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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134147
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】地盤改良体の評価方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 33/00 20060101AFI20240926BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20240926BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
E02D33/00
G01N29/04
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044285
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 広明
(72)【発明者】
【氏名】京田 裕二
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047BA04
2G047BC02
2G047BC07
2G047CA03
2G047GB16
2G047GG30
2G047GG46
(57)【要約】
【課題】地盤改良体の品質を早期に手間をかけることなく評価すると共に、施工不良への対応を容易に行う。
【解決手段】改良体Kの硬化前に、改良体K上或いは改良体Kの周囲の地表面に設定した起振位置12において弾性波を発生させると共に、改良体K中に設定した互いに深度が異なる複数の受振位置16A~16Fにおいて弾性波を受け、起振位置12から複数の受振位置16A~16Fまでの弾性波の到達時間を計測する。そして、硬化前の改良土Kと未改良地盤やダマ40との間に、弾性波が伝搬する速度差が発生することに着目して、計測した到達時間を利用して施工不良の有無を推定する。これにより、改良体Kの品質を施工直後に早期に評価することができ、強度試験などよりも手間をかけずに評価することもでき、改良体Kの硬化前であるため施工不良を解消するように容易に再施工を行うことができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を経時的に硬化させる改良材と地盤とを混合撹拌して地盤内に改良体を造成する地盤改良工法において、前記改良体の品質を評価する方法であって、
前記改良体の硬化前に、前記改良体上或いは前記改良体の周囲の地表面に設定した起振位置において弾性波を発生させると共に、前記改良体中に設定した互いに深度が異なる複数の受振位置において前記弾性波を受け、前記起振位置から前記複数の受振位置までの前記弾性波の到達時間を計測し、該到達時間を利用して施工不良の有無及び施工不良部分の位置を推定することを特徴とする地盤改良体の評価方法。
【請求項2】
前記起振位置を、平面視で前記改良体の周囲方向に互いに異なる複数の位置に設定することを特徴とする請求項1記載の地盤改良体の評価方法。
【請求項3】
前記到達時間を利用して、前記改良体の大きさを推定することを特徴とする請求項2記載の地盤改良体の評価方法。
【請求項4】
硬化前の前記改良体に中空のロッドを挿入し、該ロッド内に設置した受振機によって前記弾性波を受けることを特徴とする請求項1記載の地盤改良体の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良工法により地盤内に形成される改良体の品質を評価する地盤改良体の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械撹拌工法や高圧噴射撹拌工法などの地盤改良工法では、改良材と地盤とを混合撹拌し、改良材によって経時的に硬化させた改良体を地盤に造成する。このような地盤改良工法では、施工直後の改良土がスライム状であって試料の採取が困難であることから、硬化した改良体から試料を採取し、採取した試料の強度試験やコア観察などを行うことで品質を評価している。また、特許文献1には、改良体の硬化前にセンサを埋め込み、改良体の硬化後に改良体の上部などから打撃し、それによって計測される振動伝播速度から、改良体の強度を判定する強度判定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-253601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した従来の評価方法や特許文献1の強度判定方法では、改良体の硬化後に評価を行っているため、1~4週間程度の養生期間が経過しないと評価を行うことができなかった。更に、評価により施工不良などが判明しても、改良体は既に硬化しているため、再施工が困難であった。加えて、従来の評価方法では、採取した試料に対して試験を行うため、造成した改良体のうち、試料を採取した部分のみの品質しか評価できず、また、強度試験などに手間がかかるものであった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地盤改良体の品質を早期に手間をかけることなく評価すると共に、施工不良への対応を容易に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)地盤を経時的に硬化させる改良材と地盤とを混合撹拌して地盤内に改良体を造成する地盤改良工法において、前記改良体の品質を評価する方法であって、前記改良体の硬化前に、前記改良体上或いは前記改良体の周囲の地表面に設定した起振位置において弾性波を発生させると共に、前記改良体中に設定した互いに深度が異なる複数の受振位置において前記弾性波を受け、前記起振位置から前記複数の受振位置までの前記弾性波の到達時間を計測し、該到達時間を利用して施工不良の有無及び施工不良部分の位置を推定する地盤改良体の評価方法。
【0007】
本項に記載の地盤改良体の評価方法は、地盤内に改良材により硬化させた改良体を造成する地盤改良工法において、硬化前の改良土と未改良地盤やダマとの間に、弾性波が伝搬する速度差が発生することに着目して、地盤改良体の評価を行うものである。すなわち、土のせん断強度と弾性波(主にS波)の伝搬速度とには相関性があり、せん断強度が大きいと伝播速度は速くなる。従って、硬化前のスライム状の改良土は、せん断強度が比較的小さいため、弾性波の伝播速度もそれに応じて小さくなる。これに対し、土の塊である未改良地盤やダマは、スライム状の改良土よりも大きい強度を有しているため、それに応じて弾性波の伝播速度も大きくなる。
【0008】
そこで、本項に記載の地盤改良体の評価方法は、改良体の硬化前に、改良体上或いは改良体の周囲の地表面に設定した起振位置において弾性波を発生させ、それを改良体中に設定した互いに深度が異なる複数の受振位置において受ける。ここで、弾性波は、起振位置から各受振位置までの最短経路を伝搬するのではなく、一番早く到達する経路で伝播するため、起振位置と各受振位置との間やその近傍に周囲よりも伝播速度が速い物体があると、その物体を経由して伝播する。このため、ダマや改良径不足などがなく均一に改良体が造成されていると、改良体中に設定した深度が異なる複数の受振位置において、深度に比例して弾性波の到達時間が遅くなる結果が得られる。従って、このような結果が得られた場合は、改良体が均一に造成されており、ダマや改良径不足などの施工不良がないと推定されるものである。
【0009】
一方、改良体にダマや改良径不足などの施工不良があると、その施工不良部分の近傍の深度に設定された受振位置に対して、起振位置から施工不良部分を経由して弾性波が伝搬するため、施工不良がない場合よりも伝播速度が速くなる。すると、施工不良部分の近傍の深度に設定された受振位置では、弾性波の伝搬速度がイレギュラーに速くなり、複数の受振位置において弾性波の到達時間が深度に比例するような計測結果が得られない。従って、このような結果が得られた場合は、改良体にダマや改良径不足などの施工不良があると推定されるものである。更に、弾性波の伝搬速度がイレギュラーに速くなっている受振位置の深度、及びその受振位置と起振位置との位置関係から、施工不良部分の位置が推定されることとなる。
【0010】
上記のように、硬化前の改良体について計測を行い、施工不良の有無を推定するため、改良体の品質が施工直後に早期に評価されるものである。しかも、施工不良が発見された場合でも、改良体が硬化する前であるため、施工不良が解消されるように、迅速かつ容易に再施工が行われるものである。また、起振位置で発生させた弾性波を複数の受振位置で受振した結果を利用して、改良体を評価するため、強度試験などを行う場合と比較して、手間が大幅に低減されるものである。更に、原地盤や硬化前のスライム状の改良体における弾性波の伝搬速度が把握されていない場合でも、複数の受振位置間の到達時間の関係性(相対速度)で評価されるので、様々な施工現場で適用されるものとなる。加えて、複数の受振位置での計測により、改良体の広い範囲の品質が評価されることとなり、また、必要に応じて複数の受振位置間の深度間隔が小さく設定されることで、計測精度が向上するものとなる。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記起振位置を、平面視で前記改良体の周囲方向に互いに異なる複数の位置に設定する地盤改良体の評価方法。
本項に記載の地盤改良体の評価方法は、弾性波を発生させる起振位置を複数設定するものであり、それら複数の起振位置を、平面視で改良体の周囲方向に互いに異なる位置に設定する。そして、起振位置で発生させた弾性波を複数の受振位置で受ける工程を、全ての起振位置について行い、それによって計測された全ての到達時間を利用して、施工不良の有無や施工不良部分の位置を推定するものである。これにより、複数の受振位置における深度が異なる計測データに加えて、複数の起振位置による平面方向の位置が異なる計測データが得られるため、改良体全体の品質が評価されるものとなる。
【0012】
(3)上記(2)項において、前記到達時間を利用して、前記改良体の大きさを推定する地盤改良体の評価方法。
本項に記載の地盤改良体の評価方法は、複数の受振位置において計測された弾性波の到達時間を利用して、改良体の大きさを推定するものである。すなわち、上記(2)項に記載したように、複数の起振位置における起振及び複数の受振位置における受振によって、改良体の全体的な計測データ(到達時間)が得られる。このため、各起振位置から各受振位置までの弾性波の伝搬経路に存在する、改良体の周囲の地盤や硬化前のスライム状の改良土についての、弾性波の伝播速度を予め把握しておくことで、その伝播速度と到達時間とから、改良体の大きさが推定されるものである。従って、改良体の大きさの推定値と設計値との比較などにより、改良体の品質が効率よく管理されるものである。
【0013】
(4)上記(1)項において、硬化前の前記改良体に中空のロッドを挿入し、該ロッド内に設置した受振機によって前記弾性波を受ける地盤改良体の評価方法。
本項に記載の地盤改良体の評価方法は、硬化前の改良体に中空のロッドを挿入し、このロッド内に設置した受振機によって弾性波を受けるものである。すなわち、改良体中に設定した複数の受振位置の各々に受振機が配置されるように複数の受振機を設置して、又は複数の受振機の設置位置を複数の受振位置として、複数の受振機により上記(1)項に記載したように弾性波の到達時間を計測する。或いは、受振機の数量が受振位置の数に満たない場合は、複数の受振位置の全てが網羅されるように受振機の設置位置を変更しながら、弾性波の到達時間を計測する。これによって、改良体中に設定する複数の受振位置での計測が容易に行われるものとなり、改良体の品質が効率よく評価されるものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のような構成であるため、地盤改良体の品質を早期に手間をかけることなく評価することができ、施工不良への対応も容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法で用いる評価システムの構成を概略的に示すイメージ図である。
図2】本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法の手順の一例を示すフロー図である。
図3】弾性波が伝搬するイメージ図及び複数の受振機による弾性波の受振タイミングを示しており、(a)は改良体が均一に造成された場合、(b)は改良体にダマが混在している場合、(c)は改良体に改良径不足がある場合である。
図4】複数の起振位置から弾性波を発生させる際の施工イメージ図であり、(a)及び(b)が図中左側の起振位置から発生させる場合の平面視及び側面視のもの、(c)及び(d)が図中右側の起振位置から発生させる場合の平面視及び側面視のものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法で使用する評価システム10の構成を概略的に示している。本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法及び評価システム10は、機械撹拌工法や高圧噴射撹拌工法などの地盤改良工法によって地盤G内に造成された改良体K(以下、「改良土K」とも言う。)の品質を評価するものであって、このような改良体Kは、通常、円柱状を成している。
【0017】
図示のように、評価システム10は、起振位置12に設置された起振手段18と、改良体K内に挿入されたロッド20と、ロッド20内の複数の受振位置16の各々に設置された受振機24と、データ記憶部28と、解析部32とを含んでいる。起振手段18は、改良体K上や改良体Kの周囲の地表面に設定された起振位置12において、弾性波を発生させるためのものである。このため、起振手段18は、振動を発生させるものであればよく、例えば、板叩きなどの人力によるもの、発破によるもの、杭打機などの装置によるものであってよい。
【0018】
ロッド20は、硬化前の改良体K内に受振機24を設置するための中空有底のものであって、硬化前の改良体Kに対して、状況に応じた適切な手段で挿入される。ロッド20の内部は、受振機24への弾性波の伝搬性を高めるために、水などの媒体で満たされていてもよい。受振機24は、起振手段18により発生された弾性波を受けるためのものであり、本実施形態では、改良体K内に設定された6箇所の受振位置16A~16Fに対応するように、6つの受振機24がロッド20内に設置されている。受振位置16A~16Fは、改良体K内の互いに深度が異なる位置に設定されている。受振機24には、加速度計などの弾性波を検知可能な任意のセンサが利用される。受振機24は、利用されているセンサの種類や状況などに応じた適切な手段で、ロッド20内に設置される。
【0019】
データ記憶部28は、複数の受振機24により計測されたデータなどを記憶するためのものであって、受振機24により計測された弾性波の大きさや到達時間などを記憶する。また、データ記憶部28は、解析部32による解析結果を記憶してもよい。データ記憶部28には、記憶するデータの特性に応じた適切な記憶媒体、例えばデータロガーなどが利用される。解析部32は、複数の受振機24により計測されたデータなどを解析して、実質的に改良体Kの評価を行う部位であり、その詳しい内容や方法については後述する。解析部32には、パーソナルコンピュータなどの各種のハードウェアと、そこにインストールされた各種のソフトウェアとが利用される。複数の受振機24、データ記憶部28、及び解析部32の間は、データ通信可能に有線或いは無線の接続手段により接続される。
【0020】
ここで、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法で使用する評価システム10は、上述したような構成に限定されるものではなく、他の構成をとり得るものである。すなわち、評価システム10は、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法の手順や状況などに応じて、図1に示した構成要素の一部が削除、変更、ないし適宜追加された構成であってもよいものである。例えば、受振位置16やそこに設置される受振機24の数量は、5つ以下や7つ以上であってもよく、それらの深度方向の間隔も任意である。更に、受振機24の数量が受振位置16の数より少なくてもよく、この場合は、全ての受振位置16に順番に受振機24が設置されるように、受振機24の位置が変更されながら後述するような計測が行われる。また、起振位置12は複数箇所に設定されてもよく、この場合は、各起振位置12での起振の際に、起振手段18が移動されて設置される。
【0021】
次に、図2に示すフロー図の流れに沿って、図1に示した評価システム10を利用する本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法について説明する。評価システム10の構成については、適宜、図1を参照のこと。なお、図2に示すフロー図は、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法を説明するための、手順の流れの一例を示したものである。従って、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法は、図2のフロー図に限定されるものではなく、例えば、評価システム10の構成や状況などに応じて、図2に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。また、図2のフロー図は、地盤Gに地盤改良工法によって改良体Kを造成した直後に開始するものとする。
【0022】
S10(ロッド挿入):硬化前のスライム状の改良土Kに対して、適切な手段によりロッド20を挿入する。このとき、改良体K内に複数の受振位置16を予め設定していた場合には、それらの受振位置16がロッド20内に位置するようにロッド20を挿入する。
S20(受振機設置):ロッド20内に複数(本実施形態では6つ)の受振機24を設置する。設置方法は、索状部材で連結した複数の受振機24をロッド20内に垂らすなど、任意である。このとき、改良体K内に複数の受振位置16を予め設定していた場合には、それらの受振位置16に受振機24の各々が配置されるように設置する。また、複数の受振位置16を予め設定していない場合は、本工程で設置した複数の受振機24の位置を、複数の受振位置16として設定する。
なお、ロッド20内に複数の受振機24を予め固定しておき、そのような状態のロッド20を改良土Kに挿入することで、上記S10及びS20を纏めて実行してもよい。
【0023】
S30(起振位置で弾性波発生):起振手段18により、起振位置12において弾性波を発生させる。本実施形態では、平面視で改良体Kの周囲方向に互いに異なる位置に、複数の起振位置12を設定しているものとする(図4(a)及び(c)参照)。このため、複数の起振位置12の中で、まだ弾性波を発生させていない起振位置12で弾性波を発生させる。
S40(受振機で受振):上記S20で設置した複数の受振機24により、上記S30で発生させて地盤G内を伝搬した弾性波を受振する。例えば、図3(a)~(c)の左側には、起振位置12で発生させた弾性波が、地盤G及び改良体Kを伝搬して、6つの受振位置16A~16Fまで到達する様子が図示されている。このような弾性波を、各受振位置16に設置した受振機24によって受振するものである。
【0024】
S50(受振データ記録):データ記憶部28により、上記S40で複数の受振機24の各々によって受振した弾性波のデータ(弾性波の到達時間、弾性波の大きさなど)を記録する。
S60(起振位置判定):設定した複数の起振位置12の全てで弾性波を発生させたか否かを判定する。その結果、全ての起振位置12で起振したと判定した場合(YES)はS80へ移行し、まだ起振していない起振位置12が残っていると判定した場合(NO)はS70へ移行する。
【0025】
S70(起振位置変更):まだ起振していない起振位置12の中から次に起振する起振位置12を選定し、選定した起振位置12に起振手段18を設置する。例えば、図4に示すように、改良体Kの周囲方向に4つの起振位置12A~12Dを設定していた場合は、その中からまだ起振していない次に起振する起振位置12を選定して、そこへ起振手段18を設置する。そして、上記S30へ復帰して、選定した起振位置12において起振し、弾性波を発生させる。なお、図4(a)及び(b)には、起振位置12Aで起振する様子を示し、図4(c)及び(d)には、起振位置12Cで起振する様子を示している。
【0026】
S80(施工不良の有無推定):解析部32により、改良体Kに施工不良があるか否かを推定する。具体的には、複数の起振位置12での起振毎に、複数の受振位置16で受振機24により計測され、データ記憶部28に記録された計測データを解析して、施工不良の有無を推定する。ここで、図3(a)の左側には、ダマや改良径不足などの施工不良がなく、均一に造成された改良体Kに対して、弾性波が伝搬する様子が示されており、その右側には、6箇所の受振位置16A~16Fで計測される弾性波の受振タイミングが示されている。図3(a)に示されるように、均一に改良体Kが造成されていると、弾性波の到達時間は深度に比例して遅くなる。
【0027】
一方、図3(b)に示すように、改良体Kにダマ40が混在していると、ダマ40の近傍の深度に設定された受振位置16Dにおいて、ダマ40が混在していない場合よりも弾性波の到達時間が速くなる事象が発生する(図3(b)右側の太線参照)。これは、硬化前のスライム状の改良土Kよりも、改良材が混ざっていない土の塊であるダマ40の方が、強度が大きく、それに伴って弾性波の伝播速度も速くなるためである。他方、図3(c)に示すように、改良体Kに改良径不足44があると、改良径不足44の近傍の深度に設定された受振位置16C及び16Dにおいて、改良径不足44がない場合よりも弾性波の到達時間が速くなる事象が発生する(図3(c)右側の太線参照)。これは、硬化前のスライム状の改良土Kよりも、改良径不足44の部分に位置する土の塊である周囲地盤の方が、強度が大きく、それに伴って弾性波の伝播速度も速くなるためである。
【0028】
上記を踏まえ、解析部32により、6箇所の受振位置16A~16Fの深度と、データ記憶部28に記録された弾性波の到達時間とから、深度と到達時間との関係性を把握する。そして、全ての起振位置12で発生させた弾性波について、図3(a)のように深度と到達時間とが比例するような関係であったら、改良体Kに施工不良がないと推定する。これに対し、何れかの起振位置12で発生させた弾性波について、深度と到達時間とが比例しておらず、図3(b)や図3(c)のように少なくとも1つの受振位置16で到達時間が速くなるような事象が発生していたら、改良体Kに施工不良があると推定する。
【0029】
更に、改良体Kに施工不良があると推定した場合は、解析部32により、弾性波の到達時間が速くなっていたことが計測された受振位置16の深度と、そのときに弾性波を発生させた起振位置12とから、改良体Kにおける施工不良部分の大まかな位置を推定する。なお、解析部32による解析の結果、施工不良があるか否か判別し難い結果が得られた場合などは、疑わしい深度の近傍に間隔を小さくして複数の受振機24を設置した後、上記S30~S70などを実施し、それによって得られたより詳しいデータを利用して、施工不良の有無と施工不良部分の位置(深度)とを再度推定してもよい。
【0030】
S90(施工不良判定):上記S80での推定結果が、改良体Kに施工不良があるという推定の場合(YES)はS100へ移行し、改良体Kに施工不良がないという推定の場合(NO)はS110へ移行する。
S100(再施工):受振機24やロッド20などを撤去した後、上記S80で推定された施工不良が解消されるように、地盤改良工法により改良体Kを再度造成する。このとき、施工不良部分と推定される位置の近傍でのみ、改良材との再撹拌を行ってもよい。その後、施工不良が解消されたか否かの確認を行うために、上記S10へ復帰する。
【0031】
S110(改良体の大きさ推定):解析部32により、評価対象の改良体Kの大きさ(改良径)を推定する。具体的には、上記S30で発生させて上記S40で受振するまでに、弾性波が伝搬する経路にある物体(地盤Gや硬化前の改良土Kなど)の、弾性波の伝播速度を把握して、それを解析部32に入力又はデータ記憶部28に記録する。伝播速度の把握方法は、実験によるものなど任意である。そして、解析部32により、データ記憶部28に記録された弾性波の到達時間、各起振位置12での起振時間、上記のように把握した弾性波の伝播速度などを使用して、改良体Kの大きさを算出して推定する。
【0032】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法は、図1に示されるような評価システム10を利用するものであり、地盤G内に改良材により硬化させた改良体Kを造成する地盤改良工法において、硬化前の改良土Kと未改良地盤やダマとの間に、弾性波が伝搬する速度差が発生することに着目して、地盤改良体Kの評価を行う。すなわち、土のせん断強度と弾性波(主にS波)の伝搬速度とには相関性があり、せん断強度が大きいと伝播速度は速くなる。従って、硬化前のスライム状の改良土Kは、せん断強度が比較的小さいため、弾性波の伝播速度もそれに応じて小さくなる。これに対し、土の塊である未改良地盤やダマは、スライム状の改良土Kよりも大きい強度を有しているため、それに応じて弾性波の伝播速度も大きくなる。
【0033】
そこで、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法は、改良体Kの硬化前に、改良体K上或いは改良体Kの周囲の地表面に設定した起振位置12において弾性波を発生させ(図2のS30参照)、それを改良体K中に設定した互いに深度が異なる複数の受振位置16において受ける(図2のS40参照)。ここで、弾性波は、起振位置12から各受振位置16までの最短経路を伝搬するのではなく、一番早く到達する経路で伝播するため、起振位置12と各受振位置16との間やその近傍に周囲よりも伝播速度が速い物体があると、その物体を経由して伝播する。このため、図3(a)に示すように、ダマや改良径不足などがなく均一に改良体Kが造成されていると、改良体K中に設定した深度が異なる複数の受振位置16(16A~16F)において、深度に比例して弾性波の到達時間が遅くなる結果が得られる。従って、このような結果が得られた場合は、改良体Kが均一に造成されており、ダマや改良径不足などの施工不良がないと推定することができる。
【0034】
一方、図3(b)及び(c)に示すように、改良体Kにダマ40や改良径不足44などの施工不良があると、その施工不良部分の近傍の深度に設定された受振位置16に対して、起振位置12から施工不良部分を経由して弾性波が伝搬するため、施工不良がない場合よりも伝播速度が速くなる。すると、施工不良部分の近傍の深度に設定された受振位置16では、弾性波の伝搬速度がイレギュラーに速くなり、複数の受振位置16において弾性波の到達時間が深度に比例するような計測結果が得られない。従って、このような結果が得られた場合は、改良体Kにダマ40や改良径不足44などの施工不良があると推定することができる。更に、弾性波の伝搬速度がイレギュラーに速くなっている受振位置16の深度、及びその受振位置16と起振位置12との位置関係から、施工不良部分の位置を推定することもできる(図2のS80参照)。
【0035】
上記のように、硬化前の改良体Kについて計測を行い、施工不良の有無を推定するため、改良体Kの品質を施工直後に早期に評価することが可能となる。しかも、施工不良を発見した場合でも、改良体Kが硬化する前であるため、施工不良を解消するように、迅速かつ容易に再施工を行うことができる(図2のS100参照)。また、起振位置12で発生させた弾性波を複数の受振位置16で受振した結果を利用して、改良体Kを評価するため、強度試験などを行う場合と比較して、手間を大幅に低減することができる。更に、原地盤Gや硬化前のスライム状の改良体Kにおける弾性波の伝搬速度を把握していない場合でも、複数の受振位置16間の到達時間の関係性(相対速度)で評価することができるので、様々な施工現場で適用することが可能となる。加えて、複数の受振位置16での計測により、改良体Kの広い範囲の品質を評価することができ、また、必要に応じて複数の受振位置16間の深度間隔を小さく設定することで、計測精度を向上させることも可能となる。
【0036】
更に、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法は、図4に示すように、弾性波を発生させる起振位置12を複数(図4では4箇所)設定するものであり、それら複数の起振位置12A~12Dを、平面視で改良体Kの周囲方向に互いに異なる位置に設定する。そして、起振位置12で発生させた弾性波を複数の受振位置16で受ける工程を、全ての起振位置12について行い(図2のS30~S70参照)、それによって計測された全ての到達時間を利用して、施工不良の有無や施工不良部分の位置を推定する。これにより、複数の受振位置16における深度が異なる計測データに加えて、複数の起振位置12による平面方向の位置が異なる計測データを得ることができるため、改良体K全体の品質を評価することが可能となる。
【0037】
また、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法は、複数の受振位置16において計測された弾性波の到達時間を利用して、改良体Kの大きさを推定するものである(図2のS110参照)。すなわち、上述したように、複数の起振位置12における起振及び複数の受振位置16における受振によって、改良体Kの全体的な計測データ(到達時間)を得ることができる。このため、各起振位置12から各受振位置16までの弾性波の伝搬経路に存在する、改良体Kの周囲の地盤Gや硬化前のスライム状の改良土Kについての、弾性波の伝播速度を予め把握しておくことで、その伝播速度と到達時間とから、改良体Kの大きさを推定することができる。従って、改良体Kの大きさの推定値と設計値との比較などにより、改良体Kの品質を効率よく管理することができる。
【0038】
加えて、本発明の実施の形態に係る地盤改良体の評価方法は、図1に示すように、硬化前の改良体Kに中空のロッド20を挿入し、このロッド20内に設置した受振機24によって弾性波を受けるものである。すなわち、改良体K中に設定した複数の受振位置16の各々に受振機24が配置されるように複数の受振機24を設置して、又は複数の受振機24の設置位置を複数の受振位置16として、複数の受振機24により弾性波の到達時間を計測する。或いは、受振機24の数量が受振位置16の数に満たない場合は、複数の受振位置16の全てが網羅されるように受振機24の設置位置を変更しながら、弾性波の到達時間を計測する。これによって、改良体K中に設定する複数の受振位置16での計測を容易に行うことができ、改良体Kの品質を効率よく評価することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
12(12A~12D):起振位置、16(16A~16F):受振位置、20:ロッド、24:受振機、G:地盤、K:改良体(改良土)
図1
図2
図3
図4