(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134119
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】車両用表示装置
(51)【国際特許分類】
B60K 35/23 20240101AFI20240926BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240926BHJP
G09G 5/00 20060101ALI20240926BHJP
G09G 5/373 20060101ALI20240926BHJP
G09G 5/38 20060101ALI20240926BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B60K35/00 A
G08G1/16 C
G09G5/00 510Z
G09G5/00 550C
G09G5/373
G09G5/38
G09G5/373 200
G02B27/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044236
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 佳行
(72)【発明者】
【氏名】武田 広大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝光
【テーマコード(参考)】
2H199
3D344
5C182
5H181
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA13
2H199DA36
3D344AA20
3D344AA21
3D344AB01
3D344AC25
3D344AD01
5C182AA05
5C182AA22
5C182AB25
5C182AB31
5C182BA14
5C182BA56
5C182CB11
5C182CB12
5C182CB14
5C182CB41
5C182CB54
5H181AA01
5H181BB20
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC27
5H181FF04
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF33
(57)【要約】
【課題】車両用表示装置にて、運転者に運転視界における所定の対象を視認しやすくしつつ、周囲に注意を向ける妨げになりにくい表示を行う。
【解決手段】車両の運転者の視界前方に位置する所定の対象を検出し、抽出された対象Sまたはその近傍にHUD装置による表示Dの一部または全部を重ねる車両用表示装置において、抽出対象Sの大きさに応じて表示Dの態様を変更する。態様調整部は、検出された抽出対象Sの大きさが所定以下である場合に、表示Dの位置、形状および大きさのうち少なくとも1つを変更し、抽出対象Sの一部または全部が表示Dにより隠れない状態とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるヘッドアップディスプレイ装置(1)による表示(D)の一部または全部を、前記車両の運転者の視界前方に位置する所定の対象(S)またはその近傍に重ねる制御を行う車両用表示装置であって、
前記車両の車載機器(4)からの信号に基づいて、前記対象を検出する対象抽出部(31)と、
前記対象の大きさが所定以下である場合に、前記表示の形状、前記表示の前記対象に対する位置、および前記表示の前記対象に対する大きさのうち少なくとも1つを変更する制御を実行する態様調整部(33)と、を有する車両用表示装置。
【請求項2】
前記表示のうち前記対象に重畳する部分を重なり(R2)とし、前記表示および前記対象を同一の仮想平面に投影したときの前記仮想平面における鉛直方向を下方向とし、前記下方向とは反対方向を上方向とし、前記仮想平面における上下方向と直交する方向を水平方向として、
前記態様調整部は、前記対象の大きさが所定以下である場合、前記対象の面積に対する前記重なりの面積の割合が所定以下となるように、前記表示の位置を前記下方向または前記水平方向に移動させる、請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項3】
前記態様調整部は、前記対象の大きさが所定値を超える場合、前記表示の全域を前記対象に重畳するように前記表示の位置を移動させる、請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項4】
前記態様調整部は、前記対象の大きさが所定以下である場合、前記表示のうち前記対象に重畳する部分を重なり(R2)として、前記対象の面積に対する前記重なりの面積の割合が所定以下となるように、前記表示を面積の小さい別の表示に切り替える簡素化を実行する、請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項5】
前記態様調整部は、前記対象の大きさが所定以下である場合、前記表示のうち前記対象に重畳する部分を重なり(R2)として、前記対象の面積に対する前記重なりの面積の割合が所定以下となるように、前記表示の一部をカットして面積の小さい表示に切り替える、請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項6】
前記態様調整部は、前記対象の大きさが所定以下である場合、前記表示のうち前記対象に重畳する部分を重なり(R2)として、前記対象の面積に対する前記重なりの面積の割合が所定以下となるように、前記表示の全体を縮小した表示に切り替える、請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項7】
前記態様調整部は、前記対象の大きさが所定以下、かつ前記表示が分割可能な複数の表示部(D1、D2)を含む場合、前記対象を挟んだ両側に複数の前記表示部の位置を移動させる、請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項8】
前記対象抽出部は、前記対象の一部を重要領域として設定し、
前記態様調整部は、前記対象のうち前記重要領域に前記表示を重畳しない制御を実行する、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用表示装置。
【請求項9】
前記車載機器からの信号に基づいて、前記車両の緊急度を判定する緊急度判定部(32)をさらに備え、
前記態様調整部は、前記緊急度判定部により前記緊急度が高いと判定された場合には前記表示と前記対象との重畳を制限し、前記緊急度判定部により前記緊急度が低いと判定された場合には前記表示の少なくとも一部を前記対象と重畳させる、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載される車両用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ヘッドアップディスプレイ(以下「HUD」という)装置のように、運転視界に重畳させた虚像を車両の運転者に視認させる表示装置が知られている。この種の車両用表示装置としては、例えば特許文献1に記載のHUD装置が挙げられる。特許文献1に記載のHUD装置は、運転者の視線を誘導させる対象を検出し、当該対象に視線を向けることを誘導する表示を行い、車両の運転者が当該対象へ視線を移動するのに要する時間を短縮することで安全運転に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のHUD装置は、所定の対象物を中心として放射状に移動する光点、すなわちオプティカルフローを表示することで、当該対象物への視線移動の時間を短縮する。
【0005】
しかしながら、このHUD装置は、運転者が表示自体に意識を向けることで、運転視界における周囲への注意が疎かになったり、運転視界のうち表示の背後の視認性が低下したりするおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、運転者に運転視界における所定の対象を視認しやすくしつつも、当該対象以外の周囲に注意を向ける妨げになりにくい表示を行う車両用表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の車両用表示装置は、車両に搭載されるヘッドアップディスプレイ装置(1)による表示(D)の一部または全部を、車両の運転者の視界前方に位置する所定の対象(S)またはその近傍に重ねる制御を行う車両用表示装置であって、車両の車載機器からの信号に基づいて、対象を検出する対象抽出部(31)と、対象の大きさが所定以下である場合に、表示の形状、表示の対象に対する位置、および表示の対象に対する大きさのうち少なくとも1つを変更する制御を実行する態様調整部(33)と、を有する。
【0008】
これにより、HUD装置による表示の一部または全部が車両の運転者の視界前方に位置する所定の対象またはその近傍に重畳され、当該運転者が当該対象物を視認しやすい状態となる。また、対象抽出部により検出された対象の大きさが所定以下である場合、表示の形状、当該対象に対する表示の位置あるいは大きさのうち少なくとも1つを変更することで、当該対象の視認のしやすさを確保することができる。このため、この車両用表示装置は、運転者が所定の対象を視認しやすい表示をしつつ、周囲に注意を向ける妨げになりにくい表示を行うことができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の表示システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】車外撮像部による撮像の一例を示す図である。
【
図3】対象抽出部により抽出された対象、HUD装置による表示、および合成領域についての説明図である。
【
図4】
図3に示す対象を簡易化したモデルを示す図である。
【
図5】対象と表示との重なりについての説明図である。
【
図6】第1の表示制御における処理動作例を示すフローチャートである。
【
図7】対象の大きさが所定以下の場合における表示制御の一例を示す図である。
【
図8】対象の大きさが所定値を超える場合における表示制御の一例を示す図である。
【
図9】第2の表示制御における処理動作例を示すフローチャートである。
【
図10】第2の表示制御において、対象の大きさが所定以下の場合における表示制御の一例を示す図である。
【
図11】第3の表示制御における処理動作例を示すフローチャートである。
【
図12】第3の表示制御において、対象の大きさが所定以下の場合における表示制御の一例を示す図である。
【
図13】第4の表示制御における処理動作例を示すフローチャートである。
【
図14】第4の表示制御において、対象の大きさが所定以下の場合における表示制御の一例を示す図である。
【
図15】第5の表示制御における処理動作例を示すフローチャートである。
【
図16】第5の表示制御を実行可能な表示の一例を示す図である。
【
図17】第5の表示制御を実行可能な表示の他の一例を示す図である。
【
図18】第5の表示制御において、対象の大きさが所定以下の場合における表示制御の一例を示す図である。
【
図19】第5の表示制御において、対象の大きさが所定以下の場合における表示制御の他の一例を示す図である。
【
図20】第5の表示制御において、対象の大きさが所定以下の場合における表示制御の他の一例を示す図である。
【
図21】第6の表示制御における処理動作例を示すフローチャートである。
【
図22】第7の表示制御における処理動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(実施形態)
実施形態に係る車両用表示装置を備える表示システムについて、図面を参照して説明する。本表示システムは、例えば、自動車などの車両に搭載されることが好適であるが、これに限定されるものではなく、運転者が必要な移動体に適用されてもよい。本明細書では、本表示システムが自動車に適用された場合を代表例として説明する。
【0013】
以下、説明の便宜上、本表示システムが搭載される車両を「自車両」と称し、自車両の運転席に着座する乗員を「運転者」と称する。
【0014】
〔基本構成〕
本実施形態の表示システムは、例えば
図1に示すように、HUD装置1と、表示生成部2と、表示制御部3と、車載機器4とを備える。本表示システムは、例えば、HUD装置1が表示生成部2からの映像信号に基づいて自車両の運転者に視界前方に重畳した表示を視認させると共に、表示制御部3が車載機器4からの各種信号に基づいて当該表示の態様を制御する構成となっている。
【0015】
HUD装置1は、運転者が頭を下げずに自車両の前方を向いている状態で、当該運転者が視認可能な表示を行う表示装置である。HUD装置1は、例えば、図示しない光源から映像光を出力し、当該映像光をミラーで反射させて自車両のフロントガラスに向けて照射することで、運転者の運転視界に重なる虚像を映し出す。これにより、運転者は、自車両の前方の風景と共に、当該風景の一部に重畳するHUD装置1による表示を視認することができる。HUD装置1は、運転者に運転視界およびこれに重畳する表示を視認させることができるものであればよく、上記の構成に限定されない。例えば、HUD装置1は、自車両のフロントガラスに配置され、実像としての映像を表示する任意の透明ディスプレイであってもよい。なお、ヘッドアップディスプレイや透明ディスプレイの構成等については公知であるため、本明細書では、これらの詳細についての説明を省略する。
【0016】
表示生成部2は、表示制御部3からの各種信号に基づいて、HUD装置1による表示用の映像信号を生成する。表示生成部2からの映像信号は、HUD装置1に出力される。なお、
図1では、表示生成部2が表示制御部3やHUD装置1から独立したものとなっているが、これに限定されるものではなく、表示生成部2は、表示制御部3あるいはHUD装置1の一部として構成されてもよい。
【0017】
表示制御部3は、HUD装置1の表示の制御を実行するものであり、例えば、対象抽出部31と、緊急度判定部32と、態様調整部33とを有してなる。表示制御部3は、例えば、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成されている。なお、CPU、ROM、RAM、I/Oとは、それぞれ、Central Processing Unit、Read Only Memory、Random Access Memory、Input/Outputの略称である。
【0018】
対象抽出部31は、例えば、車外撮像部41からの画像データに基づいて、運転者の運転視界に存在する所定の対象を抽出する。対象抽出部31は、例えば、車外撮像部41からの画像データを公知の画像解析技術により解析し、自車両の前方に存在する所定の対象を検出すると共に、検出した対象の形状および大きさを推定する。所定の対象は、例えば、人、車両、道路上の障害物、動物、壁、電柱、樹木、標識、信号機や建造物などが挙げられるが、これらに限定されない。対象抽出部31は、例えば、抽出した対象の位置、大きさや形状などの情報を緊急度判定部32および態様調整部33に出力する。
【0019】
以下、説明の簡便化のため、対象抽出部31が抽出した対象を「抽出対象」と称し、抽出対象の位置、大きさや形状などの情報を「対象情報」と称する。
【0020】
緊急度判定部32は、例えば、対象抽出部31からの対象情報や車載機器4からの各種信号に基づいて、自車両の緊急度を判定する。緊急度判定部32は、例えば、対象情報および各種信号と、表示制御部3内あるいは外部の図示しない記録媒体に格納された緊急度判定用のデータテーブルとに基づいて、自車両の緊急度を判定する。緊急度判定部32は、例えば、自車両の緊急度を判定した結果の情報データ(以下「緊急度データ」という)を態様調整部33に出力する。なお、自車両の緊急度の判定については、公知の方法が採用可能であり、本明細書ではその詳細についての説明を省略する。
【0021】
態様調整部33は、HUD装置1による虚像あるいは実像の表示の態様調整を行うことで、運転者が抽出対象を視認しやすい表示としつつ、当該表示が運転視界における周囲に注意を向ける妨げとなることを防ぐ役割を果たす。態様調整部33は、例えば、対象情報や緊急度データ等に基づいて、HUD装置1による表示のうち抽出対象またはその近傍に重畳するもの(以下「重畳表示」という)の表示態様を調整する。態様調整部33は、例えば、抽出対象の大きさが所定以下である場合、重畳表示の形状、抽出対象に対する重畳表示の位置、大きさのうち少なくとも1つを変更する制御を行う。態様調整部33による表示の制御の詳細については後述する。
【0022】
車載機器4は、例えば、車外撮像部41、ナビゲーション装置42、車載センサ43および乗員撮像部44を有してなる。車載機器4は、例えば、各構成要素からの信号を表示制御部3に直接入力されるか、あるいは図示しない車両ECUや車内LANを経由して表示制御部3に入力される、またはこれらの組み合わせとなるように構成される。なお、車載機器4の構成は、
図1に示す例に限定されるものではなく、適宜変更されうる。
【0023】
車外撮像部41は、例えば、自車両の前方を撮像するカメラである。自車両の前方とは、運転者の運転視界にある空間、すなわちフロントガラスよりも前方に位置する空間を意味する。車外撮像部41は、例えば、車体あるいは車室のうち自車両の前方を撮像可能な任意の箇所に配置される。車外撮像部41は、例えば、自車両の前方を撮像して得られる画像データを表示制御部3に出力する。
【0024】
ナビゲーション装置42は、例えば、地図データベースに記憶してある地図情報に基づいて、自車両の現在位置や地図の映像などを示す各種の映像信号を表示制御部3に入力する。ナビゲーション装置42は、例えば、公知のGPSにより自車両の緯度、経度、現在時刻、車両が向いている方位に関する情報を取得し、これらの情報を表示制御部3に入力する。GPSとは、Global Positioning Systemの略称である。
【0025】
車載センサ43は、例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ、超音波センサやLiDARセンサなどの各種センサであり、自車両の任意の箇所に配置される。LiDARとは、Light Detection And Rangingの略称である。車載センサ43は、例えば、加速度センサやジャイロセンサの場合、自車両に印加される加速度や角速度などの各種の物理量の大きさに応じた検出信号を出力する。車載センサ43は、例えば、超音波センサやLiDARセンサの場合、自車両から超音波やレーザ光を送信波として送信し、送信波の反射波を受信することで、送信波を反射した対象の有無、当該対象の方向および自車両からの距離などの情報を取得する。車載センサ43からの出力信号は、表示制御部3に向けて出力され、緊急度判定部32による判定や態様調整部33による表示制御などに用いられる。
【0026】
乗員撮像部44は、例えば、自車両の運転者を撮像する任意の撮像装置である。乗員撮像装置34は、例えば、株式会社デンソー製のドライバーステータスモニター(登録商標)とされるが、これに限定されない。乗員撮像部44は、例えば、公知の画像認証技術に基づいて、撮像した運転者の眼を含む画像データから、運転者の視線方向や自車両における運転者の目の位置を推定する。
【0027】
以上が、本表示システムの基本的な構成である。
【0028】
〔対象、合成領域および重なり〕
次に、本表示システムにおける重畳表示について説明する。
【0029】
例えば、対象抽出部31は、
図2に示すように、車外撮像部41で得られる画像について公知の画像解析技術により、他の車両V、人H、信号機TL、道路に引かれた線RLなどの所定の対象を検出する。対象抽出部31が抽出した抽出対象のデータは、例えば、態様調整部33に出力され、重畳表示の制御に用いられる。
【0030】
以下、抽出対象に人Hが含まれており、人Hが検出された空間にHUD装置1による表示Dを重畳させたものを運転者に視認させる場合を代表例として説明する。また、説明の便宜上、
図2に示すように、重畳対象と表示Dとを同一の仮想平面に投影したとき、当該仮想平面のうち鉛直方向に沿った方向を「下」または「下方向」と称し、下方向の反対方向を「上」または「上方向」と称する。また、
図2に示すように、上下方向に直交する方向であって、自車両の車幅方向に沿った水平方向における左、右をそれぞれ単に「左」、「右」と称する。本明細書では、この左右方向を「水平方向」と称することがある。
図2以降の図面に示す「上」、「下」、「左」、「右」とは、上記した4つの方向にそれぞれ対応している。
【0031】
なお、
図3等では、表示Dが三角形状である場合を代表例として示しているが、これに限定されるものではなく、表示Dの形状や大きさ等については適宜変更されうる。また、
図3以降の図における表示Dについては、見易くするため、断面を示すものではないが、ハッチングを施している。
【0032】
例えば、態様調整部33は、
図3に示すように、抽出対象Sの外郭と抽出対象Sの下方に表示される表示Dとを包含する仮想領域である合成領域R1を設定する。合成領域R1は、抽出対象Sの外郭と表示Dの外郭とを同一の仮想平面に投影したとき、当該仮想平面においてこれら2つの外郭すべてを内側に包含すると共に、最小の面積となる外形、例えば上側に突き出た凸形状で設定される。態様調整部33は、例えば、抽出対象Sが人である場合には、上側ほど幅が狭く、下側ほど幅が広い略台形状の合成領域R1を設定する。例えば、抽出対象Sに対する表示Dの初期位置については予め設定されており、態様調整部33は、対象抽出部31が推定した抽出対象Sの大きさおよび位置と、表示Dの初期位置とに基づいて合成領域R1を設定する。例えば、表示Dは、
図3に示すように、抽出対象Sよりも下方であって、抽出対象Sとは重ならないように所定の距離を隔てた位置が初期位置として設定されており、後述する表示制御によりその表示位置が変更されうる。
【0033】
態様調整部33は、例えば
図4に示すように、抽出対象Sの外郭を矩形状などの簡素化した形状とみなし、簡素化した外形と表示Dとに基づいて合成領域R1を設定してもよい。抽出対象Sが例えば人などの複雑な外郭である場合や画像解析技術によって正確に外郭を推定することが難しい場合などにおいては、態様調整部33は、上記した簡易的な合成領域R1の設定を行ってもよい。
【0034】
ここで、合成領域R1は、表示Dを重畳させる対象の視認性を確保すること、および表示Dが重畳対象以外の運転視界における周囲への注意を妨げとなることを抑制することを両立する観点から、大きさの上限が設定されている。例えば、合成領域R1を大きくし過ぎた場合、運転視界において重畳対象および表示Dが占める割合が大きくなり、重畳対象以外に注意を向ける妨げとなってしまう。このため、態様調整部33は、例えば、特に上下方向において合成領域R1が所定の上限値を超えない範囲内で設定する。
【0035】
また、態様調整部33は、重畳対象の大きさ、特に上下方向における大きさに応じて表示Dの位置、形状や大きさのうち少なくとも1つを変更する。以下、説明の便宜上、重畳対象の上下方向における大きさを「上下サイズ」と称する。例えば、態様調整部33は、重畳対象の上下サイズが所定値を超える場合、
図5に示すように、重畳対象すなわち抽出対象Sに表示Dの一部が重なるように調整を行う。重畳対象の大きさが所定値を超える場合とは、表示Dの一部または全部を重畳対象に重ねたとき、重畳対象のうち表示Dからはみ出した部分が運転者にとって十分に視認可能な大きさである状態を意味する。つまり、態様調整部33は、重畳対象が大きい場合には、表示Dの一部または全部を重畳対象に重なる位置に表示し、合成領域R1が上記した上限値を超えないように調整する。
【0036】
一方、重畳対象が小さい場合、すなわち重畳対象に表示Dの一部を重ねてしまうと、表示Dからはみ出した部分のみで運転者が視認することが難しくなる場合、態様調整部33は、重畳対象の視認を妨げないように表示Dの位置、形状や大きさ等の調整を行う。
【0037】
以下、説明の便宜上、
図5に示すように、上下方向において、表示Dのうち抽出対象Sに重なる部分を「重なりR2」と称し、抽出対象Sとは重ならない部分を「はみ出し部R3」と称する。「表示Dの一部が重畳対象に重なる」とは、表示Dに重なりR2が生じる表示状態を意味する。「表示Dの全部が重畳対象に重なる」とは、表示Dのすべてが重なりR2となる表示状態に加え、水平方向において表示Dの一部が重畳対象からはみ出しているが、表示Dの下端が重畳対象の外郭下端と重なっているか、外郭よりも上に位置する表示状態を含む。
【0038】
重なりR2は、例えば、重畳対象の上下サイズが大きいほど、その上下方向におけるサイズ、すなわち許容上限が大きくされる。これは、重畳対象に表示Dの一部または全部を重ねたとき、重畳対象のうち表示Dからはみ出した部分だけでも運転者が十分に視認可能なためである。また、重畳対象と表示Dとを重ねないと合成領域R1が上限値を超える場合には、当該上限値を超えないように重なりR2が許容され、表示Dの少なくとも一部が重なりR2となる。
【0039】
一方、重なりR2は、重畳対象の視認を妨げないように、重畳対象の上下サイズが所定以下の場合には許容上限が設定され、その上下方向におけるサイズを小さくするか、あるいは生じない状態とされる。重畳対象の上下サイズが小さく、表示Dを重ねると重畳対象の視認が損なわれる場合には、重なりR2が許容されず、表示Dは、重畳対象とは重ならない位置に表示される。
【0040】
本表示システムは、重畳対象の近傍にHUD装置1による表示Dを重ねたものを運転者に視認させ、重畳対象の見易さと周囲への注意の妨げ抑制とを両立するように、重畳対象の大きさに応じて合成領域R1の大きさの設定および表示Dの重なりの調整を行う。以下、この表示制御の具体例について説明する。
【0041】
〔第1の表示制御〕
次に、第1の表示制御について説明する。
【0042】
本表示システムは、例えば、自車両のイグニッションがオン状態になる等の所定の開始条件を満たした場合、
図6に示す制御フローを実行する。
【0043】
ステップS110では、例えば、車外撮像部41は、自車両の前方の空間を撮像し、得られた画像データを表示制御部3に出力する。
【0044】
ステップS120では、例えば、対象抽出部31は、ステップS110で得られる画像データについて公知の画像解析技術により自車両の前方に存在する所定の対象を抽出する。対象抽出部31は、他の車両V、人H、信号機TL、道路に引かれた線RLなどの所定の対象を検出する。また、例えば、対象抽出部31は、抽出対象の視角や画像における抽出対象が占める面積割合等に基づいて、各抽出対象の大きさについての推定を行う。
【0045】
以下、抽出対象に人Hが含まれると共に、人Hが検出された空間にHUD装置1による表示を重畳する場合を代表例として説明するが、他の抽出対象についても同様の表示制御を実行してもよい。
【0046】
続いて、ステップS130では、表示制御部3は、例えば、抽出対象Sの上下方向における大きさが所定の閾値以下であるか否かの判定を行い、肯定判定の場合には処理をステップS140に進め、否定判定の場合には処理をステップS150に進める。ステップS130における閾値は、例えば、ステップS110で得られた画像における抽出対象Sの上下方向における両端と運転者の目の位置とを繋いで得られる2つの仮想直線のなす角度、すなわち視角で設定される。この場合、閾値は、例えば、車載センサ43により取得する抽出対象と自車両との距離に応じた視角の数値(限定するものではないが、3~4°など)で設定される。なお、ステップS130における閾値は、上記の設定に限定されるものではなく、例えば、ステップS110で得られる画像の上下方向における抽出対象の上下端の間隔で設定されてもよく、適宜変更されうる。
【0047】
ステップS140では、例えば、態様調整部33は、
図7に示すように表示Dについて一部のみが抽出対象Sと重なる表示位置に設定する。例えば、態様調整部33は、上下方向において抽出対象Sに単独で運転者に視認可能な面積が残るように表示Dの位置を調整する。言い換えると、ステップS140では、抽出対象Sは、表示Dの位置調整により、表示Dからはみ出す部分の上下サイズあるいは割合が視認可能な下限値(例えば予め設定)以上とされる。ステップS140では、例えば、態様調整部33は、表示Dに重なりR2とはみ出し部R3が生じると共に、重なりR2がはみ出し部R3よりも小さくなる表示位置に調整する。そして、態様調整部33は、表示Dの位置を調整した後、表示生成部2に信号を出力して映像信号を生成させる。これにより、HUD装置1は、重畳対象に対して位置調整がさせた表示Dを運転者に視認させる。
【0048】
なお、ステップS140では、態様調整部33は、抽出対象Sの上下サイズが小さく、表示Dの一部を重ねると運転者による視認を妨げるおそれがある場合、表示D全域が抽出対象Sとは重ならない表示位置(初期位置など)に設定してもよい。また、上記では、重なりR2がはみ出し部R3よりも小さくなる表示位置に調整する例を挙げたが、調整前に比べて重なりR2が小さくなる表示Dの位置調整であればよく、重なりR2がはみ出し部R3よりも小さくなくてもよい。
【0049】
ステップS150では、例えば、態様調整部33は、
図8に示すように表示Dについて全部が抽出対象Sと重なる表示位置に設定する。この場合、表示Dは、
図8に示すように、水平方向においては重畳対象とは重ならない領域が生じてもよい。そして、ステップS140と同様に、態様調整部33からの信号に基づいて表示生成部2が表示Dの位置調整に対応する映像信号を生成し、HUD装置1が上下方向において重畳対象に全部重なる表示Dを運転者に視認させる。
【0050】
そして、例えば、ステップS140またはステップS150の後、表示制御部3は、処理をステップS110に戻し、イグニッションあるいはHUD装置1がオフ状態になるなどの所定の終了条件を満たすまで上記した一連の処理を繰り返す。
【0051】
以上が、第1の表示制御の基本処理である。これにより、本表示システムは、重畳対象を検出すると共に、重畳対象すなわち抽出対象Sの大きさに応じてHUD装置1による表示Dの位置を変更することで、重畳対象の存在を明示しつつ、周囲への注意を妨げない表示を行うことが可能となる。
【0052】
〔第2の表示制御〕
次に、第2の表示制御について説明する。ここでは、第2の表示制御のうち第1の表示制御とは異なる点について主に説明する。
【0053】
表示システムは、例えば、所定の開始条件を満たした場合、
図9に示す制御フローを実行する。本表示システムは、第1の表示制御と同様に、ステップS110~S130の処理を実行し、ステップS130にて肯定判定の場合には処理をステップS210に進め、否定判定の場合には処理をステップS150に進める。
【0054】
ステップS210では、態様調整部33は、例えば
図10に示すように、抽出対象Sのうち表示Dから上側にはみ出した部分の割合が所定値以上となるように、表示Dを簡素化して上下サイズが小さい意匠に変更する。ここでは、例えば、簡素化前の表示Dが抽出対象Sへの注意喚起を示す図形の表示部D1と抽出対象Sまでの距離情報を示す表示部D2とを有し、表示部D1、D2が上下に位置をずらして配置されるものを代表例として示している。ステップS210では、表示Dは、例えば、表示部D1を省き、表示部D2を残すように簡素化されるが、これに限定されない。例えば、ステップS210では、表示Dは、表示部D2を残すと共に、表示部D1の全体を縮小して上下サイズを小さくしつつ、三角形内の「!」を省いた三角形の外形のみを残すような簡略化がなされてもよい。つまり、表示Dの簡素化は、抽出対象Sのはみ出し部分の割合が所定以上となるように、上下サイズや面積が小さい別の表示に切り替えるものであればよく、その手法については適宜変更されうる。その後、上記第1の表示制御と同様に、態様調整部33が表示生成部2に信号を出力し、表示生成部2が意匠変更した表示Dに対応する映像信号をHUD装置1に出力する。これにより、運転者は、HUD装置1の簡素化された表示Dの重畳表示を視認することとなる。
【0055】
ステップS150またはステップS210の後の処理については、例えば、上記第1の表示制御と同様である。
【0056】
第2の表示制御によっても、第1の表示制御と同様の効果が得られる。なお、第2の表示制御では、例えば、表示Dは、下端が重畳対象の下端と重なる位置で固定され、重畳対象の大きさが所定以下の場合に下端側の一部または全部を残して簡素化される。
【0057】
〔第3の表示制御〕
次に、第3の表示制御について説明する。第3の表示制御は、
図11に示すように、ステップS140に代わってステップS310の処理を実行する点で第1の表示制御とは異なっている。ここでは、ステップS310について主に説明する。
図12では、表示DのうちステップS310の処理でカットされる部分の外郭を破線で示している。
【0058】
ステップS310では、例えば、態様調整部33は、
図12に示すように、抽出対象Sのうち表示Dから上および左右にはみ出した部分の割合が所定値以上となるように、初期設定の表示Dのうち上および左右の一部をカットした意匠に変更する。ステップS310でカットされる部分の割合については、例えば、抽出対象Sの大きさが小さくなるほど多くなるように予め設定されるが、少なくとも抽出対象Sのうち表示Dからはみ出す部分の大きさが視認可能な下限以上となるように設定される。その後、上記第1の表示制御と同様に、態様調整部33が表示生成部2に信号を出力し、一部がカットされた表示Dに対応する映像信号が表示生成部2からHUD装置1に出力される。これにより、運転者は、HUD装置1による一部がカットされた表示Dの重畳表示を視認することとなる。
【0059】
第3の表示制御によっても、第1の表示制御と同様の効果が得られる。
【0060】
〔第4の表示制御〕
次に、第4の表示制御について説明する。第4の表示制御は、
図13に示すように、ステップS140に代わってステップS410の処理を実行する点で第1の表示制御とは異なっている。ここでは、ステップS410について主に説明する。
図14では、ステップS410の処理による縮小前の表示Dの外郭を破線で示している。
【0061】
ステップS410では、例えば、態様調整部33は、
図14に示すように、抽出対象Sのうち表示Dからはみ出した部分の割合が所定値以上となるように、初期設定の表示D全体を縮小した意匠に変更する。ステップS410における表示Dの縮小については、抽出対象Sの大きさが小さくなるほど小さくように予め設定されるが、少なくとも抽出対象Sのうち表示Dからはみ出す部分の大きさが視認可能な下限以上となるように設定される。その後、上記第1の表示制御と同様に、態様調整部33からの表示生成部2に信号が出力され、HUD装置1が表示生成部2からの映像信号に基づいて縮小された表示Dの重畳表示を行う。
【0062】
第4の表示制御によっても、第1の表示制御と同様の効果が得られる。
【0063】
〔第5の表示制御〕
次に、第5の表示制御について説明する。第5の表示制御は、
図15に示すように、ステップS140に代わってステップS510の処理を実行する点で第1の表示制御とは異なっている。ここでは、ステップS510について主に説明する。
【0064】
第5の表示制御は、例えば、
図16や
図17に示すように、初期設定の表示Dが左右に分割可能な複数の表示部D1、D2で構成されている場合などに実行することができる。表示部D1、D2は、例えば、
図16に示すように左右対称な任意の形状とされた一対の意匠、あるいは
図17に示すように重畳対象までの距離情報および注意喚起のための記号などの独立した異なる種類の意匠の組み合わせとされる。
【0065】
ステップS510では、態様調整部33は、例えば
図18や
図19に示すように、表示部D1、D2それぞれについて抽出対象Sを隔てた左右に位置するように表示位置を変更する。ステップS510では、合成領域R1は、上下方向におけるサイズについては変更されず、水平方向におけるサイズが大きく設定される。その後、上記第1の表示制御と同様に、態様調整部33からの表示生成部2に信号が出力され、HUD装置1が表示生成部2からの映像信号に基づいて左右に分割された表示Dの重畳表示を行う。
【0066】
なお、ステップS510では、重畳対象の左右それぞれに表示部D1、D2を表示させる例について説明したが、これに限定されるものではなく、右または左の一方に表示部D1、D2を表示させてもよい。例えば
図20に示すように、表示Dが抽出対象Sの横に配置しても表示の重畳感が損なわれない意匠である場合には、態様調整部33は、ステップS510にて右または左の一方に表示Dが表示されるように位置を変更してもよい。
【0067】
第5の表示制御によっても、第1の表示制御と同様の効果が得られる。
【0068】
〔第6の表示制御〕
次に、第6の表示制御について説明する。
【0069】
第6の表示制御は、例えば、第1ないし第5の表示制御のいずれかと並行して実行され、抽出対象に特に視認させる必要性が高い重要な領域が存在する場合に、重畳表示における重なりR2の制限を設けるために行われる。ここでは、第6の表示制御のうち第1の表示制御とは異なる点について主に説明する。
【0070】
例えば、表示制御部3は、
図21に示すように、ステップS110、S120の終了後、処理をステップS610に進める。ステップS610では、例えば、対象抽出部31は、抽出対象Sの種類を判定すると共に、種類に応じて抽出対象Sにおける重要領域を設定する。重要領域とは、抽出対象Sのうち特に視認することが重要な一部の領域を意味し、例えば、抽出対象Sが人の場合には顔あるいは頭部全体、抽出対象Sが車両の場合には方向指示器やブレーキランプ、といったように抽出対象Sの種類に応じて予め設定されている。例えば、抽出対象Sの種類とこれに対応する重要領域とを関連付けたデータテーブルを予め作成し、当該データテーブルを表示制御部3の図示しない記録媒体に格納しておく。そして、ステップS610では、例えば、対象抽出部31は、ステップS120における抽出対象の結果と上記したデータテーブルとに基づいて、抽出対象Sの一部を重要領域として設定し、重要領域のデータを態様調整部33に出力する。
【0071】
続くステップS620では、例えば、態様調整部33は、対象抽出部31からの重要領域のデータに基づいて、重要領域について重畳を禁止する領域として設定する。これにより、例えば、重畳対象の上下サイズが大きく、表示Dの全部を重畳対象に重ねることが許容される場合であっても、重要領域については表示Dが重畳しないように、位置、形状や大きさの少なくとも1つが変更されることとなる。ステップS620が終了した後、例えば、表示制御部3は、処理をステップS110に戻し、所定の終了条件を満たすまで上記した一連の処理を繰り返す。
【0072】
第6の表示制御によれば、第1ないし第5の表示制御において、抽出対象Sのうち特に重要な部位の視認性を確保することができる。
【0073】
〔第7の表示制御〕
次に、第7の表示制御について説明する。
【0074】
第7の表示制御は、例えば、第1ないし第5の表示制御のいずれかと並行して実行され、自車両の緊急度に応じて、重畳表示における重なりR2の許容度合いを緩和あるいは制限するために行われる。ここでは、第7の表示制御のうち第1の表示制御とは異なる点について主に説明する。
【0075】
例えば、表示制御部3は、
図22に示すように、ステップS110、S120の終了後、処理をステップS710に進める。ステップS710では、例えば、緊急度判定部32は、ステップS120による対象抽出の結果、および車載センサ43からの各種信号に基づいて、自車両が緊急度の高い状態であるか否かの判定を行う。例えば、「抽出対象が人、かつ自車両の走行ルートの前方にある」などの緊急度が高い状態として想定される複数の状況を緊急度判定用のデータテーブルを予め作成し、表示制御部3の図示しない記憶媒体に格納しておく。そして、緊急度判定部32は、例えば、対象抽出の結果、車載センサ43からの各種信号、および緊急度判定用のデータテーブルに基づいて、緊急度が高い状態に該当する場合を緊急度が高いと判定し、そうでない場合を緊急度が低いと判定する。緊急度判定部32は、例えば、ステップS710の判定結果、すなわち緊急度データを態様調整部33に出力する。
【0076】
ステップS710にて、表示制御部3は、肯定判定の場合には処理をステップS720に進め、否定判定の場合には処理をステップS730に進める。
【0077】
ステップS720では、自車両の緊急度が高く、運転者が重畳対象を十分に視認可能としなければならない状況であるため、例えば、態様調整部33は、重なりR2の許容を制限し、必要に応じて、表示Dの位置、形状や大きさの少なくとも1つを変更する。つまり、ステップS720では、例えば、態様調整部33は、重なりR2の許容上限の閾値を下げるか、あるいはゼロに設定し、重畳対象が表示Dにより隠れない状態とする。
【0078】
ステップS730では、自車両の緊急度が低く、運転者が重畳対象を視認する必要性が低い状況であるため、例えば、態様調整部33は、重なりR2の許容制限を緩和し、合成領域R1を小さく設定する。つまり、態様調整部33は、例えば、重畳対象の大きさが所定以下の場合であっても、表示Dに重なりR2が生じることを許容し、表示Dの一部または全部が重畳対象に重なる状態となるように調整する。つまり、ステップS730では、例えば、態様調整部33は、重なりR2の許容上限の閾値を維持するか、あるいは上げるように設定し、重畳対象の少なくとも一部が表示Dにより隠れる状態とする。
【0079】
ステップS720またはS730の後、上記第1ないし第5の表示制御と同様に、態様調整部33からの表示生成部2に信号が出力され、HUD装置1が表示生成部2からの映像信号に基づいて表示Dを運転者に視認させる。そして、例えば、表示制御部3は、処理をステップS110に戻し、所定の終了条件を満たすまで上記した一連の処理を繰り返す。
【0080】
第7の表示制御によれば、第1ないし第5の表示制御において、自車両の緊急度が高い場合には重畳対象をより視認しやすい表示Dとし、緊急度が低い場合には表示Dの重なりR2を緩和して周囲への注意を向けやすい状態とすることができる。また、第7の表示制御は、第6の表示制御と並行して実行されてもよい。
【0081】
本実施形態によれば、運転者の視界前方に存在する所定の対象を検出し、該対象に重畳する表示を該運転者に視認させる表示システムにおいて、該対象の大きさが所定以下の場合、表示の位置、形状および大きさのうち少なくとも1つを変更する。このため、表示が重畳する対象を必要以上に隠した状態となることが抑制され、該対象の視認性を確保しつつ、周囲に注意を向ける妨げとならない表示を行うことが可能な表示システムとなる。
【0082】
また、本表示システムは、該対象のうち重要領域を設定し、重要領域に表示を重畳しない制御を行うことで、運転視界の前方に存在する対象の重要領域をより視認しやすい表示となる。さらに、本表示システムは、自車両の緊急度に応じて、表示と重畳対象との重なりを緩和または制限することで、自車両の状況に対応して、より適切な表示を行うことが可能となる。
【0083】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0084】
本開示に記載の表示制御部3及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の表示制御部3及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の表示制御部3及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0085】
なお、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0086】
1 HUD装置
31 対象抽出部
32 緊急度判定部
33 態様調整部
4 車載機器
D 表示
D1、D2 表示部
R2 重なり
S (運転者の視界前方に位置する)対象