる摩擦熱が小さくなる。よって、異物が介在する前と比較して第1シールリング53の温度が低くなる。一方で、第2弾性リング52と第2シールリング54の間への異物の介在により第2弾性リング52の反力が大きくなると、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接面で生じる摩擦熱が大きくなる。よって、異物が介在する前と比較して第1シールリング53の温度が高くなる。このように、フローティングシール50に何らかの異常が発生した場合には、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態が変化することにより、第1シールリング53及び第2シールリング54の温度が変化する。そのため、情報処理装置70は、温度センサ60により検出される第1シールリング53の温度の変化から、フローティングシール50の異常を判定する。
【0061】
具体的には、情報処理装置70は、予め定められる異常判定閾値に基づいて、フローティングシール50の異常を判定する。異常判定閾値は、潤滑油の温度やフローティングシール50の摩擦熱等を考慮して油圧モータ9の駆動時に通常生じうる第1シールリング53の温度の上限であり、異常判定閾値よりも大きい値に設定される。なお、異常判定閾値は、劣化判定閾値と同様に、一つの値ではなく一定の数値幅を有する数値範囲であってもよく、外気温や土砂の影響等を考慮して所定の補正量を加味した値を設定してもよい。情報処理装置70は、温度センサ60により検出される第1シールリング53の温度が異常判定閾値を超えて変化すると、フローティングシール50に異常(具体的には、異物混入等による突発的な異常)が生じたと判定する。
【0062】
図7は、判定部73がフローティングシール50の異常を判定する処理手順を示すフローチャートである。状態監視システム200では、
図6に示す判定部73が劣化時間からフローティングシール50の劣化を判定する処理を行う前に、ステップS201~S203においてフローティングシール50に異物混入等による突発的な異常が生じているか否かの判定をする。
【0063】
具体的には、判定部73は、まず、ステップS201において、記憶部72に保存された異常判定に関する異常判定プログラム及び劣化判定プログラムを読み出す。次に、ステップS202へと進み、温度センサ60から温度を示す信号を取得するとともに、記憶部72に記憶された異常判定閾値を取得して、ステップS203へと進む。ステップS203では、温度センサ60の温度が異常判定閾値以上であるか否かの判定をする。温度センサ60の温度が異常判定閾値より小さい場合には、フローティングシール50に突発的な異常が生じていないとして、ステップS112へと進み状態監視システム100と同様に劣化判定プログラムによる処理を行う。温度センサ60の温度が異常判定閾値以上である場合には、フローティングシール50に突発的な異常が生じているとして、ステップS114に進み、モニターやアラーム等の報知部80を介して作業者に異常を報知して処理を終了する。
【0064】
このように、状態監視システム200では、温度センサ60により第1シールリング53の温度を検出することによって、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態を監視し、フローティングシール50の異常(異物混入等による突発的な異常)を判定する。状態監視システム200では、フローティングシール50に異常が生じたと判定すると、その旨を作業者に報知する。よって、ギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れる前に、異物の除去やフローティングシール50の交換等のメンテナンスを行うことができる。
【0065】
また、温度センサ60が複数設けられる場合には、複数の温度センサ60により検出される温度の互いの差からフローティングシール50の異常を判定してもよい。具体的には、フローティングシール50に異物混入等による突発的な異常が生じると、第1シールリング53の全周ではなく、異物混入等が生じたフローティングシール50の一部領域のみで第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態が変化し、第1シールリング53の一部で温度変化が生じる。よって、情報処理装置70には、閾値として、油圧モータ9の駆動時に通常生じうる第1シールリング53内の温度差が予め記憶される。情報処理装置70は、複数の温度センサ60により検出される第1シールリング53の温度の互いの差が閾値を超えると、フローティングシール50に異常が生じた(具体的には、フローティングシール50の一部領域で異物混入等による突発的な異常が生じた)と判定する。この構成では、複数の温度センサ60によって、異物混入等による突発的なフローティングシール50の異常をより正確に判定することができる。なお、このように複数の温度センサ60により検出される温度の互いの差からフローティングシール50の異常を判定する場合には、温度センサ60を3個か4個設けることが好ましい。
【0066】
なお、状態監視システム200では、ステップS203において温度センサ60の温度が異常判定閾値より小さい場合には、ステップS112へと進み状態監視システム100と同様の処理を行うことは必須ではない。つまり、状態監視システム200では、第1弾性リング51及び第2弾性リング52の劣化を判定せずに、フローティングシール50に突発的な異常が生じたことのみを判定してもよい。
【0067】
以上の第2実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0068】
状態監視システム200では、温度センサ60により第1シールリング53の温度を検出することによって、第1シールリング53と第2シールリング54の摺接状態を監視し、フローティングシール50の異常を判定する。よって、ギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れる前に、フローティングシール50の交換等のメンテナンスを行うことができる。
【0069】
状態監視システム200では、複数の温度センサ60により検出される温度の互いの差からフローティングシール50の異常を判定することで、異物混入等による突発的なフローティングシール50の異常をより正確に判定することができる。
【0070】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0071】
変速機構1の状態監視システム100,200であって、変速機構1は、駆動源としての油圧モータ9を収容する固定ハウジング10と、油圧モータ9の出力回転が減速機30を介して伝達され回転する回転ハウジング20と、固定ハウジング10と回転ハウジング20の間に形成されるとともに、減速機30が収容され潤滑油が封入されるギヤ室4と、固定ハウジング10と回転ハウジング20とにわたって設けられ、ギヤ室4内の潤滑油をシールするフローティングシール50と、を有し、フローティングシール50は、固定ハウジング10に設けられる第1弾性リング51と、第1弾性リング51を介して固定ハウジング10に支持される第1シールリング53と、回転ハウジング20に設けられる第2弾性リング52と、第2弾性リング52を介して回転ハウジング20に支持され、第1シールリング53に摺接する第2シールリング54と、を有し、状態監視システム100,200は、第1シールリング53に設けられて第1シールリング53の温度を検出する温度検出器としての温度センサ60と、温度センサ60の検出結果に基づいてフローティングシール50の異常を判定する情報処理装置70と、を備え、情報処理装置70は、温度センサ60により検出される温度が予め定められる劣化判定閾値以上となった累積時間に基づいて、第1弾性リング51及び/または第2弾性リング52の劣化を判定する。
【0072】
この構成では、温度センサ60により第1シールリング53の温度を検出することによって、第1弾性リング51及び/または第2弾性リング52の経年劣化を監視し、フローティングシール50の異常を判定する。よって、ギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れる前に、フローティングシール50の交換等のメンテナンスを行うことができる。
【0073】
また、状態監視システム200では、情報処理装置70は、温度センサ60により検出される温度が劣化判定閾値よりも大きい異常判定閾値以上になると、第1弾性リング51及び/または第2弾性リング52の異常を判定する。
【0074】
また、状態監視システム200では、温度センサ60は、第1シールリング53の周方向に互いに離れて複数設けられ、情報処理装置70は、複数の温度センサ60により検出される温度の互いの差からフローティングシール50の異常を判定する。
【0075】
これらの構成では、異物混入等による突発的なフローティングシール50の異常を判定することができる。よって、ギヤ室4内の潤滑油が外部に漏れる前に、異物の除去やフローティングシール50の交換等のメンテナンスをすることができる。
【0076】
また、状態監視システム100,200では、温度センサ60は、第1シールリング53の内周面であって常に潤滑油に浸る位置に設けられる。
【0077】
この構成では、温度センサ60は常に潤滑油に浸っており、温度変化が小さい状態で設けられるため、フローティングシール50の異常を判定する精度が向上する。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0079】
1…変速機構、4…ギヤ室、9…油圧モータ(駆動源)、10…固定ハウジング、20…回転ハウジング、30…減速機、50…フローティングシール、51…第1弾性リング、52…第2弾性リング、53…第1シールリング、54…第2シールリング、60…温度センサ(温度検出器)、70…情報処理装置、100,200…状態監視システム